(第1実施形態)
以下、本発明を液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう。)に具体化した第1実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、各図中に矢印で示す「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいうものとする。また、この場合における「前後方向」はその後側から前側に向かう方向が記録媒体の搬送方向(副走査方向)に相当すると共に、「上下方向」は鉛直方向に相当し、「左右方向」は記録媒体の搬送方向と交差する幅方向(主走査方向)に相当する。
図1に示すように、プリンター11における箱体状をなす本体ケース12内の下部には、記録媒体の一例である記録用紙Pを記録時に支持するための支持部材13が、主走査方向X(図1において左右方向)に沿って延設されている。この支持部材13上には、紙送り機構(図示略)により記録用紙Pが主走査方向Xと交差する副走査方向Y(図1において後側から前側に向かう方向)に沿って給送されるようになっている。
また、本体ケース12内における支持部材13の上方には、この支持部材13の長手方向(左右方向)と平行な棒状のガイド軸14が架設されている。ガイド軸14には、その軸線方向(左右方向であって、主走査方向X)に往復移動可能な状態でキャリッジ15が支持されている。
また、本体ケース12の後壁内面においてガイド軸14の両端部と対応する各位置には、駆動プーリー16a及び従動プーリー16bが回転自在な状態で支持されている。駆動プーリー16aには、キャリッジ15を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター17の出力軸が連結されるとともに、これら一対のプーリー16a,16b間には、一部がキャリッジ15に連結された無端状のタイミングベルト18が掛装されている。したがって、キャリッジ15はガイド軸14にガイドされながら、キャリッジモーター17の駆動力により無端状のタイミングベルト18を介して主走査方向X(左右方向)に移動可能となっている。
キャリッジ15の下面側には、液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド19が設けられている。一方、キャリッジ15上には、液体の一例であるインクを収容する複数(本実施形態では4つ)のインクカートリッジ20が着脱可能に搭載されている。そして、インクカートリッジ20に収容されたインクは、インク供給路21を介して記録ヘッド19側となる下流側に供給されるようになっている。
また、記録ヘッド19の下面は、インクを噴射する複数のノズル22のノズル開口23が形成された水平なノズル形成面24になっている。ノズル形成面24には、記録用紙Pの搬送方向である副走査方向Y(前後方向)に沿って複数のノズル開口23が等間隔に離間した状態で連続配置されてなる複数のノズル列が、記録ヘッド19の主走査方向X(左右方向)に一定間隔をおいて並列するように配置されている。そして、記録ヘッド19は、支持部材13上に給送された記録用紙Pが記録ヘッド19の下方を通過するのにあわせてインクを噴射することにより、記録用紙Pの表面に対して記録を施すようになっている。
また、本体ケース12内における記録用紙Pが搬送される記録領域の右側は、プリンター11の電源切断時や記録ヘッド19をメンテナンスする場合にキャリッジ15の待機場所となるホームポジションHPになっている。また、キャリッジ15がホームポジションHPに配置されたときの下方となる位置には、記録ヘッド19のクリーニングを行うためのクリーニング装置25が設けられている。
次に、記録ヘッド19について詳述する。
図1中における楕円形の引き出し囲み枠で表示した一部拡大図及び図2に示すように、記録ヘッド19には、リザーバー26がノズル列に沿って前後方向に延びるように形成されている。また、記録ヘッド19には、リザーバー26の延設方向の複数位置から各ノズル22と個別に連通するキャビティ27と、このキャビティ27とリザーバー26とを連通する連通流路28とが形成されている。
さらに、図1の一部拡大図に示すように、キャビティ27に隣接する位置には、キャビティ27の一壁面を形成する振動板29を介して圧電素子30が配設されている。すなわち、圧電素子30が収縮及び伸張して振動板29を振動させることにより、キャビティ27の容積を変更してノズル22からインクを噴射させ、その噴射に伴ってキャビティ27内のインクが減少すると、連通流路28、リザーバー26及びインク供給路21を介してインクカートリッジ20側からインクが供給されるようになっている。
また、図1中の前述した一部拡大図及び図2に示すように、ノズル22は、キャビティ27側となる上流側からインクが充填されると、ノズル22内であって且つノズル形成面24に開口したノズル開口23の付近にメニスカスSfが形成される。なお、メニスカスSfとは、毛細管現象によってノズル22内のインクの中央部がノズル開口23から見てノズル22内に向けた凹面形状をなすように盛り上がってできる曲面のことである。このように、通常、記録ヘッド19のノズル22内に存在するインクには、メニスカスSfを形成可能とするべく、インクカートリッジ20側から記録ヘッド19側へのノズル開口23を介したインクの引き込み圧が微弱な負圧状態でもって存在している。
また、図2に示すように、インク供給路21における記録ヘッド19とインクカートリッジ20との間の位置には、記録ヘッド19側(下流側)の減圧に伴ってインクカートリッジ20側(上流側)から記録ヘッド19側へのインクの通過を許容し、インク供給路21内の圧力を調整可能とする弁の一種である差圧弁31が設けられている。
差圧弁31は、インク供給路21を介して接続された上流側のインクカートリッジ20から供給されるインクを一時貯留する貯留室32と、この貯留室32よりもインクの流動方向の下流側に位置して記録ヘッド19側にインクを供給する圧力室33とを有している。貯留室32と圧力室33は、両室を隔てる隔壁部34に貫通形成された貫通孔34aによって連通している。貫通孔34aには、貯留室32内に配置されたばね35により隔壁部34に当接する方向へ付勢されることで貫通孔34aを閉塞可能な弁体36の軸部36aが遊挿されている。そして、この弁体36が、ばね35の付勢力に抗して隔壁部34から離間する開弁方向に移動することにより、貫通孔34aが開放されて貯留室32と圧力室33とが連通状態となり、記録ヘッド19側へのインクの供給を許容するようになっている。
