JP5567792B2 - 高硬度耐食耐磨耗合金素材およびそれを用いた耐摩耗性部材並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
タブレット成形機などに用いられる成形型には、例えば特開平7−8540号公報に記載されているように、合金工具鋼(例えばSKS2やSKD11など)のような鉄基合金、あるいはMoやWなどの化合物を主体とする超硬合金などが従来から用いられている。しかし、これら従来の成形型用合金では、必ずしも耐食性や強度の点で満足した特性が得られておらず、原料物質の性質によっては成形型の寿命が大幅に低下するというような問題が生じている。
例えば、近年用途の多様化などに伴って、酸性粉末やアルカリ性粉末のような腐食性の高い粉末などを加圧成形する必要が生じている。このような腐食性の高い粉末の成形に、従来の合金工具鋼などからなる成形型を用いた場合、それらの表面が早期に腐食されてしまう。型表面の腐食は、原料粉末の離型性の低下要因となったり、さらには強度劣化などを招くことになる。
また、合金工具鋼などからなる成形型の耐食性を向上させるために、クロムメッキで表面をコーティングすることも試みられているが、メッキ層の剥離により十分な効果は得られていない。クロムメッキ層は表面硬度の向上などに対しても一定の効果を示すものの、それ自体が容易に剥離してしまうことから、十分にかつ安定して耐磨耗性の向上効果などを得ることはできない。このようなことから、成形型用部材の強度や硬度を維持しつつ、耐食性や耐磨耗性などの向上を図ることが望まれている。
このような耐磨耗性の問題を解決するために特開2001−62595号公報(特許文献1)には高硬度、高耐食性を備える錠剤成形用杵および臼が記載されている。この合金は高硬度、高耐食性の他に離型性も兼ね備えているが、錠剤成形直後から数時間程度の離型性は良いものの、量産を行なうにあたっては更なる離型性の改善が望まれていた。また、この合金は疲労強度が比較的低いので高強度化、そして成形面の鏡面仕上げ性も望まれていた。
例えば特開昭63−18031号公報(特許文献2)には、耐食性に優れた熱間プレス金型として、Cr20〜50質量%、Al1.5〜9質量%、残部が実質的にNiからなる金型が記載されている。このプレス金型は、温度500〜800℃、プレス圧500〜2000kg/cm2(50〜200MPa)での熱間プレスに対して高硬度を示し、耐座屈性を有するというような特性を有しており、またNiやCrにより耐食性を得ている。しかし、このNi−Cr−Al系合金からなる金型部品は、材料硬度や耐食性に優れるものの、必ずしも十分な耐磨耗性を有しておらず、使用条件によっては部品の摺動部に磨耗が進行し、部品寿命が短くなるという欠点を有している。
樹脂レンズやエンプラなどの樹脂成形金型は鏡面仕上げ性が良好であることが望まれる。従来の鋼材では析出した比較的大きな炭化物によって硬化する合金である。このため研磨時の析出炭化物粒子の脱落による小孔の発生、脱落粒子による研磨面の損傷が発生し、鏡面仕上げ加工が困難であった。また従来の鋼材では離型性を良くするためにNiメッキやCrNコーティングを行なうが、満足できる離型性ではなく、表面粗度によっては離型性が悪くなったり、磨耗によって離型性が変化するという問題があった。
また、より特性を向上させるために国際公開第2006/035671号パンフレット(特許文献3)には、Ni−Cr−Al合金の時効処理後のX線回折強度を調製することにより、金型としての特性を向上させることが開示されている。これにより、未時効組織を低減することができている。
しかしながら、従来のように未時効組織の制御だけでは不十分であることが分かった。この原因を追及したところNi−Cr−Al合金はCrの偏析が起きやすく、Crの偏析が多いところでは時効熱処理後にその周辺との硬度差によって、研磨後の鏡面に微細な凹凸が発生しやすいといった問題があった。
