JP5577136B2 - グラフェン前駆体化合物及びその製造方法、並びにナノグラフェン構造体の製造方法 - Google Patents

グラフェン前駆体化合物及びその製造方法、並びにナノグラフェン構造体の製造方法 Download PDF

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本発明は、グラフェン前駆体化合物及びその製造方法、並びにそのグラフェン前駆体化合物を用いたナノグラフェン構造体の製造方法に関する。
炭素の同素体としてダイアモンドやグラファイトが古くから知られている。また、この30年の研究によりフラーレンやカーボンナノチューブが発見され、炭素に多様な同素体が存在することが明らかとなった。さらに最近になり、この同素体の1つとしてグラフェンも発見された。
このグラフェンは、電子輸送特性が極めて高く、さらに比表面積が大きく、熱伝導性、電流密度耐性、破壊強度が高いという優れた特性を有するため、LSIチャネル材料、電界放出材料、電極材料、配線・放熱材料、水素吸蔵材料等の多くの応用が期待されている。
これまでグラフェンの製造方法としては、グラファイトを構成するグラフェンを粘着テープで剥がす方法(非特許文献1参照)、炭化ケイ素(SiC)の表面を熱分解する方法(非特許文献2参照)、CVD法(非特許文献3,4参照)等が提案されている。CVD法では、原料ガス(CとHとの混合ガスやCHガス)を真空チャンバー内に導入し、そのガス分子をマイクロ波や熱等により励起させてラジカル化する。そして、金属を触媒として基板上にグラフェンを成長させる。
また、炭素微粉末が分散された、VIII族の遷移金属イオン及び還元剤を含む水溶液中で還元反応を誘起させて遷移金属粒子を形成し、その粒子表面にグラフェンを成長させる方法も提案されている(特許文献1参照)。
特開2009−062241号公報 特開2003−146633号公報
K. S. Novoselov et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 102, No.30, pp.10451, 2005 C. Berger et al., J. Phys. Chem., B108, pp.19912, 2004 Y. Wu et al., Adv. Mater., 14, No.1, pp.64, 2002 N. G. Shang et al., Chem. Phys. Lett., 358, pp.187, 2002
しかし、上記非特許文献1に記載の方法は再現性や量産性に問題があり、上記非特許文献2に記載の方法は基板が高価なSiC基板に限定されるという問題があった。また、上記特許文献1に記載の方法は量産性に問題があった。一方、上記非特許文献3,4に記載のCVD法は大量合成に適しているものの、原料ガスの取扱いに特段の注意を要するという問題があった。
このように、グラフェンの製造方法としては、未だ満足のいくものは提案されていないのが現状であった。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、CVD法によるグラフェンの大量合成に好適に用いられるグラフェン前駆体化合物及びその製造方法、並びにそのグラフェン前駆体化合物を用いたナノグラフェン構造体の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明者らは、グラフェンの生成過程に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、グラフェンの生成過程において、グラフェン核となる前駆体化合物の化学構造が、生成するグラフェンの構造にとって極めて重要であることを見出した。すなわち、(i)ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融して配位子交換反応を行って得られる化合物は、熱CVD法でグラフェンを生成する反応において、グラフェンの前駆体化合物として機能すること、(ii)この前駆体化合物をもとに、花弁形状、又は複数の花弁形状のグラフェンシートが集合した花冠形状のナノグラフェン構造体を選択的に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より詳細には、本発明は以下のとおりである。
(1) ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融して配位子交換を行って得られるグラフェン前駆体化合物。
(2) 上記ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物と上記メタロセン化合物とを100〜300℃で1〜2時間、加熱溶融して得られる上記(1)記載のグラフェン前駆体化合物。
