JP5652348B2 - アークイオンプレーティング装置 - Google Patents
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Description
その磁界として、特許文献1には、蒸発源の蒸発面における磁界の強さが5mT(ミリテスラ)以上で、アーク電流値が200A以上であることが推奨されている。また、蒸発面における法線に対する磁力線の最大角度θが60°以下であることが推奨されている。
また、特許文献2には、蒸発面の中心から蒸発面の径方向に沿った任意の線分上における磁束密度の最小値が4.5mT以上、平均値が8mT以上、標準偏差が3以下である磁界を形成することで、陰極(カソード)の蒸発面に対し、磁力線の向きが垂直で、かつ陰極の蒸発面上における磁束密度を均一化することができ、陰極の利用効率を向上させることができると記載されている。
蒸発面の磁束密度を7〜10mTとした内側領域表面においては、アークスポットは高速でランダムに動き回ることができる。また、その内側領域において、局部的な集中をなくすことにより、全体に均一にアークスポットを移動させることができ、均一な膜質に成膜できるとともに、蒸発源を均等に消耗させることができる。
本発明では、裏側リング状磁石を設け、そのリング幅の中心位置を蒸発源の端面からD/20の範囲内に配置し、蒸発源の端部領域において裏側リング状磁石の磁界の一部を、外側リング状磁石の磁界の一部と打ち消し合うように作用させることにより、中央磁石、裏側リング状磁石および外側リング状磁石による蒸発源の表面の磁束密度を、広範囲で7〜10mTとなるように設定するとともに、その磁束密度の標準偏差を0.6以下に抑え、蒸発面の磁場の分布が平滑になるようにしている。したがって、アークスポットの移動速度を一定にでき、薄膜表面の平滑性の変化を低減でき、均一な膜質に成膜できる。また、蒸発源を均等に消耗させることができるので、蒸発源の利用効率を飛躍的に向上させることができる。
なお、放電領域にアークスポットを閉じ込める効果を得るには、磁束密度として7mT以上必要である。磁束密度が15mTを超えると、アークスポットの存在自体が著しく制限され、成膜速度が著しく低下してしまう問題がある。また、アーク放電の電圧値が通常時より上昇する問題も発生してしまう。
一方、蒸発源の端部領域においては、内側領域表面よりも磁束密度が大きいので、内側領域表面のアークスポットが端部領域に向かおうとしても、端部領域の強い磁場によって跳ね返されるようにして、内側領域に戻される。したがって、アークスポットを端部領域から表面部以外に入り込む現象を防止して、ほぼ内側領域内に閉じ込めた状態で移動させることができる。
磁力線が蒸発面の法線に対して上記の角度に設定されていると、蒸発面にアークスポットを閉じ込める効果がある。
また、アークスポットを移動させる力は、磁場における蒸発面に平行な成分と、蒸発面に垂直な成分とのそれぞれの大きさにより決まり、その向きは、蒸発面に平行な成分に直角の方向と、平行な成分に同じ方向との合成方向となる。したがって、磁場における蒸発面に平行な成分を蒸発面の内側領域に向けるようにすれば、端部領域表面にアークスポットが移動しようとしても蒸発面の内側領域に戻す方向に力が働き、端部領域から外に飛び出すことが防止される。
この実施形態のアークイオンプレーティング装置1は、図1及び図2に示すように、真空チャンバ2内に、ワーク(被コーティング物)3を保持するテーブル4が設けられるとともに、このテーブル4を介して両側に、カソードとしての蒸発源5がそれぞれ設けられている。テーブル4は、その上面に複数のワーク3を保持する支持棒6が周方向に間隔をおいて複数本立設されるとともに、これら支持棒6を図1の矢印で示すように水平回転する機構を有しており、自身も旋回機構(図示略)により水平に旋回させられるターンテーブルとなっている。そして、支持棒6に保持したワーク3を自転させながら公転させる構成である。
また、真空チャンバ2には、内部に反応ガスを導入するガス導入口7と、内部から反応ガスを排出するガス排出口8とが設けられているとともに、テーブル4の後方に、テーブル4上のワーク3を加熱して被膜の密着力を高めるためにヒータ9が設けられている。
また、テーブル4にも、これに保持されるワーク3に負のバイアス電圧をかけるバイアス電源14が接続されている。