なお、圧力室33の壁面の一部(図2では後側壁)は、可撓性材料(例えば合成樹脂やゴムなど)よりなるフィルム37により構成されている。そして、そのフィルム37における圧力室33側となる面のうち弁体36の軸部36aが当接する箇所には例えばフィルム37とともに変位可能な図示しない片持ちの金属片(例えば櫛歯状金属片の一片)が取着されている。このように構成された差圧弁31では、記録ヘッド19のノズル22からインクが噴射されたりして圧力室33内のインク量が減少することに伴って圧力室33内が負圧状態になると、圧力室33内のインク圧と大気圧との差圧によって、フィルム37が圧力室33の内容積を減少させる方向(図2では前方向)に撓み変位することになる。
そして、この場合のフィルム37の撓み力がばね35の付勢力よりも大きくなると、弁体36が開弁方向に移動して貯留室32内のインクを圧力室33に流入させる一方、この圧力室33へのインクの流入によって圧力室33の負圧状態が解消されると、弁体36がばね35の付勢力によって再び閉弁方向に移動することになる。このように、差圧弁31は、弁体36が開弁方向及び閉弁方向への変位動作を繰り返すことにより、インク供給路21内の圧力を調整するようになっている。
次に、クリーニング装置25について詳述する。
図1及び図2に示すように、クリーニング装置25は、上側が開口した有底箱状をなすキャップ41と、キャップ41を上下方向に昇降移動させるための昇降機構42(図1にのみ図示)を備えている。キャップ41の周壁41aの上面全体には、可撓性材料(例えば合成樹脂やゴムなど)からなる四角枠状のシール部材43が配置されている。キャップ41は、昇降機構42の駆動に基づいてキャップ41が上下方向に昇降することにより、記録ヘッド19のノズル形成面24に対して接離する方向に変位可能になっている。そして、キャップ41は、記録ヘッド19のノズル形成面24に当接することで、ノズル形成面24のノズル開口23を囲うとともに、記録ヘッド19とキャップ41との間に閉空間域Rを囲み形成するようになっている。
また、図2に示すように、キャップ41の底壁41bにおける中央よりも前側寄りの位置には、キャップ41内からインクを排出させるための排出管44が下方に向かって突設されている。排出管44には、可撓性を有する排出チューブ45の基端側が接続されている。一方、排出チューブ45の先端側は、本体ケース12内の下部で排出インクを回収するための直方体形状をなす廃インクタンク46内に挿入されている。廃インクタンク46内には、廃インクを吸収して保持する多孔質材料からなるインク吸収材47が収容されている。そして、本実施形態では、排出管44及び排出チューブ45により、閉空間域Rに連通する第1流路の一例である排出流路48が構成されている。
この排出流路48の一部を構成する排出チューブ45におけるキャップ41と廃インクタンク46との間となる位置にはポンプ51が配置されている。このポンプ51は、略円筒状をなすポンプケース52を有したチューブポンプであり、そのポンプケース52内には、排出チューブ45の長さ方向の中間部がポンプケース52の内周壁に沿うように収容されている。また、ポンプケース52内には、このポンプケース52の軸心に設けられた回転可能な回転体53と、この回転体53の回転時にポンプケース52の内周面に沿って移動しながら排出チューブ45を押圧可能な一対の押圧ローラー54とが収容されている。
そして、このポンプ51では、回転体53を図2において実線矢印Aで示す反時計方向に回転させた場合に、押圧ローラー54が排出チューブ45の中間部をキャップ41側(上流側)から廃インクタンク46側(下流側)へ順次押し潰しながら回転するようになっている。そして、この回転により排出チューブ45内の空気が廃インクタンク46側(下流側)に追い出されて、ポンプ51よりもキャップ41側(上流側)の排出チューブ45の内部が減圧されるようになっている。
また、排出チューブ45におけるキャップ41とポンプ51との間の位置には、排出流路48を開閉可能な第1開閉弁55が設けられている。なお、第1開閉弁55は、任意に開閉操作を行うことができる弁であり、本実施形態では電磁制御弁により構成されている。
また、図2に示すように、キャップ内の底壁41bにおける中央よりも後側寄りの位置には、キャップ41内に大気(空気)を流入させるための流入管56が下方に向かって突設されている。流入管56には、可撓性を有する流入チューブ57の基端側が接続されている。一方、流入チューブ57の先端側は、キャップ41側(下流側)の負圧状態に伴って大気側(上流側)からキャップ41側(下流側)に向かって大気の通過を許容し、キャップ41側(下流側)の圧力を調整する圧力調整弁の一例である大気開放弁58に接続されている。そして、本実施形態では、流入管56、流入チューブ57及び大気開放弁58により、閉空間域に連通する第2流路の一例である流入流路59が構成されている。
大気開放弁58は、大気空間に連通する連通室61と、この連通室61よりも大気空間からの大気の流動方向の下流側(キャップ41側)に位置して閉空間域Rを形成したキャップ41側に大気を供給する圧力室62とを有している。連通室61と圧力室62は、両室を隔てる隔壁部63に貫通形成された貫通孔63aによって連通している。貫通孔63aには、連通室61内に配置されたばね64により隔壁部63に当接する方向へ付勢されることで貫通孔63aを閉塞可能な弁体65の軸部65aが遊挿されている。そして、この弁体65が、ばね64の付勢力に抗して隔壁部63から離間する開弁方向に移動することにより、貫通孔63aが開放されて連通室61と圧力室62とが連通状態となり、キャップ41側への大気(空気)の供給を許容するようになっている。
なお、差圧弁31の圧力室33と同様に、大気開放弁58における圧力室62の壁面の一部(図2では後側壁)は、可撓性材料(例えば合成樹脂やゴムなど)よりなるフィルム66により構成されている。そして、そのフィルム66における圧力室62側となる面のうち弁体65の軸部65aが当接する箇所には例えばフィルム66とともに変位可能な図示しない片持ちの金属片(例えば櫛歯状金属片の一片)が取着されている。このように構成された大気開放弁58では、流入流路59のキャップ41側(下流側)が負圧状態になって圧力室62内の大気が閉空間域Rを形成したキャップ41側へ供給されることに伴い圧力室62内が負圧状態になると、圧力室62内の圧力(負圧)と大気圧との差圧によって、フィルム66が圧力室62の内容積を減少させる方向(図2では前方向)に撓み変位することになる。
