JP5534434B2 - シリコンの精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、Si(シリコン)の精製方法(Siを高純度化する方法)に関するものである。
Siは元素半導体材料として知られているものであるが、これを簡便で高純度に精製することのできる精製(精錬)方法の実現が重要な課題になっている。
特に、太陽光発電システムの普及拡大のためには、太陽電池製造プロセスの低コスト化が必要不可欠である。現在の太陽電池モジュール市場の約90%はSiを原料とする太陽電池で占められており、今後もSi太陽電池が主力となることはSiの資源量からみても間違いない。現在、太陽電池として使用されている太陽電池グレードSiは、半導体向けに比べて高い純度は要求されず、主に半導体グレードSi規格外品やスクラップから製造されている。しかし、太陽電池には半導体チップに比べて大量の原料Siが必要であり、昨今の太陽電池の需要拡大から、こうした生産構造では需要に対応できなくなっている。
さらに、需要拡大に伴うSiの価格高騰、原料供給の不安定性が懸念されるため、太陽電池グレードを目指した安定かつ低コストな原料Siの製造プロセスの開発が求められている。
Siの精錬プロセス技術を大別すると化学的方法と冶金学的方法がある。現状のSi精錬プロセスの主流はシーメンス法と呼ばれる化学的方法で、SiHCl3(トリクロロシラン)を精製後、水素を用いて高温で還元して高純度Siが製造される。この精製過程では多量の水素と電力エネルギーを必要とし、またSiの生成収率が低いことから太陽電池用Siの製造方法としてはコスト的に割が合わない。
一方、冶金学的精製プロセスでは半導体グレード(11N)ほどの高純度Siを得ることはできないが、プロセスコストも低く、太陽電池の性能を著しく低下させるFe(鉄)などの遷移金属元素をはじめとする不純物をある程度取り除くことができることから、太陽電池用Siの精製プロセスとして検討が進められている(例えば、非特許文献1参照)。この冶金学的プロセスにおける金属不純物の除去方法では、Siの固相と液相間での平衡分配係数が小さい不純物の元素を一方向凝固法で液相側に排出除去する原理を応用している。プロセスの概要としては、電子ビームで局所高温化することによりP(リン)を蒸発除去する工程と、Feなどの金属成分を2回の一方向凝固法で偏析除去させる工程、および水蒸気添加プラズマによりB(ホウ素)とC(炭素)を酸化物として除去する工程から成る。通常の凝固精錬では偏析係数の大きいBやP、Cを除去することが難しいため、上記のような多段階で複雑な工程が必要となっている。幸いにもSi中の不純物元素の多くは平衡分配係数が極めて小さく、Siが凝固する際、液相中へ著しい濃縮挙動を示すため、不純物元素の除去には凝固偏析を活かした高純度化が有効である。しかし、Siの電気的性質に大きく寄与するBやPは平衡分配係数が大きく、この精錬では十分に取り除くことができない問題がある。さらに、Siの融点である1414℃以上の高温を有するプロセスであることが依然コスト高の要因となっている。
そこで、このSi凝固温度を低下させる方法として、低融点元素のAl(アルミニウム)を利用した方法(例えば、非特許文献2参照)等が提案されている。
しかし、この手法ではSi精練後に残存したAlを酸で除去する必要があることや、SiにAlが大量に取り込まれてしまうという問題点が残されている。「電気の缶詰」と呼ばれるほど製造の際に莫大な電気エネルギーを必要とするAlを大量に消費してしまう点も難点である。この他にも同様にIn(インジウム)やGa(ガリウム)といった低融点金属を溶媒として用いたSi結晶の低温成長の報告はあるがAl同様精練後に溶媒を除去する必要があり、溶媒の再利用には高コストの難問題がある。
花澤和浩、中村尚道、湯下憲吉、阪口泰彦、加藤嘉英・鉄鋼製造技術を活用したシリコンの高純度化・まてりあ・45・712−715・2006 吉川健、森田一樹・溶融Si−Al合金を溶媒に用いたSiの低温凝固精錬練法・溶融塩および高温化学・49・135−143・2006
本発明は、以上のとおりの背景から、簡便な手段によって、より低温で、元素半導体材料等として有用なSi中の不純物を低コストで除去することのできる、高純度Siを得るための新しい精製(精錬)の方法を提供することを課題としている。
