以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図16等に本発明の一実施形態を示す。本実施形態において例示する建物Aは、305mmの平面モジュールを有する梁勝ち工法による2階建ての鉄骨造の工業化住宅である。ただし、これはあくまで好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
建物Aにおいては、基礎スラブ10、基礎スラブ10の上面に載置されて固定された束20(図3等参照)、束20で支持された梁(以下、1階床梁ともいう)30(図4等参照)、1階床梁30上に載置されて固定された柱(以下、1階柱ともいう)40(図8参照)、1階柱40の上端を連結するように配置された2階梁(図示省略)、2階梁上に配置された2階柱(図示省略)、R階梁(図示省略)、隣接する2本の柱間に設置された耐力要素等の部材が、直交する基準線(X方向基準線、Y方向基準線)の中からそれぞれ複数選択された(モジュールの整数倍の間隔となるように設定された)通りに対応して配置されて基本架構が構成されている。さらに、建物Aにおいては、小梁が適宜架け渡され、各階梁で支持されるALC(Autoclaved Light-weight Concrete;軽量気泡コンクリート)からなる床パネルにより各階床が構成され、外周部梁を利用してALC等からなる外壁パネルや開口パネルが取り付けられて外壁が構成されている。
本実施形態において基礎スラブ10は全面的にベタ基礎形式となっている。該基礎スラブ10においては、通りに沿った所定の幅の範囲(束20からの荷重が分散する範囲であり、例えば、束20の下フランジの端縁から45度の角度で引いた斜線(図9中の破線参照)と基礎スラブ10の底面との交点の範囲)について地反力に対抗する基礎梁とみなして配筋量が算定されている(図9、図10参照)。これ以外の領域については、地反力を受ける4辺固定のスラブとみなして配筋量が決定されている。なお、本実施形態ではベタ基礎形式の基礎スラブ10を例示しているが、このようなベタ基礎形式に限定されることはなく、例えば、通りに沿って地耐力に応じた所望の幅を有するフーチング形式とすることもできる。本実施形態の基礎スラブ10の上端のレベルは、地盤面よりも高く設定されている(図9、図10参照)。
束20は基礎スラブ10の上面に載置されて、該基礎スラブ10の上端面から突設され、上述の1階床梁30を支持する(図4等参照)。本実施形態では、基礎スラブ10に予めアンカーボルト(アンカーフレーム)11を埋設しておき(図1等参照)、このアンカーボルト11の上端部に束20を例えばナットによって接合し、固定する(図3等参照)。束20は、柱(1階柱40)から伝達される荷重を基礎スラブ10に効率よく伝達する役割を有し、少なくとも床梁30上(通り上)に立設される1階柱40の直下に設置され、ジョイントボックス21または1階床梁30の中間部の下フランジのボルト孔を用いて接合され、1階床梁30を支持する。
束20は、アンカーボルト11の上端部に接合される下フランジ20bと、例えばジョイントボックス21が接合される上フランジ20aと、これら両フランジ20a,20bを結合する横断面(水平断面)が例えば十字状(クロス形状のものを含む)のウェブ20cとで構成されている。上フランジ20aにはジョイントボックス21を接合するための上ボルト孔20dが設けられ、下フランジ20bには当該束20をアンカーボルト11の上端部に接合するための下ボルト孔20eが設けられている(図12、図13参照)。
このような束20は、建物Aの外周部(すなわち外壁寄りの部分)と内周部(すなわち建物Aの内部寄りの部分)とに適宜配置される。これらのうち、外周部(外通り)において基礎スラブ10の端縁に沿って配置される束(本明細書では外周束ともいう)20は、建物外側(建物Aの外周寄りの部分)においては上フランジ20aと下フランジ20bの端縁位置が一致し、建物内側(建物Aの内部を向いた側)においては下フランジ20bが上フランジ20aよりも建物内側に向け延伸しており、延伸側のウェブ20cが上フランジ20aの端縁から下フランジ20bの端縁にかけて末広がり状に形成された形状(オフセット形状)となっている(図9、図12等参照)。また、建物Aの入隅部および出隅部においては、外壁に沿った2方向について、下フランジ20bが上フランジ20aよりも延伸し、延伸側のウェブ20cが上フランジ20aの端縁から下フランジ20bの端縁にかけて末広がり状に形成されている外周束20を採用している(図3、図13等参照)。