そして、この場合のフィルム66の撓み力がばね64の付勢力よりも大きくなると、弁体65が開弁方向に移動して連通室61内の大気を圧力室62に流入させる一方、この圧力室62への大気の流入によって圧力室62の負圧状態が解消されると、弁体65がばね64の付勢力によって再び閉弁方向に移動することになる。このように、大気開放弁58は、弁体65が開弁方向及び閉弁方向への変位動作を繰り返すことにより、大気開放弁58よりも下流側の流入流路59内の圧力を調整するようになっている。また、大気開放弁58は、閉空間域Rを形成したキャップ41側の負圧状態が圧力室62側からの大気の流入に伴い圧力変化した場合において、その負圧の絶対値が記録ヘッド19におけるノズル22にメニスカスSfを形成するためのノズル開口23を介したインクの引き込み圧の絶対値よりも小さくなる場合に、開状態の弁体65を閉状態にするようになっている。すなわち、そのように弁体65を閉弁方向及び開弁方向に移動させ得るように、ばね64の付勢力が調整されている。
また、流入チューブ57におけるキャップ41と大気開放弁58との間の位置には、流入流路59を開閉可能な第2開閉弁67が設けられている。なお、第2開閉弁67も、第1開閉弁55と同様に、任意に開閉操作を行うことができる弁であり、本実施形態では電磁制御弁により構成されている。
次に、上記のように構成されたプリンター11の作用について、特にクリーニング装置25がクリーニングを行う際の閉空間域Rの圧力変化に着目して説明する。
さて、プリンター11においては、インクカートリッジ20の交換時にノズル22内に気泡が混入したり、ノズル開口23からノズル22内に気泡が混入したりすることによりドット抜けが生じたりする。こうしたドット抜けに起因する記録品質の低下を抑制するため、プリンター11ではクリーニング装置25を用いてクリーニングが実行される。なお、図3(a)に示すように、クリーニングが実行される前は、差圧弁31、第1開閉弁55、第2開閉弁67及び大気開放弁58は閉状態になっているとともに、ポンプ51は駆動を停止している。
まず、クリーニングが開始されると、プリンター11はキャリッジ15をクリーニング装置25の上方域のホームポジションHPまで移動させ、キャップ41の直上位置にて停止させる。そして次に、昇降機構42がキャップ41を上昇させることにより、キャップ41におけるシール部材43の先端をノズル形成面24に対して当接させる。すると、ノズル形成面24とキャップ41との間に閉空間域Rが形成される。なお、図3(a)(b)に示すように、このときの閉空間域Rの圧力状態は大気圧P0となっている。
そして次に、図3(a)に示すように、蓄圧工程として、第1開閉弁55及び第2開閉弁67が閉弁している状態でポンプ51を駆動させる。すると、ポンプ51よりも上流側(キャップ41側)の排出チューブ45の内部が減圧されて、排出流路48における第1開閉弁55を境として閉空間域Rとは反対側となるポンプ51と第1開閉弁55との間の領域に負圧が蓄積される。なお、このときに排出流路48内に蓄積される負圧の変化状態を図3(b)においては一点鎖線で示している。
蓄圧工程が開始されて蓄圧時間t0が経過した後、排出工程として、プリンター11は、ポンプ51の駆動を停止するとともに第1開閉弁55を開状態にする。すると、閉空間域Rと排出流路48が連通するとともに、第1開閉弁55とポンプ51との間の領域の排出流路48に蓄積されていた負圧により閉空間域Rが一気に減圧されて、図3(b)に実線で示すように、閉空間域Rの圧力状態が大気圧P0から負圧P1となる。そして、この閉空間域Rの負圧状態により差圧弁31が開状態になってインクカートリッジ20側から記録ヘッド19側にインクが供給されるとともに、記録ヘッド19のノズル開口23からインクとともに気泡や増粘したインク等がキャップ41内に排出される。また、図3(b)に示すように、ノズル開口23から閉空間域R内にインクが排出されることにより、閉空間域Rの圧力状態は負圧P1から負圧P2へと大気圧P0の方向へ僅かに変化する。
排出工程が開始されて記録ヘッド19のノズル開口23からインクを排出する排出時間t1が経過するとともに閉空間域Rの圧力状態が負圧P1から負圧P2へと変化した後、プリンター11は、圧力変化工程における第1圧力変化工程として、第2開閉弁67を開状態にする。すると、閉空間域Rと流入流路59とが連通するとともに、閉空間域Rの負圧状態により、流入流路59を介して大気開放弁58が開状態になる。そして、閉空間域Rと大気空間とが連通して、流入流路59を通って大気が一気に閉空間域Rに流入することにより、閉空間域Rの圧力状態が負圧P2から急激に大気圧P0となる方向に変化する。
ここで、記録ヘッド19のノズル22内に存在するインクには、ノズル開口23からノズル22内に向けた凹状のメニスカスを形成可能とするべく、インクカートリッジ20側から記録ヘッド19へのノズル開口23を介して引き込み圧が存在している。そのため、流入流路59を介した閉空間域Rへの大気の流入により、閉空間域Rの負圧の絶対値が記録ヘッド19へのノズル開口23を介したインクの引き込み圧の絶対値よりも小さくなった場合には、ノズル22内に閉空間域Rの大気が引き込まれることになる。しかし、開状態となっている大気開放弁58は、閉空間域Rの負圧の絶対値が記録ヘッド19へのノズル開口23を介したインクの引き込み圧の絶対値と等しくなったときに、すなわち、引き込み圧の絶対値よりも小さくなる前に閉弁するようになっている。そのため、第1圧力変化工程において、大気開放弁58は、閉空間域Rに記録ヘッド19におけるインクの引き込み圧と圧力絶対値が等しい大きさの負圧P3を残存させた状態で、閉空間域Rに対する大気の流入を停止する。その結果、図3(b)に示すように、第1圧力変化工程における閉空間域Rの圧力変化は、負圧P2から負圧P3まで急激に変化した後、大気圧P0になる手前で停止する。このとき、大気開放弁58が閉状態になるのと同時に差圧弁31も閉状態となる。そのため、記録ヘッド19のノズル開口23からのインクの排出も停止する。なお、大気開放弁58を閉弁させるときの閉空間域R内に残存させる負圧P3の大きさに関して、記録ヘッド19へのノズル開口を介したインクの引き込み圧の絶対値と等しくなったときとは、上記負圧P2の1/10〜上記引き込み圧の1/2の圧力範囲の圧力値になったときを意味するものとする。
第1圧力変化工程において、閉空間域Rの急激な圧力変化が停止した後、プリンター11は、圧力変化工程の第2圧力変化工程として、閉空間域Rへの大気の流入が停止した状態で閉空間域Rに残存する負圧P3を大気圧P0となる方向に変化させる。その結果、図3(b)に示すように、閉空間域Rの残存した僅かな負圧P3は、排出流路48を介して自然に緩やかに大気圧P0へと変化する。このとき、記録ヘッド19のノズル22ではわずかにインクが吸引されるため、ノズル開口23付近のインクのメニスカスSfが整えられる。また、圧力変化工程において閉空間域Rの圧力状態を負圧P2から大気圧P0となるまで圧力変化させる際に、第1圧力変化工程に要する時間は短い。そのため、閉空間域Rの圧力状態が負圧P2から大気圧P0まで変化する圧力変化時間t2は、そのほとんどが第2圧力変化工程に要する時間となる。そして、この圧力変化時間t2は排出時間t1よりも長く(t1<t2)なる。
