JP5578671B2 - 高温養生用セメント添加材及びこれを用いたセメント硬化体 - Google Patents
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非晶質シリカの製法には種々あるが、例えば、本発明で用いたコロイダルシリカは、珪酸ナトリウム溶液に熱を加えて、縮合(重合)させることで、非晶質シリカをあらかじめ水中に分散させたゾル溶液状態として得ることができる。例えば、比較的高温、かつアルカリ性のpH領域で反応を進めることにより、シリカ一次粒子の成長が速く進行し、一次粒子がフロック状に凝集し沈降する。その後、pH領域や温度、塩濃度などの反応条件を操作することで、一次粒子を成長させ、所定の粒径のシリカ粒子を得ることができる。
コロイダルシリカは、前記製法のとき、Na等の不純物を含む。コロイダルシリカは、1〜100nm程度の大きさの負に帯電した無定形シリカ粒子が水中に分散してコロイド状をなしているものである。粒子の表面には−SiOH基(シラノール基)及びOH−イオンが存在し、アルカリイオンにより電気二重層が形成され、粒子間の反発により安定化されている。そして、前記製法で得られるコロイダルシリカは、乾式法で製造されるシリカと比べて、表面シラノール基が圧倒的に多いことが知られている。本発明で使用したコロイダルシリカの場合、例えば、平均粒径が10〜50nmのものは表面シラノール基を1平方ナノメートル当たり5個程度有するとされている。そして、平均粒径が大きくなると表面シラノール基の数は少なくなる傾向がある。これに対して、同じコロイダルシリカでも、珪酸ナトリウムと鉱酸(一般には硫酸)の中和反応で製造したものは1平方ナノメートル当たり1〜2個に過ぎない。
Pozzolanic−Activity Index、ポゾラン活性度評価指標 )がある。
API法は、普通ポルトランドセメントとシリカを純水に添加し混合して分散液を調製し、当該分散液中におけるポゾラン反応によるCa2+イオンの消費率APIを次の式により算出するものである。このAPI値が高いほどCa2+との反応は活性であり、非晶質シリカ自体の反応率だけでなくエーライト反応の促進にも寄与するものと考えられる。
[Ca(C)]:標準試料のCa2+濃度(mg/L)
[Ca(F+C)]:評価試料のCa2+濃度(mg/L)
・珪質頁岩(KW):北海道稚内産、乾式ボールミルによる粉砕品、密度2.43g/cm3、平均粒径8.0μm、比表面積125m2/g
・二酸化けい素(記号SI):沈降法で製造、粉末状固体、密度2.21g/cm3、平均粒径31.0μm、比表面積0.73m2/g
・シリカフューム(記号SF1):粉末状固体、密度2.34g/cm3、平均粒径0.39μm、比表面積9.4m2/g
・コロイダルシリカMP−2040(記号CS1)、非晶質シリカゾル溶液、日産化学工業社製、密度1.30g/cm3、SiO2量40.7%
・コロイダルシリカスノーテックス30(記号CS3)、非晶質シリカゾル溶液、日産化学工業社製、密度1.21g/cm3、SiO2量30.5%
本発明で用いる非晶質シリカの初期反応性が高いことは、前記API値からも推察することが出来る。一方で、微少熱量計による水和発熱速度の測定からは、本発明の非晶質シリカは、これを添加することによりエーライト鉱物の反応を効果的に促進させていることが確認できた。図1、図2は、それぞれ、コロイダルシリカ(CS1)を添加した場合の水和発熱速度曲線を示す図と、シリカフューム(SF)を添加した場合の水和発熱速度曲線を示す図である。これより、本発明のコロイダルシリカを添加すると発熱ピーク位置は早期に現れ、なおかつ発熱ピーク自体も高くなり、エーライト反応が促進されていることが分かる。これに対して、図2はコロイダルシリカに代えて粒径が同程度のシリカフューム(SF)を添加した場合の水和発熱速度曲線であるが、発熱ピーク位置はむしろ遅れて現れる結果であった。この相違は、主に、製法の違いによる非晶質シリカの表面シラノール基の数の違いによるものと考えられ、表面シラノール基の数は初期反応性だけでなく、エーライト鉱物の反応促進に大きく寄与する。
