以下、本発明の化粧シートについて、図面を参照しながら実施の形態を説明する。
〔概要〕先ず、図1は本発明の化粧シートの形態例を示す断面図である。図1(A)の化粧シートSは、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる下層1上に、結晶性ポリオレフィン系樹脂からなる上層2が積層され、更に上層2の上に電離放射線硬化性樹脂の硬化物からなる表面保護層3が積層され、そして、上層側の表面にエンボス加工による凹凸模様4が賦形された構成の化粧シートである。
なお、凹凸模様は装飾処理の一種であるが、図1(A)の構成にて、下層1、上層2及び表面保護層3の全層が無着色透明層の場合でも、化粧シートを貼着する被着体に対して、塗装感や凹凸模様による意匠感等の装飾効果を付与できる化粧シートとなる。しかし、通常は、更に高意匠とすべく、更にこの他の装飾処理を施した化粧シートとする。例えば図1(A)の構成では、下層を着色剤添加により着色した層とする装飾処理である。或いはまた、例えば次の図1(B)で例示する如く、絵柄層5等の印刷形成による装飾処理等である。
すなわち、図1(B)の化粧シートSは、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる下層1上に、印刷等により絵柄層5が形成され、更にこの上に、結晶性ポリオレフィン系樹脂からなる上層2、電離放射線硬化性樹脂の硬化物からなる表面保護層3が順次積層され、上層側の表面にエンボス加工による凹凸模様4が賦形された構成例である。なお、図1(B)の構成に於いて、下層1は着色隠蔽性として、上層2及び表面保護層3は無着色の透明とする構成は、代表的構成でもある。
なお、上記絵柄層5は必須ではないが、意匠表現上、通常は、各種模様を表現する為に印刷法等で、通常は下層とするオレフィン系熱可塑性エラストマーシートに対して形成する。そして、この絵柄層が形成された下層(印刷シート)に対して、上層を結晶性ポリオレフィン系樹脂シートのドライラミネーション法や、或いは該エラストマーのTダイ等による溶融押出塗工法によって積層した上で、電離放射線硬化性樹脂の塗液を塗工し硬化して表面保護層を形成し、更にエンボス加工によって凹凸模様を賦形して、化粧シートとする。
以下、各層について順をおって更に詳述する。
〔下層〕下層1は、オレフィン系熱可塑性エラストマーで構成する。この下層には、通常は、該オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂シートを用いる。しかし、下層は、上層を表面シートとして用意し、該表面シートに対して該オレフィン系熱可塑性エラストマーの溶融塗工法で形成したりする他の方法によって形成する事も可能である(この場合、絵柄層形成は表面シートに対して行う)。下層はオレフィン系熱可塑性エラストマーとしておく事で、上層を結晶性ポリオレフィン系樹脂として表面硬度を向上させても、良好なエンボス加工適性を維持できる。しかし、上層同様に下層も結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いると、エンボス加工条件(温度、圧)幅が狭くなり、エンボス加工適性が十分に得られず、形状的に良好な凹凸模様が賦形された化粧シートとする事が出来ない。
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば下記のものが使用できる。
(1)特公平6−23278号公報記載の、(A)ソフトセグメントとして、数平均分子量Mnが25,000以上、且つ、質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn≦7の沸騰ヘプタンに可溶なアタクチックポリプロピレン10〜90質量%と、(B)ハードセグメントとして、メルトインデックスが0.1〜4g/10分の沸騰ヘプタン不溶性のアイソタクチックポリプロピレン90〜10質量%、との混合物からなる軟質ポリプロピレン。
この種のオレフィン系熱可塑性エラストマーの中でも、所謂「ネッキング」を生じ難く、加熱、加圧により各種形状に成形したりエンボス加工する際に適性良好なものとしては、アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンとの混合割合が、アタクチックポリプロピレンの質量比で5質量%以上50質量%以下のものである。ポリプロピレン系のオレフィン系熱可塑性エラストマー自体は既に公知のものであるが、包装容器等従来公知の用途に用いられる場合は、強度を重視する為に、ソフトセグメントとなるアタクチックポリプロピレンの質量比が5質量%未満のものが専ら使用されていた。しかしながら、三次元形状、乃至凹凸形状に成形したりエンボス加工するという新規な用途にこれを適用しようとすると、前記の如くネッキングを生じて良好な加工が不可能であった。そこで、従来の組成の設計とは逆に、ポリプロピレン系のオレフィン系熱可塑性エラストマーに於いて、アタクチックポリプロピレンの質量比を5質量%以上とすることにより、エンボス加工したり、三次元形状、乃至凹凸形状の物品表面形状に成形する際のネッキングによる不均一なシートの変形、及びその結果としての皺、絵柄の歪み等の欠点を解消する事ができる。特にアタクチックポリプロピレンの質量比が20質量%以上の場合が良好である。一方、アタクチックポリプロピレンの質量比が増加し過ぎると、シート自体が変形し易くなり、シートを印刷機に通したときにシートが変形し、絵柄が歪んだり、多色刷りの場合に見当が合わなくなる等の不良が発生し易くなる。また、成形時にも破れ易くなる為に好ましくない。アタクチックポリプロピレンの質量比の上限としては、輪転グラビア印刷等の通常の輪転印刷機を用いて絵柄層を印刷し、また、シートのエンボス加工、真空成形、Vカット加工、射出成形同時ラミネート等を採用する場合は50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
