以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図3を参照して、本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。
可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)100は、車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧供給源として用いられるものである。
図1に示すように、ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。図1及び図3では、ロータ2は反時計回りに回転する。
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーン3と、内部に配置されるロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺接すると共に、ロータ2の中心に対して偏心可能なカムリング4とを備える。
図2に示すように、駆動軸1は、ブッシュ27を介してポンプボディ10に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、カムリング4を収容するポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10の端部には、駆動軸1外周とブッシュ27内周との間の潤滑油の漏れを防止するためのシール20が設けられる。
ポンプ収容凹部10aの底面10bには、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート6が配置される。ポンプ収容凹部10aの開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー5によって封止される。ポンプカバー5には、ポンプ収容凹部10aに嵌合する円形のインロー部5aが形成され、インロー部5aの端面がロータ2及びカムリング4の他側部に当接する。ポンプカバー5は、ポンプボディ10のフランジ部10cにボルト8を介して締結される。
このように、ポンプカバー5とサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。これにより、ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が区画される。
図1及び図3に示すように、カムリング4は、環状の部材であり、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を拡張する吸込領域と、各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を収縮する吐出領域とを有する。ポンプ室7は、吸込領域にて作動油(作動流体)を吸込み、吐出領域にて作動油を吐出する。図1では、カムリング4の中心を通る水平線の上方が吸込領域であり、水平線の下方が吐出領域である。
ポンプ収容凹部10aの内周面には、カムリング4を取り囲むようにして環状のアダプタリング11が嵌装される。アダプタリング11は、ロータ2及びカムリング4と同様に、両側面がポンプカバー5とサイドプレート6とによって挟まれる。
アダプタリング11の内周面には、駆動軸1と平行に延在すると共に、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入された支持ピン13が支持される。支持ピン13にはカムリング4が支持され、カムリング4はアダプタリング11の内部で支持ピン13を支点に揺動する。
支持ピン13は、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入されると共にカムリング4を支持するため、カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転を規制する。
アダプタリング11の内周面における支持ピン13と軸対称の位置には、駆動軸1と平行に延びる溝11aが形成される。溝11a内には、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周面が摺接するシール材14aが弾性部材14bを圧縮した状態で装着される。
このように、カムリング4外周の収容空間であるカムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン13とシール材14aとによって第1流体圧室31と第2流体圧室32とが区画される。
カムリング4は、第1流体圧室31と第2流体圧室32の作動油の圧力差によって、支持ピン13を支点に揺動する。カムリング4が支持ピン13を支点に揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化する。カムリング4の偏心量が変化すると、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が変化する。
第1流体圧室31の圧力が第2流体圧室32の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなる。この場合、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が小さくなる。これに対して、第2流体圧室32の圧力が第1流体圧室31の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなる。この場合、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が大きくなる。このように、ベーンポンプ100は、第1流体圧室31と第2流体圧室32との圧力差によってロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ押しのけ容積が変化する。
