JP5610466B2 - シークワシャー果実および加工品の判別方法 - Google Patents
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Description
シークワシャーの果実は、他のカンキツ類と比べてポリメトキシフラボノイド成分であるノビレチン、タンゲレチン等を多量に含有する特徴的なカンキツである。近年、その果汁に豊富に含まれるノビレチンに発癌予防効果が認められ(非特許文献1参照)、果皮を含むペーストの摂取で血糖値の抑制、体脂肪率の減少効果があることが明らかになった。
このため、シークワシャー(果実、加工品)の需要は益々拡大しつつある。
このような現状から、カラマンシー果汁入り飲料をシークワシャー果汁原料と不正表示して販売する事例が多発し、公正取引委員会の排除命令による行政処分を行うなど、大きな社会問題となっている。
なお、カラマンシー果実の形態は、シークワシャーに極めて類似するものであり、外見的な判別は極めて困難である。また、一旦搾汁されてしまうと、フラボノイド成分(フロレチン、ポリメトキシフラボノイド類など)の成分分析(非特許文献2参照)を行わない限り、現状では判別することができない。
即ち、請求項1に係る本発明は、シークワシャーtrnL-trnF領域を特異的に増幅できる配列番号5及び6からなるプライマーセット又はカラマンシーtrnT-trnL領域を特異的に増幅できる配列番号7及び8からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認することを特徴とする、シークワシャーとカラマンシーの判別方法に関する。
また、請求項2に係る本発明は、シークワシャーtrnL-trnF領域を特異的に増幅できる配列番号5及び6からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認すること、;並びに、カラマンシーtrnT-trnL領域を特異的に増幅できる配列番号7及び8からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認すること、;を特徴とする、シークワシャーとカラマンシーの判別方法に関する。
また、葉緑体上の短い領域を標的としたPCR法であるため、極めて高感度の検査が可能となる。
これにより、本発明は、従来のポリフェノール成分(フロレチンなど)の簡易検出法では困難であった、原料が混合原料や加熱処理を伴う加工品の場合であっても、高い精度でシークワシャーやカラマンシーを判別することが可能となる。
本発明で判別可能なシークワシャーとしては、カンキツ属ミカン区のCitrus depressa に属するものであれば、如何なるものも含まれる。例えば、沖縄産の伊豆味クガニー、大宜味クガニー、勝山クガニー、当山早生、カーアチー、B-41、B-41-H、A-29、石クニブー、B-7、B-20、B-25、フスブター、カービシー、マヤーガー、C-22、;台湾産の台湾産シークワシャー、;などを判別することができる。
本発明で判別可能なカラマンシーとしては、カンキツ属トウキンカン区のCitrus madurensis に属するものであれば、如何なるものも含まれる。例えば、台湾産のカラマンシー、;沖縄産のシキキツ、;など、を判別することができる。
なお、図1に示すように、シークワシャーとカラマンシー果実の形態は、シークワシャーに極めて類似するものであり、外見的な判別は極めて困難である。また、一旦搾汁されてしまうと、フラボノイド成分などの成分分析を行わない限り、現状では判別することができない。
本発明に用いる葉緑体DNA上のtrnL-trnF領域、trnT-trnL領域に存在するSNP(Single Nucleotide Polymorphisms:1塩基変異多型)部位とは、図2の模式図で示すように、trnL-trnF領域、trnT-trnL領域に存在するものを指すものであり、シークワシャーとカラマンシーの品種識別が可能な変異部位を指す部位である。
なお、これらの領域は、転移RNA(trn)遺伝子間にあるスペーサー領域(IGS領域)であり、分子進化速度が比較的速い領域である。
また、trnT-trnL領域に存在するSNPとしては、具体的には、図6のアライメントで示すSNPを用いることができる。なお、当該部位は、NCBIに登録されているスイートオレンジ(Citrus sinensis)の葉緑体DNA配列(Accession No: DQ864733)では、50268番目の塩基に相当する部位である。
本発明は、プライマーの3'末端を上記SNP部位になるように設計することで、上記SNP部位をDNAマーカーとして利用するものである。
なお、当該3'末端の塩基を、シークワシャーと同一の塩基に設計することで、シークワシャーを特異的に検出することが可能となる。
また、カラマンシーと同一の塩基に設計することで、カラマンシーを特異的に検出することが可能となる。
例えば、当該部位がT(チミン)の場合は、T(チミン)以外の塩基であるA(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)などや、もしくは、I(イノシン)などの特定塩基と結合しない塩基に置換することができる。
なお、PCRの検出感度の観点から、短い増幅断片が得られる位置に設計することが望ましい。具体的には、例えば400bp以下、好ましくは300bp以下、さらに好ましくは200bp以下、もっと好ましくは110bp以下で行うことで、高感度検出が求められる加工品の判別にも対応することができる。