(2)エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂からなる熱可塑性エラストマー。ここで、そのブテンとして、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレンの3種の構造異性体のいずれも用いることができる。共重合体としては、ランダム共重合体で、非晶質の部分を一部含む上記エチレン−プロピレン−ブテン共重合体の好ましい具体例としては次の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)特開平9−111055号公報記載のもの。これは、エチレン、プロピレン及びブテンの三元共重合体によるランダム共重合体である。単量体成分の質量比はプロピレンが90質量%以上とする。メルトフローレートは、230℃、2.16kgで1〜50g/10分のものが好適である。そして、このような三元ランダム共重合体100質量部に対して、燐酸アリールエステル化合物を主成分とする透明造核剤を0.01〜50質量部、炭素数12〜22の脂肪酸アミド0.003〜0.3質量部を熔融混練してなるものである。
(ii)特開平5−77371号公報記載のもの。これは、エチレン、プロピレン、1−ブテンの三元共重合体であって、プロピレン成分含有率が50質量%以上の非晶質重合体20〜100質量%に、結晶質ポリプロピレンを80〜0質量%添加してなるものである。
(iii)特開平7−316358号公報記載のもの。これは、エチレン、プロピレン、1−ブテンの三元共重合体であって、プロピレン及び/又は1−ブテンの含有率が50質量%以上の低結晶質重合体20〜100質量%に対して、アイソタクチックポリプロピレン等の結晶質ポリオレフィン80〜0質量%を混合した組成物に対して、N−アシルアミノ酸アミン塩、N−アシルアミノ酸エステル等の油ゲル化剤を0.5質量%添加してなるものである。
なお、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂は、単独で用いても良いし、上記(i)〜(iii)に必要に応じ更に他のポリオレフィン系樹脂を混合して用いても良い。
(3)特公昭53−21021号公報記載の如き、(A)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のオレフィン重合体(結晶性高分子)をハードセグメントとし、これに(B)部分架橋したエチレン−プロピレン共重合体ゴム、不飽和エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体ゴム等のモノオレフィン共重合体ゴムをソフトセグメントとし、これらを均一に配合し混合してなるオレフィン系エラストマー。なお、モノオレフィンゴム/オレフィン重合体=50/50〜90/10(質量比)の割合で混合する。
(4)特公昭53−34210号公報等に記載の如き、(B)未架橋モノオレフィン共重合体ゴム(ソフトセグメント)と、(A)オレフィン系共重合体(結晶性、ハードセグメント)と架橋剤とを混合し、加熱し剪断応力を加えつつ動的に部分架橋させてなるオレフィン系エラストマー。なお、(B)モノオレフィンゴム/(A)オレフィン系共重合体=60/40〜80/20(質量比)である。
(5)特公昭56−15741号公報等に記載の如き、(A)アイソタクチックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等のペルオキシドと混合・加熱すると分子量を減じ、流動性を増すペルオキシド分解型オレフィン重合体(ハードセグメント)と、(B)エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体ゴム等のペルオキシドと混合・加熱することにより、架橋して流動性が減じるペルオキシド架橋型モノオレフィン共重合体ゴム(ソフトセグメント)、(C)ポリイソブチレン、ブチルゴム等のペルオキシドと混合・加熱しても架橋せず、流動性が不変の、ペルオキシド非架橋型炭化水素ゴム(ソフトセグメント兼流動性改質成分)、及び(D)パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油系軟化剤、とを混合し、有機ペルオキシドの存在下で動的に熱処理してなるオレフィン系エラストマー。なお、(A)が90〜40質量部、(B)が10〜60質量部で、(A)+(B)=100質量部として、これに、(C)及び/又は(D)が5〜100質量部の配合比となる。
(6)特開平2−139232号公報に記載の如き、エチレン−スチレン−ブチレン共重合体からなるオレフィン系熱可塑性エラストマー。
