実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について、図に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る貫流ファンが搭載された空気調和機の室内機1を示す外観斜視図、図2は図1のQ−Q線における縦断面図である。空気の流れを、図1では白抜き矢印で示し、図2では点線矢印で示す。図1及び図2に示すように、空気調和機の室内機1は部屋の壁に設置される。室内機上部1aには、室内空気の吸込口となる吸込グリル2、ホコリを静電させ集塵する電気集塵器5、ホコリを除塵する網目状のフィルタ6が配設される。さらに、複数のアルミフィン7aに配管7bが貫通する構成の熱交換器7が、羽根車8aの正面側と上部側に、羽根車8aを囲むように配置される。また、室内機前面1bは前面パネルで覆われ、その下側に吹出口3が開口して設けられる。送風機である貫流ファン8は、羽根車8aに対して吸込領域E1と吹出領域E2を分離するスタビライザー9及びリアガイド部10を有する。また、スタビライザー9は、熱交換器7から滴下される水滴を一時貯水するドレンパン9a、羽根車8aに対向する舌部9b、吹出風路11の前面を構成するフロントガイド部9cを有する。リアガイド部10は、例えば渦巻状であり、吹出風路11の背面を構成する。吹出口3には上下風向ベーン4a、左右風向ベーン4bが回動自在に取り付けられ、室内への送風方向を変化させる。図中、Oは羽根車8aの回転中心を示し、E1は羽根車8aの吸込領域、E2は回転中心Oに対して吸込領域E1と反対側に位置する吹出領域である。スタビライザー9の舌部9bとリアガイド部10の空気流の上流側端部とで、吸込領域E1と吹出領域E2が分離されている。また、ROは羽根車8aの回転方向を示す。
このように構成された空気調和機の室内機1において、電源基板を有する制御装置によって羽根車8aを回転駆動するモータに通電されると、羽根車8aがRO方向に回転する。すると室内機上部1aに設けられた吸込グリル2より部屋の空気が吸い込まれ、電気集塵器5、フィルタ6でホコリが除去された後、熱交換器7で空気は加熱され暖房、または冷却され冷房、除湿のいずれかがなされ、吸込領域E1から貫流ファン8の羽根車8aへ吸い込まれる。羽根車8aの内部を流れた後、羽根車8aから吹出領域E2に吹き出された空気流は、背面に位置するリアガイド部10、前面に位置するフロントガイド部9c、室内機1の筐体両側面で構成される吹出風路11に誘導されて吹出口3へ向かい、部屋へ吹き出されることで空気調和が行われる。この際、上下風向ベーン4a、左右風向ベーン4bにより吹出空気を上下、左右方向へ風向制御している。
図3は本実施の形態に係る貫流ファン8の羽根車8aを示す概略図であり、図3(a)は貫流ファン8の側面図、図3(b)は図3(a)のS−S線断面図を示し、下半分は向こう側の複数枚の翼が見えている状態を示し、上半分は1枚の翼13を示している。図4(a)は5個の羽根車単体14を回転軸線方向AXに固定してなる羽根車8aを拡大して示す斜視図、図4(b)は支持板を示す説明図である。図4では、モータ16やモータシャフト16aを省略して示す。羽根車8aを構成する羽根車単体14の数や1つの羽根車単体14を構成する翼13の数はいくつでもよく、この個数で限定されるものではない。また、図14(b)では、翼13の数を省略して分かりやすく示す。
図3、図4に示すように、貫流ファン8の羽根車8aは、回転軸線方向AX(貫流ファンの長手方向)に複数、例えば5個の羽根車単体14を有する。羽根車単体14の一端に環状の支持板12が配設され、回転軸線方向AXに伸びる複数の翼13が支持板12の外周に沿って配設される。例えばAS樹脂やABS樹脂などの熱可塑性樹脂で成形された羽根車単体14を、回転軸線方向AXに複数個備え、例えば超音波溶着などによって翼13の先端を隣に配置する羽根車単体14の支持板12に連結する。そして他端に位置する端板12bには翼13が設けられておらず、円板のみである。回転軸線方向AXの一端に位置する支持板12aの中心にファンシャフト15aが設けられ、他端に位置する端板12bの中心にファンボス15bが設けられる。そして、ファンボス15bとモータ16のモータシャフト16aがネジ等で固定される。即ち、羽根車8aの回転軸線方向AXの両端に位置する支持板12a、端板12bは円板形状であり、回転軸線17が位置する中央部分にファンシャフト15a及びファンボス15bが形成される。両端を除く支持板12は、回転中心となる回転軸線17が位置する中央部分が空間の環状で、図4(b)に示すように内径K1と外径K2を有する。図4(b)に示す翼の数は省略して12枚だけ示している。ここで、図3(b)、図4(b)で、一点鎖線はモータシャフト16aとファンシャフト15aを結び、回転中心Oを示す仮想回転軸線であり、ここでは回転軸線17とする。
次に、本実施の形態に係る翼13の形状について、詳しく説明する。図5は貫流ファン8の羽根車単体14に取り付けられる1枚の翼13を示す斜視図である。翼13は回転軸線方向AXの両端で支持板12に溶着によって固定されている。図では一方の支持板12の一部を示す。翼13の回転方向側の面で回転時に圧力を受ける面を翼圧力面26、翼圧力面26と反対側の面で回転時に負圧になる面を翼負圧面27とする。また、支持板12の内周側に位置する縁部を翼内周側縁部19a、支持板12の外周側に位置する縁部を翼外周側縁部19bとする。
さらに、翼13は、回転軸線方向AX(長手方向)で同一形状ではなく、中央部分に長弦翼部20、両端部に短弦翼部21の3つの部分に分割される。長弦翼部20は短弦翼部21の翼弦線の長さよりも長い翼弦線を有し、翼内周側縁部19aで内周側に突出されている。1つの羽根車単体14における翼13の回転軸線方向AXの長さをL、長弦翼部20の回転軸線方向AXの長さをL1、1つの短弦翼部21の回転軸線方向AXの長さをL2とし、本実施の形態では例えば、L1=L2とする。即ち、長弦翼部20は翼13の回転軸線方向AXの中央部分に、全体の1/3の長さで設けられている。
また、翼13を構成する長弦翼部20及び短弦翼部21の断面形状を図6に示す。図6は長弦翼部20と短弦翼部21の回転軸線17に垂直な断面を重ねて示す説明図である。長弦翼部20及び短弦翼部21の断面において、翼圧力面26と翼負圧面27の中央に引いた線をそり線23とする。このそり線23は、例えば円弧形状である。長弦翼部20のそり線23aは、短弦翼部21のそり線23bをそのままの円弧形状を保つように内周側に延長する。長弦翼部20及び短弦翼部21の翼内周側縁部20a、21a及び翼外周側縁部20b、21bはいずれもそり線23a、23b上の一点24a、25a、24b、25bを中心とする円の略円弧を構成する形状である。ここで、図5における翼内周側縁部19aは、図6における翼内周側縁部20a、21aを示し、図5における翼外周側縁部19bは、図6における翼外周側縁部20b、21bを示す。そして、複数の翼部を有する1つの翼13として説明する場合には翼内周側縁部19a及び翼外周側縁部19bを用い、長弦翼部20と短弦翼部21のそれぞれについて説明する場合には、翼内周側縁部20a、21aや、翼外周側縁部20b、21bを用いる。長弦翼部20は翼圧力面26a、翼負圧面27aを有し、短弦翼部21は翼圧力面26b、翼負圧面27bを有する。ここで、翼外周側縁部20b、21bの形状は同じであるので、中心24b、25bは同じ位置である。翼内周側縁部20a、21aの形状は、それぞれ中心24a、25aを中心とする半径の同じ円の円弧とする。そして、長弦翼部20は、短弦翼部21の翼圧力面26bと翼負圧面27b間の最大幅(翼厚と称する)Wmaxは同じとし、翼外周側縁部20bの中心24bと翼内周側縁部20aの中心24a間で円弧形状のそり線23aを形成し、翼圧力面26aと翼負圧面27aとが滑らかになるように構成する。翼弦線は翼外周側縁部と翼内周側縁部とを結ぶ線分であり、長弦翼部20の翼弦線28aは、翼外周側縁部20bの円弧を構成する中心24bと翼内周側縁部20aの円弧を構成する中心24aを結ぶ線分である。同様に短弦翼部21の翼弦線28bは、翼外周側縁部21bの円弧を構成する中心25bと翼内周側縁部21aの円弧を構成する中心25aを結ぶ線分である。図において、長弦翼部20の翼弦線28aを実線直線、短弦翼部21の翼弦線28bを点線直線で示す。長弦翼部20の翼弦線28aの長さは短弦翼部21の翼弦線28bの長さよりも長く、この長さの差をDLとする。即ち、差DLは、中心25bを中心として短弦翼部21の翼弦線28bを矢印に示すように回転移動したときの、長弦翼部20の翼弦線28aとの差DLである。また、1つの羽根車単体14を構成する複数の翼13において、回転軸線17に垂直な断面で、羽根車8aの回転中心Oを中心、即ち回転軸線17の位置とし、翼外周側縁部20b、21bの円弧を構成する中心24b、25bを結んでできる同一径の円の円周を外径線18とし、点線で示す。本実施の形態では、羽根車単体14を構成する複数の翼13で、翼外周側縁部20b、21bの形状は同じであり、その中心24b、25bを通る外径線18は1つの円を構成する。点線37は羽根車8aの回転中心Oと翼外周側縁部20b、21bの円弧を構成する中心24b、25bを結ぶ線である。長弦翼部20の翼内周側縁部20aは短弦翼部21の翼内周側縁部21aを点線37に近づくように延長しているので、長弦翼部20の翼弦線28aは短弦翼部21の翼弦線28bよりもDLだけ長く、かつ点線37に接近する。
