JP5619859B2 - クリープ損傷を受ける金属製配管の補強工法、及び、補強構造 - Google Patents

クリープ損傷を受ける金属製配管の補強工法、及び、補強構造 Download PDF

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Description

本発明は、内部の高温高圧流体によってクリープが生じる金属製配管の溶接部を、溶接部の外周面に帯状の薄板鋼板を巻き付けることで補強する補強工法、及び、補強構造に関する。
蒸気タービン等の動力として使用される動力用蒸気は高温高圧の流体である。例えば、蒸気温度が300℃から650℃、蒸気圧力が5Mpaから8Mpa程度に調整される。このような高温高圧とされた動力用蒸気を流しているので、配管にはクリープによる劣化が生じる。
クリープ劣化に伴う配管の破壊を防止すべく、この配管に対する補強が行われる。通常は、配管の対象部分を切断し、切断箇所に健全な配管を接合する方法が採られている。しかしながら、この方法では、配管の溶接作業や熱処理作業が伴うため、作業に手間がかかるという問題がある。そこで、特許文献1に記載された方法では、配管の対象部分にワイヤーを巻き付けることで、配管の補強を行っている。
特開2011−185403号公報
配管に作用する曲げ応力への耐性を高めるため、ワイヤーに代えて帯鋼(帯状の薄型鋼板)を巻き付けることが考えられる。ここで、金属製配管を作製するに際しては溶接が行われているので、この配管には、周方向や長手方向に延びる溶接部が形成される。この溶接部の外表面には凹凸が存在することから、帯鋼と溶接部との当接部には、溶接部の凹凸に起因する隙間が存在してしまう。そして、この隙間により、帯鋼による補強効果が損なわれてしまう虞があった。例えば、配管の膨張によって生じた応力が、隙間の空いた箇所に集中することで、帯鋼による補強効果が損なわれる虞があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接部についても帯鋼による十分な補強効果を得られるようにすることにある。
前述の目的を達成するため、本発明は、内部の高温高圧流体によってクリープが生じる、フェライト系クロム鋼で作製された金属製配管の溶接部を、前記溶接部の外周面にオーステナイト系ステンレス鋼で作製された帯状の薄型鋼板を巻き付けることで補強する補強工法であって、塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化する耐熱性素材を、前記溶接部の外周面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程で塗布された前記耐熱性素材が可塑性を有している状態で、前記帯状の薄型鋼板における幅方向側縁同士を重ねて、前記帯状の薄型鋼板を前記金属製配管に対して螺旋状に巻き付ける巻付工程を行うことを特徴とする。
本発明の補強工法によれば、溶接部の凹凸に起因する隙間が耐熱性素材によって埋められ、可塑性を有している耐熱性素材の上から薄型鋼板が螺旋状に巻き付けられるので、薄型鋼板を溶接部の外周面に対して隙間なく巻き付けることができ、隙間に起因する応力の集中を抑制できる。そして、巻き付けられた薄型帯鋼の形状に倣って耐熱性素材を変形させることができるので、薄型帯鋼と耐熱性素材の密着度合いを高めることができる。加えて、薄型鋼板が、配管を構成するフェライト系クロム鋼よりもクリープ強度の高いオーステナイト系ステンレス鋼で作製されているので、クリープ損傷に対する有効な補強を行うことができる。その結果、薄型鋼板による補強効果を高めることができる。
前述の補強工法において、前記耐熱性素材は、金属系接着剤であることが好ましい。この工法では、耐熱性素材の耐熱温度が、配管内を流れる流体の温度よりも十分に高いので、高い信頼性を確保できる。
