しかしながら、本発明者らの更なる調査、検討の結果、工業生産を前提とした製造条件下ではPの様な低沸点の不純物蒸気は、凝縮面温度を不純物の沸点より充分高く設定していても、凝縮容器内に大量に存在するSiO表面に容易に吸着固定される割合が極めて高く、原料をSiO化してもPの濃度は顕著には減少しないことが判明した。
ここで、本発明者らが見出した、PがSiO固体に大量に吸着される原理について説明する。
従来技術である特許文献2の実施例においては、SiO生成原料(C、SiO2)質量は、高々100g程度であり、30分程度加熱してSiO固体を得る製造条件であった。このときの反応容器、凝縮容器は、それぞれ直径0.5m長さ3m程度であり、反応容器および凝縮容器体積当りのSiO生成速度は、極めて低い条件であった。この製造条件では、確かにSiO固体へのPの吸着量は少なく、脱Pの精製効果が認められた。
しかし、本発明者らが、工業化の目的としてSiO生成速度を上昇させ(SiOガス質量100kg以上を約1時間で生成)、反応容器および凝縮容器体積当りのSiO生成速度を上昇させた条件で同様の実験を実施するとSiO生成原料中に存在していたPの大部分が、回収されたSiO固体に含有されることが判明した。この違いの理由は、以下の通りである。
まず、反応容器内体積当りのSiO生成速度が高い場合には、反応容器内及び凝縮容器内でのSiO圧力も一般に上昇する。この凝縮容器入口でのSiO分圧の高低によって凝縮器内でのSiO凝縮機構は変化する。まず、凝縮容器入口でのSiO分圧の低い場合、即ち、反応容器内体積当りのSiO生成速度の低い場合には、流入したSiOガス分子は、凝縮容器内壁に衝突して、凝縮容器内壁で直接固化する。
一方、凝縮容器入口でのSiO分圧の高い場合、即ち、反応容器内体積当りのSiO生成速度の高い場合には、流入したSiOガスは、凝縮容器内の気相中で冷却されて温度が低下した際、気相中で均一核生成を生じて、微粒子(クラスタ)となった後、凝縮容器内壁に衝突し、既存のSiOと結合して凝縮容器内壁上に凝縮膜を成長させる。このSiOの凝縮機構の差がP蒸気のSiO固体面への吸着に大きな影響を与える。凝縮容器中でのPの分圧は極めて低いため、P蒸気が単独に気相中で核生成して成長することはほとんどありえない。従って、凝縮容器に流入したP蒸気は、SiOに吸着されるか、または気相中に留まることになる。この前提で凝縮容器内でのSiO固体表面での瞬時の平均P濃度は、次の式で表現できる。
[SiO中平均P濃度]=QP/QSiO (5)
QP:PのSiOへの吸着速度 QSiO:SiOの凝縮速度
さらに、QP、QSiOは、統計力学の一般的な教科書に記載されている分子運動論によれば、それぞれ次の性質がある。
QP ∝ αP・Ssio・pP (6)
QSiO ∝ αSiO・Ssio・pSiO (7)
αP:PのSiOへの吸着速度係数 αSiO:SiOの凝縮速度係数
SSiO:固体SiO表面積 p:分圧
αは、対象となる気相物質(P、SiO)分子が、SiO表面に衝突した際にSiO表面に凝縮または吸着される確率であり、本発明者らの実験、調査の結果、一般的に次の条件が成り立つことが判明した。
αP ≪ αSiO (8)
従って、凝縮容器内においては、まず、SiOが凝縮し、次に、P蒸気が吸着される傾向となる。SiOの凝縮により、気相中のP濃度が上昇すると、式(6)、(7)より、QPが相対的にQSiOよりも大きくなっていくので、式(5)より、SiO表面でのP濃度は徐々に増大する。このまま長時間、P蒸気を凝縮容器中に放置しておけば、いずれは気相中の全てのP蒸気がSiO固体表面に吸着され、最終的に得られるSiO中のP濃度は、凝縮容器中に流入したSiOでのものと同一になる。ここで、「長時間」といっているのは、P蒸気分子のSiO固体表面への総衝突回数が充分に多いことを意味している。この性質を利用して、SiOガス中のP成分を選択的に系外に排出することが可能である。まず、反応容器内体積当りのSiO生成速度が低い場合は、気相での微粒子生成は無く、SiO凝縮面は、凝縮容器内壁のみであるのでSSiOは、小さい。従って、単位時間当りのP蒸気分子のSiO固体表面への衝突数は少なく、SiOが全て凝縮してからP蒸気が未だ多くはSiO吸着されていない時間帯が少なくとも数百msec程度存在し、かつ、この時間帯での気相にはP蒸気しか存在しないので、気相を全て系外に放出することにより、SiOへのP蒸気の吸着量を低減することが、工業的に可能である。従来技術は、専らこの原理に従ってP除去を行っていた。しかし、反応容器内体積当りのSiO生成速度が高い場合は、凝縮容器内に流入したSiOガスの大きな割合が微粒子となり、微粒子表面がP蒸気の凝縮面となりうるので、SSiOが極端に大きくなる。式(6)より、この状態では、αPが少々小さくてもQPは充分大きな値をとり得るので、P蒸気は速やかに微粒子表面に吸着される。この一連のプロセスに要する時間は、極めて短く、かつ、気相中には大量の微粒子が浮遊しているので、従来法の様に、P濃度の高いガスのみ選択的に系外に放出することは、工業的に著しく困難である。従来技術をこの様な反応容器内体積当りのSiO生成速度が高い場合に適用した場合、気相中でPを充分に吸着したSiO微粒子は、やがて凝縮容器内壁上のSiO固体膜に結合するので、最終的に得られるSiO固体中のP濃度は、流入時とほとんど変わらず、P除去の精製効果は無い。
この様に、反応容器および凝縮容器体積当りのSiO生成速度の高低によってSiO固体中のP濃度は、全く異なる挙動を示す。工業化を考えた場合、反応容器および凝縮容器体積当りのSiO生成速度を特許文献2並みに低く設定することは、装置の巨大化を招き、経済性の観点から現実的でない。従って、容易にはSiOへのPの吸着を防止できない反応容器および凝縮容器体積当りのSiO生成速度の高い製造条件を現実的には選択せざるをえない。
この様な高濃度のPを含有したSiOを原料に(1)式の反応でSiを製造した場合、特段のP除去作用がないため、Si中にもPが高濃度で残留する。このため、製造されたSiそのままでは太陽電池基板用の材料として適用することはできないという問題が存在した。
さらに、高沸点不純物に関しても問題が存在した。従来技術において、高沸点不純物の大部分は、SiO発生時にSiO原料中に残留するが、一部は蒸気として気相中に放出される。この不純物放出量は、SiO原料中の不純物濃度に比例して増減する。従来技術において、太陽電池用Siに求められる金属不純物濃度の上限値0.1ppmを満足するためには、(3)式反応を前提とする場合、SiO原料である金属Siを金属不純物濃度が合計2000ppm程度以下のものに限定して使用する必要があった。この様な金属Siとしては高純度のものは、一般に極めて高価であり、純度97%程度の安価な金属Siを適用できるシーメンス法に比べて、SiOからSiを製造する際に製造費上不利な点であった。この様なSiO原料純度が厳しく制約されるという問題は、従来技術においては、特許文献2で示した様にSiOから製造されたSiに対して凝固精製法、即ち、Siを融解し、これを一方向に凝固(一方向凝固)させることにより、インゴット端部に不純物を偏析させる精製法を適用することにより金属不純物を除去できるはずであった。しかし、本発明者らの更なる調査、検討の結果、従来技術における凝固精製法の適用は、実際には効果が極めて限定的であることが判明した。これは、以下の理由によるものである。前述の様に従来法によりSiOから製造されたSi中にはP等の低沸点不純物が大量に含まれている。このため、凝固精製を実施した場合、凝固精製中に固体Si中に固溶されなかった低沸点不純物がSi液相側にはき出されて凝固界面近傍Si融液中に低沸点不純物の高濃度領域が形成される結果、この領域で低沸点不純物が徐々に気化して気泡を形成し、凝固精製終了後のSiインゴット中に多数の気泡がランダムな位置に残留することが判明した。このインゴットの成分分布を調査した結果、各気泡の周囲に金属不純物が偏析しており、インゴット全体でみると凝固精製によるSi純度向上効果は、極めて限定的なものに留まるのである。