第2流体圧室32内におけるアダプタリング11の内周面には、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向のカムリング4の移動を規制する膨出部12が形成される。膨出部12は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないように、つまり、カムリング4の外周面が膨出部12に当接した状態でも、ロータ2に対するカムリング4の最低偏心量が確保され、ポンプ室7が作動油を吐出可能となるような形状に形成される。
ポンプカバー5には、ポンプ室7の吸込領域に対応して円弧状に開口する吸込ポート15が形成される。また、サイドプレート6には、ポンプ室7の吐出領域に対応して円弧状に開口する吐出ポート16が形成される。
図2に示すように、吸込ポート15は、ポンプカバー5に形成された吸込通路17に連通して形成され、吸込通路17の作動油をポンプ室7の吸込領域へと導く。吐出ポート16は、ポンプボディ10に形成された高圧室18に連通して形成され、ポンプ室7の吐出領域から吐出される作動油を高圧室18へと導く。
高圧室18は、ポンプ収容凹部10aの底面10bに環状に開口して形成される溝部10dがサイドプレート6にて塞がれることによって区画される。高圧室18の作動油は、ポンプボディ10に形成された吐出通路19(図3参照)を通じて、ベーンポンプ100外部の油圧機器へと導かれる。
図1及び図3に示すように、高圧室18は、絞り通路36を通じて第2流体圧室32に連通しており、高圧室18の作動油は第2流体圧室32に常時導かれている。つまり、カムリング4は、第2流体圧室32によってロータ2に対する偏心量が大きくなる方向の圧力を常に受けている。
ポンプボディ10には、駆動軸1の軸方向と直交する向きにバルブ収容穴29が形成される。バルブ収容穴29には、第1流体圧室31と第2流体圧室32の作動油の圧力を制御する制御バルブ21が収容される。バルブ収容穴29はプラグ23にて封止される。
制御バルブ21は、バルブ収容穴29に摺動自在に挿入されたスプール22と、スプール22の一端に臨む第1パイロット室24と、スプール22の他端に臨む第2パイロット室25と、第2パイロット室25内に収装され第2パイロット室25の容積を拡張する方向にスプール22を付勢する付勢部材としてのリターンスプリング26と、スプール22に推力を付与してスプール22に作用するリターンスプリング26の付勢力を調整するソレノイド50とを備える。
スプール22は、バルブ収容穴29の内周面に沿って摺動する第1ランド部22a及び第2ランド部22bと、第1ランド部22aと第2ランド部22bとの間に形成された環状溝22cと、第1ランド部22aに結合され第1パイロット室24内を延在するロッド部22dと、第2ランド部22bに結合され第2パイロット室25内を延在するストッパ部22eとを備える。
ロッド部22dの端部にはソレノイド50のロッド51が当接し、ソレノイド50が発生するソレノイド推力はスプール22に付与される。
ストッパ部22eは、スプール22が第2パイロット室25の容積を収縮する方向に移動した場合にプラグ23に当接してスプール22の所定以上の移動を規制するものである。リターンスプリング26は、ストッパ部22eを取り囲んで第2パイロット室25内に収装される。
図3に示すように、制御バルブ21には、第1流体圧室31及び第2流体圧室32のそれぞれに連通する第1通路33及び第2通路34と、環状溝22cと吸込通路17をつなぐドレン通路35と、高圧室18から吐出され後述するオリフィス28の上流の作動油を第1パイロット室24に導く第1導圧通路37(図3参照)と、高圧室18から吐出されオリフィス28の下流の作動油を第2パイロット室25に導く第2導圧通路38(図3参照)とが接続される。
第1通路33及び第2通路34は、バルブ収容穴29に開口すると共に、アダプタリング11を貫通してそれぞれ第1流体圧室31及び第2流体圧室32に開口して形成される。
スプール22は、両端に臨む第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力と、リターンスプリング26の付勢力とのつりあいでバランスする。スプール22の位置に応じて、第1通路33及び第2通路34がそれぞれ第1ランド部22a及び第2ランド部22bによって開閉され、第1流体圧室31及び第2流体圧室32の作動油が給排される。
第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力よりもリターンスプリング26の付勢力が大きい場合には、リターンスプリング26が伸長した状態となる。この状態では、図1及び図3に示すように、第1通路33は第1ランド部22aによって閉じられ、かつ第2通路34は第2ランド部22bによって閉じられる。これにより、第1流体圧室31と第1パイロット室24との連通が遮断されると共に、第2流体圧室32とドレン通路35との連通も遮断される。
ここで、第1ランド部22aには環状溝22cに連通する連通路22g(図3参照)が形成されているため、第1通路33が第1ランド部22aによって閉じられた状態では、第1流体圧室31は、第1通路33、連通路22g、及び環状溝22cを通じてドレン通路35に連通した状態となる。また、第2流体圧室32には絞り通路36を通じて高圧室18の作動油が常時導かれているため、第2流体圧室32の圧力は第1流体圧室31の圧力よりも大きくなり、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は最大となる。なお、連通路22gは、スプール22がリターンスプリング26の付勢力に抗して移動するのに伴って第1通路33に対する開口面積が減少するように形成される。
