特許文献1、2では定着筋配筋の時期が梁部材の柱部材に対する位置調整後になることで、梁部材には必然的に定着筋を落とし込むための挿通孔が形成されるが、定着筋の落とし込み後には定着筋を雨水と外気から保護するためと、定着筋と柱主筋を緊結するために挿通孔の内部をモルタル等の充填材で埋める必要がある(特許文献1の段落0022、0030、特許文献2の段落0023、0027)。
しかしながら、定着筋が挿通する挿通孔は梁部材のプレキャストコンクリートでの製作時に形成されており、充填材充填後にも屋外に面し、外気に曝される状態に置かれることから、無収縮モルタル等、無収縮性充填材で埋めたとしても、充填材と梁部材の境界線(面)は残存するため、充填材は梁部材本体とは一体になりにくく、経年的にひび割れが発生することがある。ひび割れの発生が起こり得ることで、完成後も修復の対象にならざるを得ない。
また梁部材の載置後に各接合部単位で多数本の定着筋を現場で配筋し、全挿通孔に充填材を充填することは作業性と作業効率の低下を招くため、現場作業を省力化する目的で柱部材と梁部材をプレキャスト化することの利益が失われる。
本発明は上記背景より、現場で定着筋を配筋する方法の充填材充填の手間と、充填材の充填によるひび割れ発生の問題を解決し、現場作業の効率化を可能にする構造の接合部構造を提案するものである。
請求項1に記載の発明のプレキャストコンクリート造架構における梁部材と柱部材の接合部構造は、柱・梁架構の最上層に配置されるプレキャストコンクリート製の複数本の柱部材間に跨る長さを持つ1本のプレキャストコンクリート製の梁部材が前記複数本の柱部材の頂部に載置された状態で各柱部材に接合される柱部材と梁部材との接合部において、
前記梁部材の内部の、前記各柱部材との接合部位置に、下端部が前記梁部材の下端面から下方へ突出する定着筋が上端部において定着された状態で配筋され、この梁部材を受ける前記柱部材の、前記定着筋に対応した位置に、前記定着筋の下端部が挿入されて接続される柱用継手部材が、上部が開放した状態で埋設され、
前記梁部材が、その定着筋の下端部が前記柱部材の柱用継手部材に接続された状態で、前記柱部材に接合されていることを構成要件とする。
請求項2に記載の発明は請求項1に記載の発明において、前記定着筋が前記梁部材の幅方向に複数、配列していることを構成要件とする。
「梁部材の内部に定着筋が上端部において定着された状態で配筋される」とは、梁部材の製作時に定着筋がその上端部側においてプレキャストコンクリート中に定着された状態で埋設されていることを言う。具体的に言えば、「定着筋の上端部が梁部材の内部で完結した状態で定着され、梁部材の表面には突出していない」状態にあることを言う。「完結した」とは、定着筋の上端部が梁部材の内部のみで、コンクリートのかぶり厚を確保した状態で定着されていることであり、定着筋の定着部分(上端部)は梁部材の外部には突出も露出もしないことを言う。定着筋は特許文献1の「最上階用柱用接続鉄筋41」(段落0027、図8)に相当する。
梁部材の長さ方向の、梁部材中への定着筋の埋設位置は梁部材の平面形状とそれに対応する柱部材との接合位置で決まるため、梁部材の長さ方向の端部であるか、中間部等であるかは問われない。梁部材の平面形状は柱・梁架構における梁部材の平面上の配置位置によって決まり、例えば側柱に沿った柱・梁架構の外周部であれば、直線状、T字状、L字状等に形成され、内周部の中柱に接合される部分であれば、直線状、十字状、T字状、L字状等に形成される。いずれの形状であるかに拘わらず、定着筋は平面上の柱部材との接合位置に埋設される。梁部材は柱部材との接合位置では柱部材の上に載置され、平面上、柱部材と重なる範囲に定着筋が埋設される。
