ここで、ナットにおいて、オープンエンド式のレンチに係合されるべき二つの外周側面の位置は、ナットがワークに締め付けられる前の状態では、不確定である。ナットの径方向外側からオープンエンドレンチを係合させるには、前述したナットにおける二つの外周側面の位置と、当該レンチのナットの二つの外周側面と係合される部位との位置を一致させてから、当該レンチを移動させている。
ところが、レンチを操作してナットを締め付けさせる作業をロボットに行わせる場合、前述したようにナットにおける二つの外周側面の位置が不確定であると、ロボットは試行錯誤しながらレンチを操作しなければならないため、レンチをナットに係合させるまでに多くの時間が費やされることとなり、ナットの締め付け作業効率が非常に悪い。
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、軸状部材が挿通されたナットのワークへの締め付けを予め定められた設定締め付けトルクで行うことができ、かつその締め付け作業の効率を高くすることができるナット締め装置およびナット締め方法を提供することである。
請求項1記載の発明は、軸状部材が挿通されたナットを、予め定められた設定締め付けトルクでワークに締め付けるナット締め装置において、
ナットの外周に位置する二つの外周側面と係合した状態で締め付け方向に回転する締付部材と、
締付部材を回転させる回転力を発生する回転駆動部と、
締付部材がナットの二つの外周側面に係合した状態で回転駆動部を制御することにより、締付部材を締め付け方向に回転させて、ナットをワークに仮締めする回転駆動制御部と、
仮締めされた状態のナットである仮締めナットの回転位置を検出する回転位置検出器と、
仮締めナットの外周に位置する二つの外周側面と係合可能なオープンエンドレンチが装着され、装着されたオープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合させ、その状態を維持させたまま仮締めナットを締め付け方向に回転させてワークに仮締めナットを締め付ける締め付け動作を行うロボットと、
仮締めナットの締め付けトルクが設定締め付けトルクとなるように、ロボットを制御することにより、仮締めナットをワークに本締めするロボット制御部と、を備え、
ロボット制御部は、回転位置検出器によって検出された仮締めナットの回転位置に基づいて、仮締めナットの二つの外周側面の位置を算出し、その算出された仮締めナットの二つの外周側面の位置情報に基づいて、ロボットを制御することにより、オープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合させ、
締付部材と回転駆動部との間には、回転駆動部の回転軸の回転を予め定められた設定回転速度比で締付部材に伝達する伝達機構が設けられ、
回転位置検出器は、回転駆動部の回転軸の回転位置を検出する回転軸検出部を有しており、回転軸検出部により検出された回転軸の回転位置と、設定回転速度比とから、仮締めナットの回転位置を検出し、
締付部材をナットの軸方向端面に押し付ける軸方向駆動部を有しており、
締付部材は、ナットの二つの外周側面を挟むことによりナットと係合する係合部を有しており、
軸方向駆動部が締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で、回転駆動制御部は、回転駆動部を制御して、係合部がナットの二つの外周側面と係合する位置まで、締付部材を回転させることを特徴としている。
請求項1記載の発明では、回転駆動制御部が回転駆動部を制御して、締付部材を回転させることにより、ナットをワークに対して仮締めする。そして、ロボット制御部がロボットを制御することにより、仮締めされたナットである仮締めナットの二つの外周側面へのオープンレンチの係合、およびオープンエンドレンチによる仮締めナットのワークへの本締めが行われる。このような過程を経ることによって、ナットは、予め定められた設定締め付けトルクでワークに締め付けられる。
上述した過程を経ることによってワークにナットを締め付けるものにおいて、請求項1記載の発明では、特に、ロボットがオープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合する際、ロボット制御部が回転位置検出器により検出された仮締めナットの回転位置から算出した仮締めナットの二つの外周側面の位置情報に基づいている。このように、ロボットは仮締めナットの二つの外周側面の位置情報に基づいて締め付け動作を行うため、当該外周側面の位置情報を用いずにオープンエンドレンチを仮締めナットに係合させる場合に比べ、短時間でオープンエンドレンチの仮締めナットの二つの外周側面への係合を完了させることができる。よって、この請求項1記載の発明によるナット締め装置によれば、ナットの締め付け時間を短縮することができ、ナットの締め付け作業の効率を向上させることができる。
ナットの回転位置を検出するには、ナット自体にナットの回転位置を検出可能な機器などを取り付ける必要がある。請求項1記載の発明では、締付部材はナットとともに回転する。伝達機構は回転駆動部の回転軸の回転を予め定められた回転速度比で締付部材に伝達するようになっているため、回転駆動部の回転軸の回転位置がナットの回転位置に対応した位置関係となる。また、回転位置検出器は、回転駆動部の回転軸の回転位置を検出する検出器となっている。これらのことにより、回転駆動制御部は、回転位置検出器により検出された回転軸の回転位置と、伝達機構の回転速度比とから、仮締めナットの回転位置を検出することが可能となる。そこで、請求項1記載の発明によれば、ナットの回転位置に対応した位置関係となる回転駆動部の回転軸の回転位置から、仮締めナットの回転位置を検出しているので、ナット自体にナットの回転位置を検出する機器を取り付けずとも、ナットの回転位置を把握することができる。請求項1記載の発明では、このようにして仮締めナットの回転位置を検出しているので、ナットにナットの回転位置を検出するための機器を取り付ける時間が必要なくなり、ナットの締め付け時間を短縮することが可能となる。結果、ナットの締め付け作業の効率が向上する。
締結部材が有する係合部は、ナットの二つの外周側面を挟むことによりナットと係合するようになっているため、締結部材とナットとの回転位置関係が、係合部が二つの外周側面と係合する回転位置関係となると、ナットが係合部の内側に挿入され、係合部とナットの二つの外周側面とが係合することとなる。また、このような状態では、ナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させることにより、係合部の内側にナットを挿入させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させることが可能となる。