このようなオフセット形状の外周束20を用いることにより、基礎スラブ10のより広い範囲に荷重が分散して伝達され、1階床梁30とみなせる範囲を外周束20のオフセット方向に対応して建物内側方向にオフセットさせることができる。すなわち、本実施形態では、基礎スラブ10のうち、外周束20の下フランジ20bの当接寸法に応じた幅の範囲を地反力に対抗する梁30とみなして鉄筋量を設定しており、より具体的には、外周束20の下フランジ20bの端縁から45度の角度で引いた斜線と基礎スラブ10の底面との交点の範囲を地反力に対抗する基礎梁とみなして配筋量を算定している。したがって、下フランジ20bが上フランジ20aよりも延伸したオフセット形状の外周束20を用いた場合、当該下フランジ20bが延伸した長さLの分(図9参照)、基礎スラブ10の底面との交点の範囲が拡大している(図10等参照)。これによれば、1階柱40から伝達される建物荷重を建物内側方向に流すことによって建物外側方向への基礎スラブの延出寸法を小さく抑えながらも建物荷重を分散して伝達させることができ、地反力に対抗する梁とみなせる幅を狭く見積もり鉄筋の過密な配置を防ぐことができる。このように、構造計画上不利となることなく建物外周部における基礎スラブ10の延出寸法を小さく抑えることが可能となるから、例えば隣地境界との間に十分な離間寸法が確保されない場合であっても、排水管等の配設に支障を来たさず施工することができるようになる。さらに、このような構造は、内部の鉄骨部材の防錆のために止水処理を施す場合にも好適である。具体例を挙げれば、コンクリート打設前に予めカバー材(一例として、板状断熱材)を型枠(堰板)代わりに起立させておき、基礎スラブ10との密着度を向上させることにより、特段の止水処理を施さなくても、完全ではないにしろある程度の止水効果が期待できる状態とすることが可能である。さらには、RC部分や止水処理部分を地盤面から露出させないようにすることで、建物Aの外観が好ましくなくなるのを回避することが可能である。例えば、基礎スラブ10の下端まで覆うようカバー材(一例として、板状断熱材)を配置することで、外観上単一の材料で段差などもない、意匠的にも好ましい構成とすることが可能となる。
また、上述のごとき外周束20に対し、該外周束20の下フランジ20bを固定するため基礎スラブ10に設置されるアンカーボルト11を、建物Aの外周通り芯(1階床梁30、1階柱40の中心位置であり、具体的には外形(水平断面の外形)略正方形の柱の中心(図心))よりも当該建物Aの内側寄りにオフセットさせてもよい。こうした場合、アンカーボルト11の位置が建物Aの内側寄りになり、アンカーボルト11からの縁空き寸法(アンカーボルト11から基礎スラブ10の端縁までの寸法)が充分に確保されるので耐久性や強度の上で好ましい。
梁30は例えばH形鋼(I形鋼と呼ばれるような形鋼を含む)からなり、その両端には先端部がL字に屈曲しボルト孔が形成されたガセットプレート34が例えば溶接により接合されている(図4等参照)。梁30には、通り上に配置される大梁(1階床梁)のみならず、床パネルを支持するために対向する大梁間に架け渡される小梁も含まれる。なお、小梁は大梁と他の小梁との間に架け渡される場合もある。
また、梁30の上フランジ30aおよび下フランジ30bにはモジュール柱を接合するためのボルトを挿通するボルト孔30dがモジュールに基づくピッチで等間隔に穿設されている(図4等参照)。ボルト孔30dは、平面視基準線の交点上に位置するよう穿設されている。また、ウェブ30cにも他の梁30を接合するためのボルトを挿通するボルト孔30dがモジュールに基づくピッチで等間隔に穿設されている。さらに、梁30のウェブ30cには所定の間隔で大径の孔(一例として、直径125mm)30eが穿設されている(図4等参照)。
