しかしながら、上記特許文献1のアレーアンテナ装置(マルチアンテナ装置)では、一対の給電素子を跨ぐように配置され、一対の給電素子のそれぞれに対して静電結合する1つの無給電素子を設けることによって、一対の給電素子間の相互結合を小さくすることが可能である一方、無給電素子を用いることにより部品点数が増加したり、配置の制限を受けるという不都合がある。このため、上記特許文献1のアレーアンテナ装置(マルチアンテナ装置)では、部品点数が増加するのを抑制しながら、アンテナ素子間の相互結合を小さくすることができないという問題点がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、部品点数が増加するのを抑制しながら、アンテナ素子間の相互結合を小さくすることが可能なマルチアンテナ装置およびそのようなマルチアンテナ装置を備えた携帯機器を提供することである。
課題を解決するための手段および発明の効果
この発明の第1の局面によるマルチアンテナ装置は、電力を供給する第1給電点および第2給電点と、一方端が第1給電点に接続され、他方端が第2給電点側に配置される線形状の第1アンテナ素子と、一方端が第2給電点に接続され、他方端が第1給電点側に配置される線形状の第2アンテナ素子と、第1給電点および第2給電点が接地される接地部とを備え、第1アンテナ素子のうちの他方端を含む所定の領域で形成される第1対向部と、第2アンテナ素子のうちの他方端を含む所定の領域で形成される第2対向部とが静電結合可能な距離で対向しており、接地部には、第1給電点および第2給電点の間の領域、かつ、第1対向部と第2対向部との間に切欠部が形成されている。
すなわち、本願発明者は、鋭意検討した結果、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子のそれぞれに、互いに静電結合可能な距離で対向する第1対向部および第2対向部を設けるとともに、接地部の第1給電点および第2給電点の間の領域にスリット状の切欠部を形成することによって、部品点数が増加するのを抑制しながら、アンテナ素子間の相互結合が小さくなることを見い出した。なお、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子のそれぞれに、互いに静電結合可能な距離で対向する第1対向部および第2対向部を設けるとともに、接地部の第1給電点および第2給電点の間の領域にスリット状の切欠部を形成することにより、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合が小さくなることは、後述する本願発明者のシミュレーションにより確認済である。
また、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合を小さくすることができるので、アンテナ素子間の相互結合を小さくするためにアンテナ素子間の距離を大きくする必要がなく、その分、マルチアンテナ装置を小型化することができる。また、アンテナ素子間に接続配線や無給電素子を設ける場合に比べて、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の配置の自由度が低下するのを抑制することができる。
また、第1対向部および第2対向部は、それぞれ、第1アンテナ素子の第1給電点が配置される側とは反対側の端部および第2アンテナ素子の第2給電点が配置される側とは反対側の端部に配置されている。これにより、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子のそれぞれの端部同士を対向させる簡易な形状により、容易に、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合を小さくすることができる。
上記第1の局面によるマルチアンテナ装置において、好ましくは、第1対向部および第2対向部は、互いに平行に配置され、互いに対向する方向に対して直交する方向に延びるように形成されている。このように構成すれば、第1対向部および第2対向部の対向領域が大きくなるので、第1対向部および第2対向部の静電結合の大きさが大きくなる。これにより、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合を確実に小さくすることができる。
この場合、好ましくは、第1対向部および第2対向部は、互いに平行に配置され、互いに対向する方向に対して直交する方向、かつ、接地部方向に延びるように形成されている。
上記第1の局面によるマルチアンテナ装置において、好ましくは、切欠部は、第1給電点および第2給電点の中央に配置されている。このように構成すれば、切欠部が第1給電点または第2給電点のいずれかに近い偏った配置の場合に比べて、第1アンテナ素子から放出される電波と第2アンテナ素子から放出される電波の指向性を対称にすることができる。
上記第1の局面によるマルチアンテナ装置において、好ましくは、切欠部は、スリット状に形成されており、深さ方向の長さは、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子が出力する電波の波長λの1/4の電気長である。なお、電気長とは、物理的な長さではなく、信号の遅延時間を基準とした長さである。このように構成すれば、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合をより小さくすることができる。
上記第1の局面によるマルチアンテナ装置において、好ましくは、切欠部は、第1給電点および第2給電点を結ぶ直線に対して直交する方向に延びる細長形状に形成されている。このように構成すれば、切欠部を単純な細長形状に形成するだけで、容易に、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合を小さくすることができる。
