以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット吐出装置の説明〕
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット吐出装置のブロック図である。本例に示すインクジェット吐出装置10は、インクジェット方式により滴状の液体(液滴)を吐出させるインクジェットヘッド12と、インクジェットヘッド12に所定の駆動信号を供給して、インクジェットヘッド12を動作させる駆動装置14と、を含んで構成されている。
インクジェットヘッド12は、液滴を吐出させる際の加圧源となる圧電アクチュエータ16が設けられており、駆動装置14から供給される駆動信号に応じて圧電アクチュエータ16が動作して液滴が吐出される圧電方式が適用される。詳細は後述するが(図2参照)、インクジェットヘッド12は、液滴の吐出口となるノズルと、該ノズルと連通し、圧電アクチュエータ16により加圧される圧力室と、該圧力室と連通する液流路等の構成が具備されている。
駆動装置14は、複数の波形要素が含まれる基準駆動波形が生成される波形発生部18と、基準駆動波形からドットサイズに応じた波形要素を選択するための波形選択信号を生成する波形選択部20と、吐出データに基づいて液滴が吐出されるノズルを選択するためのノズル選択信号が生成されるノズル選択部22と、波形選択部20により選択された波形要素からなる駆動波形に基づいて駆動信号が生成され、ノズル選択部22により選択されたノズルに対応する圧電アクチュエータ16へ該駆動信号を供給するヘッド駆動部24と、を含んで構成されている。
本実施形態に示すインクジェット吐出装置10は、大滴、中滴、小滴の3種類のドットサイズを打滴対象物に打滴可能に構成されている。すなわち、打滴対象物上に大サイズの1ドットを形成する場合は大滴用の駆動波形が出力され、中サイズの1ドットを形成する場合は中滴用の駆動波形が出力され、小サイズのドットを形成する場合は小滴用の駆動波形が出力される。
また、本例に示すインクジェット吐出装置10は、複数のノズルのそれぞれに設けられる圧電アクチュエータ16に共通の駆動信号が供給され、ノズル選択部22から送出されるノズル選択信号によって吐出が行なわれるノズルが選択され、ノズル選択信号により選択されたノズルに対応する圧電アクチュエータ16のみに駆動信号が印加される方式が適用される。
なお、インクジェットヘッド12と駆動装置14とを別々の構成として、フレキシブル基板などの配線部材を用いて接続してもよいし、インクジェットヘッド12と駆動装置14とを一体構成としてもよい。
〔インクジェットヘッドの構成〕
次に、図1に示したインクジェットヘッド12の構造例について説明する。
図2は、インクジェットヘッド12の立体構造の一例を示す断面図であり、記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子が図示されている。
同図に示すインクジェットヘッド12は、圧力室26の天井面に設けられた圧電素子27を動作させて圧力室26内の液体を加圧して、圧力室26と連通するノズル28から液滴を吐出させるように構成されている。ノズル28から液滴が吐出されると、圧力室26と連通される供給口30を介して、液体の供給源たるタンク(不図示)から共通流路32を経由して圧力室26へ液体が充填される。
図2に示すインクジェットヘッド12は、ノズル面34にノズル28が形成されたノズルプレート36と、圧力室26、供給口30、共通流路32等の流路が形成された流路板38等を積層接合した構造となっている。ノズルプレート36は、インクジェットヘッド12のノズル面34を構成し、各圧力室26にそれぞれ連通する複数のノズル28が所定の配置パターンで配置されている。
流路板38は、圧力室26の側壁部を構成するとともに、共通流路32から圧力室26に液体を導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口30が形成される流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図2では簡略的に図示しているが、流路板38は一枚又は複数の基板を積層した構造である。ノズルプレート36及び流路板38は、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
圧力室26の一部の面(図2において天井面)を構成する振動板40には、上部電極(個別電極)42及び下部電極44を備え、上部電極42と下部電極44との間に圧電体46が挟まれた構造を有する圧電素子(ピエゾ素子)27が接合されている。振動板40を金属薄膜や金属酸化膜により構成すると、圧電素子27の下部電極44に相当する共通電極として機能する。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様では、振動板部材の表面に金属などの導電材料による下部電極層が形成される。
上部電極42に駆動電圧を印加することによって圧電素子27が変形するとともに振動板40が変形して圧力室26の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル28から液滴が吐出される。図1に示した圧電アクチュエータ16は、図2の圧電素子27及び振動板40が含まれる構成となっており、駆動信号に応じて液体の吐出圧力を発生させる圧力発生源となっている。なお、圧電アクチュエータ16は、図2に図示した振動板40が省略された態様(例えば、2枚の圧電素子を積層させたバイモルフ構造)も可能である。
〔駆動信号の説明:第1実施形態〕
次に、本発明の第1実施形態に係る駆動信号について説明する。図3(a)は、波形発生部18で発生する基準駆動波形100の1吐出周期分を模式的に示した図であり、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。なお、本例に示す駆動波形の立ち上がり部は、メニスカスをノズル内に引き込むように圧電素子を動作させ(引き動作)、立下り部はメニスカスをノズル外部に押し出すように圧電素子を動作させる(押し動作)。
同図に示す基準駆動波形100は、1ドットに対する最大吐出回数(本例では3回)と同数の吐出パルス(吐出波形要素)102を有しており、第1の吐出パルス102−1、第2の吐出パルス102−2、第3の吐出パルス102−3の順にそれぞれ所定の時間間隔をおいて設けられている。
ここで、「吐出パルス」とは、圧電素子27(図2参照)を動作させて、ノズル28から所定量の液滴を吐出させるための波形である。
各吐出パルス102は台形形状を有しており、パルス幅(吐出パルス102の立ち上がり部の中央から立ち下がり部の中央まで時間)は、図2に示したインクジェットヘッド12の構造から求められるヘルムホルツ周期TCの1/2である。本実施形態では、ヘルムホルツ周期TCは10μsである。
また、各吐出パルス102の振幅(電圧)は、基準駆動波形100の時間的に後になるほど小さくなる(時間的に前の吐出パルス102の振幅よりも振幅が小さくなる)ように設定されている。ここでは、第1の吐出パルス102―1の振幅を50V、第2の吐出パルス102―2の振幅を48V、第3の吐出パルス102―3の振幅を42Vとしている。
また、第1の吐出パルス102―1の始端から第2の吐出パルス102―2の始端までの時間間隔、及び第2の吐出パルス102―2の始端から第3の吐出パルス102―3の始端までの時間間隔(各吐出パルス102の出力周期)は、ヘルムホルツ周期TCの整数倍(図3では1倍)としている。