(7)極性基としてヒドロキシル基又は/及びカルボキシル基を持たせた、上記(1)から(6)のオレフィン系熱可塑性エラストマー。例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のグラフト重合でヒドロキシル基を、また、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の共重合体でカルボキシル基を導入したオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる。極性基がこの様に例えばヒドロキシル基とカルボキシル基の場合、どちらか一方、又は両方を併用してもよい。また、極性基としては、カルボニル基等でも良い。これら極性基は、上層や絵柄層、被着体等の下層と接する他層との密着性を向上させる作用を持つ。
なお、上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは単独使用でも良いが、2種以上混合使用しても良い。また、下層は、異なるオレフィン系熱可塑性エラストマーの層からなる2層、3層等の複層構成であっても良い。この場合、下層の上層側、或いは下層の裏面側は、他層との密着性向上等の要求物性に応じて、極性基を持たせた樹脂からなる層としても良い。
また、下層は、無着色透明でも良いが、無着色不透明、着色透明、着色不透明(着色隠蔽性)等でも良い。下層を着色するには、後述する絵柄層で述べる様な公知の着色剤を樹脂中に添加すれば良い。また、下層には、必要に応じ、充填剤、難燃剤、酸化防止剤等の各種の添加剤を添加する。
下層は、通常は、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押出法等の公知の成膜方法によって、シート(フィルム)化した樹脂シートとして用意される。或いは、下層とする樹脂を、上層とする樹脂シートに対して、Tダイ押出塗工法(EC法)によって成膜と同時に形成しても良い。なお、樹脂シートは、延伸シート、未延伸シートのいずれでも使用可能であるが、Vカット加工等の成形適性は未延伸シートの方が良好である。なお、下層の厚みは、用途等によるが、通常は20〜300μm程度である。
また、下層の他層との接着面には、必要に応じ、従来公知の各種易接着処理を施しても良い。例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理、或いは、プライマー層形成(図2のプライマー層符号7A参照)等である。なお、プライマー層は、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等からなる公知のプライマー剤を用途に応じて選択し、ロールコート等の公知の塗工法で形成すれば良い。
〔上層〕上層2は、結晶性ポリオレフィン系樹脂で構成した層である。下層よりも化粧シート表側により近い上層を結晶性ポリオレフィン系樹脂とする事で、上層及び下層共にオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた場合に比べて、表面硬度を向上させる事ができる。すなわち、電離放射線硬化性樹脂の硬化物からなる表面保護層を設けてあっても、その下の層がオレフィン系熱可塑性エラストマーであると表面硬度が十分に得られない。なお、この上層同様に下層も結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いると、エンボス加工適性が十分に得られない事は、既に述べたとおりである。
上層に用いる結晶性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(低密度、中密度、又は高密度)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等が使用できる。
なお、これら結晶性ポリオレフィン系樹脂は、下層や絵柄層、或いは表面保護層等の上層と接する他層との密着性向上等の物性調整の為に、極性基としてヒドロキシル基又は/及びカルボキシル基を持たせても良い。例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のグラフト重合でヒドロキシル基を、また、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の共重合体でカルボキシル基を導入する。極性基がこの様に例えばヒドロキシル基とカルボキシル基の場合、どちらか一方、又は両方を併用してもよい。また、極性基としては、カルボニル基等でも良い。
上記結晶性ポリオレフィン系樹脂は単独使用でも良いが、2種以上混合使用しても良い。また、下層は、異なる結晶性ポリオレフィン系樹脂の層からなる2層、3層等の複層構成であっても良い。この場合、上層の下層側、或いは上層の表面保護層側は、これら他層との密着性向上等の要求物性に応じて、極性基を持たせた樹脂からなる層としても良い。
また、上層には、必要に応じ、着色剤、充填剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種の添加剤を添加する。また、上層は、その下側に絵柄層を設ける場合は、該絵柄層が透視可能な様に、透明(無着色又は着色)とする。絵柄層が無ければ、不透明でも良い。
