JP5652520B2 - 定着装置及び画像形成装置 - Google Patents

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Description

この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置とそこに設置される定着装置とに関し、特に、電磁誘導加熱方式を用いた定着装置及び画像形成装置に関するものである。
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、装置の立ち上がり時間が短く省エネルギー化された、電磁誘導加熱方式の定着装置が広く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
その一方で、電磁誘導加熱方式の定着装置は、幅方向サイズが小さな記録媒体(小サイズ紙)を連続的に定着した場合等に、発熱部材(又は定着部材)の両端部が過昇温しやすいことが知られている。
詳しくは、次の通りである。
一般的な画像形成装置は、幅方向(記録媒体の搬送方向に直交する方向である。)のサイズが異なる複数種の記録媒体に対して、画像形成ができるように構成されている。ここで、幅方向サイズの異なる記録媒体とは、JIS寸法のA列やB列における種々の定形サイズの記録媒体の他に、不定形サイズの記録媒体も含まれる。また、同一サイズ(例えば、A4サイズである。)の記録媒体であっても、長手方向を搬送方向にした場合と、短手方向(長手方向に直交する方向である。)を搬送方向にした場合とでは、幅方向サイズの異なる記録媒体を扱っていることになる。
このような幅方向サイズの異なる記録媒体を定着装置で定着する場合には、記録媒体の幅方向サイズに応じて、定着部材の幅方向の熱分布が変動して、温度ムラが生じてしまう場合がある。例えば、幅方向サイズの小さな記録媒体を通紙して定着する場合には、その記録媒体の幅方向サイズに対応する定着部材の位置(通紙領域である。)では熱が多く奪われて、その他の位置(非通紙領域である。)に比べて定着温度が低くなる。このような現象は、幅方向サイズの小さな記録媒体を連続的に通紙するような場合に、特に顕著になる。
したがって、定着部材の幅方向中央部の定着温度を基準として定着部材の幅方向全域の定着温度を制御しようとすると、定着部材の幅方向中央部の定着温度は所望の温度に制御できるものの、幅方向両端部の定着温度が上昇(過昇温)してしまうことになる。このように、定着部材の幅方向両端部の定着温度が上昇した状態で、幅方向サイズの大きな記録媒体を定着すると、温度上昇位置に対応した記録媒体上にホットオフセットが発生してしまう。さらに、幅方向両端部の定着温度が定着部材の耐熱温度を超えた場合には、定着部材に熱的破損が生じることも考えられる。
これに対して、定着部材の幅方向両端部の定着温度を基準として定着部材の幅方向全域の定着温度を制御しようとすると、定着部材の幅方向両端部の定着温度は所望の温度に制御できるものの、幅方向中央部の定着温度が下降してしまうことになる。このように、定着部材の幅方向中央部の定着温度が下降した状態で記録媒体を定着すると、温度下降位置に対応した記録媒体上にコールドオフセットが発生してしまう。
一方、特許文献1等には、上述した問題を解決することを目的として、発熱部材(導電性部材)を誘導加熱する主誘導コイル(励磁コイル)の他に、主誘導コイルによって発生される磁束を消失させるように磁束を発生させる副誘導コイルを幅方向両端部に設ける技術が開示されている。詳しくは、小サイズ紙が通紙されるときには、幅方向両端部に設置された副誘導コイルに電源から電流が供給されて、発熱部材の非通紙領域に作用する主誘導コイルによる磁束が減ぜられる。これに対して、大サイズ紙が通紙されるときには、幅方向両端部に設置された副誘導コイルに電流が供給されずに、発熱部材の幅方向全域にわたって主誘導コイルによる磁束が作用する。ここで、主誘導コイルと副誘導コイルとは、いずれも、1つの電源に接続されていて、その電源から電力が供給されている。
上述した特許文献1等の定着装置は、小サイズ紙が通紙されるときに、幅方向両端部に設置された副誘導コイルによって、発熱部材の非通紙領域に作用する磁束が減ぜられるために、発熱部材(又は定着部材)の非通紙領域における過昇温を抑止する効果がある程度期待できる。
しかし、特許文献1等の定着装置は、主誘導コイルと副誘導コイルとが1つの電源から電力供給を受けているために、副誘導コイルへの電流の供給・非供給(オン・オフ)によって、主誘導コイルに供給される電流が大きく変動してしまう可能性があった。主誘導コイルに供給される電流が変動してしまうと、主誘導コイルによって加熱される発熱部材(又は定着部材)の加熱量が大きく変動して、定着温度のバラツキにともなう出力画像の定着ムラが生じることになる。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても発熱部材の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイルによって加熱される発熱部材の加熱量の変動が少ない、電磁誘導加熱方式の定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、発熱層を有する発熱部材と、前記発熱部材に対向するとともに、磁束を発生させて当該磁束によって前記発熱層を誘導加熱する励磁コイルと、前記励磁コイルに対向するとともに、前記磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイルと、を備え、前記消磁コイルは、前記発熱部材の幅方向の中心を軸として対称に配設されて、前記励磁コイルに対向する距離を変えて並設された複数対の消磁コイルであって、前記複数対の消磁コイルは、前記励磁コイルに対して遠い対向位置に配設された対の消磁コイルほど、幅方向の長さが短くなるように形成されたものである。
また、請求項2記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記複数対の消磁コイルは、ループ面積が対ごとに異なるように形成されたものである。
また、請求項3記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記励磁コイルは、前記消磁コイルを介在して前記発熱部材に対向するように配設されたものである。
また、請求項4記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記励磁コイルのループ内において幅方向に複数に分割されるように延設されたセンターコアを具備し、前記センターコアは、複数に分割されたもののうち少なくとも1つが前記消磁コイルのループ内に配設されたものである。
また、請求項5記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記発熱部材を、トナー像を溶融するとともに、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに当接する定着ローラとしたものである。
また、請求項6記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記発熱部材は、トナー像を溶融するとともに、支持ローラと定着補助ローラとに張架された定着ベルトであって、前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたものである。
また、請求項7記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記発熱部材は、トナー像を溶融する定着ベルトを加熱するとともに、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、前記励磁コイルは、前記支持ローラの外周面に対向するように配設されたものである。
また、請求項8記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
本発明は、発熱部材を誘導加熱する励磁コイルの他に、励磁コイルによって発生される磁束によって誘導電流が流れて発熱部材に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイルを幅方向の一部に設けるとともに、励磁コイルに交番電流を供給する電源部に対して消磁コイルを電気的に接続しないように構成している。これにより、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても発熱部材の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイルによって加熱される発熱部材の加熱量の変動が少ない、電磁誘導加熱方式の定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。 図1の画像形成装置に設置された定着装置を示す断面図である。 励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。 消磁コイルを有する電気回路を示す回路図である。 誘導加熱部によって発生される磁束の状態を示す図である。 消磁コイルの配置を変えたときの、磁束の状態を示す図である。 非通紙領域における定着ローラの昇温特性を示すグラフである。 従来の定着ローラの発熱量分布及び温度分布を示すグラフである。 従来の定着ローラの発熱量分布及び温度分布を示す別のグラフである。 本実施の形態1における定着ローラの発熱量分布及び温度分布を示すグラフである。 連続通紙時の制御を示すフローチャートである。 この発明の実施の形態2における定着装置を示す断面図である。 図12の定着装置における励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。 複数の消磁コイルを単独で閉じたときの定着ローラの発熱量を示す分布図である。 ハガキサイズの記録媒体を連続通紙したときの定着ローラの温度を示す分布図である。 この発明の実施の形態3における定着装置の要部を示す図である。 図16とは異なる定着装置の要部を示す図である。 この発明の実施の形態4における定着装置の励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。 この発明の実施の形態5における定着装置を示す断面図である。
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
実施の形態1.