図3(b)は、小適用の駆動波形を出力する場合に波形選択部20から出力される波形選択信号110を示しており、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。波形選択信号110は、Hレベル110Hが「非選択」、Lレベル110Lが「選択」を意味する負論理パルス信号である。
図3(b)に示した波形選択信号110と図3(a)に示した基準駆動波形100の論理和をとると、第3の吐出パルス102−3が選択され、第1の吐出パルス102−1及び第2の吐出パルス102−2が除去される。
すなわち、図3(c)に示す小滴用の駆動波形120は、基準駆動波形100の各吐出パルス102のうちの吐出パルス102−3から構成される。この小滴用の駆動波形120によって吐出された液滴によって、打滴対象物上に小サイズのドットが形成される。
図4(a)は、図3(a)に示された基準駆動波形と同じ基準駆動波形100を示しており、図4(b)は、中滴用の駆動波形を出力する場合の波形選択信号112を示している。波形選択信号112は、図3(b)に図示された波形選択信号110と同様に、Hレベル112H及びLレベル112Lを有する負論理パルス信号である。図4(b)に示した波形選択信号112と図4(a)に示した基準駆動波形100の論理和をとると、第2の吐出パルス102―2、第3の吐出パルス102−3が選択され、第1の吐出パルス102−1が除去される。
すなわち、図4(c)に示す中滴用の駆動波形122は、基準駆動波形100の各吐出パルス102のうちの第2の吐出パルス102−2及び第3の吐出パルス102−3から構成される。
この中滴用の駆動波形122が圧電アクチュエータ16に印加されると、第2の吐出パルス102−2及び第3の吐出パルス102−3により、2つの液滴が吐出される。
前述したように、第2の吐出パルス102―2の始端から第3の吐出パルス102―3の始端までの時間間隔は、ヘルムホルツ周期TCとなっている。すなわち、第2の吐出パルス102−2による吐出後のメニスカスの振動に対して、第3の吐出パルス102−3が同位相で印加されることになる。
したがって、第3の吐出パルス102−3により吐出される液滴は、メニスカス振動が増幅されるために第2の吐出パルス102−2により吐出される液滴よりも速度が速い。その結果、この2つの液滴は飛翔中に空中で合一して1つの液滴となり、打滴対象物上に1つの中サイズのドットが形成される。
図5(a)は、図3(a)、図4(a)に図示された基準駆動波形と同じ基準駆動波形100を示しており、図5(b)は、大滴用の駆動波形を出力する場合の波形選択信号114を示している。波形選択信号114は、Hレベル114H及びLレベル114Lを有する負論理パルス信号である。図5(b)に示した波形選択信号114と図5(a)に示した基準駆動波形100の論理和をとると、第1の吐出パルス102―1、第2の吐出パルス102―2、第3の吐出パルス102−3が選択される。
すなわち、図5(c)に示す大滴用の駆動波形124は、基準駆動波形100の各吐出パルス102のうちの第1の吐出パルス102―1、第2の吐出パルス102―2、及び第3の吐出パルス102−3から構成される。
この大滴用の駆動波形124が圧電アクチュエータ16に印加されると、第1の吐出パルス102−1、第2の吐出パルス102−2、及び第3の吐出パルス102−3により3つの液滴が吐出される。
前述したように、第1の吐出パルス102―1の始端から第2の吐出パルス102―2の始端までの時間間隔は、ヘルムホルツ周期TCとなっている。すなわち、第1の吐出パルス102−1による吐出後のメニスカスの振動に対して第2の吐出パルス102−2が同位相で印加されることになる。
したがって、第2の吐出パルス102−2により吐出される液滴は、メニスカス振動が増幅されるために第1の吐出パルス102−1により吐出される液滴よりも速度が速い。その結果、この2つの液滴は飛翔中に空中で合一して1つの液滴となる。
さらに、第2の吐出パルス102−2による吐出後のメニスカスの振動に対して、第3の吐出パルス102−3が同位相で印加される。したがって、メニスカス振動が増幅され、第3の吐出パルス102−3により吐出される液滴は、第2の吐出パルス102−2により吐出される液滴よりも速度が速い。その結果、先に合一した液滴と第3の吐出パルス102−3により吐出された液滴は空中で合一して1つの液滴となり、打滴対象物上に1つの大サイズのドットを形成する。
打滴対象物上にドットの形成を行わない場合、すなわち液滴の吐出を行わない場合は、波形選択信号をHレベルのままとすることにより基準駆動波形100の全ての波形を選択せず、駆動信号をLレベルに維持しておけばよい。なお、ノズル28付近での液体の乾燥を防止する観点から、ノズル28から液体が吐出しない程度にメニスカスを揺らしてもよい。
このように、波形選択部20から出力される波形選択信号は、打滴対象物上に形成すべきドットのサイズに応じて、基準駆動波形100の複数の吐出パルス102のうち時間的に後の吐出パルス102から順に選択する。
本実施形態におけるパルス数(ドットサイズ)と液滴の速度の関係を図6に、ドットサイズと滴量の関係を図7に示す。これらのデータは、吐出ノズル数が256、吐出周波数が2kHzの条件で取得したものである。なお、図6、図7には、比較のため、図8に示す波形を用いて同様の制御を行った場合の各ドットサイズの液滴の速度と適量を同時に示している。
図8(a)に示すように、比較例の基準駆動波形100´は、第1の吐出パルス102―1´、第2の吐出パルス102―2´、及び第3の吐出パルス102―3´がともにパルス幅TC/2、振幅50Vの台形形状であり、第1の吐出パルス102−1´の始端から第2の吐出パルス102―2´の始端までの時間間隔、及び第2の吐出パルス102―2´の始端から第3の吐出パルス102―3の´始端までの時間間隔がTCとなっている。すなわち、図3に示す本実施形態の基準駆動波形100とは、各吐出パルス102の電圧が一定となっているところが異なっている。
この基準駆動波形100´を用いて、図示しない波形選択信号により、図8(b)に示す小滴用の駆動波形120´、図8(c)に示す中滴用の駆動波形122´、図8(d)に示す大滴用の駆動波形124´を生成し、各ドットサイズの液滴の速度と適量を取得した。
図6に示すように、電圧が一定である基準駆動波形100´を用いた場合には、ドットサイズが大きくなるに応じて液滴の速度が上昇している。このように、液滴の速度に差があると、ドットサイズによって着弾する打滴対象物上の位置が異なってしまい、画質が低下する。
これに対し、本実施形態の基準駆動波形100を用いた場合には、小滴、中滴、大滴の液滴の速度をそれぞれ約6.5m/secで一定とすることができた。このように、形成するドットサイズによらずに、液滴の着弾する打滴対象物上の位置の誤差を小さくすることができ、高い品質の画像を得ることができる。
なお、液滴の速度の許容範囲は、インクジェットヘッド12と打滴対象物との距離(液滴の飛翔距離)や、インクジェットヘッド12と打滴対象物との相対移動速度にも関係するが、5%以内の誤差であることが好ましい。
また、図7に示すように、基準駆動波形100´を用いた場合には、ドットサイズ(パルス数)と液滴の滴量は比例する。これに対し、本実施形態の基準駆動波形100を用いた場合には、小滴の滴量と大滴の滴量との差が大きくなる。したがって、画像内の高い被覆率が求められる部分の記録と高精細な画質が求められる部分の記録を両立することができ、高い生産性を保ちながら高精細な画質を実現することができる。
