JP5644675B2 - アークイオンプレーティング装置および成膜方法 - Google Patents

アークイオンプレーティング装置および成膜方法 Download PDF

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Description

本発明は、アーク放電によって蒸発源をイオン化させてワークの上に成膜させるアークイオンプレーティング装置および成膜方法に関する。
アークイオンプレーティング装置は、真空中で金属材料やセラミックス材料の蒸発源を陰極(カソード)としてアーク放電を起こし、それにより蒸発源を蒸発させると同時にイオンとして放出させ、一方、ワーク(被コーティング物)には負のバイアス電圧を印加しておき、そのワーク表面にイオンを加速供給して成膜する装置である。蒸発源としては、チタンやクロムが広く用いられており、例えば、高速度鋼や超硬合金、サーメットなどからなる切削工具の表面に、耐摩耗性向上のためにTiN、TiAlN、CrAlNなどの硬質皮膜を形成する技術に利用されている。
この種のアークイオンプレーティング装置では、蒸発源表面の微小領域にアーク電流が集中することにより、その微小領域がアークスポットとなって蒸発源を溶解蒸発させる。このアークスポットが滞留すると、その滞留部の付近の材料が蒸発せずに溶解して飛散するので、蒸発源の背部に磁石を設置して、アークスポットの移動を促進させることが行われる。
その磁界として、特許文献1には、蒸発源の蒸発面における磁界の強さが5mT(ミリテスラ)以上で、アーク電流値が200A以上であることが推奨されている。また、蒸発面における法線に対する磁力線の最大角度θが60°以下であることが推奨されている。
また、特許文献2には、蒸発面の中心から蒸発面の径方向に沿った任意の線分上における磁束密度の最小値が4.5mT以上、平均値が8mT以上、標準偏差が3以下である磁界を形成することで、陰極(カソード)の蒸発面に対し、磁力線の向きが垂直で、かつ陰極の蒸発面上における磁束密度を均一化することができ、陰極の利用効率を向上させることができると記載されている。
特許第4034563号公報 特開2009−144236号公報
しかしながら、蒸発源の消耗に伴い異常放電を引き起こすおそれがある。また、蒸発源の消耗量に応じて、薄膜表面の平滑性や、薄膜の残留応力が変化するという問題がある。そのため、蒸発源は、その消耗量に応じて交換しなければならず、利用効率が低いという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、蒸発源の消耗に伴って変化する薄膜表面の平滑性や薄膜の残留応力の変化を低減でき、蒸発源の利用効率を向上させることができるアークイオンプレーティング装置および成膜方法を提供することを目的とする。
本発明のアークイオンプレーティング装置は、蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とを備え、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きは同一に設定され、前記中央磁石の極性の向きは前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定され、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値は、その蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きく設定されており、前記ソレノイドコイルに、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を変化させ、前記初期設定値を保持する電流制御手段が設けられていることを特徴とする。
通常、磁場発生源を蒸発源の背面に備えているアークイオンプレーティング装置においては、蒸発源の消耗に伴い、その蒸発源表面の磁束密度が大きくなる。本発明では、蒸発源の消耗に伴ってソレノイドコイルに流す電流値を上昇させることで、ソレノイドコイルによる磁界の一部と中央磁石による磁界の一部とを打ち消し合うように作用させ、磁力が大きくなることを防止できる。これにより、消耗量に拘わらず、消耗していない状態の蒸発源表面の磁束密度(初期設定値)を保持することができる。したがって、蒸発源の消耗に伴う薄膜表面の平滑性や薄膜の残留応力の変化を低減できる。また、消耗し切るまで蒸発源を使用することができるので、蒸発源の利用効率を向上させることができる。なお、初期設定値は、中央磁石、リング状磁石およびソレノイドコイルによって得られるが、ソレノイドコイルへ流す電流値を0にした場合も含む。