定着筋は梁部材の製作時にプレキャストコンクリート中に埋設されているのであるから、梁部材の内部にも外部にも特許文献1、2のような挿通孔が形成されることはないため、挿通孔が梁部材の上部側の表面に露出することもない。図1に示すように梁部材(コンクリート)2の下面から、定着筋3の下端部が柱部材1の柱用継手部材4との連結(継手)長さ分程度、突出するだけである。定着筋3の柱用継手部材4との連結(継手)長さは柱用継手部材4の長さの半分程度であり、柱用継手部材4にはその下端側から定着筋3の連結(継手)長さと同等程度、柱主筋1aが挿通している。
梁部材の内部に定着筋がその上端部において定着された状態で配筋されていることで、梁部材の内部に後から定着筋を配筋するための挿通孔が形成される必要がないため、挿通孔を充填材で埋める必要も生じない。本発明において梁部材の設置後に充填材を充填する必要があるとすれば、柱部材の上端部に埋設され、梁部材の定着筋の下端部が定着される柱用継手部材4の内部だけになり、特許文献1、2との対比では充填材の充填箇所と充填量が大幅に削減されるため、現場での作業性と作業効率が向上する。
梁部材の設置後に梁部材への充填材の充填の必要が発生しないことで、梁部材に挿通孔が形成される場合のように設置後に充填材を充填することに伴うひび割れの発生が回避されるため、修復の必要が生ずることもない。
柱部材1との接合に必要な定着筋3が梁部材2の内部に予め埋設されていることで、梁部材2は図1に示すように先行して設置されている柱部材1上に落とし込まれるのみで柱部材1上に設置される。梁部材2の柱部材1上への落とし込みにより、上部が開放した状態で柱部材1に埋設されている柱用継手部材4内に梁部材2の定着筋3の下端部が挿入され、挿入状態で梁部材2の設置が完了する。
梁部材の落とし込みによって設置が完了することで、定着筋の現場での配筋の必要がなく、配筋に伴う充填材充填の必要も発生しないため、現場で定着筋を配筋する場合との対比では作業効率が格段に向上する。梁部材の設置後に必要となる梁部材に対する、あるいは柱部材との接合部に対する作業は上記のように定着筋の下端部が差し込まれた柱用継手部材への充填材の充填だけになる。
梁部材は柱部材との接合部の位置に定着筋が配筋された状態で製作されているから、梁部材は柱部材との接合部を含み、梁部材の軸方向(長さ方向)には互いに隣接しながら配置されるため、隣接する梁部材のそれぞれに配筋されている梁主筋は梁部材の内部か外部のいずれかの部分に配置される梁用継手部材において互いに連結されることになる。
ここで、梁部材の全長が全幅に亘ってプレキャストコンクリート製である場合には、特許文献1、2のようにいずれか一方の梁部材の内部に梁用継手部材を埋設することが必要になる。特許文献1、2では梁用継手部材が埋設されている梁部材がそれを支持する柱部材上に先行して設置された後、その梁用継手部材に連結される梁主筋を有する、隣接する梁部材が柱部材上へ落とし込まれた後に、先行して設置されている梁部材側へ梁用継手部材の長さ方向に移動(スライド)させられることにより梁主筋が梁用継手部材に差し込まれ、梁主筋の連結(接続)が完了する。
このように梁部材の全長が全幅に亘ってプレキャストコンクリート製であり、梁用継手部材が一方の梁部材内に埋設されている場合には、梁主筋の連結のために他方の梁部材を軸方向にスライドさせる必要があるから、その梁部材が柱部材との接合部を含む形状である場合には、特許文献1、2のように梁部材の内部に、柱部材との接合のための定着筋(特許文献1の柱用接続鉄筋41)を予め埋設しておくことができない。梁部材の内部に埋設される定着筋は柱部材との接合に必要な長さ分、梁部材の下端面から柱部材側へ突出しているため、梁部材をスライドさせれば、定着筋を柱部材に接触(衝突)させ、折り曲げることになるからである。
