JP5613468B2 - 環状成形体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、航空機用エンジンのタービンディスクに代表される環状成形体の製造方法に関するものであり、特に、材料歩留まりに優れた環状成形体に係るものである。
従来、Ni基合金、Fe基合金、Co基合金等の合金からなる環状成形体が知られている。例えば、航空機用エンジンのタービンディスクには、高温強度に優れるNi基合金からなる環状成形体が用いられており、この環状成形体を機械加工して製品であるタービンディスクが製造されている。
タービンディスクの外周部には、周方向に沿って複数のタービンブレード(動翼)が配設されている。航空機用エンジンでは、エンジン内部で発生した高温・高圧の燃焼ガスが、タービンディスクの外周部においてその軸方向前方側から後方側へ向けて流れることにより、タービンブレードが該タービンディスクとともに高速で回転する。そして、この回転の駆動力がタービンディスクの前方側に配置されたコンプレッサーとファンに伝達されて、連続的な燃焼に必要な圧縮空気と推進力を得るようになっている。
このようなタービンディスクは重要回転体に位置づけられており、該タービンディスクに用いられる環状成形体には十分な機械的強度が要求される。詳しくは、タービンディスクは、その外周部が燃焼ガスに晒されて600〜700℃程度の高温になる一方、内周部の温度は比較的低く抑えられており、エンジンの起動や停止にともなって、繰り返し内部に熱応力が生じることになる。そのため、優れた低サイクル疲労特性が求められるとともに、外周部では高温下で軸周りの高速回転に起因した遠心力を受けることから、高いクリープ強度特性を合わせ持つ必要がある。また、高い引張・降伏強度も要求される。
このような種々の要求に対応し得る機械的強度を確保するため、タービンディスクに用いられる環状成形体は、一般に鍛造(鍛造プレス)で製造されている(例えば、特許文献1、2参照)。すなわち、鍛造により環状成形体にひずみを与えるとともに結晶粒を微細化して、引張強度や疲労強度等を向上させている。鍛造の適用設備としては、鍛造速度の厳密な制御が可能な油圧制御鍛造プレスが用いられる場合が多い。
環状成形体を鍛造によって作製する場合には、該環状成形体において製品とされるタービンディスクを含む製品領域で所望の諸特性を得るため、該製品領域を取り囲むように余肉が設定されている(例えば、非特許文献1、2参照)。詳しくは、図10及び図11に示すように、鍛造時において、プレス金型110に接触する環状成形体100の表面近傍(例えば図10に符号aで示す部分)では、該プレス金型110に材料が固着してひずみが与えられにくくなる。また、前記表面近傍aはプレス金型110に冷やされて温度が上がりにくくなるので、環状成形体100の内部bに対比して組織を構成する結晶が粗大となり、所望の機械的特性を得ることができない。このような表面近傍aは、変形・流動の対象領域に存在しながらも変形流動しない部分であり、所謂デッドメタルと呼ばれて、製品領域内への残存は回避される(非特許文献3参照)。すなわち、鍛造プレスにおいては、デッドメタルを製品領域に含めないように、予め余肉を多めに設定しているのである。尚、余肉(デッドメタル)は、鍛造後に機械加工等により取り除かれる。
特開平07−138719号公報 特開昭62−211333号公報
J.F.Barker, D.D.Krueger, D.R.Chang, "THERMOMECHANICAL PROCESSING OF INCONEL 718 AND ITS EFFECT ON PROPERTIES", Advanced High Temperature Alloys Processing and Properties, 1986, p.125-137 D.D.Krueger, "THE DEVELOPMENT OF DIRECT AGE 718 FOR GAS TURBINE ENGINE DISK APPLICATIONS", Superalloys 718, The Minerals,Metals&Materials Society, 1989, p.279-296 Chester T.Sims, Norman S.Stoloff, William C.Hagel, "SUPERALLOYS II", John Wiley & Sons,Inc, 1987, p.448