このように、複数の吐出パルスからなる基準駆動波形の先頭からドットのサイズに応じてパルスを取り除くことで、異なるサイズのドットを打滴対象物上に形成する吐出制御において、各吐出パルスの振幅を時間的に前の吐出パルスの振幅よりも振幅(電圧)が小さくなるように基準駆動波形を生成することで、吐出された液滴の速度をドットサイズによらずに一定にすることができ、小滴の滴量と大滴の滴量との差を大きくすることができる。
本実施形態では、各吐出パルス102の電圧を50V、48V、42Vとしたが、この電圧値はインクの組成に応じて適宜決めればよく、各吐出パルス102の振幅が時間的に前の吐出パルスの振幅よりも小さければよい。また、各吐出パルス102の形状は、パルス幅、傾き(立ち上がり時間、立ち下がり時間)等のパラメータを適宜変更してもよい。さらに、台形形状に限定されず、矩形波、三角波などを適用することも可能である。
また、ここでは第1の吐出パルス102―1の始端から第2の吐出パルス102―2の始端までの時間間隔、及び第2の吐出パルス102―2の始端から第3の吐出パルス102―3の始端までの時間間隔をともにTCとしているが、この時間間隔はTCに限定されるものではなく、後から吐出した液滴を先に吐出した液滴に合一できればよい。
さらに、本実施形態では、最小のドットサイズである小滴を形成する場合に、吐出パルスが1つだけ選択される態様を例示したが、小滴を形成する場合に複数の吐出パルスが選択される態様も可能である。また、本例では3種類のドットサイズを選択可能な態様を例示したが、ドットサイズは2種類でもよいし、4種類以上あってもよい。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る駆動信号について説明する。図9(a)は、本実施形態に係る基準駆動波形200の1吐出周期分を模式的に示した図であり、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。
同図に示す基準駆動波形200は、第1の吐出パルス202−1、第2の吐出パルス202−2、第3の吐出パルス202−3の順にそれぞれ所定の時間間隔をおいて設けられている。
各吐出パルス202は台形形状を有しており、パルス幅はヘルムホルツ周期TCの1/2である。
また、各吐出パルス202の振幅は、基準駆動波形200の後になるほど小さくなるように設定されている。ここでは、第1の吐出パルス202―1の振幅を50V、第2の吐出パルス202―2の振幅を45V、第3の吐出パルス202―3の振幅を40Vとしている。
また、第1の吐出パルス202―1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔及び第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔は、基準駆動波形200の後になるほどヘルムホルツ周期TCに近づくように設定されている。
ここでは、第1の吐出パルス202―1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔はヘルムホルツ周期TCの0.8倍、第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔はヘルムホルツ周期TCの0.9倍としている。
第1実施形態と同様に、波形選択信号(不図示)により基準駆動波形200の複数の吐出パルス202のうち、時間的に前のパルスから順にドットサイズに応じた数だけ吐出パルス202を取り除くことにより、各ドットサイズ用の駆動波形を生成する。図9(b)〜図9(d)は、それぞれ基準駆動波形200から生成された小滴用の駆動波形220、中滴用の駆動波形222、及び大滴用の駆動波形224を示している。
なお、打滴対象物上にドットの形成を行わない場合は、波形選択信号により基準駆動波形200の全ての波形を選択せず、駆動信号をLレベルに維持しておく。
本実施形態におけるパルス数(ドットサイズ)と液滴の速度の関係を図10に、ドットサイズと滴量の関係を図11に示す。これらのデータは、図6、図7の場合と同様に、吐出ノズル数が256、吐出周波数が2kHzの条件で取得したものである。
また、図10、図11には、比較のため、図12に示す波形を用いて同様の制御を行った場合の各ドットサイズの液滴の速度と適量を同時に示している。
図12(a)に示すように、比較例の基準駆動波形200´は、第1の吐出パルス202―1´、第2の吐出パルス202―2´、及び第3の吐出パルス202―3´がともにパルス幅TC/2、振幅50Vの台形形状であり、第1の吐出パルス202−1´の始端から第2の吐出パルス202―2´の始端までの時間間隔がTC×0.8、第2の吐出パルス202―2´の始端から第3の吐出パルス202―3の´始端までの時間間隔がTC×0.9となっている。すなわち、図9に示す本実施形態の基準駆動波形200とは、各吐出パルス202の電圧が一定となっているところが異なっている。
この基準駆動波形200´を用いて、図示しない波形選択信号により、図12(b)に示す小滴用の駆動波形220´、図12(c)に示す中滴用の駆動波形222´、図12(d)に示す大滴用の駆動波形224´を生成し、各ドットサイズの液滴の速度と適量を取得した。
図10に示すように、本実施形態の基準駆動波形200を用いた場合には、小滴、中滴、大滴の液滴の速度をそれぞれ約6.5m/secで一定とすることができた。
また、図11に示すように、本実施形態の基準駆動波形200を用いた場合には、比較例の基準駆動波形200´を用いた場合と比較して、小滴の滴量と中滴の滴量との差、及び中滴の滴量と大滴の滴量との差を大きくすることができる。
このように、吐出パルスの間隔を基準駆動波形の後に行くにつれてTCにだんだん近づくようにすることにより、後から吐出される液滴の方がメニスカス振動を利用して効率よく吐出することができる。そのため、後から吐出される液滴を低い電圧で吐出することができるので、液滴の体積(液量)を小さくすることができる。その結果、大滴と小滴の滴量の差を大きくすることができる。
本実施形態では、第1の吐出パルス202−1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔をTCの0.8倍、第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔をTCの0.9倍としたが、この比率は適宜変更してもよい。また、基準駆動波形200の後になるほど小さくなりながらヘルムホルツ周期TCに近づくようにしてもよい。
例えば、第1の吐出パルス202―1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの1.2倍であり、第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの1.1倍であってもよい。
さらに、第1の吐出パルス202―1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの1.2倍であり、第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの0.9倍であるようにしてもよいし、第1の吐出パルス202―1の始端から第2の吐出パルス202―2の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの0.8倍であり、第2の吐出パルス202―2の始端から第3の吐出パルス202―3の始端までの時間間隔がヘルムホルツ周期TCの1.1倍であるようにしてもよい。