本実施の形態で用いた翼の各長さの一例を以下に示す。
羽根車単体14の端部で複数の翼13に固定されている環状の支持板12の外径をΦ110mm、内径をΦ60mmとし、この支持板12の円周上に複数枚、例えば35枚の翼13が固定されている。また、1枚の翼13では、長弦翼部20の翼弦線28aは、短弦翼部21の翼弦線28bよりも内周側にDL=2mm長く突出した形状である。また、回転軸線方向AXでは、例えば羽根車単体14の翼の長さL=90mm、長弦翼部20の長さL1=30mm、短弦翼部21の長さL2=30mmとする。
以下、本実施の形態に係る翼13の動作について説明する。本実施の形態では、短弦翼部21の翼内周側縁部21aの形状が、貫流ファン8の吹出領域E2における流入側の構成や吹出風路11の形状に応じ、予め想定される空気の平均的な流れに合わせて設定されるとする。図7は吹出口3を示す説明図であり、図7(a)は室内機1の縦断面を示し、図7(b)は1つの羽根車単体14に対する吹出口3を示す。実際には5つの羽根車単体14で羽根車8aが構成される場合、回転軸線方向AXに略5倍程度の長さとなる。図7(a)に示すように、リアガイド部10の空気流に対して下流側の端部A2から、その位置の傾斜に対して垂直にフロントガイド部9cに向かって直線30を引く。この直線30とフロントガイド部9cと交わった点をA1とする。空気調和機の室内機1を正面の斜め下側から見た場合、吹出口3は図7(b)に示すように、略長方形状になり、上側の辺がA1の位置であり、下側の辺がA2の位置であり、縦の両辺31は羽根車単体14の両端に位置する支持板12または支持板12aまたは端板12bの位置である。また、縦の長さは直線30の長さ、即ちA1とA2間の距離であり、横の長さは羽根車単体14の回転軸線方向AX(長手方向)の長さである。
図2で示したように、熱交換器7で空気調和された空気流は、羽根車8aの吸込領域E1の翼間を通り、羽根車8aの内側を通過して、回転中心Oの反対側の吹出領域E2の翼間を経て吹出風路11から吹出口3へ向かう。羽根車8a内部の空気の流れは、翼内周側縁部20a、21aの形状に大きく左右される。即ち、翼内周側縁部20a、21aの形状が吹出領域E2の翼に向かう方向を決めている。ここで、長弦翼部20と短弦翼部21での空気流の違いを図について説明する。図8(a)は、吸込領域E1で長弦翼部20の翼間を通過して羽根車8aの内部に空気流が流れ込む時の空気流を示す説明図であり、図8(b)は羽根車8aの内部の空気流を示す説明図である。図8(a)に示すように、空気流は長弦翼部20の翼外周側縁部20bから流入し、長弦翼部20の翼圧力面26aと翼負圧面27aに沿って流れ、翼内周側縁部20aの形状に応じて実線矢印の方向に流れる。そして、図8(b)の実線で示すように吹出側の翼間を通過し、吹出領域E2の領域32付近から吹出風路11に吹き出す。
また、図9(a)は、吸込領域E1で短弦翼部21の翼間を通過して羽根車8aの内部に空気流が流れ込む時の空気流を示す説明図であり、図9(b)は羽根車8a内部の空気流を示す説明図である。図9(a)に示すように、空気流は短弦翼部21の翼外周側縁部21bから流入し、短弦翼部21の翼圧力面26bと翼負圧面27bに沿って流れ、翼内周側縁部21aの形状に応じて点線矢印の方向に流れる。そして、図9(b)の点線で示すように吹出側の翼間を通過し、吹出領域E2の領域34付近から吹出風路11に吹き出す。
以下、長弦翼部20(図8)と短弦翼部21(図9)の流れを比較する。長弦翼部20では翼内周側縁部20aで空気流が図に向かって右上方向に跳ね上げられて、吹出側の翼間に向かう。一方、長弦翼部20での流れと比較して、短弦翼部21では翼内周側縁部21aで空気流がそれほど跳ね上げられることなく右下方向に流れて、吹出側の翼間に向かう。このため、長弦翼部20では、主に空気流が吹出領域E2の背面側である領域32の翼間に流れ、さらに翼間から吹出風路11に流れる。領域32から吹き出される空気流は、リアガイド部10に沿って背面側を進み、吹出口3の中央部よりも下側から吹き出される。これに対し、短弦翼部21では、主に空気流が吹出領域E2の前面側である領域34の翼間に流れ、さらに翼間から吹出風路11の前面側に流れる。領域34から吹き出される空気流は、吹出風路11のリアガイド部10とフロントガイド部9cの中央部分を進み、吹出口3の中央部よりもやや上側から吹き出される。即ち、翼内周側縁部20a、21aの形状によって、吹出側の翼間に向かう空気流の方向が異なる。このため、吹出口3に到達したときの空気流の吹出位置が異なり、長弦翼部20では下側の方に主に流れ、短弦翼部21では上側の方に主に流れる。
ここで、さらに領域32付近の翼間での空気流の流れについて、図10に基づいて説明する。図10は吹出領域E2で空気流が翼間に流入する流れを示す説明図である。図10(a)のように領域32付近では、吸込領域E1から羽根車8aに吸い込んだ空気流は矢印33aのような方向からの流れになっている。図10(b)は長弦翼部20の翼間に流入する気流ベクトル33a及び翼間から流出する気流ベクトル33bを示し、図10(c)は短弦翼部21に流入する気流ベクトル33a及び翼間から流出する気流ベクトル33bを示す。この気流ベクトル33aは回転する翼の座標系から見た相対速度を示している。長弦翼部20及び短弦翼部21のどちらの場合も、翼間に流入する気流ベクトル33aは、翼弦線28a、28bとほぼ平行な流れ特性になる。即ち、翼間に流入する気流ベクトル方向33aと流出する気流ベクトル方向33bの向きの変化が小さく、長弦翼部20と短弦翼部21における翼間の通風抵抗は、略同様である。ところが、長弦翼部20は翼圧力面26a及び翼負圧面27aの合計翼面積が、短弦翼部21に比べて大きいので、吹き出す空気流に対してエネルギーを多く与えるため、長弦翼部20で吹き出し風速が速くなる。即ち、領域32では、図8に示したように、長弦翼部20の翼間を通過して跳ね上げられた空気流が主に流れることに加え、長弦翼部20で翼面積が大きいことによって、さらに風速が速くなる。
次に、領域34付近の翼間での空気流の流れについて、図11に基づいて説明する。図11は吹出領域E2で空気流が翼間に流入する流れを示す説明図である。図11(a)のように領域34付近では、吸込領域E1から羽根車8aに吸い込んだ空気流は矢印35aのような方向からの流れになっている。図11(b)は長弦翼部20の翼間に流入する気流ベクトル35a及び翼間から流出する気流ベクトル35bを示し、図11(c)は短弦翼部21に流入する気流ベクトル35a及び翼間から流出する気流ベクトル35bを示す。翼間に流入する気流ベクトル35aは回転中心0と翼外周側縁部20b、21bを結ぶ線分37とほぼ平行な流れになる。
図11(b)、(c)に示すように、翼間に流入する気流ベクトル35a(回転する翼の座標系から見た相対速度)は、翼のそり線23a、23bに沿うように流れる特性を持つ。即ち、長弦翼部20と短弦翼部21とを比較すると、長弦翼部20の方がそり線23aの長さが長いので、翼間を通過する際の流入35aから流出35bの気流の転向角度が大きくなる。このため、長弦翼部20の方が短弦翼部21よりも翼間を通過する通風抵抗が大きくなる。その結果、通風抵抗が小さい短弦翼部21からの吹き出し風速が速くなる。即ち、領域34では、図9に示したように、短弦翼部21の翼間を通過した空気流が主に流れることに加え、短弦翼部21では長弦翼部20よりも翼間の通風抵抗が小さいため、さらに風速が速くなる。
上記のことから、羽根車単体14における吹出口3での空気流を図12に基づいて説明する。図12(a)は長弦翼部20の翼間を流れる空気流を示し、空気流39aはリアガイド部10の近くを流れて、吹出口3のA2に近い部分から吹き出す。図12(c)は吹出口3から吹き出される空気流の分布を示し、長方形状の吹出口3の横の長さを羽根車単体14の回転軸線方向AXの長さとする。長弦翼部20が形成されている中央部分(実線で示す)では、上下方向のA1とA2の間の中央部分よりも下側に空気流39aが吹き出される。また、図12(b)は短弦翼部21の翼間を流れる空気流を示し、空気流39bはA1とA2の中央部分よりもA1に近い部分を流れて、吹出口3から吹き出す。図12(c)の短弦翼部21が形成されている両端部分(点線で示す)に示すように、上下方向のA1とA2の間の中央部分よりも上側に空気流39bが吹き出される。
このように、異なる長さの翼弦線を有する長弦翼部20と短弦翼部21で1枚の翼13を構成することで、吹出風路11で、上下方向に空気流の吹出方向を変化させて、吹出口3の全体に広範囲に広がる空気流が得られる。吸込領域E1で翼間に流れる空気流が、吹出領域E2で異なる部分の翼間に流れて吹出風路11に吹き出されることを、ここでは「異なる長さの翼弦線を有する長弦翼部20と短弦翼部21によって、空気流が吹き分けられる」とする。