本発明者は、上記課題を解決するための検討の過程において、別途に進めてきたSiの単結晶、あるいはその多結晶体の製造についてのアプローチで得られた知見に着目した。
すなわち、本発明者は、Na(ナトリウム)とSiを700℃の温度で加熱してNaとNaSi化合物の混合体を作製し、この化合物を800℃〜900℃で加熱し、Naを蒸発させることにより、Siの単結晶や多結晶体を作製できることを見出し、新しい結晶製造法とすることを可能とした([出願番号]特願2008-256932号、[出願日]2008年10月2日)。本発明者は、この結晶製造法の原理を明らかにするために、NaとSiの二元系状態図を作成した。その結果、NaSi化合物の融点が798℃であることと、798℃以上の温度での液相中のSiの組成が50mol%以上であり、Alなどの従来の低融点金属融液の溶媒に比べて、Na融液の溶媒が低温で極めて高いSiの溶解度を有していることを明らかにした(J.Alloys & Comp.,Vol.480,p.723−726,23 Feb.2009;第47回セラミックス基礎科学討論会発表、2009年1月9日;第144回日本金属学会発表、2009年3月30日:第56回応用物理学会発表、2009年4月1日)。
本発明者は、このような、より低い温度でのSi単結晶や多結晶体の製造を可能とする方法での、Na溶媒中への低純度Siの溶解、そしてNaSi化合物の生成とNa溶媒蒸発によるSi再結晶化の機序に着目し、さらに単結晶、多結晶体の製造とは全く別の観点から検討を進めることで本発明を着想し、本発明を完成した。
本発明のシリコンの精製方法は以下のことを特徴としている。
第1:金属Naを用いてのシリコンの精製方法であって、(1)金属NaとSiの粉末を混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱してNaSi化合物の融液を得る工程と、(2)工程(1)で得られたNaSi化合物融液の一方向凝固による不純物除去の工程と、(3)工程(2)での固相状態の前記化合物生成後に、この化合物を融解し、その融液からNaを蒸発させてSiを晶出させる工程とを含む
第2:前記の精製方法の工程(3)において前記NaSi化合物の融液からNaを蒸発させてSiを晶出させる工程も不純物除去の工程としてある。
第3:前記の精製方法の工程(3)におけるNaの蒸発Siの晶出ともなう。
第4:前記の精製方法の工程(3)におけるSiの晶出の工程からのNaが金属間化合物の生成に再利用される。
以上のとおりの本発明によれば、容易かつ安価に、低温でSiを精製する方法を提供することができる。
NaとSiの二元系状態図である。 本発明の実施の形態として、(a)NaSi化合物を作製する工程概要を示す斜視図と、(b)Siを晶出させる工程概要を示す斜視図である。 実施例1におけるプロセスを生成物の外観写真として例示した図である。 本発明の実施の形態として、Naの蒸気からNaSi化合物を作製する工程概要を示す斜視図である。 NaSi化合物を利用したSi精製法のシステム構成を例示した概要図である。 実施例3の工程概要を示した図である。 実施例3において得られた試料の光学顕微鏡写真である。 実施例3における各状態での不純物濃度測定の結果をプロットしたグラフである。 実施例3における各状態での不純物濃度測定の結果をプロットしたグラフである。
前記のとおりの特徴を有する本発明の精製方法は、Siを対象とした金属精錬法として考慮される。このような本発明の精製方法では、
(A)アルカリ金属(A)と低純度原料SiとのASi化合物の生成
(B)前記ASi化合物の融液からSiの晶出
のプロセスを前提とし、しかも前記プロセス(A)では、ASi化合物の生成に係わる工程として、少なくとも、ASi化合物の一方向凝固による不純物除去の工程を含むことを必須としている。
アルカリ金属と低純度SiとのASi化合物の生成に際しては、代表的にはNaまたはLi(リチウム)として例示されるアルカリ金属の蒸気または融液をバルク状や粉末状等の固相のSiと接触させる。
これにより形成される融液をASi化合物の融点、たとえばNaSi化合物の場合には図1の二元系状態図に示されるように融点798℃に冷却して一方向凝固させる。これにより固相のNaSi化合物が得られ、一方向凝固にともなって、ASi化合物を構成するアルカリ金属並びにSi以外の不純物が、固相端面(端部)、すなわち最終的に固化される部位に集積されることになる。
