しかしながら、特許文献1に開示された技術のように位相差板を傾斜させて配置する場合、液晶分子の配向方向に応じて、位相差板を傾斜させる必要がある。この場合、プロジェクタの内部において、例えば空気の循環による冷却効果の観点などによって、位相差板を傾斜させるための空間が限定されているため、コントラストを高めることが困難になる可能性があるという技術的な問題点がある。或いは、この位相差板を傾斜させる機構が複雑になってしまい、組み立て工程において、位相差板を傾斜させる調整が技術的に困難となってしまう。
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、比較的簡単な構成により高コントラストの画像を表示可能である液晶装置、該液晶装置を備えるプロジェクタ、該液晶装置の光学補償方法、及び該液晶装置に用いられる位相差板を提供することを課題とする。
(液晶装置)
本発明の一態様の液晶装置は、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルトを付与された液晶分子を含む垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、第1屈折率異方性を保持すると共に第1屈折率異方性媒質の第1光軸が厚さ方向に沿った第1位相差板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板及び(ii)第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性媒質の第2光軸が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1基板の上に斜方蒸着された蒸着膜を有する第2位相差板と、を備え、前記第2位相差板は、前記蒸着膜を挟んで前記第1基板に対向するように配置された第2基板を含み、前記第2位相差板は、前記第1位相差板とは独立に、前記第2位相差板の法線方向に対して回転可能であることを特徴とする。
上記の本発明に係る液晶装置は、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルトを付与された液晶分子を含む垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、第1屈折率異方性を保持すると共に第1屈折率異方性媒質の第1光軸が厚さ方向に沿った第1位相差板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板及び(ii)第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性媒質の第2光軸が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1基板の上に斜方蒸着された蒸着膜を有する第2位相差板と、を備え、前記第2位相差板は、前記蒸着膜を挟んで前記第1基板に対向するように配置された第2基板を含み、前記第2位相差板は、前記第2位相差板の法線方向に対して回転可能であることを特徴とする。
上記の本発明に係る液晶装置は、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルト(即ち、法線方向からの傾斜角度)を付与された液晶分子からなる垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板及び(ii)屈折率異方性を保持すると共に前記屈折率異方性の光軸(例えば主屈折率nx、但し、nx>ny>nz)が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1基板上に斜方蒸着された蒸着膜を有する位相差板とを備え、前記位相差板は、前記位相差板の法線方向を回転軸にして回転可能である。
本発明の第1の液晶装置によれば、例えば、光源から出射された光は、例えば反射ミラー及びダイクロイックミラー等の色分離光学系によって赤色光、緑色光及び青色光に色分離される。液晶パネルは、例えば赤色光、緑色光及び青色光の各々を変調するライトバルブとして用いられる。液晶パネルは、例えばデータ信号(或いは画像信号)に応じて各画素の液晶分子の配向状態が規制され、その表示領域にデータ信号に応じた画像を表示する。各液晶パネルによって表示された画像は、例えばダイクロイックプリズム等の色合成光学系により合成され、投射レンズを介して投写画像としてスクリーン等の投写面に投写される。
液晶パネルは、一対の基板間に液晶が挟持されてなる。液晶は、典型的には、垂直配向型の液晶、即ちVA(VerticalAlignment)型液晶である。一対の基板の各々には、配向膜が設けられ、該配向膜によって、液晶を構成する液晶分子は、一定の方向に、一定の角度だけ立ち上がるプレチルトが付与される。例えば液晶がVA型液晶の場合、液晶分子は、一対の基板の基板面の法線に対して一定の方向にプレチルト角だけ傾いて配向する。この液晶分子は、液晶パネルに電圧が印加されない場合、プレチルトを維持すると共に、液晶パネルに電圧が印加される場合、液晶パネルの基板の平面方向に近づくように傾斜する。これにより、例えば垂直配向型の液晶や、ノーマリーブラック方式の液晶を簡便に実現できる。尚、プレチルトを付与された液晶分子の長軸と一対の基板の一辺とは、典型的には、一対の基板の法線方向から見て、互いに45度の角度をなしてよい。液晶パネルは、一対の偏光板の間に挟み込まれるように配置される。
特に、第1位相差板は、一対の偏光板の間に配置されており、第1屈折率異方性を保持すると共に第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿っている。加えて、第2位相差板は、一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板及び(ii)第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性の第2光軸がプレチルトによる光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように第1基板上に斜方蒸着された蒸着膜を有する。ここに本発明に係る「光の特性変化」とは、進行方向の変化、偏光状態の変化、周波数や位相の変化などの光の基本的な特性パラメータのうちの少なくとも一つが変化することを意味する。また、本発明に係る「打ち消す方向」とは、理想的には必要且つ十分に打ち消すことができる方向を意味するが、このような理想的な方向を成分として含む方向を意味する。即ち、理想的には最も打ち消す能力が高い方向、典型的には第1基板の法線方向から平面的に見て、屈折率異方性の屈折率が最大である光軸が、プレチルトが付与された液晶分子の長軸方向と交わる方向を意味する。典型的には、位相差板の蒸着膜は、無機材料を含んで構成されることが好ましい。これにより、光の照射やそれに伴う温度上昇により位相差板が劣化するのを効果的に防止でき、信頼性に優れた液晶装置を構成することができる。
典型的には、第2位相差板の蒸着膜を構成する屈折率異方性媒質の第2光軸が第1基板の法線方向から見てプレチルトが付与された液晶分子の長軸方向に交わる所定方向に沿うように、屈折率異方性媒質は蒸着膜として、第1基板に斜方蒸着されている。ここに、所定方向とは、蒸着膜の第2光軸と液晶分子の長軸方向とが交わる当該蒸着膜の第2光軸が延びる方向を意味する。具体的には、この蒸着膜の第2光軸が延びる方向である所定方向は、例えばコントラストや視野角などの液晶装置の光学的な特性のレベルが、例えば最大値等の所望の値になるように、液晶分子の長軸方向を基準にして、実験的、理論的、経験的、シミュレーション等によって個別具体的に規定することができる。
加えて、典型的には、上述した蒸着膜の第2光軸が第1基板と所定角度で交わるように、屈折率異方性媒質は蒸着膜として第1基板に斜方蒸着されている。ここに、所定角度とは、蒸着膜の第2光軸と、第1基板とが交わる角度を意味する。この所定角度は、第1基板の法線と蒸着膜の屈折率異方性媒質の主屈折率に対応される光軸と間の角度を、90度から差し引いた値と言い換えることができる。或いは、この所定角度は、蒸着膜の屈折率異方性媒質の主屈折率に対応される光軸と、上述した所定方向との間の角度と言い換えることができる。具体的には、この蒸着膜の屈折率異方性媒質の第2光軸と第1基板とが交わる角度である所定角度は、例えばコントラストや視野角などの液晶装置の光学的な特性のレベルが、例えば最大値等の所望の値になるように、実験的、理論的、経験的、シミュレーション等によって個別具体的に規定することができる。
これにより、第2位相差板を構成する蒸着膜の第2光軸、言い換えると、屈折率異方性媒質の主屈折率nxの光軸が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子の長軸方向に交わる所定方向に沿うので、第1基板の平面方向において、第2位相差板を構成する蒸着膜の第2光軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。加えて、第2位相差板の光軸が、第1基板と蒸着角度で交わるので、第1基板の垂直面方向において、第2位相差板の第2光軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
更に、加えて、第1位相差板の第1光軸、言い換えると、屈折率異方性媒質の主屈折率nx’(又はny’)の光軸が延びる方向が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子の長軸方向に交わるので、第1位相差板の平面方向において、第1位相差板の光軸の短軸(即ち、本発明に係る第1光軸の一具体例)及び長軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
即ち、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、第2位相差板を構成する蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸と、第1位相差板によって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1位相差板と第2位相差板を構成する蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。
従って、第1及び第2位相差板によって液晶において生じる位相差(言い換えれば、複屈折効果)を打ち消す(即ち、補償する)ことができる。この結果、当該プロジェクタの動作時に、光源から出射された光が例えばプレチルト角だけ傾斜した液晶分子から構成された液晶を通過することで発生する光の位相差を、第1及び第2位相差板によって補償することができる。従って、液晶パネルを通過した光が出射側の偏光板に対し、位相がずれた状態で入射するのを防止することができる。この結果、例えば出射側の偏光板において、本来通過させないはずの光が漏れる可能性は小さくなり、コントラストの低下や視野角の縮小を防止することができる。
ここで、仮に、例えば1軸性の屈折率異方性を有する位相差板などの光軸の方向が厚さ方向に沿っている位相差板を用い、この位相差板を傾斜させることによって、液晶分子の光学的な異方性を補償する場合、液晶装置の内部において、例えば空気の循環による冷却効果の観点などによって、位相差板を傾斜させるための空間が限定されているためコントラストの低下を適切に防止することが技術的に困難となってしまう。或いは、この位相差板を傾斜させる機構が複雑になってしまい、組み立て工程において、位相差板を傾斜させる調整が技術的に困難となってしまう。
しかるに、本発明では特に、上述したように、第1位相差板の第1光軸は、液晶分子の光学的な異方性を補償するように、配置されている。また特に、上述したように、第2位相差板を構成する蒸着膜は、第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性の第2光軸がプレチルトによる光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように第1基板上に斜方蒸着されている。典型的には、蒸着膜の第2光軸は、屈折率異方性媒質の斜方蒸着によって、液晶分子の光学的な異方性を補償するように、所定方向、所謂、蒸着方向に向かって、第1基板と所定角度、所謂、蒸着角度で交わる。
従って、蒸着膜の斜方蒸着によって、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を容易に且つ高精度に補償することができる。
これにより、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、第2位相差板を構成する蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸と、第1位相差板によって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1位相差板と蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。また、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を補償するために、第1及び第2位相差板自体を傾斜させる必要が殆ど又は完全にないので、組み立て工程において、第1及び第2位相差板を傾斜させる調整工程を省略することができ、簡便且つ低コストに、液晶分子の光学的な異方性を補償し、コントラストを高めることができる。この結果、本発明に係る液晶装置によれば、液晶において生じる位相差を位相差板によって補償する効果を高めることができ、コントラストを高めることが可能となる。
以上説明したように、本発明の第1の液晶装置によれば、蒸着膜の斜方蒸着によって、第2位相差板における屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することに加えて、第1位相差板の第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿っていることで、液晶パネルにおいて生じる位相差を位相差板によって確実に補償することができる。この結果、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
加えて、第2位相差板と、第1位相差板とを別の異なる光学的な位置に配置させたり、第1位相差板を一時的に取り外したりできるので、光学調整を簡便に行うことができる。加えて、第2位相差板と、第1位相差板とにおいて、製造方法や材質を異ならせることができるので、光学調整をより低コストで行うことができる。
