JP5587959B2 - 光ファイバ母材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、長手方向に均一な空孔を有する光ファイバ母材の製造方法に関する。
光ファイバの技術進歩に伴い、特殊な構造を有する光ファイバが実現されるようになって来た(特許文献1〜11参照)。上記特殊な構造を有する光ファイバとして、図25に示すものがある。同図(a)の空孔アシストファイバ、同図(b)のフォトニック結晶型ファイバ、同図(c)のマルチコアファイバ、そして同図(d)のパンダファイバ(PANDA(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)ファイバ)である。これらの光ファイバは、光ファイバ母材を製造する工程が他の一般的な光ファイバに比して複雑で非常に手間とコストのかかる複数の加工処理工程から成る。
すなわち、上記空孔アシストファイバは次のように製造される。まずVAD法(気相軸付け法:Vapor phase Axial Deposition method)でコア38と、その外周を覆うクラッド39を形成することにより第1の母材が製造される。次いでその第1の母材のクラッド39内に該母材の長手方向に延びる複数の貫通孔40をドリルを用いて、あるいは超音波で切削することにより形成し、第2の母材(貫通孔付き第1の母材)が製造される。その後に上記第2の母材の洗浄、脱水、乾燥工程を経て空孔アシストファイバ母材を完成させ、その後に該母材を線引きして空孔アシストファイバを得る。
フォトニック結晶型ファイバも空孔アシストファイバと同様に、まずはVAD法でコア38と、その外周を覆うクラッド39を形成して第1の母材が製造される。次いでその第1母材のクラッド39内に該母材の長手方向に延びる数十個以上の貫通孔40をドリルを用いて、あるいは超音波で切削することによって形成し、第2の母材(貫通孔付き第1の母材)を製造する。その後に上記第2の母材の洗浄、脱水、乾燥、加熱工程を経てフォトニック結晶型ファイバ用母材とし、その後に該母材を線引きしてフォトニック結晶型ファイバを得る。フォトニック結晶型ファイバの別の製造方法として、複数本のガラス細管を束ねたものを線引きして一体化する方法も用いられている。
マルチコアファイバでは、まずVAD法でSiOロッドからなる第1の母材が製造される。次いで、その第1の母材に所望間隔をおいて長手方向に延びる複数の貫通孔を、上記したように、ドリルを用いて、あるいは超音波で切削することによって形成して第2の母材(貫通孔付きガラス成形体)を製造する。この第2の母材では第1の母材の部分がクラッド39となる。その後に上記第2の母材の洗浄、脱水、乾燥、加熱工程を経て上記貫通孔の中に別の工程で製造しておいたコア母材38−1〜38−7を挿入後、融着してマルチコアファイバ用母材とし、この母材を線引きしてマルチコアファイバが製造される。
パンダファイバも、非特許文献1によればVAD法でコア38と、その外周を覆うクラッド39を形成して第1の母材が製造される。次いでその第1の母材のコア38の両サイドに機械研削によって該母材の長手方向に延びる貫通孔を形成して第2の母材とし、その後に上記第2の母材の洗浄、脱水、乾燥、加熱工程を経た後に上記貫通孔内にあらかじめ製造しておいた、Bを添加したSiOガラスからなる応力付与部となるガラスロッド41−1、41−2を挿入し、高温加熱処理を施して上記第2の母材とロッドを融着、一体化してパンダファイバ用母材が製造される。その後に上記パンダファイバ用母材を線引きしてパンダファイバが得られる。
特開2003-040637号公報 特開2003-342031号公報 特開2003-342032号公報 特開2004-339004号公報 特開2005-263576号公報 特開2006-044950号公報 特開2006-069871号公報 特開2007-072251号公報 特開2008-310034号公報 特開2009-149470号公報 特開2010-173917号公報
荒井、他:偏波保持光ファイバ、古川電工時報、Vol.109、pp.5-10、平成14年1月
このように上記光ファイバはいずれも光ファイバ母材の製造工程の段階において複雑で非常に手間とコストのかかる複数の加工工程を経なければならない。
更に難題は、光ファイバ母材の製造工程における上記加工工程で光損失要因が存在することである。また、第1の母材内に設けるコアを挿入するための貫通孔、クラッド内の屈折率を下げるための貫通孔、フォトニック結晶構造を実現するための貫通孔、応力付与部となるガラスロッドを挿入するための貫通孔、母材外径、の各寸法を高精度に制御して製造することが難しいという問題点がある。さらに、貫通孔の内面表面粗さが大きい、貫通孔の真円度、真直度が良くない、といった問題点もある。
また、長尺の光ファイバを実現するためにはできるだけ長い母材を用いることが望ましい。しかし、ドリルを用いて貫通孔を形成する従来の方法では、50cm以上の長尺の光ファイバ母材(第1の母材)の長手方向に複数の貫通孔を精密に機械的に開けること、それら貫通孔の内面を研磨することは難しい。これは、50cm以上の長さのドリルを寸法精度、真直度、真円度良く製造することは極めてが難しく、しかもドリルを回転させながら第1の母材に貫通孔を開けて行くので、ドリルの長さが長くなるほど回転むらが生じ易く、該ドリルの真直度、真円度が悪いと貫通孔の寸法精度が極めて悪くなるからである。結局のところ、従来は第1の母材の長さを短くして短いドリルで貫通孔を形成し、その代わりに第1の母材の外径を大きくしていた。
しかし、第1の母材の外径を大きくすると、貫通孔を形成した後の光ファイバ母材の線引き工程で大口径の炉心管を備えた高温電気炉を用いる必要がある。このような高温電気炉を用いることは現状では難しく、結局は線引き前に光ファイバ母材を延伸して外径を細くする工程を経なければならなかった。また一本の光ファイバ母材で長尺の光ファイバを実現することも難しかった。さらに付け加えるならば、VAD法で製造した光ファイバ母材の端面は円錐形状をしているために、上記貫通孔を開ける際には第1の母材の上面及び下面を切断、研磨したフラットな面にしなければならず、この切断、研磨に多くの時間がかかり、コスト高になっていた。しかも、第1の母材の上面及び下面をフラットな面にしても貫通孔を高寸法精度でうまく開けることが難しかった。
さらに、マルチコアファイバを製造するためには、光を伝播させるための重要なコア母材を前記貫通孔に挿入しなければならない。また、パンダファイバを製造するためには、応力付与部となるガラスロッドを前記貫通孔に挿入しなければならない。
機械的に開けた複数の貫通孔内にコア母材やガラスロッドを密着性良く挿入するためには該貫通孔を真直度、真円度良く形成しておかなければならない。特に、長尺の光ファイバの場合は、長尺のコア母材及びガラスロッドを長尺の貫通孔に挿入しなければならず、貫通孔をより高真直度、より高真円度に形成する必要がある。また、形成した貫通孔の内面は表面荒れが大きいので、この表面荒れを小さくするために機械的に貫通孔を開けた後にその貫通孔の内面の研磨工程、洗浄工程、脱水工程を行なわなければならない。そして、貫通孔内にコア母材、あるいはガラスロッドを挿入後に貫通孔と当該コア母材、あるいはガラスロッドとの隙間を無くして中実な光ファイバ母材にするために高温で加熱する融着工程を行なわなければならない。特にパンダファイバはファイバを小さな曲げ半径で曲げた場合に貫通孔内の表面荒れが大きな散乱損失を招くので、貫通孔を機械的に開けた後にその貫通孔の内面の研磨工程、洗浄工程、脱水工程を念入りに且つ徹底的に行なわなければならない。そして応力付与部を形成するためのガラスロッドを挿入後に貫通孔と該ガラスロッドとの隙間を無くして中実な母材にするために高温に加熱する融着工程を行なわなければならない。これらの複数の工程には多大な設備とコストがかかる。また、光損失要因を付加させないようにするための上記貫通孔の内面の研磨工程、洗浄工程、脱水工程、融着工程に多大の時間を要する。このようにしても上記洗浄工程でのOH基のファイバへの残留が大きな損失増加の問題になっている。
その次に問題になるのは、各工程中に光損失要因(貫通孔の内面の荒れによる散乱損失の誘因、貫通孔の内面への貫通孔形成工程中に不純物の付着による吸収損失の誘因、コアロッド外周や応力付与部外周への不純物の付着による吸収損失の誘因など)が存在するため、光ファイバにした段階で光損失が増大することである。更に問題なことは、前述したように、50cm以上の長尺の第1の母材にドリルや超音波により貫通孔を開けるには第1の母材の上面あるいは下面をフラットになるように切断、研磨しなければならず、しかも、上面あるいは下面をフラットにしてもその上面側あるいは下面側からドリルや超音波で高い真直度及び真円度、良好な表面平滑度、高い寸法精度の貫通孔を開けることは容易ではないことである。孔開けを行った後で、貫通孔の内面を研磨剤を用いた研磨や化学的なエッチングすることで該貫通孔の寸法精度を高めたり内面の荒れを小さくしたりすることも行われているが、孔径の小さな内面の研磨は極めて難しく、またエッチングでも良好な内面を実現することは難しく、しかもこのような作業も非常に手間がかかる。要するに、長尺の光ファイバ母材の長手方向に高寸法精度で面荒れが小さく、真直度及び真円度の良い貫通孔を開けることは難しく、結果的に低散乱損失で長尺の光ファイバを実現するのが難しい。