前記ASi化合物を生成して一方向凝固させるためのアルカリ金属とSiとの原料としての割合は前記化合物の構成原子比もしくはその近傍とする。また一方向凝固に際しては、不活性ガス雰囲気条件とすることが好適に考慮される。不活性ガスとしては、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、あるいはN2(窒素)が代表的なものとして好ましい。その際の不活性ガスの圧力は1気圧(大気圧)以上で、可能であれば、アルカリ金属の蒸発速度制御の観点からは数気圧程度加圧することも考慮される。
そして、一方向凝固に際しては、均一核発生が起こらない程度の温度勾配を設けることが望ましい。冷却の速度については、特に限定的でなく、遅くするのがよく、ASi化合物の種類やプロセス効率に応じて設定することができる。
一方向凝固によって固相化されたASi化合物の端面(部)には、前記のとおり不純物が集積されていることから、この部分は機械的に切断、研磨等によって、あるいはスパッタリング等の処理により除去する。
次いで、不純物が除かれた固相のASi化合物は、融解されて、Siが晶出される。この晶出方法としては徐冷と溶媒蒸発の2つの方法があるが、アルカリ金属がNaの場合、図1の状態図に示す実験的に求められた液相線より溶媒蒸発が選択される。溶媒蒸発は、ASi化合物の融液と平衡なアルカリ金属の蒸気圧よりも晶出反応容器内のアルカリ金属の蒸気圧を低く設定することにより行われる。
また、ここでの晶出は、ASi化合物の融点以上の温度において行われる。すなわち、NaSi化合物の場合には798℃以上の温度とすることでSiが800℃の温度レベルにおいて晶出される。この晶出においても不活性ガス、好ましくはAr、He、N2雰囲気下に行う。ただし、N2を使用する場合には、800℃〜900℃とすることも考慮される。900℃を超えると、NaSi23が生成する可能性がある。不活性ガスの圧力は1気圧(大気圧)もしくは数気圧程度の加圧とすることが一般的に考慮される。
晶出においては、不純物はアルカリ金属の溶液中にはき出される。その際に、アルカリ金属を蒸発させる場合には、晶出したSiの表面に不純物が偏析する。これを機械的に、あるいはスパッタリング処理等により除去することで、さらに高純度なSiが得られることになる。
溶媒としてのアルカリ金属を蒸発させ、溶液を保持するルツボ内で融液に接する部分に低温部を設ける場合には、そこから一方向の晶出も可能となる。
本発明の精製方法では、以上のことからも明らかなように、
1)ASi化合物の一方向凝固による不純物の除去
2)ASi化合物からのSiの晶出での不純物の除去
という2段階での精製が可能とされることになる。
そこで、図面等を示しつつ本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
たとえば、図2(a)(b)に示すように、本発明の精製法を実施するために、2つの反応容器11、12とBNルツボ13とを使用することができる。
各反応容器11、12は、たとえばステンレス製(SUS316)のルツボから成っている。反応容器11は、他端にステンレス製のキャップ11aを有していて、溶接によって密封可能である。また、反応容器12は、上部に着脱可能なステンレス製のキャップ12aを有している。キャップ12aは、反応容器12を密封可能である。なお、具体的な一例では、反応容器11は、内径が35mm、長さが45mmであり、反応容器12は、内径が38mm、長さが230mmである。
ボロンナイトライド(BN)ルツボ13は、たとえば焼結BNルツボ(昭和電工株式会社製)から成り、各反応容器11、12の内部に収納可能になっている。なお、具体的な一例では、BNルツボ13は、内径が26mm、長さが15mmまたは32mm、BNの純度が99.5%である。
たとえば、以上の反応容器11、12、そしてBNルツボ13を用いて、Siの精製を以下のように行った。
<実施例1>
まず、高純度アルゴンの不活性ガス雰囲気(O2,H2O濃度<1ppm)のグローブボックス内で、Na:Siのモル比が1:1となるよう、4gの金属ナトリウム1(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と5gの粉末状のシリコン2(株式会社平野清左衛門商店製、純度99.5%、粒径<75μm)とを秤量し、ともにBNルツボ13の内部に入れた。