上記第1の局面によるマルチアンテナ装置において、好ましくは、切欠部を跨ぐ配線をさらに備え、この配線には、所望の周波数を遮断するフィルタ素子が直列的に接続されている。このように構成すれば、フィルタ素子により、所望の周波数での電流が切欠部を跨ぐ配線を介して伝達されるのを防止することができるので、切欠部が形成された領域にも配線を設けることができ、その結果、切欠部を設けたことに起因して配線可能な領域が小さくなってしまうのを抑制することができる。
この場合、好ましくは、フィルタ素子は、LC回路からなる。このように構成すれば、所望の周波数を遮断する簡易な構成のLC回路により、容易に、所望の周波数での電流が切欠部を跨ぐ配線を介して伝達されるのを防止することができる。
この発明の第2の局面による携帯機器は、電力を供給する第1給電点および第2給電点と、一方端が第1給電点に接続され、他方端が第2給電点側に配置される線形状の第1アンテナ素子と、一方端が第2給電点に接続され、他方端が第1給電点側に配置される線形状の第2アンテナ素子と、第1給電点および第2給電点が接地される接地部とを含み、第1アンテナ素子のうちの他方端を含む所定の領域で形成される第1対向部と、第2アンテナ素子のうちの他方端を含む所定の領域で形成される第2対向部とが静電結合可能な距離で対向しており、接地部には、第1給電点および第2給電点の間の領域、かつ、第1対向部と第2対向部との間に切欠部が形成されているマルチアンテナ装置を備える。
この発明の第2の局面による携帯機器では、上記のように、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子のそれぞれに、互いに静電結合可能な距離で対向する第1対向部および第2対向部を設けるとともに、接地部の第1給電点および第2給電点の間の領域にスリット状の切欠部を形成することによって、部品点数が増加するのを抑制しながら、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の相互結合を小さくすることができる。また、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の間の相互結合を小さくすることができるので、アンテナ素子間の相互結合を小さくするためにアンテナ素子間の距離を大きくする必要がなく、その分、マルチアンテナ装置を小型化することができる。その結果、そのようなマルチアンテナ装置を備えた携帯機器自体の小型化も図ることができる。特に、携帯電話のように小型化が望まれる携帯機器において本発明はより有効である。また、アンテナ素子間に接続配線や無給電素子を設ける場合に比べて、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子の配置の自由度が低下するのを抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態による携帯電話機100の構成について説明する。なお、携帯電話機100は、本発明の「携帯機器」の一例である。
本発明の第1実施形態による携帯電話機100は、図1に示すように、正面から見て、略長方形形状を有している。また、携帯電話機100は、表示画面部1と、番号ボタンなどからなる操作部2と、マイク3と、スピーカ4とを備えている。また、携帯電話機100の筐体内部には、マルチアンテナ装置10が設けられている。
マルチアンテナ装置10は、複数のアンテナ素子を用いて所定の周波数において多重の入出力が可能なMIMO(Multiple−Input Multiple−Output)通信用に構成されている。また、マルチアンテナ装置10は、2.5GHz帯の高速無線通信ネットワークのWiMAX(Worldwide interoperability for Microwave Access)に対応している。
マルチアンテナ装置10は、図2に示すように、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12と、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12が共に接地される接地部13と、第1アンテナ素子11に高周波電力を供給するための第1給電点14および第2アンテナ素子12に高周波電力を供給するための第2給電点15とを含んでいる。
第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、薄板形状を有し、図示しない基板の表面上に設けられている。また、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、第1給電点14(第2給電点15)を介して接地部13に接地されている。また、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、マルチアンテナ装置10が対応する2.5GHzに対応するモノポールアンテナである。すなわち、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、2.5GHzの波長λの電波を送受信可能に構成されている。また、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、略U字形状に形成されており、第1給電点14(第2給電点15)が位置する側とは反対側の端部が開放されている。
