JP5523346B2 - Neph3を用いた膵臓前駆細胞の取得方法 - Google Patents

Neph3を用いた膵臓前駆細胞の取得方法 Download PDF

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Description

本発明は、膵臓前駆細胞の識別、検出、同定、分離、および取得等のための該遺伝子の利用等に関する。
膵臓は食物を消化するための各種消化酵素や、血中の糖濃度を調整するための各種ホルモンを分泌する重要な臓器である。自己免疫疾患やガン、肥満などによって膵臓機能が破綻すると、血中のグルコース濃度が病的に高まり、様々な合併症を併発することが知られている。糖尿病は膵臓に存在するβ細胞から分泌されるインスリンの量的な不足または機能低下によって発症し、治療法としては、運動療法、食事療法、経口血糖下降薬、インスリン注射などが存在する。一方で、脳死患者から膵臓β細胞を摘出し、糖尿病患者に移植する細胞移植療法も実施されているが、この細胞移植療法は、ドナーの圧倒的な不足が問題になっている。最近になって、ヒト胚性幹(ES)細胞から膵臓多能性前駆細胞を分化誘導して移植する技術が開発されたことによって、上記のドナー問題を解決する手法として注目されている(Kroon E et al. Nat Biotechnol. 2008;26(4):443-52)。しかし、ヒトES細胞由来膵臓前駆細胞を移植する場合、ES細胞から分化した細胞の一部しか膵臓前駆細胞に分化せず、その他の細胞は全く異なる細胞集団となる。このことから、特異的抗体を用いたソーティングによって未分化なES細胞を除去し、膵臓多能性前駆細胞を濃縮することは安全性、効果を考慮すると非常に重要であると考えられる。また、従来技術では膵臓前駆細胞を生きた状態、かつ外来の遺伝子や蛋白質等を含まない状態で識別、検出、同定、分離および/または取得することができず、膵臓前駆細胞を生きた状態、かつ外来の遺伝子や蛋白質等を含まない状態で識別、検出、同定、分離および/または取得することが望まれていた。
ところでNeph3(Nephrin-like 3)遺伝子は、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞およびGABA産生抑制性ニューロン前駆細胞等の中枢神経系の前駆細胞で発現することが知られている(WO 2004/038018、WO2008/096817)ものの、膵臓多能性前駆細胞との関連性については知られていない。
WO2004/038018 WO2008/096817
Kroon E et al. Nat Biotechnol. 2008;26(4):443-52
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、膵臓前駆細胞を選択的に識別可能なマーカーを指標とする膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、分離および/または取得するための方法、並びに、該方法によって製造された細胞集団等の提供を課題とする。
Neph3(Nephrin-like 3)遺伝子は、イムノグログリン様ドメインを細胞外領域に有する膜蛋白質である。Neph3遺伝子は"65B13"遺伝子としても知られ、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞およびGABAニューロン前駆細胞の中枢神経系の前駆細胞で一過性に発現することが報告されている(WO2004/038018;WO2008/096817)。しかし膵臓前駆細胞(pancreatic progenitor cells)との関連性については報告されていなかった。本発明者らが、膵臓の発生におけるNeph3遺伝子の発現を詳細に解析したところ、Neph3は膵臓原基において一部の細胞に発現しており、その発現は、多能性膵臓前駆細胞(multipotent pancreatic progenitor cells)(または膵臓多能性前駆細胞(pancreatic multipotent progenitor cells)ともいう)の指標として知られるPdx-1(pancreatic duodenal homeobox factor-1)およびPtf1a(pancreas transcription factor 1 subunit alpha)の発現と高度に一致していることが明らかとなった。膵臓原基におけるNeph3陽性の細胞の性状をさらに解析したところ、Neph3陽性の細胞のほとんどがPdx-1およびPtf1a陽性であった。またNeph3陽性の細胞のほとんどは、多能性膵臓前駆細胞の別の指標であるCpa1(carboxypeptidase A1 (pancreatic))(Zhou Q. et al., Dev. Cell, 2007, 13(1):103-114) も発現していた。
このように、Neph3は多能性膵臓前駆細胞で発現しており、しかも細胞表面に発現することから、多能性膵臓前駆細胞の表面マーカーとして有用であり、これを指標に多能性膵臓前駆細胞を簡便に生きたまま識別、検出、同定、分離および/または取得することが可能である。Neph3遺伝子および蛋白質は、多能性膵臓前駆細胞を含み得る細胞集団において、多能性膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、分離および/または取得ために利用することができる。
すなわち本発明は、膵臓前駆細胞を選択的に検出可能なマーカー、該マーカーを指標とする膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、分離および/または取得するための方法、該方法により識別、検出、同定、分離および/または取得された細胞集団、並びに、該方法に用いるための試薬等に関し、より具体的には、以下を提供する。
〔1〕 膵臓前駆細胞を含む細胞集団の製造方法であって、内胚葉系細胞試料におけるNeph3(Nephrin-like 3)遺伝子の翻訳産物の発現を識別、検出および/または同定する工程、および該遺伝子の翻訳産物を発現する細胞を回収、分離および/または取得する工程を含む方法、
〔2〕 内胚葉系細胞試料が中枢神経除去系細胞試料である、〔1〕に記載の方法、
〔3〕 内胚葉系細胞試料が腹部由来細胞試料である、〔1〕に記載の方法、
〔4〕 Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))、EPPK1(エピプラキン1)のいずれか一つ、またはそれらの任意の組み合わせの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する工程をさらに含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕 Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)およびCpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))の組み合わせである、〔4〕に記載の方法、
〔6〕 上記識別、検出および/または同定する工程、および/または回収、分離および/または取得する工程が、免疫化学的方法によってなされる工程である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法、
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法により製造された細胞集団、
〔8〕 内胚葉系細胞試料におけるNeph3遺伝子の翻訳産物の発現を識別、検出および/または同定する工程を含む、膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する方法、
〔9〕 内胚葉系細胞試料が中枢神経除去系細胞試料である、〔8〕に記載の方法、
〔10〕 内胚葉系細胞試料が腹部由来細胞試料である、〔8〕に記載の方法、
〔11〕 Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))、EPPK1(エピプラキン1)のいずれか一つ、またはそれらの任意の組み合わせの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する工程をさらに含む、〔8〕から〔10〕のいずれかに記載の方法、
〔12〕 Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)およびCpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))の組み合わせである、〔11〕に記載の方法、
〔13〕 膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する方法が、免疫化学的方法である〔8〕から〔12〕のいずれかに記載の方法。
本発明では、膵臓前駆細胞マーカーを同定し、この発現を指標にして、膵臓前駆細胞の分離に成功した。本発明は、膵臓疾患などにおける移植治療のための材料調製や、特異的遺伝子の探索、膵臓前駆細胞をターゲットにした創薬などに有用である。本発明者によって同定されたマーカー遺伝子は、膜タンパク質をコードすることから、該マーカーを指標とすることにより、外来の遺伝子やタンパク質等を用いる必要無く膵臓前駆細胞を生きた状態、かつ外来の遺伝子や蛋白質等を含まない状態で識別、検出、同定、分離および/または取得することが可能である。本発明のマーカーを利用した、膵臓前駆細胞の取得方法により、高純度の膵臓前駆細胞が得られることから、例えば、糖尿病などの膵臓疾患に対する創薬などに適用されることが期待される。
Neph3遺伝子の胎児期マウスにおける発現パターンを示す図である。A:E12.5 胎児全体像、B:E12.5 膵臓原基。 膵臓の発生過程のフローを示す図である。 膵臓原基におけるNeph3、Pdx1、Ptf1a、Cpa1の発現の比較を示す図である。A:抗体染色、B:in situ hybridization。 抗Neph3抗体を用いて、胎児期マウスから膵臓多能性前駆細胞を分離できることを示す図である。A:抗Neph3抗体によるマウス胎児膵臓のFACS。B:分離したNeph3陽性細胞の抗体染色。 Neph3プロモーターにより外来遺伝子(GFP)を膵臓前駆細胞特異的に発現させられることを示す図である。 ヒトNeph3プロモーターが膵臓前駆細胞特異的に活性化することを示す図である。
(Neph3遺伝子・蛋白質)
本発明は、膵臓前駆細胞の選択的マーカー遺伝子Neph3の発現を指標とする膵臓前駆細胞の検出方法を提供する。本発明においてNeph3遺伝子は、一般にNeph3およびそのホモログまたはカウンターパートとして知られる遺伝子が含まれ、65B13遺伝子とも呼ばれる(WO 2004/038018)。Neph3蛋白質とは、Neph3遺伝子にコードされる蛋白質を言う。具体的には、本発明におけるNeph3遺伝子の一例として、該遺伝子のオルタナティブアイソフォームである65B13-a(配列番号:1)及び65B13-b(配列番号:3)と呼ばれる2種の遺伝子を挙げることができる(それぞれの遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を配列番号:2および4に示す)。65B13-aのコード領域は、配列番号:1の178番目〜2277番目で700アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そのうち178番目〜228番目の配列にコードされる17アミノ酸残基はシグナル配列、1717番目〜1767番目の配列にコードされる17アミノ酸残基は膜貫通領域であった。それに対し、65B13-bのコード領域は、配列番号:3の127番目〜2076番目で650アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち127番目〜178番目の配列にコードされる17アミノ酸残基はシグナル配列、1516番目〜1566番目の配列にコードされる17アミノ酸残基は膜貫通領域である。膜貫通領域よりN末端側が細胞外領域に相当し、具体的には65B13-aにおいては229〜1716番目にコードされるアミノ酸配列であり、65B13-bにおいては179〜1515番目にコードされるアミノ酸配列である。
また、配列番号:5、7、9、11、13、15、17、19及び21で示される遺伝子も本発明におけるNeph3遺伝子の一例として挙げることができる(それぞれの遺伝子によってコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号6、8、10、12、14、16、18、20及び22で示す)。アミノ酸配列のコード領域は、それぞれ配列番号:5の668番目から2767番目で、700アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち668番目から724番目までの配列にコードされる19個のアミノ酸残基はシグナル配列、725番目から2206番目までの配列にコードされる494個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:7の130番目から2229番目で、700アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち130番目から186番目までの配列にコードされる19個のアミノ酸残基はシグナル配列、187番目から1668番目までの配列にコードされる494個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:9の199番目から2097番目で、633アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち199番目から258番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、259番目から1728番目までの配列にコードされる490個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:11の199番目から2322番目で、708アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち199番目から258番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、259番目から1728番目までの配列にコードされる490個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:13の199番目から2322番目で、708アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち199番目から258番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、259番目から1728番目までの配列にコードされる490個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:15の15番目から1913番目で、633アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち15番目から74番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、75番目から1544番目までの配列にコードされる490個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:17の199番目から1947番目で、583アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち199番目から258番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、259番目から1578番目までの配列にコードされる440個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:19の15番目から1763番目で、583アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち15番目から74番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、75番目から1394番目までの配列にコードされる440個のアミノ酸残基は細胞外領域である。配列番号:21の196番目から2259番目で、688アミノ酸からなる蛋白質をコードする。そして、そのうち196番目から255番目までの配列にコードされる20個のアミノ酸残基はシグナル配列、256番目から1665番目までの配列にコードされる470個のアミノ酸残基は細胞外領域である。その他、アクセッション番号XM_994164、AL136654、XM_512603、XR_012248、XM_541684またはXM_583222で示される配列も本発明におけるNeph3遺伝子の一例として含まれる。
本発明においてNeph3遺伝子には、上記に具体的に例示したポリヌクレオチドに加え、それらのアイソフォーム、スプライシングバリアント、アレリック変異体も含まれる。このようなポリヌクレオチドは、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 の塩基配列、好ましくはそのコード領域の配列、より好ましくはシグナル配列部分を除くコード領域の配列、またはそれらのいずれかの相補鎖と、あるいはそれらから調製したプローブと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドが含まれる。このようなポリヌクレオチドは、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、所望の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。Neph3遺伝子が由来する動物は特に制限はないが、マウス、ラットなどのげっ歯類、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、イヌ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳動物、サルや類人猿等の霊長類、およびヒトを含む所望の動物が挙げられる。cDNAライブラリーの作成方法については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
