[ポリシラン]
本発明のネットワーク状(網目状又は分岐鎖状)ポリシラン(単にポリシランということがある)は、少なくともトリハロシランを含むハロシランが重合したポリシランであり、その重合末端が封鎖(詳細には、重合末端が封鎖基により封鎖)されたポリシラン(末端封鎖ポリシラン)である。
(ハロシラン)
ハロシランとしては、例えば、モノ乃至テトラハロシランが使用できる。このようなモノ乃至テトラハロシランとしては、例えば、下記式(1)〜(4)で表される化合物などが例示できる。
(式中、X1〜X4は同一又は異なってハロゲン原子を示し、R1〜R3は同一又は異なって、水素原子、有機基又はシリル基を示す)
上記式において、R1〜R3で表される有機基としては、アルキル基[メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル及びt−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基、特にC1−4アルキル基など)など]、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC5−8シクロアルキル基、特にC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル、ナフチル基などのC6−12アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基[ベンジル、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−6アルキル基(C6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]などの炭化水素基の他、アルコキシ基[メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ及びt−ブトキシ基などのC1−10アルコキシ基(好ましくはC1−6アルコキシ基、特にC1−4アルコキシ基)など]、アミノ基、及びN−置換アミノ基(前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基などで置換されたN−モノ又はジ置換アミノ基など)などが挙げられる。
前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を構成するアリール基などは、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、前記例示のアルキル基(特にC1−6アルキル基など)、前記例示のアルコキシ基などが挙げられる。置換基の個数は、特に制限されず、1つであってもよく、複数(例えば、2〜4個)であってもよい。このような置換基を有する有機基としては、例えば、トリル、キシレニル、エチルフェニル、メチルナフチル基などのC1−6アルキルC6−10アリール基(好ましくはモノ乃至トリC1−4アルキルC6−10アリール基、特にモノ又はジC1−4アルキルフェニル基など);メトキシフェニル、エトキシフェニル、メトキシナフチル基などのC1−10アルコキシC6−10アリール基(好ましくはC1−6アルコキシC6−10アリール基、特にC1−4アルコキシフェニル基など)などが挙げられる。
R1〜R3で表されるシリル基は、前記例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及び/又はアルコキシ基などで置換された置換シリル基であってもよい。
これらの基のうち、水素原子又は炭化水素基、特に、炭化水素基(アルキル基、アリール基など)が好ましい。
前記式(1)〜(4)において、X1〜X4で表されるハロゲン原子には、F、Cl、Br、I原子が含まれる。これらのハロゲン原子のうち、特に、Cl及びBr(特にCl)原子が好ましい。
(1)モノハロシラン
前記式(1)において、基R1〜R3としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基が好ましい。
代表的なモノハロシランとしては、例えば、トリアルキルモノハロシラン(トリメチルクロロシランなどのトリC1−10アルキルモノハロシラン、好ましくはトリC1−6アルキルモノハロシラン、さらに好ましくはトリC1−4アルキルモノハロシランなど)、ジアルキルモノアリールモノハロシラン(ジメチルフェニルクロロシランなどのジC1−10アルキルモノC6−12アリールモノハロシラン、好ましくはジC1−6アルキルモノC6−10アリールモノハロシラン、さらに好ましくはジC1−4アルキルモノC6−8アリールモノハロシランなど)、モノアルキルジアリールモノハロシラン(メチルジフェニルクロロシランなどのモノC1−10アルキルジC6−12アリールモノハロシラン、好ましくはモノC1−6アルキルジC6−10アリールモノハロシラン、さらに好ましくはモノC1−4アルキルジC6−8アリールモノハロシランなど)、トリアリールモノハロシラン(トリフェニルクロロシランなどのトリC6−12アリールモノハロシラン、好ましくはトリC6−10アリールモノハロシラン、さらに好ましくはトリC6−8アリールモノハロシランなど)などが例示できる。モノハロシランは、単独で又は二種以上組合せて使用できる。
(2)ジハロシラン
前記式(2)において、基R1及びR2としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基が好ましい。
代表的なジハロシランとしては、例えば、ジアルキルジハロシラン(ジメチルジクロロシランなどのジC1−10アルキルジハロシラン、好ましくはジC1−6アルキルジハロシラン、さらに好ましくはジC1−4アルキルジハロシランなど)、モノアルキルモノアリールジハロシラン(メチルフェニルジクロロシランなどのモノC1−10アルキルモノC6−12アリールジハロシラン、好ましくはモノC1−6アルキルモノC6−10アリールジハロシラン、さらに好ましくはモノC1−4アルキルモノC6−8アリールジハロシランなど)、ジアリールジハロシラン(ジフェニルジクロロシランなどのジC6−12アリールジハロシラン、好ましくはジC6−10アリールジハロシラン、さらに好ましくはジC6−8アリールジハロシランなど)などが挙げられる。好ましいジハロシランには、ジアルキルジハロシラン、モノアルキルモノアリールジハロシラン、ジアリールジハロシランなどが含まれる。ジハロシランは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(3)トリハロシラン
