以下、本発明に係る実施例について図面を用いて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
<第1実施形態>
第1実施形態では、画素毎に異なる量のクリアインクを記録して局所的な正反射光の色付きを制御することで、大局的な正反射光の色付きを抑制する画像形成装置について詳細に説明する。
本明細書においては、記録剤であるインクをCyan、Magenta、Yellow、Black、Clear等の英語表記、またはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、クリアなど片仮名表記で表す。また、色もしくはそのデータ、色相をC、M、Y、K、CL、など英大文字の1字もしくは2字で表すものとする。すなわち、Cはシアン色またはそのデータないし色相を、Mはマゼンタ色またはそのデータないし色相を、Yはイエロー色またはそのデータないし色相を、Kはブラック色またはそのデータないし色相をそれぞれ表すものとする。他も同様に、CLは透明またはそのデータないし色相を、それぞれ表すものとする。
さらに、本明細書において「画素」とは、階調表現できる最少単位のことであり、複数ビットの多値データの画像処理(後述するカラーマッチング、色分解、γ補正、ハーフトーン等の処理)の対象となる最少単位である。尚、ハーフトーン処理では、1つの画素は2×4のマスで構成されるパターンに対応し、この1画素内の各マスを「エリア」と定義する。この「エリア」はドットのオン・オフが定義される最少単位である。これに関連して、上記カラーマッチング処理、色分解処理、γ補正でいう「画像データ」は処理対象である画素の集合を表しており、各画素が本実施形態では8ビットの階調値を内容とするデータである。また、ハーフトーン処理でいう「画素データ」は処理対象である画素データそのものを表している。本実施形態のハーフトーン処理では、上記の8ビットの階調値を内容とする画素データが4ビットの階調値を内容とする画素データ(インデックスデータ)に変換される。
●正反射光色付き制御方法の概要
まず、本実施形態における正反射光色付きの抑制の原理について、簡単に説明する。例えば、記録媒体上に形成された注目画素に所定量のクリアインクをオーバーコート(記録媒体上で最上層に位置するように記録)した際に、その正反射光が緑色に色付くとする。そして、この画素の周辺画素に対し、上記所定量とは異なる量のクリアインクをオーバーコートした際に、その正反射光が赤色に色付くとする。この場合、隣接する画素間において補色の関係にある緑色と赤色が相殺されることにより、注目画素において局所的な色付きが発生しても、その周辺画素を含んだ大局的な色付きとしては無彩色として観察される。したがって、局所的な正反射光色付きの色味が互いに相殺するように、オーバーコートするクリアインク記録量を画素単位に決定することで、大局的な正反射光色付きを無彩色に近づけることができる。
ここで、正反射光の色付きを「大局的」および「局所的」として表現したのは、正反射光の色付きが観測のスケールによるためである。大局的な正反射光の色付きとは、人間が正反射光の色付きを解像できる範囲以上で平均化された色付きである。また、局所的な正反射光の色付きとは、人間が正反射光の色付きを解像できない範囲である数10ミクロンオーダーで平均化された色付きである。
本実施形態では、複数の異なるクリアインク記録量でオーバーコートした記録物の正反射光色付きデータを予め保持しておき、このデータに基づいて画素毎のクリアインク記録量を決定することで、正反射光色付きを制御する。ここで、正反射光色付きを制御するとは、画像領域全体において正反射光の色味を無彩色に近づけることのみならず、所定の目標色に近づけることを意味する。さらには、特定の画像領域毎に正反射光の色味を所定の目標色に近づけることも、該制御に含まれる。また本実施形態においては、複数種類の照明により観察した際に、照明種類ごとの正反射光の色味の差を低減させる。また、指定した照明により観察した際の正反射光の色味を、無彩色を含む所定の目標色に近づける。
以下、正反射光色付きの発生原理、およびその抑制方法について、図面を用いてその概要を説明する。
図4は、正反射色付きの発生原因を説明するための、試料の断面を模式的に示す概念図である。同図は、記録媒体401上に、顔料色材を含むカラーインク402と着色剤を含まず実質的に無色透明の顔料材料を含むクリアインク403が重なっている状態を示している。この試料に対して、試料の法線方向から角度θ傾いた方向からの光404が照射されると、クリアインク403表面、およびクリアインク403とカラーインク402の界面において、光404が正反射方向の反射角度で出射し、反射光405,406が得られる。この反射光405と反射光406の間には、2nd・cosθの光路差がある。ここでnは屈折率、dはクリアインクの膜厚である。上述した光路差のため、下式(1)より、反射光405と反射光406の位相差は2π・2nd・cosθ/λとなる(λは光の波長)。
位相差=2π/λ×光路差 ・・・(1)
ここで反射光405,406について、一方の光線の位相が0である場合、その光線の振幅はcos0、つまり1であり、もう一方の光線の振幅はcos(4nd・cosθπ/λ)で表される。この場合、反射光405,406の振幅の平均値は、(1/2)・{1+cos(4nd・cosθπ/λ)}で表される。すると反射光強度は、振幅の二乗に比例するため、(1/4)・{1+cos(4nd・cosθπ/λ)}2で表される。なおここでは、入射光線の振幅を1と仮定しているため、上述した反射光強度を反射率と言い換えることも可能である。したがって、正反射光の三刺激値XYZ(CIE XYZ表色系)と、膜厚dには下式(2)の関係が成立する。なお、式(2)においてS(λ)は光源の分光分布、x~(λ)、y~(λ)、z~(λ)(表記A~で、Aの上にバーが付された記号を示す)はCIE XYZ表色系の等色関数である。また、λは波長、nはクリアインクの屈折率、dはクリアインクの膜厚、θは入射角度、積分範囲は可視光の波長範囲(一般には380〜780nm)、Kは比例定数、である。
式(2)から分かる通り、クリアインクの膜厚dによって正反射光は異なる色味を発する。ここまで、説明を簡単にするため、多重反射の項、カラーインク内の反射光、屈折率の波長分散から生じる波長選択的な反射に関しては割愛したが、これらを考慮したとても、膜厚dによって正反射光が異なる色味を発することは同様である。
次に図5および図6を用いて、本実施形態における正反射光色付きの制御方法の概要を説明する。
図5は上述した図2と同様、シアンインクで記録媒体の表面を100%被覆した画像に対して、クリアインクを異なる記録量でオーバーコートした画像における正反射光の色付きをa*b*座標にプロットしたグラフである。ここで変化させるクリアインク記録量は、0%から100%までの10%刻みであるが、100%の記録量とはすなわち、当該記録媒体におけるクリアインクの最大載り量に相当する。図4を用いて説明した通り、異なるクリアインク記録量でオーバーコートした画像の正反射光が、a*b*色度座標で図5のような軌跡を描く原因は、クリアインクの膜厚がクリアインクの記録量に依存して変化することにある。
そこで、画像にオーバーコートするクリアインクを、正反射光の色度を互いに打ち消しあうような記録量で局所的に並置するように制御する。これにより、局所的な正反射光同士の加法混色が成立し、大局的な正反射光の色味を無彩色(図5に□で示した、a*b*座標における無彩色点W)とすることが可能となる。