より具体的には、cDNAライブラリーの作製においては、まず本発明のポリヌクレオチドを発現することが期待される細胞、臓器、組織(例えば膵臓原基や、多能性幹細胞等から膵臓前駆細胞を分化誘導した細胞試料など)等からグアニジン超遠心法 (Chirwin et al. (1979) Biochemistry 18: 5294-9)、AGPC法 (Chomczynski and Sacchi (1987) Anal. Biochem. 162: 156-9) 等の公知の手法により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を用いてmRNAを精製する。QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia) のような、直接mRNAを調製するためのキットを利用してもよい。次に得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)のようなcDNA合成のためのキットも市販されている。その他の方法として、cDNAはPCRを利用した5'-RACE法 (Frohman et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 8998-9002; Belyavsky et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17: 2919-32) によりcDNAを合成、及び増幅してもよい。また、全長率の高いcDNAライブラリーを作製するために、オリゴキャップ法 (Maruyama and Sugano (1994) Gene 138: 171-4; Suzuki (1997) Gene 200: 149-56) 等の公知の手法を採用することもできる。上述のようにして得られたcDNAは、適当なベクター中に組み込むことができる。このようにして得られたライブラリーを、上記ポリヌクレオチド配列を基に作製したプローブを用いてハイブリダイゼーションによりスクリーニングすることにより、Neph3遺伝子を得ることができる。
本発明におけるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、ポストハイブリダイゼーションの洗浄において、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」の条件、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」の条件、または「1×SSC、0.1%SDS、37℃」の条件における洗浄でハイブリダイズしていること、よりストリンジェントな条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」、または「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件における洗浄でハイブリダイズしていることが挙げることができる(1×SSCは150 mM NaCl、15 mM sodium citrate、pH 7.0)。より詳細には、Rapid-hyb buffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッドを形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を3回、最後に、1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分の洗浄を2回行うことも考えられる。より好ましくは、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの溶液としては、例えば 5xSSC、7%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5xデンハルト液(1xデンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、及び0.2%フィコールを含む)を含む溶液を用い、プレハイブリダイゼーションを65℃30分から1時間、ハイブリダイゼーションを同じ温度で一晩(6〜8時間)行う。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度を上げることにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては65℃または68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明の遺伝子のアイソフォーム、アレリック変異体、及び対応する他種生物由来の遺伝子を得るための条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989);特にSection9.47-9.58)、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997); 特にSection6.3-6.4)、『DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.』(Oxford University (1995);条件については特にSection2.10) 等を参照することができる。
ハイブリダイゼーションに用いるためのプローブの調製は、例えばニックトランスレーション法、ランダムプライマー法、PCR、またはin vitroトランスレーション等により実施することができる(Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1983, Anal. Biochem. 132, 6-13; Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1984, Anal. Biochem. 137, 266-267; Saiki RK, et al: Science 230: 1350, 1985、Saiki RK, et al: Science 239: 487, 1988)。ランダムプライマー法としては、ランダムヘキサマー(pd(N)6)またはランダムノナマー(pd(N)9)等を用いればよい(例えば Random Primer DNA Labeling Kit, Takara Bio Inc., Otsu, Japan)。プローブの調製に用いられる鋳型DNAは、例えば連続した20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上である。また、プローブの平均鎖長は、例えば20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上であり、例えば5000塩基以下、好ましくは4000、3000、または2000塩基以下である。プローブに短い鎖長の核酸が含まれていたとしても、ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいてはそれらのプローブは核酸にハイブリダイズすることができないので影響は少ない。
すなわち本発明においてNeph3遺伝子は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 の塩基配列および/またはその相補配列、好ましくはそのコード領域の配列および/またはその相補配列、より好ましくはシグナル配列部分を除くコード領域の配列および/またはその相補配列からなるポリヌクレオチド、あるいは該ポリヌクレオチドから調製したプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸であって、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現する核酸が含まれる。ここで膵臓前駆細胞で発現するとは、膵臓前駆細胞において内因的に発現することをいう。例えば、対象とする遺伝子が膵臓原基において発現していれば、当該遺伝子は膵臓前駆細胞で発現していることが分かる。また、他の膵臓前駆細胞マーカーを利用して膵臓前駆細胞を同定することもできる。例えば対象とする遺伝子を発現する細胞が、Pdx-1 および Ptf1aを発現していれば、この細胞は膵臓前駆細胞であることが分かる。Neph3陽性の膵臓前駆細胞は、好ましくはPdx-1 および Ptf1aを発現する細胞であり、より好ましくはCpa1 をさらに発現する細胞である。すなわち本発明のNeph3遺伝子は、好ましくはPdx-1 および Ptf1aを内因的に発現する細胞で内因的に発現する遺伝子あり、好ましくは、Pdx-1、Ptf1a、およびCpa1を内因的に発現する細胞で内因的に発現する遺伝子である。
またNeph3遺伝子は、ハイブリダイゼーションにより単離する以外にも、例えば遺伝子増幅技術 (PCR) (Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987) Section 6.1-6.4) により、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 の塩基配列および/またはその相補配列、好ましくはそのコード領域の配列および/またはその相補配列、より好ましくはシグナル配列部分を除くコード領域の配列および/またはその相補配列からなるポリヌクレオチドを基に設計したプライマーを用いて増幅することができる。
またNeph3遺伝子には、本明細書に例示したNeph3遺伝子の塩基配列と高い同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであって、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。具体的には、Neph3遺伝子には、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 の塩基配列、好ましくはそのコード領域の配列、より好ましくはシグナル配列部分を除くコード領域の配列に対して高い同一性、具体的には70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、より一層好ましくは90%以上(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上さらには99%以上)の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。
また本発明においてNeph3遺伝子には、本明細書に例示したNeph3遺伝子がコードする蛋白質のアミノ酸配列と高い同一性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドであって、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。具体的には、本発明においてNeph3遺伝子には、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 のコード領域の配列がコードするアミノ酸配列、より好ましくはシグナル配列部分を除くコード領域の配列がコードするアミノ酸配列に対して高い同一性、具体的には70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、より一層好ましくは90%以上(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上さらには99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであって、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。
このような配列の同一性は、BLASTアルゴリズム(Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいたプログラムとして、アミノ酸配列についての同一性を決定するプログラムとしてはBLASTP、塩基配列についてはBLASTN(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10)等が開発されており、配列の同一性を決定するために使用することができる。具体的な解析方法については、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のウェブページを参照することができる。例えば、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 のコード領域の配列(すなわち配列番号:1の178から2280番目、配列番号:3の127から2079番目、配列番号:5の668番目から2770番目、配列番号:7の130番目から2232番目、配列番号:9の199番目から2100番目、配列番号:11の199番目から2325番目、配列番号:13の15番目から2325番目、配列番号:15の15番目から1916番目、配列番号:17の199番目から1950番目、配列番号:19の15番目から1766番目、若しくは配列番号:21の196番目から2262番目の塩基配列)または該配列がコードするアミノ酸配列(それぞれ配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22)を参照配列として、比較の対象としたい配列とのアライメントを作成する。参照配列の総塩基数または総アミノ酸数(アライメントにおいて、参照配列の内側に当たる位置に入れたギャップを加える。参照配列の外側に入れたギャップは無視する)に対する、一致する塩基またはアミノ酸数の割合として、配列の同一性が算出される。アライメントにおいて、参照配列の内側に当たる位置に入れたギャップはミスマッチとして計算する。
また本発明においてNeph3遺伝子には、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 のコード領域の配列(配列番号:1の178から2280番目、配列番号:3の127から2079番目、配列番号:5の668番目から2770番目、配列番号:7の130番目から2232番目、配列番号:9の199番目から2100番目、配列番号:11の199番目から2325番目、配列番号:13の15番目から2325番目、配列番号:15の15番目から1916番目、配列番号:17の199番目から1950番目、配列番号:19の15番目から1766番目、若しくは配列番号:21の196番目から2262番目の塩基配列)において、1または複数の塩基(ヌクレオチド)の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば塩基配列の一端または両末端への1または複数の塩基(ヌクレオチド)の付加)がなされた塩基配列を含み、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。異なっている塩基の数に特に制限はないが、例えば500以内、好ましくは450以内、400以内、350以内、300以内、250以内、200以内、150以内、100以内、50以内、または30以内(20以内、10以内、または5以内)である。また本発明においてNeph3遺伝子には、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21 のコード領域の配列がコードするアミノ酸配列(配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22)において、1または複数のアミノ酸の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、アミノ酸配列の一端または両末端への1または複数のアミノ酸の付加)がなされたアミノ酸配列をコードし、膵臓前駆細胞、好ましくは多能性膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドが含まれる。異なっているアミノ酸数に特に制限はないが、例えば500以内、好ましくは250以内、200以内、180以内、150以内、120以内、100以内、80以内、70以内、60以内、50以内、40以内、30以内、20以内、または10以内(例えば5、4、3、2、または 1)である。このようなバリアントは、アイソフォームや多型として一般に見られる。また1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドで、元のポリペプチドと同じ生物学的活性が維持されることはよく知られている (Mark et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 5662-6; Zoller and Smith (1982) Nucleic Acids Res. 10: 6487-500; Wang et al. (1984) Science 224: 1431-3; Dalbadie-McFarland et al. (1982) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 6409-13)。本発明において、「ポリヌクレオチドにおいて、1または複数個のヌクレオチドの挿入、置換、欠失、および/または付加」および「アミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸の挿入、置換または欠失、および/または付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、または天然に生じ得る程度の複数個の数のヌクレオチドあるいはアミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。ポリヌクレオチドの場合、一塩基多型(SNPs)も含む意味である。ヌクレオチドおよびアミノ酸の改変の個数は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1または数個(9個以下)、特に好ましくは1〜4個、最も好ましくは1〜2個の挿入、置換、または欠失、および/または付加がなされたものであることができる。改変ヌクレオチド配列は、好ましくは、1個または複数個(例えば、1個ないし数個あるいは1、2、3、または4個)のアミノ酸配列からなる変異であって、タンパク質の機能に影響を与えない変異を有するものであることができる。また改変ヌクレオチド配列は、1または複数のコドンを同じアミノ酸をコードする別のコドンに置換した変異であって、コードするアミノ酸配列を変化させないような変異(サイレント変異)を有する配列であることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、1または複数個(例えば、1個ないし数個あるいは1、2、3、または4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であることができる。本発明において、「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