前記式(3)において、R1としては、アルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、アラルキル基などの炭化水素基が好ましく、特にアルキル基、アリール基が好ましい。
代表的なトリハロシランとしては、アルキルトリハロシラン(メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、t−ブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシランなどのC1−10アルキルトリハロシラン、好ましくはC1−6アルキルトリハロシラン、さらに好ましくはC1−4アルキルトリハロシランなど)、モノシクロアルキルトリハロシラン(シクロヘキシルトリハロシランなどのモノC6−10シクロアルキルトリハロシランなど)、アリールトリハロシラン(フェニルトリクロロシラン、トリルトリクロロシラン、キシリルトリクロロシランなどのC6−12アリールトリハロシラン、好ましくはC6−10アリールトリハロシラン、さらに好ましくはC6−8アリールトリハロシランなど)などが例示できる。好ましいトリハロシランには、アルキルトリハロシラン、アリールトリハロシランなどが含まれる。トリハロシランは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
なお、メチルトリハロシランは、ケイ素割合が高く、ポリシラン中のケイ素含量を高める点で有利なハロシランであるものの、通常、単独では重合が困難である場合が多い。また、メチルトリハロシランの単独重合体(ポリメチルトリクロロシラン)は、多くの溶媒(特に、ほとんどの有機溶媒)に対する溶解性に劣り、溶媒を含むコーティング材料や、他材料と配合することが実質的に困難である。しかし、メチルトリハロシランと、その他のハロシランを併用すると、ポリシランをメチルトリハロシラン共重合体として得ることができる。なお、ポリシラン中のケイ素含量を高めるという観点からは、メチルトリハロシラン以外のハロシランの中でも、アルキルトリハロシラン、特に、炭素数の少ないアルキルトリハロシラン(例えば、C2−10アルキルトリハロシラン、好ましくはC2−6アルキルトリハロシラン、さらに好ましくはC2−4アルキルトリハロシラン、特にエチルトリハロシラン)が好ましい。
(4)テトラハロシラン
テトラハロシランの具体例としては、例えば、テトラクロロシラン、ジブロモジクロロシラン、テトラブロモシランなどが挙げられる。テトラハロシランは単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、通常、テトラハロシランは、モノ乃至トリハロシランと組み合わせて使用する。
これらのハロシランは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
前記のように、ハロシランは、トリハロシランを少なくとも含む。トリハロシランは、他のハロシラン(ジハロシラン、テトラハロシランなど)と組み合わせてもよい。
(ポリシラン)
上記のようなハロシランの重合(縮合反応)により、ハロシランに対応したポリシランが生成する。具体的には、(i)前記式(1)で表されるハロシランを用いると、下記式(1a)で表される単位(又はユニット、すなわち、モノハロシラン単位)、(ii)前記式(2)で表されるハロシランを用いると、下記式(2a)で表される単位(ジハロシラン単位)、(iii)前記式(3)で表されるハロシランを用いると、下記式(3a)で表される単位(トリハロシラン単位)、(iv)前記式(4)で表されるハロシランを用いると、下記式(4a)で表される単位(テトラハロシラン単位)を有するポリシランが得られる。
(式中、R1〜R3は前記と同じ。)
そして、本発明のポリシランは、少なくともトリハロシランを含むハロシランの重合により得られるので、トリハロシラン単位(上記式(3a)で表される単位)を少なくとも有するポリシランである。
ポリシランにおいて、好ましいトリハロシラン単位(又はトリハロシラン由来の単位)としては、アルキルトリハロシラン単位(又はアルキルシラン単位)、アリールトリハロシラン単位(又はアリールシラン単位)などが挙げられる。
ポリシランにおいて、代表的なハロシラン単位(又はその組み合わせ)としては、(a)アルキルトリハロシラン単位(又はアルキルトリハロシラン単位単独、例えば、メチルトリハロシラン単位とC2−10アルキルトリハロシラン単位との組み合わせ、C2−10アルキルトリハロシラン単位など)、(b)アリールトリハロシラン単位(又はアリールトリハロシラン単位単独)、(c)アリールトリハロシラン単位とジハロシラン単位(例えば、モノアルキルモノアリールジハロシラン単位など)との組み合わせなどが挙げられる。
具体的なネットワーク状ポリシランとしては、ポリアルキルトリハロシラン[例えば、メチルトリクロロシラン−エチルトリクロロシラン共重合体(又はメチルシラン−エチルシラン共重合体(構造基礎名)、以下同じ。)、ポリエチルトリクロロシランなどのポリC1−10アルキルトリハロシラン、好ましくはポリC1−6アルキルトリハロシラン、さらに好ましくはポリC1−4アルキルトリハロシラン]、ポリアリールトリハロシラン(例えば、ポリフェニルトリクロロシランなどのポリC6−12アリールトリハロシラン、好ましくはポリC6−10アリールトリハロシラン、さらに好ましくはポリC6−8アリールトリハロシラン)、アリールトリハロシラン−アルキルトリハロシラン共重合体(例えば、メチルトリクロロシラン−フェニルトリクロロシラン共重合体などのC1−10アルキルトリハロシラン−C6−12アリールトリハロシラン共重合体、好ましくはC1−6アルキルトリハロシラン−C6−10アリールトリハロシラン共重合体、さらに好ましくはC1−4アルキルトリハロシラン−C6−8アリールトリハロシラン共重合体)などのポリトリハロシラン;アリールトリハロシラン−アルキルアリールジハロシラン共重合体(例えば、フェニルトリクロロシラン−メチルフェニルジクロロシラン共重合体などのC6−12アリールトリハロシラン−C1−10アルキルC6−12アリールジハロシラン、好ましくはC6−10アリールトリハロシラン−C1−6アルキルC6−10アリールジハロシラン、さらに好ましくはC6−8アリールトリハロシラン−C1−4アルキルC6−8アリールジハロシラン)などのトリハロシラン−ジハロシラン共重合体などが挙げられる。