しかしながら、鍛造により環状成形体を作製する手法においては、高価なNi基合金等の材料を、製品にならない余肉として無駄に投入しなければならず、その分製造コストが嵩んでいた。また、このようなNi基合金等からなる余肉は概して難切削加工材であり、余肉を取り除くための機械加工費が嵩んでいた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、製品領域における組織の機械的強度を十分に確保しつつ、製造コストを削減できる環状成形体の製造方法を提供することを目的としている。
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、Ni;50.00〜55.00質量%、Cr;17.0〜21.0質量%、Nb;4.75〜5.60質量%、Mo;2.8〜3.3質量%、Ti;0.65〜1.15質量%、Al;0.20〜0.80質量%、C;0.01〜0.08質量%、残部がFe及び不可避不純物とされた合金素体を鍛造して円板状の鍛造体を作製する鍛造工程と、前記鍛造体に貫通孔を形成してなる環状中間体をリング圧延して環状成形体を作製するリング圧延工程と、を備え、前記リング圧延工程では、前記環状中間体の表面から深さ4mm〜23mmの範囲内に設定される表面近傍に塑性ひずみを0.03〜0.08の範囲内で付与する圧延を少なくとも15回以上行って前記環状成形体とするとともに、前記表面近傍の内側に位置する製品領域の結晶粒度をASTM結晶粒度番号で8以上とすることを特徴とする。
本発明に係る環状成形体の製造方法によれば、環状中間体をリング圧延することにより環状成形体を作製するので、従来の鍛造によって環状成形体を作製する場合のように、デッドメタルの発生を見越して余肉を多めに設定する必要がない。詳しくは、リング圧延工程において、環状中間体の表面近傍に塑性ひずみを0.03以上付与する圧延を少なくとも15回以上行って成形された環状成形体は、その表面近傍に十分にひずみが入れられて機械的強度が高められているとともに、該表面近傍の内側に近接する部分を製品として使用可能である。このように、環状中間体の表面近傍に比較的小さな塑性ひずみを繰り返し付与することで、該表面近傍における温度低下を抑制しつつ塑性変形させることができ、表面近傍に固着点を有さず実質的にデッドメタルのない環状成形体が得られるのである。
また、リング圧延して得られる環状成形体は、周方向における結晶粒度の均一性が確保されている。詳しくは、リング圧延は局部加工であるものの一般的な部分鍛造とは異なり、加工の連続性を有することから成形後の組織の軸対称性が高く、環状成形体における周方向の材料特性の偏差が小さくなる。
そして、前述したリング圧延によって、環状成形体の表面近傍から内部まで結晶が均一に微細化されて、該環状成形体において機械加工により製品となる部位を含有する製品領域の結晶粒度がASTM結晶粒度番号で8以上に微細化される。従って、環状成形体から得られる製品の機械的強度が確実に高められる。
なお、ASTM結晶粒度番号とは、American Society of Testing and Materials(米国材料試験協会)のASTM規格E122に規定する基準によって決定されるものである。
また、本発明に係る環状成形体の製造方法において、前記リング圧延工程では、前記環状中間体の前記表面近傍に付与する塑性ひずみの総計を0.8以上に設定して、前記製品領域のうち前記表面近傍の内側に隣接するように位置する外郭部分における結晶粒度差を、ASTM結晶粒度番号差で±2.5の範囲内とすることとしてもよい。
本発明に係る環状成形体の製造方法によれば、環状中間体の表面近傍に付与する塑性ひずみの総計を0.8以上に設定しているので、製品領域の組織が均一に微細結晶化される。そして、製品領域のうち表面近傍の内側に隣接するように位置する外郭部分における結晶粒度差が、ASTM結晶粒度番号差で±2.5の範囲内とされる。すなわち、この環状成形体は、鍛造体の表面近傍でも製品として取り扱えるだけの特性(結晶粒度)が得られるため、機械加工等で除去される余肉を少なくできる。また、製品領域全体においても結晶粒度の均一性が確保されているとともに、製品の機械的特性が十分に高められる。