本発明の液晶装置の一の態様では、前記第1位相差板の厚さ及び前記第1位相差板の厚さ方向の屈折率は、前記一対の偏光板のうち前記光の出射側に位置する一の偏光板の真正面から見た場合を0度とした際の視線の角度を示す極角が30度である場合における位相差が20(nm:nanometer)以下(例えば10から20(nm))であるように設定される。
この態様によれば、第1位相差板に起因される位相差を高精度に調節することができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第2屈折率異方性は、二軸性である。
この態様によれば、蒸着膜の斜方蒸着によって、第2位相差板において、二軸性の第2屈折率異方性の第2光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶分子の長軸方向と直交している方向の成分をより大きくさせることができる。この結果、液晶分子と第2位相差板との両者によって形成される屈折率楕円体を屈折率球体へ3次元的に的確に近づけることができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第2屈折率異方性は、前記第2光軸をX軸とした場合、X軸方向の屈折率(nx)はY軸方向の屈折率(ny)より大きく、且つ、前記Y軸方向の屈折率はZ軸方向の屈折率(nz)より大きいという大小関係を有する。
この態様によれば、蒸着膜の斜方蒸着によって、第2位相差板において、第2屈折率異方性のX軸方向の光軸が傾斜する方向、及び、第2屈折率異方性のX軸方向の光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶分子の長軸方向と直交している方向の成分をより大きくさせることができる。この結果、液晶分子と第2位相差板との両者によって形成される屈折率楕円体を屈折率球体へ3次元的に的確に近づけることができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第2位相差板は、前記第1基板が設けられた側を前記第1基板が設けられない側と比較して、前記液晶パネルに近づけるように配置される。
この態様によれば、第2位相差板において、光の入射側を第1基板が設けられた側にさせるのか否か、第2位相差板を液晶パネルの入射側又は出射側に配置させるのかによって、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を容易に且つ高精度に補償することができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第2位相差板は、前記第1基板が設けられた側を前記第1基板が設けられない側と比較して、前記一対の偏光板のいずれか一方に近づけるように配置される。
この態様によれば、第2位相差板において、光の入射側を第1基板が設けられた側にさせるのか否か、第2位相差板を液晶パネルの入射側又は出射側に配置させるのかによって、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の屈折率異方性の光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を容易に且つ高精度に補償することができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第1位相差板は、前記第2位相差板と比較して、前記液晶パネルから遠い位置に配置される。
この態様によれば、一般的に、例えばCプレート等の第1位相差板は、その製造工程において、微小な気泡が発生し、第1位相差板内に大なり小なり含まれてしまう。これに対して、この態様によれば、第1位相差板を、第2位相差板と比較して、液晶パネルから最も離れた距離に配置させる。これにより、第1位相差板に含まれる気泡に合焦点する度合いを顕著に低減させることができる。これにより、第1位相差板に含まれる気泡が投射され投射映像に悪影響を及ぼすことを効果的に抑制することができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記一対の偏光板の一対の透過軸は、互いに直交すると共に、前記第1基板の法線方向から見て、前記プレチルトを付与された液晶分子の長軸方向と45度の角度を夫々なし、前記第2位相差板では、前記第2光軸が前記一対の透過軸のいずれか一方の方向に沿う。
この態様によれば、第2位相差板をより簡便に液晶装置に組み込むことが可能となる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記蒸着膜は、無機材料を含んで構成される。
この態様によれば、例えばTa2O5等の無機材料によって、光の照射やそれに伴う温度上昇により第2位相差板が劣化するのを効果的に防止でき、信頼性に優れた液晶装置を構成することができる。
本発明の第2の液晶装置は上記課題を解決するために、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルト(即ち、法線方向からの傾斜角度)を付与された液晶分子からなる垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板、(ii)第1屈折率異方性を保持すると共に前記第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿うように前記第1基板上に垂直蒸着された第1蒸着膜及び(iii)第2屈折率異方性を保持すると共に前記第2屈折率異方性の第2光軸(例えば主屈折率nx、但し、nx>ny>nz)が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1蒸着膜上に斜方蒸着された第2蒸着膜を有する位相差板とを備える。
本発明の第2の液晶装置によれば、上述した本発明の第1の液晶装置と概ね同様にして、例えば、光源から出射された光は、例えば反射ミラー及びダイクロイックミラー等の色分離光学系によって赤色光、緑色光及び青色光に色分離される。液晶パネルは、例えば赤色光、緑色光及び青色光の各々を変調するライトバルブとして用いられる。液晶パネルは、例えばデータ信号(或いは画像信号)に応じて各画素の液晶分子の配向状態が規制され、その表示領域にデータ信号に応じた画像を表示する。各液晶パネルによって表示された画像は、例えばダイクロイックプリズム等の色合成光学系により合成され、投射レンズを介して投写画像としてスクリーン等の投写面に投写される。
特に、位相差板を構成する第1蒸着膜は、第1屈折率異方性を保持すると共に第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿うように第1基板上に垂直蒸着されている。加えて、位相差板を構成する第2蒸着膜は、第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性の第2光軸がプレチルトによる光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように第1蒸着膜上に斜方蒸着されている。
と共に、位相差板は、一対の偏光板の間に配置されている。より具体的には、位相差板は、一対の偏光板のうち一方の偏光板と液晶パネルとの間、或いは、一対の偏光板のうち他方の偏光板と液晶パネルとの間に配置される。言い換えれば、一対の偏光板間であって、液晶パネルに対して光が入射される側或いは光が出射される側に設けられる。
典型的には、位相差板の第2蒸着膜を構成する屈折率異方性媒質の第2光軸が第1蒸着膜の法線方向から見てプレチルトが付与された液晶分子の長軸方向に交わる所定方向に沿うように、屈折率異方性媒質は第2蒸着膜として、第1蒸着膜に斜方蒸着されている。
加えて、典型的には、上述した第2蒸着膜の第2光軸が第1基板と所定角度で交わるように、屈折率異方性媒質は第2蒸着膜として第1蒸着膜に斜方蒸着されている。
これにより、位相差板を構成する第2蒸着膜の第2光軸、言い換えると、屈折率異方性媒質の主屈折率nxの光軸が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子の長軸方向に交わる所定方向に沿うので、第1蒸着膜(又は第1基板)の平面方向において、位相差板を構成する第2蒸着膜の第2光軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。加えて、位相差板の光軸が、第1蒸着膜(又は第1基板)と蒸着角度で交わるので、第1蒸着膜の垂直面方向において、位相差板の第2光軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
更に、加えて、位相差板を構成する第1蒸着膜の第1光軸、言い換えると、屈折率異方性媒質の主屈折率nx’(又はny’)の光軸が延びる方向が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子の長軸方向に交わるので、第1蒸着膜(又は第1基板)の平面方向において、位相差板を構成する第1蒸着膜の光軸の短軸(即ち、本発明に係る第1光軸の一具体例)及び長軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
即ち、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板を構成する第2蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板を構成する第1蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1蒸着膜と第2蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。
従って、位相差板によって液晶において生じる位相差(言い換えれば、複屈折効果)を打ち消す(即ち、補償する)ことができる。この結果、当該プロジェクタの動作時に、光源から出射された光が例えばプレチルト角だけ傾斜した液晶分子から構成された液晶を通過することで発生する光の位相差を、位相差板によって補償することができる。従って、液晶パネルを通過した光が出射側の偏光板に対し、位相がずれた状態で入射するのを防止することができる。この結果、例えば出射側の偏光板において、本来通過させないはずの光が漏れる可能性は小さくなり、コントラストの低下や視野角の縮小を防止することができる。
ここで、仮に、例えば1軸性の屈折率異方性を有する位相差板などの光軸の方向が厚さ方向に沿っている位相差板を用い、この位相差板を傾斜させることによって、液晶分子の光学的な異方性を補償する場合、液晶装置の内部において、例えば空気の循環による冷却効果の観点などによって、位相差板を傾斜させるための空間が限定されているためコントラストの低下を適切に防止することが技術的に困難となってしまう。或いは、この位相差板を傾斜させる機構が複雑になってしまい、組み立て工程において、位相差板を傾斜させる調整が技術的に困難となってしまう。
しかるに、本発明では特に、上述したように、位相差板を構成する第1蒸着膜の第1光軸は、液晶分子の光学的な異方性を補償するように、第1基板に垂直蒸着している。また特に、上述したように、位相差板を構成する第2蒸着膜は、第2屈折率異方性を保持すると共に第2屈折率異方性の第2光軸がプレチルトによる光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように第1基板上に斜方蒸着されている。典型的には、第2蒸着膜の第2光軸は、屈折率異方性媒質の斜方蒸着によって、液晶分子の光学的な異方性を補償するように、所定方向、所謂、蒸着方向に向かって、第1基板と所定角度、所謂、蒸着角度で交わる。
従って、第2蒸着膜の斜方蒸着によって、位相差板の屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、位相差板の屈折率異方性の光軸が第1基板と交わる角度を調整することで、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を容易に且つ高精度に補償することができる。
これにより、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板を構成する第2蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板を構成する第1蒸着膜によって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1蒸着膜と第2蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。また、液晶パネルの液晶分子の光学的な異方性を補償するために、位相差板自体を傾斜させる必要が殆ど又は完全にないので、組み立て工程において、位相差板を傾斜させる調整工程を省略することができ、簡便且つ低コストに、液晶分子の光学的な異方性を補償し、コントラストを高めることができる。この結果、本発明に係る液晶装置によれば、液晶において生じる位相差を位相差板によって補償する効果を高めることができ、コントラストを高めることが可能となる。
以上説明したように、本発明の第1の液晶装置によれば、第2蒸着膜の斜方蒸着によって、位相差板における屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することに加えて、位相差板を構成する第1蒸着膜が垂直蒸着されることで、液晶パネルにおいて生じる位相差を位相差板によって確実に補償することができる。この結果、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
尚、本発明の第2の液晶装置においても、上述した本発明の第1の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。
(プロジェクタ)
本発明のプロジェクタは上記課題を解決するために、上述した本発明の第1の液晶装置(但し、各種の態様を含む)、又は第2の液晶装置(但し、各種の態様を含む)と、前記光を出射する光源と、前記変調された光を投射する投射光学系とを備えることを特徴とするプロジェクタ。
本発明のプロジェクタによれば、光源から出射された光は、例えば反射ミラー及びダイクロイックミラー等の色分離光学系によって赤色光、緑色光及び青色光に色分離される。上述した液晶パネルは、例えば赤色光、緑色光及び青色光の各々を変調するライトバルブとして用いられる。液晶パネルは、例えばデータ信号(或いは画像信号)に応じて各画素の液晶分子の配向状態が規制され、その表示領域にデータ信号に応じた画像を表示する。各液晶パネルによって表示された画像は、投射光学系において、例えばダイクロイックプリズム等の色合成光学系により合成され、投射レンズを介して投写画像としてスクリーン等の投写面に投写される。
