JP5552269B2 - 無電解めっき処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ABS樹脂又はASA樹脂からなる樹脂基材の表面に、無電解めっきを行う無電解めっき処理方法及び無電解めっき材であり、特に、耐冷熱サイクルに優れた無電解めっき処理方法及び無電解めっき材に関する。
従来から、高分子樹脂の表面に、導電性や光沢性を付与すべく金属被膜を形成する場合、めっき処理を行うことが多い。このめっき処理として、樹脂基材の下地となる導電性を有しない樹脂表面に、溶液中の金属イオンを化学的に還元析出させて、高分子樹脂の表面に、めっき被膜を形成する処理(無電解めっき処理)を行うことがある。
無電解めっき処理は、化学的な還元反応を利用しているので、電力によって電界析出させる電気めっきとは異なり、一般的に絶縁体からなる高分子樹脂の表面であっても、めっき被膜(金属めっき層)を形成することができる。さらに、めっき被膜の表面に、電気めっきを行い、めっき被膜の強度だけでなく、意匠性を向上させている。
たとえば、このような樹脂基材のめっき処理方法として、樹脂からなる基材の表面に、樹脂基材の表面の不飽和結合を活性化するためのオゾン水(酸化活性種)を接触させ、表面を改質する工程と、改質した樹脂基材の表面に、界面活性剤を含むアルカリ溶液を接触させる工程と、アルカリ溶液を接触させた後の界面活性剤が付着した樹脂基材の表面に、触媒を吸着させる工程と、触媒を吸着させた後の樹脂基材の表面に、金属イオンと還元剤とを含むめっき液を接触させ、金属イオンを還元して樹脂基材の表面に、めっき被膜(無電解めっき被膜)を析出させる工程と、を含むめっき処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このようなめっき処理方法によれば、樹脂基材の表面を粗化することなく、化学的に樹脂基材の表面を改質することができるので、密着性に優れためっき被膜を析出することができる。
特開2007−239084号公報
このように、特許文献1に記載のオゾン水処理を行った場合には、めっき被膜は、耐冷熱サイクルに優れているとされているとされる。しかしながら、実際のところ、この平板状の樹脂基材に対して、無電解めっき処理を行った場合には、前記効果を得ることができるが、例えばエンブレムなどの複雑な形状の基材に無電解めっきを行った場合には、樹脂基材とめっき被膜(無電解めっき被膜)との間に、形状起因の応力集中部位が発生するため、耐冷熱サイクルによる両者の熱膨張差により、めっき被膜が剥離することがあった。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複雑な形状の樹脂基材であっても、冷熱サイクル性に優れた無電解めっき被膜を得ることができる無電解めっき処理方法及び無電解めっき材を提供することにある。
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、この冷熱サイクル性(耐サーマル特性)の低下の主要因としては、酸化活性種による表面改質時の樹脂劣化が考えられ、樹脂基材の表面が、オゾン水などの酸化活性種により酸化されるため、樹脂本来の靭性及び弾性が失われることにより冷熱サイクル性(耐サーマル特性)が損なわれると考えた。そこで、発明者らは、樹脂基材の質量平均分子量に着眼し、この質量平均分子量を増加させることにより、樹脂基材を改質したとしても、靭性及び弾性を維持することができるとの新たな知見を得た。
本発明は、このような新たな知見に基づくものであり、本発明に係る無電解めっき処理方法は、質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含む、ABS樹脂又はASA樹脂からなる樹脂基材の処理表面に、酸化活性種を接触させる工程と、該酸化活性種を接触させた樹脂基材の処理表面に、触媒を吸着させる触媒吸着工程と、該触媒が吸着させた処理表面に無電解めっきを行う工程と、を含むことを行うことを特徴とするものである。
ここで、本発明でいうABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)は、アクリロニトリル、スチレン、およびブタジエンゴムから主としてなる共重合体樹脂のことである。具体的には、アクリロニトリル−スチレン重合体(AS樹脂)をマトリクス樹脂として、このマトリクス樹脂にブタジエンゴム(B)を分散させた樹脂であり、一般には、AS共重合体(アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(AS樹脂))およびABS共重合体(ポリブタジエンゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)との混合物である。