これに対して、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の付勢力よりも大きい場合には、スプール22はリターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。この場合には、第1通路33は開となって第1パイロット室24に連通し、その第1パイロット室24を通じて第1導圧通路37に連通する。また、第2通路34は開となってスプール22の環状溝22cに連通し、その環状溝22cを通じてドレン通路35に連通する。これにより、第1流体圧室31は高圧室18に連通し、第2流体圧室32はドレン通路35に連通する。したがって、第2流体圧室32の圧力は第1流体圧室31の圧力よりも小さくなり、カムリング4はロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動する。
第2通路34と環状溝22cの連通は、スプール22の第2ランド部22bに形成されたノッチ22fを通じて行われる。したがって、スプール22の移動量に応じて第2流体圧室32に対するドレン通路35の開口面積が増減する。
以上のように、制御バルブ21のスプール22は、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の付勢力よりも大きくなった場合にリターンスプリング26を圧縮して移動する。
第1パイロット室24及び第2パイロット室25には、吐出通路19に介装され作動油の流れに抵抗を付与する固定型のオリフィス28の上流及び下流の作動油がそれぞれ導かれる。つまり、高圧室18の作動油は、オリフィス28を介さずに第1導圧通路37を通じて直接第1パイロット室24へと導かれると共に、オリフィス28を介して第2パイロット室25へと導かれる。したがって、スプール22は、オリフィス28の前後差圧に応じて移動することになる。
ソレノイド50は、スプール22に対してリターンスプリング26の付勢力に抗する方向にソレノイド推力を付与して、スプール22に作用するリターンスプリング26の付勢力を調整するものである。ソレノイド推力がスプール22に作用すれば、スプール22に作用するリターンスプリング26の付勢力はソレノイド推力の分だけ小さくなる。そのため、スプール22は、ソレノイド推力がスプール22に作用していない状態と比較して、リターンスプリング26の付勢力に抗して移動し易くなる。つまり、スプール22は、ソレノイド推力がスプール22に作用していない状態と比較して、より小さいオリフィス28の前後差圧にて、リターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。スプール22がリターンスプリング26の付勢力に抗して移動すれば、カムリング4がロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動して、ポンプ室7から吐出されるポンプ吐出流量は減少する。このように、ソレノイド推力を制御することによって、スプール22に作用するリターンスプリング26の付勢力を調整することができ、ポンプ室7から吐出されるポンプ吐出流量を変化させることができる。
ソレノイド50は、ロッド51と一体に設けられたプランジャ52と、内周面に沿ってプランジャ52が摺動自在なコア53と、コア53の外周面に沿って配置されたコイル54と、ロッド51とスプール22の当接が維持するようにコア53を付勢するリターンスプリング55とを備える。リターンスプリング26の付勢力は、リターンスプリング55の付勢力の分だけ小さくなる。なお、ロッド51をスプール22に結合して構成すれば、リターンスプリング55は不要となる。
コントローラ(図示せず)からコイル54に通電されることによって、コイル54の周囲に磁束が発生し、その磁束によってコア53とプランジャ52で磁気回路が構成される。プランジャ52は、磁気回路にて発生するソレノイド推力によって、一体のロッド51をリターンスプリング55に抗して移動させる。このように、ロッド51はソレノイド推力の作用を受けて移動し、スプール22にはソレノイド50にて発生するソレノイド推力が付与される。
ソレノイド50にて発生するソレノイド推力は、ロッド51のストロークに応じて変化するように設定される。具体的には、ロッド51のストロークに応じて磁気回路の構成が変化することによって、ソレノイド推力が変化する。
次に、図4〜図7を参照して、ベーンポンプ100の動作について説明する。図4〜図6は、ベーンポンプ100の油圧回路図であり、それぞれロータ2に対するカムリング4の偏心量が最大時、中間時、最小時である。図7は、ベーンポンプ100の吐出流量特性を示すグラフ図である。
駆動軸1にエンジンの動力が伝達されロータ2が回転すると、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間が拡張するポンプ室7は、吸込ポート15を通じて吸込通路17から作動油を吸込む。また、各ベーン3間が収縮するポンプ室7は、吐出ポート16を通じて作動油を高圧室18に吐出する。高圧室18に吐出された作動油は、吐出通路19を通じて油圧機器へと供給される。
作動油が吐出通路19を通過する際、吐出通路19に介装されたオリフィス28の前後には圧力差が生じ、オリフィス28上流及び下流の圧力はそれぞれ第1パイロット室24及び第2パイロット室25に導かれる。制御バルブ21のスプール22は、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力と、リターンスプリング26の付勢力とのつりあいでバランスする。