そこで、本発明においては、SiOを用いて高純度Siを製造する方法において、製品Si中の不純物濃度を太陽電池基板用Siに求められるレベルまで安価、簡便に減少せしめる高純度シリコン製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らのSi製造に関する研究の結果、以下の解決方法を発明するに至った。
(1)本発明は、一酸化珪素から不均化反応によりシリコンを製造する方法であって、前記不均化反応で得られたシリコンを融解し、減圧下で保持することで、該シリコン中の低沸点不純物を除去することを特徴とする高純度シリコンの製造方法、に関する。
(2)また、本発明は、アルカリ金属元素、または、アルカリ土類金属元素の一種または複数種の酸化物、水酸化物、炭酸化物またはフッ化物の少なくとも1種である反応物質と一酸化珪素を反応させて粗製シリコンを製造した後、前記反応物質に由来する不純物を除去してシリコンを製造する方法であって、前記不純物を除去して得られたシリコンを融解し、減圧下で保持することで、該シリコンの低沸点不純物を除去することを特徴とする高純度シリコンの製造方法、に関する。
(3)さらに、本発明は、二酸化珪素原料と粗製シリコン原料を反応させて一酸化珪素を生成し、該一酸化珪素からシリコンを製造する方法であって、前記粗製シリコン原料を融解し、減圧下で保持することで、該粗製シリコン原料中の低沸点不純物を除去してから、二酸化珪素原料と反応させることを特徴とする高純度シリコンの製造方法、に関する。
(4)本発明は、また、二酸化珪素原料と一方向凝固により金属不純物を除去した粗製シリコン原料を反応させて一酸化珪素を生成し、該一酸化珪素からシリコンを製造する方法であって、得られたシリコンを融解し、減圧下で保持することで、該シリコン中の低沸点不純物を除去することを特徴とする高純度シリコンの製造方法、に関する。
(5)前記低沸点不純物を除去したシリコンを、さらに一方向凝固することで、金属不純物を除去する前記1、2また4に記載の高純度シリコン製造方法。
(6)前記低沸点不純物を除去した粗製シリコン原料を、さらに一方向凝固することで、金属不純物を除去する前記3に記載の高純度シリコン製造方法。
(7)前記一酸化珪素から得たシリコンを、さらに一方向凝固することで、金属不純物を除去する前記3に記載の高純度シリコン製造方法。
(8)前記低沸点不純物がリンである前記1〜7のいずれかに記載の高純度シリコンの製造方法。
(9)前記融解温度がシリコン融点〜2000℃である前記1〜8のいずれかに記載の高純度シリコン製造方法。
(10)前記減圧が10−2Pa以上10Pa未満である前記1〜9のいずれかに記載の高純度シリコン製造方法。
(11)前記保持時間が1時間を超え1000時間以下である前記1〜10のいずれかに記載の高純度シリコンの製造方法。
本発明の方法により、太陽電池基板用Siに求められるSi純度を常に満足する高純度シリコンを歩留り良く得ることができ、従来法に比べて約90%の製造費を削減することができる等、太陽電池基板用の原料Siを高品質、安価で供給することが可能となる。
まず、第1発明について図3を用いて説明する。最初に、低純度のSiO原料は、前述の(3)式または(4)式の反応によって固体SiOとして回収される(以下、これを「SiO製造工程」と呼ぶ)。この固体SiOから(1)式に示した方法によってバルク状の固体Siを得る(以下、これを「Si抽出工程」と呼ぶ)。ここまでは従来技術であり、この状態のSi中には前述の通り、P等の低沸点不純物が大量に含有されている。
ところで、Si中の低沸点不純物は、単位質量当りの蒸発速度がSiよりも一般に高いので、好適な条件を設定できれば、低沸点不純物のみを主として蒸発させることによってSiの精製が可能となる。そこで、本発明者らは、SiOから得られた固体Siを一旦、融解し、低沸点不純物の蒸発速度を上昇させるために減圧条件に一定時間さらす(以下、これを「真空脱ガス工程」と呼ぶ)手法を組み込むことにより、SiOから得られたSiを高純化する方法を完成させた。真空脱ガス工程を図2を用いて説明する。反応容器1内に予め設置されたるつぼ3中に保持され、加熱装置4によりSi融点以上2000℃以下の所定温度を維持したSi融液11からSi蒸気12とともにSi融液中に溶解しているP等の低沸点不純物を蒸気13として蒸発する。低沸点不純物を蒸発させ続ければ、溶融Si中のPを減少させることができる。但し、例えば、常圧においてPの蒸発速度は極めて小さいため、脱Pの所要時間は非現実的に長くなってしまう。そこで、圧力計9を監視しながら真空ポンプ8により蒸発容器中の雰囲気を10−2Pa以上10Pa未満の所定圧まで減圧させることにより、Pの蒸発速度を上昇させる。反応容器内を高い真空度、例えば、10Pa以下にすると、そもそも容器内のガス量自身が少ないので、炉内の雰囲気成分は特に操業上の問題とならない。例えば、操業中にはリークにより装置内に流入した空気中の酸素により、装置内は一般に弱酸化性雰囲気となるが、流入する酸素量は、発生するSi蒸気に比べて極めて少量であり、かつ、酸素は、カーボン等の炉材と速やかに反応して気相から除去されるため、悪影響を及ぼさないのである。
本発明のポイントは、SiOから高純度Siを製造する過程において、Pが固体SiO中に大量に取り込まれる現象を本発明者らが初めて見出し、その機構についても本発明者らが初めて解明し、更に、安価にPを除去する手法と組み合わせることにより、工業的規模でSiOから太陽電池基板用Siに適用できる高純度Siの製造技術を初めて考案した点である。太陽電池用Si製造を目的とした工業生産レベル(SiO 100kgを約1時間で生成するレベル以上)のSiO生産規模、生成速度でバルク状SiOを製造した事例は過去に開示されておらず、高いSiO生成速度条件下ではSiO中に大量のPが吸着されるという事実は当業者には知りえないものであった。
次に、第2発明について図4を用いて説明する。前述のSiO製造工程で得られたSiOにナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属元素、または、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属元素の一種または複数種の酸化物、水酸化物、炭酸化物、ふっ化物のいずれかの反応物質を添加し、Siの融点以上2000℃以下の温度で反応させることでSiを得ることができる(以下、これも「Si抽出工程」と呼ぶ)。この段階でのSiには前記反応物質に起因する不純物(Na等)が大量に含有されている。そこで、このSiに対して、前記反応物質起因不純物の除去処理を行い、Siの純度を高める(以下、これを「脱アルカリ工程」と呼ぶ)。
脱アルカリ工程の具体的な方法は、次の様なものが挙げられる。