これに対し、本願請求項1のように梁部材の内部に予め定着筋を埋設しておく場合には、梁部材の柱部材上への落とし込みにより定着筋の下端部が柱部材の柱用継手部材内に挿入されることから、落とし込み後には梁部材を軸方向に移動(スライド)させることができないため、梁用継手部材を用いて梁主筋を連結するには、梁部材がスライドを要しない形状である必要がある。
特許文献1、2において、隣接する梁部材の内のいずれか一方に梁用継手部材を埋設しておかなければならない理由は、梁部材の全長が全幅に亘ってプレキャストコンクリート製であるためであるから、全長の内の少なくとも一部にプレキャストコンクリートでない(非プレキャストコンクリートの)区間、あるいは領域があれば、梁用継手部材を一方の梁部材内に埋設する必要もなくなる。
ここで、梁部材全長の内の一部区間の全幅がプレキャストコンクリートでないとすれば、その非プレキャストコンクリートの領域を現場打ちコンクリート造にすることで、その領域内に梁用継手部材を後から(梁部材の設置後に)配置することができるため、梁部材の設置後に梁部材をスライドさせずに済む状態を得ること、あるいは梁部材をスライドさせずに済む形状にすることはできる。
このように非プレキャストコンクリートの領域を現場打ちコンクリート造にすることで、梁部材の設置後に梁部材をスライドさせることなく、非プレキャストコンクリートの領域に梁用継手部材を設置し、隣接する梁部材間の連続性を確保することができる意味で、請求項1では梁部材全長の内の一部区間の全幅が、あるいは少なくとも全幅の一部がプレキャストコンクリートでない(現場打ちコンクリート造で構築される)場合も含む。
但し、梁部材全長の内の一部区間の全幅が非プレキャストコンクリート(現場打ちコンクリート造)である場合、先行して柱部材上に設置されている梁部材に隣接する梁部材をその先行する梁部材の端面に突き合わせながら設置することができず、先行して設置されている梁部材を後から設置される梁部材の位置決めの手掛かりにすることができなくなるため、位置決め作業が手探りにならざるを得ないことが想定される。
そこで、図2、図4に示すように梁部材2全長の内の一部区間の全幅ではなく、例えば梁部材2の、柱部材1との接合部を除く一部の区間の少なくとも幅方向に梁主筋2aが配筋される領域を切り欠くことをすれば(請求項3)、梁部材2全長の内の一部区間に相対的に切欠き5から残される部分(枠部5a)が形成されるため、この枠部5aを後から設置される梁部材2の位置決めのために利用することが可能になる。
梁部材2全長の内、(長さ方向)一部区間の幅方向一部の領域を切り欠くことで、図2、図4に示すようにその区間にはプレキャストコンクリートが不在の領域(切欠き5)とプレキャストコンクリートが存在する領域(枠部5a)が形成される。このため、梁部材2設置後にプレキャストコンクリートが不在の領域(切欠き5)への梁用継手部材6の設置が可能になると同時に、先行して設置されている梁部材2の切欠き5以外の部分(枠部5a)を後から設置される梁部材2の位置決めの手掛かりとして利用しながら、後からの梁部材2を設置することが可能になる。
逆に、切欠き5から残される部分(枠部5a)を有する梁部材2を先行して設置されている梁部材2の軸方向の端面に突き当てながら、その梁部材2自身を設置することで、後から設置される場合の自らの位置決めの手掛かりとして利用することも可能である。
請求項3では、梁部材2は柱部材1との接合部を除く一部の区間が切り欠かれるものの、全幅に亘って切り欠かれる訳ではなく、幅方向の一部が残された形になるため、その残された部分(枠部5a)が隣接する梁部材2に接触(当接)することで、自らを、もしくはそれに隣接する梁部材2を位置決めする機能を発揮することになる。