なお、ポリアルキルトリハロシランが、メチルトリハロシラン単位を含む場合、通常、ポリアルキルトリハロシランは、メチルトリハロシランと炭素数2以上のアルキルトリハロシランとの共重合体[例えば、ポリ(メチルトリハロシラン−C2−10アルキルトリハロシラン)(メチルトリハロシラン−C2−10アルキルシラン共重合体)、好ましくはメチルトリハロシラン−C2−6アルキルシラン共重合体、さらに好ましくはメチルトリハロシラン−C2−4アルキルシラン共重合体]であってもよい。
ネットワーク状ポリシランにおいて、トリハロシラン単位の割合は、ハロシラン単位全体の30モル%以上(例えば、40モル%以上)、好ましくは50モル%以上(例えば、60モル%以上)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、75モル%以上)、特に80モル%以上であってもよい。
また、ジハロシラン単位とトリハロシラン単位とを組み合わせる場合、これらの割合は、前者/後者(モル比)=99/1〜1/99、好ましくは90/10〜2/98(例えば、85/15〜2/98)、さらに好ましくは80/20〜3/97(例えば、70/30〜4/96)、特に60/40〜5/95(例えば、50/50〜7/93)であってもよく、通常50/50〜5/95(例えば、45/55〜7/93、好ましくは40/60〜10/90、さらに好ましくは30/70〜88/12)であってもよい。
さらに、メチルトリハロシラン単位と他のハロシラン単位(例えば、C2−10アルキルトリハロシラン単位などのメチルトリハロシラン単位以外のトリハロシラン単位)とを併用する場合、これらの割合(使用割合)は、前者/後者(モル比)=1/99〜95/5、好ましくは2/98〜90/10(例えば、2/98〜80/20)、さらに好ましくは3/97〜70/30(例えば、3/97〜60/40)、特に4/96〜55/45(例えば、5/95〜55/45)であってもよく、通常1/99〜55/45[例えば、3/97〜50/50、好ましくは5/95〜45/55、さらに好ましくは7/93〜40/60(例えば、8/92〜37/63)、特に8/92〜35/65]であってもよい。
ネットワーク状ポリシランの平均重合度は、2〜200、好ましくは3〜150、さらに好ましくは5〜120、特に7〜100(例えば、8〜80)程度であってもよい。
また、ネットワーク状ポリシランの重量平均分子量は、例えば、300〜20000、好ましくは400〜10000、さらに好ましくは500〜7000、特に700〜5000程度であってもよい。
さらに、ネットワーク状のポリシランの分子量分布[重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mn]は、例えば、1.05〜20、好ましくは1.1〜15、さらに好ましくは1.15〜10(例えば、1.2〜8)程度であってもよい。
ネットワーク状のポリシランは、ハロシラン(トリハロシランなど)由来のハロゲン原子(ハロシリル基)として多くの重合末端を有するとともに、このように比較的重合度や分子量が小さい。そのため、ポリマー全体に示す重合末端の割合が大きいためか、重合末端同士の反応(縮合反応)が生じやすく、不安定なポリマーである。本発明では、このようなネットワーク状ポリシランの重合末端を封鎖(又は不活性な末端に置換)することにより安定化する。
ネットワーク状ポリシラン(封鎖されていないポリシラン)の末端基(又は重合末端基、通常、重合末端のハロゲン原子又はシラノール基)濃度は、ポリシランのケイ素原子1モルあたり、0.01〜2モル(例えば、0.03〜1.3モル)、好ましくは0.05〜1.2モル、さらに好ましくは0.1〜1.1モル程度であってもよく、通常0.2〜1.5モル(例えば、0.3〜1.3モル、好ましくは0.4〜1.2モル)程度であってもよい。なお、末端基濃度(末端基の定量)は、慣用の分析方法、例えば、蛍光X線分析(WDX蛍光X線分析)、NMRなどにより測定できる。
なお、ポリシランの重合末端は、重合後においては、通常、ハロゲン原子であるが、このようなハロゲン原子は、容易にヒドロキシル基(シラノール基)に加水分解される。そのため、重合末端としてハロゲン原子を有するポリシランは、末端封鎖されることなく、放置されると、空気中の水分などにより容易に反応性末端であるシラノール基を有するポリシランに変換されるようである。そのため、本発明では、後述するように、このような重合末端のハロゲン原子が、シラノール基に変換される前に、封鎖(例えば、後述のグリニャール反応により有機基に置換)するのが好ましい。
重合末端を封鎖する封鎖基(重合末端を置換する置換基)としては、重合末端としてのハロゲン原子又はシラノール基を封鎖(置換)し、加水分解縮合性が低い基(すなわち、非加水分解縮合性基)であれば特に限定されず、アシル基(アセチル基など)、フッ素原子などであってもよいが、シリル基(有機シリル基)、炭化水素基であるのが好ましく、特に、炭化水素基であるのが好ましい。
シリル基としては、例えば、トリアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリC1−10アルキルシリル基、好ましくはトリC1−4アルキルシリル基、さらに好ましくはトリC1−2アルキルシリル基)、トリアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリル基などのトリC6−10アリールシリル基など)、ジアルキルアリールシリル基(ジメチルフェニルシリル基などのジC1−4アルキル−C6−10アリールシリル基など)、アルキルジアリールシリル基(メチルジフェニルシリル基などのC1−4アルキル−ジC6−10アリールシリル基など)などの3つの炭化水素基が置換したシリル基などが挙げられる。
炭化水素基としては、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基、特にC1−4アルキル基など)など]、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−8シクロアルキル基、特にC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基[例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−6アルキル基(C6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]などが挙げられる。特に、封鎖基(非加水分解縮合性基)は、アルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基)であるのが好ましい。