梁(1階床梁)30の端部どうしを接合する場合、本実施形態ではジョイントボックス21を用いている(図4等参照)。ジョイントボックス21は、平面視十字状のウェブ21cの上下端に正方形の上フランジ21aおよび下フランジ21bが溶接され構成されている。このジョイントボックス21に梁30を接合する場合は、梁30のガセットプレート34の2面を直交するウェブ21cの2面に当接し、ガセットプレート34の屈曲部のボルト孔及びこれに対応するジョイントボックス21のボルト孔にボルトを挿通してボルト接合する。ひとつのジョイントボックスに対し、4方向から梁30を接合することが可能である。
また、小梁(図4中において符号30’で示す)を他の梁30の中間部に接合する際には、ガセットプレート34の屈曲部を当該中間部のウェブ30cの面に当接させ、ボルト接合する。なお、上記構成は、上階における梁30の構成と共通するものである。
柱40は、通りと通りに直交する基準線との交点に配置され、上下端部がジョイントボックス21または梁30の中間部の上下フランジ30a,30bのボルト孔30dを用いて接合される(図8参照)。
耐力要素41は、所定の間隔(例示すれば、610mm、915mmなど)で配置された2本の柱40の内側面にボルト接合される。耐力要素41は例えば筋交い(クロスフレーム)等で構成される(図8参照)。
水平ブレース(補剛材)31は、1階の床構面に設置されて、コンクリート打設作業時等における梁30等の変形を抑制する(図5等参照)。床構面に設置された水平ブレース31は、そのまま建物完成後の1階床の面内剛性を確保する部材となる。このような水平ブレース31を梁30の上端付近に直接または火打35を介して取り付けることとすれば、梁30等の変形抑止効果と、基礎形成時の作業性・床下利用性とをさらに向上させることが可能である(図10、図11参照)。なお、ここで例示する水平ブレース31の他、火打梁(火打土台、火打金物)等を補剛材として用いることも可能である。
また、1階床(図15において符号70で示す)には、床パネル(図15において符号36で示す)の大きさに対応した寸法を有するとともに開口が形成されているフレーム(図14において符号53で示す)を用いて、床下の点検を行うための床下点検口51が設けられている(図14参照)。ただし、床下空間は梁30によって細かい区画に分けられており、束20の高さは例えば100mm程度で、当該束20を高くすると高さ制限、斜線制限等の法的制限に抵触しやすくなることもあり、点検者らは梁30の下を潜り抜けることはできない。従って、区画毎に床下点検口を設ける必要が生じるが、当該床下点検口自体や蓋の金属製の縁が多くの箇所で見えることは意匠上好ましくなく、間取り上設置ができない(あるいは床下点検口の設置を優先することによって間取りの自由度が低下する)こともある。
このような場合に対応するために、本実施形態では、一部の梁30については、その両端部を支持するのではなく、梁30を中間部分で分断して所定幅の不連続部分を設けて人通部60を形成している(図15参照)。不連続部分の幅は、少なくとも点検者が通過可能な幅である。また、分断された梁30の端部(厳密には梁30の端部と結合されるジョイントボックス21)を束20で支持するとともに、不連続部(人通部60)に連結部材37を架け渡して床パネル36を支持し得るように構成して、当該連結部材37と基礎スラブ10との間の空間(人通部60)を点検者らが通過することを可能としている(図15参照)。
連結部材37は梁30よりも成の小さな部材である。本実施形態では、この連結部材37を、中央の扁平なプレート部37aと、該プレート部37aの両端を片持ち支持するブラケット部37bとで略アーチ状に構成している(図15参照)。なお、矩形の床パネル36の短辺を連結部材37で支持する場合(床パネル36の短辺方向に連結部材37を掛け渡し、該連結部材37によって床パネル36の一部を支持する場合)、当該連結部材37の中央部分が床パネル36の中央付近に位置するように配置することが好ましい。例を挙げつつその理由を簡単に説明すると以下のとおりである。
