JP5571980B2 - 床材 - Google Patents

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Description

本発明は、皮革調の床材に関する。さらに詳しくは、床材自体が揮発性有機化合物を含有せず、また、床材の製造時にも揮発性有機化合物を発生させない製造方法に関し、得られた床材の表面に付着した水分が急速に吸収、拡散するといった、乾燥速度が著しく速い皮革調の床材に関する。
従来、床材の表皮材としては、主に木、ポリ塩化ビニル(PVC)等の皮革調表皮材、天然いぐさ等を使用しているが、クッション性に乏しく、また接触したときに冷たく、濡れた状態で長時間肌が接触するには不適当な場合がある。さらに素材によっては硬く、歩行の際に滑りやすい場合もある。
また、畳材においては、表皮材として天然い草が主に使用されているが、そのカット面のほつれを予防するために縁を縫い付けるといった余分な作業を行う必要があった。
上記問題を解決するために、芯材の少なくとも片面に設けられるクッション材と、このクッション材を覆うように取り付けられた基布上にさらにレザー状の皮膜が形成された皮革調の床材が提案されている(特許文献1を参照)。しかしながら、レザー状の皮膜や基布を製造するに際し、従来の製造方法では、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、以下VOCと略す場合もある。)を原料や製造工程において用いることが避けられず、またそれにより、皮革調仕上げ材を用いた床材に揮発性有機化合物が残留してしまうといった問題があった。そして、皮革調仕上げ材に用いる皮革様シートは一般的にPVC系や有機溶剤を使用したポリウレタン系合成皮革を表皮材として使用しており、VOC低減等に関する記載はなく、環境への負荷の問題を含むものであった。また、従来のレザー状の皮膜や基布(材)では、長時間に渡るクッション性の維持や、表面に付着した水分が急速に吸収、拡散するといった、乾燥速度に劣るため、肌触りがべとべとした触感を有するものであった。
特許第4276052号公報
本発明は、皮革調の外観を有し、床材としてのクッション性、高級感、歩行安定性を満たし、VOCの使用による環境への負荷を激減させることを課題とする。さらに床材の表面に付着した水分が急速に吸収、拡散するといった、乾燥速度が著しく速い皮革調床材を提供する。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決する皮革調床材を見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔6〕を提供する。
〔1〕芯材および該芯材の表面に形成された銀付調またはスエード調皮革様シートからなる皮革調床材であって、以下(1)〜(3)を満足することを特徴とする皮革調床材。
(1)銀付調またはスエード調皮革様シートが絡合不織布およびその内部に高分子弾性体が含浸された基材からなる、
(2)芯材に銀付調またはスエード調皮革様シートを縫い付けにより積層してなる、及び
(3)皮革調床材中に存在するジメチルホルムアミド(DMF)濃度が10ppm以下である
〔2〕前記銀付調皮革様シートが繊維銀面を有する銀付調皮革様シートであって、前記銀付調皮革様シートが極細長繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなり、下記条件(1)〜(3):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、および
(3)前記銀付調皮革様シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない、
を同時に満足する皮革様シートからなる前記〔1〕に記載の皮革調床材。
〔3〕前記スエード調皮革様シートが、極細長繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなり、下記条件(1)〜(2):
(1)前記極細長繊維の平均繊度が0.001〜2dtexである、
(2)前記極細長繊維の繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、
を同時の満足する皮革様シートからなる[1]に記載の皮革調床材。
〔4〕皮革調床材中に存在するトルエン濃度が50ppm以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1に記載の皮革調床材。
〔5〕皮革調床材中に存在するトルエン濃度が0.05ppm以下である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1に記載の皮革調床材。
〔6〕前記芯材が畳、畳表を除いた芯材(畳床)、及びインシュレーションボードから選ばれる少なくとも一つの芯材である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1に記載の皮革調床材。
〔7〕インシュレーションボードの密度が0.5g/cm3以下の芯材である前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の皮革調床材。
本発明の皮革調床材は、床材自体が揮発性有機化合物を含有せず、また、床材の製造時にも揮発性有機化合物を発生させない。また、得られた床材の表面に水分が付着しても、水分が急速に吸収、拡散し、床材として水分が吸収されるため、滑ることがなく、歩行性に優れ、さらに、肌触りのべとつき感を低減することができる。
