以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の全体構成を示す断面図である。
画像形成装置1は、略直方体形状の筐体構造を有し胴内空間を備えた装置本体2を備える。装置本体2は、シートに対して画像形成処理を行う。装置本体2は、略直方体形状の下部筐体21と、下部筐体21の上方に配設される略直方体形状の上部筐体22と、下部筐体21と上部筐体22とを連結する連結筐体23とを含む。下部筐体21には画像形成のための各種機器が収容され、上部筐体22には原稿画像を光学的に読み取るための各種機器が収容されている。下部筐体21、上部筐体22及び連結筐体23で囲まれる胴内空間が、画像形成後のシートを収容可能な胴内排紙部24とされている。連結筐体23は、装置本体2の右側面の側に配置され、胴内排紙部24へシートを排出するための排出口961が設けられている。
胴内排紙部24として利用される前記胴内空間は、装置本体2の前面及び左側面において外部に開放されている。ユーザは、これらの開放部分から手を差し入れ、胴内排紙部24から画像形成後のシートを取り出すことが可能である。前記胴内空間の底面241は、下部筐体21の上面で区画され、排出口961から排出されたシートが積載される。
下部筐体21には、画像形成処理が施されるシートを収容する給紙カセット211が装着されている。給紙カセット211は、下部筐体21の前面(図1の紙面前方)から手前方向に引出可能である。この給紙カセット211は、自動給紙用に設けられたカセットである。
装置本体2の右側面には、ユーザに手差し給紙を行わせるためのマルチトレイユニットMが装着されている。マルチトレイユニットMは、手差しシートが載置される給紙トレイ30と、前記手差しシートを下部筐体21内の画像形成部へ搬入する給紙ユニット40とを含む。給紙トレイ30は、その下端部において下部筐体21に対して開閉自在に取り付けられており、不使用時は閉状態とされる。ユーザは、手差し給紙を行う場合、給紙トレイ30を開き、その上にシートを載置する。
下部筐体21の内部には、上方から順に、トナーコンテナ99Y、99M、99C、99Bk、中間転写ユニット92、画像形成部93、露光ユニット94、及び上述の給紙カセット211が収容されている。
画像形成部93は、シート上にフルカラーのトナー像を形成するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(Bk)の各トナー像を形成する4つの画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkを備える。各画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkは、感光体ドラム11と、この感光体ドラム11の周囲に配置された、帯電器12、現像装置13、一次転写ローラー14及びクリーニング装置15とを含む。
感光体ドラム11は、その軸回りに回転し、その周面に静電潜像及びトナー像が形成される。帯電器12は、感光体ドラム11の表面を均一に帯電する。帯電後の感光体ドラム11の周面は、露光ユニット94によって露光され、静電潜像が形成される。
現像装置13は、感光体ドラム11上に形成された静電潜像を現像するために、感光体ドラム11の周面にトナーを供給する。現像装置13は、2成分現像剤用のものであり、攪拌ローラー16、17、磁気ローラー18、及び現像ローラー19を含む。攪拌ローラー16、17は、2成分現像剤を攪拌しながら循環搬送することで、トナーを帯電させる。磁気ローラー18の周面には2成分現像剤層が担持され、現像ローラー19の周面には、磁気ローラー18と現像ローラー19との間の電位差によってトナーが受け渡されることにより形成されたトナー層が担持される。現像ローラー19上のトナーは、感光体ドラム11の周面に供給され、前記静電潜像が現像される。
一次転写ローラー14は、中間転写ユニット92に備えられている中間転写ベルト921を挟んで感光体ドラム11とニップ部を形成し、感光体ドラム11上のトナー像を中間転写ベルト921上に一次転写する。クリーニング装置15は、トナー像転写後の感光体ドラム11の周面を清掃する。