圧力変化工程が開始されて圧力変化時間t2が経過した後、昇降機構42はキャップ41を元の位置まで降下させるとともに、ポンプ51を駆動させてキャップ41内を空吸引することにより、キャップ41内に残存するインクを廃インクタンク46内に排出する。そして、クリーニング装置25によるクリーニングが終了する。
また、プリンター11では、一度のクリーニングではノズル22が復帰しない場合に、クリーニングにおける蓄圧工程、排出工程及び圧力変化工程を順番に複数回(本実施形態では一例として3回)繰り返し実行する連続クリーニングを行う。このとき、図4に示すように、1回目の圧力変化工程が開始した後、圧力変化時間t2が経過する前に2回目の蓄圧工程を開始する。すなわち、閉空間域Rの負圧状態が負圧P2から大気圧P0へと圧力変化する前に、第1開閉弁55を閉状態にするとともにポンプ51を駆動する。そして、2回目の圧力変化工程が開始した後、圧力変化時間t2が経過する前に3回目の蓄圧工程を開始する。換言すると、圧力変化工程の開始後において次の蓄圧工程が開始するまでの時間を開始時間t3とすると、開始時間t3は、圧力変化時間t2よりも短く(t2>t3)なっている。そして、3回目の圧力変化工程では、第2圧力変化工程において閉空間域Rの圧力状態を大気圧P0となるまで圧力変化させた後、連続クリーニングを終了する。そのため、閉空間域Rの圧力状態は1回目及び2回目の圧力変化工程において大気圧付近まで変化するものの、連続クリーニングの間、常に負圧状態となる。
以上詳述した第1実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)圧力変化工程において、まず流入流路59を介して大気が負圧状態の閉空間域Rに流入することにより、閉空間域Rの負圧状態は大気圧状態となる方向に急激に圧力変化する。そして次には、そのように大気圧状態となる方向に圧力変化している閉空間域Rに負圧を残存させた状態で流入流路59を介した閉空間域Rへの大気の流入が停止される。そして、その後、閉空間域Rの残存する負圧状態は排出流路48を介した緩やかな圧力変化により大気圧状態まで戻る。そのため、閉空間域Rの圧力状態が急激に大気圧状態になってしまうことを抑制することができ、記録ヘッド19のノズル開口23からノズル22内に閉空間域Rの大気を引き込むことを抑制することができる。したがって、クリーニングに伴うインクの消費を抑制しつつ、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができる。
(2)第1圧力変化工程における負圧状態から大気圧状態への急激な圧力変化は閉空間域Rに負圧を残した状態で停止される。そして、第2圧力変化工程において、閉空間域Rに残存した負圧による負圧状態が第1圧力変化工程のときよりも緩やかに大気圧状態となる方向に圧力変化する。したがって、緩やかに大気圧状態にすることができ、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを効果的に抑制することができる。
(3)閉空間域Rの負圧状態は、その負圧の絶対値が閉空間域Rへの大気の流入により記録ヘッド19におけるノズル開口23を介したインクの引き込み圧の絶対値よりも小さくなるまで急激に圧力変化することはない。換言すると、閉空間域Rへの大気の流入により閉空間域Rの負圧状態が大気圧状態となる方向に圧力変化しても、閉空間域R側からノズル開口23を介して記録ヘッド19内に向かう押圧力を発生させることはない。そのため、記録ヘッド19のノズル開口23からノズル22内に大気を引き込むことが抑制される。したがって、クリーニングに伴うインクの消費を抑制しつつ、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどをより抑制することができる。
(4)圧力変化工程では、閉空間域Rの負圧状態を大気圧状態となる方向に圧力変化させる時間t2のほとんどを使って、吸引をほとんど行わずに時間をかけて閉空間域Rの負圧状態が自然に大気圧状態となるまで緩やかに圧力変化させることができるため、ノズル22内のメニスカスSfを整えることができる。したがって、正常なノズル22のメニスカスの破壊をさらに抑制することができる。
(5)連続クリーニングでは、ノズル回復効果が高い大気圧付近から正圧方向に圧力差を設けた吸引を複数回行うため、一度の吸引ではノズル22の回復が見込めないような気泡がノズル内に存在している場合であっても、少ないインクの消費量で効果的にノズル22の気泡を除去することができる。したがって、クリーニングに伴うインクの消費をより抑制することができる。
(6)連続クリーニングでは、蓄圧工程、排出工程及び圧力変化工程を複数回繰り返して行う場合に、圧力変化工程において閉空間域Rの圧力が大気圧P0になる前に、次の蓄圧工程が始まり閉空間域Rの圧力状態の変化が停止する。そのため、常に閉空間域Rを負圧状態で維持することができる。したがって、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができる。
(7)ポンプ51の駆動に基づき発生した負圧により負圧状態になった閉空間域Rに大気を流入させることにより、閉空間域Rの負圧状態は急激に大気圧状態となる方向に変化するが、大気圧状態となる手前で大気開放弁58が閉弁することにより閉空間域Rに負圧を残した状態で急激な大気圧状態への圧力変化は停止する。そのため、閉空間域Rの負圧状態が大気圧状態となるまで急激に圧力変化することを抑制でき、記録ヘッド19のノズル開口23からノズル22内に閉空間域Rの大気を引き込むことを抑制することができる。したがって、クリーニングに伴うインクの消費を抑制しつつ、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図5及び図6に基づいて説明する。なお、第2実施形態は第1実施形態と対比すると、クリーニング装置25の構成が一部の点で異なっており、その他は第1実施形態とほぼ同一の構成である。そのため、以下では第1実施形態と相違する点について主に説明することにし、同一の構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図5に示すように、第2実施形態のクリーニング装置25では流入流路59の一部を構成する流入チューブ57の先端側が大気開放されている。また、流入チューブ57において、この流入チューブ57の先端側と第2開閉弁67との間にはポンプ71が大気開放弁58の代わりに配置されている。このポンプ71は、排出チューブ45におけるキャップ41と廃インクタンク46との間に配置されているポンプ51とほぼ同様の構成をしたチューブポンプである。本実施形態では、以下、排出チューブ45に配置されたポンプ51のことを第1ポンプ51、流入チューブ57に配置されたポンプ71のことを第2ポンプ71と称する。
