JP5621291B2 - ダイヤモンドの剥離方法及び剥離装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ダイヤモンドの剥離方法、特に半導体デバイス用基板や光学部品に適した大面積なダイヤモンドを比較的短時間で剥離させる方法に関する。また、比較的短時間で大面積なダイヤモンドを剥離させることができるダイヤモンドの剥離装置に関する。
ダイヤモンドは高硬度、高熱伝導率の他、高い光透過率、ワイドバンドギャップなどの多くの優れた性質を有することから、各種工具、光学部品、半導体、電子部品の材として幅広く用いられており、今後さらに重要性が増すものと考えられる。
ダイヤモンドの工業的応用としては、天然に産出するものに加えて、品質が安定している人工合成されたものが主に使用されている。人工ダイヤモンド単結晶は現在工業的には、そのほとんどがダイヤモンドの安定存在条件である千数百℃から二千数百℃程度の温度かつ数万気圧以上の圧力環境下で合成されている。このような高温高圧を発生する超高圧容器は非常に高価であり、大きさにも制限があるため、高温高圧法による大型単結晶の合成には限界がある。不純物として窒素(N)を含んだ黄色を呈するIb型のダイヤモンドについては1cmφ級のものが高温高圧合成法により製造、販売されているがこの程度の大きさがほぼ限界と考えられている。また、不純物のない無色透明なIIa型のダイヤモンドについては、天然のものを除けば、さらに小さい数mmφ程度以下のものに限られている。
一方、高温高圧合成法と並んでダイヤモンドの合成法として確立されている方法として気相合成法がある。この方法によっては6インチφ程度の比較的大面積のものを形成することができるが、通常は多結晶膜である。しかし、ダイヤモンドの用途の中でも特に平滑な面を必要とする超精密工具や光学部品、不純物濃度の精密制御や高いキャリア移動度が求められる半導体などに用いられる場合は、単結晶ダイヤモンドを用いることになる。そこで、従来から気相合成法によりエピタキシャル成長させて単結晶ダイヤモンドを得る方法が検討されている。
一般にエピタキシャル成長は、成長する物質を同種の基板上に成長させるホモエピタキシャル成長と、異種基板の上に成長させるヘテロエピタキシャル成長とが考えられる。ヘテロエピタキシャル成長では、ダイヤモンドにおいてはこれまで困難とされてきたが、近年、特許文献1に記載されているように1インチφのヘテロエピタキシャルダイヤモンド自立膜が作製されており、大きな進展があった。しかしながら、得られる単結晶の結晶性はホモエピタキシャルダイヤモンド単結晶と比較すると十分ではなく、ホモエピタキシャル成長による単結晶合成が有力と考えられる。
ホモエピタキシャル成長では、高圧合成によるダイヤモンドIb基板の上に高純度のダイヤモンドを気相からエピタキシャル成長させることにより、高圧で得られるIIaダイヤモンドを上回る大きなIIa単結晶ダイヤモンドを得ることができる。また、特許文献2に記載されているように、同一の結晶方位に向けた複数のダイヤモンド基板、あるいはダイヤモンド粒を用い、この上に一体のダイヤモンドを成長させることにより小傾角粒界のみを持つダイヤモンドが得られることも報告されている。
しかしながら、ホモエピタキシャル成長によりダイヤモンドを合成する場合に問題となるのは基板の除去法、再利用法である。Ibダイヤモンド等を基板として気相合成によりIIaダイヤモンド膜を得る場合には、成長させたダイヤモンド層から何らかの方法によりIbダイヤモンド基板を取り除く必要がある。このための方法としてはエピタキシャル膜と基板とを分離させる方法もしくは基板を全くなくしてしまう方法が考えられる。ダイヤモンド単結晶基板は高価であるから前者の方法が望ましいことはいうまでもなく、レーザーによるスライス加工がその代表的な方法である。しかし、ダイヤモンドの面積が大きくなればなるほどスライスするためにはダイヤモンドの厚みが必要になり、成功率も悪くなってしまう。
このため、1cm×1cmの大きさの単結晶ダイヤモンドになると、もはやスライス加工は困難で、基板を除去する方法を用いざるを得ない。これには、例えば特許文献3に記載されているようなダイヤモンド砥粒を用いた研磨や鉄表面と反応させ反応した層を除去する方法、あるいは、特許文献4に記載されているようなイオンビーム照射による方法などが知られているが、いずれも長時間を要するものとなる。また、高圧合成による基板を再使用できないことは、コスト的にも大きな不利となる。
