JP5622153B2 - 磁気刺激装置 - Google Patents
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Description
この特許文献1においては、かかる方法で施した経頭蓋磁気刺激治療により難治性の神経障害性疼痛が有効に軽減され、更に、より正確な局所刺激がより高い疼痛軽減効果を実現することが確認されている。但し、最適刺激部位は個々の患者によって微妙に異なることも明らかにされている。
かかる刺激用コイルの位置決めについては、例えば赤外線を用いた光学式トラッキングシステムを利用して患者頭部に対する刺激用コイルの位置決めを行う構成のものが公知であり(例えば、特許文献2,3参照)、既に一部には市販され臨床応用されている。更に、特許文献4には、多関節ロボットを用いて患者頭部に対する刺激用コイルの位置決めを行う装置が開示されている。
また、前記磁場発生手段は前記操作手段に取り付けられていることが好ましい。
或いは、前記磁場発生手段が動磁場のみを発生するように構成することもできる。
また、前記磁場検出手段は、前記磁場発生手段が発生させた動磁場および静磁場を検出するように構成することができる。この場合において、前記磁場検出手段は、前記磁場発生手段による動磁場の発生を停止した状態で、前記磁場発生手段による静磁場を検出するように構成することができる。
或いは、前記磁場検出手段は、前記磁場発生手段が発生させた動磁場のみを検出するように構成することもできる。
尚、前記「磁場発生手段の所要の3次元基準データ」としては、被験者の特定部位中で磁気刺激を加えるべき最適の位置および姿勢に対応する磁場発生手段の3次元データが挙げられる。
或いは、この代わりに、前記操作手段は磁場発生手段として動磁場発生手段と静磁場発生手段とを有し、前記磁場検出手段は、動磁場発生手段による動磁場の発生を停止した状態で、静磁場発生手段が発生させた静磁場を検出する、ように構成することもできる。
或いは、この代わりに、当該磁気刺激装置の前記磁場解析手段を用いて前記3次元基準データを得る、ように構成することもできる。
特に、報知手段が聴覚情報により前記教示情報を報知するものである場合には、前記操作手段が行うべき変位量または前記被験者が身体移動すべき移動量に応じて、音量,音階および音色の少なくとも一つを変化させて報知することが好ましい。
或いは、報知手段が視覚情報により前記教示情報を報知する報知するものである場合には、前記操作手段が行うべき変位量または前記被験者が身体移動すべき移動量に応じて、教示色を変化させて報知することが好ましい。
従って、当該装置の使用者(ユーザ)は、報知手段で報知される教示情報に基づいて操作するだけで、従来のように特別な熟練性を要することもなく、操作手段を用いて行うべき変位の操作を行うことができる。つまり、患者あるいはその家族、又は必ずしも専門ではない近所のかかりつけの医師などでも、比較的容易に操作して使用することができる。また、従来のような大掛かりで高価な装置を用いる必要がないので、コスト負担が小さくて済み、しかも患者個人の自宅や比較的小規模な医院や診療所等でも設置スペースの確保が容易である。
このように、本願発明によれば、取り扱いや操作が簡単で、且つ、より小型で安価な磁気刺激装置を提供することができ、これにより、患者が、自宅や近所のかかりつけの医院などで日常的に継続反復して経頭蓋磁気刺激療法を行うことが可能になる。
従って、当該装置の使用者(ユーザ)は、報知手段で報知される教示情報に基づいて偏差がゼロ(零)となるように操作手段を変位操作するだけで、従来のように特別な熟練性を要することもなく、かなり容易に磁場発生手段の所要の3次元基準データに対応した(つまり、磁気刺激を加えるべき最適位置および姿勢に対応した)磁場発生手段の3次元位置および姿勢を検出することができる。つまり、患者あるいはその家族、又は必ずしも専門ではない近所のかかりつけの医師などでも、比較的容易に操作して使用することができる。また、かかる磁場発生手段の3次元位置および姿勢を検出するのに、従来のような大掛かりで高価な装置を用いる必要がないので、コスト負担が小さくて済み、しかも患者個人の自宅や比較的小規模な医院や診療所等でも設置スペースの確保が容易である。このように、取り扱いや操作が簡単で、且つ、より小型で安価な磁気刺激装置を提供することができ、これにより、患者が、自宅や近所のかかりつけの医院などで日常的に継続反復して経頭蓋磁気刺激療法を行うことが可能になる。
図1は本実施形態に係る経頭蓋磁気刺激装置の全体構成を概略的に示す説明図である。この図において、その全体が数字符号10で表示される経頭蓋磁気刺激装置(以下、適宜、「磁気刺激装置」或いは単に「装置」と略称する)は、治療用の椅子2に固定的に着座した患者M(被験者)の頭皮表面に配置した刺激用コイル11により脳内神経に磁気刺激を加えることによって、治療及び/又は症状の緩和を図るものである。
尚、図1においては、コイルホルダ12を把持し刺激用コイル11を患者頭皮に沿って変位させ、当該コイル11の位置決めを行った後、当該コイル11が不用意に移動することがないように、より好ましくは、コイルホルダ12をホルダ固定具3に固定した状態が示されている。
かかるセンサ13としては、例えば、所謂サーチコイルなどの誘導型センサ,ホール効果を利用したホールセンサ,磁気抵抗(Magnetoresistance)効果を利用したMRセンサ,磁気インピーダンス(Magneto-impedance)を用いたMIセンサ、更にはフラックスゲート型センサなど、様々なタイプの公知の磁場センサ(磁気センサ)を用いることができる。数ミリ(mm)角のサイズで数グラム(g)の重量の量産品であれば、1個当たり数百円程度の価格での入手が期待できるものも少なくない。経頭蓋磁気刺激療法に用いるものとしては、十分な小型・軽量・低価格が達成可能であると言える。
この表示装置28は、磁場逆解析を行って刺激用コイル11の現在位置(好ましくは現在の位置および姿勢)を把握した後、このコイル11の現在位置(および姿勢)をユーザに報知し、刺激用コイル11を最適位置(つまり、最適刺激部位に相当する位置)および姿勢まで誘導するインタフェースの役割を果たすものである。尚、この場合、「ユーザ」とは、例えば、患者,その家族,かかりつけの医院等の医師や医療従事者などである。