この他、上記VAD法で製造した空孔アシストファイバ、フォトニック結晶型ファイバ、マルチコアファイバ、パンダファイバの各光ファイバ母材のコア径、応力付与部の外径、およびそれらの長手方向の形状を精度良く制御することが難しいといった問題点もある。このように従来の空孔アシストファイバ、フォトニック結晶型ファイバ、マルチコアファイバ、パンダファイバの各光ファイバ母材には散乱損失、表面粗さ、寸法精度の点で多くの課題があった。また、生産性が極めて低い製造方法であるため、製造した光ファイバの価格が非常に高価になっていた。さらに、外径、コア径、および外径とコア径の比、それぞれのコア間隔、空孔径、空孔間隔、応力付与部の位置、それらの間隔などの光ファイバにとって重要な構造パラメータを高寸法精度に制御することが難しく、再現性も低かった。また上記各光ファイバ母材の長尺のものを実現することは難しかった。
そこで、本発明の目的は前記した従来の種々の課題を解決することができる光ファイバ用ガラス成形体およびその製造方法、並びに光ファイバ母材の製造方法を提供するものである。
本願発明の第1の態様は光ファイバ用ガラス成形体の製造方法である。なお、「光ファイバ用ガラス成形体」は、上述の背景技術で述べた「第2の母材」に相当する。
具体的には、コア用金属ロッドを容器内の中心に配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッドを脱離してコア挿入用空孔を形成し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することにより光ファイバ用ガラス成形体を製造する方法である。
上記容器は、フラットな下面を有する上蓋、及びフラットな上面を有する下蓋を備えた、密閉できる構造の金属容器とすることが好ましい。上記製造方法は、種々の光ファイバに用いられるガラス成形体を製造する方法として利用できる。
これに対して、以下に示す製造方法は特殊な構造の光ファイバ用ガラス成形体の製造方法である。
具体的には、本発明の空孔アシストファイバ用ガラス成形体を製造する方法は、
コア用金属ロッドを容器内の中心に配置し、
該コア用金属ロッドを取り囲むように前記コア用金属ロッドよりも外径寸法が小さい、複数本の細径金属ロッドを前記容器内に配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッド並びに前記細径金属ロッドを脱離してコア挿入用空孔及び細径空孔を形成し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することにより空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体を製造する方法である。
また、本発明のマルチコア光ファイバ用ガラス成形体の製造方法は、
複数本のコア用金属ロッドを容器内に所定の間隔をおいて配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッドを脱離して複数のコア挿入用空孔を形成し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することによりマルチコア光ファイバ用ガラス成形体を製造する方法である。
さらにまた、本発明のフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体の製造方法は、
コア用金属ロッドを容器内の中心に配置し、
該コア用金属ロッドを取り囲むように前記コア用金属ロッドよりも外径寸法が小さい複数本の細径金属ロッドを所定の間隔をおいて前記容器内に配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッド並びに細径金属ロッドを脱離してコア挿入用空孔及び細径空孔を形成し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することによりフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体を製造する方法である。
さらにまた、本発明のパンダファイバ用ガラス成形体の製造方法は、
コア用金属ロッドを容器内の中心に配置し、
前記コア用金属ロッドと径の異なる2本の金属ロッドを前記コア用金属ロッドを挟んで両側の前記容器内に配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッド並びに前記金属ロッドを脱離してコア挿入用空孔及び一対の空孔を形成し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することによりパンダファイバ用ガラス成形体を製造する方法である。
本発明の第2の態様は光ファイバ母材の製造方法である。
具体的には、コア用金属ロッドを容器内の中心に配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記容器及び前記コア用金属ロッドを脱離してコア挿入用空孔を形成し、
該固化体を乾燥して多孔質ガラス成形体とし、
前記多孔質ガラス成形体のコア挿入用空孔にコア用ガラスロッドを挿入した後、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱することにより光ファイバ母材を製造する方法である。
また、本願発明の別の光ファイバ母材の製造方法は、外形及び内断面が円形の第1の容器内の中心に、外形が円形で内断面が四角形、又は外形が四角形で内断面が円形であり、内断面が外形に近接する近接部を少なくとも3個有する第2の容器を配置し、
前記第2の容器内の中心にコア用SiO系ガラスを含んだロッドを配置し、
硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記第1の容器と前記第2の容器の間、及び前記第2の容器内に注入し、
前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記第1の容器及び前記第2の容器を脱離し、
該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱することにより光ファイバ母材を製造する方法である。
本願発明の第3の態様は、少なくとも50cm以上の長さを有し、その両端面がフラットな面から成る光ファイバ用ガラス成形体の発明である。
具体的には、SiOクラッド層の中心にコア挿入用空孔を有するガラス成形体であって、その両端面がフラットな面から成り、少なくとも50cmの長さを有する光ファイバ用ガラス成形体において、
前記SiOクラッド層が硬化性樹脂、及びSiO粒子を含む、液体状態のクラッド層用混合液と硬化剤を固化して形成された層であり、前記コア挿入用空孔が前記両端面のうちの一方から他方まで貫通していることを特徴とする光ファイバ用ガラス成形体である。
上記光ファイバ用ガラス成形体においては、前記コア挿入用空孔の内面の表面粗さが3μmよりも小さいことが好ましい。
上記光ファイバ用ガラス成形体は、前記コア挿入用空孔の外周を取り囲むように前記SiOクラッド層に配置された、型抜きにより形成された複数の空孔を有することが好ましい。
また、本発明の光ファイバ用ガラス成形体は、前記空孔が、金属ロッドを抜き型として形成されていることが好ましい。
さらに、本発明の光ファイバ用ガラス成形体は、前記SiOクラッド層の外周面の表面粗さが3μm以下であることが好ましい。
さらにまた、本発明の光ファイバ用ガラス成形体は、前記SiOクラッド層が、前記クラッド層用混合液と硬化剤を自己硬化反応により固化させ、乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱したものであると良い。
また、本発明の光ファイバ用ガラス成形体は、前記SiOクラッド層の外形形状が円形又は四角形であると良い。
また、本発明の光ファイバガラス成形体は、外形形状が円形で中空断面が円形又は四角形のSiOガラス管の該中空断面に、少なくとも3箇所で接するようにSiOクラッド層の母材を配置して成り、該母材の中心に空孔を有する光ファイバ用ガラス成形体であって、前記SiOガラス管及び前記母材が長手方向に少なくとも50cmの長さを有し、且つ前記SiOガラス管及び前記母材の両端面がいずれもフラットな面から成ることを特徴とする。
さらに、本発明の光ファイバガラス成形体は、外形形状が円形で中空断面が円形又は四角形のSiOガラス管の該中空断面に、少なくとも3箇所で接するようにコア用SiO系ガラスを挿入する空孔を有する光ファイバ用ガラス成形体であって、前記SiOガラス管が長手方向に少なくとも50cm以上の長さを有し、その両端面がフラットな面であることを特徴とする。
本発明に係る製造方法では、高い真円度で、且つ鏡面研磨された、長手方向に少なくとも50cm以上(1000cmでも実現可能)の長さを有するコア用金属ロッドをフラットな下面を有する上蓋、及びフラットな上面を有する下蓋を備えた、密閉できる構造の金属容器内の中心に両端で引っ張った状態で真っ直ぐ配置することにより、高い真円度のコア挿入用空孔を形成することができる。しかも、容器、金属ロッドの機械精度を高めることにより、ファイバ用ガラス成形体、コア挿入用空孔を高寸法精度に製造することができる。さらに本発明の製造方法によれば、上記容器のサイズ(円形容器の場合はその内径及び長さ(高さ))を大きくしておくことにより、大口径、長尺(少なくとも長手方向に50cm以上)の光ファイバ用ガラス成形体を容易に製造することができ、これにより長尺の光ファイバを得ることができる。