そこで特許文献5に記載されているように、ダイヤモンド基板上に気相合成法でダイヤモンド層を成長して、最表面の結晶性がほとんど悪くならない程度の高エネルギーで成長面からイオン注入してダイヤモンド基板の直上にイオン注入層を形成後、その注入層を電気化学的手法でエッチングすることにより、ダイヤモンド基板とダイヤモンド層の双方を破損することなく分離・剥離する方法が提供された。
しかしながら、特許文献5の方法は、分離工程前の作用電極として注入層に電極を接続する工程で、厚さがせいぜい10μm程度と薄いイオン注入層に電極を接続するのが困難であった。また、基板裏面は樹脂で保護する工程が必要であった。これらの工程によって製造プロセスにおけるリードタイムが大幅に長くなっていた。
また、特許文献6の方法は、純水を入れたビーカの中に2本の離れた白金電極を一定間隔を隔てて設置し、その電極間に、ダイヤモンド結晶を成長させた基板を置き、電極間に直流電圧を印加することで分離させるので、特許文献5の方法のような電極を接続する工程や樹脂で基板裏面を保護する工程は必要ない。しかしながら、4mm角ダイヤモンド単結晶基板とその上に成長させたダイヤモンドを分離するのに12時間も要しており、これが原因で製造プロセスが長時間化していた。
特開2007−270272号公報 特開平3−75298号公報 特開平2−26900号公報 特開昭64−68484号公報 特開2005−272197号公報 特開2008−031503号公報
以上から、従来の技術では、高品質で大面積のダイヤモンドを気相成長させても、その分離に長時間を要していた。そしてこのことが、大面積の気相合成ダイヤモンドの製造コストを上げていたために高価なものとなりその普及を妨げていた。
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決し、複数のダイヤモンド層をより高速に分離するダイヤモンドの剥離方法及び、高速分離を実現するダイヤモンドの剥離装置を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ダイヤモンド層間にこれらを分離するためにイオン注入等で形成した導電性の非ダイヤモンド層を形成した構造体を分離・剥離する工程、すなわち、ダイヤモンドの剥離装置のエッチング槽内に満たした電解液中の電極間に構造体を配置して直流電圧を印加し、非ダイヤモンド層を電気化学的にエッチングする工程で、エッチング液としてpHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下のものを使用することで、従来よりも高速にエッチングできることを見出した。
なお、本発明でのpH及び導電率は、エッチング液が25℃の時の値、もしくは、測定値を25℃に換算した補正値である。また、本発明の方法は非ダイヤモンド層に電極を接続する工程や構造体のダイヤモンド層(基板)裏面を樹脂で保護する工程等の分離に必要な前処理工程の必要がない方法である。
さらに、エッチング液の溶質が、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるいずれか1種以上であれば、入手や廃棄が容易かつ安価であり、上記pH及び導電率を効率良く実現できることを見出した。
さらには、上記エッチング液中に界面活性剤を少量添加することにより、非ダイヤモンド層のエッチングが進行しても、ダイヤモンド層間にエッチング液が効率良く浸透するために、添加していないエッチング液よりも高速にエッチングできることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
(1)ダイヤモンドにイオン注入をすることにより得られた導電性の非ダイヤモンド層がダイヤモンド層に挟まれた構造を有する構造体をエッチング液に浸漬して直流電圧を印加し、非ダイヤモンド層を電気化学的にエッチングすることで、ダイヤモンド層を2層に分離するダイヤモンドの剥離方法であって、
エッチング液として、pHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下のアルカリ性の炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるいずれか1種以上のエッチング液を使用することを特徴とするダイヤモンドの剥離方法。
)前記エッチング液に非イオン性界面活性剤が添加されていることを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンドの剥離方法。
(3)イオン注入するイオンがシリコン、リン、硫黄またはアルゴンであることを特徴とする(1)または(2)に記載のダイヤモンドの剥離方法。
(4)少なくとも、エッチング槽と、エッチング液と、電極とを有し、