第1の方法として、Siを粉砕して質量濃度10〜100%のふっ酸で表面を洗浄することにより、Si粒表面の不純物を溶出除去することにより、Siの脱アルカリを行う。
第2の方法として、Siを粉砕して30℃〜300℃の熱水で表面を洗浄することにより、Si粒表面の水溶性不純物を溶出除去することにより、Siの脱アルカリを行う。
第3の方法として、Siを溶融させて、Siの融点以上沸点以下の温度で真空処理することにより、Siの脱アルカリを行う。この方法を「真空脱アルカリ法」と以下呼ぶことにする。数百kgのSiを対象とする様な工業的規模での真空脱アルカリ法を行う際、Si融液には初期に数百ppm〜数%程度の極めて大量の反応物質起因不純物(Na等)が含まれている。一般に真空脱アルカリ法では低圧で処理するほど、脱アルカリ速度が上昇する。しかし、一方で脱アルカリ速度の高い状態とはSi融液から蒸発するNa等の不純物の蒸発速度が高いことなので、極端に蒸発速度の高い操業条件では、Na等の不純物はSi融液表面だけでなく、融液内部で蒸発して気泡を形成し、沸騰状態になる。沸騰の激しい条件での脱アルカリ操業では、Si融液中での気泡の上昇、Si融液表面での気泡破裂によるSi融液の周囲への飛散が激しくなり、著しい場合には、Si融液の大半が瞬時に炉内に飛散してしまう突沸現象を発生する場合がある。従って、Si歩留りと、脱アルカリ炉内汚染の観点から、Si融液内でのNa等の不純物沸騰を回避する条件での操業が必要であり、脱アルカリ作業時の雰囲気圧力には下限値が存在する。本発明者らは、Na、K、Mg、Ca、Ba等、様々な反応物質起因不純物について、工業生産レベルの処理Si質量(数百kg)での真空脱アルカリ法の雰囲気下限圧力を実験、調査した結果、いずれの物質についても、雰囲気圧力を少なくとも1000Pa以上に保持しないと、突沸現象を回避できないことが判明した。即ち、工業生産レベルの処理Si質量での真空脱アルカリ法での操業圧力下限値は、1000Pa以上である。
工業生産レベルの処理Si質量に対する雰囲気圧力が1000Pa以下にできない理由について述べる。工業生産レベルの製造規模で抽出されたSi中に含有される反応物質起因不純物のSi中での存在形態は、不純物を数〜数十%の高濃度で含有したSiO2相がSi相中に分散したものとなっている。このSi中に分散したSiO2は、真空脱アルカリ処理でSiが融解した際に、式(3)の反応により、Siと反応してSiOガスを生成する。これは、式(3)の反応は1000Pa以下の圧力条件で反応速度が急激に上昇するためである。抽出工程は常圧下で行われるので、抽出工程では式(3)の反応はほとんど生じ得ず、抽出工程で得られたSi中にはSiO2が安定して存在することができる。真空脱アルカリ作業時に生成するSiOガス生成速度が極端に大きい場合にはSiOガスがSi融液中で気泡を形成して突沸現象を引き起こす場合もある。従って、SiOガス生成起因の突沸を防止する観点から、SiO生成速度の急激に上昇する1000Pa以下での真空脱ガス処理は、回避しなければならない。但し、SiOは1000Pa以上では生成速度が小さいので、Si融液の深い部位ではSi融液の静圧によってSiOは発生しにくい。Si融液のより深い部位で発生した気泡ほど、周囲のSi融液を連行して突沸し易いので、この点ではSi融液中でのSiOガス生成は、表面近傍に限られるため、SiOのSi融液中でのガス生成速度に対する突沸の発生率は、比較的小さい。一方、SiO中に高濃度で存在していたNa等の反応物質起因不純物は、SiO2がSiOガス化する際にSi融液中に放出される。Na等の反応物質起因不純物は、SiO2中ではSiO2と強く結合して活量が低く、蒸発し難いが、Si融液中では活量が上昇して蒸気圧が大幅に上昇する。Si融液中に放出された反応物質起因不純物原子または分子は、Si融液中を広く移動して同種の原子または分子同士で気相を形成して融液中で気泡が発生する。この機構で発生する反応物質起因不純物気泡は、Si融液の深い部分でも発生しえるので、生成ガス速度に対する突沸の発生率は高い。そこで、反応物質起因不純物気泡の生成速度を低下させて突沸の発生を回避するためには反応物質起因不純物を含有する、SiO2からSiOへの反応速度を低下させなければならない。この観点からもSiOの発生速度が急上昇する1000Pa以下の圧力での真空脱アルカリ作業は回避されなければならない。この様に、反応物質起因不純物による突沸発生率は、SiO生成速度に支配されるため、反応物質起因不純物の種類が異なっても、真空脱アルカリ法での操業圧力下限値は、等しく1000Paとなり、これ以下にはできないのである。
抽出時に、Siに含有されるSiO2量を低減すれば突沸は発生し難くなる。この様な操業は、実験室レベルの処理SiO質量、例えば、数百gでは比較的容易に実現できる。即ち、SiOと反応物質の反応は、SiO表面で発生するが、この様な少量のSiでは、Si体積に対する表面積の割合が大きいため、比較的速やかに全SiOの反応が終了する。このため、低温での操業とし、反応系を静置する様な、SiOと反応物質がなるべく混ざらない様に設定した作業条件でSiを抽出すれば、発生したSiO2とSiは、界面張力と重力によって、きれいに2相に分離し、Si中へのSiO2混入量が減少できる。実際に、250gのSiOに80gの酸化ナトリウムを添加して静置し、ロータリーポンプで真空排気しながら、1500℃で1時間保持した後、冷却固化して得られたSi塊の中心部でのNa濃度は約60ppmであり、工業生産規模の量で製造されたものに比べてかなり低いものであった。しかし、この方法を例えば、数百kgの工業生産規模のSiOに対して直接適用すると、SiO体積に対するSiO表面の割合が前記少量実験の場合の1/1000程度に低下するため、全てのSiOを反応させるためには数百時間以上を要し、生産性、経済性の観点から実用化することは困難である。そこで、抽出工程での処理量が多い場合には、反応物質、SiO、並びに、反応生成物を良く混練、攪拌することにより反応表面積を増大させて反応速度の上昇を図る作業が不可欠になる。この様な作業を行って抽出されたSi中には、前述の様に、多量の分散したSiO2相を含有することが避けられないのである。また、この様に一旦、Si中に分散したSiO2相は、一般に数μm以下程度の大きさしかないため、Si中からSiO2相を脱アルカリ工程の前に分離することは著しく困難である。以上が、脱アルカリ工程に関する説明である。