ここで図5に示すように、図中のP(クリアインク記録量20%)から無彩色点Wを通る直線上にQ(クリアインク記録量60%)がある場合を例として、本実施形態における正反射光色付きの制御方法を説明する。ここで、線分WPの長さと、線分WQの長さが2:1であるとする。本実施形態ではこの場合、正反射光の色付きがPとなるクリアインク記録量20%の領域と、正反射光の色付きがQとなるクリアインク記録量60%の領域を、その面積率が上記線分の長さの比率に応じて1:2となるように、所定の局所領域内で混在させる。クリアインクの配置をこのように制御することで、PとQの色味が該局所領域内において相殺され、大局的な正反射光の色味が無彩色となる。
ここで図6に、クリアインク記録量20%の領域とクリアインク記録量60%の領域を、その面積率が1:2となるように混在させた試料の断面を模式的に示す。図6においては、記録媒体601上にシアンインク602が重なり、その上に記録量20%のクリアインク603と記録量60%のクリアインク604が並置されている様子を示している。すなわち、クリアインク603の領域からの正反射光605と、クリアインク604からの正反射光606がそれぞれ、図5中のP,Qを示している。この場合、シアンインク602に対するクリアインク603,604の面積率がそれぞれ33%,67%となるように記録することで、上述したように正反射光605と正反射光606の色味が相殺され、大局的な正反射光の色味が無彩色となる。
以上、目標色(上記例では無彩色点W)を挟んだ2点(上記例ではP,Q)によって、正反射光色付きを局所的に相殺して目標色に近づける例を示した。しかしながら本発明はこの例に限らず、a*b*平面内で目標色を内包するような多角形を形成できれば、3点以上を用いて上記正反射光色付きの抑制方法を実現することが可能である。例えば図5に、クリアインク記録量0%、30%、70%の点をそれぞれR,S,Tとして記載した。この3点の無彩色点Wに対する位置関係に基づく面積率によって、それぞれのクリアインク記録量を決定し、これらを混在させることで、上述したように大局的な正反射光色付きを抑制することが可能となる。尚、面積率は下式(3)より一意に決定される。ただし、式(3)における表記[AB]は、AからBへのベクトルを示す。またa,bはそれぞれ、クリアインク記録量0%,30%の面積率である。
a[WR]+b[WS]+(1-a-b)[WT]=0 ・・・(3)
なおここでは、正反射光色付きがクリアインクの記録量に依存することを考慮して、正反射光の色味が相殺されるようにクリアインク記録量を決定する方法について説明したが、該色付きは観察照明の種類にも依存する。本実施形態では、この照明依存性も考慮してクリアインク記録量を決定するが、その詳細については後述する。
●システム構成
以下、本実施形態における画像形成システムの構成について、図7のブロック図を用いて説明する。本実施形態における画像形成システムを構成するプリンタは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの色材として顔料を含む基本色インク4種と、クリアインク1種によって印刷を行うものであり、これら5種のインクを吐出する記録ヘッドが用いられる。図7に示すように本実施形態における画像形成システムは、これら5種のインクを用いる記録装置としてのプリンタと、ホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)が所定のインタフェースによって接続されて構成される。
ホスト装置のオペレーティングシステム(OS)上で動作するプログラムとして、アプリケーションやプリンタドライバがある。画像入力部7001は、このアプリケーションによって、プリンタで印刷する画像データの作成、印刷指示の処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは、種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。本実施形態におけるPCは例えば、デジタルカメラで撮像したJPEG形式等の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、スキャナで読み取ったTIFF形式等の画像データや、CD-ROMに格納されている画像データを取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウエブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータを、例えばPCの不図示のモニタに表示してアプリケーションを介した編集、加工等を施して、例えばsRGB規格の画像データ(入力画像信号値)R,G,Bを作成する。そして印刷指示に応じてこの画像データをプリンタドライバに渡す。
観察条件入力部7002では、観察照明に応じた正反射光色付き制御に関する処理内容をユーザが指定する。ここで図8に、観察条件入力部7002のユーザインタフェース(UI)の例を示す。図8は、画像入力部7001もUIとして同時に実装されている例を示す。図8に示すUIにおいては、ユーザが、観察照明に応じた正反射光色付き制御の有無を選択する。図8に示すUIにおいて、「観察照明に応じた正反射光色付き制御」を「しない」旨が選択された場合、クリアインクの記録を行わない。もしくは、光沢ムラ等その他の画質を制御するために最適なクリアインク記録を行うものとし、正反射光色付きに関するクリアインク制御については考慮しない。また、「観察照明に応じた正反射光色付き制御」を行う場合、ユーザは「複数照明」または「特定照明のみ」のいずれかを選択する。「特定照明のみ」が選択された場合、所定の照明を選択する、あるいは任意の照明を手動入力する、あるいは測定器を用いて観察場所の照明光情報を取得する、のいずれかを行う。「複数照明」が選択された場合には、上記のうち複数を指定する。なお、本実施形態においては取得する照明光データの形式をxy色度とするが、分光放射輝度、色温度など照明光の色情報が判別できる形式であれば特にこの形式に限定されない。
選択された各条件における処理内容の詳細については後述するが、「特定照明のみ」が選択されると、該選択された照明で観察した際に正反射光色付きが最も目立たなくなるようなクリアインク記録量を決定する。また「複数照明」が選択されると、後述するクリアインク記録情報LUT7011を用いて、指定された複数の照明のいずれで観察を行っても正反射光色付きが目立たなくなるようなクリアインク記録量を決定する。
なお、図8では不図示であるが、観察条件入力UIにおいて、正反射光色付きの目標色としてのターゲット色や順応白色を設定可能とすることが好ましい。ターゲット白色や順応白色の設定方法としては例えば、xy色度やXYZ値、色温度等による指定を行えば良い。また、順応白色の設定には、プリント物観察時に使用しているモニタの色温度の情報を用いても良い。