図12(c)に示す空気流39a、39bは、羽根車8aから吹き出される空気流の最高速度近傍の速度、例えば(最高速度ー5%)の速さの空気流の範囲を示す。また、一点鎖線の領域は、羽根車8aから吹き出される空気流の平均風速以上の速さの空気流の範囲を高速流領域41として示す。また、平均風速の例えば10%以下で、特に速度の遅い領域を低速流領域42として示す。
比較例として、例えば、従来のように1つの翼弦線長さで構成した一種類の翼、即ち回転軸線方向AXに同じ幅の翼、例えば短弦翼部21のみで羽根車単体14を構成した場合の吹出口3における空気流の分布を図13に示す。短弦翼部21のみの場合には、空気流の風速分布がA1側、即ちA1とA2の中央部分よりも上側に偏る。さらに吹出領域E2では、短弦翼部21の翼内周側縁部21aの向きに応じて流れやすい向きの空気流が翼間に集中する。また、高速流領域41も空気流39bの近傍に限定され、それほど広がっていない。逆に低速流領域42は大きく、吹出口3で空気流が偏っている様子が現れている。このように、所定の流れ方向の空気流が翼間に集中すると、最大風速が速くなって、風速の2乗に比例してエネルギー損失が増大すると共に、風速の6乗に比例して騒音が増大する。また、長弦翼部20のみで構成した翼を用いても同様に、A1とA2の中央部分よりも下側に偏り、かつその部分に集中するために最大風速が大きくなる。
これに対し、本実施の形態では、翼弦線長さの異なる2つの長弦翼部20と短弦翼部21とで翼を構成しているので、吸込領域E1から吹出領域E2に流れる空気流を吹出風路11で上下方向に分散させることができる。長弦翼部20は下側に吹き出し、短弦翼部21は上側に吹き出すというように、A1とA2間で吹出範囲が広がるため、図12(c)に示したように略V字状に高速流領域41が広がり、風速分布が均一化される。さらに範囲の広がった高速流領域41の流れが周囲の低速流を引きこんで流れるため、低速流領域42の範囲が狭くなる。従って、同一風量を送風したときには吹出口3での最大風速値を低減することができ、ファン全体の負荷を小さくでき、風速の累乗に比例する騒音を低減できる。
図14は横軸に風速、縦軸に吹出口3の上側(A1)と下側(A2)の位置を示す特性図である。参考データとして、短弦翼部21のみのグラフは実線曲線43のようになり、A1側で風速が大きく局所に集中している。本実施の形態による貫流ファンにおいて、長弦翼部20による空気流の風速分布を点線曲線45に示し、短弦翼部21による空気流の風速分布を点線曲線44に示す。実線曲線46は、短弦翼部21での風速を示す点線曲線44と、長弦翼部20での風速を示す点線曲線45を含み、羽根車単体14の吹出口3を側面から見て、回転軸線方向AXの各位置で最大風速値をプロットして示す曲線である。本実施の形態に係る吹出口3の最大風速分布(実線曲線46)と、全て短弦翼部21で構成した場合の最大風速分布(実線曲線43)を比較すると、実線曲線46では実線曲線43に比べてA1、A2間で幅広くなって風速分布が均一化され、最大風速値が低減されているのがわかる。
図15、図16は空気調和機の室内機の定格風量(18m3/min)で本形態の形態によるファンを用いた送風機の実験結果を示す特性図である。図15は横軸に風量(m3/min)、縦軸に電力割合を示しており、{(長弦翼部+短弦翼部)の構成の電力}/{短弦翼部のみの構成の電力}を示す。実線曲線47に示すように貫流ファンのトルク負荷が約3%程度低減された結果が得られた。図16は横軸に風量(m3/min)、縦軸に騒音差を示しており、{(長弦翼部+短弦翼部)の構成の騒音}―{短弦翼部のみ構成の騒音}を示す。実線曲線48に示すように、定格風量(18m3/min)にて、騒音が0.3dB程度低減された結果が得られた。図15、図16では、短弦翼部のみの構成のものと比較したが、長弦翼部のみの構成のものでも同様のことが言える。
以上のように、本実施の形態では、環状の支持板12の外周に沿って設けられる複数の翼13を有する羽根車単体14を支持板12の中心を通る回転軸線17の方向AXに複数固着されてなる羽根車8aを備え、翼13は、回転軸線方向AXで複数の翼部に分割され、分割された翼部のうちの少なくとも1つの翼部20は、翼13の回転軸線17に垂直な断面における翼13の翼外周側縁部20bと翼内周側縁部20aとを結ぶ線分である翼弦線28aの長さが、他の少なくとも1つの翼部21の翼弦線28bの長さよりも長く構成され、長い翼弦線28aを有する翼部20の翼内周側縁部20aは短い翼弦線28bを有する翼部21の翼内周側縁部21aよりも内周側に突出されることにより、複数の翼部20、21でそれぞれの翼内周側縁部20a、21aの形状に応じた空気流を形成することで、吹出領域E2では主に周方向で、背面側や前面側に空気流の範囲を広げることができる。これによって、吹出口3のフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で空気流の高速流領域41を広範囲にでき、風速分布が均一化されて最大風速が低減され、エネルギー損失及び騒音を低減できる貫流ファンを得ることができる。
特に、本実施の形態では、長弦翼部20は短弦翼部21のそり線を内周側に突出するように延長して構成したので、少なくとも2つの異なる翼弦長を有する3つの翼部20、21で1つの翼13を構成していても、長弦翼部20と短弦翼部21の形状の変化を小さくできる。このため、翼間を流れる空気流はスムーズであり、エネルギー損失の低減を図ることができる。
即ち、本実施の形態では、翼13の回転軸線17に垂直な断面で、翼13の回転方向に対して前面である翼圧力面26と背面である翼負圧面27の中央の線をそり線28a、28bとし、長弦翼部20のそり線28aは、短弦翼部21のそり線28bを翼内周側縁部19aで内周側に円弧状に延長して構成されることにより、吸込領域E1で空気流がスムーズに翼間に導かれると共に、吹出領域E2で空気流がスムーズに翼間から吹き出され、エネルギー損失が低減され、吹き分け効果が確実に得られる。
ここで、長弦翼部20の翼弦線28aは、短弦翼部21の翼弦線28bよりも長く、翼弦線長さの差DL=2mmとしたがこれに限るものではない。長弦翼部20の翼弦線28aを短弦翼部21の翼弦線28bの1/8〜1/3長くすればよい。例えば、短弦翼部21の翼弦線28bを12mmとしたとき、長弦翼部20の翼弦線28aは13.5mm〜16mmとする。長弦翼部20の翼弦線28aが13.5mmよりも短いと、長弦翼部20を有する効果が得られず、16mmよりも長いと、羽根車8a内でスムーズな空気流が得られない。
図17は、本実施の形態に係り、横軸に羽根車単体の回転軸線方向AX長さに対する長弦翼部の幅(%)、縦軸に電力割合{(長弦翼部+短弦翼部)の構成の電力}/{短弦翼部のみの構成の電力}を示す特性図である。これは、翼13の全てを単一の短弦翼部21で構成した場合に幅0%とし、翼13の全てを単一の長弦翼部20で構成した場合に幅100%とする。また、回転軸線方向AXの中央部分に長弦翼部20を配置し、その長さL1を変化させたときの電力割合を示している。例えば、翼13の全てを単一の短弦翼部21で構成した場合と比較して、長弦翼部20の幅L1が羽根車単体14の全体の長さLの20%で構成した場合(短弦翼部21の長さL2は全体の80%)には、使用電力が2%程度低減されることを示している。そして、長弦翼部20の長さL1が60%(短弦翼部21の長さL2が40%)で使用電力が5%程度となり最も低減されている。ただし、図17は短弦翼部21に対して長弦翼部20の長さを変化させたときの特性を示しており、長弦翼部20と短弦翼部21の翼弦線長さ及び翼弦線長さの差に応じて多少は異なってくる。この図から、異なる2つの翼弦線を有する翼部で1つの翼13を構成する場合、1つの翼弦線の長さの翼部が全体の略20%以上で使用電力を低減する効果が得られている。このときの他の長さの翼弦線を有する翼部は略80%以下になるので、1つの翼弦線の長さの翼部は全体の略20%以上かつ略80%以下で使用電力を低減することができる。さらに、長弦翼部20の長さL1が全体の50%〜70%で構成すれば、使用電力を大きく低減することができるので、好ましい。
図5に示した本実施の形態の構成では、羽根車単体14で、回転軸線方向AXに長弦翼部20を全体の1/3程度、2つの翼部を短弦翼部21として全体の2/3としたが、これに限定されるものではない。1つのどちらか一方を略20%以上かつ略80%以下の長さになるように構成すればよい。実験によると、どちらか一方が20%よりも短い構成、即ち他方が80%よりも長い構成にすると、異なる長さの翼弦線で構成したことによる効果がほとんど得られず、1つの翼弦線で構成した結果とほぼ同じであった。ここで、短弦翼部21のように同じ翼弦線長さを有する翼部が2つ以上で構成される場合には、短弦翼部21の長さL2の合計L2*2を、全体の長さLの略20%〜80%の範囲で構成すればよい。
以上のように、所定の長さの翼弦線を有する1つの翼部の回転軸線方向AXの長さ、または同一の長さの翼弦線を有する複数の翼部の回転軸線方向AXの長さの合計が、羽根車8aに設けられる翼13の全体の長さLの略20%以上かつ略80%以下で構成されることにより、確実に異なる方向への吹き分け効果が得られ、吹出風路11のフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で空気流の範囲が広げられ、最大風速値が低減されることでエネルギー損失及び騒音が低減される。