また、ASA樹脂(アクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体)は、アクリロニトリル、スチレン、およびアクリルゴムから主としてなる共重合体樹脂のことである。具体的には、アクリロニトリル−スチレン重合体(AS樹脂)をマトリクス樹脂として、このマトリクス樹脂にアクリルゴム(A)を分散させた樹脂であり、一般的には、AS共重合体(アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(AS樹脂))およびASA共重合体(アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)との混合物である。
そして、ABS樹脂又はASA樹脂のマトリクス樹脂であるAS共重合体(アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(AS樹脂))の質量平均分子量を17万以上にしたことにより、この樹脂からなる基材の靭性及び弾性が向上すると考えられる。この結果として、この基材の処理表面に酸化活性種を接触させ、その後触媒が吸着された処理表面に無電解めっきを行うことで、繰返しの熱負荷に対する無電解めっき被膜の密着強度を向上させることができる。
より好ましくは、ABS樹脂またはASA樹脂のマトリクス樹脂となる前記AS樹脂の質量平均分子量は、30万以下である。本発明によれば、この範囲の質量平均分子量が小さい(17万よりも小さい)AS樹脂を含むABS樹脂又はASA樹脂では、冷熱サイクル性に劣り、この範囲よりも質量平均分子量が大きい(30万よりも大きい)AS樹脂を含むABS樹脂又はASA樹脂では、成形性が劣るため複雑な形状の樹脂成形が困難となる。
また、樹脂基材の表面に、接触させる酸化活性種は、樹脂基材の表面を活性化し、無電解めっきの被膜の密着性を確保することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、紫外線、オゾン(オゾンガス又はオゾン溶液)、クロム酸などの酸、プラズマなどを挙げることができる。より好ましくは、前記酸化活性種は、オゾンである。酸化活性種であるオゾンを、オゾンガス又はオゾン溶液を用いて接触させることにより、より複雑な形状の樹脂基材の表面を均一に酸化させて活性化することができるので、均一な被膜の密着強度を得ることができる。
また、本発明として、前記無電解めっき処理方法により製造された無電解めっき材をも開示する。本発明に係る無電解めっき材は、質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含むABS樹脂又はASA樹脂からなる樹脂基材の表面に、無電解めっき被膜が形成されていることを特徴とするものであり、より好ましくは、前記AS樹脂の質量平均分子量は、30万以下である。
通常、無電解めっき材は、酸化活性種を接触させた処理表面に、触媒を接触させる工程を前処理工程として行い、無電解めっき被膜を形成するので、本発明によれば、樹脂基材が質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含むABS樹脂又はASA樹脂からなる樹脂とすることにより、無電解めっき被膜の耐冷熱サイクル特性を向上させることができる。
本発明によれば、複雑な形状の樹脂基材であっても、冷熱サイクル性に優れた無電解めっき被膜を得ることができる。
以下に、本発明に係る無電解めっき材を製造するに好適な無電解めっき処理方法を、実施形態に基づいて説明する。
本実施形態に係るめっきの処理方法は、樹脂基材の表面に、無電解めっき被膜を被覆するためのめっき処理方法であり、めっき処理を行う樹脂基材として、質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含むABS樹脂からなる樹脂基材を用いる。
このABS樹脂は、アクリロニトリル−スチレン重合体(AS樹脂)をマトリクス樹脂として、このマトリクス樹脂にブタジエンゴム(B)を分散させた樹脂である。具体的な製造方法としては、まず、質量平均分子量17万以上となるように、AS共重合体(アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(AS樹脂))を合成する。また、成形性を考慮すると、質量平均分子量30万以下であることが好ましく、これらの条件を満たすものであれば、AS樹脂のアクリロニトリルとスチレンの割合は特に限定されるものではなく、一般的な比率であり、アクリロニトリルとスチレンの割合は、質量比で10:90〜60:40であり、好ましくは、15:85〜55:45、より好ましくは20:80〜50:50である。アクリロニトリルが10質量%未満であった場合には、本発明の目的であるめっき密着強度、サーマルサイクル性に劣る傾向があり、また、60質量%を超える場合には、ABS樹脂の流動性が悪化する傾向にあるためである。