本実施形態のプリンタドライバにおける処理は、カラーマッチング処理と、該カラーマッチング後のデータに対する、カラーインクの階調データへの変換処理、およびクリアインクの階調データへの変換処理、そして印刷データ作成処理に大別される。図7に示すカラー色分解処理部7004、γ補正処理部7006、カラーハーフトーン(HT)処理部7007によって、上記カラーインクの階調データへの変換処理を行う。また解像度変換処理部7008、クリア色分解処理部7009、クリア配置設定部7010、クリアHT処理部7012によって、上記クリアインクの階調データへの変換処理を行う。プリンタドライバはまた、カラー色分解処理部7004において参照されるカラー色分解LUT7005と、クリア色分解処理部7009とクリア配置設定部7010において参照されるクリアインク記録情報LUT7011を有している。なお、カラー色分解LUT7005とクリアインク記録情報LUT7011は互いに独立した構成でなくても良く、同一のファイルに記録されていても構わない。また、本実施形態では図7に示すようにプリンタドライバにおいて印刷データ作成処理までを行うものとして説明するが、プリンタドライバにおける処理と記録装置における処理の境界は特に限定されるものではない。
●カラーマッチング処理
カラーマッチング処理部7003は、画像入力部7001から取得した入力画像データに対して、色域(Gamut)のマッピングを行う。本実施形態のカラーマッチング処理部7003は、sRGB規格等の画像データR,G,Bによって再現される色域を、本プリントシステムのプリンタによって再現される色域内に写像する。これにより、sRGB等のモニタで表現された色をプリンタで再現した場合に色味を一致させることができる。具体的には、色域の写像関係を内容とする、不図示の3次元ルックアップテーブル(LUT)を用い、これに補間演算を併用して8ビットの画像データR,G,Bをプリンタの色域内のデータR,G,Bに変換する。この際に、CIE L*a*b*等の色空間にてモニタのGamutからプリンタのGamutへの色空間圧縮を行う。色空間圧縮の手法としては、Perceptualと呼ばれる知覚的な一致を優先したカラーマッチングや、Colormetricと呼ばれる測色的な一致を優先したカラーマッチングがある。また、Saturationと呼ばれる鮮やかさを優先したカラーマッチング等の手法も用いても良い。
●カラーインクデータ作成処理
以下、本実施形態のプリンタドライバにおける、カラーマッチング後の画像データから複数色のカラーインク各色の階調データへの変換処理を行うことによって、画像形成用のカラーインクデータを作成する処理について、具体的に説明する。
まずカラー色分解処理部7004において、カラーマッチング処理部7003にて上記色域のマッピングがなされたデータR,G,Bに基づき、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データ(インク値)C,M,Y,Kを求める。本実施形態では、この処理はカラーマッチング処理と同様、色域のマッピングがなされたデータR,G,Bとの対応関係が定められたカラー色分解LUT7005に補間演算を併用して行う。出力は各色8ビットで、C,M,Y,Kの色材量に対応した値が設定される。ここで図9に、カラー色分解LUT7005の例を示す。図9に示すようにカラー色分解LUT7005には、色域のマッピングがなされた8ビットの入力信号値R,G,Bと、8ビットのインク値C,M,Y,Kとの対応関係が定められている。
γ補正処理部7006では、カラー色分解処理部7004より出力された色分解データの各色ごとに、その階調変換を行う。具体的には、本システムで用いるプリンタの各色インクの階調特性に応じた1次元LUT(不図示)を用いることにより、上記色分解データがプリンタの階調特性に線形的に対応付けられるような変換を行う。
次にカラーHT処理部7007において、8ビットの色分解データC,M,Y,Kのそれぞれについて、例えば周知の誤差拡散法を用いて4ビットのデータに変換する量子化を行う。量子化後の4ビットデータは、記録装置におけるドット配置パターン化処理部7014における配置パターンを示すためのインデックスとなる。
ここで、誤差拡散法について簡単に説明する。一般に誤差拡散法においては、処理対象となる画素に対して伝播されてきた誤差を累積加算した画素データを所定の閾値と比較することで、その出力階調値を決定する。そして、累積加算値と閾値との差分を誤差として、周辺画素に伝播する。すなわち、誤差の累積加算後の画素データとは、処理済の画素から伝播された誤差が加算されたデータである。ここで、累積加算後のデータをIとし、出力階調値をOとした際の、本実施形態における量子化の例を、以下の式(4)〜(12)に示す。
O=0 (I<16) ・・・(4)
O=32 (16≦I<48) ・・・(5)
O=64 (48≦I<80) ・・・(6)
O=96 (80≦I<112) ・・・(7)
O=128 (112≦I<144) ・・・(8)
O=160 (144≦I<176) ・・・(9)
O=192 (176≦I<208) ・・・(10)
O=224 (208≦I<240) ・・・(11)
O=255 (I≧240) ・・・(12)
説明の都合上、上式(4)〜(12)に示す各出力階調値Oに対し、以下のような名称を与える。すなわち、O=0をレベル0、O=32をレベル1、O=64をレベル2、O=96をレベル3、O=128をレベル4、O=160をレベル5、O=192をレベル6、O=224をレベル7、そしてO=225をレベル8、とそれぞれ称することにする。以上のように量子化された4ビットのC,M,Y,Kデータが、カラーインクのドット配置パターンを示すインデックスデータとして印刷データ作成部7013に供給される。
●クリアインクデータ作成処理
次に、本実施形態のプリンタドライバにおける、カラーマッチング後の画像データからクリアインクの階調データを作成することによって、画像形成用のクリアインクデータを作成する処理について、具体的に説明する。
まず解像度変換処理部7008において、上記色域のマッピングがなされた画像データR,G,Bに基づき、入力された画像の解像度を下げることにより低解像度データを作成する。本実施形態では、600dpiの画像データが入力された場合に、これを150dpiに変換する場合を例として説明を行う。解像度変換方法としては、バイリニア法やバイキュービック法、ニアレストネイバー法等、周知の方法を適用することができる。ここで図10に、本実施形態における解像度変換例を示す。図10(a)は、変換前の600dpiの画像データを示している。図中の各画素における括弧内の数字は、(R,G,B)の各8ビットデータを示している。図10(b)は、図10(a)に示す600dpiの画像データに対し、バイリニア法を用いて150dpiの低解像度データに変換した例を示す。なお、この解像度変換処理は、後段のクリア色分解処理部7009において低解像度データの画素ごとにクリアインクの複数の記録量を決定するために行われるものである。さらに後段のクリア配置設定部7010において、画素を複数マスに分割してクリアインクの記録量を配置することで、解像度変換前の画像データの元の解像度に応じたクリアインクデータが作成される。
クリア色分解処理部7009においては、解像度変換処理部7008で生成された低解像度データの各領域(150dpiの1画素毎)に対する、クリアインクの記録量の組み合わせを取得する(記録量取得処理)。すなわち本実施形態では、低解像度データの1画素に対応する入力画像データの所定領域ごとに、クリアインク記録量の組み合わせを決定する。ここで取得されるクリアインク記録量の組み合わせとはすなわち、クリアインク値の組み合わせおよびその面積率であり、予めマッピング後のRGB値とインク値との対応関係を定めたクリアインク記録情報LUT7011に補間演算を併用して取得される。
