JP5558831B2 - 酵素法による連続式バイオディーゼル燃料の生産 - Google Patents
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Description
軽油などの化石燃料に代わる燃料として、天然に存在する植物、動物、魚あるいは微生物が生産する油脂を用いる、いわゆるバイオディーゼル燃料が期待されている。これらの油脂のうち、食品製造のために用いられた油脂は環境中に廃棄される場合が多く、環境問題を引き起こす。そのため、廃油からのバイオディーゼル燃料の製造は、大気汚染の防止と廃油の有効利用の点から、特に期待されている。
バイオディーゼル燃料としては、油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させて得られる脂肪酸エステルが好ましく用いられている。脂肪酸エステルを製造する方法の1つとして、リパーゼを用いる酵素触媒法に関する研究が種々行われている(国際公開第01/038553号および国際公開第00/12743号)。この製造方法は、副生するグリセリンの後処理が容易であること、反応条件が温和であること、原料中の遊離脂肪酸のエステル化が可能であることなど、多くの利点を有する(H.Fukudaら,Journal of Bioscience and Bioengineering,2001年,92巻,405−416頁)。
リパーゼを用いる脂肪酸エステルの生産に関して、酵素、油脂、および低級アルコールをネジ口瓶あるいは反応槽内にて撹拌/混合することによる、バッチ式によるエステル交換反応の研究が積極的に行われている(Y.Shimadaら,Journal of the American Oil Chemists’Society,1999年,76巻,789−793頁およびE.Y.Parkら、Bioresource Technology,2008年,99巻,8号,3130−3135頁)。この方式では、反応液の撹拌による酵素の物理的損傷に留意する必要がある。また、反応後の生産物を回収するためには、撹拌を停止して反応液を静置した後、生産物、酵素、および副産物をそれぞれ層分離させる過程が必要となる。
一方、リパーゼを充填した管内に油脂と低級アルコールとを通液させるパックドベッドリアクターを用いた脂肪酸エステル生産も報告されている(Y.Watanabeら、Journal of the American Oil Chemists’Society,2000年,77巻,355−360頁およびK.Nieら、Journal of Molecular Catalysis B:Enzymatic,2006年,43巻,142−147頁)。この場合、酵素は管内に固定されているため、酵素に対する物理的損傷の程度が少なく、長時間の運転が可能となる。さらには、多量の酵素を反応器内に充填できるため、反応器単位体積当たりならびに反応時間当たりの目的物質の生産量が大幅に増加するという特徴を有する。Y.Watanabeら、Journal of the American Oil Chemists’Society,2000年,77巻,355−360頁およびK.Nieら、Journal of Molecular Catalysis B:Enzymatic,2006年,43巻,142−147頁に代表されるパックドベッドリアクターを用いた研究では、油脂と低級アルコールとを反応管上部より供給し、下部から流出した反応液を一旦静置して層分離させた後、上層の脂肪酸エステル(未反応の油脂も含む)を回収する方式を採用している。
一般に、低級アルコールはリパーゼの活性を阻害するため、反応液中に占める低級アルコールの割合は厳密に制御されなければならない。また、低級アルコールの油脂に対する溶解度は非常に低いため、油脂中にアルコールの液滴が生じないように均一な状態を保つ必要がある(Y.Shimadaら、Journal of Molecular Catalysis B:Enzymatic,2002年,17巻,133−142頁)。反応液をヘキサンなど疎水性有機溶媒に溶解させてアルコールの阻害を緩和させる方法もあるが、生産物の回収が困難となり、製造プロセスが複雑となる。
脂肪酸エステルの生成過程で副生するグリセリンは、一定量蓄積すると酵素の周囲に層を形成する。グリセリンから成るこの層は親水性であるため、未反応油脂と酵素との接触効率に多大な影響を及ぼす。さらには、反応過程で残存する低級アルコールの一部がグリセリン層に拡散し、酵素近傍のアルコール濃度を局所的に増加させる結果、酵素活性の低下が引き起こされる(Y.Watanabeら、Journal of the American Oil Chemists’Society,2000年,77巻,355−360頁)。従来、透析やイソプロパノールなどの有機溶媒の使用によってグリセリンを除去する試みが報告されているが(K.B.Bakoら、Biocatalysis and Biotransformation,2002年,20巻,437−439頁およびY.Xuら、Biocatalysis and Biotransformation,2004年,22巻,45−48頁)、プロセスの工業化の観点から、より簡便なグリセリンの除去方法が望まれる。