ロータ2の回転数が所定回転数N以下であるポンプ始動時には、ロータ2の回転数が小さくポンプ吐出流量が少ないため、オリフィス28の前後差圧は小さく、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力は小さい。したがって、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力よりもリターンスプリング26の付勢力が大きく、リターンスプリング26は伸長した状態となる。
この場合には、図4に示すように、第1通路33は第1ランド部22aによって閉じられ、かつ第2通路34は第2ランド部22bによって閉じられるため、第1流体圧室31はドレン通路35に連通し、第2流体圧室32はドレン通路35との連通が遮断される。ここで、カムリング4は、絞り通路36を通じて第2流体圧室32に常時導かれる高圧室18の作動油によってロータ2に対する偏心量が大きくなる方向の圧力を受けているため、ロータ2に対する偏心量が最大となる。
図7に示すように、ロータ2の回転速度が所定回転数N以下である領域では、ロータ2に対するカムリングの偏心量が最大となって、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が最大となり、ベーンポンプ100のポンプ吐出流量はロータ2の回転速度に略比例した流量となる。したがって、ロータ2の回転速度が小さい場合でも、油圧機器に対して十分な流量の作動油を供給することができる。
ロータ2の回転数が増加して所定回転数Nに達すると、オリフィス28の前後差圧が大きくなって、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の付勢力と釣り合うか、僅かに大きくなる。これにより、スプール22は、リターンスプリング26の付勢力に抗して移動し始める。
この場合には、図5に示すように、スプール22の移動に伴って、第1通路33は開となって第1パイロット室24に連通し、第2通路34は開となってドレン通路35に連通する。これにより、第1流体圧室31は高圧室18に連通し、第2流体圧室32はドレン通路35に連通するため、カムリング4はロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動を開始する。
図7に示すように、ロータ2の回転速度が所定回転数Nを超える領域では、ベーンポンプ100のポンプ吐出流量は略一定となる。これは、第1通路33及び第2通路34が開となって、カムリング4がロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動を開始してポンプ吐出流量が減少すると、オリフィス28の前後差圧が小さくなってリターンスプリング26が伸長して、再び第1通路33及び第2通路34が閉じられる。第1通路33及び第2通路34が閉じられると、カムリング4がロータ2に対する偏心量が大きくなる方向に移動して、ポンプ吐出流量が増加する。ポンプ吐出流量が増加すると、オリフィス28の前後差圧が大きくなって、スプール22はリターンスプリング26を圧縮して移動して、再び第1通路33及び第2通路34が開となる。このように、第1通路33及び第2通路34が開閉されて、オリフィス28の前後差圧が一定となるように制御されるため、ポンプ吐出流量が略一定となる。
ロータ2の回転速度が所定回転数Nを超える領域では、ロータ2の回転数の増加に伴って、スプール22のリターンスプリング26を圧縮して移動する量が大きくなり、第1通路33及び第2通路34の開度が増加するため、ロータ2に対するカムリングの偏心量が次第に小さくなり、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が次第に小さくなる。
そして、ロータ2の回転速度がさらに増加すると、オリフィス28の前後差圧がさらに大きくなって、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の付勢力よりも大きくなる。これにより、スプール22は、リターンスプリング26を圧縮して移動して、ストッパ部22eがプラグ23に当接した状態となる。
この場合には、図6に示すように、第1通路33は全開となって第1パイロット室24に連通し、第2通路34は全開となってドレン通路35に連通するため、第1流体圧室31は高圧室18に連通し、第2流体圧室32はドレン通路35に連通する。これにより、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が最小となり、ロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が最小となる。このとき、第1通路33と連通路22gとは、遮断された状態又は極小さい開度にて連通された状態となる。
ロータ2に対するカムリング4の偏心量は、図6に示す最小の状態であっても、膨出部12によってゼロとなることはないため、ベーンポンプ100は最低吐出容量で作動油を吐出する。
以上のように、ロータ2の回転数の変化に伴ってスプール22が移動し、スプール22の移動に伴って第1通路33及び第2通路34が開閉されてポンプ吐出流量が調整される。具体的には、ロータ2の回転数が所定回転数N以下であるポンプ始動時では、スプール22は第1通路33及び第2通路34を閉じるため、ロータ2に対するカムリングの偏心量が最大となり、ロータ2の回転数の増加に伴ってポンプ吐出流量が増加する。また、ロータ2の回転数が所定回転数Nを超えると、スプール22の移動によって第1通路33及び第2通路34の開度が調整され、オリフィス28の前後差圧が一定となるように制御されるため、ポンプ吐出流量が略一定となる。