すなわち、ALCからなる床パネル36は例えば610mm(=平面モジュールの2倍)の幅を有しており、一般に短辺2辺での支持を前提として鉄筋による補強がなされている。また床パネル36の短辺の両端部でそれぞれ短辺の長さのおよそ4分の1(例えば152.5mm)ずつ支持されていれば安全に支持されるように設計されている。すなわち短辺中央の部分およそ305mmの範囲が支持されなくとも安全性が確保されるように設計されている。また、プレート部の幅は床パネル36の幅(短辺の長さ)の約2分の1である。プレート部は床パネル36の支持に耐えうる強度と剛性を有していないが、ブラケット部は床パネル36の支持に耐えうる強度と剛性を備えている。従って、連結部材37の中央部分が床パネル36の中央付近に位置するように配置すれば構造的に問題なく床パネル36を支持することができる。なお、床パネル36の長辺側に位置し短辺を支持しない場合は、床パネル36の支持という意味では連結部材37は不要であるが、分断された梁の位置精度を保つ(倒れを防止する)という意味において有効に機能する。
また、梁30の不連続部には、上述の連結部材37に加え、ボルト接合等によって着脱自在な梁30の補剛部材38を架け渡すことができる。通常(一般には、点検作業を行わないとき)はこのように構成しておくことで連結部材37と補剛部材38が協働して分断された梁30を連続梁のように機能させ、当該梁30のたわみ量を低減させることができ、また、梁30の上に、後述する筋交等の耐力要素41を設置した場合の梁分断されたことによる梁の剛性低下に伴う耐力要素41の耐力の低下も抑制することができる。また、点検が必要な場合には梁30の補剛部材38を取り外して点検を行うことができる。例えば本実施形態では、連結部材37の下方に着脱自在な補剛部材38を掛け渡している(図15参照)。詳しい図示はしていないが、補剛部材38と梁30(またはジョイントボックス21)との結合は剛な接合とされていれば剛性が大きくなって好ましい。
また、本実施形態では、人通部60で相互に移動可能となった2つの床下領域の一方において、その上部の1階床70に床下点検口51の開口を設けている。こうした場合には、床下へ進入するための開口(床下点検口51)の数を減らすことができるので、建物Aの室内の意匠やコスト等の面で有利である。また、床下点検口51の存在によるプランや家具レイアウトの制約も減らすことができる。床下点検口51の開口には、着脱自在な蓋52が設けられている(図14、図15参照)。なお、開口が設けられる1階床70は、例えば、防湿シート、石膏ボード、合板、床仕上げ材などが積層されて形成されている(図15参照)。
建物Aの外周部には、基礎スラブ10の端縁および外周部の梁30に沿ってカバー材が取り付けられている。本実施形態の場合、カバー材は、合成樹脂発泡体からなる板状断熱材(発泡ポリスチレンフォーム等)14、板状断熱材14の表面に塗布された樹脂モルタル等からなる。本実施形態では、板状断熱材14の上端を、梁30に係止された保持具(図示省略)にて保持し、コンクリート打設の際のコンクリートによる側圧に対し梁30に反力を持たせて対抗させるようにしている(図9、図10参照)。板状断熱材(カバー材)14は、基礎スラブ10の外周における型枠(堰板)機能を兼ねることができる。保持具は、コンクリート打設の際の仮の部材でも、恒久的な部材でもよい。なお、符号32は外壁パネルの受け金物である(図9参照)。本実施形態の受け金物32は断面が逆T字形状であり、先端が斜め下方に屈曲してシーリング材が充填できるようになっている。
板状断熱材14は、基礎スラブ10のコンクリートの型枠(堰板)を兼ねたものであり、コンクリート打設前に予め設置される(図6参照)。したがってこの板状断熱材14の下端のレベルは基礎スラブ10の下端のレベルと同一となっている(図9等参照)。板状断熱材14を予め設置することによってコンクリートとの密着度が高まり更に基礎スラブ10の上端レベルが地盤面より高く設定されているので、建物Aの内部への水の浸入を抑制することができる。また基礎スラブ10の端縁部が露出しないので意匠的に好ましい。さらには、設備配管等を貫通させる場合、容易に加工ができるといった利点もある。
