JP5535102B2 - 燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法及び燃料電池用金属セパレータ材料 - Google Patents
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Description
このような燃料電池用セパレータとして、従来はカーボン板にガス流通路を形成したものが使用されていたが、材料コストや加工コストが大きいという問題がある。一方、カーボン板の代わりに金属板を用いる場合、高温で酸化性の雰囲気に曝されるために腐食や溶出が問題となる。このようなことから、ステンレス鋼板の表面にAuめっきを0.01〜0.06μm被覆する技術や(特許文献1)、ステンレス鋼板の表面にAu,Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPt等から選ばれる貴金属をスパッタ成膜して導電部分を形成する技術(特許文献2)が知られている。
又、ステンレス鋼板の表面に、下地処理を施さずに酸性浴にてダイレクトに金めっきを施す技術(特許文献3)や、ステンレス鋼板の表面に酸化被膜を形成後に金めっきを施す技術(特許文献4)が報告されている。
一方、めっき浴に超音波振動を付与することで、高電流密度による高速めっきを行う技術(特許文献5)が報告されている。
すなわち、本発明は、ステンレス鋼薄板表面に形成するAu被覆層の厚みが薄くても耐食性に優れた燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法及び燃料電池用金属セパレータ材料の提供を目的とする。
前記Au被覆層をさらに封孔処理することが好ましい。
メルカプト系水溶液中で前記Au被覆層を電解処理して前記封孔処理を行うことが好ましい。
前記基材の結晶粒内において、前記Au被覆層を原子間力顕微鏡により測定したときの算術表面粗さ(Ra)が3.0nm以下であることが好ましい。
又、本発明において「燃料電池用金属セパレータ」とは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されたものをいう。セパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
従って、詳しくは後述するが、燃料電池用セパレータとして、板状の基材表面に凹凸状の流路を設けたセパレータの他、上記したパッシブ型DMFC用セパレータのように板状の基材表面にガスやメタノールの流路孔が開口したセパレータを含む。
燃料電池用金属セパレータ材料は耐食性と導電性が要求され、その基材には耐食性が求められる。このため基材には耐食性が良好で比較的低コストなオーステナイト系ステンレス鋼薄板を用いる。
オーステナイト系ステンレス鋼薄板の種類は特に制限されないが、例えば、JISに規格するSUS201、SUS304、SUS304L、SUS304LN、SUS316、SUS316L、SUSXM7を挙げることができる。ここで、耐食性に優れる点で、SUS316L(Moを2.5%程度添加したステンレス鋼)が好ましい。
基材の形状も特に制限されず、Auをめっきできる形状であればよいが、セパレータ形状にプレス成形することから、薄板の厚みが0.05〜0.3mmであることが好ましい。
さらに、基材の表面粗さがRa≦0.08μmであると、Au被覆層を平滑に成膜する観点から好ましい。電解めっきは基材表面の凹凸の凸部に付きやすいため、基材の表面粗さRaを0.08μm以下とすることで均一にめっきが付き、ピンホールなどの欠陥が少なくすることができる。
基材表面にAu被覆層を電解めっきするため、pH1.0以下のAuめっき浴を用いる。ステンレス鋼薄板に直接Auをめっきするためには、めっき浴のpHが1以下である必要があり、pH1.0以下のAuめっき浴を用いると、基材であるステンレス鋼表面のCr酸化皮膜が除去されやすく、Au被覆層の密着性が向上する。
また、酸性Auめっき浴を用い、基材表面に直接(ダイレクトに)Auめっきすることで、めっき密着性が向上する。これは、従来からコネクタ材では基材にNi下地めっきを行った後、Auめっきを施しているが、Niの耐酸性が弱いため、燃料電池内の雰囲気によりNiめっきが剥がれてしまうからである。さらに、pH1.0以下の酸性Auめっき浴は高電流密度でめっきが可能であるため、めっきの際に基材表面に水素が発生してステンレス表面が活性化され、Auが付きやすくなる。
一方、Auめっき浴のpHが1.0を超えると基材へのめっき密着性が低下する。なお、Auめっき浴のpHが0.2未満になると、電解めっきの際に水素が過多に発生してめっき電流効率が低下するため、pHは0.2以上が好ましい。