なお、上記紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系等の有機物の紫外線吸収剤の他に、粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物を用いることができる。光安定剤としては、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤を用いることができる。
なお、上層の形成は、予めカレンダー法、インフレーション法、Tダイ押出法等の公知の成膜方法によって、シート(フィルム)化した樹脂シートを、下層とする樹脂シートに、必要に応じ絵柄層を印刷形成した後の印刷シートに対して、ドライラミネーション、或いは熱融着によって積層する事で形成できる。或いは、上層とする樹脂を、下層とする樹脂シートに対して、Tダイ押出塗工法(EC法)によって成膜と同時に形成しても良い。ドライラミネーション時、或いは熱融着時やTダイ押出塗工時に、接着力強化が必要の場合は、2液硬化型ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等からなる適宜な接着剤による接着剤層(図2の接着剤層8参照)を間に介して積層すると良い。
なお、結晶性ポリオレフィン系樹脂の樹脂シートは、延伸シート、未延伸シートのいずれでも使用可能であるが、Vカット加工等の成形適性は未延伸シートの方が良好である。また、上層の厚みは、用途等によるが、通常は20〜300μm程度である。
また、上層の他層との接着面には、必要に応じ、従来公知の各種易接着処理を施しても良い。例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理、或いは、プライマー層形成(図2のプライマー層7B参照)等である。なお、プライマー層は、2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等からなる公知のプライマー剤を用途に応じて選択し、ロールコート等の公知の塗工法で形成すれば良い。
〔表面保護層〕表面保護層3は、電離放射線硬化性樹脂の硬化物として形成する。表面保護層により、擦り傷が付き難い様な耐擦傷性や、耐汚染性等の表面物性を向上させる事ができる。特に、耐擦傷性、或いは耐摩耗性等に必要な表面硬度は、化粧シートを床用途に使用する場合には特に好ましい表面物性である。しかし、凹み傷に対する耐性としての表面硬度(鉛筆硬度)は、表面保護層の下側の上層がオレフィン系熱可塑性エラストマーである場合には、上層が柔らかく、この表面保護層だけでは十分に得られず、上層を表面保護層よりは柔らかいが下層のオレフィン系熱可塑性エラストマーよりは硬い結晶性ポリオレフィン系樹脂とする事で、得られる様になる。
なお、表面保護層は、通常はその下方に絵柄層が形成される為に、該絵柄層が透視可能な様に、透明(無着色、或いは着色)とする。絵柄層が無ければ、不透明でも良い。また、この表面保護層は、装飾処理の一つとして、艶調整、塗装感等の意匠性付与の為に利用する事もできる。表面保護層の形成は、電離放射線硬化性樹脂からなる塗液を用いてグラビアコート、ロールコート等の公知の塗工法で上層の上に塗布後、電離放射線を照射して該樹脂を硬化させて硬化物とする事で形成する。なお、表面保護層の厚さは通常1〜10μm程度である。
また、本発明では、この表面保護層を、特に電離放射線硬化性樹脂の硬化物として形成する事で、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用する場合に比べて、凹み傷に対する耐性を含めた表面硬度等の表面物性を容易に向上させる事ができる。また、表面保護層の樹脂としては、生産性の点でも、熱硬化性樹脂に比べて硬化速度が速い電離放射線硬化性樹脂が好ましく、更に、電離放射線硬化性樹脂の中でも、瞬時に硬化させる事ができる点で、紫外線で硬化させる電離放射線硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)よりも電子線で硬化させる電離放射線硬化性樹脂(電子線硬化性樹脂)の方がより好ましい。
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線により硬化可能な組成物であり、具体的には、分子中にラジカル重合性不飽和結合、又はカチオン重合性官能基を有する、プレポリマー(所謂オリゴマーも包含する)及び/又はモノマーを適宜混合した電離放射線により硬化可能な組成物が好ましくは用いられる。これらプレポリマー又はモノマーは単体又は複数種を混合して用いる。なお、硬化反応は、通常、架橋硬化反応となる。
上記プレポリマー又はモノマーは、具体的には、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物からなる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましくは用いられる。なお、例えば(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーの例としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が使用できる。分子量としては、通常250〜100,000程度のものが用いられる。
ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーの例としては、単官能モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等がある。また、多官能モノマーとして、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等もある。カチオン重合性官能基を有するプレポリマーの例としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系樹脂、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂のプレポリマーがある。チオールとしては、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオールがある。また、ポリエンとしては、ジオールとジイソシアネートによるポリウレタンの両端にアリルアルコールを付加したもの等がある。
なお、紫外線又は可視光線にて硬化させる場合には、上記電離放射線硬化性樹脂に、さらに光重合開始剤を添加する。ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル類を単独又は混合して用いることができる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等を単独又は混合物として用いることができる。なお、これらの光重合開始剤の添加量としては、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部程度である。
なお、電離放射線としては、電離放射線硬化性樹脂(組成物)中の分子を硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子が用いられる。通常用いられるものは、紫外線又は電子線であるが、この他、可視光線、X線、イオン線等を用いる事も可能である。紫外線源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源が使用される。紫外線の波長としては通常190〜380nmの波長域が主として用いられる。電子線源としては、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、或いは、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用い、100〜1000keV、好ましくは、100〜300keVのエネルギーをもつ電子を照射するものが使用される。
また、上記電離放射線硬化性樹脂には、更に必要に応じて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂等の熱可塑性樹脂を添加することもできる。
また、上記電離放射線硬化性樹脂には、更に必要に応じ、各種添加剤を添加する事もできる。これらの添加剤としては、炭カルシウム、シリカ等の艶消し剤、アルミナ、シリカ等の減磨剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等である。
〔凹凸模様〕凹凸模様4は、公知のエンボス加工(加熱プレス)によって形成すれば良い。該凹凸模様は、通常は、上層表側面へ形成される。エンボス加工は、熱プレス方式の枚葉又は輪転式エンボス機を用いて、加熱軟化させた樹脂シートの表面にエンボス版を押圧して形成する。エンボス加工は、例えば、下層とする樹脂シートと、上層とする樹脂シートとを積層すると同時に、上層とする樹脂シートの表側面に熱圧によるエンボス加工で賦形する所謂ダブリングエンボス法によって、行っても良い。或いは、下層と上層とを積層した後の樹脂シートや、下層に積層前の上層とする樹脂シートに対して、エンボス加工しても良い。なお、凹凸模様としては、木目板導管溝、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチュア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等である。また、凹凸模様は通常は上層の表側面だが、上層裏側面、下層表側面、下層裏側面の場合もある。
また、更なる装飾処理として、図1(C)の化粧シートSとして例示の如く、凹凸模様4の凹部内に公知のワイピング法(特公昭58−14312号公報等参照)によって、着色インキを充填して着色部6を形成することもできる。着色インキは後述絵柄層と同様の物が可能である。但し、耐摩耗性の点で、2液硬化型ウレタン樹脂をバインダーとする物が好ましい。なお、ワイピング法は、ドクダーブレード法、ロールコート法等、従来から使用されているワイピング法のいずれによっても良い。すなわち、凹凸模様全面に着色インキを塗工し、而る後に、凸部のインキをドクダーブレード、スポンジロール、布等で掻き落としたり、拭き取ったりして、凹部に着色インキを残留させるようにする。なお、着色部は表面保護層形成後に形成しても良いが、通常は、図1(C)の如く表面保護層3の下側となる様に表面保護層形成前に形成する。
〔絵柄層〕また、更なる装飾処理としては、通常は、装飾層として図1(B)等の如く絵柄層5を形成する事が多い。絵柄層5は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インキジェット印刷等公知の印刷法によってインキにて形成する。また、全面ベタ柄の場合は、グラビアコート、ロールコート等の公知の塗工法によって塗料で形成する事もできる。絵柄層の模様としては、木目模様、石目模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、或いは全面ベタ等がある。なお、絵柄層は、木目模様等の模様を表現する柄パターン層と、全面ベタ層との組み合わせでも使用される。全面ベタ層は、通常、隠蔽層、着色層、着色隠蔽層等として使用される。