一方、締結部材とナットとが、上記回転位置関係となっていない場合では、ナットは係合部の内側に挿入されず、係合部はナットの二つの外周側面と係合しない。また、このような状態では、ナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させることにより、係合部の内側にナットを挿入させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させようとしても、ナットの軸方向端面によって締結部材の移動が阻まれ、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させることができない。
上述したように、締結部材とナットとの回転位置関係によっては、係合部とナットの二つの外周側面とが係合しない場合があるので、単にナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させるだけでは、両者を係合させることができない場合が発生する。そこで、請求項1記載の発明では、回転駆動制御部が回転駆動部を制御して、係合部がナットの二つの外周側面と係合する位置まで、締結部材を回転させる。
このように締結部材を回転させることによれば、締結部材をナットに向って移動させたときに、両者が係合可能な回転位置関係となっていなくとも、両者を係合可能な回転位置関係とすることができる。また、締結部材はナットの軸方向端面に押し付けられているため、両者が係合可能な回転位置関係となると、締結部材は自動的に軸方向に移動する。これにより、係合部の内側にナットが挿入され、係合部とナットの二つの外周側面とが係合して、両者の係合が成立することとなる。例えば、ナットが六角ナットである場合、締結部材を最大60°だけ回転させるだけで、締結部材とナットとの回転位置関係を、締結部材の係合部とナットの二つの外周側面との係合が可能な回転位置関係とすることができる。
以上のことから、請求項1記載の発明によれば、締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で回転させるだけで、いち早く、かつ自動的に締付部材とナットとを係合させることができるので、ナットの締め付け時間を短縮することが可能となり、ナットの締め付け作業の効率が向上する。
請求項2記載の発明は、軸方向駆動部が締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で、回転駆動制御部が回転駆動部を制御することにより係合部をナットに係合させる際に、ナットに軸方向の荷重をかけることにより、ナットの回転を抑制する回転抑制部を有することを特徴としている。
請求項1記載の発明のように、締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で、締付部材を回転させると、締結部材とナットの軸方向端面との間に発生する摩擦力により、ナットは、締付部材とともに連れまわることとなる。これでは、係合部がナットの二つの外周側面に係合するまでに多くの時間を費やしてしまう。
そこで、請求項2記載の発明では、締付部材を回転させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させる際、ナットに軸方向の荷重をかけることによりナットの回転を抑制させている。ナットに軸方向の荷重をかけることによれば、ナットのねじ山が、ワークに固定され、ナットのねじ山と噛合うワーク側のねじ山に押し付けられることとなり、ねじ山間にナットの回転を抑制する方向の摩擦力が発生する。ねじ山間に発生する摩擦力によりナットのワークに対する回転が抑制されるのである。このように、ナットのワークに対する回転が抑制されるため、締付部材がナットの軸方向端面に押し付けられた状態で回転しても、締付部材の回転によるナットの連れまわりを抑制することができ、いち早く、係合部にナットの二つの外周側面を係合させることができる。このことによれば、ナットの締め付け時間を短縮することが可能となるので、ナットの締め付け作業の効率が向上する。
請求項3記載の発明は、回転駆動制御部およびロボット制御部は、一つの制御装置からなっていることを特徴としている。この構成によれば、ナット締め装置の構成を簡略化することが可能となる。
請求項4記載の発明は、軸状部材が挿通されたナットを、予め定められた設定締め付けトルクでワークに締め付けるナット締め方法において、
ナットの外周に位置する二つの外周側面に係合した状態で締め付け方向にナットを回転させる締付部材を用い、締付部材にナットの二つの外周側面を係合させた状態で、締付部材を締め付け方向に回転することにより、ナットをワークに仮締めする仮締め工程と、
仮締め工程で仮締めされた状態のナットである仮締めナットの回転位置を検出する回転位置検出工程と、
仮締めナットの二つの外周側面と係合可能なオープンエンドレンチを把持し、把持したオープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合させ、その状態を維持させたまま仮締めナットを締め付け方向に回転させる締め付け動作を行うロボットを用い、オープンエンドレンチに仮締めナットの二つの外周側面を係合させた状態で、ロボットを制御して、仮締めナットを締め付け方向に回転させることにより、仮締めナットをワークに本締めする本締め工程とを含み、
本締め工程では、回転位置検出工程によって検出された仮締めナットの回転位置に基づいて、仮締めナットの二つの外周側面の位置を算出し、その算出された仮締めナットの二つの外周側面の位置情報に基づいて、ロボットを制御し、オープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合させ、仮締め工程では、ナットの二つの外周側面を挟むことによりナットと係合する係合部を有している締付部材をナットの軸方向端面に押し付けながら、係合部がナットの二つの外周側面と係合する位置まで、締付部材を回転させることを特徴としている。
請求項4記載の発明では、締付部材を回転させることにより、ナットはワークに対して仮締めされる。そして、仮締めされた状態のナットである仮締めナットの二つの外周側面と係合可能なオープンエンドレンチを操作するロボットによって、仮締めナットの締め付けトルクが設定締め付けトルクとなるように仮締めナットがワークに本締めされる。このような過程を経ることによって、ナットは、予め定められた設定締め付けトルクでワークに締め付けられる。