本発明の皮革調床材の芯材としては、床材になり得る公知の素材を用いることが可能である。
例えば、一般的に木材などの植物繊維を成型した繊維板であり、インシュレーションボードと称されるものが用いられる。また、ポリウレタンやポリスチレン等で代表される高分子弾性体からなるフォーム、または無孔板、繊維布帛、紙、セラミックやコルク、畳もしくは畳表を除いた芯材(畳芯)、または前述のインシュレーションボード等を用いることが可能である。中でも、天然の芯材を用いることが、VOCを抑制する点で好ましく、特に畳もしくは畳芯またはインシュレーションボードを用いることが、クッション性に優れ、かつ本発明の皮革調床材との組み合せによる違和感等が低減できる点でより好ましい。また、インシュレーションボードを用いる場合はその密度が0.5g/cm3以下であることが、床材製造時の取り扱い容易性や、クッション性に優れる点で好ましく、0.1g/cm3以上であることが、床材の潰れ難さや強度が良好な点で好ましい。
次に、本発明の皮革調床材の表面に用いる銀付調またはスエード調皮革様シートについて説明する。
本発明の皮革調床材の皮革様シートを銀付調またはスエード調皮革様シートとするが、特に本発明の目的の一つである床材の表面に水分が付着しても、水分が急速に吸収、拡散し、床材として水分が吸収されるため、滑ることがなく、歩行性に優れたものであって、また肌触りのべとつき感を低減することができるためには、とくに銀付調皮革様シートの場合、銀付調皮革様シートの表面が、繊維が高密度に集合した繊維表面からなる繊維銀面調の皮革様シートであることが好ましい。
かかる繊維銀面調の皮革様シートは、以下の順次工程により製造することができる。
(1)海成分が水溶性成分からなる海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程、
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維から海成分を除去して、該極細繊維形成性長繊維を平均繊度0.001〜2dtexの極細長繊維を複数本含む平均単繊度0.5〜10dtexの繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(4)高分子弾性体と前記極細長繊維の質量比が0.001〜0.6となるように、前記絡合不織布に前記高分子弾性体の水分散体を付与し、熱を加えて高分子弾性体を前記絡合不織布の少なくとも表面に移行させ、凝固して皮革様シートを製造する工程、および
(5)前記皮革様シートの少なくとも前記表面を海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスし、銀面を形成する工程、
(6)前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程、(但し、工程(4)を工程(3)の前に行ってもよい)。
またスエード調皮革様シートは、上記の工程(1)から工程(4)を行った後に表面を起毛処理することにより製造することができる。
以下、各工程について詳述する。
(1)長繊維ウェブ製造工程
工程(1)では、海成分が水溶性成分からなる海島型長繊維を用いて、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する。海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合ウェブ(不織布)構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBT、及びこれらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れた製品が得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有する。
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。なお、本発明でいうポリマーの融点とは、後述するように示差走査熱量計の2nd Runでの吸熱ピーク(融点ピーク)のトップ温度である。本発明で使用する島成分ポリマーは示差走査熱量計での1st Run測定において、融点ピークの他にも吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークと称する場合がある)を有することが好ましい。副吸熱ピークを有すると、島成分ポリマーの融点以上に昇温しなくても、表面を構成する極細繊維同士が一部融着して銀面(繊維銀面)を形成し易く、良好な表面物性および天然皮革並の柔軟な風合いを兼ね備えた繊維銀面銀付調の皮革様シートが得られる。
島成分ポリマーの副吸熱ピークの温度は、融点よりも30℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点で好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。副吸熱ピークの温度の下限は特に限定しないが、融点よりも160℃以上低い場合でも問題なく製造することができる。
融点ピークと副吸熱ピークを有する島成分ポリマーとしては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂の変性物が好ましく用いられる。中でも表面物性、風合い、および極細繊維融着性を兼ね備える点で、変性ポリエステル系樹脂がより好ましく、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂がさらに好ましい。但し、上記変性ポリマーは公知の方法により部分配向(POY)されていることが副吸熱ピークを維持し易い点で好ましい。
