JP5523414B2 - 交流電動機の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、制御対象の位置、速度、電流、電圧などの状態量を制御する制御装置に係り、特に交流電動機に用いて好適な制御装置に関する。
交流電動機(以下、特に区別する場合を除き、単に「電動機」と称する)を制御する際、急加減速運転等による電流急変時においては、インダクタンスと電流変化の積(V=L・(di/dt))に起因して過渡的に電圧指令の振幅が大きくなり、電圧制限器の制限値を越えてしまうことがある。これにより、過渡的な電圧飽和(以下「過渡電圧飽和」と称する)が生じる。なお、このような過渡電圧飽和が生じるとき、電動機が振動するなど動作が不安定となることが知られている。
一方、過渡電圧飽和に起因して生じる電動機の不安定現象に対し、下記特許文献1では、過渡電圧飽和量を抽出し、抽出した過渡電圧飽和量にゲインを付与し、さらにフィルタを介して位置指令にフィードバックし、過渡電圧飽和が発生しないように位置指令を修正することで電動機の不安定現象を抑制している。
特開2010−57223号公報
しかしながら、上記特許文献1では、過渡電圧飽和量を位置指令にフィードバック(以下「F/B」と表記)する際のゲイン付与およびフィルタ処理は、制御対象である電動機と制御装置との組合せ毎に一意に示されていないため、電動機と制御装置の組合せごとにゲインとフィルタの設計を実験的に行う必要があった。
また、上記特許文献1では、理論的なゲイン設計が為されていないため、位置指令を修正するための位置指令修正量ΔPが最適化されず、位置指令の修正に過不足が生じる場合があり、過渡電圧飽和による不安定現象を充分に抑制できない場合があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、過渡電圧飽和に起因して生じ得る電動機の不安定現象を充分に抑制することができる交流電動機の制御装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、速度指令と前記交流電動機の速度との偏差を用いて電流指令を生成する速度制御器と、前記電流指令と前記交流電動機に流れる電流との偏差を用いて電圧指令を生成する電流制御器と、前記電流指令の変化率と前記交流電動機におけるインダクタンス成分相当値とを用いて、q軸電圧方程式の過渡電圧成分に相当する電圧飽和量を算出する電圧飽和量算出部と、前記電圧飽和量をローパスフィルタに通過させ、そのフィルタ出力の換算値を速度指令修正量として前記速度制御器の入力側にフィードバックする飽和量フィードバック部と、を備え、前記飽和量フィードバック部は、前記交流電動機の電気回路時定数の逆数相当値を前記ローパスフィルタの帯域を決定するフィルタ定数として設定する帯域設定器を有して構成されることを特徴とする。
本発明によれば、過渡電圧飽和に起因して生じ得る電動機の不安定現象を充分に抑制することができるという効果を奏する。
図1は、実施の形態1に係る制御装置の一構成例を示す図である。 図2は、実施の形態1に係る飽和量F/B部の構成を示す図である。 図3は、実施の形態1に係るフィルタ機能を具現する制御系の一構成例を示す図である。 図4は、フィルタ帯域を設定する帯域設定器の一構成例を示す図である。 図5は、過渡電圧飽和時の応答波形(従来および実施の形態1)を示す図である。 図6は、LPFの性質を利用して近似したLPF入力に対するLPF出力を表す模式図である。 図7は、LPFによる1次遅れ応答特性を改善するための実施の形態2に係る一手法を説明する図である。 図8は、実施の形態2に係る飽和量F/B部の細部構成を示す図である。 図9は、位置偏差に関する3パターン(従来、時定数固定、時定数可変)のシミュレーション結果を示す図である。
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる交流電動機の制御装置について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
(制御装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る制御装置の構成を示す図であり、交流電動機を制御対象として構成した制御装置の汎用的な一構成例を示している。