pH1.0以下のAuめっき浴としては硫酸水素ナトリウとシアン化金カリウムを主成分とする浴などが挙げられる。又、Au塩としては、シアン化金塩、等を用いることができ、Au塩の金濃度は2〜7g/L程度とすることができる。
又、めっき液中の金濃度は1〜4g/Lが好ましく、より好ましくは1〜2g/Lである。金濃度が1g/L未満であると、電流効率が低下してめっき層が平坦になり難い傾向にある。Auめっきの電流密度は1〜8A/dm2、好ましくは電流密度4〜8A/dm2とするとよい。
また20nmを超えるAuめっき厚みでは問題とならないが、Auめっきを厚み20nm以下とすると、上記したAuめっき浴のpHや浴組成の調整だけでは十分でなく、めっき被膜のピンホールが増えて耐食性が低下する。このため、厚さ20nm以下のAuめっきでは、超音波の照射が有効である。この理由は、Auめっきの際に超音波を用いることで、Auめっき浴が均一に攪拌され、浴中の金イオンが基材表面に均一に供給されるので,ピンホールを低減することができるからである。又、超音波によりAuめっき浴中にキャビテーションを起こさせ,基材表面に滞留する水素や不純物を浮き上がらせ,これらを起点としためっき欠陥(ピンホールなど)を低減することができる。
なお、超音波振動は、基材及び/又はAuめっき浴に付与すればよく、例えば超音波振動子をめっき浴中の基材に接触させたり、Auめっき浴に超音波振動子を接触させることで、超音波振動を付与することができる。又、超音波振動の発振周波数によりAuめっき浴の攪拌状態、キャビテーションの状態が変わるが、周波数を25〜60kHzとすると、超音波の効果を安定して発揮することができる。
超音波振動子としては、例えばチタンやハステロイを外殻とした圧電セラミックなどを用いることができる。
基材表面(片面または両面)に形成するAu被覆層の厚さは,コストの点から20nm以下とするが、耐食性と電気特性(セパレータとMEAの接触抵抗)の観点から2nm以上とするとよい。好ましくはAu被覆層の厚みを5〜20nmとし、より好ましくはAu被覆層の厚みを5〜10nmにすると、耐食性が良好でかつコストを低減することができる。Au被覆層の厚みは、電解法や断面のTEM(透過型電子顕微鏡)像で算出することができる。
基材の結晶粒内において、原子間力顕微鏡により測定したAu被覆層の算術表面粗さ(Ra)が3.0nm以下であると好ましい。本発明者らの検討により、薄い(厚み20nm以下の)Au被覆層においては、表面のRaが大きくなるほど、基材からの金属溶出量も多くなることが判明した。この原因は明確ではないが、Au被覆層のRaが大きいものは、電気めっき時に基材の特定の位置に集中して電析し、その分だけめっき層の厚みが薄い部分が生じ、被膜欠陥に至ることが考えられる。
なお、基材表面へのAuの電着状態は、基材の結晶粒内と結晶粒界とで異なる。具体的には、基材の粒界部分では電着が凹状となるので、基材の粒界を含む部分のRaを原子間力顕微鏡(AFM)で測定すると、Raの測定値は大きくなる。そのため,本発明においては,基材の結晶粒内で測定したRaをAu被覆層のRaとして採用する。
又、省金化の観点から、燃料電池用セパレータ材料を燃料電池用セパレータに加工した際に電極との接触面となる部分等、導電性が必要となる部分のみにAuめっきを施すことも可能である。
AFMにより測定したAu被覆層のRaが3.0nm以下になると、大幅に金属溶出量が少なくなる。Au被覆層のRaは小さいほど好ましいが、Raが0.5nm未満のめっき層を形成するのは実用上難しい。
又、Auめっきは、セパレータ内の耐食性を要する部分(アクティブエリア)に対応する領域のみにめっきしてもよく、これにより金の使用量を減らすことができる(図6参照)。
Au被覆層が封孔処理されていることが好ましい。Au被覆層に被膜欠陥(ピンホール部)が存在しても、封孔処理によってこの欠陥を埋め、耐食性を維持することができる。Auめっきの封孔処理は各種の方法が知られているが、メルカプト系水溶液中でAu被覆層を電解処理するのが好ましい。メルカプト系水溶液は、メルカプト基含有化合物を水に溶解したものであり、メルカプト基含有化合物としては、例えば特開2004−265695号公報に記載されたメルカプトベンゾチアゾール誘導体が挙げられる。メルカプト系化合物はピンホール部に吸着、結合し,耐食性を向上させる。
次に、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータについて説明する。図6に示すように、燃料電池用セパレータは、上記した燃料電池用セパレータ材料を所定形状に加工してなり、燃料ガス(水素)又は燃料液体(メタノール)、空気(酸素)、冷却水等を流すための反応ガス流路又は反応液体流路(溝や開口)が形成されている。