さらに、コア挿入用空孔を形成するために容器内に配置したコア用金属ロッドの外周にクラッド層用混合液が液体の状態で接して固化することによりSiOクラッド層が形成されるので、該コア用金属ロッドの外周面と前記SiOクラッド層が密着し、且つ、該コア用金属ロッドの外周に均一な成分のSiOクラッド層を分厚く形成することができる。
ここで、上記コア用金属ロッドとして、その外周面が鏡面研磨されることによりその表面粗さが0.2μm以下、好ましくは0.01μmから0.03μmで、かつ高真直度(0.1mm/1000mm)、高真円度(0.05mm/1000mm)の少なくとも50cmのステンレス製のロッドを用いれば、容器内に該ロッドをその両端で引っ張った状態で真っ直ぐ配置してクラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化したときにコア挿入用空孔の内面の表面粗さを長手方向に少なくとも3μm以下にすることができると共に真直度と真円度の両方を優れたものとすることができる。
また容器として、内面が鏡面研磨されて表面粗さが0.2μm以下、好ましくは0.01μmから0.03μmのステンレス製の長尺(少なくとも50cm以上)な容器を用いることによって、SiOクラッド層の外周面の表面粗さも3μm以下の極めて滑らかな状態にすることができる。
これらの構成でフラットな下面を有する上蓋、及びフラットな上面を有する下蓋を備えた、密閉できる構造の金属容器の内径を大きくし、またコア用金属ロッドの外径を大きくすることにより、少なくとも50cm以上の長尺の光ファイバ用ガラス成形体を容易に製造することができ、この光ファイバ用ガラス成形体を用いれば、両端面がフラットな面を有する長尺で且つ高寸法精度の光ファイバ母材を製造することができる。
さらに、コア挿入用空孔の内周面を極めて滑らかにすることができるので、この面での散乱損失の極めて小さい長尺の光ファイバを実現することができる。
また、容器の内形形状の寸法精度を高くすることにより、高寸法精度に保たれた外形形状のSiOクラッド層を有する長尺の光ファイバ用ガラス成形体を得ることができ、しかも、高真直度で且つ高真円度の光ファイバ用成形体を製造することができる。
従って、この光ファイバ用ガラス成形体内にコア材を挿入して光ファイバ母材とし、これを線引きして得られる光ファイバは、長尺の光ファイバとすることができ、その機械的強度や寸法精度が極めて優れたものとなる。また、クラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入して固化させた後、その固化体を高温加熱することにより該固化体が加熱前に比してどの程度収縮するかが実験的にわかっていれば、この収縮率を考慮に入れて光ファイバ用ガラス成形体の外径を設計すればよい。なお、固化体が収縮しても、得られる光ファイバ用ガラス成形体(SiOクラッド層)の外周面の鏡面状態は保たれる。
また、外周面が鏡面研磨されて表面粗さが0.2μm以下、好ましくは0.01μmから0.03μmで、かつ高真直度(0.1mm/1000mm)で高真円度(0.05mm/1000mm)のステンレス製のロッドをコア用金属ロッドとすれば、該ロッドの外周にSiOガラス原料溶液が液体の状態で接して固化することにより均一な成分のSiOクラッド層が形成されるので、散乱損失の極めて小さい光ファイバを得ることができる。このように本発明では、光ファイバ用ガラス成形体の内面や外面を鏡面状態に形成でき、しかも外径、コア径、などの構造パラメータを設計したとおりに形成することができる。また容器の長さを変えることによって、光ファイバ用ガラス成形体を20cm程度から100cm程度の長さのものまで容易に製造することができる。従って、いわゆる超大型サイズの光ファイバ用ガラス成形体を容易に製造することができる。しかも両端面がフラットで対称な形状である。これは従来のドリルや超音波による孔開けで実現した長尺の光ファイバ母材に比して格段に高寸法精度、真直度、真円度の長尺の光ファイバ母材とすることができる。
また、本発明では、容器の形状を変えるだけで、光ファイバ用ガラス成形体の外形形状を円形、四角形、あるいは多角形といった所望形状に容易にすることができるので、種々の用途(通信用、医療用、照明用、加工用、エネルギー伝送用、など)に適した光ファイバを製造することができる。
また、容器内の中心部に配置されたコア用金属ロッドの外周を取り囲むように複数本の細径金属ロッドを該容器内に配置して、クラッド層用混合液と硬化剤を前記容器内に注入し、前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から容器及び金属ロッドを脱離し、該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で加熱することにより、前記SiOクラッド層に複数の空孔を有する長尺の光ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。
つまり、本発明では、コア挿入用空孔及び細径空孔はコア用金属ロッド及び細径金属ロッドを抜き型とする型抜き加工により形成される。前述したように、表面が十分に鏡面研磨されて表面粗さが0.03μm以下で寸法精度が高く、かつ高真直度で高真円度、長尺(少なくとも50cm以上)の金属ロッドを用いれば、内面が鏡面状態のコア挿入用空孔及び細径空孔を形成することができる。このように、空孔内面の表面粗さが極めて小さいので、低散乱損失の空孔アシストファイバ、フォトニック結晶型ファイバ、マルチコア光ファイバ、パンダファイバ用の長尺(少なくとも50cm以上)の光ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。
なお、金属ロッドの表面粗さが0.03μm以下の場合、得られた光ファイバ母材の空孔内面の表面粗さを測定すると3μm以下であった。このように、高寸法精度、高真直度、高真円度の空孔を有する光ファイバ成形体を得ることができるので、優れた光学特性(カットオフ波長、モードフィールド径、開口数、ゼロ分散波長等)を有する光ファイバを再現性良く得ることができる。
本発明の製造方法のもう一つの特徴は、貫通孔を機械的に開ける工程と貫通孔の内面の研磨工程が全くないことである。従来のようにドリルで短尺(長さ15cm)の光ファイバ母材内に貫通孔を開けた場合の該貫通孔内の表面粗さは平均で15μm程度、最大で17μm程度であり、このような表面粗さの貫通孔の内面を研磨してもせいぜい平均で4μm程度であり、最大で6μm程度になっていた。しかも上記した従来法による貫通孔の真直度と真円度は、該貫通孔が長くなればなるほど悪くなることがわかっており、そのため、得られる光ファイバの光学特性に悪影響を及ぼしていた。以上の点からもわかるように、本発明では簡易な工程で高性能な特性を有する空孔アシストファイバ、フォトニック結晶ファイバ、マルチコアファイバ、パンダファイバ用ガラス成形体を製造することができる。
また、本発明ではドリルや超音波による機械的な切削工程や研磨工程がないため、外部からの損失要因の混入を少なく抑えることができる。
具体的には、容器内の中心に配置されたコア用金属ロッドの外周を取り囲むように複数本の長尺の細径金属ロッドを配置することにより、上記コア用金属ロッド及び細径金属ロッドの周りにSiOクラッド層を均一に形成できる。この結果、SiOクラッド層内に形成された空孔の内面の表面粗さが小さくなり、ここでの不要な散乱損失を抜本的に低減でき、これにより超低散乱損失光ファイバを得ることができる。
また、マルチコアファイバ内のコア形状、コア間隔、ファイバの外形を高寸法精度に保った状態で形成できるという利点もある。これらを高寸法精度で形成できることはマルチコアファイバ同士を接続する際、あるいはマルチコアファイバの端面にコネクタを接続する際に極めて有利になる。
また、本発明では、長尺(少なくとも50cm以上)の容器内の中心とその周りに、表面が十分に鏡面研磨された鏡面状態(表面粗さが0.03μm以下)であり、寸法精度が高く、真直度と真円度の優れた丸い長尺(少なくとも50cm以上)の金属ロッドを配置した状態で硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液と硬化剤を容器内に注入して自己硬化反応により固化し、その後に該固化体から金属ロッドと容器を脱離する。そして、その後に該固化体の乾燥、高温加熱によってSiOクラッド層内の中心及びその外周に所望間隔をおいて内面が鏡面状態(金属ロッドの表面粗さが0.03μm以下の場合、得られた光ファイバ用ガラス成形体の空孔内面の表面粗さは0.4μm以下程度であった。)の空孔が複数個設けられている光ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。このため、散乱損失が極めて低く、寸法精度、損失以外の光学特性(カットオフ波長、モードフィールド径、開口数、ゼロ分散波長、など)の優れたフォトニックバンドギャップ型ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。