実施の形態1に係る制御装置は、図1にそれぞれ破線部で示す、第1の制御系10および第2の制御系12を備えて構成される。制御装置の入力端である第1の制御系10の入力端には、上位コントローラ114が接続され、制御装置の出力端である第2の制御系12の出力端には、制御対象である電動機112を駆動するインバータ装置(以下「INV」と表記)110が接続されている。電動機112には、電動機112の回転子(リニアモータであれば可動子)に関する位置情報を検出する位置検出器(以下「ENC」と表記)113が接続されており、ENC113が検出した位置情報は、第1の制御系10に入力される構成となっている。また、INV110と電動機112との間には、電流検出器111a〜111cが設けられており、電流検出器111a〜111cが検出した電動機電流iu,iv,iwは、第2の制御系12に入力される構成となっている。なお、図1では、INV110、電流検出器111a〜111c、ENC113を制御装置内に含まない構成としているが、これらの1つ以上を制御装置内に含む構成としても構わない。
(第1の制御系10の構成および動作)
つぎに、第1の制御系10の構成および動作について説明する。図1において、第1の制御系10は、位置制御器101、速度制御器102、電流振幅リミッタ103、di/dtリミッタ部104、飽和量F/B部105、微分器106、および加減算器115〜117を備えて構成される。
位置制御器101は、加減算器116の出力である位置偏差errpを入力信号とし、速度指令W*を生成して出力する。なお、位置偏差errpは、加減算器115の出力である修正位置指令P**と、ENC113の出力である位置F/B信号pfbとの減算出力として加減算器116によって生成される。また、修正位置指令P**は、上位コントローラ114の出力である位置指令P*と、飽和量F/B部105の出力である位置指令修正量ΔPとの減算出力として加減算器115によって生成される。
速度制御器102は、加減算器117の出力である速度偏差errwを入力信号とし、電流指令iq*を生成して出力する。なお、速度偏差errwは、位置制御器101の出力である速度指令W*と、微分器106の出力である速度F/B信号Wfbとの減算出力として加減算器117によって生成される。また、速度F/B信号Wfbは、ENC113の出力である位置F/B信号pfbを入力として微分器106によって生成される。
電流振幅リミッタ103は、電流振幅制限器としての機能を有し、速度制御器102の出力であるq軸電流指令iq*の振幅を所定幅に抑えたq軸電流指令iq**を生成して出力する。なお、q軸電流指令iq*およびq軸電流指令iq**については記号を付して区別するが、記号なしで区別する場合には、q軸電流指令iq*を「振幅制限前のq軸電流指令」と呼称し、q軸電流指令iq**を「振幅制限後のq軸電流指令」と呼称する。
di/dtリミッタ部104は、電流指令の変化率と電動機112のインダクタンス成分に相当する値を用いて、後述するq軸電圧方程式の過渡電圧成分に相当する電圧の飽和量(過渡電圧飽和量)を求める電圧飽和量算出部および、q軸電流指令の変化量を制限した電流変化量制限部としての機能を有する。図1の構成では、q軸電流指令iq**を入力信号とし、修正q軸電流指令iq***、および推定q軸電圧飽和量ΔV^qを生成して出力する。なお、修正q軸電流指令iq***は、q軸電流指令iq**の変化量(振幅変化率)を制限した電流指令であり、第2の制御系12に対する入力信号となる。また、推定q軸電圧飽和量ΔV^qは、飽和量F/B部105に対する入力信号となる。
飽和量F/B部105は、フィルタ機能やゲイン設定機能などを有し、di/dtリミッタ部104の出力である推定q軸電圧飽和量ΔV^qを入力信号とし、位置指令修正量ΔPを生成して出力する。なお、位置指令修正量ΔPは、加減算器115に対する一方の入力信号となり、位置指令P*に対する減算出力となる。
なお、図1では、位置指令修正量ΔPを位置指令P*にF/Bする構成としたが、位置制御器101のゲインを位置指令修正量ΔPに乗じるようにすれば、位置指令修正量ΔPを速度指令修正量と見なすことができる。この場合、飽和量F/B部105の出力を速度制御器102の入力側にF/Bする構成、すなわち速度指令修正量を速度指令W*にF/Bする構成とすることも可能である。