なお、絵柄層は、通常は、下層1とする樹脂シートに印刷形成する為、図1(B)で例示する化粧シートSの如く、下層1の表側面に形成されるが、この他、絵柄層は、下層の裏面、表裏両面、或いは、上層を樹脂シートで形成する場合では、該樹脂シートの裏側面、表側面、表裏両面等も可能である。
なお、絵柄層形成に用いるインキ(或いは)塗料としては、バインダーとして、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、或いは、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン樹脂等を、1種又2種以上混合して用いる。また、上記インキ(或いは)塗料に用いる着色剤としては、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(或いは染料も含む)、アルミニウム、真鍮、等の金属粉末からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、蛍光顔料等を、1種又は2種以上混合して用いる。
上記絵柄層は、装飾層として形成する代表的な層の一つであったが、装飾層として金属薄膜層等を形成して良い。金属薄膜層の形成は、アルミニウム、クロム、金、銀、銅等の金属を用い、真空蒸着、スパッタリング等の方法で製膜する。或いはこれらの組み合わせでも良い。該金属薄膜層は、全面に設けても、或いは、部分的にパターン状に設けても良い。
〔化粧シートの被着体〕なお、本発明の化粧シートの用途は特に限定されず、各種被着体の表面に積層して表面を化粧する用途に用いる。被着体は各種素材の平板、曲面板等の板材、立体形状物品、シート(或いはフィルム)等である。例えば、木材単板、木材合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)等の木質繊維板等の板材や立体形状物品等として用いられる木質板素材、鉄、アルミニウム等の板材、立体形状物品或いはシート等として用いられる金属素材、ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、ALC(軽量気泡コンクリート)板等の非陶磁器窯業系材料等の板材や立体形状物品等として用いられる窯業系素材、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース系樹脂、ゴム等の板材、立体形状物品或いはシート等として用いられる樹脂素材、或いは、専らシートとして用いられる上質紙、和紙等の紙、炭素、石綿、ガラス、合成樹脂等の繊維からなる不織布または織布、或いは、これら2種以上の素材を複合した素材、例えば、板材や立体形状物品等として用いられる、木粉プラスチック、紙粉プラスチック、FRP(繊維強化プラスチック)等の複合(素)材が挙げられる。
〔化粧シートの被着体への積層方法〕被着体への化粧シートの積層方法としては、例えば(1)接着剤を間に介して板状の被着体に加圧ローラーで加圧して積層する方法、(2)特公昭50−19132号公報、特公昭43−27488号公報等に記載される様に、化粧シートを射出成形の雌雄両金型間に配置した後、溶融樹脂を型内に射出充填し、樹脂成型品である被着体の成形と同時にその表面に化粧シートを接着積層する、所謂射出成形同時ラミネート方法、(3)特公昭56−45768号公報、特公昭60−58014号公報等に記載される様に、立体形状の被着体の表面に化粧シートを、間に接着剤を介して対向又は載置し、被着体側からの少なくとも真空吸引と更に適宜化粧シート側からの圧空押付けの併用による圧力差により化粧シートを被着体の表面に積層する、所謂真空成形積層方法、(4)特公昭61−5895号公報、特公平3−2666号公報等に記載されるように、円柱、多角柱等の柱状の被着体の長軸方向に、化粧シートを間に接着剤を介して供給しつつ、複数の向きの異なるローラーにより、被着体を構成する複数の側面に順次化粧シートを加圧接着して積層してゆく、所謂ラッピング加工方法が有る。
なお、化粧シートを積層して化粧板とした物に対する更なる加工方法としては、実公大15−31122号公報、特開昭48−47972号公報に記載される様に、まず化粧シートを板状の被着体に間に接着剤を介して積層して化粧板とし、化粧シートとは反対側の面に、化粧シートと被着体との界面に到達する、断面がV字状、又はU字状溝を切削し、次いで該溝内に接着剤を塗布した上で該溝を折り曲げ箱体又は柱状体を成形する所謂、Vカット又はUカット加工法等の折曲加工法がある。
〔化粧シート及びその積層物の用途〕本発明の化粧シートは各種被着体に積層し、必要に応じて所定の成形加工等を施して、各種用途に用いる。例えば、壁、天井、床等の建築物の内装、窓枠、扉、手摺等の建具の表面化粧、家具又は弱電・OA機器のキャビネットの表面化粧、自動車、電車等の車輛内装、航空機内装、船舶内装、窓硝子の化粧等である。特に本発明の化粧シートは、凹み傷が付き難くなる様な表面硬度が良好な点で、床等の用途は好適である。
以下、本発明の化粧シートを実施例により更に説明する。
