JP5522866B2 - 磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体 - Google Patents

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本発明は、磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体、およびその製造方法に関する。本発明は、また、磁気光学素子として前記酸化テルビウム焼結体が用いられた磁気光学デバイスに関する。
磁気光学効果を利用した光アイソレータは、レーザーシステムに使用される磁気光学素子である。光アイソレータは、偏光子、ファラデー回転子、検光子および磁石からなる。磁場中におかれた材料中を偏光が通過するとその偏光面が回転する現象は、ファラデー効果として知られ、その回転角Θは、磁場の強さHと物質の長さLに対して、
Θ=VHL
で表される。比例係数のVはヴェルデ定数といい、材料に依存する特性値である。Vの大きな材料をファラデー回転子に用いると、ファラデー回転子と永久磁石が小さくても同等のアイソレーション性能を得ることができるため、素子の小型化が可能となる。光アイソレータの利用分野としては半導体の微細加工用レーザ、光ファイバ通信用の半導体レーザ、鋼材やセラミックスの切断及び熱処理用レーザ、医療用レーザメス等に組み込まれ、近年ではSHG(第二高調波)素子を用いて波長変換した可視のグリーンレーザやブルーレーザに組み込まれて利用することも行なわれている。
可視光から近赤外光用の光アイソレータには、3価のテルビウムイオンを含有した酸化物のガラスや単結晶が使われている。しかし、赤外光用のイットリウム・鉄・ガーネット(略してYIG、化学式YFe12)結晶に比べて、可視光から近赤外光用のテルビウム系材料はヴェルデ定数が小さいという問題がある。一般に、ヴェルデ定数を大きくするには、3価のテルビウムイオンの単位体積あたり含有量を多くすれば良いことが非特許文献1に記載されている。しかしながら、ガラスに加えるTbの量を多くするとガラスが不透明になったり、ガラス化しなくなるために高濃度にTbを含むガラスは製造できていない。また、Tbの単結晶は、その融点が約2400℃と高く、また、相転移があるために多数の割れが生じ、アイソレータに適用可能な大きさの単結晶を工業的に生産することが困難であり、実質的にTbで構成される光アイソレータは得られていなかった。
焼結体の透光性は光アイソレータを動作させた場合の挿入損失と密接な関係があることから、できるだけ高いことが望ましい。従来、透光性の多結晶体としてイットリウム酸化物(Y)が知られている。イットリウムは、室温でも一般的な焼成条件でも3価イオンが安定なために、容易にYが得られるのに対して、テルビウムイオンは、室温の大気中では3価のテルビウムイオンだけから構成されるTbよりも、3価のテルビウムイオンと共に高酸化状態の4価のテルビウムイオンも含む酸化物が安定である。このような酸化物にはTb3+が50%とTb4+が50%のTbを始め、Tb1120、Tb2444、Tb1630など多くの組成がある。更に、Yは結晶系が立方晶系のC型希土類構造の多結晶として焼結され、冷却時に相転移がなく、室温においても立方晶系のC型希土類構造の多結晶が得られるのに対して、Tbは、高温相である結晶系が単斜晶系のB型希土類構造と低温相の立方晶系のC型希土類構造が存在し、冷却時に相転移を生じる。相転移による割れは、レーザ光を散乱し、著しく透過率を低くするために磁気光学素子用には不適となる。これらの理由により、いままでに実質的に3価のテルビウムイオンだけから成る透光性酸化テルビウム焼結体は得られていなかった。
高酸化状態のTbは黒褐色を呈し、近赤外から可視の波長の光を透過しない。そのために、高酸化状態のTbを含む酸化テルビウム焼結体から作製した光アイソレータは、レーザ光を吸収するために挿入損失が大きく、磁気光学素子として不適である。また、Tbが焼成工程で分解し、(1)式の反応によって
2Tb→4Tb+O (1)
発生する酸素が、気孔として焼結体の内部に残留するとレーザ光の散乱原因となるために、光アイソレータの挿入損失が大きくなる。
光アイソレータには、高い消光比が必要とされる。消光比が低いとレーザ光の偏光の制御性が悪く、その結果、戻り光の分離能(アイソレーション性能)が損なわれる。消光比は、材料のさまざまな不均一性に起因する歪複屈折が大きいと消光比が低くなることが知られており、単結晶材料では、結晶方位に関連したファセット歪や冷却工程における熱歪がしばしば問題となっていた。
Journal of Applied Physics, Volume 35, Number 8, 2338
本発明は、従来のテルビウム酸化物を一部しか含まないガラスや単結晶では不可能であった高い濃度まで3価テルビウムイオンを含有させることによって高いヴェルデ定数を実現し、割れや気孔を減らすことで透光性にも優れた酸化テルビウム焼結体を提供することを課題とする。