各磁石15,16,17は永久磁石である。本実施形態においては、例えば、中央磁石15および外側リング状磁石16がネオジム磁石、裏側リング状磁石17がそれら磁石15,16よりも磁力の弱いフェライト磁石等により形成されている。
裏側リング状磁石17および外側リング状磁石16の極性の向きは同一に設定され、中央磁石15の極性の向きは、裏側リング状磁石17および外側リング状磁石16の極性の向きと逆に設定され、これら磁石15,16,17によって生じる磁場の一部は、相互に重なり合うように作用している。
また、裏側リング状磁石17は、図3(c)及び図4に示すように、蒸発源5に向けた側がS極で、反対側がN極とされており、蒸発源5の直径をDとした場合に、裏側リング状磁石17のリング幅Wの中心位置Oが、蒸発源5の端面からD/20の範囲内(蒸発源5の端部領域E)に配置されている。これにより、裏側リング状磁石17による磁界の一部は、蒸発源5の外周端部においては、外側リング状磁石16の磁界の一部と打ち消し合うように作用する。
外側リング状磁石16により生じる磁界は、図5(a)に示すように、蒸発面11の端部領域において高い磁束密度で形成され、中央磁石15により生じる磁界は、図5(b)に示すように、外側リング状磁石16と同じ向きに蒸発面の中央部を中心にして形成される。また、裏側リング状磁石17により生じる磁界は、図5(c)に示すように、蒸発面11の端部領域に、外側リング状磁石16及び中央磁石15の磁界と逆向きに形成される。
そして、これら磁石15,16,17の磁束密度を適宜に設定することにより、蒸発源5の蒸発面11上に作用する磁場は、図6に示す磁束密度aのように形成される。なお、磁束密度bは、中央磁石15と外側リング状磁石16とにより形成される磁場を示しており、この磁束密度bに対して、裏側リング状磁石17を作用させることにより、磁束密度aに示すように、蒸発面11の外周端部の磁束密度を中央部の磁束密度に揃えるように全面的にほぼ均等な磁束密度とすることができる。
図7に蒸発面11上の磁力線のベクトルを模式的に示したように、内側領域Cにおいては、破線で示すように、蒸発面11の法線に対する角度が0°≦θ<20°とされ、端部領域Eにおいては、実線で示すように、内側領域Cの磁力線よりも大きい磁束密度の磁力線が蒸発面11の法線に対する角度は0°≦θ<20°とされるが、内側領域Cに向けて傾いた状態に形成される。
まず、テーブル4の支持棒6にワーク3を保持して、真空チャンバ2内を真空引きした後、Ar等をガス導入口7より導入して、蒸発源5とワーク3上の酸化物等の不純物をスパッタすることにより除去する。そして、再度真空チャンバ2内を真空引きした後、窒素ガス等の反応ガスをガス導入口7から導入し、蒸発源5に向けたアノード電極12をトリガとしてアーク放電を発生させることにより、蒸発源5を構成する物質をプラズマ化して反応ガスと反応させ、テーブル4上のワーク3表面に窒化膜等を成膜する。
蒸発源5の蒸発面11上には、前述した磁石15,16,17によって図6に実線で示す磁束密度aのように磁界が発生しており、この初期設定値(磁束密度a)に設定された磁界の作用によりアークスポットの移動が制御される。
また、内側領域Cにおいて、磁束密度の標準偏差は0.6以下とされており、局部的な集中がなく、アークスポットの移動速度を一定にすることができる。これにより、蒸発源5を均等に消耗させることができるとともに、薄膜表面の平滑性の変化を低減でき、均一な膜質に成膜できる。
そして、このようにアークスポットAを内側領域C内に閉じ込め、端部領域Eを超えることが拘束されるので、アークスポットが蒸発源表面部以外に入り込む現象が防止され、安定した放電を維持することができる。
実施例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石および外側リング状磁石、裏側リング状磁石を備え、中央磁石および外側リング状磁石には永久磁石のネオジム磁石を用い、裏側リング状磁石には永久磁石のフェライト磁石を用いた。ネオジム磁石は、保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTの磁石を用い、フェライト磁石は、保磁力が250kA/m、表面磁束密度が350mTの磁石を用いた。また、比較例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石および外側リング状磁石のみを備える構成とし、中央磁石および外側リング状磁石には永久磁石のネオジム磁石を用いた。ネオジム磁石は、保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTの磁石を用いた。