リパーゼを用いる工業的なバイオディーゼル燃料の製造には、原料を供給しながら生産物を長期間連続的に回収する方式が望ましく、パックドベッドリアクターの使用が有利である。しかしながら、上述のように、反応管への油脂および低級アルコールの供給や、副生グリセリンの除去の効率によって、望ましい脂肪酸エステルの収率が得られない点に留意しなければならない。したがって、これらの2点を同時に考慮しつつ、連続的にバイオディーゼル燃料を製造する方法の確立が必要である。
本発明は、脂肪酸エステルを連続的に生産する方法を提供し、該方法は、
リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管を有する反応装置において、
(a)該触媒反応管に、原料油脂および低級アルコールを混合および撹拌して供給する工程;
(b)該原料油脂および該低級アルコールが供給された触媒反応管において、脂肪酸エステルおよびグリセリンを生成させる工程;
(c)該触媒反応管からの流出液を、グリセリン分離槽に導入し、グリセリンを回収する工程;
(d)該流出液からグリセリンが分離された分離液に、低級アルコールを追加して混合および撹拌し、次段の触媒反応管へ供給する工程;
(e)該工程(b)から(d)を最終段の触媒反応管への供給まで繰り返す工程;
(f)該最終段の触媒反応管からの流出液を、該最終段の触媒反応管の下流に備えられたグリセリン分離槽に導入してグリセリンを回収し、該流出液からグリセリンが分離された分離液を得る工程;および
(g)該工程(f)で得られた分離液から、脂肪酸エステルを回収する工程;
を含む。
1つの実施態様では、上記反応装置中の液流速は、少なくとも2.15cm/minである。
ある実施態様では、上記それぞれの触媒反応管への上記低級アルコールの供給量は、上記原料油脂に対して、0.5〜1.0モル当量である。
さらなる実施態様では、上記触媒反応管の段は、2段から10段である。
1つの実施態様では、上記原料油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物が生産する油脂、これらの混合油脂、またはこれらの廃油である。
ある実施態様では、上記低級アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、またはn−ブタノールである。
さらなる実施態様では、上記方法は、上記工程(f)に続いて、
(f’)上記工程(f)で得られた分離液を原料油脂として、上記工程(a)から(f)を繰り返す工程;
をさらに含む。
本発明はまた、脂肪酸エステルを連続的に生産するための装置を提供し、該装置は、
リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管;
該それぞれの触媒反応管の下流に備えられ、そして該触媒反応管からの流出液をグリセリンと分離液とに分離する、グリセリン分離槽;
該それぞれの触媒反応管の上流に備えられた、低級アルコールの供給口;および
原料油脂または該分離液と低級アルコールとを混合するために、該それぞれの低級アルコールの供給口と該それぞれの触媒反応管との間に備えられた、混合手段;
を含み、
該各段の触媒反応管において、原料油脂または該分離液と低級アルコールとの混合物が該触媒反応管の上部から供給され、そして該触媒反応管の下部からの流出液が、該グリセリン分離槽に導入されるように構成されている。
1つの実施態様では、上記装置中の液流速は、少なくとも2.15cm/minに調節されている。
ある実施態様では、上記装置において、上記それぞれの触媒反応管への上記低級アルコールの供給量は、上記原料油脂に対して、0.5〜1.0モル当量に調節されている。
さらなる実施態様では、上記装置において、上記触媒反応管の段は、2段から10段である。
本発明によれば、リパーゼを触媒として用いる油脂類と低級アルコールとのエステル交換反応において、副生物のグリセリンを自動的に除去しながら、効率的かつ連続的に脂肪酸エステルを製造することができる。本発明の装置を用いれば、原料の供給から脂肪酸エステル回収の一連の工程を、効率的かつ連続して行うことが可能となる。
図2は、グリセリン分離槽40における脂肪酸エステルとグリセリンの分離の様子を示す模式図である。