次に、ABS共重合体(ポリブタジエンゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)を製造する。このようにして得られたAS樹脂およびABS共重合体を所定の割合で加熱して混合し、質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含むABS樹脂を製造することができる。
ここで、AS樹脂の製造時に、例えばt−ドテシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの連鎖移動剤の添加量を調整することにより、AS樹脂の平均分子量を調整することができる。
また、ABS共重合体は、グラフト重合法(グラフト共重合法)により製造されるので、ゴム相とマトリクス相の親和性を高め、種々の材料特性を向上させることができる。なお、ここでは、ABS樹脂の製造方法を示したが、ABS共重合体(ポリブタジエンゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)の替わりに、ASA共重合体(アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト共重合した共重合体)を製造し、これと上に示すAS樹脂とを加熱混合して、ASA樹脂を樹脂基材の素材としてもよい。
そして、このようにして得られたABS樹脂から基材(樹脂基材)を成形する成形工程を行う。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用できる。
次に、樹脂基材の表面に、酸化活性種としてオゾン水を接触させるオゾン水処理工程を行う。このオゾン処理工程において、少なくとも基材の処理表面(樹脂表面)にオゾン水(オゾンが溶存した水)を接触させて、処理表面となる基材表面を含む表面層の改質(活性化)を行う。
ここでは、活性化(改質)時に、溶液中のオゾンによる酸化によって基材の表面の少なくとも一部の不飽和結合が切断され、オゾニド、メチロール基あるいはカルボニル基などが生成すると考えられる。このメチロール基、カルボニル基などは金属原子と化学結合を形成し得る官能基であるため、後述する無電解めっきによるめっき被膜と強く結合するので、めっき被膜と基材との付着強度を向上させることができる。
オゾン水を基材の処理表面に接触の方法としては、基材の処理表面にオゾン水をスプレーにより塗布してもよく、基材をオゾン水中に浸漬してもよい。なお、本実施形態では、オゾン水を用いたがオゾンが溶存できる溶液であり、さらに、基材にダメージを与えるものでなければ、オゾンが溶存する溶媒は水に限定されるものではない。
このようにして得られた樹脂基材の処理表面に、無電解めっき被膜を形成する。無電解めっきは、以下の一連の処理工程を行うことによりなされる。この一連の工程とは、(1)オゾンにより活性化(改質)された樹脂基材の表面に付着させるための界面活性剤を含むアルカリ溶液を接触させるアルカリ工程、(2)アルカリ溶液を接触させた後の界面活性剤が付着した樹脂基材の表面に、触媒を吸着させる触媒吸着工程、(3)触媒を吸着させた後の樹脂基材の表面に、金属イオンと還元剤とを含むめっき液を接触させ、金属イオンを還元して樹脂基材の表面に、めっき被膜を析出させる無電解めっき処理工程を含むものである。
具体的には、(1)に示すアルカリ処理工程において、オゾン水処理後の処理表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させる。界面活性剤は、後述するパラジウムなどの触媒の吸着性を高めるためのものであり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を挙げることができる。アルカリ溶液のアルカリ成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを挙げることができ、樹脂基材の表面を分子レベルで溶解して脆化層を除去するとともに、ナトリウムなどのアルカリ金属を処理表面に付与することができる。さらに、界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。
またアルカリ溶液を樹脂基材と接触させるには、オゾン水処理と同様に、樹脂基材を溶液中に浸漬する方法、スプレー等により表面に溶液を塗布する方法、などを挙げることができる。この工程後、塩酸等の酸により、中和処理(プレディップ処理)を行うことがより好ましい。アルカリ処理工程により、後述する触媒吸着工程において、処理表面へのパラジウム触媒の吸着性を高めることができるが、所望の量のパラジウム触媒を吸着することができるであれば、このアルカリ処理工程を省略してもよい。
