JP5525180B2 - 免疫賦活剤及びそれを配合した免疫賦活組成物、並びに免疫賦活方法 - Google Patents
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近年、乳酸菌は食品製造に有用であるだけでなく、摂取したヒトに良い影響を与えることが知られ、プロバイオティクス作用に関する多くの研究がなされている。乳酸菌については、腸内菌叢の改善やコレステロールの低下作用などが報告されてきたが、最近は特にその免疫賦活作用が注目されており、これに関連してアレルギー低減作用、抗ウイルス作用、感染防御作用が検討されている。
微生物やウイルスに進入された場合、最初にそれを認識する細胞はマクロファージや樹状細胞であり、それらの細胞はToll-like receptor(TLR)をはじめとして多くのレセプターを発現している。TLRは微生物の特異なRAMPs(pathogen-associated molecular patterns)を認識し、免疫反応を誘導する。乳酸菌などグラム陽性菌の細胞壁は自然免疫を刺激し、PAMPsとしてペプチドグルカン、リポテイコ酸を含み、それぞれTLR2、TLR2とTLR6との複合体によって認識される。TLRの刺激はMyD88分子を介してNF-κBを活性化し、IL-12やインターフェロンα、βの産生を誘導してNK細胞など他の免疫担当細胞を活性化する。また、TLR4は大腸菌などグラム陰性菌のリポ多糖体(LPS)を認識し、NF-κBを活性化してTNF-αやIL-6を産生する。
一酸化窒素(NO)は重要な殺菌分子であり、iNOSの発現を通じて一時的に産生されることから、NOの産生はマクロファージが活性化している状態とみなすことができる。マクロファージ様細胞株を使用した場合、NOの産生は培地中の亜硝酸イオンとして検出することができる。Tejada-Simonらは、マクロファージ細胞株であるRAW264.7を用いてLactobacillus sp.やStreptcoccus sp.などに属する乳酸菌の加熱殺菌菌体がNO産生を誘導することを示している。
例えば、特定の乳酸菌の免疫促進能を示すものとして、Lactbacillus plantarum(特許文献1)、Lactbacillus gasseri(特許文献2)、Lactbacillus paracasei(特許文献3)を含有する飼料が報告されている。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、生体の免疫力の促進に著しく優れた特定乳酸菌からなる免疫賦活剤及びそれを配合した免疫賦活組成物、並びに飼料組成物と、免疫賦活方法を提供することを目的とする。
また、本発明にかかる免疫賦活組成物は、前記免疫賦活剤0.1〜10mg%を含有することを特徴とする。
また、前記免疫賦活組成物は、飼料組成物であることが好適である。
また、本発明にかかる免疫賦活方法は、 Lactobacillus sakei HS1(FERM BP−11312)株に由来する乳酸菌またはその処理物と、
グラム陰性菌の死菌体と、
を投与することを特徴とする。
本発明にかかる免疫賦活剤であるLactobacillus sakei HS1は、キムチから分離された乳酸菌L.sakeiに属し、寄託番号FERM BP−11312として独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターに寄託されている。Lactobacillus sakei HS1の同定及び培養方法については、該乳酸菌を漬物用野菜に添加し、発酵させた発酵漬物を開示する「特許第3091196号」に詳しい。なお、Lactobacillus sakei HS1は、漬物の食味を向上させる乳酸菌として知られているが、プロバイオティクスとしての評価は行なわれていない。
まず、Lactobacillus sakei HS1の菌学的性質を以下に示す。
細胞形態 桿菌
大きさ 0.8×2〜3μm
グラム染色性 陽性
15℃での生育 +
45℃での生育 −
6.5%食塩存在下での生育 +
pH4での生育 −
pH5での生育 +
発酵形式 ホモ
生成乳酸異性体タイプ DL
酢酸存在下での乳酸異性体タイプ L
ペプチドグリカンの型 非DAP
アラビノース +
リボース +
キシロース −
フラクトース +
マンノース +
ラクトース +
シュクロース +
トレハロース +
ラフィノース −
マンニトール −
ソルビトール −
グルコン酸ナトリウム +
マルトース +
ガラクトース +
メリビオース +
また、漬物用スターターとして市販されるLactobacillus sakei HS1乳酸菌を用いてもよい。
前記乳酸菌の処理物としては、菌の破砕物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状物、希釈物、殺菌物などが挙げられる。本発明においては、処理の容易性や製剤としての使用性から、特に乾燥物が好ましい。前記乾燥物は、例えば、加熱乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等によって菌を乾燥処理することにより得られ、より好ましくは加熱乾燥、凍結乾燥物である。