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは、水、温水、熱水等の水または水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは水に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす水溶性成分である限り海成分ポリマーは特に限定されないが、VOCを抑制する観点から、例えば、水溶性変性ポリエステルやポリビニルアルコール系樹脂などが用いられる。このように、有機溶剤を用いなければVOCを抑制した銀付調またはスエード調皮革様シートを製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性変性ポリエステルや水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細繊維化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
従来の皮革様シートの製造においては、極細繊維束形成性長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにする。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は海島型長繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃が融点ピークと副吸熱ピークを存在させ易い点で好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。
必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる皮革様シートは連続性の高い長繊維からなるので、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した皮革様シートに比べて、強度などの物性、芯材表面に積層した場合に皮革様シートの周囲をカットしても繊維屑が発生し難い点においても優れている。
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μm2であるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように、例えば絡合処理工程までに意図的に切断されていない繊維をいう。そして、極細繊維化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
工程(2)では、前記長繊維ウェブに絡合処理を施して絡合ウェブを得る。前記長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2の範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500パンチ/cm2の範囲である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型長繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が平均600〜4000個/mm2の密度で存在する、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。長繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、長繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行うことで海島型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。ただし、本発明では、後述のように極細長繊維を構成する島成分ポリマーの副吸熱ピークを利用して低温で銀面(繊維銀面)を形成させるため、該副吸熱ピークが消失しないような温度条件を選ぶ必要がある。絡合ウェブの目付は100〜2000g/m2あるのが、床材としての強度やクッション性に優れる点で好ましい。
工程(3)では、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維束形成性長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。
海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーとしては、前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、抽出処理の際に有機溶剤を用いることが無い為、環境負荷が少なく、VOCの発生を抑制する点、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、これを有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維束形成性長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