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る駆動信号について説明する。図13(a)は、本実施形態に係る基準駆動波形240の1吐出周期分を模式的に示した図であり、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。
同図に示す基準駆動波形240は、第1の吐出パルス242−1、第2の吐出パルス242−2、第3の吐出パルス242−3の順にそれぞれ所定の時間間隔をおいて設けられている。
各吐出パルス242は台形形状を有しており、そのパルス幅は基準駆動波形200の後になるほど小さく、かつヘルムホルツ周期TC/2に近づくように設定されている。ここでは、第1の吐出パルス242−1のパルス幅をTC/1.8、第2の吐出パルス242−2のパルス幅をTC/1.9、第3の吐出パルス242−3のパルス幅をTC/2としている。
また、各吐出パルス242の振幅は、基準駆動波形240の後になるほど小さくなるように設定されている。ここでは、第1の吐出パルス242―1の振幅を50V、第2の吐出パルス242―2の振幅を45V、第3の吐出パルス242―3の振幅を40Vとしている。
また、第1の吐出パルス242―1の始端から第2の吐出パルス242―2の始端までの時間間隔、及び第2の吐出パルス242―2の始端から第3の吐出パルス242―3の始端までの時間間隔は、ともにヘルムホルツ周期TCとしている。
これまでと同様に、波形選択信号(不図示)により基準駆動波形240の複数の吐出パルス242のうち、時間的に前の吐出パルス242から順にドットサイズに応じた数だけ取り除くことにより、各ドットサイズ用の駆動波形を生成する。図13(b)〜図13(d)は、それぞれ基準駆動波形240から生成された小滴用の駆動波形260、中滴用の駆動波形262、及び大滴用の駆動波形264を示している。
なお、打滴対象物上にドットの形成を行わない場合は、波形選択信号により基準駆動波形240の全ての波形を選択せず、駆動信号をLレベルに維持しておく。
本実施形態におけるパルス数(ドットサイズ)と液滴の速度の関係を図14に、ドットサイズと滴量の関係を図15に示す。これらのデータは、図6、図7の場合と同様に、吐出ノズル数が256、吐出周波数が2kHzの条件で取得したものである。
また、図14、図15には、比較のため、図16に示す波形を用いて同様の制御を行った場合の各ドットサイズの液滴の速度と適量を同時に示している。
図16(a)に示すように、比較例の基準駆動波形240´は、第1の吐出パルス242―1´、第2の吐出パルス242―2´、及び第3の吐出パルス242―3´がともに振幅50Vの台形形状であり、そのパルス幅はそれぞれTC/1.8、TC/1.9、TC/2となっている。
また、第1の吐出パルス242−1´の始端から第2の吐出パルス242―2´の始端までの時間間隔、及び第2の吐出パルス242―2´の始端から第3の吐出パルス242―3の´始端までの時間間隔はともにTCとなっている。すなわち、図13に示す本実施形態の基準駆動波形240とは、各吐出パルス242の電圧が一定となっているところが異なっている。
この基準駆動波形240´を用いて、図示しない波形選択信号により、図16(b)に示す小滴用の駆動波形260´、図16(c)に示す中滴用の駆動波形262´、図16(d)に示す大滴用の駆動波形264´を生成し、各ドットサイズの液滴の速度と適量を取得した。
図14に示すように、本実施形態の基準駆動波形240を用いた場合には、小滴、中滴、大滴の液滴の速度を、それぞれ約6.5m/secで一定とすることができた。
また、図15に示すように、本実施形態の基準駆動波形240を用いた場合には、比較例の基準駆動波形240´を用いた場合と比較して、小滴の滴量と中滴の滴量との差、及び中滴の滴量と大滴の滴量との差を大きくすることができる。
このように、吐出パルスの幅を基準駆動波形の後ほど小さくなりながらTC/2に近づくようにすることで、先に吐出される液滴の大きさを大きくすることができる。そのため、大滴のように先に吐出される液滴を使用する液滴の体積を大きくすることができる。その結果、大滴と小滴の適量の差を大きくすることができる。
〔インクジェットシステムへの適用例〕
次に、上述したインクジェット吐出装置がオンデマンド形式のインクジェット記録装置(オンデマンド形式のインクジェットシステム)へ適用された場合について説明する。
(インクジェット記録装置の全体構成の説明)
図17は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した構成図である。同図に示すインクジェット記録装置310は、色材を含有するインクと該インクを凝集させる機能を有する凝集処理液を用いて、所定の画像データに基づいて記録媒体314の記録面に画像を形成する2液凝集方式の記録装置である。
インクジェット記録装置310は、主として、給紙部320、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360、及び排出部370を備えて構成される。処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360の前段に搬送される記録媒体314の受け渡しを行う手段として渡し胴332,342,352,362が設けられるとともに、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360のそれぞれに記録媒体314を保持しながら搬送する手段として、ドラム形状を有する圧胴334,344,354,364が設けられている。
渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364は、外周面の所定位置に記録媒体314の先端部(又は後端部)を挟んで保持するグリッパー380A,380Bが設けられている。グリッパー380Aとグリッパー380Bにおける記録媒体314の先端部を挟んで保持する構造、及び他の圧胴又は渡し胴に備えられるグリッパーとの間で記録媒体314の受け渡しを行う構造を同一であり、かつ、グリッパー380Aとグリッパー380Bは、圧胴334の外周面の圧胴334の回転方向について180°移動させた対称位置に配置されている。
グリッパー380A,380Bにより記録媒体314の先端部を狭持した状態で渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364を所定の方向に回転させると、渡し胴332,342,352,362及び圧胴334,344,354,364の外周面に沿って記録媒体314が回転搬送される。
なお、図17中、圧胴334に備えられるグリッパー380A,380Bのみ符号を付し、他の圧胴及び渡し胴のグリッパーの符号は省略する。
給紙部320に収容されている記録媒体(枚葉紙)314が処理液塗布部330に給紙されると、圧胴334の外周面に保持された記録媒体314の記録面に、凝集処理液(以下、単に「処理液」と記載することがある。)が付与される。なお、「記録媒体314の記録面」とは、圧胴334,344,354,364の保持された状態における外側面であり、圧胴334,344,354,364に保持される面と反対面である。
その後、凝集処理液が付与された記録媒体314は描画部340に送出され、描画部340において記録面の凝集処理液が付与された領域に色インクが付与され、所望の画像が形成される。