前記信号解析部22は、好ましくは無線信号として入力される前記複数の磁場センサ13(センサ1,センサ2,…,センサN)から入力される検出信号に基づいて(図3:矢印Y1参照)、刺激用コイル11が発生させた磁場を逆解析し、当該刺激用コイル11の3次元データ、つまり、刺激用コイル11の位置および姿勢についての3次元データを得るものである。
この3次元基準データは、刺激用コイル11を用いて患者Mの脳の特定部位に磁気刺激を加える際に、患者Mの神経障害性疼痛が最も軽減される最適のコイル位置(所謂スイートスポット)および姿勢であり、初期診療時など病院で診療を行う際に、経頭蓋磁気刺激装置10の外部の専用の位置決め装置を用いて決定することができる。
或いは、このような「装置外部の専用の位置決め装置」を用いる代わりに、当該経頭蓋磁気刺激装置10の磁場解析ユニット20自体を用いて、具体的には、磁場解析ユニット20の信号解析部22の機能を利用して3次元基準データを決定するように構成することもできる。
そして、この比較部24での比較結果によって検知された前記偏差データが、ユーザ情報出力部25を介してユーザ・インタフェース部28(本実施形態では、前述の表示装置)に信号出力される(図3:矢印Y5,Y6参照)。ユーザ・インタフェース部28は、このユーザ情報出力部25からの出力信号に基づいて、操作手段(コイルホルダ12)を用いて行うべき変位の操作を教示するための教示情報(前述の表示装置の場合には、例えば映像信号等の表示のための信号)を生成してユーザに報知するようになっている。
まず、専門の医師が居る比較的大規模な病院で行われる初期診療時の装置10の操作方法を、図4のフローチャートに基づいて説明する。
このとき、信号解析部22で得られた3次元データの前記3次元基準データからの偏差の大きさ(コイルホルダ12が行うべき変位量)に応じて、つまり、刺激用コイル11が最適位置に近付くに連れて、表示装置28に映し出された画像の色を、例えば、偏差が小さくなるにつれて、例えば、青色から黄色へ、更には赤色などに順次変化させるように構成することで、刺激用コイル11の最適位置および姿勢への誘導がより容易になり、利便性をより高めることができる。
但し、座標変換に伴って生じる可能性がある誤差を考慮しなければならない場合には、図4のステップ#14及び#15で示されるように、やはり、センサ計測系での3次元データを計算し、これを3次元基準データとして格納部23に格納することが必要である。
(1)まず、安定して計測できる同一平面上にない4つの特徴点を定めておく。
(2)次に、座標系Aでみた前記4つの特徴点の位置座標:
(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3),(x4,y4,z4)
を取得する。
(3)更に、座標系Bでみた同じ4つの特徴点の位置座標:
(X1,Y1,Z1),(X2,Y2,Z2),(X3,Y3,Z3),(X4,Y4,Z4)
を取得する。
(1)まず、磁場センサ取付装具(この場合、例えば眼鏡14)上に、安定して計測できる同一平面上にない4つの特徴点を定めておく。
(2)次に、座標系Aでみた前記4つの特徴点の位置座標:
(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3),(x4,y4,z4)
を取得する。この場合、座標系Aは、磁場センサ取付装具(眼鏡14)に固定された座標系であるので、前記4つの特徴点の位置座標は磁場センサ固定具(眼鏡14)の設計値から得ることができる。
(3)更に、病院の3次元位置計測装置(光学式トラッキングシステム)を用いて、座標系Bでみた同じ4つの特徴点の位置座標:
(X1,Y1,Z1),(X2,Y2,Z2),(X3,Y3,Z3),(X4,Y4,Z4)
を取得する。
(4)座標変換行列Tを前記数1により計算する。
(5)この座標変換行列Tを用いることで、前記数2に示すように、座標系B(光学式トラッキングシステム)で取得した任意の特徴点の(従って、最適刺激位置の)位置座標(X,Y,Z)を座標系Aでみた位置座標(x、y、z)に変換することができる。
尚、この場合、在宅治療時に患者Mが刺激用コイル11を置くことが想定される頭部位置については、当該頭部をメッシュ状に区切って座標表示することで、位置の特定をし易くすればよい。
ヘッドバンドについては、種々の材料を用いて、使用者の額やその近傍などの形状に沿って装着するものが数多く市販されており、また、イヤホンやヘッドホンについても、近年では、使用者の耳の形にぴったりフィットして装着できるものが市販されており、何れも磁場センサ13の取付装具として好適に使用可能である。
尚、刺激用コイル11は、本明細書中で開示したものに限定されるものではなく、磁気刺激の目的や要求される刺激の強さ、その他さまざまの要因に応じて、種々のタイプのものを用いることができる。
更には、刺激中(治療中)、動磁場は瞬間的なパルス(例えば毎秒10回)で発生させるので、パルスのタイミングに同期させて、磁場センサのON/OFFを切り替えることも考えられる。パルス発生中は磁場センサをOFFにすることで、動磁場の干渉は回避でき、この場合、感度の異なるセンサを備えなくてもよい。
以上より、磁場センサが検出すべき磁場の種類としては、磁場強度が異なる次の3種類が考えられる。
(a)比較的弱い動磁場(磁気刺激治療に先立って発生させる)
(b)比較的強い動磁場(磁気刺激治療を主目的として発生させる)
(c)永久磁石による静磁場(位置決め専用に導入される)
(1)例えば、前述のように、病院での初期治療時に、医用画像情報との位置合わせのために永久磁石マーカを検出するための磁場センサ群:この磁場センサ群では、(c)の静磁場を検出する。
(2)在宅での使用時において、磁気刺激治療に先立ってコイルを位置決めするための磁場センサ群:この磁場センサ群では、(a)の比較的弱い動磁場または(c)の静磁場を検出する。
(3)在宅での使用時において、磁気刺激治療中にコイル位置を微調整するための磁場センサ群:この磁場センサ群では、(b)の比較的強い動磁場または(b)と(c)の合成された磁場を検出する。
刺激用コイル11の3次元位置を特定するには「磁場逆解析」が必要であり、この磁場逆解析には磁場順解析が必要になる。周知のように、「磁場順解析」とは、磁場発生源の位置が既知であって任意の場所での磁場信号を解析するものであり(図6参照)、一方、「磁場逆解析」とは、或る複数の場所での磁場信号が既知であって磁場発生源の位置を解析するものである(図7参照)。
