JP5591389B2 - 人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体 - Google Patents

人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体 Download PDF

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Description

本発明は、フィラーが複数集合してなる人工土壌粒子、及び当該人工土壌粒子を団粒化した人工土壌団粒体に関する。
近年、生育条件がコントロールされた環境下で野菜等の植物を栽培する植物工場が増加している。従来の植物工場は、レタス等の葉物野菜の水耕栽培が中心であったが、最近では水耕栽培には向かない根菜類についても植物工場での栽培を試みる動きがある。根菜類を植物工場で栽培するためには、土壌としての基本性能に優れ、品質が高く、且つ取り扱いが容易な人工土壌を開発する必要がある。
これまでに開発された人工土壌として、粉状のゼオライトを水溶性高分子からなる結合材で結合して団粒化した団粒構造ゼオライトがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の団粒構造ゼオライトは、保水性が乏しいゼオライトの多孔質構造及び陽イオン交換能を人工土壌として利用するため、ゼオライトを団粒化して保水性を向上させたものである。
また、有機高分子材料をベースとした連続気泡構造を有する多孔質体も開発されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の連続気泡多孔質体は、粉体にした熱可塑性樹脂、バインダー成分、及び界面活性剤の混合物を熱融着させて製造されるものであり、低密度で連続気泡構造を有しているため、良好な液体吸収性を示し易いとされている。同文献には、この連続気泡多孔質体を植物の培地として利用可能であることが記載されている。
特開2000−336356号公報(特に、請求項1を参照) 特開2011−241262号公報(特に、第0050段落〜第0052段落を参照)
人工土壌の開発に当たっては、天然土壌と同等の植物育成力を達成しながら、例えば、栽培対象の植物に対して水分や養分を適切に供給できるコントロール機能が求められる。すなわち、人工土壌には、土壌としての基本性能をバランスよく発揮することが求められる。
この点、特許文献1の団粒構造ゼオライトは、水の存在下で粉末のゼオライトと結合材とを混合して乾燥させただけのものであるため、団粒体中のゼオライトの微視的な構造が有効に作用しているとは言えず、ゼオライトの性能が十分に発揮されているとは限らない。また、団粒体の製造中にゼオライトがダマになり易く、保水性が十分に高まるとは限らない。土壌の基本性能の一つである保水性は保肥性に影響を与えるため、団粒体の保水性を十分に高めることができなければ、保肥性に関係するゼオライトの多孔質構造や陽イオン交換能を人工土壌として有効に利用することも困難となる。
特許文献2の連続気泡多孔質体は、熱可塑性樹脂の発泡体を粉砕して原料の粉体を得ており、この粉体を熱融着することで吸水性を有する多孔質体を構成している。しかしながら、特許文献2で使用される熱可塑性樹脂は、それ自体は保肥性を有していないため、生成した連続気泡多孔質体を人工土壌として利用する場合、土壌としての基本性能をバランスよく発揮できるとは言えない。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、土壌としての基本性能をバランスよく発揮し得る、高品質で取り扱い易い人工土壌、すなわち、人工土壌粒子及びそれを団粒化した人工土壌団粒体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌粒子の特徴構成は、
サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔を有するフィラーが複数集合してなる人工土壌粒子であって、
前記フィラーの間にサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔が形成され、
前記連通孔が外部から水分及び養分を取り込むとともに、前記細孔が前記連通孔から前記養分を受け取り可能なように、前記細孔が前記連通孔の周囲に分散配置されており、
前記細孔に陽イオン及び陰イオン交換能を付与してあることにある。
本構成の人工土壌粒子によれば、フィラーの細孔の孔径がサブnmオーダー乃至サブμmオーダーであるため、当該細孔に植物の品質を向上させるために必要な養分を効果的に取り込むことができる。また、集合したフィラーの間に形成される連通孔の孔径がサブμmオーダー乃至サブmmオーダーであるため、当該連通孔に植物の生育に不可欠な水分を効果的に吸収することができる。しかも、細孔と連通孔との位置関係について、連通孔が外部から水分及び養分を取り込むとともに、細孔が連通孔から養分を受け取り可能なように、細孔が連通孔の周囲に分散配置されているため、主に細孔に保肥性を担わせ、連通孔に保水性を担わせることができる。ここで、細孔に陽イオン及び陰イオン交換能を付与することで、細孔の保肥性がさらに高まる。その結果、長期の使用にも耐え得る人工土壌粒子を実現することができる。
このように、本構成の人工土壌粒子は、一つの粒子内において、細孔と連通孔との間に特定の関係を持たせており、細孔と連通孔とで異なる機能を分担させているため、土壌としての基本性能をバランスよく発揮し得る(すなわち、保水性と保肥性とのバランスに優れた)、高品質で機能的な人工土壌粒子を実現することができる。また、このような人工土壌粒子は、栽培対象の植物に対して水分や養分を適切に供給できるので、メンテナンスに手間が掛からず、取り扱いが容易なものとなる。
