JP5605304B2 - 耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材並びにその製造方法 - Google Patents

耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材並びにその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は船舶、海洋構造物その他の耐疲労亀裂進展特性および溶接熱影響部(以下、「HAZ」という。)の低温靭性が要求される溶接構造物などに用いるのに適した鋼材並びにその製造方法に関する。
近年、溶接構造物が大型化される傾向が顕著になっており、高強度化および軽量化が望まれている。しかし、高強度鋼を使用する際には設計応力が上昇するため、溶接部から疲労破壊が発生し易くなり、その改善が望まれている。一般に、構造部材に使用される厚鋼板では、溶接施工が施されるため、溶接部から疲労破壊が発生する可能性がある。従って、溶接部からのき裂発生を抑制し、き裂が発生した場合にも進展する疲労き裂を鋼材で停留させることができれば、構造物の疲労寿命延長に有効である。このため、耐疲労き裂進展特性を有する鋼板が種々提案されている。一方、近年では、大入熱溶接を適用され、HAZの低温靭性が要求される鋼材に対しても耐疲労き裂進展特性を有することが望まれている。
例えば、特許文献1には、鋼材表面下の介在物を制御することで、耐疲労き裂進展特性を有する技術が提案されている。
特開2010−47826号公報
特許文献1で提案された技術は、耐疲労き裂進展特性の観点から組成の限定、介在物の制御がなされている。しかし、鋼材は温度の低い環境下で使用される場合もあるところ、当該技術はHAZにおける低温靭性を考慮したものではない。耐疲労き裂進展特性に加えてHAZの低温靭性が求められる場合もある。
本発明は、このような状況に鑑み、耐疲労き裂進展特性を有するだけでなくHAZの低温靭性をも確保できる鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の目的を達成するべく、HAZの低温靭性を確保するための組成を基本としつつ、耐疲労き裂進展特性と金属組織、機械的性質の影響を調査した。その結果、次の(a)〜(d)に示す知見が得られた。
(a)耐疲労き裂進展特性の向上のためには、表層部の硬度と板厚中心部の硬度の差を限定することが有効である。この理由は、表層部と板厚中心部の硬度差を小さくすることで、疲労き裂が不均一に進展することが抑制され、構造物が外力を受けた際にも、板厚の一部分が優先的に変形することが無くなるためである。
(b)HAZの低温靭性の改善のためには、Bの添加が有効である一方、Bが溶接時にBNを形成せず、固溶Bとして存在した場合には、靭性を劣化させる。よって、溶接時に固溶Bが過剰にならないように、窒化物生成元素の添加比率が重要となる。
(c)しかし、耐疲労き裂進展特性の向上のためには、寧ろ積極的に固溶Bを活用し、ベイナイト組織を有効に生成させることが有効となる。
(d)そして、下記式(1)および(2)を満足するように、Ti、BおよびNの含有量を適正に制御することによって、耐疲労き裂進展特性とHAZの低温靭性を両立させることができることを見出した。
Ti/N≦3.4・・・・・・・・・・・(1)式
0.0003≦B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)≦0.003・・(2)式
ただし、式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)に示す耐疲労き裂進展特性およびHAZの低温靭性に優れる鋼材、ならびに、下記の(5)に示す耐疲労き裂進展特性およびHAZの低温靭性に優れる鋼材の製造方法にある。
(1)質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:0.04〜0.60%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.004%以下、Al:0.005〜0.07%、Ti:0.004〜0.025%、B:0.0005〜0.0040%、N:0.0040〜0.0090%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、金属組織が面積率で50%以上のベイナイト組織、5%以下のパーライト組織、残部がフェライト組織であり、表層部と板厚中心部の硬度差がビッカース硬さで50以内であり、かつ下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
Ti/N≦3.4・・・・・・・・・・・(1)式
0.0003≦B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)≦0.003・・(2)式
ただし、式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)さらに、質量%で、Cu:0.40%以下、Cr:0.20%以下、Mo:0.20%以下およびV:0.10%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)の耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