上述した本発明の第1の液晶装置と概ね同様にして、蒸着膜の斜方蒸着によって、第2位相差板における屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、第2位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することに加えて、第1位相差板の第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿っていることで、液晶パネルにおいて生じる位相差を位相差板によって確実に補償することができる。この結果、本発明のプロジェクタにおいて、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
加えて、第2位相差板と、第1位相差板とを別の異なる光学的な位置に配置させたり、第1位相差板を一時的に取り外したりできるので、光学調整を簡便に行うことができる。加えて、第2位相差板と、第1位相差板とにおいて、製造方法や材質を異ならせることができるので、光学調整をより低コストで行うことができる。
或いは、上述した本発明の第2の液晶装置と概ね同様にして、第2蒸着膜の斜方蒸着によって、位相差板における屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することに加えて、位相差板を構成する第1蒸着膜が垂直蒸着されることで、液晶パネルにおいて生じる位相差を位相差板によって確実に補償することができる。この結果、本発明のプロジェクタにおいて、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
尚、本発明のプロジェクタにおいても、上述した本発明の第1の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。或いは、本発明のプロジェクタにおいても、上述した本発明の第2の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。
(液晶装置の光学補償方法)
本発明の第1の液晶装置の光学補償方法は上記課題を解決するために、上述した本発明の液晶装置(但し、各種の態様を含む)における光学補償を行う光学補償方法であって、前記第2位相差板を、前記第2位相差板の法線方向を回転軸にして、回転させる第1光学調整ステップと、前記一対の偏光板の少なくとも一方を、前記法線方向を回転軸にして、回転させる第2光学調整ステップとを備える。
本発明の第1の液晶装置の光学補償方法によれば、第1光学調整ステップにおいて、上述した本発明の第1の液晶装置に、光源、偏光板及び第2位相差板を組み込む工程において、第2位相差板を光が入射する入射方向である液晶パネルの法線方向を回転軸として回転させる。これにより、第2位相差板の光軸と、液晶分子の長軸方向との相対的な位置関係を調整し、より高いコントラストを実現可能である。加えて、第2位相差板の正面位相差を調節することで、第2位相差板の回転角度を所定範囲にあるように制限し、ひいては、第2位相差板を制限された所定範囲内で回転させるので、より簡便にコントラストを調節することができる。
第2光学調整ステップにおいて、上述した本発明の第1の液晶装置に、光源、偏光板及び位相差板を組み込む工程において、一対の偏光板を、第2位相差板の法線方向を回転軸にして、回転させる。これにより、例えば垂直配向型の液晶や、ノーマリーブラック方式の液晶を簡便に実現できる。
尚、本発明の第1の液晶装置の光学補償方法においても、上述した本発明の第1の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。
本発明の第2の液晶装置の光学補償方法は上記課題を解決するために、上述した本発明の第2の液晶装置(但し、各種の態様を含む)における光学補償を行う光学補償方法であって、前記位相差板を、前記位相差板の法線方向を回転軸にして、回転させる第1光学調整ステップと、前記一対の偏光板の少なくとも一方を、前記法線方向を回転軸にして、回転させる第2光学調整ステップとを備える。
本発明の第2の液晶装置の光学補償方法によれば、第1光学調整ステップにおいて、上述した本発明の第2の液晶装置に、光源、偏光板及び位相差板を組み込む工程において、位相差板を光が入射する入射方向である液晶パネルの法線方向を回転軸として回転させる。これにより、位相差板の光軸と、液晶分子の長軸方向との相対的な位置関係を調整し、より高いコントラストを実現可能である。加えて、位相差板の正面位相差を調節することで、位相差板の回転角度を所定範囲にあるように制限し、ひいては、位相差板を制限された所定範囲内で回転させるので、より簡便にコントラストを調節することができる。
第2光学調整ステップにおいて、上述した本発明の液晶装置に、光源、偏光板及び位相差板を組み込む工程において、一対の偏光板を、位相差板の法線方向を回転軸にして、回転させる。これにより、例えば垂直配向型の液晶や、ノーマリーブラック方式の液晶を簡便に実現できる。
尚、本発明の第2の液晶装置の光学補償方法においても、上述した本発明の第2の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。
(位相差板)
本発明の位相差板は上記課題を解決するために、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルトを付与された液晶分子からなる垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と共に用いられ、前記一対の偏光板の間に配置される位相差板であって、(i)第1基板と、(ii)第1屈折率異方性を保持すると共に前記第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿うように前記第1基板上に垂直蒸着された第1蒸着膜と、(iii)第2屈折率異方性を保持すると共に前記第2屈折率異方性の第2光軸が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1蒸着膜上に斜方蒸着された第2蒸着膜とを有する。
本発明の位相差板によれば、上述した本発明の第1の液晶装置と概ね同様にして、第2蒸着膜の斜方蒸着によって、位相差板における屈折率異方性の光軸が傾斜する方向、及び、位相差板の第2屈折率異方性の第2光軸が第1基板と交わる角度を調整することに加えて、位相差板を構成する第1蒸着膜が垂直蒸着されることで、液晶パネルにおいて生じる位相差を位相差板によって確実に補償することができる。この結果、本発明の第1のプロジェクタにおいて、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
尚、本発明の位相差板においても、上述した本発明の第1の液晶装置についての各種態様と同様の態様を適宜採ることが可能である。
本発明の第3の液晶装置は上記課題を解決するために、配向膜を夫々有する一対の基板の間に、前記配向膜によってプレチルトを付与された液晶分子からなる垂直配向型の液晶が挟持されてなり、光を変調する液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで配置された一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に配置されており、(i)第1基板、(ii)第1屈折率異方性を保持すると共に前記第1屈折率異方性の第1光軸が厚さ方向に沿うように前記第1基板の一方側に垂直蒸着された第1蒸着膜及び(iii)第2屈折率異方性を保持すると共に前記第2屈折率異方性の第2光軸が前記プレチルトによる前記光の特性変化を打ち消す方向に傾斜するように前記第1基板の他方側に斜方蒸着された第2蒸着膜を有する位相差板とを備える。
仮に、例えば、Cプレート等の第1蒸着膜を、斜方蒸着された第2蒸着膜上にスパッタリング手法によって形成した場合、或いは、第2蒸着膜を、Cプレート等の第1蒸着膜上に斜方蒸着手法によって形成した場合、この形成処理の際に水分が第1蒸着膜に混入してしまい、この第1蒸着膜の品質が低下してしまうという技術的な問題点が生じる。
これに対して、本発明の第3の液晶装置によれば、例えば、Cプレート等の第1蒸着膜を第1基板の一方の面に形成させると共に、第2蒸着膜1503を第1基板の他方の面に形成させる。これにより、Cプレート等の第1蒸着膜をスパッタリング手法によって形成する際に、水分が第1蒸着膜に混入してしまう度合いを軽減させることができるので、この第1蒸着膜の品質をより向上させることができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第2蒸着膜の膜厚に加えて又は代えて前記第2蒸着膜が斜方蒸着された角度である蒸着角度は、(i)前記位相差板における前記光の出射側から見て正面方向の位相差である正面位相差が第1所定範囲内にあるように設定されることに加えて、(ii)前記位相差板の法線方向と異なると共に前記蒸着膜が斜方蒸着される方向である蒸着方向に沿った第1方向から、前記光が入射する場合に発生する第1位相差と、前記法線方向を基準にして前記第1方向と対称な方向である第2方向から、前記光が入射する場合に発生する第2位相差との比が第2所定範囲内にあるように設定される。
この態様によれば、蒸着膜の膜厚に加えて又は代えて蒸着膜が斜方蒸着された角度である蒸着角度は、(i)位相差板における光の出射側から見て正面方向の位相差である正面位相差が第1所定範囲内にあるように設定される。このことに加えて、蒸着膜の膜厚に加えて又は代えて蒸着角度は、(ii)位相差板の法線方向と異なると共に蒸着膜が斜方蒸着される方向である蒸着方向に沿った第1方向から、光が入射する場合に発生する第1位相差と、法線方向を基準にして第1方向と対称な方向である第2方向に沿って入射する場合に発生する第2位相差との比が第2所定範囲内にあるように設定されている。ここに、本発明に係る第1所定範囲とは、液晶装置から出射される光のコントラストをより大きくさせるように、理論的、実験的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に規定された正面位相差の範囲を意味する。また、本発明に係る第2所定範囲とは、液晶装置から出射される光のコントラストをより大きくさせるように、理論的、実験的、経験的、又はシミュレーション等によって、個別具体的に規定された第1位相差と第2位相差との比の値の範囲を意味する。
この結果、蒸着膜の膜厚に加えて又は代えて蒸着角度を、第1所定範囲内にある正面位相差及び第2所定範囲内にある第1位相差と第2位相差との比に応じて適切な値に設定することで、液晶装置におけるコントラストを向上可能な位相差板をより簡便に実現することができる。言い換えると、位相差板の性質や性能を直接的に規定する変数やパラメータに加えて位相差板の性質や性能を間接的に規定する変数やパラメータなどの、より多種類の変数やパラメータによって位相差板の性質や性能を規定することで、液晶装置におけるコントラストをより高精度に向上させることができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記膜厚及び前記蒸着角度は、(i)前記正面位相差が大きくなるに従って、前記位相差板を、前記法線方向を回転軸にして回転させる際の回転角度の単位変化量に対するコントラストの変化量が大きくなるように設定されることに加えて又は代えて、(ii)前記正面位相差が小さくなるに従って、前記単位変化量に対する前記コントラストの変化量が小さくなるように設定される。
この態様によれば、上述した第1位相差と第2位相差との比の設定に加えて、正面位相差を適切な値に設定することによって、プロジェクタの製造の組み立て工程において、或いは、ユーザの調整動作において、所望となる位相差板の調整角度の範囲を簡便且つ適切に決定することができるので、実践上、大変有利である。典型的には、プロジェクタの製造の組み立て工程において、膜厚及び蒸着角度が、正面位相差が大きくなるに従って、位相差板を、法線方向を回転軸にして回転させる際の回転角度の単位変化量に対するコントラストの変化量が大きくなるように設定される場合、コントラストの変化量が大きいために、変化量を的確且つ迅速に検知できる。これにより、最大のコントラストを実現できる位相差板の回転角度をより迅速に決定し設定することができる。或いは、典型的には、ユーザの調整動作において、膜厚及び蒸着角度は、正面位相差が小さくなるに従って、単位変化量に対するコントラストの変化量が小さくなるように設定される場合、コントラストの変化量が小さいために、最大のコントラストを実現できる位相差板の回転角度をより広範囲させることができる。これにより、例えばユーザの視認によっても最大のコントラストを実現できる位相差板の回転角度をより簡便に決定し設定することができる。
本発明の液晶装置の他の態様では、前記第1蒸着膜は、前記第2蒸着膜と比較して、前記液晶パネルから遠い位置に配置される。
この態様によれば、一般的に、例えばCプレート等の第1蒸着膜は、その製造工程において、微小な気泡が発生し、第1蒸着膜内に大なり小なり含まれてしまう。これに対して、この態様によれば、第1蒸着膜を、第2蒸着膜と比較して、液晶パネルから最も離れた距離に配置させる。これにより、第1蒸着膜に含まれる気泡に合焦点する度合いを顕著に低減させることができる。これにより、第1蒸着膜に含まれる気泡が投射され投射映像に悪影響を及ぼすことを効果的に抑制することができる。
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにされる。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る液晶プロジェクタの概略構成図である。プロジェクタ10は、前方に設けられたスクリーン11に映像を投射する前方投影型のプロジェクタである。プロジェクタ10は、光源12と、ダイクロイックミラー13、14と、液晶ライトバルブ15〜17と、投射光学系18と、クロスダイクロイックプリズム19と、リレー系20とを備えている。