また、本発明は、内部の高温高圧流体によってクリープが生じる、フェライト系クロム鋼で作製された金属製配管の溶接部を、前記溶接部の外周面にオーステナイト系ステンレス鋼で作製された帯状の薄型鋼板を巻き付けることで補強する補強工法であって、可塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化する耐熱性素材を、前記溶接部の外周面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程で塗布された前記耐熱性素材が可塑性を有している状態で、前記帯状の薄型鋼板における幅方向側縁同士を重ねて、前記帯状の薄型鋼板を前記金属製配管に対して螺旋状に巻き付ける巻付工程を行うことで、前記帯状の薄型鋼板の内周面と前記溶接部との間に、前記耐熱性素材で作製され、螺旋状に巻き付けられた前記帯状の薄型鋼板の形状に倣って変形された充填層を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、内部の高温高圧流体によってクリープが生じる金属製配管の溶接部を、外周面に帯状の薄板鋼板を巻き付けることで補強するにあたり、薄板鋼板による補強効果を高めることができる。
(a)は、金属製配管の溶接部を説明する縦断面図である。(b)は、(a)図におけるB−B断面図である。(c)は、(a)図におけるC部拡大図である。 溶接部の外周面にセラミックス系接着剤を塗布している工程を模式的に説明する図である。 塗布されたセラミックス系接着剤の表面を均す工程を模式的に説明する図である。 均した後におけるセラミックス系接着剤の形状を示す断面図である。 溶接部の外周面に帯鋼(帯状の薄板鋼板)を巻き付けている状態を模式的に説明する図である。 帯鋼を巻き付けた状態を模式的に説明する図である。 配管の長手方向に形成される溶接部を説明する図であり、(a)は接着剤の塗布範囲を示し、(b)は接着剤が塗布された部分を拡大して示している。
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の補強工法を説明するに際し、まずは補強工法が施工された後の補強構造を説明する。
図1(a)に示す補強構造は、一対の配管1,1を接合すべく各配管1,1の全周に亘って形成された溶接部2に設けられており、図1(b),(c)に示すように、充填層3と補強層4とを有している。
補強構造が設けられる配管1は、内部空間に動力用蒸気(蒸気温度=300℃〜650℃、蒸気圧力=5Mpa〜8Mpa)を長期間に亘って流すものであり、この動力用蒸気によってクリープが生じる。高温高圧の蒸気を流すことから、配管1は金属によって作製されている。詳しくは、熱膨張率の低いフェライト系クロム鋼(例えば9Cr〜12Cr)で作製されている。
配管1の直径は、用途によって様々であるが、例えば200mm以上1000mm以下の範囲に定められる。また配管1の肉厚は40mm以上70mm以下の範囲に定められる。なお、配管1の直径や肉厚は、動力用蒸気の温度、圧力、流量、及び、流速といった諸条件を加味して定められる。この配管1は、短尺な配管1,1同士を接合することで長尺化されるが、その際、各配管1の周方向の全域が溶接される。従って、配管1同士の接合箇所には溶接部2が形成される。
図1(c)に示すように、溶接部2は、半径方向において内周側ほど狭幅な楔形の断面形状に形成される。そして、溶接部2の外周面は、配管1の外周面とほぼ面一とされており、凹凸が形成されている。この凹凸は、例えば溶接棒の溶融によって生じる。
図1(b),(c)に示すように、充填層3は、溶接部2の外周面と補強層4の内周面との隙間に、周方向の全域に亘って充填されている。この充填層3は、可塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化する耐熱性素材によって設けられている。本実施形態では、耐熱性素材としてセラミックス系接着剤3aが用いられている。ここで、セラミックス系接着剤3aについて説明する。
セラミックス系接着剤3aとは、アルミナ、ジルコニア、アルミノシリケートといったセラミックス素材がベース成分として使用された接着剤であり、金属系接着剤の一種である。このセラミックス系接着剤3aは、耐熱温度が1000〜2000℃以上であり、動力用蒸気の蒸気温度であれば十分な耐熱性を有している。また、硬化物の圧縮強度は約8〜30MPaであり、蒸気圧力と同等かそれ以上の値を示している。そして、このようなセラミックス系接着剤3aとしては、例えば、太陽金網株式会社が販売する商品名:Resbond907GF,919,901,989、Thermeez7030、Durabond940を挙げることができる。