なお、板状断熱材14と梁30との間には、板状断熱材14の上端部の建物内部側への倒れを防止する間隔保持具15が介在している。間隔保持具15としては、板状断熱材14と同じ材質の部材を採用することができる。
続いて、1階柱40等の移動や新設を容易とするための構造について説明する。
上述したアンカーボルト11の他に1階柱40の移動や新設(追加)を容易とする埋め込み式ナット19が予め設けられていることが好ましい。本実施形態では、基礎スラブ10内に予めナットをセットした状態でコンクリート13を打設することにより埋め込み式ナット19を形成することとしている(図16等参照)。ここで用いられるナットは、高ナット等と呼ばれる、通常のナットよりも長い(軸方向の寸法が大きい)ナットである。本実施形態では、符号191で示す当該高ナットを、その上端面191aが基礎スラブ上端面に一致するよう当該基礎スラブ10内に配置して埋設している(図16、図17参照)。
なお、ここでは、上述したアンカーボルト11の他に埋め込み式ナット19を予め設けておくという態様を例示したが、想定される将来の増改築の内容に応じ、これらアンカーボルト11に代えて埋め込み式ナット19を予め設けることも好ましい。例えば通常の丸いボルト孔を有する既存の束20を取り外す際、場合によっては当該アンカーボルト11を切断しなければならない等、通常のアンカーボルト11の場合には作業が難しくなることが生じ得るので、このような状況が想定される場合にはアンカーボルト11に代えて埋め込み式ナット19を設けておくことも好ましい。
埋め込み式ナット19の形態は特に限定されないが、例えば本実施形態では、4本の高ナット191を予めプレート状(フレーム状等でもよい)連結材192を用いて所定の位置関係となるように連結して埋め込み式ナット19を構成している。埋め込み式ナット19は、結束線等を用いて連結材192を基礎スラブ10内の鉄筋12に固定することで所定の位置に保持される(図16参照)。
このような埋め込み式ナット19に対しては、六角形の頭部を持たず全長にわたってねじが切られた、いわゆる寸切ボルト22をアンカーボルトとして利用することができる。本実施形態では、この寸切ボルト22の一部を高ナット191にねじ込み、その上端部を基礎スラブ10から突設させた状態とし、当該上端部を束20の下フランジ20bの下ボルト孔20eに挿通し、通常のナットにて締結することによって埋め込み式ナット19に束20を固定することとしている。
上記構成の場合、ナット及びボルトを外すことによってアンカーボルト11から束20を取り外すことができる(図3、図9等参照)。また、埋め込み式ナット19が埋設されている位置であれば、束20を基礎スラブ10と1階床梁30との間に介挿し、当該埋め込み式ナット19上に固定することができる。
ここで、例えば建物Aの増築について考えてみると、増築の際には増築部以外にも柱や耐力要素の追加が必要となることがあるが、耐力要素が取り付けられる柱には地震等の水平力によって引き抜き力が作用するため、アンカーボルト11も引き抜き力に耐え得るものとする必要がある。したがって、増築が想定される場合には、埋め込み式ナット19を新築当初から予め基礎スラブ10の想定位置に埋設しておくことで、耐震性能の面で信頼性の高い建物とすることができる。
また、柱などの耐力要素の追加位置を検討する際には、以下のようなことを考慮することで埋め込み式ナットの埋設位置を絞り込むことができる。
(1)建物Aが例えば南面を除く3面については境界に近接しており、増築は南側の庭方向に限定されるような場合、南面は除き、その他の外壁面3面のうち窓等が配置されていない領域が増築の柱(耐力要素)の追加場所として有力な候補となる。
(2)階段や水回りを移動させるには多大な手間がかかるのでこれらが移動対象となる可能性は低い。そうすると、これら階段や水回りに沿った位置(大梁が存在する位置)も有力な候補となる。
(3)新築時に設置された柱はそのまま耐力要素を取り付ける柱としての利用が可能である。