すなわち本発明においてNeph3遺伝子には、以下のポリヌクレオチドが含まれる。
(i)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21のコード配列を含むポリヌクレオチド。
(ii)配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(iii)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21のコード配列において、1または複数個のヌクレオチドの挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされた塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(iv)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21がコードするアミノ酸配列(配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列)において、1または複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(v)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21のコード配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(vi)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21のコード配列と高い同一性を有する塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
および
(vii)配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21がコードするアミノ酸配列(配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列)と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
また本発明においてNeph3蛋白質には、上記Neph3遺伝子がコードするポリペプチドが含まれ、特に、以下のポリペプチドが含まれる。
(i)配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(ii)配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされたアミノ酸配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリペプチド。
(iii)配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、または 21のコード配列からなるポリヌクレオチド)の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
および
(iv)配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、または22のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリペプチド。
Neph3遺伝子を構成するポリヌクレオチドは、適宜Neph3遺伝子を発現する細胞よりハイブリダイゼーションやPCR、あるいは化学合成等により製造することができる。得られたポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、慣用の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法 (Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
Neph3蛋白質は、上記Neph3遺伝子を発現する細胞から回収することができる。例えば所望の発現ベクターを用いてNeph3遺伝子を発現させ、産生された蛋白質を回収すればよい。本発明のNeph3遺伝子がコードする蛋白質(Neph3蛋白質)は、典型的にはイムノグロブリンドメインを持つ一回膜貫通蛋白質であり、N末側が細胞外ドメインであり、C末側に細胞質ドメインを持つI型膜蛋白質であってよい。好ましくは、Neph3蛋白質は細胞外ドメインに5つのイムノグロブリンドメインを持つ。ポリペプチドの細胞外領域はプログラムPSORT(Nakai, K. and Horton, P., Trends Biochem. Sci, 24(1) 34-35 (1999); psort.ims.u-tokyo.ac.jp/)等を用いて調べることができる。具体的には、当該プログラムPSORTを用いた細胞外領域は、配列番号:2、4、10、12、14、若しくは16で表されるアミノ酸配列の21番目〜510番目、配列番号:6若しくは8で表されるアミノ酸配列の20番目〜513番目、配列番号:18若しくは20で表されるアミノ酸配列の21番目〜460番目、または配列番号:22で表されるアミノ酸配列の21番目〜490番目のアミノ酸配列である。また本発明のNeph3遺伝子は、例えば中脳のドーパミン産生ニューロン前駆細胞において発現するものであってよい。またGABA産生ニューロン前駆細胞で発現するものであってよい。またNeph3蛋白質は、好ましくはイムノグロブリンドメインを介して自己結合する活性を有する(WO2004/038018)。
(膵臓前駆細胞)
本発明において膵臓前駆細胞(pancreatic progenitor cells)とは、膵臓細胞を指向した前駆細胞を言う。より具体的には、膵臓前駆細胞は、成熟した膵臓を構成する少なくともいずれかの細胞に分化するよう主として運命付けられた細胞であって、まだ最終分化していない細胞、または該細胞と同等の表現型を有する細胞を言う。このような細胞は内胚葉細胞であってよく、例えば腸管内胚葉系列に属する内胚葉細胞に由来してよい。膵臓前駆細胞は、例えば胚の膵臓原基に含まれる細胞またはその培養物であってもよく、あるいは内胚葉性幹細胞、腸管未分化内胚葉、胚性幹(ES)細胞や他の多能性幹(PS)細胞などから膵臓前駆細胞を分化誘導した細胞であってもよい。ここで、「幹細胞」とは、ある細胞に変化するようにという指示を受けると特定の細胞に変身、すなわち分化する能力を持っている細胞をいう。また、変化を遂げる前の未分化の状態で長期間にわたって自らを複製、再生する能力も備えている。胚からは胚性幹細胞(ES細胞)、成人からは成体幹細胞(iPS細胞)、胎児からは胚生殖細胞を採り出すことができるが、いずれの細胞も本発明で使用する幹細胞に含まれる。ES細胞は、受精卵が分化して胎児に発展するまでの状態である胚の初期段階から採り出されるもので、身体のどのような細胞にも成長できる性質を持っているため多能性幹細胞ともいう。ES細胞は、受精後5、6日目の胚盤胞の内層細胞(内部塊細胞)から取り出して培養することができる。そのほか、皮膚細胞などの体細胞をOct3、Sox2、Klf4などを導入して初期化し、多能性を持たせたiPS細胞(誘導多能性幹細胞)も人工的な多能性幹細胞である。さらに、脂肪細胞から誘導される多能性を有する細胞も幹細胞に含むことができる。これらES細胞、iPS細胞および脂肪細胞から誘導される多能性を有する細胞等の種々の幹細胞も種々の細胞に分化できるものであれば本願発明に使用し得る。
多能性幹細胞等から膵臓前駆細胞を分化させる方法は、様々なものが知られている(Kubo A et al., Development 2004;131:1651-1662; Tada S et al., Development 2005;132:4363-4374; Yasunaga M et al., Nat Biotechnol 2005;23:1542-1550; Gadue P et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006;103:16806-16811; D'Amour KA et al., Nat Biotechnol 2005;23:1534-1541; McLean AB et al., STEM CELLS 2007;25:29-38; D'Amour KA et al., Nat Biotechnol 2006;24:1392-1401; Shiraki, N. et al., Stem Cells 26, 874-885, 2008 Kroon E et al. Nat Biotechnol. 2008;26(4):443-52)。しかしながら、これらの方法によって得られる膵臓前駆細胞の割合は必ずしも高いとは言えない。これらの文献に記載された方法によって分化させた膵臓前駆細胞を含む細胞試料に本発明の方法を提供すれば、細胞を生かしたまま膵臓前駆細胞の純度を劇的に高めることが可能である。
本発明において膵臓前駆細胞は、膵臓の内分泌細胞、外分泌細胞、または導管細胞の少なくともいずれかに分化できる細胞である。好ましくは、膵臓前駆細胞は少なくとも内分泌細胞に分化できる細胞であり、例えばα細胞、β細胞、δ細胞、PP(膵臓ポリペプチド)産生細胞の少なくともいずれか、好ましくは全てに分化する能力を持つ細胞であってよい。また好ましくは、本発明において膵臓前駆細胞は、少なくともβ細胞に分化する能力を有する。また膵臓前駆細胞は、例えば成熟した膵臓の細胞が持つ形質のいずれかをまだ持っていない。例えば膵臓前駆細胞は、成熟した膵臓内分泌細胞が分泌するポリペプチドを、少なくとも成熟細胞と同等には分泌しない(すなわち成熟細胞の分泌量の例えば1/2以下、好ましくは1/3以下、1/5以下、1/8以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、または 1/50以下、あるいは検出されない)。例えば膵臓前駆細胞はインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、およびPPのいずれも、成熟細胞と同等には分泌しない(すなわち成熟細胞の分泌量の例えば1/2以下、好ましくは1/3以下、1/5以下、1/8以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、または 1/50以下、あるいは検出されない)。あるいは、細胞の成熟はそれぞれの細胞種に特徴的なマーカー遺伝子の発現を調べることによっても知ることができ、その手法は当業者にはよく知られている(Shiraki, N. et al., Stem Cells 26, 874-885, 2008)。好ましい態様においては、膵臓前駆細胞は、成熟した膵臓内分泌細胞において有意に発現が上昇することが知られている遺伝子の発現レベルが、成熟細胞に比べて有意に低い(例えば70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または検出されない)。このような遺伝子としては、例えばInsulin1 (Ins1)、Insulin2 (Ins2)、Glucagon (Gcg)、Pancreatic polypeptide (Ppy)、Somatostatin (Sst)、Nkx6.1、Cytokeratin 19 (CK19)、Islet amyloid polypeptide (Iapp)(Nishi M et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1989;86:5738-5742)、Kir6.2(Sakura H, et al., FEBS Lett 1995;377:338-344)、Glucose transporter 2 (Glut2)、アミラーゼ、およびDolichos biflorus agglutinin (DBA) から選択される蛋白質をコードする遺伝子等が挙げられる。
また本発明において膵臓前駆細胞には多能性膵臓前駆細胞が含まれる。多能性膵臓前駆細胞(multipotent pancreatic progenitor cells)(膵臓多能性前駆細胞(pancreatic multipotent progenitor cells)ともいう)とは、多分化能を保持する膵臓前駆細胞を言う。具体的には、多能性膵臓前駆細胞は、膵臓を構成する3種類の細胞、すなわち内分泌細胞、外分泌細胞、および導管細胞に分化する能力を持つ細胞であってよい。内分泌細胞としては、例えばα細胞、β細胞、δ細胞、およびPP細胞が挙げられ、これらのいずれかに分化することを確認することにより、細胞が内分泌細胞に分化できることを確認することができる。それぞれの細胞に特異的なマーカー(例えば、それぞれグルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、およびPP)は知られている。外分泌細胞マーカーとしては、アミラーゼが挙げられる。導管細胞マーカーとしては、例えばDBAが挙げられる。これらのマーカーなどを用いて細胞の分化を確認することができる。多能性膵臓前駆細胞は、例えば Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、または Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic)) を発現する。好ましくは、多能性膵臓前駆細胞はPdx-1およびPtf1aを発現し、より好ましくは Cpa1 をさらに発現する細胞である。
Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)(accession NM_000209.3, コード配列(CDS) 109-957, NP_000200.1; NM_008814.3, CDS 109-960, NP_032840.1; XM_543155.2, CDS 1-1596, XP_543155.2; XM_509600.2, CDS 113-961, XP_509600.2; XM_583722.3, CDS 1-855, XP_583722.1; XM_001234635.1, CDS 1-693, XP_001234636.1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)(accession NM_178161.2, CDS 1-984, NP_835455.1; NM_018809.1, CDS 199-1170, NP_061279.1; NM_207641.2, CDS 89-883, NP_997524.1; XM_001146416.1, CDS 1-579, XP_001146416.1; NM_053964.1, CDS 234-1211, NP_446416.1)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))(accession NM_001868.1, CDS 8-1264, sig_peptide 8-55, mat_peptide 56-1264, NP_001859.1, sig_peptide 1-16, mat_peptide 17-419; NM_174750.2, CDS 27-1283, sig_peptide 27-74, mat_peptide 375-1283, NP_777175.1, sig_peptide 1-16, mat_peptide 117-419; NM_025350.3, CDS 244-1500, NP_079626.2; XM_851827.1, CDS 30-1313, XP_856920.1; NM_016998.2 , CDS 309-1565, sig_peptide 312-356, mat_peptide 639-1565; NM_204584.1, CDS 17-1273, sig_peptide 17-67, mat_peptide 353-1273)、およびEPPK1(エピプラキン1) NM_031308.1 (CDS 14-15283), XM_372063 (CDS 1-7185); NM_144848.2 (CDS 1134-20777), NM_173025 (CDS 95-2305), XM_910512 (CDS 1-7725), NP_112598, XM_001074770 (CDS 1-10374), XP_001074770, XM_001059215 (CDS 1-10086), XP_001059215, NM_144848.2 (CDS 1134-20777), NP_659097は当業者にはよく知られており、周知の方法によりこれらの発現を検出することが可能である。
(内胚葉系細胞試料)
本発明において、「内胚葉系細胞試料」とは、内胚葉系の細胞を主とする細胞試料を意味する。内胚葉は、脊椎動物の初期胚に存在するすべての体細胞へ分化する能力をもった未分化な細胞(全能性細胞)から形成される。受精卵は体細胞分裂により、まず胞胚というボール状の細胞塊になる。この表面の一部がくぼみ(原腸陥入)、陥入した部分は原腸となる。この段階を原腸胚という。こうして細胞の外側と内側(原腸側)の違いができ、外側が外胚葉、内側が内胚葉となる。この内胚葉およびそれに由来する内胚葉系列の細胞(endoderm lineage cells)が内胚葉系の細胞である。また内胚葉系の細胞は、多能性幹細胞などの内胚葉細胞前駆細胞から人工的に分化誘導して作製することもできる。
本発明の「内胚葉系細胞試料」には、内胚葉系細胞を純粋に含む細胞試料であってもいいし、一部に他の細胞を含む試料であってもよい。好ましくは、本発明の内胚葉系細胞試料は、試料に含まれる全細胞に占める内胚葉の細胞の割合が50%以上、より好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または100%である。Neph3遺伝子の翻訳産物又は転写産物を用いて膵臓前駆細胞を取得できる細胞試料であればいずれの細胞試料であっても本発明の「内胚葉系細胞試料」に含まれる。本発明においては、内胚葉をある程度選択または濃縮等の工程を行った後に「内胚葉系細胞試料」とすることが好ましい。
内胚葉系細胞試料は、前記に挙げた文献をはじめとして幹細胞から誘導する公知の方法で取得することができる。また、胎児から取得された試料を使用することもできる。
(神経除去系細胞試料)
