JP5644675B2 - アークイオンプレーティング装置および成膜方法 - Google Patents
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Description
その磁界として、特許文献1には、蒸発源の蒸発面における磁界の強さが5mT(ミリテスラ)以上で、アーク電流値が200A以上であることが推奨されている。また、蒸発面における法線に対する磁力線の最大角度θが60°以下であることが推奨されている。
また、特許文献2には、蒸発面の中心から蒸発面の径方向に沿った任意の線分上における磁束密度の最小値が4.5mT以上、平均値が8mT以上、標準偏差が3以下である磁界を形成することで、陰極(カソード)の蒸発面に対し、磁力線の向きが垂直で、かつ陰極の蒸発面上における磁束密度を均一化することができ、陰極の利用効率を向上させることができると記載されている。
これにより、蒸発源を面内均一に蒸発させて、薄膜表面の平滑性を高めることができる。
磁力線が蒸発面の法線に対して上記の角度に設定されていると、蒸発面にアークスポットを閉じ込める効果がある。
また、アークスポットを移動させる力は、磁場における蒸発面に平行な成分と、蒸発面に垂直な成分とのそれぞれの大きさにより決まり、その向きは、蒸発面に平行な成分に直角の方向と、平行な成分に同じ方向との合成方向となる。したがって、磁場における蒸発面に平行な成分を蒸発面の内側領域に向けるようにすれば、端部領域表面にアークスポットが移動しようとしても蒸発面の内側領域に戻す方向に力が働き、端部領域から外に飛び出すことが防止される。
蒸発面の内側領域においては、局部的な集中をなくして全体に均等にアークスポットが移動することにより、蒸発源が均等に消耗し、さらに利用効率がよくなる。
この実施形態のアークイオンプレーティング装置1は、図1及び図2に示すように、真空チャンバ2内に、ワーク(被コーティング物)3を保持するテーブル4が設けられるとともに、このテーブル4を介して両側に、カソードとしての蒸発源5がそれぞれ設けられている。テーブル4は、その上面に複数のワーク3を保持する支持棒6が周方向に間隔をおいて複数本立設されるとともに、これら支持棒6を図1の矢印で示すように水平回転する機構を有しており、自身も旋回機構(図示略)により水平に旋回させられるターンテーブルとなっている。そして、支持棒6に保持したワーク3を自転させながら公転させる構成である。
また、真空チャンバ2には、内部に反応ガスを導入するガス導入口7と、内部から反応ガスを排出するガス排出口8とが設けられているとともに、テーブル4の後方に、テーブル4上のワーク3を加熱して被膜の密着力を高めるためにヒータ9が設けられている。
また、テーブル4にも、これに保持されるワーク3に負のバイアス電圧をかけるバイアス電源14が接続されている。
磁石15,16は永久磁石であり、ソレノイドコイル17は、導線を螺旋状に巻いたリング状のコイルである。ソレノイドコイル17は、流す電流値を変化させることで、磁束密度を変化させることができる。
リング状磁石16およびソレノイドコイル17の極性の向きは同一に設定され、中央磁石15の極性の向きは、リング状磁石16およびソレノイドコイル17の極性の向きと逆に設定され、これら磁石15,16およびソレノイドコイル17によって生じる磁場の一部は、相互に重なり合うように作用している。
蒸発源5の外側に配置されるリング状磁石16は、例えば、蒸発源5の前方側がS極、後方側がN極とされ、磁界は、リング状磁石16のN極からS極に向かう磁力線が、蒸発源5の後方から蒸発源5を通過して前方に至るように形成され、一方、蒸発源5の背面中央部の中央磁石15は、蒸発源5に向けた側がN極で、反対側がS極とされ、その磁界は、蒸発源5の裏面側から蒸発源5を通過して蒸発源5の前方に抜けるように形成される。したがって、蒸発源5の中心部分では、両磁石15,16の磁界の一部が相互に重なり合うように作用する。
また、ソレノイドコイル17は、中央磁石15に向けた側がS極で、反対側がN極とされ、その磁界の一部は、中央磁石15の磁界の一部と打ち消し合うように作用する。
そして、これら磁石15,16およびソレノイドコイル17の磁束密度を適宜に設定することにより、これらの合成された磁場が蒸発源5の蒸発面11に作用する。
