以下、本発明の実施の形態について、車両用空調装置の冷凍サイクルにてエバポレータの出口における冷媒の過熱度が所定の値を維持するように入口に供給する冷媒の流量を制御する温度式膨張弁に適用した場合を例に図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の膨張装置を適用した車両用空調装置の冷凍サイクルの構成例を示すシステム図である。
この車両用空調装置の冷凍サイクルは、コンプレッサ1と、内部コンデンサ2と、制御弁3およびオリフィス4と、外部熱交換器5と、三方弁6と、膨張装置7と、エバポレータ8と、アキュムレータ9とを備えている。
コンプレッサ1は、モータが内蔵された電動コンプレッサであり、モータの回転数に応じて冷媒の吐出容量を変化させることができる。このコンプレッサ1の吐出口は、内部コンデンサ2に接続されている。
内部コンデンサ2は、空気温度を調節するダクト内の下流側に設置され、コンプレッサ1から吐出された高温の冷媒を導入して凝縮する。内部コンデンサ2は、ダクト内で冷媒の放熱を行うので、エバポレータ8を通過してきた空気を加熱するヒータとして機能する。この内部コンデンサ2の出口は、制御弁3およびオリフィス4に接続されている。
制御弁3およびオリフィス4は、互いに並列に接続されている。制御弁3は、主通路を開閉する弁部とその弁部を開閉駆動するソレノイドとを備え、制御弁3が開弁したときの開口面積は、オリフィス4のそれよりも十分に大きく設定されている。このため、制御弁3が閉弁したときは、内部コンデンサ2から供給された冷媒は、膨張装置としてのオリフィス4を通り、ここで断熱膨張されて外部熱交換器5に供給される。制御弁3が開弁したとき、内部コンデンサ2からの冷媒は、制御弁3をそのまま通過して外部熱交換器5に供給される。
外部熱交換器5は、車室外に設置され、内部を通過する冷媒と外気との間で熱交換を行う。この外部熱交換器5は、冷凍サイクルの運転モードが冷房運転のとき、冷媒を凝縮させるコンデンサとして機能し、暖房運転のときには、冷媒を蒸発させるエバポレータとして機能する。外部熱交換器5の出口は、三方弁6の入口に接続されている。
三方弁6は、第1および第2の出口を有し、第1の出口は、膨張装置7に接続され、第2の出口は、膨張装置7とアキュムレータ9とを接続している配管に接続されている。三方弁6は、外部熱交換器5から導入される冷媒の通路を膨張装置7またはアキュムレータ9への通路へ切り換える弁部とその弁部を切換駆動するソレノイドとを備えている。この三方弁6は、冷房運転および除湿暖房運転の際には、外部熱交換器5から導入される冷媒を膨張装置7へ供給するよう切り換えられ、暖房運転の際には、外部熱交換器5から導入される冷媒をアキュムレータ9へ供給するよう切り換えられる。
膨張装置7は、三方弁6の第1の出口に接続されて、冷媒を導入するポートT1と、膨張された低温・低圧の霧状の冷媒をエバポレータ8に導出するポートT2と、エバポレータ8から戻ってきた冷媒を通過させるポートT3,T4とを備えている。この膨張装置7は、エバポレータ8の出口における冷媒の過熱度が所定の値を維持するようにエバポレータ8の入口に供給する冷媒の流量を制御する温度式膨張弁である。
エバポレータ8は、空気温度を調節するダクト内の上流側に設置され、膨張装置7から吐出された低温の冷媒をダクトに導入された外気または内気との熱交換によって蒸発させる。その蒸発潜熱によって冷却・除湿された空気は、エアミックスドアの開度に応じて内部コンデンサ2を通過するものと、内部コンデンサ2を迂回するものとに振り分けられる。内部コンデンサ2を通過した空気は、そこで加熱される。加熱された空気は、内部コンデンサ2を迂回した空気と内部コンデンサ2の下流側で混合され、所定の温度に調整されて車室内に吹き出される。
アキュムレータ9は、冷凍サイクルを循環する冷媒の一部を溜めておくもので、気液分離された気相冷媒と液相冷媒の下部に溜まった潤滑油とをコンプレッサ1に導出する機能を有している。