また、特に、長弦翼部を回転軸線方向AXの中央部分に設け、その長手方向の長さは全体の略50%〜70%程度で構成すれば、使用電力の低減効果が確実に得られるので好ましい。例えば、支持板12に連続する一端部から、短弦翼部21が全体の25%、長弦翼部20が全体の50%、短弦翼部21が全体の25%として、他端部の支持板12に連続するというように構成すれば、翼弦線の異なる翼部による空気流の吹き分けを効果的に利用でき、吹出口3における高速流領域41の分布を拡大でき、低速流領域42が低減される。
また、1つの羽根車単体14において、長弦翼部20及び短弦翼部21が回転軸線方向AXにいくつ設けられていてもよいが、その1つの翼部の長さL1、L2は共に全体の長さLの略10%以上で構成するのが好ましい。1つの翼部の長さL1、L2が全体の長さLの略10%よりも短いと、吸込領域E1で翼部の翼間を通過した空気流の風量が少なく、隣接する翼部の空気流に影響される。このため、吹出領域E2で背面側や前面側に空気流の範囲を十分に広げることができない。
即ち、翼部のそれぞれの回転軸線方向AX長さは、羽根車単体14に設けられる翼13の全体の長さLの略10%以上で構成されることにより、確実に吹き分け効果が得られ、吹出風路11のフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で空気流が吹き分けられて範囲が広がり、吹出口3に流れる空気流の速度分布がさらに均一化される。
回転軸線方向AXに単一幅の翼で羽根車単体14を構成した場合、吹出領域E2から吹き出される空気流は、図13に示すように、支持板12に近い部分で高速流領域41の幅がA1−A2間で上下に広がり、中央部分では高速流領域41の上下方向幅が狭まって局所的な高速流となっている。これは支持板12に近い部分では、支持板12によって回転軸線方向AXに流れる漏れ流れが遮られるが、中央部分では両側に漏れ流れとして流れ、風量が減少するためである。そこで、フロントガイド部9cとリアガイド部10間で高速流領域41の幅が狭くなっている部分に長弦翼部20を配置すると、図12(c)に示すように高速流領域41が下側に広がって、吹出口3全体で空気流の速度分布が均一化される。支持板12に隣接する翼部は、漏れ流れが中央部分に比較して少ないので、風量がそれほど減少しない。このため、高速流領域41はフロントガイド部9cとリアガイド部10間である程度の幅に広がっている。この部分には短弦翼部21を配置することで、回転軸線方向AXの位置に応じて、吹き分けが効果的に行われる。
このように、回転軸線方向AXで中央付近に位置する翼部は、両端部の翼弦線の長さよりも長い翼弦線を有することにより、羽根車単体14の回転軸線方向AXの位置に応じて、吹き分けが効果的に行われる構成となり、吹出口3に流れる空気流の風速分布がさらに均一化される。
また、漏れ流れの多い中央部分に位置する翼部の回転軸線方向AXの長さを、支持板12に隣接する翼部の回転軸線方向AXの長さよりも長くして、風量を確保するように構成してもよい。
実際は、貫流ファン8が配置されている前後の風路構成によって、羽根車8a内を流れる空気流の特性は異なってくる。長弦翼部20と短弦翼部21を回転軸線方向AXでどのように配置するかについては、長弦翼部20によって吹出口3の下側に空気流が流れ、短弦翼部21によって吹出口3の上側に空気流が流れるので、この効果を効率よく発揮できるように配置すればよい。例えば、羽根車単体14で、同じ幅の単一の翼構成で吹出口3から吹き出される空気流を観測し、その結果で長弦翼部20と短弦翼部21の配置を設定してもよい。例えば、同じ幅の翼構成で吹出口3の下側から空気流が吹き出される傾向にある部分に短弦翼部21を配置し、逆に吹出口3の上側から空気流が吹き出される傾向にある部分に長弦翼部20を配置すればよい。
実施の形態2.
図18は、本発明の実施の形態2に係る貫流ファンの1つの翼を示す斜視図である。本実施の形態では、1つの翼13は、回転軸線方向AX(長手方向)に7つの翼部に分割され、3つの長弦翼部50a、50b、50cと4つの短弦翼部51a、51b、51c、51dを交互に配置して構成される。長弦翼部50及び短弦翼部51の断面形状は実施の形態1と同様であり、長弦翼部50の翼弦線は短弦翼部51の翼弦線よりもDL(例えば2mm)だけ長くなるように構成する。例えば、短弦翼部51のそり線をそのままの円弧形状を保つように延長して長弦翼部50のそり線を決定し、翼厚Wmaxも同じとして長弦翼部50の形状を決定する。各翼部の回転軸線方向AX(長手方向)の長弦翼部50の長さL11、L12、L13は、例えば同一とし、中央の長弦翼部50bが回転軸線方向AXの中央に配置される。さらに、短弦翼部51a、51b、51c、51dの回転軸線方向AXの長さL21、L22、L23、L24は、例えば同一とし、L11、L12、L13も同じ長さとする。
本実施の形態では、翼弦線長さの異なる2種類の翼部、ここでは3つの長弦翼部50a、50b、50cと、4つの短弦翼部51a、51b、51c、51dによって1つの翼を構成している。図8、図9で示すように、吸込領域E1で翼間から羽根車8aの内側に空気が流れる際に、翼内周側縁部19aの形状によって吹出領域E2の翼13に向かう方向が決定される。即ち、翼間を通過する空気流は、短弦翼部51a、51b、51c、51dでは右下へ流出され、長弦翼部50a、50b、50cでは右上へ跳ね上げられる。このように、長弦翼部50a、50b、50cにおける空気の流れ方向と短弦翼部51a、51b、51c、51dにおける空気の流れ方向が異なり、吹出領域E2で周方向に広い範囲の翼間に流れて吹出風路11に吹き出され、フロントガイド部9c(A1)とリアガイド部10(A2)の間で広範囲に流れる。
本実施の形態では、羽根車単体14の回転軸線方向AXで、気流の吹き分けが7ケ所で行われる。即ち、3ケ所の長弦翼部50では背面側にあるリアガイド部10の近くの空気流となとり、4ケ所の短弦翼部51では前面側にあるフロントガイド部9cの近くの空気流となる。回転軸線方向AXで複数に分割された長弦翼部50と短弦翼部51とによって、吹出風路11及び吹出口3では上側への空気流と下側への空気流の吹き分けが短い間隔で繰り返される。
図19は、羽根車単体14の翼の構成を模式的に示す説明図(図19(a))と、その翼部の形状に対応して、吹出口3における空気流の風速分布を示す説明図(図19(b))である。ここで示す空気流39a、39bは、羽根車8aから吹き出される空気流の最高速度近傍の速度、例えば(最高速度ー5%)の速さの空気流の範囲を示す。また、一点鎖線の領域は、羽根車8aから吹き出される空気流の平均風速以上の速さの空気流の範囲を高速流領域41として示す。空気流の吹き分けが、回転軸線方向AXで短い間隔で繰り返され、その境界付近では互いの空気流に影響されて、高速流領域41の面積が実施の形態1の構成での面積と比較して大きくなっている。また、低速流領域42は実施の形態1よりも狭められ、吹出口3を通る空気流は、実施の形態1と比較して、吹出口3の全体で風速分布が均一化され、同一の風量で比較した場合には最大風速がさらに低減される。従って、高速の偏った空気流が原因で生じる騒音及びエネルギーの損失を低減できる。
なお、翼13を、そり線の長さが異なる2つの長弦翼部50と短弦翼部51で構成し、かつ複数の長弦翼部50a、50b、50c及び短弦翼部51a、51b、51c、51dで構成する場合、本実施の形態の配置に限るものではなく、回転軸線方向AXにどのように配置してもよい。
また、本実施の形態では、3つの長弦翼部50a、50b、50c、及び4つの短弦翼部51a、51b、51c、51dで構成しているがこれに限るものではない。長弦翼部を2つ、3つ・・・など、複数設けてもよい。長弦翼部を1つから2つ、3つ・・と分割を多くすると、空気流の吹き分けが短い間隔で繰り返され、吹出口3での空気流の風速分布はさらに均一化される。しかし一方で、分割を多くしすぎると、1つの翼部の長手方向の長さが短く、隣接する翼部に流れる空気流同士が影響し合う。このため、翼弦線の差による吹き分け作用が安定せず、大きな効果が得られなくなる。少なくとも1つの翼部の長手方向の長さは、羽根車単体14で長手方向の全体の略10%以上であることが好ましい。例えば、長手方向長さL=90mmとすると、1つの長弦翼部50または短弦翼部51の長さL11〜L13、L21〜L24は少なくとも翼全体の10%の9mm以上であることが好ましい。
また、長弦翼部50a、50b、50cの長さの合計L11+L12+L13、及び短弦翼部51a、51b、51c、51dの長さの合計L21+L22+L23+L24は、翼全体の長さLの例えば略20%〜80%の範囲で構成する。1つの長弦翼部50または短弦翼部51の長さL11〜L13、L21〜L24は少なくとも翼全体の略10%以上であるので、本実施の形態のように、3つの長弦翼部50a、50b、50c及び4つの短弦翼部51a、51b、51c、51dで構成する場合には、長弦翼部50a、50b、50cの長さの合計L11+L12+L13は少なくとも翼全体の長さLの略30%以上となり、短弦翼部51a、51b、51c、51dの長さの合計L21+L22+L23+L24は少なくとも翼全体の長さLの略40%以上となる。
実施の形態3.