上述したように本実施形態においては、各領域に対して異なる記録量のクリアインクを混在させることで正反射光色付きを抑制するため、各R,G,B値に対してクリアインクのインク値を2つ以上対応させる必要がある。本実施形態では説明の簡単のため、各R,G,B値に対してクリアインクの2つのインク値CL1、CL2の組み合わせを設定する場合を例として説明する。また、詳細は後述するがクリアインク記録情報LUT7011には、画像データの代表的なRGB値に対し、クリアインクの2つのインク値CL1,CL2に加えて、各インク値CL1,CL2の面積率S_CL1,S_CL2が定められている。これらのLUT値は、代表値に応じてカラーインクで形成された画像上に、クリアインクを2つの記録量が混在するように重ねた際に、該画像における照明の正反射光の色度が目標色(例えば無彩色)に近づくように設定されている。
ここで図11に、クリアインク記録情報LUT7011の例を示す。図11(a)は、観察条件入力部7002でユーザが、観察照明を「複数照明」としてD50,A,D65の3種類を選択した場合のLUT例を示す。同図において、1列目は観察照明の種類を示す観察照明タグであり、観察条件入力部7002でユーザが選択した条件に対応するLUTを、このタグ情報から選択する。2〜4列目には、色域のマッピング後の8ビットの画像データR,G,Bを記している。このRGB値がクリアインク記録情報LUT7011における入力信号値、すなわち画像データの代表値となる。また5〜6列目には、クリアインクの記録量を示すインク値CL1,CL2を8ビットで記している。尚、クリアインク値CL1,CL2としては、後述するクリアHT処理部7012にて誤差拡散法を適用した際に誤差が発生しないよう、出力階調値(0,32,64,96,128,160,192,224,255)と同じ値になるように予め設定されている。そして7〜8列目には、所定領域に占めるインク値CL1,CL2のそれぞれの面積率を百分率で示す面積率S_CL1,S_CL2が8ビットで設定されている。
図11(b)は、観察条件入力部7002でユーザが、観察照明を「特定照明のみ」としてD50を選択した場合、すなわち、D50で観察した際に正反射光色付きが最も目立たなくなるような記録物を得るための処理が選択された場合の、LUT例を示す。同図においては図11(a)と同様に、1列目に観察照明タグが記載されており、該タグ情報から、観察条件入力部7002でユーザが選択した条件に対応するLUTが選択される。なお、観察照明としてのD65やAについても同様に、予め作成されたLUTがクリアインク記録情報LUT7011に格納されている。なおここでは、「特定照明のみ」として光源種類がD50、D65、Aである場合に予め設定されるLUT例を示した。しかしながら本発明はもちろんこの限りではなく、その他の種類の照明についても、該照明での観察時に正反射光色付きを最大限抑制するためのLUTを設定することが可能である。また、「特定照明のみ」が選択された場合には照明入力用のテキストボックスを表示して入力を受け、予め用意してある照明のLUTに対して一般的な補間方法を適用することで、該入力された照明用のクリアインクのインク値や面積率を算出しても良い。
クリア配置設定部7010では、解像度変換処理部7008で生成された低解像度データの各画素内に、クリア色分解処理部7009で参照したクリアインク記録情報LUT7011に応じたクリアインク値CL1,CL2を配置する。この配置は、やはりクリアインク記録情報LUT7011において設定されている面積率S_CL1,S_CL2に応じて行われる。ここでは、図10(b)に示した150dpiの1画素内を4×4の複数マスに分割して、クリアインク量A(インク値CL1=32)とクリアインク量B(インク値CL2=192)を配置する場合を例として説明する。この場合、クリアインク量Aは面積率S_CL1=40%、クリアインク量Bは面積率S_CL2=60%で配置されるとする。この処理により、上述した解像度変換処理部7008における変換前の画像データの解像度と同等の600dpiでクリアインクが配置される。以降、ここでクリアインク値CL1,CL2のいずれかが配置されたそれぞれのマスが、クリアインクデータの1画素として扱われる。
図12に、予めクリアインクの配置を決定する順序を定めた格子パターン例を示す。本実施形態では、解像度変換後の1画素内を4×4マスに分割してクリアインク値を設定するため、図12に示すような1画素(4×4マス)と同一サイズの格子パターンが必要となる。図13に、図12に示す順序でクリアインク量A,Bが配置された例を示し、「32」が記載されたマスにクリアインク量A、「192」が記載されたマスにクリアインク量Bが配置されていることを示す。図13によれば、クリアインク量Aは面積率S_CL1が40%であるため、16マス中6マス分に配置され、クリアインク量Bは残りの10マス分に配置される。すなわち、クリアインク量Aを図12の「1」〜「6」までに配置し、クリアインク量Bを「7」〜「16」までに配置することになる。上記配置手順を一般化すると、以下の式(13)のようになる。
NA=Nall×S_CL1/100 ・・・(13)
NB=Nall−NA
なお、式(13)においてNAはクリアインク量Aを記録するマスの数、NBはクリアインク量Bを記録するマスの数、Nallは格子パターンのマスの総数である。また、S_CL1はクリアインク量Aの面積率である。なお、NAが割り切れない数値となる場合には、切り捨てや四捨五入等の処理によって対応する。また、図12ではベイヤー配列を例として示したが、インク配置順序を決定することができれば良いため、渦巻型や網点型等の一般的に知られたディザマトリクスを使用することも可能である。クリア配置設定部7010で画素ごと(この場合600dpi)に配置されたクリアインク値CL1、CL2は、クリアHT処理部7012に供給される。
クリアHT処理部7012では、クリア配置設定部7010で設定された8ビットのクリアインク値CL1、CL2それぞれについて、4ビットのデータに変換する量子化を行う。この4ビットのデータは、記録装置におけるドット配置パターン化処理部7014における配置パターンを示すためのインデックスとなる。ここではカラーHT処理部7007と同様に、処理対象となる画素データと所定の閾値とを比較することにより、出力階調値を決定する。上述したようにクリア色分解処理部7009では、クリアインク記録情報LUT7011によりクリアインク値CL1,CL2が、その出力階調値(0,32,64,96,128,160,192,224,255)と同値になるように設定されている。従ってクリアHT処理部7012においては、入力画素データをI、出力階調値をOとした場合にO=Iが成立する。そして、カラーHT処理部7007と同様に、量子化レベルを決定する。すなわち、O=0をレベル0、O=32をレベル1、O=64をレベル2、O=96をレベル3、O=128をレベル4、O=160をレベル5、O=192をレベル6、O=224をレベル7、そしてO=225をレベル8、とする。このように量子化された4ビットのCL1,CL2データが、クリアインクのドット配置パターンを示すインデックスデータとして印刷データ作成部7013に供給される。
●印刷データ作成処理