これらの封鎖基(又は置換基)は、単独で又は2種以上組み合わせてポリシランの重合末端を封鎖してもよい。
末端が封鎖されたポリシラン(安定化されたポリシラン)において、末端封鎖率(末端全体に対する封鎖割合)は、特に限定されず、例えば、10%以上(例えば、15〜100%)、好ましくは20%以上(例えば、25〜99%)、さらに好ましくは30%以上(例えば、35〜95%)程度であってもよく、40%以上(例えば、50〜95%、好ましくは55〜90%、さらに好ましくは60〜85%程度)であってもよい。このような範囲で末端封鎖すると、ポリシランを効率よく安定化できる。
なお、ポリシランの重合末端は、少なくとも一部(すなわち、一部又は全部)を封鎖すればよく、安定化しつつ、ポリシランの反応性(例えば、エポキシ樹脂との反応性など)を担保するためには、一部の末端を封鎖することなく残存させておいてもよい。このようなポリシランの末端封鎖率(重合末端の封鎖率)は、例えば、10〜99%(例えば、20〜95%)、好ましくは25〜90%(例えば、30〜85%)、さらに好ましくは35〜80%程度であってもよい。なお、末端封鎖率は、例えば、蛍光X線分析(WDX蛍光X線分析)、NMRなどにより、末端封鎖前後のポリシランの末端基量を測定することにより算出することができる。
また、末端封鎖後のポリシラン(安定化されたポリシラン)において、封鎖されていない重合末端基[例えば、ハロゲン原子(ハロシリル基)、ヒドロキシル基(シラノール基)]の割合(濃度)は、ポリシランのケイ素原子1モルあたり、0.001〜1モル(例えば、0.005〜0.8モル)程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜1モル(例えば、0.03〜0.9モル)、好ましくは0.05〜0.8モル、さらに好ましくは0.1〜0.75モル程度であってもよく、通常0.15〜0.8モル(例えば0.2〜0.7モル)程度であってもよい。なお、末端基濃度(末端基の定量)は、慣用の分析方法、例えば、蛍光X線分析(WDX蛍光X線分析)、NMRなどにより測定できる。
なお、末端封鎖率又は未封鎖末端基の量は、末端封鎖剤の量や封鎖に要する反応時間などを調整することなどにより調整できる。
なお、ポリシランのケイ素含量は、例えば、10〜70重量%、好ましくは15〜60重量%、さらに好ましくは20〜60重量%程度であってもよい。
[ポリシランの製造方法]
ネットワーク状ポリシランの製造方法は、ハロシランを用いてポリシランを製造できる方法であれば特に限定されないが、通常、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を重合(脱ハロゲン縮重合)させる方法(マグネシウム還元法)を好適に利用できる。
代表的には、本発明では、非プロトン性溶媒中で、少なくとも金属マグネシウム成分の存在下、ハロシランを反応させて(又は重合して)ポリシランを製造してもよい。
ハロシランとしては、前記例示のハロシランを使用できる。なお、ハロシランは、高純度であるのが好ましく、例えば、使用前に蒸留して使用してもよい。
なお、原料混合物(反応液)中のハロシランの濃度(基質濃度)は、例えば、0.05〜20mol/l程度、好ましくは0.1〜15mol/l程度、さらに好ましくは0.2〜5mol/l程度であってもよい。
(金属マグネシウム成分)
金属マグネシウム成分(マグネシウム成分)は、活性な金属マグネシウム(すなわち、マグネシウムイオンなどではないマグネシウム)の形態でマグネシウムを含む成分であればよく、金属マグネシウム(マグネシウム単体)、マグネシウム合金、これらの混合物などであってもよい。マグネシウム合金の種類は特に制限されず、慣用のマグネシウム合金、例えば、アルミニウム、亜鉛、希土類元素(スカンジウム、イットリウムなど)などの成分を含むマグネシウム合金が例示できる。これらの金属マグネシウム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
マグネシウム成分の形状は、ハロシランの反応を損なわない限り特に限定されないが、粉粒状(粉体、粒状体など)、リボン状体、切削片状体、塊状体、棒状体、板状体(平板状など)などが例示され、特に、粉体、粒状体、リボン状体、切削片状体などであるのが好ましい。マグネシウム金属成分(例えば、粉粒状のマグネシウム金属成分)の平均粒径は、例えば、1〜10000μm、好ましくは10〜7000μm、さらに好ましくは15〜5000μm(例えば、20〜3000μm)であってもよい。
なお、マグネシウム金属成分の保存状況などによっては、金属表面に被膜(酸化被膜など)が形成されることがある。この被膜は反応に悪影響を及ぼすことがあるので、必要に応じて、切削や溶出(塩酸洗浄などの酸洗)などの適当な方法によって除去してもよい。
なお、金属マグネシウム成分は、特開2002−226586号公報に記載の方法などにより、活性金属マグネシウム成分として重合に使用してもよい。
金属マグネシウム成分の使用量は、ハロシラン(複数のハロシランを用いる場合には、ハロシランの総量、以下同じ。)のハロゲン原子に対して、マグネシウム換算で、例えば、0.3〜30当量、好ましくは0.5〜20当量、さらに好ましくは1〜15当量程度であってもよく、通常1〜20当量(例えば、1.2〜15当量、好ましくは1.5〜10当量)程度であってもよい。
また、金属マグネシウム成分の使用量は、ハロシラン100重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは3〜300重量部、さらに好ましくは5〜200重量部、特に10〜100重量部程度であってもよい。
なお、金属マグネシウム成分は、ハロシランを還元して、ポリシランを形成させるとともに、マグネシウム自身は酸化されてハロゲン化物を形成する。そして、ハロシランの還元に供されない未反応の金属マグネシウム成分は、反応混合物に含まれる。このようなマグネシウム成分は、後述のようにグリニャール試薬に変換(さらには、重合末端の封鎖に利用)してもよい。
反応は、少なくとも金属マグネシウム成分の存在下で行えばよいが、ハロシランの重合を促進するため、リチウム化合物及び金属ハロゲン化物から選択された少なくとも一種(促進剤又は触媒)の共存下で行ってもよい。
(リチウム化合物)
リチウム化合物としては、ハロゲン化リチウム(塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなど)、無機酸塩(硝酸リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、塩酸リチウム、硫酸リチウム、過塩素酸リチウム、リン酸リチウムなど)などが使用できる。これらのリチウム化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいリチウム化合物は、ハロゲン化リチウム(特に塩化リチウム)である。