図20は、本発明の実施の形態3に係る貫流ファンの1つの翼13を示す斜視図である。本実施の形態では、1つの翼13は、回転軸線方向AX(長手方向)に7つの翼部に分割され、第1長弦翼部60、第2長弦翼部61、第3長弦翼部62、短弦翼部63a、63b、63c、63dの4種類の翼弦線を有する。第1、第2、第3長弦翼部60、61、62及び短弦翼部63の断面形状は実施の形態1と同様である。第1長弦翼部60の翼弦線は、短弦翼部63の翼弦線よりDL1だけ長く、第2長弦翼部61の翼弦線は、短弦翼部63の翼弦線よりDL2だけ長く、第3長弦翼部62の翼弦線は、短弦翼部63の翼弦線よりDL3だけ長い。そして、DL1<DL2<DL3である。また、回転軸線方向AXの中央部に一番翼弦線の長い第3長弦翼部62、その両隣に短弦翼部63b、63c、その隣に第1、第2長弦翼部60、61、そして両端部に短弦翼部63a、63dを配置する。
また、回転軸線方向AX(長手方向)には第1長弦翼部60の長さM1、第2長弦翼部61の長さM2、第3長弦翼部62の長さM3は、ほぼ同一とし、M1=M2=M3=L*0.2とし、短弦翼部63a、63b、63c、63dの回転軸線方向AXの長さM41、M42、M43、M44は、ほぼ同一とし、M41=M42=M43=M44=L*0.1とする。また、翼弦線の長さは例えば、短弦翼部63a、63b、63c、63dの翼弦線の長さを12mm、第1長弦翼部60の翼弦線の長さを14mm、第2長弦翼部61の翼弦線の長さを15mm、第2長弦翼部62の翼弦線の長さを16mmとする。よって、DL1=2mm、DL2=3mm、DL3=4mmとする。
本実施の形態では、翼弦線の異なる4種類の翼部、ここでは3つの異なる長さの翼弦線を有する第1、第2、第3長弦翼部60、61、62と、長弦翼部60、61、62とは異なる長さの翼弦線で構成される4つの短弦翼部63a、63b、63c、63dによって1つの翼を構成している。実施の形態1、実施の形態2と同様、それぞれの翼部の翼内周側縁部19aの形状が異なることによる空気流の吹き分け作用に関しては、本実施の形態では4方向に吹き分けられる。即ち、吸込領域E1の翼間から吹き出された空気が、異なる翼弦線を有する翼部の翼内周側縁部19aの形状に応じて羽根車8aの内部に流れ、吹出領域E2の周方向で広い範囲の翼間に流れる。さらに広範囲の翼間から吹出風路11に吹き出すので、吹出風路11全体に流れ、吹出口3では風速分布が均一化された空気流となる。
羽根車単体14における吹出口3での空気流を図21に基づいて説明する。図21(a)は第1長弦翼部60を通る空気流を示し、空気流64aは吹出風路11のフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で、ややリアガイド部10側を流れて、吹出口3のA2に近い部分から吹き出す。図21(b)は第3長弦翼部62を通る空気流を示す。第3長弦翼部62の翼弦線は最も長いので、吸込領域E1で羽根車単体14に吸い込んだ空気流を跳ね上げる作用が最も強く、空気流は吹出領域E2で最も背面側の翼間に流れる。そして、吹出風路11を流れる空気流64cはフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で、リアガイド部10の近くを流れて、吹出口3のA2に最も近い部分から吹き出す。空気流64bは第2長弦翼部61を通る空気流を示し、翼弦線の長さに応じて吹出風路11のA1とA2間での空気流の流れる位置が異なってくる。即ち、翼弦線の最も長い第3長弦翼部62によって最も背面側の空気流64c、第3長弦翼部62よりも翼弦線の短い第2長弦翼部61によって空気流64cよりも前面側の空気流64b、第2長弦翼部61よりも翼弦線の短い第1長弦翼部60によって空気流64bよりも前面側の空気流64aとなって流れる。また、図21(c)は、短弦翼部63a〜63dを通る空気流を示し、空気流64dは吹出風路11のフロントガイド部9cとリアガイド部10の間で、フロントガイド部9cの近くを流れて、吹出口3のA1に最も近い部分から吹き出す。
図22は、羽根車単体14の翼の構成を模式的に示す説明図(図22(a))と、その翼部の形状に対応して、吹出口3における空気流の風速分布を示す説明図(図22(b))である。空気流の吹き分けが、回転軸線方向AXで短い間隔で繰り返され、その境界付近ではお互いの空気流に影響されて、高速流領域41の面積が実施の形態1及び実施の形態2の構成での面積と比較して大きくなっている。特に4つの長さの異なる翼弦線で翼13を構成しているので、高速流領域41がA1とA2間に広がり、空気流は吹出口3の全体に吹き出される。この吹き分けを利用して、吹出口3では風速分布が均一化されることで、高速の偏った空気流が原因で生じる騒音及びエネルギーの損失を低減できる。
なお、翼13を、翼弦線の長さが異なる4つの翼部60、61、62、63a、63b、63c、63dで構成する際、回転軸線方向AXの配置は本実施の形態に限定されるものではない。第1長弦翼部60、第2長弦翼部61、第3長弦翼部62を互いに隣同士になるように隣接させて構成してもよい。
また、長弦翼部60、61、62、及び短弦翼部63a、63b、63c、63dの回転軸線方向AXのそれぞれの長さを、ほとんど同じ長さで構成したが、それぞれを全く異なる長さで構成してもよく、また翼部のいくつかを異なる長さで構成してもよい。ただし、各翼部60、61、62、63a、63b、63c、63dの回転軸線方向AXの長さは全体Lの略10%以上の長さである。略10%よりも短いと、例えば長弦翼部60、61、62の場合には吸込領域E1で跳ね上げられる空気流の幅が十分ではなく、隣接する翼部による空気流に影響される。このため、吹出領域E2で図8、図9で示したようにそれぞれの位置に到達せずに吹出風路11の前面側A1と背面側A2とに空気流を吹き分ける効果が十分に得られない。
実施の形態2と同様、複数の翼部の中で支持板12に隣接する翼部よりも中央部分の翼部の翼弦線を長くすると、さらに効果が大きくなる。漏れ流れが発生しやすく風量が減少する中央部分の翼部の翼弦線の長さを長く構成すれば、多少隣接する翼部による空気流の方に流れても、リアガイド部10の近くに流れる空気流が得られる。従って、確実に吹き分けられた空気流が得られ、吹出口3から吹出される空気流の風速分布が均一化される効果が得られる。
さらに、中央部分の翼部から隣接する翼部への空気流の漏れを考慮し、中央部分の翼部62の長手方向の長さを他の翼部の長さよりも長く構成してもよい。上記と同様、中央部分の翼部62を長手方向に長くすることで風量を多くし、多少隣接する翼部による空気流の方に流れても、リアガイド部10の近くに流れる空気流を得ることができる。
また、羽根車単体14の両端部に配置される翼部に応じて支持板12の大きさが決定される。このことから、短弦翼部63a、63dが羽根車単体14の両端部に配置されるほうが、長弦翼部を配置するよりも、環状の支持板12の中空とする内径を大きくできる。このため、回転体の重量を低減できるので好ましい。
さらに、本実施の形態に係る他の構成例を示す。図23は異なる長さの翼弦線を有する3つの翼部、第1長弦翼部70a、70b、第2長弦翼部71、短弦翼部72a、72bで1つの翼13を構成し、回転軸線方向AXの両端部に最も翼弦線の長さが短い短弦翼部72a、72b、その隣に最も翼弦線の長さが長い第1長弦翼部70a、70b、そして中央部に第2長弦翼部71を配置した構成を示す。短弦翼部72a、72bと第1長弦翼部70a、70bの翼弦線の長さの差をDL1、短弦翼部72a、72bと第2長弦翼部71の翼弦線の長さの差をDL2とする。DL1>DL2である。
この構成でも、各翼部を通過した空気流は、翼弦線の長さの差によって吹出風路11のフロントガイド部9c(A1)とリアガイド部10(A2)との間で吹き分けられる。即ち、第1長弦翼部70a、70bの翼弦線の長さは最も長いので、吸込領域E1で羽根車単体14に吸い込んだ空気流を跳ね上げる作用が最も強く、空気流73aは吹出領域E2で最も背面側の翼間に流れる。そして、リアガイド部10の近くを流れて、吹出口3のA2に最も近い部分から吹き出す。また、短弦翼部72a、72bを通った空気流73cはフロントガイド部9cの近くを流れて、吹出口3のA1に最も近い部分から吹き出す。さらに、第2長弦翼部71を通った空気流73bは、第1長弦翼部70a、70bによる空気流73aよりも前面側で、短弦翼部72a、72bによる空気流73cよりも背面側を流れる。
図24は、羽根車単体14の翼の構成を模式的に示す説明図(図24(a))と、その翼部の形状に対応して、吹出口3における空気流の風速分布を示す説明図(図24(b))である。空気流の吹き分けが、回転軸線方向AXで短い間隔で繰り返され、その境界付近ではお互いの空気流に影響されて、高速流領域41の面積が実施の形態1及び実施の形態2の構成での面積と比較して大きくなっている。特に3つの長さの異なる翼弦線で翼13を構成しているので、高速流領域41がA1とA2間に広がり、空気流の風速分布が均一化されて吹出口3の全体に吹き出される。このため、高速の偏った空気流が気流制御用ベーン4に衝突したり吹出口3で風路が急速に拡大されることで生じるエネルギー損失及び騒音を低減できる。
実施の形態4.