上述した過程を経ることによってワークにナットを締め付けるものにおいて、請求項4記載の発明では、特に、本締め工程において、回転位置検出工程によって検出された仮締めナットの回転位置に基づいて、仮締めナットの二つの外周側面の位置を算出し、その算出された仮締めナットの二つの外周側面の位置情報に基づいて、ロボットがオープンエンドレンチを仮締めナットの二つの外周側面に係合するので、当該外周側面の位置情報を用いずにオープンエンドレンチを仮締めナットに係合させる場合に比べ、短時間でオープンエンドレンチの仮締めナットへの係合を完了させることができる。よって、この請求項4記載の発明によるナット締め装置によれば、ナットの締め付け時間を短縮することができ、ナットの締め付け作業の効率を向上させることができる。
締結部材が有する係合部は、ナットの二つの外周側面を挟むことによりナットと係合するようになっているため、締結部材とナットとの回転位置関係が、係合部が二つの外周側面と係合する回転位置関係となると、ナットが係合部の内側に挿入され、係合部とナットの二つの外周側面とが係合することとなる。また、このような状態では、ナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させることにより、係合部の内側にナットを挿入させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させることが可能となる。
一方、締結部材とナットとが、上記回転位置関係となっていない場合では、ナットは係合部の内側に挿入されず、係合部はナットの二つの外周側面と係合しない。また、このような状態では、ナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させることにより、係合部の内側にナットを挿入させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させようとしても、ナットの軸方向端面によって締結部材の移動が阻まれ、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させることができない。
上述したように、締結部材とナットとの回転位置関係によっては、係合部とナットの二つの外周側面とが係合しない場合があるので、単にナットの軸方向からナットに向って締結部材を移動させるだけでは、両者を係合させることができない場合が発生する。そこで、請求項4記載の発明の仮締め工程では、係合部がナットの二つの外周側面と係合する位置まで、締結部材を回転させる。
このように締結部材を回転させることによれば、締結部材をナットに向って移動させたときに、両者が係合可能な回転位置関係となっていなくとも、両者を係合可能な回転位置関係とすることができる。また、締結部材はナットの軸方向端面に押し付けられているため、両者が係合可能な回転位置関係となると、締結部材は自動的に軸方向に移動する。これにより、係合部の内側にナットが挿入され、係合部とナットの二つの外周側面とが係合して、両者の係合が成立することとなる。例えば、ナットが六角ナットである場合、締結部材を最大60°だけ回転させるだけで、締結部材とナットとの回転位置関係を、締結部材の係合部とナットの二つの外周側面との係合が可能な回転位置関係とすることができる。
以上のことから、請求項4記載の発明によれば、締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で回転させるだけで、いち早く、かつ自動的に締付部材とナットとを係合させることができるので、ナットの締め付け時間を短縮することが可能となり、ナットの締め付け作業の効率が向上する。
請求項5記載の発明は、仮締め工程において、締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で、締付部材を回転させる際、ナットに軸方向の荷重をかけることにより、ナットの回転を抑制することを特徴としている。
請求項4記載の発明のように、締付部材をナットの軸方向端面に押し付けた状態で、締付部材を回転させると、締結部材とナットの軸方向端面との間に発生する摩擦力により、ナットは、締付部材とともに連れまわることとなる。これでは、係合部がナットの二つの外周側面に係合するまでに多くの時間を費やしてしまう。
そこで、請求項5記載の発明では、締付部材を回転させて、係合部とナットの二つの外周側面とを係合させる際、ナットに軸方向の荷重をかけることによりナットの回転を抑制させている。ナットに軸方向の荷重をかけることによれば、ナットのねじ山が、ワークに固定され、ナットのねじ山と噛合うワーク側のねじ山に押し付けられることとなり、ねじ山間にナットのワークに対する回転を抑制する方向の摩擦力が発生する。ねじ山間に発生する摩擦力によりナットのワークに対する回転が抑制されるのである。このようにナットのワークに対する回転が抑制されるため、締付部材がナットの軸方向端面に押し付けられた状態で回転しても、締付部材の回転によるナットの連れまわりを抑制することができ、いち早く、係合部にナットの二つの外周側面を係合させることができる。このことによれば、ナットの締め付け時間を短縮することが可能となるので、ナットの締め付け作業の効率が向上する。
以下、本発明をさらに具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図1は、本発明のナット締め装置の概略を示す概略構成図である。ナット締め装置10は、軸状部材としてのパイプPが挿通されたナットNをワークWに締め付ける装置であり、ナットNのワークWへの仮締めを行う仮締め装置12と、仮締め装置12によって仮締めされたナットNを本締めする本締め装置50から構成されている。
ここでワークWおよびワークWに取り付けられるパイプPについて説明する。ワークWの上方にナットNが挿通された状態のパイプPが差し込まれた状態でワークWは載置台48aに載置されている。ナットNがワークWに締め付けられることにより、ナットNに軸力が発生し、パイプPの両端部がワークWに対して圧接されるのである。これにより、ワークWとパイプPとの間からパイプP内を流れる流体が漏れるのを抑制することができる。ナットNの軸力によってパイプPがワークWに取り付けられるため、ナットNの締め付けトルクの管理は重要である。ナットNの締め付けトルクを予め定められた設定トルクで締め付けないと、パイプPをワークWに圧接させるための軸力が十分に得られず、流体の漏れを抑制することができないからである。