(第2の制御系12の構成および動作)
つぎに、第2の制御系12の構成および動作について説明する。図1において、第2の制御系12は、d軸電流制御器107a、q軸電流制御器107b、d軸電圧振幅リミッタ108a、q軸電圧振幅リミッタ108b、および座標変換器109a,109bを備えて構成される。
座標変換器109bは、UVW三相静止座標系の出力値を、INV110の出力周波数と同期して回転する回転座標系(dq直交2軸回転座標系)の出力値に変換する処理を行う。具体的には、座標変換器109bは、電流検出器111a〜111cが検出した電動機電流iu,iv,iwを入力信号とし、d軸電流制御器107aおよびq軸電流制御器107bの各入力側にF/Bするための電流信号であるd軸F/B電流idfbおよびq軸F/B電流iqfbを生成して出力する。
d軸電流制御器107aは、加減算器118aの出力であるd軸電流偏差erridを入力信号とし、d軸電圧指令Vd*を生成して出力する。なお、d軸電流偏差erridは、所定の指令信号であるd軸電流指令id*と、座標変換器109bの一方の出力であるd軸F/B電流idfbとの減算出力として加減算器118aによって生成される。
q軸電流制御器107bは、加減算器118bの出力であるq軸電流偏差erriqを入力信号とし、q軸電圧指令Vq*を生成して出力する。なお、q軸電流偏差erriqは、第1の制御系10の出力、より詳細には、di/dtリミッタ部104の出力信号である修正q軸電流指令iq***と、座標変換器109bの他方の出力であるq軸F/B電流iqfbとの減算出力として加減算器118bによって生成される。
d軸電圧振幅リミッタ108aは、電圧振幅制限器としての機能を有し、d軸電流制御器107aの出力であるd軸電圧指令Vd*の振幅を所定幅に抑えたd軸電圧指令Vd**を生成して出力する。なお、d軸電圧指令Vd*およびd軸電圧指令Vd**については記号を付して区別するが、記号なしで区別する場合には、d軸電圧指令Vd*を「振幅制限前のd軸電圧指令」と呼称し、d軸電圧指令Vd**を「振幅制限後のd軸電圧指令」と呼称する。
q軸電圧振幅リミッタ108bは、電圧振幅制限器としての機能を有し、q軸電流制御器107bの出力であるq軸電圧指令Vq*の振幅を所定幅に抑えたq軸電圧指令Vq**を生成して出力する。なお、q軸電圧指令Vq*およびq軸電圧指令Vq**については記号を付して区別するが、記号なしで区別する場合には、q軸電圧指令Vq*を「振幅制限前のq軸電圧指令」と呼称し、q軸電圧指令Vq**を「振幅制限後のq軸電圧指令」と呼称する。
座標変換器109aは、dq直交2軸回転座標系の出力値をUVW三相静止座標系の出力値に変換する処理を行う。具体的には、d軸電圧振幅リミッタ108aおよびq軸電圧振幅リミッタ108bの各出力であるd軸電圧指令Vd**およびq軸電圧指令Vq**を入力信号とし、INV110に対する電圧指令V,V,Vを生成して出力する。なお、INV110は、入力された電圧指令V,V,Vを用いてPWM電圧を生成し、電動機112を駆動する。
(飽和量F/B部105の構成および動作)
つぎに、飽和量F/B部105の構成および動作について図2を参照して説明する。図2は、図1に示す飽和量F/B部105の構成を示す図である。図2において、飽和量F/B部105は、ローパスフィルタ(以下「LPF」と表記)121および帯域設定器122を備えて構成される。
LPF121は、di/dtリミッタ部104の出力である推定q軸電圧飽和量ΔV^qの高周波成分を低減させるフィルタリング処理を行う。なお、フィルタリング出力は、位置指令修正量ΔPとして位置制御器101に対する入力信号(フィードバック信号)となる。帯域設定器122は、LPF121のフィルタ帯域を決めるフィルタ定数ωを演算する。このフィルタ定数ωは、LPF121に入力され、LPF121のフィルタ特性が設定される。
つぎに、飽和量F/B部105のフィルタ機能およびゲイン設定機能を電動機定数から一意に決定するための理論的な説明を行う。
まず、交流電動機(例えば永久磁石型同期電動機)のq軸電圧方程式は、一般的に次式で表される。
Figure 0005523414
ここで、上記(1)式に含まれる各記号の意味は、以下の通りである。
:q軸電圧指令、R:電機子巻線抵抗、s:ラプラス演算子、L:電機子巻線インダクタンス、i:q軸電流、ωre:電機角速度、φ:磁束鎖交数、i:d軸電流、Pm:電動機磁石の極対数