なお、もう一方のプライマーとしては、5'末端に修飾塩基配列等(鋳型と一致しない配列)を含むものであってもよいが、少なくとも3'末端から上流に16個目まで、好ましくは18個目まで、さらに好ましくは20個目までの塩基は、鋳型である標的DNA(シークワシャー及びカラマンシーの両方の配列)と完全一致であることが望ましい。
なお、バックグラウンドを低減させるために、2本のプライマーのTm値がほぼ同じになるように設計することが望ましい。
また、5'末端に検出用の修飾物質(例えばビオチン、DIG、Cy5やCy3などの蛍光物質など)や修飾塩基配列(例えば制限酵素サイトを含む配列など)を付加したものであってもよい。
また、カラマンシーを特異的に検出できるセットの具体例としては、カラマンシーtrnT-trnL領域を特異的に増幅できる「CiMaTL-F(配列番号7)」と「CiMaTL-R(配列番号8)」からなるプライマーセット(増幅断片105bp)を挙げることができる。
上記プライマーセットを用いたアリル特異的PCRは、通常のPCR反応によって行うことが可能である。好ましくは、感度が高く且つバックグラウンドが少ない増幅酵素と反応液を用いて行うことが望ましい。例えば、KOD、Ex-Taq、AmpliTaq-Gold、Pfuなどを挙げることができる。
また、アニーリング温度としては、プライマーのTm値やPCR反応液の組成によって変化するものであるので、標的領域の特異的増幅がシークワシャーとカラマンシーで明瞭に区別できる温度を適宜設定することで行うことができる。例えば46〜68℃程度、好ましくは50〜65℃程度で設定することができる。
核酸検出としては、エチジウムブロマイド染色とUV照射により簡便に行うことができるが、より感度を要する検出の場合、リアルタイムPCR法、サザンハイブリダイゼーション、表面プラズモン共鳴(SPR)法、水晶振動子(QCM)法などを行うことで、より高精度の検出を行うことも可能である。
本発明におけるアリル特異的PCRは、上記のように鋳型である標的領域が葉緑体DNA(核DNAに比べてコピー数が大幅に多く増幅しやすい)上にあり、比較的短い配列を標的とする。そのため、加熱処理を伴う加工品のようなDNAの分解や劣化が認められる検査対象に対しても、高い精度で検査を行うことが可能となる。
また、増幅断片のサイズ(プライマーの位置)をより短く設定することで、さらなる高感度化が可能となる。
これらの検査対象に対するPCRは、検査対象からDNAを抽出してから行うことが感度の点で望ましい。なお、対象によってはダイレクトPCRによって直接PCRを行うことも可能な場合がある。
例えば、図13に示すように、シークワシャー検出陽性(+)/カラマンシー検出陰性(+)の結果が得られた場合、「原料としてシークワシャーにカラマンシーが混入している」という結果を得ることができる。
なお、混入率等を詳細に知りたい場合、リアルタイムPCR法などによって、鋳型DNA量を定量することで混入率を推定することも可能となる。
(1)trnL-trnF領域およびtrnT-trnL領域の増幅
表1に示す果実試料を凍結乾燥させ、QIAGEN社製のDNeasy Plant Mini kitsにより全DNAを抽出した。
次いで、抽出した全DNAのうち試料1〜9に対して、表2に示すプライマー(Taberlet P. et al. Plant Mol. Biol. 17, 1105-1109, (1991))の組合せを用いて、表3に示す条件によりPCRを行い、trnL-trnF領域およびtrnT-trnL領域の増幅を行った。
得られた各PCR産物は、2%アガロースゲルにて電気泳動した。trnL-trnF領域の増幅結果を図3に、trnT-trnL領域の結果を図4に示す。
なお、図において、レーン1〜7はシークワシャーの試料、レーン8〜9はカラマンシーの試料に対する増幅結果を示す。また、レーンNCはnegative control(鋳型なし)、レーンMは100bpマーカーを示す。
上記により得られた各増幅断片について、各増幅プライマーと同じプライマーを用いて、ダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定した。そして、得られた各配列とバレンシア(Citrus sinensis)の配列(Accession No: DQ864733)について、アライメントを行った。trnL-trnF領域における5'側のアライメント結果を図5に、trnT-trnL領域における5'側のアライメント結果を図6に示す。
実施例2のアライメント結果とアリル特異的PCR法(Okayama et al. J. Lab. Clin. Med., 114, 105-113 (1989))に基づいて、シークワシャーとカラマンシーの判別に用いることができるプライマーセットを設計した。
具体的には、表4で示すように、シークワシャーtrnL-trnF領域検出用のプライマーセットとして、CiDeLF-F:配列番号5、CiDeLF-R:配列番号6を設計した。また、カラマンシーtrnT-trnL領域検出用のプライマーセットとして、CiMaTL-F:配列番号7、CiMaTL-R:配列番号8を設計した。