以上のように、カラーおよびクリアの各インクデータがドット配置パターンのインデックスデータとして生成されると、印刷データ作成部7013では、該インデックスデータを内容とする印刷イメージデータに印刷制御情報を加えた印刷データを作成する。印刷制御情報とは、記録の対象となる普通紙、光沢紙、コート紙等の用紙の種類や、高速印刷、高品位印刷等の印刷品位が規定されている。尚、これらの印刷制御情報は、ホストPCにてユーザが指定した内容に基づいて生成される。また印刷イメージデータとしては、上述したカラーHT処理部7007およびクリアHT処理部7012における量子化処理によって生成された、各インクのドット配置を示すインデックスデータとしての画像データが記述されている。印刷データ作成部7013にて作成された印刷データは、記録装置本体へ供給される。
上述したハーフトーン処理および印刷データ作成処理は、記録装置本体ではなくホスト装置にインストールされたプリンタドライバによって行われるものとして説明した。しかしながら本発明はこの形態に限定されず、例えばハーフトーン処理が記録装置内部で行われる構成であっても、本発明の効果は同等に得られる。また、上述したアプリケーションおよびプリンタドライバにおける処理は、それらのプログラムに従って不図示CPUにより実行される。その際、プログラムはROMもしくはハードディスクから読み出されて用いられ、また、その処理の実行に際してRAMがワークエリアとして用いられる。
●記録処理
以下、上述したように生成された印刷データを、記録装置にて記録媒体上に記録する処理について説明する。記録装置においては、プリンタドライバから送られてきた印刷データに対するデータ処理を、ドット配置パターン化処理部7014およびマスクデータ変換処理部7015において行う。
ドット配置パターン化処理部7014では、実際の印刷画像に対応する画素ごとに、印刷イメージデータである4ビットのインデックスデータ(階調値情報)に対応したドット配置パターンに従ってドット配置を行う。上述したハーフトーン処理では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)までにレベル数を下げている。しかしながら、実際にプリンタにおいて記録できる情報は、インクを記録するか否かの2値情報である。そこでドット配置パターン化処理部7014では、0〜8の多値レベルを、ドットのオン・オフを決定する2値レベルまで低減する。具体的には、カラーHT処理部7007およびクリアHT処理部7012からの出力値である、レベル0〜8の4ビットデータで表現される各画素に対し、その画素の階調レベル(レベル0〜8)に対応したドット配置パターンを割り当てる。これにより、1画素内の複数のエリア毎にドットのオン・オフを定義し、「1」または「0」の1ビットの吐出データを配置する。
ここで図14に、ドット配置パターン化処理部7014で割り当てられる、入力レベル0〜8のそれぞれに対する出力パターン例を示す。ドット配置パターン化処理部7014はすなわち、この出力パターンデータを内部に保持している。図中左端に示した各レベル値は、各ハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0〜8に相当する。また、図中右側に配列した縦2エリア×横4エリアで構成される各マトリクスの領域は、ハーフトーン処理により出力された1画素の領域に対応する。なお、1画素内の各エリアは、ドットのオン・オフが定義される最小単位に相当し、丸印を記入したエリアがドットの記録を行う(ドットオン)エリアを示している。図14によれば、レベル数が上がるに従って、記録するドット数も1つずつ増加していることが分かる。このようにレベル数に応じて配置するドットの数を制御することで、印刷後の画像にオリジナル画像の濃度情報が反映される。また、図中上端に示した(4n)〜(4n+3)は、変数nに1以上の整数を代入することにより、入力画像の左端からの横方向の画素位置を示しており、同一の入力レベルについても、画素位置に応じて互いに異なる複数のパターンが用意されている。すなわち、同一のレベルが入力された場合にも、記録媒体上では(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが巡回されて割当てられることになる。
図14においては、縦方向を記録ヘッドの吐出口の配列方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。よって、上述のように同一レベルに対して様々なドット配列で記録できる構成とすることで、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと下段に位置するノズルとで吐出回数を分散させたり、記録装置特有の様々なノイズを分散させる効果が得られる。
ドット配置パターン化処理部7014において、以上説明したドット配列パターン化処理が終了した段階で、記録媒体に対する各インク(C,M,Y,K,CL1,CL2)のドット配置が全て決定される。
次に、マスクデータ変換処理部7015における処理について説明する。上述したドット配置パターン化処理により、記録媒体上の各エリアに対する各インクのドットの有無が決定されたので、この情報をそのまま記録ヘッドの駆動回路に入力すれば、所望の画像を記録することは可能である。しかしながら、本実施形態のプリンタにおいては、同一領域に対し複数回の走査で記録を完成するマルチパス記録方式が採用されているため、各色のドット配置パターンを走査ごとのデータに変換する必要がある。マスクデータ変換処理部7015では、入力された各色1ビットのデータに対し、予め保持されている各インク用のマスクパターンを用いたマスク処理を施すことで、走査ごとのマスクデータを得る。
●マルチパス記録方式
マスクデータ変換処理の説明に先立ち、本実施形態のプリンタにおけるマルチパス記録方式について説明する。
本実施形態のプリンタは、記録媒体に対し記録ヘッドからインクを吐出して画像形成を行う、インクジェット記録方式によるものである。インクジェット記録方式における記録ヘッドには、その記録形式としてライン型のものとシリアル型のものがある。ライン型のものは、印刷領域幅分の記録ヘッドを用いて、記録媒体のみを副走査方向に移動させることにより記録する方式である。また、シリアル型のものは、ライン型に比べ短い幅の記録ヘッドからインクを吐出させながら、記録主走査と副走査とを交互に繰り返すことにより記録媒体上に順次画像を形成していくものである。記録主走査とは記録ヘッドを搭載したキャリッジを記録媒体に対して移動走査させることであり、1回の記録主走査を1パスとも言う。また副走査とは、記録主走査と直行する方向に記録媒体を所定量ずつ搬送することである。この場合、記録ヘッドを構成している複数のインク吐出口(以下、「記録素子」と称する)の配列密度と数によって、1回の記録主走査で記録される領域の幅が決まる。よって、その幅に対する記録主走査とその幅相当の副走査を繰り返すことで記録を進めていくのが、最も短時間で画像を形成させる方法である。
しかしながら、記録媒体上のある領域に対し、1回の記録走査のみによって記録を行うと、インクを吐出させるノズルの製造誤差や、記録ヘッドの記録主走査による気流等から、インクの記録位置にばらつきが発生し、画像品位が劣化してしまう。また、各記録主走査間の境界に濃度や色の差異等、いわゆる「つなぎすじ」が発生してしまう。そこで実際には、より画像品位を高めるために、マルチパス記録方式を採用することが多い。