さらに、該色インクによる画像が形成された記録媒体314は乾燥処理部350に送られ、乾燥処理部350において乾燥処理が施されるとともに、乾燥処理後に定着処理部360に送られ、定着処理が施される。乾燥処理及び定着処理が施されることで、記録媒体314上に形成された画像が堅牢化される。このようにして、記録媒体314の記録面に所望の画像が形成され、該画像が記録媒体314の記録面に定着した後に、排出部370から装置外部に搬送される。
以下、インクジェット記録装置310の各部(給紙部320、処理液塗布部330、描画部340、乾燥処理部350、定着処理部360、排出部370)について詳細に説明する。
(給紙部)
給紙部320は、給紙トレイ322と不図示の送り出し機構が設けられ、記録媒体314は給紙トレイ322から一枚ずつ送り出されるように構成されている。給紙トレイ322から送り出された記録媒体314は、渡し胴(給紙胴)332のグリッパー(不図示)の位置に先端部が位置するように不図示のガイド部材によって位置決めされて一旦停止する。
(処理液塗布部)
処理液塗布部330は、給紙胴332から受け渡された記録媒体314を外周面に保持して記録媒体314を所定の搬送方向へ搬送する圧胴(処理液ドラム)334と、処理液ドラム334の外周面に保持された記録媒体314の記録面に処理液を付与する処理液塗布装置336と、含んで構成されている。処理液ドラム334を図17における反時計回りに回転させると、記録媒体314は処理液ドラム334の外周面に沿って反時計回り方向に回転搬送される。
図17に示す処理液塗布装置336は、処理液ドラム334の外周面(記録媒体保持面)と対向する位置に設けられている。処理液塗布装置336の構成例として、処理液が貯留される処理液容器と、処理液容器の処理液に一部が浸漬され、処理液容器内の処理液を汲み上げる汲み上げローラと、汲み上げローラにより汲み上げられた処理液を記録媒体314上に移動させる塗布ローラ(ゴムローラ)と、を含んで構成される態様が挙げられる。
なお、該塗布ローラを上下方向(処理液ドラム334の外周面の法線方向)に移動させる塗布ローラ移動機構を備え、該塗布ローラとグリッパー380A,380Bとの衝突を回避可能に構成する態様が好ましい。
処理液塗布部330により記録媒体314に付与される処理液は、描画部340で付与されるインク中の色材(顔料)を凝集させる色材凝集剤を含有し、記録媒体314上で処理液とインクとが接触すると、インク中の色材と溶媒との分離が促進される。
処理液塗布装置336は、記録媒体314に塗布される処理液量を計量しながら塗布することが好ましく、記録媒体314上の処理液の膜厚は、描画部340から打滴されるインク液滴の直径より十分に小さくすることが好ましい。
(描画部)
描画部340は、記録媒体314を保持して搬送する圧胴(描画ドラム)344と、記録媒体314を描画ドラム344に密着させるための用紙抑えローラ346と、記録媒体314にインクを付与するインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yを備えている。なお、描画ドラム344の基本構造は、先に説明した処理液ドラム334と共通しているので、ここでの説明は省略する。
用紙抑えローラ346は、描画ドラム344の外周面に記録媒体314を密着させるためのガイド部材であり、描画ドラム344の外周面に対向し、渡し胴342と描画ドラム344との記録媒体314の受渡位置よりも記録媒体314の搬送方向下流側であり、且つ、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yよりも記録媒体314の搬送方向上流側に配置される。
渡し胴342から描画ドラム344に受け渡された記録媒体314は、グリッパー(符号省略)によって先端が保持された状態で回転搬送される際に、用紙抑えローラ346によって押圧され、描画ドラム344の外周面に密着する。このようにして、記録媒体314を描画ドラム344の外周面に密着させた後に、描画ドラム344の外周面から浮き上がりのない状態で、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの直下の印字領域に送られる。
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yはそれぞれ、マゼンダ(M)、黒(K)、シアン(C)、イエロー(Y)の4色のインクに対応しており、描画ドラム344の回転方向(図17における反時計回り方向)に上流側から順に配置されるとともに、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのインク吐出面(ノズル面、図5に符号114Aを付して図示する。)が描画ドラム344に保持された記録媒体314の記録面と対向するように配置される。なお、「インク吐出面(ノズル面)」とは、記録媒体314の記録面と対向するインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの面であり、後述するインクが吐出されるノズル(図4に符号108を付して図示する。)が形成される面である。
また、図17に示すインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは、描画ドラム344の外周面に保持された記録媒体314の記録面とインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのノズル面が略平行となるように、水平面に対して傾けられて配置されている。
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは、記録媒体314における画像形成領域の最大幅(記録媒体314の搬送方向と直交する方向の長さ)に対応する長さを有するフルライン型のヘッドであり、記録媒体314の搬送方向と直交する方向に延在するように固定設置される。
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yのノズル面には、記録媒体314の画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルがマトリクス配置されて形成されている。
記録媒体314がインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの直下の印字領域に搬送されると、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yから記録媒体314の凝集処理液が付与された領域に画像データに基づいて各色のインクが吐出(打滴)される。
インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yから、対応する色インクの液滴が、描画ドラム344の外周面に保持された記録媒体314の記録面に向かって吐出されると、記録媒体314上で処理液とインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料系色材)又は不溶化する色材(染料系色材)の凝集反応が発現し、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体314上に形成された画像における色材の移動(ドットの位置ズレ、ドットの色ムラ)が防止される。
また、描画部340の描画ドラム344は、処理液塗布部330の処理液ドラム334に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yに処理液が付着することがなく、インクの吐出異常の要因を低減することができる。
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