次に、図2(a)のように、反応容器11の内部にBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器11をキャップ11aで密封した。反応容器11を電気炉内に設置し、800℃まで2時間で昇温し、その後5時間加熱して融液状の混合体を作製した。加熱終了後、反応容器11を電気炉内でルツボ下部より徐々に固化が進行するように室温まで冷却して一方向凝固させた。その後、反応容器11をグローブボックス内で切断し、BNルツボ13を取り出した。
BNルツボ13の内部の試料を観察したところ、銀色のバルク状固体が確認された。これをX線用ホルダーに乗せ、アルゴン雰囲気下でカプトン膜が貼ってあるキャップで封入し、X線回折測定(株式会社リガク製、製品名「Rint」、線源;CuKα)を行った結果、この物質は、NaSi化合物(組成比1:1)であると同定された。図1に示したNaとSiの二元系状態図からもわかるように、800℃ではNaSiの融液ができていて、炉冷すると融液が凝固してNaSi化合物が生成する。このバルク状固体の上部を切断して取り除いた。この部分にはNaとSi以外の不純物が集積しているためである。
その後、バルク状固体の下部を粉砕し、円盤状(直径25mm、高さ5mm)のペレット状の圧粉体3にした。
次に、図2(b)に示すように、反応容器12の内部に、圧粉体3を入れたBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器12をキャップ12aで密封して、反応容器12の下部のみを電気炉14内に設置した。NaSi化合物のペレット状圧粉体3を溶融させ、融液状態からNaを蒸発させてSiを晶出させるよう、800℃まで1時間で昇温し、その後12時間加熱した。加熱終了後、反応容器12を電気炉14内で約3℃/mmの温度勾配となるように室温まで冷却した。冷却後、キャップ12aをグローブボックス内で外し、BNルツボ13を取り出した。このとき、蒸発したNaが反応容器12の内部に固体状で凝結していた。取り出したBNルツボ13の内部には、Naは観察されなかった。
得られたBNルツボ13の内部にはディスク(円盤)状Siの存在が確認された。
このものには少量のNaやNaSi化合物が残っている可能性があるため、2−プロパノール、エタノール、蒸留水の順番で数回洗浄し、空気中で乾燥させた。これにより、水やアルコールとは反応しないSiのみが得られた。
以上のプロセスの概要を写真により生成物の外観として示したものが図3である。
また、原料Siと、以上の精製法により得られたSiの表面を研磨して平滑化した試料表面についてグロー放電質量分析装置(GD−MS)でSi中の不純物量を分析した。
表1は、原料のSi中に含まれる不純物量と得られたSi中の不純物量をまとめた表である。原料Si中の不純物量に比べて得られたSi中の不純物量が少なくなっていることが分かる。特に、Feをはじめとする遷移金属元素の不純物量低減が著しい。
本実施の形態では、NaSiの融液が一方向凝固する際に不純物元素が表面に掃き出されたと考えられる。また、この高純度化したNaSi化合物の融液からNaが取り除かれ、NaSi化合物中に残存した不純物がSi表面に掃き出されて、さらに不純物の少ないより高純度なSiが得られたと考えられる。
<実施例2>
まず、図4に示すように、高純度アルゴンの不活性ガス雰囲気(O2,H2O濃度<1ppm)のグローブボックス内で、2.6gのバルク状のSi(株式会社平野清左衛門商店製、99.5%)2と3.5gの金属Na(日本曹達株式会社製、99.95%)1とを秤量し、別々の焼結BNルツボ13a、13bに入れた。
次に、反応容器11の内部にBNルツボ13a、13bを配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器11をキャップ11aで密封した。反応容器11を電気炉内に設置し、800℃まで2時間で昇温し、その後24時間加熱した。加熱終了後、反応容器11を炉内で室温まで冷却した。ステンレスルツボをグローブボックス内で切断し、BNルツボ13a、13bを取り出した。
加熱後に反応容器11から取り出したBNルツボ13aにはNaSi化合物のバルク体が生成していた。
Naの蒸気と原料Siが反応してNaSi金属間化合物が得られたと考えられる。この結果より、前記実施例1記載のSi精製中に発生したNa蒸気を原料としてNaSi金属間化合物が得られることが確認された。