マルチパス記録方式においては、1回の記録主走査(1パス)で記録可能な画像領域に対し、N回(N≧2)の記録走査を実行する。各記録主走査の間に行われる副走査の量は、記録ヘッドに配列する複数の記録素子をN個のブロックに分割した際の、各ブロックに含まれる記録素子の記録幅相当となる。すなわち、記録媒体上の同一の領域に対し、N個のブロックに含まれる記録素子によるN回の記録主走査を行うことで、画像が形成される。
記録ヘッド上の記録素子配列をN個のブロックに分割する際、各ブロックに含まれる記録素子の数は同数であることが一般的であるが、特に同数に限定されない。例えば、記録素子の総数がNで割り切れない場合には、(N−1)番目までのブロックについては該割り算の商に対応するM個の記録素子で構成し、最後のN番目のブロックについては、割り切れなかった余りであるL個の記録素子を用いても良い。また、任意のM個、L個を順に繰り返してブロック分割を行うことで、往方向(奇数番走査)での記録幅と復方向(偶数番走査)での記録幅を一定にする等の方法を採っても良い。さらに、例えば、10個の記録素子を有する記録ヘッドについて、2個、6個、2個から構成される3つの記録素子ブロックに分割し、両端に位置する2つの記録素子で記録される領域だけを2回のマルチパス記録方式による記録としても良い。この場合、中央に位置する6個の記録素子によって記録される領域については1回の記録主走査で画像が形成されることになり、マルチパス数としては、N=1.5回と表現することも可能である。
このようにマルチパス記録方式では、異なるブロックによる複数回の記録主走査によって画像が完成されるため、1回の記録主走査だけでは記録可能な画像データの全てを記録することはできない。ここで、画像データをパス毎のブロックに振り分けるために用いられるのが、いわゆるマスクパターンである。このマスクパターンは、画像信号とは独立して決定されることが多く、例えばマスクパターンと各記録素子における画像信号との論理積演算を行うアンド回路を設置しておくことで、各記録走査で与えられた画像信号を記録するか否かを決定するように構成される。したがって個々の画像データから見れば、1回の記録主走査で記録される確率がこのマスクパターンによって決定されることになる。すなわち、記録されるべき画像データが、マスクパターンによってある程度間引かれ、その間引く確率を本明細書では以下「間引き率」と称する。この「間引き率」はすなわち、各記録主走査において記録される確率(以下、「記録率」と称する)とは逆の意味を有することになる。
ここで、以上説明したマルチパス記録方式の具体例を挙げる。100個の記録素子を用いて4回のマルチパス記録を行う場合、記録素子を25個ずつの4つのブロックに分割する。各記録主走査間に行われる副走査量は、25個の記録素子相当となる。また、各記録主走査で各ブロックに対応するマスクパターンは、間引き率が75%で記録率が25%となる。このマスクパターンは4つのブロックで互いに補完し合う関係にあり、4つのマスクパターンをそれぞれ重ね合わせることにより、100%の記録が行われるように構成されている。
なお、ここでは一例として、記録素子の総数100がマルチパス数N=4によって等分される例を示したが、マルチパス記録方式におけるブロック分割は無論このような方法に限定されるものではない。先にも述べたように、マルチパス記録におけるパス数Nは記録素子の総数に対し、割り切れる値でなくても良い。同一の画像領域に対し、異なる複数のブロックによって記録主走査が行われる構成であれば、マルチパス記録方式は成立する。
上述したように、マルチパス記録方式を採用する理由は画像品位を良化させることにあるが、この方式によれば、各インク色に対するマスクパターンを制御することによって、インク記録順を制御することが可能になる。
以下、図15および図16を用いて、マルチパス記録の具体例について説明する。図15は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示した図であり、1501は記録ヘッドを示している。一般にインクジェットプリンタは数100個のノズルを有するが、ここでは説明を簡単にするため、本実施形態のインクジェットプリンタが16個のノズルを有するものとする。これらのノズルが、例えば図15に示すように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つのノズルが含まれる。1502は各ノズル群に対応するマスクパターンを示し、各ノズルが記録を行うエリアを黒塗りで示している。各ノズル群によってそれぞれのマスクパターン適用後に記録されるパターンは互いに補完の関係にあり、これらを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される。1503〜1506で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体が図中矢印の方向にノズル群の幅分ずつ搬送(副走査)される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)については、4回の記録走査(4パス)によって初めて画像が完成される。このように、記録媒体の各同一領域が複数回の走査で複数のノズル群によって形成されることは、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等を低減させる効果がある。
図16は、カラーインクのマスクパターンとクリアインクのマスクパターンの例を模式的に示した図であり、1601は記録ヘッド、1602はカラーインクのマスクパターンの例、1603はクリアインクのマスクパターンの例、を示している。ここでは、記録ヘッド1601が24個のノズルを有し、6回の記録走査で画像の記録が完了する場合を例として説明する。同図によれば、カラーインクは前半の4回の記録走査で記録を完了する。またクリアインクは、カラーインクの記録が完了した後、後半の2回の記録走査で記録を完了する。なおここでは、カラーインクを前半4回の記録走査、クリアインクを後半2回の記録走査で記録する場合を例として説明したが、本発明はもちろんこの例に限定されない。カラーインク以降にクリアインクの記録を行うことでクリアインクがオーバーコートされる形態であれば、本発明と同様の効果を得られる。
以上のようなマルチパス記録によって生成された、走査ごとの吐出データC,M,Y,K,CLは、適切なタイミングでヘッド駆動回路7016に送られ、これにより記録ヘッド7017が駆動されて、吐出データに従ってそれぞれのインクが吐出される。
尚、記録装置における上述のドット配置パターン化処理部7014やマスクデータ変換処理部7015は、それらに専用のハードウエア回路として、記録装置の不図示の制御部を構成するCPUの制御下で実行される。なお、これらの処理がプログラムに従ってCPUにより行われても、PCにおける例えばプリンタドライバによって実行されるものであっても良く、本発明を適用する上でこれら処理形態は問われない。上述した例では、8ビットの画像が入力され、各HT処理部で4ビットに量子化され、ドット配置パターン化処理で1ビットに変換される場合を例として説明を行ったが、各処理部における入出力のビット数はこの例に限定されない。すなわち、入力された多階調の画像データから、インク吐出のオン・オフの制御が可能な2階調(1ビット)への変換ができれば、その途中過程におけるビット数が異なっていても構わない。
●クリアインク記録情報LUTの生成処理