具体的には、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、第1給電点14(第2給電点15)から接地部13の直線状の縁部13aに対して直交する方向に延びるように形成された垂直部111(121)を含んでいる。また、第1アンテナ素子11の垂直部111は、第2アンテナ素子12の垂直部121に対して平行に配置されており、垂直部121との離間距離D1が中心間距離で略λ/4になるように配置されている。また、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、垂直部111(121)の第1給電点14(第2給電点15)側の端部とは反対側の端部から第2アンテナ素子12(第1アンテナ素子11)側に直線的に延びるように形成された水平部112(122)を含んでいる。さらに、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)は、水平部112(122)の垂直部111(121)に接続された端部とは反対側の端部から接地部13側に延びるように形成された第1対向部113(第2対向部123)を含んでいる。第1対向部113(第2対向部123)は、垂直部111(121)に対して平行に配置されている。また、第1対向部113および第2対向部123は、互いに静電結合可能な離間距離D2を隔てて対向するように配置されている。また、第1対向部113および第2対向部123は、互いに平行に配置されている。また、第1対向部113および第2対向部123は、互いの静電結合の大きさが大きくなる方向に延びるように形成されている。具体的には、第1対向部113および第2対向部123は、X方向に対向するように配置されており、X方向に直交するY方向に延びるように形成されている。
また、第1実施形態では、接地部13は、第1給電点14および第2給電点15の間の領域にスリット状の切欠部131を有している。切欠部131は、第1給電点14および第2給電点15を結ぶ直線に対して略直交する方向に延びる細長形状に形成されている。また、切欠部131は、第1給電点14および第2給電点15の略中央に配置されている。また、切欠部131の深さ方向の長さは、マルチアンテナ装置10が対応する2.5GHzの波長λの約1/4の電気長L1である。
第1給電点14(第2給電点15)は、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)と図示しない給電線とを接続するように構成されている。また、第1給電点14および第2給電点15は、第1アンテナ素子11の垂直部111および第2アンテナ素子12の垂直部121と同様に、互いに離間距離D1を隔てて配置されている。
また、マルチアンテナ装置10は、接地部13の切欠部131を跨ぐ複数の配線16をさらに備えている。また、配線16は、図示しない電子部品に接続されている。また、配線16には、マルチアンテナ装置10が対応する2.5GHzの電波を遮断するように構成されたフィルタ素子17が直列的に接続されている。フィルタ素子17は、コイルとコンデンサとにより構成されたLC回路からなる。
以上のように、本願発明者は、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12のそれぞれに、互いに静電結合可能な距離で対向する第1対向部113および第2対向部123を設けるとともに、接地部13の第1給電点14および第2給電点15の間の領域にスリット状の切欠部131を形成することによって、部品点数が増加するのを抑制しながら、アンテナ素子間の相互結合が小さくなることを見い出した。
また、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を小さくすることができるので、アンテナ素子間の相互結合を小さくするためにアンテナ素子間の距離を大きくする必要がなく、その分、マルチアンテナ装置10を小型化することができる。その結果、そのようなマルチアンテナ装置10を備えた携帯電話機100自体の小型化も図ることができる。特に、第1実施形態の携帯電話機100のように小型化が望まれる携帯機器において本発明はより有効である。また、アンテナ素子間に接続配線や無給電素子を設ける場合に比べて、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の配置の自由度が低下するのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、第1対向部113および第2対向部123を、それぞれ、第1アンテナ素子11の第1給電点14が配置される側とは反対側の端部および第2アンテナ素子12の第2給電点15が配置される側とは反対側の端部に配置する。このように構成すれば、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12のそれぞれの端部同士を対向させる簡易な形状により、容易に、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を小さくすることができる。
また、第1実施形態では、第1対向部113および第2対向部123を、互いに平行に配置し、互いに対向する方向に対して直交する方向に延びるように形成する。このように構成すれば、第1対向部113および第2対向部123の対向領域が大きくなるので、第1対向部113および第2対向部123の静電結合の大きさが大きくなる。これにより、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を確実に小さくすることができる。
また、第1実施形態では、切欠部131を、第1給電点14および第2給電点15の略中央に配置する。このように構成すれば、切欠部131が第1給電点14または第2給電点15のいずれかに近い偏った配置の場合に比べて、第1アンテナ素子11から放出される電波と第2アンテナ素子12から放出される電波の指向性を対称にすることができる。
また、第1実施形態では、スリット状の切欠部131の深さ方向の長さを、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12が出力する電波の波長λの略1/4の電気長L1にする。このように構成すれば、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合をより小さくすることができる。