必要に応じて、極細繊維束形成性長繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは25%以上、より好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けが防止され、また、後述する微細空隙を所定数形成することが容易になることで、床材としてのクッション性が長期的に低下せず、また物性的にも優れた物となる。
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウェブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
任意に行われる収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する絡合不織布が得られる。前記絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.002〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られる皮革様シートの緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本であることが、表面を構成する繊維密度が極めて高くなり、表面物性や吸水性を兼ね備える点、床材としての強度やクッション性に優れる点で好ましい。
前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られる皮革調床材としての表面摩耗が少なく、形態保持性および充実感が良好である。後述するように、高分子弾性体を付与する前に絡合不織布を分散染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、染色時の繊維の素抜けやほつれ、床材としてのほつれを防止することができる。
前記絡合不織布を構成する極細繊維束形成性長繊維を極細繊維束に変換する工程(3)から工程(6)の間で、極細繊維がポリエステル系繊維の場合には、必要に応じて、絡合不織布を分散染料で染色してもよい。分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体を付与する前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じることが多い。本発明では極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維は高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には収縮処理することが好ましい。
工程(4)では、前記絡合不織布に高分子弾性体の水分散体または水溶液を付与し、熱を加えながら高分子弾性体を表面、または後述するように2枚製造する場合には表面および裏面に移行させ、その後、凝固させて皮革様シートを製造する。高分子弾性体としては、人工皮革製造に従来用いられているポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタン弾性体及び/又は(メタ)アクリル系高分子弾性体が特に好ましい。
ポリウレタン弾性体としては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
前記高分子弾性体は水溶液または水分散体として前記絡合不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体の水溶液または水分散体は、凝固後の高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.001〜0.6、好ましくは0.005〜0.6、より好ましくは0.01〜0.5になるように含浸させる。
高分子弾性体の水溶液または水分散体を絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。従来の人工皮革の製造においては、感熱ゲル化剤などを使用して、含浸した高分子弾性体が絡合不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)するのを防止し、高分子弾性体を絡合不織布中で均一に凝固させている。しかし、本発明においては、含浸した高分子弾性体を絡合不織布の少なくとも表面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続的に勾配させるのが好ましい。すなわち、本発明の繊維銀面からなる銀付調またはスエード調皮革様シートにおいて、高分子弾性体は厚み方向中央部では疎に、表層部では密に存在するのが表面物性、特にスエード調皮革様シートの場合、立毛繊維の耐素抜け性や耐ピリング性に優れる点や天然皮革様の触感に優れる点で好ましく、表面層の存在量が下面層よりも密であることがより好ましい。このような分布勾配を得るために、本発明では、高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、絡合不織布の少なくとも表面を好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面から蒸散し、それに伴って高分子弾性体を含む水分が表層部に移行し、高分子弾性体が表面近傍で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面に吹きつけることにより行うのが好ましい。