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記連通孔の全容積が前記細孔の全容積より大きくなるように、前記フィラーは三次元ネットワーク状に結合されていることが好ましい。
本構成の人工土壌粒子によれば、フィラーを三次元ネットワーク状に結合させているので、人工土壌粒子の構造が安定する。また、結合状態において連通孔の全容積が細孔の全容積より大きくなるようにされているため、人工土壌粒子を軽量化することができ、取り扱いが容易なものとなる。
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記連通孔の少なくとも一部に保水性材料が導入されることが好ましい。
本構成の人工土壌粒子によれば、連通孔の少なくとも一部に保水性材料を導入することで、連通孔の保水性がさらに高まる
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記細孔の孔径が0.2〜800nmであり、前記連通孔の孔径が0.1〜500μmであることが好ましい。
本構成の人工土壌粒子によれば、細孔の孔径が0.2〜800nmであり、連通孔の孔径が0.1〜500μmであるため、細孔に様々な養分を取り込むとともに、連通孔に十分な水分を保持することができる。その結果、長期の使用にも耐え得る人工土壌粒子を実現することができる。
本発明に係る人工土壌粒子において、
0.2〜10mmの粒径を有することが好ましい。
本構成の人工土壌粒子によれば、粒径を0.2〜10mmとすることで、特に根菜類の栽培に適した取り扱いの容易な人工土壌とすることができる。
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌団粒体の特徴構成は、
前記何れか一つに記載の人工土壌粒子を団粒化したことにある。
本構成の人工土壌団粒体によれば、本発明の人工土壌粒子を団粒化しているため、土壌としての基本性能をバランスよく発揮し得る(すなわち、保水性と保肥性とのバランスに優れた)、高品質で機能的な人工土壌団粒体を実現することができる。また、このような人工土壌団粒体は、栽培対象の植物に対して水分や養分を適切に供給できるので、メンテナンスに手間が掛からず、取り扱いが容易なものとなる。
図1は、本発明の人工土壌粒子を概念的に表した説明図である。 図2は、本発明の人工土壌粒子の細孔と連通孔との位置関係を概念的に表したモデル図である。 図3は、本発明の人工土壌団粒体の模式図である。 図4は、水銀圧入法による本発明の人工土壌粒子又は人工土壌団粒体の孔径分布の測定結果を示すグラフである。
以下、本発明に係る人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体に関する実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
<人工土壌粒子の構成>
図1は、本発明の人工土壌粒子10を概念的に表した説明図である。図1(a)は、フィラー1として、多孔質天然鉱物であるゼオライト1aを使用した人工土壌粒子10を例示したものである。図1(b)は、フィラー1として、層状天然鉱物であるハイドロタルサイト1bを使用した人工土壌粒子10を例示したものである。なお、図1中に示す記号x、y及びzは、後述する細孔2、連通孔3及び人工土壌粒子10のサイズを夫々表しているが、図面上でのx、y及びzの大きさは実際のサイズを反映したものではない。
人工土壌粒子10は、複数のフィラー1が集合して粒状に構成されたものである。人工土壌粒子10中の複数のフィラー1は、それらが互いに接触していることは必須ではなく、一粒子内でバインダー等を介して一定範囲内の相対的な位置関係を維持していれば、複数のフィラー1が集合して粒状に構成したものと考えることができる。人工土壌粒子10を構成するフィラー1は、表面から内部にかけて多数の細孔2を有する。細孔2は、種々の形態を含む。例えば、フィラー1が、図1(a)に示すゼオライト1aの場合、当該ゼオライト1aの結晶構造中に存在する空隙2aが細孔2であり、図1(b)に示すハイドロタルサイト1bの場合、当該ハイドロタルサイト1bの層構造中に存在する層間2bが細孔2である。つまり、本発明において「細孔」とは、フィラー1の構造中に存在する空隙部、層間部、空間部等を意図し、これらは「孔状」の形態に限定されるものではない。
フィラー1の細孔2のサイズ(図1に示す空隙2a又は層間2bのサイズxの平均値)は、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーとなる。例えば、細孔2のサイズは、0.2〜800nm程度に設定可能であるが、フィラー1が、図1(a)に示すゼオライト1aの場合、当該ゼオライト1aの結晶構造中に存在する空隙2aのサイズ(径)は、0.3〜1.3nm程度である。フィラー1が、図1(b)に示すハイドロタルサイト1bの場合、当該ハイドロタルサイト1bの層構造中に存在する層間2bのサイズ(距離)は、0.3〜3.0nm程度である。この他に、フィラー1として、後述する有機多孔質材料を使用することもでき、その場合の細孔2の径xは、0.1〜0.8μm程度となる。フィラー1の細孔2のサイズは、測定対象の状態に応じて、ガス吸着法、水銀圧入法、小角X線散乱法、画像処理法等を用いて、又はこれらの方法を組み合わせて、最適な方法により測定される。
フィラー1は、人工土壌粒子10が十分な保肥力を有するように、細孔2にイオン交換能が付与された材料を使用することが好ましい。この場合、イオン交換能が付与された材料として、陽イオン交換能が付与された材料、陰イオン交換能が付与された材料、又は両者の混合物を使用することができる。また、イオン交換能を有さない多孔質材料(例えば、高分子発泡体、ガラス発泡体等)を別に用意し、当該多孔質材料の細孔に上記のイオン交換能が付与された材料を圧入や含浸等によって導入し、これをフィラー1として使用することも可能である。陽イオン交換能が付与された材料として、陽イオン交換性鉱物、腐植、及び陽イオン交換樹脂が挙げられる。陰イオン交換能が付与された材料として、陰イオン交換性鉱物、及び陰イオン交換樹脂が挙げられる。