図3は、各段の触媒反応管10から体積流量250〜1080ml/h(液流速2.15〜9.30cm/min)で流出した液中の脂肪酸エステル濃度を示すグラフである。
図4は、各段の触媒反応管10の後のグリセリン分離槽40で分離されたグリセリンの重量を示すグラフである。
図5は、原料油脂に対して0.33モル当量ずつのメタノールを各段の触媒反応管10に供給する液に混合させて、体積流量540ml/h(液流速4.65cm/min)で通液したときのメチルエステル濃度および流出グリセリン量を示すグラフである。
図6は、2段の触媒反応管によるメタノリシス反応を繰り返して行った場合の各段における、メチルエステル濃度を示すグラフである。
本発明においてリパーゼとは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を意味する。
本発明に用いるリパーゼは、1,3−特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルの製造の面からは、非特異的である方が好ましい。リパーゼとしては、例えば、リゾムコール属(Rhizomucor miehei)、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(Candida antarctica,Candida rugosa,Candida cylindracea)、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および、豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。市販のリパーゼも用いられる。例えば、Rhizomucor miehei由来のリパーゼ(リポザイムIM60:ノボノルディスク社製)、Candida antarctica由来のリパーゼ(ノボザイム435:ノボザイム社製)、Rhizopus delemar由来のリパーゼ(タリパーゼ:田辺製薬株式会社製)、Candidarugosa(リパーゼOF:名糖産業株式会社製)およびPseudomonas属のリパーゼ(リパーゼPS、リパーゼAK:天野製薬株式会社製)が挙げられる。
本発明において、固定化リパーゼとは、任意の担体に固定化されたリパーゼをいう。樹脂などの一般的な担体に固定化された固定化酵素であってもよく、あるいはリパーゼを産生かつ保持する細胞であってもよい。また、後述するように、細胞がさらに任意の担体に固定化されていてもよい。また、各触媒反応管で異なる種類の固定化リパーゼを使用することも有効である。
担体に固定化されるリパーゼは、一般的には、天然物または組換え体から単離または抽出された精製酵素または粗精製酵素が用いられる。精製酵素または粗精製酵素が固定化される担体としては、通常、酵素の固定化に用いられる担体が挙げられる。例えば、種々のイオン交換樹脂などの有機高分子化合物、セラミックなどの無機多孔質などが挙げられる。固定化には、例えば、担体結合法、架橋法および包括法などの当業者が通常用いる方法が適用できる。担体結合法には、イオン交換性の樹脂に吸着させる化学的吸着法あるいは物理的吸着法が含まれる。
本発明において、リパーゼを産生かつ保持する細胞は、細菌、真菌、植物細胞などであり、特に限定されない。好適には、酵母および糸状菌が使用される。種々のリパーゼ遺伝子が導入された組換え体も用いられ得る。
本発明で用いられるリパーゼ産生細胞は、担体に固定化されていてもよい。本発明に用い得る担体の材質としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリアクリルアミド、ポリビニルフォルマール樹脂多孔質体、シリコンフォーム、セルロース多孔質体などの発泡体あるいは樹脂が好ましい。増殖および活性が低下した細胞あるいは死滅した細胞の脱落などを考慮すると、多孔質の担体が好ましい。多孔質体の開口部の大きさは細胞によっても異なるが、細胞が十分に入り込めて、増殖できる大きさが適当である。50μm〜1000μmが好適であるが、これに限定されない。また、担体の形状は問わない。担体の強度、培養効率などを考慮すると、球状あるいは立方体状であり、大きさは、球状の場合、直径が1mm〜50mm、立方体状の場合、2mm〜50mm角が好ましい。
(脂肪酸エステルの原料)
脂肪酸エステルの原料は、油脂および低級アルコールである。