脱アルカリ工程を経て得られたSi中には大量のP等の低沸点不純物が残留している。そこで、本発明において、Siを溶融させて溶融面を減圧下に保持をすることにより、Si中のP等の低沸点不純物を蒸発除去することにより、高純度のシリコンを得る(これも「脱P工程」と呼ぶ)。この工程は、一見、脱アルカリ工程で真空脱アルカリ法を実施した場合と同様の様にもみえるが、実際には、両者は大きく異なる。即ち、Si抽出工程により得られたSi中において、Na等の反応物質起因不純物は、主としてSi中に分散した微小SiO2中に含有されており、その濃度も数千ppm以上と極めて高い。一方、反応物質起因不純物以外のP等の低沸点不純物は、主として、原料中に元々含まれていたものであり、抽出で得られたSi融液中ではこれらの不純物はSi融液に直接溶解しており、濃度も高々数ppmである。前述の様に、Si中に分散したSiO2中の高濃度の反応物質起因不純物を除去することを主目的とする脱アルカリ工程では、SiO生成速度が好適になる1000Pa以上での真空処理が必須の作業条件である。一方、Si融液に直接溶解した比較的低濃度の低沸点不純物の除去を目的とした脱P工程では、Si融液中のSiO2は、大半が脱アルカリ工程でSiOとして気化除去されているので、SiO生成速度とは無関係に低圧の雰囲気を選択できる。特に、P等の低沸点不純物は、低沸点ではあるものの、Si融液中での濃度が比較的低いため、脱アルカリ工程に比べて、一般に低速の脱ガス速度となる。そこで、工業的に実現可能なレベルの脱ガス速度を満足するためには、真空処理における雰囲気圧をより低く設定する必要がある。特許第2905353号公報に記載されるように、10Pa〜100Pa以上の圧力下での真空処理においては脱P速度が極端に低下するので、脱P工程は、少なくとも100Pa未満で実施しなければならない。従って、少なくとも工業生産規模の量のSiを処理する際には、脱アルカリ工程と脱P工程は、同じ真空処理とはいっても、機能を発揮できる雰囲気圧力領域に全く重なる部分がないため(脱アルカリ工程では1000Pa以上、脱P工程では100Pa未満)、同時に実施することはできない。この事実は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
勿論、工業生産を前提としない少量のSi製造においては、脱アルカリ工程と脱P工程を共通の低圧で実施できる可能性がある。例えば、前記の250gSiOに酸化Naを加えて抽出したSiの真空脱アルカリ処理は、10Paの雰囲気で実施された。この際、突沸現象も発生することなく、1時間の処理時間で反応物質起因不純物の除去は充分に行われた。しかし、Si中のP濃度は、真空脱アルカリ処理前の6.5ppmから処理後の6.2ppmに減少したのみであり、太陽電池基板用Siに求められるP濃度には全く至っておらず、脱アルカリ工程が本発明で規定する「脱P工程」として機能したとは評価できない。いずれにせよ、前述の様に、この様な少量実験の手法は、工業規模の製造には全く適用できない。脱アルカリ工程でSi中のP濃度は減少する可能性はあるが、あくまでも副次的なものであり、太陽電池基板用Si製造において脱P工程を省略できるような性質のものではない。
本発明のポイントは、第1に、SiOに酸化Na等の反応物質を反応させてSiを抽出し、得られたSiに脱アルカリ工程を施して純度を向上させる技術は、公知ではない。第2に、工業生産規模の真空脱アルカリ工程では雰囲気圧力に下限値が存在すること、脱アルカリ工程を経たSi中にはP等の低沸点不純物が大量に残留していること、並びに、真空脱アルカリ工程が脱P工程を兼ねることは不可能であることは、本発明者らにより初めて見出された事実である。第3に、脱アルカリ工程を経たSiを溶融して減圧下に保持するという簡便な方法で安価に高純度シリコンを得る方法を見出したこと、以上の3点ある。
次に、第3発明を図5を用いて説明する。第3発明では真空脱ガス工程がSiO製造工程の前に置かれる点で、第1発明と異なる。この方法の有利な点は、真空脱ガス工程が最初に配置されているため、P等の低沸点不純物以外の物質による真空脱ガス工程での原料汚染は、最終製品Siの純度に大きな影響を与えないことである。これは、真空脱ガス工程の後に、高沸点物質の精製能力の高いSiO製造工程が控えているからである。従って、第3発明においては、真空脱ガス装置を高純度炉材で構成する必要は必ずしもなく、安価な真空加熱炉で生産システムを構築可能である。一方、第3発明においては、SiO製造工程以降では製品に対する低沸点不純物汚染に対しては無力である。このため、Si抽出工程において第2発明に示した方法を採用する場合には、SiO製造工程以降で低沸点不純物であるNaが製品Siに混入するおそれがあり、第3発明よりも第2発明の方が品質の点で有利となる。一方、Si抽出工程において(1)式の不均化反応を採用する場合には製品Siへの特段の汚染はないので、第3発明が有利となる。また、図6に、他の第3発明の工程フローとして、抽出工程に(1)式の不均化反応を用いた場合の例を示す。
次に、第4発明を図7を用いて説明する。図7においては、第2発明の最初に原料Siに対して凝固精製工程が加えられている。
ここで、「凝固精製工程」の定義について説明する。凝固精製工程とは、Si固体中での不純物固溶限界濃度とSi液体中での不純物限界濃度の差を利用して、不純物を含むSi融液を一方向凝固させることにより、Si固体中の不純物濃度をSi融液中の初期不純物濃度より低下させる工程、即ち、凝固精製を行う工程のことである。具体的には、精製対象のSi全量を最初に融解させた後、一方向凝固を行う方法(キャスィング法、ブリッジマン法、チョクラルスキー法等)、精製対象のSiの一部のみ融解させ、この融解部分を精製対象Si中で一方向に移動させて一方向凝固させるゾーンメルティング法(FZ法等)等の手法が当業者者に知られている。本発明の凝固精製工程においては、これらの凝固精製手法のいずれも適用可能である。一般的には、大規模工業生産を前提とした場合、単結晶Si製造にはチョクラルスキー法が有利であり、多結晶Siでもよい場合にはキャスティング法が有利といえる。しかし、これらいずれの凝固精製手法を採用するかは、目的とするSiの品質、生産規模、製造費等を考慮したうえで、エンジニアリング的に判断すべき事項である。以下に記載する「凝固精製工程」全ては、以上述べた定義に従うものである。
前述の様に、原料Si中の低沸点不純物を除去する前に凝固精製工程を実施する場合には、従来技術と同様に凝固精製実施時には凝固中の低沸点不純物のガス化、気泡形成の影響で、凝固精製は好適には行えず、例えば、初期濃度の数割というレベルの精製しか実現できない(凝固精製が好適な場合、金属成分に関しては通常、初期濃度の1/1000以下のレベルまで精製可能である)。この様な工程配置は、極端に金属不純物濃度の高い原料を用いる場合に必要となる。なぜならば、極端に金属不純物の高い原料を直接真空炉内に投入してSiOを発生させると大量の金属蒸気が発生し、この金属蒸気が炉壁と反応して炉材を急速に腐食させるためである。SiO製造工程前に金属不純物を数割程度低下することができれば、炉材損耗もその割合に比例して減少させることができる。この目的でSiO製造工程の前に凝固精製工程を配置するのである。尚、凝固精製工程は、一般に常圧下で実施されるため、SiO製造工程における様な大量の金属蒸気の発生はそもそも無く、炉材腐食の問題も小さい。また、図8に、他の第4発明の工程フローとして、抽出工程に(1)式の不均化反応を用いた場合の例を示す。
次に、第5発明を図9を用いて説明する。図9においては、第2発明の最後に凝固精製工程を追加したものである。原料中の不純物濃度が高い場合には第2発明で得られるSi中の特に、金属不純物が太陽電池基板用Siの成分許容値を満足できないことがある。このとき、凝固精製工程により、金属不純物を安価、高効率的に除去することができる。
ここで、太陽電池基板用Siで問題となる金属不純物元素を以下に列記する。即ち、Fe、Al、Cr、Mo、Ni、Mn、Cu、Ti、V、W、Zn、Cd、Na、Mg、Li、Co、Be、Sr、Hg、Au、Pt、Ag、U、K、Ca、Nb、Ru、Rh等である。また、悪影響の比較的少ないGe等の金属元素も、Si中に大量に、例えば、数ppmオーダーで存在すれば問題となる。尚、一般に太陽電池基板用Si中には酸素が含まれているので、Al、Ca等のSiより酸化され易い金属不純物元素の一部は、酸化物としてSi中に存在している。これらの酸化物は、一方向凝固による凝固精製の効果が一般に低いが、これら酸化物の電池性能への悪影響も比較的小さいので、あまり問題ではない。