図2は第1の実施の形態に係る膨張装置の冷房運転時の状態を示す中央縦断面図、図3は第1の実施の形態に係る膨張装置の除湿暖房運転時の状態を示す中央縦断面図、図4は第1の実施の形態に係る膨張装置を用いた冷凍サイクルの動作を説明する図であって、(A)は冷房運転時の冷凍サイクルを示すモリエル線図、(B)は除湿暖房運転時の冷凍サイクルを示すモリエル線図である。
第1の実施の形態に係る膨張装置10は、そのボディ11の下方側部に三方弁6に接続されるポートT1が設けられ、ボディ11の反対側の側部には、エバポレータ8に接続されるポートT2が設けられている。ボディ11の上方には、エバポレータ8およびアキュムレータ9が接続されるポートT3,T4が設けられている。
ポートT1とポートT2との間には、小口径制御弁12と大口径制御弁13とが並列に接続された形で構成されている。小口径制御弁12は、ポートT1に連通する空間とポートT2に連通する空間とを仕切るようにボディ11と一体に弁座14が形成され、ポートT1に連通する空間には、その弁座14に対してボール状の弁体15が接離自在に配置されている。弁体15は、ポートT1に連通する空間に配置された圧縮コイルスプリング16によって弁座14に着座させる方向に付勢されている。圧縮コイルスプリング16は、ボディ11の下端面に螺着されたアジャストねじによって受けられており、このアジャストねじによって圧縮コイルスプリング16の荷重が調整されている。
大口径制御弁13も、同様に、ポートT1に連通する空間とポートT2に連通する空間とを仕切るようにボディ11と一体に弁座17が形成されている。この弁座17は、小口径制御弁12の弁座14と同一軸線上に形成され、小口径制御弁12の弁座14より大口径に開口された弁孔を有している。ポートT1に連通する側の空間には、その弁座17に対して弁体18が接離自在に配置されている。この弁体18は、ボディ11にその長手方向に進退自在に配置されたシャフト19と一体に形成されている。
シャフト19は、弁体18から大口径制御弁13の弁孔および小口径制御弁12の弁孔を貫通して軸方向に延出された延出部19aを有し、その端面は、小口径制御弁12の弁体15に当接されている。シャフト19は、また、その長手方向に進退自在にボディ11に支持される支持部19bを有している。この支持部19bは、大口径制御弁13の弁孔の内径とほぼ同じ外径を有し、ポートT1に導入される高圧の冷媒が弁体18を閉弁方向に作用する力と支持部19bを開弁方向に作用する力とをキャンセルするようにしている。支持部19bは、また、ポートT1に導入される冷媒がポートT3,T4間を連通する通路に漏れないよう、Oリング20が周設されている。
ボディ11の上端部には、ポートT3,T4間を連通した通路を流れる冷媒の温度および圧力、すなわち冷媒の過熱度を検出するパワーエレメント21が設けられている。このパワーエレメント21は、アッパーハウジングと、ロアハウジングと、これらによって囲まれた空間を仕切るダイヤフラムと、このダイヤフラムの下面に配置されたディスクとを有し、そのディスクの下面は、シャフト19の上端面が当接されている。アッパーハウジングとダイヤフラムとによって閉止された空間には、冷凍サイクルを循環する冷媒に類似した特性を有する物質が封入されている。ロアハウジングとダイヤフラムととによって囲まれた空間は、ポートT3,T4間を連通する通路に連通しており、この通路を流れる冷媒が導入されるようになっている。このパワーエレメント21は、ポートT3,T4間の通路を流れる冷媒の過熱度を検出して小口径制御弁12および大口径制御弁13の開度を制御する。