また、本発明では、外形及び内断面が円形の第1の容器内の中心に、外形が円形で内断面が四角形、又は外形が四角形で内断面が円形であり、内断面が外形に近接する近接部を少なくとも3個有する第2の容器を配置し、前記第2の容器内の中心にコア用SiO系ガラスを含んだロッドを配置し、硬化性樹脂、SiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記第1の容器と前記第2の容器の間、及び前記第2の容器内に注入する。そして、前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記第1の容器及び前記第2の容器を脱離し、該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で加熱することにより、外形形状が円形で中空断面が円形又は四角形のSiOガラス管の内面に、少なくとも3箇所で接するコア用SiO系ガラスを含んだロッドが配置された光ファイバ成形体を得ることができる。この方法では、内面が鏡面研磨されて表面粗さが0.2μm以下、好ましくは0.01μmから0.03μmのステンレス製の第1の容器及び第2の容器を用いることによって、SiOガラス管の外周面及び内面の表面粗さが3μm以下の光ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。
また本発明は、光ファイバ母材を製造する上でも大きな特徴がある。すなわち、クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から金属容器および金属ロッドを脱離し、該固化体の乾燥後にその固化体のコア用空孔内にコア用ガラスロッドを挿入し、塩素ガス中で高温処理する。コア用空孔の断面は高温熱処理によって約82%に縮小するので、その縮小によって空孔内面にコアガラスロッドが密着するようにコアガラスロッドの外径を設定する。これにより光ファイバ用ガラス成形体内にコア用ガラスロッドが一体的に密着した光ファイバ母材を製造することができる。
また、コア用ガラスロッドの外周にSiOクラッド層が密着性良く均一に接した界面を形成することができるので、低散乱損失の光ファイバを製造することができる。
さらに、コア用ガラスロッドの熱伝導率が良いため、上記光ファイバ母材の透明ガラス化がコア用ガラスロッドからの熱伝達により該ガラスロッド側から進行し、SiOクラッド層の外周側からは輻射熱で進行する。そのため、透明ガラス化が促進されるので、透明な光ファイバ母材を容易に得ることができる。なお、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱して光ファイバ用ガラス成形体を得た後、このガラス成形体の空孔内にコア用ガラスロッドを挿入して融着により光ファイバ母材を得る方法では、コア用ガラスロッドとSiOクラッド層の界面を一体化させることが難しく、その界面が不均一になる可能性が大きく、散乱損失の大きい光ファイバになりやすい。
本発明の第1実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体の製造工程を示すフローチャート。 第1実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図(a)、側面図(b)。 光ファイバ用ガラス成形体の製造中の金属容器の正面図(a)、平面図(b)。 本発明の第2実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図(a)、側面図(b)。 光ファイバ用ガラス成形体の製造中の金属容器の正面図(a)、平面図(b)。 図4の光ファイバ用ガラス成形体を用いて製造した光ファイバ母材の正面断面図(a)、側面図(b)。 本発明の第3実施例に係る光ファイバ母材の正面断面図(a)、側面図(b)。 本発明の第4実施例に係るマルチコアファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 マルチコアファイバ用ガラス成形体の製造中の金属容器の正面図(a)、平面図(b)。 本発明の第5実施例に係るマルチコアファイバ母材の正面断面図。 本発明の第6実施例に係るパンダファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 パンダファイバ用ガラス成形体の製造中の成型金型容器の正面図(a)、平面図(b)。 パンダファイバ用光ファイバ母材の正面断面図。 本発明の第7実施例に係るパンダファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 パンダファイバ用光ファイバ母材の正面断面図。 本発明の第8実施例に係るフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体の正面断面図、側面図(b)。 本発明の第9実施例に係るフォトニック結晶型光ファイバ母材の正面断面図、側面図(b)。 本発明の第10実施例に係るフォトニック結晶型光ファイバ母材の正面断面図、側面図(b)。 本発明の第11実施例に係る空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の製造中の金属容器の正面図(a)、平面図(b)。 本発明の第12実施例に係る空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 本発明の第13実施例に係る空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 本発明の第14実施例に係る空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図。 本発明の第15実施例に係る光ファイバ母材の製造方法を説明するための図。 従来のファイバの断面構造を示す図。
以下、本発明のいくつかの実施例を図面を参照して説明する。
図1に本発明の第1実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体の製造方法を示す。この製造方法において、光ファイバ用ガラス成形体の構造の特性を支配する重要なものとして、空孔を形成するための金属ロッドを高寸法精度で製造することが挙げられる。すなわち、この金属ロッドの形状(外径の寸法精度、表面粗さ、真直度、真円度)が重要となる。そこで本実施例では、長さ1000cmの長尺の金属ロッドであって、外周表面が鏡面研磨されてその表面粗さが0.01μmから0.03μm程度、真直度が0.06/1000mm、外径Dに対する公差が+0/−0.00mm、真円度が5μm/2000mmのステンレス製の金属ロッドを使用した。
次に重要なのは金型容器である。本実施例では、上蓋、下蓋付きの長さ60cmの円筒状金型容器であって、上蓋及び下蓋並びに容器の内面が超鏡面研磨されて表面粗さが0.01μmから0.03μm程度、内径公差が+0.008/−0.010mmのステンレス製の容器を用いた。
このような長尺の円筒状の金属容器の内部に長手方向(軸方向)に上記金属ロッドを配置する。この金属ロッドは、金属容器の両端で引っ張って真っ直ぐした状態に配置して固定する。これにより金属ロッドの真直度が一層良くなる。
その後で上記金属容器内に硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液と硬化剤を注入する。その結果、石英ガラス溶液が自己硬化反応により固化する。その後に固化体から上記金属ロッドおよび金型容器を脱離して空孔を有する多孔質母材を得る。得られた多孔質母材は、その上面と下面がフラットな面で、且つ対称な形状を有しており、真直度および真円度の良い空孔を持った円柱母材となる。
ついで上記多孔質母材を乾燥させる。その後、上記母材の高温加熱、Heガスを流しながら塩素雰囲気での脱水処理を経て光ファイバ用ガラス成形体を得る。こうして得られた光ファイバ用ガラス成形体は上下面がフラットで且つ対称な形状の円柱状のガラス成形体となるため、上面及び下面のどちらから線引きしても良い。また上記ガラス成形体の空孔の真直度、真円度を、該ガラス成形体の上面側或いは下面側からの写真撮影による形状観察や平行ビームのレーザー光を空孔内に透過させることによる観測及び測定をすることができる。上記真直度、真円度を測定した結果、空孔の真直度は0.1/500mm未満、真円度は1.6μm/500mm未満であった。
図2(a)は本実施例に係る製造方法により得られる光ファイバ用ガラス成形体の側面断面図、同図(b)は光ファイバ用ガラス成形体の側面図である。この光ファイバ用ガラス成形体は、コア用SiO系ガラスを含んだロッド(以下、「ガラスロッド」ともいう)を挿入するための空孔1とその外周を覆うSiOクラッド層3からなる。ガラスロッドを挿入するための空孔1は真円度、真直度に優れ、またその内面2の表面粗さも極めて小さく形成されていることを特徴とする。また、この光ファイバ用ガラス成形体の外周4は金型容器の内面の表面粗さに比例した表面粗さを有する。従って、実施例1に示すような金型容器を用いることにより、光ファイバ用ガラス成形体の外周4は極めて小さい表面粗さとなり、かつその外径Dの公差も良好となる。この外周4の外径Dを金型金属容器の形状によって精密に制御できることが本実施例の特徴である。
図3は光ファイバ用ガラス成形体の製造途中の金属容器内の状態を示す。図3に示すように、金属容器7は内面8が鏡面研磨されて表面粗さが0.01μmから0.03μmである、ステンレス製の容器から成る。また、上面と下面がフラットで対称な形状の光ファイバ用ガラス成形体を得るために上蓋の下面と下蓋の上面がフラットな金属容器7である。金属容器7の内径 は152mm、円筒の長さ は650mmであり、混合液6を固化させた後に固化体を取り出せるように半割構造になっている。