前述の様に、凝固精製工程を実施する際、脱アルカリ工程の直後に凝固精製を実施すると、Si中に残留した低沸点不純物の凝固中の気泡形成により、凝固性能を著しく悪化させるので、凝固精製工程は、真空脱ガス工程を実施した後に配置されるべきである。尚、この凝固精製工程は、第1発明または第4発明の最後の工程として追加しても良いことは言うまでもない。また、図10に、他の第5発明の工程フローとして、抽出工程に(1)式の不均化反応を用いた場合の例を示す。
次に第6発明を図11を用いて説明する。図11においては、第3発明におけるSiO製造工程の前に真空脱ガス工程及び凝固精製工程を連続して配置したものである。凝固精製は、本件の他の発明例と同様に好適に行われる。製品Siの品質に関してはSi抽出工程において(1)式の方法を採用すれば大きな問題は発生しないので、真空脱ガス工程及び凝固精製工程の装置を純度の低い安価な素材で構成することができる。また、原料不純物濃度が極端に高く、図11の構成では金属不純物の除去が不十分な場合には、脱アルカリ工程の次に、再度、凝固精製工程を配置しても良い。また、図12に、他の第6発明の工程フローとして、抽出工程に(1)式の不均化反応を用いた場合の例を示す。
次に、第7発明について図13を用いて説明する。図13においては、第3発明の最後に、Siをるつぼ内で融解し、るつぼの一端から他端まで一方向に徐々に凝固させることによりSiインゴットの一部に不純物を偏析させ、偏析部位のSiごと不純物を除去する工程(以下、これを「凝固精製工程」と呼ぶ)が追加されている。前述の様に、凝固精製法は、特許文献2にも開示された技術であるが、SiOから製造されたSiをそのまま凝固精製しようとすると、Siの凝固中にPの気泡が発生して好適に精製することはできない。そこで、本発明においては、凝固精製を実施するに先立ち、真空脱ガス工程を実施し、この工程において、凝固精製を阻害するPを予め除去することにより、好適な凝固精製を実現する方法を考案した。凝固精製を好適に実施することにより、原料に求められる金属不純物許容値を大幅に緩和でき、より安価で豊富に存在する原料を用いて高純度Siを製造可能になるため、製造費削減効果が高い。尚、溶融Siを使用する真空脱ガス工程と凝固精製工程が連続する場合には、両工程間で一旦、Siを凝固させることは必ずしも必要なく、溶融Siの状態で工程間を連続してもよい。また、図14に、他の第7発明の工程フローとして、抽出工程に(1)式の不均化反応を用いた場合の例を示す。
次に、第8発明を説明する。現在の太陽電池基板用Siに求められるPの許容値は、元素毎に質量割合で概ね0.1ppm以下である。低沸点不純物は、P、Mg、As等多数存在し、工業的にこれら全ての元素を日常品質管理指標として成分分析し続けることは極めて困難である。そこで、本発明者らは、低沸点全不純物質の真空脱ガス特性を調査、検討した結果、安価な金属Siや汎用カーボンとけい砂等をSiO原料とした場合、第1〜第7発明の条件下では、低沸点不純物除去の最大のネックとなるのは常に成分元素Pであることを見出した。そこで、第8発明におけるポイントは、Pの全ての元素を直接、成分管理するのではなく、Pのみを指標として成分分析を行い、この値を許容値(0.1ppm以下)となる様に成分管理を行えば充分であるという点である。また、他のSiO原料、例えば、半導体用Si屑をSiO原料とした場合にもネックとなる低沸点不純物がPであることを本発明者らは見出した。これは、半導体用Siは、元々99.9999999%程度以上まで高純化されており、この場合、低沸点不純物とはこの高純度Siに意図的にドープされた元素によるものが大半を占めるからである。ドープされる低沸点元素は、Pが主成分であるので、半導体用Si屑をSiO原料とした場合でもPのみを低沸点不純物の成分管理指標とすれば良いのである。
次に、第9発明を説明する。第1〜第8発明において、本発明者らは、真空脱ガス工程における最適なシリコン温度範囲を見出した。即ち、シリコンが充分に融解していないと低沸点不純物は、固体シリコン中を拡散しなければならず、脱ガス速度が極端に低下するので、シリコンの温度は、シリコン融点以上でなければならない。また、真空脱ガスを高速に行うためには、雰囲気圧を例えば10Pa以下と低く設定しなければならない。この様な低圧下ではSiの飽和蒸気圧は、雰囲気圧以上となるため、シリコン融液は沸騰し、真空脱ガス炉内にSi液滴が飛散して炉材を汚染し、炉材費用の点で著しく不利となる。本発明者らは、第1〜第8発明での真空脱ガス工程において、シリコン温度が2000℃以下であれば、仮にシリコン融液が沸騰したとしても、浴面下数cm程度以下の範囲に限定され、融液中のシリコン蒸気が上昇して浴面で破裂しても顕著なシリコン融液飛散は発生しないことを見出した。従って、シリコン温度は、シリコン融点以上、2000℃以下とすべきである。
次に、第10発明を説明する。第1〜第9発明において、本発明者らは、真空脱ガス工程における減圧の最適な圧力範囲を見出した。即ち、シリコン融液表面から蒸発した低沸点不純物蒸気は、周囲の圧力が高いと、シリコン融液近傍のガス分子に跳ね返されて、再びシリコン融液表面に凝縮してしまうものの割合が高い。このため、雰囲気圧力は低圧なほど、低沸点不純物の蒸発速度が高くなる。本発明者らは、第1〜第9発明での真空脱ガス工程において、雰囲気圧力が10Pa以上になると低沸点不純物の蒸発速度が著しく低下することを見出した。また、第1〜第9発明での真空脱ガス工程において、10−2Pa未満の高真空下では、真空脱ガス炉の炉材中に含有される酸化ボロン(B)等の微量元素がガス化して炉内を飛散してシリコン融液表面に凝縮し、シリコン融液を汚染する現象を本発明者らは、見出した。Bは、凝固精製でもほとんど除去できない元素であり、かつ、太陽電池基板用シリコン成分としての許容値も極めて低いものであるので、この様なBによるシリコン汚染は致命的になる可能性がある。また、Bをほとんど含まない、例えば、B濃度が0.1ppm以下の炉材は、一般に市販される安価な、汎用炉材には存在しないため、炉材からのB汚染を回避するためには、特別に精製した高価な炉材を使用しなければならず、製造費の点で不利である。従って、雰囲気圧力は、10−2Pa以上、10Pa以下とすべきである。