磁場の初期設定値は、蒸発源5の外周端面から内方に1cm幅のリング状の端部領域Eを除く内側領域C表面の磁束密度が7〜15mT(ミリテスラ)、標準偏差が3以下とされ、リング状の端部領域E表面の磁束密度が、内側領域C表面の磁束密度よりも3mT以上大きく、15mT以上とされる。
図3に蒸発面11上の磁力線のベクトルを模式的に示したように、破線で示すように、内側領域Cにおいては、蒸発面11の法線に対する角度が0°≦θ<20°とされ、端部領域Eにおいては、実線で示すように、内側領域Cの磁力線よりも大きい磁束密度の磁力線が蒸発面11の法線に対する角度は0°≦θ<20°とされるが、内側領域Cに向けて傾いた状態に形成される。
まず、テーブル4の支持棒6にワーク3を保持して、真空チャンバ2内を真空引きした後、Ar等をガス導入口7より導入して、蒸発源5とワーク3上の酸化物等の不純物をスパッタすることにより除去する。そして、再度真空チャンバ2内を真空引きした後、窒素ガス等の反応ガスをガス導入口7から導入し、蒸発源5に向けたアノード電極12をトリガとしてアーク放電を発生させることにより、蒸発源5を構成する物質をプラズマ化して反応ガスと反応させ、テーブル4上のワーク3表面に窒化膜等を成膜する。
消耗していない蒸発源を使用する場合、ソレノイドコイル17への電流値は0としておく。蒸発源5の蒸発面11上には、前述した磁石15,16によって図5に実線で示す磁束密度aのように磁界が発生しており、この初期設定値(磁束密度a)に設定された磁界の作用によりアークスポットの移動が制御される。
なお、この内側領域Cの磁束密度の標準偏差が3以下としたのは、蒸発源5を均等に消耗させるためである。
そして、このようにアークスポットAを内側領域C内に閉じ込め、端部領域Eを超えることが拘束されるので、アークスポットが蒸発源表面部以外に入り込む現象が防止され、安定した放電を維持することができる。
実施例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石およびリング状磁石、中央磁石の背面にソレノイドコイルを備え、比較例のアークイオンプレーティング装置においては、中央磁石およびリング状磁石のみを備える構成とした。また、蒸発源の背面中央に配置された中央磁石及びリング状磁石とも永久磁石のネオジム磁石を用い、保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTとした。ただし、以下の表2に示す「比1‐6」の装置においては、リング状磁石は保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTのネオジム磁石、中央磁石は保磁力が250kA/m、表面磁束密度が350mTのフェライト磁石を用いた。「比1‐7」の装置においては、リング状磁石は保磁力が1000kA/m、表面磁束密度が1300mTのネオジム磁石、中央磁石は保磁力が2000kA/m、表面磁束密度が1150mTのネオジム磁石を用いた。
また、蒸発源として、直径100mm、厚さ16mmのTiまたはTiAl(Ti:Al=50:50)を用いた。そして、実施例および比較例のアークイオンプレーティング装置に蒸発源を配置し、蒸発面の磁場を測定したところ、表1及び表2に示すものとなった。なお、表中の「サンプルNo.」においては、実施例の装置により成膜したものに「実」を付し、比較例のものに「比」を付した。
なお、磁束密度は、磁束計にて、蒸発源表面において蒸発源表面の中心を通る直線上を測定した。蒸発源の表面では、測定箇所を10mm間隔と設定し、各測定点で蒸発源表面の垂直方向及び平行方向の磁束密度を測定した。また、これらの測定値から各測定点での磁束密度及び磁力線と蒸発面の法線とのなす角度(傾斜角)を算出した。また、蒸発源表面での磁束密度の標準偏差は、端部領域の磁束密度が大きい部分を除いた磁束密度の数値から算出した。
このようなアークイオンプレーティング装置を用いて、表1及び表2に示す各種の条件で成膜し、膜の表面粗さと残留応力とを測定した。なお、反応ガスとしては窒素ガスを用いた。表面粗さは、レーザー顕微鏡にて10μm角の範囲を10回測定し、その平均値を測定値とした。残留応力は、X線回折を利用した2θ‐sin2φ法により求めた。管球はCrを使用し、膜種がTiN及びTiAlNの双方とも(220)のピークを用い、ステップ幅0.1°、スキャン速度は、0.15°/minで測定した。