イエロー用トナーコンテナ99Y、マゼンタ用トナーコンテナ99M、シアン用トナーコンテナ99C、及びブラック用トナーコンテナ99Bkは、それぞれ各色のトナーを貯留するものであり、YMCBk各色に対応する画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkの現像装置13に、図略の供給経路を通して各色のトナーを供給する。
露光ユニット94は、光源やポリゴンミラー、反射ミラー、偏向ミラーなどの各種の光学系機器を有し、画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkの各々に設けられた感光体ドラム11の周面に、原稿画像の画像データに基づく光を照射して、静電潜像を形成する。
中間転写ユニット92は、中間転写ベルト921、駆動ローラー922及び従動ローラー923を備える。中間転写ベルト921上には、複数の感光体ドラム11からトナー像が重ね塗りされる(一次転写)。重ね塗りされたトナー像は、給紙カセット211又は給紙トレイ30から供給されるシートに、二次転写部98において二次転写される。
給紙カセット211は、複数のシートが積層されてなるシート束を収納する。給紙カセット211の右端側の上部には、ピックアップローラー212が配置されている。ピックアップローラー212の駆動により、給紙カセット211内のシート束の最上層のシートが1枚ずつ繰り出され、搬入搬送路26へ搬入される。一方、給紙トレイ30に載置されたシートは、給紙ユニット40の給紙ローラー41の駆動によって、搬入搬送路26へ搬入される。
搬入搬送路26の下流側には、二次転写部98、定着ユニット(定着装置)97及び排紙ユニット96を経由して排出口961まで延びるシート搬送路28が設けられている。シート搬送路28の上流部分は、下部筐体21に形成された内壁と、反転搬送ユニット29の内側面を形成する内壁との間に形成されている。なお、反転搬送ユニット29の外側面は、両面印刷の際にシートを反転搬送する反転搬送路291の片面を構成している。シート搬送路28の、二次転写部98よりも上流側にはレジストローラー対27が配置されている。シートは、レジストローラー対27にて一旦停止され、スキュー矯正が行われた後、画像転写のための所定のタイミングで、二次転写部98に送り出される。
連結筐体23の内部には、定着ユニット97と排紙ユニット96とが収納されている。定着ユニット97は、二次転写部98においてトナー像が二次転写されたシートを、定着ニップ部Nにおいて加熱及び加圧することで、トナー像をシートに定着させる定着処理を施す。この定着ユニット97については、後記で詳述する。定着処理されたカラー画像付のシートは、定着ユニット97の下流に配置されている排紙ユニット96により、排出口961から胴内排紙部24に向けて排出される。
上部筐体22の上面には、第1コンタクトガラス222と第2コンタクトガラス223とが嵌め込まれている。第1コンタクトガラス222は、自動原稿給送装置(ADF;図示せず)が上部筐体22上に配置される場合に、ADFから自動給送される原稿シートの読取用に設けられている。第2コンタクトガラス223は、手置きされる原稿シートの読取用に設けられている。
上部筐体22の内部には、原稿情報を光学的に読み取るための走査機構224と撮像素子225とが収容されている。走査機構224は、光源、移動キャリッジ、反射ミラー等を含み、原稿からの反射光を撮像素子225に導く。撮像素子225は、前記反射光をアナログ電気信号に光電変換することにより、原稿の画像データを取得する。
以下、定着ユニット97の詳細構成について説明する。図2は、定着ユニット97の概略構成を示す断面図、図3は、定着ユニット97の要部構成示す斜視図である。定着ユニット97は、定着ローラー100と、定着ローラー100の外周に配置される定着ベルト50と、定着ローラー100と定着ニップ部Nを形成する加圧ローラー101と、定着ベルト50を加熱する誘導加熱ユニット97H(熱源)とを含む。この実施形態に示す定着ユニット97は、1本の定着ローラー100上に定着ベルト50が緩く外嵌され、この定着ベルト50を外側から誘導加熱する、1軸の外包IH方式の定着ユニットである。