リチウム化合物の割合は、ハロシラン100重量部に対して、例えば、0.1〜200重量部、好ましくは1〜150重量部、さらに好ましくは5〜100重量部(例えば、5〜75重量部)程度であり、通常、10〜80重量部程度である。
なお、溶媒(反応液)中のリチウム化合物の濃度は、通常、0.05〜5モル/L、好ましくは0.1〜4モル/L、特に0.15〜3モル/L程度であってもよい。
(金属ハロゲン化物)
金属ハロゲン化物(リチウムハロゲン化物を除く金属ハロゲン化物)としては、多価金属ハロゲン化物、例えば、遷移金属(例えば、サマリウムなどの周期表3A族元素、チタンなどの周期表4A族元素、バナジウムなどの周期表5A族元素、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウムなどの周期表8族元素、銅などの周期表1B族元素、亜鉛などの周期表2B族元素など)、周期表3B族金属(アルミニウムなど)、周期表4B族金属(スズなど)などの金属のハロゲン化物(塩化物、臭化物又はヨウ化物など)が挙げられる。金属ハロゲン化物を構成する前記金属の価数は、特に制限されないが、好ましくは2〜4価、特に2又は3価である。これらの金属ハロゲン化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
金属ハロゲン化物としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、スズ、ニッケル、コバルト、バナジウム、チタン、パラジウム、サマリウムなどから選択された少なくとも一種の金属の塩化物又は臭化物が好ましい。
このような金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化物(FeCl2、FeCl3などの塩化鉄;AlCl3、ZnCl2、SnCl2、CoCl2、VCl2、TiCl4、PdCl2、SmCl2など)、臭化物(FeBr2、FeBr3などの臭化鉄など)、ヨウ化物(SmI2など)などが例示できる。これらの金属ハロゲン化物のうち、塩化物(例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)などの塩化鉄、塩化亜鉛など)及び臭化物が好ましい。通常、塩化鉄及び/又は塩化亜鉛、特に塩化亜鉛などが使用される。
金属ハロゲン化物の割合は、ハロシラン100重量部に対して、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは2〜20重量部程度であってもよい。
また、溶媒(反応液)中の金属ハロゲン化物の濃度は、通常、0.001〜6モル/L程度であり、好ましくは0.005〜4モル/L、さらに好ましくは0.01〜3モル/L程度であってもよい。
(非プロトン性溶媒)
溶媒(反応溶媒)としての非プロトン性溶媒には、例えば、エーテル類(1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテルなどの環状又は鎖状C4−6エーテル)、カーボネート類(プロピレンカーボネートなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、シクロオクタンなどの鎖状又は環状炭化水素類)などが含まれる。
これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて混合溶媒として使用できる。これらの溶媒のうち、少なくとも極性溶媒[例えば、エーテル類[例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,4−ジオキサンなど(特に、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)]を使用するのが好ましい。極性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよく、極性溶媒と非極性溶媒とを組み合わせてもよい。
なお、ハロシランは、水と速やかに反応するため、使用する原料(すなわち、金属マグネシウム成分、リチウム化合物、金属ハロゲン化物、非プロトン性溶媒など)は、予め乾燥して使用するのが好ましい。
反応温度は、通常、−20℃から使用する溶媒の沸点までの温度範囲内である場合が多く、例えば、0〜150℃、好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは10〜80℃程度であってもよい。
また、反応時間は、ハロシランの種類、金属ハロゲン化物及びマグネシウム金属成分の量などにより異なるが、通常、5分以上であってもよく、例えば、30分〜100時間、好ましくは1〜80時間、さらに好ましくは2〜60時間程度であってもよい。
以上のようにして、生成したポリシランを含む反応混合物が得られる。そして、このような重合後の反応混合物には、生成したポリシランの他に、未反応の金属マグネシウム成分(又は残存する金属マグネシウム成分)が含まれる。なお、残存する金属マグネシウム成分の割合は、反応において使用した(仕込んだ)金属マグネシウム成分に対して、90重量%以下(例えば、0.5〜85重量%)、好ましくは80重量%以下(例えば、1〜75重量%)、さらに好ましくは70重量%以下(例えば、2〜65重量%)、特に60重量%以下(例えば、3〜55重量%)であってもよい。
本発明では、後述するように、このような反応混合物中に含まれる(又は残存する)金属マグネシウム成分をグリニャール試薬に変換し、ポリシランの重合末端の封鎖に利用してもよい。具体的には、反応混合物に、金属マグネシウム成分と反応してグリニャール試薬を生成する化合物(すなわち、有機ハロゲン化物)を混合することにより、金属マグネシウム成分と有機ハロゲン化物とを反応させて、グリニャール試薬を生成させ、ポリシランの重合末端を封鎖してもよい。
(重合末端の封鎖方法)
重合末端の封鎖は、市販のポリシランや、重合反応後の反応混合物から分離した後のポリシランに対して行ってもよいが、前記のように、重合末端が多いネットワーク状ポリシランは空気中の水分などにより自己縮合して、ポリシランの物性低下(例えば、自己縮合によるシロキサン結合(−Si−O−Si−)の導入によるポリシラン特性の低下)を生じやすい。そのため、重合反応後、引き続き、封鎖を行うのが好ましい。