まず、磁場順解析の手法について、単純な円形(円環状)コイルの場合を例にとって説明する。
図8に示すように、半径aの円形コイルが原点を中心としてz軸に垂直な面内にあり、コイルには電流Iが通電されているとする。このとき、円形コイルが発生する磁場ベクトルは、厳密解による場合と近似解による場合とで、それぞれ以下のようになる。ここに、μoは真空の透磁率であり、単位はMKSA単位系とする。
図8に示す任意の点(r,θ,φ)における磁場ベクトルをB=(Br,Bθ,Bφ)とすると、厳密解による各成分は数5で表される。
ここに、Aφはベクトルポテンシャルであって数6で表され、K(k)及びE(k)はそれぞれ第1種および第2種完全楕円積分であり、kは数7で表される。
近似解を得るに際しては、図9に示すように、円形コイルを円周方向にN個に分割したモデルを想定し、分割した各要素は直線(線分)で近似した。この分割モデルにおいて、位置r’に在るn番目の要素が位置rに発生させる磁場は、数8で表されるビオ・サバールの法則で与えられる。ここに、数8中の「Δs」,「r’」及び「t(r’)」は、それぞれ以下の式で与えられるものである。
・Δs=2πa/N
・t(r’)=(−sinθn,cosθn,0)
・r’=(a・cosθn,a・sinθn,0)
但し、θn=2πn/N
そこで、本実施形態では、コイルの形状の違いに対して応用が効く近似解の手法を用いて、磁場分布を順解析するようにした。磁場は重ね合わせの法則が成り立つので、左右それぞれの渦巻コイルから発生する磁場を重ね合わせて表現すると次の数12のようになる。数12において、第1項は左側の渦巻の寄与を表し、第2項は右側の渦巻の寄与を表している。また、数12において、Kはコイルの巻数を、aoは外半径寸法を、aiは内半径寸法を、hは2つのコイルの中心間距離を、それぞれ表している。
次に、磁場逆解析の手法について説明する。本実施形態では、磁場信号からコイルの3次元位置を特定する磁場逆解析において、数12で表された磁場順解析に加えて、最小二乗法を利用するようにした。
この場合、次のようなn変数のn個の非線形方程式を想定する。
・f1(x1,x2,…,xn)=0
・f2(x1,x2,…,xn)=0
……
・fn(x1,x2,…,xn)=0
ここで、n個の変数の組[x1,x2,…,xn]をxで表すと、n個の関数の組[f1(x),f2(x),…,fn(x)]はf(x)で表すことができ、上記のn個の非線形方程式は、f(x)=0と表記することができる。
前記fが最小となるときのBを与える仮定コイル位置が、実際のコイル位置と近似され、刺激用コイルの現座標(3次元データ)を求めることができる。この現在位置の3次元データに基づいて、初期診療時に特定された最適位置(3次元基準データ)からの偏差(ずれ)がゼロとなるように、コイル位置を探索し更新しながら誘導する。
コイル位置の更新方法(つまり探索方法)の一つとして、所謂ドッグレッグ型信頼領域法(Trust Region Dogleg Method)を利用することが考えられる。この方法は、ニュートン(Newton)法では初期値によって収束しないという問題があることに鑑み、この欠点を補うように開発された手法であり、大域的収束性が保証されており収束性も良いとされている。但し、ニュートン法に比してアルゴリズムが複雑になり解析時間も長くなるという難点もある。
信頼領減法は、図11に示されるように、ニュートン法と最急降下法に信頼領域というものを加えて構築された手法である。
qk(sk)=f(xk)+∇f(xk)Tsk+1/2・sk TBksk
このとき、ニュートン法として得られる点をxN=xk−Bk−1∇f(xk)と置き、点xkから最急降下方向−∇f(xk)に沿って移動したときの2次モデルqk(sk)の最小点をxcpと置く。このxcpをCauchy点と呼ぶ。もしxNが信頼領域の内部にあるならば、xk+sk=xNとし、そうでない場合には、xk,xcp,xNを結ぶ区分的線形な点で、且つ、xkからの距離がΔkである点をxk+skとして選ぶ(図11参照)。すなわち、信頼半径が十分に大きいときはニュートン法が採用され、信頼半径が小さいときは最急降下方向も考慮した方法が採用される。
Δqk=qk(sk)−qk(0)=∇f(xk)Tsk+1/2・sk TBksk
と、目的関数値の減少量
Δfk=f(xk+sk)−f(xk)
とを比較して、これらの減少量の大小に基づいて近似解を適宜更新する(更新条件は任意である)。また、そのときの状況に応じて信頼領域の大きさを適宜変更する。
今一つのコイル位置の更新方法(つまり探索方法)として、ランダムウォーク(Random Walk:RW)探索法を利用することが考えられる。
このRW法は、例えば図12のフローチャートに示されるように、コイル仮定位置の近傍をランダムに選び、その位置にコイルが移動したと仮定したときの最小二乗法によるfの値を計算し、fの値が改善するならばコイル位置を更新するという方法である。これを繰り返すことで徐々に正しいコイルの位置に収束するという、比較的シンプルな方法である。
・nth:半径探索回数(n)の上限閾値
・rth:探索半径(r)の下限閾値
・α:半径更新パラメータ(但し、α<1)
図13に示されるように、永久磁石の場合には、N極とS極とを結ぶ軸線を中心にして磁石が回転しても磁場は変化しないが、図14に示されるように、本実施形態で用いた8の字型コイルの場合には、U軸,V軸,W軸の何れの軸を中心に回転しても磁場センサが検知する磁場は変化する。つまり、永久磁石の場合にはN極とS極の2つの座標がわかれば逆解析が可能であるが、8の字型コイルの場合には、更に、コイルが置かれている平面内での座標が分からなければ逆解析はできない。また、8の字型コイルの場合には、コイル座標系(UVW座標系)においてのみ順解析が可能であるため、仮定コイル位置更新ごとに新しいコイル座標系にセンサ位置を座標変換しなければならない。ここが、コイル磁場逆解析の難しい点てあると言える。
図15に示すように、2つの3次元直交座標系Σa,Σbが設定されているものとする。ここで、点Pを座標系Σaで表現したものをap、座標系Σbで表現したものをbp、座標系Σbの原点の位置ベクトルを座標系Σaで表現したベクトルをaqbとする。このとき、apとbpの関係は、次式で表される。
ap=aRb bp+aqb
ここで,aRbは座標系Σbの座標系Σaに対する姿勢を表した3×3の行列で、回転行列と呼ばれるものである。その各列ベクトルは座標系Σbの各軸の単位ベクトルを表していることから、次の式が成り立つ。