本発明に係る環状成形体の製造方法によれば、製品領域における組織の機械的強度を十分に確保しつつ、製造コストを削減できる。
本発明の一実施形態に係る環状成形体の上面図である。 図1におけるX−X断面図である。 本発明の一実施形態に係る環状成形体及びタービンディスクの製造方法を示すフローチャートである。 図3に示す製造方法において用いられる環状中間体の断面図である。 図3に示す製造方法において用いられるリング圧延の説明図である。 メインロールとマンドレルロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。 メインロールとマンドレルロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。 リング圧延工程において付与する塑性ひずみを説明する図である。 環状中間体(環状成形体)の表面近傍及び製品領域を説明する断面図である。 従来の鍛造による環状成形体の作製を説明する図である。 環状中間体(環状成形体)の表面近傍及び内部におけるε−T相関図である。
以下に、本発明の一実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る環状成形体10は、航空機用エンジンのタービンディスクTDを成形する加工素材として使用されるものである。
環状成形体10は、図1及び図2に示すように、貫通孔を有するとともに、軸線Oを中心とする円環状をなしており、本体部11と、本体部11から径方向内方に向けて突出した内側凸条部12と、本体部11から径方向外方に向けて突出した外側凸条部13と、を備えている。
また、環状成形体10は、耐熱性に優れたNi基超合金で構成されており、本実施形態では、Ni基合金Alloy718で構成されている。
なお、Ni基合金Alloy718の合金組成は、Ni;50.00〜55.00質量%、Cr;17.0〜21.0質量%、Nb;4.75〜5.60質量%、Mo;2.8〜3.3質量%、Ti;0.65〜1.15質量%、Al;0.20〜0.80質量%、C;0.01〜0.08質量%、残部がFe及び不可避不純物とされている。
図9に示すように、この環状成形体10は、機械加工して製品となるタービンディスクTDを含む製品領域Pにおける組織の結晶粒度が、ASTM結晶粒度番号でASTM No.8以上とされている。ここで、製品領域Pは、環状成形体10の表面近傍Aの内側に隣接するように位置しており、本実施形態においては、環状成形体10の表面10Aから5mm程度内側に位置する部位を含む。製品領域Pは、タービンディスクTDの外形をすべて含有する環状をなしており、該製品領域Pの外形部分(詳しくは、製品領域Pのうち最も表面10Aに近い外形部分Pa)は、環状成形体10の表面10Aから深さ(厚さ)t2に位置している。
環状成形体10の表面10Aから製品領域Pまでの深さt2は、3mm〜12mmの範囲内に設定される。本実施形態においては、より望ましい前記深さt2として、5mm≦t2≦10mmとされている。なお、製品領域Pの外形は、タービンディスクTDの外形に対応するように該タービンディスクTDよりも大きく設定されて概略相似形状をなしており、その外形の一部(図9に符号Pbで示すように、表面10Aに対して前記Paよりも後退された部位)は、前記深さt2よりも深い箇所に位置している。すなわち、前記深さt2は、所謂デッドメタルに起因して製品領域Pに所望の適正組織、諸特性が得られないことがないように、予め付与しなければならない最低限の余肉として設定されるものである。
また、図1に符号VS1、VS2、VS3、VS4で示す仮想平面は、環状成形体10の軸線Oを含む断面であり、これら仮想平面VS1〜VS4は、環状成形体10を周方向均等に4分割した等価位置に設定されている。図9に示すように、本実施形態では、仮想平面VS1〜VS4の各断面において、製品領域Pのうち表面近傍Aの内側に隣接するように位置する外郭部分における結晶粒度差が、ASTM結晶粒度番号差で±2.5の範囲内とされている。ここで、前記表面近傍Aとは、環状成形体10(環状中間体20)の表層部分であり、具体的には、表面10A(20A)から後述する深さt1までの範囲内(鍛造体の外表面)を差している。また、製品領域Pの外郭部分とは、該製品領域P内において表面近傍Aの内側に接近して位置する外縁部であり、具体的には、前記深さt1から製品領域P側へ向かって0mm〜20mm程度の範囲内を差している。