また、蒸発源として、直径D=100mm、厚さt=16mmのTiまたはTiAl(Ti:Al=50:50)を用いた。そして、実施例のアークイオンプレーティング装置においては、裏側リング状磁石を、そのリング幅の中心位置が、蒸発源の端面からD/20の範囲内(5mmの範囲内)になるように配置した。
なお、磁束密度は、磁束計にて、蒸発源表面において蒸発源表面の中心を通る直線上を測定した。蒸発源の表面では、測定箇所を5mm間隔と設定し、各測定点で蒸発源表面の垂直方向及び平行方向の磁束密度を測定した。また、これらの測定値から各測定点での磁束密度及び磁力線と蒸発面の法線とのなす角度(傾斜角)を算出した。また、蒸発源表面での磁束密度の標準偏差は、端部領域の磁束密度が大きい部分を除いた磁束密度の数値から算出した。
このようなアークイオンプレーティング装置を用いて、表1及び表2に示す各種の条件で成膜し、膜の表面粗さを測定した。なお、反応ガスとしては窒素ガスを用いた。表面粗さは、レーザー顕微鏡にて10μm角の範囲を10回測定し、その平均値を測定値とした。
表1及び表2に結果を示す。「蒸発源の利用効率」とは、成膜前の蒸発源の厚さtに対する蒸発源を使用できる限界の厚さに達するまでの消耗厚さt1の比率を表し、t1/t×100(%)により算出される。なお、消耗厚さt1は、蒸発源の面内平均値である。消耗厚さt1の算出方法は、例えば実施例と同様の円形の蒸発源である場合、蒸発源表面において中心を通る直線上を5mm間隔にて消耗深さを測定し、その平均値を消耗厚さt1とした。また、表中の「端部領域」とは、蒸発源の端面からD/20の範囲を示す。
磁束密度の標準偏差が0.6を超える比較例の装置においては、「蒸発源の利用効率」が60%以下と小さいことがわかる。また、「最大表面粗さRa」の数値に対して、その「表面粗さの標準偏差」の数値が大きく、膜表面での表面粗さのバラツキが大きいことがわかる。
例えば、上記実施形態では、蒸発源を円板状に形成したが、柱状、筒状等のものにも適用することができ、その場合も、端面からD/20の範囲内を端部領域として、前述したような磁界を設定すればよい。
2 真空チャンバ
3 ワーク
4 テーブル
5 蒸発源
6 支持棒
7 ガス導入口
8 ガス排出口
9 ヒータ
11 蒸発面
12 アノード電極
13 アーク電源
14 バイアス電源
15 中央磁石
16 外側リング状磁石
17 裏側リング状磁石
Claims (2)
- 蒸発源が載置される陰極の背面中央に配置された中央磁石と、前記陰極の背面の外周端部に対峙して配置された裏側リング状磁石と、前記蒸発源の半径方向外方に配置された外側リング状磁石とを備え、前記裏側リング状磁石および前記外側リング状磁石の極性の向きは同一に設定され、前記中央磁石の極性の向きは前記裏側リング状磁石および前記外側リング状磁石の極性の向きと逆に設定され、前記蒸発源の直径をDとした場合に、前記裏側リング状磁石は、そのリング幅の中心位置が、該蒸発源の端面からD/20の範囲内に配置されており、前記中央磁石、前記裏側リング状磁石および前記外側リング状磁石により前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値は、その蒸発面の端面から内方にD/20の範囲の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜10mT、前記端部領域表面の磁束密度が蒸発源中心部側から蒸発源端部まで連続的に増加し、端部領域表面中心側が7〜10mT、端部領域の最端部が15mT以上、前記内側領域表面の磁束密度の標準偏差が0.6以下となるように設定されていることを特徴とするアークイオンプレーティング装置。
- 前記蒸発面における磁力線は、前記蒸発面の法線に対する角度θが0°≦θ<20°であり、前記端部領域表面では前記内側領域に向けて傾いていることを特徴とする請求項1記載のアークイオンプレーティング装置。
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