JP5594315B2 - 温度測定装置及び温度測定方法 - Google Patents
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Description
熱電対を温度センサとする温度測定装置に入力される熱電対の起電力(以後、「入力起電力Etc」と称する)は、測温接点の温度(以後、「測定対象温度Tx」と称する)に相当する起電力から、冷接点の温度(以後、「冷接点温度Tj」と称する)に相当する起電力を減算した起電力となる。
熱電対を用いて温度を測定する場合、温度測定対象に触れている熱電対からの入力起電力Etcを補償するため、図9に示すように、温度測定装置が、熱電対からの入力起電力Etcと、冷接点の近傍に設置されている冷接点センサ(例えば、測温抵抗体やダイオード等の温度センサ)による冷接点センサ温度Trを熱電対の起電力に変換した補償起電力Etrとを加算し、その加算結果である測定起電力Ttyを温度に換算した値を温度測定対象の測定温度Tyとする方法が一般的である。
通常、室温が安定している環境下(例えば、室温が25℃で安定している環境下)で、冷接点センサによる冷接点センサ温度Trが、冷接点温度Tjと同じになるように調整されている。
周囲温度が変化すると、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trの双方が変化するが、それぞれの温度の周囲温度に対する過渡応答特性が異なるため、温度測定装置の測定温度に過渡的な誤差が含まれる。
周囲温度の変化に伴う測定温度の過渡的な誤差を解消するには、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trが一致すればよいが、物理的に温度を一致させることは難しい。
また、以下の特許文献2には、周囲温度の変化に伴う測定温度の過渡的な誤差を低減するために、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trとの誤差を、周囲温度を入力とする冷接点の一次遅れモデルと、周囲温度を入力とする冷接点センサの一次遅れモデルとの誤差モデルで表し、その誤差モデルを用いて誤差を予測することで、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trとの誤差を補償している温度測定装置が開示されている(段落番号[0011]、図2)。
また、過渡的な温度補償精度を改善するために、特許文献1のように冷接点と冷接点センサを熱的に結合して、温度補償性能の改善を図る方法があるが、この方法では、温度補償の構造が複雑になるため、コスト的な問題があることに加えて、温度補償の過渡的な性能に改善の余地があった。
しかし、この温度測定装置では、周囲温度とは必ずしも一致しない冷接点近傍の冷接点センサ温度Trを測定し、その冷接点センサ温度Trを周囲温度として誤差モデルの計算を行っているため、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trとの誤差を正確に補償することができず、温度の測定精度が劣化してしまう課題があった。
図1において、温度測定対象1は温度測定装置2により温度が測定される対象物であり、温度測定対象1には熱電対3の測温接点が接続され、熱電対3の冷接点4が温度測定装置2に接続されている。
冷接点センサ5は冷接点4の近傍に設置されている温度センサであり、冷接点4の近傍の温度を測定する。
図2において、入力起電力測定部11は測定対象の温度と冷接点温度Tjによって決まる熱電対3の冷接点4における電圧を検出し、その電圧から熱電対3からの入力起電力Etcを測定する処理を実施する。
冷接点センサ温度測定部12は冷接点センサ5により検出された信号から、冷接点4の近傍の冷接点センサ温度Trを測定する処理を実施する。
温度補償部13は温度補償用の特性変換関数G(s)を用いて、冷接点センサ温度測定部12により測定された冷接点センサ温度Trを変換し、変換後の冷接点センサ温度である補償温度Tf(≒冷接点温度Tj)を出力する処理を実施する。
起電力換算部14は例えば熱電対の起電力表を参照して、温度補償部13から出力された補償温度Tfを起電力に換算し、その換算結果である補償起電力Etfを出力する処理を実施する。
この実施の形態では、測定起電力算出部15が補償起電力Etfを入力起電力Etcに加算することで、入力起電力Etcを補償するものを想定しているが、加算する入力起電力Etcの値は必ずしも正の値ではなく、状況によっては(例えば、周囲環境温度が低下する場合)、加算する入力起電力Etcの値が負の値となることもあり得る。
温度換算部16は測定起電力算出部16から出力された測定起電力Etyを温度に換算して、その換算結果である測定温度Tyを出力する処理を実施する。