図1〜図11にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのタンデム型カラー複写機の装置本体、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部、3は原稿Dを原稿読込部4に搬送する原稿搬送部、4は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、7は転写紙等の記録媒体Pが収容される給紙部、9は記録媒体Pの搬送タイミングを調整するレジストローラ、11Y、11M、11C、11BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナー像が形成される感光体ドラム、12は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上を帯電する帯電部、13は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成される静電潜像を現像する現像部、14は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成されたトナー像を記録媒体P上に重ねて転写する転写バイアスローラ、15は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の未転写トナーを回収するクリーニング部、を示す。
また、16は転写ベルト17を清掃する転写ベルトクリーニング部、17は複数色のトナー像が記録媒体P上に重ねて担持されるように記録媒体Pを搬送する転写ベルト、19は記録媒体P上のトナー像(未定着画像)を定着する電磁誘導加熱方式の定着装置、を示す。
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成時の動作について説明する。
まず、原稿Dは、原稿搬送部3の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部4のコンタクトガラス5上に載置される。そして、原稿読込部4で、コンタクトガラス5上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
詳しくは、原稿読込部4は、コンタクトガラス5上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応する感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に向けて発せられる。
一方、4つの感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKは、それぞれ、図1の時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、帯電部12との対向部で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上には、帯電電位が形成される。その後、帯電された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する。
書込み部2において、4つの光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応してそれぞれ射出される。各レーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる(露光工程である。)。
イエロー成分に対応したレーザ光は、紙面左側から1番目の感光体ドラム11Y表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラーにより、感光体ドラム11Yの回転軸方向(主走査方向)に走査される。こうして、帯電部12にて帯電された後の感光体ドラム11Y上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、紙面左から2番目の感光体ドラム11M表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、紙面左から3番目の感光体ドラム11C表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、紙面左から4番目の感光体ドラム11BK表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、現像部13との対向位置に達する。そして、各現像部13から感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、転写ベルト17との対向部に達する。ここで、それぞれの対向部には、転写ベルト17の内周面に当接するように転写バイアスローラ14が設置されている。そして、転写バイアスローラ14の位置で、転写ベルト17上の記録媒体Pに、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成された各色のトナー像が、順次重ねて転写される(転写工程である。)。
そして、転写工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、クリーニング部15との対向位置に達する。そして、クリーニング部15で、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、不図示の除電部を通過して、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKにおける一連の作像プロセスが終了する。
他方、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の各色のトナーが重ねて転写(担持)された記録媒体Pは、図中の矢印方向に走行して、分離チャージャ18との対向位置に達する。そして、分離チャージャ18との対向位置で、記録媒体Pに蓄積された電荷が中和されて、トナーのちり等を生じさせることなく記録媒体Pが転写ベルト17から分離される。
その後、転写ベルト17表面は、転写ベルトクリーニング部16の位置に達する。そして、転写ベルト17上に付着した付着物が転写ベルトクリーニング部16に回収される。
ここで、転写ベルト17上に搬送される記録媒体Pは、給紙部7からレジストローラ9等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、記録媒体Pを収納する給紙部7から、給紙ローラ8により給送された記録媒体Pが、不図示の搬送ガイドを通過した後に、レジストローラ9に導かれる。レジストローラ9に達した記録媒体Pは、タイミングを合わせて、転写ベルト17の位置に向けて搬送される。
そして、フルカラー画像が転写された記録媒体Pは、転写ベルト17から分離された後に定着装置19に導かれる。定着装置19では、定着ローラと加圧ローラとの間(定着ニップ部である。)にて、カラー画像(トナー)が記録媒体P上に定着される。
そして、定着工程後の記録媒体Pは、不図示の排紙ローラによって、装置本体1外に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセスが完了する。
次に、画像形成装置本体1に設置される定着装置19の構成・動作について詳述する。
図2に示すように、定着装置19は、誘導加熱部24(磁束発生手段)、発熱部材としての定着ローラ20、加圧ローラ30、温度検知手段としての温度センサ55、等で構成される。
ここで、発熱部材としての定着ローラ20(定着部材)は、SUS304等の非磁性材料からなる中空構造の芯金23の表面に、弾性層22、発熱層21等を形成した多層構造体である。
詳しくは、定着ローラ20は、その外径が40mm程度であって、芯金23上に、弾性層22、発熱層21、酸化防止層(不図示である。)、離型層(不図示である。)、等が積層されている。
芯金23は、SUS304等の非磁性ステンレスで形成され、その肉厚は0.4mmになっている。これにより、熱容量が小さくなって、電磁誘導加熱のエネルギーが発熱層21に集中しやすくなる。
弾性層22は、シリコーンゴム等の弾性材料からなり、その厚さは50〜500μmになっている。これにより、熱容量がそれ程大きくなく、良好な定着画像を得ることができる。
発熱層21は、第1非磁性層と第2非磁性層との2層構造とすることができる。
第1非磁性材料層としては、非磁性材料層としてのSUS304、SUS301、SUS316(いずれも非磁性ステンレス)等を用いることができる。
第2非磁性材料層としては、銅(Cu)を用いることができる。第2非磁性材料層は、その層厚が5〜35μmの範囲内になるように、第1非磁性材料層上にめっき処理にて形成されている。第2非磁性材料層の体積抵抗率は1.7×10-8Ω・mとなっていて、第1非磁性材料層の体積抵抗率よりも小さくなっている。なお、第2非磁性材料層としては、銀(Ag)やアルミニウム(Al)等を用いることもできる。
第1非磁性材料層及び第2非磁性材料層からなる発熱層21は、誘導加熱部24(磁束発生手段)から発せられる磁束によって電磁誘導加熱される。