この膨張装置10は、さらに、ポートT1と大口径制御弁13との間を連通する通路を開閉して大口径制御弁13を制御状態にするかどうかの切り換えを行う電磁弁22を備えている。この電磁弁22は、ボディ11と一体に形成された弁座23と、この弁座23を開閉する開閉機構とを有している。弁座23は、大口径制御弁13の弁体18と支持部19bとの間の空間に連通する弁孔を有し、この弁孔を介してポートT1と大口径制御弁13とが連通されている。電磁弁22の開閉機構は、弁座23を開閉する弁体24と、この弁体24を弁座23に対して接離自在に保持する可動鉄芯25と、可動鉄芯25を吸引する固定鉄芯26と、固定鉄芯26を電磁石にするコイル27とを有している。さらに、可動鉄芯25と固定鉄芯26との間には、スプリング28が配置され、コイル27が通電されていないとき、スプリング28によって可動鉄芯25が固定鉄芯26から離れる方向に付勢され、電磁弁22は、閉弁されるようになっている。
次に、以上の構成の膨張装置10の動作について図1ないし図4を参照して説明する。なお、図1において、矢印は、冷媒の流れを示している。また、図1における符号a〜fは、図4のモリエル線図上の冷凍サイクルに付した点の符号に対応している。なお、図1の膨張装置7は、図2および図3に示した膨張装置10として説明する。
まず、車両用空調装置の運転モードが冷房運転のときは、図1のシステムでは、制御弁3が開弁され、三方弁6が外部熱交換器5と膨張装置10とを接続するよう切り換えられる。これにより、内部コンデンサ2および外部熱交換器5は、冷凍サイクルのコンデンサとして機能する。ダクト内では、エアミックスドアが全閉またはそれに近い開度に制御されて内部コンデンサ2を完全にまたはほとんどバイパスさせる側に切り換えられる。そして、膨張装置10は、電磁弁22が非通電状態にあり、図2に示したように、ポートT1から大口径制御弁13への通路が遮断されている。これにより、膨張装置10は、小口径制御弁12のみによって機能し、普通の温度式膨張弁と同じ動作をする。また、冷房運転のときの冷凍サイクルは、図4の(A)に示した振る舞いとなる。
冷房運転のとき、コンプレッサ1は、アキュムレータ9から冷媒を吸入し(点a)、断熱圧縮して高温・高圧の冷媒を吐出する(点b)。コンプレッサ1から吐出された冷媒は、内部コンデンサ2、制御弁3および外部熱交換器5を通過するときに放熱されて凝縮され、三方弁6を介して膨張装置10に導入される(点e)。この冷媒は、膨張装置10に到達するときには、過冷却された液相状態になっている。膨張装置10では、そのポートT1に導入された液冷媒は、小口径制御弁12を介してポートT2に流れるが、小口径制御弁12を通過するときに、断熱膨張されて低温・低圧の蒸気冷媒となる(点f)。この蒸気冷媒は、エバポレータ8に供給され、エバポレータ8では、車室内の空気との熱交換によって蒸発される。このとき、空気は蒸発潜熱により熱が奪われて冷やされ、車室内に吹き出されることになる。蒸発された冷媒は、膨張装置10のポートT3に導入され、そのままポートT4より導出される。膨張装置10から導出された冷媒は、アキュムレータ9を介してコンプレッサ1に戻る。このとき、コンプレッサ1に戻される冷媒は、所定の過熱度SHまで過熱された状態になっている。
膨張装置10は、エバポレータ8によって蒸発された冷媒を通過させるとき、パワーエレメント21によって冷媒の過熱度SHを検出している。この検出値は、シャフト19を介して小口径制御弁12にフィードバックされ、小口径制御弁12は、その過熱度SHが一定になるようにエバポレータ8に供給する冷媒の流量を制御している。すなわち、過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21は、シャフト19を介して小口径制御弁12を開弁する方向に駆動する。これにより、エバポレータ8に供給する冷媒の流量が増える。エバポレータ8では、冷媒を蒸発させる熱量は同じなので、流量が増えた分だけ過熱度SHが小さくなる。逆に、過熱度SHが小さくなると、パワーエレメント21のダイヤフラムが小口径制御弁12から離れる方向に変位するので、小口径制御弁12の弁体15は、圧縮コイルスプリング16の付勢力によって閉弁方向に駆動される。これにより、エバポレータ8に供給する冷媒の流量が減少し、エバポレータ8では、流量が減少した分、過熱度SHが大きくなる。この結果、膨張装置10は、エバポレータ8から導出された冷媒の過熱度SHが一定になるように制御している。なお、過熱度SHの値は、膨張装置10の圧縮コイルスプリング16の荷重を調整することによって設定されている。