(3) 上記メタロセン化合物がジルコノセン化合物である上記(1)又は(2)記載のグラフェン前駆体化合物。
(4) ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融し、配位子交換を行った後、冷却するグラフェン前駆体化合物の製造方法。
) 上記(1)から(3)のいずれか1項記載のグラフェン前駆体化合物を800〜1200℃で加熱するナノグラフェン構造体の製造方法。
) 上記グラフェン前駆体化合物を反応管内に配置し、該反応管にキャリアガスとして不活性ガスを導入することにより上記グラフェン前駆体化合物を浮遊状態にて加熱する上記()記載のナノグラフェン構造体の製造方法。
なお、本発明における「グラフェン前駆体化合物」とは、熱CVDによって熱分解して炭素源となるのではなく、該前駆体が成長してグラフェン核となる化合物を表す。
本発明によれば、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とから得られるグラフェン前駆体化合物をもとに、花弁形状、又は複数の花弁形状のグラフェンシートが集合した花冠形状のナノグラフェン構造体を選択的に製造することができる。
グラフェン前駆体化合物が成長根となり、アームチェア方向及びジグザグ方向にグラフェンが成長した状態を示す模式図である。 浮遊CVD法による反応炉の概略構成の一例を示す図である。 ジベンゾチオフェンのラマンスペクトルを示す図である。 ジルコノセンジクロリドのラマンスペクトルを示す図である。 ジベンゾチオフェン及びジルコノセンジクロリドから得られた実施例1のグラフェン前駆体化合物のラマンスペクトルを示す図である。 実施例1のナノグラフェン構造体のSEM像を示す図である。 実施例1のナノグラフェン構造体のTEM像を示す図である。 実施例1のナノグラフェン構造体のラマンスペクトルを示す図である。 実施例2のナノグラフェン構造体のSEM像を示す図である。 比較例1の反応生成物のSEM像を示す図である。
[グラフェン前駆体化合物及びその製造方法]
本発明に係るグラフェン前駆体化合物は、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融して配位子交換反応等を行って得られるものである。
ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物としては、特に限定されないが、ジベンゾチオフェン、ベンゾナフトチオフェン、ジナフトチオフェン、シクロヘキシルジベンゾチオフェン等が挙げられる。また、これらの化合物は置換基を有していてもよい。なお、これらの置換基は、ナノグラフェン構造体を製造する際の炭素源となるように、アルキル基等の炭化水素基が好ましい。上記ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物の中でも、特にジベンゾチオフェンが好ましい。
なお、上記炭素源のほかに、メタン、エタン等の飽和炭化水素、エチレン、アセチレン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、アルコール類等も炭素源として用いることができる。また、メタノールに代表される一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールに代表される二価アルコール、グリセリンに代表される多価アルコール等の、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物やメタロセン化合物を溶解させるものも、全て炭素源として用いることができる。
また、メタロセン化合物としては、特に限定されないが、ジルコノセン、ジルコノセンクロリドヒドリド、ジルコノセンジクロリド、フェロセン、コバルトセン、ニッケロセン、チタノセンジクロリド、ルテノセン等が挙げられる。これらの中でもジルコノセン化合物が好ましく、ジルコノセンジクロリドが特に好ましい。
ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物との混合比は、質量基準で1:1〜1:10が好ましい。
加熱溶融する際には、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物との混合物を加熱溶融するようにしてもよく、いずれか一方の化合物を加熱溶融した後、その融液に他方の化合物を溶かし込むようにしてもよいが、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物を加熱溶融した融液にメタロセン化合物を溶かし込むことが好ましい。