また、ここまで説明したごとく束20の取り外しや移動を可能とした建物Aにおいて、束20を実際に取り外した場合には代わりに免震支承等の免震部材を基礎スラブ10と1階床梁30との間に介挿させることが好ましい。免震部材を介挿して束20と置換するという僅かな手間で、建物Aを容易に免震構造化することができ、安全性のさらなる向上を図ることができる。免震支承としては、積層ゴム支承、すべり支承、ころがり支承など種々の支承を適用することができる。いずれの免震支承も、埋め込み式ナット19またはアンカーボルト11、および1階床梁30のボルト孔30dに対応した固定片を有していればよい。
このように免震部材を設けて特に好適な場合を例示すれば、例えば、増築の際に上記手法で耐力要素を追加しても所定の建物耐力が得られない場合や、耐震設計基準の改定等によって基準を満たさなくなってしまった(既存不適格)場合などである。これらの場合に、上記手法により免震構造化すれば、所要の耐震性能が得られる可能性が高くなる。
また、免震構造化する場合、変位した上部構造をもとの位置に復元させるための復元材、最大変位を規定するストッパー、ダンパー等の減衰材などを、埋め込み式ナット19またはアンカーボルト11、および1階床梁30のボルト孔30dを利用して適宜付加することができる。
また、特に図示はしないが、免震構造化する場合、例えば板状の合成樹脂発泡体からなるカバー材(例えば上述した板状断熱材14)を1階床梁30の建物外周部側に着脱可能に装着することも好ましい。上記手法により免震構造化した場合に、地震力によって上部構造が相対的に水平方向に変位することがあり、この場合、カバー材が下部構造に衝突したとしても、建物Aにダメージを与えることがなく、また、カバー材が破損したとしても修復を容易に行なうことができる。
ここまで、1階柱40等の移動や新設を容易とするための構造例として、図3等に示した束20を取り外し、さらには他の箇所へ取り付ける(移動させる)ことを可能とした例を示したが、対象とすることができる束20は上述したものに限られない。1階柱40等の移動や新設を容易とする場合に、対象に含めることができる束20の別の構造例を以下に説明する(図18、図19参照)。
図18に示す束20は、上フランジ20a、下フランジ20b、両フランジ20a,20bの端辺を繋ぐプレート20f、両フランジ20a,20bの略中央を繋ぐ補強プレート20gを含む。上フランジ20a、下フランジ20bおよびプレート20fはチャネル状(コ字状)に接続されている。プレート20fおよび補強プレート20gは、当該束20においていわばT字状のウェブを構成している(図18参照)。
上フランジ20aには、1階床梁30との接合用の上ボルト孔20dが例えば2箇所に設けられている。また、下フランジ20bには、基礎スラブ10との接合用の切り欠き(略U字状の半閉塞ボルト孔)20hが例えば2箇所に設けられている。接合用切り欠き20hは、接合用のボルト(ナット)を緩めた状態で束20をスライドさせることを可能とするもので、平行に設けられている(図18参照)。
ここでは、1箇所(1本)の1階柱40につき、2個の束20を対向させるように配置して用いることとしている(図19参照)。基礎スラブ10と当該束20との接合は、アンカーボルト11(または埋め込み式ナット19の寸切ボルト22)の上端部を接合用切り欠き20hに挿通した状態とし、さらに通常の接合用ナット(図19において符号23で示す)を締め込み締結することによって行われる(図19参照)。束20は、1階床梁30との接合用のボルト(図19において符号24で示す)を外し、基礎スラブ10との接合用ナット23を緩め、ジャッキ等を用いて1階床梁30を束20から若干浮かした状態とすることで、横方向に移動させて取り外すことができる。また、アンカーボルト11(または埋め込み式ナット19)が埋設されている位置であればこれと逆の手順で基礎スラブ10と1階床梁30との間に介挿し固定することができる。したがって、上述した場合と同様、アンカーボルト11(または埋め込み式ナット19)を所定の位置に予め埋設しておくことで、増築に伴う耐力要素の追加に対応することができる。
続いて、建物Aの基礎の施工手順について一例を挙げつつ以下に説明する。