この場合、蒸発面に生じるアークスポットは、電子の放出点であるから、蒸発源の利用効率を高めるには、蒸発面の全域で平均的に動き回れるようにすることが重要である。本発明では、蒸発面の磁束密度を7〜15mTとした内側領域表面においては、アークスポットは高速でランダムに動き回ることができる。また、その放電領域にアークスポットを閉じ込める効果を得るには、磁束密度として7mT以上必要である。磁束密度が15mTを超えると、アークスポットの存在自体が著しく制限され、成膜速度が著しく低下してしまう問題がある。また、アーク放電の電圧値が通常時より上昇する問題も発生してしまう。
一方、蒸発源の端部領域においては、内側領域表面よりも磁束密度が大きいので、内側領域表面のアークスポットが端部領域に向かおうとしても、端部領域の強い磁場によって跳ね返されるようにして、内側領域に戻される。したがって、アークスポットを端部領域から表面部以外に入り込む現象を防止して、ほぼ内側領域内に閉じ込めた状態で移動させることができる、所定幅としては端面から1cmの幅が望ましい。
これにより、蒸発源を面内均一に蒸発させて、薄膜表面の平滑性を高めることができる。
また、アークスポットを端部領域から外に移動しないようにするために、端部領域表面の磁束密度を内側領域表面の磁束密度より少なくとも3mT大きくしておくことが重要である。より好ましくは、内側領域表面の磁束密度が7〜10mTに対して、端部領域表面の磁束密度を15mT以上とするとよい。
本発明のアークイオンプレーティング装置において、前記蒸発面における磁力線は、前記蒸発面の法線に対する角度θが0°≦θ<20°であり、前記端部領域表面では前記内側領域に向けて傾いているとよい。
磁力線が蒸発面の法線に対して上記の角度に設定されていると、蒸発面にアークスポットを閉じ込める効果がある。
また、アークスポットを移動させる力は、磁場における蒸発面に平行な成分と、蒸発面に垂直な成分とのそれぞれの大きさにより決まり、その向きは、蒸発面に平行な成分に直角の方向と、平行な成分に同じ方向との合成方向となる。したがって、磁場における蒸発面に平行な成分を蒸発面の内側領域に向けるようにすれば、端部領域表面にアークスポットが移動しようとしても蒸発面の内側領域に戻す方向に力が働き、端部領域から外に飛び出すことが防止される。
本発明のアークイオンプレーティング装置において、前記内側領域の磁束密度は、標準偏差が3以下であるとよい。
蒸発面の内側領域においては、局部的な集中をなくして全体に均等にアークスポットが移動することにより、蒸発源が均等に消耗し、さらに利用効率がよくなる。
本発明のアークイオンプレーティング成膜方法は、蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とにより蒸発源の表面に生じる磁場を設定し、蒸発源を蒸発させて成膜を行う方法であって、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きを同一に設定し、前記中央磁石の極性の向きを前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定し、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値を、蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きくなるように設定しておき、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を上昇させ、前記初期設定値を保持することを特徴とする。
本発明のアークイオンプレーティング装置によれば、蒸発源の消耗に伴ってソレノイドコイルに流す電流値を上昇させることで、ソレノイドコイルによる磁界の一部と、中央磁石による磁界の一部とを打ち消し合うように作用させて、磁力が大きくなることを防止できるので、薄膜表面の平滑性や薄膜の残留応力の変化を低減でき、蒸発源の利用効率を向上させることができる。
本発明のアークイオンプレーティング装置の一実施形態を模式的に示した平断面図である。 図1の縦断面図である。 蒸発面上の磁力線のベクトルを示す模式図である。 蒸発面上の磁力線によるアークスポットの移動原理を説明する模式図である。 蒸発面上の磁束密度、磁力線の角度の分布を示すグラフである。