表1及び表2に結果を示す。なお、比較例である「比1‐5」,「比2‐5」,「比3‐5」,「比4‐5」のサンプルにおいては、蒸発源表面の磁力が15mTとなりアークスポットが安定に存在できなくなることから、放電ができなかったため成膜ができず、表中の表面粗さRaおよび圧縮残留応力を「‐」とした。
例えば、上記実施形態では、蒸発源を円板状に形成したが、柱状、筒状等のものにも適用することができ、その場合も、端面から1cm幅の範囲を端部領域として、前述したような磁界を設定すればよい。
また、磁場の初期設定値を中央磁石とリング状磁石とにより設定し、ソレノイドコイルは初期には電流値を0にして作動しないようにしたが、ソレノイドコイルに初期の電流値を設定しておき、この電流値で得られる磁力と、中央磁石およびリング状磁石で得られる磁力との合成により、前述した初期設定値となるようにし、蒸発源の消耗に伴いその電流値を変化させるようにしてもよい。
2 真空チャンバ
3 ワーク
4 テーブル
5 蒸発源
6 支持棒
7 ガス導入口
8 ガス排出口
9 ヒータ
11 蒸発面
12 アノード電極
13 アーク電源
14 バイアス電源
15 中央磁石
16 リング状磁石
17 ソレノイドコイル
18 コイル電源(電流制御手段)
19 磁場測定器及び、コイル電流制御機構
Claims (4)
- 蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とを備え、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きは同一に設定され、前記中央磁石の極性の向きは前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定され、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルとにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値は、その蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きく設定されており、前記ソレノイドコイルに、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を変化させ、前記初期設定値を保持する電流制御手段が設けられていることを特徴とするアークイオンプレーティング装置。
- 前記蒸発面における磁力線は、前記蒸発面の法線に対する角度θが0°≦θ<20°であり、前記端部領域表面では前記内側領域に向けて傾いていることを特徴とする請求項1記載のアークイオンプレーティング装置。
- 前記内側領域の磁束密度は、標準偏差が3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のアークイオンプレーティング装置。
- 蒸発源の背面中央に配置された中央磁石およびソレノイドコイルと、前記蒸発源の半径方向外側に配置されたリング状磁石とにより蒸発源の表面に生じる磁場を設定し、蒸発源を蒸発させて成膜を行う方法であって、前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きを同一に設定し、前記中央磁石の極性の向きを前記リング状磁石および前記ソレノイドコイルの極性の向きと逆に設定し、前記中央磁石、前記リング状磁石およびソレノイドコイルとにより前記蒸発源の表面に生じる磁場の初期設定値を、蒸発源の端面から内方に所定幅の端部領域を除く内側領域表面の磁束密度が7〜15mTであり、前記端部領域表面の磁束密度が前記内側領域表面の磁束密度よりも3mT以上大きくなるように設定しておき、前記蒸発源の消耗に伴って前記ソレノイドコイルに流す電流値を上昇させ、前記初期設定値を保持することを特徴とするアークイオンプレーティング成膜方法。
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