このセラミックス系接着剤3aは、前述したように、可塑性を有しており、時間の経過に伴って硬化する性質を有している。例えば、容器から出した状態、或いは、薬剤を練り混ぜた状態においてペースト状をしており、その後硬化する性質を有している。
補強層4は、充填層3を外周側から覆う層であり、図1(c)に示すように、帯鋼(帯状の薄型鋼板)5が、幅方向側縁同士を重ねた状態で螺旋状に幾重にも巻き付けられることで構成されている。補強層4を構成する帯鋼5は、配管1を構成するフェライト系クロム鋼よりもクリープ強度の高い金属が用いられている。本実施形態では、厚さ0.2mm、幅30〜50mmのオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。
このように構成された補強構造では、内部を流れる動力用蒸気によって配管1が外周側に膨張しようとしても、この膨張は補強層4によって抑制される。そして、配管1,1同士の溶接部2の外周面には、セラミックス系接着剤3aによる充填層3が設けられており、隙間が埋められている。このため、膨張によって配管1から生じる押圧力は、充填層3を介して補強層4の全体に伝達される。これにより、配管1における応力の集中が緩和され、補強層4による補強効果を高めることができる。
次に、前述の補強構造を形成するための補強工法について説明する。
この補強工法では、まず塗布工程を行う。図2に示すように、この塗布工程では、セラミックス系接着剤3a(耐熱性素材)を準備し、このセラミックス系接着剤3aが可塑性を有している間に溶接部2の外周面へ塗布する。例えば、ペースト状のセラミックス系接着剤3aをコテ板の上に準備しコテを用いて塗布する。本実施形態では、溶接部2の表面が隠れる程度の幅及び厚さで、各配管1,1における周方向に対し、くまなくセラミックス系接着剤3aを塗布する。ここで、セラミックス系接着剤3aは、適度なぬれ性と接着性を有することから、溶接部2の凹凸内に入り込むとともに溶接部2の表面に保持され、垂れ落ちなどの不具合を抑制できる。
セラミックス系接着剤3aを塗布したならば、塗布したセラミックス系接着剤3aの表面を均す。例えば、図3の矢印のようにコテを左右に動かすことで、図4に拡大して示すように、塗布したセラミックス系接着剤3aの表面が、湾曲した平滑面となるように均す。全周に亘ってセラミックス系接着剤3aの表面を均したならば、塗布工程を終了する。
塗布工程が終了したならば、巻付工程を行う。この巻付工程では、前述した帯鋼5を配管1の外周面に対し、縁部が互いに重なり合う状態で螺旋状に巻き付ける。例えば、図5及び図6に示すように、セラミックス系接着剤3aが塗布された範囲よりも、配管1の長手方向に広い範囲に対し、帯鋼5を隙間なく巻き付ける。この巻付工程は、塗布されたセラミックス系接着剤3aが可塑性を有している状態(完全に硬化される前の状態)で行われる。
これにより、塗布されたセラミックス系接着剤3aは、巻き付けられた帯鋼5の表面形状に倣って変形することとなり、図1(c)に示すように、補強層4(帯鋼5)の内表面と溶接部2の外表面とが、充填層3(セラミックス系接着剤3a)を介して隙間なく密着される。また、本実施形態では、塗布工程でセラミックス系接着剤3aの表面を平滑面としているので、無用な段差を無くすことができ、この点でも補強層4、充填層3及び溶接部2の密着性を高めることができる。
そして、図6に示す範囲に対して帯鋼5を幾重にも巻き付けることにより、補強層4が形成される。本実施形態では、帯鋼5を25重に巻き付けることで、厚さが約5mmの補強層4を形成している。帯鋼5の巻き付けが終了したならば、帯鋼5の端部を溶接によって固定し、巻付工程を終了する。
以上説明したように、本実施形態では、帯鋼5を溶接部2の外周面に巻き付ける巻付工程に先立って塗布工程を行い、可塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化するセラミックス系接着剤3aを溶接部2の外周面に塗布しているので、帯鋼5を溶接部2の外周面に対して隙間なく巻き付けることができる。すなわち、溶接部2の凹凸に起因する隙間がセラミックス系接着剤3aによって埋められ、セラミックス系接着剤3aの上から帯鋼5が巻き付けられるので、隙間に起因する応力の集中を抑制できる。言い換えれば、応力を補強層4(帯鋼5)へ確実に伝達できる。その結果、補強層4(帯鋼5)による補強効果を高めることができる。