次に、第11発明を説明する。第1〜第10発明において、本発明者らは、真空脱ガス工程における保持時間の最適な範囲を見出した。ここで定義する保持時間とは、真空脱ガス炉内でシリコン融液からの低沸点不純物の蒸発速度が開始した時刻(シリコン温度がシリコン融点以上であり、かつ、真空脱ガス炉内圧力が常圧未満である条件を初めて満たした時刻)から、真空脱ガスにより太陽電池基板用シリコンでの低沸点不純物濃度を満足した時刻までの時間のことである。本発明におけるSi製造時には、SiO2が副生物として発生する。この副生SiO2は、少なくともppbオーダーでは得られたSi中に溶存するとともに、サブμmレベルの分散相として得られたSi中に少量混入することは避けられず、また、精製によりSiO2を完全にSiから除去することは著しく困難である。SiO2は、液体Siに比べて比重が小さいので、Si融液中を移動してSi融液表面に達したSiO2の一部は、必ず表面膜を形成してSi融液表面を薄く覆い、SiおよびSi中不純物の蒸発速度を低下させる。Si融液表面を覆うSiO2薄膜の厚みは膜の部位により数桁異なり、Si及びSi中の不純物は、主としてSiO2薄膜の比較的薄い部位から蒸発することを、本発明者らは見出した。ところで、数十mm以上のSi融液深さでの脱ガス速度の実測値からみて、市販の金属Siを原料として本発明の方法で高純度シリコンを製造する際に、真空脱ガス工程において、数十mm以上のSi融液深さでの保持時間実測値は数時間程度である。この結果から、例えば、1mm程度のSi融液深さで真空脱ガス工程を実施すれば、保持時間は、1時間未満を満足できると推定されるが、実際にはそうはならない。これは、前記SiO2薄膜厚の部位毎のばらつきによるものである。即ち、Si中の低沸点不純物は、実質的にSiO2薄膜の薄い領域からのみ蒸発するが、融液深さの大きい場合には、水平方向にSi融液及び不純物が輸送されやすいため、Si中の低沸点不純物濃度は、部位にかかわりなく、平均的に低下する。一方、Si融液深さが極端に薄い場合には、この様な、Si融液中での水平方向の物質輸送が大きく抑制されるため、SiO薄膜の厚い領域直下のSi融液中では極く低速でしか低沸点不純物は蒸発しない。この結果、Si融液中の低沸点不純物濃度の除去速度は、SiO2の厚い膜直下領域でのSi中の不純物蒸発速度に支配されることになる。融液深さ0.1mm、1mm、10mmの条件で保持時間を測定した結果、いずれの保持時間も1時間を僅かに超えた。10mmより大きなSi融液深さでは、保持時間は、単調に増加することが観察された。0.1mm以下の融液深さであれば、保持時間は1時間よりも減少する可能性は、存在するが、るつぼとSi融液の接触面積が極端に増大し、るつぼ面からのSi融液の汚染を回避するためには、高価な高純度るつぼを大面積で使用する必要があり、工業的には現実的でない。従って、保持時間は、1時間を超えなければならない。また、保持時間の上限は、原理的には存在しないが、実際には、市販されている安価なるつぼ材質の代表的なもの全てについて、数百〜1000時間程度使用すると、Si接触面に微細な亀裂が発生してSiがこの亀裂に浸透することにより、るつぼ中の不純物のSi融液への溶出速度が急激に悪化する現象が観察された。従って、保持時間は、最長でも1000時間以下でなければならない。まとめると、保持時間は、1時間を超え、1000時間以下とすべきである。
尚、以上の発明で比較的安価なSiO生成原料を用いて、現在の太陽電池基板用Siの成分基準を満たす高純度Siを製造することは可能であるが、将来的に、より、特定成分の純度の基準が厳しく設定された場合や、より安価で純度の低いSiO生成原料を適用するために、本発明に開示された以上の精製能力が必要になる場合が有り得る。その様な場合には、本発明に示した製造工程全体の前、後、または中間に、この特定成分用の精製工程を追加することにより対処することは、当業者であれば容易に思いつく方法である。例えば、極端にBの高い(例えば、100ppm以上の)金属Si原料を用いて、高純度Siを製造しようとする場合には、脱B工程として、鈴木ら、日本金属学会誌、第54巻、2号、168−172頁(1990)に示された方法を本発明に組み合わせることにより、容易に製造可能となる。例えば、図5において、真空脱ガス工程の前に、この脱B工程を配置する方法、図4の真空脱ガス工程の後に脱B工程を配置する方法、または図9で脱アルカリ工程と真空脱ガス工程の間に脱B工程を追加する方法等は、容易に考え付くものである。この結果、このときの製造フローは、一見、本発明とは異なる製造工程である様にみえる。また、金属Si中の金属不純物に関しては、原料Siを粉砕してフッ化水素酸やその混合物で酸洗して除去する方法が一般的に知られており、Siの化学成分定量分析での試料洗浄等で実際に適用されている。この酸洗工程のみでは、Si結晶粒内に固溶した金属不純物の除去は困難なので、この工程の後に、本発明で示したSiO製造工程、または、凝固精製工程が必要になる。このときの製造フローは、例えば、図4のSiO製造工程の前に酸洗工程を組み込む形式となり、一見、本発明とは異なる製造工程である様にみえる。さらに、低沸点不純物の除去方法として、真空脱ガス工程以外にも、常圧下でSi融液に酸素ガス等を吹き付ければ、P等の不純物が少量気化して僅かな精製効果が得られることが一般的に知られている。実際には、この方法のみでSi中の低沸点不純物を充分に除去することは困難なので、この処理の後で、本発明に示した真空脱ガス工程を実施することが必要になる。このときの工程フローは、例えば、図9の脱アルカリ工程と真空脱ガス工程の間に前記常圧での低沸点不純物除去の軽処理を追加したものとなって、一見、本発明とは異なる製造工程である様にみえる。但し、前記前記常圧での低沸点不純物除去の軽処理は、製造費を大きく上昇させない範囲で、真空脱ガス処理をやや長い時間実施すれば容易に省略可能な工程であり、単に、本発明の権利範囲の回避を目的として意図的に効果の低い工程を追加する以外の工業的な意味は小さい。他の不純物成分の除去工程との組み合わせについても同様の考え方で本発明と組み合わせることができる。しかし、本発明におけるポイントは、比較的安価で大量に市販されている汎用材料をSiO生成用原料として用い、太陽電池基板用Siの成分基準を満たす高純度Siを製造する最小限の構成を示したことにある。従って、本発明の製造工程の内容および、その前後関係が変更されていない限り、特定成分の除去工程が本発明に単に組み合わされているだけの製造プロセスは、本発明の小さなバリエーションに過ぎず、本発明の範囲内の技術といえる。
(実施例1)
図3に対応する実施例を示す。
まず、SiO製造工程において固体SiOを製造した。その詳細は、次の通りである。直径1mの反応容器内に直径0.5mのるつぼを設置し、その中に40kgの金属Siと150kgの高純度けい砂を混合したものを投入した。このとき、粒の平均径は、金属Siが0.4mm、けい砂が7mmであった。また、金属Siの不純物は、Pが40ppm、Bが9ppm、Feが1500ppm、その他の金属成分が500ppmであり、高純度けい砂中の不純物は、いずれもPが0.3ppm、Bが0.5ppm、Feが400ppmその他金属が100ppmであった。次に、反応炉内をアルゴン(Ar)ガスで満たし、るつぼ周囲に設置された抵抗ヒータにより原料を1700℃まで加熱するとともに、真空ポンプを作動させて反応容器内を10Paの圧力とした。原料温度が1410℃を超えた時点でSiOガスの発生が急激に増大し、反応容器内圧力は最終的に1300Paに達した。発生したSiOガスは、外部を水冷した凝縮器内壁で凝固し、固体SiO膜を形成した。このときの凝縮器内部圧力は平均400Paであった。1700℃での加熱操業を1.5時間継続した後、装置を冷却し、解体した凝縮容器内壁から固体SiOを剥ぎ取って回収した。るつぼ内に残留した金属Siは、0.06kgであり、凝縮器から剥離、回収された固体SiOは、約160kgであった。尚、SiO原料温度測定は、るつぼ内壁に取り付けられた熱電対により実施し、圧力測定は容器外部に引き出した保温管内圧力を非接触式圧力計によって計測した。得られた固体SiO中の成分分析結果は、質量割合でPが6ppm、Bが0.3ppm、Feが0.07ppm、その他の金属成分が合計1ppmであった。