温度測定装置2がコンピュータで構成されている場合、入力起電力測定部11、冷接点センサ温度測定部12、温度補償部13、起電力換算部14、測定起電力算出部15及び温度換算部16の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
また、図4はこの発明の実施の形態による温度測定装置の処理を伝達関数で示す説明図である。ただし、本発明の動作原理を平易に示すために、測定起電力Etyを測定温度Tyに換算する部分と、補償温度Tfを補償起電力Etfに換算する部分は省略し、温度信号の関係だけを示す簡略化したブロック図としている。
温度測定対象1には熱電対3の測温接点が接続されており、熱電対3の冷接点4が温度測定装置2に接続されている。
熱電対3の冷接点4には、ゼーベック効果によって、温度測定対象1の温度に対応する起電力から、冷接点4の温度に対応する起電力が減算された起電力Etcが発生する。
冷接点センサ温度測定部12は、冷接点センサ5から出力された信号を入力し、その信号から冷接点センサ温度Trを測定する(ステップST2)。
ここで、温度補償用の特性変換関数G(s)は、温度測定を開始する前のオフライン時に算出される。
以下、温度補償用の特性変換関数G(s)の求め方を具体的に説明する。
ただし、測定起電力Etyを測定温度Tyに変換する部分と、補償温度Tfを補償起電力Etfに変換する部分は省略し、温度信号だけに簡略化したブロック図としている。
まず、測定対象温度Tx、入力温度Tc、冷接点温度Tjの関係は、下記の式(1)のようになる。
Tc=Tx−Tj (1)
次に、周囲温度Te、冷接点温度Tj及び伝達関数J(s)の関係は、下記の式(2)のようになる。
Tj=Te×J(s) (2)
同様に、周囲温度Te、冷接点センサ温度Tr及び伝達関数R(s)の関係は、下記の式(3)のようになる。
Tr=Te×R(s) (3)
Tf=Tr×G(s) (4)
また、測定温度Ty、入力温度Tc及び補償温度Tfの関係は、下記の式(5)のようになる。
Ty=Tc+Tf (5)
式(1)〜(5)を整理して、周囲温度Teと冷接点温度Tjの関係を示す伝達関数J(s)と、周囲温度Teと冷接点センサ温度Trの関係を示す伝達関数R(s)によって、測定対象温度Txと測定温度Tyの関係を表すと、下記の式(6)のようになる。
Ty=Tx−Te・J(s)+Te・R(s)・G(s) (6)
G(s)=J(s)/R(s) (7)
以上により、温度補償用の特性変換関数G(s)を式(7)で示す伝達関数にすることにより、測定対象温度Txと測定温度Tyを等しくすることができる。
即ち、予め、周囲温度Teに対する冷接点温度Tjの伝達関数J(s)と、周囲温度Teに対する冷接点センサ温度Trの伝達関数R(s)とを特定して、その伝達関数J(s),R(s)から温度補償用の特性変換関数G(s)を算出し、その特性変換関数G(s)を温度測定装置2の温度補償部13に組み込み、その温度補償部13が式(4)で示す計算処理を実施することで、過渡状態でも誤差が小さい補償温度Tfを得ることができる。
周囲温度Teの変化に伴う冷接点温度Tj及び冷接点センサ温度Trの変化は高次遅れであるが、制御理論で一般的に行われているように、高次遅れをむだ時間+一次遅れで近似することにする。
図8は冷接点温度Tjをむだ時間+一次遅れで近似する方法の一例を示している。
むだ時間+一次遅れの近似では、むだ時間Lと、一次遅れの時定数τと、一次遅れのゲインKを用いて、周囲温度Teに対する冷接点温度Tjの伝達関数J(s)と、周囲温度Teに対する冷接点センサ温度Trの伝達関数R(s)を以下のように近似することができる。
温度測定装置2が、図5のように恒温槽内に設置されている状態で、図7(a)に示すように、温度測定装置2の周囲温度Teをステップ的に変化させる。
この場合、冷接点温度Tjや、熱電対3からの入力温度Tcや、冷接点センサ温度Trは、図7(c)(d)(e)のように変化するので、パソコン等を用いて、その際の熱電対3からの入力温度Tcや冷接点センサ温度Trを記録する。
熱電対3からの入力温度Tcや冷接点センサ温度Trの記録結果から以下に示す方法で、むだ時間L、一次遅れの時定数τ、ゲインKの各定数を求めることができる。
L=t1−t0
また、冷接点温度Tj(または、冷接点センサ温度Tr)の変化が安定したきの温度Tj2と接線TLの交点の時刻をt2とすると、冷接点温度Tj(または、冷接点センサ温度Tr)の時定数τは、時刻t2と時刻t1の差分で表すことができる。
τ=t2−t1
因みに、従来の温度補償処理では、周囲温度Teの変化により発生する過渡的な温度補償誤差が残っている。