定着ローラー100は、鉄やアルミニウム等の金属芯材100S上に、例えばシリコンスポンジ等の弾性体からなる表層100Eを有する弾性ローラーである。弾性体からなる表層100Eは、加熱されると熱膨張する性質を有する。
定着ベルト50は、定着ローラー100の上に緩く外嵌される無端ベルトである。定着ベルト50は、誘導加熱ユニット97Hにより誘導加熱されるベルトであって、例えばニッケルのような強磁性材料からなる基材上に、シリコンゴム弾性層及びPFA離型層が順次形成されてなる。
加圧ローラー101は、定着ニップ部Nを形成するために、その周面が定着ベルト50を挟んで定着ローラー100の周面に圧接されるローラーである。加圧ローラー63の好ましい構成の一つは、鉄やアルミニウム等の金属芯材101Sと、この芯材101Sの上に形成され、硬質シリコンゴム層やフッ素樹脂コート層とを含む表層101Eとを備える構成である。
誘導加熱ユニット97Hは、誘導加熱コイル971、この誘導加熱コイル971を保持するコイルボビン972、アーチコア973、サイドコア974及びセンターコア975を含む。誘導加熱コイル971は、定着ベルト50を誘導加熱するための磁界を発生するもので、定着ベルト50の外周円弧面に対向する仮想的な円弧面上に配置されている。アーチコア973、サイドコア974及びセンターコア975は、フェライト製コアであり、定着ベルト50の一部を経由する磁路を形成するために配置されている。誘導加熱コイル971が発生した磁界が前記磁路を通過することで、定着ベルト50には渦電流が発生し、これに伴いジュール熱により熱が発生する。
トナー像Tが転写されたシートSは、定着ユニット97を、図2及び図3に示す矢印C方向に搬送される。シートSは、定着ニップ部Nを通過したときに、定着ニップ部Nにおいて、定着ローラー100により加熱されるとともに加圧ローラー101により加圧される。かくして、シートS上にトナー像Tが定着される。定着ニップ部Nを通過したシートSは、搬送ローラー105(図3)によって排出口961に向けて搬送される。
以上の通り構成された定着ユニット97において、定着ニップ部Nよりも搬送方向下流側に、分離部材102が配置されている。分離部材102は、定着ニップ部Nを通過したシートSが定着ベルト50の周面に貼着して巻き付いてしまうことを防止するための部材である。すなわち、定着ニップ部Nを通過する際に熱を加えられることで、シートS上のトナー像Tが溶融して定着ベルト50の周面に接着し、定着ベルト50に巻き付くことがある。この巻き付きを防止するために、分離部材102は定着ベルト50からシートSを分離させるものである。
分離部材102は、定着ローラー100の軸方向に延びる薄い板状部材である。分離部材102の長手方向両端部は、その基端部の側において、定着ローラー100の両端近傍に配置された一対の支持部材103によってそれぞれ支持されている。分離部材102の定着ベルト50の周面と対向する先端部102Aと、定着ベルト50の周面との間には、所定距離のギャップGが確保されている。
定着ニップ部Nを通過したシートSが定着ローラー100に巻き付いた状態でギャップGの部分に到達すると、そのシートSの搬送方向先端が分離部材102の先端部102Aに当接する。これにより、当該シートが定着ローラー100から分離される。なお、一般にシートSの搬送方向先端には、トナー像が転写されない余白領域が存在し、当該先端は定着ベルト50に接着することはない。従って、たとえシートSが定着ベルト50に巻き付いたとしても、その搬送方向先端は定着ベルト50の周面から浮き上がるので、先端部102Aが定着ベルト50の周面に当接していなくとも、上述の分離は可能である。
分離部材102の両端には、先端部102Aと定着ローラー100周面との間に所定のギャップGを形成させるために、一対の当たり部材104(当接部)が配置されている。後記で詳述するが、当たり部材104は分離部材102の先端部102Aよりも前方に突出して配置される部材であり、定着ベルト50の周面に当接することで、前記ギャップGを形成する。