本発明は、このような問題を解決するためのものでCr偏析を低減することにより、部分的な硬度差を無くし、研磨加工を施した際に研磨面の微細な凹凸を無くすための高硬度耐食耐磨耗合金素材およびそれを用いた耐摩耗性部材並びにその製造方法を提供するためのものである。
また、このような高硬度耐食耐磨耗合金素材は、表面の一部あるいはすべてを研磨加工して成る耐磨耗性部材に好適である。また、耐摩耗性部材は、硬度の平均がHv600以上Hv750以下であり、同一平面の硬度のバラツキが2.0%以下であることが好ましい。また、研磨加工された箇所の表面凹凸の最大値が0.5μm以下であることが好ましい。また、研磨された箇所の面積が10mm2以上であることが好ましい。また、表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。
また、インゴットサイズは冷却面からの最長距離が80mm以下であることが好ましい。また、鋳型温度を50℃以上200℃以下として鋳造を行なうことが好ましい。また、インゴットを鋳造する工程において、鋳型の肉厚が50mm以上であることが好ましい。また、研磨加工後の表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。
Cr(クロム)は耐食性および加工性を確保するための材料で30〜45質量%、さらには35〜41質量%が好ましい。30質量%未満では耐食性が不十分であり、45質量%を超えるとCrの偏析が発生し易くなり加工性が低下する。また、Al(アルミニウム)は硬さを調製するための材料である。その含有量は2〜6質量%、さらには3〜5質量%が好ましい。また、残部Ni(ニッケル)である。
また、不可避不純物は、Ni、Cr、Al以外の元素を示すが、その含有量は合計で1質量%以下が好ましい。また、Ni、Cr、Al以外の成分として、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Nb(ニオブ)から選択される少なくとも1種以上の元素を0.2〜2質量%含有させてもよい。これら元素は合金素材の硬度を向上させるために有効である。
また、Mg(マグネシウム)は脱酸剤として効果的であり、その添加量は0.001〜0.015質量%が好ましい。0.001質量%未満では添加の効果が不十分であり、0.015質量%を超えるとそれ以上の効果が得られないだけでなく硬度が低下する恐れがある。
Cr濃度のバラツキは、SEM−EDX法(エネルギー分散型X線分光器を使ったX線分光法)で行う。高硬度耐食耐磨耗合金素材またはそれを使った耐摩耗性部材の任意の測定面(測定においては切断面を使ってもよい)を選択し、単位面積500μm×500μmをSEM−EDX法で平均のCr量を測定し、その測定部を100μm×100μm単位(小単位)に分割し、各小単位(100μm×100μm)ごとにCr量を分析する。Cr濃度のバラツキは、単位(100μm×100μm)において、最大値(Crの質量%)−最小値(Crの質量%)=Cr濃度のバラツキ(質量%)、とする。
本発明は、このCr濃度のバラツキが3質量%以下である。3質量%を超えると部分的にCr量リッチな領域ができ硬度差が発生する。Cr偏析を低減することにより、部分的な硬度差を無くし、研磨加工を行い易くする。Cr濃度のバラツキは小さい程よいが、製造管理の煩雑さを考慮するとCr濃度のバラツキは0.5〜1.4質量%が好ましい。また、同様の方法においてAlを分析するとAl濃度のバラツキは0.5%質量以下、さらには0.1〜0.3質量%が好ましい。
また、高硬度耐食耐磨耗合金素材とは、鋳造後のインゴットに鍛造、圧延等の塑性加工を施し、溶体化処理を施したものを示す。また、耐摩耗性部材は、合金素材を加工して時効熱処理を施したもの、また、さらに研磨加工を施したものを示す。
高硬度耐食耐磨耗合金素材を使って耐摩耗性部材にするには、鍛造、圧延、打抜き等の機械加工を施して形状を整える。次に時効熱処理を施し、硬度を向上させる。本発明ではCr偏析を低減しているので、硬度の平均がHv600以上Hv750以下であり、さらに硬度のバラツキを2.0%以下とすることができる。
