JP5630517B2 - フェライト系ステンレス鋼 - Google Patents
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本発明のフェライト系ステンレス鋼の成分組成を規定した理由を説明する。なお、成分%は全て質量%を意味する。
Cは鋼に不可避的に含まれる元素である。Cの含有量が多いと強度が向上する。十分な強度を得るためには0.001%以上の含有が好ましいが、0.030%を超えて含有すると加工性の低下が顕著となるうえ、Cr炭化物を析出して局所的なCr欠乏による耐食性の低下を起こしやすくなる。よって、C量は0.001〜0.030%の範囲とする。好ましくは、0.002〜0.018%の範囲である。より好ましくは0.003〜0.012%の範囲である。
Siは脱酸に有用な元素であり、その効果は0.03%以上の含有で得られる。しかし、本発明では、酸化皮膜に濃縮したSiが化学的に極めて安定なSi酸化物を形成して酸化皮膜の除去性を低下させ、0.30%を超えると除去が困難になる。よって、Si量は0.03〜0.30%の範囲とする。好ましくは、0.05〜0.15%の範囲である。
Mnは鋼の強度を高める効果がある。その効果は0.05%以上の含有で得られるが、0.30%を超えて含有すると腐食の起点となるMnSの析出を促進し、耐食性を低下させる。よって、Mn量は0.05〜0.30%の範囲とする。好ましくは、0.08〜0.25%の範囲である。より好ましくは、0.08〜0.20%の範囲である。
Pは鋼に不可避的に含まれる元素であり、過剰な含有は溶接性を低下させ、粒界腐食を生じやすくさせる。よって、P量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。
Sは鋼に不可避的に含まれる元素であるが、0.01%超の含有はCaSやMnSなどの水溶性硫化物の形成が促進され耐食性を低下させる。よって、S量は0.01%以下とする。好ましくは0.004%以下である。
Crはステンレス鋼の表面に形成される不動態皮膜の主要構成元素であり、ステンレス鋼の耐食性を確保するために最も重要な元素である。本発明では、溶接すき間構造内部での優れた耐食性を確保するため、Crの含有量は多いほうが好ましく、22.0%超とする。一方で、28.0%を超えて含有すると、酸化皮膜の除去性が急激に低下し、酸処理などの酸化皮膜の除去による耐食性の向上が困難となる。よって、Cr量は22.0%超28.0%以下の範囲とする。好ましくは、22.3〜26.0%の範囲である。より好ましくは22.3〜25.0%の範囲である。
Niはステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、不動態皮膜が形成できず活性溶解が起こる腐食環境において腐食の進行を抑制する元素である。
Moは不動態皮膜の再不動態化を促進し、ステンレス鋼の耐食性を向上する元素である。22.0%超のCrとともに含有することによってその効果はより顕著となる。Moによる耐食性向上効果は0.2%以上の含有で得られる。しかし、含有量が3.0%を超えると強度が増加し、圧延負荷が大きくなるため製造性が低下する。よって、Mo量は0.2〜3.0%の範囲とする。好ましくは、0.6〜2.4%の範囲である。より好ましくは0.7〜2.0%の範囲である。
Alは脱酸に有用な元素であり、その効果は0.01%以上の含有で得られる。しかし、本発明では、酸化皮膜に濃縮し酸化皮膜の除去性を低下させる元素であり、0.15%を超えると酸化皮膜の除去が困難になる。よって、Al量は0.01〜0.15%の範囲とする。好ましくは、0.015〜0.08%の範囲である。より好ましくは0.02〜0.06%の範囲である。
TiはC、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素であり、固溶したTiが不動態皮膜を強固にすることでフェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。さらに、Nと結合してTiNを生成することで酸化皮膜の除去性を向上させる元素でもある。その効果は、含有量が0.30%超で顕著となる。しかし、0.80%を超えて含有すると酸化皮膜に濃縮したTiによる酸化皮膜の除去性の低下が顕著となる。よって、Ti量は0.30超0.80%以下の範囲とする。好ましくは、0.32〜0.60%の範囲である。より好ましくは0.35〜0.55%の範囲である。
Nbは、C、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素であるが、本発明では、フェライト系ステンレス鋼とその表面に形成された酸化皮膜との界面近傍に濃縮し酸化皮膜の除去性を低下させる元素である。よって、含有量を制限する必要があり、Nb量は0.05%未満とする。好ましくは、0.03%以下である。