工程(5)では、工程(4)で得た皮革様シート(凝固した高分子弾性体を含有する絡合不織布)の少なくとも前記表面を、前記海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスする。これにより銀面が形成される。銀面が形成される限り特に限定されないが、加熱温度は130℃以上であるのが好ましい。熱プレスは、例えば、加熱した金属ロールによって行われ、1〜1000N/mmの線圧で熱プレスするのが好ましい。なお、熱プレス温度が上記温度(海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低い温度)よりも高い場合は、極細長繊維を構成するポリマー同士の融着が大きくなり、表面層より内部、例えば基体層2を構成する極細長繊維同士が融着するため、板状の非常に硬いものになってしまう。一方、熱プレス温度が前記高分子弾性体の融点以上の場合は、高分子弾性体が溶融し、プレス機に接着するため、平滑な銀面は得られず、また、生産性も不良となる。なお、得られる床材の表面付近のウエット感を低減させ、水分を内部に効率的に拡散・蒸散させるには、該熱プレスを表面層の断面に存在する空隙孔の面積が、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の80%以下にするように行うことが、吸水拡散性と表面強度を兼ね備える点で好ましい。そのためには、表面層のみの熱プレスか、表面と裏面に高分子弾性体をマイグレーションさせて両面熱プレス後に厚さ方向に2分割(スライス処理)することが好ましい。
このように本発明の銀面の形成方法は、高分子弾性体を含浸後の絡合不織布表面に高分子弾性体をさらに塗布し凝固する方法または高分子弾性体のフィルムを貼付する従来の方法とは異なる。すなわち、本発明においては、絡合不織布に高分子弾性体の水溶液または水分散体を含浸し、高分子弾性体を表面及び裏面にマイグレーションさせた後凝固し、高分子弾性体を中心部より表面及び裏面近傍により密に存在させ、次いで、表面を熱プレスすることにより銀面を形成する。或は、両面を熱プレスした後に厚み方向に分割して銀面を形成した皮革様シートを2枚製造することが可能になることから、効率的に製造可能な点で好ましい。これらの方法によれば、銀面をより低温で形成することができるが、その理由は極細長繊維に存在する副吸熱ピークによる極細繊維の部分的な融着に起因していると考えられる。塗布または貼付により形成した銀面はプラスチック感、ゴム感が強く、また、表面に付着した水分の吸収速度を低下させるが、本発明の方法により得られた銀面は天然皮革用の外観、低反発性、充実感を有するのみならず、表面に付着した水分を急速に吸収、拡散させる。上記のようにして得られた繊維銀面を有する銀付調皮革様シートの厚さは0.1mm〜6mmであることが好ましい。
必要に応じて工程(6)で、前記繊維銀面上に高分子弾性体の水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程を行うのが好ましい。特に、表面層に選択的に塗布した場合、エンボス模様の固定性が良好となり、製品となっても使用中にその模様が消失し難い傾向がある。そして、繊維銀面上に、上記した高分子弾性体の水溶液または水分散体を固形分として2 〜30g/m2グラビア塗布し、90〜140℃の熱風を吹きつけて乾燥、凝固させて銀擦り調の外観を付与することが好ましい。
更に、工程(7)として、前記工程(6)の後で下記工程(8)として、グラビア塗布面を70〜250℃の平滑面に接触させる工程を含むことが、表面のツヤ出し及び2色感を付与させる点で好ましい。接触時間は特に限定しないが、70〜250℃の金属ロールに0.1〜300秒接触させることが上記効果を発現し易い点で好ましい。高分子弾性体、およびその水溶液または水分散体の詳細は上記した通りである。
上記方法により製造された繊維銀面銀付調皮革様シートの表面層を形成する極細長繊維同士は、工程(5)の加圧加熱により少なくとも一部融着している。そして、本発明では、極細長繊維の融着により銀面が形成され、高分子弾性体がその形態を保持している。一方、基体層2を形成する極細長繊維同士は融着していない。「一部融着」とは、極細長繊維同士が長さ方向に部分的に融着している状態、および、繊維束のある断面において一部の極細長繊維同士が融着している状態を表す。
また、表面層の繊維束の内部は高分子弾性体で充填されており、かつ、繊維束の外周は高分子弾性体で完全に覆われていることが好ましい。極細繊維の一部は融着している。基体層2が高分子弾性体を含む場合、極細長繊維同士、繊維束同士、および極細長繊維と繊維束が高分子弾性体を介して接着しているが、繊維束の内部は高分子弾性体で充填されておらず、また、繊維束の外周は高分子弾性体により完全には覆われておらず一部が覆われているだけであることが好ましい。
本発明の繊維銀面からなる銀付調皮革様シートは、極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上であることが好ましい。
また、押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下であることが好ましい。
微細空間が上記範囲より広いと表面感が良くなく、凸凹が目立ってしまう。上記の構成であると、0.2cc/cm2/sec以上の通気性、および、30℃、80%RHで1000g/m2・24hr以上の通湿度が得られるので好ましい。上記微小空隙は、8000〜100000個であることが良好な通気性および通湿度を得る上で好ましい。微小空隙のサイズや個数は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。