図3は、積層型(アクティブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図3では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
そして、セパレータ10は電気伝導性を有し、後述するMEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ10には燃料ガスや空気(酸素)の流路となる溝が形成されている。
そして、アノード電極40側の内部空間20には燃料ガス(水素等)が流れ、カソード電極60側の内部空間20に酸化性ガス(酸素、空気等)が流れることにより、電気化学反応が生じるようになっている。
シール部材31及びガスケット12は、燃料ガス又は酸化ガスがセル外に漏れるのを防止するシールを形成する。又、単セルを複数積層してスタックにした場合、セパレータ10の外面と集電板140A(又は140B)との間の空間21には空間20と異なるガス(空間20に酸化性ガスが流れる場合、空間21には水素が流れる)が流れる。従って、シール部材32もセル外にガスが漏れるのを防止する部材として使われる。
図4は、平面型(パッシブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図4ではセパレータ100の外側にそれぞれ集電板140が配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
なお,図4において、MEA80の構成は図3の燃料電池と同一であるので同一符号を付して説明を省略する(図4では、ガス拡散膜90A、90Bの記載を省略しているが、ガス拡散膜90A、90Bを有していてもよい)。
セパレータ100は、断面がクランク形状になるよう、長尺平板状の基材の中央付近に段部100sを形成してなり、段部100sを介して上方に位置する上側片100bと、段部100sを介して下方に位置する下側片100aとを有する。段部100sはセパレータ100の長手方向に垂直な方向に延びている。
そして、複数のセパレータ100を長手方向に並べ、隣接するセパレータ100の下側片100aと上側片100bとの間に空間を形成させ、この空間にMEA80を介装する。2つのセパレータ100でMEA80が挟まれた構造体が単セル300となる。このようにして、複数のMEA80がセパレータ100を介して直列に接続されたスタックが構成される。
本発明の燃料電池用スタックは、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いてなる。
燃料電池用スタックは、1対の電極で電解質を挟み込んだセルを複数個直列に接続したものであり、各セルの間に燃料電池用セパレータが介装されて燃料ガスや空気を遮断する。燃料ガス(H2)が接触する電極が燃料極(アノード)であり、空気(O2) が接触する電極が空気極(カソード)である。
燃料電池用スタックの構成例は、既に図3及び図4で説明した通りであるが、これに限定されない。
表1に示す組成のオーステナイト系ステンレス鋼板(表1にJIS規格で記載)に対して冷間圧延と焼鈍を繰り返し、厚みが0.10mmの基材を得た。なお、表面粗さを小さくし、表面の清浄度を上げてめっき欠陥を抑制するため、仕上げ圧延はロール粗さRa≦0.08μmに制御した幅450mmのロールを用い、表面酸化を抑制するため、焼鈍は全て水素90%以上の雰囲気内で行った。ロールの表面粗さは触針式粗さ計(ミツトヨ社製のSJ−400)を用い、JIS B 0601に準拠して測定した。
この基材に、前処理として市販の脱脂液を用いて電解脱脂後、水洗し、さらに電解酸洗後、水洗を施した。電解脱脂は、水酸化ナトリウム40g/Lと非イオン系界面活性剤5g/Lとを含有する脱脂液を使用し,基材を陰極にして10秒間電解した。電解酸洗は硫酸50g/Lを含有する水溶液を使用し,基材を陰極にして10秒間電解した。
Auめっき液(シアン系)は、シアン化金カリウム(III)(金濃度:1〜2g/L)、硫酸水素ナトリウム50〜100g/Lのものを用い、pHを表1のように変化させた。pHの調整は硫酸水素ナトリウムの添加量を変えて行った。なお、Auめっきの際、めっき浴の金濃度1〜4g/L、電流密度1〜8A/dm2、の範囲に管理すれば特に問題はなかった。
めっき前基材の表面粗さRaはJIS B 0601に準拠し、非接触式三次元測定装置(三鷹光器社製、型式NH−3)を用い、カットオフ0.25mm、測定長さ1.50mm、n=5で測定し、その平均値をRa値とした、めっき後のAu被覆層の表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(島津製作所社製のSPM−9600)を用い、ダイナミックモード(非接触方式)で、走査範囲1μm×1μm、走査速度0.8Hzで、Auめっき前の基材の結晶粒内に相当する場所をn=3で測定し、その平均値をRaの値として用いた。