ダイヤモンドにイオン注入をすることにより得られた導電性の非ダイヤモンド層がダイヤモンド層に挟まれた構造を有する構造体をエッチング液に浸漬して直流電圧を印加し、非ダイヤモンド層を電気化学的にエッチングすることで、ダイヤモンド層を2層に分離するためのダイヤモンドの剥離装置であって、
エッチング液が、pHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下のアルカリ性の炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるいずれか1種以上のエッチング液であることを特徴とするダイヤモンドの剥離装置。
)前記エッチング液に非イオン性界面活性剤が添加されていることを特徴とする上記(4)に記載のダイヤモンドの剥離装置。
(6)イオン注入するイオンがシリコン、リン、硫黄またはアルゴンであることを特徴とする(4)または(5)に記載のダイヤモンドの剥離装置。
本発明によるダイヤモンドの剥離方法またはダイヤモンドの剥離装置を用いることによって、分離のための前処理の必要なく、気相合成ダイヤモンドの分離時間が大幅に短縮される結果、大面積で高品質な気相合成ダイヤモンドを安価に提供することが可能となる。
ダイヤモンドからなる構造体の一例の概略を表す図である。 本発明に係るダイヤモンドの剥離装置の一例の概略を表す図である。 非ダイヤモンド層のエッチングの様子を表す模式図である。
以下、添付図面を参照して、本発明に係るダイヤモンドの剥離方法及び剥離装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
[構造体]
図1は、本発明でいうダイヤモンドからなる構造体01である。構造体01はダイヤモンド層02、ダイヤモンド層03、そして非ダイヤモンド層04からなる。ダイヤモンド層02及び03は、単結晶であっても多結晶であっても良いが、単結晶ダイヤモンドの方が高価であり、本発明の効果をより大きく発揮させることができるので好ましい。また、ダイヤモンド層02及び03は、導電性であっても絶縁性であっても良いが、工業応用されているダイヤモンドのほとんどは絶縁性であるから、通常は本発明の効果が大きい絶縁性が好ましい。導電性はダイヤモンド結晶中にホウ素(B)やリン(P)が添加されている状態で得られる。
非ダイヤモンド層04は、例えば、ダイヤモンド層02又は03の主面からイオン注入することで形成することができる。イオン注入により、もともと一体であったダイヤモンド層02と03は、形成された非ダイヤモンド層04により2層に分割される。非ダイヤモンド層04はすなわちイオン注入層であり、ダイヤモンド構造が破壊されてグラファイト化が進行した層で導電性を有する。形成される非ダイヤモンド層04の主面からの深さや厚さは、主に使用するイオンの種類、注入エネルギー、照射量によって異なるので、これらを決めてイオン注入を実施する。イオン注入層の設計はTRIMコードのようなモンテカルロシミュレーションコードによってほぼ正確に計算・予測することができる。
イオンの種類は、ダイヤモンド構造を破壊してグラファイト化が進行した層を形成するのが目的であるから、炭素、ホウ素、窒素、酸素、リン、水素、ヘリウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、アルゴン等、イオン注入可能なすべての元素が使用可能である。そのなかでも、ホウ素やリンなどシリコンデバイス製造で多用される元素は照射電流量が大きいために所望の照射量を短時間で実施できるために好適に使用可能である。
注入エネルギーは、一般的なイオン注入で用いられる10keV〜10MeV程度の範囲で使用する。照射量は、非ダイヤモンド層04が電気化学的手法によりエッチングできる程度にダイヤモンド構造が破壊されグラファイト化が進行した層となり、かつ、照射する主面の結晶性が気相合成法によるエピタキシャル成長が可能な程度の結晶性となるように、3×1015ions/cm2〜1×1017ions/cm2程度とする。
ダイヤモンド層02及び03は、イオン注入して非ダイヤモンド層04を形成した後から気相成長したダイヤモンドを含んでいても構わない。ダイヤモンド層と非ダイヤモンド層が交互に繰り返し複数層形成されているものも、本発明でいう構造体に含まれる。本発明でいう構造体の非ダイヤモンド層04は、電気化学的手法によりエッチングを可能とするために、エッチング液中に配置する際には少なくとも一部、望ましくは全周囲がエッチング液と接触している必要がある。
[剥離装置]