前記極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が表面1cm2当り8000個以上存在するように、海島型長繊維の島の数を12〜1000とすることが好ましい。
また、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量が30mg以下であると、実使用時の表面磨耗量が少なく、外観変化も少なく、耐久性が良好になるので好ましい。
一方、スエード調皮革様シートを製造する場合、上記の工程(1)から工程(4)を行った後に表面を起毛処理することにより製造することができる。毛羽立てる方法としては公知の方法を用いてよく、例えばサンドペーパーや針布等を用いたバフがけを用いることができる。
このようにして得られた銀付調またはスエード調の皮革様シートを芯材上に公知の方法で、縫い糸により縫い合わせて積層し、皮革調床材とする。
縫い合わせた皮革様シート裏面は、極細繊維束間の平均空隙サイズが10〜40μmの範囲にあることで、床材としてのクッション性や極細長繊維絡合シートであり、インシュレーションの芯材との一体感に優れる。
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量基準である。
なお各特性は以下の方法で測定した。
(1)極細長繊維の平均繊度
皮革様シートを形成している極細長繊維(20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
(2)繊維束の平均繊度
絡合不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
(3)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(2nd Run)に得られた吸熱ピーク(融点ピーク)のピークトップ温度を求めた。
(4)副吸熱ピーク温度
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(1st Run)に得られた吸熱ピークの内、上記融点ピークよりも低温側のピークのトップ温度を求めた。
(5)銀付調皮革様シートの微細空隙の幅と個数、表面層の断面に存在する空隙孔の面積と基体層3および裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の比率
繊維銀面銀付調皮革様シートの表面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し極細繊維で囲まれた不定形(20個)空隙の巾を計測し、最大巾と最小幅を求めた。ついで、一定面積(100μm×100μm)中に存在する微細空隙の個数を計測して表面1cm2当りに換算した。また、繊維銀面銀付調皮革様シートの表面層と基体層3および裏面層の断面を走査型電子顕微鏡(倍率:800倍〜2000倍程度)により観察し、任意20箇所(表面層20箇所と基体層3を10箇所+裏面層10箇所)を抽出し、一定面積(100μm×100μm)中に存在する極細繊維および高分子弾性体以外の空間で囲まれた空隙孔の面積比で比較した。
(6)見掛け密度
試料を縦16cm×横16cmに切り取り、天秤にて重量を少数第3位まで秤量し、目付(g/m2)を求めた。次に厚さをJISL1096:1999 8.5に準拠して圧接子径8mm、圧荷重240g/m2で測定し、該目付けと厚さから見かけ密度を計算した。
(7)吸水拡散速度
15cm×15cmの皮革様シートの中央部に水を0.3ccスポット状に滴下し、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して吸水時間と吸水後の拡散面積(単位:cm2)を測定した。
(8)乾燥速度
皮革様シートのサンプル(7cm×7cm)に水1ccを吸水させ、温度:27℃、湿度:52%の温調室に放置して各時間での重量を測定し、残存水分率を計算した。
(9)残留DMF濃度および残留トルエン濃度
皮革調床材のサンプルを捕集バッグによる試料採取し、その試料を4cm×0.3cmに試料をカット(1.2cm2)した後、加熱脱着装置〔TurbomatrixTD、パーキンエルマー社製〕により、加熱脱着させたものを、捕集チューブを通り、トラップチューブで吸着させる。
その後、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析法)にて定量をおこなった。
加熱脱着装置およびGC/MSの詳細設定条件は下記に示す。
加熱脱着装置条件
装置名:TurbomatrixTD(パーキンエルマー)
1.捕集チューブ
脱着温度:100℃
脱着流量:30ml/min
脱着時間:10min
人口スプリット:90ml/min
2.トラップチューブ
吸着剤:TenaxTA
トラップ温度:5℃
脱着温度:260℃
出口スプリット:20mi/min
カラム圧:120kPa
GC/MS条件
装置名:Agilent5975
カラム:DB−5MS(30m−0.25mm−1.0μmーブン:50℃(1分保持)→250℃、10℃/分
MSイオン源:El+、230℃
実施例1
上記変性PVA(水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール:海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.0デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付37g/m2の長繊維ウェブを得た。