(仮締め装置)
図2は、本実施形態の仮締め装置12の斜視図である。図3は、仮締め装置12の概略を示す概略構成図である。図1から図3に示すように、仮締め装置12は、鉛直方向に延びるベース48を有している。ベース48には、ベース48上を鉛直方向に沿って昇降する昇降装置44が設けられている。昇降装置44は、図示しない駆動部を有しており、後述する仮締め装置制御部46からの駆動信号を受けることにより、ベース48に沿って鉛直方向に移動する。
昇降装置44には、昇降装置44上を鉛直方向に沿って移動する移動装置42を介して仮締めユニット14が設けられている。移動装置42は、昇降装置44に設けられているレール上を鉛直方向に自由にスライド可能なものであり、仮締めユニット14を支持している。移動装置42は、鉛直方向下方から上方に向う力が仮締めユニット14に作用すると、仮締めユニット14をレールに沿って鉛直方向上方に移動するようになっている。仮締めユニット14に外力が作用していない状態では、仮締めユニット14は移動装置42とともに鉛直方向下方に移動する。レールの下方には図示しないストッパが設けられており、移動装置42は仮締めユニット14とともに昇降装置44から脱落しないようになっている。
昇降装置44がベース48上を鉛直方向に沿って移動することにより、移動装置42とともに仮締めユニット14が鉛直方向に沿って移動する。移動装置42が昇降装置44上を鉛直方向に沿って移動することにより、仮締めユニット14が鉛直方向に沿って移動する。
仮締めユニット14は、ナットNをワークWに仮締めするユニットである。仮締めユニット14は、ナットランナ部16、サーボモータ32、ロータリエンコーダ36、トルクトランスデューサ38、およびナット押え部40などから構成されている。
ナットランナ部16は、ナットNの回転軸を挟んだ二つの側面N1に係合し、ナットNを回転する機構である。図4は、ナットランナ部16を鉛直方向と直交する平面で切断し、それを下方から見た断面を示している。図4に示すように、ナットランナ部16は、第一、第二オープンビットランナ部26a,b、第一、第二オープンビットランナ部26a,bにサーボモータ32からの回転力を伝達する複数のギヤ、および第一、第二オープンビットランナ部26a,bならびに複数のギヤを回転可能に収容するギヤケース18などから構成されている。
複数のギヤは、後述するサーボモータ32の回転軸34に連結されている一つの駆動ギヤ20、駆動ギヤ20と噛み合う第一、第二中間ギヤ22a,b、第一中間ギヤ22aと噛み合う二つの第一アイドラギヤ24a、第二中間ギヤ22bと噛み合う二つの第二アイドラギヤ24b、各第一アイドラギヤ24aと噛み合う第一オープンビットランナ部26a、および各第二アイドラギヤ24bと噛み合う第二オープンビットランナ部26bから構成されている。
駆動ギヤ20は、ギヤケース18の鉛直方向上面から回転軸34が突き抜けるようにギヤケース18の中央部に設置されている。図4に示すように、第一、第二中間ギヤ22a,bは、回転軸34に対して対称に設置されている。第一、第二中間ギヤ22a,bの回転軸は、回転軸34と平行となっている。各第一アイドラギヤ24aは、互いの外径および歯数が同じであり、第一中間ギヤ22aを挟んで駆動ギヤ20とは反対側に、互いに離れた状態で、第一中間ギヤ22aと噛み合うように設置されている。第一アイドラギヤ24aのさらに駆動ギヤ20とは反対側には、これら第一アイドラギヤ24aと噛み合う第一オープンビットランナ部26aが配置されている。
第一オープンビットランナ部26aは、円盤状を呈しており、外周側に開口するように切り欠かれた係合部28a、および外周面に形成され各第一アイドラギヤ24aと噛み合うギヤ部30aを有する。本実施形態の係合部28aは、ねじの呼びがW17となっているナットNの二つの側面N1を挟むようにしてナットNと係合する。係合部28aがナットNと係合した状態で、第一オープンビットランナ部26aが回転すると、ナットNは第一オープンビットランナ部26aとともに回転する。
一方、各第二アイドラギヤ24bは、互いの外径および歯数が同じであり、第二中間ギヤ22bを挟んで駆動ギヤ20とは反対側に、互いに離れた状態で、第二中間ギヤ22bと噛み合うように設置されている。第二アイドラギヤ24bのさらに駆動ギヤ20とは反対側には、これら第二アイドラギヤ24bと噛み合う第二オープンビットランナ部26bが配置されている。
第二オープンビットランナ部26bは、円盤状を呈しており、外周側に開口するように切り欠かれた係合部28b、および外周面に形成され各第二アイドラギヤ24bと噛み合うギヤ部30bを有する。本実施形態の係合部28bは、ねじの呼びがW19となっているナットNの二つの側面N1を挟むようにしてナットNと係合する。係合部28bがナットNと係合した状態で、第二オープンビットランナ部26bが回転すると、ナットNは第二オープンビットランナ部26bとともに回転する。
ギヤケース18の水平方向の両端部は、第一、第二オープンビットランナ部26a,bの係合部28a,bが外部に露出するように中央部に向って凹むような凹状部18aが設けられている。これにより、係合部28a,bにナットNを係合させることが可能となる。なお、ギヤケース18は、回転軸34を中心に回転可能となっており、締め付けるナットNのサイズに応じて第一、第二オープンビットランナ部26a,bの使い分けが可能となる。
このように構成されたナットランナ部16によれば、サーボモータ32の回転軸34が回転駆動し、駆動ギヤ20が矢印a方向に回転すると、その回転力が第一中間ギヤ22aに伝わり、第一中間ギヤ22aは図4に示すように矢印b方向に回転する。そして、第一中間ギヤ22aに伝達された回転力は各第一アイドラギヤ24aに伝わり、各第一アイドラギヤ24aは図4に示すように矢印c方向に回転する。各第一アイドラギヤ24aの回転方向は、同じ方向となる。各第一アイドラギヤ24aに伝達された回転力は第一オープンビットランナ部26aに伝わり、第一オープンビットランナ部26aは図4に示すように矢印d方向(ナットNを締め付ける方向)に回転する。
このとき、第二中間ギヤ22bも駆動ギヤ20と噛み合っているため駆動ギヤ20が回転するとその回転力は第二中間ギヤ22b、第二アイドラギヤ24bおよび第二オープンビットランナ部26bの順で伝達される。