次に、(2)に示すこの触媒吸着工程において、アルカリ処理された処理表面に触媒を吸着させる。この触媒としては、パラジウム、銀、コバルト、ニッケル、ルテニウム、セリウム、鉄、マンガン、ロジウムなどの金属触媒を挙げることができ、これらの組み合わせであってもよい。ここで、パラジウムを触媒として、基材表面に吸着させようとした場合には、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中(キャタライザー)に浸漬する。これにより、基材の処理表面にパラジウム触媒を吸着させることができる。そして、処理表面を酸性溶液に接触させて、パラジウム触媒の活性化を図る。
(3)に示す無電解めっき処理工程を行う。無電解めっき処理工程において、該触媒吸着後の処理表面に、ニッケル又は銅などの金属をめっき液に浸漬させて、この金属を表面に析出させて、触媒が吸着した処理表面に無電解めっき被膜を被覆する。
このようにして、質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含むABS樹脂又はASA樹脂からなる樹脂基材の表面に、無電解めっき被膜が形成された、耐冷熱サイクルに優れた無電解めっき材を得ることができる。
なお、更なる工程として、半光沢ニッケルめっき処理、光沢ニッケルめっき処理、ジュールニッケルめっき処理等を順次行ってもよく、さらに、意匠性を高めるためのクロムめっきを行ってもよい。
本発明を実施例により以下に具体的に説明する。なお、以下の実施例に本発明は限定されるものではない。
(実施例1)
出発材料として、以下のABSグラフト樹脂(グラフト共重合体)、ASAグラフト樹脂(グラフト共重合体)、及びAS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)を製作した。
[ABSグラフト樹脂(グラフト共重合体)の合成]
固形分35質量%、平均粒子径0.28μmのポリブタジエンラテックス50質量部(固形分)、不均化ロジン酸カリウム2.5質量部、無水ピロリン酸ソーダ0.2質量部、硫酸第一鉄0.01質量部、デキストローズ0.35質量部、イオン交換水200質量部を反応釜に仕込み、重合温度40℃にして、スチレン35質量部、アクリロニトリル15質量部、クメンハイドロパーオキサイド0.15質量部からなる混合物を、反応釜内に120分かけて滴下し、その後1時間保持することで、グラフト重合を行った。
得られた重合体ゴムラテックスに、ブチル化ヒドロキシトルエン(抗酸化剤)2質量部、ジラウリルチオプロピオネート0.5質量部を加え、5%硫酸水溶液で凝固させ、洗浄・乾燥した。これにより、ブタジエンゴムをアクリロニトリル−スチレン重合体マトリクスに分散させた、グラフト共重合体(ABSグラフト樹脂)の乾燥粉末を得た。
[ASAグラフト樹脂(グラフト共重合体)の合成]
固形分35質量%、平均粒子径0.36μmのポリブタジエンラテックス20質量部(固形分)を反応釜に仕込み、不均化ロジン酸カリウム1質量部、及びイオン交換水150質量部に、さらに、n−ブチルアクリレート80質量部、アクリルメタクリレート0.32質量部、及びエチレングリコートジメタクリレート0.16質量の単量体混合物を加えて、反応釜内のガスの窒素置換を行い、50℃(釜内温)に昇温した。これに、10質量部のイオン交換水に硫酸第一鉄0.0002質量部、エチレンジエミン四酢酸二ナトリウム塩0.0006質量部、及びロンガリット0.25質量部を溶解した溶液を加えた。
反応終了後の釜内温は、75℃になったので、釜内温をさらに80℃に昇温し、1時間反応を続けることにより、重合率が98.8質量%に達し、肥大化ジエン系ゴムとポリアクリレート系ゴムの複合ゴムを得た。この複合ゴムラテックス50質量部(固形分)を反応釜に取り、イオン交換水140質量部を加えて希釈し、70℃に昇温した。
一方、アクリロニトリル/スチレン=29/71(質量比)からなる単量体混合物を50質量部調製し、ベンゾイルパーオキサイド0.35質量部を溶解した後、窒素置換をした。定量ポンプを使用し、この単量体混合物15質量部/時間の速度で反応釜に加えた。全量混合後、系内温度を80℃に昇温し、30分間攪拌を続け、グラフト共重合体を得た。重合率は、99質量%であった。
得られたラテックスを、凝固槽内において、全ラテックスの3倍量の硫酸0.5%水溶液(90℃)中に攪拌しながら投入し、凝固させた。全ラテックスを添加終了後、凝固槽内の温度を93℃に昇温し、このまま5分間放置した。これを冷却後、遠心分離機により、脱液・洗浄を行い、これを乾燥してグラフト共重合体(ASAグラフト樹脂)の乾燥粉末を得た。