第2ポンプ71は略円筒状をなすポンプケース72を有しているとともに、このポンプケース72内には、流入チューブ57の長さ方向の中間部がポンプケース72の内周壁に沿うように収容されている。また、ポンプケース72内には、このポンプケース72の軸心に設けられた回転可能な回転体73と、この回転体73の回転時にポンプケース72の内周面に沿って移動しながら排出チューブ45を押圧可能な一対の押圧ローラー74とが収容されている。そして、第2ポンプ71では、回転体73を図5において実線矢印Bで示す反時計方向に回転させると、押圧ローラー74が流入チューブ57の中間部を流入チューブ57の先端側(上流側)からキャップ41側(下流側)へ順次押し潰しながら回転することにより流入チューブ57内の空気がキャップ41側(下流側)に送られるようになっている。また、第2ポンプ71は、回転体73の回転数を変化させることが可能となっている。
次に、上記のように構成されたプリンター11の作用について図6(a)(b)に基づいて説明する。なお、図6(a)に示すように、クリーニングが実行される前は、差圧弁31、第1開閉弁55及び第2開閉弁67は閉状態となっているとともに、第1ポンプ51及び第2ポンプ71は駆動を停止している。
さて、クリーニングが開始されると、第1実施形態の場合と同様に、プリンター11はキャリッジ15をクリーニング装置25の上方域のホームポジションHPまで移動させ、キャップ41の直上位置にて停止させる。そして次に、昇降機構42がキャップ41を上昇させることにより、キャップ41におけるシール部材43の先端をノズル形成面24に対して当接させる。なお、図6(a)(b)に示すように、このときの閉空間域Rの圧力状態は大気圧P0となっている。
そして次に、図6(a)に示すように、蓄圧工程として、第1開閉弁55及び第2開閉弁67が閉弁している状態で第1ポンプ51及び第2ポンプ71を駆動させる。すると、第1ポンプ51よりも上流側の排出チューブ45の内部が減圧されて、排出流路48における第1開閉弁55を境として閉空間域Rとは反対側となる第1ポンプ51と第1開閉弁55との間の領域に負圧が蓄積される。また、第2ポンプ71よりも下流側の流入チューブ57の内部において大気が圧縮されて、流入流路59における第2開閉弁67を境として閉空間域Rとは反対側となる第2ポンプ71と第2開閉弁67との間の領域に正圧が蓄積される。なお、図6(b)において、排出流路48内に蓄積される負圧を一点鎖線で、流入流路59内に蓄積される正圧を二点鎖線で示している。
蓄圧工程が開始されて蓄圧時間t0が経過した後、排出工程として、プリンター11は、第1ポンプ51及び第2ポンプ71の駆動を停止するとともに第1開閉弁55を開状態にする。すると、閉空間域Rと排出流路48とが連通するとともに、第1開閉弁55と第1ポンプ51との間の領域の排出流路48に蓄積されていた負圧により閉空間域Rが一気に減圧されて、図6(b)に実線で示すように、閉空間域Rの圧力状態が大気圧P0から負圧P1となる。そして、この閉空間域Rの負圧状態により差圧弁31が開状態になってインクカートリッジ20側から記録ヘッド19側にインクが供給されるとともに、記録ヘッド19のノズル開口23からインクとともに気泡や増粘したインク等がキャップ41内に排出される。
排出工程が開始されて記録ヘッド19のノズル開口23からインクを排出する排出時間t1が経過するとともに閉空間域Rの圧力状態が負圧P1から負圧P2へと変化した後、プリンター11は、圧力変化工程における第1圧力変化工程として、第2開閉弁67を開状態にする。すると、閉空間域Rと流入流路59とが連通するとともに、流入流路59内に蓄積された正圧P4が一気に閉空間域Rに加圧供給されることにより、閉空間域Rの圧力状態が負圧P2から急激に大気圧P0となる方向に変化する。
また、第2ポンプ71により圧縮されるとともに閉空間域Rに一気に付与された大気は、閉空間域Rを速い速度で記録ヘッド19のノズル形成面24と平行に流入管56から排出管44に向かって移動する。すなわち、流入管56から閉空間域R内に加圧供給された大気は、ノズル開口23からキャップ41の内底面となる底壁41bに向かって排出されるインクの流れに対して交差する方向に向かって移動した後、排出管44から排出チューブ45に排出される。そして、この大気の流れによって、ノズル開口23から排出されるインクの流れが、ノズル形成面24とキャップ41の底壁41bとの間の領域で切断される。
また、閉空間域Rに付与される正圧P4の大きさは、閉空間域Rに付与される負圧P1の大きさよりも小さくなるように予め定められており、下記の式によって算出される。
P1V1+P4V2=P3(V1+V2−Vi)
ここで、P1は閉空間域Rに付与される負圧、V1は閉空間域Rの容積、P4は閉空間域Rに付与される正圧、V2は圧縮された大気が蓄積される第2ポンプ71と第2開閉弁67との間の領域の流入流路59の容積、P3は閉空間域Rに残存させる負圧、Viは記録ヘッド19のノズル開口23から排出されるインク量である。そして、第1の圧力変化工程において、閉空間域Rに記録ヘッド19におけるノズル開口23を介したインクの引き込み圧と圧力絶対値の大きさが等しい負圧P3を残存させた状態で閉空間域Rに対する大気の加圧供給が停止する。その結果、図6(b)に示すように、第1圧力変化工程における閉空間域Rの圧力変化は、負圧P2から負圧P3まで急激に変化した後、停止する。この点で、第2ポンプ71は、圧力調整手段として機能する。また、このとき、差圧弁31は閉状態となる。
第1圧力変化工程において、閉空間域Rの急激な圧力変化が停止した後、第2圧力変化工程として、閉空間域Rへの大気の流入が停止した状態で閉空間域Rに残存する負圧P3を大気圧P0となる方向に変化させる。その結果、図6(b)に実線で示すように、閉空間域Rの残存した負圧P3は、排出流路48を介して自然に緩やかに大気圧P0へと変化する。このとき、記録ヘッド19のノズル22ではわずかにインクが吸引されるため、ノズル開口23付近のインクのメニスカスSfが整えられる。
圧力変化工程が開始されて圧力変化時間t2が経過した後、昇降機構42はキャップ41を元の位置まで降下させるとともに、キャップ41内を空吸引することによりキャップ41内に残存するインクを廃インクタンク46内に排出する。そして、クリーニング装置25によるクリーニングが終了する。
