JP5535171B2 - セラミック多孔体形成用組成物 - Google Patents
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Description
一方、セラミック粉末の低密度成形体を形成し、粒子間隙を気孔として残存させる方法は、上述した気孔形成材を用いたときのような焼結体の歪み(ひいてはクラックや割れ)は抑制され得るものの、焼成時にセラミック粉体が移動して緻密化するため、得られる孔径および気孔率が低下傾向となりやすく、高気孔率化には限界がある。
組成物調製工程では、少なくともセラミック粉末と有機バインダと界面活性剤と水とが非水溶性有機溶剤中に分散されてなるセラミック多孔体形成用組成物を調製する。
使用するセラミック粉末としては、従来から、焼結によってセラミック多孔体を製造するのに用いられているものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、金属の酸化物、炭化物、窒化物等の種々のセラミック粉末を採用することができる。例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、カルシア、各種ゼオライト等のセラミック粉末を好ましく使用することができる。また、これらの複合物または混合物から形成されたセラミック粉末であってもよい。なお、使用するセラミック粉末の形状(外形)は特に限定されず、球形又はそれに近い形状のみならず、例えばロールミルがけやスタンプミルがけによって調製された不規則形状の粒子の集合物である粉末も好適に使用することができる。焼成時の緻密化(セラミック粒子の移動)を抑制する観点から、不規則形状(例えば針状または板状)のセラミック粉末を好ましく使用し得る。
上記有機バインダは、上記セラミック粉末を結合して形状を保持するためのものであり、該有機バインダを構成する材料自体は、従来公知のセラミック多孔体の製造に用いられるものと同様の材料であり得る。例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂や、メチルメタクリレート等のアクリル系樹脂が使用される。あるいは、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアルコール系、アクリル‐スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体を用いてもよい。中でも、焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、エチルセルロース等のセルロース系バインダの使用がより好ましい。これらのバインダは一種を用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記組成物中に占めるバインダの割合としては、概ね0.1質量%〜5質量%であり、好ましくは0.5質量%〜1.5質量%である。
上記非水溶性有機溶剤としては、水に不溶かあるいは難溶であればいずれの有機溶剤を用いても構わないが、上述したセラミック粉末と有機バインダとを良好に分散させて混合できるものであることが好ましい。また、有機溶剤と水との相溶を抑制する観点からは、25℃における水への溶解度が15(g/100ml)以下のものであることが好ましく、10(g/100ml)以下のものであることが特に好ましい。そのような有機溶剤としては、イソブチルアルコール(IBA)、1‐ブタノール、2‐ブタノール、tert‐ブチルアルコール、1‐ペンタノール、2‐ペンタノール、3‐ペンタノール、等の炭素数が4以上(好ましくは4〜10)のアルコール系溶剤が挙げられる。中でもイソブチルアルコール(IBA)の使用が好ましい。あるいは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル系溶剤を使用することもできる。これらの有機溶剤は一種を単独で用いてもよく二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合は、混合液が単一の連続する相を形成することが好ましい。上記組成物中に占める非水溶性有機溶剤の割合としては、概ね50質量%〜95質量%であり、好ましくは75質量%〜95質量%である。
