JP5081315B2 - アーク式蒸発源 - Google Patents
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Description
カソード放電型アーク式蒸発源は、カソードであるターゲットの表面にアーク放電を発生させ、ターゲットを構成する物質を瞬時に溶解して蒸発させ、イオン化されたその物質を被処理物である基材の表面に引き込むことで薄膜を形成している。このアーク式蒸発源は、蒸発速度が速く、蒸発した物質のイオン化率が高いことから、成膜時には基材にバイアスを印加することで緻密な皮膜を形成できる。このため、切削工具などに耐摩耗性皮膜を形成する目的で産業的に用いられている。
アークスポットから放出される溶融ターゲット物質(マクロパーティクル)の量は、アークスポットが高速で移動すると抑制される傾向にあり、アークスポットの移動速度はターゲット表面に印加された磁界に影響されることが知られている。
このような問題を解消するために、ターゲット表面に磁界を印加し、アークスポットの移動を制御する次のような技術が提案されている。
また、特許文献2に開示のアーク式蒸発源によれば、カソード背面の磁石によってカソード表面に強い磁場を印加することはできるが、磁力線がカソード表面の中心から外周(
外側)に向かう方向に伸びている(発散している)。カソード表面に垂直磁場が印加された状況では、アークスポットは磁力線が倒れる方向に移動する傾向にあるので、放電時にアークスポットが外周部へと移動して放電が不安定になると共に、当該外周部のみで局所的な放電が生じてしまう。また、ターゲットからの磁力線が基材方向にのびていないことから、イオン化されたターゲット物質を効率的に基材方向に誘導することが出来ない。
本発明に係るアーク式蒸発源は、ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とする。
なお好ましくは、前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されているとよい。
さらに好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
ここで好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるとよい。
ここで本発明に係るアーク式蒸発源について、好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されているとよい。
また好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
なお好ましくは、前記磁場発生機構は、電磁コイルからなるとよい。
[第1実施形態]
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源1(以下、蒸発源1という)を備えた成膜装置6を示している。
加えて、成膜装置6は、後述する蒸発源1のターゲット2に負のバイアスをかけるアーク電源15と、基材7に負のバイアスをかけるバイアス電源16とが設けられ、両電源15、16の正極側はグランド18に接地されている。
蒸発源1は、上述したように、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。
なお、以下の説明において、ターゲット2の蒸発面となる基材7側(基材方向)を向く面を「前面」、その反対側(基材と反対方向)を向く面を「背面」とする(図1及び図2参照)。
磁界形成手段8は、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状乃至はドーナツ状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。これら外周磁石3及び背面磁石4は、保磁力の高いネオジム磁石により形成された永久磁石によって構成されている。
このようなリング状の外周磁石3の外観は、互いに平行な2つの円環状の面(円環面)と、当該2つの円環面を軸心方向につなぐ2つの周面とからなっている。この2つの周面は、円環面の内周側(径内側)に形成される内周面と、円環面の外周側(径外側)に形成される外周面である。これら内周面と外周面の幅は、すなわち外周磁石3の厚みである。
外周磁石3は、リング状あるいは環状の一体形状をなすものでも良いし、円柱状あるいは直方体状の磁石をその磁化方向がターゲット2の表面と水平方向になるように、リング状あるいは環状に並べたものでも良い。
また、本実施形態において、外周磁石3は、その前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置と一致するように配置されている。
このように構成された背面磁石4は、その磁化方向がターゲット2の軸心に沿うものであってターゲット2の蒸発面に対して垂直となるように、且つ円板背面磁石4AのN極側がターゲット2に向くように、ターゲット2の背面側に配置される。このとき、背面磁石4は、軸心がターゲット2の軸心とほぼ一致するように配置される。
次に、蒸発源1を用いた成膜装置6における成膜の方法を説明する。
まず、チャンバ11を真空引きして真空にした後、アルゴンガス(Ar)等の不活性ガスをガス導入口13より導入し、ターゲット2及び基材7上の酸化物等の不純物をスパッタによって除去する。不純物の除去後、チャンバ11内を再び真空にして、真空となったチャンバ11内にガス導入口13より反応ガスを導入する。
なお、反応ガスとしては、窒素ガス(N2)や酸素ガス(O2)、またはメタン(CH4)などの炭化水素ガスを用途に合わせて選択すればよく、チャンバ11内の反応ガスの圧力は1〜7Pa程度とすればよい。また、成膜時、ターゲット2は、100〜200Aのアーク電流を流すことで放電させると共に、10〜30Vの負電圧をアーク電源15により印加するとよい。さらに、基材7には10〜200Vの負電圧をバイアス電源16により印加するとよい。
なお、第1実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
[第2実施形態]
図3を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態におけるアーク式蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と同様に、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。磁界形成手段8は、第1実施形態と同様に、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。