なお、本発明にかかる免疫賦活剤における菌体数は、生菌・死菌とも106〜1012個/g、好ましくは106〜108個/gである。
本発明にかかる免疫賦活剤が体内の有害菌に対する十分な効果を発揮するための投与量は、投与対象にもよるが、菌体乾燥重量として1日あたり0.1〜100mg/kg、好ましくは1〜100mg/kgである。
免疫賦活剤であるLactobacillus sakei HS1の菌体またはその処理物を対象へ少量投与し、体内の非活性状態のマクロファージを活性準備状態へ遷移させる。この際のLactobacillus sakei HS1の投与量は、菌体乾燥重量として0.01〜10mg/kg程度、すなわち、HS1によりマクロファージを活性化させる場合の約1/10の量で足る。
活性準備状態のマクロファージには、活性状態にみられる亜硝酸の産生はほとんど認められず、非活性状態との一見した差異はない。しかしながら、Lactobacillus sakei HS1の投与と同時、または投与から1〜24時間後にグラム陰性菌の死菌体を同対象へ少量投与することによって、活性準備状態にあったマクロファージは急速に、しかも通常よりも高レベルに活性化される。
本発明において前記グラム陰性菌は、外膜にリポ多糖体を有し、且つ腸内常在菌であることが好ましく、例えば、E.coliまたはE.aerogenes等が挙げられる。これらの菌体は、加熱等によって完全に殺菌された死菌体を用いることができる。死菌体には、さらに破砕等の処理を施すことも可能であるが、マクロファージの活性にかかるリポ多糖体を処理物中に残存させておく必要がある。グラム陰性菌の死菌体の投与量は、菌体乾燥重量として0.001〜1mg/kg程度とすることが好ましい。
また、前記グラム陰性菌の死菌体に替えて、前記死菌体相当量の精製リポ多糖体を用いてもよい。
上記実施形態における各製剤の投与は、経口及び非経口のどちらの経路を用いることも可能であり、Lactobacillus sakei HS1と、グラム陰性菌の死菌体またはリポ多糖体とを一緒に投与することも、別々に投与することも可能である。
免疫賦活組成物における免疫賦活剤の配合量は、投与対象の種類、大きさ、年齢等に応じ、前述した免疫賦活剤の投与量に準じて決定することができる。一般に、本発明にかかる免疫賦活剤を有効成分とする場合、該免疫賦活剤を組成物に対して0.1〜10mg%配合することが好ましい。配合量があまりに少量であると、十分な免疫賦活作用を得ることができないことがあり、過剰に配合しても一定以上の効果を得ることはできない。
本発明にかかる免疫賦活組成物には、上記以外にも本発明の効果を損ねない範囲で食品、健康食品、医薬品等に用いられる各種成分を適宜配合することができ、組成物の剤形についても特に制限されない。
さらに、本発明の飼料組成物は、その剤型についても特に制限はなく、投与対象等に応じて、固形状、ペレット状、液状、ペースト状、顆粒状、粉状、フレーク状等、いずれを適用することもできる。
<菌の調製例>
Lactobacillus sakei HS1株をGYP培地(蒸留水100mLにグルコース1g、酵母エキス1g、ペプトン0.5g、酢酸ナトリウム0.2g、塩類溶液0.5mL、ツイーン80溶液1mLを加えてオートクレーブ殺菌する)に接種し、30℃で2日間培養した。
増殖した菌体を遠心分離して集菌し、さらにリン酸緩衝液(PBS)を加えて遠心分離後、分離した菌体をPBSにて2回洗浄した。洗浄した菌体に0.05%ツイーン20含有PBSを加え、沸騰水中で15分間の加熱処理を施し、放冷後PBSで3回洗浄して凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥(乾燥温度35℃)し、乾燥菌体粉末を得た。
自由給水、自由給餌にて2日間の予備飼育(飼育温度24±3℃、相対湿度55±5%)を行った29日齢の雄ICR系マウス40匹を10匹ずつ4群に分け、各群のマウスに下記試料を腹腔内投与した。
試験群2:上記乾燥菌体粉末を500μg/mL含むPBS懸濁液を0.5mL/匹。
試験群3:上記乾燥菌体粉末を50μg/mL含むPBS懸濁液を0.5mL/匹。
対照群:上記乾燥菌体粉末無添加のPBSを0.5mL/匹。
また、Lactobacillus sakei HS1の死菌にこのような作用が認められたことから、Lactobacillus sakei HS1を構成するペプチドグリカン等の成分が、生体内においてある種の抗原として認識され、大腸菌感染を防御するIgA等の免疫グロブリンの産生を促進しているものと推測される。
乳酸菌はGYP培地を用いて30℃で2日間培養し、グラム陰性菌(Escherichia Coli ATCC11775、Enterobacter aerogenes ATCC13048)はLB培地を用いて37℃で2日間培養した。遠心分離して集菌した微生物は沸騰水中で30分間加熱殺菌後、凍結乾燥した。
リポ多糖体は、和光純薬・大腸菌由来LPSを使用した。