このような金属容器7の中心に、直径Dcが12mmの金属ロッド5を配置する。その後、硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液と硬化剤の混合液6を上記金属容器7内に注入して自己硬化反応により固化した後に該金属容器7と金属ロッド5を脱離し、その後に該固化体の乾燥、高温加熱によって図2の光ファイバ用ガラス成形体を得た。ここで硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液の固化体は、乾燥及び塩素ガス中での高温加熱によるガラス化により、乾燥、加熱前の形状に比して縮小する。
そこで、本実施例では、82%程度のわずかな形状縮小に抑えるため、及び形状縮小時の割れやクラックの発生を抑えるために、粒径が2μm以下(好ましくは1μm以下)のシリカ粉末を分散剤(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液)と蒸留水の混合液に入れたものを石英ガラス溶液として用いた。硬化性樹脂には液体樹脂であるデナコールEX512(ナガセケムテックス株式会社)を用いた。また硬化剤としてトリエチレンテトラミンを用いた。さらに上記収縮率を得るために、石英ガラス溶液と硬化剤の材料の調合量(重量%)を、シリカ粉末87%、蒸留水21.2%、分散剤2.7%、硬化性樹脂10.1%とした。このように、シリカ粉末の調合量を圧倒的に多くすることにより、収縮率を高くすることができ、割れやクラックをなくすことができた。また、得られる光ファイバ用ガラス成形体に含まれるCH基やOH基などの不純物の量を低減することができた。
次に、上記光ファイバ用ガラス成形体を用いて光ファイバ母材を製造する方法を説明する。光ファイバ母材を製造するには2つの方法がある。一つの方法は、光ファイバ用ガラス成形体の空孔内にコア用ガラスロッドを挿入し、光ファイバ用ガラス成形体の外周から高温加熱して、コア用ガラスロッドを光ファイバ用ガラス成形体に融着させる方法である。
もう一つの方法は、光ファイバ用ガラス成形体の製造途中で得られる多孔質母材(固化体)を乾燥させた後に、この多孔質母材の空孔内にコア用ガラスロッドを挿入し、この状態で高温加熱し、塩素雰囲気での脱水処理を経て光ファイバ母材を得る方法である。この場合、高温加熱処理によって多孔質母材は約82%縮小し、それに伴い空孔も縮小するため、この縮小分を考慮してコア用ガラスロッドの外径を選ぶ。この方法では、空孔内に挿入したコア用ガラスロッドの外周にSiOクラッド層が均一に密着するため、コア用ガラスロッドとSiOクラッド層の界面の不均一な乱れが無く、散乱損失の低い光ファイバを得ることができる。また、高温加熱時におけるコア用ガラスロッド側からの熱伝達、及びSiOクラッド層の外周側からの輻射熱によって光ファイバ母材の透明ガラス化が促進されるため、透明な光ファイバ母材を容易に得ることができる。
ところで、光ファイバ母材の製造方法の一つにゾルゲル法がある。ゾルゲル法では、液体状の原料物質(ゾル)を金型容器に注入し、ゲル状態を作った後に乾燥・焼結してガラス化することによって光ファイバ母材を製造する。液体状の原料物質を金型容器に注入する点で本実施例に係る製造方法と類似する。
しかし、ゾルゲル法では有機オキシシラン(例えば、テトラエトキシシラン)溶液と純水による加水分解反応により石英ガラスを生成しており、形状の制御が難しい。これに対して、本実施例では、上述したように、硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液を用いているため、ゾルゲル法に比して極めて形状の制御が容易であり、割れやクラックの発生がほとんど無い。
また、ゾルゲル法は加水分解反応で石英ガラスを生成しており、該石英ガラスの生成率が低い。さらに、ゾルゲル法では、焼結による光ファイバ母材の径方向及び軸方向の収縮率の差が30%から60%と大きく異なるので、割れやクラックが発生しやすい。そのため、大型の光ファイバ母材の製造が難しい。さらに、ゾルゲル法では、1日以上の長時間をかけて加水分解反応を起こさせないと割れやクラックが起き易く、かつ乾燥及び高温加熱も10日以上の長時間をかけて行わないと割れやクラックが起きる。
それに対して本実施例ではシリカ粉末を上記液体を用いて固化させ、この固化体を乾燥、加熱しているので、乾燥・加熱時の径方向及び軸方向の収縮率の差が小さく、また、収縮率も約82%と小さいため、割れやクラックの発生がほとんど無い。そのためにゾルゲル法の1/10以下の時間で固化させることができ、乾燥もゾルゲル法の1/2以下の時間で且つ50℃から120℃の低温でよい。なお、金属容器に上記溶液を真空脱法して入れることにより気泡の混入がほとんど無くなり、固化したガラス母材内に空隙がほとんど形成されない。
また、ゾルゲル法では通常、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)やオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を水と反応させてシリカゲルにするが、このシリカゲル中にヒドロキシ基(OH基)が含まれてしまう。この他、CH基、Si−H基もOH基と同様にシリカゲル中に含まれる。シリカゲルを乾燥・焼結してガラス化するまでの過程でOH基、CH基、Si−H基を取り除くことは難しいため、ゾルゲル法により得られた光ファイバ母材はOH基、CH基、Si−H基を含み、このような光ファイバ母材から作られる光ファイバは、光通信で使用する波長帯における損失が大きくなる。
これに対して、本実施例では、光ファイバ母材の中から不要な物を蒸発、除去するために、固化体の高温加熱を1300℃から1600℃の範囲でHeガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で行なう。このため、光ファイバ母材中にCH基、Si−H基、OH基がほとんど含まれず、これらによる光損失はほとんど無い。
上述したように固化体のガラス化による収縮率は約82%であることから、得られる光ファイバ用ガラス成形体の外径は125mm、長さは533mm、空孔の内径は10mmであった。また、この光ファイバ用ガラス成形体の外形変動は0.5%以下で、かつその表面粗さは0.5μm以下であった。外形変動の低さ、言い換えると外形の均一性は、内面8が鏡面研磨されて表面粗さが0.01μmから0.03μmのステンレス製の容器7を用いて光ファイバ用ガラス成形体を製造したことにより得られたものである。この光ファイバ用ガラス成形体の外形の均一性は形状の均一な光ファイバを実現する上で極めて有効である。また表面粗さが小さいことは光ファイバの機械的強度を向上させる上で極めて有効である。さらに光ファイバの構造パラメータ(コア径、外径など)を精確に設定することができる。すなわち、本実施例の光ファイバ用ガラス成形体では、径方向および軸方向のいずれもほとんど一様にわずかに縮小するだけであるので、構造パラメータの設計が容易である。
次に、上記光ファイバ母材を高温電気炉内に所望速度で送り込みながら線引きして外径が125μm、コア径が10μm、長さが約10kmの光ファイバとし、この光ファイバの散乱損失を測定した。なお、上記光ファイバ母材を線引きすることにより最大約800kmの長さの光ファイバを得ることができるが、ここでは散乱損失の測定を目的とするため、約10kmの長さとした。
その結果、波長1.55μmにおいて、0.27dB/kmの損失であった。その損失の内訳を調べたところ、レーリー散乱損失が0.16dB/km、構造不整による散乱損失が0.03dB/km、赤外部、紫外部における固有吸収と不純物による吸収が0.08dB/kmであった。このように構造不整による散乱損失が極めて低いという結果は、空孔1内に挿入したガラスロッドとSiOクラッド層との界面2が均一であることを裏付ける結果であった。またCH基、Si−H基による損失は無いことが確認できた。
このように、本実施例では、ゾルゲル法では実現が困難な良好な結果を得ることができた。また、光ファイバ用ガラス成形体の外形寸法を金属容器の寸法で容易に制御することができることが分かる。
図4に本発明の第2実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体を示す。同図(a)は上記光ファイバ用ガラス成形体の側面断面図、(b)は上記光ファイバ用ガラス成形体の側面図である。
この光ファイバ用ガラス成形体は、空孔アシストファイバ用ガラス成形体の実施例であり、SiOクラッド層3の中心部にコア挿入用空孔1を設け、その空孔1の外周に該空孔1よりも内径が小さい細径空孔9を8個設けた構造である。空孔アシストファイバはファイバ内に多くの空孔を高寸法精度でかつ均一な形状、内面粗さで形成しなければならないが、第1実施例で説明した製造方法を用いれば、これらの課題を十分に克服することができる。すなわち、コア挿入用空孔1及び細径空孔9のいずれの形状も高寸法精度で、かつ高真円度、高真直度にすることができる。また、空孔1及び9の内面粗さも極めて小さくすることができる。さらに、光ファイバ用ガラス成形体全体の形状も高寸法精度で、かつ高真円度、高真直度にすることができ、その外周の表面粗さも小さくすることができる。