次に、車両用空調装置の運転モードが除湿運転の場合について説明する。除湿暖房運転のときは、図1のシステムでは、制御弁3が閉弁され、三方弁6が外部熱交換器5と膨張装置10とを接続するよう切り換えられる。これにより、オリフィス4が膨張装置として機能し、外部熱交換器5が冷凍サイクルのエバポレータとして機能する。ダクト内では、エアミックスドアが全開またはそれに近い開度に制御されて内部コンデンサ2を完全にまたはほとんど通過させる側に切り換えられる。そして、膨張装置10は、電磁弁22が通電状態にあり、図3に示したように、ポートT1から大口径制御弁13への通路が開放されている。これにより、膨張装置10は、小口径制御弁12および大口径制御弁13の両方が機能する。ただし、大口径制御弁13は、小口径制御弁12よりも大流量の冷媒を流すことができるので、このときの膨張装置10は、実質的に大口径制御弁13のみが機能することになる。また、除湿暖房運転のときの冷凍サイクルは、図4の(B)に示した振る舞いとなる。
除湿暖房運転のとき、コンプレッサ1は、アキュムレータ9から冷媒を吸入し(点a)、断熱圧縮して高温・高圧の冷媒を吐出する(点b)。コンプレッサ1から吐出された冷媒は、内部コンデンサ2にてエバポレータ8を通過してきた空気との熱交換によって凝縮され、過冷却状態でオリフィス4に導入される(点c)。このとき、内部コンデンサ2を通過してきた空気は、加熱されて車室内に吹き出される。凝縮された液冷媒は、オリフィス4を通過するときに断熱膨張されて低温・低圧の蒸気冷媒となり(点d)、外部熱交換器5に導入される。その冷媒は、外部熱交換器5では、外気との熱交換によって蒸発され、三方弁6を介して膨張装置10に導入される(点e)。膨張装置10では、ポートT1より導入された冷媒は、大口径制御弁13を通過するときに、断熱膨張されてさらに低温・低圧の蒸気冷媒となる(点f)。この蒸気冷媒は、エバポレータ8に供給され、エバポレータ8では、車室内の空気との熱交換によってさらに蒸発される。このとき、ダクトに導入された空気は、エバポレータ8を通過するときに冷やされることで除湿され、内部コンデンサ2に向かうことになる。エバポレータ8から導出された冷媒は、膨張装置10およびアキュムレータ9を介してコンプレッサ1に戻る。このとき、コンプレッサ1に戻される冷媒は、所定の過熱度SHに維持された状態になっている。
ここで、膨張装置10は、エバポレータ8の出口の冷媒が所定の過熱度SHに維持されるようにエバポレータ8に供給する冷媒の流量を調整している。すなわち、過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21は、シャフト19を介して小口径制御弁12を開弁する方向に駆動するとともに大口径制御弁13を閉弁する方向に駆動する。大口径制御弁13は、小口径制御弁12よりも口径が十分に大きいので、大口径制御弁13が閉弁している場合を除いて、実質的に流量制御を行っているのは、大口径制御弁13となる。大口径制御弁13は、閉弁する方向に駆動されることでその開口面積が絞られるため、前後差圧、すなわち、入口の圧力と出口の圧力との差圧ΔPが大きくなる。差圧ΔPが大きくなると、膨張装置10のポートT1の圧力、すなわち、図4の(B)に波線で示したように点eの圧力が上がる。点eの圧力が上がると、外部熱交換器5において冷媒の蒸発する量が減る(点dと点eとのエンタルピの差が小さくなる)ので、相対的にエバポレータ8での蒸発量が増える(点fと点aとのエンタルピの差が大きくなる)。エバポレータ8での蒸発量が増えることによって、過熱度SHは小さくなる。