(3)さらに、質量%で、Ni:0.40%以下およびNb:0.05%以下の一方または両方を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)の耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
(4)さらに、質量%で、Sn:0.50%以下を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱後、900℃以下の累積圧下量が30%以上となるように圧延を行い、740〜850℃で仕上げ圧延を行い、圧延後120秒以内、かつ仕上げ圧延からの温度低下が30℃以内で冷却速度が5℃/sec以上となるような水冷を行い、400℃以下で水冷を停止することを特徴とすることを特徴とする耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材の製造方法。
本発明の鋼材は、耐疲労き裂進展特性およびHAZの低温靭性に優れているので、船舶、海洋構造物その他の耐疲労亀裂進展特性およびHAZの低温靭性が要求される溶接構造物などに用いるのに適している。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
A.本発明の鋼材の化学組成について
まず、本発明の鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.10%
Cは強度を上げるのに有効な元素である。また、耐疲労き裂進展特性を確保するためのベイナイト組織生成のためには必須となる元素である。こうした効果を得るためには、0.01%以上の添加が必要である。一方、含有量が0.10%以上となるとHAZの低温靭性確保が困難となる。よって添加量の上限は0.10%とした。Cの好ましい下限は0.03%、好ましい上限は0.08%である。
Si:0.04〜0.60%
Siは、脱酸作用を有する。しかし、その含有量が0.04%未満ではその効果に乏しい。一方、Siの含有量が0.60%を超えるとHAZの低温靭性が低下するようになる。したがって、Siの含有量を0.04〜0.60%とした。Siの好ましい下限は0.10%、好ましい上限は0.50%である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、強度の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.5%未満ではその効果に乏しい。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると溶接性が低下するので溶接施工が困難となり、構造用鋼材としての使用領域が著しく限定されてしまう。したがって、Mnの含有量を0.5〜2.0%とした。Mnの好ましい下限は0.8%、好ましい上限は1.6%である。
P:0.015%以下
P:0.015%以下
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。その含有量が0.015%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招く。したがって、Pの含有量を0.015%以下とする必要がある。
S:0.004%以下
Sは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。S含有量が多いと中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの低温靭性が劣化する。したがって、Sの含有量を0.004%以下とする必要がある。Sの含有量は少ないほど好ましいため下限は特に規定するものではない。
Al:0.005〜0.07%
Alは、脱酸作用を有する。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しく、一方、0.07%を超えると、HAZ入熱溶接熱影響部の低温靱性が低下するし、鋼の清浄性も悪くなる。したがって、Alの含有量を0.005〜0.07%とした。
Ti:0.004〜0.025%
Tiは、TiNを形成しHAZの結晶粒の粗大化を抑制する効果を持つ。この効果を得るためには0.004%以上含有させる必要がある。しかし、その含有量が0.025%を超えると却って靭性が低下するようになる。したがって、Tiの含有量を0.004〜0.025%とした。Tiの好ましい下限は0.008%、好ましい上限は0.020%である。
B:0.0005〜0.0040%
Bは焼入れ性を向上させて強度を高め、ベイナイト生成を促進することを通じて母材の高強度化および耐疲労き裂進展特性の改善に寄与する。この効果を得るために、Bの含有量を0.0005%以上とする必要がある。一方、Bの含有量が0.0040%を超えると、強度を高める効果が飽和し、さらに母材とHAZの低温靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.0040%とした。
N:0.0040〜0.0090%
NはTiNを形成しHAZの結晶粒の粗大化を抑制する効果を持つ。この効果を得るために、Nの含有量を0.0040%以上とする必要がある。一方、0.0090%を超えると、過剰な固溶Nが母材とHAZの低温靭性を劣化させる。したがって、Nの含有量を00040〜0.0090%とした。
Ti/N≦3.4・・・・・・・・・・・(1)式