以下、本発明のアークイオンプレーティング装置の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
この実施形態のアークイオンプレーティング装置1は、図1及び図2に示すように、真空チャンバ2内に、ワーク(被コーティング物)3を保持するテーブル4が設けられるとともに、このテーブル4を介して両側に、カソードとしての蒸発源5がそれぞれ設けられている。テーブル4は、その上面に複数のワーク3を保持する支持棒6が周方向に間隔をおいて複数本立設されるとともに、これら支持棒6を図1の矢印で示すように水平回転する機構を有しており、自身も旋回機構(図示略)により水平に旋回させられるターンテーブルとなっている。そして、支持棒6に保持したワーク3を自転させながら公転させる構成である。
また、真空チャンバ2には、内部に反応ガスを導入するガス導入口7と、内部から反応ガスを排出するガス排出口8とが設けられているとともに、テーブル4の後方に、テーブル4上のワーク3を加熱して被膜の密着力を高めるためにヒータ9が設けられている。
蒸発源5は、図示例のものは、円板状に形成され、その一面をテーブル4上のワーク3に向けて(テーブル4の半径方向と直交させて)配置されており、テーブル4に向けた面が蒸発面11となる配置とされる。そして、この蒸発源5の表面(蒸発面11)の適宜箇所を向けてアノード電極12が配置され、蒸発源5をカソードとし、アノード電極12と蒸発源5との間に負のバイアス電圧をかけるアーク電源13が接続されている。
また、テーブル4にも、これに保持されるワーク3に負のバイアス電圧をかけるバイアス電源14が接続されている。
また、蒸発源5の背面中央部に中央磁石15が設けられるとともに、蒸発源5の半径方向外側位置に蒸発源5の外周面を囲むようにリング状磁石16が設けられ、中央磁石15の背面にソレノイドコイル17が設けられている。
磁石15,16は永久磁石であり、ソレノイドコイル17は、導線を螺旋状に巻いたリング状のコイルである。ソレノイドコイル17は、流す電流値を変化させることで、磁束密度を変化させることができる。
リング状磁石16およびソレノイドコイル17の極性の向きは同一に設定され、中央磁石15の極性の向きは、リング状磁石16およびソレノイドコイル17の極性の向きと逆に設定され、これら磁石15,16およびソレノイドコイル17によって生じる磁場の一部は、相互に重なり合うように作用している。
蒸発源5の外側に配置されるリング状磁石16は、例えば、蒸発源5の前方側がS極、後方側がN極とされ、磁界は、リング状磁石16のN極からS極に向かう磁力線が、蒸発源5の後方から蒸発源5を通過して前方に至るように形成され、一方、蒸発源5の背面中央部の中央磁石15は、蒸発源5に向けた側がN極で、反対側がS極とされ、その磁界は、蒸発源5の裏面側から蒸発源5を通過して蒸発源5の前方に抜けるように形成される。したがって、蒸発源5の中心部分では、両磁石15,16の磁界の一部が相互に重なり合うように作用する。
また、ソレノイドコイル17は、中央磁石15に向けた側がS極で、反対側がN極とされ、その磁界の一部は、中央磁石15の磁界の一部と打ち消し合うように作用する。
そして、これら磁石15,16およびソレノイドコイル17の磁束密度を適宜に設定することにより、これらの合成された磁場が蒸発源5の蒸発面11に作用する。
本実施形態のアークイオンプレーティング装置1においては、ソレノイドコイル17に流す電流値を変化させる電流制御手段であるコイル電源18が設けられている。また、中央磁石15とリング状磁石16とにより蒸発源5の蒸発面11上に生じる磁場の初期設定値を設定しておく。コイル電源18は、初期においてはソレノイドコイル17へ流す電流値を0とし、蒸発源5の消耗に伴ってソレノイドコイル17に流す電流値を変化させ、磁場の初期設定値を保持する。
磁場の初期設定値は、蒸発源5の外周端面から内方に1cm幅のリング状の端部領域Eを除く内側領域C表面の磁束密度が7〜15mT(ミリテスラ)、標準偏差が3以下とされ、リング状の端部領域E表面の磁束密度が、内側領域C表面の磁束密度よりも3mT以上大きく、15mT以上とされる。
また、蒸発源5を通過する磁力線は、その蒸発面11の法線に対する角度θが0°≦θ<20°とされ、リング状の端部領域E表面では、その角度が内側領域Cに向けて傾斜するように形成される。
図3に蒸発面11上の磁力線のベクトルを模式的に示したように、破線で示すように、内側領域Cにおいては、蒸発面11の法線に対する角度が0°≦θ<20°とされ、端部領域Eにおいては、実線で示すように、内側領域Cの磁力線よりも大きい磁束密度の磁力線が蒸発面11の法線に対する角度は0°≦θ<20°とされるが、内側領域Cに向けて傾いた状態に形成される。