陽イオン交換性鉱物は、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト系鉱物、雲母系鉱物、バーミキュライト、ゼオライト等が挙げられる。陽イオン交換樹脂は、例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、本実施形態において使用するゼオライト、又はベントナイトが好ましい。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂における陽イオン交換容量は、10〜700meq/100ccに設定され、好ましくは20〜700meq/100ccに設定され、より好ましくは30〜700meq/100ccに設定される。陽イオン交換容量が10meq/100cc未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陽イオン交換容量が700meq/100ccを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
陰イオン交換性鉱物は、例えば、ハイドロタルサイト、マナセアイト、パイロオーライト、シェーグレン石、緑青等の主骨格として複水酸化物を有する天然層状複水酸化物、合成ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様物質、アロフェン、イモゴライト、カオリン等の粘土鉱物が挙げられる。陰イオン交換樹脂は、例えば、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、本実施形態において使用するハイドロタルサイトが好ましい。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂における陰イオン交換容量は、5〜500meq/100ccに設定され、好ましくは20〜500meq/100ccに設定され、より好ましくは30〜500meq/100ccに設定される。陰イオン交換容量が5meq/100cc未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陰イオン交換容量が500meq/100ccを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
<フィラーの粒状化法>
フィラー1が本実施形態に示すゼオライト1aやハイドロタルサイト1bのような無機天然鉱物である場合、複数のフィラー1を集合して粒状物(人工土壌粒子10)を構成するために、バインダーを用いて粒状化を行うことができる。バインダーを用いた人工土壌粒子10の形成は、フィラー1にバインダーや溶媒等を加えて混合し、混合物を造粒機に導入し、転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、圧縮造粒、押出造粒、破砕造粒、溶融造粒、噴霧造粒等の公知の造粒法により行うことができる。得られた造粒体は、必要に応じて乾燥及び分級が行われ、人工土壌粒子10が完成する。また、フィラー1にバインダーを加え、さらに必要に応じて溶媒等を加えて混練し、これを乾燥してブロック状にしたものを、乳鉢及び乳棒、ハンマーミル、ロールクラッシャー等の粉砕手段で適宜粉砕して粒状物とすることも可能である。この粒状物は、そのまま人工土壌粒子10として用いることもできるが、篩にかけて所望の粒径に調整することが好ましい。
バインダーは、有機バインダー又は無機バインダーの何れも使用可能である。有機バインダーは、例えば、ポリオレフィン系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー、ポリウレタン系バインダー、ポリ酢酸ビニル系バインダー等の合成樹脂系バインダー、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸などの多糖類、膠などの動物性たんぱく質等の天然物系バインダーが挙げられる。無機バインダーは、例えば、水ガラス等のケイ酸系バインダー、リン酸アルミニウム等のリン酸塩系バインダー、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩系バインダー、セメント等の水硬性バインダーが挙げられる。有機バインダー及び無機バインダーは、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
フィラー1が有機多孔質材料である場合、人工土壌粒子10の形成は、バインダーを用いた上述のフィラーの粒状化法と同様の方法で行ってもよいが、フィラー1を、当該フィラー1を構成する有機多孔質材料(高分子材料等)の融点以上の温度に加熱し、複数のフィラー1の表面同士を熱融着させて粒状化することにより、人工土壌粒子10を形成することも可能である。この場合、バインダーを使用しなくても、複数のフィラー1が集合した粒状物を得ることができる。そのような有機多孔質材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、セルロール等の有機高分子材料を発泡させた有機高分子発泡体、前記有機高分子材料の粉体を加熱溶融して連続気泡構造を形成した有機高分子多孔質体が挙げられる。