また、第1実施形態では、切欠部131を、第1給電点14および第2給電点15を結ぶ直線に対して略直交する方向に延びる細長形状に形成する。このように構成すれば、切欠部131を単純な細長形状に形成するだけで、容易に、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を小さくすることができる。
また、第1実施形態では、切欠部131を跨ぐ配線16に、2.5GHzの周波数を遮断するフィルタ素子17を直列的に接続する。このように構成すれば、フィルタ素子17により、2.5GHzの周波数での電流が切欠部131を跨ぐ配線16を介して伝達されるのを防止することができるので、切欠部131が形成された領域にも配線16を設けることができ、その結果、切欠部131を設けたことに起因して配線可能な領域が小さくなってしまうのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、フィルタ素子17をLC回路により構成する。このように構成すれば、2.5GHzの周波数を遮断する簡易な構成のLC回路により、容易に、2.5GHzの周波数での電流が切欠部131を跨ぐ配線16を介して伝達されるのを防止することができる。
次に、上記した第1実施形態の効果を確認するために行ったシミュレーションの結果について説明する。このシミュレーションでは、図2に示した第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10と、図4に示した比較例によるマルチアンテナ装置110とを比較した。
第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10では、垂直部111および121の離間距離D1が略λ/4の30mmになるように第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12を配置した。また、第1対向部113および第2対向部123の離間距離D2が静電結合可能な3mmになるように第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12を配置した。また、電気長L1が21mmになるようにスリット状の切欠部131を形成した。また、このシミュレーションでは、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12を真空中に設ける構成にした。また、二次元に対応したシステムによりシミュレーションを行うため、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12を厚さ0mmの導体で構成した。
図4に示すように、比較例によるマルチアンテナ装置110では、電気長L1の切欠部131を設ける第1実施形態によるマルチアンテナ装置10とは異なり、接地部13に切欠部を設けない構成にした。また、比較例によるマルチアンテナ装置110の他の構成は、上記第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10と同様である。
次に、図5および図6を参照して、比較例によるマルチアンテナ装置110および第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10のSパラメータの特性について説明する。ここで、図5および図6に示すSパラメータのうちのS11は、アンテナ素子の反射係数を意味し、SパラメータのうちのS12は、2つのアンテナ素子間の相互結合の強さを意味する。また、図5および図6では、横軸に周波数をとり、縦軸にS11およびS12の大きさ(単位:dB)をとっている。
まず、比較例によるマルチアンテナ装置110では、図5に示すように、2.5GHzにおいて、S11が約−5dBであり、所望の周波数において共振点が得られず、S12が約−7.5dBであった。これに対して、第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10では、図6に示すように、マルチアンテナ装置10が対応する2.5GHzにおいて、S11が約−24dBで共振点が得られ、S12が約−34dBであった。
この結果、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10の方が、2つのアンテナ素子間の相互結合の強さ(大きさ)を意味するS12の値が小さいので、スリット状の切欠部131を設けることによってアンテナ素子間の相互結合を小さくすることができることを確認した。なお、S12の値が−10dB以下であれば、アンテナ素子間の相互結合は微小であると考えられる。
これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10では、第1給電点14(第2給電点15)から出力された電流が第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)、第2アンテナ素子12(第1アンテナ素子11)および接地部13を順に通って伝達される際に、接地部13のスリット状の切欠部131の形状に沿って迂回して伝達される電流とスリット状の切欠部131を迂回せずに飛び越えて伝達される電流とが存在すると考えられる。そして、切欠部131を迂回して伝達される電流は、切欠部131を飛び越えて伝達される電流に対して迂回した距離分だけ位相がずれると考えられる。これにより、切欠部131を迂回して伝達される電流と切欠部131を飛び越えて伝達される電流とが互いに相殺されるので、接地部13にスリット状の切欠部131を設けない場合に比べて、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の相互結合が小さくなると考えられる。
また、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第1実施形態に対応するマルチアンテナ装置10の方が、アンテナ素子の反射係数を意味するS11の値が小さいので、スリット状の切欠部131を設けることによってアンテナ素子から効率よく電波を出力することができることを確認した。