次に、この環状成形体10の製造方法及びタービンディスクTDの製造方法について、図3〜図9及び図11を参照して説明する。
(溶解鋳造工程S1)
まず、Ni基合金Alloy718の溶湯を溶製する。ここで、前述したNi基合金Alloy718の成分範囲になるように、溶解原料を調製し、真空誘導加熱溶解(VIM:Vacuum Induction Melting)を行って、インゴットを製出する。次に、このインゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR:Electro Slag Remelting)して、再度インゴットを製出する。さらに、このインゴットを、真空アーク再溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)した後、熱間鍛造を行い円柱状のビレット(合金素体)を製出する。
ビレットは、例えば、直径が7inch〜12inch程度に成形される。また、製出されたビレットの組織は、ASTM結晶粒度番号でASTM No.6程度とされる。前述のように、3回の溶解(三重溶解)を行うことによって、合金成分の凝固偏析が小さく凝固組織が制御された、介在物が極めて少ない高清浄度のビレットが製出されることになる。
(鍛造工程S2)
次に、ビレットに対して、該ビレットの軸線方向に押圧するように鍛造加工を行い、円板状の鍛造体を作製する。鍛造加工は、例えば、ビレットの温度を950℃〜1075℃に加熱して、熱間鍛造により行う。この鍛造により、鍛造体の高さは、例えば60mm〜500mm程度に調整される。
(穿孔加工+中間リング圧延工程S3)
次いで、得られた鍛造体の中央部に、ウォーターカッターによって断面円形の貫通孔を形成する。さらに、貫通孔形成後に必要に応じて中間リング圧延を行う。この穿孔加工+中間リング圧延工程S3によって、環状中間体20が製出されることになる。
本実施形態では、環状中間体20は、図4に示すように、周方向に直交する断面が概略多角形状をなしており、軸線Oに対して略直交する方向に延びる上面及び下面を有する基体部21と、この基体部21から径方向内方に向けて突出した内側凸部22と、基体部21から径方向外方に向けて突出した外側凸部23と、を備えている。
詳しくは、この環状中間体20(基体部21)の軸線O方向に沿う高さHは、H=60mm〜500mmの範囲内に設定される。また、環状中間体20において軸線Oに直交する径方向の肉厚(厚さ)Tは、T=60mm〜450mmの範囲内に設定される。
(リング圧延工程S4)
次に、この環状中間体20に対してリング圧延を行う。なお、このリング圧延は熱間圧延で行われ、その温度は、例えば900℃〜1050℃の範囲内とされている。
ここで、リング圧延装置30は、図5に示すように、環状中間体20の外周側に配設されるメインロール40と、環状中間体20の内周側に配設されるマンドレルロール50と、環状中間体20の軸線O方向端面(本実施形態では、基体部21の上面および下面)に当接される一対のアキシャルロール31、32と、を備えている。
メインロール40とマンドレルロール50とは、その回転軸が互いに平行となるように配置され、環状中間体20を内周側及び外周側から挟持して押圧し、環状中間体20を周方向に回転させつつ圧延する構成とされている。また、一対のアキシャルロール31、32は、軸線O方向において環状中間体20を挟持して押圧する構成とされており、環状中間体20の高さ寸法を制御するものである。
ここで、図6に示すように、メインロール40の外周部には、環状中間体20の一部が収容可能な収容凹部41が設けられており、本実施形態では、環状中間体20の外側凸部23、基体部21及び内側凸部22の外周部分が収容可能な深さとされている。また、この収容凹部41の底部41Aには、環状成形体10の外側凸条部13を成形するための第1成形溝42が、メインロール40における径方向内方(図6において右方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第1成形溝42は、成形される外側凸条部13の突出高さと同一の深さとされている。