Vは耐食性を向上させる元素であり、フェライト系ステンレス鋼の溶接すき間構造における耐食性を高めるためには欠かせない元素である。その効果は、0.001%以上の含有で得られる。しかし、0.080%を超える含有は、Nbとともに鋼と酸化皮膜の界面に濃縮し除去性を低下させる。よって、V量は0.001〜0.080%の範囲とする。好ましくは、0.002〜0.060%の範囲である。より好ましくは0.005〜0.050%の範囲である。
Nは、Cと同様に鋼に不可避的に含まれる元素であり、固溶強化により鋼の強度を上昇させる効果がある。また、表面にTiNを生成して酸化皮膜の除去性を向上させる元素でもある。その効果は含有量が0.005%以上で得られる。しかし、Tiと結合する量以上の多量の含有は、Cr窒化物を析出して耐食性を低下させるため、0.030%以下の含有とする。よって、N量は0.005〜0.030%の範囲とする。好ましくは、0.005〜0.025%の範囲である。より好ましくは0.007〜0.015%の範囲である。
溶接などによってフェライト系ステンレス鋼の表面に形成される酸化皮膜は、通常、酸処理または電解処理によって除去される。フェライト系ステンレス鋼の酸化皮膜はSi、Al、Crなどの酸化物で形成されている。これらの酸化物は酸や電位に対して鋼そのものよりも安定で溶解しにくい。したがって、酸処理などによって酸化皮膜が除去される場合、酸化皮膜直下のCr欠乏領域が溶解して、酸化皮膜を剥離する形で除去が進行する。このとき、酸化皮膜がステンレス鋼の表面を一様に緻密に保護していると、酸や電解液がCr欠乏領域まで到達せず、酸化皮膜の除去性が低下する。粒径が1μm以上となる粗大なTiNが鋼表面に存在した場合、TiNが酸化皮膜を突き破って存在することが多く、TiN周囲が酸化皮膜の欠陥となり、そこを通して酸や電解液が鋼そのものまで浸透し除去性が向上する。よって、表面に粒径が1μm以上のTiNが30個/mm2以上の密度で分布とした。
Cuはステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、その効果を得るには0.01%以上の含有が好ましい。しかし、過剰な含有は不動態維持電流を増加させて不動態皮膜を不安定とし、耐食性を低下させる作用がある。よって、Cuを含有する場合、その量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.6%以下である。
ZrはC、Nと結合して、鋭敏化を抑制する効果がある。その効果を得るには0.01%以上の含有が好ましい。しかし、過剰な含有は加工性を低下させるうえ、非常に高価な元素であるためコストの増大を招く。よって、Zrを含有する場合、その量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.6%以下である。さらに好ましくは0.2%以下である。
WはMoと同様に耐食性を向上する効果がある。その効果を得るには0.01%以上の含有が好ましい。しかし、過剰の含有は強度を上昇させ、製造性を低下させる。よって、Wを含有する場合は、その量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.6%以下である。さらに好ましくは0.2%以下である。
Bは二次加工脆性を改善する元素であり、その効果を得るには、0.0001%以上の含有が好ましい。しかし、過剰の含有は、固溶強化による延性低下を引き起こす。よってBを含有する場合は、その量は0.1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01%以下である。さらに好ましくは0.005%以下である。
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
以下に本発明のフェライト系ステンレス鋼の好適な製造方法を述べる。
Claims (2)
- 成分組成が、質量%で、C:0.001〜0.030%、Si:0.03〜0.30%、Mn:0.05〜0.30%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:22.0%超28.0%以下、Ni:0.30〜5.00%、Mo:0.2〜3.0%、Al:0.01〜0.15%、Ti:0.30%超0.80%以下、Nb:0.05%未満、V:0.001〜0.080%、N:0.005〜0.030%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、粒径1μm以上のTiNが30個/mm2以上の密度で、鋼表面に分布することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
- 成分組成が、更に、質量%で、Cu:1.0%以下、Zr:1.0%以下、W:1.0%以下、B:0.1%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
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