次に、図8及び図9を参照して、ソレノイド50が発生するソレノイド推力について説明する。図8及び図9は、ロッド51のストロークとスプール22に作用する各作用力との関係を示すグラフ図であり、図中実線はリターンスプリング26の付勢力、点線はソレノイド推力、一点鎖線はリターンスプリング26の付勢力からソレノイド推力を差し引いたリターンスプリング26の実効付勢力を示す。図8は本実施の形態に係るベーンポンプ100のソレノイド50に関するものであり、図9は比較例を示すものである。
図9に示すように、ソレノイド推力がロッド51のストロークに関係なく常に一定である場合には、リターンスプリング26の付勢力からソレノイド推力を差し引いたリターンスプリング26の実効付勢力(以下に、単に「リターンスプリング26の実効付勢力」と称する。)のばね定数θはロッド51のストロークに関係なく常に一定となる。
ばね定数θは、ポンプ吐出流量の流量特性に大きな影響を与える。ばね定数θが大きいと、例えば油圧機器側の圧力が突然変化してスプール22に外力が作用した場合でも、スプール22はその影響を受け難くなる。しかし、ポンプ吐出流量の増減の応答性は悪くなる。逆に、ばね定数θが小さいと、スプール22は外力に対する影響を受け易くなるが、ポンプ吐出流量の応答性は良くなる。
図9に示す比較例では、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数θがロッド51のストロークに関係なく常に一定であるため、ポンプ吐出流量の流量特性は、安定性向上か応答性向上の一方を重視した設定にしかできない。
これに対して、ベーンポンプ100では、図8に示すように、ソレノイド50にて発生するソレノイド推力F1はロッド51のストロークに応じて変化するように設定されるため、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数θはロッド51のストロークによって異なる。
具体的に説明すると、ソレノイド50にて発生しスプール22に付与されるソレノイド推力F1は、ロッド51のストローク、つまりスプール22のストロークに応じて以下のように設定される。第1通路33及び第2通路34が閉じられるスプール22のストローク範囲(ストローク範囲A)では、ストロークの増加に伴って大きくなるように設定される。また、第1通路33及び第2通路34が開になり所定開度に達するまでのスプール22のストローク範囲(ストローク範囲B)ではストロークに関係なく一定に設定される。さらに、第1通路33及び第2通路34の開度が所定開度を超えて全開になるまでのスプール22のストローク範囲(ストローク範囲C)ではストロークの増加に伴って大きくなるように設定される。第1通路33及び第2通路34の所定開度とは、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の付勢力よりも大きくなり、スプール22がリターンスプリング26を圧縮して移動を開始する時の開度である。
このように、ソレノイド推力F1は、第1通路33及び第2通路34の開度に基づいて変化するように設定される。ソレノイド推力F1がこのように設定されることによって、図8に示すように、スプール22のストローク範囲Aにおけるリターンスプリング26の実効付勢力のばね定数をθ1、スプール22のストローク範囲Bにおけるリターンスプリング26の実効付勢力のばね定数をθ2、スプール22のストローク範囲Cにおけるリターンスプリング26の実効付勢力のばね定数をθ3とすると、θ1及びθ3はθ2と比較して小さくなる。
これにより、ポンプ吐出流量の流量特性は、図7を参照して説明すると、ロータ2の回転数が所定回転数N以下であるポンプ始動時、つまり、ロータ2の回転速度の変化に応じてポンプ吐出流量が変化する場合には、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に小さいθ1となり応答性が良好となる。一方、ロータ2の回転数に関係なくポンプ吐出流量が一定である場合には、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に大きいθ2となり安定性が良好となる。このように、安定性と応答性の両方が良好な流量特性を実現することができる。
以上のように、ソレノイド推力は、スプール22のストロークに応じて変化するように設定され、上述のように、ロッド51のストロークに応じて磁気回路の構成が変化することによって変化する。その際、ソレノイド50のコイル54への通電量は一定に制御される。
以下では、コイル54への通電量を変更してポンプ吐出流量を増減させる場合のベーンポンプ100の動作について説明する。
例えば、ベーンポンプ100がパワーステアリング装置の油圧供給源として用いられる場合において、操舵が行われていない場合や、エンジン回転数が高い高速走行時には、パワーステアリング装置ではベーンポンプ100からの作動油をそれほど必要としない。このような場合には、コイル54への通電量が変更されてベーンポンプ100のポンプ吐出流量が減少するように制御される。
図8,図10,図11を参照して具体的に説明する。図10は、ベーンポンプ100の吐出流量特性を示すグラフ図であり、図中実線はコイル54への通電量が0.5Aの場合の特性、点線はコイル54への通電量が1.0Aの場合の特性である。コイル54への通電量が1.0Aの場合におけるソレノイド推力F2は図11に示す特性に設定され、コイル54への通電量が0.5Aの場合におけるソレノイド推力F1は図8に示す特性に設定される。
図11に示す特性では、ソレノイド推力F2が図8に示すソレノイド推力F1と比較して大きく設定されており、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数θ4,θ5,θ6の大小関係は図8に示すばね定数θ1,θ2,θ3と同様である。つまり、ストローク範囲Aのθ4及びストローク範囲Cのθ6は、ストローク範囲Bのθ5と比較して小さい。