図1〜図16を用いて説明したインクジェット吐出装置10は、図17に図示されたインクジェット記録装置における描画部340に適用される。
(乾燥処理部)
乾燥処理部350は、画像形成後の記録媒体314を保持して搬送する圧胴(乾燥ドラム)354と、該記録媒体314上の水分(液体成分)を蒸発させる乾燥処理を施す溶媒乾燥装置356を備えている。なお、乾燥ドラム354の基本構造は、先に説明した処理液ドラム334及び描画ドラム344と共通しているので、ここでの説明は省略する。
溶媒乾燥装置356は、乾燥ドラム354の外周面に対向する位置に配置され、記録媒体314に存在する水分を蒸発させる処理部である。描画部340により記録媒体314にインクが付与されると、処理液とインクとの凝集反応により分離したインクの液体成分(溶媒成分)及び処理液の液体成分(溶媒成分)が記録媒体314上に残留してしまうので、かかる液体成分を除去する必要がある。
溶媒乾燥装置356は、ヒータによる加熱、ファンによる送風、又はこれらを併用して記録媒体314上に存在する液体成分を蒸発させる乾燥処理を施し、記録媒体314上の液体成分を除去するための処理部である。記録媒体314に付与される加熱量及び送風量は、記録媒体314上に残留する水分量、記録媒体314の種類、及び記録媒体314の搬送速度(干渉処理時間)等のパラメータに応じて適宜設定される。
溶媒乾燥装置356による乾燥処理が行われる際に、乾燥処理部350の乾燥ドラム354は、描画部340の描画ドラム344に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yにおいて、熱又は送風によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの吐出異常の要因を低減することができる。
記録媒体314のコックリングの矯正効果を発揮させるために、乾燥ドラム354の曲率を0.002(1/mm)以上とするとよい。また、乾燥処理後の記録媒体の湾曲(カール)を防止するために、乾燥ドラム354の曲率を0.0033(1/mm)以下とするとよい。
また、乾燥ドラム354の表面温度を調整する手段(例えば、内蔵ヒータ)を備え、該表面温度を50℃以上に調整するとよい。記録媒体314の裏面から加熱処理を施すことによって乾燥が促進され、次段の定着処理時における画像破壊が防止される。かかる態様において、乾燥ドラム354の外周面に記録媒体314を密着させる手段を具備するとさらに効果的である。記録媒体314を密着させる手段の一例として、真空吸着、静電吸着などが挙げられる。
なお、乾燥ドラム354の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム354の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
このように構成された乾燥ドラム354の外周面に、記録媒体314の記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体314の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥処理を施すことで、記録媒体314のシワや浮きに起因する乾燥ムラが確実に防止される。
(定着処理部)
定着処理部360は、記録媒体314を保持して搬送する圧胴(定着ドラム)364と、画像形成がされ、さらに、液体が除去された記録媒体314に加熱処理を施すヒータ366と、該記録媒体314を記録面側から押圧する定着ローラ368と、を備えて構成される。なお、定着ドラム364の基本構造は処理液ドラム334、描画ドラム344、及び乾燥ドラム354と共通しているので、ここでの説明は省略する。ヒータ366及び定着ローラ368は、定着ドラム364の外周面に対向する位置に配置され、定着ドラム364の回転方向(図17において反時計回り方向)の上流側から順に配置される。
定着処理部360では、記録媒体314の記録面に対してヒータ366による予備加熱処理が施されるとともに、定着ローラ368による定着処理が施される。ヒータ366の加熱温度は記録媒体の種類、インクの種類(インクに含有するポリマー微粒子の種類)などに応じて適宜設定される。例えば、インクに含有するポリマー微粒子のガラス転移点温度や最低造膜温度とする態様が考えられる。
定着ローラ368は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体314を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ368は、定着ドラム364に対して圧接するように配置されており、定着ドラム364との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体314は、定着ローラ368と定着ドラム364との間に挟まれ、所定のニップ圧でニップされ、定着処理が行われる。
定着ローラ368の構成例として、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成する態様が挙げられる。かかる加熱ローラで記録媒体314を加熱することによって、インクに含まれるポリマー微粒子のガラス転移点温度以上の熱エネルギーが付与されると、該ポリマー微粒子が溶融して画像の表面に透明の被膜が形成される。
この状態で記録媒体314の記録面に加圧を施すと、記録媒体314の凹凸に溶融したポリマー微粒子が押し込み定着されるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、好ましい光沢性を得ることができる。なお、画像層の厚みやポリマー微粒子のガラス転移点温度特性に応じて、定着ローラ368を複数段設けた構成も好ましい。
また、定着ローラ368の表面硬度は71°以下であることが好ましい。定着ローラ368の表面をより軟質化することで、コックリングにより生じた記録媒体314の凹凸に対して追随効果を期待でき、記録媒体314の凹凸に起因する定着ムラがより効果的に防止される。
図17に示すインクジェット記録装置310は、定着処理部360の処理領域の後段(記録媒体搬送方向の下流側)には、インラインセンサ382が設けられている。インラインセンサ382は、記録媒体314に形成された画像(又は記録媒体314の余白領域に形成されたチェックパターン)を読み取るためのセンサであり、CCDラインセンサが好適に用いられる。
本例に示すインクジェット記録装置310は、インラインセンサ382の読取結果に基づいてインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yの吐出異常の有無が判断される(詳細後述)。また、インラインセンサ382は、水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段を含む態様も可能である。かかる態様において、水分量、表面温度、光沢度の読取結果に基づいて、乾燥処理部350の処理温度や定着処理部360の加熱温度及び加圧圧力などのパラメータを適宜調整し、装置内部の温度変化や各部の温度変化に対応して、上記制御パラメータが適宜調整される。
(排出部)
図17に示すように、定着処理部360に続いて排出部370が設けられている。排出部370は、張架ローラ372A,372Bに巻きかけられた無端状の搬送ベルト374と、画像形成後の記録媒体314が収容される排出トレイ376と、を備えて構成されている。
定着処理部360から送り出された定着処理後の記録媒体314は、搬送ベルト374によって搬送され、排出トレイ376に排出される。