[アクリロニトリル−スチレン共重合体の合成]
アクリロニトリル29質量部、スチレン71質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.11質量部、t−ドテシルメルカプタン0.24質量部、リン酸カルシウム0.50質量部、イオン交換水150質量部を100Lオートクレーブに仕込み、均一にこれらが分散するように攪拌させた。系内分散を確認した後、75℃に昇温し、3時間温度保持して、重合反応させた。その後、110℃まで昇温し、30分間熟成させた。冷却後に脱水して共重合体を分離し、これを洗浄し、乾燥することによって、質量平均分子量17万のアクリロニトリル−スチレン共重合体の粉末を得た。なお、ここで、質量平均分子量は、アクリロニトリル−スチレン共重合体0.12gをテトラヒドロフラン50mlに溶解させた溶液を調剤し、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン試料を基準にポリスチレン換算により求められた値である。
[ABS樹脂の製作]
ここで、上述したABSグラフト樹脂32質量部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体68質量部とを配合し、抗酸化剤0.2部、金属石鹸0.2部、滑剤0.4部を加え、ヘンシェルミキサーで5分間(3000rpm)混合した後、シリンダー温度230℃で押出しペレット化し、めっき基材の素材となるABS樹脂を製作した。
[ASA樹脂の製作]
ここで、上述したASAグラフト樹脂32質量部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体68質量部とを配合し、抗酸化剤0.2部、金属石鹸0.2部、滑剤0.4部を加え、ヘンシェルミキサーで5分間(3000rpm)混合した後、シリンダー温度230℃で押出しペレット化し、めっき基材の素材となるABS樹脂を製作した。
[めっき処理方法]
<酸化活性種による処理(オゾン水処理)>
このABS樹脂及びASA樹脂のぞれぞれに対して、この樹脂で所定のエンブレムの形状に成形して基材とし、この基材に対してオゾン水処理を行った。具体的には、20℃で、30ppmのオゾン水に、8分間浸漬させた。次に、70℃、2時間の条件でアニーリング処理(熱処理)を行った。
<アルカリ処理工程>
NaOH(アルカリ成分)50g/Lと、ラウリル硫酸ナトリウム(陰イオン性界面活性剤)1gLと、を溶解させたアルカリ溶液を50℃に加熱して、2分間浸漬した。
<触媒吸着工程>
アルカリ処理後の基材を水洗後、塩酸水溶液に塩化パラジウム(PdCl)0.1g/Lと、塩化スズ(SnCl)5g/Lと、を溶解した溶液に、処理温度30℃、浸漬時間3分の条件で、触媒化処理を行った。次いで、活性化処理工程として、10質量%の硫酸水溶液に、処理温度50℃、浸漬時間1分間の条件で、活性化処理を行い、Pd−Snを酸化還元しSnを溶解除去し、Pd金属を析出した。
<無電解めっき工程>
次に、Pd金属が析出した基材に対して、無電解めっき処理として、硫酸ニッケル六水和物と、次亜リン酸ナトリウム―水和物(0.2M)を含むNi−Pめっき溶液に、処理温度40℃、浸漬時間5分の条件で、無電解ニッケルめっき被膜を被覆した。
<電気めっき工程>
次に、硫酸銅系の電気めっきにより、無電解ニッケルめっき被膜上に10μmの銅めっき被膜を被覆した。硫酸銅200グラム/リットル、硫酸50グラム/リットル、塩素イオン25ミリグラム/リットルを含むめっき溶液に、処理温度が30℃、4A/dmの条件で、無電解ニッケルめっき被膜の表面に、銅めっき被膜を被覆した。
次に、半光沢ニッケルめっき処理を行った。具体的には、ワット浴により、硫酸ニッケル六水和物300グラム/リットル、塩化ニッケル六水和物75グラム/リットル、及びホウ酸45グラム/リットルのめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度4A/dm、通電時間15分の条件で、光沢銅めっき被膜の表面に、半光沢ニッケルめっき被膜を被覆した。
次に、光沢ニッケルめっき処理を行った。具体的には、硫酸ニッケル六水和物300グラム/リットル、塩化ニッケル六水和物75グラム/リットル、ホウ酸50グラム/リットル、及び、適量の硫黄化合物を含有した光沢剤を含んだめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度4A/dm、通電時間15分の条件で、半光沢ニッケルめっき被膜の表面に、光沢ニッケルめっき被膜を形成した。光沢ニッケルめっき被膜と半光沢ニッケルめっき被膜との膜厚みは、合わせて10μmであった。