TiとNは、TiNを形成しHAZの低温靭性を改善させるが、Ti/Nが3.4を超えるとTiが過剰となり、Ti炭化物生成を通じてHAZの低温靭性を劣化させる。したがって、(1)式に示すように、Ti/Nは3.4以下とした。
0.0003≦B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)≦0.003・・(2)式
Bは鋼中にフリーなNが存在するとBNを生成する。一方、Nは固定されTiNとして固定される。よって、鋼中の固溶B量はNとTiの量に依存し、B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)で表される。固溶B量が0.0003%未満では母材のベイナイト組織生成が難しくなり、耐疲労き裂進展特性が確保できない。一方、固溶B量が0.003%を超えると母材、HAZの低温靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、(2)式に示すように、B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)を0.0003〜0.003%とした。
本発明に係る鋼材は、上記の化学組成を有し、残部がFeおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明の鋼材には、必要に応じて、次の第1群から第3群までの少なくとも1群から選んだ成分の1種以上を含有させることができる。以下、これらの群に属する成分について述べる。
第1群の成分:Cu、Cr、Mo、V
Cu:0.40%以下
Cuは、必要に応じて含有させることができる。Cuを含有させると、大きな靭性劣化を伴わずに強度を向上させることができる。しかしながら、その含有量が0.40%を超えると、熱間での加工の際、表面に微小な割れを発生させるので、その含有量の上限は0.40%とする。なお、Cuによる強度向上効果を安定的に発現させるためには、Cuを0.10%以上含有させることが好ましい。
Cr:0.20%以下
Crは、必要に応じて含有させることができる。Crを含有させると、強度を上昇させることができる。しかしながら、その含有量が0.20%を超えると、靭性の劣化をきたし、更に、HAZに硬化した組織を形成し低温靭性を劣化させるので、その含有量の上限は0.20%とする。なお、Crによる強度向上効果を安定的に発現させるためには、Crを0.05%以上含有させることが好ましい。
Mo:0.20%以下
Moは、必要に応じて含有させることができる。Moを含有させると、焼入性を高め、強度を向上させることができる。しかしながら、Moの含有はコストアップ要因となり、また、その含有量が0.20%を超えると、却ってHAZの低温靭性を劣化させるので、その含有量の上限は0.20%とする。なお、Moによる焼入性と強度の向上効果を安定的に発現させるためには、Moを0.05%以上含有させることが好ましい。
V:0.10%以下
Vは、必要に応じて含有させることができる。Vを含有させると焼入性の向上および析出硬化による強度の向上に有効となる。しかしながら、Vの含有量が0.10%を超えると、靱性の著しい劣化をもたらすので、含有させる場合のVの含有量は0.10%以下とする。含有させる場合のV含有量の好ましい上限は0.06%である。なお、Vによる焼入性と強度の向上効果を安定的に発現させるためには、Vを0.003%以上含有させることが好ましい。
第2群:Ni、Nb
Ni:0.40%以下
Niは、必要に応じて含有させることができる。Niを含有させると、鋼板の靭性を向上させることができる。しかしながら、Niの含有はコストアップ要因となるため、その含有量を0.40%以下とする。なお、Niによる靭性向上効果を安定的に発現させるためには、Niを0.10%以上含有させることが好ましい。
Nb:0.05%以下
Nbは、必要に応じて含有させることができる。Nbを含有させると、組織の微細化、靱性の向上、焼入性の向上および析出硬化による強度上昇に有効である。しかしながら、Nbの含有量が0.05%を超えると、析出物の増加により却って靱性の劣化をもたらす。したがって、Nbの含有量を0.05%以下とする。なお、Nbの効果を安定的に発現させるためには、Nbを0.005%以上含有させることが好ましい。
第3群:Sn
Sn:0.50%以下
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。これらの作用は、Snの含有量が0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量を0.50%以下とする。なお、Snの効果を安定的に発現させるためには、Snを0.03%以上含有させることが好ましい。
B.本発明の鋼材の金属組織について
本発明の鋼材の金属組織は、面積率で50%以上のベイナイト組織、5%以下のパーライト組織、残部がフェライト組織からなる。
ベイナイト組織は繰り返し荷重を受けた際に軟化する特性を有しており、これによってき裂先端の応力集中を緩和することができるため、優れた耐疲労き裂進展特性を有している。耐疲労き裂進展特性は、母材組織を主としてベイナイト組織とすること、すなわち面積率で50%以上のベイナイト組織を生成させること、で向上させることができる。