一方、マンドレルロール50の外周部には、メインロール40の収容凹部41内に嵌入可能な構成とされた嵌入部51が設けられており、この嵌入部51の外周面には、環状成形体10の内側凸条部12を成形するための第2成形溝52が、マンドレルロール50における径方向内方(図6において左方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第2成形溝52は、成形される内側凸条部12の突出高さと同一の深さとされている。
このような構成とされたメインロール40とマンドレルロール50とが互いに接近するように作動することにより、環状中間体20は、メインロール40とマンドレルロール50とに挟持されて押圧される。詳しくは、メインロール40を該メインロール40の回転軸を中心に回転させながら、メインロール40とマンドレルロール50とを互いに接近させていくことにより、メインロール40との間の摩擦抵抗によって環状中間体20を軸線O回りに回転させる。
一方、マンドレルロール50は該マンドレルロール50の回転軸を中心に回転自在とされており、環状中間体20との間の摩擦抵抗により従動回転する。環状中間体20は、メインロール40の収容凹部41及び第1成形溝42、マンドレルロール50の第2成形溝52内に充填されるように塑性変形し、環状成形体10が成形されることになる。このとき、環状成形体10における内側凸条部12は、第2成形溝52の形状に対応して塑性変形する。また、外側凸条部13は、第1成形溝42の形状に対応して塑性変形する。
そして、このリング圧延工程では、環状中間体20の表面近傍Aに塑性ひずみεを0.03以上付与する熱間圧延を、少なくとも15回以上行うこととしている。詳しくは、1回の単位圧延当たりの塑性ひずみ(単位ひずみ量)εが、0.03〜0.08の範囲内に設定される。本実施形態では、図8に示すように、メインロール40とマンドレルロール50との間の加工領域Rを通過する前における環状中間体20の径方向の厚さT1を100%としたときに、前記加工領域Rを通過した後の環状中間体20の径方向の厚さT2が97%以下となる圧延加工を、15回以上繰り返す。また、前記加工領域Rを通過中の環状中間体20の径方向の厚さT3は、前記厚さT1に対して95%程度に設定される。このようなリング圧延によって、環状中間体20の表面近傍Aには、塑性ひずみεが総計で0.8以上付与される(累計ひずみ量又は相当塑性ひずみ量)。
尚、前述の表面近傍Aは、図9に示すように、環状中間体20の表面20Aから深さ(厚さ)t1までの範囲内とされる。表面近傍Aの深さt1は、例えば4mm〜23mmの範囲内に設定される。本実施形態においては、前記深さt1は、7mm〜19mmの範囲内とされている。なお、リング圧延工程によって、深さt1とt2とは漸次変化していくとともに、製品領域Pの深さt2は前記深さt1に接近していく。
図11に示すように、リング圧延時においては、環状中間体20の表面近傍Aへのひずみ量(累計ひずみ量)の付与が比較的大きく設定される一方で、該環状中間体20の内部B(図7に符号Bで示す製品部分)へのひずみ量の付与は抑制されている。ここで、環状中間体20の内部Bに付与された塑性ひずみ量εmは、少なくとも製品領域Pとして所望の機械的特性が得られる値以上に設定されている。詳しくは、この環状中間体20に付与される塑性ひずみ量εは、該環状中間体20の内部Bから表面近傍Aに向かうに従い漸次高められている。
また、リング圧延時の環状中間体20の温度Tは、内部Bから表面近傍Aに向かうに従い漸次低められている。このように、ひずみ量の付与が比較的少ない内部Bの温度Tが十分に高められることで、内部Bにおいて組織を構成する結晶の均一微細化が促進されている。
このようにリング圧延を行うことによって、環状中間体20は周方向に延びるように塑性変形していくとともに、その内径及び外径が拡大されて、図7に示す環状成形体10が作製される。
なお、前述したリング圧延は、実質的に金属組織を決定づける塑性加工の最終工程(最終圧延工程)に位置付けされる。
(熱処理工程S5/切削加工工程S6)
前述のようにして製出された環状成形体10は、熱処理によって特性が調整されるとともに、切削加工によって最終形状に成形され、ガスタービン用のタービンディスクTDとされる。