本発明は、
(1)組成式(Tb1−a(式中、MはHo、Y、Er、Tm、Yb、Lu、Scから選択される一種以上の元素、0.01≦a<0.3)で示される立方晶系の多結晶焼結体であって、気孔率が0.2%以下であり、1.06μmと532nmにおける3mm長さあたりの直線透過率がいずれも70%以上であることを特徴とする、磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体。
)前記添加元素MがLuまたはScであって、組成比が(Tb1−a(0.01≦a<0.2)となる()記載の磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体。
)前記(1)〜()の透光性酸化テルビウム焼結体を磁気光学素子として用いたことを特徴とする磁気光学デバイス
関する。
焼成の雰囲気が酸化性である場合、緻密な焼結体が得られても、可視光から近赤外光の波長領域に幅広い吸収が生じるために黒褐色に着色し、当該波長域のレーザ用の光アイソレータとして不適である。還元性の雰囲気で焼成すると3価のテルビウムイオンに起因する500nm付近の幅の狭い吸収以外は、400nmから1100nmの波長範囲に吸収は生ぜず、透光性に優れた焼結体を得ることができる。
更に、結晶系が立方晶系のC型希土類構造の安定な温度領域で焼結することによって、冷却過程に相転移を生ぜず、割れの無い透光性に優れた焼結体を得ることができる。安定な温度上限は、添加元素の有無、種類、量に依存する。例えば、Tbが99%以上の純Tbの場合は、1800℃以下の焼結温度において冷却過程の相転移を抑止できる。
副成分としてHo、Y、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Mg、Zr、Hfからなる群の少なくとも一種の元素の酸化物を1%以上30%未満のモル比で加えることによって、結晶系が単斜晶系のB型希土類構造の結晶ではなく、立方晶系のC型希土類構造をとる結晶を純Tbの場合に比べて高い温度でも焼結することが可能となる。この結晶は冷却過程での相転移がないから、相転移に起因する割れを生ぜず、透光性に優れた焼結体を得ることができる。添加量が50%を越えるとテルビウムイオンの濃度が小さくなるためにヴェルデ係数が小さくなる。添加量が1%未満では、2200℃以上の高温で焼成すると冷却過程で相転移が生じるために育成した結晶に多数の割れが入って透光性が失われる。1400℃以下で焼成すると多数の気孔が含まれるために透光性が損なわれる。
副成分のうちLu、Sc、Mg、Zr、Hfは、可視から近赤外の波長域に特定吸収がなく、かつ、20%未満の少ない添加量でも立方晶系のC型希土類構造を安定化する効果があるために好ましい。
本発明により、従来よりも高濃度に3価のテルビウムイオンを含む立方晶系の透光性酸化テルビウム焼結体が可能となった。また、透光性酸化テルビウム焼結体Tbは、テルビウムガラスやテルビウム・ガリウム・ガーネット(略してTGG、化学式TbGa12)単結晶よりも大きなヴェルデ定数を有する。従って、従来の材料よりも小さな結晶サイズでも大きなファラデー回転角が得られるため、アイソレータ素子の小型化を図ることができる。小型の光アイソレータはファイバーレーザに搭載するに適している。さらに、磁界を与えるための磁石を小さくすることができるため、周囲の電子部品への磁界への最小限に防ぐことができ、ファイバーレーザシステム及び被加工部品の安定化に貢献できる。
透光性多結晶体では、単結晶のファセットに起因する消光比の低下がない。多結晶粒界における境界層の厚さを使用するレーザの波長に比べて十分小さいので多結晶体の粒界層に起因する消光比の低下は実用上の大きな障害とならない。また、多結晶体は単結晶に比べて低い温度から製造することができ、さらに、炉内の温度分布の均一化を図り易いことから、冷却工程における熱歪を単結晶よりも小さくできる。
更に、融液から単結晶を作製するよりも、低い温度と短い焼成時間で透光性酸化テルビウム焼結体は作製可能であり、また、多結晶体は単結晶に比べて大型化も容易なために、コスト、量産、経済性の利点がある。
以下に焼結体の作製方法を説明する。
この焼結体の原料には、テルビウムを含む粉末を用いる。例えば、全て3価のテルビウムイオンで構成される化学式Tbの酸化物粉末がある。高酸化数のテルビウム酸化物、例えばTbなどを用いる場合は、これを予め水素雰囲気で還元処理してTbとして用いても良い。焼成の昇温過程で還元処理することも可能であるが、この場合は、焼成の初期段階で還元が完了する必要がある。なぜならば、焼成後半の緻密化段階まで還元が続いていると還元反応で生じた酸素が気孔として焼結体内部に残留して透光性を損なう恐れが生じるからである。
Ho、Y、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Mg、Zr、Hfなどの元素を添加する場合は、これらの金属酸化物を所定量秤量し、テルビウム酸化物と混合する固相法によることができる。また、この方法以外に、アルコキシド法、共沈法、均一沈澱法等によって得られる原料を用いる方法もあり、これらは添加量が少ない場合には好ましい。