q軸電流変化に起因する過渡電圧飽和は、電気角速度ωreが低い場合でも生じるので、(1)式の電気角速度をωre=0と仮定すると、(2)式のようになる。
Figure 0005523414
ここで、過渡電圧飽和量を(3)式のように定義し、(2)式を(3)式に代入すると(4)式が得られる。
Figure 0005523414
Figure 0005523414
なお、上記(4)式中のVlimは、電圧リミット値である。
q軸電圧飽和量ΔVを0にするために、q軸電流iを補正量Δiで補正すると(4)式は(5)式となる。
Figure 0005523414
この(5)式をΔiの式に直すと(6)式が得られる。また、この(6)式に上記(2)式を代入すると(7)式が得られる。
Figure 0005523414
Figure 0005523414
さらに、この(7)式に(3)式を代入すると(8)式が得られる。
Figure 0005523414
この(8)式は、q軸電圧飽和量ΔVからq軸電流指令を補正するための補正量Δiを計算する際のフィルタ機能およびゲイン設定機能を表す式となる。なお、この(8)式は(9)式のように変形することができる。
Figure 0005523414
この(9)式において、q軸電圧飽和量ΔVに乗算される係数のうち、第1項にある電機子巻線抵抗Rの逆数相当値(1/R)がゲイン設定機能を表す係数であり、第2項にある電気回路時定数(L/R)の逆数相当値(R/L)がフィルタ機能を表す係数である。この(9)式を用いることにより、q軸電圧飽和量からq軸電流指令を補正するためのフィルタ機能およびゲイン設定機能を電動機定数R,Lから一意に求めることが可能となる。
図3および図(4)は、上記(3)式を具現するLPF121および帯域設定器122の一構成例を示す図である。LPF121は、図3に示すように、フィルタ部131、ゲイン設定器132、第1の換算値算出器133および第2の換算値算出器134を備えて構成され、帯域設定器122は、図4に示すように、乗除算器136を備えて構成される。
帯域設定器122には、電動機毎に一意に決まる電機子巻線抵抗Rおよび、電機子巻線インダクタンスLが設定される。帯域設定器122に具備される乗除算器136は、電機子巻線抵抗Rおよび電機子巻線インダクタンスLを用いてR/Lの演算を行い、その演算結果をフィルタ定数ωとしてLPF121に設定する。LPF121のフィルタ部131は、q軸電圧飽和量ΔVに対するフィルタ処理を行う。フィルタ部131の出力は、ゲイン設定器132にて上記(9)式に示す係数(電機子巻線抵抗Rの逆数)が乗算されてq軸電流指令に対する補正量Δiが演算される。
ここで、実施の形態1の制御系は、図1に示すように、q軸電流指令に対する補正量Δiから位置指令を修正するための位置指令修正量ΔPを演算して位置制御器101に入力する構成である。このため、図3に示すように、第1の換算値算出器133にて速度比例ゲインKSPの逆数を乗じて速度指令修正量ΔWを演算し、さらに第2の換算値算出器134にて速度指令修正量ΔWに位置制御ゲインKPPの逆数を乗じて位置指令修正量ΔPを演算する。
なお、制御系の構成が、q軸電流指令に対する補正量Δiから速度指令を修正するための速度指令修正量ΔWを演算して速度制御器102に入力する構成であれば、第2の換算値算出器134の処理は不要であり、第1の換算値算出器133の出力をLPF121の出力、即ち、飽和量F/B部105の出力として速度制御器102に入力すればよい。
以上説明したように、実施の形態1の制御装置によれば、制御対象の電動機と制御装置との組合せによって一意に決まるフィルタ定数およびゲインを制御装置内にて設定可能な構成としたので、電動機と制御装置との組合せ毎に好適な位置指令に対する補正量を求めることができ、過渡電圧飽和に起因して生じ得る電動機の不安定現象を充分に抑制することが可能となる。
また、実施の形態1の制御装置によれば、制御対象の電動機と制御装置との組合せによって一意に決まるフィルタ定数およびゲインを帯域設定器およびゲイン設定器によって簡易に設定可能な構成としたので、電動機または制御装置の故障等により、電動機、制御装置もしくは、電動機と制御装置の組合せが変更されても制御装置のパラメータ変更等を行う必要がなく、迅速な対応が可能になる。
実施の形態2.