ベイナイト単相組織でも耐疲労き裂進展特性を期待できるが、母材を硬相であるベイナイト組織、軟相であるフェライト組織の2相組織とすれば、疲労き裂の進展に際して、き裂の分岐、屈曲が起こることを通じてき裂進展速度が低下しさらに耐疲労き裂進展特性が向上する。このため、基本的にベイナイト組織以外の組織がフェライト組織であるとよい。フェライト組織は面積率で10%以上存在することが好ましく、20%以上存在することがより好ましい。
ただし、耐疲労き裂進展特性を改善させないパーライト組織の存在は好ましくなく、面積率で5%以下とする必要がある。パーライト組織は少ないほど好ましい。
C.本発明の鋼材の硬度について
本発明の鋼材の硬度は、表層部と板厚中心部の硬度差がビッカース硬さで50以内である。
鋼材が荷重を受けた際、不均一に変形を受ける場合がある。このような不均一な変形は鋼材が場所により硬度が異なることに起因し、この変形を受けた箇所に応力集中が起きると、耐疲労き裂進展特性が劣化する。
表層部と板厚中心部の硬度差が大きい場合、板厚の一部分が優先変形し、さらに疲労き裂が不均一に進展しやすくなる。このことから、表層部と板厚中心部の硬度差がビッカース硬さで50以下とした。
D.本発明の鋼材の製造方法について
本発明に係る鋼材は、前述の化学組成を有するスラブに対し、例えば、以下(i)〜(iii)の工程で順次処理することにより製造することができる。
(i)加熱工程
この工程では、圧延素材としてのスラブを1000〜1200℃の温度に加熱する。加熱温度が高い場合、オーステナイト粒の粗大化により母材の低温靭性が劣化する。このため、加熱温度の上限は1200℃とした。加熱温度の好ましい上限は1150℃である。加熱温度が下がるほど、低温靭性は改善するが、1000℃以下の温度ではスラブの変形抵抗が大きく、後工程である圧延工程での生産性を阻害する。このため、加熱温度の下限は1000℃とした。加熱温度の好ましい下限は1050℃である。
(ii)圧延工程
この工程では、所望の仕上げ板厚を得るため、900℃以下の累積圧下量が30%以上となるように圧延を行い、740℃〜850℃で仕上げ圧延を行う。こうした圧延を行うのは、先ず900℃の温度域で累積圧下量30%以上の圧延を行うことによって、オーステナイト粒の再結晶を促進させ、結晶粒の微細化を行うためである。更に、圧延仕上げ温度は740℃〜850℃とする。仕上げ温度が高くなると、未再結晶域の圧下が不十分となり、後工程での水冷後の結晶粒が十分に細粒化されない。一方、仕上げ温度が過度に低い場合には、変形抵抗が大きくなることを通じて生産能率が低下する他、後工程である水冷の開始温度も低下することになり、所望の組織を得ることができない。よって圧延仕上げ温度は740℃〜850℃とする。
(iii)水冷工程
所望の組織を得るために圧延後120秒以内、かつ仕上げ圧延からの温度低下が30℃以内で冷却速度が5℃/sec以上となるような水冷を行い、400℃以下で水冷を停止する。水冷開始を圧延後120秒以内とするのは、圧延から水冷開始までの経過時間が長い場合、圧延によって導入された歪が解放され、低温靭性が低下するからである。この圧延後水冷開始までの時間は短いほどよい。また、仕上げ圧延からの温度低下を30℃以内とするのは、水冷を開始する温度が仕上げ温度から大きく低下した場合、耐疲労き裂進展特性を得るため重要なベイナイト組織が効率よく得られないからである。好ましくは仕上げ圧延からの温度低下を20℃以内とする。また、良好な耐疲労き裂進展特性を得るためには、ベイナイト中の転位組織を大きくする必要がある。この観点から、冷却速度は5℃/sec以上、水冷を停止する温度は400℃以下とする。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼を実験室の真空溶解炉にて溶製し、得られた180kgのスラブを小型圧延機にて圧延し、板厚60mmの鋼材とした。表2に製造条件を示す。各製造条件の中で加熱温度、圧延仕上げ温度、仕上げから水冷開始までの温度低下代、水冷停止温度は、鋼板の表面温度を測定した値、またその表面温度からの計算した値である。冷却速度は水冷開始から水冷停止までの平均冷却速度を示している。
Figure 0005605304
Figure 0005605304
表3には鋼板の機械的特性、ミクロ組織観察結果を示した。鋼材のYP(Yield point:降伏点)、TS(Tensile strength:引張強度)は、JIS Z 2241に基づいた引張試験により測定した。試験片はJIS4号試験片とし、板厚(t)のt/4位置において圧延方向と垂直に試験片を採取した。
Figure 0005605304
母材のvTrsはJIS Z 2242に基づいたシャルピー試験によって測定した。試験片はJIS4号試験片とし、板厚(t)のt/4位置で圧延方向と平行に試験片を採取した。本発明では、HAZ部の低温靭性改善を目的の一つとしてなされたものであるが、HAZ部の低温靭性が要求される場合には、当然母材の低温靭性も同時に要求される。そこで、母材のvTrsが−60℃以下の場合に十分な低温靭性を有していると判定した。
また、HAZ部の低温靭性については、得られた鋼板を入熱36KJ/cmのEGW溶接を行って評価した。開先はV型とし、鋼板表面下2mmの位置からJIS4号シャルピー試験片を採取し、そのノッチ位置はF.L.(Fusion Line:溶融線)とした。ここで、−40℃で60J以上のエネルギー値を示すものが、十分な低温靭性を有していると判定した。
耐疲労き裂進展特性の評価については、ASTM E647に基づいて測定し、ΔK=25MPa√mのとき、疲労き裂進展速度(da/dN)が7.9×10-5mm/cycle以下の場合に十分な耐疲労き裂進展特性を有していると判定した。