上述したように本実施形態では、クリア色分解処理部7009でクリアインク記録情報LUT7011からクリアインク値CL1,Cl2およびその面積率を選択し、クリア配置設定部7010でCL1,CL2のいずれかを画素ごとに設定する。これにより、正反射光の色付きを局所的に相殺し、大局的に該色付きを抑制することが可能となる。すなわち本実施形態における正反射光色付きの制御は、クリアインク記録情報LUT7011に基づいてクリアインク配置が制御されることによって実現されるため、クリアインク記録情報LUT7011を適切に設定することが本実施形態の特徴となる。
以下、クリアインク記録情報LUT7011、すなわちR,G,Bデータとクリアインクのインク値および面積率との対応関係の生成方法について、詳細に説明する。なお、この生成処理は本実施形態の画像形成システムにおいて行われる。すなわち、記録装置でパッチ画像を印刷し、その正反射光色付きの測色値に基づき、ホスト装置内の不図示の制御部において以下に示す方法で生成したLUTを、クリアインク記録情報LUT7011としてプリンタドライバに設定する。なお、以下に示す方法によって作成されたLUTと同等のものが作成できるのであれば、他の装置で生成したLUTをクリアインク記録情報LUT7011として設定しても良い。
まず、所定のRGBデータからなるサンプル画像にクリアインクをオーバーコートしたパッチ画像を印刷する。すなわち、色域マッピング後のRGBデータについて、カラー色分解LUT7005に基づく色分解を施してカラーインクにより均一画像を記録した上に、クリアインクをその記録量を段階的に異ならせてオーバーコートしたパッチ画像を印刷する。ここでオーバーコートするクリアインク記録量は、記録媒体に対する最大インク載り量を100%として、0%から100%まで10%刻みとする。以下、ホスト装置において、このパッチ画像における正反射光色付きの測色値を、D50、D65、光源Aの照明下でそれぞれ測定した値が予め保持されているものとして、クリアインク記録情報LUT7011を生成する処理を説明する。なお、あるR,G,Bデータに対応する正反射光色付きの測定結果は、図3に例示する通りであるとする。また測色値は、必ずしも全ての種類の照明下において測定する必要はなく、ある光源下での分光反射率データと、各光源の分光放射輝度が分かっていれば、それぞれを掛け合わせることで、各照明で測定したのと同等の結果が得られる。
図17は、観察照明に応じて、RGBデータとクリアインクのインク値および面積率との対応関係を記載したLUTを生成する処理を示すフローチャートである。なお、該フローチャートは、LUTの代表値としての1つのRGBデータに対するクリアインクのインク値および面積率を取得する処理、すなわち、図11(a),(b)に例示した1行分を設定する処理を示しているに過ぎない。実際には該フローチャートに示す処理を、複数照明のそれぞれについての各代表値のRGBデータ毎に、すなわち、照明毎にパッチ画像の各パッチについて行う必要がある。
まずS1700において、ホスト装置内に予め保持されている、パッチ画像の正反射光色付きの測色値を取得する。上述したように図17に示す処理は、ある照明についてのあるRGB値に対する、LUT値の設定処理であるから、ここでは該当する照明についての、あるRGB値に対する、測色値を取得する。
次にS1701において、記録物に対する観察照明と、正反射光色付きの目標色としてのターゲット色、および順応白色を設定する。ここで設定される観察照明としては、図8のUI例において「複数照明」や「特定照明のみ」として設定可能な照明(D50、D65、光源A、等)が設定される。ただし、ここで設定される観察照明については、上述したパッチ画像における正反射光色付きの測色値が予め取得されているものとする。尚、正反射光色付きは無彩色となることが望まれる場合が多いため、本実施形態ではターゲット色の初期設定を無彩色、つまりa*=0,b*=0とする。また、順応白色は環境照明光であるとする。
次にS1702では、上記S1701で設定された、探索対象となる複数の照明のうち、最初に探索する照明を初期値として設定する。すなわち、予め正反射光色付きデータが測定された照明のいずれか(例えばD65等)が設定される。
次にS1703では、クリアインク値CL1の記録量の初期値(例えば0%)を設定する。またS1704では、クリアインク値CL2の記録量の初期値(例えば10%)を設定する。以下、上述したクリアインク値CL1、CL2に対応する記録量(%)を、それぞれ第1のクリアインク量、第2のクリアインク量と称する。ここでは、クリアインク値CL1,CL2について、それぞれの記録量が共に0%である場合を除いて既定される記録量の全ての組み合わせについて、探索ができれば良い。したがってS1704では第2のクリアインク量の初期値として、S1703で設定された第1のクリアインク量の初期値に対して1単位ステップ分(この場合10%)だけ多い量を設定すれば良い。ここでステップとは、パッチ画像を生成した際のインク量の刻み幅に相当し、後述するS1710,S1712における第1,第2のクリアインク量のインクリメントは、このステップ単位で行われる。
次にS1705では、第1のクリアインク量の正反射光色付きと第2のクリアインク量の正反射光色付きがターゲット色を挟んで反対の色度になっているか否かを判定する。ここでターゲット色を挟んで反対の色度とは、a*b*座標上で第1および第2のクリアインク量の正反射光の色度が、ターゲット色の色度を挟んでほぼ直線上に並んでいる、すなわち対称位置にあることをいう。したがってS1705では、ターゲット色の色度を中心として該2つの正反射光の色度の角度差Δθが180±δ度の範囲内にあれば、該2つの色度が反対であると判定する。なお、δは予め設定された値である。以下、第1および第2のクリアインク量に対し、その正反射光色付きがターゲット色を挟んで互いに反対の色度になっていることを、単に反対の色度をなすとして表現する。
S1705で第1および第2のクリアインク量の正反射光色付きが互いに反対の色度になっていると判定されればS1706に進むが、反対の色度でなければS1709に進み、第2のクリアインク量を全て探索済みであるか否かを判定する。S1709で全て探索済みであると判定されればS1708に進むが、探索済みでなければS1710で第2のクリアインク量を次のステップ分だけ多い量(この場合、10%のインクリメント)に設定して、S1705に戻って処理を繰り返す。
S1706では、a*b*平面における第1のクリアインク量の正反射光色付きとターゲット色との距離ΔD1と、第2のクリアインク量の正反射光色付きとターゲット色との距離ΔD2を算出する。そしてS1707で、S1706で算出された2つの距離すなわち色差に基づき、第1および第2のクリアインク量それぞれの面積率S_CL1,S_CL2を、下式(14)により求める。
S_CL1={ΔD2/(ΔD1+ΔD2)×100}% ・・・(14)
S_CL2={ΔD1/(ΔD1+ΔD2)×100}%
次にS1708では、第1のクリアインク量が全て探索済みであるか否かを判定する。全て探索済みであればS1711に進むが、探索済みでなければS1712で第1のクリアインク量を次のステップ分だけ多い量(この場合、10%のインクリメント)に設定して、S1704に戻って処理を繰り返す。
S1711では、S1701で設定された全ての照明について探索済みであるか否かを判定する。全て探索済みであればS1713に進むが、探索済みでなければS1714で次の照明を探索対象に設定して、S1703に戻って処理を繰り返す。