図4は、当たり部材104と定着ベルト50との間の位置関係を模式的に示す図である。定着ローラー100上に外嵌された定着ベルト50周面には、当該画像形成装置1において処理可能な最大サイズのシートが定着ニップ部Nを通過する際に、当該シートが接触する通過領域50Aが設定されている。この通過領域50Aの両端は、それぞれシートが接触しない非通過領域50Bとなる。当たり部材104は、その一部(当たり部104C)が非通過領域50Bと当接することにより、先端部102Aが定着ローラー100周面に当接することを規制し、両者間にギャップGを形成する。
図5は、分離部材102単体の外観を示す斜視図であって、図5(a)は、分離部材102の表側を、図5(b)は、分離部材102の裏側(定着ベルト50に面する側)をそれぞれ示している。図6は、当たり部材104単体の外観を示す斜視図であって、図6(a)は、分離部材102への取り付け面側を、図6(b)は、定着ベルト50への当たり面側をそれぞれ示している。
分離部材102は、定着ローラー100の軸方向に向けて延びる薄い平板状の本体部102Cと、この本体部102Cを保持する保持板金102Sとを備える。本体部102Cの下端縁が上述の先端部102Aである。保持板金102Sは、定着ローラー100の軸方向に向けて延びる保持平坦面を有する。本体部102Cは、前記保持平坦面に密着する態様で保持され、先端部102Aが保持板金102Sの下端から突出している(図10及び図11も参照)。
保持板金102Sの両端には、当たり部材104を分離部材102に取り付けるため、並びに保持板金102Sを本体部102Cに取り付けるための、ねじ孔102E及び貫通孔102Fが設けられている(本体部102Cにも、貫通孔102F及び後述のネジ孔104Eに対応する孔が穿孔されている)。また、保持板金102Sの両端には、支持部材103によって支持される一対の端板102Bが備えられている。各端板102Bは、保持板金102Sの前記保持平坦面に対して直角に折り曲げられた部分であって、各々には長孔102Gが設けられている。長孔102Gは、分離部材102の基端側に配置され、分離部材102を定着ローラー100の軸方向と平行な軸回りに回動自在に軸支させるために穿孔されている。
当たり部材104は、分離部材102の保持板金102Sの両端に取り付けられる取り付け部104Aを備える。取り付け部104Aは、矩形の平板部材であって、当たり部材104Aを分離部材102の保持板金102Sに取り付けるためのねじ孔104Eが設けられている。また、取り付け部104Aの側縁には、当たり部材104を分離部材102の保持板金102Sに位置決めして取り付けるための一対の位置決めピン104Dが、ねじ孔104Eを挟んで突設されている。
さらに、取り付け部104Aの一端縁には、屈曲形状の本体部104Bが連設されている。この本体部104Bの突出先端には、定着ベルト50の周面と当接する当たり部104Cが突設されている。当たり部104Cの外周面は、円弧状の曲面とされている。
当たり部材104の分離部材102への取り付けに際しては、まず、当たり部材104の取り付け部104Aの表側(図6(a)で露出している側)が、分離部材102の保持板金102Sの裏側(図5(b)で露出している側)の両端に載置される。そして、当たり部材104の位置決めピン104Dが保持板金102Sの貫通孔102Fに挿入された状態で、分離部材102の裏側から、取り付けネジ109(図10及び図11参照)が、当たり部材104のねじ孔104E、及び、分離部材102のねじ孔102Eに螺入される。これにより、一対の当たり部材104が分離部材102の両端に取り付けられる。
図7は、定着ユニット97を後方側から見た斜視図、図8は前方側から見た斜視図である。なお、前方側とは、定着ベルト50が配置された側であって、シートが搬入される側であり、後方側とは、定着処理後のシートが搬出される側である。
定着ユニット97は、筐体構造を有する定着ハウジングHを備える。定着ハウジングHには、上述の各構成部品、すなわち、定着ローラー100、定着ベルト50、加圧ローラー101、分離部材102、支持部材103、当たり部材104及び搬送ローラー105が収容されている。