実施の形態1で導出したフィルタ機能は、フィルタ帯域を決めるフィルタ定数を電動機の電気回路時定数の逆数相当値(固定値)としたLPFであった。一方、このLPFは、ステップ入力に対するLPF出力の傾きが時間の経過と共に徐々に緩やかになるため、目標値に対する追従性能が悪化する。そこで、実施の形態2では、追従性能の悪化を抑制することができる飽和量F/B部の構成および動作について説明する。
ここではまず、追従性能の悪化の原因と、その改善策について説明する。図5は、過渡電圧飽和時の応答波形を示す図であり、(a)はワインドアップ対策のない従来方式の制御系を用いた場合の応答波形の一例であり、(b)はワインドアップ対策を有する例えば上記実施の形態1の制御系を用いた場合の応答波形の一例を示す図である。
つぎに、図5の各応答波形をより詳細に説明する。(a)および(b)の双方において、まず、上段部のグラフに示す波形は速度応答波形であり、実線部の波形は位置指令を作るための速度指令、破線部の波形は電動機の速度、一点鎖線部の波形は位置制御器が生成する速度指令である。また、中段部のグラフに示す波形は電流応答波形であり、実線部の波形は電流指令、破線部の波形は電動機に流れる電流(電動機電流)である。また、下段部のグラフに示す波形は位置偏差特性であり、実線部の波形は位置偏差量、破線部の波形はフラグ(位置決め完了を示す信号)である。
ワインドアップ対策のない従来方式の制御系を用いた場合、図5(a)の上段部および中段部のグラフに示すように、速度応答および電流応答のハンチングが生じてしまうが、実施の形態1の制御系を用いた場合には、図5(b)の上段部および中段部のグラフに示すように、速度応答および電流応答のハンチングを抑制することができている。ところが、実施の形態1の場合、同図(a)および(b)の下段部における位置整定付近(0.5〜0.6秒付近)の波形を見ると緩やかな応答特性となっており、位置整定時間が遅延し、位置整定付近の位置偏差が大きくなっている。
つぎに、位置整定付近の位置偏差が大きくなる原因を解明するため、LPFの一時遅れ特性について、ステップ入力を用いて検討する。
まず、振幅をaとしたステップ入力に対するLPF出力は、下記(10)式で表される。
Figure 0005523414
また、この(10)式の傾きは、下記(11)式で表される。
Figure 0005523414
ここで、t→∞の極限において、e-t→0である。このため、上記(11)式に示されるLPF出力y(t)の傾きは、時間の経過と共に徐々に緩やかとなる。したがって、LPF出力y(t)は、目標値に追従するまでの時間が長くなることが分かる。
つぎに、台形波入力に対するLPF出力についても上記ステップ入力と同様に考える。振幅をaとした台形波入力において、加速中はランプ入力となるので、このランプ入力に対応するLPF出力は、下記(12)式で表わされる。
Figure 0005523414
一方、台形波入力では、ランプ入力の後は定値入力に移行する。したがって、台形波入力が一定値となった時点以降におけるLPF入出力間の振幅差(LPF入力に対するLPF出力の振幅差)Δyは、下記(13)式で表わされる。
Figure 0005523414
ここで、上記(13)式のΔyは、t→∞の極限において、Δy=aTとなる。このため、台形波入力に対するLPF出力は、図6に示すように、LPF入出力間の振幅差がaTになった以降、振幅aTのステップ入力に対応するLPF出力となる。即ち、台形波入力に対するLPF出力は、目標値応答に対する遅延が生じることになる。
図6は、ステップ入力された目標値との偏差に対し、時定数毎に約63%ずつ到達するというLPFの性質を利用して近似したLPF入力に対するLPF出力を表す模式図である。図6(a),(b)において、太実線で示す波形は、LPF入力波形であり、太破線で示す波形は、LPF出力波形(LPF入力に対する応答波形)である。