本発明のセメント添加材は、普通ポルトランドセメント、早強セメント等、エーライトが、50〜75質量%含有されるセメントを使用することが好ましい。本発明の添加材は、ビーライトと比較して、比較的初期の水和が早いとされるエーライト鉱物の水和を促進するもので、特にエーライト鉱物が、50質量%以上含有するセメントで、強度発現の効果が大きいためである。ただし、75質量%を越えると、初期強度に影響のある、間隙質相の割合が減少してしまい、初期強度が保てなくなるおそれがある。
骨材は通常の生コンで使用するものと同様のものを使用することが出来、特に限定されない。
水/セメント比は、特に、限定するものではないが、25%〜60%の範囲が好ましい。水/セメント比の下限を25%としたのは、それ未満ではモルタル及びコンクリートの混練が難しく、非晶質シリカをペースト中に均一に分散させることが難しいためである。また、上限を60%としたのは、それを超えると所定の強度を得るのが難しくなるからである。
本発明のセメント添加材は、上記の非晶質シリカが、固形分換算で、セメント100質量部に対して、3〜15質量部となるように添加する。3質量部未満では、粉体に対する非晶質シリカの割合が少ないため効果が現れ難い。15質量部を超えると、シリカの凝集が起こり易く、セメント組成物のコンシステンシーが低下するほか、セメント硬化体の強度が低下するおそれがあるためである。
本発明のセメント添加材を用いたセメント組成物は、20℃程度の常温に置かれた場合、通常の普通ポルトランドセメント、早強セメントを用いたものとほとんど同様の速度で、初期水和が進行すると思われ、硬化促進剤を用いる場合のように極端なスランプロスを生じることはない。本発明の添加材を添加することにより、セメント組成物の粘性は高くなることもあるが、一般のAE減水剤や高性能減水剤を併用することで、所定の流動性を付与することが可能となり、スランプロスが小さく、十分な可使時間をとることができる。
さらに、本発明のセメント添加材を用いたセメント組成物を4〜24時間高温養生することによって、添加しない場合よりもエーライト鉱物の水和を格段に促進させることができることが判明した。さらに、同じ非晶質シリカでも、コロイダルシリカは、シリカヒュームに比べて、高温養生によるエーライト鉱物の反応の促進効果が顕著であった。ここで、養生時間の下限値を4時間としたのは、4時間未満の養生ではエーライト反応が活発となる第二ピーク時期をカバーできず、十分な反応促進を期待できないためであり、24時間を越える養生ではほぼエーライト反応が終了し、それ以上反応率は上がらないからである。さらに、コンクリートが乾燥するのを防ぎ、湿潤状態(さらなる加水は、必須ではない)で養生を行うことによって、未反応のエーライト鉱物や反応活性の小さいビーライト鉱物を長期にわたり反応させることができるため、長期強度をも増進させることができる。これにより高強度、高耐久なセメント硬化体を製造することができる。
二次製品では、蒸気養生槽内の温度管理を適切に行うことで、所定の効果を得ることができる。一方、現場打ちのマスコンクリートなどでは、熱伝導率の小さい型枠を使用し、断熱性の材料でコンクリートを覆うことによって、セメント自体の水和熱でコンクリート内部温度が上昇し、所定の効果を得ることも可能である。部材厚さが20cm以下と薄い場合等で、断熱効果による内部温度の上昇があまり期待できないときは、上記の保温養生だけでなく、給熱養生を行うことができる。給熱方法は、コンクリートをシート等で被覆して、練炭またはジェットヒーター等で給熱するのが一般的である。これによって、セメント自体の水和発熱と相まってセメント組成物温度は上昇し、表面シラノール基を多く有する非晶質シリカは、ほぼ完全に反応して十分な強度を発現することになる。なお、給熱する場合は、コンクリートが急激に乾燥したり、局所的に熱せられたりしないよう留意し、また、給熱養生後はコンクリートの温度が急激に低下しないようにする。