第一オープンビットランナ部26aは、当該ランナ部26aの外周面の一部が開口し、ギヤ部30aが存在していない箇所を有している。当該ランナ部26aが回転すると、一方の第一アイドラギヤ24aと噛み合わなくなる。しかし、各第一アイドラギヤ24aは、一方の第一アイドラギヤ24aがランナ部26aと噛み合わなくなったときに、他方の第一アイドラギヤ24aが必ず噛み合うように設置されているので、第一中間ギヤ22aからの回転力は途絶えることがない。
また、第二オープンビットランナ部26bも、第二オープンビットランナ部26bの外周面の一部が開口し、ギヤ部30bが存在していない箇所を有している。当該ランナ部26bが回転すると、一方の第二アイドラギヤ24bと噛み合わなくなる。しかし、各第二アイドラギヤ24bも、一方の第二アイドラギヤ24bがランナ部26bと噛み合わなくなったときに、他方の第二アイドラギヤ24bが必ず噛み合うように設置されているため、第二中間ギヤ22bからの回転力は途絶えることがない。
このように第一、第二オープンビットランナ部26a,bは駆動ギヤ20の回転時には常に回転していることとなるので、第一、第二オープンビットランナ部26a,bの回転数は、駆動ギヤ20と第一、第二オープンビットランナ部26a,bとの間のギヤ比によって決定される。すなわち、駆動ギヤ20に連結された回転軸34の回転数を検出することができれば、第一、第二オープンビットランナ部26a,bの回転数を推定することができる。また、第一、第二オープンビットランナ部26a,bは、ナットNとともに回転するように構成されているため、第一、第二オープンビットランナ部26a,bの回転数を検出することができれば、ナットNの回転位置も検出することが可能となる。すなわち、回転軸34の回転位置を検出することにより、ナットNの回転位置が検出可能となるのである。
図2および図3に示すように、サーボモータ32は、第一、第二オープンビットランナ部26a,bを回転させるための回転力を発生する電動機であって、ナットランナ部16の鉛直方向上方に設置されている。本実施形態では、サーボモータ32としてDCモータを使用している。サーボモータ32は、後述する仮締め装置制御部46から回転駆動信号を受けることにより、回転軸34を正回転駆動、または逆回転駆動させる。
ロータリエンコーダ36は、サーボモータ32の回転軸34の回転位置に応じた回転位置信号を発生する。ロータリエンコーダ36は、仮締め装置制御部46と電気的に接続されており、発生した回転位置信号は当該制御部46に送られる。
トルクトランスデューサ38は、サーボモータ32がナットランナ部16を駆動してナットNをワークWに仮締めする際に、回転軸34に作用するトルクを検出する検出器であり、検出したトルク信号を後述する仮締め装置制御部46に送る。
ナット押え部40は、ナットランナ部16をナットNに係合させる際、第一または第二オープンビットランナ部26a,bの回転とともにナットNが回転しないようにナットNの軸方向端面に荷重をかえる機構である。このナット押え部40はナットランナ部16の鉛直方向上方に設置されており、当該押え部40の先端は、ギヤケース18の凹状部18a、および第一、第二オープンビットランナ部26a,bの係合部28a,bを貫通できるようになっている。
仮締め装置制御部46は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、昇降装置44、サーボモータ32、ナット押え部40、ロータリエンコーダ36、およびトルクトランスデューサ38と電気的に接続されている。仮締め装置制御部46は、ロータリエンコーダ36からの回転位置信号、トルクトランスデューサ38からのトルク信号に基づき、昇降装置44、およびサーボモータ32に駆動信号を出力する。また、仮締め装置制御部46は、後述する本締め装置50のロボット制御部70とも電気的に接続されている。また、仮締め装置制御部46は、ロータリエンコーダ36からの回転軸34の回転位置に基づき、仮締めされた状態のナットNの回転位置を算出し、そのナットNの回転位置情報をロボット制御部70に送る。
また、仮締め装置制御部46は、トルクトランスデューサ38からのトルク信号に基づき、ナットNの締め付けトルクを算出する。サーボモータ32の回転軸34は、駆動ギヤ20、複数のギヤ22a,b、24a,bを介して第一、第二オープンビットランナ部26a,bと機械的に連結しており、当該ランナ部26a,bがナットNを締め付ける際のナットNの締め付けトルクは複数のギヤ22a,b、24a,bおよび駆動ギヤ20を介して伝達されるので、回転軸34に作用するトルクからナットNの締め付けトルクを算出することが可能となる。
(本締め装置)
図5は、本締め装置50の概略を示す概略構成図である。この図5は、本締め装置50を鉛直方向上方から見たものである。本締め装置50は、仮締め装置12によって仮締めされたナットNを設定締め付けトルクでワークWに締め付ける装置である。
本締め装置50では、実質的には周知の構成のものであるオープンエンドレンチ52(以下、単にレンチという)をロボット64に操作させ、ナットNを回転させることによりナットNをワークWに締め付けている。本締め装置50は、ロボット64、ひずみゲージ62、およびロボット制御部70などから構成されている。
ロボット64は、ハンド部66および操作部68などから構成されている。ハンド部66は、レンチ52の柄部54を把持する部位であり、操作部68に取り付けられている。ここで、レンチ52は、柄部54、ジョー部58およびレバー部56などから構成されている。ジョー部58は、ロボット64のレンチ52の操作による締め付け力をナットNに付与する部位である。ジョー部58は、先端が開口しており、締め付け対象となるナットNの二つの側面N1を挟んで係合する係合部60を有する。係合部60の幅は、締め付け対象となるナットNの二つの側面N1の幅に対応したものである。締め付け対象となるナットNが複数種類ある場合、ジョー部58として係合部60の幅が調節可能なものとしても良い。レバー部56は、柄部54とジョー部58との間に設けられ、ハンド部66の操作力をジョー部58に伝達する部位である。
レンチ52のレバー部56と柄部54との間には、ジョー部58によるナットNの締め付け時に発生する力(締め付けトルク)に応じた信号を発生するひずみゲージ62が設けられている。
操作部68は、図5に示すように、水平方向に二軸(X軸方向、Y軸方向)、鉛直方向に1軸(Z軸方向)にハンド部66を移動させ、ハンド部66に把持されているレンチ52を操作する。X軸方向およびY軸方向は、図5に示すように互いに直交した方向であり、Z軸方向は、X軸、およびY軸方向の何れにも直交する方向となっている。このハンド部66の移動により、ジョー部58の係合部60をナットNの側面から挿入させ、係合部60をナットNの側面N1に係合させる係合動作、および係合部60にナットNを係合させたまま、ナットNを中心にレンチ52を揺動させることによりナットNを締め付け方向に回転させる揺動動作からなる締め付け動作が行われる。