定着ハウジングHには、回動支点106を支点として回動するカバー部材108が配置されている。カバー部材108は、回動支点106回りに回動することにより、定着ハウジングHに対して開閉可能とされている。なお、図7及び図8では、カバー部材108が、定着ハウジングHに対して開いている状態を示している。カバー部材108には、搬送コロ107が配置されている。搬送コロ107は、カバー部材108が定着ハウジングHに対して閉状態とされたときに、搬送ローラー105と接触して、排紙ニップ部を形成する。
図9は、分離部材102の支持部材103への取り付け態様の一例について説明するための斜視図である。支持部材103には、定着ローラー100の軸方向と平行な方向に突設された支点部材103A(軸支部)が設けられている。支点部材103Aは円柱状の部材である。なお、図9では、定着ローラー100の一端側の支持部材103のみが示されており、定着ローラー100の他端側の支持部材103については図示が省略されている。
支点部材103Aは、分離部材102の端板102Bに穿孔された長孔102Gに挿入されている。これにより、分離部材102は、支点部材103Aの軸回りに回動することができる。その結果、分離部材102は、分離部材102の先端部102Aが定着ベルト50の周面に近づく第1姿勢と、先端部102Aが定着ベルト50の周面から離間する第2姿勢との間で姿勢変更が可能である。
分離部材102は、長孔102Gに円柱状の支点部材103Aが挿入される形態で軸支されている。従って、分離部材102は、長孔102Gのストロークの範囲でシフト移動することができる。このため、分離部材102の先端部102Aと定着ローラー100(定着ベルト50)の軸との平行性にズレが生じていても、当たり部104Cと定着ベルト50の周面とが当接することで、前記ズレを補正するように、長孔102G内で分離部材102の支点位置がシフトする。従って、先端部102Aと定着ローラー100(定着ベルト50)の周面との平行性を維持することができる。
図10は、定着ユニット97の要部断面図であって、当たり部材104の先端(当たり部104C)が定着ベルト50の周面から離間した状態(上記第2姿勢)を、図11は、当たり部材104の先端が定着ベルト50の周面に接した状態(上記第1姿勢)を示す図である。図10及び図11においては、当たり部材104を分離部材102に取り付けるための取り付けネジ109が示されている。
図10において、定着ローラー100が反時計回り方向に、加圧ローラー101が時計回り方向に回転駆動される。定着ローラー100の表層部は加圧ローラー101の表層部よりも柔らかい材質で形成されているので、定着ニップ部Nでは、定着ローラー100の周面が加圧ローラー101の周面で押し込まれている。分離部材102は、定着ニップ部Nよりも、定着ローラー100の回転方向下流側に配置されている。
図10に示す第2姿勢では、当たり部材104の当たり部104Cが定着ローラー100周面と当接していないが、図11に示す第1姿勢では、当たり部104Cが定着ローラー100周面と当接する。当たり部材104が定着ローラー100周面と当接した状態では、分離部材102の先端部102Aと定着ローラー100周面との間で、距離dのギャップGが形成される。
分離部材102(及び当たり部材104)は、先端部102Aが定着ベルト50の周面に向かうよう付勢部材によって付勢力が与えられている。図11において、支点部材103Aは、長孔102Gの定着ローラー100から離間した端部102GEと当接している。このような当接は、前記付勢部材によって、分離部材102に取り付けられた当たり部材104を定着ローラー100周面に向けて付勢することにより実現されている。
以下、上記付勢部材について詳述する。図12は、付勢部材(付勢バネ110)の取り付け態様を説明するための斜視図である。なお、図12には、定着ローラー100の一端側の付勢バネ110が示されているが、定着ローラー100の他端側も同様の構成とされている。付勢バネ110は、円筒状のコイル部110Cと、このコイル部110Cに続く棒状の係止部110Eとを備えた捻りコイルバネである。