本発明のセメント組成物を55℃以上に加温することによって初期強度が大幅に向上する理由は、以下のように考えられる。表面にシラノール基を多く有し、ポゾラン活性の高い非晶質シリカが水中に分散状態で存在すると、通常、エーライト鉱物を取り囲むよう生成するC−S−Hからカルシウムを引っ張り出して、水和物を生成する。あるいは、通常、エーライト鉱物の水和を遅延させていた前記C−S−H相が、非晶質シリカの影響で別のサイトに生成するため、内部の未反応エーライトの反応を阻害しなくなると考えられる。こうして、セメントのエーライト反応が促進されることで、初期に高い強度発現が得られることになる。また、この非晶質シリカの反応は、反応温度によって制御することができるため、可使時間を延長することも可能である。即ち、これらの反応が活発化するのは温度因子の影響が大きく、20℃程度の常温では通常のエーライトの水和速度程度であり、養生温度が高くなると急激に促進される。従って、適切な高温養生を行うことで、特に、エーライト鉱物と非晶質シリカの反応を効果的に促進することが可能である。
表面にシラノール基を多く有するコロイダルシリカは、エーライト鉱物と所定温度以上で急速に反応する。常温付近では、通常のセメント組成物と同じ挙動を示すが、高温養生すると劇的に反応し、セメント中の主要鉱物であるエーライトを非常に短い時間で、ほぼ100%反応させることが出来る。同じ非晶質の粉体であるが、表面にシラノール基の乏しいシリカフュームには、エーライトの反応をここまで促進する効果はない。この相違は、微少熱量計を用いた水和発熱速度曲線のピーク位置から判定することができる。
1.セメント:太平洋セメント社製 普通セメント、密度3.16g/cm3、ブレーン値3,480cm2/g、エーライト量はXRD/リートベルト法により算出したところ60.5%であった。
2.水:水道水
3.減水剤および空気量調整剤:BASF社製 高性能AE減水剤SP8S(Ad1)及びBASF社製 マイクロエア404(Ad2)
まず、API値が記載された表1の各種シリカ質物質の中で、シリカフューム(SF)及びコロイダルシリカ(CS3)を用いたセメント組成物におけるエーライトの初期反応率(高温養生終了時点まで)について詳述する。
セメント186質量部、細骨材600質量部、非晶質シリカ固形分14質量部、水100質量部のモルタルを作製した。モルタルの水粉体比は50%、非晶質シリカとしてコロイダルシリカ(CS3)を使用し、セメント質量に対して内割で7%添加したものである。練り混ぜ後の作業性を確保するために、高性能AE減水剤(Ad1)をセメントと非晶質シリカ200質量部に対して1.0%となるよう添加し、さらに、モルタル中の空気量を3%〜4%の範囲に調整するために空気量調整剤(Ad2)を適宜添加した。練り混ぜは、JIS R 5201に準拠して行い、5Lホバートミキサーを使用した。その結果、練り混ぜ直後のモルタル15打フローは175mm、2時間経過後のモルタル15打フローは168mmとなり、フローロスが少なく、良好な流動性を有していた。練り混ぜから3時間後、ブリーディングが出なくなった時点で練り返しを行い、φ50×100mmの型枠内へ成型した。その後、60℃で4時間の加熱養生を行ったところ、養生終了時点の圧縮強度は36.8N/mm2であった。また、強度発現の主因となるセメント中のエーライトの反応率を測定したところ95.2%であり、ほぼ反応が終了していた。
使用材料は実施例1と同じで、60℃での加熱養生時間を24時間としたものである。その結果、圧縮強度は38.5N/mm2となり、エーライトの反応率は96.1%であった。
使用材料は実施例1と同じで、加熱養生を行わず、20℃の標準水中養生を行ったものである。その結果、圧縮強度は23.1N/mm2となり、エーライト反応率は40.8%にとどまった。以上より、コロイダルシリカを添加しただけでは、エーライト反応の促進効果は期待できないことが分かる。
実施例1の使用材料で、コロイダルシリカを用いなかったブランク試験である。その結果、圧縮強度は29.7N/mm2であった。なお、加温養生による反応促進効果によりエーライトの反応率は69.8%であった。
実施例1の使用材料で、コロイダルシリカの代わりに硬化促進剤である亜硝酸カルシウムをセメント100質量部に対して2質量部加えた。その結果、練りあがったモルタルは約10分で作業性が悪くなり、30分で作業が出来なくなった。圧縮強度は25.6N/mm2であった。