定着ローラ20の酸化防止層は、ニッケル(Ni)で形成され、その厚さは5μm以下になるように設定されている。酸化防止層は、銅層としての第2非磁性材料層の酸化を防止するためのものである。
定着ローラ20の離型層は、PFA等のフッ素化合物で形成され、その厚さは30μmになっている。離型層は、トナー像(トナー)Tが直接的に接する定着ローラ20表面のトナー離型性を高めるためのものである。
このように本実施の形態1における定着ローラ20は、トナー像を溶融する定着部材として機能するとともに、誘導加熱部24によって直接的に加熱される発熱部材としても機能することになる。
なお、本実施の形態1では、発熱層21を第1非磁性層と第2非磁性層との2層構造としたが、発熱層21を磁性金属材料からなる単層構造とすることもできる。発熱層21を形成する磁性金属材料としては、層厚が10μm程度のニッケル(Ni)を用いることができる。また、発熱層21を形成する磁性金属材料として、鉄、コバルト、ニッケル、銅、又は、それらの合金等を用いることもできる。
加圧ローラ30は、アルミニウム、銅等からなる円筒部材32上にフッ素ゴム、シリコーンゴム等の弾性層31が形成されたものである。加圧ローラ30の弾性層31は、肉厚が0.5〜2mmで、アスカー硬度が60〜90度となるように形成されている。加圧ローラ30は、定着ローラ20に圧接している。そして、定着ローラ20と加圧ローラ30との当接部(定着ニップ部である。)に、記録媒体Pが搬送される。
誘導加熱部24は、定着ローラ20の外周面に対向するように配設されている。誘導加熱部24は、励磁コイル25、消磁コイル26(コイル状導体)、第1コア28、第2コア29(センターコア)、コイルガイド27(絶縁支持部材)、等で構成される。
励磁コイル25は、外周面が絶縁被覆された外径0.15mmの銅線が90本束ねられた線束であって、定着ローラ20の外周面に消磁コイル26を介在して対向するように配設されている。詳しくは、図3を参照して、励磁コイル25は、第2コア29の周りを周回するように、定着ローラ20の表面を覆うコイルガイド27上の全域にわたって渦巻状に配設されている。励磁コイル25の幅方向の長さは、定着ローラ20の幅方向(回転軸方向)の長さ(A3サイズよりやや大きく、310mm程度である。)とほぼ等しい。励磁コイル25は、直線部と曲線部とを有するが、定着ローラ20に作用する磁束が均一になるように直線部の長さが定着ローラ20の幅方向の長さとほぼ等しくなるように設定されている。
図2に示すように、励磁コイル25は、電源部70に接続されていて、交番電流の供給により発熱層21を誘導加熱するための磁束を発生する。
消磁コイル26は、外周面が絶縁被覆された外径0.15mmの銅線が90本束ねられた線束であって、励磁コイル25に対向するように配設されている。そして、励磁コイル25によって発生される磁束によって消磁コイル26に誘導電流が流れて、消磁コイル26から励磁コイル25の磁束を打ち消す方向の磁束が幅方向の一部(非通紙領域である。)に発生される。
詳しくは、消磁コイル26は、可変される複数の調整範囲(非通紙領域)ごとに励磁コイル25に対向する距離を変えて並設された複数の消磁コイル26a〜26cで構成される。具体的に、図2及び図3を参照して、励磁コイル25に最も遠い位置であって、A4サイズ(210mm)の記録媒体Pにおける非通紙領域に対応する位置(幅方向両端部)には、第1の励磁コイル26aが配設されている。第1の励磁コイル26aよりも励磁コイル25に近い位置であって、B5サイズ(182mm)の記録媒体Pにおける非通紙領域に対応する位置には、第2の励磁コイル26bが配設されている。励磁コイル25に最も近い位置であって、A5サイズ(148mm)の記録媒体Pにおける非通紙領域に対応する位置には、第3の励磁コイル26cが配設されている。各消磁コイル26a〜26cは、それぞれ、第2コア29の一部(幅方向端部)の周りを周回するように渦巻状に配設されている。なお、各消磁コイル26a〜26cの幅方向端部は、それぞれの記録媒体Pの通紙領域の幅方向端部に対応する位置に一致するように配設されている。
ここで、消磁コイル26は、励磁コイル25に交番電流を供給する電源部70に対して電気的に接続されていない。詳しくは、図4に示すように、各消磁コイル26a〜26cは、それぞれ、スイッチング素子としての切替スイッチ51a〜51cを備えた電気回路に設置されている。消磁コイル26a〜26c及び切替スイッチ51a〜51cを備えた電気回路は、電源部70とは接続されておらず、電源部70を有する電気回路に対して独立した閉回路である。
そして、各切替スイッチ51a〜51cによる電気回路の開閉によって、所望の調整範囲における発熱層21の加熱量(発熱量)を調整制御する。例えば、A4サイズの記録媒体Pが連続的に通紙されてその非通紙領域に対応する調整範囲の加熱量を調整したいときに、3つの切替スイッチ51a〜51cのうち第1の切替スイッチ51aのみを閉じて、第1の消磁コイル26aのみを動作(磁束発生)させて励磁コイル25の幅方向両端部(A4サイズ非通紙領域)の磁束を消磁する。これにより、定着ローラ20における非通紙領域の過昇温を抑止することができる。ここで、励磁コイル25の電源部70は、消磁コイル26に接続されていないために、励磁コイル25に流れる電流が変動することがない。したがって、励磁コイル25による定着ローラ20の加熱量も安定して、定着温度のバラツキにともない出力画像の定着ムラが生じる不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、消磁コイル26を有する電気回路に電力を供給しないように構成したが、電源部70とは別の第2電源部に消磁コイル26を接続して消磁コイル26から積極的に消磁のための磁束を発生させることもできる。その場合にも、上述した効果と同等の効果を得ることができる。
図2を参照して、コイルガイド27は、耐熱性が高く絶縁性の樹脂材料等からなり、定着ローラ20との対向面の側で励磁コイル25及び消磁コイル26を保持する。
第1コア28は、定着ローラ20の外周面に対して励磁コイル25及び消磁コイル26を介して周方向に対向するように配設されている。第1コア28の材料としては、フェライト、パーマロイ等の強磁性体であって電気抵抗率の高いものが好ましい。
第2コア29は、第1コア28よりも定着ローラ20の外周面に近接して対向するとともに、幅方向(図2の紙面垂直方向である。)に延設されている。第2コア29の幅方向の長さは、定着ローラ20の幅方向(回転軸方向)の長さとほぼ等しい。また、図3を参照して、第2コア29は、3組の消磁コイル26a〜26cとの干渉を避けるために、幅方向に隙間(又は切欠)が設けられている。第2コア29の材料としては、フェライト、パーマロイ等の強磁性体であって電気抵抗率の高いものが好ましい。なお、第2コア29A〜29Dは、一体成型によるものである必要はなく、短いI型のコアを定着ローラ20とほぼ等しい長さになるように連結して構成することもできる。
また、図2及び図3を参照して、定着ローラの外周面に対向する位置であって、非通紙領域に対応する幅方向端部には、定着ローラ20の温度を検知する温度検知手段としての温度センサ55が配設されている。本実施の形態1では、温度センサ55として、定着ローラ20表面の温度を非接触で検知するサーモパイルを用いている。サーモパイルは、反応速度が早いため、細やかな温度制御が可能となる。そして、温度センサ55による定着温度の検知結果に基いて、上述した切替スイッチ51a〜51cによる電気回路(消磁コイル26a〜26c)の開閉制御がおこなわれる。これにより、定着ローラ20の調整範囲(非通紙領域)の過昇温を確実に抑止することができる。なお、温度センサ55としては、サーモパイルの他に、接触型のサーミスタ等を用いることもできる。
ここで、本実施の形態1において、小サイズの記録媒体Pが連続的に通紙される時間又は枚数を検出する検出手段を設けて、その検出結果に基いて切替スイッチ51a〜51cによる電気回路(消磁コイル26a〜26c)の開閉制御をおこなうこともできる。その場合にも、上述した効果とほぼ同等の効果を得ることができる。
このように構成された定着装置19は、次のように動作する。
不図示の駆動モータによって、定着ローラ20が図2の時計方向に回転駆動されると、加圧ローラ30も反時計方向に回転する。そして、定着部材としての定着ローラ20は、誘導加熱部24との対向位置(対向面)で、誘導加熱部24から発生される磁束によって加熱される。
詳しくは、不図示の電源部から励磁コイル25に10kHz〜1MHz(好ましくは、20kHz〜800kHzである。)の高周波交番電流を流すことで、励磁コイル25から発熱層21に向けて磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、定着ローラ20の発熱層21に渦電流が生じて、発熱層21はその電気抵抗によってジュール熱が発生して誘導加熱される。こうして、定着ローラ20は、自身の発熱層21の誘導加熱によって加熱される。このとき、消磁コイル26の動作が適宜に制御されて、定着ローラ20の幅方向の加熱範囲が調整される。