硬度の測定方法は、JIS−Z−2244に基づき荷重1kgで行う。同一測定面において、5か所測定し、その平均値を求める。硬度のバラツキは、[(最大の硬度−最小の硬度)/(硬度の平均値)]×100%により求める。また、硬度の測定箇所は、研磨加工した箇所がある場合は、研磨加工部(研磨加工した箇所)から任意の5か所を選定し、各箇所で硬度Hvを測定するものとする。
また、研磨加工後の表面凹凸を小さくできるので、研磨された箇所の面積が10mm2以上と広い研磨加工部であったとしても平坦な面が得られる。そのため、短辺の長さが4mm以上の幅広の耐摩耗性部材であったとしても研磨ムラがなく、均一な鏡面を得ることができる。
このような合金素材は、様々な耐摩耗性部材に適用できる。特に、その表面の一部または全部に研磨加工を施すような耐摩耗性部材に好適である。また、Ni−Cr−Al合金は高硬度、高耐食性を示す材料であるため、このような特性が必要な分野にも適用できる。耐摩耗性部材の一例としては、粉末や粒体などの原料物質を圧縮して、医薬品、医薬部外品、化粧品、農薬、飼料、食料などのタブレットを成形する場合の成形型、臼、杵などが挙げられる。また、手術用メス、ハサミ、さらには一般用の刃物などもある。また、耐食性を利用して、ピンセット、手術用メスなどの手術用機器にも好適である。いずれの分野でもRa1μm以下、さらには0.5μm以下の鏡面加工が必要な分野である。
本発明の耐摩耗性部材の製造方法は、Crを30〜45質量%、Alを2〜6質量%含み、残部をNiおよび不可避不純物である原料を混合し、溶解してNi−Cr−Al合金溶湯を調製する工程と、前記Ni−Cr−Al合金溶湯を使って、鋳型の冷却面からの最長距離が120mm以下のインゴットを調製する工程と、前記インゴットを溶体化処理して硬度Hvが150〜200の高硬度耐食耐磨耗合金素材を調製する工程と、前記高硬度耐食耐磨耗合金素材に機械加工を施す工程と、500〜750℃で時効熱処理を施す工程と、表面研磨加工を施す工程を具備することを特徴とするものである。
まず、原料としてのCr、Al、Ni、必要に応じ、Zr、Hf、V、Ta、Mo、W、Nbから選ばれる元素を所定量秤量して混合し、溶解する。このとき真空溶解法を用いれば、溶解時に不純物が混入することを低減することができる。
また、鋳型の肉厚を50mm以上、さらには100mm以上と厚い鋳型を使うことも冷却むらをなすく上で有効である。鋳型は、鋳鉄や炭素鋼などの鉄合金で出来ている。鋳型の肉厚を厚くすることにより鋳型の熱容量を大きくすることができ冷却ムラを低減することができる。
次に、得られた合金素材に機械加工を施す工程を行う。機械加工は、鍛造加工、圧延加工、切断加工、切削加工、打抜き加工などの塑性加工を施す加工を示す。また、必要に応じ、各種加工を組合せてもよいし、途中に洗浄工程や熱処理工程を入れてもよい。この機械加工により、最終的に用いる耐摩耗性部材の形状またはそれに近い形状まで加工する。
(実施例1〜5、比較例1〜2)
Crを38質量%、Alを3.8質量%、残部Niからなる原料粉末を混合、溶解し、原料溶湯を調整した。
次に表1に示した円柱状インゴット、鋳型温度にしてインゴットを調整した。
各インゴットに熱間鍛造および熱間圧延を施した後、真空熱処理炉を使いアルゴン雰囲気中1000〜1300℃で溶体化熱処理を施して合金素材を作製した。
次に、得られた合金素材を鍛造、圧延、切削加工を施すことにより、縦30mm×横5mm×厚さ1mmの板材を製造した。先端部(縦2mm×横5mm)をプレスして断面三角形になるようにとがらせた。その後、真空熱処理炉を使いアルゴン雰囲気中650〜700℃×4〜10時間の時効熱処理を施した後、先端部を表面粗さRa0.5μmの鏡面となるように研磨加工を施した。なお、先端部は刃先となる部分である。