(第2実施形態)
次に、図7を参照して、本発明の第2実施形態による携帯電話機100のマルチアンテナ装置20について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、スリット状の切欠部132を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成したマルチアンテナ装置20について説明する。
第2実施形態による携帯電話機100のマルチアンテナ装置20では、図7に示すよう接地部13にスリット状の切欠部132が形成されている。切欠部132は、複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成されている。また、切欠部132は、マルチアンテナ装置10が対応する2.5GHzの波長λの約1/4の電気長を有している。具体的には、切欠部132の中心部(図7の一点破線で示した部分)の長さが約λ/4の電気長になっている。
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、後述のシミュレーション結果から明らかなように、上記第1実施形態と同様に、部品点数が増加するのを抑制しながら、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を小さくすることができるとともに、切欠部132を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成することによって、切欠部131が第1給電点14および第2給電点15を結ぶ直線に対して略直交する方向(Y方向)に延びるように形成された上記第1実施形態に比べて、接地部13の第1給電点14および第2給電点15を結ぶ直線に対して略直交する方向の長さを小さくすることができるので、マルチアンテナ装置20の第1給電点14および第2給電点15を結ぶ直線に対して略直交する方向の大きさを小さくすることができる。
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
次に、上記した第2実施形態の効果を確認するために行ったシミュレーションの結果について説明する。このシミュレーションでは、第2実施形態に対応するマルチアンテナ装置20と、図4に示した上記比較例によるマルチアンテナ装置110とを比較した。
図5および図8を参照して、比較例によるマルチアンテナ装置110および第2実施形態に対応するマルチアンテナ装置20のSパラメータの特性について説明する。
上記のように、比較例によるマルチアンテナ装置110では、図5に示すように、2.5GHzにおいて、S11が約−5dBであり、所望の周波数において共振点が得られず、S12が約−7.5dBであった。これに対して、第2実施形態に対応するマルチアンテナ装置20では、図8に示すように、マルチアンテナ装置20が対応する2.5GHzにおいて、S11が約−20dBで共振点が得られ、S12が約−26dBであった。
この結果、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第2実施形態に対応するマルチアンテナ装置20の方が、2つのアンテナ素子間の相互結合の強さを意味するS12の値が小さいので、切欠部132を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成した場合でも、アンテナ素子間の相互結合を小さくすることができることを確認した。
また、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第2実施形態に対応するマルチアンテナ装置20の方が、アンテナ素子の反射係数を意味するS11の値が小さいので、切欠部132を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成した場合でも、アンテナ素子から効率よく電波を出力することができることを確認した。
(第3実施形態)
次に、図9および図10を参照して、本発明の第3実施形態による携帯電話機100のマルチアンテナ装置30について説明する。この第3実施形態では、上記第1実施形態と異なり、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の水平部112a(122a)を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成したマルチアンテナ装置30について説明する。
第3実施形態による携帯電話機100のマルチアンテナ装置30では、図9に示すように、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の水平部112a(122a)が複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成されている。
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第3実施形態では、上記のように、上記第1実施形態と同様に、部品点数が増加するのを抑制しながら、第1アンテナ素子11および第2アンテナ素子12の間の相互結合を小さくすることができるとともに、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の水平部112a(122a)を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成することによって、第1アンテナ素子11(第2アンテナ素子12)の水平部112(122)を直線的に延びるように形成した上記第1実施形態に比べて、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の配置領域を小さくしてマルチアンテナ装置30をより小型化することができる。