請求項3ではまた、切欠き5から残される部分(枠部5a)が図1に示すように梁部材2の高さ(梁成)分の高さを持ち得ることで、梁成と現場打ちコンクリート8の打設区間に応じた分の面積を持ち得るため、切欠き5部分に現場でコンクリート8を打設する際の堰板としての機能も果たす。
請求項3において、更に梁部材2の切欠き5の領域内に、隣接する梁部材2の梁主筋2aを接続するための上記梁用継手部材6を配置することをすれば(請求項4)、設置が済んでいる、隣接する梁部材2、内2に配筋されている梁主筋2a、2a同士を連結することが可能になる。
請求項3では梁部材2の一部区間の幅方向の一部に切欠き5が形成されることで、梁部材2単位で配筋される梁主筋2aはその全長に亘って梁部材2の内部に配筋されている訳ではなく、図1、図2に示すように切欠き5部分では、その部分での現場打ちコンクリート8による接合のために梁部材2のプレキャストコンクリートから突出することになる。よって請求項4の梁用継手部材6は隣接する梁部材2、2の少なくともいずれか一方の梁主筋2aに仮接続されていればよい。
「少なくとも」とは、梁用継手部材6が単一の部品からなる場合に、いずれか一方の梁部材2の梁主筋2aに仮接続されている場合と、ナット定着を用いたねじ継手のように2個以上の部品からなる場合に双方の梁部材2、2の梁主筋2a、2aに仮接続されている場合があることを言う。
梁用継手部材6がいずれか一方の梁部材2の梁主筋2aに仮接続されている場合、梁用継手部材6は仮接続状態から軸方向のスライドによって、あるいは軸回りの回転によって隣接する梁部材2の梁主筋2a側へ移動できればよいため、仮接続状態は問われず、梁用継手部材6は一方の梁部材2の梁主筋2aに単なる挿通、もしくは螺合等によって接続されていればよい。
また梁用継手部材6は隣接する梁部材2、2の梁主筋2a、2a同士を何らかの手段によって連結(接続)することができればよいため、梁用継手部材6自体の形態と、梁主筋2a、2a同士の接続方法も問われず、同一線上に位置する梁主筋2a、2a同士はモルタル、接着剤等の充填材による付着、ねじ(螺合)、あるいは溶接(圧接)等により連結されればよい。
先行して設置されている梁部材2に隣接する梁部材2を後から設置したしたときには、この隣接する両梁部材2、2内に配筋されている梁主筋2a、2aは双方の端面が互いに接触(衝突)しない程度に梁部材2を構成するコンクリート(プレキャストコンクリート)から突出した状態になる。この状態で、少なくともいずれか一方の梁部材2の梁主筋2aに仮接続されている梁用継手部材6が後から設置される梁部材2の設置後に両梁主筋2a、2aに跨ることで、両梁主筋2a、2aを同一線上で連結する。
梁部材の内部に、柱部材との一体性を確保する定着筋をその上端部において定着させた状態で配筋してあるため、梁部材の内部にその設置後に定着筋を配筋するための挿通孔を形成する必要がなく、挿通孔を充填材で埋める必要も生じない。この結果、梁部材に挿通孔を形成しておく場合より充填材の充填箇所と充填量が大幅に削減されるため、現場での作業性と作業効率が向上する。併せて充填材を充填することに伴うひび割れの発生が回避されるため、修復の必要が生ずることもない。
また柱部材との接合に必要な定着筋が梁部材の内部に予め埋設されていることで、梁部材は先行して設置されている柱部材上に落とし込まれるのみで柱部材上に設置され、定着筋の現場での配筋の必要がなく、配筋に伴う充填材充填の必要も生じないため、現場で定着筋を配筋する場合より作業効率が格段に向上する。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1、図2は図5−(a)、(b)に示すようにプレキャストコンクリート製の柱部材1とプレキャストコンクリート製の梁部材2を互いに接合して構築される柱・梁架構の最上層に配置される柱部材1と、その頂部に載置された状態で接合される梁部材2との接合部の具体例を示す。図1は接合部の縦断面を、図2は図1の水平断面を示している。図5−(a)は柱部材1が同一線上に配列する方向(架構の外周に沿った方向)に見たときの柱部材1の縦断面を、(b)は(a)の直交方向の縦断面を示している。