その後、誘導加熱部24によって加熱された定着ローラ20表面は、加圧ローラ30との当接部に達する。そして、搬送される記録媒体P上のトナー像T(トナー)を加熱して溶融する。
詳しくは、先に説明した作像プロセスを経てトナー像Tを担持した記録媒体Pが、不図示のガイド板に案内されながら定着ローラ20と加圧ローラ30との間に送入される(矢印Y1の搬送方向の移動である。)。そして、定着ローラ20から受ける熱と加圧ローラ30から受ける圧力とによってトナー像Tが記録媒体Pに定着されて、記録媒体Pは定着ローラ20と加圧ローラ30との間から送出される。
定着位置を通過した定着ローラ20表面は、その後に再び誘導加熱部24との対向位置に達する。
このような一連の動作が連続的に繰り返されて、画像形成プロセスにおける定着工程が完了する。
以上説明したように、本実施の形態1では、励磁コイル26の他に消磁コイル26を幅方向両端部に設けるとともに、励磁コイル25の電源部70に対して消磁コイル26を電気的に接続しないように構成している。これにより、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ローラ20の加熱量の変動を軽減することができる。
以下、図5を用いて、励磁コイル25の他に消磁コイル26を配置することで、定着ローラ20(発熱部材)の加熱を抑制するメカニズムについて説明する。図5は、誘導加熱部24によって発生される磁束の状態を示す図である。
図5(A)は、消磁コイル26が電気的にオープンな状態(本実施の形態1では、第3の切替スイッチ51cが開放された状態となっている。)における磁束の状態を示している。図5(A)に示すように、切替スイッチが開放された場合(消磁コイル26が動作しない場合)、励磁コイル25から発生する磁束B1は、コア28、29を経路として発熱層21を通過して再びコア28、29に戻る。このとき、磁束B1は発熱層21を通過する磁気回路を形成することになる。そのため、発熱層21に誘導電流が流れて、発熱層21はジュール熱により発熱する。
このとき、消磁コイル26は電気的にオープンであるために、コイルとしてではなく、単なる絶縁された細い線材の束となり、励磁コイル25の磁束B1に大きな影響を与えない。これは、金属の面積がある大きさ以上でなければ、その金属には渦電流が流れないという現象によるものである。
図5(B)は、消磁コイル26が電気的にショートしている状態(本実施の形態1では、第3の切替スイッチ51cが閉鎖された状態となっている。)における磁束の状態を示している。図5(B)に示すように、励磁コイル25から発生する磁束B1は、消磁コイル26(26c)から発生する磁束B2により打ち消されて、非常に弱い磁束となる。詳しくは、励磁コイル25から発生した磁束B1は、その大部分が消磁コイル26を貫いた後に、発熱層21に達する。その際、消磁コイル26では、コイルの電磁気的特性により、貫いた磁束B1を打ち消す方向に逆起電力が発生して、それにともない消磁コイル26に電流が流れて、磁束B1を打ち消す磁束B2を発生させる。こうして、発熱層21を加熱させる磁束B1は非常に弱くなり、消磁コイル26に対向する位置(幅方向両端部)において定着ローラ20の加熱量を低下させることができる。
本実施の形態1では、切替スイッチ51a〜51cの制御によって、図5(A)の状態と図5(B)の状態とを切り替えて、定着ローラ20の幅方向の発熱量分布を最適化している。
なお、上述の説明では簡単のため消磁コイル26がオープンであるとき励磁コイル25の磁束に大きな影響を与えないとしたが、実際には少量ながら励磁コイル25からの磁束を消費する。そのため、消磁コイル26を構成する細線によっては、発熱層21を加熱する効率が低下することがある。したがって、消磁コイル26を構成する細線は、一定の断面積以下であることが望ましい。具体的に、消磁コイル26を構成する細線の断面積は、励磁コイル25を構成している細線の断面積に対して、同等であるかそれ以下であることが望ましい。
ここで、本実施の形態1では、定着ローラ20の外周面側から、消磁コイル26、励磁コイル25、の順に配置している。これは、励磁コイル25から発生する磁束をより多く消磁コイル26に通すためである。
本実施の形態1では、励磁コイル25と消磁コイル26とが電気的に接続されていないため、消磁コイル26の起電力は励磁コイル25から発生する磁束によって誘起される逆起電力だけである。したがって、電源から消磁コイル26に電力を供給する構成と比較すると、励磁コイル25、消磁コイル26、発熱部材20の位置関係が、消磁コイル26の発熱抑制率に大きな影響を与える。
図6は、励磁コイル25から発生する磁束の状態をさらに詳しく示した図である。図6に示すように、励磁コイル25から発生する磁束は、コア28、29を通るもの(図5で示したものである。)の他に、発熱層21を直接透過して加熱する漏れ磁束が存在する。
したがって、図6(A)に示すように、励磁コイル25、消磁コイル26、発熱部材20の順に配置した場合(本実施の形態1の構成である。)、励磁コイル25からの磁束は、コアを通る磁束も漏れ磁束も消磁コイル26を貫くために、そのほとんどが消磁コイル26の磁束によって打ち消されることになる。すなわち、消磁コイル26の発熱抑制効果が高められる。
これに対して、図6(B)に示すように、消磁コイル26、励磁コイル25、発熱部材20の順に配置した場合、励磁コイル25から発生した磁束のうちコアを通る磁束だけが消磁コイルによって打ち消されて、漏れ磁束は消磁コイルの影響を受けず発熱層21を加熱してしまう。すなわち、消磁コイル26の発熱抑制効果は不充分なものになってしまう。
本願発明者が、図6(A)の発熱層21の発熱量と、図6(B)の発熱層21の発熱量と、を誘導加熱シミュレーションにより計算したところ、次のような結果を得た。なお、計算において、消磁コイル26と励磁コイル25との位置関係以外の条件は、すべて同等とした。
その結果、図6(B)の発熱層21の発熱量は、消磁コイル26(切替スイッチ)を閉鎖したとき70%程度しか低減しなかった。これに対して、図6(A)の発熱層21の発熱量は、消磁コイル26(切替スイッチ)を閉鎖したとき55%程度にまで低減していた。なお、発熱量の計算結果は、それぞれの定着装置において、消磁コイル26を開放したときの発熱層21の発熱量を100としたときの、消磁コイル26を閉鎖したときの発熱層21の発熱量の割合である。
以上の結果から、定着ローラ20(発熱部材)の外周面側から、消磁コイル26、励磁コイル25、の順に配置することで、励磁コイル25の漏れ磁束を消磁コイル26に通すことができて、消磁コイル26の発熱抑制効果を高められることがわかる。
以下、記録媒体Pの通紙時における、複数の消磁コイル26a〜26cの動作について説明する。
先に説明したように、A4サイズの記録媒体の非通紙領域に対応する位置には第1の消磁コイル26aが配設され、B5サイズの記録媒体の非通紙領域に対応する位置には第2の消磁コイル26bが配設され、A5サイズの記録媒体の非通紙領域に対応する位置には第3の消磁コイル26cが配設されている。
本実施の形態1における画像形成装置は、通紙可能な記録媒体Pの最大幅方向長さがA3サイズ(297mm)に設定されている。したがって、A3サイズの記録媒体を通紙する際には、すべての消磁コイル26a〜26c(切替スイッチ51a〜51c)を開状態として、定着ローラ20を幅方向全域にわたって加熱する。
A4サイズを通紙する際には、A4サイズ端部から定着ローラの端部にかけて配置されている第1の消磁コイル26aのみを閉状態として、A4サイズ通紙時における定着ローラ20の非通紙領域の発熱量を低減させる。
B5サイズを通紙する際には、B5サイズ端部から定着ローラの端部にかけて配置されている第2の消磁コイル26bのみを閉状態として、B5サイズ通紙時における定着ローラ20の非通紙領域の発熱量を低減させる。
A5サイズを通紙する際には、A5サイズ端部から定着ローラの端部にかけて配置されている第3の消磁コイル26cのみを閉状態として、A5サイズ通紙時における定着ローラ20の非通紙領域の発熱量を低減させる。
このように幅方向サイズの異なる複数種の記録媒体の非通紙領域に対向する位置(調整範囲)に、それぞれ、消磁コイル26a〜26cを配設して、対応する消磁コイルの開閉動作を適宜おこなうことにより、幅方向サイズの異なる複数種の記録媒体のうちいずれの記録媒体を通紙しても、定着ローラの幅方向の温度分布を最適化することができる。
なお、先に説明した温度センサ55(温度検知手段)は、定着ローラ20のA5、B5、A4、A3の各サイズの通紙領域の端部に対応する位置にそれぞれ配置してもよい。そして、複数の温度センサ55によって検知された結果に基いて、複数の消磁コイル26a〜26cの開閉や励磁コイル25への電力投入を制御することができる。
図7は、B5サイズの記録媒体を連続的に通紙したときの、非通紙領域における定着ローラの昇温特性を示すグラフである。
図7において、グラフQ1は本実施の形態1における定着装置を用いたときの昇温特性を示し、グラフQ0は従来の定着装置(消磁コイル26が設置されていないものである。)を用いたときの昇温特性を示す。また、図7中の破線は、通紙領域の定着温度を示す。