重合末端の封鎖方法としては、ポリシランと、重合末端であるハロゲン原子やシラノール基と反応可能な封鎖剤とを反応させる方法が挙げられる。封鎖剤としては、前記例示の封鎖基の種類に応じて、適宜選択でき、モノハロシラン(例えば、トリメチルクロロシラン、ブチルジメチルクロロシランなどの前記例示のモノハロシラン)、シリルトリフラート、シラン(例えば、トリメチルシランなどのトリアルキルシランなど)、グリニャール試薬などが挙げられる。例えば、モノハロシランを封鎖剤として利用し、重合末端と反応させると、前記ポリシランの製造方法と同様に、脱ハロゲン反応が生じ、重合末端がモノハロシラン由来の基(例えば、トリアルキルシリル基など)で封鎖されたポリシランが得られる。
特に、本発明では、封鎖剤としてグリニャール試薬を利用して重合末端を封鎖してもよい。なお、グリニャール試薬は、マグネシウム(金属マグネシウム)と有機ハロゲン化物とを反応させることにより生成させることができる。
有機ハロゲン化物(ハロゲン原子を有する有機化合物)において、ハロゲン原子としては、通常、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、臭素原子およびヨウ素原子が好ましい。有機ハロゲン化物は、1つのハロゲン原子を有していてもよく、複数のハロゲン原子を有していてもよい。複数のハロゲン原子は、同一又は異なるハロゲン原子であってもよい。
代表的な有機ハロゲン化物としては、例えば、ハロアルカン(例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、臭化エチル、ヨウ化エチルなどのハロC1−10アルカン、好ましくはハロC1−6アルカン、さらに好ましくはハロC1−4アルカン)、ハロアレーン(例えば、ブロモベンゼンなどのハロC6−10アレーン)などのハロゲン化炭化水素が挙げられる。有機ハロゲン化物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
好ましい有機ハロゲン化物は、ハロアルカン(例えば、ブロモアルカン、ヨードアルカン)であり、特にハロ低級アルカン(例えば、ヨウ化メチルなどのハロC1−4アルカン、好ましくはハロC1−2アルカン、さらに好ましくはハロメタン)が好ましい。グリニャール反応により有機ハロゲン化物の有機基がポリシランの重合末端に封鎖基として導入(又は有機基によりポリシランの重合末端が置換)されるが、ハロアルカンは反応性が高い上に、特に、ハロ低級アルカンの有機基は低級アルキル基であるため、ポリシランのケイ素含量の低下を抑制できるという点でも好適である。
なお、マグネシウムと有機ハロゲン化物との反応により、有機ハロゲン化物の構造式をRX(式中、Xはハロゲン原子、Rは有機基を示す。)とすると、構造式RMgX(式中、XおよびRは前記と同じ)で表されるグリニャール試薬が生成する。
そして、このようなグリニャール試薬は、ネットワーク状ポリシラン(特に、反応混合物中に含まれる生成したポリシラン)の重合末端(ハロゲン原子など)と反応(グリニャール反応)し、ポリシランの重合末端のハロゲン原子を有機ハロゲン化物由来の有機基(例えば、アルキル基などの封鎖基として前記例示の炭化水素基)に置換する形態でポリシランの末端を封鎖する。
具体的には、グリニャール試薬RMgXと、重合末端としてハロゲン原子を有するポリシランとの間で、以下の反応が生じる。
(式中、X,Rは前記と同じ。)
例えば、有機ハロゲン化物としてハロゲン化炭化水素(例えば、ハロアルカン)を使用する場合には、ポリシランの重合末端のハロゲン原子が炭化水素基(例えば、アルキル基)に置換される。
なお、グリニャール試薬は、前記のように、反応混合物中のポリシランと反応させるのが好ましい。そのため、グリニャール試薬は、反応混合物に混合してポリシラン(ポリシランの重合末端)と反応させてもよい。グリニャール試薬は、別途生成させて反応混合物に混合してもよいが、少なくとも反応混合物中に残存する金属マグネシウム成分を利用して生成させてもよい。詳細には、残存する金属マグネシウム成分からグリニャール試薬を生成させるとともに、生成したグリニャール試薬と、重合末端としてハロゲン原子を有するポリシランとを反応させて、重合末端が封鎖(詳細には、重合末端としてのハロゲン原子が有機ハロゲン化物由来の有機基に置換)されたポリシランを製造することもできる。
反応混合物中には、未反応の金属マグネシウム成分が残存している場合が多く、このような金属マグネシウム成分は、通常、後の工程で分離されるが、分離には、濾過などの工程が必要となるばかりか、水との反応により水素ガスの発生を伴って、固体状の水酸化マグネシウムが生成し、ポリシランの精製を煩雑にする。そのため、このようなマグネシウム成分をグリニャール試薬のマグネシウム源として利用すると、重合末端封鎖に利用できるだけでなく、ポリシランの精製工程(製造プロセス)を簡略化できる。
有機ハロゲン化物の使用量は、ポリシランの重合末端基濃度などに応じて、適宜選択でき、例えば、有機ハロゲン化物の使用割合(反応混合物に対する混合割合)は、反応混合物中のマグネシウム成分1モルに対して、1モル以上(例えば、1.01〜10モル)、好ましくは1.05〜8モル、さらに好ましくは1.1〜5モル程度であってもよい。
なお、ポリシランの末端を封鎖するために残存する金属マグネシウム成分をグリニャール試薬化する場合、必要に応じて(例えば、残存する金属マグネシウム成分由来のグリニャール試薬では十分にポリシランの末端が封鎖できない場合など)、反応混合物に、さらに金属マグネシウム成分を混合してもよい。また、残存する金属マグネシウム成分の全てをグリニャール試薬化する必要はない。例えば、前記のように、ポリシランの重合末端の一部を残存させる場合には、反応混合物中の残存マグネシウム成分の量に応じて、適宜、生成させるグリニャール試薬の量を調整してもよい。
グリニャール試薬の生成反応やグリニャール反応において、反応温度および反応時間などの反応条件は、適宜選択できる。なお、グリニャール試薬は水と容易に反応して分解するため、グリニャール反応は、ハロシランの重合反応と同様、反応は水が侵入しない条件下で行うのが好ましい。また、残存する金属マグネシウム成分を利用する場合、グリニャール試薬の生成反応とグリニャール反応(グリニャール試薬とポリシランとの反応)とは、同一の反応系で生じるが、必要に応じて、反応条件を段階的に変えつつ反応を行ってもよい。
なお、生成したポリシラン(末端封鎖されたポリシラン)は、グリニャール試薬の生成反応後(およびグリニャール反応後)の反応混合物から慣用の方法を用いて容易に分離精製できる。