支持部材103には、定着ローラー100と軸方向と平行な方向に円筒ピン111が立設されている。付勢バネ110のコイル部110Cが、この円筒ピン111に嵌合されている。係止部110Eは、分離部材102の本体部102Cの表側に、付勢力をもって当接している。これにより、分離部材102は、その本体部102Cの先端部102Aが定着ベルト50の周面に向かう方向に、上述の支点部材103Aの軸回りに回動するよう付勢力が与えられている。そして、当該付勢力によって、分離部材102に取り付けられた当たり部材104が定着ローラー100周面に向けて圧接され、当たり部材104が確実に定着ベルト50の周面に当接されるものである。
ここで、付勢バネ110が分離部材102に与える付勢力は、適正な範囲に設定する必要がある。本発明では、前記付勢力が0.8N(ニュートン)〜3.5Nの範囲に設定される。このような付勢力の設定が必要となる背景を、図13〜図15に基づいて説明する。図13は、分離部材102の両端に付設された当たり部材104が当接する定着ベルト50と、定着ローラー100との関係を示す模式図であって、定着ローラー100が熱膨張する前の状態を示す図である。
本実施形態のように1軸構成の定着ユニット97では、定着ローラー100に対して定着ベルトが緩く嵌め込まれている。図13では誇張して描いているが、定着ベルト50が未加熱の状態のとき、定着ローラー100の外周面と定着ベルト50の内周面との間には隙間Zが存在する。
定着ベルト50が熱源(誘導加熱ユニット97H)で加熱されると、定着ベルト50を通して定着ローラー100も加熱され、熱膨張性の表層100E(図2)を備える定着ローラー100は膨張を始める。図14は、定着ローラー100が熱膨張を開始した状態を示す図である。加熱が開始されてあまり時間が経過していない段階では、定着ローラー100の軸方向中央部P1が比較的大きく膨張する。これは、定着ローラー100の軸方向端部P2では、ローラー端縁から熱が逃げることができるのに対し、軸方向中央部P1では熱の逃げ場が少ないことによる。従って、定着ローラー100は樽状に変形し、軸方向中央部P1においては定着ベルト50の内周面との間の隙間Zが小さくなり、軸方向端部P2においては隙間Zが比較的大きい状態となる。
定着ローラー100の加熱が進行すると、定着ローラー100の熱膨張は、その軸方向において略均一となる。図15は、定着ローラー100の熱膨張が完了した状態を示す図である。この状態に至れば、前記隙間Zも、定着ローラー100の軸方向において略一定となる。
問題となるのは、定着ローラー100が樽状に変形している図14の状態である。この場合、付勢バネ110の付勢力が強すぎると、当たり部材104が、隙間Zが比較的大きい状態の軸方向端部P2において定着ベルト50に強く押し当てられる。つまり、定着ローラー100の、熱膨張していない径小部分が分離部材102の定着ローラー100に対する接地水準となり、ギャップGが定まることになる。このようなギャップGは、熱膨張して径大となっている軸方向中央部P1で見ると当然に、過小となる。従って、軸方向中央部P1においては、分離部材102の先端部102Aと定着ベルト50の周面とが接触し、定着ベルト50の周面に接触キズが発生することがある。
先端部102Aと定着ベルト50との接触を回避するには、付勢バネ110の付勢力を弱くすれば良い。この場合、当たり部材104が、軸方向端部P2の隙間Zを大きく潰すことはなく、軸方向中央部P1においてもギャップGを確保できる。しかし、付勢力が弱すぎると、分離部材102が本来発揮すべきシート分離機能が損なわれる怖れがある。
図16は、分離部材102の先端部102Aと定着ベルト50の周面との間のギャップGと先端余白との関係の調査結果を示すグラフである。先端余白とは、シート搬送方向先端においてトナー像が転写されない領域である。ここでは、分離部材102に与える付勢力を5.0Nとした。図中、○印は定着ベルト50からシートが分離出来た事を示し、×印は分離不良であったことを示す。図16のグラフより、ギャップGの値が0.3mmに設定された場合、シートを定着ベルト50から引き剥がすのに必要な先端余白は2.5mm以上となる。