加熱溶融温度は、両者の融点以上沸点以下の温度であればよく、特に限定されないが、100〜300℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。また、加熱溶融時間は、特に限定されないが、1〜2時間が好ましい。このように加熱溶融することにより、配位子交換反応、酸化的付加反応、還元的脱離反応等のグラフェン前駆体化合物の生成反応が起こる。なお、グラフェン前駆体化合物の生成反応は、融液の色の変化により確認することができる。
このような加熱溶融により、本発明に係るグラフェン前駆体化合物を得ることができる。
加熱溶融後は、室温に冷却して固化させることで、固化したグラフェン前駆体化合物をナノグラフェン構造体の製造に用いることができる。あるいは、グラフェン前駆体化合物を固化させず、融液のままでナノグラフェン構造体の製造に用いてもよい。
このようにして得られるグラフェン前駆体化合物の構造は明確ではないが、最終的に得られるナノグラフェン構造体のSEM像、TEM像の分析結果等から、メタロセン化合物の金属原子にジベンゾチオフェン骨格を有する化合物が配位し、さらにジベンゾチオフェン骨格を有する化合物同士が鎖状に連結していると考えられる。このグラフェン前駆体化合物が成長根となり、アームチェア方向及びジグザグ方向にグラフェンが成長する。なお、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物同士が鎖状に連結した方向がアームチェア方向である。
グラフェン前駆体化合物が成長根となり、アームチェア方向及びジグザグ方向にグラフェンが成長した状態の模式図を図1に示す。図1において、グラフェンシートの末端に存在するチオフェン環は、ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物に由来するものである。このチオフェン環の硫黄原子がメタロセン化合物の金属原子に配位している。
[ナノグラフェン構造体及びその製造方法]
本発明で製造されるナノグラフェン構造体は、上述したグラフェン前駆体化合物を800〜1200℃で加熱して得られるものである。
ナノグラフェン構造体の加熱に際しては、通常の熱CVD法を用いることができるが、特に、浮遊CVD法によりグラフェン前駆体化合物を浮遊状態にて加熱することが好ましい。浮遊CVD法による反応炉の概略構成の一例を図2に示す。
図2に示すように、反応炉1は、反応管としての透明石英管10と、透明石英管10の周囲を囲むように配置された円筒状のヒータ12とを備えている。このヒータ12により、透明石英管10の内部を所望の温度に加熱することができる。
透明石英管10の内部のうち、ヒータ12によって囲まれた加熱領域よりも前方には、グラフェン前駆体化合物が載せられるアルミナボート11が設けられている。
ナノグラフェン構造体を製造する際には、アルミナボート11上にグラフェン前駆体化合物を載せ、透明石英管10内にキャリアガスとしてアルゴンガス等の不活性ガスを導入することにより、グラフェン前駆体化合物を浮遊状態にて800〜1200℃で加熱する。加熱温度は800〜1000℃が好ましく、900〜1000℃がより好ましい。このように加熱することにより、透明石英管10の後方において、煤状物質としてナノグラフェン構造体を得ることができる。また、加熱温度を変化させることにより、ナノグラフェン構造体の構造を変化させることが可能である。
このようにして得られるナノグラフェン構造体は、花弁形状、又は複数の花弁形状のグラフェンシートが集合した花冠形状となっている。花冠形状の場合、ナノグラフェン構造体はその状態で使用してもよく、あるいは複数の花弁形状のグラフェンシートに分離して使用してもよい。例えば、適当な分散媒中にて超音波で処理することにより、花冠形状のナノグラフェン構造体を複数の花弁形状のグラフェンシートに分離することができる。
このようにして得られるナノグラフェン構造体は、LSIチャネル材料、電界放出材料、電極材料、配線・放熱材料、水素吸蔵材料等への応用が可能である。特に花冠形状のナノグラフェン構造体は比表面積が大きいため、燃料電池の材料として好適である。
また、花冠形状のナノグラフェン構造体は極めて多数の細孔を有するため、油吸収剤等の、既往の膨張黒鉛に代わるミクロ孔材料を提供することも可能である。
さらに、本発明で製造されるナノグラフェン構造体は、従来公知のナノグラフェン構造体よりもジグザグ端の割合が多いという特徴を有する。このジグザグ端にはスピンや電子が局在したエッジ状態が存在することが知られているため、スピントロニクス分野への応用も可能と思われる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
アルミナボート上で160℃にて加熱溶融された0.9gのジベンゾチオフェンの融液に、0.1gのジルコノセンジクロリドを溶解させ、さらに160℃で加熱した。時間経過に従って無色透明の融液が薄黄色から茶色、赤色へと変化した。さらに加熱すると融液は紫色に変色するが、その直前に冷却し、室温で固化させてグラフェン前駆体化合物を得た。ジルコノセンジクロリドを溶かし込んでから冷却するまでの時間は約2時間であった。
