JP5557161B2 - 構造解析方法 - Google Patents
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Description
分析対象元素に関するX線吸収スペクトルを得るための標準試料を準備する。例えば、測定対象試料からマトリックスを除いたものを標準試料として利用できる。
測定対象試料と標準試料について、照射X線のエネルギーごとの蛍光X線スペクトルを求める。蛍光X線スペクトルは、蛍光X線のエネルギーと、そのエネルギーを持った蛍光X線の検出頻度(強度)と、の相関関係である。
標準試料について求めた蛍光X線スペクトルに基づいて、分析対象元素に関連する蛍光X線のエネルギーの範囲である関心領域を決定する。関心領域の決定は、コンピューターが自動で行っても良いし、作業者が行っても良い。
図5は、工程δを模式的に示す図である。図5の上段に例示されるように、測定対象試料について求めた各蛍光X線スペクトルにおいて、工程γで決定した関心領域に対応する部分(図中の斜線部分)を切り出して、図5の下段に示すように、その切り出した部分の面積と照射X線のエネルギーとの対応関係で表されるX線吸収スペクトルを求める。
工程Aは、分析対象元素に関するX線吸収スペクトルを得るための標準試料を準備する工程である。より具体的には、標準試料は、分析対象元素もしくは分析対象元素の化合物を含むが、分析対象元素のX線吸収スペクトルに重複するX線吸収スペクトルを持つ阻害元素をほぼ含まないか、全く含まない試料である。標準試料に阻害元素が含まれる場合、その阻害元素の原子数は、分析対象元素の1%以下とする。そうすることで、阻害元素のX線吸収スペクトルが、分析対象元素に関する適切なX線吸収スペクトルの把握を妨げない。例えば、GaNのマトリックス中に微量のMgを含むp型半導体が測定対象試料であれば、標準試料は、MgもしくはMg化合物(例えば、MgOなど)を含むものとする。そして、標準試料にGa(阻害元素)が含まれていたとしても、そのGaの原子数は、Mgの原子数の1%以下とする。ここで、標準試料には、分析対象元素のX線吸収スペクトルに重複しないX線吸収スペクトルを有する元素(非関心元素)を含んでいても良く、標準試料の大半が非関心元素で占められていても良い。
工程Bは、測定対象試料と同じマトリックス中に、測定対象試料に含まれる分析対象元素の0.1〜10倍の分析対象元素を含む2次試料を準備する工程である。2次試料の調整は、測定対象試料中の分析対象元素の含有量を測定した上で行うと良い。測定対象試料に含まれる分析対象元素の量(原子数)は、測定対象試料を作製する際の原料の割合から計算で求めても良いし、実際に測定対象試料をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:2次イオン質量分析法)により分析することで求めても良い。
工程Cは、標準試料についてX線吸収スペクトルを得る工程である。標準試料のX線吸収スペクトルは、後述する2次試料や測定対象試料と同様に蛍光法により得ても良いし、透過法や電子収量法により得ても良い。一般的なX線吸収スペクトルでは、横軸に照射X線のエネルギー、縦軸に測定方法に依存した任意量を設定するため、測定方法が異なればX線吸収スペクトルの縦軸の値も変化する。しかし、いずれの方法を選択しても、得られるX線吸収スペクトルの形状は近似している。
工程Dは、測定対象試料と2次試料について、照射X線のエネルギーごとの蛍光X線スペクトルを求める工程である。蛍光X線スペクトルは、既に説明したように、蛍光X線のエネルギーと、そのエネルギーを持った蛍光X線の検出頻度(強度)と、の相関関係である。
工程Eは、工程Dにおいて求めた2次試料に関する各蛍光X線スペクトルにおいて、暫定的に決定した関心領域に対応する部分を切り出して、その切り出した領域の面積と照射X線のエネルギーとの対応関係で表されるX線吸収スペクトルである2次スペクトルを求める工程である。工程Eではさらに、上記関心領域を徐々に狭め、その狭めた関心領域に対応する2次スペクトルを複数求めておく。