光源12は、赤色光、緑色光及び青色光を含む光を供給する超高圧水銀ランプで構成されている。ダイクロイックミラー13は、光源12からの赤色光LRを透過させるとともに緑色光LG及び青色光LBを反射する構成となっている。また、ダイクロイックミラー14は、ダイクロイックミラー13で反射された緑色光LG及び青色光LBのうち青色光LBを透過させるとともに緑色光LGを反射する構成となっている。このように、ダイクロイックミラー13、14は、光源12から射出された光を赤色光LRと緑色光LGと青色光LBとに分離する色分離光学系を構成する。ダイクロイックミラー13と光源12との間には、インテグレータ21及び偏光変換素子22が光源12から順に配置されている。インテグレータ21は、光源12から照射された光の照度分布を均一化する。偏光変換素子22は、光源12からの光を例えばs偏光のような特定の振動方向を有する偏光に変換する。
液晶ライトバルブ15は、ダイクロイックミラー13を透過して反射ミラー23で反射した赤色光LRを画像信号に応じて変調する透過型の液晶装置(電気光学装置)である。液晶ライトバルブ15は、第1の偏光板15b、液晶パネル15c、位相差板15a、及び第2の偏光板15dを備えている。
ここで、液晶ライトバルブ15に入射した赤色光LRは、第1の偏光板15bを透過して例えばs偏光に変換される。液晶パネル15cは、入射したs偏光を画像信号に応じた変調によってp偏光(中間調であれば円偏光又は楕円偏光)に変換する。さらに、第2の偏光板15dは、s偏光を遮断してp偏光を透過させる偏光板である。したがって、液晶ライトバルブ15は、画像信号に応じて赤色光LRを変調し、変調した赤色光LRをクロスダイクロイックプリズム19に向けて射出する構成となっている。
液晶ライトバルブ16は、ダイクロイックミラー13で反射した後にダイクロイックミラー14で反射した緑色光LGを、画像信号に応じて緑色光LGを変調し、変調した緑色光LGをクロスダイクロイックプリズム19に向けて射出する透過型の液晶装置である。液晶ライトバルブ16は、液晶ライトバルブ15と同様に、第1の偏光板16b、液晶パネル16c、位相差板16a、及び第2の偏光板16dを備えている。
液晶ライトバルブ17は、ダイクロイックミラー13で反射し、ダイクロイックミラー14を透過した後でリレー系20を経た青色光LBを画像信号に応じて変調し、変調した青色光LBをクロスダイクロイックプリズム19に向けて射出する透過型の液晶装置である。液晶ライトバルブ17は、液晶ライトバルブ15、16と同様に、第1の偏光板17b、液晶パネル17c、位相差板17a、及び第2の偏光板17dを備えている。
リレー系20は、リレーレンズ24a、24bと反射ミラー25a、25bとを備えている。リレーレンズ24a、24bは、青色光LBの光路が長いことによる光損失を防止するために設けられている。リレーレンズ24aは、ダイクロイックミラー14と反射ミラー25aとの間に配置されている。リレーレンズ24bは、反射ミラー25a、25bの間に配置されている。反射ミラー25aは、ダイクロイックミラー14を透過してリレーレンズ24aから出射した青色光LBをリレーレンズ24bに向けて反射するように配置されている。反射ミラー25bは、リレーレンズ24bから出射した青色光LBを液晶ライトバルブ17に向けて反射するように配置されている。
クロスダイクロイックプリズム19は、2つのダイクロイック膜19a、19bをX字型に直交配置した色合成光学系である。ダイクロイック膜19aは青色光LBを反射して緑色光LGを透過する。ダイクロイック膜19bは赤色光LRを反射して緑色光LGを透過する。したがって、クロスダイクロイックプリズム19は、液晶ライトバルブ15〜17のそれぞれで変調された赤色光LRと緑色光LGと青色光LBとを合成し、投射光学系18に向けて射出するように構成されている。投射光学系18は、投影レンズ(図示略)を有しており、クロスダイクロイックプリズム19で合成された光をスクリーン11に投射するように構成されている。
なお、赤色用及び青色用の液晶ライトバルブ15,17にλ/2位相差板を設け、これらの液晶ライトバルブ15,17からクロスダイクロイックプリズム19に入射する光をs偏光とし、液晶ライトバルブ16にはλ/2位相差板を設けない構成として液晶ライトバルブ16からクロスダイクロイックプリズム19に入射する光をp偏光とする構成も採用できる。クロスダイクロイックプリズム19に入射する光を異なる種類の偏光とすることで、ダイクロイック膜19a、19bの反射特性を考慮して最適化された色合成光学系を構成できる。一般に、ダイクロイック膜19a、19bはs偏光の反射特性に優れているので、上述したようにダイクロイック膜19a、19bで反射される赤色光LR及び青色光LBをs偏光とし、ダイクロイック膜19a、19bを透過する緑色光LGをp偏光とするとよい。
(液晶ライトバルブ)
次に、液晶ライトバルブ(液晶装置)15〜17について説明する。
液晶ライトバルブ15〜17は、変調する光の波長領域が異なるだけであって、その基本的構成は同一である。したがって以下では、液晶パネル15cとこれを備えた液晶ライトバルブ15とを例示して説明する。
図2は、本実施形態に係る液晶パネルの全体構成図(図2(a))及び、当該図2(a)のH−H’線に沿う断面構成図(図2(b))である。図3は、本実施形態に係る液晶ライトバルブの構成を示す説明図である。図4は、図3における各構成部材の光学軸配置を示す図である。
液晶パネル15cは、図2に示すように、互いに対向して配置された対向基板31とTFTアレイ基板32とを備え、シール材33を介して両者を貼り合わせた構成である。対向基板31、TFTアレイ基板32、及びシール材33に囲まれた領域内に、液晶層34が封入されている。液晶層34は、負の誘電率異方性を有する液晶からなり、本実施形態の液晶パネル15cでは、図3に示すように、液晶分子51が配向膜43、98の間で所定の傾き(プレチルト角)を有して垂直配向した構成である。
液晶パネル15cは、TFTアレイ基板32、対向基板31及びシール材33で区画された領域に封止された液晶層34を有している。液晶パネル15cのうちシール材33の形成領域の内側には、周辺見切りとなる遮光膜35が形成されている。シール材33の外周側の角部には、TFTアレイ基板32と対向基板31との電気的導通をとるための基板間導通材57が配設されている。
TFTアレイ基板32のうち平面視でシール材33の形成領域の外側となる領域に、データ線駆動回路71及び外部回路実装端子75と、2個の走査線駆動回路73とが形成されている。さらに、TFTアレイ基板32の上記領域には、上記画像表示領域の両側に設けられた走査線駆動回路73の間を接続するための複数の配線74も形成されている。データ線駆動回路71及び走査線駆動回路73をTFTアレイ基板32上に形成する代わりに、例えば、駆動用LSIが実装されたTAB(TapeAutomatedBonding)基板とTFTアレイ基板32の周辺部に形成された端子群とを異方性導電膜を介して電気的及び機械的に接続してもよい。
対向基板31は、図2(b)に示すように、平面的に配列された複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズ基板(集光基板)である。対向基板31は、基板92と、樹脂層93と、カバーガラス94とを主体として構成されている。
基板92及びカバーガラス94は、ガラス等からなる透明基板であり、石英やホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス(青板ガラス)、クラウンガラス(白板ガラス)等からなる基板を用いることもできる。基板92の液晶層34側(図示下面側)には、複数の凹部(マイクロレンズ)95が形成されている。マイクロレンズ95は、液晶層34と反対側から基板92に入射する光を集光して液晶層34側に射出する。
樹脂層93は、基板92のマイクロレンズ95上に充填された樹脂材料からなる層であり、光を透過可能な樹脂材料、例えばアクリル系樹脂等を用いて形成される。樹脂層93は、基板92の一面側を覆い、マイクロレンズ95の凹状の内部を充填するように設けられている。樹脂層93の上面は平坦面とされ、かかる平坦面にカバーガラス94が貼り付けられている。
マイクロレンズ基板36の液晶層34側の面には、遮光膜35と、共通電極97と、配向膜98とが形成されている。遮光膜35は平面視略格子状を成してカバーガラス94上に形成されている。マイクロレンズ95は、遮光膜35の間に位置して、液晶パネル15cの画素領域(画素電極42の形成領域)に平面視で重なる領域にそれぞれ配置されている。配向膜98は液晶層34を構成する液晶分子を基板面に対して略垂直に配向させる垂直配向膜であり、例えば、斜方蒸着により柱状構造を有して形成されたシリコン酸化物膜や、配向処理を施されたポリイミド膜等からなるものである。
TFTアレイ基板32は、ガラスや石英等からなる透明の基板41と、基板41の液晶層34側面に形成された画素電極42と、画素電極を駆動するTFT44と、配向膜43とを主体として構成されている。
画素電極42は、例えばITO等の透明導電材料からなる平面視略矩形状の導電膜であり、図2(a)に示すように、基板41上に平面視マトリクス状に配列され、平面視でマイクロレンズ95と重なる領域に形成されている。
TFT44は、図示を簡略化しているが、画素電極42の各々に対応して基板41上に形成されており、通常は平面視で対向基板31側の遮光膜35と重なる領域(非表示領域、遮光領域)に配置されている。
画素電極42を覆って形成された配向膜43は、先の配向膜98と同様に、斜方蒸着により形成されたシリコン酸化物膜等からなる垂直配向膜である。
配向膜43、98は、互いの配向方向(柱状構造物の配向方向)が平面視でほぼ平行になるように形成されており、液晶層34を構成する液晶分子を基板面に対して所定の傾きを有してほぼ垂直に配向させるとともに、液晶分子の傾き方向を基板面方向で一様なものとするべく機能する。
なお、基板41の液晶層34側の表面のうち平面視でシール材33の形成領域の内側となる領域には、画素電極42やTFT44を接続するデータ線(図示略)や走査線(図示略)が形成されている。データ線及び走査線は、平面視で遮光膜35と重なる領域に形成されている。そして、遮光膜35やTFT44、データ線、走査線によって縁取られた領域が液晶パネル15cの画素領域とされる。そして、複数の画素領域が平面視マトリクス状に配列されて画像表示領域を構成している。
(偏光板及び位相差板)
図3に示すように、液晶ライトバルブ15は、上述した液晶パネル15cと、液晶パネル15cの対向基板31の外側に配置された第1の偏光板15bと、TFTアレイ基板32の外側に配置された位相差板15aと、位相差板15aの外側に配置された第2の偏光板15dとにより構成されている。
なお、本実施形態の液晶ライトバルブ15では、第1の偏光板15bが配設された側(図示上側)が光入射側であり、第2の偏光板15dが配設された側が光射出側である。
液晶パネル15cにおいて、液晶層34を挟持して対向する配向膜43,98は、例えば基板法線方向から50°程度ずれた斜め方向からシリコン酸化物を蒸着して形成されている。膜厚はいずれも40nm程度である。図3の配向膜43,98に付した矢印により表される配向方向43a、98aは、形成時の蒸着方向のうち基板面内の方向に一致している。配向膜43における配向方向43aと配向膜98における配向方向98aとは互いに平行である。
そして、配向膜43,98の配向規制力により、液晶分子51は基板法線から2°〜8°程度傾いた状態で配向するとともに、液晶分子51のダイレクタの方向(プレチルト方向P)が基板面方向で配向方向43a、98aに沿った方向となるように配向している。
第1の偏光板15b及び第2の偏光板15dは、いずれも、染色されたPVA(ポリビニルアルコール)からなる偏光素子151を、TAC(トリアセチルセルロース)からなる2枚の保護膜152で挟み込んだ三層構造を備えている。図4に示すように、第1の偏光板15bの透過軸151bと、第2の偏光板15dの透過軸151dは直交して配置されている。これらの偏光板15b、15dの透過軸151b、151dの方向は、液晶パネル15cの配向膜43の配向方向(蒸着方向)43aに対して平面視で略45°ずれた方向となっている。
位相差板15a(即ち、本発明に係る第1位相差板の一具体例)は、第1基板1501と、屈折率異方性を保持する屈折率異方性媒質255cが垂直蒸着された第1蒸着膜1501cと、屈折率異方性を保持する屈折率異方性媒質255aが斜方蒸着された第2蒸着膜1503と、第2基板1502とを備えて構成されている。
図3の第1蒸着膜1501cの側方に、第1蒸着膜1501cの屈折率異方性媒質255cの平均的な屈折率楕円体を模式的に示している。この図において、nx’、ny’はそれぞれ第1蒸着膜1501cの面方向の主屈折率を示しており、nz’は第1蒸着膜1501cの厚さ方向の主屈折率を示している。本実施形態では、主屈折率nx’、ny’、nz’は、nx’=ny’>nz’なる関係を満たす構成とされている。すなわち、厚さ方向の屈折率nz’が他の方向の屈折率より小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。この屈折率楕円体255cは、第1蒸着膜1501cの板面に対して平行に配向されており、第1蒸着膜1501cの光軸方向(屈折率楕円体の短軸方向)は板面法線方向と平行である。
図3の第2蒸着膜1503の側方には、屈折率異方性媒質255aの屈折率楕円体における光軸方向の主屈折率が示されている。本実施形態では、主屈折率nx,ny,nzは、nx>ny>nzなる関係を満たす構成とされている。すなわち、第1基板1501又は第2基板1502の法線方向から傾いた方向の屈折率nxが他の方向の屈折率ny,nzより大きく、屈折率楕円体では米粒型となる。
(位相差板の詳細な構成)
ここで、図5から図7を参照して、本実施形態に係る位相差板の詳細な構成について説明する。ここに、図5は、本実施形態に係る位相差板を構成する2種類の屈折率異方性媒質と、位相差板の第1基板との相対的な位置関係を規定する蒸着方向及び蒸着角度を図式的に示した外観斜視図である。図6は、本実施形態に係る位相差板を構成する2種類の屈折率異方性媒質の光軸と、液晶パネルを構成する液晶分子の光軸との相対的な位置関係を図式的に示した平面図(図6(a))及び立面図(図6(b))である。図7は、本実施形態に係る位相差板を構成する2種類の屈折率異方性媒質の光学的異方性と、液晶パネルを構成する液晶分子の光学的異方性とが合成されて、光学的等方性が実現される様子を概念的に示した模式図である。
図5に示されるように、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cにおいては、屈折率異方性媒質255cは、上述したように第1基板1501に垂直蒸着されている。具体的には、上述したように、第1蒸着膜1501cの主屈折率nx’、ny’、nz’は、nx’=ny’>nz’なる関係を満たす構成とされている。