図6(a)に示すLPF出力波形では、図示のA部に示す応答遅延が生じた後にランプ入力に合わせて上昇し、定値入力に移行するt=t0にて振幅差(偏差)aTが生じ、その後、時定数毎に偏差の63%ずつ上昇するように近似されている。LPF出力波形(b)でも同様であり、図示のB部に示す応答遅延が生じた後にランプ入力に合わせて下降し、入力が零になるt=t1にて振幅差(偏差)aTが生じ、その後、時定数毎に偏差の63%ずつ下降するように近似されている。
ここで、LPF出力の傾きが、図6に示すような徐々に緩やかになる波形となるのは、LPFの時定数が一定であることに原因がある。このため、LPFの出力波形を制御できれば、LPFの応答特性を改善することが可能になると考えられる。
一方、過渡電圧飽和量は、過渡電圧指令とリミッタ出力との差である。このため、過渡電圧飽和量(LPF入力)の絶対値の最大値を、初めから設定することはできない。しかしながら、過渡電圧飽和量の絶対値が最大値に達した後、必ず零に戻り、零で一定になることは明らかである。そこで、実施の形態2では、過渡電圧飽和量の絶対値が零となったときから、LPFの時定数を可変に制御し、LPF出力波形の傾きを制御することを考える。
図7は、LPFによる1次遅れ応答特性を改善するための実施の形態2に係る一手法を説明する図である。なお、図6では、実線部の波形として、LPF入力の時間変化を示しているが、この図7では、実線部の波形として、LPF入力とは相似形の関係と考えられる過渡電圧飽和量の時間変化(過渡電圧飽和量の最大値以降の時間変化)を示している。
図6のところでも説明したが、過渡電圧飽和量ΔV(t)の絶対値|ΔV(t)|は、制御毎に値が変動する変動値である。このため、図7(a)のC部に示す区間、即ち、過渡電圧飽和量の絶対値がLPF入力の振幅aとLPFの時定数Tとの積aTに略一致する時間t1以降の区間を整定遅延の原因となる区間として定義する。図7(b)は、図7(a)C部の拡大図である。
図7(b)において、破線部の波形はLPF時定数が固定であるときのLPF出力の近似波形であるのに対し、一点鎖線部の波形はLPF時定数を可変としたときのLPF出力の近似波形である。
ここで、図7(b)に示す時定数可変制御について説明する。具体的には、以下に示す手順にて、LPFの時定数を徐々に小さく設定して行く。
(1)まず、過渡電圧飽和量(LPF入力)の絶対値|ΔVqt(k)|が零になった時点(t=t1、A1点)のLPF出力値B1を保持する(B1=aT)。|ΔVqt(k)|が零になったか否かの判定は、例えば、判定時の一時刻前の絶対値|ΔVqt(k-1)|がしきい値εよりも大きく(|ΔVqt(k-1)|>ε)、かつ、判定時の絶対値|ΔVqt(k)|がしきい値εよりも小さい(|ΔVqt(k-1)|<ε)ときに零になったと判定すればよい。なお、図7(b)の例では、|ΔVqt(k)|が零になった時点でLPFの時定数を1/2に変更する処理を行っている。
(2)つぎに、A1点よりも63%下降した点、即ち、B2=B1−B1*0.63=B1*(1−0.63)=B1*0.37となる点(A2点)を第1の比較ポイントとして設定し、その値B2を第1の比較値として保持する。
(3)つぎに、A2点よりも63%下降した点、即ち、B3=B2−B2*0.63=B2*(1−0.63)=B2*0.37となる点(A3点)を第2の比較ポイントとして設定し、その値を第2の比較値として保持する。
(4)以下同様な計算により、第3〜第nの比較ポイントを設定し、それぞれの値を第3〜第nの比較値として保持する。
(5)上記第1〜第nの比較ポイントの設定後、LPF出力値と第1〜第nの比較値とを順次比較し、LPF出力値が第1〜第nの比較値よりも小さくなる毎にLPFの時定数を順次1/3(T/3),1/4(T/4),・・・1/n(T/n)というように設定し、LPF出力値が所望の目標値以下になるまで時定数の可変処理を継続する。