図2は、本発明のダイヤモンドの剥離装置11である。剥離装置11は、エッチング液12、エッチング槽13、そして電極14からなる。エッチング液12としては、pHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下の水溶液を使用する。なお、本発明でのpH及び導電率は、エッチング液が25℃の時の値、もしくは、測定値を25℃に換算した補正値である。エッチング液12のpH及び導電率は、エッチング時間と共に変化する可能性があるが、ダイヤモンドの剥離・分離を目的としたエッチング槽内に満たされていて、エッチング開始前、エッチング中、エッチング終了後のいずれかの時点で測定した値がpH8.0より大きく且つ導電率300μS/cm以下であれば、本発明の範囲内とする。pHが8.0より大きいとは、エッチング液の液性は家庭用品品質表示法による弱アルカリ性、アルカリ性のことを指す。
エッチング液12は、pHについては8.0より大きければ水溶液中の溶媒は特に制限はなく、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物、あるいはアンモニア水といったものが使用可能であるが、特に低価格で入手しやすい炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムが好適に使用可能である。また、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウムを含む石鹸も好適に使用可能である。エッチング液のpHは、より好ましくは9.0以上であり、更に好ましくは10.0以上である。
また、上記のpHの範囲に加えて、導電率が300μS/cm以下と非常に希薄なアルカリ性溶液を本発明は対象としており、エッチング後の廃液処理も容易である。導電率のより好ましい範囲は、1μS/cm〜300μS/cmであり、最も好ましい範囲は、100μS/cm〜300μS/cmである。
エッチング液12中には、少量の界面活性剤を添加することがより好ましい。界面活性剤はイオン性のもの、非イオン性のものに大別されるが、pH及び導電性を本発明の範囲内に調整する観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコキシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル、トリアルキルアミンオキシド等の非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤は水溶液の量に対して1/10〜1/100程度を添加することで、エッチングの増速効果が顕著に現れる。また、石鹸の場合にはアルカリ性であり且つ界面活性剤であるので好適に使用可能である。少量の過酸化水素水を添加することによってもエッチングの増速効果が得られる。
エッチング槽13は、アルカリ性のエッチング液に対して耐腐食性を有する材質であれば特に制限はなく、テフロン(登録商標)製のエッチング槽等が使用可能である。電極14は、アルカリ性の水溶液を電気分解して酸素と水素を発生させる場合に、劣化がほとんどないものであれば特に制限はなく、白金や金属に対して接液部を白金コートした電極が使用可能である。なお、電極14間には直流電圧を印加する。
以上の構成を有する剥離装置11において、エッチング液12中で電極14の間に構造体01を配置して、電極14間に直流電圧を印加することで非ダイヤモンド層04をエッチングしてダイヤモンド層02と03の剥離・分離を実施する。図3に非ダイヤモンド層04がエッチングされる様子を模式図で示した。直流電圧は電極間の距離によるが、100V/cmから1000V/cmの電界を電極間に与えるように電圧を設定するのが好ましい。
電極14間に電圧を印加することで、陰極では2H2O+2e → H2↑+2OHなる化学式で記述されるように、水素が発生すると共に水酸化物イオンOHが生成される。生成された水酸化物イオンは陽極に移動して4OH→ 2H2O+O2↑+4eなる化学式で記述されるように、酸素が発生する。
発明者らは、この水酸化物イオンが電極間を移動する際、構造体の非ダイヤモンド層と接触して反応することにより、非ダイヤモンド層の炭素が二酸化炭素や一酸化炭素等になりエッチングが進行するという仮説を立てた。そして、この仮説に基づいて、水酸化物イオンが多い水溶液、すなわち、アルカリ性の水溶液をエッチング液として使用すれば、他の液性を示す水溶液よりも非ダイヤモンド層を高速にエッチングできると考えた。加えて、水溶液を非常に希薄にして導電率を低くすることによって、電極間の電位勾配が大きくなるようにすれば、同じ電流で電極間の電位勾配が小さい場合よりも、導電性を有する非ダイヤモンド層に電界が集中する結果、水酸化物イオンが衝突しやすくなり、エッチング反応の効率が高くなると推測した。