次に、Si抽出工程においてSiOからSiを抽出した。詳細は次の通りである。上記で得たSiOを高純度黒鉛製のるつぼに投入し、るつぼごと加熱炉に装入した。このSiOを大気圧アルゴン雰囲気下の1550℃で1時間加熱した後、冷却、固化させ、炉外に取り出した。この段階で装入されたSiOは不均化反応により大半がSiとSiO2の2相に分離した状態となっており、手作業でSi塊からSiO2粒を剥離させて25kgのSiを得た。このSiの一部を成分分析した結果、Pが6.7ppm、Bが0.23ppm、Feが0.08ppm、その他の金属成分が0.01ppmであった。
次に、真空脱ガス工程においてPを除去した。その詳細は次の通りである。前工程で得られたSi塊を直径0.8mの高純度黒鉛るつぼに入れて、真空加熱炉に装入した。このSiを加熱して融解させるとともに、真空ポンプにより真空加熱炉内の圧力を、0.1Pa一定に維持し、融液を1710℃に保持したまま5時間の脱ガスを行って24kgのSiを得た。この際、炉内は、弱酸化性雰囲気であった。このSiの成分分析結果では、Pが0.05ppm、Bが0.23ppm、Feが0.07ppm、その他の金属成分が0.01ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例2)
図4に対応する実施例を示す。
実施例1と同様のSiO生成原料と製造条件でSiO固体160kgを得た。次に、抽出工程において、SiO固体を黒鉛るつぼ底に詰め、るつぼ内でSiO固体上に純度99%の炭酸Na粉末80kgを載せて、Ar雰囲気の大気圧加熱炉に装入した。その後、10℃/分の速度で昇温し、1500℃に達した時点で一定温度に1時間保持した。この後、常温まで炉を冷却して、るつぼ内容物からガラス状副生物を手で除去した結果、Si塊が35kg得られた。次に、脱アルカリ工程において、このSi塊を直径0.8mの黒鉛るつぼに詰め、真空加熱炉に装入し、10000PaのAr雰囲気下でSiを溶解させ、1500℃で1時間保持して反応物質起因不純物であるNaを除去した。この時点でのSi融液サンプル中の成分分析結果は、Pが6.5ppm、Bが0.1ppm、Feが0.06ppm、Naが1ppbその他の金属成分が0.01ppmであった。また、脱アルカリ工程において、Si融液の質量は、0.2kg減少した。次に、Si融液をるつぼごと、真空脱ガス炉に移動させ、真空脱ガス炉内雰囲気を真空ポンプによって0.1Paに維持した状態で、1710℃まで昇温し、この温度で5時間保持した。この際、炉内は、弱酸化性雰囲気であった。冷却後、32kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.05ppm、Bが0.1ppm、Feが0.05ppm、その他の金属成分が0.01ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例3)
図5に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが1500ppm、その他金属が500ppmの金属シリコン42kgを直径0.8mの黒鉛るつぼに入れ、これを真空加熱炉に装入した。このSiを加熱して融解させるとともに、真空ポンプにより真空加熱炉内の圧力を、0.1Pa一定に維持し、融液を1710℃に保持したまま5時間の脱ガスを行って40kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.05ppm、Bが9ppm、Feが1200ppm、その他の金属成分が300ppmであった。このSiを凝固させてボールミルで粉砕したものをSiO生成原料として用い、これ以外の製造条件を全て実施例2と同様に設定してSiO製造工程、Si抽出工程、脱アルカリ工程を実施し、32kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.06ppm、Bが0.2ppm、Feが0.08ppm、その他の金属成分が0.02ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例4)
図7に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが5000ppm、その他金属が1000ppmの金属シリコン44kgを黒鉛るつぼに入れ、真空加熱炉内に装入し、Ar雰囲気100Paで昇温して溶融Siとした。この後、るつぼをAr雰囲気大気圧炉に移動し、大気圧炉内に設置され、1350℃に予熱された0.3m角の黒鉛鋳型内にSiを注湯した。その後、大気圧アルゴン雰囲気下で、水冷された冷却板を鋳型底に接触させることで鋳型を冷却し、Si融液を鋳型底部から上方に徐々に凝固させていった。この際の凝固速度は、0.3mm/分であった。Siが完全に凝固したのを確認した後、炉を冷却してSiインゴットを鋳型から剥離させて40kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが30ppm、Bが9ppm、Feが10ppm、その他の金属成分が2ppmであった。このSiをボールミルで粉砕したものをSiO生成原料として用い、これ以外の製造条件を全て実施例2と同様に設定して、32kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.06ppm、Bが0.2ppm、Feが0.001ppm、その他の金属成分が0.002ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例5)
図9に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが5000ppm、その他金属が1000ppmの金属シリコン40kgをSiO生成原料として用い、それ以外の製造条件を実施例2と同様に設定して、SiO製造工程、抽出工程、脱アルカリ工程、並びに、真空脱ガス工程を実施し、32kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.05ppm、Bが0.1ppm、Feが9ppm、その他の金属成分が2ppmであった。
次に、凝固精製工程において金属成分を除去した。その詳細は次の通りである。真空脱ガス工程を終了したSi融液をるつぼごと凝固精製炉上方まで輸送し、凝固精製炉内に設置された黒鉛製の鋳型にSi融液を注湯した。黒鉛鋳型は、内面に高純度窒化珪素の離型材が塗布されており、注湯前に1350℃まで予熱しておいた。その後、凝固精製炉を密閉し、大気圧アルゴン雰囲気下で水冷された冷却板を鋳型底に接触させることで鋳型を冷却し、Si融液を鋳型底部から上方に徐々に凝固させていった。この際の凝固速度は、0.3mm/分であった。Siが完全に凝固したのを確認した後、炉を冷却してSiインゴットを鋳型から剥離させて取り出した。Siインゴットのうち金属不純物濃度の高い上部及び側面を質量で合計で3kg除去した後、残りのSiの29kgを太陽電池基板用Siに供した。製品Siの不純物濃度の分析結果は、Pが0.04ppm、Bが0.08ppm、Feが0.001ppmその他の金属成分が0.01ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例6)