本実施の形態1では、通紙領域の端部の温度が第1の設定温度(180℃である。)以上になったときに対応する消磁コイル26cを閉状態にして、第2の設定温度(定着設定温度の170℃である。)以下になったときに消磁コイル26cを開状態にするように制御している。
図7に示すように、連続通紙が開始されると、記録媒体が接触する定着ローラ20の「通紙領域」の温度は定着設定温度である170℃を維持するように制御される。そのため、記録媒体から熱量が奪われない定着ローラの「非通紙領域」の温度は上昇していく。したがって、消磁コイルを設置していない定着装置(グラフQ0)はそのまま端部が昇温しつづける。
これに対して、本実施の形態1における定着ローラ20は、端部の温度が第2の設定温度(180℃)に到達した時点で、消磁コイル26cが閉状態となる。これにより、図に示すように、定着ローラ20の端部の発熱が抑制されて、端部の温度が均一に保たれる。
以下、複数の消磁コイル26a〜26cを設置するメリットについてさらに説明する。
複数の消磁コイル26a〜26cを設置することで、異なる幅方向サイズの記録媒体を連続通紙する際の、定着ローラ20の温度制御が簡易化される。ここで、「異なる幅方向サイズの記録媒体の連続通紙」とは、例えば、A5サイズの記録媒体を連続通紙した後に大サイズ(B5、A4、A3)の記録媒体を連続通紙する場合や、A3サイズの記録媒体を連続通紙した後に小サイズ(A4、B5、A5)の記録媒体を連続通紙する場合である。
定着装置の誘導加熱部に1対の消磁コイルしか設置しない場合(例えば、A4サイズに対応した消磁コイル26aのみしか設置しない場合)、1対の消磁コイルの開閉のみによって「異なるサイズの記録媒体の連続通紙」に対して定着ローラの温度を均一に制御することは非常に困難である。
図8(A)は、A4サイズに対応した消磁コイル26aのみを設置した定着装置における、定着ローラの幅方向の発熱量分布を示す。このような定着装置では、消磁コイルを閉状態にしたときの非加熱領域の発熱量が、小サイズの記録媒体を連続通紙した際に非通紙領域の温度が昇温しない(又は温度が低下する)ように制御しなければならない。図8(A)に示すように、A4サイズの記録媒体を連続通紙する際に、定着ローラの非通紙領域の温度が昇温せずに、通紙領域と同じ温度を維持するように消磁コイルを制御している。
そのような制御のもとで、消磁コイルが対応するサイズよりも小さい記録媒体(例えば、A5サイズの記録媒体)を連続通紙すると、定着ローラ20の温度分布は図8(B)のようになってしまう。定着ローラのA4サイズ非通紙領域の温度を通紙領域の温度と同等になるように消磁コイルを制御するため、A5の通紙領域の端部から消磁コイルの端部(A4サイズ通紙領域の端部)までの温度が非常に高い温度となってしまう。このため、A5サイズの記録媒体を連続通紙した直後に、それよりも大きなサイズ(例えば、A3サイズ)の記録媒体を連続通紙すると、出力画像の最初の数枚にA5とA4との間に相当する領域でホットオフセットが発生してしまう。
このような問題を解決するために、図9(A)に示すように、A4サイズの記録媒体を連続通紙する際に、定着ローラの非通紙領域の温度が低下するように消磁コイルを制御すると、A5サイズの記録媒体を連続通紙した後の温度分布は図9(B)のようになる。図9(B)に示すように、A4サイズ非通紙領域であってA3サイズ通紙領域にかかる領域の温度は、定着設定温度よりも低下してしまうために、A3サイズの記録媒体を通紙すると、その範囲の定着性が低下してしまう。A3サイズを通紙するためには、A4サイズ非通紙領域であってA3サイズ通紙領域にかかる領域の温度を昇温させる必要があって、消磁コイルを開状態にしなくてはならないが、そうすると定着ローラの幅方向全域を加熱することになるために、定着ローラ中央部が過昇温してしまい、直ちにA3サイズを通紙することができない。
すなわち、定着装置の誘導加熱部に1対の消磁コイルしか設置しない場合には、いずれの制御をおこなっても、通紙する記録媒体のサイズ変更にともない、定着ローラの一部に過昇温が生じてしまう。
これに対して、本実施の形態1では、種々のサイズ記録媒体に対応して、複数の消磁コイル26a〜26cを設置しているために、通紙する記録媒体のサイズ変更があっても、定着ローラの一部に過昇温が生じる不具合を抑止することができる。
なお、小サイズ紙が連続的に通紙されたときの定着ローラの幅方向両端部の過昇温を抑止するために、種々のサイズ記録媒体に対応して、幅方向に分割された複数の励磁コイルを設置する方策も考えられる。しかし、その場合、複数の励磁コイルから発せられる磁束の干渉が生じてしまうために定着ローラの熱分布が不均一になってしまったり、複数の励磁コイルの制御が複雑化してしまったり、電源部が高コスト化してしまったりする。これに対して、本実施の形態1のように種々のサイズ記録媒体に対応して複数の消磁コイル26a〜26cを設置する構成は、上述したような問題が生じることなく、着ローラの幅方向両端部の過昇温を抑止することができる。
図10(A)は、本実施の形態1の定着装置19における、定着ローラ20の発熱量分布を示す。
本実施の形態1では、第1の消磁コイル26aを閉じたときは、定着ローラ20のA4サイズ非通紙領域の温度がA4サイズ通紙領域の温度と同等になるように制御される。同様に、第2の消磁コイル26bを閉じたときは、定着ローラ20のB5サイズ非通紙領域の温度がB5サイズ通紙領域の温度と同等になるように制御される。さらに、第3の消磁コイル26cを閉じたときは、定着ローラ20のA5サイズ非通紙領域の温度がA5サイズ通紙領域の温度と同等になるように制御される。このように複数の消磁コイル26a〜26cを複数設けることにより、「異なるサイズの記録媒体の連続通紙」においても、良好な定着が確実におこなわれることになる。
図10(B)は、本実施の形態1の定着装置19において、B5サイズの記録媒体を連続通紙した直後の、定着ローラの温度分布を示す。上述したように、B5サイズの通紙開始後、B5サイズ非通紙領域の温度が第2の設定温度(180℃)に到達した時点で、消磁コイル26bが閉状態となる。したがって、通紙直後であっても定着ローラの幅方向の温度は均一であり、直ちに他のサイズ(A3、A4サイズ又はA5サイズ)の記録媒体を通紙(定着)することができる。本願発明者が本実施の形態1の定着装置を用いて、B5サイズの記録媒体を連続通紙した後に、他のサイズ(A3、A4サイズ又はA5サイズ)の記録媒体を連続通紙したところ、いずれの場合もホットオフセットやコールドオフセットの発生は確認されなかった。
本実施の形態1では、各消磁コイル26a〜26cの発熱抑制率を等しくしているため、どのサイズの記録媒体を連続通紙しても非通紙領域の温度は一定に保たれる。
以下、図11にて、連続通紙時の制御について説明する。
記録媒体の連続通紙が開始されると(ステップS1)、まず、その記録媒体が小サイズ紙(A3サイズよりも小さなサイズである。)であるかが判別される(ステップS2)。その結果、記録媒体が小サイズ紙ではないものと判別された場合、複数の消磁コイル26a〜26cのすべてを開状態にして(ステップS7)、本フローを終了する(ステップS8)。
これに対して、記録媒体が小サイズ紙であるものと判別された場合、さらに温度センサ55によって検知された非通紙領域の温度t1が所定値t2よりも高いかが判別される(ステップS3)。
その結果、通紙領域の温度t1が所定値t2よりも高いと判別された場合には、非通紙領域の温度を下げる必要があるものとして、対応する消磁コイルを閉状態にする(ステップS4)。これに対して、非通紙領域の温度t1が所定値t2以下であると判別された場合には、非通紙領域の温度を上げる必要があるものとして、対応する消磁コイルを開状態にする(ステップS6)。
その後、同一サイズの記録媒体の連続通紙が終了しているかが判別され(ステップS5)、連続通紙が継続されていると判別された場合にはステップS3以降のフローが繰り返される。そして、連続通紙が終了したものと判別された場合には本フローを終了する(ステップS8)。
以上説明したように、本実施の形態1では、定着ローラ20(発熱部材)を誘導加熱する励磁コイル25の他に、励磁コイル25によって発生される磁束によって誘導電流が流れて定着ローラ20に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイル26を幅方向の一部に設けるとともに、励磁コイル25に交番電流を供給する電源部70に対して消磁コイル26を電気的に接続しないように構成している。これにより、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ローラ20の加熱量の変動を少なくすることができる。
なお、本実施の形態1では、定着ローラ20として、芯金23上に、弾性層22、発熱層21(第1非磁性材料層及び第2非磁性材料層)、酸化防止層、離型層、が積層されたものを用いた。しかし、定着ローラ20の構成はこれに限定されることなく、例えば、定着ローラ20として、芯金上に、断熱層、発熱層、弾性層、離型層が順次積層されたものを用いることもできる。
実施の形態2.