〔実施例1〕図2に示す如き構成で床材用の化粧シートSを、次の様にして作製した。先ず、下層1とする樹脂シートとして、エチレン−プロピレン−ブテン3元共重合体系のオレフィン系熱可塑性エラストマーに着色剤を添加した樹脂を、Tダイ押出法で成膜して、厚さ60μmで黄褐色隠蔽性の樹脂シートを用意した。
そして、上記樹脂シートの片面にコロナ放電処理を行った上で、ウレタンアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤とからなる2液硬化型ウレタン樹脂系プライマー剤をグラビア塗工してプライマー層7Aを形成し、更に、絵柄層5として、着色ベタ層5A、及び木目模様の柄パターン層5Bを順次グラビア印刷で形成して、印刷シートとした。なお、絵柄層のバインダーの樹脂には、着色ベタ層はウレタンアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤とからなる2液硬化型ウレタン樹脂を用い、柄パターン層はウレタンアクリルポリオール樹脂を用いた。
そして、上記印刷シートの絵柄層形成面に対して、ウレタンアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤とからなる2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤をロールコート方式で塗布し乾燥して、固形分塗布量で10g/m2 の接着剤層8を形成して、その上から、ポリプロピレン系の結晶性ポリオレフィン系樹脂にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を添加した樹脂を、Tダイ押出塗工法により、厚さ80μmで無着色透明な上層2を成膜と同時に積層して積層シートとした。
次いで、上記積層シートの上層面に対してコロナ放電処理を施した後、ウレタンアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤とからなる2液硬化型ウレタン樹脂からなるプライマー剤をグラビアコート方式で全面に塗工して、塗布量で1g/m2 のプライマー層7Bを形成した上で、ウレタンアクリレート系の電離放射線(電子線)硬化性樹脂塗料を、ロールコート方式で固形分塗布量15g/m2 塗布し、電子線照射装置にて、125keV、50kGy(5Mrad)、酸素濃度200ppm以下の条件で電子線を照射して、架橋硬化させて、無着色透明な表面保護層3を形成した。そして、このシートを、ロールエンボス機を通してエンボス加工を行い、版深100μmの梨地状エンボス版から凹凸模様4を賦形して、図2の断面図で示す様な化粧シートSを得た。なお、概念図である図2では、エンボス加工による層の変形は上層2までとして描いてあるが、凹凸模様の凹部の深さ次第では、下層1まで層の変形が達する場合もある。
〔比較例1〕実施例1に於いて、上層に用いた樹脂を、下層に用いたオレフィン系熱可塑性エラストマー(但し、着色剤は実施例1の上層同様無添加)とした他は、実施例1と同様にして、化粧シートを得た。
〔比較例2〕実施例1に於いて、下層に用いた樹脂を、上層に用いた結晶性ポリオレフィン系樹脂(但し、着色剤添加は実施例1の下層と同じ)とした他は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。
〔性能評価〕表面硬度、エンボス加工適性を次の様にして評価した。評価結果は表1に示す。
(1)表面硬度:化粧シートの裏面に2液硬化型ウレタン樹脂系プライマー剤を固形分塗布量1.5g/m2 グラビア塗工した後、厚さ4mmのMDF(中密度繊維板)に2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤をウェットで70g/m2 塗布したものに、ロールラミネータでラミネートした後、冷圧プレス機にて30分間プレスして、評価用の化粧板を作製した。この化粧板を、鉛筆引っ掻き試験機を用いてJIS K 5400に準じて評価試験を行い、表面に凹み(傷)が発生する鉛筆の濃度記号で表す鉛筆硬度を表面硬度とした。濃度記号がHB以上に硬いものは良好、HB未満に柔らかいものは不良とした。
(2)エンボス加工適性:化粧シートを製造段階にてエンボス機にて表面に凹凸模様を賦形すべくエンボス加工する際に、シート加熱温度を、140℃、150℃、及び160℃の3点で行い、凹凸模様の賦形状態を目視で観察して評価した。凹凸模様が均一に十分に賦形されているものは良好、賦形が十分で無かったり、均一に賦形されていなかったりしたものは不良とした。
性能評価の結果、表1の如く、実施例1は表面硬度がFと良好で、その上、エンボス加工適性も150℃と160℃の両温度で良好で、製造実用上十分な性能であった。一方、下層及び上層の両方にオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた比較例1は、エンボス加工適性は140℃、150℃及び160℃の全ての温度で良好ではあったが、表面硬度が2Bと柔らかく不良であった。また、下層及び上層の両方に結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いた比較例2は、表面硬度がFと良好ではあったが、エンボス加工適性が160℃のみ良好で140℃及び150℃は不良となり、製造実用上、温度範囲が狭く不十分な性能であった。