コイル54への通電量が0.5Aに設定されポンプ吐出流量がロータ2の回転数に関係なく一定である状態(図10にて点Yで示す状態)では、スプール22のストロークはストローク範囲B内であるため、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数はθ2(図8参照)である。この状態からポンプ吐出流量を減少させたい場合には、コイル54への通電量が1.0Aに変更される。これにより、スプール22に作用するソレノイド推力は図8に示すF1から図11に示すF2へと大きな推力に変更され、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数はθ2からθ5(図11参照)に変更される。
ソレノイド推力が大きくなればリターンスプリング26の実効付勢力が小さくなるため、スプール22はリターンスプリング26を圧縮して移動する。これにより、スプール22は、ストローク範囲Bから第1通路33及び第2通路34の開度が所定開度を超えるストローク範囲Cまで移動するため、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ吐出流量が減少する。この際、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に小さいθ6(図11参照)に変化するため、ポンプ吐出流量は応答性良く減少していく。ポンプ吐出流量が減少するに伴って、オリフィス28の前後差圧が小さくなり、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力よりもリターンスプリング26の実効付勢力が大きくなれば、スプール22は、第1通路33及び第2通路34の開度が所定開度以下となるストローク範囲Bに戻る。これにより、ポンプ吐出流量の減少が止まり、図10にて点Xで示す状態となる。この際、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に大きいθ5へと戻る。
これとは反対に、コイル54への通電量が1.0Aに設定されポンプ吐出流量がロータ2の回転数に関係なく一定である状態(図10にて点Xで示す状態)からポンプ吐出流量を増加させたい場合には、コイル54への通電量が0.5Aに変更される。これにより、スプール22に作用するソレノイド推力は図11に示すF2から図8に示すF1へと小さな推力に変更され、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数はθ5からθ2(図8参照)へと変更される。
ソレノイド推力が小さくなればリターンスプリング26の実効付勢力が大きくなるため、スプール22はリターンスプリング26の伸長によって移動する。これにより、スプール22は、ストローク範囲Bから第1通路33及び第2通路34が閉じられるストローク範囲Aまで移動するため、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ吐出流量が増加する。この際、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に小さいθ1(図8参照)に変化するため、ポンプ吐出流量は応答性良く増加していく。ポンプ吐出流量が増加するに伴って、オリフィス28の前後差圧が大きくなり、第1パイロット室24と第2パイロット室25との圧力差による推力がリターンスプリング26の実効付勢力よりも大きくなれば、スプール22は、第1通路33及び第2通路34が開になるストローク範囲Bに戻る。これにより、ポンプ吐出流量の増加が止まり、図10にて点Yで示す状態となる。この際、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に大きいθ2へと戻る。
このように、コイル54への通電量を変更してソレノイド推力を制御することによって、ポンプ吐出流量を変化させることができる。したがって、コイル54への通電量を変更することによって、パワーステアリング装置が必要とする流量に合わせてベーンポンプ100の吐出流量を自由に制御することができる。
そして、コイル54への通電量を変化させポンプ吐出流量を増減させる際には、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に小さい値に変化するため、応答性良く増減する。また、その増減が完了した後は、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数は相対的に大きい値に戻るため、安定性が良好となる。
以上の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
ソレノイド50がスプール22に付与するソレノイド推力はスプール22のストロークに応じて変化するように設定されるため、ポンプ吐出流量の安定性が求められるストローク範囲及び応答性が求められるストローク範囲に応じてソレノイド推力を自由に設定することができる。したがって、ポンプ吐出流量の安定性と応答性の両方を向上させることができる。
なお、リターンスプリング26の実効付勢力のばね定数θは、ソレノイド推力を設定することによって自由に調整することができる。例えば、図12に示すように、第1通路33及び第2通路34の開度が所定開度を超えて全開になるまでのスプール22のストローク範囲Cでのソレノイド推力を、図8及び図11とは異なり、ストロークの増加に伴って小さくなるように設定することによって、ストローク範囲Cのθ9をストローク範囲Bのθ8と比較して大きく調整することができる。この場合には、ポンプ吐出流量が減少する際の特性として、応答性よりも安定性を重視した流量特性を得ることができる。
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。