即ち、この実施の形態では、温度信号補償用の特性変換関数G(s)を用いて、周囲温度Teが変化している状態でも、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trとの誤差を高精度に補償することが可能な補償温度Tfを冷接点センサ温度Trから算出できるように、周囲温度Teに対する冷接点温度Tjの応答を表す伝達関数J(s)と、周囲温度Teに対する冷接点センサ温度Trの応答を表す伝達関数R(s)から計算されているため、特許文献2に開示されている温度測定装置と異なり、冷接点温度Tjと冷接点センサ温度Trとの誤差を正確に補償することができる。
Claims (6)
- 熱電対からの入力起電力を測定する入力起電力測定部と、
冷接点の近傍に設置されている温度センサの出力信号によって冷接点センサ温度を測定する冷接点センサ温度測定部と、
周囲温度に対する冷接点温度の伝達関数と前記周囲温度に対する冷接点センサ温度の伝達関数とから得られる伝達関数である冷接点センサ温度を冷接点温度に変換する特性変換関数を用いて、前記冷接点センサ温度測定部により測定された冷接点センサ温度を変換し、変換後の冷接点センサ温度である補償温度を出力する温度補償部と、
前記温度補償部から出力された補償温度を電力に換算して、その換算結果である補償起電力を出力する起電力換算部と、
前記起電力換算部から出力された補償起電力を前記入力起電力測定部により測定された入力起電力に加算して、その加算結果である測定起電力を出力する測定起電力算出部と、
前記測定起電力算出部から出力された測定起電力を温度に換算して、その換算結果である測定温度を出力する温度換算部と
を備えた温度測定装置。 - 前記温度補償部は、前記周囲温度に対する前記冷接点温度の伝達関数が、前記周囲温度に対する前記冷接点センサ温度の伝達関数で除算されている特性変換関数を使用して、前記冷接点センサ温度測定部により測定された冷接点センサ温度を前記冷接点温度と略一致する値に変換することで、前記補償温度を算出することを特徴とする請求項1記載の温度測定装置。
- 前記温度補償部は、前記周囲温度の変化に伴う前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度の変化をむだ時間と一次遅れで近似することで、前記周囲温度に対する前記冷接点センサ温度の伝達関数と、前記周囲温度に対する前記冷接点温度の伝達関数とを特定することを特徴とする請求項2記載の温度測定装置。
- 予め、前記周囲温度の変化に伴う前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度の過渡特性が測定されて、前記過渡特性から前記周囲温度の変化に伴う前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度のむだ時間と一次遅れの時定数及びゲインが特定され、前記むだ時間と前記一次遅れの時定数及びゲインから算出される特性変換関数が前記温度補償部に設定されていることを特徴とする請求項2記載の温度測定装置。
- 予め、前記周囲温度の変化に伴う前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度の過渡特性が測定されて、前記過渡特性から前記周囲温度の変化に伴う前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度の一次遅れの時定数と、前記冷接点センサ温度及び前記冷接点温度のむだ時間及び前記一次遅れのゲインとが特定され、前記一次遅れの時定数と前記むだ時間及び前記一次遅れのゲインから算出される特性変換関数が前記温度補償部に設定されていることを特徴とする請求項2記載の温度測定装置。
- 入力起電力測定部が、熱電対からの入力起電力を測定する入力起電力測定処理ステップと、
冷接点センサ温度測定部が、冷接点の近傍に設置されている温度センサの出力信号によって冷接点センサ温度を測定する冷接点センサ温度測定処理ステップと、
温度補償部が、周囲温度に対する冷接点温度の伝達関数と前記周囲温度に対する冷接点センサ温度の伝達関数とから得られる伝達関数である冷接点センサ温度を冷接点温度に変換する特性変換関数を用いて、前記冷接点センサ温度測定処理ステップで測定された冷接点センサ温度を変換し、変換後の冷接点センサ温度である補償温度を出力する温度補償処理ステップと、
起電力換算部が、前記温度補償処理ステップで出力された補償温度を電力に換算して、その換算結果である補償起電力を出力する電力換算処理ステップと、
測定起電力算出部が、前記電力換算処理ステップで出力された補償起電力を前記入力起電力測定処理ステップで測定された入力起電力に加算して、その加算結果である測定起電力を出力する測定起電力算出処理ステップと、
温度換算部が、前記測定起電力算出処理ステップで出力された測定起電力を温度に換算して、その換算結果である測定温度を出力する温度換算処理ステップと
を備えた温度測定方法。
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