このことから、図5に示すような低純度の原料Siを溶解し高純度化するために必要な溶媒であるNaを高純度の状態で無駄なく再利用することができるシステムを構成できることがわかる。すなわち、
<1> Naと低純度Siから生成したNaSi化合物の融液を一方向凝固させてNaSi化合物を作製し、不純物を偏析させる。
<2> <1>で高純度化したNaSi化合物を融解させて、その融液からNaを蒸発させ、Siを晶出させることで二段階目の高純度化を図る。
<3> <2>で蒸発させたNaを用いて、NaSi結晶を作製し、次の精錬の原料とする。
上記のシステムを構成できることは次の実施例によっても支持される。
<実施例3>
出発原料として塊状の低純度Si(株式会社平野清左衛門商店製、大きさ10〜30mm、純度99%)、および金属Na片(日本曹達株式会社製、99.95%)を用いた。低純度Si中の平均不純物濃度は、株式会社平野清左衛門商店が発行した分析表によると、Fe:0.176%、Al:0.071%、Ca:0.011%であった。
実際にはSiの塊ごとに不純物濃度が大きく異なっているため、使用する塊の違いによって得られるSi結晶の不純物濃度にもばらつきが生じてしまう。そこで原料Si結晶中の不純物の偏在を軽減させるため、塊状の低純度SiをFe製の乳鉢を用いて粉砕し、粒径75μm以下の粉末状にした。本実施例では、この粉末状の低純度Siを用いた。
Ar雰囲気のグローブボックス内で、低純度Si粉末および金属Na片を、Siのモル比が40mol%となるように秤量し、外径20mmのBNルツボ(昭和電工株式会社、99.5%)の中に入れた。
図6に示すように、SUS容器20内にSi粉末および金属Na片が入ったルツボ21aを上部に、Si粉末が入ったルツボ21bを下部に配置しAr雰囲気で封入した。上部ルツボ21aから蒸発したNaを回収するために、SUS容器20下部にはSi粉末が入ったルツボ21bを配置している。また、ルツボ21aとルツボ21bとの間にはSUSスペーサ22を配置している。
ここで、SUS容器20の上部および容器下部の温度をそれぞれTtopおよびTbottomとし、ルツボ間の温度差ΔTをTtop−Tbottomと定義した。
図6左側に示すように、SUS容器20を2段型電気炉23内に設置し、SUS容器20の上部および下部には熱電対24を設置し、TtopおよびTbottomをともに1173Kに設定して、1h加熱した。その後30minかけてTbottomだけを1123Kまで下げて、ΔT=50Kの温度勾配の条件のまま64h加熱した。
熱処理後の反応容器はAr雰囲気で開封し、試料を取り出した。得られた試料はエタノールと蒸留水で洗浄した。試料の結晶構造の同定には粉末X線回折測定装置(Rigaku、RINT2200、Cu管球)を用いた。
グロー放電質量分析装置(GD−MS、VGELEMENTAL社製、VG−9000)を用いて原料および精製されたSi中の不純物を測定した。不純物測定では試料を高純度In(日鉱金属株式会社製、5N)に埋め込んで行った。
得られた試料の光学顕微鏡写真を図7に示す。ルツボ底部に金属光沢を有した粒状の塊が複数生成していた。加熱前後の試料重量変化から出発原料中のNaが完全に除去されたことが確認された。また、茶褐色の生成物がルツボ底面に生成していた。EDXによる組成分析の結果、得られた結晶の表面ではSiしか検出されなかった。しかし、ルツボに接していた部分ではNaおよびAlのピークが観察された。
得られた試料についてGDMSを用いた不純物濃度測定を行った。不純物濃度測定は、原料の低純度Si粉末、得られた結晶試料の表面および内部について行った。試料内部については、表面から10回スパッタした状態(試料1)と、機械研磨で薄くした状態(試料2)で測定を行った。
表2にそれぞれの状態での不純物濃度測定の結果をまとめた。
原料中にはFe:1897ppmをはじめ、Al:294.5ppm、P:41.57ppm、Ca:54.10ppm、Ti:94.45ppm、Cr:307.7ppm、Mn:150.3ppm、Ni:23.69ppmなど多くの不純物が含まれていた。
本手法を用いたSi精錬では、Na−Si溶液からNaが蒸発してSi結晶が生成するため、当初Si結晶の表面に不純物が濃縮されると予想した。しかし実際には表2に示されるようにNaやAlを除いたほとんどの元素において、原料中に含まれていた量よりも表面に存在する量の方が少なくなっていた。