原料油脂としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物が生産する油脂、これらの混合油脂、あるいはこれらの廃油が好ましく用いられる。植物油脂としては、大豆油、菜種油、パーム油、オリーブ油などが挙げられる。動物油脂としては、牛脂、豚脂、鯨油、羊脂などが挙げられる。魚油としては、イワシ油、マグロ油、イカ油などが挙げられる。微生物が生産する油脂としては、モルティエレラ属(Mortierella)やシゾキトリウム属(Schizochytrium)などによって生産される油脂が挙げられる。廃油とは、使用済みの植物および動物油脂をいい、例えば、天ぷら廃油などを意味する。廃油は、高温にさらされているので、水素化され、酸化され、あるいは過酸化された油を含んでいるが、これらも原料となり得る。水分を含んでいてもよい。あるいは、これらの原料油脂が、一旦リパーゼで処理された後の反応液も、原料として用いられ得る。
低級アルコールは、炭素数1〜8のアルコールを意味する。直鎖低級アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびn−ブタノールが特に好ましい。
(反応装置)
本発明において、反応装置とは、ステンレスパイプなどの管に固定化リパーゼあるいはリパーゼ産生細胞を充填した触媒反応管が複数段連結された装置を意味する。図1に、本発明の代表的な反応装置100の実施態様の構成を、該反応装置がパックドベッドリアクターである場合を例に挙げて模式的に示すが、これに限定されない。この代表的な反応装置100は、複数段の触媒反応管10、グリセリン分離槽40、低級アルコールの供給口、および混合手段50を含む。
図1の触媒反応管10は、反応効率に応じて延長し得る。触媒反応管10の長さは1段当たり1〜2m、内径は1〜5cmが好適であるが、これに限定されない。触媒反応管10の段数は、2〜10段が好ましく、3〜7段がより好ましいが、これに限定されない。また、触媒反応管10は、油脂の粘性、ならびに原料および生産物による劣化に考慮した材質のものが好ましい。このような材質として、ステンレスなどが挙げられる。
この触媒反応管10には、上記のリパーゼが充填されており、任意の手段によって固定されている。
それぞれの触媒反応管10は、例えば、チューブによって連結されている。チューブは、触媒反応管10に、原料油脂または前段の触媒反応管10からグリセリン分離槽40を経由して得られた分離液を上部から供給し、該触媒反応管10の下部から流出液を流出させるように、各段の触媒反応管10を連結する。チューブもまた、油脂の粘性、ならびに原料および生産物による劣化に考慮した材質のものが好ましい。例えば、シリコーンチューブ、テフロン(登録商標)チューブがより好ましく用いられる。
本実施態様において、圧力計20が、触媒反応管10内の圧力を測定する目的で設けられる。1MPaまでの圧力を表示し得るものが好ましい。
本実施態様において、ポンプ30が、原料(油脂および低級アルコール)および分離液の触媒反応管10への供給またはグリセリン分離槽40への流出液の供給を一定の圧力または速度で行うために備えられる。触媒反応管10内の圧力損失を考慮すると、0.4〜1.0MPa程度の最高吐出圧力を有する定量ポンプが好適である。
グリセリン分離槽40は、各触媒反応管10の間に備えられる。グリセリンの分離方法に特に制限はない。好適には、例えば図2に示すように、グリセリン分離槽40は、触媒反応管10からの流出液(脂肪酸エステル、未反応油脂、およびグリセリンを含む)を一定時間滞留させるための空間(例えば、サイトグラス内の一定の空間)を有する。グリセリン分離槽40中に流出液を滞留させることにより、流出液中に含まれる脂肪酸エステルおよび未反応油脂とグリセリンとが層分離する。脂肪酸エステルおよび未反応油脂を含む分離液はオーバーフローして、次段の触媒反応管10へと供給される。下層に存在するグリセリンは、一定時間が経過すると電磁弁の開閉に応じて下方へ放出され、受器にて回収される。この分離においては、以下で詳述するように、反応装置100中の液流速(または体積流量)の調節が重要である。
本発明の装置100では、各段の触媒反応管10の上流に低級アルコール供給口が備えられており、この供給口から低級アルコールが分離液に追加される。低級アルコールがリパーゼの活性を阻害するため、および低級アルコールの油脂に対する溶解度が非常に低いため、油脂中にアルコールの液滴が生じないように均一な状態を保つ必要がある。したがって、混合手段50は、各段の直前に供給される低級アルコールと、原料油脂または流出液とを十分に混合するために、低級アルコールの供給口と次段の触媒反応管との間に備えられる。混合手段50としては、例えば、チューブ内の充填物、静置型混合器が挙げられる。より具体的には、例えば、触媒反応管10に油脂または分離液を供給するためのチューブの内部に、ビーズなどの充填物を仕込むことによって、チューブ内を通過する油脂と低級アルコールとの混合物の混合が促進され得る。
触媒反応管10の周囲には、さらに、恒温水循環装置が備えられていることが好ましい。恒温水循環装置としては、反応装置100、特に触媒反応管10の温度を、酵素反応がより好適に実施される25℃〜45℃に維持し得るものが好ましい。あるいは、反応装置100全体または混合手段50と触媒反応管10とを恒温室に設置してもよい。