まず、地盤を根伐り(根切り)し、砕石17を敷きつめ転圧する(図1参照)。根伐り底における束位置(束20が設置される位置)にPC(プレキャストコンクリート)板16を設置する(図1参照)。PC板16にアンカーボルト11の定着板18を固定したら、該定着板18にアンカーボルト11を固定する(図1参照)。
続いて、鉄筋12を配筋する(図2参照)。本実施形態において基礎梁とみなしている部分(通りに沿った所定の幅の範囲)には、算定された配筋量に応じて鉄筋12が密に配筋される。
その後、束20をアンカーボルト11に設置する(図3参照)。まず、アンカーボルト11に、束20を仮支持するための下部ナットをねじ入れ、束20のレベル(高さ)等を調整する。続いて、束20の下フランジ20bのボルト孔にアンカーボルト11を挿通し、更に上部ナットをねじ入れ、束20を固定する(図9等参照)。なお、図9と図10とでは、アンカーボルト11と下フランジ20bとの接合が異なっている。すなわち、図9では、外周束20に対するアンカーボルト11の位置が図10の場合よりもオフセットしているため、アンカーボルト11が外周束20のウェブ20c(末広がり状のウェブ20cと直交しているウェブ)と干渉してしまい、図10のように下フランジ20bの下ボルト穴20eにアンカーボルト11を挿通して下フランジ20bの上からナットで締結するという方法をとることができない。そこで、このような場合には、下フランジ20bに貫通しないタップ穴を設けてこれにアンカーボルト11をねじ込んで固定するようにしている(図9参照)。
続いて、束20の上に梁30を載置し、ボルトおよびナットを用いて固定する(図4参照)。
次に、基礎の外周部に板状断熱材14を起立させる。さらに、板状断熱材14の外面に沿って間隔保持具15を設ける(図6参照)。
さらに、1階床構面に水平ブレース31等の補剛材を取り付け、梁30の対角寸法を確認するなどして梁位置の調整(ゆがみの補正)を行う(図5参照)。上述したように、構面の高い位置に水平ブレース(補剛材)31を設置することが好ましいが、梁30の上フランジ30aのレベルを越えると床パネルの敷設の邪魔となるので工夫が必要である。例えば、仮の水平ブレースで梁位置を調整した後に火打ち梁等で固定する等の手順を採用してもよい。
その後、コンクリートを打設する(図7参照)。本実施形態では、束20の下端レベルに合わせてコンクリートを打設する(図9等参照)。コンクリートの養生後、梁上部躯体(1階柱40等)を設置することができる(図8参照)。
なお、コンクリートの打設工程の前に、梁30を利用して作業床(道板)33を掛止してもよい(図7参照)。梁30を利用して作業床33を掛け渡すことで打設・仕上げ時に作業者がコンクリート中に足を踏み入れなくて済み、現場を汚さない上に仕上げ時に足跡を消すという作業が不要になる。なお、当該作業床33を梁30の下フランジ30bに掛け渡すとウェブ30cで長手方向の移動が拘束され、ずれ落ちないようにより確実に掛止することができる。
本実施形態にかかる建物Aの施工方法によれば、アンカーボルト(アンカーフレーム)11によって束20を支持し、予め位置決めされた状態の該束20で基礎を形成することができるので、梁30の撓み等の影響を受けにくい構造とし、基礎を高い精度で施工することができる。このような施工方法によれば、鉄骨基礎のメリット(天端精度調整のしやすさ、柱40等の設置位置の自由度が高い、根入れが浅くできる等)はそのままに、必要作業を減らし工期を短縮しつつ、施工精度を向上させることができる。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では形鋼の一例としてH形鋼(I形鋼と呼ばれるような形鋼を含む)を例示したがこれは好適例にすぎない。要は、一端と他端とにそれぞれフランジを有するとともに、他部材(束20や1階柱40)とのボルト接合を可能とするものであれば、1階床梁30を形成する形鋼として利用することが可能である。したがって、コ字断面の溝形鋼、C字断面のリップ溝形鋼といった形鋼、さらにはこれらの組合せを、1階床梁30を形成する形鋼として利用することも可能である。