ロボット制御部70は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、ロボット64、ひずみゲージ62、および仮締め装置制御部46と電気的に接続されている。ロボット制御部70は、仮締め装置制御部46からの仮締め状態のナットNの回転位置情報に基づき、ロボット64がレンチ52の係合部60をナットNに係合させるような駆動信号をロボット64に出力するとともに、ひずみゲージ62からの信号に基づき、ロボット64がレンチ52を揺動させるような駆動信号をロボット64に出力する。
以上、仮締め装置12および本締め装置50の各構成要素について説明した。次に、仮締め装置12によるナットNの仮締め動作、および本締め装置50によるにナットNの本締め動作について図3〜図6を用いて説明する。図6は、ナット締め作業の工程を示す作業フローである。ここでは、ナットNのサイズをW17とし、本締め時の締め付けトルクを27.0Nmとする場合で説明する。なお、ナットNのサイズがW19の場合の本締め時の締め付けトルクは44.1Nmとなっている。
(仮締め工程)
図3に示すように、仮締め装置12によってナットNをワークWに仮締めする際、まず最初に仮締めユニット14の鉛直方向下方にワークWを設置するために、仮締め装置12または載置台48aを移動させる。なお、図3に示す実線は、仮締めユニット14のナットランナ部16をナットNに係合させる前の状態を示している。図3の二点鎖線で示すナットランナ部16は、ナットランナ部16の第一オープンビットランナ部26aがナットNに係合した状態を示している。
仮締めユニット14の鉛直方向下方にナットNが設置された後、仮締め装置制御部46は、第一オープンビットランナ部26aの係合部28aをナットNの二つの側面N1と軸方向から係合させるべく、昇降装置44に対して駆動信号を送る。その駆動信号を受けた昇降装置44は、当該ランナ部26aをナットNの鉛直方向上方に移動させる。これにより、係合部28aの軸方向端面がナットNの軸方向端面に当接する(ステップS10を参照)。係合部28aがナットNに当接することにより、ナットランナ部16はナットNから鉛直方向上方に向う反力を受け、移動装置42および仮締めユニット14は、鉛直方向上方に移動する。移動装置42は上述したように昇降装置44上を鉛直方向に自由にスライドするように構成されているため、係合部28aがナットNに当接し、ナットNからの反力を受けている状態では、係合部28aはナットNの軸方向端面に押し付けられることとなる。
続いて、仮締め装置制御部46は、ナットNの回転を抑制するために、ナット押え部40に対して駆動信号を送る。その駆動信号を受けたナット押え部40は、ナットNに向って下降し、先端をナットNの軸方向端面に押し付ける(ステップS20を参照)。
さらに、仮締め装置制御部46は、この状態で、サーボモータ32の回転軸34の回転位置をリセットする(ステップS30を参照)。その後、仮締め装置制御部46は、第一オープンビットランナ部26aを締め付け方向に回転させるべく、サーボモータ32に対して回転駆動信号を送る。その回転駆動信号を受けたサーボモータ32は回転軸34を回転させて、第一オープンビットランナ部26aを回転させる。サーボモータ32の回転軸34がいくらか回転すると、係合部28aがナットNの二つの側面N1を挟持可能な位置まで回転する。係合部28aは移動装置42によりナットNの軸方向端面に押し付けられているため、係合可能な位置まで係合部28aが回転すると、係合部28aは自動的にナットNの軸方向に移動し、ナットNの二つの側面N1と係合する。本実施形態では、ナットNとして六角ナットを使用しているため、係合部28aを最大で60°回転させれば、係合部28aはナットNを係合可能な位置まで回転させることができる。
ここで、第一オープンビットランナ部26aが回転すると、当該ランナ部26aとナットNの軸方向端面との間の摩擦によりナットNが当該ランナ部26aとともに回転する可能性があるが、ナット押え部40によりナットNの回転が抑制される。
係合部28aがナットNの二つの側面N1と係合可能な位置まで回転すると、ナットランナ部16は図3に示す二点差線の位置まで下降し、係合部28aがナットNと係合する(ステップS40を参照)。ここで、ナットランナ部16は二点鎖線の位置まで下降すると、移動装置42に設けられているストッパによって鉛直方向下方への移動が停止する。これにより、係合部28aにナットNが係合した状態が維持されるのである。
係合部28aにナットNが係合された後、仮締め装置制御部46は、ナットNを仮締めるべく、更にサーボモータ32に回転軸34を締め付け方向に回転させるような回転駆動信号を送る。これにより、サーボモータ32は回転軸34を更に回転させる。その結果、ナットNがワークWに締め付けられる。仮締め装置制御部46は、トルクトランスデューサ38からのトルク信号が予め定められた仮締め時の締め付けトルクに対応する値となるまで、サーボモータ32に回転軸34を回転させる。本実施形態では、前述の仮締め時の締め付けトルクは2Nmとなっている。これにより、ナットNのワークWへの仮締めが完了する(ステップS50を参照)。
ここでは、第一オープンビットランナ部26aによる仮締め作業を説明した。第二オープンビットランナ部26bによってサイズの異なるナットNを仮締めする場合では、第二オープンビットランナ部26bによる仮締め作業が行えるようにナットランナ部16を回転させて上述した手順で仮締め作業を行えば良い。また、以下の説明において、仮締め工程で仮締めされたナットNを仮締めナットNと称する。
(ナット回転位置検出工程)
そして、仮締め装置制御部46は、仮締めナットNの回転位置をロータリエンコーダ36からの回転位置信号に基づき検出する(ステップS60を参照)。さらに、仮締め装置制御部46はその情報を後述する本締め装置50のロボット制御部70に送る。
ナットNの回転位置情報をロボット制御部70に送った後、仮締め装置制御部46は、サーボモータ32に仮締めナットNが回転しない程度に回転軸34を微小角度逆方向に回転させ、その後、昇降装置44に仮締めユニット14を鉛直方向上方に移動させる(ステップS70を参照)。これにより、第一オープンビットランナ部26aの係合部28aが仮締めナットNから外れる。
(ナット側面位置算出工程)