図1に示すように柱部材1は基本的に複数本の柱主筋1aとその周囲に配置されるせん断補強筋1bがプレキャストコンクリート中に埋設された状態で製作され、梁部材2も同様に複数本の梁主筋2aとその周囲に配置されるせん断補強筋2bがプレキャストコンクリート中に埋設された状態で製作される。柱部材1の上端部寄りには梁部材2内に配筋される、後述の定着筋3の下端部が挿入される柱用継手部材4も埋設されている。
柱・梁架構の最上層より下の層では図5−(a)、(b)に示すように柱部材1、1が互いに突き合わせられて接合されるか、柱部材1、1間に梁部材2が挟み込まれた状態で柱部材1、1と梁部材2が接合される。柱部材1、1が互いに突き合わせられて接合される場合、梁部材2は1本の柱部材1の側面に突き当たった状態でその柱部材1に接合されるか、互いに接合されている2本の柱部材1、1に同時に跨りながら、突き当たった状態で両柱部材1、1に接合される。
図5−(a)、(b)に示す最上層に配置される柱部材1とその上に接合されている梁部材2の接合状態の立面(縦断面)を図3に、その平面(水平断面)を図4に示す。図4は柱・梁架構の外周に位置する梁部材2の配置状態を示している。図1は図3の一部の区間を抽出し、図2は図4の一部の区間を抽出して示している。
図3、図4では1本の梁部材2が複数本の柱部材1、1間に跨る長さを持ち、長さ方向(軸方向)の一方側の端部が柱部材1上に位置し、他方側の端部が柱部材1の表面(外周面)の延長面上の側面に突き当たる位置にある場合の例を示しているが、1本の梁部材2の長さは任意であり、隣接する柱部材1、1間に跨る長さである場合もある。図3中、柱部材1上の縦向きの実線は梁部材2の端面を示し、縦向きの破線は梁部材2における柱部材1との接合部分である定着筋3の配筋領域を示している。
梁部材2の長さは任意であるが、梁部材2は長さ方向の端部や中間部等、いずれかの部分に埋設状態で定着される定着筋3において柱部材1に接合されるから、柱部材1に接合されない側、すなわち図3に縦向きの実線で示す側では隣接する梁部材2とは直接、もしくは図示するように現場打ちコンクリート8の領域を挟んで間接的に接合される。このことから、梁部材2は直線状の形状をする場合には、図4に示すように梁部材2は柱部材1、1間に跨る長さを持ち、一方側の端部において柱部材1に接合され、他方側の端部において隣接する梁部材2に接合されることが合理的である。
梁部材2の長さ方向の端部の下に位置する柱部材1との関係も任意であり、梁部材2が接合される柱部材1が梁部材2の長さ方向の一方の端部の下に位置するか、長さ方向の中間部に位置するかも任意である。図3、図4では1本の梁部材2が4本の柱部材1の上に載る長さを持ち、梁部材2はその長さ方向の一方の端部の下に位置する柱部材1に接合されている。
また図4は柱・梁架構の外周に沿って配置される側柱である柱部材1に接合される梁部材2の配置状態を示しているから、梁部材2が平面上、直線状の形状をしているが、梁部材2の平面形状は柱・梁架構内での柱部材1の配置位置によって任意に決められる。図示しないが、例えば柱部材1が側柱より内側に配置される中柱である場合には、梁部材2は十字形の形状に形成されることもある。