(脂肪酸エステルの生産方法)
本発明の脂肪酸エステルを連続的に生産する方法は、リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管を有する反応装置において、
(a)該触媒反応管に、原料油脂および低級アルコールを混合および撹拌して供給する工程;
(b)該原料油脂および該低級アルコールが供給された触媒反応管において、脂肪酸エステルおよびグリセリンを生成させる工程;
(c)該触媒反応管からの流出液を、グリセリン分離槽に導入し、グリセリンを回収する工程;
(d)該流出液からグリセリンが分離された分離液に、低級アルコールを追加して混合および撹拌し、次段の触媒反応管へ供給する工程;
(e)該工程(b)から(d)を最終段の触媒反応管への供給まで繰り返す工程;
(f)該最終段の触媒反応管からの流出液を、該最終段の触媒反応管の下流に備えられたグリセリン分離槽に導入してグリセリンを回収し、該流出液からグリセリンが分離された分離液を得る工程;および
(g)該工程(f)で得られた分離液から、脂肪酸エステルを回収する工程;
を含む。
本発明においては、リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管を有する反応装置として、例えば、図1に示すような反応装置100を用いて、効率的かつ連続的に脂肪酸エステルを製造することができる。すなわち、上記の反応装置100において、原料油脂および低級アルコールを十分に撹拌して触媒反応管10に供給し、該触媒反応管10中でリパーゼを作用させて脂肪酸エステルを生成させ、該触媒反応管10からの流出液をグリセリン分離槽40に導入してグリセリンを回収し、分離液をさらに次段の触媒反応管10へ低級アルコールとともに供給する。これを繰り返すことにより、最終段の触媒反応管からの分離液から、脂肪酸エステルを回収することができる。
あるいは、触媒反応管の段数が少ない場合には、最終段の触媒反応管からの分離液を原料油脂として用いて、この反応装置での反応を数回繰り返してもよい。例えば、3段の触媒反応管を備える反応装置において、この反応装置に3回繰り返して通液することによって、9段の触媒反応管を備える反応装置と同等の濃度の脂肪酸エステルを含む分離液を得ることが可能である。
この反応装置100において、反応装置100中の液流速(または体積流量)の調節が重要である。液流速が少ないと、グリセリン分離槽40における流出液からのグリセリンの分離効率が悪い。液流速は、アルコールの種類、触媒反応管10の直径や段数、原料油脂の種類などに応じて適宜決定される。本発明においては、通常、少なくとも2.15cm/min、好ましくは少なくとも4.65cm/min、より好ましくは少なくとも6.03cm/min、さらに好ましくは少なくとも6.90cm/min、よりさらに好ましくは少なくとも7.76cm/min、最も好ましくは少なくとも8.62cm/minの液流速で行われる。
低級アルコールの供給量ならびに速度は、アルコールの種類、触媒反応管10の段数、原料油脂の種類、流量などに応じて決定される。各段における低級アルコールの供給量は、原料油脂に対して、0.5〜1.0モル当量に維持することが好ましい。低級アルコールの供給量が少ないと、メチルエステルの生産性およびグリセリンの分離効率が悪くなる。一方、低級アルコールの供給量が多いと、触媒反応管10中のリパーゼの活性が阻害される恐れがある。また、低級アルコールの供給速度については、例えば、原料のトリオレインを1000ml/hで触媒反応管10へ通液させた場合、メタノールの供給速度は19.9〜39.9ml/hが好適である。低級アルコールは、チューブ内の充填物、あるいは静置型混合器などの混合手段50に通液することにより、油脂との混合を促進できる。
リパーゼにより触媒される油脂と低級アルコールとのエステル交換反応は、一般的には、5℃〜80℃、好ましくは、15℃〜50℃、より好ましくは、25℃〜45℃で行われる。反応温度は、用いる微生物または酵素により決定すればよく、例えば、耐熱性の微生物または酵素であれば、比較的高温で反応できる。
反応終了後の脂肪酸エステルは、蒸留などの当業者が通常用いる分離操作により、未反応のグリセリドおよび低級アルコールを含む反応液から分離され、回収される。こうして回収された脂肪酸エステルは、バイオディーゼル燃料として利用され得る。