人工土壌粒子10の形成に当たっては、高分子ゲル化剤のゲル化反応を利用することもできる。高分子ゲル化剤のゲル化反応として、例えば、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングルコールエステル、ジェランガム、グルコマンナン、ペクチン、又はカルボキシメチルセルロース(CMC)と多価金属イオンとのゲル化反応、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガムなどの多糖類の二重らせん構造化反応によるゲル化反応が挙げられる。このうち、アルギン酸塩と多価金属イオンとのゲル化反応について説明する。アルギン酸塩の一つであるアルギン酸ナトリウムは、アルギン酸のカルボキシル基がNaイオンと結合した形態の中性塩である。アルギン酸は水に不溶であるが、アルギン酸ナトリウムは水溶性である。アルギン酸ナトリウム水溶液を多価金属イオン(例えば、Caイオン)の水溶液中に添加すると、アルギン酸ナトリウムの分子間でイオン架橋が起こりゲル化する。本実施形態の場合、ゲル化反応は、以下の工程により行うことができる。初めに、アルギン酸塩を水に溶解させてアルギン酸塩水溶液を調製し、アルギン酸塩水溶液にフィラー1を添加し、これを十分攪拌して、アルギン酸塩水溶液中にフィラー1が分散した混合液を形成する。次に、混合液を多価金属イオン水溶液中に滴下し、混合液に含まれるアルギン酸塩を粒状にゲル化させる。その後、ゲル化した粒子を回収して水洗し、十分に乾燥させる。これにより、アルギン酸塩及び多価金属イオンから形成されるアルギン酸ゲル中にフィラー1が分散した粒状物としての人工土壌粒子10が得られる。
ゲル化反応に使用可能なアルギン酸塩は、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムが挙げられる。これらのアルギン酸塩は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。アルギン酸塩水溶液の濃度は、0.1〜5重量%とし、好ましくは0.2〜5重量%とし、より好ましくは0.2〜3重量%とする。アルギン酸塩水溶液の濃度が0.1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなり、5重量%を超えると、アルギン酸塩水溶液の粘度が大きくなり過ぎるため、フィラー1を添加した混合液の攪拌や、混合液を多価金属イオン水溶液中に滴下することが困難になる。
アルギン酸塩水溶液を滴下する多価金属イオン水溶液は、アルギン酸塩と反応してゲル化が起きる2価以上の金属イオン水溶液であればよい。そのような多価金属イオン水溶液の例として、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化コバルト等の多価金属の塩化物水溶液、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸コバルト等の多価金属の硝酸塩水溶液、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、乳酸アルミニウム、乳酸亜鉛等の多価金属の乳酸塩水溶液、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸コバルト等の多価金属の硫酸塩水溶液が挙げられる。これらの多価金属イオン水溶液は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。多価金属イオン水溶液の濃度は、1〜20重量%とし、好ましくは2〜15重量%とし、より好ましくは3〜10重量%とする。多価金属イオン水溶液の濃度が1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなり、20重量%を超えると、金属塩の溶解に時間が掛かるとともに、過剰の材料を使用することになるため、経済的でない。
<人工土壌粒子の多孔構造>
上に例示した各方法によって得られた粒状物は、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔2を有するフィラー1が複数集合してなる本発明の人工土壌粒子10を構成する。人工土壌粒子10の粒径(図1に示す人工土壌粒子10のサイズzの平均値)は、0.2〜10mmであり、好ましくは0.5〜5mmであり、より好ましくは1〜5mmである。人工土壌粒子10の粒径の調整は、例えば、篩による分級で行うことができる。人工土壌粒子10を構成する複数のフィラー1の間には連通孔3が形成される。人工土壌粒子10の粒径が0.2mm未満の場合、人工土壌粒子10間の間隙が小さくなって排水性が低下することにより、栽培する植物が根から酸素を吸収し難くなる虞がある。一方、人工土壌粒子10の粒径が10mmを超えると、人工土壌粒子10間の間隙が大きくなって排水性が過剰になり過ぎることにより、植物が水分を吸収し難くなったり、人工土壌粒子10が疎になって植物が横倒れする虞がある。連通孔3のサイズ(図1に示す隣接するフィラー1間の距離yの平均値)は、フィラー1やバインダーの種類、組成、造粒条件により変化し得るが、サブμmオーダー乃至サブmmオーダーとなる。例えば、連通孔3のサイズは、0.1〜500μm程度に設定可能であるが、フィラー1が、図1(a)に示すゼオライト1a、又は図2(b)に示すハイドロタルサイト1bであり、高分子ゲル化剤を使用した場合、連通孔3のサイズは、0.1〜20μmとなる。連通孔3のサイズは、測定対象の状態に応じて、ガス吸着法、水銀圧入法、小角X線散乱法、画像処理法等を用いて、又はこれらの方法を組み合わせて、最適な方法により測定することができる。人工土壌粒子10の粒径は、例えば、光学顕微鏡観察及び画像処理法を用いて測定することができる。本実施形態では、以下の測定法により、連通孔3のサイズ、及び人工土壌粒子10の粒径を測定した。先ず、測定対象の人工土壌粒子をスケールとともに顕微鏡で観察し、その顕微鏡画像を画像処理ソフト(二次元画像解析処理ソフトウェア「WinROOF」、三谷商事株式会社製)を使用して取得する。画像から100個の人工土壌粒子を選択し、連通孔又は人工土壌粒子の輪郭をトレースする。トレースした図形の周長から、相当円の直径を算出する。夫々の連通孔又は人工土壌粒子から求めた相当円の直径(100個)の平均を平均サイズ(単位:ピクセル)とする。そして、平均サイズを顕微鏡画像中のスケールと比較し、単位長さ(μmオーダー乃至mmオーダー)に変換して、連通孔のサイズ又は人工土壌粒子の粒径を算出する。