また、第1実施形態の場合と同様に、一度のクリーニングではノズル22が復帰しない場合は、クリーニングにおける蓄圧工程、排出工程及び圧力変化工程を順番に複数回繰り返し実行する連続クリーニングが行われる。
以上詳述した第2実施形態によれば、上記(1)〜(6)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(8)第1ポンプ51の駆動及び第1開閉弁55の閉弁状態から開弁状態への移行により負圧状態になった閉空間域Rに、第2ポンプ71の駆動及び第2開閉弁67の閉弁状態から開弁状態への移行に伴って正圧に蓄圧された大気を加圧供給することにより、閉空間域Rの負圧状態は急激に大気圧状態となる方向に圧力変化する。そして、この場合の急激な圧力変化は、閉空間域Rの負圧状態が大気圧状態となる手前で第2ポンプ71が駆動を停止することにより、閉空間域Rに負圧を残した状態で停止する。そのため、閉空間域Rの負圧状態が大気圧状態となるまで急激に圧力変化することを抑制でき、記録ヘッド19のノズル開口23からノズル22内に閉空間域Rの大気を引き込むことを抑制することができる。したがって、クリーニングに伴うインクの消費をより抑制しつつ、正常なノズル22のメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができる。
(9)第2ポンプ71により圧力絶対値の大きさが規定された正圧を一気にキャップ41内に形成された閉空間域Rに付与することができる。そして、その第2ポンプ71の駆動により、閉空間域Rの負圧状態を速やかに大気圧状態となる方向に圧力変化させることができるとともに、そのような圧力変化を閉空間域Rが大気圧状態となる手前で容易に停止することができる。また、第2ポンプ71により圧縮されるとともに閉空間域Rに一気に付与された大気によって、ノズル開口23からキャップ41の底壁41bに向かって流れるインクの流れを記録ヘッドのノズル形成面24とキャップ41の底壁41bとの間で切断することができる。したがって、クリーニングによるノズル形成面24に対するインクの付着を抑制することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図7及び図8に基づいて説明する。なお、第3実施形態は第1及び第2実施形態と対比すると、クリーニング装置25の構成が一部の点で異なっており、その他は第1及び第2実施形態及びとほぼ同一の構成である。そのため、以下では第1及び第2実施形態と相違する点について主に説明することにし、同一の構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図7に示すように、第3実施形態のクリーニング装置25では、排出流路48及び流入流路59の途中に同じ1つのチューブポンプであるポンプ81が配置されている。
すなわち、ポンプ81は略円筒状をなすポンプケース82を有しているとともに、このポンプケース内には、排出チューブ45の長さ方向の中間部がポンプケース82の内壁面に沿って収容されている。ポンプケース82内に収容された排出チューブ45は、キャップ41側から廃インクタンク46側に向かって、図7における時計方向に一回転するように配置されている。また、ポンプケース82内には、流入チューブ57の長さ方向の中間部がポンプケース82の内壁面に沿って排出チューブ45と左右方向で重なり合うように収容されている。このポンプケース82内に収容された流入チューブ57は、キャップ41側から大気空間側となる先端側に向かって図7における反時計方向に一回転するように配置されている。
また、ポンプケース82内には、このポンプケース82の軸心に設けられた回転可能な回転体83と、この回転体83の回転時にポンプケース82の内周面に沿って移動しながら排出チューブ45及び流入チューブ57を同時に押圧可能な一対の押圧部材としての押圧ローラー84とが収容されている。そして、回転体83を図7において実線矢印Cで示す時計方向に回転させると、押圧ローラー84が排出チューブ45及び流入チューブ57の中間部を順次押し潰しながら回転することによりポンプ81よりもキャップ側の排出チューブ45の内部が減圧されるとともに、ポンプ81よりもキャップ側の流入チューブ57の内部が加圧されるようになっている。また、流入チューブ57の径は排出チューブ45の径よりも小さくなっている。
次に、上記のように構成されたプリンター11の作用について図8(a)(b)に基づいて説明する。なお、図8(a)に示すように、クリーニングが実行される前は、差圧弁31、第1開閉弁55及び第2開閉弁67は閉状態となっているとともに、ポンプ81は駆動を停止している。
さて、クリーニングが開始されると、第1及び第2実施形態の場合と同様に、プリンター11はキャリッジ15をクリーニング装置25の上方域のホームポジションHPまで移動させ、キャップ41の直上位置にて停止させる。そして次に、昇降機構42がキャップ41を上昇させることにより、キャップ41におけるシール部材43の先端をノズル形成面24に対して当接させる。なお、図8(a)(b)に示すように、このときの閉空間域Rの圧力状態は大気圧P0となっている。
そして次に、図8(a)に示すように、蓄圧工程として、第1開閉弁55及び第2開閉弁67が閉弁している状態でポンプ81を駆動させる。すると、排出流路48におけるポンプ81と第1開閉弁55との間の領域の排出流路48内に負圧が蓄積されるとともに、流入流路59におけるポンプ81と第2開閉弁67との間の領域の流入流路59内に正圧が蓄積される。なお、図8(b)において、排出流路48内に蓄積される負圧を一点鎖線で、流入流路59内に蓄積される正圧を二点鎖線で示している。ここで、流入チューブ57の径は排出チューブ45の径よりも小さくなっているため、流入流路59内に蓄積される正圧の大きさは、排出流路48内に蓄積される負圧の大きさよりも小さくなる。
蓄圧工程が開始されて蓄圧時間t0が経過した後、排出工程として、プリンター11は、ポンプ81の駆動を停止するとともに第1開閉弁55を開状態にする。すると、図8(b)に示すように、閉空間域Rが一気に減圧されて、閉空間域Rの圧力状態が大気圧P0から負圧P1となる。そして、閉空間域Rの負圧状態により差圧弁31が開状態になるとともに、記録ヘッドのノズル開口23からインクとともに気泡や増粘したインク等がキャップ41内に排出される。