「中枢神経除去系細胞試料」とは、中枢神経系細胞(central nervus system cells)および中枢神経系細胞に分化し得る細胞を除去した細胞試料を意味する。また「神経除去系細胞試料」とは、神経細胞に分化し得る細胞および神経細胞を除去した細胞試料を意味する。「神経細胞に分化し得る細胞」とは、外胚葉細胞であって神経に分化する前の前駆細胞を意味する。外胚葉は、脊椎動物の初期胚に存在するすべての体細胞へ分化する能力をもった未分化な細胞(全能性細胞)から形成される。受精卵は体細胞分裂により、まず胞胚というボール状の細胞塊になる。この表面の一部がくぼみ(原腸陥入)、陥入した部分は原腸となる。この段階を原腸胚という。こうして細胞の外側と内側(原腸側)の違いができ、外側が外胚葉、内側が内胚葉となる。この外胚葉およびそれに由来する外胚葉系列の細胞(ectoderm lineage cells)が外胚葉系細胞である。また、多能性幹細胞などの外胚葉細胞前駆細胞から人工的に外胚葉系列の細胞を分化誘導して作製された細胞も、外胚葉系細胞に含まれる。本発明においては、中枢神経除去系細胞試料として、好ましくは神経除去系細胞試料、より好ましくは外胚葉系細胞除去細胞試料 (ectoderm-lineage-cell depleted cell sample) が用いられる。神経除去系細胞試料は、例えば神経細胞系譜の細胞を除去した細胞試料、すなわち神経系細胞除去細胞試料 (neuronal-lineage-cell depleted cell sample) であってよく、中枢神経除去系細胞試料は、例えば中枢神経系(CNS)系譜の細胞を除去した細胞試料、すなわちCNS系細胞除去細胞試料 (CNS-lineage-cell depleted cell sample) であってよい。これらの細胞試料は、外胚葉細胞除去細胞試料 (ectodermal cell depleted cell sample) であってもよい。
神経細胞に分化し得る細胞および神経細胞は、幹細胞から誘導される神経に成り得る細胞および神経細胞も含まれる。幹細胞から誘導される神経に成り得る細胞および神経細胞を除去した細胞試料も「神経除去系細胞試料」に含まれる。
この「神経除去系細胞試料」は、神経細胞を純粋に除去した細胞試料であってもいいし、一部に他の細胞を含む試料であってもよい。好ましくは、本発明の神経除去系細胞試料は、神経細胞および神経細胞に分化し得る細胞(但し内胚葉に分化し得る細胞ではないもの)が完全に除去された細胞試料であって、内胚葉系細胞を含む細胞試料である。Neph3遺伝子の翻訳産物又は転写産物を用いて膵臓前駆細胞を取得できる細胞試料であればいずれの細胞試料であっても本発明の「神経除去系細胞試料」に含まれる。本発明においては、神経に成り得る細胞および神経細胞をある程度除去等の工程を行った後に「神経除去系細胞試料」とすることが好ましい。
「神経除去系細胞試料」は、前記に挙げた文献をはじめとして幹細胞から誘導する公知の方法で神経に成り得る細胞を除去することで取得することができる。
(腹部由来細胞試料)
「腹部由来細胞試料」とは、腹部から取得することができる細胞試料をいう。この場合、胎児の腹部から取得することができる細胞が好ましい。ここで、「腹部」とは、頭部、上肢(腕)および下肢(脚)を除いた部分をいう。
腹部由来細胞試料は、純粋に腹部の細胞のみからなる細胞試料であってもいいし、一部に他の細胞を含む試料であってもよい。好ましくは、本発明の腹部由来細胞試料は、試料に含まれる全細胞に占める腹部の細胞の割合が50%以上、より好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上である。Neph3遺伝子の翻訳産物又は転写産物を用いて膵臓前駆細胞を取得できる細胞試料であればいずれの細胞試料であっても本発明の「腹部由来細胞試料」に含まれる。本発明においては、腹部の細胞をある程度選択または濃縮等の工程を行った後に「腹部由来細胞試料」とすることが好ましい。
(検出方法)
本発明の方法においては、Neph3遺伝子の発現を検出することにより、膵臓前駆細胞を検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)する。具体的には、本発明の膵臓前駆細胞を検出する方法は、膵臓前駆細胞を含み得る細胞試料におけるNeph3遺伝子の発現を検出する工程を含む。膵臓前駆細胞を含み得る細胞試料とは、膵臓前駆細胞を検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)したい細胞試料であり、例えば膵臓前駆細胞を含むことが知られている細胞試料または含むことが期待される細胞試料であってよい。細胞試料は、好ましくは膵臓前駆細胞を含む細胞試料である。細胞試料において、Neph3の発現が検出されれば、膵臓前駆細胞が含まれることが示唆され、Neph3の発現が検出されなければ、膵臓前駆細胞が含まれないことが示唆される。またNeph3を発現する細胞が検出されれば、その細胞は膵臓前駆細胞であることが示唆される。その細胞を回収することにより、膵臓前駆細胞を単離することができる。
本発明において膵臓前駆細胞の検出とは、膵臓前駆細胞の有無を検出することであってよく、例えば細胞試料中に膵臓前駆細胞が含まれていることまたは含まれていないことを同定する方法であってよい。また、ある細胞が膵臓前駆細胞であるか否かの判断や、膵臓前駆細胞の分布(例えば組織切片やwhole organなどのハイブリダイゼーション等において)、あるいは膵臓前駆細胞の割合を測定することであってもよい。また膵臓前駆細胞を検出する方法には、膵臓前駆細胞を検出することを含む所望のプロセスが含まれ、例えば膵臓前駆細胞を検出した後に、該細胞を識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得する方法を包含してもよい。膵臓前駆細胞を検出する方法は、膵臓前駆細胞を例えば検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得する工程を含む、所望の方法に包含される。例えば本発明の方法は、後述の膵臓前駆細胞の分化を調節する化合物のアッセイ方法やスクリーニング方法に包含される。
本発明の膵臓前駆細胞の検出方法に用いる細胞試料は、所望の方法により分離または培養された細胞群であってもよい。例えば細胞試料は、好ましくはin vitroで分化誘導された膵臓前駆細胞を含む培養産物である。In vitroにおける膵臓前駆細胞の分化誘導は、ES細胞、誘導多能性幹細胞(iPS)または脂肪細胞から誘導される多能性を有する細胞等を出発材料として、公知の方法により行うことができる。また細胞試料は膵臓原基に由来する細胞であってもよい。また細胞試料には、Neph3陽性の膵臓前駆細胞が含まれている限り、膵臓前駆細胞以外のNeph3陽性細胞が含まれていてもよい。好ましくは細胞試料は、Neph3陽性細胞としては膵臓前駆細胞が最も高い割合で含まれる細胞試料である。本発明の検出方法は、膵臓前駆細胞を含む細胞群(集団)を検出および/または製造する方法でもある。
細胞試料は、例えば細胞が懸濁された溶液であってもよく、あるいは組織切片などであってよい。また1個の細胞が分離されたものであってもよく、サイトメトリー等により個々の細胞においてNeph3の発現を検出してもよい。なお当該細胞試料は、Neph3が発現する中枢神経系の前駆細胞(ドーパミン産生ニューロン前駆細胞やGABA産生ニューロン前駆細胞)を含まないか、あるいは割合が低いものが好ましい。そのためには、初めからこれらの中枢神経系の細胞を含まない細胞試料を準備するとよい。例えば膵臓原基由来の細胞や、多能性幹細胞から膵臓前駆細胞を分化誘導した細胞試料などの、中枢神経系の前駆細胞を含まない細胞試料を用いることが好ましい。但し、仮にこれらのニューロン前駆細胞が含まれていたとしても、他の膵臓前駆細胞マーカーやニューロン前駆細胞マーカーにより、Neph3陽性細胞が膵臓前駆細胞であるのか、ニューロン前駆細胞であるのかは、容易に判別することが可能である。本発明の膵臓前駆細胞を検出する方法は、細胞試料から、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞およびGABA産生ニューロン前駆細胞を検出または選別(または除去)する工程をさらに含む方法にも関する。また本発明は、Neph3以外の膵臓前駆細胞マーカーを検出する工程をさらに含む方法にも関する。また本発明において細胞試料は、好ましくは外胚葉系の細胞を含まないか、あるいは内胚葉系の細胞に比べて割合が低い。好ましくは、細胞試料中の細胞は、内胚葉系の細胞またはその前駆細胞からなる。また本発明において細胞試料は、多能性幹細胞を内胚葉系の細胞(例えば膵臓前駆細胞)に分化するように誘導した産物であってよい。なお、細胞試料中に少ない割合のニューロン前駆細胞が仮に含まれていたとしても、十分な数の膵臓前駆細胞が含まれている場合には、本発明の方法により高い特異性をもって膵臓前駆細胞を検出および選択することが可能である。本発明の方法に用いる細胞試料は、好ましくはニューロン前駆細胞よりも膵臓前駆細胞を高い割合で含む細胞試料である。より好ましくは、例えば細胞試料は膵臓前駆細胞をニューロン前駆細胞の2倍以上、より好ましくは3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、または30倍以上含む。本発明の方法において用いる細胞試料は、好ましくはNeph3陽性の細胞の中で、膵臓前駆細胞の割合が最も高いまたはそう期待される細胞試料であり、例えばNeph3陽性細胞の50%以上、より好ましくは60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上が膵臓前駆細胞である細胞試料である。また本発明において用いられる細胞試料は、好ましくはNeph3陽性細胞の50%以上、より好ましくは60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上がPdx-1、Ptf1a、Cpa1および/またはEPPK1陽性細胞である。
また膵臓前駆細胞を含み得る細胞試料は、成熟した膵臓細胞、特に成熟β細胞を含まないか、あるいは膵臓前駆細胞に比べて少ないものが好ましい。例えば当該細胞試料は、成熟β細胞、好ましくは全ての成熟内分泌細胞(α細胞、β細胞、δ細胞、およびPP細胞)のいずれをも含まないか、あるいは成熟内分泌細胞の合計が、膵臓前駆細胞に比べて少ない。より好ましくは外分泌細胞および導管細胞を含む全ての成熟膵臓細胞のいずれをも含まないか、あるいは成熟膵臓細胞の合計が、膵臓前駆細胞に比べて少ない。当該細胞試料に含まれる細胞は、例えば成熟した膵臓細胞が持つ形質のいずれかをまだ持っていないものが好ましい。例えば当該細胞試料に含まれる細胞は、いずれも、成熟した膵臓内分泌細胞が分泌するポリペプチドを有意には分泌しない(すなわち成熟細胞の分泌量の例えば1/2以下、好ましくは1/3以下、1/5以下、1/8以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、または 1/50以下、あるいは検出されない)。例えば当該細胞試料は、インスリンを有意に分泌(すなわち成熟β細胞と同等、例えば成熟β細胞のインスリン分泌量の60%以上、70%以上、または80%以上)する細胞を含まない。例えば当該細胞試料に含まれる細胞は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、PP(膵臓ポリペプチド)、アミラーゼのいずれも有意には分泌しない(すなわち成熟細胞の分泌量の例えば1/2以下、好ましくは1/3以下、1/5以下、1/8以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、または 1/50以下、あるいは検出されない)。このような細胞試料としては、例えば膵臓原基由来の細胞や、多能性幹細胞から膵臓前駆細胞を分化誘導した培養産物などの、成熟した膵臓細胞を含まない細胞試料が挙げられる。但し、仮にこれらの成熟膵臓細胞が含まれていたとしても、他の膵臓前駆細胞マーカーおよび/または成熟膵臓細胞マーカーにより、Neph3陽性細胞が膵臓前駆細胞であるのか成熟膵臓細胞であるのかは、判別することが可能である。本発明の膵臓前駆細胞を検出する方法は、細胞試料から成熟膵臓細胞を検出または選別(または除去)する工程をさらに含む方法にも関する。また本発明は、Neph3以外の膵臓前駆細胞マーカーを検出する工程をさらに含む方法にも関する。なお、細胞試料中に少ない割合の成熟膵臓細胞が仮に含まれていたとしても、十分な数の膵臓前駆細胞が含まれている場合には、本発明の方法により高い特異性をもって膵臓前駆細胞を検出および選択することが可能である。本発明の方法に用いる細胞試料は、好ましくは成熟膵臓細胞よりも膵臓前駆細胞を高い割合で含む細胞試料である。より好ましくは、例えば細胞試料は膵臓前駆細胞を成熟膵臓細胞の2倍以上、より好ましくは3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、または30倍以上含む。本発明の検出方法は、膵臓前駆細胞を有意に含む細胞群(細胞集団)を検出(同定、単離、回収、選択、濃縮等を含む)する方法でもある。
遺伝子の発現の検出は、当業者には様々な方法が知られており、適宜それらの方法を用いて実施することができる。これらの方法には、例えば遺伝子の転写産物を検出する方法、遺伝子の翻訳産物を検出する方法、および遺伝子のプロモーター活性(転写活性)を検出する方法等が含まれ、具体的には、目的の遺伝子の転写産物または翻訳産物を特異的に検出する試薬(プローブ、プライマー、抗体等)を用いて、あるいは当該遺伝子のプロモーターの制御下に連結したレポーター遺伝子を用いて実施することができる。レポーター遺伝子は特に制限はなく、例えば所望の異種遺伝子(すなわち天然の状態においてプロモーターに連結されていたNeph3以外の遺伝子)を用いることができるが、例えばGFP遺伝子やルシフェラーゼ遺伝子など、通常レポーターとしてよく用いられる遺伝子を用いることができる。また本発明において遺伝子の転写産物の発現とは、該遺伝子の転写であってよく、また遺伝子の翻訳産物の発現とは、該遺伝子の転写産物からの翻訳であってよい。すなわち遺伝子の転写産物の発現の識別、検出および/または同定は、それぞれ、該遺伝子の転写の識別、検出および/または同定であってよく、遺伝子の翻訳産物の発現の識別、検出および/または同定は、それぞれ、該遺伝子の翻訳産物の識別、検出および/または同定であってよい。遺伝子の転写産物を検出するには、例えば該遺伝子の転写産物(mRNA)を直接または間接に検出すればよい。例えばノーザンブロット解析やin situハイブリダイゼーションは、細胞試料に含まれる目的のmRNAを直接検出するために有用である。またRT-PCRなどの方法は、mRNAからcDNAを合成した後で、目的のmRNAに対応するcDNAを検出することができる。遺伝子の翻訳産物は、該翻訳産物(蛋白質)に結合する抗体やリガンド等を用いて検出することが可能であり、例えば免疫沈降法、プルダウンアッセイ、ウェスタンブロット法、フローサイトメトリー等により実施することができる(Sambrook and Russell, Molecular Cloning, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USA, 2001)。
(プローブ・プライマー)
より具体的には、例えば転写産物またはそのcDNAの検出は、本発明のNeph3遺伝子の転写産物またはその相補鎖を特異的に検出する試薬を用いて実施することができる。このような試薬としては、例えば該転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが挙げられる。ポリヌクレオチドは、Neph3転写産物の検出ができればその鎖長は特に制限されず、所謂オリゴヌクレオチドと呼ばれる短いポリペプチドであってもよい。長いポリヌクレオチドは、例えばプローブ等として用いることが可能であり、短いポリヌクレオチドはプローブの他、RT-PCR等のプライマーやDNAチップ等として利用することができる。一般的に、転写産物を検出するためのポリヌクレオチドは、Neph3遺伝子の転写産物の配列またはその相補配列の連続する少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり、好ましくは連続する少なくとも16、17、18、19、20、22、25、27、30、35、40、または50ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。これらのポリヌクレオチドは、膵臓前駆細胞を検出するためのプライマーおよびプローブとして有用である。プライマーとして用いる場合、ポリヌクレオチドの長さは、通常200塩基以下、好ましくは150以下、100以下、80以下、60以下、または50以下である。プローブとして用いる場合、ポリヌクレオチドの長さは、通常5000塩基以下、好ましくは4000以下、3000以下、2000以下、1000以下、または800以下である。
より具体的には、通常、プローブとして使用する場合には15〜1000、好ましくは25〜500個の塩基を含むことが望ましく、またポリヌクレオチドは、適宜、放射性同位体または非放射性化合物などで標識して用いられる。プライマーとして使用する場合には、少なくとも15、好ましくは20、22、25、または30個の塩基を含むことが望ましい。プライマーの場合には、3’末端側の領域を標的とする配列に対して相補的な配列に、5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。これらのポリヌクレオチドは、Neph3遺伝子の発現の検出に使用できる他、Neph3遺伝子の変異の検出に使用することもできる。このような変異は、膵臓細胞の分化制御の異常を引き起こし得ることから、膵臓疾病の診断等に有用と考えられる。
上記ポリヌクレオチドは、Neph3の転写産物、またはそのcDNA(すなわち相補鎖)にハイブリダイズする。好ましくは、Neph3の転写産物、またはそのcDNA(相補鎖)に特異的にハイブリダイズする。特異的とは、他の配列と比較して、Neph3の転写産物またはそのcDNAに有意に強くハイブリダイズすることを言う。例えば膵臓前駆細胞を含む細胞試料から調製したmRNAあるいは組織切片等において、Neph3の転写産物の相補的な塩基配列からなるプローブ(すなわちアンチセンスプローブ)と、その相補鎖(すなわちセンスプローブ;コントロール)からなるプローブでハイブリダイゼーションを行い、センスプローブに比べてアンチセンスプローブで有意に強いシグナルが検出されることにより、特異性を確認することができる。
なおゲノムDNAのハイブリダイズと違い、転写産物の検出においては、一般に細胞試料中に含まれるmRNA種は限られるため、極めて高い特異性は必要とされないと考えられる。また、PCRなどの2つ以上のプライマーまたはオリゴヌクレオチドを組み合わせて検出を行う場合は、個々のオリゴヌクレオチドの特異性が低くても、組み合わせにより十分な特異性を発揮させることが可能である。目的とする核酸が適切に増幅されるようにプライマーを設計することは、当業者が通常行っている。本発明は、Neph3の転写産物を検出するためポリヌクレオチド(例えばNeph3の転写産物またはその相補鎖とハイブリダイズするポリヌクレオチド)を2つまたはそれ以上含むセット(例えばプライマーペアを1つまたはそれ以上含むセット)にも関する。