上記長繊維ウェブに油剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が296g/m2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に2400パンチ/cm2でニードルパンチし、絡合ウェブを作成した。このニードルパンチ処理による面積収縮率は80%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は375g/m2であった。
絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に20秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、極細長繊維を25本含む、平均繊度2.4デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は50〜55%であり、目付は520g/m2、見掛け密度は0.47g/cm3であった。また、剥離強力は、10.0kg/25mmであった。次いで、5%owfの分散染料により茶色に染色した。工程通過性(染色時の繊維の素抜けやほつれ、バフィング時の繊維の抜け等がない)は良好で、発色の良好な極細長繊維からなる絡合不織布を得た。該絡合不織布を構成する極細長繊維の副吸熱ピークを測定した結果、118℃に観測され、融点ピーク(232℃)と副吸熱ピークの面積比は14:1であった。
該絡合不織布をバフィングにより厚みを1.00mmに調整した後、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体)を用いて固形分濃度が10質量%の水分散体を調製した。この水分散体を高分子弾性体と極細長繊維の質量比が0.4:99.6となるように上記の染色された絡合不織布に含浸した後、120℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥すると同時に高分子弾性体を表面および裏面に移行させ、凝固させた。
得られた絡合不織布の表面を表面に毛穴シボ模様を有する172℃の金属ロールを用いて線圧100N/mmで熱圧着し(裏面は非加熱のゴムロールに接触)、表面層の繊維の一部を融着させて毛穴シボ模様を有する銀面を形成し、水系ポリウレタンをグラビアにて固形分付着量で10g/m2転写し、110℃の熱風を表面から吹きつけて乾燥し、凝固させて繊維銀面銀付調皮革様シートを得た。また、表面の電子顕微鏡観察の結果、表面には極細繊維で囲まれた最大幅0.1〜50μm、最小幅10μm以下の微細空隙が1cm2当り35000個以上存在し、表面層の断面に存在する空隙孔の断面積は、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の断面積の25%の比率であった。押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回で測定したマーチンデール法での表面磨耗減量は0mgであった。繊維銀面銀付調皮革様シートの吸水拡散速度は、滴下完了直後に1.3cm2であった面積が、しみ込み完了後に既に、17.5cm2と拡散し、3分後には28.9cm2に広範囲に拡散した。また、乾燥速度は、50分後に残存水分率が20%となり、90分後には0%であった。
得られた繊維銀面銀付調皮革様シートを、縫い糸を用いて、密度0.35g/cm3のインシュレーションボードの芯材に縫い合わせて皮革調床材とした。
得られた皮革調床材は銀擦り調で意匠性に優れ、肌触りの良い天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有しており、クッション性、吸水拡散性および乾燥速度に優れていた。さらに表面の染料マイグレーションおよび摩擦堅牢度も良好なものであった。
実施例2
実施例1で、インシュレーションボードに変えて畳の芯材を用い、実施例1で得られた絡合不織布の表面を、毛穴シボ模様を有する金属ロールで銀面を形成することなく、サンドペーパーで起毛処理を行ってスエード調人工皮革を得た以外は実施例1と同様の皮革調床材を作成した。
得られた皮革調床材はスエード調の外観に優れ、肌触りの良い天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有しており、クッション性、吸水拡散性および乾燥速度優れていた。さらに表面の染料マイグレーションおよび摩擦堅牢度も良好なものであった。残存DMF濃度および残存トルエン濃度、吸水拡散性および乾燥速度についてまとめて表1に示す。
比較例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)を島成分およびポリエチレンを海成分とする海島型繊維を製造した後、湿熱延伸、機械捲縮、油剤付与およびカットにより、単繊維繊度が平均約4デシテックスで平均繊維長が平均約51mmの短繊維を製造した。
次に短繊維をカードで開繊し、クロスラップウェバーでウェブとし、さらにフェルト針によるニードルパンチング機を用いて1500パンチ/cm2の三次元絡合処理を施して、絡合ウェブを製造した。