このように構成したアークイオンプレーティング装置1を用いてワーク3に成膜する方法について説明する。
まず、テーブル4の支持棒6にワーク3を保持して、真空チャンバ2内を真空引きした後、Ar等をガス導入口7より導入して、蒸発源5とワーク3上の酸化物等の不純物をスパッタすることにより除去する。そして、再度真空チャンバ2内を真空引きした後、窒素ガス等の反応ガスをガス導入口7から導入し、蒸発源5に向けたアノード電極12をトリガとしてアーク放電を発生させることにより、蒸発源5を構成する物質をプラズマ化して反応ガスと反応させ、テーブル4上のワーク3表面に窒化膜等を成膜する。
この成膜工程時に蒸発源5の蒸発面11上には放電電流が微小領域に集中して、高温で極めて活性な数μm径のアークスポットが発生し、蒸発面11上を10m/s以上の速さでランダムに動き回りながら、蒸発源5を瞬時に溶解蒸発させるとともに、イオンとして放出する。
消耗していない蒸発源を使用する場合、ソレノイドコイル17への電流値は0としておく。蒸発源5の蒸発面11上には、前述した磁石15,16によって図5に実線で示す磁束密度aのように磁界が発生しており、この初期設定値(磁束密度a)に設定された磁界の作用によりアークスポットの移動が制御される。
具体的には、蒸発源5の外周の端部領域Eを除く内側領域Cの表面においては、磁束密度が7〜15mTとされていることから、その内側領域Cの表面で発生したアークスポットは、この内側領域Cに閉じ込められる。また、蒸発面11上の磁力線が前述した二つの磁石15,16の相互作用により、蒸発面11の法線に対する角度θが0°≦θ<20°とされているので、アークスポットを蒸発面11に閉じ込めるように作用する。
なお、この内側領域Cの磁束密度の標準偏差が3以下としたのは、蒸発源5を均等に消耗させるためである。
一方、蒸発源5の端部領域Eにおいては、内側領域C表面よりも磁束密度が大きく設定されているので、内側領域C表面のアークスポットが端部領域Eに向かおうとしても、端部領域Eの強い磁場によって跳ね返されるようにして、内側領域Cに戻される。この端部領域Eの磁束密度としては、内側領域Cの磁束密度よりも3mT以上大きくなるように設定しておけば、アークスポットを内側領域Cに戻す効果を発揮させることができる。
また、蒸発面11の法線に対する磁力線の角度が端部領域Eにおいては、内側領域Cに向けて傾斜するように形成されているので、アークスポットを内側領域Cに向けて戻す効果がある。Robsonら(Springer社、Cathodic arcs, p.140)によると、蒸発面11に生じる磁場がアークスポットに作用する力は、図4のBで示す磁場を例にとると、蒸発面11に平行な磁場成分BHは、この磁場成分に対して90°傾いた方向の力AHとなり、蒸発面11に垂直な磁場成分BVは、平行な磁場成分BHと同じ方向の力AVを作用する。そして、これら磁場から作用する力AH,AVの合成力によってアークスポットAが移動する。したがって、蒸発面11の法線に対する磁力線の角度θを内側領域Cに向けることにより、磁場からアークスポットAに作用する力AVの方向を内側領域Cに向けることができる。また、蒸発面11に垂直な磁場成分BVを大きくすることにより、力AVの大きさを大きくすることができ、アークスポットAを内側領域Cに戻す力を大きくすることができる。
これら端部領域Eの磁束密度を大きくしたこと、及びその磁力線を内側領域Cに向けて傾斜させたことにより、図3に矢印で示したようにアークスポットAは端部領域Eに移動しようとすると戻されて内側領域Cに戻される。
そして、このようにアークスポットAを内側領域C内に閉じ込め、端部領域Eを超えることが拘束されるので、アークスポットが蒸発源表面部以外に入り込む現象が防止され、安定した放電を維持することができる。