bRa=(aRb)T=aRb −1
また、X軸,Y軸,Z軸の各軸回りの回転行列aRbについては、X軸回りにθ回転する場合には数15で、Y軸回りにφ回転する場合には数16で、Z軸回りにψ回転する場合には数17で、それぞれ表される。
次に、この逆解析シミュレーションについて説明する。
<シミュレーション1>
まず、シミュレーションの第1段階として、簡単化のために巻数が1回の所謂シングルコイルを想定し、コイルの姿勢を一定としたときに(つまり、コイル座標系が絶対座標系を平行移動しただけのときに)、コイルの正確な座標を逆解析できるか否かについて検証した。より具体的には、仮定コイル初期位置の違いにより収束性がどの程度変わるか(つまり、収束性の初期位置依存性)を検証し、且つ、磁場センサ数の違いによる収束性の違いについても検証した。コイルは位置・姿勢による自由度がそれぞれ3つずつの計6自由度である。よって、磁場センサの数は理論上2つあれば逆解析可能である。ここでは、センサ数が2,3,4の各場合についてシミュレーションを行った。
仮定コイルの位置更新には信頼領域法のみを利用して、各パターンにおいて、それぞれ100回ずつ仮定コイル初期位置を変化させて収束性の検証を行った。尚、各試行において、信頼領域法による計算回数の上限閾値は30回に設定した。
100回の試行のうち最も真値に近づいた試行の時の誤差(つまり、最小誤差)を表2に示す。また、図17は、100回の試行のうち真値との誤差が10[cm]以内に収まった試行回数の割合をパターン別に表し、図18は、同じく真値との誤差が5[cm]以内に収まった試行回数の割合をパターン別に表している。
しかし、仮定コイル初期位置が同等でセンサ個数が異なる場合(パターンS1とS3とS5の場合、及びパターンS2とS4とS6の場合)、本シミュレーションに係るコイル磁場逆解析では、センサ数による収束性への影響は認められなかった。
[極小値存在の検証]
本実施形態では、コイルが発生する磁場は、当該コイルから約4〜5[cm]以上離れると弱く、それより近傍になると急激に強くなる。そのため、図19に示すように、信頼領域法による仮定コイル位置の探索経路が、一旦、実際のコイルの位置よりも磁場センサに近付いてしまうと、順解析で求めた磁場と磁場センサで得られた磁場の値が急激にずれてしまい、図20に示すように、関数fが最小値(global minimum)ではない極小値(local minimum)をもってしまう。尚、信頼領域法は、その性質上、図19で示されるような経路を通って真値に近付いて行き易いことが知られている。
経頭蓋磁気刺激療法では、コイルの位置が最適位置から例えば5[mm]程度以上ずれると、治療の効果が薄れてしまう場合がある。このような場合には、真値との誤差は少なくとも5[mm]以内を目標としなければならない。しかし、前述のように、信頼領域法のみでは、極小値に収束してしまって、要求を満たすことは一般に難しいものと考えられる。以上のシミュレーション結果も、このことを物語っている。
極小値ではなく最小値に収束させるアルゴリズムとしては、所謂、「焼き鈍し(Simulated Annealing)法」などが公知であるが、この方法の場合には、一般にパラメータ設定などに実用上の難しさがあることが知られている。
シミュレーション2では、このアルゴリズムを用いて、前記シミュレーション1における表1の各パターンで収束性の検証を行った。尚、RW法における各パラメータは、以下のように設定した。
・半径探索回数nの上限閾値:nth=10
・探索半径rの下限閾値:rth=0.1[mm]
・半径更新パラメータ:α=0.9
・探索半径rの初期値:r0=10[mm]
図21は、100回の試行のうち真値との誤差が1[mm]以内に収まった試行回数の割合をパターン別に示している。この図21から良く分かるように、シミュレーション1の場合と同じく、仮定コイル初期位置を真値に近い場所からスタートさせたとき(パターンS2,S4,S6)の方が、真値から遠い場所からスタートさせたとき(パターンS1,S3,S5)よりも、明らかに収束性が良く、また、仮定コイル初期位置を真値に近い場所からスタートさせたパターンS2,S4,S6では、センサ数に拘わらず、収束率が70%を越えている。
従って、計算を2,3回行えば、信頼領域法とRW法とを組み合わせることで、コイルの姿勢を考慮しない場合のシングルコイルの位置推定は可能であると言える。
このシミュレーション3では、刺激用コイルを前述のシングルコイルから本実施形態に係る8の字型渦巻コイルに変更し、且つ、コイルの姿勢をも考慮したシミュレーションを行った。
前述のように、患者が刺激用コイルを動かす場合、初期診療にて専門医に指示された最適位置から大きくずれることはない(つまり、ある程度以上の再現性を有する)ものと考えられるため、仮定コイル初期位置発生空間を最適位置の近傍に設定することが可能である。従って、本シミュレーション3においては、信頼領域法は使用せず、RW法のみを適用することとした。尚、絶対座標系としてXYZ軸を設定し、コイル座標系としてUVW軸を設定した。また、センサ配置は、前述のシミュレーション1におけるセンサ数=4の場合と同じとした。
次に、シミュレーション3の実行手順について、図22のフローチャートを参照しながら説明する。
シミュレーションがスタートすると、まず、ステップ#71で実際のコイル位置を設定する。本シミュレーション3においては、患者が、初期診療で指示された最適位置より少しずれた位置に、また、最適姿勢より少しずれた姿勢で、コイルを置いたと仮定した。具体的には、最適位置から初期偏差s0[cm]だけ平行移動した地点に実際のコイル位置を設定し、更に、U軸,V軸,W軸それぞれに対してβ[deg]の範囲内でランダムに回転させた姿勢を、実際のコイル姿勢と仮定した。
上述のシミュレーションでは、実際のコイル位置を把握した状態で行っているため、収束したか否かは、探索終了時のコイルの位置・姿勢と実際のコイルの位置・姿勢を対比することによって判断できた。しかし、実際に治療する場合には、実際のコイルの位置(患者がコイルを当てた位置)は分からないため、最小二乗法によるf値のみで収束したか否かを判断する必要がある。そこで、fの値がどの程度小さくなれば要求仕様を満たすのか、すなわち、図22で説明したアルゴリズムにおける閾値fthをどれくらいに設定すれば良いかを検証しておく必要がある。
・コイル中心位置の誤差:5[mm]以内