図25は、本発明の実施の形態4に係る貫流ファンの1つの翼13を示す斜視図である。図23と同一符号は同一、又は相当部分を示す。本実施の形態では、隣り合う翼部の翼弦線長さの差が大きい部分、例えば第1長弦翼部70aと短弦翼部72a、及び第1長弦翼部70bと短弦翼部72bの間の段差部に、翼弦線長さの差を緩和するように、第1長弦翼部70bと短弦翼部72bのそれぞれの翼弦線の長さの中間の長さとなる翼弦線で構成される階段状の翼部間緩和部73a、73bを設けた構成である。
第1長弦翼部70aと短弦翼部72aのように、隣り合う翼部の翼弦線長さの差が大きい部分では、段差部となって気流の向きが大幅に異なり、境界付近で2つの翼部による気流が影響しあって、乱れや渦が発生してエネルギー損失が増加する。これを解消するため、第1長弦翼部70aと短弦翼部72aの間に、第1長弦翼部70aの翼弦線長さよりも短く、短弦翼部72aの翼弦線長さよりも長い翼弦線となるように、翼部間緩和部73aを設けた。第1長弦翼部70bと短弦翼部72bの間にも同様に、翼部間緩和部73bを設けた。ここで、翼部間緩和部73a、73bは、翼内周側縁部19aの先端で円弧状に形成されていない場合には、翼内周側縁部19aと翼外周側縁部19bとを結ぶ線分を翼弦線とする。この翼部間緩和部73a、翼部間緩和部73bの回転軸線方向AXの幅P1、P2は全体の長さLの10%よりも短いとする。
吸込領域E1では、第1長弦翼部70aと短弦翼部72aの翼間を流れる空気流は、吹出領域E2で流れ方向が前面側と背面側とに異なって流れ、翼部間緩和部73a、翼部間緩和部73bでは、この2つの気流の中間の方向に流れる。翼部間緩和部73a、翼部間緩和部73bの回転軸線方向AXの幅P1、P2は全体の略10%よりも短いので、翼部間緩和部73a、翼部間緩和部73bを流れる空気流の風量は少なく、隣り合う第1長弦翼部70aと短弦翼部72aや、第1長弦翼部70bと短弦翼部72bによる空気流に影響されて、互いに混ざって吹出領域E2に流れていく。
即ち、2つの方向の大幅に異なる空気流の間に、その中間の方向に向かう空気流を形成することで、空気流の乱れや渦が発生するのを緩和する。図26は翼部の形状に対応して、吹出口3における空気流の風速分布を示す説明図である。図24に示した高速流領域41aを一点差線で示すと共に、本実施の形態に係る高速流領域41bを点線で示す。高速流領域41bで示されるように、第1長弦翼部70aと短弦翼部72aの間、及び第1長弦翼部70bと短弦翼部72bの間でその差が緩和されている。即ち、高速流領域41aと比較して高速流領域41bでは、翼部間緩和部73a、73bで変化の程度が緩やかになっている。このように、翼弦線長さの差の大きい部分で吹出領域E2から吹出風路11を経て吹出口3へ滑らかな空気流とすることで、渦や乱れの発生によるエネルギー損失の増加を防止でき、吹出口3での風速分布の均一化を図ることができる。
以上のように、本実施の形態では、翼内周側縁部19aで、異なる長さの翼弦線を有する隣接する2つの翼部70a、72aの間の段差部及び翼部70b、72bの間の段差部に、2つの翼部70a、72a及び翼部70b、72bのそれぞれの翼弦線長さの中間の長さとなる翼弦線を有する翼部間緩和部73a、73bを備えることで、2つの翼部の翼間に流れる空気流の流れ方向が異なる部分で、大きな渦が生じるのを防止し、滑らかに空気流の流れ方向を変化させ、エネルギー損失を低減することができる。
なお、ここでは、図23の構成の翼13に翼部間緩和部73a、73bを設けたが、これに限るものではない。図23の構成で、第1長弦翼部70a、70bと第2長弦翼部71にも翼間緩和部73を設けてもよいし、例えば、図5、図18、図20の構成の翼13において、翼弦線長さの差の大きい部分に翼間緩和部73を設けてもよい。
また、翼部間緩和部73a、73bの翼内周側縁部19aは、長弦翼部70a、70bの翼内周側縁部19aを切り取った形状でもよいし、切り取ってさらにその先端部分を他の翼部70、71、72のように円弧形状としてもよい。円弧形状とすれば、吹出領域E2で気流がスムーズに翼部間緩和部73a、73bに流れる。
また、翼間緩和部73として、異なる翼弦線長さを有する翼部間の段差の部分に階段状に設けたが、これに限るものではない。階段状の先端を図27(a)に示すように丸くしてもよいし、図27(b)に示すように斜めにして直線状にしてもよい。また、複数の階段部を設けてもよい。翼間緩和部73は、第1長弦翼部70bと短弦翼部72bのそれぞれの翼弦線の長さの中間の長さとなる翼弦線で構成され、第1長弦翼部70bの翼弦線長さよりも短かく、短弦翼部72bの翼弦線長さよりも長い翼弦線を有するように構成されればよい。
実施の形態5.