Neph3の転写産物を検出するためポリヌクレオチドは、Neph3の転写産物またはその相補配列に対して相補的な配列を含んでいる。当該配列は、少なくとも15、18、20、22、25、28、または30個の連続した塩基が完全に相補的になっている場合のみならず、そのうちの少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(例えば、97%または99%)が完全に相補的になっているものであってもよい。完全に相補的になっているとは、塩基配列中のAに対しT(RNAの場合はU)、TまたはUに対しA、Cに対しG、そしてGに対しCが対応して配列が形成されていることを意味する。
Neph3遺伝子の転写産物の検出により膵臓前駆細胞を検出する方法は、例えば以下の工程を含む方法である。
(a)被験細胞試料由来のmRNAまたは該mRNAから調製したcDNAを、Neph3遺伝子の転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドとインキュベートする工程、および
(b)該mRNAまたはcDNAと該ポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを検出する工程。
ここで細胞試料から調製したmRNAの検出を行う場合は、Neph3遺伝子の転写産物にハイブリダイズするポリヌクレオチドを用い、mRNAの相補鎖(cDNA第一鎖など)の検出を行う場合は、Neph3遺伝子の転写産物の相補配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドを用い、mRNAから調製した二本鎖cDNA等を用いる場合は、Neph3遺伝子の転写産物および/またはその相補鎖にハイブリダイズするポリヌクレオチドを用いてインキュベートすればよい。ハイブリダイゼーションの検出は、ポリヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして用いて核酸を検出する種々の方法により実施することができ、その典型的な方法の1つは、これらのポリヌクレオチドをプローブとして用いた通常のハイブリダイゼーション法である。ハイブリダイゼーションの条件としては、本明細書に記載した条件を用いることができ、それにより特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出することができる。ポリヌクレオチドは、適宜標識してよく、具体的には、放射性同位体または非放射性化合物で標識されたプローブを使用することができる。例えば、標識するための放射性同位体としては、32P、35S、3H等を挙げることができる。放射標識したポリヌクレオチドプローブを用いた場合、エマルションオートラジオグラフィーにより銀粒子を検出することによりプローブと結合するRNAを検出することができる。また、ポリヌクレオチドプローブの標識のため慣用の非放射性同位体としては、ビオチン、ジゴキシゲニン等が公知である。ビオチン標識マーカーの検出は、例えば、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識したアビジンを用いて行うことができる。一方、ジゴキシゲニン標識マーカーの検出には、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識した抗ジゴキシゲニン抗体を使用することができる。酵素標識を使用する場合には、酵素の基質と共にインキュベートし、安定な色素をマーカー位置に沈着させることで検出を行う。ポリヌクレオチドが対象となる核酸とハイブリダイズすれば、その核酸が由来する細胞は膵臓前駆細胞であることが示唆される。
また核酸の検出は、上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いる遺伝子増幅を通して検出することもできる。例えば上記の本発明の検出方法には、以下の工程を含む方法が含まれる。
(a)被験細胞試料由来のmRNAまたは該mRNAから調製したcDNAを鋳型として用いて、Neph3遺伝子の転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドをプライマーとして用いて遺伝子増幅を行う工程;および
(b)増幅産物を検出する工程
遺伝子増幅としては公知の方法を用いることができるが、例えば耐熱性ポリメラーゼを利用したPCR(polymerase chain reaction)等を用いることができる。例えば細胞試料から調製したmRNAを逆転写してcDNAを合成し、これを基にPCRを行うRT-PCRにより細胞試料中のmRNAを間接的に検出することができる。遺伝子増幅により形成された増幅産物の検出は公知の方法を用いればよい。また増幅に用いるプライマー対は、センス側とアンチセンス側の両方をNeph3遺伝子配列の領域内に設計することもできるし、あるいは鋳型として用いるcDNAがベクターなどに組み込まれている場合は、センス側かアンチセンス側のどちらか片方のプライマーだけをNeph3遺伝子配列内に設計し、他方はベクターの配列内に設計することもできる。
本発明において、Neph3の転写産物を特異的に検出するためのポリヌクレオチドは、例えば 150 mMまたはそれより低い塩濃度(例えばNa+ 等のモノカチオン濃度)の水溶液(例えば50 mM〜150 mMのNaClを含み、さらに適当な二価の塩、還元剤、蛋白質、糖等を含んでもよいバッファー,pH 7.0)において、42℃でNeph3の転写産物またはその相補鎖にハイブリダイズすることが好ましく、より好ましくは45、48、50、52、または 55℃でハイブリダイズすることが好ましい。ハイブリダイズするか否かは、例えばNeph3の転写産物またはその相補鎖をブロットした膜を、標識したポリヌクレオチドとインキュベートしてハイブリダイゼーションを行い、上記の条件(例えば 1×SSC中)で洗浄して膜に標識が残っているかを検出することにより調べることができる。あるいは水溶液中でハイブリダイズさせ、様々な温度で吸光度を測定することにより核酸のアニールおよび解離の状況を確認することもできる。また、Neph3の転写産物またはその相補鎖を鋳型として、目的のポリヌクレオチドをプライマーとして用いて、アニールの反応温度を上記条件にして増幅反応を行い、予想されるPCR産物が増幅されることにより確認することができる。プライマーが鋳型にハイブリダイズしなければ、目的のPCR産物は増幅されないことから、目的の産物が増幅されれば、そのプライマーは鋳型にハイブリダイズしたことが分かる。
以上の通り、Neph3遺伝子の転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドは、膵臓前駆細胞(例えば多能性膵臓前駆細胞)を検出するために有用である。本発明は、Neph3遺伝子の転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドの、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための使用を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の転写産物またはそのcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための試薬を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の転写産物またはそのcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するためのキットおよびパッケージを提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の転写産物またはそのcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、膵臓前駆細胞を検出または選択等(検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得)するための組成物を提供する。該組成物には、薬学的に許容される所望の担体、具体的には、例えば塩、糖、蛋白質、pH緩衝剤、水などが含まれていてもよい。Neph3の転写産物を検出するためのポリヌクレオチドは、適宜粉末として、あるいは溶液として、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための試薬とすることができる。
なお核酸またはポリヌクレオチドは、一般に、複数のデオキシリボ核酸(DNA)および/またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を言う。これらは天然の塩基から構成されいてもよく、あるいは修飾されていたり、人工の塩基を含んでいてもよい。例えば核酸またはポリヌクレオチドには、天然以外の塩基、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’-O-メチルプソイドウリジン、β-D-ガラクトシルキュェオシン、2’-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、β-D-マンノシルキュェオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、2’-O-メチル-5-メチルウリジン、2’-O-メチルウリジン、ワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含むポリヌクレオチドも包含する。
(抗体)
またNeph3遺伝子の発現の検出は、遺伝子の翻訳産物の検出を通して実施することもできる。そのためには、例えばNeph3蛋白質を検出してもよく、あるいはNeph3蛋白質の活性を検出したり、あるいはNeph3蛋白質により誘導される表現型の変化を検出することによって、間接的にNeph3蛋白質の発現を検出してもよい。典型的には、Neph3蛋白質を検出すす工程は、免疫化学的方法により実施することが可能で、例えばNeph3蛋白質に結合する抗体を用いて検出することができる。
Neph3遺伝子の翻訳産物の検出は、例えば以下の工程を含む方法により実施することができる。
(a)被験細胞試料とNeph3蛋白質に結合する抗体とを接触させる工程、および
(b)被験細胞試料と該抗体との結合を検出する工程。
例えばNeph3蛋白質に結合する抗体と膵臓前駆細胞を含むことが予測される細胞試料とを接触させ、反応性の有無を検出することでNeph3蛋白質の発現を検出することができる。細胞試料は、細胞そのものであっても、細胞破砕物または細胞抽出物であってもよい。細胞との接触前に、抗体を適当な担体に固定化して用いることも可能である。または、細胞と抗体とを接触させ、結合させた後、抗体のアフィニティーによる精製を行うことで、該抗体と結合した細胞を選択的に回収することもできる。例えば、抗体がビオチンと結合されている場合には、アビジンやストレプトアビジンを結合したプレートやカラムに対して添加することにより精製を行うことができる。
本発明において抗体には、天然の抗体やその断片(抗原結合断片)の他、抗体の抗原結合部位に由来するポリペプチドを含む様々なポリペプチドが含まれ、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFV)(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, vol.113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp.269-315)、ヒト抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。さらに、抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。その他、本発明において抗体は、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、GST、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質として製造され得、二次抗体を用いずに検出できるようにしてもよい。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の回収を行い得るように改変されていてもよい。
Neph3に結合する抗体は、Neph3蛋白質若しくはその断片、またはそれらを発現する細胞を感作抗原として製造することができる。また、抗原として用いるNeph3ポリペプチド若しくはその断片のうち短いものは、ウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、卵白アルブミン等のキャリアに結合して免疫原として用いてもよい。また、抗原ポリペプチドまたはその断片と共に、アルミニウムアジュバント、完全(または不完全)フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント等の公知のアジュバントを抗原に対する免疫応答を強化するために用いてもよい。
ポリクローナル抗体は、例えば、Neph3蛋白質またはその断片を所望によりアジュバントと共に哺乳動物に免疫し、免疫した動物より血清を得る。ここで用いる哺乳動物は、特に限定されないが、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的である。マウス、ラット、モルモット、ハムスター等のげっ歯目、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の偶蹄目、ウマ等の奇蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が挙げられる。動物の免疫は、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射して行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生は、血清中の所望の抗体レベルを慣用の方法により測定することにより確認することができる。最終的に、血清そのものをポリクローナル抗体として用いても良いし、さらに精製して用いてもよい。具体的な方法として、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987) Section 11.12-11.13)を参照することができる。
モノクローナル抗体を産生するためには、まず、上述のようにして免疫した動物より脾臓を摘出し、該脾臓より免疫細胞を分離し、適当なミエローマ細胞とポリエチレングリコール(PEG)等を用いて融合してハイブリドーマを作成する。細胞の融合は、Milsteinの方法(Galfre and Milstein (1981) Methods Enzymol. 73: 3-46)に準じて行うことができる。ここで、適当なミエローマ細胞として特に、融合細胞を薬剤により選択することを可能にする細胞が挙げられる。このようなミエローマを用いた場合、融合されたハイブリドーマは、融合された細胞以外は死滅するヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液(HAT培養液)で培養して選択する。次に、作成されたハイブリドーマの中から、抗原蛋白質またはその断片に対して結合する抗体を産生するクローンを選択する。その後、選択したクローンをマウス等の腹腔内に移植し、腹水を回収してモノクローナル抗体を得る。また、具体的な方法として、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987) Section 11.4-11.11)を参照することもできる。
ハイブリドーマは、その他、最初にEBウイルスに感染させたヒトリンパ球をin vitroで免疫原を用いて感作し、感作リンパ球をヒト由来のミエローマ細胞(U266等)と融合し、ヒト抗体を産生するハイブリドーマを得る方法(特開昭63-17688号公報)によっても得ることができる。また、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物を感作して製造した抗体産生細胞を用いても、ヒト抗体を得ることができる(WO92/03918; WO93/02227; WO94/02602; WO94/25585; WO96/33735; WO96/34096; Mendez et al. (1997) Nat. Genet. 15: 146-56等)。ハイブリドーマを用いない例としては、抗体を産生するリンパ球等の免疫細胞に癌遺伝子を導入して不死化する方法が挙げられる。
また、遺伝子組換え技術により抗体を製造することもできる(Borrebaeck and Larrick (1990) Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers LTD., UK参照)。そのためには、まず、抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)からクローニングする。得られた遺伝子を適当なベクターに組み込み、宿主に該ベクターを導入し、宿主を培養することにより抗体を産生させる。このような組換え型の抗体も本発明において抗体に含まれる。代表的な組換え型の抗体として、非ヒト抗体由来可変領域及びヒト抗体由来定常領域とからなるキメラ抗体、並びに非ヒト抗体由来相補性決定領域(CDR)、及び、ヒト抗体由来フレームワーク領域(FR)及び定常領域とからなるヒト化抗体が挙げられる(Jones et al. (1986) Nature 321: 522-5; Reichmann et al. (1988) Nature 332: 323-9; Presta (1992) Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-6; Methods Enzymol. 203: 99-121 (1991))。