得られた絡合ウェブに、ポリウレタン[ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)とポリエチレングリコールからなる数平均分子量2,000の高分子ジオール、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび1,4−ブタンジオールを用いて形成したポリウレタン]のジメチルホルムアミド(以下、DMFと略することもある。)溶液を含浸した。次いで、それをDMF/水の混合浴中にて多孔質状態で湿式凝固させて、絡合ウェブ中のDMFを水で置換した後、さらに90℃のトルエン浴中にて海島型繊維中のポリエチレンを抽出除去して、PETの極細繊維を形成させた。続いて、絡合ウェブ中のトルエンを水で置換乾燥して、目付けが420g/m2、厚みが1.2mm、繊維:ポリウレタンの質量比が65:35である皮革様シートを製造した。これにより得られた皮革様シートにおいては、PET製の極細繊維束とポリウレタンとの接着が実質的に生じておらず、極細繊維束の動きの自由度が高いものであった。
一方、離型紙にポリウレタン溶液(ME−8115LP(大日精化工業(株)製)を塗布、乾燥し乾燥後厚み50μmのフィルム(最終的に銀面となる)を形成した。このフィルムにポリウレタン(2液型)接着剤(TA−105(DIC(株)製)を乾燥後の厚みが100μmになるように塗布し接着層を形成した。接着層が半乾燥、粘着性が残っている状態で、上記繊維質シートの表面に貼り合わせた。さらに40〜50℃の雰囲気中で3日間のエージングを行った後、離型紙を剥離し、銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調人工皮革の吸水拡散速度は、滴下完了直後に1.3cm2であった面積がしみ込まず殆ど拡散しない状態であった。また、乾燥速度は、120分後でも50%以上存在し、殆ど乾燥に寄与する構造ではなかった。
得られた銀付調皮革様シートと実施例1と同様に縫い糸を用いて畳の芯材と縫い合わせて皮革調床材とした。
得られた皮革調床材は意匠性に優れ、天然皮革様の低反発性、充実感および柔軟性を有しており、クッション性はあるものの、複数のVOCが検出され、吸水拡散性等に劣るものであった。
Figure 0005571980
本発明の床材は、感性面の性能と物性面での性能とをいずれも高いレベルで兼備し、VOC発生量が低く、環境性、クッション性、吸水拡散性に優れた住宅用床材として好適に利用することができるものである。また、廃棄の際の分別作業が不要でそのまま焼却処分も可能である。

Claims (9)

  1. 芯材および該芯材の表面に形成された銀付調またはスエード調皮革様シートからなる皮革調床材であって、以下(1)〜(3)を満足することを特徴とする皮革調床材。
    (1)銀付調またはスエード調皮革様シートが絡合不織布およびその内部に高分子弾性体が含浸された基材からなり、
    かつ、該絡合不織布が、極細長繊維からなる繊維束が3次元的に交絡したもので、該極細長繊維の平均繊度が0.001〜0.2dtexであり、さらに、該極細長繊維からなる繊維束の平均繊度が0.5〜10dtexである、
    (2)芯材に銀付調またはスエード調皮革様シートを縫い付けにより積層してなる、及び
    (3)皮革調床材中に存在するジメチルホルムアミド(DMF)濃度が10ppm以下である。
  2. 前記高分子弾性体は、銀付調またはスエード調皮革様シートの厚み方向中央部では疎に、表層部では密に存在する請求項1に記載の皮革調床材。
  3. 前記銀付調皮革様シートが繊維銀面を有する銀付調皮革様シートであって、前記銀付調皮革様シートがさらに下記条件():
    )前記銀付調皮革様シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着して繊維銀面を形成しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していない、
    を満足する皮革様シートからなる請求項1又は2に記載の皮革調床材。
  4. 前記シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層の断面に存在する空隙孔の面積が、基体層3と裏面層の断面に存在する空隙孔の面積の80%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の皮革調床材。
  5. 前記基材は、海成分ポリマーが水溶性成分からなる海島型極細繊維束形成性長繊維から長繊維ウェブの絡合構造体に形成された後に、海成分ポリマーを抽出又は分解除去して島成分ポリマーからなる極細長繊維束に変換されてなる前記絡合不織布に、前記高分子弾性体が水分散体又は水溶液として含浸されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の皮革調床材。
  6. 皮革調床材中に存在するトルエン濃度が50ppm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の皮革調床材。
  7. 皮革調床材中に存在するトルエン濃度が0.05ppm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の皮革調床材。
  8. 前記芯材が畳、畳表を除いた芯材(畳床)、及びインシュレーションボードから選ばれる少なくとも一つの芯材である請求項1〜のいずれか1項に記載の皮革調床材。
  9. インシュレーションボードの密度が0.5g/cm3以下の芯材である請求項1〜のいずれか1項に記載の皮革調床材。
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