梁部材2は1本の梁部材2が長さ方向のいずれかの部分に柱部材1との接合のための定着筋3が埋設されていれば、その梁部材2はいずれかの柱部材1に接合可能であるため、1本の梁部材2は少なくとも隣接する2本の柱部材1、1間に跨り、少なくとも一方の端部において柱部材1上に位置する長さと形態(平面形状)を持っていればよい。よって柱部材1が側柱であるか、中柱であるかに関係なく、梁部材2の平面形状は任意に形成される。
只、梁部材2の長さと形態に規則性を持たせるには、図示するように例えば1本の梁部材2の一方の端部が丁度、柱部材1の頭部(頂部)上に位置し、他方の端部がいずれかの柱部材1の側面の延長面上に突き当たる位置にあるような長さを梁部材2に持たせればよい。
直線状の梁部材2以外の、例えば架構の外周部以外の内側に配置される十字形等の梁部材2は梁部材2の平面形状に従い、梁主筋2aが二方向を向いて配筋されること以外、柱部材1との接合部に定着筋3が埋設されることは、直線状の梁部材2と変わるところはない。
本発明の柱部材1と梁部材2との接合部は柱・梁架構の最上層に配置されることから、図3、図6では梁部材2にパラペット(胸壁)21が一体化している様子を示しているが、必ずしもパラペット21が一体化している必要はない。梁部材2にパラペット21が一体化している場合、パラペット21は梁部材2の上面から連続して立ち上がり、内部に配筋されるせん断補強筋は梁部材2の内部に定着される。図6ではまた、パラペット21内周側の梁部材2上にスラブ10が構築されている様子も示しているが、梁部材2の内部にはスラブ10の鉄筋も定着される。
梁部材2の内部には、隣接する梁部材2、2同士を接合するための前記した梁主筋2aが梁部材2の長さ方向(軸方向)を向いて配筋されるが、軸方向の両端部は隣接する梁部材2の梁主筋2aとの連結のために梁部材2のコンクリートから突出する。梁主筋2aは図6−(a)に示すように梁部材2の軸方向に直交する断面上、定着筋3と干渉しない領域に配筋される。
梁部材2の内部の、柱部材1との接合部位置には、図1、図2に示すように下端部が梁部材2の下端面から下方へ突出する定着筋3が、上端部において定着された状態で配筋される。一方、梁部材2を受ける柱部材1の、定着筋3に対応した位置には、定着筋3の下端部が挿入されて接続される柱用継手部材4が、上部が開放した状態で埋設されている。定着筋3は柱部材1との各接合部位置に付き、複数本、配置されるが、梁部材2内での全定着筋3の周囲には全定着筋3を包囲するせん断補強筋2cが配筋される。
定着筋3は上端部において梁部材2の(プレキャスト)コンクリート中に定着され、下端部がコンクリートの下面から柱用継手部材4に接続可能に、鉛直方向に突出した状態になり、柱用継手部材4を介して柱主筋1aとの連続性を確保できる形態(形状)を有していればよい。図面では上端部における定着のし易さと下端部の突出状態の得易さから、U字形の形状に定着筋3を形成しているが、定着筋3の形状は問われず、I字(直線)状やL字状等にも形成される。
定着筋3がU字形をする図面では、U字形の開放部分である先端(下端)部分を梁部材2(コンクリート)の下面から柱部材1側へ突出させ、U字形の閉鎖部分を上部側に向けてコンクリート中に定着させることにより定着筋3の上端部を梁部材2の内部で完結した状態で定着させている。図面ではまた、梁部材2と柱部材1を剛な状態で接合するために、定着筋3を梁部材2の長さ方向に平行に向け、梁部材2の幅方向に複数、配列させている。
梁部材2はその定着筋3の下端部が柱部材1の柱用継手部材4に接続された状態で、柱部材1に接合される。図面では梁部材2が複数本の柱部材1の上に載置される長さを有しているため、各柱部材1との接合箇所に定着筋3が配筋され、1本の梁部材2が複数本の柱部材1に支持され、接合されている。