本実施例では、図5に示す金属容器7を用いて光ファイバ用ガラス成形体を製造した。図5に示すように、金属容器7は、その内面8が鏡面研磨されて表面粗さが0.01μmから0.03μmのステンレス製の容器であり、該金属容器7内の中心部にコア用金属ロッド5を配置し、その外周に細径空孔9を形成するための細径金属ロッド10を所望の間隔で8個配置されている。コア用金属ロッド5及び細径金属ロッド10はいずれもステンレス製である。
この状態で硬化性樹脂を含んだSiOのガラス原料溶液と硬化剤の混合液6を上記容器7内に注入して自己硬化反応により固化後に該金属ロッド5、10と金属容器7を脱離する。その後、該固化体の乾燥、塩素ガス中での高温加熱を経て図4の光ファイバ用ガラス成形体が形成される。この光ファイバ用ガラス成形体の特徴は、非常に小さな8個の空孔9を、その空孔径、空孔間隔を高寸法精度で形成できること、かつ空孔9の真円度、真直度ともに良好で、その空孔9の内面および光ファイバ用ガラス成形体の外周の表面粗さも小さくすることができることである。なお、図5において、金属容器7の内径Doは30.5mm、長さLoは610mm、コア用金属ロッド5の外径Diは11mm、細径金属ロッド10の外径は7.4mmとし、細径金属ロッド10を金属容器7の中心部から径方向に9mmのところに45°間隔で配置して光ファイバ用ガラス成形体を製造した。
図6に本実施例に係る空孔アシスト光ファイバ母材を示す。同図(a)は本実施例に係る光ファイバ母材の正面断面図、(b)は該光ファイバ母材の側面図である。この光ファイバ母材は、金属ロッド5、10及び金属容器7を脱離して得られる固化体を乾燥した後に中心の空孔1内に外径が1.8mmのコア用ガラスロッド11を挿入し、塩素ガス雰囲気中で高温熱処理(熱処理温度1550℃)して得た光ファイバ母材である。コア用ガラスロッド11は、VAD法で製造されたもので、SiOにGeOを添加することにより、SiOクラッド層との比屈折率差が1%のガラスロッドである。光ファイバ母材のSiOクラッド層3の外径は25mm、細径金属ロッド10を引き抜いて得られた細径空孔9の空孔径は1.46mmであった。また、SiOクラッド層3の表面4の荒れは1μm以下であった。さらに、光ファイバ母材の真直度は長さ500mmに対して0.08mm以下、真円度は0.1mm以下であった。
本実施例の最大の特徴は、従来のように、光ファイバ母材を長手方向にドリルによって切削したり、超音波を用いて切削したりすることによって貫通孔をこじ開けていないことである。すなわち、従来のような機械的な加工を用いないで内面荒れのきわめて小さい空孔を実現することができることである。
また、加工時にコア用空孔1及び細径空孔9のいずれもわずかに収縮するだけである点も本実施例の特徴である。このため、空孔1、空孔9それぞれの内径、空孔間隔を精度良く製造することができる。これは得られる光ファイバの光学特性を所望の特性に、且つ再現性良く実現する上で極めて有利である。
図7に本発明の空孔アシスト光ファイバ母材の別の実施例を示す。同図(a)は本実施例に係る光ファイバ母材の正面断面図、(b)は該光ファイバ母材の側面図である。この光ファイバ母材は、実施例1で得られる固化体を乾燥した後に、中心の空孔1内に、実施例2とは別の外径が1.8mmのコア用ガラスロッド101を挿入し、塩素ガス雰囲気中で高温熱処理(熱処理温度1550℃)して得られたものである。このコア用ガラスロッド101は、VAD法で製造したもので、中心部にSiOにGeOを添加したコア用ガラスロッド11、その外周にFを添加したSiOガラス薄層12を有している。Fを添加したSiOガラス薄層12は、空孔1内にコア用ガラスロッド11を挿入して塩素ガス雰囲気中で高温熱処理を行なう際に該コア用ガラスロッド11の表面に不純物が付着して損失増加を招くのを防ぐために設けたものである。
図8に本発明のマルチコアファイバ用ガラス成形体の実施例を示す。同図(a)は本実施例に係る光ファイバ用ガラス成形体の正面断面図、(b)は上記光ファイバ用ガラス成形体の側面図である。この光ファイバ用成形体はSiOクラッド層3内の中心部にコア用空孔1−1に設け、該空孔1−1の周りにも複数の空孔1−2、1−3、1−4、1−5、1−6、1−7を所望間隔で設けた構造を有している。上記マルチコアファイバ用ガラス成形体の空孔1−1内にコア用ガラスロッドを挿入、一体化することにより光ファイバ母材を得ることができる。
このマルチコアファイバ用ガラス成形体の特徴は、金型材料(金属容器、金属ロッド)の機械精度を高めることにより、それぞれの空孔の内径、空孔間隔を高寸法精度で形成できること、空孔内面の表面粗さを小さくできること、空孔の真直度、真円度が良好であること、ガラス成形体の表面4の表面粗さが小さいこと、そして大口径、長尺のガラス成形体を製造できることである。なお、本実施例は複数の空孔が同径であっても異径であっても容易に実現することができる。
図9を参照して、本実施例のマルチコアファイバ用ガラス成形体の製造方法を説明する。
金属容器7内にコア用ガラスロッドに相当するコア用金属ロッド5−1、5−2、5−3、5−4、5−5、5−6、5−7を所定の間隔を置いて複数本配置し、この状態で硬化性樹脂を含んだクラッド層用SiOガラス原料溶液と硬化剤を含んだ混合液6を前記容器7内に注入する。そして、前記ガラス原料溶液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記金属ロッド5−1〜5−7および容器7を脱離し、該固化体を乾燥させ、その後にHeガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱(1450℃から1600℃の範囲)することによりSiOクラッド層の中心と該中心の周りに空孔を有するマルチコア光ファイバ用ガラス成形体を製造する。この製造方法の特徴は、前述したように、金型、金属ロッドの機械寸法精度で、空孔内径、空孔内面の表面粗さ、空孔間隔、ガラス成形体の外径およびその外面の表面粗さなどが決まることである。また、本実施例によれば、大口径、長尺のガラス成形体を容易に実現することができる。
図10に本発明のマルチコアファイバ用光ファイバ母材の別の実施例を示す。この図は本実施例に係る光ファイバ母材の正面断面図である。この光ファイバ母材は、SiOクラッド層3の外径が25mmであり、実施例4の製造途中で得られる固化体を乾燥した後に、空孔1−1〜1−7内に外径が1.8mmのコア用ガラスロッド101−1〜101−7を挿入し、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温熱処理(熱処理温度1550℃)して得たものである。前記コア用ガラスロッド101−1〜101−7は、VAD法で製造したもので、中心部に、SiOにGeOを添加したコア用ガラスロッド11その外周にFを添加したSiOガラス薄層12を有している。空孔1−2〜1−7に挿入されるコア用ガラスロッド101−1〜101−7は6mm間隔で配置されている。なお上記Fを添加したSiOガラス薄層12は、実施例3と同様に、塩素ガス雰囲気中で高温熱処理を行なう際にコア用ガラスロッド11の表面に不純物が付着して損失増加を招くのを防ぐために設けたものである。マルチコアファイバではそれぞれのコアの寸法、コア間隔を精密に制御して製造することが最も重要であるが、本実施例ではマルチコアファイバ内のコア(即ち、コア用ガラスロッド101−1〜101−7)の形状、コア間隔、ファイバの外形を高寸法精度に保った状態で製造することができるという利点もある。なお、本実施例のマルチコアファイバ用光ファイバ母材の複数の空孔の外周に、空孔アシスト光ファイバ母材のような細径空孔を複数設けて、マルチコアファイバのコア間の干渉を少なくするようにしても良い。
また、従来のマルチコアファイバの製造方法では、複数の貫通孔を機械的に開ける工程と、その貫通孔の内面の研磨工程と、貫通孔内にコアロッド材料を挿入する工程と、高温で加熱して貫通孔とコアロッド材料との隙間を無くして中実な母材にするための融着工程が必要であった。本発明ではこれらの工程が不要であり、これによって高寸法精度で低損失な光ファイバを再現性良く低価格で製造することができる。
図11に本発明のパンダファイバ用ガラス成形体の実施例を示す。この図は本実施例に係るパンダファイバ用ガラス成形体の正面断面図である。このガラス成形体は、SiOクラッド層3内の中心部にコア用ガラスロッドを挿入するための空孔1を有し、その両側に応力付与部を形成するガラスロッドを挿入するための空孔13−1、13−2を有する。パンダファイバの良好な偏波保持特性を実現するためには、複屈折率を高くすることが重要であり、そのためには応力付与部を形成するガラスロッドを挿入する空孔13−1、13−2をコア用ガラスロッドを挿入する空孔1に近づけるのが望ましい。しかし、機械研削によって母材の長手方向に貫通孔を開ける従来の方法では、貫通孔の真円度、真直度が悪く、貫通孔の形状を高寸法精度で制御することが難しい。このため、従来は応力付与部にBを高濃度にドープしたSiO層を用いて高複屈折率を実現している。しかし、上記Bを高濃度にドープしたSiO層は赤外領域に大きな吸収ピークを持ち、またそれと共にOH基の増加による光吸収の影響がでてきて伝送損失を増加させるという問題があった。