Auめっき材を90度の角度に折り曲げ、次に曲げ部を0度に戻し、曲げ部にセロテープ(登録商標)を貼り付けてすぐに剥がし、Au被覆層の剥離の有無を光学顕微鏡を用いて調査した。テープにAu被覆層が付着していないものを密着性が良好(OK)とした。
燃料電池の発電性能(出力、耐久性など)は、セパレータからの溶出イオン量が少ないほど良好であり、発電環境を模擬した耐食性試験ではセパレータの腐食電流密度として1.0×10-5(A/cm2)未満が要求されている。そこで、各燃料電池用セパレータ材料の腐食電流密度を測定した。測定は燃料電池の発電環境を模擬するよう、試験片に0.8V(SHE)の電位を印加させた状態で、90℃,pH3の硫酸溶液に浸漬し、20時間経過時に試験片に流れる電流を測定した。そして、以下の基準で耐食性を評価した。評価が◎〜△であれば実用上問題はない。
◎:腐食電流密度が1×10-7(A/cm2)未満
○:腐食電流密度が1×10-7(A/cm2)以上1×10-6(A/cm2)未満
△:腐食電流密度が1×10-6(A/cm2)以上1×10-5(A/cm2)未満
×:腐食電流密度が1×10-5(A/cm2)以上
なお、Auめっき厚及びめっき浴のpHを同一とした発明例2−1〜2−4において、超音波振動の発振周波数をそれぞれ25、60kHzとした発明例2−1、2−2は他の発明例よりも腐食電流密度が小さく、耐食性と発電性能がより優れていた。
又、Auめっき後に封孔処理を施した発明例3−1、3−2の場合、Auめっき厚、めっき浴のpH及び超音波振動の発振周波数を同一とした発明例1−4、1−8に比べ、腐食電流密度が小さく、耐食性がより優れていた。
又、基材の表裏でAuめっき厚をそれぞれ変えた発明例4−1〜4−3の場合も、耐食性が優れていた。
又、Auめっき浴中の金濃度をそれぞれ4.5g/L、5.0g/Lとした発明例6−1、6−2の場合、金濃度が1〜4g/Lでありその他の条件が同一の発明例1−4に比べ、腐食電流密度が大きくなったが実用上は問題ない。ここで、発明例6−2の場合、Au被覆層のRaが3.0nmを超え、腐食電流密度が大きくなった。
超音波振動を付与せずにAuめっきを行った比較例1−2の場合、耐食性が劣った。
又、超音波振動を付与せずにAuめっきを行った後、封孔処理を施した比較例3−1の場合も、耐食性が劣った。
4 超音波振動子
6 Auめっき槽
8 アノード
10、100 セパレータ
12、12B ガスケット
20 固体高分子電解質膜
40 アノード電極
60 カソード電極
80 膜電極接合体(MEA)
Claims (8)
- オーステナイト系ステンレス鋼薄板からなる基材の表面に、pH1.0以下のAuめっき浴を用いて厚み20nm以下のAu被覆層を形成する燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法であって、前記基材の表面粗さがRa≦0.08μmであり、
前記基材及び/又は前記Auめっき浴に超音波振動を付与した状態で電解めっきする燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法。 - 前記超音波振動の発振周波数を25〜60kHzとする請求項1に記載の燃料電池用金属セパレータの製造方法。
- 前記Au被覆層をさらに封孔処理する請求項1又は2に記載の燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法。
- メルカプト系水溶液中で前記Au被覆層を電解処理して前記封孔処理を行う請求項3に記載の燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用金属セパレータ材料の製造方法により製造された燃料電池用金属セパレータ材料。
- 前記基材の結晶粒内において、前記Au被覆層を原子間力顕微鏡により測定したときの算術表面粗さ(Ra)が3.0nm以下である請求項5に記載の燃料電池用金属セパレータ材料。
- 請求項5又は6に記載のセパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータ。
- 請求項5又は6に記載の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池スタック。
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