本発明の人工土壌粒子10は、一つの粒子内において、フィラー1の細孔2とフィラー1の間に形成される連通孔3との間に特定の関係を持たせていることに独特の特徴を有する。すなわち、人工土壌粒子10に存在する細孔2及び連通孔3は、連通孔3が外部から水分及び養分を取り込むとともに、細孔2が連通孔3から養分を受け取り可能なように、細孔2が連通孔3の周囲に分散配置されている。
図2は、本発明の人工土壌粒子10の細孔2と連通孔3との位置関係を概念的に表したモデル図である。なお、図2は、図1に示した人工土壌粒子10の内部構造をモデル化したものであるが、実際の人工土壌粒子10の内部構造がそのまま反映されたものではない。本発明の人工土壌粒子10において、細孔2が連通孔3の周囲に分散配置されているとは、細孔2が連通孔3に接続しており、しかも連通孔3に接続する細孔2が実質的に連通孔3の周囲全体に存在していることを意味する。例えば、図2(a)を見ると、サイズxの多数の細孔2がサイズyの連通孔3に接続しており、しかも、多数の細孔2が連通孔3の長さ全体に沿って存在している状態が表されている。このような細孔2と連通孔3との特定の位置関係は、本発明の大きな特徴である。この特定の位置関係は、細孔2及び連通孔3の概ね半数以上にあればよい。なお、図2(a)では、紙面の都合上、細孔2と連通孔3との特定の位置関係を二次元的に示してあるが、実際の人工土壌粒子10には三次元的な拡がりで上述の特定の位置関係が形成されている。細孔2と連通孔3との特定の位置関係を出現させるための条件は、現在のところまだ十分に明らかにはなっていないが、例えば、フィラー1として結晶性が高い材料を選択したり、フィラー1として特異な結晶構造を有する材料を選択したり、フィラー1として複数種を特定の組合せで使用したり、フィラー1が有する結晶構造や層構造を制御したり、フィラー1に配向性を与える処理をしたり、フィラー1を粒状化する際に特定の添加剤を添加したり、フィラー1の造粒法(粒状化条件)を最適化したりすることで、より強く出現させることができる可能性があると考えられる。
<人工土壌粒子の保水性及び保肥性のメカニズム>
本発明の人工土壌粒子10は、細孔2と連通孔3とが特定の位置関係を有するため、土壌としての基本性能(保水性及び保肥性)のバランスに優れた高品質で機能的な人工土壌とすることができる。ここで、人工土壌粒子10が有する保水性及び保肥性のメカニズムを、図2(a)〜(c)を参照しながら詳細に説明する。図2(a)〜(c)は、人工土壌粒子10に外部から水分W、及び養分K、N、Pが取り込まれる様子を段階的に示したものである。ここで、養分Kはカリウム分、養分Nは窒素分、養分Pはリン分を表している。
人工土壌粒子10に外部から未だ水分N、及び養分K、N、Pが取り込まれていない状態では、図2(a)に示すように、人工土壌粒子10の連通孔3及び当該連通孔3に接続する細孔2は空隙となっている。人工土壌粒子10が養分K、N、Pを含んだ水分Wに接触すると、図2(b)に示すように、先ず連通孔3に水分W、及び養分K、N、Pが取り込まれる。連通孔3が十分に湿潤状態になると、図2(c)に示すように、連通孔3に取り込まれた水分W、及び養分K、N、Pのうち、養分K、N、Pが連通孔3から細孔2に移動する。本発明の人工土壌粒子10では、主に細孔2に養分K、N、Pが取り込まれるとともに、連通孔3で水分Wが保持されることで、主に細孔2に保肥性を担わせ、連通孔3に保水性を担わせている。このように、細孔2と連通孔3とで異なる機能を分担させることで、保水性と保肥性とのバランスに優れた機能的な人工土壌粒子10とすることができる。また、このような人工土壌粒子10を用いた人工土壌は、栽培対象の植物に対して水分Wや養分K、N、Pを適切に供給できるので、メンテナンスに手間が掛からず、取り扱いが容易なものとなる。
<人工土壌粒子の物性>
人工土壌粒子10の細孔2及び連通孔3は、連通孔3の全容積が細孔2の全容積より大きくなるように構成されることが好ましい。これは、連通孔3の保水性を十分に確保するとともに、連通孔3から細孔2への養分の移動がスムーズに行われるようにするためである。また、連通孔3の全容積が細孔2の全容積より大きくなれば、人工土壌粒子10が軽量となるため、嵩密度が小さくなり、人工土壌としての取り扱いも容易となる。連通孔3の全容積を細孔2の全容積より大きくするためには、フィラー1を三次元ネットワーク状に結合する。これは、例えば、フィラー1を粒状化する際、例えば、多孔性のバインダーを使用したり、凍結乾燥法などで乾燥させたり、フィラー1とバインダーとの混合物に空気を含ませながらフィラー1を互いに結合させることによって行うことができる。この場合、複数のフィラー1は多数の空隙を形成しながら三次元的に結合し、三次元ネットワーク状の構造を有するフィラー集合体(人工土壌粒子10)が形成される。三次元ネットワーク状に結合したフィラー集合体は、嵩密度が低く軽量でありながら構造的にも安定しているため、根菜類の栽培に必要な強度が確保された人工土壌粒子10として好適に利用できる。また、内部に有する多数の空隙のため、保水性、保肥性、排水性、通気性等の土壌としての基本性能が良好なものとなり、付加価値の高い人工土壌とすることができる。
人工土壌粒子10の強度は、繰り返し圧縮荷重の付加による容積変化率で評価することができる。本発明の人工土壌粒子10は、繰り返し圧縮荷重25KPaの付加後の容積変化率が20%以下になるように設計される。好ましい容積変化率は15%以下である。容積変化率が20%を超えると、プランター等に人工土壌を充填したり、苗を移植する際に、人工土壌粒子10が粉砕され易くなり、人工土壌粒子10の構造(フィラー1の細孔2が複数のフィラー1間の連通孔3の周囲に分散配置され、さらに、フィラー1が三次元ネットワーク状に結合した構造)が失われる虞がある。その結果、保水性と保肥性とのバランスが崩れる。また、人工土壌粒子10の構造が失われると、人工土壌の締め固めが起こり易くなるため、根菜類の栽培に悪影響を及ぼし得る。