なお、上記(5)項に示した時定数の設定値は一例であり、この例に限定されるものではなく、LPFの時定数が直前の値よりも小さくなっていればよい。例えば、LPF出力値が比較ポイントの値よりも小さくなる毎に、直前の値の1/2になるようにLPFの時定数を設定(更新)することでもよい。この場合、LPFの時定数は、T/2,T/4,T/8,T/16のように設定(更新)されて行く。
また、上記では、LPFの応答特性が、ステップ入力された目標値との偏差に対し、時定数毎に約63%ずつ到達するという性質を利用し、この63%という数値を用いて第1〜第nの比較値を算出したが、必ずしも63%という数値に限定されるものではない。LPFとしては、種々のフィルタ特性を有するバリエーションがあるため、使用するフィルタ特性に好適な数値を用いて第1〜第nの比較値を算出することが好ましいことは勿論である。
図8は、実施の形態2に係る飽和量F/B部105Aの細部構成を示す図であり、上述した手法を具現する一構成例を示している。図2に示す実施の形態1の構成と比較すると、図8では、絶対値演算部(以下「ABS」と表記)141、比較器142、比較値設定器143および帯域可変設定器144をさらに備えている点で図2の構成と相違している。なお、図2と同一または同等の構成部には、同一の符号を付している。
つぎに、実施の形態2に係る飽和量F/B部105Aの動作について説明する。図8において、LPF121には、q軸電圧飽和量ΔVの時系列データΔVqtが入力される。ABS141は、ΔVqtの絶対値を演算する。なお、ΔVqtの絶対値を演算する理由は、比較値設定器143、比較器142での処理を簡易に行うためであり、本質的なものではない。比較値設定器143には、ABS141の出力値|ΔVqt|とLPF121の出力値ΔIqtとが入力される。比較値設定器143は、上述した第1〜第nの比較値を演算して保持する。比較器142は、LPF121の出力値を取り込み、取り込んだ値と比較値設定器143に保持されている第1〜第nの比較値とを順次比較し、取り込んだ値が第1〜第nの比較値よりも小さくなった場合にLPF121のフィルタ帯域を決定する時定数の変更を指示する信号(以下「時定数変更信号」という)を生成して帯域可変設定器144に出力する。例えば、LPF121の出力が第1の比較ポイントであるA1点に向かうとき、LPF121の出力が第1の比較ポイントの値(B2)よりも小さくなったときに、時定数変更信号が出力される。帯域可変設定器144には、比較値設定器143が演算した第1〜第nの比較値と、これら第1〜第nの比較値に対応して決定されている時定数が、例えば降順に設定されている。帯域可変設定器144は、時定数変更信号を受領し、受領の都度、第1〜第nの比較値に対応して設定されている時定数を順次選択してLPF121の帯域を変更する。例えば、現在の時定数がT/2である場合、図7(b)の例では、時定数をT/2からT/3に変更してLPF121の帯域を変更する。なお、他の比較ポイントのときも同様な動作となる。
図9は、位置偏差に関する3パターン(従来、実施の形態1、実施の形態2)のシミュレーション結果を示す図であり、(a)はワインドアップ対策のない従来方式の制御系を用いた場合のシミュレーション結果、(b)は実施の形態1による制御系を用いた場合のシミュレーション結果、(c)は実施の形態2による制御系を用いた場合のシミュレーション結果である。
時定数を固定した場合、図9(b)のE部に示すように、位置整定時間の遅延が見られるが、時定数を可変にした場合、図9(c)のF部に示すように、位置整定時間の遅延が改善され、図9(a)のD部に示される応答特性と同等の応答特性が得られていることが理解できる。
以上説明したように、実施の形態2の制御装置によれば、電動機の電気回路時定数の逆数を帯域に持つフィルタ機能を設定する際、当該電気回路時定数が時間の経過と共に徐々に小さくなるように設定して行くので、実施の形態1の効果に加え、位置整定時間の遅延が改善され、位置整定付近の位置偏差が小さくなるという効果が得られる。