比較例1はインゴットサイズが鋳型の冷却面から200mm離れたもの、比較例2は鋳型の温度を事前に温めず室温(25℃)で行ったなどの製造条件が合わないものを用意した。
各パラメータの測定は、研磨加工を施した個所を選択し、前述に記載の方法で行った。
(実施例6〜10)
表3に示すNi−Cr−Al合金組成を使って錠剤成形用の金型として杵を製造した。
各インゴットに熱間鍛造および熱間圧延を施した後、1100〜1250℃で溶体化熱処理を施して合金素材を作製した。次に表4に示した形状となるように鍛造、圧延、切削加工を施した後、600〜700℃×6〜12時間の時効熱処理を施した。その後、杵の成型面として使う面については表面粗さRa0.2μmとなるように研磨した。各杵について実施例1と同様の測定を行った。
2…刃先
3…刃物本体部
Claims (13)
- Crを30〜45質量%、Alを2〜6質量%含み、残部をNiおよび不可避不純物からなり、単位面積500μm×500μmのCr濃度のバラツキが3質量%以下であることを特徴とする高硬度耐食耐磨耗合金素材。
- 硬度の平均がHv150以上Hv200以下であることを特徴とする請求項1記載の高硬度耐食耐磨耗合金素材。
- 単位面積500μm×500μmを25個の小単位100μm×100μmに分割したとき、Cr濃度が、単位面積の平均よりも1.5%以上ずれている小単位が25個中3個以下(0含む)であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の高硬度耐食耐磨耗合金素材。
- 請求項1ないし請求項3記載の高硬度耐食耐磨耗合金素材を用いて製造され、表面の一部あるいはすべてを研磨加工して成る耐磨耗性部材。
- 硬度の平均がHv600以上Hv750以下であり、同一平面の硬度のバラツキが2.0%以下であることを特徴とする請求項4記載の耐摩耗性部材。
- 研磨加工された箇所の表面凹凸の最大値が0.5μm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の耐摩耗性部材。
- 研磨された箇所の面積が10mm 2 以上であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の耐摩耗性部材。
- 表面粗さRaが1μm以下であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の耐摩耗性部材。
- Crを30〜45質量%、Alを2〜6質量%含み、残部をNiおよび不可避不純物である原料を混合し、溶解してNi−Cr−Al合金溶湯を調製する工程と、
前記Ni−Cr−Al合金溶湯を使って、鉄合金で出来ている鋳型の冷却面からの最短距離が120mm以下のインゴットを調製する工程と、
前記インゴットを溶体化処理して硬度Hvが150〜200の高硬度耐食耐磨耗合金素材を調製する工程と、
前記高硬度耐食耐磨耗合金素材に機械加工を施す工程と、
500〜750℃で時効熱処理を施す工程と、
表面研磨加工を施す工程を
具備することを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。 - インゴットサイズは冷却面からの最長距離が80mm以下であることを特徴とする請求項9の耐摩耗性部材の製造方法。
- 鋳型温度を50℃以上200℃以下として鋳造を行なうことを特徴とする請求項9ないし請求項10のいずれか1項に記載の耐摩耗性部材の製造方法。
- インゴットを鋳造する工程において、鉄合金で出来ている鋳型の肉厚が50mm以上であることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の耐摩耗性部材の製造方法。
- 研磨加工後の表面粗さRaが1μm以下であることを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の耐摩耗性部材の製造方法。
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