まず、ロボット制御部70は、仮締め装置制御部46から仮締めナットNの回転位置情報を受け取ると、仮締めナットNの二つの側面N1の位置を算出する(ステップS80を参照)。二つの側面N1の位置は、仮締めナットNの回転位置情報と、仮締めナットN固有の形状に基づいて算出され得る。二つの側面N1の位置は、ロボット64の基準となる位置に対するものとなっている。
(本締め工程)
ナット側面位置の算出が行われた後、得られたナット側面の位置に基づいて、ロボット制御部70は、ロボット64にレンチ52におけるジョー部58の係合部60を仮締めナットNの二つの側面N1を挟むように係合させる(ステップS90を参照)。このロボット64の動作が係合動作である。具体的には、ロボット64の操作部68が、ジョー部58の係合部60を仮締めナットNの側面から挿入させるように、またはジョー部58の係合部60を仮締めナットNの鉛直方向上方から挿入させるようにハンド部66をX軸方向、Y軸方向、またはZ軸方向に移動させる。
操作部68の係合動作によりジョー部58の係合部60が仮締めナットNに係合すると、ロボット制御部70は、操作部68に、仮締めナットNが回転してワークWに締め付けられるようレンチ52を揺動させる。この際、ロボット制御部70は、ひずみゲージ62からの信号に基づき仮締めナットNの締め付けトルクを監視しながら、操作部68の揺動動作を制御する。仮締めナットNの締め付けトルクが設定締め付けトルクとなるまで、操作部68はレンチ52を操作する(ステップS100を参照)。
操作部68の可動範囲内で締め付けトルクが設定締め付けトルクとならなければ、操作部68は一旦、ジョー部58を仮締めナットNから外すようにハンド部66を操作し、その後、仮締めナットNの別の二つの側面N1にジョー部58の係合部60を係合させ、再びレンチ52を揺動動作させるようにハンド部66を操作する。この動作を繰り返すことにより、仮締めナットNは設定締め付けトルクでワークWに締め付けられるのである。
仮締めナットNが設定締め付けトルクでワークWに締め付けられた後、ロボット制御部70は、操作部68にオープンエンドレンチ52を仮締めナットNから離脱させるように操作部68を制御する(ステップS110を参照)。
以上説明した四つの工程を経るナットNの締め付け作業によれば、ナットNをあらかじめ定められた締め付けトルクでワークWに締め付けることができ、かつその締め付け作業の効率を向上させることができる。以下、このことを詳細に説明する。
本実施形態では、仮締め装置12によって行われる仮締め工程の後に、ナット回転位置検出工程において仮締めナットNの回転位置をロータリエンコーダ36から回転位置信号に基づき検出している。これにより、ナットNのワークWへの仮締めと、その時のナットNの回転位置情報が得られる。そして、本実施形態では、この得られた回転位置情報を本締め装置50のロボット制御部70に送っている。
それを受けたロボット制御部70は、ナット側面位置算出工程において、仮締めナットNの回転位置情報に基づき現在の仮締めナットNの二つの側面N1の位置を算出する。これにより、ロボット制御部70は、仮締めナットNの二つの側面N1の位置を確実に把握することができる。そして、ロボット制御部70は、本締め工程において、算出された二つの側面N1の位置情報に基づいて、二つの側面N1がオープンエンドレンチ52の係合部60に挟まれるようにして係合されるようにロボット64の係合動作を制御している。このようにして、ロボット制御部70はロボット64の係合動作を制御しているため、仮締めナットNの二つの側面N1の位置情報を用いずにオープンエンドレンチ52の係合部60を仮締めナットNに係合させる場合に比べ、極短時間で係合部60を仮締めナットNに係合させることができる。
ここで、本実施形態では、仮締め装置12のオープンビットランナ部26a,bとサーボモータ32との間には、駆動ギヤ20および複数のギヤ22a,b、24a,bから構成される伝達機構が設けられている。このため、サーボモータ32の回転軸34の回転力は、これら駆動ギヤ20、およびギヤ22a,b、24a,bを伝わってオープンビットランナ部26a,bに伝達されることとなる。つまり、オープンビットランナ部26a,bが回転した仮締めナットNの回転位置は、回転軸34の回転位置に対応した位置関係となる。
本実施形態では、回転軸34の回転位置信号を発生するロータリエンコーダ36を備えている。そして、仮締め装置制御部46では、このロータリエンコーダ36からの回転位置信号に基づき、仮締めナットNの回転位置を算出している。このようにして、仮締めナットNの回転位置を検出する本実施形態によれば、仮締めナットNに回転位置に関する信号を発する機器を仮締めするたびに取り付けずとも、仮締めナットNの回転位置を把握することができる。仮締めナットNの回転位置を検出するための上記機器を取り付ける時間が必要なくなるため、ナットNの締め付け時間を短縮することが可能となり、ナットNの締め付け作業の効率が向上する。
オープンビットランナ部26a,bの係合部28a,bは、ナットNの二つの側面N1を挟むことによりナットNと係合するようになっているため、オープンビットランナ部26a,bとナットNとの回転位置関係が、係合部28a,bが二つの側面N1と係合する回転位置関係となると、ナットNが係合部28a,bの内側に挿入され、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とが係合することとなる。また、このような状態では、ナットNの軸方向からナットNに向ってオープンビットランナ部26a,bを移動させることにより、係合部28a,bの内側にナットNが挿入させて、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とを係合させることが可能となる。
一方、オープンビットランナ部26a,bとナットNとが、上記回転位置関係となっていない場合では、ナットNは係合部28a,bの内側に挿入されず、係合部28a,bはナットNの二つの側面N1と係合しない。また、このような状態では、ナットNの軸方向からナットNに向ってオープンビットランナ部26a,bを移動させることにより、係合部28a,bの内側にナットNを挿入させて、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とを係合させようとしても、ナットNの軸方向端面によってオープンビットランナ部26a,bの移動が阻まれ、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とを係合させることができない。