また、画像形成装置1において設定可能な最少の先端余白が例えば4.0mmである場合、ギャップGは0.7mm以下に管理しなければシート分離不良が発生し、ジャムが発生する。前記の「最少の先端余白」とは、給紙タイミングの遅れや露光ユニットによる静電潜像の書き込みタイミングの遅れを含めた、シート上に現れる最小の先端余白のことである。また、ギャップGが0.2mm以下になると、紙粉やトナーカスが分離部材102の先端部102Aに堆積し易くなる。この場合、ギャップGが狭くなり、定着ベルト50にキズが発生する。従って、ギャップGは0.2mm〜0.7mmの間で設定する必要がある。
図17は、分離部材102に与えられる付勢力と、シート分離性及び定着ベルト50の接触キズとの関係を評価した表形式の図である。ここでは、ギャップG=0.55mm、最小の先端余白=4.0mm、定着ローラー100の温度を150〜170℃とし、付勢バネ110が分離部材102に与える付勢力(押圧力)を変化させて、分離部材102によるシート分離性と、定着ベルト50の周面の傷とを評価した。
図中、シート分離性において、◎は全く問題無いことを、○はごく稀に(10K枚に1回程度)シートジャムが発生するが実質的に問題無いことを、△は100〜1K枚に1回程度のシートジャムが発生し実使用上は問題があることを、×はシートジャムが頻発する分離不良であることをそれぞれ示す。また、ベルト傷において、◎は定着ベルト50の周面に傷は発生せず全く問題無いことを、○は僅かに傷が認められるが画像には影響しない程度の傷であることを、△は少々の傷が認められ且つ画像に影響が出てしまい、実使用上は問題があることを、×は目立つ傷が発生することをそれぞれ示す。
図17より、シート分離性の観点からは、分離部材102に与える付勢力は、○若しくは◎の評価が得られている0.8N以上、特に1.0N以上とすることが望ましい。一方、ベルト傷の抑止(画像乱れの抑止)の観点からは、付勢力は3.5N以下、特に2.0N以下とすることが望ましい。以上より、付勢バネ110の付勢力を0.8N〜3.5Nの範囲に設定することで、定着ベルト50に分離部材102の接触キズが発生することを防止できると共に、分離部材10に十分なシート分離機能を担保させることができる。特に、付勢バネ110の付勢力を1.0N〜2.0Nの範囲に設定すれば、上述の接触キズの発生を一層効果的に防止できると共に、一層良好なシート分離機能を具備させることができる。
上記の付勢バネ110の付勢力を、当たり部材104(当たり部104C)と定着ベルト50の周面とが接触する部分における単位面積当たりの付勢力に換算すると、0.54N/mm2〜1.92N/mm2の範囲となる。図18(a)、(b)に示す通り、当たり部材104と定着ベルト50との接触面積は、定着ベルト50の軸方向における当たり部材104の幅d1と、定着ベルト50の周方向における当たり部104Cと定着ベルト50との接触長さd2との積である。本実施形態では2つの当たり部材104が存在するが、これらを0.54N/mm2〜1.92N/mm2の面圧で定着ベルト50の周面に当接させることで、シート分離性と接触キズの発生防止とを両立できる。
以上説明したように、本実施形態に係る定着ユニット97によれば、定着ローラー100が熱膨張しても、定着ベルト50に接触キズが発生することを防止できると共に、分離部材102に十分なシート分離機能を発揮させることができる。従って、前記接触キズの発生に伴う画像乱れを未然に防止できると共に、定着ベルト50へのシート巻き付きジャムを抑止できる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採ることができる。
(1)上記実施形態では、熱源として定着ベルト50を誘導加熱する誘導加熱ユニット97Hを例示した。定着ベルト50を加熱する熱源に制限はなく、例えば定着ローラー100の内部に埋設されるハロゲンヒーター等の電気ヒーターを熱源としてもよい。
(2)上記実施形態では、定着ベルト50が1つの定着ローラー100のみによって保持されている所謂1軸構成の定着ユニット97を例示した。これに代えて、加熱ローラーと定着ローラーとの間に定着ベルトが架け渡される、所謂2軸構成の定着ユニットを採用しても良い。
(3)上記実施形態では、付勢部材の一例として捻りコイルバネからなる付勢バネ110を例示した。捻りコイルバネに代えて、コイルバネや板バネ等を適用しても良い。