定着筋3の下端部は梁部材2のコンクリート下面から柱用継手部材4との連結(接続)に十分な長さ、突出し、この突出区間が柱用継手部材4に連結される。定着筋3の下端部は軸方向の落とし込みによって柱用継手部材4内に差し込まれる。柱用継手部材4は柱部材1内に埋設されているため、定着筋3下端部と柱用継手部材4との連結は主に柱用継手部材4内に充填されるモルタル、接着剤等の充填材の付着によって行われる。
柱用継手部材4の軸方向(長さ方向)両端部には充填材を注入するための注入孔4aと、空気を排出するための排出孔4bが形成され、共に柱部材1の表面から形成される注入孔と排出孔にまで連通した状態にある。柱部材1の外部から注入孔4aを通じて柱用継手部材4内に充填された充填材の充填状況は、排出孔4bに連通した柱部材1の排出孔から充填材が排出されることで確認される。
柱部材1の内部には、柱主筋1aが柱用継手部材4に下側から接続された状態で配筋され、定着筋3とは柱用継手部材4を介して同一線上で軸方向力を伝達し合う状態にあり、例えば梁部材2に鉛直方向上向きの力が作用したときには、その引張力が柱主筋1aに伝達され、柱部材1で負担される。同様に柱主筋1aに作用する引張力は柱用継手部材4を介して定着筋3に伝達され、梁部材2で負担される。
梁部材2は柱部材1上への落とし込みによる定着筋3の柱用継手部材4への挿入によって柱部材1上に設置された状態になり、その状態からは梁部材2の長さ方向には移動することができない。
この関係で、梁部材2は隣接する梁部材2の梁主筋2aとの連結のために、図2、図4に示すように柱部材1との接合部を除く一部の区間の少なくとも幅方向の、梁主筋2aが配筋される領域が切り欠かれ、切欠き5が形成された平面形状をしている。梁部材2の外形はコンクリート(プレキャストコンクリート)の形状であるため、梁部材2を構成するコンクリートに切欠き5が形成されていることになる。
切欠き5は梁部材2の製作時に切欠き5の領域を区画する少なくとも縁の位置に型枠を配置しておくことにより形成されるが、同時に切欠き5から残された枠部5aが相対的に形成される。切欠き5は梁部材2の軸に直交する鉛直断面上も、少なくとも梁主筋2aが配筋される範囲に形成されるから、枠部5aは梁部材2の高さ(梁成)分の高さを持って形成可能であるため、その先端である隣接する梁部材2側の端面は面でその隣接する梁部材2の端面に接触可能となる。
切欠き5は梁部材2の長さ方向の少なくともいずれか一方の端部に形成され、切欠き5の形成領域は梁部材2、2の設置後にコンクリート8が打設される現場打ちコンクリートの領域になり、この領域に現場でコンクリート8が打設されることにより梁主筋2aがコンクリート8中に埋設され、被覆される。
梁主筋2aは梁部材2(コンクリート)の長さ方向両端から突出するが、切欠き5が形成されている側にはその切欠き5の形成領域に突出し、この切欠き5の形成領域内に、隣接する梁部材2、2の梁主筋2a、2aを接続するための梁用継手部材6が配置される。梁用継手部材6にも柱用継手部材4と同様の注入孔6aと排出孔6bが形成される。
切欠き5は言い換えれば、梁部材2の長さ方向の全長の内、梁主筋2a、2a同士を連結(接続)するための梁用継手部材6の配置領域、あるいは現場打ちコンクリート8を打設すべき区間(領域)に形成され、その一部区間の内、幅方向には少なくとも梁主筋2aが配筋される領域に形成される。「少なくとも梁主筋2aが配筋される領域」であるから、必ずしも梁部材2の全幅ではなく、幅方向の一部の範囲になる。
隣接し、互いに接合される梁部材2、2の内、一方の梁部材2の切欠き5側の(プレキャスト)コンクリートから突出する梁主筋2aの突出長さは切欠き5の形成領域内に留まり、それに隣接する(対向する)梁部材2の端面から突出する梁主筋2aは隣接する梁部材2の切欠き5側へ突出し、その長さは切欠き5の形成領域内に留まる。