これに対して本実施例の方法では、高機械寸法精度の長尺の金属容器および金属ロッド高を用いることにより、型抜きで高寸法精度の空孔を開けることができる。また、空孔の間隔も高寸法精度で制御でき、しかも真円度、真直度共に良好であるので、空孔13−1、13−2をコアガラスを挿入する空孔1に近ずけることができるため、高複屈折率特性を得ることができる。そのために応力付与部にBを低濃度にドープしたSiO層を用いることができ、伝送損失を増大させることが極めて少ない。結果として、低損失・長尺のパンダファイバ母材を得ることができる。
図12を参照して本実施例のパンダファイバ用ガラス成形体の製造方法を説明する。金属容器7内の中心にコア用ガラスロッドに相当する金属ロッド5を配置し、その両側に応力付与部材を挿入するための空孔形成用の金属ロッド14−1、14−2を配置した状態で硬化性樹脂を含んだクラッド層用SiOガラス原料溶液と硬化剤を含んだ混合液6を前記容器7内に注入する。そして、前記ガラス原料溶液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記金属ロッド5、14−1、14−2および容器7を脱離し、該固化体を乾燥させ、その後にHeガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温加熱(1450℃から1600℃の範囲)することによりSiOクラッド層の中心とその両側に空孔を有するパンダファイバ用ガラス成形体が得られる。
図13は図12に示すパンダファイバ用ガラス成形体を用いて得られるパンダファイバ用光ファイバ母材の正面断面図を示す。この光ファイバ母材は、SiOクラッド層3の直径が25mmであり、固化体を乾燥した後に該固化体の中心部の空孔1内に外径が1.8mmのコア用ガラスロッド101を挿入し、両側の空孔13−1、13−2に外径が7mmのガラスロッド15−1、15−2を挿入し、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温熱処理(熱処理温度1550℃)して得られる。コア用ガラスロッド101はVAD法で製造したもので、中心部にSiOにGeOを添加したコア用ガラスロッド11を有し、その外周にFを添加したSiOガラス薄層12を有する。Fを添加したSiOガラス薄層12は、上記した実施例と同様に、塩素ガス雰囲気中で高温熱処理を行なう際にコア用ガラスロッド11の表面に不純物が付着して損失増加を招くのを防ぐために設けたものである。また、本実施例では、応力付与部(ガラスロッド15−1、15−2)とコア用ガラスロッド101との間隔Sを2mmに接近させることができた。
図14に本発明のパンダファイバ用ガラス成形体の別の実施例を示す。この図は本実施例に係るパンダファイバ用ガラス成形体の正面断面図である。このパンダファイバ用ガラス成形体は、SiOクラッド層3内の外周縁部に微細な空孔16を複数個設けた構造である。これらの空孔16はパンダファイバの曲げによる損失増加を抑制するために設けたものである。すなわち、SiOクラッド層3の等価屈折率を上記空孔16を設けることによって下げることによってファイバの等価屈折率差を大きくとり、ファイバの曲げによる損失増加を低減するようにした構造である。
図15に図14に示すパンダファイバ用ガラス成形体を用いて形成されたパンダファイバ用光ファイバ母材の正面断面図を示す。当該パンダファイバ用光ファイバ母材側面は図14に示すパンダファイバ用ガラス成形体の製造途中で得られる固化体を乾燥した後に上記固化体の中心部の空孔1内にコア用ガラスロッド101を挿入し、両側の空孔13−1、13−2内に応力付与部となるガラスロッド15−1、15−2を挿入し、この状態でHeガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温熱処理(温度1550℃)することにより形成される。
図16に本発明のフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体の実施例を示す。同図(a)は本実施例に係るフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体の正面断面図、(b)は当該ガラス成形体の側面図である。このガラス成形体はSiOガラス層3内の中心部に空孔1が、その周りに複数の空孔17が設けられた構造である。
このガラス成形体は、表面が十分に鏡面研磨された鏡面状態(表面粗さが0.03μm以下)であり、寸法精度が高く、且つ真直度と真円度の優れた丸い金属ロッドを丸い金属容器の中心部に配置し、その金属ロッドの外周にさらに表面が十分に鏡面研磨された鏡面状態(表面粗さが0.03μm以下)であり、寸法精度が高く、真直度と真円度の優れた複数本の丸い金属ロッドを所望の間隔で配置した状態で硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液と硬化剤の混合液を金属容器内に注入して自己硬化反応により固化後に固化体から金属ロッドと金属容器を脱離し、その後に該固化体の乾燥、高温加熱を経て製造される。
以上によって、SiOクラッド層3の中心部に空孔1を有し、その外周のSiOクラッド層3内に所望間隔をおいて内面が鏡面状態の空孔17が複数個設けられた長尺のフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体を得ることができる。なお、実際に製造したガラス成形体の空孔1の内面の表面粗さは0.5μm以下程度であった。また、空孔17内面の表面粗さは0.1μm以下程度であった。
このフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体は、中心部の空孔1内の表面粗さが極めて小さいので、光信号をこの空孔1内に無駄な放射損を生じないように閉じ込めて低損失で伝送させることができる。また散乱損失も極めて低くすることができる。さらに、寸法精度、損失以外の光学特性の優れたフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体が得られる。さらにまた上記方法で得たフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体を高温加熱しながら線引きして得られる光ファイバのSiOクラッド層3内にはCH基、OH基、遷移金属などの不純物がほとんど無いので、より一層の低損失光ファイバを実現することができた。
なお、図示しないが、光ファイバ用ガラス成形体の中心部の空孔1を中実にしたフォトニック結晶型ファイバ母材を製造し、これを線引きして光ファイバを得た。この光ファイバの構造は、外径123μm、空孔17の数40個、空孔17の径3μm、空孔17の間隔5.9μmであり、空孔17の内面の表面粗さは平均で0.2μm以下、外径の表面粗さ0.2μm以下であり、波長1.55μmにおける損失0.8dB/km、波長1.31μmにおける損失1.2dB/km、波長1.07μmにおける損失2dB/kmであった。この結果により、本実施例の光ファイバは、SiOクラッド層2内にCH基、Si−H基がほとんど無く、OH基も極めて少ないことが実証された。
また、得られたフォトニック結晶型ファイバの散乱損失特性、光損失特性が低いことから、空孔1、17の内面の表面粗さが小さいことを検証することができた。上記特性はVAD法で製造した従来の光ファイバの特性とほとんど変わらない特性であった。本実施例の製造方法は、VAD法による製造方法に比して、圧倒的に低価格で、再現性が良く、また製造が容易であり、高寸法精度の構造が得られるという利点がある。
さらに、本実施例では、機械的な加工を用いないため、内面粗さがきわめて小さい空孔を精度良く形成することができるため、フォトニック結晶型ファイバを、その分散値、零分散波長などの光学特性を精度良く制御して製造することができる。
図17は本発明のフォトニック結晶型光ファイバ母材の別の実施例を示す。同図(a)は上記光ファイバ母材の正面断面図、(b)は上記光ファイバ母材の側面図である。この光ファイバ母材は、実施例8に示したフォトニック結晶型ファイバ用ガラス成形体の中心にGeO添加物を添加したSiOガラスから成るコア用ガラスロッド11を有し、その外周にSiOクラッド層3を有し、該SiOクラッド層3内に所望の間隔で配置された空孔17を設けたものである。
この光ファイバ母材はクラッドであるSiOクラッド層3の中に配置された複数個の空孔17によって、コアであるガラスロッド11とSiOクラッド層3の比屈折率差を大きく取れるので、高開口数を実現することができる。また、この実施例でも、機械的な加工を用いないため、コア用ガラスロッド11とSiOクラッド層3との界面を均一に製造することができ、かつ空孔17の内面の表面粗さを小さくすることができるので、低散乱損失特性を実現することができる。
図18は、本発明のフォトニック結晶型光ファイバ母材のさらに別の実施例を示す。同図(a)は上記光ファイバ母材の正面断面図、(b)は上記光ファイバ母材の側面図である。この光ファイバ母材は、空孔1内に、中心部にSiOにGeOを添加したコア用ガラスロッド11、その外周にFを添加したSiOガラス薄層12を有するガラスロッド101を配置した構造である。実施例10に係るフォトニック結晶型光ファイバ母材のその他の構成は実施例9とほぼ同じであるため、説明を省略する。