上記界面活性剤としては、上記非水溶性有機溶剤中において水とミセルを形成できるものであればよく、非水溶性有機溶剤との組合せで種々のものを使用することができる。例えば、非水溶性有機溶剤としてアルコール系溶剤を使用する場合、アニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。アニオン系界面活性剤としては、アクリル酸、カルボン酸、硫酸エステル、スルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸の塩、あるいはそれらを組み合わせたものや、陰イオンのポリマーが挙げられる。なかでも、アクリル酸塩の一種であるポリアクリル酸アンモニウム(PAN)や、カルボン酸塩の一種であるポリカルボン酸アンモニウムの使用が好ましい。かかる界面活性剤の配合量は、セラミック粉末とバインダと非水溶性有機溶剤との合計質量に対して概ね0.1質量%〜2質量%に相当する量が適当であり、好ましくは0.3質量%〜1質量%であり、特に好ましくは0.5±0.1質量%である。界面活性剤の配合量が少なすぎると、上記組成物中においてミセルを安定して保持できない場合があり、一方、界面活性剤の配合量が多すぎると、ミセルを形成する効果が鈍化するためメリットがあまりない。なお、非水溶性有機溶剤との組合せによっては、上述したアニオン系界面活性剤に代えて、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することもできる。
上記組成物中における水の含有量としては、セラミック粉末とバインダと非水溶性有機溶剤との合計質量に対し、概ね1質量%〜50質量%に相当する量が適当であり、好ましくは5質量%〜50質量%であり、特に好ましくは20質量%〜50質量%である。水の含有量が1質量%以上(好ましくは5質量%以上)の組成物を用いることにより、ミセルが大径化するため、製造されるセラミック多孔体の孔径および気孔率を大きくすることができる。その一方、水の含有量が50質量%を上回ると、有機溶剤と水とが相分離するため、上記ミセルを安定に保持できない場合がある。有機溶剤と水との相分離を抑制する観点からは、水の含有量が概ね50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下である。例えば、上記水の含有量が1質量%〜50質量%(特には5質量%〜50質量%、さらには5質量%〜25質量%)を満たす組成物が、ミセルの安定的な保持と大径化とを両立するという観点から適当である。
上記セラミック多孔体形成用組成物には、本発明の効果を奏する限りにおいて、上述したセラミック粉末、有機バインダ、界面活性剤、水及び非水溶性有機溶剤の他に、一般的なセラミック多孔体の製造において使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。例えば、多孔質構造を安定化させたりする目的のために、種々の焼結助剤、可塑剤及び分散剤等、又は従来公知のいずれの添加剤を適宜添加することができる。
これらの各種成分の混合は、ボールミル、ホモディスパー、ジェットミル、超音波分散機、プラネタリーミキサー等の一般的な混練手段を用いて行うことができる。特に限定するものではないが、セラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と界面活性剤と水とを混合する場合、界面活性剤と水の添加に先立って、まず、セラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤とを混合し、ボールミル等を用いてよく混練する。次いで、得られた混練物に界面活性剤と水を加えて再度混練を行うとよい。このことによって、セラミック粉末とバインダとミセルとが均一に分散したセラミック多孔体形成用組成物を調製することができる。
このようにしてセラミック多孔体形成用組成物を調製したら、該組成物を所定の形状に成形する(ステップS20)。上記組成物を所定形状に成形する方法は、特に限定されず、一般的なセラミック材の成形方法を適用することができる。例えば、押出し成形、プレス成形、型込め成形が挙げられる。フローティングダイやプレス機を利用した加圧成形(一軸加圧成形、冷間静水圧プレス等)が好適である。ホットプレス及びコールドプレスのいずれでもよい。あるいは、従来公知の塗布手段(例えば凹版印刷法、メタルマスク印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、ドクターブレード法など)を用いて、他の金属またはセラミック基材上に膜状(シート状)に成形することもできる。かかる膜状(シート状)に形成された成形体(ひいてはセラミック多孔体)を本発明の「所定の形状」に成形する態様として好ましく採用することができる。
このようにして上記組成物を所定形状に成形したら、その成形体を大気中で焼成してセラミック多孔体を得る(ステップS30)。その際、上記成形体中のミセルが気化して除去されることにより、焼結体中に大サイズの気孔(例えば平均細孔径が50μm以上、好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上の気孔)を形成することができる。
製造されるセラミック多孔体の孔径および気孔率は、組成物中の水含有量(非水溶性有機溶剤と水との混合比率)、非水溶性有機溶剤の種類、界面活性剤の種類及び/又は濃度、セラミック粉末の粒径、焼成サイクル等を各種変更することにより、制御することが可能である。セラミック多孔体としては、用途に応じて適宜孔径および気孔率を決定することができるが、水銀圧入法に基づく気孔率が、概ね10%〜60%の範囲であり、好ましくは30%〜40%の範囲である。また、水銀圧入法に基づく平均細孔径が、概ね50μm〜200μmの範囲であり、好ましくは80μm〜120μmの範囲である。このような気孔径が大きく、かつ気孔率が大きいセラミック多孔体は、工業用砥石やセラミックフィルター等の用途として好適に用いることができる。