加えて、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503においては、屈折率異方性媒質255aは、所定方向、即ち、蒸着方向に沿って第1蒸着膜1501cに斜方蒸着されている。加えて、屈折率異方性媒質255aは、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸が、第1蒸着膜1501cの平面方向と所定角度、即ち、蒸着角度を有するように斜方蒸着されている。この蒸着角度は、第1蒸着膜1501cの法線と屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と間の角度を、90度から差し引いた値と言い換えることができる。或いは、この蒸着角度は、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と、蒸着方向と間の角度と言い換えることができる。
詳細には、液晶パネル15cに封入される液晶分子51と、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503における屈折率異方性媒質255aとの相対的な位置関係に着目すると、図6(a)に示されるように、第1蒸着膜1501c(又は不図示の第1基板1501)の法線方向から平面的に見て、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cに斜方蒸着された屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸が延びる方向と、プレチルトが付与された液晶分子の長軸方向とは交わる位置関係にある。尚、図6(a)中において、プレチルトが付与された液晶分子の長軸方向は、所謂、明視方向の1時30分の方向である。この1時30分の方向とは、図6(a)の平面に置いた時計が1時30分を示す場合における短針の方向を示す。尚、液晶分子の長軸方向は、液晶分子の長軸の2つの頂点のうち光が入射される側に近い方の軸の頂点が向いている方向を意味する。図6(b)に示されるように、第1基板1501又は第1蒸着膜1501cの垂直平面方向から立面的に見て、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸が、第1蒸着膜1501cの平面と所定角度、即ち、蒸着角度で交わる。尚、この蒸着角度は、90度から液晶分子のプレチルトの角度を差し引いた角度よりも小さくなってよい。
これにより、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503の第2光軸(即ち、本発明に係る第2光軸の一具体例)、言い換えると、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向に交わる所定方向に沿うので、第1蒸着膜1501c(又は不図示の第1基板1501)の平面方向において、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503の第2光軸が液晶分子51の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。加えて、図7に示されるように、位相差板15aの光軸が、第1蒸着膜1501c(又は不図示の第1基板1501)と蒸着角度で交わるので、第1蒸着膜1501cの垂直面方向において、位相差板15aの第2光軸が液晶分子の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
更に、加えて、図7に示されるように、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cの第1光軸(即ち、本発明に係る第1光軸の一具体例)、言い換えると、屈折率異方性媒質255cの主屈折率nx’(又は主屈折率ny’)の光軸が延びる方向が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向に交わるので、第1蒸着膜1501c(又は不図示の第1基板1501)の平面方向において、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1503の光軸の短軸(即ち、本発明に係る第1光軸の一具体例)及び長軸が液晶分子51の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように補償する。
即ち、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cによって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1蒸着膜と第2蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。
従って、位相差板15aによって液晶において生じる位相差(言い換えれば、複屈折効果)を打ち消す(即ち、補償する)ことができる。この結果、当該プロジェクタの動作時に、光源から出射された光が例えばプレチルト角だけ傾斜した液晶分子から構成された液晶を通過することで発生する光の位相差を、位相差板15aによって補償することができる。従って、液晶パネルを通過した光が出射側の偏光板に対し、位相がずれた状態で入射するのを防止することができる。この結果、例えば出射側の偏光板において、本来通過させないはずの光が漏れる可能性は小さくなり、コントラストの低下や視野角の縮小を防止することができる。
ここで、仮に、液晶ライトバルブ15において、この位相差板15aが備えられない場合、液晶パネル15cに封入された液晶層34は、光学的に正の一軸性を示すもので、液晶分子51のダイレクタ方向の屈折率が他の方向の屈折率より大きくなっている。すなわち液晶層34は、上述した図3に平均的な屈折率楕円体250aを示すように、ラグビーボール型の屈折率楕円体を有するものとなっている。ここで、液晶層34の液晶分子51はプレチルト方向Pに沿って斜めに配向しており、黒表示の際に残留位相差を生じ、また斜め方向から観察したときの楕円形状が異なるために視角依存の位相差を有する。この位相差が黒表示における光漏れの原因となり、液晶パネルのコントラスト比を低下させることになる。
或いは、仮に、例えばCプレートや1軸性の屈折率異方性を有する位相差板などの光軸の方向が厚さ方向に沿っている位相差板を用い、この位相差板を傾斜させることによって、液晶分子の光学的な異方性を補償する場合、プロジェクタの内部において、例えば空気の循環による冷却効果の観点などによって、位相差板を傾斜させるための空間が限定されているためコントラストの低下を適切に防止することが技術的に困難となってしまう。或いは、この位相差板を傾斜させる機構が複雑になってしまい、組み立て工程において、位相差板を傾斜させる調整が技術的に困難となってしまう。
しかるに、本実施形態では特に、上述したように、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cの光軸の短軸及び長軸は、液晶分子51の光学的な異方性を補償するように、第1基板1501に垂直蒸着している。
また特に、上述したように、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503の第2光軸は、屈折率異方性媒質255aの蒸着によって、液晶分子51の光学的な異方性を補償するように、所定方向、所謂、蒸着方向に向かって、第1基板1501又は第2基板1502と所定角度、所謂、蒸着角度で交わる。従って、位相差板15aを構成する屈折率異方性媒質255aが蒸着される蒸着方向及び蒸着角度を調整することで、液晶パネルの液晶分子51の光学的な異方性を容易に且つ高精度に補償することができる。
これにより、液晶分子によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503によって形成される屈折率楕円体の長軸と、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cによって形成される屈折率楕円体の長軸とが交わるので、液晶分子と第1蒸着膜と第2蒸着膜との三者によって形成される屈折率楕円体を三次元的に屈折率球体へ近づけることができる。また、液晶パネルの液晶分子51の光学的な異方性を補償するために、位相差板15a自体を傾斜させる必要が殆ど又は完全にないので、組み立て工程において、位相差板15aを傾斜させる調整工程を省略することができ、簡便且つ低コストに、液晶分子の光学的な異方性を補償し、コントラストを高めることができる。この結果、本実施形態に係るプロジェクタによれば、液晶において生じる位相差を位相差板15aによって補償する効果を高めることができ、コントラストを高めることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係るプロジェクタによれば、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503の屈折率異方性媒質255aが斜方蒸着される蒸着方向及び蒸着角度を調整することに加えて、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cの屈折率異方性媒質255cが垂直蒸着されていることで、液晶において生じる位相差を位相差板15aによって確実に補償することができる。この結果、高コントラストで高品位な表示を得ることができる。
特に、屈折率異方性媒質255aが斜方蒸着される第2蒸着膜1503として、例えばTa2O5等の無機材料を利用することが、光の照射やそれに伴う温度上昇により位相差板15aが劣化するのを効果的に防止でき、信頼性に優れたプロジェクタを構成することができる。また、本実施形態では、1種類の位相差板を用いるため、後述される2種類の位相差板を用いる第2の実施形態と比較して、低コストであり、調整する対象が1種類の位相差板であるので簡便に光学補償を行うことができる。加えて、後述される2種類の位相差板を用いる第2の実施形態と比較して、基板の数も1枚少なくさせることができるので、光透過率をより高くさせることができる。
(位相差板の膜厚に起因したコントラスト改善の定量的な分析)
次に、図8を参照して、本実施形態に係る位相差板の膜厚に起因したコントラストの改善の定量的な分析について説明する。ここに、図8は、本実施形態に係る位相差板の膜厚と、光のコントラストと、液晶パネルを構成する液晶分子のプレチルトの角度との相関関係を定量的に示したグラフである。尚、図8の横軸は位相差板の膜厚(μm)を示し、縦軸はコントラストの大きさを示す。また、図8中の黒塗りのひし形は液晶分子のプレチルトの角度が4度である場合に対応し、図8中の白塗りの四角形は液晶分子のプレチルトの角度が5度である場合に対応する。特に、位相差板の厚さ方向における屈折率は、上述した第2蒸着膜1503における主屈折率nx、ny、nz、蒸着角度、蒸着方向及び材質、並びに、上述した第1蒸着膜1501cにおける主屈折率nx’、ny’、nz’及び材質によって一義的に規定することができる。
本願発明者による研究によれば、図8中の黒塗りのひし形を結んだ曲線に示されるように、液晶分子のプレチルトの角度が4度である場合、コントラストの大きさを1300より大きくさせるには、位相差板の膜厚は、0.3μmから0.6μmであることが好ましいことが判明している。具体的には、この0.3μmから0.6μmまでの範囲において、位相差板の膜厚が0.4μmである付近において、コントラストが最大値をとることが分かる。
加えて、図8中の白塗りの四角形を結んだ曲線に示されるように、液晶分子のプレチルトの角度が5度である場合、コントラストの大きさを1300より大きくさせるには、位相差板の膜厚は、0.3μmから0.6μmであることが好ましいことが判明している。具体的には、この0.3μmから0.6μmまでの範囲において、コントラストが大きくなる傾向にあることが分かる。
更に、図8中の白塗りの四角形を結んだ曲線によって示されるコントラストの山形状の頂上に対応される膜厚が、黒塗りのひし形を結んだ曲線によって示されるコントラストの山形状の頂上に対応される膜厚より、大きいので、液晶分子のプレチルトの角度が大きくなるにつれて、位相差板の膜厚を大きくすることがコントラストを改善させる観点において好ましいことが判明している。
(位相差板の膜厚及び蒸着角度に起因した位相差変化の定量的な分析)
次に、図9及び図10を参照して、本実施形態に係る位相差板の膜厚及び位相差板に充填される屈折率異方性媒質の蒸着角度に起因した位相差変化の定量的な分析について説明する。ここに、図9は、本実施形態に係る位相差板を構成する屈折率異方性媒質の第1基板に対する蒸着角度とコントラストとの相関関係を定量的に示したグラフである。尚、図9の縦軸は、コントラストの大きさを示し、横軸は、蒸着角度を示す。図10は、本実施形態に係る位相差板の膜厚及び位相差板を構成する屈折率異方性媒質の蒸着角度を変数とした場合における、位相差と極角との相関関係を定量的に示したグラフ(図10(a)及び図10(b))である。尚、図10(a)は、膜厚が0.5μmである場合に対応し、図10(b)は、膜厚が0.8μmである場合に対応する。また、図10(a)及び図10(b)において、実線の曲線は蒸着角度が50度である場合の位相差の変化を示し、一点鎖線の曲線は蒸着角度が57度である場合の位相差の変化を示し、点線の曲線は蒸着角度が64度である場合の位相差の変化を示す。また、位相差は単位を「nm(nanometer)」として示されているが、このnmを光の波長で割り、360度を積算することによって、ラジアンとして表示可能である。
本願発明者による研究によれば、統計的な分析の結果、図9によってその一例が示されているように、コントラストを120000より大きくさせるには、位相差板を構成する屈折率異方性媒質の第1基板に対する蒸着角度は、50度から70度の間の範囲にあることが好ましいことが判明している。この蒸着角度は、上述したように、屈折率異方性媒質255aが第1基板1501に斜方蒸着される際の、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と、第1基板1501の平面方向との角度を意味する。この蒸着角度は、第1基板1501の法線と屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と間の角度を、90度から差し引いた値と言い換えることができる。或いは、この蒸着角度は、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と、屈折率異方性媒質255aが第1基板1501に斜方蒸着される際の蒸着方向と間の角度と言い換えることができる。