排出工程が開始されて排出時間t1が経過するとともに閉空間域Rの圧力状態が負圧P1から負圧P2へと変化した後、プリンター11は、圧力変化工程における第1圧力変化工程として、第2開閉弁67を開状態にする。すると、流入流路59内に蓄積された正圧P4が一気に閉空間域Rに加圧供給されることにより、閉空間域Rの圧力状態が負圧P2から急激に大気圧P0となる方向に変化する。また、閉空間域Rに一気に付与された大気は、閉空間域Rを速い速度で記録ヘッド19のノズル形成面24と平行に流入管56から排出管44に向かって移動することにより、ノズル開口23から排出されるインクの流れをノズル形成面24とキャップ41の底壁41bとの間の領域で切断する。
また、閉空間域Rに付与される正圧P4の大きさは閉空間域Rに付与される負圧P1の大きさよりも圧力絶対値が小さいため、第1の圧力変化工程において、閉空間域Rに負圧を残存させた状態で閉空間域Rに対する大気の加圧供給が停止することになる。このとき、閉空間域Rに残存させる負圧は、記録ヘッド19におけるノズル開口23を介したインクの引き込み圧と圧力絶対値の大きさが等しい負圧P3となるように、閉空間域Rに付与される正圧の大きさは、第2実施形態の場合と同じ式を用いて予め定められている。その結果、図8(b)に示すように、第1圧力変化工程における閉空間域Rの圧力変化は、負圧P2から負圧P3まで急激に変化した後、停止する。このとき、差圧弁31は閉状態となる。
第1圧力変化工程において、閉空間域Rの急激な圧力変化が停止した後、第2圧力変化工程として、閉空間域Rへの大気の流入が停止した状態で閉空間域Rに残存する負圧P3を大気圧P0となる方向に変化させる。その結果、図8(b)に示すように、閉空間域Rの残存した負圧P3は、排出流路48を介して自然に緩やかに大気圧P0へと変化する。このとき、記録ヘッド19のノズル22ではわずかにインクが吸引されるため、ノズル開口23付近のインクのメニスカスSfが整えられる。
圧力変化工程が開始されて圧力変化時間t2が経過した後、昇降機構42はキャップ41を元の位置まで降下させるとともに、キャップ41内を空吸引することによりキャップ41内に残存するインクを廃インクタンク46内に排出する。そして、クリーニング装置25によるクリーニングが終了する。
また、第1及び第2実施形態の場合と同様に、一度のクリーニングではノズル22が復帰しない場合は、クリーニングにおける蓄圧工程、排出工程及び圧力変化工程を順番に複数回繰り返し実行する連続クリーニングが行われる。
以上詳述した第3実施形態によれば、上記(1)〜(6)、(8)及び(9)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(10)排出流路48と流入流路59との各流路断面積を変化させることにより、閉空間域Rに対して互いに圧力の絶対値の大きさが異なる負圧と正圧とを一つのポンプ81で付与することができる。したがって、部品数を増やすことなく、クリーニングに伴うインクの消費を抑制しつつ、正常なメニスカスの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができるクリーニング装置25を簡易に構成することができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図9に基づいて説明する。なお、第4実施形態は第1〜第3実施形態と対比すると、クリーニング装置25の構成は第2実施形態と同一の構成である。そのため、以下では第1〜第3実施形態と相違する作用について図9(a)(b)に基づいて説明することにする。なお、図9(a)に示すように、クリーニングが実行される前は、差圧弁31、第1開閉弁55及び第2開閉弁67は閉状態となっているとともに、第1ポンプ51及び第2ポンプ71は駆動を停止している。
さて、クリーニングが開始されると、第1〜第3実施形態の場合と同様に、プリンター11はキャリッジ15をクリーニング装置25の上方域のホームポジションHPまで移動させ、キャップ41の直上位置にて停止させる。そして次に、昇降機構42がキャップ41を上昇させることにより、キャップ41におけるシール部材43の先端をノズル形成面24に対して当接させる。なお、図9(a)(b)に示すように、このときの閉空間域Rの圧力状態は大気圧P0となっている。
そして次に、図9(a)に示すように、プリンター11は、加圧工程として、第2開閉弁67を開状態にするとともに、第2ポンプ71を駆動させる。すると、図9(b)に示すように、第2ポンプ71の駆動によって閉空間域Rに大気が付与されることにより、閉空間域Rの圧力状態は大気圧P0から徐々に正圧方向において昇圧する。ここで、閉空間域Rの正圧の大きさが、ノズル22のメニスカスSfにおける境界のノズル開口23に対するクリップ圧力よりも大きい場合には、メニスカスSfが破壊されてインクがノズル22内に引き込まれてしまう。なお、「クリップ圧力」とはメニスカスSfの境界がノズル開口23に引っかかりメニスカスSfの位置が移動しない状態となる力のことをいう。そのため、加圧工程において閉空間域Rに付与される正圧P5はメニスカスSfのクリップ圧力以下となる。
加圧工程が開始されて加圧時間t4が経過するとともに、閉空間域Rの圧力状態が大気圧P0から正圧P5へと変化した後、蓄圧工程として、第2開閉弁67を閉状態にするとともに、第1ポンプ51及び第2ポンプ71を駆動させる。すると、第1ポンプ51よりも上流側の排出チューブ45の内部が減圧されて、第1ポンプ51と第1開閉弁55との間の領域の排出流路48内に負圧が蓄積される。また、第2ポンプ71よりも下流側の流入チューブ57の内部において大気が圧縮されて、第2ポンプ71と第2開閉弁67との間の領域の流入流路59内に正圧が蓄積される。なお、図9(b)において、排出流路48内に蓄積される負圧を一点鎖線で、流入流路59内に蓄積される正圧を二点鎖線で示している。
蓄圧工程が開始されて蓄圧時間t0が経過した後、排出工程として、プリンター11は、第1ポンプ51及び第2ポンプ71の駆動を停止するとともに第1開閉弁55を開状態にする。すると、図9(b)に示すように、閉空間域Rが一気に減圧されて、閉空間域Rの圧力状態が正圧P5から負圧P1となる。そして、閉空間域Rの負圧状態により差圧弁31が開状態になるとともに、記録ヘッド19のノズル開口23からインクとともに気泡や増粘したインク等がキャップ41内に排出される。
ここで、閉空間域Rの圧力状態が大気圧P0から負圧P1へと変化する場合と大気圧P0よりも正圧方向に圧力大の正圧P5から負圧P1へと変化する場合とを比較すると、正圧P5から負圧P1へと変化する場合のほうが大気圧P0から負圧P1へと変化する場合よりも変化の圧力差が大きくなる。そのため、ノズル開口23から排出されるインクの流速は、大気圧P0から負圧P1へと変化する場合のインクの流速よりも速くなり、ノズル22内に存在する気泡や増粘したインクなどが排出されやすくなる。