特に、本発明では、反応混合物(グリニャール試薬を生成後の反応混合物)に少なくとも水を混合することにより、グリニャール試薬をマグネシウム塩に変換して反応混合物から分離してもよい。換言すれば、グリニャール試薬を生成した後の反応混合物に、少なくとも水を混合し、グリニャール試薬から生成したマグネシウム塩を水に溶解させて分離してもよい。
すなわち、金属マグネシウム成分は、水と反応するものの、その進行は遅く、しかも水素ガスを発生するが、グリニャール試薬は、水により容易に加水分解して、ハロゲン化マグネシウム(例えば、ヨウ化マグネシウム、塩化マグネシウムなど)などのマグネシウム塩を生成する。また、グリニャール試薬がポリシランの重合末端(ハロゲン原子)と反応した場合にも、同様のマグネシウム塩が生成する。そして、このようなマグネシウム塩は、通常、水溶性であり、ポリシランは疎水性である場合が多い。そのため、グリニャール試薬の加水分解反応やグリニャール試薬とポリシラン(ポリシランの重合末端)とのグリニャール反応により副生したマグネシウム塩を、水に溶解させることにより、容易にポリシランを含む混合物から分離することができる。
なお、グリニャール試薬は、前記のように、ポリシランとのグリニャール反応に供される場合には、マグネシウム塩の形態に分解されているが、このようなグリニャール反応が生じる場合においても、未反応のグリニャール試薬が残存している場合には、未反応のグリニャール試薬を水により加水分解してもよい。
水の混合量は、残存するグリニャール試薬の量などに応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、反応混合物1重量部に対して、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部(例えば、1.5〜20重量部)程度であってもよい。なお、効率よくグリニャール試薬を加水分解するため、必要に応じて、酸(例えば、塩化水素などの無機酸)と水との混合液(例えば、酸の水溶液)として水を混合してもよい。
また、水とともに、ポリシランを溶解可能な有機溶媒を混合してもよい。有機溶媒としては、特に制限されず、例えば、炭化水素類[例えば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、シクロオクタンなどの鎖状又は環状炭化水素類)など]、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなどのC3−6ジアルキルケトン、シクロヘキサノンなどのシクロアルカノンなど)、エステル類(ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのカルボン酸C1−4アルキルエステル;エトキシエチルプロピオネートなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類など)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのC1−4アルキルセロソルブ類など)、カルビトール類(メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトールなどのC1−4アルキルカルビトール類など)、グリコールエーテルエステル類(セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)などが挙げられる。有機溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
特に、少なくとも疎水性有機溶媒を混合すると、マグネシウム塩を含む水相と、ポリシランを含む有機相(疎水性有機溶媒相)とに効率よく分離(相分離)させることができる。そして、このような相分離により、容易にポリシランを溶媒抽出(液−液抽出)により分離精製できる。疎水性溶媒としては、炭化水素類[例えば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、シクロオクタンなどの鎖状又は環状炭化水素類)など]、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル)などが挙げられる。なお、反応溶媒が、疎水性溶媒である場合には、必ずしも疎水性有機溶媒を添加する必要はなく、反応溶媒を疎水性有機溶媒として利用してもよく、反応溶媒に加えて疎水性有機溶媒を混合してもよい。
有機溶媒(例えば、疎水性有機溶媒を少なくとも含む有機溶媒)の混合量は、特に限定されず、例えば、水1重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部程度であってもよい。
このようにして得られたポリシランは、さらに、慣用の分離精製手段、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段やこれらを組合せた手段により分離精製してもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例において、ポリシランの分子量(重量平均分子量)は、GPC(東ソー製 HLC−8320GPC)を用い、以下の条件で測定した。
流量:1.0ml/min、注入量:100μL、温度:40℃、溶媒:1級テトラヒドロフラン、検出器:RI(示差屈折)
(実施例1)
三方コックを装着した内容積1000mlのセパラブルフラスコに粒状(粒径30〜40μm)のマグネシウム21.6重量部(0.90mol)と無水塩化リチウム15.6重量部(0.37mol)、無水塩化亜鉛10.0重量部(0.27mol)を仕込み、乾燥アルゴンガスを反応器内に導入し、脱水グレードのテトラヒドロフラン500mlを加え、室温で約30分間攪拌した。そして、反応器に、さらに、フェニルトリクロロシラン93.5重量部(0.44mol)とメチルフェニルジクロロシラン14.9重量部(0.078mol)の混合物を、20〜35℃を保持しながら滴下漏斗を用いて2時間かけて添加し、その後30〜35℃で約24時間攪拌して反応させた。なお、反応終了後のポリシランの末端基濃度をWDX蛍光X線にて測定したところ、ポリシランのケイ素1モルあたり、0.69モルであった。
反応終了後、マグネシウム10.8重量部(0.44mol)を投入し、反応混合物にヨウ化メチル148.0重量部(1.04mol)を60〜67℃を保持しながら滴下漏斗を用いて2時間かけて添加し、40〜55℃で約24時間攪拌した。