なお、各プライマーセットのforward primer(CiDeLF-F:配列番号5、CiMaTL-F:配列番号7)は、3'末端がSNP部位になる位置に設計し、非特異的増幅を低減するため、3'末端から3番目の位置にミスマッチ塩基を導入した。図7と図8に当該プライマーの作製例を示す。また、図5と図6の各アライメントの下に、forward primer作製部位を示す。
実施例3で設計したシークワシャーtrnL-trnF領域検出用のプライマーセットについて、アリル特異的PCRにおけるアニーリング温度の検討を行った。
上記実施例1で抽出した全DNAのうち、試料2(シークワシャー)もしくは試料9(カラマンシー)のDNAを鋳型として、「CiDeLF-F(配列番号5)」、「CiDeLF-R(配列番号6)」を用いて、表5で示す条件によりPCRを行った。なお、アニーリング温度は、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、もしくは65℃の各温度で行った。
得られた各PCR産物は、2%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を図9に示す。
なお、図において、レーン1〜8は、それぞれアニーリング温度58℃(レーン1)、59℃(レーン2)、60℃(レーン3)、61℃(レーン4)、62℃(レーン5)、63℃(レーン6)、64℃(レーン7)、65℃(レーン8)の各温度での増幅結果を示す。また、左側のレーンはシークワシャー(試料2)、右側のレーンはカラマンシー(試料9)カラマンシーに対する増幅結果を示す。また、レーンMは100bpマーカーを示す。
実施例3で設計したカラマンシーtrnT-trnL領域検出用のプライマーセットについて、アリル特異的PCRにおけるアニーリング温度の検討を行った。
PCR反応は、プライマーセットとして「CiMaTL-F(配列番号7)」、「CiMaTL-R(配列番号8)」を用いたこと、及び、アニーリング温度を54.9℃、55.8℃、56.7℃、57.6℃、58.5℃、59.4℃、60.3℃、もしくは61.2℃の各温度で行ったことを除いて、実施例4と同様にして行った。結果を図10に示す。
なお、図において、レーン1〜8は、それぞれアニーリング温度54.9℃(レーン1)、55.8℃(レーン2)、56.7℃(レーン3)、57.6℃(レーン4)、58.5℃(レーン5)、59.4℃(レーン6)、60.3℃(レーン7)、61.2℃(レーン8)の各温度での増幅結果を示す。また、左側のレーンはシークワシャー(試料2)、右側のレーンはカラマンシー(試料9)に対する増幅結果を示す。また、レーンMは100bpマーカーを示す。
実施例3で設計したシークワシャーtrnL-trnF領域を検出するプライマーセットである「CiDeLF-F(配列番号5)」、「CiDeLF-R(配列番号6)」を用いてアリル特異的PCRを行い、シークワシャーとカラマンシーの判別を行った。
PCR反応は、実施例1で抽出した全DNAの試料1〜10に対して、アニーリング温度を61℃(実施例4で特異的増幅が明瞭に得られた条件)で行ったことを除いては、実施例4と同様にして行った。結果を図11に示す。
なお、図において、レーン1〜7,10はシークワシャー、レーン8,9はカラマンシーに対する増幅結果を示す。また、レーンMは100bpマーカーを示す。
このことから、CiDeLF-F(配列番号5)とCiDeLF-R(配列番号6)を用いたアリル特異的PCRにより、シークワシャーとカラマンシーのDNAを明瞭に判別できることが示された。
実施例3で設計したカラマンシーtrnT-trnL領域を検出するプライマーセットである「CiMaTL-F(配列番号7)」、「CiMaTL-R(配列番号8)」を用いてアリル特異的PCRを行い、シークワシャーとカラマンシーの判別を行った。
PCR反応は、実施例1で抽出した全DNAの試料1〜10に対して、アニーリング温度を58℃(実施例5で特異的増幅が明瞭に得られた条件)で行ったことを除いては、実施例5と同様にして行った。結果を図12に示す。
なお、図において、レーン1〜7,10はシークワシャー、レーン8,9はカラマンシーに対する増幅結果を示す。また、レーンMは100bpマーカーを示す。
このことから、CiMaTL-F(配列番号7)とCiMaTL-R(配列番号8)を用いたアリル特異的PCRにより、シークワシャーとカラマンシーのDNAを明瞭に判別できることが示された。
また、本発明の原理は、シークワシャーやカラマンシーに限らず、他の混合果汁製品の判別への応用も期待される。
Claims (2)
- シークワシャーtrnL-trnF領域を特異的に増幅できる配列番号5及び6からなるプライマーセット又はカラマンシーtrnT-trnL領域を特異的に増幅できる配列番号7及び8からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認することを特徴とする、シークワシャーとカラマンシーの判別方法。
- シークワシャーtrnL-trnF領域を特異的に増幅できる配列番号5及び6からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認すること、;並びに、カラマンシーtrnT-trnL領域を特異的に増幅できる配列番号7及び8からなるプライマーセットを用いてアリル特異的PCRを行い、標的配列の増幅の有無を確認すること、;を特徴とする、シークワシャーとカラマンシーの判別方法。
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