・コイルの姿勢の誤差:コイル各軸に対して5[deg]以内
そして、図23A,23Bより、最小二乗法によるfの値の最適位置からの誤差が前記要求仕様を満たす条件は、概ねf<5.0×10−8であると言える。また、図24A,24B〜図26A,26Bより、前記fの値の最適姿勢からの誤差が前記要求仕様を満たす条件は、概ねf<1.5×10−7であると言える。従って、fth=5.0×10−8と設定すれば、コイル位置をほぼ正確に特定可能であることが分かる。
前記fthの値を小さく設定すればするほど、特定されたコイルの位置および姿勢の信頼度は高くなるのであるが、反面、逆解析に要する平均的な時間は一般に長<なる。状況等に応じて必要な信頼度を確保しつつ、解析処理の所要時間の短縮を図ることも、実用面から重要である。
経頭蓋磁気刺激治療は患者の頭部に刺激用コイルを押し当てながら行うものであるため、コイル座標系のW軸方向(コイル平面に垂直な方向:図14参照)の誤差については許容度が比較的大きく、位置の誤差に関しても閾値をもう少し上げることができると考えられる。また、fth≧5.0×10−8であっても、かなりの確率で要求仕様を満たしていることが、図23A,23B〜図26A,26Bから分かる。従って、状況等の如何に拘わらず、fth≧5.0×10−8の範囲を全て排除するのは得策ではない。
そこで、例えば下記表3に示されるように、最小二乗法によるfの値と信頼度との関係を定義付け、逆解析で求められたコイルの位置および姿勢の情報と共に、その情報の信頼度も併せて患者に伝えるようにしても良い。経頭蓋磁気刺激治療は、最適位置から少しずれた場所を刺激したとしても、一般に、治療の効果が薄れるだけで安全性に問題はない。例えば、信頼度が低い情報に基づく治療の場合に、治療効果が小さいと患者が感じたときにはその信頼度が低い情報は利用しないというように、信頼度に応じて患者が情報を取捨選択することができるようにすることも可能である。
磁場逆解析について以上の検討を進めて行く中で、探索を開始する際のfの値(初期値(f0))がある程度以上大きい場合には、略確実に要求仕様を満たさない(つまり、探索を失敗する)という傾向が認められた。このような場合には、fの初期値(f0)が或る閾値よりも大きければ、その位置からの探索は最初から行わないように設定する(所謂フィルタをかける)ことで、解析時間の短縮が可能になる。
前述のfth及びf0を考慮した上で、逆解析がどの程度の範囲まで可能であるのか、すなわち、患者が刺激用コイルを最適位置からずれて置いてしまった場合、どの程度までの「ずれ」であればコイルの位置を特定することができるのか、について検証する。
この検証では、初期条件を表4のように設定した。表4に示される各パターンにおいて100回ずつ最適位置・姿勢を変えて、探索試行を行った。表4中のパターンT12の場合を例にとって説明すれば、このパターンT12では、患者が最適位置から1[cm]ずれた位置にコイルを置き、且つ、コイルの姿勢を各軸回りに±20[deg]の範囲内でランダムに100回ずらせて置き、探索試行を行った。他のパターンについても、誤差s0と誤差βの範囲の組み合わせが異なるだけで、手法は同様である。尚、RW法の実行回数の上限閾値(ith)を1000回、探索初期位置の変更回数の上限閾値(jth)を10回に設定して、検証を行った。
より詳しく説明すれば、図28は最適姿勢との誤差βがゼロ(β=±0[deg])である3つのパターン(T10,T30,T50)の組み合わせについて、図29は最適姿勢との誤差βが±10[deg]の範囲内にてランダムであって最適位置との誤差s0がそれぞれ異なる3つのパターン(T11,T31,T51)の組み合わせについて、図30は最適姿勢との誤差βが±20[deg]の範囲内にてランダムであって最適位置との誤差s0がそれぞれ異なる3つのパターン(T12,T32,T52)の組み合わせについて、また、図31は最適姿勢との誤差βが±30[deg]の範囲内にてランダムであって最適位置との誤差s0がそれぞれ異なる3つのパターン(T13,T33,T53)の組み合わせについて、それぞれ収束の割合を示している。尚、各図において、信頼度Eの場合には、探索初期位置を10回変えて探索を行っても信頼度B以上にならなかった割合を示している。
また、患者は余り急激にコイルを移動させることはないと考えられる。従って、一旦コイルの位置を特定すれば、次はそのコイル位置の近傍に仮定コイルの初期位置を与えることが想定できる。つまり、常に実際のコイル位置の近傍から逆解析を行うことができ、高い信頼度でコイルの位置を把握できるものと考えられる。
このような磁場逆解析を可能とすることで、磁気刺激装置10の小型化、低コスト化および操作の容易化に貢献し、ひいては、患者Mが自宅や近所のかかりつけの医院などで日常的に継続反復して経頭蓋磁気刺激療法を行えるようにすることができる。
また、コイルホルダ12の上面には、刺激用コイル11の長手方向における中央部位に当該長手方向と直交する方向に、例えば樹脂製で透明な板状のベース板42が立設されるようにして固定されている。ベース板42は、例えばネジ部材等を用い、コイルホルダ12に対して取り外し可能に固定されることが好ましい。
また、この代わりに、第1の実施形態の説明において述べたように、動磁場発生手段(例えば刺激用コイル11)を用いて位置検出を行うこともできる。
このフレーム体50の上面に、好ましくは複数の磁場センサ51が固定されている。本実験例では、フレーム体50の左右側辺部50a,50bに前後一対の磁場センサ51をそれぞれ取り付け、計4個の磁場センサ51を用いるようにした。これにより、頭部Hmを囲む前後左右の4箇所で、磁場を検出(つまり、磁場強度および磁場の方向を検出)することができる。前記磁場センサ51としては、好ましくは、所謂3軸センサを用いた。この代わりに、第1の実施形態における場合と同様に、他の種々のタイプの公知の磁場センサを使用することができることは、言うまでもない。
従って、実用に際しては、第1の実施形態における場合と同様に、眼鏡、特に保護用(安全用)眼鏡やスポーツ用眼鏡、或いは、イヤホン,ヘッドホン及びヘッドバンドなどの身体装身具を用いることが好ましい。
この例では、磁気センサ数は4個であり、それぞれ添字a,b,c,dを用いて表示している。コイルの位置・姿勢は、コイルの中心位置をP,姿勢をRで表している。また、1〜Nの添字を用いて表示したデータは、それぞれデータセット番号1〜Nに対応したものを表している。磁気センサは、それぞれx,y,zの3方向の値を計測するため、磁場データBa〜Bdは3次元ベクトルであり、それぞれの方向の値をx,y,zの添字を付して表示する。添字aを用いて表示される磁気センサについてデータセット番号1の場合を例にとって示せば、磁場データBa1は次式で表される。