また、図10(a)に示されるように、膜厚が0.5μmである条件下で、液晶ライトバルブ15の真正面から見た場合を0度とした際の視線の角度を示す極角をマイナス50度からプラス50度まで変化させるに従って、位相差板15aによって発生される位相差を40nm(nanometer)付近から0nmまで変化させることができる。具体的には、図10(a)の実線の曲線に示されるように、蒸着角度を50度とした場合、極角がゼロの際の位相差、所謂、正面位相差は15nm付近であることが分かる。また、極角が30度付近において、位相差がゼロであることが分かる。また、図10(a)の一点鎖線の曲線に示されるように、蒸着角度を57度とした場合、正面位相差は20nm付近であることが分かる。また、極角が40度付近において、位相差がゼロであることが分かる。また、図10(a)の点線の曲線に示されるように、蒸着角度を64度とした場合、正面位相差は25nm付近であることが分かる。また、極角が50度付近において、位相差がゼロであることが分かる。
概ね同様にして、図10(b)に示されるように、膜厚が0.8μmである条件下で、極角をマイナス50度からプラス50度まで変化させるに従って、位相差板15aによって発生される位相差を65nm付近から0nmまで変化させることができる。具体的には、図10(b)の実線の曲線に示されるように、蒸着角度を50度とした場合、正面位相差は25nm付近であることが分かる。また、極角が30度付近において、位相差がゼロであることが分かる。また、図10(b)の一点鎖線の曲線に示されるように、蒸着角度を57度とした場合、正面位相差は35nm付近であることが分かる。また、極角が40度付近において、位相差がゼロであることが分かる。また、図10(b)の点線の曲線に示されるように、蒸着角度を64度とした場合、正面位相差は40nm付近であることが分かる。また、極角が50度付近において、位相差がゼロであることが分かる。
このように、位相差板の膜厚及び位相差板を構成する屈折率異方性媒質の蒸着角度を、約50度から約70度まで変化させることによって、例えば正面位相差などの位相差板15aによって発生される位相差を高精度に制御することができる。これにより、本実施形態に係る液晶ライトバルブ15をプロジェクタに組み込む工程において、位相差板15aを光が入射する入射方向を回転軸として回転させることによって、実現可能なコントラストを高精度に設定する際の、位相差板15aの回転角度を所定範囲にあるように制限することができる。従って、位相差板15aを制限された所定範囲内で回転させるので、より簡便にコントラストを調節することができる。
(位相差板の回転に起因したコントラスト改善の定量的な分析)
次に、図11及び図12に加えて、上述した図4を適宜、参照して、位相差板における基板法線を回転軸とする回転に起因して、コントラストの改善について説明する。ここに、図11は、本実施形態に係る位相差板で実現されたコントラストと、比較例に係る位相差板で実現されたコントラストとの相関関係を定量的に示した棒グラフである。図12は、本実施形態及び比較例に係る位相差板が適用された液晶パネルにおける輝度のばらつきを示した分布図(図12(a)、図12(b)及び図12(c))である。
本実施形態に係るプロジェクタにおける液晶ライトバルブ15の光学調整は、液晶パネル15cの基板法線を回転軸とする軸回りに移動可能に設けられた位相差板15aの回転角調整を行う光学調整ステップにより実施することができる。
この光学調整ステップでは、液晶パネル15cに対向して配置した位相差板15aについて、上述した図4に示すように、その回転軸81aを位相差板15a(及び液晶パネル15c)の法線方向に沿った方向に設定する。そして、かかる回転軸81aを中心とする軸回りに位相差板15aを回転させて回転角θを調整することで、上述した位相差板15aの光軸、即ち、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸の方向と、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向との間の角度を高精度に調整し、液晶分子と位相差板との両者によって形成される屈折率楕円体を屈折率球体へより近づけ、所望となるコントラストが得ることが可能である。
具体的には、図11に示されるように、本実施形態に係るプロジェクタによれば、コントラストを1500付近にさせ、比較例と比較して、より高いコントラストを簡便に実現することができる。特に、本実施形態に係る第1蒸着膜1501c及び第2蒸着膜1503によって構成される位相差板15aを採用した場合、第2蒸着膜1503によって構成される位相差板を採用した場合と比較して、1500を超えるより高いコントラストを簡便に実現することができる。
具体的には、本実施形態に係るプロジェクタによれば、比較例に係る例えば光学セルcell材質の位相差板を用いたプロジェクタや、例えば光学フィルム等の一軸位相差板を用いたプロジェクタや、例えばCプレートなどの光軸の方向が厚さ方向に沿っている位相差板を傾斜させないプロジェクタなどは、コントラストは1500より小さくなってしまう。また、比較例に係る、光軸の方向が厚さ方向に沿っている位相差板を2°まで傾斜させたプロジェクタでは、コントラストは1500付近ではあるものの、上述したように、プロジェクタの内部において、例えば空気の循環による冷却効果の観点などによって、位相差板を傾斜させるための空間が限定されているため省スペースの観点において好ましくない。これに対して、本実施形態によれば、位相差板15aを傾斜させることなく、回転軸81aを中心とする軸回りに位相差板15aを回転させて回転角θを調整することで、上述した位相差板15aの光軸の方向と、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向との間の角度を高精度に調整し、所望となるコントラストが簡便な調整によって得ることが可能である。また本実施形態において、液晶パネルと位相差板との間の空間では、位相差板を傾斜させる必要が無いので、空気の循環の妨げとならないよう構成されていることで、液晶パネル15cと位相差板との間で熱がこもるのを最小限に抑えることができ、液晶パネル及び位相差板の劣化を抑制する点でも有効である。
また、図12(c)に示されるように、本実施形態によれば、液晶パネルにおいて極角が約30度であることを示す白点線の円の内部において、輝度のばらつき、所謂、輝度ムラが発生することを効果的に防止することができる。具体的には、図12(a)に示される、位相差板が用いられない比較例に係る液晶パネルにおいて極角が約30度であることを示す白点線の円の内部の左下方において、輝度ムラが発生していることが分かる。また、図12(b)に示される、第2蒸着膜1503によって構成される位相差板が用いられた液晶パネルにおいて極角が約30度であることを示す白点線の円の内部の左下方及び右下方において、輝度ムラが発生していることが分かる。尚、図12(a)においては、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向に起因して、液晶分子51の長軸を対称軸として、液晶パネルにおける輝度ムラが線対称的に発生していることが分かる。これに対して、本実施形態に係るプロジェクタによれば、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503の光軸、即ち、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸が、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向に交わる所定方向に沿う。加えて、上述したように、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cの光軸の短軸及び長軸は、液晶分子51の光学的な異方性を補償するように、第1基板1501に垂直蒸着している。これにより、輝度ムラが線対称的に発生することを、位相差板15aの2種類の光軸によって打ち消し、輝度ムラの発生を効果的に防止可能であることが判明している。
特に、この屈折率異方性媒質255aの典型例として、二軸プレートを採用した場合、主屈折率nx,ny,nzは、nx>ny>nzなる関係を満たすので、上述した図4に示すように、基板の法線方向に延びる回転軸81aを中心とする軸回りに位相差板15aを回転させて回転角θを調整することで、位相差板15aの光軸と、偏光板15b、15dや液晶パネル15cの光軸との位置関係を夫々に対応しつつ変更し、位相差板15aの位置を最適化することができる。具体的には、位相差板15aを回転させることで、位相差板15aと第1及び第2の偏光板15b、15dとの位置関係を、例えばAプレートなどの主屈折率nx,ny,nzが、nx=ny>nzとなる関係を満たす成分を含むように構成することができるので、第1及び第2の偏光板15b、15dの位相差や、マイクロレンズ95の回折の影響により生じる位相差を補償することができる。尚、この位相差板を上述した法線方向を回転軸として、回転させることによって、本発明に係る「第2光学調整ステップ」の一具体例が構成されている。
また、上述したように位相差板の膜厚及び位相差板を構成する屈折率異方性媒質の蒸着角度を、変化させることによって、位相差板15aによって発生される正面位相差をより大きく変化させることにより、本実施形態に係る液晶ライトバルブ15をプロジェクタに組み込む工程において、位相差板15aを光が入射する入射方向を回転軸として回転させることによって、実現可能なコントラストを高精度に設定する際の、位相差板15aの回転角度を所定範囲(例えば±5度の範囲)にあるように制限することができる。従って、位相差板15aを制限された所定範囲内で回転させるので、当該プロジェクタの機能上、最大となるコントラストをより簡便に調節することができる。
尚、位相差板15aの光学調整は、実際にコントラスト(又は黒表示の輝度)を測定しつつ実施することが好ましい。一般に、偏光板の保護膜152における面方向の光軸は一定の方向に設定されているわけではなく、さらに同一の偏光板でも面内で光軸がばらついていることがある。そのため、位相差板15aの回転角θを一定角度に設定することはできないので、実際に最大コントラストが得られる位置、あるいは黒レベルが最低になる位置をもって位相差板15aの最適位置とすることが好ましい。
加えて、上述した図4において、偏光板を上述した法線方向を回転軸として、回転させることで、よりコントラストを上げることができる。尚、この偏光板を上述した法線方向を回転軸として、回転させることによって、本発明に係る「第1光学調整ステップ」の一具体例が構成されている。
(第2の実施形態)
次に、図13から図16を参照して、第2の実施形態について説明する。図13は、本発明の第2の実施形態に係る液晶プロジェクタの概略構成図である。尚、図13中、上述した第1の実施形態と概ね同様の構成要素には、同一の符号番号を付し、それらの説明は適宜省略する。図14は、本発明の第2の実施形態に係る位相差板における位相差板の種類、位相差及び極角の相関関係を示したグラフである。尚、極角とは、上述したように、液晶ライトバルブ15の真正面から見た場合を0度とした際の視線の角度を示す。図15は、本発明の第2の実施形態に係る位相差板における位相差板の種類及びコントラストの相関関係を示したグラフである。尚、図15中の黒塗りの棒グラフは液晶分子のプレチルトの角度が5度である場合に対応し、図15中の白塗りの棒グラフは液晶分子のプレチルトの角度が4度である場合に対応する。図16は、図13における各構成部材の光学軸配置を示す図である。
図13に示されるように、第2の実施形態に係る液晶プロジェクタは、上述した第1の実施形態に係る液晶プロジェクタの位相差板15aの代わりに、位相差板15a1及び位相差板15eを備えて構成されている。尚、位相差板15eは、屈折率異方性媒質の垂直蒸着によって構成されてよいし、或いは、光学フィルムによって構成されていてよい。また、位相差板15a1によって、本発明に係る第1位相差板の他の具体例が構成されている。また、位相差板15eによって、本発明に係る第2位相差板の一の具体例が構成されている。
位相差板15a1は、第1基板1501と、屈折率異方性を保持する屈折率異方性媒質255aが斜方蒸着された第2蒸着膜1503と、第2基板1502とを備えて構成されている。図13の位相差板15a1の側方には、この屈折率異方性媒質255aの屈折率楕円体における光軸方向の主屈折率が示されている。本実施形態では、主屈折率nx,ny,nzは、nx>ny>nzなる関係を満たす構成とされている。すなわち、第1基板1501又は第2基板1502の法線方向から傾いた方向の屈折率nxが他の方向の屈折率ny,nzより大きく、屈折率楕円体では米粒型となる。具体的には、この屈折率異方性媒質255aの典型例として、二軸プレートを挙げることができる。
図13の位相差板15eの側方に、位相差板15eの平均的な屈折率楕円体255cを模式的に示している。この図において、nx’、ny’はそれぞれ位相差板15eの面方向の主屈折率を示しており、nz’は位相差板15eの厚さ方向の主屈折率を示している。本実施形態では、主屈折率nx’、ny’、nz’は、nx’=ny’>nz’なる関係を満たす構成とされている。すなわち、厚さ方向の屈折率nz’が他の方向の屈折率より小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。この屈折率楕円体255cは、位相差板15eの板面に対して平行に配向されており、位相差板15eの光軸方向(屈折率楕円体の短軸方向)は板面法線方向と平行である。具体的には、位相差板15eとして、負のCプレートを用いることができ、本実施形態ではディスコティック液晶を用いたCプレートを用いているが、そのほかに、無延伸のセルロースエステルフィルム(例えば、無延伸のトリアセチルセルロース(TAC)、無延伸のセルロースアセテートプロピオネート(CAP)等)、二軸延伸したノルボルネン系樹脂等を用いた光学フィルムを用いることもできる。
特に、位相差板15eとして、典型的には、相対的に高い屈折率を有する屈折率異方性媒質と、相対的に低い屈折率を有する屈折率異方性媒質とを交互に積層した蒸着膜で構成されるCプレートを採用してよい。このように積層した蒸着膜の厚さを変化させることで、光の進行方向の変化、偏光状態の変化、周波数や位相の変化などの光の特性変化を実現することができる。