また、アークイオンプレーティング装置1では、成膜時間の経過とともに蒸発源5の蒸発面11が消耗するのに伴い、中央磁石15とリング状磁石16とにより生じる磁場が、図5に破線で示す磁束密度bのように上昇する。このとき、コイル電源18は、ソレノイドコイル17に流す電流値を上昇させることで、ソレノイドコイル17に中央磁石15の磁力を打ち消すように磁力を作用させ、初期設定値の磁束密度aを保持する。このように、中央磁石15とリング状磁石16だけの磁界であると、蒸発源5の消耗に伴い、その蒸発源5の蒸発面11上の磁束密度が大きくなるが、蒸発源5の消耗に伴ってソレノイドコイル17に流す電流値を上昇させることで、ソレノイドコイル17による磁界の一部と中央磁石15による磁界の一部とを打ち消し合うように作用させて、蒸発源5の蒸発面11上の磁力が大きくなることを防止できる。磁束密度aを保持する方法は、例えば、一定時間蒸発源5を放電後、真空チャンバ2内で磁場測定器及び、コイル電流制御機構19により磁場を測定し、そのデータを磁束密度aに一定となるようにフィードバックし、コイル電源18に流すコイル電流値をコントロールすることにより可能となる。これにより、蒸発源5の消耗量に拘わらず、消耗していない状態の蒸発源5の蒸発面11上の磁束密度(初期設定値の磁束密度a)を保持することができる。したがって、蒸発源5の消耗に伴う薄膜表面の平滑性や薄膜の残留応力の変化を低減できる。また、消耗し切るまで蒸発源5を使用することができるので、蒸発源の利用効率を向上させることができる。
本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例について説明する。実施例を表1、比較例を表2に示す。
実施例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石およびリング状磁石、中央磁石の背面にソレノイドコイルを備え、比較例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石およびリング状磁石のみを備える構成とした。また、蒸発源の背面中央に配置された中央磁石及びリング状磁石とも永久磁石のネオジム磁石を用い、保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTとした。ただし、以下の表2に示す「比1‐6」の装置においては、リング状磁石は保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTのネオジム磁石、中央磁石は保磁力が250kA/m、表面磁束密度が350mTのフェライト磁石を用いた。「比1‐7」の装置においては、リング状磁石は保磁力が1000kA/m、表面磁束密度が1300mTのネオジム磁石、中央磁石は保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTのネオジム磁石を用いた。
また、蒸発源として、直径100mm、厚さ16mmのTiまたはTiAl(Ti:Al=50:50)を用いた。そして、実施例および比較例のアークイオンプレーティング装置に蒸発源を配置し、蒸発面の磁場を測定したところ、表1及び表2に示すものとなった。なお、表中の「サンプルNo.」においては、実施例の装置により成膜したものに「実」を付し、比較例のものに「比」を付した。
なお、磁束密度は、磁束計にて、蒸発源表面において蒸発源表面の中心を通る直線上を測定した。蒸発源の表面では、測定箇所を10mm間隔と設定し、各測定点で蒸発源表面の垂直方向及び平行方向の磁束密度を測定した。また、これらの測定値から各測定点での磁束密度及び磁力線と蒸発面の法線とのなす角度(傾斜角)を算出した。また、蒸発源表面での磁束密度の標準偏差は、端部領域の磁束密度が大きい部分を除いた磁束密度の数値から算出した。
このようなアークイオンプレーティング装置を用いて、表1及び表2に示す各種の条件で成膜し、膜の表面粗さと残留応力とを測定した。なお、反応ガスとしては窒素ガスを用いた。表面粗さは、レーザー顕微鏡にて10μm角の範囲を10回測定し、その平均値を測定値とした。残留応力は、X線回折を利用した2θ‐sinφ法により求めた。管球はCrを使用し、膜種がTiN及びTiAlNの双方とも(220)のピークを用い、ステップ幅0.1°、スキャン速度は、0.15°/minで測定した。
表1及び表2に結果を示す。なお、比較例である「比1‐5」,「比2‐5」,「比3‐5」,「比4‐5」のサンプルにおいては、蒸発源表面の磁力が15mTとなりアークスポットが安定に存在できなくなることから、放電ができなかったため成膜ができず、表中の表面粗さRaおよび圧縮残留応力を「‐」とした。
Figure 0005644675
Figure 0005644675