以上のような構成とされた環状成形体10及び環状成形体の製造方法によれば、環状中間体20をリング圧延することにより環状成形体10を作製するので、従来のように、環状中間体を鍛造によって環状成形体とする場合に、デッドメタルの発生を見越して余肉を多めに設定するような必要がない。詳しくは、リング圧延工程S4において、環状中間体20の表面近傍Aに塑性ひずみεを0.03以上付与する圧延を少なくとも15回以上行って成形された環状成形体10は、その表面近傍Aに十分にひずみが入れられて機械的強度が高められているとともに、該表面近傍Aの内側に隣接するように位置する部位を製品領域Pとして製品に使用可能である。つまり、環状中間体20の表面近傍Aに比較的小さな塑性ひずみεを繰り返し付与することで、該表面近傍Aにおける温度低下を抑制しつつ塑性変形させることができ、表面近傍Aに固着点を有さず実質的にデッドメタルのない環状成形体10が得られるのである。
また、リング圧延して得られる環状成形体10は、周方向における結晶粒度の均一性が確保されている。詳しくは、リング圧延は局部加工であるものの一般的な部分鍛造とは異なり、加工の連続性を有することから成形後の組織の軸対称性が高く、環状成形体10における周方向の材料特性の偏差が小さくなる。
そして、前述したリング圧延によって、環状成形体10の表面近傍Aから内部Bまで結晶が均一に微細化されて、該環状成形体10において製品となるタービンディスクTDを含む製品領域Pの結晶粒度がASTM結晶粒度番号で8以上に微細化される。従って、環状成形体10から得られるタービンディスクTDの機械的強度が確実に高められる。
また、環状中間体20の表面近傍Aに付与する塑性ひずみεの総計を0.8以上に設定しているので、製品領域Pの組織がより均一に微細結晶化される。そして、製品領域Pのうち表面近傍Aの内側に隣接するように位置する外郭部分における結晶粒度差が、ASTM結晶粒度番号差で±2.5の範囲内とされる。すなわち、この環状成形体10は、鍛造体の表面近傍Aでも製品として取り扱えるだけの特性(結晶粒度)が得られるため、機械加工等で除去される余肉を少なくできる。また、製品領域P全体においても結晶粒度の均一性が確保されているとともに、製品の機械的特性が十分に高められる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、環状成形体10及び環状中間体20の形状は、本実施形態に限定されるものではなく、製出するタービンディスクTD等の形状を考慮して適宜設計変更することが可能である。
また、環状成形体10及び環状中間体20がNi基合金Alloy718で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の材質(例えば、Waspaloy(登録商標)(United Technology Inc.)、Alloy720、Co基合金、Fe基合金等)で構成されたものであってもよい。
また、Ni基合金Alloy718の溶湯を溶製し、鋳造によってビレットを製出するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、粉末成形法によってビレットを製出し、このビレットに鍛造工程及びリング圧延工程を行う構成としてもよい。
また、ビレットを前述の三重溶解により製出する代わりに、二重溶解(VIM+ESR、又はVIM+VAR)により製出してもよい。
また、本実施形態では、円板状の鍛造体の中央部にウォーターカッターによって貫通孔を形成する穿孔工程を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ウォーターカッター以外の手法で貫通孔を形成してもよい。あるいは、鍛造の時点で貫通孔を形成しておき、穿孔工程自体を省略してもよい。また、鍛造工程の途中段階でウォーターカッター等による穿孔も可能である。
また、図3において、リング圧延工程S4により環状成形体10を成形した後、熱処理工程S5の前に、該環状成形体10に形状付与や形状寸法調整を目的とした部分鍛造等の加工を施してもよい。