工程Fは、工程Eで得られた複数の2次スペクトルのうち、工程Cで得られた標準スペクトルの形状に類似する形状を有する2次スペクトルを決定する工程である。この2次スペクトルの決定は、あくまで標準スペクトルと2次スペクトルの形状を比較することで行われる。従って、標準スペクトルが蛍光法で得られたものであっても、透過法や電子収量法で得られたものであっても、蛍光法で得られた2次スペクトルと比較することができる。また、工程Fがスペクトルの形状の類似性を比較する工程であるという観点から、2次試料におけるMg含有量が測定対象試料よりも低かったとしても、その2次試料から得られる複数の2次スペクトルの中から標準スペクトルに類似するものを選抜することはできる。このような2次スペクトルの決定は、人為的に行っても良いし、コンピューターが自動で行っても良い。
工程Gは、工程Dにおいて求めた測定対象試料に関する各蛍光X線スペクトルにおいて、工程Fで決定した2次スペクトルの関心領域と同一の関心領域に対応する部分を切り出して、その切り出し部分の面積と、照射X線のエネルギーとの対応関係で表されるX線吸収スペクトルである目的スペクトルを求める工程である。上述したように、工程Fで決定した2次スペクトルの関心領域は、マトリックスの影響を極力排除できる関心領域である。従って、工程Gで求めた目的スペクトルは、マトリックス中に極めて微量含まれる分析対象元素の原子構造に関する情報を正確に得ることができるX線吸収スペクトルであるといえる。
以下、本発明構造解析方法を用いてp型半導体におけるMgのX線吸収スペクトルを求める手法を図1〜3に基づいて説明する。この構造解析方法は、作製したp型半導体におけるMgの状態を解析することで、より品質に優れるp型半導体を作製する参考とするために行うものである。
まず、標準試料として、p型半導体の分析対象元素であるMgの化合物であるMgOの粉体(薄板でも良い)を準備した。標準試料の準備量は、特に限定されない。なお、標準試料は、Mgに関する適切なX線吸収スペクトルを得ることを妨げる量のGaを含まないMg化合物であれば何でも良い。具体的には、標準試料におけるGaの原子数が、Mgの原子数の1%以下であれば良い。実質的にMg化合物からなるものが標準試料として好ましい。
2次試料として、GaNとMgOとの粉体混合物を準備した。この2次試料におけるMgの含有量は、1.26×1020(Mg原子数/粉体混合体の体積cm3)とした。2次試料におけるMg含有量は、p型半導体におけるMg含有量の0.1〜10倍の範囲である。下限値を下回ると、2次試料から適切なスペクトルを得るために必要な時間が長くなってしまう。また、上限値を超えると、2次試料から得られるスペクトルを用いて適切な関心領域を設定することが難しくなる。いずれにせよ、2次試料を準備した意味がなくなる恐れがある。2次試料における好ましいMg含有量は、p型半導体におけるMg含有量の0.8〜1.2倍、より好ましくは同程度である。
本例では、標準試料について蛍光法によりX線吸収スペクトルを求めた。具体的には、まず標準試料に、X線のエネルギーを変化させながらX線を照射した。標準試料からはX線のエネルギーに対応した蛍光X線が放出されるので、その蛍光X線を、エネルギー分散型検出器で検出した。検出器は、蛍光X線の検出頻度(強度)も計測する。
次いで、測定対象試料と2次試料について、標準試料と同様に蛍光法により測定データを取得し、その測定データに基づいて測定対象試料と2次試料の蛍光X線スペクトルを得た。
工程Dで求めた2次試料に関する複数の蛍光X線スペクトルから、工程Cで暫定的に定めた関心領域を用いて2次試料のX線吸収スペクトル(2次スペクトル)を求めた。具体的には、まず、図2上段に例示する2次試料の各蛍光X線スペクトルについて450〜600channelに相当する部分の面積(斜線部)を算出した。そして、図2下段に示すように、横軸を照射X線のエネルギー(eV)、縦軸を450〜600channelに対応する部分の面積(蛍光収量)とした2次試料の2次スペクトルを作成した。さらに、この工程Eでは、図2上段の白抜き矢印に示すように、channel数を切り上げることで関心領域を狭めていき、その狭めた関心領域に応じた2次スペクトルを作成した。関心領域の下限値は、450,460,470,480,490,500channelの6つ、上限値は600channelに固定した。つまり、作成した2次スペクトルは全部で6つである。