切欠き5を挟んで隣接する(対向する)梁部材2、2を柱部材1、1上に設置した状態では、例えば双方の梁主筋2a、2aの端面が互いに同一線上で対向し、衝突(干渉)しない状態で配列する。対向する梁主筋2a、2aは衝突しない状態で対向すればよいため、端面同士が接触していることもある。連結されるべき梁主筋2a、2aは重ね継手式に連結される場合もあるが、その場合には、少なくとも連結部分(重なり部分)は同一線上には位置しない。
同一線上で互いに対向する梁主筋2a、2aの少なくともいずれか一方には梁用継手部材6が仮接続されており、梁用継手部材6は後から設置される梁部材2の設置後に、先行して設置されている梁部材2の梁主筋2a側へスライド、あるいは軸回りの回転により軸方向に移動させられることにより両梁主筋2a、2aに跨る。図2では梁用継手部材6の一方の梁主筋2aの仮接続状態を二点鎖線で、軸方向に移動した後の状態を実線で示している。
例えば梁用継手部材6が筒(スリーブ)状をし、内周面に雌ねじが切られる一方、梁主筋2aの外周面に雄ねじが切られている場合には軸回りの回転によって両梁2a、2aに跨って双方に連結された状態になるため、両梁主筋2a、2aに跨った状態で両者を連結した状態になる。
梁用継手部材6が筒状をする場合に、内周面に雌ねじが切られていない場合には、軸方向のスライドによって両梁主筋2a、2aに跨る状態になるが、その状態では梁主筋2aに連結された状態にはならないため、梁用継手部材6の内部にはモルタルや接着剤等の充填材が充填されるか、圧接(溶接)される。梁用継手部材6の内部に充填材を充填することは内周面に雌ねじが形成される場合に併用されることがある。いずれの方法による連結の場合も、梁用継手部材6による対向する梁主筋2a、2aの連結は現場打ちコンクリート8の打設前に行われる。
切欠き5の形成は梁部材2の幅方向の一部の範囲でよいことから、図2、図4に示すように切欠き5の形成区間の幅方向の一部には切欠き5で欠如されない部分、枠部5aが残されることになる。この切欠き5から残される枠部5aの先端である、隣接する梁部材2側の端面は切欠き5側に隣接する梁部材2の端面に接触(当接)することで、枠部5aを有する梁部材2自身の、あるいはその梁部材2に隣接する梁部材2の設置時の位置決めの手掛かりとして機能する。
枠部5aはまた、切欠き5の形成に伴い、前記のように梁部材2の高さ(梁成)分の高さを持ち得ることから、切欠き5部分に現場でコンクリート8を打設する際の堰板(型枠)としての機能も果たし得る。
隣接する梁部材2、2が設置された状態での切欠き5内である現場打ちコンクリート8の打設領域は一方の梁部材2の切欠き5に面する端面と、それに隣接する梁部材2の端面、及び枠部5aによって3方向が区画されるため、切欠き5領域内への現場打ちコンクリート8の打設時には枠部5aに、梁部材2の幅方向に対向する側にのみ、堰板(型枠)を配置すればよいことになる。コンクリート8の打設は枠部5aに対向する堰板(型枠)を配置した状態で行われる。
梁用継手部材6による梁主筋2a、2a同士の連結と並行して、あるいは前後して梁主筋2aの回りに梁部材2内部と同様に、せん断補強筋7が配筋され、その後に切欠き5領域内にコンクリート8が打設され、切欠き5領域内のコンクリート8と梁部材2との一体性(連続生)が確保される。
図面では図2に示すように枠部5aの隣接する梁部材2側の端面と、その隣接する梁部材2の端面との間にシール材9を介在させることで、枠部5aと隣接する梁部材2との接触(当接)時のいずれかの部分への損傷を回避すると共に、コンクリート8の漏れ出しを防止している。また枠部5aの平面形状を梁部材2の幅方向に凹凸状に形成することで、現場打ちコンクリート8との一体性を確保し易くし、梁部材2の軸方向のせん断力の伝達が図られるようにしている。