図28(a)は、本発明の実施の形態5に係る貫流ファンの1つの翼13を示す斜視図であり、図28(b)は凹部80を拡大して示す説明図である。この翼13は、長手方向の中央部分に長弦翼部20、両端部分に短弦翼部21を有し、さらに、短弦翼部21の翼内周側縁部21aに複数の凹部80を、例えば2つの短弦翼部21にそれぞれ3つづつ設けている。一例として、この凹部80の1つの形状は、1枚の回転軸線方向AXの長さを100mmとしたとき、長手方向の長さR≦5mm、そり線方向の長さLO≦1mmとし、短弦翼部21にほぼ均等に設ける。この凹部80は翼内周側縁部21aの先端に開口されている。
また、図29は図28の短弦翼部21における回転軸線に垂直な断面図であり、凹部80は、短弦翼部21の翼内周側縁部21aから凹形状に切り欠いて構成される。このため、凹部80の最もへこんだ部分80aを翼内周側縁部21aから見た場合、翼内周側縁部21aのような丸みを有してはいないが、丸みを有するように構成してもよい。短弦翼部21の凹部80が形成されていない部分の翼内周側縁部21aはそり線23b上の一点25aを中心とする小さな円弧形状をなしている。短弦翼部21では、凹部80とそれ以外の部分で翼内周側縁部21aが凹凸形状で構成されているが、短弦翼部21の回転軸線に垂直な断面図では、翼圧力面26bと翼負圧面27bの形状は、凹部80が設けられている部分と設けられていない部分とで凹部80を除いて全く同じである。また、凹部80の長手方向(回転軸線方向AX)の幅Rは小さいので、気流の吹き分け方向は、凹部80が設けられていても、凹部80が設けられていない短弦翼部21と同様の作用となり、L2を1つの短弦翼部21と見なすことができる。長弦翼部20と比較すると、吸込領域E1で短弦翼部21の翼間を流れる気流はそれほど跳ね上げられることなく羽根車8aの内部を流れて、吹出風路11のフロントガイド部9cに近い部分に吹き出される。
図30は翼間を流れる空気流を説明する説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を模式的に示している。図30(a)は長弦翼部20による空気流を示し、図30(b)は短弦翼部21による空気流を示す。長弦翼部20によってリアガイド部10の近くを流れる空気流81aとなり、短弦翼部21によってフロントガイド部9cの近くを流れる空気流81bとなる。このため、吹出口3では空気流の偏りが低減され風速分布が均一化される。
さらに、短弦翼部21において、複数の凹部80の翼弦線方向の長さは、凹部80を設けていない部分の短弦翼部21の翼弦線の長さよりも短いため、凹部80に流れる空気流は、凹部80が設けられていない部分の短弦翼部21に流れる空気流よりも若干フロントガイド部9c側(前面側)に流れる空気流81cとなる。ただし、凹部80の長手方向の長さRが全体の長さLの10%よりも短く、この部分を通過する風量が少ない。このため、凹部80で短くなった翼弦線方向の長さによる空気流の吹き分け効果はほとんどなく、凹部80の最もへこんだ部分80aの近傍で、空気の流れの一部が翼負圧面に引き寄せられて押さえ込まれたり、拡散される。凹部80の設けられていない短弦翼部21の場合には、主に空気流81bに示す方向に吹き出すが、凹部80によって、短弦翼部21の翼内周側縁部21aに流入する空気流が拡散される。このため、短弦翼部21による空気流の範囲が、図30(b)の斜線部分に示すように前面側に広がる。
図31は、本実施の形態に係り、吹出口3における風速分布を示す。短弦翼部21の凹部80によって短弦翼部21の翼間を流れる空気流81b、81cの面積が前面側に拡散されて広がり、全体として吹出口3から吹き出される空気流の風速分布の均一化を図ることができる。高速流領域41が拡大されてA1、A2方向の幅が拡大されるため、低速流領域42が縮小される。
以上のように、本実施の形態では、翼13の短弦翼部21の翼内周側縁部21aに、翼内周側縁部21aの先端に開口する複数の凹部80を備えることにより、凹部80を有する翼部21から吹き出す空気流方向が空気流81bと81cの範囲に幅広くなり、フロントガイド部9cとリアガイド部10間に高速流領域41の範囲が広げられ、吹出口3に流れる空気流の風速分布が均一化される効果がある。このため、実施の形態1の構成に対し所定の風量で比較したとき、最大風速値が低減され、エネルギー損失及び騒音が大幅に低減される効果がある。
図32(a)は、本実施の形態に係る他の構成例であり、貫流ファンの1つの翼13を示す斜視図であり、図32(b)は凹部82を拡大して示す説明図である。この翼13は、長手方向の両端部分及び中央部分に短弦翼部21、並びに短弦翼部21の間に2つの長弦翼部20を有し、さらに、長弦翼部20の翼内周側縁部20aに複数の凹部82を、例えば4つづつ設けている。一例として、1つの凹部82は、前述の凹部80と同程度の凹部であり、長手方向の長さR≦5mm、そり線方向の長さLO≦1mmとし、2つの長弦翼部20にほぼ均等に設ける。この凹部82は翼内周側縁部20aの先端に開口されている。
また、図33は図32の長弦翼部20における回転軸線に垂直な断面図であり、凹部82は、長弦翼部20の翼内周側縁部20aから凹形状に切り欠いて構成される。このため、凹部82の最もへこんだ部分82aを翼内周側縁部20aから見た場合、翼内周側縁部20aのような丸みを有してはいないが、丸みを有するように構成してもよい。長弦翼部20の凹部82が形成されていない部分の翼内周側縁部20aはそり線23a上の一点24aを中心とする小さな円弧形状をなしている。長弦翼部20では、凹部82とそれ以外の部分で翼内周側縁部20aが凹凸形状で構成されているが、翼の断面形状を見ると、長弦翼部20の凹部82を設けた部分と凹部82を設けていない部分とで、翼圧力面26aと翼負圧面27aの形状は凹部82を除いて全く同じである。また、凹部82の長手方向の幅Rは小さいので、気流の吹き分け方向は、凹部82が設けられていても、凹部82が設けられていない長弦翼部20と同様の作用となり、L1を1つの長弦翼部20と見なすことができる。短弦翼部21と比較すると、吸込領域E1で長弦翼部20の翼間を流れる気流は跳ね上げられて羽根車8aの内部を流れて、吹出風路11のリアガイド部10に近い部分に吹き出される。
図34は、翼間を流れる空気流を説明する説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を模式的に示している。図34(a)は長弦翼部20による空気流の流れを示し、図34(b)は短弦翼部21による空気流の流れを示す。長弦翼部20によってリアガイド部10の近くを流れる空気流83aとなり、短弦翼部21によってフロントガイド部9cの近くを流れる空気流83bとなる。このため、吹出口3では空気流の偏りが低減され風速分布が均一化される。
さらに、長弦翼部20において、複数の凹部82の翼弦線方向の長さは、凹部82を設けていない部分の長弦翼部20の翼弦線の長さよりも短いため、凹部82に流れる空気流は、凹部82が設けられていない部分の長弦翼部20に流れる空気流よりも若干フロントガイド部9c側(前面側)に流れる空気流83cとなる。ただし、凹部82の長手方向長さRが全体の長さLの略10%よりも短く、この部分を通過する風量が少ない。このため、凹部82で短くなった翼弦線方向の長さによる空気流の吹き分け効果はほとんどなく、凹部82の最もへこんだ部分82aの近傍で、空気の流れの一部が翼負圧面に引き寄せられて押さえ込まれたり、拡散される。凹部82の設けられていない長弦翼部20の場合には、主に空気流83aに示す方向に吹き出すが、凹部82によって、長弦翼部20の翼内周側縁部20aに流入する空気流が拡散される。このため、長弦翼部20による空気流の範囲が、図34(a)の斜線部分に示すように空気流83aと空気流83cの間で広がる。短弦翼部21の翼間を流れる空気流は図34(b)に示すように吹出風路11のフロントガイド部(9c)に近い部分を流れる。
図35は、本実施の形態に係り、吹出口3における風速分布を示す。長弦翼部20の凹部82によって長弦翼部20を流れる空気流83a、83cの面積が前面側に拡散されて広がり、全体として吹出口3から吹き出される空気流の風速分布の均一化を図ることができる。高速流領域41が拡大されてA1、A2方向の幅が拡大されるため、低速流領域42が縮小される。
以上のように、本実施の形態では、翼13の長弦翼部20の翼内周側縁部20aに、翼内周側縁部20aの先端に開口する複数の凹部82を備えることにより、凹部82を有する翼部20から吹き出す空気流方向が空気流83aと83cの範囲に幅広くなり、フロントガイド部9cとリアガイド部10間に高速流領域41の範囲が広げられ、吹出口3に流れる空気流の風速分布が均一化される効果がある。このため、実施の形態1の構成に対し所定の風量で比較したとき、最大風速値が低減され、エネルギー損失及び騒音が大幅に低減される効果がある。
また、長弦翼部20と短弦翼部21の両方に凹部を設けた構成例を示す。図36は、本実施の形態に係るさらに他の構成例であり、貫流ファンの1つの翼13を示す斜視図である。この翼13は、長手方向の中央部分に長弦翼部20、両端部分に短弦翼部21を有し、さらに、長弦翼部20の翼内周側縁部20aに複数の凹部、例えば4つの凹部84、短弦翼部21の翼内周側縁部21aに複数の凹部、例えば3つずつの凹部85を設けている。一例として、この凹部84、85の1つの形状は、例えば全て同程度で、長手方向の長さN≦5mm、そり線方向の長さLO≦1mmとし、長弦翼部20、及び短弦翼部21にほぼ均等に設ける。