本発明の人工土壌粒子10は根菜類の栽培に適したものであるが、人工土壌として優れた保水性を有しているため、これまで主に水耕栽培されていた葉物野菜の育成に適用することも可能である。ここで、人工土壌の保水性は、通水保水量によって評価することができる。通水保水量は、人工土壌粒子100mL当たりの保水量(%)として求められる。本発明の人工土壌粒子10は、フィラー1の細孔2が複数のフィラー1間の連通孔3の周囲に分散配置され、さらに、フィラー1が三次元ネットワーク状に結合した独特の構成を有するため、通水保水量を20〜70%に設定することができる。通水保水量が20%より低いと植物が成長するのに十分な水分を保持することが困難となり、70%を超えると人工土壌の通気性が悪化し、植物の生育に悪影響を及ぼす可能性がある。通気性に関しては、乾燥状態における人工土壌の気相率で表すことができる。本発明の人工土壌粒子10を使用した人工土壌の気相率は、20〜80%となるように設定することができる。好ましい気相率は30〜80%であり、より好ましい気相率は30〜70%である。気相率が20%未満の場合、植物の根への空気の供給量が不足し、80%を超えると、保水性を十分に確保できなくなる虞がある。
人工土壌粒子10を設計するに際し、連通孔3の保水性をさらに高めることも可能である。連通孔3の保水性を向上させる一つの方法として、人工土壌粒子10の連通孔3に保水性材料を導入することが挙げられる。保水性材料は、例えば、連通孔3の全体に保水性材料を充填したり、連通孔3の表面を保水性材料の膜でコーティングしたりすることで導入可能である。このとき、連通孔3の少なくとも一部に保水性材料が存在していればよい。保水性材料の導入は、例えば、保水性のある高分子材料を混合して造粒したり、保水性のある高分子材料を溶媒に溶解して高分子溶液を調製し、当該高分子溶液を人工土壌粒子10に含浸させることによって行われる。
保水性材料として使用可能な高分子材料は、例えば、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリスルホン酸塩系ポリマー、ポリアクリルアミド系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアルキレンオキサイド系ポリマー等の合成高分子系保水性材料、ポリアスパラギン酸塩系ポリマー、ポリグルタミン酸塩系ポリマー、ポリアルギン酸塩系ポリマー、セルロース系ポリマー、デンプン等の天然高分子系保水性材料が挙げられる。これらの保水性材料は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
保水性材料である上記高分子材料を溶解させる溶媒は、使用する高分子材料に応じて溶解性の高いもの、すなわち、高分子材料と溶媒とで溶解度パラメータ(SP値)が近くなる組み合せが適切に選択される。例えば、高分子材料のSP値と溶媒のSP値との差が5以下となるような組み合わせ(例:SP値が約10のニトロセルロースと、SP値が約14.5のメタノールとの組み合わせ)が選択される。そのような溶媒の例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。これらの溶媒は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
連通孔3の保水性を向上させる他の方法として、人工土壌粒子10を調製するに際し、原料であるフィラー1の一部又は全部に保水性フィラーを使用することが挙げられる。この場合、生成した人工土壌粒子10は、それ自体が保水性を有することになるので、保水性を向上させるための特別な後処理は不要となる。保水性フィラーには親水性フィラーや多孔質粒状物を使用することができ、親水性フィラーの例としては、ゼオライト、スメクタイト系鉱物、雲母系鉱物、タルク、シリカ、複水酸化物等が挙げられ、多孔質粒状物の例としては、発泡ガラス、多孔質金属、多孔質セラミック、高分子多孔体、親水性繊維等が挙げられる。
<人工土壌団粒体>
本発明の人工土壌粒子10は、さらに団粒化して人工土壌団粒体の形態で人工土壌として利用することも可能である。図3は、本発明の人工土壌団粒体100の模式図である。ここでは、図1(a)に示すゼオライト1aを使用した人工土壌粒子10を団粒化した人工土壌団粒体100を例示する。
人工土壌団粒体100は、複数の人工土壌粒子10が連なったクラスター構造を有している。クラスター構造は、複数の人工土壌粒子10を二次バインダーで接着することにより得られる。団粒化に使用する二次バインダーは、人工土壌粒子10の形成で用いたバインダー(一次バインダー)と同じものを使用できるが、異なる種類のバインダーであっても構わない。人工土壌団粒体100のサイズ(図3に示す人工土壌団粒体100のサイズwの平均値)は、0.4〜20mmであり、好ましくは0.5〜18mmであり、より好ましくは1〜15mmである。人工土壌団粒体100のサイズが0.4mm未満の場合、人工土壌団粒体100を構成する人工土壌粒子10間の間隙が小さくなって排水性が低下することにより、栽培する植物が根から酸素を吸収し難くなる虞がある。一方、人工土壌粒子10のサイズが20mmを超えると、排水性が過剰になり過ぎることにより植物が水分を吸収し難くなったり、人工土壌団粒体100が疎になって植物が横倒れする虞がある。人工土壌団粒体100のサイズは、例えば、光学顕微鏡観察及び画像処理法を用いて測定される。本実施形態では、連通孔3のサイズ、及び人工土壌粒子10の粒径と同様に、前述の画像処理を用いた測定法により、人工土壌団粒体100のサイズを測定した。
本発明の人工土壌粒子10を団粒化して得られた人工土壌団粒体100は、保水性と保肥性とのバランスに優れており、栽培対象の植物に対して水分や養分を適切に供給することができる。従って、本発明の人工土壌団粒体100は、メンテナンスに手間が掛からず、取り扱いが容易な人工土壌として有用である。