さらに、クロムめっき処理を行った。具体的には、無水クロム酸300グラム/リットル、硫酸3グラム/リットルのめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度50A/dm、通電時間2分の条件で、光沢ニッケルめっき被膜の表面に、クロムめっき被膜を被覆した。
このようにして、ABS樹脂を基材としためっき材および、ASA樹脂を基材としためっき材を製作した。
(実施例2)
実施例1と同じようにして、ABS樹脂、ASA樹脂を製造し、同じように、一連の処理を行って、めっき材を製作した。実施例1と相違する点は、アクリロニトリル−スチレン共重合体の合成の段階で、t−ドテシルメルカプタン0.13質量部として、質量平均分子量30万のアクリロニトリル−スチレン共重合体を製造し、これを用いて、ABS樹脂、ASA樹脂を製造した点である。
(比較例1)
実施例1と同じようにして、ABS樹脂、ASA樹脂を製造し、同じように、一連の処理を行って、めっき材を製作した。実施例1と相違する点は、アクリロニトリル−スチレン共重合体(B−2)の合成の段階で、t−ドテシルメルカプタン0.44質量部として、質量平均分子量11万のアクリロ二トリル−スチレン共重合体を製造し、これを用いて、ABS樹脂、ASA樹脂を製造した点である。
[評価方法]
実施例1,2及び比較例1で製作しためっき材に対して以下の試験を行った。
<耐サーマル試験>
製作した5個のめっき材に対して、−30℃、室温、70℃までの温度条件で、冷却−加熱−冷却を1サイクルとして、4回繰返し、めっき材(エンブレム表面)の外観の膨れの頻度を目視により評価した(評価法1)。また、さらに、めっき材(エンブレム)裏面の微小領域の膨れの頻度を観察し評価した(評価法2)。この結果を表1に示す。なお、この表1に示す割合は、良品の割合である。例えば、割合が100%とは、すべてのめっき材が良好であることを示している。なお、エンブレム表面と裏面の違いは、上の工程で、表面は、外観が意匠面であり、裏面は、ラジエターグリル等自動車の接触面とした点である。
Figure 0005552269
<密着強度試験>
上述したと同様の方法で、平板状のめっき材を作成し、めっき被膜に、幅1cm、長さ1cmの短冊状の切り込みを入れ、その試験片を用いて、JIS H 8630(密着性試験方法、付属書6)に準じ、めっき被膜の密着強度(gf/cm)を測定した。この結果を表2に示す。この試験を行う理由は、耐サーマル性とめっき被膜との相関を確認するためである。
Figure 0005552269
<成形性試験>
めっき前のABS樹脂、ASA樹脂に対して、メルトボリュームレート(MVR:cm/10min):ISO 1133(220℃/98N)に準拠した試験を行った。この結果を表3に示す。
Figure 0005552269
[結果]
表1に示すように、実施例1及び2のABS樹脂及びASA樹脂のエンブレムのいずれも、エンブレムの表面の外観において、温度変化によるめっき被膜の膨れはなく、耐サーマル性に優れている。さらに、実施例1と実施例2の結果からも明らかなように、AS樹脂の質量平均分子量が増加するに従って、耐サーマル性が向上していることがわかる。また、実施例1及び2は、比較例1に比べて、評価法2においてもエンブレムの裏面での膨れの頻度も少なく、良好であるといえる。この結果より、ABS樹脂及びASA樹脂に含まれるAS樹脂(マトリクス樹脂)は、質量平均分子量17万以上であることが必要である。
表1及び2から、めっきの密着力と耐サーマル性には、相関がないといえ、このことから、樹脂の靭性及び弾性が耐サーマル性に大きな影響を与えていると予想される。
さらに、表3から、AS樹脂(マトリクス樹脂)の分子量の増加により、ABS樹脂、ASA樹脂の成形性が低下するといえ、エンブレムなどの複雑な形状の成形品に成形使用とした場合には、AS樹脂の質量平均分子量は、30万以下であることがより好ましいと考えられる。
以上、本発明の実施の形態の具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。

Claims (2)

  1. 質量平均分子量17万以上のAS樹脂を含む、ASA樹脂からなる樹脂基材の処理表面に、オゾン水を接触させる工程と、
    オゾン水を接触させた樹脂基材の処理表面に、触媒を吸着させる触媒吸着工程と、
    該触媒が吸着させた処理表面に無電解めっきを行う工程と、を含むことを特徴とする無電解めっき処理方法。
  2. 前記AS樹脂の質量平均分子量は、30万以下であること特徴とする請求項1に記載の無電解めっき処理方法。
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