抗体断片は、上述のポリクローナルまたはモノクローナル抗体をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することにより製造し得る。または、抗体断片をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に製造することも可能である(Co et al., (1994) J. Immunol. 152: 2968-76; Better and Horwitz (1989) Methods Enzymol. 178: 476-96; Pluckthun and Skerra (1989) Methods Enzymol. 178: 497-515; Lamoyi (1986) Methods Enzymol. 121: 652-63; Rousseaux et al. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker (1991) Trends Biotechnol. 9: 132-7参照)。
多特異性抗体には、二特異性抗体(BsAb)、ダイアボディ(Db)等が含まれる。多特異性抗体は、(1)異なる特異性の抗体を異種二機能性リンカーにより化学的にカップリングする方法(Paulus (1985) Behring Inst. Mill. 78: 118-32)、(2)異なるモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを融合する方法(Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9)、(3)異なるモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子(4種のDNA)によりマウス骨髄腫細胞等の真核細胞発現系をトランスフェクションした後、二特異性の一価部分を単離する方法(Zimmermann (1986) Rev. Physio. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)等により作製することができる。一方、Dbは遺伝子融合により構築され得る二価の2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーの抗体断片であり、公知の手法により作製することができる(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-8; EP404097; WO93/11161参照)。
抗体及び抗体断片の回収及び精製は、プロテインA及びGを用いて行う他、公知のタンパク質精製技術によっても行い得る(Antibodies: A Laboratory Manual, Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。例えば、抗体の精製にプロテインAを利用する場合、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia)等のプロテインAカラムが公知であり、使用可能である。得られた抗体の濃度は、その吸光度を測定することにより、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等により決定することができる。
抗体の抗原結合活性は、吸光度測定、蛍光抗体法、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ELISA等により測定することができる。ELISA法による測定の場合、Neph3蛋白質に結合する抗体をプレート等の担体に固相化し、次いでNeph3蛋白質またはその断片を添加した後、目的とする抗体を含む試料を添加する。ここで、抗体を含む試料としては、抗体産性細胞の培養上清、精製抗体等が考えられる。続いて、この抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートのインキュベーションを行う。その後、プレートを洗浄し、二次抗体に付加された標識を検出する。即ち、二次抗体がアルカリフォスファターゼで標識されている場合には、p-ニトロフェニルリン酸等の酵素基質を添加して吸光度を測定することで、抗原結合活性を測定することができる。また、抗体の活性評価に、BIAcore(Pharmacia)等の市販の系を使用することもできる。
得られた抗体は、Neph3蛋白質またはその断片を認識または検出することができる。また、Neph3蛋白質またはその断片を認識することから、当該蛋白質またはその断片が発現している細胞等を認識または検出することができる。さらに、Neph3蛋白質またはその断片の精製に使用することができる。また、Neph3蛋白質またはその断片が発現している細胞等の精製に使用することができる。
Neph3蛋白質の細胞外ドメインに結合する抗体は、Neph3蛋白質を発現する細胞を外来遺伝子の翻訳産物や転写産物を用いることなく生きたまま検出、単離、および分離することが可能であるので有用性が特に高い。このような抗体は、例えばNeph3蛋白質に結合する抗体の中から、Neph3蛋白質の細胞外ドメインまたはその断片を用いて選択することにより得ることができる。あるいは、Neph3蛋白質の細胞外ドメインまたはその断片を抗原として用いて抗体を製造してもよい。また、Neph3蛋白質を発現する細胞またはその破砕物(膜画分)等で免疫し、抗体を製造することもできる。Neph3蛋白質の細胞外領域は、プログラムPSORT等を用いて簡便に調べることができる。具体的には、配列番号:2、4、10、12、14、若しくは16で表されるアミノ酸配列の21番目〜510番目、配列番号:6若しくは8で表されるアミノ酸配列の20番目〜513番目、配列番号:18若しくは20で表されるアミノ酸配列の21番目〜460番目、または配列番号:22で表されるアミノ酸配列の21番目〜490番目のアミノ酸配列である。抗体は、例えばこれらのアミノ酸配列の少なくとも連続した6アミノ酸、好ましくは7アミノ酸以上、8アミノ酸以上、9アミノ酸以上、10アミノ酸以上、12アミノ酸以上、15アミノ酸以上、または17アミノ酸以上、あるいは細胞外ドメイン全部からなるポリペプチドに対する抗体であってよい。
得られた抗体は、抗体の安定性を高めるために、あるいは抗原との結合性を高めるために、適宜アミノ酸配列を改変してもよい。例えば、周知の部位特異的変異誘発法等の方法に従ってアミノ酸配列の改変を実施することができる(『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection8.1-8.5)、Hashimoto-Goto et al. (1995) Gene 152: 271-5、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kramer and Fritz (1987) Method. Enzymol. 154: 350-67、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等参照)。このような改変には、1または複数のアミノ酸の置換、挿入、欠失、および/または付加が含まれる。ここで、アミノ酸の置換は、置換前のアミノ酸と似た性質のアミノ酸に置換(保存的置換)されたものが含まれる。アミノ酸の性質は、例えば、非極性アミノ酸(Ala, Ile, Leu, Met, Phe, Pro, Trp, Val)、非荷電性アミノ酸(Asn, Cys, Gln, Gly, Ser, Thr, Tyr)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, His, Lys)、中性アミノ酸(Ala, Asn, Cys, Gln, Gly, Ile, Leu, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr, Val)、脂肪族アミノ酸(Ala, Gly)、分枝アミノ酸(Ile, Leu, Val)、ヒドロキシアミノ酸(Ser, Thr)、アミド型アミノ酸(Gln, Asn)、含硫アミノ酸(Cys, Met)、芳香族アミノ酸(His, Phe, Trp, Tyr)、複素環式アミノ酸(His, Trp)、イミノ酸(Pro, 4Hyp)等に分類することができる。これらのグループ内のアミノ酸への置換は、保存的置換である。中でも、Ala、Val、Leu及びIleの間、Ser及びThrの間、Asp及びGluの間、Asn及びGlnの間、Lys及びArgの間、Phe及びTyrの間の置換は、蛋白質の性質が保持されやすい。置換された抗体がNeph3蛋白質に結合する限り、変異されるアミノ酸の数及び部位は特に制限されない。
また抗体のポリペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、天然に存在するものでも、また修飾されたものであっても良い。このような修飾には、例えばリン残基、シアル酸、糖鎖、その他による修飾が含まれる。アミノ酸残基の修飾としては、アシル化、アセチル化、アミド化、アルギニル化、GPIアンカー形成、架橋、γ-カルボキシル化、環化、共有架橋の形成、グリコシル化、酸化、脂質または脂肪誘導体の共有結合化、シスチンの形成、ジスルフィド結合の形成、セレノイル化、脱メチル化、タンパク質の分解処理、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合化、ヒドロキシル化、ピログルタメートの形成、フラビンの共有結合化、プレニル化、ヘム部分の共有結合化、ホスファチジルイノシトールの共有結合化、ホルミル化、ミリストイル化、メチル化、ユビキチン化、ヨウ素化、ラセミ化、ADP-リボシル化、硫酸化、リン酸化等が例示される。さらに、ポリペプチドには、シグナルペプチド部分がついた前駆体、シグナルペプチド部分を欠く成熟体、及びその他のペプチド配列により修飾された融合タンパク質を含む。付加し得るペプチド配列としては、インフルエンザ凝集素(HA)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、サブスタンスP、多重ヒスチジンタグ(6×His、10×His等)、プロテインC断片、マルトース結合タンパク質(MBP)、免疫グロブリン定常領域、α-チューブリン断片、β-ガラクトシダーゼ、B-タグ、c-myc断片、E-タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)、FLAG(Hopp et al. (1988) Bio/Technol. 6: 1204-10)、lckタグ、p18 HIV断片、HSV-タグ(ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質)、SV40T抗原断片、T7-タグ(T7 gene10タンパク質)、VSV-GP断片(Vesicular stomatitisウイルス糖タンパク質)等が挙げられる。
Neph3蛋白質に結合する抗体は、膵臓前駆細胞(例えば多能性膵臓前駆細胞)の検出(識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得)剤として用いられる。すなわち細胞試料中のNeph3遺伝子の発現を検出することにより、膵臓前駆細胞を検出(識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得)することができる。本発明は、Neph3遺伝子の翻訳産物に結合する抗体の、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための使用を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の翻訳産物に結合する抗体を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための試薬を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の翻訳産物に結合する抗体を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するためのキットおよびパッケージを提供する。また本発明は、Neph3遺伝子の翻訳産物に結合する抗体を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための組成物を提供する。該組成物には、薬学的に許容される所望の担体、具体的には、例えば塩、糖、蛋白質、pH緩衝剤、水などが含まれていてもよい。
また、Neph3蛋白質に結合する抗体は担体に結合していてもよい。例えば抗体を固定化したビーズを用いて、Neph3を発現する細胞を簡便に分離することができる。抗体を固定する担体としては、細胞に対して無害なものが好ましく、例えば、合成または天然の有機高分子化合物、ガラスビーズ、シリカゲル、アルミナ、磁性体、活性炭等の無機材料、及びこれらの表面に多糖類、合成高分子等をコーティングしたものが考えられる。担体の形状には特に制限はなく、膜状、繊維状、顆粒状、中空糸状、不織布状、多孔形状、ハニカム形状等が挙げられ、その厚さ、表面積、太さ、長さ、形状、大きさを種々変えることにより接触面積を制御することができる。
(プロモーター)
またNeph3遺伝子の発現は、該遺伝子のプロモーター活性の検出を通して検出することもできる。例えばNeph3遺伝子のプロモーター(修飾されたプロモーターを含む)を利用して、そのためのレポーター構築物を作製することができる(例えば、特開2002-51775号公報参照)。さらに、Neph3遺伝子のプロモーターは、膵臓前駆細胞特異的な転写活性を保持する限り、一部を欠失させたり、他のプロモーターの一部又は全部を付加または置換することもできる。レポーター構築物を作製するには、例えばNeph3遺伝子の発現領域解析により得られたプロモーター部分に対し、例えばGFP(green fluorescent protein)等の検出可能なマーカーをコードする遺伝子を連結した構築物を含むベクターを細胞に対してトランスフェクションする。その他、Neph3遺伝子座へマーカーをコードする遺伝子をノックインすることもできる。該構築物の好ましい態様については、例えば文献(WO2008/096817の図10の2〜4)を参照すればよい。プロモーターの活性化が検出された細胞は、膵臓前駆細胞であることを示唆する。ここで「プロモーター部分にマーカーをコードする遺伝子を連結」とは、当該マーカーをコードする遺伝子が発現可能な状態になるように当該遺伝子を繋げることをいい、プロモーターに当該遺伝子が直接結合した状態の他、プロモーターから離れた状態でも当該プロモーターの制御下にある状態のものも含む。
Neph3プロモーター/レポーター構築物は、膵臓前駆細胞(例えば多能性膵臓前駆細胞)の検出(識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得)剤として有用である。すなわちNeph3プロモーター活性を検出する構築物を通して、膵臓前駆細胞を検出(識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得)することができる。本発明は、Neph3プロモーター活性を検出する核酸構築物の、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための使用を提供する。また本発明は、Neph3プロモーター活性を検出する核酸構築物を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための試薬を提供する。また本発明は、Neph3プロモーター活性を検出する核酸構築物を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するためのキットおよびパッケージを提供する。また本発明は、Neph3プロモーター活性を検出する核酸構築物を含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、選択、調製、濃縮、回収、分離、および/または取得するための組成物を提供する。該組成物には、薬学的に許容される所望の担体、具体的には、例えば塩、糖、蛋白質、pH緩衝剤、水などが含まれていてもよい。Neph3プロモーター/レポーター構築物は、膵臓前駆細胞から所望の膵臓の細胞(膵臓アルファ細胞、膵臓ベータ細胞、膵臓デルタ細胞および/またはPP細胞等)への分化誘導を目的とすることもできる。例えば、Neph3遺伝子の発現制御配列(プロモーター、エンハンサー等を含む)の制御下に、Ngn3等の因子を導入し、発現させることで膵臓ベータ細胞に分化誘導することができる。
すなわちNeph3遺伝子のプロモーターは、膵臓前駆細胞において所望の遺伝子を発現させるために有用である。例えば、Neph3遺伝子のプロモーターの制御下に所望の遺伝子(例えばNeph3遺伝子以外の遺伝子)を連結し、この核酸コンストラクトを含む膵臓前駆細胞を提供することにより、連結した遺伝子を該細胞において発現させることができる。そのような膵臓前駆細胞を提供するには、例えば核酸コンストラクトを膵臓前駆細胞に導入してもよいし、膵臓前駆細胞に分化し得る所望の始原細胞(例えばES細胞やiPS細胞、胚など)にコンストラクトを導入し、その後、その細胞を膵臓前駆細胞に分化させてもよい。特にこのプロモーターは膵臓前駆細胞を選択することができるので、膵臓前駆細胞だけに核酸コンストラクトを導入する必要はなく、膵臓前駆細胞およびそれ以外の細胞を含む集団に導入しても、膵臓前駆細胞に選択的に遺伝子を発現させることが可能で、また時期的にもより未分化な幹細胞に導入してもよい。本発明は、Neph3遺伝子のプロモーターの、膵臓前駆細胞において所望の遺伝子を発現させるための使用を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子のプロモーターを含む、膵臓前駆細胞において所望の遺伝子を発現させるための剤(発現用試薬)を提供する。また本発明は、Neph3遺伝子のプロモーターの制御下に所望の異種遺伝子(例えばNeph3遺伝子以外の遺伝子)が連結された核酸の、膵臓前駆細胞において該遺伝子を発現させるための使用を提供する。また本発明は、Nephrin-like 3(Neph3)遺伝子のプロモーターの制御下に異種遺伝子が連結された核酸を含む膵臓前駆細胞を準備する工程を含む、該細胞において該異種遺伝子を発現させる方法にも関する。Neph3遺伝子のプロモーターの制御下にレポーター遺伝子が連結された核酸を含む膵臓前駆細胞は、後述のように、膵臓前駆細胞の分化誘導または分化調節に有効な物質をアッセイまたはスクリーニングするために有用である。
Neph3遺伝子のプロモーターは、例えばNeph3のコード領域の核酸をプローブまたはプライマーとして用いて、ゲノムライブラリーのスクリーニングやPCR等により単離することができる。実施例に示した通り、Neph3遺伝子の転写領域の5'側2kbの断片は、膵臓前駆細胞において十分なプロモーター活性を示す。従って、Neph3遺伝子の転写領域の5'側の5kb、4kb、3kb、または2kbを含む断片は、本発明におけるNeph3遺伝子のプロモーターとして好適に使用できる。また当業者であれば、この断片を適宜欠失させて、膵臓前駆細胞におけるプロモーター活性を維持するより短い断片(例えば500bp以上または1kb以上の断片)を取得することができる。そのような断片も、本発明におけるNeph3遺伝子のプロモーターとして用いることができる。