(インクジェットヘッドの構造の説明)
図18は、本発明に適用されるインクジェットヘッドの概略構成図であり、同図はインクジェットヘッドから記録媒体の記録面を見た図(ヘッドの平面透視図)となっている。なお、図17に図示したインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yは同一構造を有しているので、以下の説明ではインクジェットヘッド348M,348K,348C,348Yを区別する必要がない場合は、これらを総称して「インクジェットヘッド348」と記載する。
同図に示すインクジェットヘッド348は、n個のサブヘッド348‐i(iは1からnの整数)を一列につなぎ合わせてマルチヘッドを構成している。また、各サブヘッド348‐iは、インクジェットヘッド348の短手方向の両側からヘッドカバー349A,349Bによって支持されている。なお、サブヘッド348を千鳥状に配置してマルチヘッドを構成することも可能である。
複数のサブヘッドにより構成されるマルチヘッドの適用例として、記録媒体の全幅に対応したフルライン型ヘッドが挙げられる。フルライン型ヘッドは、記録媒体の移動方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に沿って、記録媒体の主走査方向における長さ(幅)に対応して、複数のノズル(図20に符号108を付して図示する。)が並べられた構造を有している。かかる構造を有するインクジェットヘッド348と記録媒体とを相対的に一回だけ走査させて画像記録を行う、いわゆるシングルパス画像記録方式により、記録媒体の全面にわたって画像を形成し得る。
図19は、インクジェットヘッド348の一部拡大図である。同図に示すように、サブヘッド348は、略平行四辺形の平面形状を有し、隣接するサブヘッド間にオーバーラップ部が設けられている。オーバーラップ部とは、サブヘッドのつなぎ部分であり、サブヘッド348‐iの並び方向(図18における左右方向、図19に図示する主走査方向X)に隣接するドットが異なるサブヘッドに属するノズルによって形成される。
図20は、サブヘッド348‐iのノズル配列を示す平面図である。同図に示すように、各サブヘッド348‐iは、ノズル328が二次元状に並べられた構造を有し、かかるサブヘッド348‐iを備えたヘッドは、いわゆるマトリクスヘッドと呼ばれるものである。
図20に示したサブヘッド348‐iは、副走査方向Yに対して角度αをなす列方向W、及び主走査方向Xに対して角度βをなす行方向Vに沿って多数のノズル328が並べられた構造を有し、主走査方向Xの実質的なノズル配置密度が高密度化されている。図20では、行方向Vに沿って並べられたノズル群(ノズル行)は符号328Vを付し、列方向Wに沿って並べられたノズル群(ノズル列)は符号328Wを付して図示されている。
かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル328が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
図18〜図20に示す構造を有するインクジェットヘッド348は、図2に図示した液滴吐出素子(記録素子)を図20に示す如く、主走査方向Xと角度βをなす行方向V及び副走査方向Yに対して角度αをなす列方向Wに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
(制御系の説明)
図21は、インクジェット記録装置310のシステム構成を示すブロック図である。図21に示すように、インクジェット記録装置310は、通信インターフェース440、システム制御部442を備え、システム制御部442により装置各部の統括的な制御が行われる。
通信インターフェース440は、ホストコンピュータ454から送られてくる画像データを受信するインターフェース部(画像入力手段)である。通信インターフェース440にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
システム制御部442は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置310の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。また、搬送制御部444、画像処理部446、ヘッド駆動部448などを制御する制御信号を生成し、画像メモリ450、ROM452のメモリコントローラとしての機能を有している。
画像処理部446は、画像データに所定の処理を施す処理ブロックであり、画像処理機能を有するプロセッサが含まれる。ホストコンピュータ454から送出された画像データは通信インターフェース440を介してインクジェット記録装置310に取り込まれ、一旦画像メモリ450に記憶される。画像メモリ450は、通信インターフェース440を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システム制御部442を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ450は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
画像メモリ450には、システム制御部442のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データ(テストチャートを打滴するためのデータ、異常ノズル情報などを含む)が格納されている。画像メモリ450は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。
不図示の一時記憶部は、画像データや各種データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
画像処理部446は、システム制御部442の制御に従い、画像メモリ内の画像データ(多値の入力画像のデータ)から打滴制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理手段として機能する。画像処理部446により生成された打滴制御用の信号(インク吐出データ)はヘッド駆動部448へ供給される。
すなわち、画像処理部446は、濃度データ生成部、補正処理部、インク吐出データ生成部といった機能ブロックを含んで構成される。これら各機能ブロックは、ASICやソフトウエア又は適宜の組み合わせによって実現可能である。
濃度データ生成部は、入力画像のデータからインク色別の初期の濃度データを生成する信号処理手段であり、濃度変換処理(UCR処理や色変換を含む)及び必要な場合には画素数変換処理を行う。補正処理部は、濃度補正係数を用いて濃度補正の演算を行う処理手段であり、ムラ補正処理を行う。
インク吐出データ生成部は、補正処理部で生成された補正後の画像データ(濃度データ)から2値又は多値のドットデータに変換するハーフトーニング処理手段を含む信号処理手段であり、二値(多値)化処理を行う。ハーフトーン処理の手段としては、誤差拡散法、ディザ法、閾値マトリクス法、濃度パターン法など、各種公知の手段を適用できる。ハーフトーン処理は、一般に、M値(M≧3)の階調画像データをMよりも小さい二値又は多値の階調画像データに変換する。最も単純な例では、二値(ドットのオン/オフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、上記の実施形態のようにドットサイズの種類(例えば、大サイズ、中サイズ、小サイズなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことができる。