具体的には、位相差板15eとしては、極角が30度である場合における、位相差が約10から20(nm:nanometer)であること好ましい。これによりコントラストをより高くさせることができる。尚、光の波長によって位相差の幅に若干の許容誤差があることを付記しておく。具体的には、図14に示されるように、位相差板15eは、極角が30度である場合における位相差の値が、10(nm)であるNR10、20(nm)であるNR20、30(nm)であるNR30、35(nm)であるNR35、40(nm)であるNR40、60(nm)であるNR60、及び、90(nm)であるNR90に分類することができる。そして、図15に示されるように、位相差板15eの種類としては、NR10、NR15及びNR20を採用することがコントラストをより高くさせる観点において好ましいことが判明している。具体的には、液晶分子のプレチルトの角度が4度である場合、位相差板15eの種類として、NR10、NR15及びNR20を採用する場合、コントラストを1600よりも大きくさせることができる。また、液晶分子のプレチルトの角度が5度である場合、位相差板15eの種類として、NR10、NR15及びNR20を採用する場合、コントラストを1300よりも大きくさせることができる。
上述したように、第2の実施形態に係る液晶プロジェクタは、第1の実施形態に係る液晶プロジェクタの位相差板15aの代わりに、位相差板15a1及び位相差板15eを備えて構成されている。これにより、位相差板15a1と、位相差板15eとを別の異なる光学的な位置に配置させたり、位相差板15eを一時的に取り外したりできるので、光学調整を簡便に行うことができる。加えて、位相差板15a1と、位相差板15eとにおいて、製造方法や材質を異ならせることができるので、光学調整をより低コストで行うことができる。更に加えて、位相差板15eとして、Cプレートを採用した場合、MLA付きパネルや、入射側のF値が小さいプロジェクタには、回折現象や焦点位置が標準値と比較して近い場合に対応しつつ、コントラストをより高くすることができる。
具体的には、図16に示されるように、第2の実施形態に係るプロジェクタにおける液晶ライトバルブ15の光学調整は、液晶パネル15cの基板法線を回転軸とする軸回りに移動可能に設けられた位相差板15a1の回転角調整を行う光学調整ステップにより実施することができる。この光学調整ステップでは、液晶パネル15cに対向して配置した位相差板15a1について、図14に示すように、その回転軸81aを位相差板15a1(及び液晶パネル15c)の法線方向に沿った方向に設定する。そして、かかる回転軸81aを中心とする軸回りに位相差板15a1を回転させて回転角θを調整することで、上述した位相差板15a1の光軸、即ち、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxの光軸の方向と、プレチルトの角度だけ傾斜した液晶分子51の長軸方向との間の角度を高精度に調整し、液晶分子と位相差板15a1との両者によって形成される屈折率楕円体を屈折率球体へより近づけ、所望となるコントラストが得ることが可能である。
(位相差板の配置)
次に、図17から図19を参照して、本実施形態に係る、位相差板の配置について説明する。ここに、図17は、本実施形態に係る液晶ライトバルブ15における構成部材の配置形態を示す概略図(図17(a)から図17(l))である。図18は、本実施形態に係る位相差板を構成する屈折率異方性媒質と、この屈折率異方性媒質の蒸着方向と、液晶パネルを構成する液晶分子との相対的な位置関係を図式的に示した一の模式図(図18(a)及び図18(b))である。図19は、本実施形態に係る位相差板を構成する屈折率異方性媒質と、この屈折率異方性媒質の蒸着方向と、液晶パネルを構成する液晶分子との相対的な位置関係を図式的に示した他の模式図(図19(a)及び図19(b))である。
(入射側の位相差板)
図17(a)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a1を配置し、この位相差板15a1の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a1の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、位相差板15a1との間に配置された形態である。尚、図17(a)から図17(l)において、第1の偏光板15bが図中、最上部に配置されると共に、第2の偏光板15dが図中、最下部に配置される。また、位相差板15a1の光軸の方向は、位相差板を構成する屈折率異方性媒質255aの軸の2つの頂点のうち第1基板1501から離れている軸の頂点が向いている方向を意味する。
図17(b)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a1を配置し、この位相差板15a1の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a1の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、第1の偏光板15bと、位相差板15a1との間に配置された形態である。
図17(c)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a1を配置し、この位相差板15a1の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a1の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、第2の偏光板15dとの間に配置された形態である。
図17(d)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a2を配置し、この位相差板15a2の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a2の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、位相差板15a2との間に配置された形態である。
図17(e)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a2を配置し、この位相差板15a2の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a2の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、第1の偏光板15bと、位相差板15a2との間に配置された形態である。
図17(f)は、液晶パネル15cへ光が入射される側に位相差板15a2を配置し、この位相差板15a2の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a2の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、第2の偏光板15dとの間に配置された形態である。
これらの図17(e)から図17(f)に示された配置形態の場合について具体的には、図18(a)と概ね同様に示されるように、明視方向の10時30分に沿って傾斜した液晶分子51の長軸方向と、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った位相差板15a2の光軸とが交わるので、位相差板15a2の光軸が液晶分子51の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように三次元的に補償する。尚、この図17(a)から図17(c)に示された配置形態の場合について具体的には、図18(b)に概ね示されるように、明視方向の10時30分に沿って傾斜した液晶分子51の長軸方向と、明視方向の3時0分と同一の方向に沿った位相差板15a2の光軸とが交わるようにしてよい。
(出射側の位相差板)
図17(g)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a3を配置し、この位相差板15a3の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a3の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、位相差板15a3との間に配置された形態である。
図17(h)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a3を配置し、この位相差板15a3の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a3の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、第2の偏光板15dと、位相差板15a3との間に配置された形態である。
図17(i)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a3を配置し、この位相差板15a3の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cから遠くなるように配置すると共に、位相差板15a3の光軸が、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、第1の偏光板15bとの間に配置された形態である。
これらの図17(g)から図17(i)に示された配置形態の場合について具体的には、図19(a)と概ね同様に示されるように、明視方向の10時30分に沿って傾斜した液晶分子51の長軸方向と、明視方向の0時0分と同一の方向に沿った位相差板15a3の光軸とが交わるので、位相差板15a3の光軸が液晶分子51の光学的な異方性を光学的な等方性へ向かうように三次元的に補償する。尚、この図17(a)から図17(c)に示された配置形態の場合について具体的には、図19(b)に概ね示されるように、明視方向の10時30分に沿って傾斜した液晶分子51の長軸方向と、明視方向の9時0分と同一の方向に沿った位相差板15a3の光軸とが交わるようにしてよい。
図17(j)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a4を配置し、この位相差板15a4の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a4の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、位相差板15a4との間に配置された形態である。
図17(k)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a4を配置し、この位相差板15a4の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a4の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、第2の偏光板15dと、位相差板15a4との間に配置された形態である。
図17(l)は、液晶パネル15cへ光が出射される側に位相差板15a4を配置し、この位相差板15a4の第2蒸着膜1503が蒸着された第1基板1501の側が液晶パネル15cに近くなるように配置すると共に、位相差板15a4の光軸が、明視方向の6時0分と同一の方向に沿った形態である。加えて、位相差板15eが、液晶パネル15cと、第1の偏光板15bとの間に配置された形態である。
本発明に係るプロジェクタにおいて、図17に示す12種類の形態のいずれを採用してもよい。
図17(g)から図17(i)の形態を採用すれば、液晶パネル15cの光射出側に位相差板15a3、15a4を配置しているので、液晶パネル15cを透過する光の全体に対して補償することができ、より良好な光学補償効果を得ることができる。また、図17(g)から図17(i)の形態を採用すれば、液晶パネル15cの光射出側に位相差板15a3、15a4を配置すれば、この位相差板を光源から遠ざけることができ、光の照射やそれに伴う温度上昇により位相差板15a3、15a4が劣化するのを効果的に防止でき、信頼性に優れたプロジェクタとなる。
他方、図17(a)から図17(f)の形態を採用すれば、液晶パネル15cの光入射側に位相差板15a1、15a2を配置しているので、光源からの光に対して適切な位相差の調整を施した後、液晶パネル15cへ光を入射させることができる。
特に、液晶分子の長軸方向が、例えば明視方向の1時30分などの他の方向であれば、それに対応して、位相差板15aの光軸が延びる方向も変化することは自明であることを付記しておく。
(第3の実施形態)
次に、図20及び図21を参照して、第2実施形態に係る位相差板について説明する。ここに、図20は、第2実施形態に係る位相差板の平面図(図20(a))及び、図20(a)中のH−H’断面を拡大した拡大断面図である。図21は、第2実施形態に係る位相差板の外観斜視図(図21(a))、及び第2実施形態に係る正面位相差と、2つの位相差の比とを定量的に示したグラフ(図21(b))である。尚、図20(a)、図20(b)及び図21(a)中に示されたX方向、Y方向及びZ方向は共通である。
図20(a)及び図20(b)に示されるように、第2実施形態に係る上述した位相差板15aは、例えば透明なガラス基板等から構成された第1基板1501と、第1基板1501上に形成された蒸着膜1503とを備えている。
蒸着膜1503は、第1基板1501に対して斜め方向Dから第1基板1501にTa2O5等の無機物が蒸着されることによって第1基板1501上に形成されている。
ここで、図20(b)に示されるように、蒸着膜1503は、微視的にみれば、無機物が斜め方向Dに沿って成長したカラム構造が形成された部分を含む膜構造を有している。このような構造を有する無機膜はその微細構造に起因して大なり小なり位相差が発生している。位相差板15aが備える蒸着膜1503は、断面上、微視的には、第1基板1501において、無機物が斜方蒸着される斜め方向Dに沿って延びる柱状部分1503aを有している。
特に、図21(a)に示されるように、光の位相差を測定する測定方向を規定する極角θは、基板面15asの法線方向Pに対して傾いた角度である。典型的には、極角は、位相差板の真正面から見た場合を0度とした際の視線の角度である。本実施形態では、法線方向Pから斜め方向Dに向かって傾く極角θをマイナスとし、これと逆に傾く極角θをプラスとして定義する。尚、光の位相差を測定する測定方向の方位角方向、即ち、基板面15as内の面内方向は、説明を簡便にするために、無機物が斜方蒸着される斜め方向Dを基板面15asに射影した方向、言い換えると、Y方向に揃えている。典型的には、上述した蒸着角度と極角θとは、同一の平面15ah上にあってよい。これにより、上述した蒸着角度と極角θとを同一に設定した場合、無機物自体が有する位相差に応じて、液晶装置におけるコントラストの向上の度合いを把握することができる。