実施例1の使用材料で、コロイダルシリカの代わりにシリカフューム(SF)を粉体として同量添加したものである。使用したシリカフュームは、平均粒径が大きく(0.39μm)、比表面積が比較的小さい(9.4m2/g)。前記API法によるAPI値は55.8%である。なお、微少熱量計による水和発熱速度の測定によれば、SFを添加した場合の水和発熱速度曲線の第二ピークは何も添加しないものよりも約1時間遅れて発現した。成型後、60℃で4時間の加温養生を行ったところ、圧縮強度は28.8N/mm2であった。この時のエーライト反応率は72.5%であり、コロイダルシリカ(CS3)を用いた場合と比べてエーライト反応を促進する効果は小さい。ただし、モルタルフローは練り上がり直後(170mm)よりも2時間後(180mm)の方が大きくなり、作業性の面からは望ましい結果であった。
長期材齢における強度増進効果を確認するために行った追加実験例に使用した非晶質シリカは、以下の7種類である。なお、非晶質シリカの粒径は、光子相関法により行い、メディアン径を示した。
1.コロイダルシリカ:非晶質シリカゾル溶液6種類、日産化学工業社製。
・スノーテックス30(CS3)、密度1.21g/cm3、SiO2量30.5%、非晶質シリカ粒径12nm、API法によるAPI値は66.1%
・スノーテックス50、密度1.37g/cm3、SiO2量48.1%、非晶質シリカ粒径25nm、API法によるAPI値は67.1%
・スノーテックスXL、密度1.30g/cm3、SiO2量40.6%、非晶質シリカ粒径46nm、API法によるAPI値は65.1%
・スノーテックスZL、密度1.29g/cm3、SiO2量40.4%、非晶質シリカ粒径75nm、API法によるAPI値は60.2%
・MP−2040、密度1.30g/cm3、SiO2量40.7%、非晶質シリカ粒径0.19μm、API法によるAPI値は63.7%であった。
・MP−4540M、密度1.37g/cm3、SiO2量48.1%、非晶質シリカ粒径0.45μm、API法によるAPI値は58.1%
なお、熱量計による測定の結果は、上記6種類いずれのコロイダルシリカも水和発熱速度の第二ピーク位置を早期に出現させるものであった。
加熱養生後、脱型を行い、所定材齢まで標準水中養生を行った。
一方、これらより粒径の大きなコロイダルシリカを用いた実験例5及び実験例6では、材齢28日及び91日の圧縮強度が、実験例1並みかそれ以下の値であった。また、シリカフュームを用いた実験例7、あるいは、シリカフュームよりも粒径が大きなコロイダルシリカを用いた実験例8は、材齢3日あるいは7日強度は実験例1を上回るが、材齢7日から28日の強度増加は小さく、材齢91日強度では実験例1と同等である。
注水から3〜4時間20℃恒温室にて前置きを行ってから、蒸気養生槽内へ搬入し、最高温度60℃で4時間の加熱養生を行った。温度履歴パターンは、昇温速度20℃/時間、最高温度60℃、保持時間4時間、降温速度10℃/時間である。加熱養生後、脱型を行い、所定材齢まで標準水中養生を行った。
以上、モルタル試験でもペースト試験と同様に、粒径10nm〜50nmの範囲のコロイダルシリカは、所定量添加することにより、初期強度のみならず長期強度を増加させる効果を有することが確認できた。
Claims (3)
- 水中に分散したゾル溶液状態の平均粒径10nm〜50nmの非晶質シリカであって、ポゾラン反応性迅速判定法(API法)によるAPI値が55%以上であり、微少熱量計によるセメントとの水和発熱速度の測定で、エーライトの水和発熱ピークの現出時間を短縮させることを特徴とする高温養生(高周波加熱を除く)用セメント添加材。
- 請求項1記載の高温養生用セメント添加材をセメントに対して固形分換算で7〜15質量部と、エーライトを50〜75質量%含有するセメント100質量部と、水から成る混合物を練り混ぜ、成形した後、55〜80℃の高温養生(高周波加熱を除く)を行って、エーライトの初期反応を促進して、硬化させたことを特徴とするセメント硬化体。
- 水中に分散したゾル溶液状態の非晶質シリカであって、平均粒径が10nm〜50nmであり、ポゾラン反応性迅速判定法(API法)によるAPI値が55%以上であり、微少熱量計によるセメントとの水和発熱速度の測定で、エーライトの水和発熱ピークの現出時間を短縮させるものを採用する高温養生(高周波加熱を除く)用セメント添加材の判定方法。
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