マクロファージ細胞株J774.1(理研 BRC Cell Bank RCB0434)は10%の非動化FBS(Sigma)と50μg/mlのストレプトマイシン、ペニシリンを加えたPRMI1640培地を用い、37℃、5%炭酸ガス−95%大気条件下で培養した。マクロファージ活性化試験は24穴の培養プレート(Falcon)の1穴ごとに2×106/mlの細胞を1mlずつ加えて2日間培養してコンフルエントとした後、古い培地を除去して新しい培地0.9mlと、下記試料をそれぞれPBSに懸濁して0.1mlとしたものを加えて行なった。培養24時間後の上清中の亜硝酸濃度(μM)をグリース試薬で分析した。
試料は、Lactobacillus sakei HS1の前記調製例による乾燥菌体粉末を1μg、10μg、100μg、ATCC11775(E.Coli)を0.1μg、1μg、LPSを1ng、10ngとし、PBSのみとした例を対照例とした。結果を図2に示す。
乳酸菌で刺激したマクロファージの低レベル大腸菌等による活性化
前述のマクロファージJ774.1の培養時に10μgのLactobacillus sakei HS1を添加して24時間培養後、培地を取り替えると共にATCC11775(E.Coli)0.1μg、ATCC13048(E.aerogenes)1μg、またはLPS1ngを加えた。その後さらに24時間培養し、上清中の亜硝酸濃度(μM)をグリース試薬で分析した。なお、対照として、HS1に代えてPBSを添加した例も行なった。
亜硝酸濃度(μM)
前処理 E.coli E.aerogenes LPS
PBS(対照例) 0.7 0.7 0.6
HS1 10μg 8.8 15 11.5
Lactobacillus sakei HS1と、グラム陰性菌(死菌)またはリポ多糖体(LPS)とを組み合わせて投与することにより、マクロファージが著しく活性化されることが明らかになった。これは、先に添加された少量のHS1によってマクロファージが刺激されて活性化準備状態となったため、少量のグラム陰性菌またはLPSの添加で著しいマクロファージの活性化が成ったものと考えられる。
したがって、本発明にかかる免疫賦活方法において、Lactobacillus sakei HS1(FERM BP−11312)株に由来する乳酸菌またはその処理物を低濃度で投与する工程と、前記工程と同時または前記工程後に、グラム陰性菌の死菌体またはリポ多糖体を低濃度で投与する工程とを含むことが好適である。
活性化マクロファージの貪食能の評価
前述のマクロファージ細胞の培養において、培地へ生きている大腸菌を加えた際にマクロファージに捕らえられた大腸菌数を計測した。24穴プレートを用い、上記マクロファージ活性化試験と同様にマクロファージを培養した。対照の非活性マクロファージはPBSを、活性化マクロファージは10μgのHS1と、0.1μgのATCC11775(E.coli)殺菌菌体を添加し1日培養して調製した。古い培地を除去後、前もってPBSで調製しておいた生きているE.coliを各穴に6×106となるように添加し、マクロファージと大腸菌との接触を増やすため遠心(1000rpm×5min)をした。30分間炭酸ガスインキュベーターに放置後、上清を捨て、残っているマクロファージ細胞に1mlのPBSを加えてピペッティングで細胞を取り出し、常法により大腸菌数を測定して結合大腸菌数とした。試験は対照群12穴、試験群12穴として2回繰り返した。結果を下記表3に示す。
マクロファージの状態 結合大腸菌数(CFU/ml)
非活性化 6.7±1.7×105
活性化 1.9±0.3×10 6
活性化:加熱殺菌したHS1 10μgとE.coli 0.1μgを添加して1日培養
非活性化:微生物菌体のかわりにPBSを添加して1日培養
Claims (5)
- ラクトバチルス・サケイ HS1(Lactobacillus sakei HS1)(FERM BP−11312)株に由来する乳酸菌からなる免疫賦活剤。
- 請求項1に記載の免疫賦活剤0.1〜10mg%を含有することを特徴とする免疫賦活組成物。
- 飼料組成物であることを特徴とする請求項2に記載の免疫賦活組成物。
- ラクトバチルス・サケイ HS1(Lactobacillus sakei HS1)(FERM BP−11312)株に由来する乳酸菌を、菌体乾燥重量として0.1〜100mg/kg投与することを特徴とするウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚類、鳥類、昆虫類から選択される動物の免疫賦活方法。
- ラクトバチルス・サケイ HS1(Lactobacillus sakei HS1)(FERM BP−11312)株に由来する乳酸菌と、
グラム陰性菌の死菌体と、
を投与することを特徴とするウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚類、鳥類、昆虫類から選択される動物の免疫賦活方法。
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