第2実施形態に係る2つの位相差の比は、極角を変数とした2つの位相差間の比を意味する。典型的には、極角を「30度」とした際の位相差を基準にした場合における、極角を「30度」とした際の位相差と、極角を「−30度」とした際の位相差との比である比R[30]は、次の式(1)によって規定される。
R[30] = Ret(−30) / Ret(30) ……(1)
但し、Ret(30)は、極角を「30度」とした場合における位相差を意味し、Ret(−30)は、極角を「−30度」とした場合における位相差を意味する。具体的には、図21(b)に示されるように、極角を「30度」とした際の位相差が9(nm)であり、極角を「−30度」とした際の位相差が54(nm)である場合、式(1)中のRet(30)に「9」を代入すると共に、Ret(−30)に「54」を代入することによって、比R[30]=「6」を得ることができる。
特に、第2実施形態では、法線方向を基準にして対称となる2つの極角を変数とした2つの位相差間の比について説明するが、本実施形態はこの限りではない。第2実施形態に係る2つの位相差の比は、例えば極角を「30度」とした際の位相差と、極角を「−20度」とした際の位相差との比などの法線方向を基準にして対称とならない2つの極角を変数とした2つの位相差間の比であってよい。或いは、本実施形態に係る位相差の比は、例えば極角を「0度」とした際の位相差、所謂、正面位相差と、極角を「−30度」とした際の位相差との比などの法線方向を基準にして対称とならない2つの極角を変数とした2つの位相差間の比であってよい。要は、少なくとも異なる2つの極角を変数とした異なる2つの位相差間の比であれば、後述される正面位相差と併せてコントラストに対する相関関係を、理論的、実験的、経験的、又はシミュレーション等によって規定できる。
(正面位相差、蒸着角度及び位相差の比に起因したコントラスト改善の定量的な分析)
次に、図22及び図23を参照して、第2実施形態に係る位相差板の正面位相差、蒸着角度及び位相差の比に起因したコントラスト改善の定量的な分析について説明する。ここに、図22は、第2実施形態に係る位相差板の正面位相差と位相差の比とコントラストとの間の定量的な相関関係を示したグラフである。尚、図22中で示された2重丸、黒塗りの菱形、白抜きの丸、白抜きの四角、及び白塗りの逆三角形は、コントラストの「1700〜1800」、「1600〜1700」、「1500〜1600」、「1400〜1500」、及び「1300〜1400」に夫々対応している。図23は、第2実施形態に係る位相差板における厚さを同一とした場合の位相差、極角及び蒸着角度の定量的な相関関係を示したグラフ(図23(a))、第2実施形態に係る蒸着角度の大小関係を示した模式図(図23(b))、並びに、第2実施形態に係る位相差板における蒸着角度を同一とした場合の位相差、極角及び位相差板の厚さの定量的な相関関係を示したグラフ(図23(c))である。尚、図23(a)及び図23(c)中の横軸は極角を示し、縦軸は位相差を示す。
本願発明者による研究によれば、図22中の2重丸と領域A1とによって示されるように、コントラストが「1700〜1800」の範囲にある相対的に高いコントラストを実現するためには、位相差の比R[30]を約「1.5」から約「3.2」の間の範囲YA1にさせると共に、正面位相差を約「20」から約「30」の間に範囲XA1にさせることが好ましい。或いは、図22中の2重丸と領域A2とによって示されるように、コントラストが「1700〜1800」の範囲にある相対的に高いコントラストを実現するためには、位相差の比R[30]を約「6.5」から約「9.5」の間の範囲YA2にさせると共に、正面位相差を約「15」から約「17」の間に範囲XA2にさせることが好ましい。
詳細には、本願発明者による研究によれば、図23(a)及び図23(b)に示されるように、例えば、位相差板15aにおける厚さを同一とした場合、蒸着角度が大きくなるに従って、言い換えると、蒸着の際の斜め方向が法線方向に近づき、蒸着の際の極角がゼロに近づくに従って、極角の一定の角度当たりの位相差の変化量が小さくなることが判明している。これにより、蒸着角度が大きくなるに従って、位相差の比R[30]は、「1」の値に近づくことが判明している。或いは、本願発明者による研究によれば、図23(a)及び図23(b)に示されるように、例えば、位相差板15aにおける厚さを同一とした場合、蒸着角度が小さくなるに従って、言い換えると、蒸着の際の斜め方向が法線方向から遠ざかり、蒸着の際の極角がゼロよりも大きくなるに従って、極角の一定の角度当たりの位相差の変化量が大きくなることが判明している。これにより、蒸着角度が小さくなるに従って、位相差の比R[30]は、「1」の値から大きく離れることが判明している。
加えて、本願発明者による研究によれば、図23(c)に示されるように、例えば、蒸着角度を同一とした場合、位相差板15aの厚さが大きくなるに従って、極角を「0度」とした際の位相差、所謂、正面位相差は大きくなることが判明している。或いは、本願発明者による研究によれば、図23(c)に示されるように、例えば、蒸着角度を同一とした場合、位相差板15aの厚さが小さくなるに従って、正面位相差は小さくなることが判明している。具体的には、太い線が位相差板の厚さが相対的に大きい場合に対応し、点線が位相差板の厚さが相対的に小さい場合に対応している。
このように、蒸着角度及び位相差板の膜厚を適切に変化させることによって、位相差の比及び正面位相差を、コントラストが最大になるように夫々設定することが可能である。
尚、これらの正面位相差の範囲XA1及びXA2によって、本発明に係る第1所定範囲の一及び他の具体例が構成されている。また、これらの位相差の比YA1及びYA2によって、本発明に係る第2所定範囲の一及び他の具体例が構成されている。
(正面位相差と位相差板の回転角度の範囲とコントラストとの相関関係)
次に、図24を参照して、本実施形態に係る正面位相差と位相差板の回転角度の範囲(以下、適宜「調整角度の範囲」と称す)とコントラストとの相関関係について説明する。ここに、図24は、本実施形態に係る正面位相差と調整角度との定量的な相関関係を示したグラフ(図24(a))、及び本実施形態に係る正面位相差と位相差板の調整角度とコントラストとの定量的な相関関係を示したグラフ(図24(b))である。
図24(a)に示されるように、正面位相差が大きくなるに従って、最大となるコントラストが得られるまでの位相差板15aの調整角度を小さくすることができる。言い換えると、正面位相差が小さくなるに従って、最大となるコントラストが得られるまでの位相差板15aの調整角度を大きくすることができる。具体的には、図24(a)に示されるように、正面位相差Ret(0)が「30(nm)」である場合、位相差板15aの調整角度を例えば3度にすることができると共に、正面位相差Ret(0)が「15(nm)」である場合、位相差板15aの調整角度を例えば15度にすることができる。
加えて、図24(b)に示されるように、正面位相差が大きくなるに従って、位相差板15aの調整角度の単位角度当たりのコントラストの変化量を大きくすることができる。言い換えると、正面位相差が小さくなるに従って、位相差板15aの調整角度の単位角度当たりのコントラストの変化量を小さくすることができる。具体的には、図24(b)に示されるように、正面位相差Ret(0)が「30(nm)」である場合、位相差板15aの調整角度を3度にした時に、最大となるコントラストを得ることができる。また、正面位相差Ret(0)が「15(nm)」である場合、位相差板15aの調整角度を5度にした時に、最大となるコントラストを得ることができる。加えて、正面位相差Ret(0)が「30(nm)」である場合における位相差板15aの調整角度の単位角度当たりのコントラストの変化量は、正面位相差Ret(0)が「15(nm)」である場合における位相差板15aの調整角度の単位角度当たりのコントラストの変化量よりも大きくすることができ、図24(b)では急峻な曲線が示されている。
第2実施形態によれば、上述した2つの位相差の比の値の設定に加えて、正面位相差の値を適切な値に設定することによって、プロジェクタの製造の組み立て工程において、或いは、ユーザの調整動作において、所望となる位相差板15aの調整角度の範囲を簡便且つ適切に決定することができるので、実践上、大変有利である。
(第4の実施形態)
次に、図25及び図26を参照して、第4実施形態に係る偏光板及び位相差板について説明する。ここに、図25は、第4実施形態に係る液晶ライトバルブの構成を示す説明図である。尚、第4実施形態において、上述した実施形態と概ね同様の構成要素には、同一の符号番号を付し、それらの説明は適宜省略する。
図25に示されるように、第4実施形態に係る位相差板15a(即ち、本発明に係る第1位相差板の他の具体例)は、液晶パネル15cから遠くに配置された順番に、屈折率異方性を保持する屈折率異方性媒質255cが垂直蒸着された第1蒸着膜1501cと、第1基板1501と、屈折率異方性を保持する屈折率異方性媒質255aが斜方蒸着された第2蒸着膜1503と、第2基板1502とを備えて構成されている。
一般的に、例えばCプレート等の第1蒸着膜1501cは、その製造工程において、微小な気泡が発生し、第1蒸着膜1501c内に大なり小なり含まれてしまう。これに対して、本実施形態では、第1蒸着膜1501cを、第1基板1501、第2蒸着膜1503及び第2基板1502と比較して、液晶パネル15cから最も離れた距離に配置させる。これにより、第1蒸着膜1501cに含まれる気泡に合焦点する度合いを顕著に低減させることができる。これにより、第1蒸着膜1501cに含まれる気泡が投射され投射映像に悪影響を及ぼすことを効果的に抑制することができる。
(位相差板の詳細な構成)
ここで、図26を参照して、本実施形態に係る位相差板の詳細な構成について説明する。ここに、図26は、第4実施形態に係る位相差板を構成する2種類の屈折率異方性媒質と、位相差板の第1基板との相対的な位置関係を規定する蒸着方向及び蒸着角度を図式的に示した外観斜視図である。
図26に示されるように、位相差板15aを構成する第1蒸着膜1501cにおいては、屈折率異方性媒質255cは、図26中の下側から上側に向かって第1基板1501に垂直蒸着されている。具体的には、上述したように、第1蒸着膜1501cの主屈折率nx’、ny’、nz’は、nx’=ny’>nz’なる関係を満たす構成とされている。
加えて、位相差板15aを構成する第2蒸着膜1503においては、屈折率異方性媒質255aは、所定方向、即ち、蒸着方向に沿って、図26中の上側から下側に向かって第1基板1501に斜方蒸着されている。加えて、屈折率異方性媒質255aは、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸が、第1基板1501の平面方向と所定角度、即ち、蒸着角度を有するように斜方蒸着されている。この蒸着角度は、第1基板1501の法線と屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と間の角度を、90度から差し引いた値と言い換えることができる。或いは、この蒸着角度は、屈折率異方性媒質255aの主屈折率nxに対応される光軸と、蒸着方向と間の角度と言い換えることができる。
仮に、例えば、Cプレート等の第1蒸着膜1501cを斜方蒸着された第2蒸着膜1503上にスパッタリング手法によって形成した場合、或いは、第2蒸着膜1503をCプレート等の第1蒸着膜1501c上に斜方蒸着手法によって形成した場合、この形成処理の際に水分が第1蒸着膜1501cに混入してしまい、この第1蒸着膜1501cの品質が低下してしまうという技術的な問題点が生じる。
これに対して、第4実施形態によれば、例えば、Cプレート等の第1蒸着膜1501cを第1基板1501の一方の面に形成させると共に、第2蒸着膜1503を第1基板1501の他方の面に形成させる。これにより、Cプレート等の第1蒸着膜1501cをスパッタリング手法によって形成する際に、水分が第1蒸着膜1501cに混入してしまう度合いを軽減させることができるので、この第1蒸着膜1501cの品質をより向上させることができる。
なお、本実施形態に係る位相差板15aの他の具体例としては、位相差板の板面に対して傾斜した状態で配向した(チルト配向した)ディスコティック液晶からなる光学異方性層を備えたものを例示すことができる。この位相差板は、トリアセチルセルロース(TAC)等の支持体上に配向膜を設け、その配向膜上にトリフェニレン誘導体等のディスコティック液晶を塗設して作製することができる。より詳細には、1組の支持体の表面にポリイミド等の配向膜を形成したものを用意し、一方の支持体上にディスコティック液晶を塗設した後、もう一方の支持体によってディスコティック液晶を挟み込む。そして、加熱処理によってディスコティックネマチック(ND)相を形成させた後に、紫外線等によって重合して配向状態を固定化する。このND相の形成時に、ディスコティック液晶は配向膜によってプレチルトを付与され、光軸が斜めに傾いた状態に形成される。光軸の傾き角については、配向膜の配向処理(ラビング等)によって制御することができる。
あるいは、本実施形態に係る位相差板15aの他の具体例としては、ポリカーボネートやノルボルネン樹脂等をずり応力をかけて延伸することによっても作製することができる。この場合、材料樹脂をガラス転移点付近まで加熱した状態で2方向から延伸し、これを加熱した一対の基板間に挟み込む。そして、一方の基板の外側から材料樹脂に対して圧力を加えながら、一対の基板を互いに反対方向にずらす。これにより、材料樹脂の上下の面に互いに反対方向にずり応力がかかり、材料樹脂を構成する光学体の光軸方向が斜めに傾く。光軸の傾き角は、ずり応力の大きさによって制御することができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うプロジェクタ、プロジェクタの光学補償方法、及び液晶装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…プロジェクタ、11…スクリーン、12…光源、15、16、17、215…液晶装置、15a、15a1、15a2、15a3、15a4、15e、16a、17a…位相差板、15as…基板面、15ah…平面、15b、16b、17b、15d、16d、17d…偏光板、15c、16c、17c…液晶パネル、31…対向基板、32…TFTアレイ基板、43a、98a…配向方向、43、98…配向膜、51…液晶分子、81a…回転軸、255a…屈折率異方性媒質、255c…屈折率異方性媒質、1501…第1基板、1501c…第1蒸着膜、1502…第2基板、1503…第2蒸着膜、1503a…柱状部分、D…斜め方向、A1、A2…領域、LB…青色光、LG…緑色光、LR…赤色光、P…プレチルト方向。