図12〜図15にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図12は、実施の形態2における定着装置19を示す断面図である。図13は、図12の定着装置における励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。本実施の形態2における定着装置19は、可変される複数の調整範囲のうち隣り合う調整範囲の間をうめるように複数の消磁コイル26A〜26Cが幅方向に並設されている点が、可変される複数の調整範囲ごとに励磁コイル25に対向する距離を変えて複数の消磁コイル26a〜26cが並設された前記実施の形態1のものとは相違する。
本実施の形態2における定着装置も、前記実施の形態1のものと同様に、発熱部材としての定着ローラ20を誘導加熱する励磁コイル25の他に、励磁コイル25によって発生される磁束によって誘導電流が流れて定着ローラ20に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイル26A〜26Cが幅方向両端部に設けられている。そして、励磁コイル25に交番電流を供給する電源部(不図示である。)に対して消磁コイル26A〜26Cを電気的に接続しないように構成している。また、励磁コイル25は、消磁コイル26A〜26Cを介在して定着ローラ20に対向している。
ここで、図12及び図13を参照して、本実施の形態2における定着装置は、前記実施の形態1のものとは異なり、3対の消磁コイル26A〜26Cが幅方向に並設されている。詳しくは、A5サイズ端部とB5サイズ端部との間に第1の消磁コイル26Aが配設され、B5サイズ端部とA4サイズ端部との間に第2の消磁コイル26Bが配設され、A4サイズ端部とA3サイズ端部との間に第3の消磁コイル26Cが配設されている。また、図15を参照して、これらの消磁コイル26A〜26Cは、それぞれ、スイッチング素子としての切替スイッチ51A〜51Cを有する電気回路に接続されている。
そして、可変された調整範囲に応じて3対の消磁コイル26A〜26Cのうちその調整範囲に配設された消磁コイルを有するすべての電気回路の切替スイッチ51A〜51Cが同時に開閉される。
具体的に、A5サイズの記録媒体が通紙される場合には、その非通紙領域(調整範囲)に配設された3対の消磁コイル26A〜26C(切替スイッチ51A〜51C)がすべて閉鎖され、非通紙領域の加熱量が調整される。B5サイズの記録媒体が通紙される場合には、その非通紙領域に配設された2対の消磁コイル26B、26Cが閉鎖される。A4サイズの記録媒体が通紙される場合には、その非通紙領域に配設された1対の消磁コイル26Cが閉鎖される。さらに、A3サイズの記録媒体が通紙される場合には、すべての消磁コイル26A〜26Cが開放される。
このような構成により、前記実施の形態1と同様に、どの幅方向サイズの記録媒体を通紙しても、定着ローラ20の幅方向の温度分布が均一化される。特に、本実施の形態2では、複数対の消磁コイル26A〜26Cを、周方向ではなく、幅方向に配設しているために、誘導加熱部24の周方向の厚みを薄くすることができる。
なお、本実施の形態2では、図13を参照して、温度検知手段としての温度センサ55が、各消磁コイル26A〜26Cの対向位置に対応した位置と、幅方向中央部と、に配設されている。そして、これらの温度センサ55の検知結果に基いて、消磁コイル26A〜26Cの開閉や励磁コイル25への電力供給を制御している。
そして、本実施の形態2においても、前記実施の形態1における図10(A)及び図10(B)で説明した制御と同等の制御がおこなわれる。これにより、図10(A)と同等の定着ローラ20の発熱量分布を得ることができ、図10(B)と同等の定着ローラの温度分布を得ることができる。すなわち、どのサイズの記録媒体を連続通紙しても非通紙領域の温度は一定に保たれる。本願発明者が本実施の形態2の定着装置を用いて、B5サイズの記録媒体を連続通紙した後に、他のサイズ(A3、A4サイズ又はA5サイズ)の記録媒体を連続通紙したところ、いずれの場合もホットオフセットやコールドオフセットの発生は確認されなかった。
ここで、本実施の形態2では、複数の調整範囲のうち最長の調整範囲よりも長い範囲を非通紙領域とする記録媒体(例えば、A5サイズよりも小さなハガキサイズの記録媒体である。)を通紙するときに、複数の消磁コイル26A〜26Cのうち少なくとも1つの消磁コイルを有する電気回路の切替スイッチを独立して開閉するように制御している。
詳しくは、各消磁コイル26A〜26Cの発熱抑制率を高めに設定して、小サイズの非通紙領域の温度が通紙領域の温度より低温になるように設定する。そして、小サイズ紙の連続通紙中に非通紙領域の温度が大きく低下した場合、その非通紙領域の発熱を抑制している消磁コイルを開状態にすることにより、定着ローラ20の幅方向の温度分布を常に適切に維持する。これにより、消磁コイル26A〜26Cが対応するサイズよりも小さいサイズの記録媒体を通紙しても、良好な定着性を得ることができる。
図14は、3対の消磁コイル26A〜26Cをそれぞれ単独で閉じたときの、定着ローラの発熱量分布を示している。詳しくは、図14(A)は第1の消磁コイル26Aのみが閉じられていて、図14(B)は第2の消磁コイル26Bのみが閉じられていて、図14(C)は第3の消磁コイル26Cのみが閉じられている。図に示すように、3対の消磁コイル26A〜26Cをそれぞれ単独で閉じると、定着ローラ20の発熱は、消磁コイルを閉じた領域だけが抑制される。したがって、小サイズ紙の連続通紙中に、非通紙領域の温度が大きく低下した場合は、その非通紙領域の発熱を抑制している消磁コイルを開ければ良い。
図15(A)は、本実施の形態2における定着装置19を用いて、ハガキサイズ(100mm)の記録媒体を連続通紙したときの、定着ローラ20の幅方向の温度分布である。
通紙時には、すべての消磁コイル26A〜26Cを閉状態としている。ただし、小サイズの非通紙領域の温度が通紙領域の温度より低温になるように消磁コイル26A〜26Cを設定しているため、ハガキサイズ両端部からA5サイズ両端部までの非通紙領域の昇温が抑えられている。しかし、A5サイズ両端部から定着ローラ両端部までの温度が非常に低くなっているため、ハガキサイズ通紙後にB5サイズ、A4サイズ、A3サイズを直ちに通紙することができない。
ところが、この状態で、図15(B)に示すように、第2の消磁コイル26B(第2の切替スイッチ51C)と第3の消磁コイル26C(第3の切替スイッチ51C)とを開状態にすることにより、B5サイズ非通紙領域であってA3サイズ通紙領域にかかる領域を昇温させることができる。
このとき、第1の消磁コイル26A(第1の切替スイッチ51A)を閉じていると、A5両端部からB5両端部までの発熱は抑制されたままであるが、「ハガキサイズ両端とA5サイズ両端との間で発熱した熱量」及び「第2の消磁コイル26Bを開けたときにB5サイズ両端とA4サイズ両端との間で発熱した熱量」が発熱抑制された領域に伝熱するため、定着ローラの幅方向の温度分布が均一化される。
さらに、非通紙領域が過昇温した場合には、第2の消磁コイル26Bと第3の消磁コイル26Cとを再び閉状態にすれば良い。具体的に、定着ローラ20の各消磁コイル26A〜26Cの対向位置に対応する位置に設置された温度センサ55の検知温度に基いて、第2の消磁コイル26Bと第3の消磁コイル26Cとの開閉制御をおこなうことにより、定着ローラの幅方向の温度分布は図15(B)に示すように最適化される。
以上説明したように、本実施の形態2でも、前記実施の形態1と同様に、定着ローラ20(発熱部材)を誘導加熱する励磁コイル25の他に、励磁コイル25によって発生される磁束によって誘導電流が流れて定着ローラ20に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイル26を幅方向の一部に設けるとともに、励磁コイル25に交番電流を供給する電源部に対して消磁コイル26を電気的に接続しないように構成している。これにより、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ローラ20の加熱量の変動を少なくすることができる。
実施の形態3.