また、本発明によると、図2に示すように、セラミック多孔体10を所定のセラミック基材20上に形成してなるセラミック接合体(積層体)30を提供することができる。例えば、緻密質または気孔率が相対的に小さい同種または異種のセラミック基材20上に、上述したような気孔率を有するセラミック多孔体10を形成することができる。セラミック多孔体10とセラミック基材20とは、前述した焼成工程において一体的に焼結(接合)することができる。セラミック基材20を構成し得る材料としては、従来から、焼結によってセラミック多孔体10と接合(一体焼結)されるのに用いられているものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、カルシア、各種ゼオライト等のセラミック材料を好ましく使用することができる。接合性を良好にする観点からは、セラミック多孔体10と同種の材料であることが望ましい。
[例1]
バインダとしてのエチルセルロース(EC)と、非水溶性有機溶剤としてのイソブチルアルコール(IBA)とを9:91の質量比で混合したビヒクルに、平均粒径55μmのシリカ粉末(セラミック粉末)を、シリカ粉末とビヒクルとの質量比が15:5となるように添加して混練した。この混練物に、所定量の水と、界面活性剤としてのポリアクリル酸アンモニウム(PAN;A−6114;東亜合成社製)とを添加し、再度混練することによりセラミック多孔体形成用組成物を調製した。該組成物中における水の含有量は、ECとIBAとシリカ粉末との合計質量に対して(すなわち外添加で)5質量%とした。また、界面活性剤の添加量は、ECとIBAとシリカ粉末との合計質量に対して(すなわち外添加で)0.5質量%とした。得られたセラミック多孔体形成用組成物を、セラミック基材(平均細孔径0.1μm、厚み約0.5mmの多孔質アルミナ基材を使用した。)の表面上にメタルマスク印刷して、厚み約300μmの成形体(薄膜)を形成した。その成形体を大気中、約600℃で焼成することにより、セラミック基材上にセラミック多孔体が形成(一体焼結)されたセラミック接合体を得た。
上記組成物中における水の含有量を、外添加で25質量%(例2)、50質量%(例3)、75質量%(例4)、0質量%(例5;水の添加なし)としたこと以外は例1と同様にしてセラミック接合体を得た。
上記組成物において、水の代わりにテルピネオール(油)を添加したこと以外は例1と同様にしてセラミック多孔体を得た。
例7では、セラミック多孔体の材質をアルミナに変更したこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図5(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例7に係るセラミック多孔体は、例1〜3のサンプルと同様に大サイズの気孔を有していた。また、セラミック多孔体とアルミナ基材との接合性も良好であった。この結果から、セラミック多孔体の材質としてはシリカに限定されず、アルミナ等のセラミック全般を広く使用することができる。
例8〜10では、シリカ粉末の平均粒径を68μm(例8)、83μm(例9)、100μm(例10)に変更したこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体(例10)につき断面SEM観察を行った。結果を図6(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例10に係るセラミック多孔体は、例1〜3のサンプルと同様に大サイズの気孔を有していた。また、セラミック多孔体とアルミナ基材との接合性も良好であった。高気孔率化の観点からは、シリカ粉末の平均粒径は50μm以上が適当であり、好ましくは60μm以上であり、特に好ましくは80μm以上である。
例11では、非水溶性有機溶剤として、BDGA(エステル系有機溶剤)を用いたこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図7(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例11に係るセラミック多孔体は、例5のサンプル(図4)に比べて十分に多孔質化されているものの、IBA(アルコール系有機溶剤)を用いた例1〜3のサンプルに比べると孔径および気孔率が明らかに低下していた。また、セラミック多孔体とアルミナ基材との接合性も悪かった。高気孔率化および接合性の観点からは、エステル系有機溶剤よりもアルコール系溶剤の使用が好ましい。