・Ba1=(Ba1x,Ba1y,Ba1z)
同様に、位置データP及び姿勢データRも3次元ベクトルであり、データセット番号1の場合を例にとって示せば、位置データP1は次式で表される。
・P1=(P1x,P1y,P1z)
また、姿勢データR1は、ロール角をα,ピッチ角をβ,ヨー角をγで表示すれば、データセット番号1の場合には、次式で表される。
・R1=(α1,β1,γ1)
前記データセット解析ユニット120は、例えば、CPU(中央演算処理装置)を備えた所謂パーソナルコンピュータを主要部として構成され、図34のブロック構成図に示されるように、信号解析部122と記録部123と比較部124とユーザ情報出力部125とを備えている。
ユーザ・インタフェース部128は、このユーザ情報出力部125からの出力信号に基づいて、操作手段(コイルホルダ12)を用いて行うべき変位の操作を教示するための教示情報(前述の表示装置の場合には、例えば映像信号等の表示のための信号)を生成してユーザに報知するようになっている。
従って、コイルホルダ12の操作者(ユーザ)は、表示装置128の画面を視認しながら、画面上に表示された実線のコイルホルダ画像56(現在位置)が、一点鎖線のコイルホルダ画像55(最適刺激位置)にできるだけ重なるように、コイルホルダ12を患者の頭皮に沿って変位操作すればよい。
まず、病院において(図36参照)、ステップ#101で、磁場センサ固定具50を患者に装着してもらう。このとき、磁場センサ固定具50の装着位置に関するキャリブレーションを行う(ステップ#102)。そして、医師が、従来の光学式トラッキングシステムを用いた手法で最適刺激位置を特定する(ステップ#103)。その後、ステップ#104で、最適刺激位置およびその周辺の複数(多数)の位置についてデータセットを収集し、データセット解析ユニット120の記録部123に記録する。
そして、病院と在宅治療時のそれぞれの場合について、前記基準磁場データを取得した場合と同様に、鼻や耳の位置に磁石マーカを当てて行き、センサシステムで磁石マーカの磁場データを取得し、この取得した磁場データが前記基準磁場データとできるだけ合致するように、それぞれの場合での磁場センサ固定具50の装着位置を調整すればよい。
尚、このようにキャリブレーション用の基準磁場データを別途に設定する代わりに、病院で取得した前記磁石マーカの磁場データを記録しておき、在宅治療の際に取得した磁石マーカの磁場データが病院で取得した前記磁場データとできるだけ合致するように、在宅治療時の磁場センサ固定具50の装着位置を調整することで、キャリブレーションを行うこともできる。
最終誘導位置および姿勢の最適刺激位置および姿勢に対する誤差はPOLARISを用いて測定した。誤差としては、刺激用コイルの中心位置誤差,ロール角誤差,ピッチ角誤差およびヨー角誤差を測定した。
また、データセット数が500個の場合と1000個の場合の2つのパターンで実験を行った。これらデータセットは、最適刺激位置付近を重点的に収集したものである。被験者は、各パターン3回ずつ計6回の誘導操作を行うようにした。
イ)被験者の如何に拘わらず、データセット数が1000個の場合には500個の場合に比して、何れの誤差も大きく減少した。
:本手法では、永久磁石の発する磁場がデータセットの磁場と完全に一致しなくても、最も近い磁場をもったデータセットを抽出して、その位置データが表示される。
つまり、システム上で誘導操作が終了したと認識しても、最適刺激位置として指定したデータセットとは誤差が生じ得る。そのため、データセット数が少ないと、刺激用コイルの実際の位置と、Open GL上に表示されている刺激用コイルの位置との誤差が平均的に大きくなってしまうと考えられる。
尚、前記要求仕様とは、好ましくは臨床研究に基づいて算出されたものであり、本実施形態では、第1の実施形態における場合と同じく、コイルの中心位置,姿勢の誤差が、例えば以下の範囲内にあるものと設定した。
・コイル中心位置の誤差:5[mm]以内
・コイルの姿勢の誤差:コイル各軸に対して5[deg]以内
:本実験では、最適刺激位置および姿勢に指定したデータセットと同じデータセットがOpen GL上に表示された時を誘導操作の終了条件としている。そのため、たとえ要求仕様誤差の範囲内に収まっていたとしても、データセットが一致しないと誘導操作終了とはならない。データセット数が多いと、その分だけ、最適刺激位置および姿勢のデータセットではないデータセットと認識される確率も高くなるので、誘導に時間が掛かってしまうことになる。
しかし、本実験の場合、最長の例でも55秒しか掛かっておらず、十分に実用に耐える手法であると言える。また、誘導に要する時間は、被験者(或いは患者)の慣れによって短縮が期待できるものである。更に、誘導操作の終了条件として、例えば前述の要求仕様誤差の範囲内に収まることを採用すれば、更に短縮が期待できる。
データセットを利用する手法を実際に医療現場に適用する場合、医師は、患者頭部の最適刺激位置を特定した上で、その付近の数多くのポイントについてデータセットを収集する必要があり、このデータセット収集作業は医師にとって負担となる。そこで、このデータセット収集に要する時間の短縮など、データセット収集作業の負担を軽減する手法を併せて導入することが望ましい。
例えば、n個のデータセットのうち、[センサ数×3(軸)−2]個(センサが4個の場合は10個)のデータセット数を用いて補間を行うようにしてもよい。この場合には、センサが多い方が補間の信頼性が高まることになる。
データセットを利用してコイルを最適刺激位置および姿勢に誘導する場合、コイルの位置および姿勢を最適刺激位置および姿勢にできるだけ一致させるには、この最適刺激位置近辺で多くのデータセットが在ることが望まれる。一方、最適刺激位置から大きく外れた領域では、最適刺激位置近辺のように多くのデータセットを収集することが必要とされることはない。
尚、治療対象として想定される神経疾患によって、最適刺激部位は異なる。この場合、各神経疾患に応じた特定領域を重点的に高い密度でデータ収集する一方、この特定領域から大きく外れた領域では比較的低い密度でデータ収集しておくことにより、神経障害性疼痛の場合と同様の効果を奏することができる。