以下に、本実施形態における蒸発源1の外周磁石3の配置について説明する。
図3を参照して、ターゲット2に対する外周磁石3の位置に注目すると、外周磁石3が、ターゲット2に対して背面磁石4側(背面側)に位置をずらして配置されていることがわかる。このように外周磁石3の位置がずれることで、外周磁石3の径方向から見た投影の前面側が、ターゲット2の径方向から見た投影の背面側と重なる。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影したときに形成される影が互いに部分的に重なると共に、外周磁石3の影の前面側がターゲット2の影の背面側に重なるように配置される。
つまり、本実施形態における外周磁石3は、前端部がターゲット2の背面よりも前方に配置されるように、且つ後端部がターゲット2の背面よりも後方に配置されるように蒸発源1に備えられている。さらに詳しく述べると、本実施形態における外周磁石3は、前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置よりも後面側(後方)となるように配置され、蒸発源1に備えられている。
以上に示した外周磁石3の配置以外は、第1実施形態とほぼ同様であるので説明を省略する。
[第3実施形態]
図4を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図4は、本実施形態による成膜装置6で用いられるアーク式蒸発源1の概略構成を示す図である。
他の構成、例えば、所定の厚みを有する円板状のターゲット2、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状の外周磁石3、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4などは、第1実施形態と略同様である。
電磁コイル9は、背面磁石4と同一方向の磁場を発生するリング状のソレノイドであり、例えば、巻数が数百回程度(例えば410回)となっていて、ターゲット2の径よりも若干大きな径のコイルとなるように巻回されている。本実施形態では、2000A・T〜5000A・T程度の電流で磁場を発生させる。
このように、電磁コイル9を設けると、第1実施形態における効果に加えて、ターゲット2の蒸発面を通過した磁力線の拡散を抑制して基材7の表面まで高い磁力線密度を維持することができる。また、上述のように、ターゲット2と基材7の間に電磁コイル9を設けると、ターゲット2から基材7へのイオンの搬送効率を向上させる効果も期待できる。
図5〜図8を参照しながら、第1実施形態〜第3実施形態のアーク式蒸発源1が発生する磁力線の分布について、実施例1〜実施例3として説明する。
[従来例]
まず理解を深めるため、図5を参照して、従来例、すなわち背面磁石4だけを用いたときの磁力線分布について説明する。
図5(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の外周方向に傾いて、ターゲット2の背面から前面に向かって拡散している。
[実施例1]
図6を参照して、第1実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
図6(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対して略平行)となっている。
[実施例2]
図7を参照して、第2実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
図7(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対してほぼ平行)となっている。また、ターゲット2の厚み方向の中央から背面側について、本実施例における外周部における磁力線を従来例と比べると、本実施例の方がターゲット法線に対して平行に近いと言える。よって、本実施例は、従来例と比べてターゲット2内の磁力線密度がより均一となっていると言える。
つまり、ターゲット2、外周磁石3、及び背面磁石4を用いたアーク式蒸発源の構成において、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも後方となっていることは、好ましくないといえる。
[実施例3]
図8を参照して、第3実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
2 ターゲット
3 外周磁石
4 背面磁石
4A 第1の永久磁石(円板背面磁石)
4B 第2の永久磁石(円板背面磁石)
5 磁気コア
6 成膜装置
7 基材
8 磁界形成手段
9,10 電磁コイル
11 真空チャンバ
12 回転台
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 アーク電源
16 バイアス電源
18 グランド
Claims (12)
- ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、
前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とするアーク式蒸発源。 - 前記外周磁石は、当該外周磁石の径方向から見た投影が、前記ターゲットの径方向から見た投影と重なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
- 前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアーク式蒸発源。 - 前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項6に記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットの前面における磁場が、100ガウス以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、
前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。 - 前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
- 前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
- 前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
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