実施例において使用したパックドベッドリアクター100の構成を示す模式図を、図1に示す。触媒反応管10には、ステンレスパイプ(長さ1m、内径15.7mm、体積193.6ml)を使用した。このステンレスパイプに、ノボザイム435(ノボザイム社製)を酵素充填率60%(v/v)になるように充填して、触媒反応管10を作製した。触媒反応管10は30℃で保温し、管の上部に圧力計20を設置して圧力損失を確認した。原料油脂を、定量ポンプ30を用いて触媒反応管10の上部へ供給し、触媒反応管10への供給用チューブ内部に充填物を仕込むことにより、油脂と低級アルコールとの混合を促進させた。
また、触媒反応管10の下部にグリセリン分離槽40を設置し、反応過程で副生したグリセリンをそれぞれの段毎に回収した。図2に示すように、グリセリン分離槽40において、触媒反応管10からの流出液に含まれる脂肪酸エステル、未反応油脂、およびグリセリンを、サイトグラス内の一定の空間で滞留させ、また、ここで分離された分離液(脂肪酸エステルおよび未反応油脂を含む)と、新たに追加された低級アルコールとを、混合手段50によって十分に混合しながら、次段の触媒反応管10へと供給した。
(実施例2:エステル交換反応)
白絞油500gを原料油脂とし、それぞれの段毎にメタノール9.07g(油脂に対して0.5モル当量)を添加して触媒反応管10に通液した。なお、触媒反応管10における体積流量を、250ml/h、540ml/h、または1080ml/hに設定した。この触媒反応管10における体積流量は、それぞれ2.15cm/min、4.65cm/min、および9.30cm/minの液流速に相当する。原料油脂を通液した後、グリセリン分離槽40の下部の弁を開いて各段で副生するグリセリンの重量を測定した。各段でオーバーフローする分離液から200μl採取し、脂肪酸メチルエステル濃度(含有率)を分析した。
脂肪酸メチルエステル濃度(含有率)(質量%)は、トリカプリリンを内部標準とするガスクロマトグラフィー分析によって決定した。分析条件は以下の通りである:
カラム:ZB−5HT(フェノメネクス社製、内径0.25mm、長さ15m)
カラム温度:
初期:130℃、2分
昇温:350℃、10℃/分
380℃、7℃/分
最終温度:380℃、10分
インジェクター温度:320℃
ディテクター温度:380℃
キャリアガス:ヘリウムガス(1.76ml/分)
スプリット比:1/50。
各段で得られる分離液中の脂肪酸メチルエステル含有率を図3に示す。段数を増加するにつれて流出液中のメチルエステル含有率が上昇し、9段目においてそれぞれ93.3質量%(体積流量250ml/h)、90.6質量%(540ml/h)、および84.8質量%(1080ml/h)、10段目ではそれぞれ95.3質量%(540ml/h)、88.9質量%(1080ml/h)の濃度が得られた。各段で得られる分離液中のメチルエステル濃度は、体積流量の変化、言い換えれば、触媒反応管10内の滞留時間に影響を受けたが、比較的短い滞留時間(1080ml/hで1段当たりおよそ10.8分)でも、十分に高いメチルエステル濃度を得られることが分かった。
各段の分離槽40にて回収されたグリセリンの重量(累積量)を図4に示す。500gの油脂を完全に脂肪酸メチルエステルへ変換した場合、副生するグリセリンの総量はおよそ52.04gとなる。体積流量が250ml/hの場合では、メチルエステル含有率が68質量%を超える6段目でもほとんどグリセリンを回収できなかった。これは、流出液の流速が低いため、グリセリン層が触媒反応管10内の酵素近傍に留まった状態であることを示す。体積流量が540ml/hの場合は、段数の増加とともに分離されたグリセリン重量が増加し、メチルエステル含有率が95.3質量%に達する10段目の触媒反応管10までに、46.8gのグリセリンを分離できた。これは、理論的に分離し得るグリセリン量の89.9%に相当する。さらに体積流量が1080ml/hの場合には、10段目の触媒反応管10までに51.75gのグリセリン(理論量に対して99.4%)を分離することができた。
(実施例3:反応条件の検討)
本実施例で用いたパックドベッドリアクターの段数、10段反応後の脂肪酸エステル濃度、単位反応時間および単位反応器容積当たりの生産性、分離したグリセリン重量、ならびにグリセリン量の理論量に対する割合を表1にまとめる。
次に、各段で、油脂に対して0.33モル当量のメタノールを混合させて体積流量540ml/hで通液した。この場合のメチルエステル含有率および流出グリセリン量(累積量)を、図5に示す。この実施条件では、各段におけるメチルエステルの生産性およびグリセリンの分離効率が、原料油脂に対して0.5モル当量の割合のメタノールを混合させた場合よりも劣っていた。このことから、触媒反応管へ供給するメタノール量の調節が、装置の能力に大きな影響を及ぼすことが示される。
(実施例4:2段の触媒反応管による連続生産の検討)