画像処理部446には不図示の画像バッファメモリが備えられており、画像処理部446における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。なお、画像バッファメモリは画像処理部446に付随する態様でもよいし、画像メモリと兼用することも可能である。また、画像処理部446はシステム制御部442と統合されて、1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
画像処理部446(インク吐出データ生成部)で生成されたインク吐出データはヘッド駆動部448に与えられ、インクジェットヘッド348のインク吐出動作が制御される。
ヘッド駆動部448は、インクジェットヘッド348の吐出駆動を制御する手段として機能し、インクジェットヘッド348の各ノズル328に対応したアクチュエータ(図5に図示した圧電アクチュエータ16)を駆動するための駆動信号波形を生成する駆動波形発生部が含まれる。駆動波形発生部から出力される信号は、デジタル波形データであってもよいし、アナログ電圧信号であってもよい。かかる駆動波形発生部は図1の波形発生部18に対応している。
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース440を介して外部から入力され、画像メモリに蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの多値の画像データが画像メモリに記憶される。
インクジェット記録装置310では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリに蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システム制御部442を介して画像処理部446に送られ、濃度データ生成部、補正処理部、インク吐出データ生成部による処理を経てインク色ごとのドットデータに変換される。
すなわち、画像処理部446は、入力されたRGB画像データをM,K,C,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして画像処理部446で生成されたドットデータは、画像バッファメモリに蓄えられる。この色別ドットデータは、インクジェットヘッド348のノズルからインクを吐出するためのMKCY打滴データに変換され、印字されるインク吐出データ(各ノズルの駆動タイミングと各ノズルにおける駆動タイミングごとのドットサイズ(吐出量))が確定する。
かかる画像処理部446における処理は、図1の波形選択部20の処理及びノズル選択部22の処理に対応している。すなわち、図1の図1の波形選択部20及びノズル選択部22は、図21の画像処理部446の一機能に対応している。
ヘッド駆動部448は、インク吐出データ及び駆動信号(駆動波形)に基づき、印字内容に応じてインクジェットヘッド348の各ノズル328に対応するアクチュエータ132を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッド駆動部448にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。図21に図示されているヘッド駆動部448は、図1に図示したヘッド駆動部24に対応している。
こうして、ヘッド駆動部448から出力された駆動信号がインクジェットヘッド348に加えられることによって、該当するノズル328からインクが吐出される。記録媒体314の搬送速度に同期してインクジェットヘッド348からのインク吐出を制御することにより、記録媒体314上に画像が形成される。
上記のように、画像処理部446における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッド駆動部448を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
図21に図示したインライン検出部470は、ノズル検知パターンの読み取り、読取データの処理、異常ノズルの判断の処理を経て、異常ノズルに関する情報をシステム制御部442へ提供する機能ブロックである。インライン検出部470は図17に図示したインラインセンサ382が含まれる。
システム制御部442は、インライン検出部470から得られる異常ノズルに関する情報や、その他の情報に基づいてインクジェットヘッド348に対する各種補正を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
図示を省略するが、クリーニング動作を実行する手段として、インク受け、吸引キャップ、吸引ポンプ、ワイパーブレードなど、ヘッドメンテナンスに必要な部材を含んで構成されるメンテナンス処理部が備えられている。
また、ユーザインターフェースとしての操作部を備え、該操作部はオペレータ(ユーザ)が各種入力を行うための入力装置468と表示部(ディスプレイ)466を含んで構成される。入力装置468には、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタンなど各種形態を採用し得る。オペレータは、入力装置468を操作することにより、印刷条件の入力、画質モードの選択、付属情報の入力・編集、情報の検索などを行うことができ、入力内容や検索結果など等の各種情報は表示部466の表示を通じて確認することができる。この表示部466はエラメッセージなどの警告を表示する手段としても機能する。
本実施形態のインクジェット記録装置310は、複数の画質モードを有しており、ユーザの選択操作により、または、プログラムによる自動選択により、画質モードが設定される。この設定された画質モードで要求される出力画質レベルに応じて、異常ノズルを判断する基準が変更される。要求品質が高いほど、判定基準は厳しい方向に設定される。
各画質モードの印刷条件並びに異常ノズル判定基準に関する情報は画像メモリ450に格納されている。
なお、本例に説明したインクジェット記録装置310は、高画質モードでは小サイズドットを用いた画像記録が実行され、通常モードや高速記録モードでは中サイズドット及び大サイズドットが用いられた画像記録が実行されるように構成されている。つまり、高品質の画像形成は小サイズドットが高密度に配置されるので、サテライトの発生によるドット形状の変形が問題となり、吐出の後にサテライトの発生を抑制することでサテライトの発生によるドットの変形が回避され、高精細なドットが形成される。
一方、通常モードや高速モードでは、中サイズドットや大サイドットが用いられた短いサイクルの連続吐出が行われるので、吐出後のメニスカスの振動が問題となる。かかる高速(通常)モードでは、メニスカス静定波形の作用により吐出後のメニスカスの振動が素早く収束し、短いサイクルの連続吐出におけるノズル抜け等の不具合が防止される。
なお、本例の変形例として、中サイズドットに対応する吐出パルスの後にサテライト抑制波形が印加されるように基準駆動波形を変形して、中サイズドットが形成される場合の吐出において、サテライトの発生を抑制するように構成する態様も可能である。
〔他の装置への応用例〕
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルタ製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得るインクジェットシステムにも広く適用できる。