逆に、過熱度SHが小さくなると、パワーエレメント21のダイヤフラムが大口径制御弁13から離れる方向に変位するので、大口径制御弁13の弁体18は、圧縮コイルスプリング16の付勢力によって開弁方向に駆動される。これにより、大口径制御弁13の前後の差圧ΔPは小さくなるので、エバポレータ8での蒸発量が減り、過熱度SHは大きくなる。この結果、膨張装置10は、大口径制御弁13が差圧弁のように機能し、パワーエレメント21が過熱度SHに応じて差圧ΔPを制御することで、エバポレータ8から導出される冷媒の過熱度SHが一定になるように制御している。つまり、この膨張装置10は、外部熱交換器5がエバポレータとして機能しているとき、状態遷移のポイント(点e、点f)を推定してエバポレータ8における適切な蒸発量を確保するといった複雑な制御を要することなく、自立的に過熱度の制御をしていることになる。
図5は第2の実施の形態に係る膨張装置の冷房運転時の状態を示す中央縦断面図、図6は第2の実施の形態に係る膨張装置の除湿暖房運転時の状態を示す中央縦断面図である。なお、この図5および図6において、図2および図3に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は適宜省略する。
第2の実施の形態に係る膨張装置30は、第1の実施の形態に係る膨張装置10の大口径制御弁13をパイロット作動の大口径制御弁にしている。すなわち、この第2の実施の形態の大口径制御弁は、小口径制御弁12に並列に配置されてポートT1とポートT2との通路を開閉する大口径の主弁31と、弁体がシャフト19と一体に形成されたパイロット弁32とを有している。
大口径制御弁の主弁31は、ボディ11に形成されたシリンダ33の中を進退自在に配置されたピストン34を有し、そのピストン34に弁体18が設けられている。この弁体18が着座する弁座は、ボディ11と一体に形成され、シリンダ33と同心の弁孔を有している。弁体18が弁座に着座したときにピストン34とシリンダ33の底部との間に形成される空間は、ポートT1に連通され、シリンダ33のピストン34によって仕切られたポートT1に連通する空間とは逆に位置する空間は、調圧室35を形成している。この調圧室35には、ピストン34を弁孔の方へ付勢するスプリング36が配置されている。ピストン34には、パイロット弁32よりも十分に小さな開口面積を有する貫通孔37が穿設され、ポートT1に導入された高圧の冷媒が調圧室35の中に漏れることができるようにしている。
調圧室35とパイロット弁32との間には、オン・オフ動作の電磁弁22が配置されている。この電磁弁22は、通電されていないときには、遮断され、通電されているときには、調圧室35とパイロット弁32とを連通させる。
パイロット弁32は、パワーエレメント21によって駆動されるシャフト19と一体に弁体が形成され、弁孔は、ポートT2に連通する空間に開口されている。
以上の構成の膨張装置30によれば、冷房運転のとき、図5に示したように、電磁弁22が非通電状態にされ、調圧室35とパイロット弁32との間は、遮断状態にある。このとき、調圧室35は、閉じた空間になっており、貫通孔37を介してポートT1に連通されている。このため、調圧室35は、ポートT1の高圧圧力に等しい圧力になっており、一方、ポートT2は、低圧圧力になっているので、これらの差圧によって主弁31は閉じている。これにより、膨張装置30は、小口径制御弁12のみによって機能し、普通の温度式膨張弁として働く。
この冷房運転のとき、エバポレータ8を出た冷媒の過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21は、シャフト19を介して小口径制御弁12を開弁する方向に駆動する。これにより、エバポレータ8に供給する冷媒の流量が増え、過熱度SHは小さくなる。逆に、過熱度SHが小さくなると、小口径制御弁12は、閉弁方向に駆動され、エバポレータ8への流量が減少し、過熱度SHが大きくなる。このようにして、膨張装置30は、エバポレータ8から導出された冷媒の過熱度SHが一定になるように制御する。