図11に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが5000ppm、その他金属が1000ppmの金属シリコン46kgを直径0.8mの黒鉛るつぼに入れ、これを真空加熱炉に装入した。このSiを加熱して融解させるとともに、真空ポンプにより真空加熱炉内の圧力を、0.1Pa一定に維持し、融液を1710℃に保持したまま5時間の脱ガスを行って44kgのSiを得た。このSi融液をるつぼごとAr雰囲気大気圧炉に移動し、大気圧炉内に設置され、1350℃に予熱された0.3m角の黒鉛鋳型内にSiを注湯した。その後、大気圧アルゴン雰囲気下で、水冷された冷却板を鋳型底に接触させることで鋳型を冷却し、Si融液を鋳型底部から上方に徐々に凝固させていった。この際の凝固速度は、0.3mm/分であった。Siが完全に凝固したのを確認した後、炉を冷却してSiインゴットを鋳型から剥離させて40kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.04ppm、Bが9ppm、Feが9ppm、その他の金属成分が1ppmであった。このSiをボールミルで粉砕したものをSiO生成原料として用い、これ以外の製造条件を全て実施例2と同様に設定してSiO製造工程、Si抽出工程、脱アルカリ工程を実施し、35kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.04ppm、Bが0.2ppm、Feが0.001ppm、その他の金属成分が0.002ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例7)
図13に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが5000ppm、その他金属が1000ppmの金属シリコン42kgを直径0.8mの黒鉛るつぼに入れ、これを真空加熱炉に装入した。このSiを加熱して融解させるとともに、真空ポンプにより真空加熱炉内の圧力を、0.1Pa一定に維持し、融液を1710℃に保持したまま5時間の脱ガスを行って44kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.04ppm、Bが9ppm、Feが4500ppm、その他の金属成分が90ppmであった。このSiをボールミルで粉砕したものをSiO生成原料として用い、これ以外の製造条件を全て実施例2と同様に設定してSiO製造工程、Si抽出工程、脱アルカリ工程を実施し、35kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.04ppm、Bが0.2ppm、Feが10ppm、その他の金属成分が2ppmであった。このSi塊を黒鉛るつぼに入れ、真空加熱炉内に装入し、Ar雰囲気100Paで昇温して溶融Siとした。この後、るつぼをAr雰囲気大気圧炉に移動し、大気圧炉内に設置され、1350℃に予熱された0.3m角の黒鉛鋳型内にSiを注湯した。その後、大気圧アルゴン雰囲気下で、水冷された冷却板を鋳型底に接触させることで鋳型を冷却し、Si融液を鋳型底部から上方に徐々に凝固させていった。この際の凝固速度は、0.3mm/分であった。Siが完全に凝固したのを確認した後、炉を冷却してSiインゴットを鋳型から剥離させて40kgのSiを得た。このSiの成分分析結果は、Pが0.05ppm、Bが0.22ppm、Feが0.001ppm、その他の金属成分が0.001ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(実施例8)
図10に対応する実施例を示す。
Pが40ppm、Bが9ppm、Feが1500ppm、その他の金属成分が5000ppmであり、平均粒径が0.4mmの金属Siを40kg用い、それ以外の製造条件を全て実施例1と同様にして24kgのSiを得た後、凝固精製工程において金属成分を除去した。その詳細は次の通りである。固体Si塊を黒鉛るつぼに入れ、これを加熱炉に装入し、Ar雰囲気大気圧下で加熱して融解させた。このSi融液をるつぼごと凝固精製炉上方まで輸送し、凝固精製炉内に設置された黒鉛製の鋳型にSi融液を注湯した。黒鉛鋳型は、内面に高純度窒化珪素の離型材が塗布されており、注湯前に1350℃まで予熱しておいた。その後、凝固精製炉を密閉し、大気圧アルゴン雰囲気下で水冷された冷却板を鋳型底に接触させることで鋳型を冷却し、Si融液を鋳型底部から上方に徐々に凝固させていった。この際の凝固速度は、0.3mm/分であった。Siが完全に凝固したのを確認した後、炉を冷却してSiインゴットを鋳型から剥離させて取り出した。Siインゴットのうち金属不純物濃度の高い上部及び側面を質量で合計で3kg除去した後、残りのSiの21kgを太陽電池基板用Siに供した。製品Siの不純物濃度の分析結果は、Pが0.04ppm、Bが0.25ppm、Feが0.01ppm、その他の金属成分が0.01ppmであり、太陽電池基板用Siの成分基準値を満足した。
(比較例1)
脱アルカリ工程以前の製造条件を全て実施例2と同様にして、Siを得た。このSiを脱アルカリ工程において、真空炉の炉雰囲気圧を1450℃で300Paとし、1450℃で100時間保持した結果、Si融液の突沸が頻発し、るつぼに装入したSi融液の85%が脱アルカリ炉内に飛散してしまった。また、るつぼ内に残留したSiの成分分析を実施した結果、Pが5ppmまでしか低下しておらず、脱アルカリ工程には、太陽電池基板用Siの成分基準を満たす脱Pの効果がないことが確認できた。
(比較例2)
実施例1の生産設備と基本的に同様のSiO製造装置で、SiOを少量ずつ製造した。その詳細は、次の通りである。直径1mの反応容器内に直径0.07mの黒鉛るつぼを設置し、その中に50gの金属Siと250gの高純度けい砂を混合したものを投入した。このとき、金属Siとけい砂の平均粒径と成分は、実施例1と同様であった。次に、反応炉内をアルゴン(Ar)ガスで満たし、るつぼ周囲に設置された抵抗ヒータにより原料を1700℃まで加熱するとともに、真空ポンプを作動させて反応容器内を10Paの圧力とした。原料温度が1410℃を超えた時点でSiOガスの発生が増大し、反応容器内圧力は最終的に70Paであった。発生したSiOガスは、外部を水冷した凝縮器内壁で凝固し、固体SiO薄膜を形成した。本比較例では、実施例に比べて凝縮SiO膜が薄く、凝縮器内壁からの汚染の影響を受け易いことに配慮して、凝縮器内面は、高純度石英ガラスを予めコーティングしておいた。このときの凝縮器内部圧力は平均5Paであった。1700℃での加熱操業を30分間継続した後、装置を冷却し、解体した凝縮容器内壁から固体SiOを剥ぎ取って回収した。るつぼ内に残留した金属Siは、5gであり、凝縮器から剥離、回収された固体SiOは、約100gであった。得られた固体SiO中の成分分析結果は、質量割合でPが0.01ppm、Bが0.27ppm、Feが0.06ppm、その他の金属成分が合計1ppmであった。
この作業を約2000回繰り返して約160kgのSiOを得た。このSiOを用いて、実施例2と同様の製造条件で抽出工程、脱アルカリ工程を実施した結果、太陽電池基板用Siの成分基準を満たすSiが得られた。本比較例での製造にあたっては、実施例2に対して少なくとも10倍以上の費用を要した。即ち、実施例2にみられる様に、脱ガス工程を製造工程に組み入れることによって、SiO製造時の製造バッチ量が大幅に向上し、製造費を90%以上削減できることがわかった。