本発明の人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体に関する実施例について説明する。実施例1〜3として、夫々異なる粒状化方法(造粒法、粉砕法、ゲル化法)により本発明の人工土壌粒子を調製した。また、実施例4として、本発明の人工土壌粒子を団粒化して本発明の人工土壌団粒体を調製した。人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体の特性については、以下の(1)〜(6)に示す方法により評価した。
(1)粒径
人工土壌粒子又は人工土壌団粒体を篩によって予め所定の粒径に分級し、分級したものについて上記実施形態で説明した画像処理を用いた測定法で粒径を測定し、これを試料として使用した。
(2)孔径
人工土壌粒子を構成するフィラーの細孔の孔径をガス吸着法により測定した。複数のフィラーの間に形成される連通孔の孔径(孔径分布)については水銀圧入法により測定した。孔径分布については、後述の「人工土壌粒子の孔径分布」で詳述する。
(3)陽イオン交換容量
富士平工業株式会社製の汎用抽出・ろ過装置「CEC−10 Ver.2」を用いて人工土壌粒子の抽出液を作製し、これを陽イオン交換容量測定用試料とした。そして、富士平工業株式会社製の土壌・作物体総合分析装置「SFP−3」を用いて、人工土壌粒子の陽イオン交換容量(CEC)を測定した。
(4)陰イオン交換容量
人工土壌粒子2gに0.05M硝酸カルシウム溶液20mLを添加し、1時間攪拌した。溶液を室温で1分間遠心分離(10,000rpm)し、上清を測定用試料とした。測定用試料について、紫外可視分光光度計を用いて波長410nmの吸光度を測定し、硝酸カルシウム濃度を求めた。求めた硝酸カルシウム濃度とブランクの硝酸カルシウム濃度との差から、硝酸態窒素の重量当たりの吸着量を算出し、これを比重で換算し、容積当たりの陰イオン交換容量(AEC)とした。
(5)強度
人工土壌粒子の強度を、繰り返し圧縮荷重の付加による容積変化率によって評価した。容積変化率は、以下の方法で求めた。土壌評価用の試料円筒(内径:約5cm、高さ:約5cm、容積:100mL)にサンプルとして人工土壌100mLを充填し、試料円筒よりも径が僅かに小さい円筒状の錘(重量:5kg)をゆっくりとサンプルの上に載置した。その状態で60秒間放置し、錘を取り除いた。これらの操作を10回繰り返した(繰り返し圧縮荷重25KPa)。繰り返し圧縮荷重の付与が完了したら、サンプルをそのまま60秒間放置し、メスシリンダー等を用いてサンプルの容積Vを測定し、容積変化率ΔVを以下の式[1]から求めた。
ΔV(%) = (100−V)/100 × 100 ・・・ [1]
(6)保水量
解放したクロマトグラフ管に人工土壌粒子100mLを充填し、上部から200mLの水をゆっくりと注水したときの人工土壌の保水量を通水保水量とした。
(7)気相率
人工土壌粒子からなる人工土壌を水道水に24時間浸漬して飽和含水状態にした試料を作成し、この試料をさらに1時間静置した。試料の重量水を流下させた後、形状を出来るだけ維持しながら100mL試料用円筒に採取し、大起理化工業株式会社製のデジタル実容積測定装置「DIK−1150」にセットして気相率を測定した。
〔実施例1〕:造粒法
フィラーとしてゼオライトを使用し、バインダーとしてポリエチレンエマルジョンを使用した。株式会社エコウエル製の人工ゼオライト「琉球ライト600」100重量部と、住友精化株式会社製のポリエチレンエマルジョン「セポルジョン(登録商標)G」5重量部とを攪拌しながら混合・造粒し、80℃で24時間かけて一次乾燥し、次いで、120℃で24時間かけて二次乾燥したものを篩にかけて分級し、2mmオーバー、4mmアンダーとした人工土壌粒子を得た。得られた人工土壌粒子は、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔を有するフィラーが複数集合しており、フィラーの間にサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔が形成されたものであった。また、細孔は連通孔の周囲全体に亘って分散配置されていた。この人工土壌粒子の陽イオン交換容量は18meq/100ccであった。さらに、この人工土壌粒子を使用した人工土壌の強度(容積変化率)は15%であり、保水量(通水保水量)は28%であり、気相率は35%であった。
〔実施例2〕:粉砕法
フィラーとしてハイドロタルサイトを使用し、バインダーとしてポリエチレンエマルジョンを使用した。和光純薬工業株式会社製の試薬ハイドロタルサイト100重量部と、住友精化株式会社製のポリエチレンエマルジョン「セポルジョン(登録商標)G」5重量部とを攪拌しながら混合し、混合物を乾燥機に導入して120℃で24時間かけて乾燥し、ブロック状物を得た。このブロック状物を乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、篩にかけて分級し、2mmオーバー、4mmアンダーとした人工土壌粒子を得た。得られた人工土壌粒子は、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔を有するフィラーが複数集合しており、フィラーの間にサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔が形成されたものであった。また、細孔は連通孔の周囲全体に亘って分散配置されていた。この人工土壌粒子の陰イオン交換容量は15meq/100ccであった。さらに、この人工土壌粒子を使用した人工土壌の強度(容積変化率)は12%であり、保水量(通水保水量)は25%であり、気相率は37%であった。
〔実施例3〕:ゲル化法