例12では、界面活性剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(アニオン系界面活性剤;セルナ(D−305))を用いたこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図8(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例12に係るセラミック多孔体は、例1〜3のサンプルと同様に大サイズの気孔を有していた。また、セラミック多孔体とアルミナ基材との接合性も良好であった。この結果から、界面活性剤としてはPANに限らず、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のアニオン系界面活性剤全般を広く使用することができる。
例13では、界面活性剤として、DISPER BYK−191(非イオン系界面活性剤;ビックケミージャパン社製)を用いたこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図9(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例13に係るセラミック多孔体は、例5のサンプル(図4)に比べて十分に多孔質化されているものの、PAN(アニオン系界面活性剤)を用いた例1〜3のサンプルに比べると孔径および気孔率が明らかに低下していた。高気孔率化の観点からは、カチオン系界面活性剤よりもアニオン系界面活性剤の使用が好ましい。
例14では、界面活性剤として、DISPER BYK−102(カチオン系界面活性剤;ビックケミージャパン社製)を用いたこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図10(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例14に係るセラミック多孔体は、例5のサンプル(図4)に比べて十分に多孔質化されているものの、PAN(アニオン系界面活性剤)を用いた例1〜3のサンプルに比べると孔径および気孔率が明らかに低下していた。高気孔率化の観点からは、非イオン系界面活性剤よりもアニオン系界面活性剤の使用が好ましい。
例15では、セラミック基材の材質をジルコニアに変更したこと以外は例2と同様にしてセラミック接合体を作製した。かかるセラミック接合体につき断面SEM観察を行った。結果を図11(a)及び(b)に示す。断面SEM像から明らかなように、例15に係るセラミック多孔体は、例1〜3のサンプルと同様に大サイズの気孔を有していた。また、セラミック多孔体とジルコニア基材との接合性も良好であった。この結果から、セラミック基材の材質としてはアルミナに限定されず、ジルコニア等のセラミック全般を広く使用することができる。
20 セラミック基材
30 セラミック接合体
Claims (6)
- セラミック多孔体を形成するために用いられるセラミック多孔体形成用組成物であって、
少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性アルコール系有機溶剤とアニオン系界面活性剤と水とを含有しており、
前記水の含有量が、前記セラミック粉末と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量であり、
前記水は、該水からなる水泡の形態で前記非水溶性有機溶剤中に存在しており、
前記セラミック粉末のレーザ散乱法に基づく平均粒径が、50μm〜200μmである、セラミック多孔体形成用組成物。 - 前記水の含有量が、前記セラミック粒子と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して5質量%〜25質量%に相当する量である、請求項1に記載の組成物。
- 前記非水溶性有機溶剤と前記水との混合比率は、質量比で有機溶剤:水=95:5〜30:70である、請求項1または2に記載の組成物。
- 前記セラミック粉末は、アルミナまたはシリカを主体として構成されている、請求項1〜3の何れか一つに記載の組成物。
- セラミック多孔体を製造する方法であって、
少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性アルコール系有機溶剤とアニオン系界面活性剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を調製すること、ここで、該組成物中における水の含有量は前記セラミック粉末と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量であり、前記水は、該水からなる水泡の形態で前記非水溶性有機溶剤中に存在しており、前記セラミック粉末のレーザ散乱法に基づく平均粒径が、50μm〜200μmである;
該組成物を所定の形状に成形すること;及び、
その成形体を焼成してセラミック多孔体を得ること;
を包含する、セラミック多孔体の製造方法。 - 前記成形体の焼成は、最高焼成温度が600℃〜900℃となるように行われる、請求項5に記載の製造方法。
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