金属組織は鋼材を切り出し鏡面研磨後、ナイタールでエッチングすることで観察した。観察面は圧延方向と平行とし、組織分率については、5視野観察し、それぞれの組織の面積率の平均値で求めた。
断面硬度は、JIS Z 2244に示されるビッカース硬さ試験方法により測定した。試験力は98Nとし、圧延方向に平行な面を板厚方向に1mmピッチで全厚測定した。断面硬度差は、この時の最小の硬度と最大の硬度の差異とした。
試験番号1〜14は本発明例であり、本発明の規定する範囲内にある。母材靭性、HAZ靭性、耐疲労き裂進展特性とも良好な特性を示している。
試験番号15〜21は、比較例であって、それらの化学組成が本発明の規定する範囲を外れる。そのため、次のとおり、耐疲労き裂進展特性とHAZ靭性の一方又は両方が劣っている。
試験番号15は、C量が高いためHAZ靭性が低く、また断面硬度差が大きいため耐疲労き裂進展特性も劣っている。試験番号16は、Si量が高いためHAZ靭性が劣っていた。試験番号17は、Mn量が高く母材靭性、HAZ靭性が低い他、断面硬度差が大きく耐疲労き裂進展特性も劣っていた。試験番号18は、Ti量が高く、固溶B量およびTi/Nの値も高かったため、HAZ靭性が低かった。試験番号19は、B量および固溶B量も高かったため、HAZ靭性が低かった。試験番号20は、Al量が高いためHAZ靭性に劣る他、圧延仕上げ温度が過度に低くベイナイト面積率が低いため耐疲労き裂進展特性も劣っていた。試験番号21は、Nが過度に高く固溶Nの影響でHAZ靭性に劣っていた他、固溶B量が確保できていないためベイナイト面積率が低く、耐疲労き裂進展特性も劣っていた。
試験番号22〜26は、比較例である。それらの化学組成は本発明の規定する範囲内にあるが、金属組織または表層部と板厚中心部の硬度差が本発明で規定する範囲外にある。そのため、次のとおり、耐疲労き裂進展特性とHAZ靭性の一方又は両方が劣っている。
試験番号22では、加熱温度が高いことを通じて母材靭性が劣化し、断面硬度差が大きいため耐疲労き裂進展特性も低下した。試験番号23では、900℃以下の圧下率が低く、低温で十分な圧下量が得られなかったため、母材靭性、耐疲労き裂進展特性が低下した。試験番号24は、仕上げ〜水冷開始までの時間が過度に長く、水冷開始までの温度低下が大きかったため、パーライト面積率が大きく、断面硬度差も大きかったことから、耐疲労き裂進展特性が低下した。試験番号25は、水冷停止温度が高くベイナイト面積率は十分でも、そのベイナイト中の転位の回復が大きく、耐疲労き裂進展特性が低下した。試験番号26は、冷却速度が低くベイナイト中の転位密度が低くなることを通じて耐疲労き裂進展特性が低下した。
本発明の鋼材は、耐疲労き裂進展特性およびHAZの低温靭性に優れているので、船舶、海洋構造物その他の耐疲労亀裂進展特性およびHAZの低温靭性が要求される溶接構造物などに用いるのに適している。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:0.04〜0.60%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.004%以下、Al:0.005〜0.07%、Ti:0.004〜0.025%、B:0.0005〜0.0040%、N:0.0040〜0.0090%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、金属組織が面積率で50%以上のベイナイト組織、5%以下のパーライト組織、残部がフェライト組織であり、表層部と板厚中心部の硬度差がビッカース硬さで50以内であり、かつ下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
    Ti/N≦3.4・・・・・・・・・・・(1)式
    0.0003≦B−10.8/14.1×(N−Ti/3.4)≦0.003・・(2)式
    ただし、式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. さらに、質量%で、Cu:0.40%以下、Cr:0.20%以下、Mo:0.20%以下およびV:0.10%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
  3. さらに、質量%で、Ni:0.40%以下およびNb:0.05%以下の一方または両方を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
  4. さらに、質量%で、Sn:0.50%以下を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載の組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱後、900℃以下の累積圧下量が30%以上となるように圧延を行い、740〜850℃で仕上げ圧延を行い、圧延後120秒以内、かつ仕上げ圧延からの温度低下が30℃以内で冷却速度が5℃/sec以上となるような水冷を行い、400℃以下で水冷を停止することを特徴とすることを特徴とする耐疲労き裂進展特性および溶接熱影響部の低温靭性に優れた鋼材の製造方法。
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