上述したように、オープンビットランナ部26a,bとナットNとの回転位置関係によっては、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とが係合しない場合があるので、単にナットNの軸方向からナットNに向ってオープンビットランナ部26a,bを移動させるだけでは、両要素26a,b、Nを係合させることができない場合が発生する。そこで、本実施形態では、仮締め装置制御部46がサーボモータ32を制御して、係合部28a,bがナットNの二つの側面N1と係合する位置まで、オープンビットランナ部26a,bを回転させている。
このようにオープンビットランナ部26a,bを回転させることによれば、オープンビットランナ部26a,bをナットNに向って移動させたときに、両要素26a,b、Nが係合可能な回転位置関係となっていなくとも、両要素26a,b、Nを係合可能な回転位置関係とすることができる。また、本実施形態では、移動装置42がオープンビットランナ部26a,bをナットNの軸方向端面に押し付けているため、両要素26a,b、Nが係合可能な回転位置関係となると、オープンビットランナ部26a,bは自動的に軸方向に移動する。これにより、係合部28a,bの内側にナットNが挿入され、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1との係合が成立することとなる。
本実施形態のようにナットNが六角ナットである場合、オープンビットランナ部26a,bを最大60°だけ回転させるだけで、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1との係合が可能な回転位置関係とすることができる。
以上のことから、移動装置42がオープンビットランナ部26a,bをナットNの軸方向端面に押し付けた状態で、仮締め装置制御部46がナットNの二つの側面N1と係合する位置まで、オープンビットランナ部26a,bを回転させるといった構成によれば、いち早く、かつ自動的にオープンビットランナ部26a,bとナットNとを係合させることができる。このようにいち早く、かつ自動的にオープンビットランナ部26a,bとナットNとの係合が行われることによれば、ナットNの締め付け時間を短縮することが可能となり、ナットNの締め付け作業の効率が向上する。
係合部28a,bがナットNの軸方向端面に押し付けられた状態でオープンビットランナ部26a,bが回転すると、ナットNの軸方向端面とオープンビットランナ部26a,bとの間に発生する摩擦力により、ナットNがオープンビットランナ部26a,bとともに回転する場合がある。これでは、オープンビットランナ部26a,bとナットNとの係合が成立する回転位置関係に到るまでの時間が長くなり、係合部28a,bがナットNの二つの側面N1に係合するまでに多くの時間を費やしてしまう。
そこで、本実施形態では、係合部28a,bをナットNの二つの側面N1に係合させる際、ナット押え部40によりナットNに軸方向の荷重をかけて、ナットNの回転を抑制している。ナットNに軸方向の荷重をかけることによれば、ナットNのねじ山が、ワークWに固定され、ナットNのねじ山と噛合うワークW側のねじ山に押し付けられることとなり、ねじ山間にナットNのワークWに対する回転を抑制する方向の摩擦力が発生する。ねじ山間に発生する摩擦力によりナットNのワークWに対する回転が抑制されるのである。このように、ナットNのワークWに対する回転が抑制されるため、オープンビットランナ部26a,bがナットNの軸方向端面に押し付けられた状態で回転しても、オープンビットランナ部26a,bの回転によるナットNの連れまわりを抑制することができ、いち早く、係合部28a,bにナットNの二つの側面N1を係合させることができる。このように、本実施形態によれば、いち早く、係合部28a,bとナットNの二つの側面N1とを係合させることができるので、ナットNの締め付け時間を短縮することが可能となり、ナットNの締め付け作業の効率が向上する。
なお、本実施形態において、オープンビットランナ部26a,bは特許請求の範囲に記載の「締付部材」に相当し、サーボモータ32は特許請求の範囲に記載の「回転駆動部」に相当し、仮締め装置制御部46は特許請求の範囲に記載の「回転駆動制御部」に相当し、ロータリエンコーダ36が特許請求の範囲に記載の「回転軸検出部」に相当する。さらに、ロータリエンコーダ36およびステップS60を実行する仮締め装置制御部46が特許請求の範囲に記載の「回転位置検出器」に相当する。また、ナットNの二つの側面N1は特許請求の範囲の「ナットの二つの外周側面」に相当する。そして、移動装置42が特許請求の範囲に記載の「軸方向駆動部」に相当し、ナット押え部40が特許請求の範囲に記載の「回転抑制部」に相当する。また、駆動ギヤ20および複数のギヤ22a,b、24a,bが特許請求の範囲に記載の「伝達機構」に相当し、これらのギヤのギヤ比が特許請求の範囲に記載の「回転速度比」に相当する。
(その他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
例えば、ナットランナ部16を駆動するサーボモータ32は、ACモータであってもよいし、ステッピングモータであってもよい。
サーボモータ32として、当該モータ32の発生トルクが目標とする仮締めトルクとなるようなモータを仮締め装置12に採用してもよい。そうすれば、トルクトランスデューサ38からのトルク信号を用いずともロータリエンコーダ36からの回転位置信号だけで、ナットNの仮締めが行われたか否かを判断することができる。ロータリエンコーダ36からの回転位置信号に基づき、ナットNの回転が停止したことを検出して、ナットNがワークWに着座したことを検出することができる。サーボモータ32の発生トルクを仮締めトルクとなるような値に設定しているので、ワークWにナットNが着座したときには、ナットNはモータ32の発生トルクに応じたトルクで締め付けられていることとなる。このようなモータをサーボモータ32として採用することによれば仮締め装置12にトルクトランスデューサ38は必要なくなるため、仮締め装置12の簡素化に貢献できる。
上記実施形態では、仮締め装置12を制御する仮締め装置制御部46および本締め装置50を制御するロボット制御部70は、別々のマイクロコンピュータから構成されているが、仮締め装置制御部46とロボット制御部70とを一つにまとめ、一つのマイクロコンピュータ(制御装置)から構成するようにしてもよい。そのようにすれば、ナット締め装置10の構成を簡素化することができる。