ジベンゾチオフェン及びジルコノセンジクロリドのラマンスペクトルをそれぞれ図3,4に示し、得られたグラフェン前駆体化合物のラマンスペクトルを図5に示す。図3〜5から、ジベンゾチオフェン及びジルコノセンジクロリドのピークがほぼ消失し、その代わりに新たな配位結合が生成していることが確認できる。特に、1350cm−1付近にブロードなDバンドが検出されていることから、グラフェン核が形成されていると考えられる。2900cm−1のバンドはシクロペンタジエン環の吸収に由来するものである。
なお、C−S結合を含むチオカルボニル錯体においては、1270〜1360cm−1にC−S結合の伸縮振動のバンドが検出されることが知られている(F.A.コットン,G.ウィルキンソン,P.L.ガウス,基礎無機化学,pp.556,1991を参照)。図5の約1200〜1500cm−1のブロードなバンドには、グラフェン前駆体化合物中のC−S結合の伸縮振動に帰属されるバンドが含まれていると考えられる。
このようにして得られたグラフェン前駆体化合物を図2に示すような構造の反応炉で加熱することにより、ナノグラフェン構造体を製造し、透明石英管の後方に堆積した煤状のナノグラフェン構造体を回収した。
なお、透明石英管としては内径25mm、長さ100cmのものを用い、ヒータとしては、長さ60cmのものを用いた。不活性ガスとしてはアルゴンガスを150mL/分の流量で導入した。また、アルミナボート付近の温度は約200〜300℃、ヒータによる加熱領域の温度は約1000℃であった。
得られたナノグラフェン構造体のSEM像を図6に示す。図6に示すように、ナノグラフェン構造体は、複数の花弁形状のグラフェンシートが集合した花冠形状であり、それが複数観察された。
1つのナノグラフェン構造体を拡大したTEM像を図7に示す。図7中で黒く棒状に観察される部分は花弁形状のグラフェンシートの端部であり、ここにジルコニウム原子が並んでいる。上述したように、グラフェン前駆体化合物ではメタロセン化合物の金属原子にジベンゾチオフェン骨格を有する化合物が配位し、さらにジベンゾチオフェン骨格を有する化合物同士が鎖状に連結していると推測されるが、このTEM像は、その推測を支持するものである。
得られたナノグラフェン構造体のラマンスペクトルを図8に示す。図8に示すように、1350cm−1付近にDバンドが検出されるとともに、1590cm−1付近にGバンドが検出されており、ナノグラフェン構造体であることが確認できる。
[実施例2]
ヒータによる加熱領域の温度を約900℃に変更したほかは、実施例1と同様にしてナノグラフェン構造体を製造した。
得られたナノグラフェン構造体のSEM像を図9に示す。図9に示すように、ナノグラフェン構造体は1枚のグラフェンシートからなる花弁形状となっている。特に、このナノグラフェン構造体は10μm径を超える非常に大きなものである。
[比較例1]
グラフェン前駆体化合物の代わりに、ジベンゾチオフェン及びジルコノセンジクロリドを乳鉢で混合した混合物をアルミナボート上に載せたほかは、実施例1と同様にしてナノグラフェン構造体の製造を試みた。得られた反応生成物のSEM像を図10に示す。図10に示すように、比較例1では微細なカーボンナノチューブの集合体が観察されたが、花弁形状や花冠形状のナノグラフェン構造体は観察されなかった。
1 反応炉、 10 透明石英管、 11 アルミナボート、 12 ヒータ

Claims (6)

  1. ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融して配位子交換を行って得られるグラフェン前駆体化合物。
  2. 前記ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物と前記メタロセン化合物とを100〜300℃で1〜2時間、加熱溶融して得られる請求項1記載のグラフェン前駆体化合物。
  3. 前記メタロセン化合物がジルコノセン化合物である請求項1又は2記載のグラフェン前駆体化合物。
  4. ジベンゾチオフェン骨格を有する化合物とメタロセン化合物とを加熱溶融し、配位子交換を行った後、冷却するグラフェン前駆体化合物の製造方法。
  5. 請求項1から3のいずれか1項記載のグラフェン前駆体化合物を800〜1200℃で加熱するナノグラフェン構造体の製造方法。
  6. 前記グラフェン前駆体化合物を反応管内に配置し、該反応管にキャリアガスとして不活性ガスを導入することにより前記グラフェン前駆体化合物を浮遊状態にて加熱する請求項記載のナノグラフェン構造体の製造方法。
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