排出工程が開始されて排出時間t1が経過するとともに閉空間域Rの圧力状態が負圧P1から負圧P2へと変化した後、プリンター11は、第1圧力変化工程として、第2開閉弁67を開状態にする。すると、流入流路59内に蓄積された正圧が一気に閉空間域Rに加圧供給されることにより、閉空間域Rの圧力状態が負圧P2から急激に大気圧P0となる方向に変化する。また、閉空間域Rに一気に付与された大気は、閉空間域Rを速い速度で記録ヘッド19のノズル形成面24と平行に流入管56から排出管44に向かって移動することにより、ノズル開口23から排出されるインクの流れをノズル形成面24とキャップ41の底壁41bとの間の領域で切断する。
また、閉空間域Rに付与される正圧P4の大きさは、閉空間域Rに付与される負圧P1の大きさよりも圧力絶対値が小さくなるように、第2及び第3実施形態の場合と同じ式を用いて予め定められている。そして、第1の圧力変化工程において、閉空間域Rに記録ヘッド19におけるノズル開口23を介したインクの引き込み圧と圧力絶対値の大きさが等しい負圧P3を残存させた状態で閉空間域Rに対する大気の加圧供給が停止する。その結果、図9(b)に示すように、第1圧力変化工程における閉空間域Rの圧力変化は、負圧P2から負圧P3まで急激に変化した後、停止する。このとき、差圧弁31は閉状態となる。
第1圧力変化工程において、閉空間域Rの急激な圧力変化が停止した後、第2圧力変化工程として、閉空間域Rへの大気の流入が停止した状態で閉空間域Rに残存する負圧P3を大気圧P0となる方向に緩やかに変化させる。その結果、図9(b)に示すように、閉空間域Rの残存した負圧P3は、排出流路48を介して自然に緩やかに大気圧P0へと変化する。このとき、記録ヘッド19のノズル22ではわずかにインクが吸引されるため、ノズル開口23付近のインクのメニスカスSfが整えられる。
圧力変化工程が開始されて圧力変化時間t2が経過した後、昇降機構42はキャップ41を元の位置まで降下させるとともに、キャップ41内を空吸引することによりキャップ41内に残存するインクを廃インクタンク46内に排出する。そして、クリーニング装置25によるクリーニングが終了する。
以上、詳述した第4実施形態によれば、上記(1)〜(6)、(8)及び(9)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(11)閉空間域Rの圧力状態を負圧状態にする前に閉空間域Rに正圧を付与して大気圧P0よりも圧力大の正圧状態にすることにより、正圧を付与しなかった場合と比較して負圧状態への圧力変化時における圧力差を大きくすることができる。そのため、ノズル開口23から排出されるインクの流速を速くすることができ、ノズル22内に存在する気泡や増粘したインクを排出させやすくすることができる。したがって、ノズル22の復帰率を高めることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・第1実施形態において、圧力調整弁は大気開放弁58に限らず、例えば電磁弁などであってもよい。ただし、その場合には、閉空間域Rの圧力状態を検知する圧力計を備え、閉空間域Rの圧力状態に応じて開閉するように制御されることが望ましい。また、圧力計を備えるとともに第2開閉弁67を電磁弁とした場合は、第2開閉弁67を圧力調整弁として兼用してもよい。
・第2実施形態において、圧力調整手段はチューブポンプである第2ポンプ71に限らず、例えばピストンポンプや電磁クラッチを利用したポンプなどであってもよい。
・第3実施形態において、流入チューブ57の径は排出チューブ45の径よりも小さいものに限らず、排出チューブ45の径以上であってもよい。ただし、このような場合には、排出チューブ45と流入チューブ57とはそれぞれポンプ81に設けられた異なる押圧ローラーによって押圧されるチューブであり、且つ流入チューブ57を押圧する押圧ローラーの押圧力は排出チューブ45を押圧する押圧ローラーの押圧力よりも弱いことが望ましい。そして、このような場合には、排出流路48と流入流路59とに対するポンプ81の効率を変化させることにより、閉空間域Rに対して互いに圧力絶対値の大きさが異なる負圧と正圧とを1つのポンプ81で付与することができる。したがって、クリーニングに伴うインクの消費を抑制しつつ、正常なメニスカスSfの破壊や新たなノズル抜けなどを抑制することができるクリーニング装置25を簡易に構成することができる。
・第4実施形態において、加圧工程における閉空間域Rに付与する正圧P5は、その圧力絶対値がノズル22におけるメニスカスSfのクリップ圧力の圧力絶対値以下である場合に限らず、メニスカスSfのクリップ圧力よりも圧力絶対値が大きくてもよい。この場合は、ノズル22内に大気を引き込むことになり、メニスカスSfが一時的に壊されることになるが、その後、排出工程でのインク排出を経た後に圧力変化工程では最後にわずかにインクが吸引されるため、ノズル開口23付近のインクのメニスカスSfは整えられることになる。
・第2〜第4実施形態において、第2ポンプ71又はポンプ81により付与された正圧P4は予め定められていなくてもよい。ただし、その場合には、第2開閉弁67を電磁弁にするとともに閉空間域Rの圧力を検知する圧力計を備え、閉空間域Rの圧力状態に応じて第2開閉弁67を開閉するように制御することが望ましい。
・第1〜第3実施形態において連続クリーニングを実行する場合に、圧力変化工程の後に次の蓄圧工程を開始するまでの開始時間t3は圧力変化時間t2よりも短い場合に限らず、圧力変化時間t2以上であってもよい。また、連続クリーニングを行わなくてもよい。
・第1〜第4実施形態において、圧力変化時間t2は排出時間t1よりも長い場合に限らず、排出時間t1以下であってもよい。
・第1〜第4実施形態において、第1圧力変化工程における閉空間域Rに残存させる負圧P3の大きさは記録ヘッド19におけるノズル開口23を介したインクの引き込み圧と圧力絶対値の大きさが等しい場合に限らず、インクの引き込み圧よりも圧力絶対値が大きくてもよい。
・第1〜第4実施形態において、吸引手段はチューブポンプである第1ポンプ51に限らず、例えばピストンポンプや電磁クラッチを利用したポンプなどであってもよい。
・第1〜第4実施形態において、記録媒体は記録用紙Pに限らず、例えば連続フィルムや長尺状の布などであってもよい。
・第1〜第4実施形態において、プリンター11は、長尺状の液体噴射ヘッドを備えるフルラインタイプのラインヘッド式プリンターや、ラテラル式プリンターとして実現してもよい。
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。