また、凹部84、85は、長弦翼部20の翼内周側縁部20a及び短弦翼部21の翼内周側縁部21aから凹形状に切り欠いたように構成され、翼内周側縁部20a、21aの先端に開口する構成である。凹部84、85を設けた部分の翼部は、凹部84、85を設けていない部分の翼部と比較して翼弦線方向の長さが短い形状となっている。長弦翼部20及び短弦翼部21共に、翼圧力面26と翼負圧面27の形状は、凹部84、85が設けられている部分と設けられていない部分とで凹部84、85を除いて全く同じである。また、凹部84、85の長手方向の幅は小さいので、気流の吹き分け方向は、凹部84、85が設けられていても、凹部84、85が設けられていない長弦翼部20、短弦翼部21と同様の作用となり、L1、L2をそれぞれ1つの長弦翼部20、短弦翼部21と見なすことができる。長弦翼部20、短弦翼部21では、凹部84、85とそれ以外の部分で翼内周側縁部20a、翼内周側縁部21aが凹凸形状で構成されており、主に翼内周側縁部20a、21aの形状及びに翼弦線28a、28bに応じて空気流が決定される。
図37は翼間を流れる空気流を説明する説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を模式的に示している。図37(a)は長弦翼部20による空気流の流れを示し、図37(b)は短弦翼部21による空気流の流れを示す。即ち、長弦翼部20によってリアガイド部10(背面側)の近くを流れる空気流84bとなり、短弦翼部21によってフロントガイド部9c(前面側)の近くを流れる空気流85bとなる。このため、吹出口3では空気流の偏りが低減され風速分布が均一化される。
さらに、長弦翼部20において、複数の凹部84を設けた部分は、長弦翼部20の翼間に流れてくる空気流を拡散するように作用し、図37(a)の一点差線84cに拡散された空気流を示し、斜線で示すように、長弦翼部20における主な空気流84bが前面側に拡散される。
同様に、短弦翼部21において、複数の凹部85を設けた部分は、短弦翼部21の翼間に流れてくる空気流を拡散するように作用し、図37(b)の一点差線85cに拡散された空気流を示し、斜線で示すように、短弦翼部21における主な空気流85bが前面側に拡散される。
図38は、本実施の形態に係り、吹出口3における風速分布を示す。長弦翼部20の凹部84によって長弦翼部20を流れる空気流84b、84cの面積が広がる。同時に、短弦翼部21の凹部85によって短弦翼部21を流れる空気流85b、85cの面積が広がる。従って、全体として吹出口3から吹き出される空気流の風速分布の均一化を図ることができる。高速流領域41が拡大されてA1、A2方向の幅が拡大されるため、低速流領域42が縮小される。
以上のように、本実施の形態では、翼13のすべての翼部20、21の翼内周側縁部20a、21aに、翼内周側縁部20a、21aの先端に開口する複数の凹部84、85を備えることにより、凹部84、85を有する翼部20、21から吹き出す空気流方向が空気流84bと84c、及び空気流85bと85cの範囲に幅広くなり、フロントガイド部9cとリアガイド部10間で高速流領域41の範囲が広げられ、吹出口3に流れる空気流の風速分布が均一化される効果がある。このため、実施の形態1の構成に対し所定の風量で比較したとき、最大風速値が低減され、エネルギー損失及び騒音が大幅に低減される効果がある。
もちろん、翼が複数の翼部で構成され、少なくとも1つの翼部の翼内周側縁部19aに、翼内周側縁部19aの先端に開口する複数の凹部を備えることを特徴とすることにより、翼部から吹き出す空気流の幅が広がり、フロントガイド部9cとリアガイド部10間で高速流領域41の範囲が広げられ、吹出口3に流れる空気流の風速分布が均一化される効果がある。このため、エネルギー損失及び騒音が大幅に低減される貫流ファンが得られる。
図28、図32、図36において、長弦翼部20または短弦翼部21または長弦翼部20と短弦翼部21の両方の翼部に矩形状の凹部を設けたが、矩形状に限るものではない。翼内周側縁部19aの先端に開口するV字形状やU字形状の凹部でも同様の効果を奏する。
実施の形態6.
実施の形態1〜実施の形態5では、羽根車単体14を構成する1枚の翼13を回転軸線方向AXで複数の翼部に分割し、翼部の翼内周側縁部19aで内周側に突出させることで、翼弦線の長さを異なるよう構成した実施の形態について示した。吹出風路11で、フロントガイド部9cとリアガイド部10の間に幅広く気流を吹き分ける効果をさらに高める構成として、本実施の形態では翼弦線の長い翼部の出口角を、翼弦線の短い翼部の出口角よりも大きく構成する。
図39は、本発明の実施の形態6に係り、長弦翼部20と短弦翼部21の回転軸線17に垂直な断面を重ねて示す説明図である。本実施の形態では、実施の形態1〜実施の形態5のそれぞれに係る貫流ファンにおいて、翼弦線28長さの異なる翼部20、21の翼外周側縁部20b、21bの形状を異なるようにしたものである。本実施の形態では翼外周側縁部20b、21bの形状を異なる形状としたので、翼圧力面26a、26bと翼負圧面27a、27bの中央に引いた線であるそり線92(長弦翼部20のそり線92a、短弦翼部21のそり線92b)は、長弦翼部20と短弦翼部21とで、一致せずにずれる。長弦翼部20及び短弦翼部21の断面において、長弦翼部20及び短弦翼部21の翼外周側縁部20b、21bは、そり線92a、92b上の一点24b、25bを中心とする円の円弧形状をなす。複数の翼13が支持板12に固定されて羽根車単体14である回転体を構成しているので、点24b、25bは回転中心Oを中心とした円の軌跡上に位置し、この円が外径線18である。
ここで、翼のそり線92と外径線18が交差する点における両曲線(そり線と外径線)の接線のなす角度を出口角と称する。本実施の形態では、長弦翼部20の出口角θ1>短弦翼部21の出口角θ2とする。例えば、長弦翼部20の出口角θ1を28度、短弦翼部21の出口角θ2を25度とする。出口角θ1、θ2は、吹出領域E2における翼外周側縁部20b、21bから吹出風路11に吹き出される空気流の向きと関連する。
図40は羽根車8aから吹き出す空気流の方向を示す説明図である。長弦翼部20の出口角θ1を大きくしたので、そり線92aが半径外側を向くため、空気流は矢印93aに示すように、径方向で、回転方向ROの後方に吹き出す。このため、長弦翼部20かの翼間から吹き出される空気流は、吹出風路11ではリアガイド部10側(背面側)を空気流が通過することになり、吹出口3では、下側(A2に近い部分)に吹き出す。逆に短弦翼部21の出口角θ1は長弦翼部20の出口角θ2に比較して小さいので、長弦翼部20のそり線92bが短弦翼部21のそり線92aに比べて半径内側を向くため、空気流は矢印94aに示すように、径方向で、回転方向ROの前方に吹き出す。このため、吹出風路11ではフロントガイド部9c側(前面側)を通過することになり、吹出口3では、上側(A1に近い部分)に吹き出す。図中、点線矢印94bは長弦翼部20の出口角θ1を短弦翼部21の出口角θ2と同じにしたときの空気流の吹き出し方向を参考までに示したものである。実線矢印93aは、点線矢印94bと比較して、空気流がリアガイド部10側に吹き出すことを示している。
この長弦翼部20の出口角θ1は、短弦翼部21の出口角θ2と比較して、数度程度、例えば2〜5度大きくした。数度程度大きくすることで、吹き出される空気流の幅をさらに広範囲にすることができ、吹出口3での空気流の風速分布が均一化される。従って、エネルギー損失及び騒音の低減できる貫流ファンが得られる。
また、具体的には、例えば実施の形態1の構成の翼部形状において、外径線18上で、回転方向ROで後方へ後退した点を長弦翼部20の翼外周側縁部21bとして、そり線91bを決定すればよい。この後退移動させる移動の程度は、出口角を1〜2度程度増加しても十分効果を奏する。長弦翼部20と短弦翼部21とで1枚の連続した翼13を形成するので、出口角の大きさは翼間をスムーズに空気流が流れるように、長弦翼部20で数度程度大きくするのが好ましい。
以上のように、本実施の形態によれば、翼13の回転軸線17に垂直な断面で、翼13の回転方向に対して前面である翼圧力面26と背面である翼負圧面27の中央の線をそり線92とし、回転中心Oを中心とし羽根車単体14を構成する全ての翼13の翼外周側縁部20b、21bを通る外径線18とそり線92との成す角度を出口角θ1、θ2とし、長い翼弦線28aを有する翼部20の出口角θ1を、短い翼弦線28bを有する翼部21の出口角θ2よりも大きくすることにより、長弦翼部20の翼間を通過する空気流はさらにリアガイド部10の近くに吹き出されるので、吹出風路11を流れる空気流について、フロントガイド部9cとリアガイド部10間で高速流領域41の範囲が広げられ、吹出口3に流れる空気流の風速分布がさらに均一化される効果がある。このため、実施の形態1と比較して、所定の風量を得るときの最大風速値が低減され、エネルギー損失及び騒音を低減することができる貫流ファンが得られる。
なお、実施の形態1〜実施の形態6において記載したように、貫流ファンの吹出領域の翼間から吹き出される空気流について、周方向で広い範囲の翼間から吹き出すことができる貫流ファンが得られる。この貫流ファンを空気調和機の室内機に搭載することで、貫流ファンの下流に形成された吹出風路を流れる空気流の高速流領域の範囲が広がって風速分布が均一化され、最大風速値が低減されることで、エネルギー損失及び騒音が低減される空気調和機の室外機が得られる。
なお、実施の形態1〜実施の形態6において、貫流ファンを搭載した機器として、空気調和機の室内機について説明したが、これに限るものではない。例えば、縦型の送風機に用いられる貫流ファンなどについても同様である。