表1及び表2の「サンプルNo.」の実または比の次の数字が同一のサンプルは、アーク電流、N分圧、バイアス電圧の成膜条件が同一であることを意味する。表1及び表2の結果から明らかなように、アーク電流、N分圧、バイアス電源の成膜条件が同一のサンプルを用いて成膜した場合、比較例の装置においては、蒸発源の消耗に伴って磁力が変化することにより、膜の表面粗さ及び残留応力が大きく変化し、さらに消耗が進むと成膜自体ができなくなる。それに対し、実施例の装置においては、蒸発源の消耗に伴ってソレノイドコイルに流す電流を変化させ、磁力を一定に調整することにより、膜の表面粗さ及び残留応力の変化を抑制できることがわかる。なお、「比1‐6」のサンプルは、蒸発源表面の磁力が小さいことにより極端に表面粗さが大きい。「比1‐7」のサンプルは、蒸発源端部領域を除く磁束密度の標準偏差が大きいことにより、蒸発源の利用効率が小さい。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、蒸発源を円板状に形成したが、柱状、筒状等のものにも適用することができ、その場合も、端面から1cm幅の範囲を端部領域として、前述したような磁界を設定すればよい。
また、磁場の初期設定値を中央磁石とリング状磁石とにより設定し、ソレノイドコイルは初期には電流値を0にして作動しないようにしたが、ソレノイドコイルに初期の電流値を設定しておき、この電流値で得られる磁力と、中央磁石およびリング状磁石で得られる磁力との合成により、前述した初期設定値となるようにし、蒸発源の消耗に伴いその電流値を変化させるようにしてもよい。
1 アークイオンプレーティング装置
2 真空チャンバ
3 ワーク
4 テーブル
5 蒸発源
6 支持棒
7 ガス導入口
8 ガス排出口
9 ヒータ
11 蒸発面
12 アノード電極
13 アーク電源
14 バイアス電源
15 中央磁石
16 リング状磁石
17 ソレノイドコイル
18 コイル電源(電流制御手段)
19 磁場測定器及び、コイル電流制御機構

Claims (4)

  1. 蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とを備え、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きは同一に設定され、前記中央磁石の極性の向きは前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定され、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルとにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値は、その蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きく設定されており、前記ソレノイドコイルに、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を変化させ、前記初期設定値を保持する電流制御手段が設けられていることを特徴とするアークイオンプレーティング装置。
  2. 前記蒸発面における磁力線は、前記蒸発面の法線に対する角度θが0°≦θ<20°であり、前記端部領域表面では前記内側領域に向けて傾いていることを特徴とする請求項1記載のアークイオンプレーティング装置。
  3. 前記内側領域の磁束密度は、標準偏差が3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のアークイオンプレーティング装置。
  4. 蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とにより蒸発源の表面に生じる磁場を設定し、蒸発源を蒸発させて成膜を行う方法であって、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きを同一に設定し、前記中央磁石の極性の向きを前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定し、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルとにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値を、蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きくなるように設定しておき、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を上昇させ、前記初期設定値を保持することを特徴とするアークイオンプレーティング成膜方法。
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