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
次に、上記した第3実施形態の効果を確認するために行ったシミュレーションの結果について説明する。このシミュレーションでは、第3実施形態に対応するマルチアンテナ装置30と、図4に示した上記比較例によるマルチアンテナ装置110とを比較した。
図5および図10を参照して、比較例によるマルチアンテナ装置110および第3実施形態に対応するマルチアンテナ装置30のSパラメータの特性について説明する。
上記のように、比較例によるマルチアンテナ装置110では、図5に示すように、2.5GHzにおいて、S11が約−5dBであり、所望の周波数において共振点が得られず、S12が約−7.5dBであった。これに対して、第3実施形態に対応するマルチアンテナ装置30では、図10に示すように、マルチアンテナ装置30が対応する2.5GHzにおいて、S11が約−18dBで共振点が得られ、S12が約−32dBであった。
この結果、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第3実施形態に対応するマルチアンテナ装置30の方が、2つのアンテナ素子間の相互結合の強さを意味するS12の値が小さいので、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の水平部112a(122a)を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成した場合でも、アンテナ素子間の相互結合を小さくすることができることを確認した。
また、比較例によるマルチアンテナ装置110よりも第3実施形態に対応するマルチアンテナ装置30の方が、アンテナ素子の反射係数を意味するS11の値が小さいので、第1アンテナ素子311(第2アンテナ素子312)の水平部112a(122a)を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成した場合でも、アンテナ素子から効率よく電波を出力することができることを確認した。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、マルチアンテナ装置を備える携帯機器の一例として、携帯電話機を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、マルチアンテナ装置を備えるPDA(Personal Digital Assistant)や小型のノートパソコンなど携帯電話機以外の携帯機器にも適用可能である。また、マルチアンテナ装置を備える機器であれば、携帯機器以外にも本発明は適用可能である。
また、上記第1〜第3実施形態では、マルチアンテナ装置の一例として、MIMO通信用のマルチアンテナ装置を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、ダイバシティなどMIMO以外の形式に対応するマルチアンテナ装置であってもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、マルチアンテナ装置を2.5GHz帯のWiMAXに対応するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、2.5GHz帯以外の周波数に対応するように構成してもよいし、GSMや3GなどWiMAX以外の方式に対応するように構成してもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、マルチアンテナ装置に2つのアンテナ素子を設ける構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数のアンテナ素子であれば、3つ以上のアンテナ素子を設ける構成であってもよい。この場合、スリット状の切欠部を複数設けてもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、第1対向部(第2対向部)を第1アンテナ素子(第2アンテナ素子)の第1給電点(第2給電点)が配置される側とは反対側の端部に配置した構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1対向部(第2対向部)を第1アンテナ素子(第2アンテナ素子)の中間部に配置する構成であってもよい。すなわち、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子のいずれかの部分において互いに静電結合可能な距離で対向していれば、開放された先端部が互いに対向しない形状に第1アンテナ素子および第2アンテナ素子を形成してもよい。
また、上記第1実施形態では、LC回路からなるフィルタ素子を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、インダクタ(コイル)のみからなるフィルタ素子やキャパシタ(コンデンサ)のみからなるフィルタ素子など、LC回路以外からなるフィルタ素子を設けてもよい。
また、上記第2実施形態では、スリット状の切欠部を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、スリット状の切欠部を複数の位置で湾曲した形状に形成する構成であってもよいし、1箇所だけで屈曲または湾曲した形状に形成する構成であってもよい。
また、上記第3実施形態では、第1アンテナ素子(第2アンテナ素子)の水平部を複数の位置で屈曲したミアンダ状に形成する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1アンテナ素子(第2アンテナ素子)の水平部を湾曲した形状に形成する構成であってもよい。また、本発明では、第1アンテナ素子(第2アンテナ素子)の水平部以外の、垂直部および第1対向部(第2対向部)を屈曲または湾曲させた形状に形成してもよい。