そして、セラミックス系接着剤3aは、その耐熱温度が配管1内を流れる動力用蒸気の温度よりも十分に高いので、高い信頼性を確保できる。また、巻付工程は、塗布されたセラミックス系接着剤3aが可塑性を有している状態で行われるので、巻き付けられた帯鋼5の形状に倣って充填層3(セラミックス系接着剤3a)を変形させることができ、帯鋼5と充填層3の密着度合いを高めることができる。
また、本実施形態において、配管1がフェライト系クロム鋼で作製され、帯鋼5は、フェライト系クロム鋼よりもクリープ強度の高いオーステナイト系ステンレス鋼で作製されていることから、クリープ損傷に対する有効な補強を行うことができる。
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
前述の補強工法では、配管1における周方向の全域に亘って形成された溶接部2に対する補強を行っていたが、補強対象は周方向の溶接部2に限られない。例えば、図7(a)に示すように、配管1の作成時に形成される長手方向の溶接部2´に対しても、同様に適用できる。この場合、符号Xで示す範囲にセラミックス系接着剤3aを塗布し、表面を円滑に均した状態で、配管1の外周面に帯鋼5を巻き付ければよい。これにより、図7(b)に示すように、隙間が充填層3´(セラミックス系接着剤3a)で埋められるので、帯鋼5と充填層3´の密着度合いを高めることができ、補強層4(帯鋼5)による補強効果を高めることができる。
また、充填層3を構成する耐熱性素材に関し、前述の実施形態では金属系接着剤の一種であるセラミックス系接着剤3aを例示したが、これに限定されるものではない。金属材料を含有する金属系接着剤であれば、耐熱性素材として好適に使用できる。また、アルミナやシリカを主成分とする耐火パテについても、耐熱性素材として好適に使用できると考えられる。
また、配管1や帯鋼5を構成する金属材料は、前述の組み合わせに限られない。本発明は、他の種類の金属材料を用いても同様に実施できる。
1…配管
2…周方向の溶接部
2´…長手方向の溶接部
3,3´…充填層
3a…セラミックス系接着剤
4…補強層
5…帯鋼

Claims (3)

  1. 内部の高温高圧流体によってクリープが生じる、フェライト系クロム鋼で作製された金属製配管の溶接部を、前記溶接部の外周面にオーステナイト系ステンレス鋼で作製された帯状の薄型鋼板を巻き付けることで補強する補強工法であって、
    塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化する耐熱性素材を、前記溶接部の外周面に塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程で塗布された前記耐熱性素材が可塑性を有している状態で、前記帯状の薄型鋼板における幅方向側縁同士を重ねて、前記帯状の薄型鋼板を前記金属製配管に対して螺旋状に巻き付ける巻付工程を行うことを特徴とする補強工法。
  2. 前記耐熱性素材は、金属系接着剤であることを特徴とする請求項1に記載の補強工法。
  3. 内部の高温高圧流体によってクリープが生じる、フェライト系クロム鋼で作製された金属製配管の溶接部を、前記溶接部の外周面にオーステナイト系ステンレス鋼で作製された帯状の薄型鋼板を巻き付けることで補強する補強工法であって、
    可塑性を有するとともに時間の経過に伴って硬化する耐熱性素材を、前記溶接部の外周面に塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程で塗布された前記耐熱性素材が可塑性を有している状態で、前記帯状の薄型鋼板における幅方向側縁同士を重ねて、前記帯状の薄型鋼板を前記金属製配管に対して螺旋状に巻き付ける巻付工程を行うことで、
    前記帯状の薄型鋼板の内周面と前記溶接部との間に、前記耐熱性素材で作製され、螺旋状に巻き付けられた前記帯状の薄型鋼板の形状に倣って変形された充填層を設けたことを特徴とする補強構造。
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