次に、除湿暖房運転のときは、図6に示したように、電磁弁22が通電状態になって、調圧室35とパイロット弁32とは連通状態になる。この場合、調圧室35の圧力は、中の冷媒が貫通孔37を介して流入される量よりもパイロット弁32を介して低圧のポートT2に流出する量が多いので、ポートT2の圧力に近くなる。このため、主弁31のピストン34は、ポートT1の高圧によりスプリング36の付勢力に抗してリフトされ、大流量の冷媒が、この大口径制御弁を流れ、ここで断熱膨張されることになる。
この状態で、過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21は、シャフト19を駆動してパイロット弁32を閉弁方向に動かす。これにより、調圧室35の圧力が上がるので、主弁31は、その閉弁方向に動き、ポートT1の圧力(e点)が上がり、外部熱交換器5において冷媒の蒸発する量が減り、その代わり、エバポレータ8での蒸発量が増える。エバポレータ8での蒸発量が増えることによって、過熱度SHは小さくなる。逆に、過熱度SHが小さくなると、パイロット弁32が開き、調圧室35の圧力が下がって、主弁31は、その開弁方向に動き、ポートT1の圧力(e点)が下がる。これにより、外部熱交換器5において冷媒の蒸発する量が増え、エバポレータ8での蒸発量が減るので、過熱度SHは大きくなる。このようにして、膨張装置30は、エバポレータ8から導出される冷媒の過熱度SHが一定になるように制御し、エバポレータ8での適度な蒸発量を確保している。
図7は第3の実施の形態に係る膨張装置の冷房運転開始時の状態を示す中央縦断面図、図8は第3の実施の形態に係る膨張装置の冷房運転時の状態を示す中央縦断面図、図9は第3の実施の形態に係る膨張装置の除湿暖房運転時の状態を示す中央縦断面図である。なお、この図7ないし図9において、図5および図6に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は適宜省略する。
この第3の実施の形態に係る膨張装置40は、第2の実施の形態に係る膨張装置30よりも省電力化したものである。すなわち、第2の実施の形態に係る膨張装置30では、運転モードが冷房運転のとき、電磁弁22は通電状態のままであるのに対し、第3の実施の形態に係る膨張装置40は、運転モードが冷房運転に移るときだけ、電磁弁22を通電状態にすることにしている。
このため、この第3の実施の形態に係る膨張装置40では、大口径制御弁を過熱度制御に切り換える手段として電磁弁22aを使用している。この電磁弁22aは、電磁弁22と比較して可動鉄芯25と固定鉄芯26との配置が逆になっており、弁体24は、固定鉄芯26に軸方向に貫通して進退自在に支持された弁体支持部41に担持され、かつスプリング42にて開弁方向に付勢されている。スプリング42は、ポートT1の圧力とポートT2の圧力との差圧が所定値よりも小さくなると、弁体24をリフトさせる荷重に設定されている。
以上の構成の膨張装置40を使ってシステムが冷房運転に入るとき、図1のシステムでは、制御弁3が開弁され、三方弁6が外部熱交換器5と膨張装置10とを接続するよう切り換えられ、外部熱交換器5は、冷凍サイクルのコンデンサとして機能する。制御弁3が開弁されると同時に電磁弁22aは、通電状態にされる。これにより、電磁弁22aでは、図7に示したように、可動鉄芯25が固定鉄芯26に吸引され、これによって弁体支持部41を押して弁体24を弁座23に着座させる。電磁弁22aが閉弁したことにより、調圧室35は、ポートT1の高圧圧力に等しい圧力になる。これにより、大口径制御弁の主弁31は、ポートT1の高圧圧力とポートT2の低圧圧力との差圧によって閉じられ、膨張装置40は、小口径制御弁12のみによる普通の温度式膨張弁として機能を開始することになる。