図16及び図17にて、この発明の実施の形態3について詳細に説明する。
図16は、実施の形態3における定着装置の要部を示す図である。図17は、図16とは異なる定着装置の要部を示す図である。本実施の形態3における定着装置19は、励磁コイル25によって発生される磁束を打ち消す力が幅方向の位置によって異なるように消磁コイル26が形成されている点が、前記実施の形態2のものとは相違する。
本実施の形態3における定着装置の消磁コイル26は、その目的に応じて発熱抑制率が設定されている。ここで、消磁コイル26の発熱抑制率は、消磁コイル26の形状により決定される。消磁コイルの形状とは、定着ローラの回転軸に直交する面におけるコイル導線部の断面積である。
図16(A)及び図16(B)に示すように、消磁コイル26におけるコイル導線部の断面積に差異を設けたとき、断面積が大きくなるほど励磁コイル25からの磁束がより多く消磁コイル26を通過するため、消磁コイル26の発熱抑制率が高くなる。すなわち、図16(A)の消磁コイルよりも、図16(B)の消磁コイルの方が、発熱抑制率が高くなる。
したがって、発熱の抑制効果を小さくしたい領域には断面積の小さな消磁コイルを設置して、発熱の抑制効果を大きくしたい領域には断面積の大きな消磁コイルを設置すればよい。また、各消磁コイルの発熱抑制効果を等しくしたい場合には、各消磁コイルの断面積を等しくすれば良い。
コイル導線部の断面積を制御する方法としては、1本の線束の太さで制御する方法を用いてもよいし、巻線の数を制御する方法を用いてもよい。具体的に、コイル導線部の断面積を大きくしたければ、1本の線束の太さを太くする。すなわち、束ねる線材の本数を増やすか、巻線の数を増やせばよい。消磁コイルの巻線の数を増やすと、発熱抑制率が高くなる効果に加えて、線束1本あたりに流れる電流を小さくする効果を得ることができる。消磁コイルに流れる電流を小さくすることで、消磁コイルのスイッチング素子の耐電流を小さくすることができるため、部品を低コスト化することができる。
図17は、図16とは異なる別の定着装置の要部を示す図である。図17(A)は消磁コイル26及び励磁コイル25を幅方向にみた図であり、図17(B)は第3の消磁コイル26Cを示す断面図であり、図17(C)は第2の消磁コイル26Bを示す断面図である。
図17に示すように、定着ローラの回転軸に垂直な面におけるコイル導線部の断面積は等しくても、コイル導線部によって作られるループ面積(ループ状に形成された領域の面積である。)を異ならせることにより、消磁コイルの発熱抑制率を調整することができる。具体的に、第2の消磁コイル26Bのループ面積は、第3の消磁コイル26Cのループ面積よりも大きく設定されていて、励磁コイル25から発生する磁束をより多く鎖交させることができるため、発熱抑制率が高くなる。
図16や図17のように、消磁コイルの発熱抑制率を幅方向位置によって異ならせるのは、次のような場合である。
例えば、定着ローラの幅方向中央部と幅方向両端部との熱分布を比較すると、両端部の方が定着ローラ、ジャーナル、軸受、側板等の他部材に熱が逃げるため温度が低下しやすい傾向がある。そのため、幅方向中央部近傍に配置する消磁コイルの発熱抑制率よりも、幅方向両端部に配置する消磁コイルの発熱抑制率を低く設定することで、定着ローラ両端部の温度が大きく低下してA3通紙時に定着不良が発生する不具合を抑止することができる。
また、幅方向中央部近傍に配置される消磁コイルの発熱抑制率を高く設定することで、さらに小さいサイズの記録媒体の端部昇温に対応することができる。具体的に、A5サイズよりも小さなハガキサイズの記録媒体を通紙すると、ハガキサイズ両端部からA5サイズ両端部までに過昇温が発生してしまう。このとき、A5サイズ端部に設置されている消磁コイルの発熱抑制率を予め高く設定することで、過昇温を防止することができる。ハガキ通紙時にこの消磁コイルを閉じることにより、その領域の定着温度が急速に低下して、ハガキサイズ両端部からA5サイズ両端部の間で発熱した熱量を、定着ローラの幅方向外側に逃がすことができる。
以上説明したように、定着ローラ20の幅方向両端部に対向する消磁コイルよりも、幅方向中央部近傍に対向する消磁コイルの発熱抑制率を高くすることが好ましい。具体的に、定着部材の幅方向両端部に対向する消磁コイルよりも、幅方向中央部近傍に対向する消磁コイルの、コイル導線部の断面積を大きくするか、コイル巻数を多くすることが好ましい。また、定着ローラの幅方向両端部に対向する消磁コイルよりも、幅方向中央部近傍に対向する消磁コイルの、ループ面積を大きくすることが好ましい。
以上説明したように、本実施の形態3でも、前記各実施の形態と同様に、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ローラ20の加熱量の変動を少なくすることができる。
実施の形態4.
図18にて、この発明の実施の形態4について詳細に説明する。
図18は、実施の形態4における定着装置の励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。本実施の形態4における定着装置19は、複数の消磁コイル26A〜26Cが対ごと(サイズごと)に1つの電気回路を構成している点が、前記実施の形態2のものとは相違する。
図18に示すように、本実施の形態4では、幅方向両端にそれぞれ設置された3対の消磁コイル26A〜26Cを、それぞれ、電気的に接続して、各対の電気回路内に1つの切替スイッチ51A〜51Cを設置した。
定着ローラの幅方向の中心を軸として対称に配置される1対の消磁コイルは、同時に開閉されることがほとんどである。そのため、図18のように構成することで、切替スイッチや電気回路の個数を減らすことができて定着装置の低コスト化及び小型化が図れるとともに、スイッチ制御が容易化される。
以上説明したように、本実施の形態4でも、前記各実施の形態と同様に、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ローラ20の加熱量の変動を少なくすることができる。
実施の形態5.