そこで、データセット収集作業を、医師にしかできないことと、医師でなくてもできることとに分けて行うことで、医師の負担を軽減することができる。
すなわち、データセットは、メーカ側にて、メーカの3次元位置計測装置を用いて、座標系Aで取得しておく。一方、最適刺激位置および姿勢は、病院にて、病院の3次元位置計測装置を用いて別の座標系Bで取得する。座標系Aと座標系Bとの関係をレジストレーションすることは、後述するように既知の手法で容易に行える。そして、座標系Bで取得した最適刺激位置および姿勢を座標系Aに変換することで、メーカ側で取得したデータセットを用いたナビゲーションが可能になる。その結果、データセット収集に伴う医師の負担は劇的に軽減されることになる。
この場合、データセット解析ユニットの記録部が、磁場発生手段の少なくとも位置の(好ましくは、位置および姿勢の)情報を異なる複数の座標系の位置(および姿勢)情報として記録する機能を有するとともに、これら異なる複数の座標系内の位置(および姿勢)情報を相互に整合させて対比参照できるようにする座標変換機能を有する、ことが好ましい。
(1)まず、磁場センサ固定具50上に、安定して計測できる同一平面上にない4つの特徴点を定めておく。
(2)次に、メーカの3次元位置計測装置を用いて、座標系Aでみた前記4つの特徴点の位置座標:
(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3),(x4,y4,z4)
を取得する。
(3)更に、病院の3次元位置計測装置を用いて、座標系Bでみた同じ4つの特徴点の位置座標:
(X1,Y1,Z1),(X2,Y2,Z2),(X3,Y3,Z3),(X4,Y4,Z4)
を取得する。
(4)座標変換行列Tを前記数1により計算する。
(5)この座標変換行列Tを用いることで、前記数2に示すように、座標系B(病院の3次元位置計測装置)で取得した任意の特徴点の(従って、最適刺激位置の)位置座標(X,Y,Z)を、メーカの3次元位置計測装置による座標系Aでみた位置座標(x、y、z)に変換することができ、データセットを用いたナビゲーションが可能になる。
<メーカにて>:例えば出荷前検査時
イ)成人の標準的頭部構造に基づく頭部模型に磁場センサ固定具(例えば、磁場センサを取り付けた眼鏡)を装着する。
ロ)メーカに設置された3次元位置計測装置(座標系A)を用いて、刺激用コイルと共にコイルホルダに取り付けた永久磁石が発する磁場(眼鏡に取り付けた磁場センサで計測)と、刺激用コイルの座標系Aでの3次元位置および姿勢との組み合わせ(データセット)を、コイルホルダを移動操作しながら収集する。このとき、頭部模型と実際の患者頭部の相違や、眼鏡の装着位置にズレが生じること等を考慮し、できるだけ数多くのデータセットを収集する。
イ)患者に磁場センサ固定具(例えば、磁場センサを取り付けた眼鏡)を装着してもらう。
ロ)病院に設置された3次元位置計測装置(座標系B)を用いて、刺激用コイルと共にコイルホルダに取り付けた永久磁石が発する磁場(眼鏡に取り付けた磁場センサで計測)と、刺激用コイルの座標系Aでの3次元位置および姿勢(メーカで取得したデータセットにより推定)と、刺激用コイルの座標系Bでの3次元位置および姿勢との組み合わせを、コイルホルダを移動操作しながら、数個の点(少なくとも4点以上)について収集する。
ハ)これらの点での座標系Aと座標系Bとの対応から、前述のレジストレーションを適用して、座標系Aと座標系Bの座標変換行列が求められる。
ニ)次に、医師が、座標系Bで最適刺激位置および姿勢を特定する。
ホ)前記ハ)項で求められた座標変換行列を用いて、最適刺激位置および姿勢を座標系Aに変換して記録する。
メーカで収集したデータセット(座標系A)に、病院で取得した最適刺激位置および姿勢のデータセットが同じ座標(座標系A)に変換されて追加記録されているので、患者は、通常通りにナビゲーション操作を行うことができる。
以上のように、データセットを利用した手法の枠組を殆ど変えることなく、医師の負担を最小限に抑えることができる。
例えば、前述したように、経頭蓋磁気刺激療法の対象疾患によって、脳のどの部位を刺激するのが望ましいかが明らかになっている場合がある。そこで、メーカ側でデータセットを収集する際に、頭部模型上で、最適刺激部位が位置するであろう領域をおおまかに把握し、その領域を重点的により高い密度でデータ収集する一方、当該領域から大きく外れた領域では比較的低い密度でデータ収集しておくことにより、効率の良いデータセット収集を行うことができる。
この場合には、例えば、データセットが取得されていない領域(つまり、最適刺激位置から或る程度以上離れた領域)では、磁場の逆解析手法を利用する手法で刺激用コイルを誘導し、データセットが取得されている領域(つまり、最適刺激位置に比較的近い領域)では、データセットを利用する手法で刺激用コイルを誘導するように構成することにより、データセット数が比較的少なくても、効率の良いスムースな刺激用コイルの誘導を行うことが可能である。
また、コイル誘導プロセスの初期など、コイル位置が最適刺激位置から或る程度以上離れておりデータセットが取得されていない領域では逆解析手法を適用し、コイル誘導プロセスが進むに連れてデータセットが取得されている領域になるとデータセット手法を用いておおまかな位置合わせを行い、更に、コイル誘導の最終プロセスでは、逆解析手法を適用して、最終の位置合わせを行うようにすることも考えられる。
まず、これまでの実施形態と同様に、磁場検出手段としての磁場センサを、眼鏡などの固定手段を用いて患者の頭部に固定する。一方、刺激用コイルを、頭部のおおまかな刺激位置(例えば、一次運動野に相当する領域)に相対するようにホルダ固定具で固定する。
11 刺激用コイル
12 コイルホルダ
13 磁場センサ
14 眼鏡
15 ケーブル
16 磁気刺激制御装置
20 磁場解析ユニット
22,122 信号解析部
23 格納部
24,124 比較部
25,125 ユーザ情報出力部
28,128 ユーザ・インタフェース部
41 永久磁石
50 磁場センサ固定具
51 磁場センサ
120 データセット解析ユニット
123 記録部
M 患者
Claims (19)
- 被験者の特定部位に対して磁気刺激を加えるための磁気刺激装置であって、
前記磁気刺激を加えるための動磁場を発生させる動磁場発生手段を少なくとも含む磁場発生手段と、
前記被験者の特定部位に対して前記磁場発生手段の相対位置を変位可能に操作される操作手段と、