すなわち本発明は以下の発明にも関する。
〔1〕 膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得するための試薬であって、Nephrin-like 3(Neph3)遺伝子の発現を検出する下記(a)〜(c)のいずれかを含む試薬、および下記(a)〜(c)の、膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得するための使用。
(a)該遺伝子の翻訳産物に特異的に結合する抗体。
(b)該遺伝子の転写産物に特異的にハイブリダイズする核酸。
(c)該遺伝子のプロモーターの制御下に異種遺伝子が連結された核酸。
〔2〕 Nephrin-like 3(Neph3)遺伝子のプロモーターを含む、膵臓前駆細胞において遺伝子を発現させるための試薬、およびNephrin-like 3(Neph3)遺伝子のプロモーターの、膵臓前駆細胞において遺伝子を発現させるための使用、
〔3〕 Nephrin-like 3(Neph3)遺伝子のプロモーターの制御下に異種遺伝子が連結された核酸を含む膵臓前駆細胞を提供する工程を含む、該細胞において該異種遺伝子を発現させる方法。
(製造方法)
本発明の膵臓前駆細胞の検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)方法は、Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出することを通して膵臓前駆細胞が同定される段階を含む所望のプロセスが含まれる。例えば本発明の膵臓前駆細胞の検出方法には、細胞におけるNeph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出し、Neph3を発現する細胞を検出、識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得することを含む、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得する方法が含まれる。また本発明は、膵臓前駆細胞を含む細胞集団(または膵臓前駆細胞を含む画分、または膵臓前駆細胞を含む組成物)の製造方法であって、膵臓前駆細胞を含む細胞試料におけるNeph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出、同定、および/または選択等をする工程、および該遺伝子を発現する細胞を選択、分離、および/または回収等をする工程を含む方法に関する。細胞の選択、分離または回収等は、例えばNeph3蛋白質に結合する抗体を用いたフローサイトメトリーにより効率的に行なうことができる。本発明の膵臓前駆細胞を含む細胞集団の製造方法により、膵臓前駆細胞が濃縮された画分を得ることができる。得られた細胞は膵臓の分化機構の解明のために、あるいは膵臓機能の異常に起因する疾患の治療のために利用され得る。
(他のマーカーとの組み合わせ)
また本発明の膵臓前駆細胞を含む細胞集団の製造方法、ならびに本発明の膵臓前駆細胞の検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)方法は、Neph3遺伝子以外の遺伝子の発現を検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)する工程をさらに含んでもよい。例えば本発明の方法は、Neph3遺伝子以外の膵臓前駆細胞マーカー遺伝子の転写産物及び/または翻訳産物の発現を検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)する工程をさらに含むことができる。このような膵臓前駆細胞マーカー遺伝子としては、例えば Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))、および EPPK1(epiplakin 1) が挙げられる。本発明の方法は、これらを含む膵臓前駆細胞マーカー遺伝子の1つまたは複数の遺伝子の転写産物及び/または翻訳産物の発現を検出する工程を含むことができる。遺伝子の転写産物及び/または翻訳産物の発現の検出は、Neph3遺伝子の転写産物及び/または翻訳産物の発現の検出の前に行っても後に行っても、同時に行ってもよい。例えば異なる蛍光で標識されたプローブや抗体を用いることによって、複数の遺伝子発現を同時に検出することが可能である。本発明の方法は、例えば Pdx-1および/またはPtf1aの転写産物及び/または翻訳産物の発現を検出する工程をさらに含んでよく、例えばEPPK1の転写産物及び/または翻訳産物の発現を検出する工程をさらに含んでよく、例えば Cpa1遺伝子の転写産物及び/または翻訳産物の発現を検出する工程をさらに含んでよい。
これらのマーカー遺伝子の具体例は、本明細書中に記載した通りである(本明細書に例示されたaccession番号等を参照)。また本発明においてPdx-1、Ptf1a、Cpa1遺伝子、およびEPPK1遺伝子には、それらの具体的に例示された配列に加え、それらのアイソフォーム、スプライシングバリアント、アレリック変異体なども含まれる。すなわち本発明においてPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子には、以下のポリヌクレオチドが含まれる。
(i)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列(CDS)を含むポリヌクレオチド。
(ii)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(iii)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列において、1または複数個のヌクレオチドの挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされた塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(iv)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列がコードするアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(v)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
(vi)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列と高い同一性を有する塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
および
(vii)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子の塩基配列のコード配列がコードするアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチド。
また本発明においてPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質には、上記の各遺伝子がコードするポリペプチドが含まれ、特に、以下のポリペプチドが含まれる。
(i)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(ii)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失、および/または付加(付加とは、例えば一端または両端への付加)がなされたアミノ酸配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリペプチド。
(iii)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、膵臓前駆細胞で発現するポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
および
(iv)本明細書に例示したaccession番号で特定されるPdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1蛋白質のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、膵臓前駆細胞で発現するポリペプチド。
Pdx-1、Ptf1a、およびCpa1遺伝子の塩基配列を再度例示すれば、例えばPdx-1については、accession NM_000209.3(コード配列(CDS) 109-957)、NM_008814.3(CDS 109-960)、XM_543155.2(CDS 1-1596)XM_509600.2(CDS 113-961)、XM_583722.3(CDS 1-855)、XM_001234635.1(CDS 1-693)が例示でき、Ptf1a については NM_178161.2(CDS 1-984)、NM_018809.1(CDS 199-1170)、NM_207641.2(CDS 89-883)、XM_001146416.1(CDS 1-579)、NM_053964.1(CDS 234-1211)が例示でき、Cpa1についてはNM_001868.1(CDS 8-1264, sig_peptide 8-55, mat_peptide 56-1264)、NM_174750.2(CDS 27-1283, sig_peptide 27-74, mat_peptide 375-1283)、NM_025350.3(CDS 244-1500)、XM_851827.1(CDS 30-1313)、NM_016998.2(CDS 309-1565, sig_peptide 312-356, mat_peptide 639-1565)、NM_204584.1(CDS 17-1273, sig_peptide 17-67, mat_peptide 353-1273)が例示できる。またPdx-1、Ptf1a、およびCpa1蛋白質のアミノ酸配列としては、上記の各遺伝子のCDSがコードする蛋白質を例示することができ、具体的には、Pdx-1についてはNP_000200.1; NP_032840.1; XP_543155.2; XP_509600.2; XP_583722.1; XP_001234636.1 が含まれ、Ptf1a ついてはNP_835455.1; NP_061279.1; NP_997524.1; XP_001146416.1; NP_446416.1 が含まれ、Cpa1についてはNP_001859.1(sig_peptide 1-16, mat_peptide 17-419)、NP_777175.1(sig_peptide 1-16, mat_peptide 117-419)、NP_079626.2、XP_856920.1等が含まれる。EPPK1については、NM_031308.1(CDS 14-15283), XM_372063 (CDS 1-7185); NM_144848.2 (CDS 1134-20777), NM_173025 (CDS 95-2305), XM_910512 (CDS 1-7725), NP_112598, XM_001074770 (CDS 1-10374), XP_001074770, XM_001059215 (CDS 1-10086), XP_001059215, NM_144848.2 (CDS 1134-20777), NP_659097 等に記載の塩基配列およびアミノ酸配列が例示できる。
具体的なハイブリダイゼーションの条件、複数の塩基またはアミノ酸の改変、および塩基配列およびアミノ酸配列の高い同一性等の詳細は、本明細書でNeph3について記載したものと同様である。Pdx-1、Ptf1a、Cpa1、およびEPPK1遺伝子を構成するポリヌクレオチドは、適宜これらの遺伝子を発現する細胞よりハイブリダイゼーションやPCR、あるいは化学合成等により製造することができる。得られたポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、慣用の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法 (Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
また本発明の膵臓前駆細胞の検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)方法においては、例えば成熟膵臓細胞マーカー遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出する工程をさらに含むこともできる。すなわち成熟膵臓細胞に特異的な1または複数の遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出することで、これらの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物を発現する細胞としない細胞を区別することができる。成熟膵臓細胞マーカーの翻訳産物および/または転写産物を発現しない細胞を選択したり、あるいは発現する細胞を分離または除去することによって、膵臓前駆細胞の純度を上昇させることが可能である。また本発明の膵臓前駆細胞の検出(識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等の意味も含む)方法においては、例えばドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカー遺伝子および/またはGABA産生ニューロン前駆細胞マーカー遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出する工程をさらに含むこともできる。すなわちこれらのニューロン前駆細胞に特異的な1または複数の遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出等することで、これらの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物を発現する細胞としない細胞を区別することができる。これらのニューロン前駆細胞マーカーの翻訳産物および/または転写産物を発現しない細胞を選択したり、あるいは発現する細胞を分離または除去することによって、膵臓前駆細胞の純度を上昇させることが可能である。ドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカー遺伝子としては、例えばLrp4(low density lipoprotein receptor-related protein 4)遺伝子(Nakayama, M. et al., Genome Res. 12 (11), 1773-1784 (2002); Nakayama, M. et al., Genomics 51 (1), 27-34 (1998); Accession NM_016869; XM_035037)、tyrosine hydroxylase などが挙げられる。GABA産生ニューロン前駆細胞マーカー遺伝子としては、例えばCorl1遺伝子、Pax2(paired box 2)、Lim1/2遺伝子、Lbx1(ladybird homeobox 1)遺伝子およびCorl2遺伝子(Mizuhara E et al., J Biol Chem. 2005, 280(5):3645-55; Maricich SM et al., J Neurobiol. 1999, 41(2):281-94; Moretti, P. et al., Gene 144 (2), 213-219 (1994))、神経前駆細胞マーカー遺伝子としては、例えばNestin遺伝子、およびSox1/2/3遺伝子などを挙げることができる。これらの遺伝子の発現の検出は、Neph3遺伝子の発現と同様に、転写産物の検出、翻訳産物の検出、あるいはプロモーター活性の検出等を通して実施することができる(WO2004/038018およびWO2008/096817参照)。
上記のマーカー遺伝子の転写産物またはそのcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド、および上記マーカー遺伝子がコードする蛋白質に結合する抗体等は、Neph3遺伝子の発現を検出するための本明細書に記載した試薬と組み合わせることで、膵臓前駆細胞の検出のための補助的な試薬となる。本発明は、Neph3遺伝子の発現を検出等するための試薬、および上記の1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現を検出等するための試薬を含む、膵臓前駆細胞を検出するためのキットおよびパッケージを提供する。特にPdx-1、Ptf1a、Cpa1、EPPK1遺伝子から任意の組み合わせで選択される遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を検出等するために用いられるポリヌクレオチドおよび/または抗体は、本発明において膵臓前駆細胞の検出等のための追加的な試薬として有用である。これらの試薬としては、各遺伝子の転写産物またはその相補鎖に特異的にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドからなるプローブ、プライマー、プライマーセット、および各遺伝子の翻訳産物に結合する抗体から、任意に選択して組み合わせることができる。これらは、適宜薬学的に許容される所望の担体を組み合わせて組成物とすることができる。また各試薬は、別々の容器に入れられていてもよく、混合されていてもよい。特に、各マーカー蛋白質に結合する抗体を含むキットおよびパッケージは、膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得等するためのキットおよびパッケージとして有用である。
(スクリーニング)
またNeph3遺伝子は膵臓前駆細胞の指標となることから、Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出することにより、膵臓前駆細胞の分化誘導または分化調節に有効な物質をアッセイまたはスクリーニングすることが可能である。すなわち本発明は、膵臓前駆細胞の分化調節剤のアッセイまたはスクリーニング方法に関する。本方法によりスクリーニングされる化合物は、膵臓前駆細胞の分化を調節する機能を示すことが期待されることから、膵臓機能の異常に起因する疾患の治療のための候補化合物となる。本スクリーニング方法によって取得される化合物の治療対象となる疾患としては、例えば糖尿病を挙げることができる。