図19に本発明の空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の別の実施例を示す。このガラス成形体は、外形が矩形の母材18を、外形が円形で内断面が円形のSiOガラス管21の中に4箇所(19−1、19−2、19−3、19−4)で接するように配置した構造を有している。このような構造により、母材18とSiOガラス管21との間に空隙20が形成される。これによりSiOクラッド層3の屈折率が等価的に低くなり、開口数の大きい光ファイバ用ガラス成形体を実現できる。
この光ファイバ用ガラス成形体は図20に示したような金属容器7を用いて製造した。すなわち、まず丸い金属容器7内に該金属容器7の内径よりも小さい外径の金属管23を配置させる。この金属管23は外形が円形で内部に断面形状が四角形の空間24がある。そしてコア用金属ロッド5を金属管23内の中心部に配置させ、その外周に細径金属ロッド10を8本を配置させる。そして金属容器7と金属管23の間、及び金属管23の空間24内に硬化性樹脂を含んだSiOガラス原料溶液と硬化剤の混合液22及び混合液6をそれぞれ注入して自己硬化反応により固化させる。その後に固化体からコア用金属ロッド5、細径金属ロッド10、金属容器7、金属管23を脱離し、該固化体を乾燥させた後、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気で高温加熱(温度1550℃)することによって上記光ファイバ母材が得られる。
図21は本発明の空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の別の実施例を示す。この光ファイバ用ガラス成形体は、外形が円形の母材28を、外形が円形で内断面が四角形のSiOガラス管27の中に4箇所(26−1、26−2、26−3、26−4)で接するように配置した構造としたものである。これにより、母材28とSiOガラス管27との間に空隙20が形成される。この結果、SiOクラッド層3の屈折率が等価的に低くなり、開口数の大きい光ファイバ用ガラス成形体を実現できる。
図22は本発明の空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の別の実施例を示す。これは外形が矩形の母材29を、外形が円形で内断面28が四角形のSiOガラス管27の中に4箇所(30−1、30−2、30−3、30−4)で接するように配置した構造である。このような構造により、母材29とSiOガラス管27との間に空隙20が形成される。これによりクラッドの屈折率が等価的に低くなり、開口数の大きい光ファイバ用ガラス成形体を実現できる。
図23は本発明の空孔アシスト光ファイバ用ガラス成形体の別の実施例を示す。これは外形が多角形(六角形)の母材31を、外形が円形で内断面が円形のSiOガラス管21の中に6箇所(32−1、32−2、32−3、32−4、32−5、32−6)で接するように配置した構造である。このような構造により、母材31とSiOガラス管21との間に空隙20が形成される。これによりSiOクラッド層3の屈折率が等価的に低くなり、開口数の大きい光ファイバ用ガラス成形体を実現できる。
図24は、図5に示す金属容器7を用いた光ファイバ用ガラス成形体の製造方法の他の実施例を示す。ここでは、ガラス原料溶液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から金属容器7および金属ロッド5、10を脱離し、該固化体を乾燥させて得られる多孔質ガラス成形体33のコア用空孔(空孔内径Di)34内に、該空孔34の内径よりも小さい外径のコア用ガラスロッド11(外径Dc:0.82Di)を挿入する(図24(a)、(b))。そして、Heガスを流しながら塩素ガス雰囲気中で高温(1550℃)処理することにより、ガラス成形体33が縮小(約82%)してコア用ガラスロッド11が空孔34の内面に密着し、ガラス成形体33とコア用ガラスロッド11が一体化し、透明ガラス化した光ファイバ母材を製造することができる。この方法を用いると、コア用ガラスロッド11とSiOクラッド層3の界面を均一に形成することができる。その結果、散乱損失の低い光ファイバを実現することができる。
本発明は上記実施例に限定されない。例えば、コア用ガラスロッド11の中心部に高屈折率の添加物と希土類元素を共添加したものを用いてもよい。上記希土類元素として、Er、Nd、Pr、Ce、Ybなどを用いることができる。なお、上記中心部内には希土類元素以外の共添加材料として、Al、Geなどを用いてもよい。このように希土類元素やAl、Geを添加することにより光増幅器やレーザーを実現可能な光ファイバ母材を得ることができる。
金属容器、金属ロッド、金属管の材質はステンレス以外に、Au、Ni、Cuなどの材質でもよい。
硬化性樹脂を含んだSiOのガラス原料溶液の調合量は上記した実施例(シリカ粉末87%、蒸留水21.2%、分散剤2.7%、硬化性樹脂10.1%)に限定されるものではない。本発明はシリカ粉末の調合量を圧倒的に多くしたことを特徴とするもので、この調合量は80%以上であれば良く、92%程度にまで多くすることができる。
コア用ガラスロッドにはGeO以外に、Al、P、TiO、などのSiOの屈折率を高める添加物を添加しても良い。金属容器7の内径Do、長さLoは上記値に限定されない。これらの内径Do、長さLoが大きいほど長尺の光ファイバを実現することができるので、Doは30mm程度から300mm程度の大きさでも良い。Loは20mm程度から1000mm程度でも良い。
コア用空孔およびコア用ガラスロッドの直径Dcは10mm程度から100mm程度にすることができる。また、空孔アシストファイバ用、フォトニック結晶型ファイバ用、マルチコアファイバ用、パンダファイバ用のいずれのガラス成形体の中心部周辺に設ける空孔の数量は限定されず、4個から30個の範囲から選ぶことができる。また、空孔の内径は0.5μmから5μmの範囲が好ましい。空孔の間隔も1μmから6μmの範囲から選ぶことができる。さらに、複数の空孔が同径であっても異径であってもよい。
本発明の光ファイバ用ガラス成形体の外径寸法は特に限定されるものではない。
1…コア用空孔
2…空孔内面
3…SiOクラッド層
4…SiOクラッド層の外周部
5…金属ロッド
6…硬化性樹脂を含んだ石英ガラス溶液と硬化剤の混合液
7…金属容器
8…金属容器の内面
9…細径空孔
10…細径金属ロッド
11…コア用ガラスロッド
12…SiOガラス薄層

Claims (4)

  1. 外形及び内断面が円形の第1の容器内の中心に、外形が円形で内断面が四角形、又は外形が四角形で内断面が円形であり、内断面が外形に近接する近接部を少なくとも3個有する第2の容器を配置し、
    前記第2の容器内の中心にコア用SiO系ガラスを含んだロッドを配置し、
    硬化性樹脂、及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を前記第1の容器と前記第2の容器の間、及び前記第2の容器内に注入し、
    前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後、その固化体から前記第1容器及び第2容器を脱離し、該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱することにより光ファイバ母材を製造する方法。
  2. 請求項1において、
    コア用SiO系ガラスを含んだロッドの代わりにコア用金属ロッドを前記第2容器内の中心に配置して固化させ、その固化体から該金属ロッドを前記第1容器及び第2容器と共に脱離してコア挿入用空孔を形成し、該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱することにより光ファイバ母材を製造する方法。
  3. 請求項2において、
    前記第2容器内に、前記コア用金属ロッドの外径よりも大きい外径を有する2本の金属ロッドを、前記コア用金属ロッドの外径よりも小さい間隔で該コア用金属ロッドの両側に配置し、
    前記容器内に硬化性樹脂、SiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を注入し、
    前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後その固化体から前記コア用金属ロッド、前記金属ロッド、容器を脱離してコア挿入用空孔及び一対の空孔を形成し、該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱することによりパンダファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法。
  4. 請求項3において、
    さらに前記第2容器内の外周縁部に前記金属ロッドよりも外径寸法が小さい複数本の細径金属ロッドを所定の間隔をおいて配置し、
    前記第2容器内に硬化性樹脂及びSiO粒子を含むクラッド層用混合液と硬化剤を注入し、
    前記クラッド層用混合液が自己硬化反応により固化した後その固化体から前記コア用金属ロッド、前記金属ロッド、及び容器を脱離してコア挿入用空孔、一対の空孔及び細径空孔を形成し、
    該固化体を乾燥、Heガスを流しながら塩素ガス中で高温加熱することによりパンダファイバ用の光ファイバ母材を製造する方法。
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