前記磁場発生手段が発生させた磁場を、所定の方向成分の磁界の大きさとして検出する複数の磁場検出手段と、
前記磁気刺激に先立って若しくは磁気刺激中に、前記磁場発生手段から発生する磁場を前記複数の磁場検出手段で検出した結果に基づいて、前記磁場発生手段の少なくとも空間内における位置を算出し、当該算出された結果を用いて、前記操作手段を用いて行うべき変位の操作を教示するための教示情報を報知する報知手段と、
を備えることを特徴とする磁気刺激装置。 - 被験者の特定部位に対して磁気刺激を加えるための磁気刺激装置であって、
前記磁気刺激を加えるための動磁場を発生させる動磁場発生手段を少なくとも含む磁場発生手段と、
前記被験者の特定部位近傍に前記磁場発生手段を保持する保持手段と、
前記磁場発生手段が発生させた磁場を、所定の方向成分の磁界の大きさとして検出する複数の磁場検出手段と、
前記磁気刺激に先立って若しくは磁気刺激中に、前記磁場発生手段から発生する磁場を前記複数の磁場検出手段で検出した結果に基づいて、前記磁場発生手段の少なくとも空間内における位置を算出し、当該算出された結果を用いて、前記被験者が前記特定部位への磁気刺激のために行うべき身体移動を教示するための教示情報を報知する報知手段と、
を備えることを特徴とする磁気刺激装置。 - 前記報知手段は、更に、前記複数の磁場検出手段が検出した結果に基づいて前記磁場発生手段の空間内における姿勢を算出し、前記教示情報の報知に用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の磁気刺激装置。
- 前記被験者の特定部位に対する所定の相対位置に前記磁場検出手段を固定するための固定手段を備える、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記操作手段に前記磁場発生手段が取り付けられていることを特徴とする請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記報知手段は、前記複数の磁場検出手段が検出した、所定の方向成分の磁界の大きさに関する情報を用いた逆解析手法によって得られる磁場源の位置として、前記磁場発生手段の位置を算出して、前記教示情報を生成して報知する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場発生手段の位置の情報と、当該位置において発生がなされた磁場を前記各磁場検出手段が検出した、所定の方向成分の磁界の大きさに関する情報と、を対にして予め複数の前記少なくとも位置において記録した記録手段を更に備え、
前記報知手段は、前記磁気刺激に先立って若しくは磁気刺激中に前記各磁場検出手段が検出した、所定の方向成分の磁界の大きさに関する情報と、前記記録手段の記録情報との対比参照に基づいて、前記磁場発生手段の位置を算出して、前記教示情報を生成して報知する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。 - 前記被験者の特定部位に対して磁気刺激を加えるための位置またはその許容される近傍範囲内に前記磁場発生手段が位置した状態で前記各磁場検出手段が検出した、所定の方向成分の磁界の大きさに関する情報を予め複数記録した目標情報記録手段を更に備え、前記報知手段は、前記磁気刺激に先立って若しくは磁気刺激中に前記各磁場検出手段が検出した、所定の方向成分の磁界の大きさに関する情報と、前記目標情報記録手段の記録情報との対比参照結果に基づいて、前記教示情報を生成して報知を行う、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記記録手段は、前記磁場発生手段の位置の情報を異なる複数の座標系内の位置情報として記録可能であり、且つ、前記異なる複数の座標系内の位置情報を相互に整合させて前記対比参照を可能とするための座標変換手段を備えている、ことを特徴とする請求項7に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場発生手段が動磁場および静磁場を発生することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場発生手段が動磁場のみを発生することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場検出手段は前記磁場発生手段が発生させた動磁場および静磁場を検出することを特徴とする請求項10に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場検出手段は、前記磁場発生手段による動磁場の発生を停止した状態で、前記磁場発生手段による静磁場を検出する、ことを特徴とする請求項12に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁場検出手段は、前記磁場発生手段が発生させた動磁場のみを検出する、ことを特徴とする請求項10又は11に記載の磁気刺激装置。
- 前記報知手段は、視覚情報および聴覚情報の少なくとも何れか一方を報知する、ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記報知手段は、聴覚情報により前記教示情報を報知する報知手段であり、前記操作手段が行うべき変位量または前記被験者が身体移動すべき移動量に応じて、音量,音階および音色の少なくとも一つを変化させる、ことを特徴とする請求項15に記載の磁気刺激装置。
- 前記報知手段は、視覚情報により前記教示情報を報知する報知手段であり、前記操作手段が行うべき変位量または前記被験者が身体移動すべき移動量に応じて教示色を変化させる、ことを特徴とする請求項15に記載の磁気刺激装置。
- 前記固定手段は、眼鏡,イヤホン,ヘッドホン及びヘッドバンドの中から選択されるものである、ことを特徴とする請求項4から17のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
- 前記磁気刺激装置は、経頭蓋磁気刺激治療のために被験者の少なくとも脳の特定部位に磁気刺激を加える、ことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
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