ここまでの処理によって、予め正反射光色付きが測定されている全ての照明(この場合D65,D50,照明A)について、互いの正反射光色付きが反対の色度となる第1のクリアインク量と第2のクリアインク量の組み合わせの全てが抽出される。以下、この互いの正反射光色付きが反対色度となる第1のクリアインク量と第2のクリアインク量の組み合わせを、反対色度組み合わせと称する。
次にS1713において、反対色度組み合わせの全てについて、第1および第2のクリアインクによる正反射光色付きを合成して得られる正反射光の色と、ターゲット色との色差を算出する。ここでは、該色差として、a*b*平面上の距離を示す合成色差ΔEabを下式(15)〜(17)に従って算出する。なおここでは、第1のクリアインク量の正反射光色付きを(a1*,b1*)、第2のクリアインク量の正反射光色付きを(a2*,b2*)とした。
ΔEab=√(Δa2+Δb2) ・・・(15)
ただし、
Δa=a1*・{ΔD2/(ΔD1+ΔD2)}+a2*・{ΔD1/(ΔD1+ΔD2)} ・・・(16)
Δb=b1*・{ΔD2/(ΔD1+ΔD2)}+b2*・{ΔD1/(ΔD1+ΔD2)} ・・・(17)
S1713では、S1705で得られた反対色度組み合わせについて、該反対色度組み合わせが抽出された照明はもちろん、その他の照明も含む全ての照明について、該反対色度組み合わせにおける合成色差ΔEabを算出する。すなわち、ある照明で反対色度組み合わせとして抽出されたが、該組み合わせは異なる照明では反対色度とならない場合も含めて、合成色差ΔEabを算出する。
次にS1715において、観察照明に応じた第1および第2のクリアインク量を決定して、LUTを作成する。ここでは、S1705で得られた第1および第2のクリアインク量の反対色度組み合わせのそれぞれについて、ターゲット色との色差を環境照明に応じて評価する評価値を算出し、該評価値に基づいて、環境照明ごとに最適な反対色度組み合わせを決定する。
以下、S1715における観察照明ごとの反対色度組み合わせの決定処理について、詳細に説明する。まず下式(18)〜(21)に示すように、それぞれの反対色度組み合わせにおいて合成される正反射光の色と、ターゲット色との色差を示す評価値Kを算出する。ここでは説明のため、4つの反対色度組み合わせa,b,c,dについて、それぞれの評価値Ka,Kb,Kc,Kdを算出した例を示す。
Ka=α・ΔEabD50,a+β・ΔEabD65,a+γ・ΔEabA,a ・・・(18)
Kb=α・ΔEabD50,b+β・ΔEabD65,b+γ・ΔEabA,b ・・・(19)
Kc=α・ΔEabD50,c+β・ΔEabD65,c+γ・ΔEabA,c ・・・(20)
Kd=α・ΔEabD50,d+β・ΔEabD65,d+γ・ΔEabA,d ・・・(21)
上記式(18)〜(21)によれば、評価値Ka,Kb,Kc,Kdは、クリアインクの反対色度組み合わせa,b,c,dのそれぞれにおける、各環境照明での合成色差ΔEabの和を示している。なお、α,β,γは各環境照明に対する重み係数である。
本実施形態では、上記評価値Ka,Kb,Kc,Kdに基づき、観察照明条件に応じた反対色度組み合わせ、すなわち第1および第2のクリアインク量を決定する。まず、観察照明として全ての照明(D65,D50,A)が選択された場合に対応するLUT値を取得する際には、D65,D50,Aのいずれの照明で観察しても正反射光色付きの目立たないような記録物を得るために、各重み係数をα=β=γ=1とする。また、観察照明として複数照明、例えばD65,D50の2種類が選択された場合には、D65,D50のいずれかの照明で観察した際に正反射光色付きが目立たなければ良いため、各重み係数をα=β=1、γ=0とする。また、観察照明として特定照明のみ、例えばD50が選択された場合には、D50照明で観察した際に正反射光色付きが最も目立たなければ良いため、各重み係数をα=1、β=γ=0とする。
そして観察照明ごとに、以上のように設定された重み係数α,β,γのもとで各評価値Ka,Kb,Kc,Kdを算出し、最小となる評価値を選択することで、当該観察照明においてターゲット色との色差が最小となる反対色度組み合わせが選択される。すなわち、少なくとも2種類の照明の組み合わせからなる観察照明について、該組み合わせにおける各照明についての合成色差ΔEabの和(上記各評価値)が最小となるような、反対色度組み合わせが決定される。以上のように選択された評価値に応じた反対色度組み合わせ、すなわち第1および第2クリアインク量が、それぞれの観察照明に対するLUTに設定される。このとき、該組み合わせに応じてS1707で算出された、第1および第2のクリアインク量それぞれの面積率S_CL1,S_CL2も、LUTに設定される。以上のように設定された2つのクリアインク値およびその面積率は、それに応じてクリアインク画像を形成した際に、照明の正反射光の色が目標色(無彩色)となるような値である。
なお、実際のクリアインク記録情報LUT7011には、該選択された第1および第2のクリアインク量(%)に対応する、8ビットのクリアインク値CL1,CL2が設定される。例えば、クリアインク量が0%,100%であればクリアインク値をそれぞれ0,255とし、同様にクリアインク量が25%,50%であればクリアインク値を64,128とする。
上述したように本実施形態では、図17のフローチャートに示す処理を、照明ごとに、パッチ画像における全てのRGBデータに対して実行することで、クリアインク記録情報LUT7011が生成される。なお本実施形態では、観察者の順応白色として照明環境を用いる例を示したが、本発明はこの例に限らず、例えば観察条件入力部7002で任意の順応白色を設定可能とすることで、ユーザの順応状態に応じたLUTを生成することができる。
以上説明したように本実施形態によれば、観察照明に応じて、または観察照明によらずに、正反射光色付きが所望のターゲット色に近い記録物を得るための、クリアインク記録情報LUT7011を生成する。このように事前に生成されたクリアインク記録情報LUT7011に基づいて、画像形成時におけるクリアインクの打ち込み量を決定することで、特別な後処理装置等を備えることなく、印刷物の正反射光色付きを抑制することが可能になる。特に、観察照明によらずに正反射光色付きが無彩色等、所定の色味になるように制御された印刷物、あるいは、予め規定された観察照明で正反射光の色付きが所定の色味になるように制御された印刷物を得ることが可能になる。
尚、本実施形態においては、正反射光色付きをCIE L*a*b*表色系上の値とする例を示したが、本発明はこの例に限らず、xy色度座標等の他の表色系を用いても、同様の効果が得られる。
また、本実施形態では正反射光の色度が目標色に対して反対となる2つのクリアインク記録量を局所的に混在させることにより、大局的な正反射光色付きを抑制する例を示した。しかしながら上述したように、本発明において局所的に混在させるクリアインク記録量は2つに限らず、例えば3つ以上の記録量を適用することも可能である。3つ以上のクリアインク記録量を適用する場合、上記S1705で反対色度組み合わせを抽出する処理に代えて、各記録量による正反射光色付きを合成した際に、得られる色度が目標色に最も近づく組み合わせを抽出するように制御すれば良い。
<その他の実施形態>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。