その後、この図7の状態で、電磁弁22aは、非通電状態にされる。これにより、電磁弁22aは、図8に示したように、可動鉄芯25がスプリング28によって固定鉄芯26から離され、可動鉄芯25による弁体支持部41の閉弁方向への付勢力が消失する。このとき、電磁弁22aは、その弁体24の上流側がポートT1の高圧圧力に等しい圧力になっており、下流側がパイロット弁32を介してポートT2の低圧圧力に等しい圧力になっているので、この閉弁状態が維持されていることになる。つまり、この電磁弁22aは、運転モードが冷房運転に移るとき、まず、通電状態にされ、それから所定時間後、通電状態を解除しても、大口径制御弁が開くことはなく、その閉弁状態を維持することができる。この冷房運転のほとんどの期間において、電磁弁22aが通電されていないので、電磁弁22aによる電力消費を抑制することができる。
ここで、冷房運転のとき、この膨張装置40は、エバポレータ8を出た冷媒の過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21がシャフト19を介して小口径制御弁12を開弁する方向に駆動する。これにより、エバポレータ8に供給する冷媒の流量が増え、過熱度SHは小さくなる。逆に、エバポレータ8を出た冷媒の過熱度SHが小さくなると、小口径制御弁12は、閉弁方向に駆動され、エバポレータ8への流量が減少し、過熱度SHが大きくなる。このようにして、膨張装置40は、エバポレータ8から導出された冷媒の過熱度SHが一定になるように制御する。
また、除湿暖房運転のときは、エバポレータ8を出た冷媒の過熱度SHが大きくなると、パワーエレメント21は、シャフト19を駆動してパイロット弁32を閉弁方向に動かす。これにより、調圧室35の圧力が上がるので、主弁31は、その閉弁方向に動き、ポートT1の圧力(e点)が上がり、外部熱交換器5における冷媒の蒸発量が減り、エバポレータ8での蒸発量が増える。エバポレータ8での蒸発量が増えると、過熱度SHは小さくなる。逆に、過熱度SHが小さくなると、パイロット弁32が開き、調圧室35の圧力が下がって、主弁31は、その開弁方向に動き、ポートT1の圧力(e点)が下がる。これにより、外部熱交換器5における冷媒の蒸発量が増え、エバポレータ8での蒸発量が減るので、過熱度SHは大きくなる。このようにして、膨張装置40は、エバポレータ8から導出される冷媒の過熱度SHが一定になるように制御し、エバポレータ8での適度な蒸発量を確保している。
図10は第4の実施の形態に係る膨張装置のエバポレータ休止運転時の状態を示す中央縦断面図、図11は第4の実施の形態に係る膨張装置の冷房運転時の状態を示す中央縦断面図、図12は第4の実施の形態に係る膨張装置の除湿暖房運転時の状態を示す中央縦断面図である。なお、この図11ないし図12において、図5および図6に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は適宜省略する。
この第4の実施の形態に係る膨張装置50は、第1ないし第3の実施の形態に係る膨張装置10,30,40よりもさらに省電力化している。つまり、第3の実施の形態に係る膨張装置40が大口径制御弁を機能停止(冷房運転)または機能停止解除(除湿暖房運転)にモード切り換えをするのに電磁弁22aを使用していたが、膨張装置50では、電磁弁に因らずに切り換えをしている。具体的には、電磁弁22aにて差圧で動く弁体24の代わりに、膨張装置50では、差圧弁51を用いている。
すなわち、この膨張装置50は、大口径制御弁の調圧室35とパイロット弁32との間に差圧弁51を配置している。差圧弁51は、膨張装置50のボディ11にシリンダ52が形成され、そのシリンダ52の中に軸線方向に進退自在に遊嵌されたピストン53が配置されている。シリンダ52の底部には、パイロット弁32に連通する弁孔が設けられ、ピストン53には、その弁孔を開閉する弁体が設けられている。ピストン53は、弁孔から離れる方向にスプリング54によって付勢されている。このため、差圧弁51は、その上流側の圧力(調圧室35の圧力)と下流側の圧力(ポートT2の圧力)とに差圧がない場合には、スプリング54の付勢力によって開弁され、その付勢力を超えて差圧が生じた場合には、閉弁される。