そして、鋭意実験の結果、pH8.0より大きく且つ導電率300μS/cm以下のエッチング液を使用すれば従来技術よりも高速に非ダイヤモンド層のエッチングが進行することを見出した。一方、pH8.0以下であれば水酸化物イオンが少ないことで、あるいは、導電率300μS/cmより高ければ導電性を有する非ダイヤモンド層に電界が十分集中しないことで、それぞれ従来技術のエッチング速度以下となることを見出した。
さらに発明者らは、低価格で入手しやすい炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、セスキ炭酸ナトリウム(Na2CO3・NaHCO3・2H2O)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)が、pH8.0より大きく且つ導電率300μS/cm以下のエッチング液を調整しやすいこと見出した。
電極を介して水溶液に電力が投入され温度が上昇するが、溶質として炭酸水素ナトリウムを用いた場合には、加熱により2NaHCO3 → Na2CO3+H2O+CO2↑なる化学式で記述される反応がエッチング開始後直ちに起こる結果、エッチング中は実質的に炭酸ナトリウム水溶液として振舞う。炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの複塩であるセスキ炭酸ナトリウムも上記と同様でエッチング中は実質的に炭酸ナトリウム水溶液として振舞う。水酸化ナトリウムを用いた場合は、非ダイヤモンド層のエッチングで発生した二酸化炭素や大気から水溶液面経由で取り込んだ二酸化炭素により2NaOH+CO2→ Na2CO3+H2Oなる化学式で記述される反応がエッチング開始後直ちに起こる結果、エッチング中は実質的に炭酸ナトリウム水溶液として振舞う。
アルカリ性の水溶液は二酸化炭素を取り込みやすい性質があるために、エッチング中は二酸化炭素の影響を考慮する必要があるが、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを溶質として使用した場合には、エッチング中は実質的に炭酸ナトリウム水溶液となって安定化するために、pH8.0より大きく且つ導電率300μS/cm以下が安定に得られることを見出した。
そしてさらに発明者らは、界面活性剤による非ダイヤモンド層エッチング速度の増速効果を見出した。非ダイヤモンド層の厚さは通常1μm以下で、最大でもせいぜい10μm程度と薄いので、エッチングが進行して、非ダイヤモンド層のエッチング部分がダイヤモンド層間の内部に入ってくると、発生する二酸化炭素等の影響もあり水酸化物イオンが進入しにくくなっていく結果、エッチング速度が遅くなっていく。非ダイヤモンド層がエッチングされて現れるダイヤモンド層の最表面は酸素により終端された疎水性であると考え、疎水性の最表面を持つダイヤモンド層間に水酸化物イオンを効率良く侵入させるには水溶液に界面活性剤を添加すれば良いことに想到した。そして鋭意実験の結果、界面活性剤の添加によって、非ダイヤモンド層のエッチング速度が早くなることを見出した。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例]
まず、図1に示す構造体01として試料aを作製した。
Ib高温高圧ダイヤモンド単結晶基板を準備し、主面からイオン注入後、注入面上にCVDダイヤモンドをエピタキシャル成長させ、基板側面のイオン注入層の周りに堆積したダイヤモンドをレーザー切断で除去して構造体01を作製した。
サイズは主面が4×4mmで、ダイヤモンド層02は厚さ0.4mmの高温高圧合成Ibダイヤモンド単結晶であり、ダイヤモンド層03は厚さ1.4μmの高温高圧合成Ibダイヤモンド単結晶を含む厚さ0.37mmのCVDダイヤモンド単結晶であった。
そして、非ダイヤモンド層04はイオン注入によって、注入エネルギー3MeV、照射量2×1016ions/cm2で、高温高圧合成Ibダイヤモンド単結晶の主面から炭素イオンを注入して形成しており、厚さ0.2μmであった。
また、ダイヤモンド層02及び03は絶縁性、非ダイヤモンド層04は導電性であった。
次に、図2に示すダイヤモンドの剥離装置11として剥離装置Aを用意した。
エッチング液12はアンモニア水で、濃度を調整してエッチング直前に測定したところpH9.2、導電率60μS/cmであった。エッチング槽13はテフロン(登録商標)製ビーカ、電極14は白金電極とした。