また、本実施形態では、環状成形体10を周方向均等に4分割した等価位置(仮想平面VS1〜VS4)を用いて説明したが、前述の4分割に限らず、周方向均等に2分割、3分割、又は、5分割以上した等価位置であっても構わない。この場合も、1つの仮想平面における製品領域P内の外郭部分の結晶粒度差は、ASTM結晶粒度番号差でそれぞれ±2.5の範囲内とされる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(試料の作製)
まず、Ni基合金Alloy718の溶湯を溶製した。詳しくは、前述の実施形態で説明したNi基合金Alloy718の成分範囲になるように溶解原料を調製した。そして、この溶湯に対して三重溶解を施した。詳しくは、真空誘導加熱溶解(VIM)、エレクトロスラグ再溶解(ESR)、真空アーク再溶解(VAR)を施して、直径φ254mmの円柱状のビレットを製出した。
次いで、このビレットに対して鍛造工程を施し、円板状の鍛造体を作製した。鍛造加工は、ビレットの温度を1000℃に加熱した熱間鍛造で2回行った。
次いで、鍛造体の中央部にウォーターカッターによって貫通孔を形成し、中間リング圧延を行って形を整え、環状中間体20を作製した。なお、環状中間体20は、前記厚さT=125mm、高さH=90mmとなるように成形した。
次いで、この環状中間体20に対してリング圧延を行った。リング圧延は、環状中間体20の温度を1000℃に加熱した熱間圧延で行い、前記加工領域Rを1回通過する単位当たりの圧延で、該環状中間体20の表面近傍Aに塑性ひずみεが0.03〜0.08の範囲内で付与されるように、計17回圧延した。なお、この17回の熱間圧延によって、表面近傍Aには、塑性ひずみεが総計で0.8付与された。このように環状中間体20をリング圧延して得られた環状成形体10は、外径φ1050mm程度、内径φ900mm程度(すなわち厚さT=75mm程度)、高さH=90mm程度に成形された。
次いで、環状成形体10に熱処理を実施した。詳しくは、環状成形体10をリング圧延後水冷し、718℃/8時間+621℃/8時間+A.C.時効処理のみを施して直接時効処理材を作製した。
(結晶粒度測定)
前述のように作製した環状成形体10を用いて、仮想平面VS1〜VS4の各製品領域P内における外郭部分の結晶粒度を測定した。製品領域P内の外郭部分の測定箇所としては、表面近傍Aの深さt1(鍛造体の外表面)から製品領域P側へ向かって深さ5mmに位置する部位と、前記深さt1から製品領域P側へ向かって深さ20mmに位置する部位とを設定した。なお、各仮想平面の製品領域Pの外郭部分において、前記深さ5mm、20mmに位置する部位を19点ずつ選定して、それぞれ測定を行った。また、近接位置について結晶粒度差を算出した。詳しくは、この外郭部分において、前記深さ5mmに位置する部位と、該部位に対応する前記深さ20mmに位置する部位との結晶粒度差の最大値を求めた(絶対値)。結果を表1に示す。
Figure 0005613468
[実施例2]
(試料の作製)
実施例1と同様に、三重溶解によりビレットを製出した後このビレットに鍛造工程を施して、円板状の鍛造体を作製した。
次いで、鍛造体の中央部にウォーターカッターによって貫通孔を形成し、環状中間体20を作製した。なお、環状中間体20は、前記厚さT=115mm、高さH=90mmとなるように成形した。
次いで、この環状中間体20に対してリング圧延を行った。リング圧延は、環状中間体20の温度を1000℃に加熱した熱間圧延で行い、前記加工領域Rを1回通過する単位当たりの圧延で、該環状中間体20の表面近傍Aに塑性ひずみεが0.03〜0.08の範囲内で付与されるように、計15回圧延した。なお、この15回の熱間圧延によって、表面近傍Aには、塑性ひずみεが総計で0.7付与された。このように環状中間体20をリング圧延して得られた環状成形体10は、厚さT=75mm程度、高さH=90mm程度に成形された。
次いで、この環状成形体10に実施例1で説明した熱処理を実施して、直接時効材とした。
それ以外は、実施例1と同様の条件として試料を作製し、前述の結晶粒度測定を実施した。
[比較例1]
(試料の作製)
また、比較例1として、実施例1と同様のビレットを製出した後、このビレットに対して鍛造工程を施し、円板状の鍛造体を作製した。