撹拌後の反応混合物にトルエン563.5重量部(6.12mol)、純水165.0重量部を加えた。その後、1Nの塩酸(121.6重量部)を投入して25℃にて0.5時間攪拌し、0.5時間静置の後、下層を廃棄して塩化マグネシウム(グリニャール試薬分解物)を除去した。
さらに、純水200mlによる洗浄を8回繰り返した後に、無水硫酸マグネシウム(関東化学製)40重量部を敷き詰めたろ紙を通して乾燥させた後、65℃、10torrにて20時間乾燥させた結果、50.2重量部の淡黄色粘稠固体(収率90.0%)を得た。得られた化合物の分子量をGPCにて測定した結果、重量平均分子量(Mw)は1,200であり、分子量分布Mw/Mnは1.3であった。NMR分析により、フェニルトリクロロシラン−メチルフェニルジクロロシラン共重合体(前者/後者(モル比)=85/15)が得られていること、およびWDX蛍光X線にて測定したところ、ポリシラン分子中の末端基[塩素原子(又はクロロシリル基)、ヒドロキシル基(シラノール基)など]の77%がメチル基により封鎖(置換)されていることがわかった。
なお、ポリシランにおいて、メチル基により封鎖されていない末端基(塩素原子、シラノール基など)の濃度は、ポリシランのケイ素1モルあたり、0.16モルであった。
そして、得られたポリシランの安定性を以下の方法により確認した。
No2のスクリュー管(マルエム製)3本にそれぞれ得られたポリシランを10重量部添加し、50℃に設定した乾燥機に入れ、空気雰囲気化にて2、6、24時間加温した。加温後にGPCにより重量平均分子量(Mw)を測定した結果、それぞれ、2時間後のMwが1200、6時間後のMwが1200、24時間後のMwが1200であった。このことから、得られたポリシランは、分子量の変化が見られず、品質上安定したポリシランであることがわかった。
(比較例1)
実施例1において、ヨウ化メチルを使用せず、反応混合物に水を添加して、残存マグネシウムを濾過したものを純水による洗浄に供したこと以外は実施例1と同様にして、50.2重量部(収率90.0%)の淡黄色粘稠固体を得た。なお、水を添加することにより、水とマグネシウムとが反応して、水素および水酸化マグネシウムが生成し、濾過に相当の時間を要した。
得られた化合物の分子量をGPCにて測定した結果、重量平均分子量(Mw)は1,500であり、分子量分布Mw/Mnは1.9のフェニルトリクロロシラン−メチルフェニルジクロロシラン共重合体(前者/後者(モル比)=85/15)が得られていることがわかった。なお、実施例1よりもMwが大きくなっているが、水の添加により生成したシラノール基により、既にややポリシランの縮合が生じてしまったものと考えられる。
また、得られたポリシランの安定性を実施例1と同様にして確認したところ、2時間後のMwが2200、6時間後のMwが2240、24時間後のMwが3000であった。このことから、得られたポリシランは、分子量に変化が見られ、品質上不安定なポリシランであることがわかった。
(実施例2)
三方コックを装着した内容積1000mlのセパラブルフラスコに粒状(粒径30〜40μm)のマグネシウム42.6重量部(1.8mol)と無水塩化リチウム46.8重量部(1.1mol)、無水塩化亜鉛45.0重量部(0.3mol)を仕込み、乾燥アルゴンガスを反応器内に導入し、脱水グレードのテトラヒドロフラン500mlを加え、室温で約30分間攪拌した。そして、反応器に、エチルトリクロロシラン114.8重量部(0.7mol)とメチルトリクロロシラン11.7重量部(0.08mol)との混合物を、35℃以下を保持しながら滴下漏斗を用いて4時間かけて添加し、その後35〜40℃で約24時間攪拌して反応させた。なお、反応終了後のポリシランの末端基濃度をWDX蛍光X線にて測定したところ、ポリシランのケイ素1モルあたり、1.05モルであった。
反応終了後、反応混合物にヨウ化メチル124.4重量部(0.8mol)を60〜67℃を保持しながら滴下漏斗を用いて2時間かけて添加し、60〜67℃で約24時間攪拌した。
撹拌後の反応混合物にトルエン152.0重量部(1.6mol)、純水400重量部を加えた。その後、1Nの塩酸(60.8重量部)を投入し、60〜67℃にて1時間攪拌、0.5時間静置の後、下層を廃棄して塩化マグネシウムを除去した。さらに、純水200mlにより洗浄を15回繰り返した後に、無水硫酸マグネシウム(関東化学製)40重量部を敷き詰めたろ紙を通して乾燥させた後、60℃、10torrにて15時間乾燥させた結果、36.9重量部の淡黄色粘稠固体(収率85.0%)を得た。得られた化合物の分子量をGPCにて測定した結果、重量部平均分子量(Mw)は4200であり、分子量分布Mw/Mnは4.9であった。
NMR分析により、エチルトリクロロシラン−メチルトリクロロシラン共重合体(前者/後者(モル比)=90/10)が得られていること、およびWDX蛍光X線にて測定したところ、ポリシラン分子中の末端基[塩素原子(又はクロロシリル基)、ヒドロキシル基(シラノール基)など]の38%がメチル基により封鎖(置換)されていることがわかった。
なお、ポリシランにおいて、メチル基により封鎖されていない末端基(塩素原子、シラノール基など)の濃度は、ポリシランのケイ素1モルあたり、0.64モルであった。
そして、得られたポリシランの安定性を実施例1と同様にして確認したところ、2時間後のMwが5000、6時間後のMwが5100、24時間後のMwが5500であった。このことから、得られたポリシランは、分子量の変化が抑制され、品質上安定なポリシランであることがわかった。
(比較例2)
実施例2において、ヨウ化メチルを使用せず、反応混合物に水を添加して、残存マグネシウムを濾過したものを純水による洗浄に供したこと以外は実施例2と同様にして、36.9重量部(収率85.0%)の淡黄色粘稠固体を得た。なお、水を添加することにより、水とマグネシウムとが反応して、水素および水酸化マグネシウムが生成し、濾過に相当の時間を要した。
得られた化合物の分子量をGPCにて測定した結果、重量平均分子量(Mw)は6000であり、分子量分布Mw/Mnは3.1のエチルトリクロロシラン−メチルトリクロロシラン共重合体(前者/後者(モル比)=90/10)が得られていることがわかった。なお、実施例2よりもMwが大きくなっているが、水の添加により生成したシラノール基により、既にポリシランの縮合が生じてしまったものと考えられる。
また、得られたポリシランの安定性を実施例1と同様にして確認したところ、2時間後のMwが13600、6時間後のMwが14400、24時間後のMwが16400であった。このことから、得られたポリシランは、分子量に大きな変化が見られ、品質上不安定なポリシランであることがわかった。