本発明の膵臓前駆細胞の分化を調節しうる化合物のアッセイまたはスクリーニング方法は、例えば以下の工程を含む。
(a)膵臓前駆細胞または該細胞に分化し得る細胞と、被検試料とを接触させる工程;および
(b)該細胞におけるNeph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出する工程。
Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を誘導または上昇させる化合物は、膵臓前駆細胞を分化誘導する候補化合物となる。一方、Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を低下または抑制する化合物は、膵臓前駆細胞としての形質を失わせるための化合物の候補となる。また本発明は、以下の工程をさらに含むスクリーニング方法にも関する。
(c)被検試料の非存在下で検出した場合と比較して、Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を上昇または低下させる化合物を選択する工程。
Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現の検出は、本明細書に記載に従って実施することができる。例えば、上記工程(b)においては、Neph3遺伝子の転写産物または翻訳産物を検出することによって実施することができる他、Neph3のプロモーター活性を測定することにより実施することもできる。Neph3遺伝子の転写産物または翻訳産物の検出のために用いられるポリヌクレオチドや抗体の作製および使用については、本明細書の記載に従えばよい。
Neph3遺伝子のプロモーターを利用したアッセイまたはスクリーニング方法には、例えば以下の工程を含む方法が含まれる。
(a)膵臓前駆細胞または該細胞に分化し得る細胞であって、Neph3遺伝子のプロモーターの制御下に異種遺伝子が連結された核酸を含む細胞と、被検試料とを接触させる工程;および
(b)該細胞における該異種遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を検出する工程。
異種遺伝子としては、該プロモーターに対して異種、具体的には、例えばNeph3遺伝子のプロモーターが天然の状態において連結しているNeph3遺伝子以外の所望の遺伝子を用いてよいが、例えば発現を簡便に検出できるものが好ましく、具体的にはGFP、ルシフェラーゼ、その他のマーカー蛋白質、分化誘導因子等をコードする遺伝子が挙げられる。Neph3遺伝子のプロモーター活性を誘導または上昇させる化合物は、膵臓前駆細胞を分化誘導する候補化合物となり、Neph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を低下または抑制する化合物は、膵臓前駆細胞としての形質を失わせるための化合物の候補となる。また、スクリーニング方法においては、以下の工程をさらに含むことができる。
(c)被検試料の非存在下で検出した場合と比較して、該異種遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を上昇または低下させる化合物を選択する工程。
ここで、被検試料とはどのような化合物を含むものであってもよいが、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、合成ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物等由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。また膵臓前駆細胞に分化し得る細胞としては、好ましくは多分化能を有する細胞であり、具体的にはES細胞、誘導多能性幹細胞を含む多能性幹細胞、胚由来または人工の未分化内胚葉細胞、およびそれらを分化させた細胞が挙げられる(Kubo A et al., Development 2004;131:1651-1662; Tada S et al., Development 2005;132:4363-4374; Yasunaga M et al., Nat Biotechnol 2005;23:1542-1550; Gadue P et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006;103:16806-16811; D'Amour KA et al., Nat Biotechnol 2005;23:1534-1541; McLean AB et al., STEM CELLS 2007;25:29-38; D'Amour KA et al., Nat Biotechnol 2006;24:1392-1401; Shiraki, N. et al., Stem Cells 26, 874-885, 2008)。
細胞の分化や増殖は、被験試料と接触させない場合における細胞の状態と比較することにより検出することができる。細胞の分化や増殖は、顕微鏡下において形態学的な観察を行うこと、または、細胞の分化に伴って産生される物質を検出、定量することにより、評価することができる。
細胞の分化は、被検試料の非存在下におけるNeph3遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現のレベルと比較することにより判定することができる。すなわち、被検試料の非存在下で検出した場合と比較して、Neph3遺伝子の転写産物または翻訳産物の発現を誘導または量を増大させる場合、該被験試料は膵臓前駆細胞への分化を誘導する能力を有すると判定できる。ここで「増大」とは、例えば、1.2倍以上、好ましくは2倍、5倍、または10倍以上をいう。スクリーニングによって単離される化合物は、膵臓前駆細胞の分化調節剤として有用であり、膵臓疾患の治療、特に膵臓の再生医療への利用が期待される。
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
[実施例1] 胎児期膵臓原基におけるNeph3の発現解析
Neph3は胎児期において、中枢神経系ではドーパミンニューロン前駆細胞(WO 2004/038018)、脊髄および小脳のGABA産生神経前駆細胞(WO 2008/096817)に発現しているが、中枢神経系以外での発生・分化における発現は明らかにされていない。そのため、中枢神経系以外での胚発生におけるNeph3発現細胞の同定を試みた。最初に、マウスE12.5日胚におけるNeph3の発現を詳細に解析した。方法は、WO 2004/038018に記載の方法にしたがって実施した。その結果、Neph3は膵臓原基に発現が認められ(図1-A)、膵臓原基内でも一部の細胞に選択的に発現していた(図1-B)。
膵臓原基では、消化酵素などを分泌する外分泌細胞と、その消化酵素を十二指腸に送る導管細胞、そしてインスリンなどの各種ホルモンを血中へ分泌する内分泌細胞が産生される(図2)。E12.5マウス膵臓原基には、上記の3種類の細胞への分化能力のある多能性前駆細胞と、分化運命の決定した前駆細胞が存在することが知られている。そこで、以下の方法で膵臓原基におけるNeph3陽性細胞種の同定を試みた。マウスE12.5日胚を摘出し、4% PFA / PBS(-)で4℃、2時間固定したのち、20%ショ糖/PBS(-)で4℃、一晩置換し、OCTで包埋した。厚さ12μmの切片を作製し、スライドガラスに貼り付けた後、室温で20分乾燥させ、0.1% TritonX-100 / PBS(-)で5分間湿潤させた。その後、25%ブロックエースでブロッキングを30分間行い、一次抗体(0.1% TritonX-100 / 2.5% ブロックエース / PBS(-))を室温で2時間反応させた。0.1%TrironX-100/PBS(-)で10分間の洗浄を2回行った。次に蛍光標識した2次抗体(0.1% Triton-X-100 / 2.5% ブロックエース / PBS(-))を室温、40分間反応し、上記と同様に洗浄を行ったあと、スライドガラスを封入した。一次抗体は以下のものを使用した。Neph3: WO 2004/038018 および Minaki Y. et al., Neurosci. Res. 2005, 52(3):250-262 に記載、Ptf1a: Minaki Y. et al., Gene Expr. Patterns, 2008, 8(6): 418-423 に記載、Pdx1: Abcam社より購入。
その結果、Neph3は、多能性膵臓前駆細胞の発生に重要な因子であるPdx1およびPtf1aの陽性な細胞に発現することが明らかになった(図3)。また、多能性膵臓前駆細胞マーカーであるCpa1と同様の発現パターンを示すことも明らかになった。これらの結果から、Neph3は膵臓多能性前駆細胞に発現していると考えられた。
[実施例2] 胎児期膵臓原基におけるNeph3陽性細胞の同定および分離
膵臓多能性前駆細胞におけるNeph3の発現を検証するために、以下のプロトコールによってNeph3陽性細胞を分離し、細胞種の同定を試みた。マウスE12.5日胚の膵臓を摘出し、細胞分散バッファー AccuMaxTM(Innovative Cell Technologies社)を用いて分散させた後、固定、透過処理をせずに、mouse FC-Block (BD)で4℃ 10分間ブロッキングを行い、その後抗Neph3モノクローナル抗体(精製抗体1/100希釈、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA / D-MEM:F12培地)で4℃、30分間染色した。その後、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA / D-MEM:F12で4℃、3分間の洗浄を3回行い、PE標識抗ハムスターIgG抗体(BD、8μg/ml、1% ウシ胎児血清、1mM EDTA / D-MEM:F12培地)で4℃、30分間染色し、上記と同様に洗浄した。染色後、セルソーターによりNeph3発現細胞を分離した。分離した細胞を4℃、1000rpmで10分間遠心して上精を除去し、poly-L-ornithine(Sigma、0.002% in PBS)、laminin(Invitrogen、2.5μg/ml in PBS)、fibronectin(Sigma、5μg/ml in PBS)コートした8ウェルチャンバースライドガラス(Nunc社)上にスポットした。15分間静置して細胞をスライドガラス上に貼り付けさせた後、N2(Invirtogen x1)、B27(Invitrogen x1)/DMEM:F12培地で37℃、1時間培養した。培養液を除去して500μlのPBS(-) で室温、1回洗浄し、2% PFA / PBS(-)で30分間固定し、0.3% TrintonX-100 / PBS(-)で室温、30分間透過処理を行った。その後、25%ブロックエースでブロッキングを室温、30分間行い、一次抗体(0.1% TritonX-100 / 2.5%ブロックエース / PBS(-))を室温で2時間反応させた。0.1% TrironX-100 / PBS(-)で10分間の洗浄を2回行った。次に蛍光標識した2次抗体(0.1% Triton-X-100 / 2.5% ブロックエース / PBS(-))を室温、40分間反応し、上記と同様に洗浄を行ったあと、核染色を行った。一次抗体は実施例1のPdx1、Ptf1a参照。核染色(左から3つ目のパネル)はSYTOX nucleic acid stain (Molecular probes社 1/100000希釈)を使用した。
その結果、膵臓前駆細胞の一部の細胞の細胞表面にNeph3が発現することが確認され、これらのNeph3陽性細胞を分離できることが明らかになった(図4A)。さらに、分離したNeph3陽性細胞はPdx1およびPtf1a共陽性細胞であり、Neph3は膵臓多能性前駆細胞に発現していることが確認された(図4B)。すなわち、抗Neph3抗体を用いることによって、膵臓多能性前駆細胞を分離することが可能であることが示された。
[実施例3] Neph3プロモーターを用いた外来遺伝子の膵臓前駆細胞特異的発現
次に、Neph3プロモーターを用いることで、外来遺伝子を膵臓前駆細胞特異的に発現させることが可能であるかを調べるために、以下のプロトコールで、トランスジェニックマウスを作製し、外来遺伝子の発現を解析した。
まず、ウシgrowth hormoneポリA付加配列(配列番号:23;Invitrogen pcDNA3.1+ベクターより)を増幅し、pSP73(プロメガ)のHindIII/XhoI部位に挿入し、pSP73-polyAを構築した。次に、配列番号:24と25の合成DNAをアニーリングしたものをpSP73-polyAのAsp718I/BamHI部位に挿入し、pSP73-polyA IIを構築した。Neph3の翻訳開始コドンより上流約3.2kbのマウスゲノム断片(配列番号:26)をpSP73-polyA IIのClaI/Asp718I部位に挿入し、pN3を構築した。最後に、外来遺伝子としてGFP cDNA(配列番号:27)をpN3のAsp718I/SalI部位に挿入し、pN3-GFPを構築した。ClaIで直鎖化したpN3-GFPを、Gordonらの方法に従って(Gordon JW et al., Proc Natl Acad Sci USA 77(12):7380-7384, 1980)、マウス受精卵前核にインジェクションし、仮親に移植した。胎生12.5日に胎児を取り出し、実施例1の方法で、膵臓原基におけるNeph3およびGFP mRNAの発現を解析した。
その結果、トランスジェニックマウスではNeph3陽性領域の全域でかつ特異的にGFPの発現が認められた(図5)。このことから、Neph3プロモーターを用いることで、膵臓前駆細胞特異的に外来遺伝子を発現させることができることが示された。
[実施例4] ヒトNeph3プロモーターの膵臓前駆細胞特異的活性化
次に、ヒトにおいてもNeph3が膵臓前駆細胞特異的に発現することを調べるために、ヒトNeph3プロモーターが膵臓前駆細胞特異的に活性化されるか否かを検討した。以下のプロトコールで、トランスジェニックマウスを作製し、外来遺伝子の発現を解析した。
まず、実施例3に記載のpN3-GFPより、ClaI/Asp718I切断によりマウスNeph3プロモーター断片を欠損させた。次に同部位にNeph3の翻訳開始コドンより上流約2.1kbのヒトゲノム断片(配列番号:27)を挿入し、phsN3-GFPを構築した。ClaIで直鎖化したphsN3-GFPを、Gordonらの方法(前記)に従って、マウス受精卵前核にインジェクションし、仮親に移植した。胎生12.5日に胎児を取り出し、実施例3の方法で、膵臓原基におけるNeph3およびGFP mRNAの発現を解析した。
その結果、トランスジェニックマウスではNeph3陽性領域の全域でかつ特異的にGFPの発現が認められた(図6)。このことから、ヒトNeph3プロモーターは膵臓前駆細胞特異的に活性化されることが明らかとなり、マウスと同様にヒトNeph3も膵臓前駆細胞特異的に発現することが示唆された。
本発明により、膵臓前駆細胞の選択的マーカーが同定され、当該マーカーを指標として膵臓前駆細胞を検出、識別、同定、回収、調製、選択、濃縮、分離、および/または取得することが可能となった。本発明によれば、外来遺伝子の翻訳産物や転写産物を用いることなく膵臓前駆細胞を生きた状態のまま回収、濃縮、分離、および/または取得等をすることも可能であるので、糖尿病を含む膵臓疾患等における移植治療のための材料調製や、膵臓の発生や分化を調節する遺伝子の探索、膵臓前駆細胞をターゲットにした創薬などに極めて有用である。

Claims (12)

  1. 膵臓前駆細胞を含む細胞集団の製造方法であって、成熟膵臓β細胞を含まない内胚葉系細胞試料におけるNeph3(Nephrin-like 3)遺伝子の翻訳産物の発現を識別、検出および/または同定する工程、および該遺伝子の翻訳産物を発現する細胞を回収、分離および/または取得する工程を含む方法。
  2. 内胚葉系細胞試料が中枢神経除去系細胞試料である、請求項1に記載の方法。
  3. 内胚葉系細胞試料が腹部由来細胞試料である、請求項1に記載の方法。
  4. Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))、EPPK1(エピプラキン1)のいずれか一つ、またはそれらの組み合わせの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する工程をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)およびCpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))の組み合わせである、請求項4に記載の方法。
  6. 上記識別、検出および/または同定する工程、および/または回収、分離および/または取得する工程が、免疫化学的方法によってなされる工程である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
  7. 成熟膵臓β細胞を含まない内胚葉系細胞試料におけるNeph3遺伝子の翻訳産物の発現を識別、検出および/または同定する工程を含む、膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する方法。
  8. 内胚葉系細胞試料が中枢神経除去系細胞試料である、請求項に記載の方法。
  9. 内胚葉系細胞試料が腹部由来細胞試料である、請求項に記載の方法。
  10. Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)、Ptf1a (pancreas specific transcription factor-1a)、Cpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))、EPPK1(エピプラキン1)のいずれか一つ、またはそれらの組み合わせの遺伝子の翻訳産物および/または転写産物の発現を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する工程をさらに含む、請求項からのいずれかに記載の方法。
  11. Pdx-1 (Pancreatic and duodenal homeobox factor-1)およびCpa1 (Carboxypeptidase A1 (pancreatic))の組み合わせである、請求項10に記載の方法。
  12. 膵臓前駆細胞を識別、検出、同定、回収、分離および/または取得する方法が、免疫化学的方法である請求項から11のいずれかに記載の方法。
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