次いで、前記鍛造体に貫通孔を形成して環状中間体(厚さT=90mm、高さH=90mm)とし、この環状中間体に対して、リング圧延を行った。リング圧延は、環状中間体の温度を1000℃に加熱した熱間圧延で行い、前記加工領域Rを1回通過する単位当たりの圧延で、該環状中間体の表面近傍に塑性ひずみεが0.01〜0.02の範囲内で付与されるように、計15回圧延した。なお、この15回の熱間圧延によって、表面近傍には、塑性ひずみεが総計で0.3付与された。
このように環状中間体をリング圧延して得られた環状成形体は、厚さT=75mm程度、高さH=90mm程度に成形された。
次いで、この環状成形体に実施例1で説明した熱処理を実施して、直接時効材とした。
それ以外は、実施例1と同様の条件として試料を作製し、前述の結晶粒度測定を実施した。
[比較例2]
(試料の作製)
また、比較例2として、実施例1と同様のビレットを製出した後、このビレットに対して鍛造工程を施し、円板状の鍛造体を作製した。
次いで、前記鍛造体に貫通孔を形成して環状中間体(厚さT=110mm、高さH=90mm)とし、この環状中間体に対して、リング圧延を行った。リング圧延は、環状中間体の温度を1000℃に加熱した熱間圧延で行い、前記加工領域Rを1回通過する単位当たりの圧延で、該環状中間体の表面近傍に塑性ひずみεが0.03〜0.06の範囲内で付与されるように、計12回圧延した。なお、この12回の熱間圧延によって、表面近傍には、塑性ひずみεが総計で0.6付与された。
このように環状中間体をリング圧延して得られた環状成形体は、厚さT=75mm程度、高さH=90mm程度に成形された。
次いで、この環状成形体に実施例1で説明した熱処理を実施して、直接時効材とした。
それ以外は、実施例1と同様の条件として試料を作製し、前述の結晶粒度測定を実施した。
(評価)
表1に示すように、実施例1、2においては、製品領域Pにおける結晶粒度がASTM結晶粒度番号ですべて8以上となり、組織が十分に微細化されていることが確認された。特に、実施例1においては、ASTM結晶粒度番号がすべて9.5以上であった。一方、比較例1においては、結晶粒度がASTM結晶粒度番号で5.5以上、比較例2においては、結晶粒度がASTM結晶粒度番号で6以上であった。
さらに、実施例1、2においては、前述のように組織が十分に微細化されながらも、同一の断面(仮想平面VS1、VS2、VS3又はVS4)内における製品領域Pの外郭部分の最大結晶粒度差が、ASTM結晶粒度番号差で±2.8の範囲内に抑制された。特に、環状中間体20の表面近傍Aへの累計塑性ひずみが0.8以上付与された実施例1においては、前記最大結晶粒度差がASTM結晶粒度番号差で±1の範囲内に抑えられた。一方、比較例1においては、前記最大結晶粒度差がASTM結晶粒度番号差で±3.3の範囲内であった。
10 環状成形体
20 環状中間体
A 環状中間体(環状成形体)の表面近傍
P 製品領域
S2 鍛造工程
S4 リング圧延工程
ε リング圧延工程において付与される塑性ひずみ量

Claims (2)

  1. Ni;50.00〜55.00質量%、Cr;17.0〜21.0質量%、Nb;4.75〜5.60質量%、Mo;2.8〜3.3質量%、Ti;0.65〜1.15質量%、Al;0.20〜0.80質量%、C;0.01〜0.08質量%、残部がFe及び不可避不純物とされた合金素体を鍛造して円板状の鍛造体を作製する鍛造工程と、
    前記鍛造体に貫通孔を形成してなる環状中間体をリング圧延して環状成形体を作製するリング圧延工程と、を備え、
    前記リング圧延工程では、前記環状中間体の表面から深さ4mm〜23mmの範囲内に設定される表面近傍に塑性ひずみを0.03〜0.08の範囲内で付与する圧延を少なくとも15回以上行って前記環状成形体とするとともに、前記表面近傍の内側に位置する製品領域の結晶粒度をASTM結晶粒度番号で8以上とすることを特徴とする環状成形体の製造方法。
  2. 請求項1に記載の環状成形体の製造方法であって、
    前記リング圧延工程では、前記環状中間体の前記表面近傍に付与する塑性ひずみの総計を0.8以上に設定して、前記製品領域のうち前記表面近傍の内側に隣接するように位置する外郭部分における結晶粒度差を、ASTM結晶粒度番号差で±2.5の範囲内とすることを特徴とする環状成形体の製造方法。
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