上記で示したようにルツボ底面に茶褐色の物質が生成していたため、Si結晶中の不純物はルツボ底面に濃縮した可能性が高い。結晶中の不純物は固相よりも液相に溶解しやすいため、最終的にルツボ底面に液相が存在していたことが示唆される。
Alだけは、原料に含まれていた量に比べて、表面で多量に検出された。このことからAlは結晶表面に偏析しやすいと考えられる。表2には、表面から10回スパッタした面(試料1)および研磨した面(試料2)について不純物濃度測定した結果も併せて記載している。ほとんどの不純物元素では、試料の内部になるほど含有量が少なくなった。特に遷移金属であるTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niが顕著に減少していた。
図8および図9に、各状態での不純物濃度測定の結果を、遷移金属を含む各金属等についてプロットした。また、通常の一方向凝固では除去しにくいCやPも、原料中にはそれぞれ194.4ppmおよび41.57ppm含まれていたが、試料内部ではそれぞれ68.02ppmおよび3.28ppmまで減少していた。
Si融液の凝固法では除去しにくい元素についても、本手法が効果的であることが示された。Si結晶の電気的特性に大きく影響を及ぼすBに関しては、試料中に含まれていた量は原料中に含まれていた量よりも多くなっていた。これは、試料作製時に使用したBNルツボから混入したためと考えられる。Bの混入はBN以外のルツボを使用することで回避できる可能性がある。
本手法の一番の懸案は、作製後のSi結晶中におけるNaの残留量である。表2に示すようにNaは原料中に1.454ppmしか含まれていなかったのに対し、試料内部では83.22ppmまで増加していた。本手法で作製したSiを原料にした太陽電池セルの作製においてSiの融点以上でSiを融解→再結晶によるインゴット化が考えられる。
Naは高温における蒸気圧が高いため、わずかに結晶中に残存するNaは、このインゴット化の工程において取り除かれる可能性が高い。そこで得られたSi結晶を真空中で溶融し、Na量の変化を調べた。Si結晶をBNルツボに入れ、Siの融点以上である1723Kまで昇温し、8h加熱した。
得られた試料は研磨してGDMSによる不純物濃度の測定を行った。その結果を図9に示す。融解前の試料ではNaは83.22ppm含まれていたのに対し、融解後は0.033ppmまで減少していた。結晶中に残留したNaは再溶融により減少することが示された。さらにMg:0.014ppm、P:0.131ppm、Ca:0.038ppmなどの高温で蒸気圧が高い元素の減少が顕著に見られた。真空中での再融解は蒸気圧が高い元素の除去に有効であることが確認された。NaSiから蒸発させたNaは、高純度の状態で回収・再利用することが可能である。
もちろん、本発明は以上の例に限定されるものでなく、様々な細部形態が可能とされることは言うまでもない。
1 金属ナトリウム
2 シリコン
3 NaSiの圧粉体
11、12 反応容器
11a、12a キャップ
13、13a、13b BNルツボ
14 電気炉
20 SUS容器
21a ルツボ
21b ルツボ
22 SUSスペーサ
23 電気炉
24 熱電対

Claims (4)

  1. 金属Naを用いてのシリコンの精製方法であって、
    (1)金属NaとSiの粉末を混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱してNaSi化合物の融液を得る工程と、
    (2)前記工程(1)で得られたNaSi化合物融液の一方向凝固による不純物除去の工程と、
    (3)前記工程(2)での固相状態の前記化合物生成後に、この化合物を融解し、その融液からNaを蒸発させてSiを晶出させる工程とを含むことを特徴とするシリコンの精製方法。
  2. 前記工程(3)におけるSiの晶出が不純物除去の工程であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンの精製方法。
  3. 前記工程(3)におけるNaの蒸発がSiの晶出にともなうことを特徴とする請求項2に記載のシリコンの精製方法。
  4. 前記工程(3)におけるSiの晶出の工程からのNaが金属間化合物の生成に再利用されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
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