図19にて、この発明の実施の形態5について詳細に説明する。
図19は、実施の形態5における定着装置19を示す断面図である。本実施の形態5における定着装置19は、定着部材として定着ベルト60を用いている点が、定着部材として定着ローラ20を用いている前記各実施の形態のものとは相違する。
図19に示すように、本実施の形態4における定着装置19は、誘導加熱部24、発熱部材としての定着ベルト60(定着部材)、加熱部材としての支持ローラ41、定着補助ローラ50、加圧ローラ30、等で構成される。
ここで、定着補助ローラ50は、ステンレス鋼等からなる芯金の表面に、シリコーンゴム等の弾性層を形成したものである。定着補助ローラ50の弾性層は、肉厚が1〜5mmで、アスカー硬度が30〜60度となるように形成されている。
加熱部材としての支持ローラ41は、SUS304(非磁性ステンレス)で形成された第1非磁性材料層41aと、銅のめっき層からなる第2非磁性材料層41b(銅層)と、で構成される発熱層を有する。支持ローラ41の第1非磁性材料層41a及び第2非磁性材料層41bの構成は、前記実施の形態1における定着ローラ20の第1非磁性材料層及び第2非磁性材料層の構成とほぼ同等である。
支持ローラ41は、図19の時計方向に回転する。そして、支持ローラ41の発熱層41a、41bは、誘導加熱部24から発せられる磁束によって誘導加熱される。
発熱層を備えた定着ベルト60は、支持ローラ41及び定着補助ローラ50(2つのローラ部材である。)に張架・支持されている。
定着ベルト60は、内周面側から、発熱層(第1非磁性材料層及び第2非磁性材料層で構成されている。)、ニッケルからなる酸化防止層、シリコーンゴム等からなる弾性層、フッ素化合物からなる離型層、が積層されている。定着ベルト60の各層の構成は、前記実施の形態1における定着ローラ20の各層の構成とほぼ同等である。
定着ベルト60は、図19の時計方向に周回する。そして、定着ベルト60の発熱層は、誘導加熱部24から発せられる磁束によって直接的に誘導加熱される。
誘導加熱部24は、前記実施の形態2のものと同様に、励磁コイル25、消磁コイル26A〜26C、第1コア28、第2コア29、コイルガイド27、等で構成される。そして、前記各実施の形態と同様に、消磁コイル26A〜26Cは、励磁コイル25の電源部(不図示である。)に接続されていない。
このように構成された定着装置19は、次のように動作する。
定着補助ローラ50の回転駆動によって、定着ベルト60は図19中の時計方向に周回するとともに、支持ローラ41も時計方向に回転して、加圧ローラ30も反時計方向に回転する。定着ベルト60は、誘導加熱部24との対向位置で加熱される。
詳しくは、不図示の電源部から励磁コイル25に10kHz〜1MHz(好ましくは、20kHz〜800kHzである。)の高周波交番電流を流すことで、励磁コイル25から支持ローラ41及び定着ベルト60に向けて磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、支持ローラ41表面と定着ベルト60の発熱層とに渦電流が生じて、支持ローラ41及び発熱層の電気抵抗によってジュール熱が発生して、支持ローラ41及び発熱層が加熱される。こうして、定着ベルト60は、発熱した支持ローラ41から受ける熱と、自身の発熱層の発熱と、によって加熱される。すなわち、定着ベルト60は、誘導加熱部24によって直接的に加熱される発熱部材として機能するとともに、誘導加熱部24によって間接的に加熱される(支持ローラ41を介して加熱される。)発熱部材として機能することになる。
その後、誘導加熱部24によって加熱された定着ベルト60表面は、加圧ローラ30との当接部に達する。そして、搬送される記録媒体P上のトナー像T(トナー)を加熱して溶融する。
定着位置を通過した定着ベルト60表面は、その後に再び誘導加熱部24との対向位置に達する。
このような一連の動作が連続的に繰り返されて、画像形成プロセスにおける定着工程が完了する。
以上説明したように、本実施の形態5においては、定着ベルト60及び支持ローラ41(発熱部材)を誘導加熱する励磁コイル25の他に、励磁コイル25によって発生される磁束によって誘導電流が流れて定着ベルト60及び支持ローラ41に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイル26A〜26Cを幅方向の一部に設けるとともに、励磁コイル25に交番電流を供給する電源部に対して消磁コイル26A〜26Cを電気的に接続しないように構成している。これにより、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ベルト60及び支持ローラ41の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、励磁コイル25によって加熱される定着ベルト60及び支持ローラ41の加熱量の変動を少なくすることができる。
なお、本実施の形態5では、定着ベルト60と支持ローラ41とがどちらも誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される構成とした。これに対して、定着ベルト60及び支持ローラ41のうちいずれか一方のみが、誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される構成とすることもできる。例えば、定着ベルト60に発熱層を設けない場合には、支持ローラ41のみが誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される発熱部材として機能するとともに、定着ベルト60を加熱する加熱部材としても機能することになる。その場合も、本実施の形態5と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態5では、定着ベルト60を介して支持ローラ41の外周面に対向する位置に誘導加熱部24を配設したが、支持ローラ41の外周面に直接的に対向するように誘導加熱部24を配設することもできる。すなわち、誘導加熱部24を、定着ベルト60を介することなく、支持ローラ41に直接的に対向させることができる。その場合にも、本実施の形態5と同様の効果を得ることができる。
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
1 画像形成装置本体(装置本体)、
19 定着装置、
20 定着ローラ(定着部材、発熱部材)、
21 発熱層、 22 弾性層、 23 芯金、
24 誘導加熱部、
25 励磁コイル、
26、26A〜26C、26a〜26c 消磁コイル、
27 コイルガイド、
28 第1コア、
29 第2コア(センターコア)、
30 加圧ローラ、 41 支持ローラ(加熱部材)、
50 定着補助ローラ、
51A〜51C、51a〜51c 切替スイッチ(スイッチング素子)、
55 温度センサ(温度検知手段)、
60 定着ベルト(定着部材、発熱部材)、
70 電源部。
特開2001−34097号公報

Claims (8)

  1. 発熱層を有する発熱部材と、
    前記発熱部材に対向するとともに、磁束を発生させて当該磁束によって前記発熱層を誘導加熱する励磁コイルと、
    前記励磁コイルに対向するとともに、前記磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイルと、
    を備え、
    前記消磁コイルは、前記発熱部材の幅方向の中心を軸として対称に配設されて、前記励磁コイルに対向する距離を変えて並設された複数対の消磁コイルであって、
    前記複数対の消磁コイルは、前記励磁コイルに対して遠い対向位置に配設された対の消磁コイルほど、幅方向の長さが短くなるように形成されたことを特徴とする定着装置。
  2. 前記複数対の消磁コイルは、ループ面積が対ごとに異なるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
  3. 前記励磁コイルは、前記消磁コイルを介在して前記発熱部材に対向するように配設されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
  4. 前記励磁コイルのループ内において幅方向に複数に分割されるように延設されたセンターコアを具備し、
    前記センターコアは、複数に分割されたもののうち少なくとも1つが前記消磁コイルのループ内に配設されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
  5. 前記発熱部材は、トナー像を溶融するとともに、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに当接する定着ローラであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
  6. 前記発熱部材は、トナー像を溶融するとともに、支持ローラと定着補助ローラとに張架された定着ベルトであって、
    前記定着補助ローラは、搬送される記録媒体を加圧する加圧ローラに対して前記定着ベルトを介して当接するように配設されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
  7. 前記発熱部材は、トナー像を溶融する定着ベルトを加熱するとともに、定着補助ローラとともに前記定着ベルトを張架する支持ローラであって、
    前記励磁コイルは、前記支持ローラの外周面に対向するように配設されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
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