なお、以上の実施の形態1,2に示した構成は、本発明の構成の一例であり、上記特許文献1の技術や、その他の公知の技術と組み合わせることも可能であることは言うまでもない。また、実施の形態1,2に示した構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。
以上のように、本発明にかかる交流電動機の制御装置は、過渡電圧飽和に起因して生じ得る電動機の不安定現象を抑制することができる発明として有用である。
10 第1の制御系
12 第2の制御系
101 位置制御器
102 速度制御器
103 電流振幅リミッタ
104 di/dtリミッタ部
105,105A 飽和量F/B部
106 微分器
107a d軸電流制御器
107b q軸電流制御器
108a d軸電圧振幅リミッタ
108b q軸電圧振幅リミッタ
109a,109b 座標変換器
110 インバータ(INV)
111a〜111c 電流検出器
112 電動機
113 位置検出器(ENC)
114 上位コントローラ
115〜117,118a,118b 加減算器
122 帯域設定器
131 フィルタ部
132 ゲイン設定器
133 第1の換算値算出器
134 第2の換算値算出器
136 乗除算器
142 比較器
143 比較値設定器
144 帯域可変設定器

Claims (3)

  1. 速度指令と、制御対象である交流電動機の速度との偏差を用いて電流指令を生成する速度制御器と、
    前記電流指令と前記交流電動機に流れる電流との偏差を用いて電圧指令を生成する電流制御器と、
    前記電流指令の変化率と前記交流電動機におけるインダクタンス成分相当値とを用いて、q軸電圧方程式の過渡電圧成分に相当する電圧飽和量を算出する電圧飽和量算出部と、
    前記電圧飽和量をローパスフィルタに通過させ、そのフィルタ出力の換算値を速度指令修正量として前記速度制御器の入力側にフィードバックする飽和量フィードバック部と、
    を備え、
    前記飽和量フィードバック部は、
    前記交流電動機の電気回路時定数の逆数相当値を前記ローパスフィルタの帯域を決定するフィルタ定数として設定する帯域設定器と、
    前記ローパスフィルタへの入力値と前記ローパスフィルタからの出力値との偏差に基づいて、当該出力値の大小を判定するときの基準となる比較値を設定する比較値設定器と、
    前記出力値と前記比較値設定器に保持されている比較値とを比較し、前記出力値が前記比較値よりも小さくなった場合に前記ローパスフィルタの時定数の変更を指示する信号を生成する比較器と、
    前記比較器からの信号に基づいて前記ローパスフィルタの時定数を変更する帯域可変設定器と、
    を有して構成されることを特徴とする交流電動機の制御装置。
  2. 位置指令と前記交流電動機の位置情報との偏差を用いて前記速度制御器への入力信号となる前記速度指令を生成する位置制御器をさらに備え、
    前記飽和量フィードバック部は、前記電圧飽和量をローパスフィルタに通過させ、そのフィルタ出力の換算値を位置指令修正量として前記位置制御器の入力側にフィードバックすることを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の制御装置。
  3. 前記比較値設定器には、値が順次小さくなる複数の比較値が設定され、
    前記帯域可変設定器には、前記複数の比較値と、これらの比較値に対応して決定されている前記時定数とが降順に設定されており、
    前記帯域可変設定器は、前記比較器からの信号を受領する都度、前記各比較値に対応して設定されている時定数を順次選択して前記ローパスフィルタの帯域を変更することを特徴とする請求項1または2に記載の交流電動機の制御装置。
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