そして、剥離装置Aの電極間隔を約1cmとして、エッチング液中の電極間に試料aを置いた。電極間に340Vの電圧を印加して放置したところ、4.5時間で非ダイヤモンド層04が完全にエッチングされて、ダイヤモンド層02と03は剥離・分離した。
試料aと同様の試料b〜kを用意した。そして、剥離装置Aにおいて、エッチング液を下記表1のように変えた以外は試料aのときと同様の条件で剥離・分離を試みた。試料a〜kに用いた剥離装置Aにおけるエッチング液の条件と、対応する剥離時間を表1に示す。
Figure 0005621291
試料aと同様の試料l〜vを用意した。そして、試料a〜kについて用いた剥離装置Aにおいて、水溶液に界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加したエッチング液を使用した以外は試料a〜kと同様に剥離を試みた。各エッチング液について、水溶液の量に対して1/20の界面活性剤を添加した。試料a〜kの剥離で使用した水溶液と同じものに界面活性剤を添加して試料l〜vをエッチングしたところ、すべての試料において40〜50%のエッチング時間短縮効果が確認できた。
[比較例1]
試料aと同様の試料wを用意し、剥離装置Aにおいて純水をエッチング液として使用した以外は試料aと同様の条件で剥離・分離を試みた。使用した純水のpHは7.0、導電率は0.2μS/cmであった。
非ダイヤモンド層04が完全にエッチングされて、ダイヤモンド層02と03は剥離・分離するまでに12時間も要した。
[比較例2]
試料aと同様の試料xを用意し、剥離装置Aにおいて水道水をエッチング液として使用した以外は試料aと同様の条件で剥離・分離を試みた。使用した水道水のpHは7.2、導電率は160μS/cmであった。
12時間エッチングしたが、非ダイヤモンド層04が完全にエッチングされず、ダイヤモンド層02と03は剥離・分離しなかった。
[比較例3]
試料aと同様の試料yを用意し、剥離装置Aにおいて水酸化ナトリウム水溶液をエッチング液として使用した以外は試料aと同様の条件で剥離・分離を試みた。使用した水酸化ナトリウム水溶液のpHは12.1、導電率は630μS/cmであった。
12時間エッチングしたが、非ダイヤモンド層04が完全にエッチングされず、ダイヤモンド層02と03は剥離・分離しなかった。
01 ダイヤモンド構造体
02 ダイヤモンド層
03 ダイヤモンド層
04 非ダイヤモンド層
11 ダイヤモンドの剥離装置
12 エッチング液
13 エッチング槽
14 電極

Claims (6)

  1. ダイヤモンドにイオン注入をすることにより得られた導電性の非ダイヤモンド層がダイヤモンド層に挟まれた構造を有する構造体をエッチング液に浸漬して直流電圧を印加し、非ダイヤモンド層を電気化学的にエッチングすることで、ダイヤモンド層を2層に分離するダイヤモンドの剥離方法であって、
    エッチング液として、pHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下のアルカリ性の炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるいずれか1種以上のエッチング液を使用することを特徴とするダイヤモンドの剥離方法。
  2. 前記エッチング液に非イオン性界面活性剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドの剥離方法。
  3. イオン注入するイオンがシリコン、リン、硫黄またはアルゴンであることを特徴とする請求項1または2に記載のダイヤモンドの剥離方法。
  4. 少なくとも、エッチング槽と、エッチング液と、電極とを有し、
    ダイヤモンドにイオン注入をすることにより得られた導電性の非ダイヤモンド層がダイヤモンド層に挟まれた構造を有する構造体をエッチング液に浸漬して直流電圧を印加し、非ダイヤモンド層を電気化学的にエッチングすることで、ダイヤモンド層を2層に分離するためのダイヤモンドの剥離装置であって、
    エッチング液が、pHが8.0より大きく且つ導電率が300μS/cm以下のアルカリ性の炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるいずれか1種以上のエッチング液であることを特徴とするダイヤモンドの剥離装置。
  5. 前記エッチング液に非イオン性界面活性剤が添加されていることを特徴とする請求項4に記載のダイヤモンドの剥離装置。
  6. イオン注入するイオンがシリコン、リン、硫黄またはアルゴンであることを特徴とする請求項4または5に記載のダイヤモンドの剥離装置。
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