本実施例においては、図1に示すパックドベッドリアクター100において、触媒反応管10の段数を2段とした。まず、1段目および2段目の触媒反応管10において、油脂に対してそれぞれ0.5モル当量のメタノールを混合して、油脂を体積流量540ml/hで通液した(1サイクル目)。2段目の触媒反応管10から流出した油脂からグリセリンを分離した後、油脂に対して0.5モル当量のメタノールを混合して、再度1段目の触媒反応管10に1サイクル目と同様に通液した(2サイクル目)。同様の操作を、さらに2回繰り返した。各段で得られる分離液中の脂肪酸メチルエステル含有率を、図6に示す。
図6から明らかなように、2段の触媒反応管でメタノリシス反応を4回繰り返すことにより、純度の高い脂肪酸エステルが得られた。このように、2段の触媒反応管を備えるリアクターで連続的に繰り返して通液することにより、多段の触媒反応管を備えるリアクターを用いた場合と同様に、純度の高い脂肪酸エステルを得られることがわかった。したがって、触媒反応管の段数を少なくして、装置に対する費用を抑えることが可能であることがわかった。
Claims (11)
- 脂肪酸エステルを連続的に生産する方法であって、
リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管を有する反応装置において、
(a)該触媒反応管に、原料油脂および低級アルコールを混合および撹拌して供給する工程;
(b)該原料油脂および該低級アルコールが供給された触媒反応管において、脂肪酸エステルおよびグリセリンを生成させる工程;
(c)該触媒反応管からの流出液を、グリセリン分離槽に導入し、脂肪酸エステルおよび未反応油脂を含む分離液を連続的にオーバーフローさせ、グリセリンを層分離し、グリセリンを回収する工程;
(d)該流出液からグリセリンが分離された分離液に、低級アルコールを追加して混合および撹拌し、次段の触媒反応管へ供給する工程;
(e)該工程(b)から(d)を最終段の触媒反応管への供給まで繰り返す工程;
(f)該最終段の触媒反応管からの流出液を、該最終段の触媒反応管の下流に備えられたグリセリン分離槽に導入してグリセリンを回収し、該流出液からグリセリンが分離された分離液を得る工程;および
(g)該工程(f)で得られた分離液から、脂肪酸エステルを回収する工程;
を含む、方法。 - 前記反応装置中の液流速が、少なくとも2.15cm/minである、請求項1に記載の方法。
- 前記それぞれの触媒反応管への前記低級アルコールの供給量が、前記原料油脂に対して、0.5〜1.0モル当量である、請求項1または2に記載の方法。
- 前記触媒反応管の段が、2段から10段である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
- 前記原料油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物が生産する油脂、これらの混合油脂、またはこれらの廃油である、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
- 前記低級アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、またはn−ブタノールである、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法。
- 前記工程(f)に続いて、
(f’)前記工程(f)で得られた分離液を原料油脂として、前記工程(a)から(f)を繰り返す工程;
をさらに含む、請求項1から6のいずれかの項に記載の方法。 - 脂肪酸エステルを連続的に生産するための装置であって、
リパーゼが充填されている複数段の触媒反応管;
該触媒反応管の下流に備えられ、そして該触媒反応管からの流出液をグリセリンと脂肪酸エステルおよび未反応油脂を含む分離液とに分離し、該分離液を連続的にオーバーフローさせる、グリセリン分離槽;
該触媒反応管の上流に備えられた、低級アルコールの供給口;および
原料油脂または該分離液と低級アルコールとを混合するために、該低級アルコールの供給口と該触媒反応管との間に備えられた、混合手段;
を含み、
該各段の触媒反応管において、原料油脂または該グリセリン分離槽からの該分離液と低級アルコールとの混合物が該触媒反応管の上部から供給され、そして該触媒反応管の下部からの流出液が、該グリセリン分離槽に導入されるように構成されている、
装置。 - 前記装置中の液流速が、少なくとも2.15cm/minに調節されている、請求項8に記載の装置。
- 前記触媒反応管への前記低級アルコールの供給量が、前記原料油脂に対して、0.5〜1.0モル当量に調節されている、請求項8または9に記載の装置。
- 前記触媒反応管の段が、2段から10段である、請求項8から10のいずれかの項に記載の装置。
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