以上の構成の膨張装置50は、システムが運転停止しているとき、または、図1に示す三方弁6が外部熱交換器5とアキュムレータ9との間を連通するように切り換えてシステムが暖房運転しているとき、図10に示す状態になる。すなわち、運転停止のときは、冷凍サイクル内に差圧がなく、暖房運転のときは、エバポレータ8が三方弁6によって冷凍サイクルから切り離されてエバポレータ休止運転状態にあるので、膨張装置50の中には差圧がない。このため、エバポレータ休止運転状態にあるときには、大口径制御弁の主弁31は、スプリング36により付勢されて閉弁され、差圧弁51は、スプリング54により付勢されて開弁されている。
ここで、システムを冷房運転で起動する場合またはエバポレータ休止運転状態から冷房運転に切り換える場合について説明する。冷房運転は、図1のシステムにて制御弁3が開弁され、三方弁6が外部熱交換器5とこの膨張装置50とを接続するよう切り換えられ、コンプレッサ1が回転することによって開始される。冷房運転を開始しようとする場合、通常は、車室内の温度は高いので、パワーエレメント21は、その高い温度を感知しているので、小口径制御弁12は開き、大口径制御弁のパイロット弁32は概ね閉じた状態にある。
コンプレッサ1が回転を開始すると、膨張装置50のポートT1の圧力が高くなり、ポートT4の圧力が低くなるので、図11に示したように、大口径制御弁は閉じた状態のままである。すなわち、コンプレッサ1の回転開始直後は、ポートT1から貫通孔37、調圧室35、差圧弁51およびパイロット弁32を介してポートT2に冷媒が流れる経路では、パイロット弁32が閉じているので、大口径制御弁の主弁31は、その閉弁状態を維持する。このとき、パイロット弁32が閉じていない場合、差圧弁51がその前後の差圧により閉弁するので、同じく大口径制御弁の主弁31は、その閉弁状態を維持することになる。パイロット弁32が閉じている場合でも、小口径制御弁12およびパワーエレメント21が通常の温度式膨張弁として働いているので、やがて小口径制御弁12が流量制御を開始すると、それに連動してパイロット弁32が開き、差圧弁51が閉弁することになる。
冷房運転から除湿暖房運転に運転モードの切り換えをしたときには、図12に示したように、大口径制御弁による過熱度制御が行われる。除湿暖房運転では、制御弁3が閉弁されてオリフィス4が膨張装置として機能し、外部熱交換器5がエバポレータとして機能する。このとき、オリフィス4が高圧の冷媒を減圧するので、膨張装置50では、そのポートT1に導入される冷媒の圧力が急激に低下する。これにより、まず、差圧弁51がスプリング54によって開弁され、調圧室35の冷媒が差圧弁51およびパイロット弁32を介してポートT2に流れるので、主弁31の前後差圧がなくなる。したがって、主弁31は、ポートT1に導入される冷媒の圧力によりスプリング36の付勢力に抗して開弁される。その後、膨張装置50は、パワーエレメント21が検出するエバポレータ8出口の冷媒の過熱度に応じて大口径制御弁の絞り制御が行われる。
この膨張装置50は、冷房運転から除湿暖房運転への運転モードの切換を行うことはできるが、ソレノイドのようなアクチュエータを備えていないので、その逆の運転モードの切り換えを行うことができない。しかし、この除湿暖房運転から冷房運転への運転モードの切り換えのときに、一度、暖房運転への運転モードの切換を行うことによって可能になる。すなわち、除湿を行わない暖房運転は、三方弁6を切り換えて外部熱交換器5からの冷媒を直接アキュムレータ9に供給する構成になる。これにより、主弁31の前後差圧がなくなって主弁31が閉弁する。この暖房運転は、図10に示したエバポレータ休止運転とまったく同じ構成となる。このように、除湿暖房運転から冷房運転へ運転モードの切り換えは、一度、運転モードを暖房運転に切り換えることによって可能になる。