フィラーとしてゼオライト及びハイドロタルサイトを使用し、アルギン酸塩としてアルギン酸ナトリウムを使用し、多価金属イオン水溶液として5%塩化カルシウム水溶液を使用した。和光純薬工業株式会社製の試薬アルギン酸ナトリウムを水に溶解させて濃度0.5%の水溶液を調製し、アルギン酸ナトリウム0.5%水溶液100重量部に株式会社エコウエル製の人工ゼオライト「琉球ライト600」10重量部、及び和光純薬工業株式会社製の試薬ハイドロタルサイト10重量部を添加して混合した。混合液を5%塩化カルシウム水溶液中に1滴/秒の速度で滴下した。滴下した液滴が粒子状にゲル化した後、粒子状ゲルを回収して水洗し、55℃に設定した乾燥機で24時間かけて乾燥させた。乾燥を終えた粒子状ゲルを篩にかけて分級し、2mmオーバー、4mmアンダーとした人工土壌粒子を得た。得られた人工土壌粒子は、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔を有するフィラーが複数集合しており、フィラーの間にサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔が形成されたものであった。また、細孔は連通孔の周囲全体に亘って分散配置されていた。この人工土壌粒子の陽イオン交換容量は14meq/100ccであり、陰イオン交換容量は15meq/100ccであった。さらに、この人工土壌粒子を使用した人工土壌の強度(容積変化率)は13%であり、保水量(通水保水量)は26%であり、気相率は33%であった。
〔実施例4〕:人工土壌団粒体
実施例3で得られた人工土壌粒子の粉砕物100重量部と、二次バインダーとしてコニシ株式会社製の酢酸ビニル樹脂系接着剤「ボンド(登録商標)木工用」5重量部とを混合し、混合物を造粒機に導入して団粒化し、人工土壌団粒体を得た。得られた人工土壌団粒体は、粒径が3〜18mmであり、複数の人工土壌粒子が連なったクラスター構造を有するものであった。
〔人工土壌粒子の孔径分布〕
本発明の人工土壌粒子が多孔質構造を備えていることを確認するため、水銀圧入法による孔径分布の測定を行った。図4は、水銀圧入法による本発明の人工土壌粒子又は人工土壌団粒体の孔径分布の測定結果を示すグラフである。孔径分布の測定は、(a)人工土壌粒子を凍結乾燥したもの(実施例3において、乾燥法を凍結乾燥法に変更した人工土壌粒子)、(b)人工土壌粒子(0.1〜0.25μmの単粒体)を酢酸ビニル樹脂で固めて約3φ(3mm)に団粒化したもの(実施例4に相当する人工土壌団粒体)、(c)人工土壌粒子に架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製の架橋剤:カルボジライト(登録商標)0.7%)を適用してさらに架橋したもの(実施例3の人工土壌粒子をベースとし、架橋密度をさらに大きく調製した人工土壌粒子)、の三種類の人工土壌粒子又は人工土壌団粒体を対象とした。図4より、(a)の人工土壌粒子については、約30nm付近、及び約2μm付近の二箇所にピークが確認された。約30nm付近のピークはフィラーどうしの間に形成される微少な間隙であると推測され、約2μm付近のピークが連通孔であると推測される。(b)の人工土壌団粒体については、約50nm付近、約0.65μm付近、及び約20μm付近の三箇所にピークが確認された。約50nm付近のピークはフィラーどうしの間に形成される微少な間隙であると推測され、約0.65μm付近のピークが連通孔であると推測される。また、約20μm付近のピークは、団粒化による粒子間の隙間に相当するものと推測され、この隙間も連通孔の一種とみなすことができる。(c)の人工土壌粒子については、約50nm付近、及び約0.65μm付近の二箇所にピークが確認された。約50nm付近のピークはフィラーどうしの間に形成される微少な間隙であると推測され、約0.65μm付近のピークが連通孔であると推測される。このように、本発明の人工土壌粒子又は人工土壌団粒体は、サブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔を有しており、フィラーが有するサブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔と合わせて、二種類のサイズ分布を備えた独特の多孔質構造を有することが確認された。
本発明の人工土壌粒子、及び人工土壌団粒体は、植物工場等で使用される人工土壌に利用可能であるが、その他の用途として、施設園芸用土壌、緑化用土壌、成型土壌、土壌改良剤、インテリア用土壌等にも利用可能である。
1 フィラー
2 細孔
3 連通孔
10 人工土壌粒子
100 人工土壌団粒体

Claims (6)

  1. サブnmオーダー乃至サブμmオーダーの細孔を有するフィラーが複数集合してなる人工土壌粒子であって、
    前記フィラーの間にサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔が形成され、
    前記連通孔が外部から水分及び養分を取り込むとともに、前記細孔が前記連通孔から前記養分を受け取り可能なように、前記細孔が前記連通孔の周囲に分散配置されており、
    前記細孔に陽イオン及び陰イオン交換能を付与してある人工土壌粒子。
  2. 前記連通孔の全容積が前記細孔の全容積より大きくなるように、前記フィラーは三次元ネットワーク状に結合されている請求項1に記載の人工土壌粒子。
  3. 前記連通孔の少なくとも一部に保水性材料が導入される請求項1又は2に記載の人工土壌粒子。
  4. 前記細孔の孔径が0.2〜800nmであり、前記連通孔の孔径が0.1〜500μmである請求項1〜3の何れか一項に記載の人工土壌粒子。
  5. 0.2〜10mmの粒径を有する請求項1〜4の何れか一項に記載の人工土壌粒子。
  6. 請求項1〜5の何れか一項に記載の人工土壌粒子を団粒化した人工土壌団粒体。
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