次に、工程Eで得た6つの2次スペクトルと、工程Cで得た標準スペクトルとを比較し、6つの2次スペクトルのなかから最も標準スペクトルに類似する形状のものを決定した。標準スペクトルと、関心領域の下限値が450,470,500channelである3つの2次スペクトルとの比較状態を図3に示す。この図3から明らかなように、500channelを下限値とする2次スペクトルが、最も標準スペクトルの形状を類似するスペクトルであることがわかった。特に、標準スペクトルにおける1300〜1310eVにかけての傾斜や、1310eV付近の谷の状態を、500channelを下限値とする2次スペクトルが良く再現していることがわかる。
最後に、工程Fで決定した2次スペクトルの関心領域を、測定対象試料の関心領域として設定し、測定対象試料であるp型半導体のX線吸収スペクトル(目的スペクトル)を作成する。目的スペクトルの作成手順は、図2を参照した工程Eの2次スペクトルの作成と同様である。
上記実施例において、2次スペクトルと目的スペクトルの作成の際に、差分スペクトルを用いても良い。差分スペクトルを用いることで実施例の手法よりも優れたMgの原子構造に関する情報を得ることができる目的スペクトルを得られる可能性がある。以下、図4を参照して、差分スペクトルの作成方法の一例を説明する。
Claims (4)
- マトリックス中に微量の分析対象元素を含む測定対象試料に、X線のエネルギーを変化させながらX線を照射し、その照射X線のエネルギーに応じて測定対象試料から放出される蛍光X線をエネルギー分散型検出器で検出することで得られるX線吸収スペクトルから前記分析対象元素の原子構造に関する情報を解析する構造解析方法であって、
前記分析対象元素に関するX線吸収スペクトルを得るための標準試料を準備する工程Aと、
前記測定対象試料に含まれる分析対象元素の0.1〜10倍の分析対象元素を前記マトリックス中に含む2次試料を準備する工程Bと、
前記標準試料についてX線吸収スペクトルである標準スペクトルを求める工程Cと、
照射X線のエネルギーに対応した前記2次試料および測定対象試料に関する複数の蛍光X線スペクトルを求める工程Dと、
工程Dにおいて求めた2次試料に関する各蛍光X線スペクトルにおいて、暫定的に決定した関心領域に対応する部分を切り出して、その切り出した領域の面積と照射X線のエネルギーとの対応関係で表されるX線吸収スペクトルである2次スペクトルを求めることを、前記関心領域を徐々に狭めながら繰り返す工程Eと、
工程Eで得られた複数の2次スペクトルのうち、工程Cで得られた標準スペクトルの形状に類似する形状を有する2次スペクトルを決定する工程Fと、
工程Dにおいて求めた測定対象試料に関する各蛍光X線スペクトルにおいて、工程Fで決定した2次スペクトルの関心領域と同一の関心領域に対応する部分を切り出して、その切り出し部分の面積と、照射X線のエネルギーとの対応関係で表される目的スペクトルを求める工程Gと、
を備える構造解析方法。 - 前記分析対象元素がMgであり、かつ、
前記測定対象試料のマトリックスにGaが含まれている請求項1に記載の構造解析方法。 - 前記測定対象試料のマトリックスに含まれるMgは、1019(原子数/cm3)オーダー以下である請求項2に記載の構造解析方法。
- 前記2次スペクトルおよび目的スペクトルは、照射X線の各エネルギーに応じた蛍光X線スペクトルから、照射X線のエネルギーが特定値のときの蛍光X線スペクトルを引いた差分スペクトルから得る請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の構造解析方法。
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