出発原料粉に不純物が多いと透光性を損なう原因となるため、原料純度は99.9%以上が好ましい。また、粉の粒径が小さい方が焼成過程の反応性は良いが、微細すぎると取り扱いに不便であるので、原料粉末の平均粒径は数μmからサブμmのものを用いると良い。
秤量した原料粉に、ポリビニルアルコール(PVA)などのバインダーを少量加え、エチルアルコール等の有機溶媒を加えて湿式のボールミルを1日かけて原料粉を均一に粉砕し、混合する。得られたスラリーから有機溶媒を蒸発させることによって除去し、乾燥粉末を得る。スプレイドライヤーを用いると乾燥と造粒を同時に行うことができる。この粉末を一軸プレスし、更に冷間等方加圧(CIP)で成形体を作製する。成形体密度が低いとその後の焼成によって気孔が残って透過損失となるため、成形体密度は50%以上であることが好ましい。
成形体は、バインダーを除くために仮焼きをおこなった後で本焼成する。本焼成には、常圧の焼成炉、真空焼成炉、ホットプレス炉などの既存の炉を用いればよい。焼成の雰囲気は、酸素分圧が高いと高酸化状態のテルビウムが生じるために、低酸素分圧としなければならない。焼成炉内の酸素を除くには、水素を含む還元性の雰囲気を用いることができる。また、炉内を高真空に保つことによっても低酸素分圧を実現できる。酸素不純物を低減した高純度の不活性ガスを用いてもよい。焼成後に微小な残留気孔が残る場合は、更に熱間等方加圧(HIP)を付加することができる。焼成の条件は、相転移を起こさずに立方晶系のC型希土類構造をとる多結晶となり、また、焼結体の粒子が組成的、組織的に均一であり、残留気孔が少なくて緻密であり、その結果として焼結体の透光性が優れているように、各焼成法に合わせて設定する。例えば、焼成の温度は無添加の場合1400〜1800℃、添加元素を加えた場合はその種類と量に応じて1400〜2200℃、その最高温度での保持時間は0.5〜24時間が選ばれる。
炉内温度分布を均一化した焼成炉を用いて、冷却時の温度降下パターン条件を適切に選ぶことによって、熱歪の少ない多結晶体が得られ、光アイソレータに必要な高い消光比を実現することができる。
HIP処理は、1400〜1800℃の温度範囲で数時間以内の処理によって残留気孔の低減効果が得られる。ただし、相転移温度以下で処理しなければならない。
アイソレータとして用いるためには、焼結体の密度が理論密度の99.8%以上(気孔率では0.2%以下)であることが必要である。焼結体の密度が理論密度の99.8%未満であれば、光の透過率が極端に低下する。焼結体の密度はアルキメデス法で測定できる。気孔率は、焼結体の実測密度と理論密度の差異から求めることができる。気孔率は、焼結体内部に存在する気孔を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等を用いて表面を拡大観察した画像を解析することによっても求めることができる。焼結体の結晶構造は、X線回折法によって分析できる。相転移の有無は、相転移を経た焼結体は冷却後に多数の割れを生じているので、容易に区別できる。
また、焼結体の透光性は、分光光度計を用いた直線透過率で評価できる。直線透過率は、ある厚みの試料を通過後の光強度が、試料がないときの光強度の何%となるかを比較測定する。試料表面を鏡面研磨することによって測定波長での表面散乱損失を十分小さくすれば、厚みを揃えることによって、試料内部の光損失を比較評価することができる。この場合の光損失は、残留気孔や相転移による微細な割れなどに起因する散乱損失と高酸化状態のテルビウムなどに起因する吸収損失を合わせたものとなるため、光アイソレータの挿入損失と対応する。光アイソレータとして使用するためには、近赤外の1.06μm、及び可視の532nmの波長における直線透過率が70%以上であることが必要である。
以上の透光性酸化テルビウム焼結体製造方法を用い、焼結雰囲気を高次の酸化状態のテルビウムイオンを生じないように厳密に制御することによって、Tbイオンの価数が実質的に3価のみで構成されるTbを主成分とする立方晶系のC型希土類構造の結晶を相転移なく合成できる。この焼結体は、高次の酸化状態のテルビウムイオンによる吸収がなく、また、相転移による割れの散乱損失がないために1.06μmと532nmにおける3mm長さあたりの直線透過率がいずれも70%以上となる。この透明焼結体は、磁気光学素子用に好適であり、小型・ハイパワー等の特徴を有する可視光から近赤外光の固体レーザ用の光アイソレータや、また大型形状作製可能の利点を生かした大出力レーザ用への光アイソレータにも利用可能と考えられる。
実施例1[参考例]
純度99.9%で粒径1μm以下のTb粉末を100g、エチルアルコール150g、PVA1gを秤量し、表面を樹脂コートしたボールを用いてボールミル混合した。24時間後にスラリーを取り出し、エチルアルコールを蒸発させて乾燥粉末を得た。乾燥した粉末は乳鉢と乳棒を用いて解砕した。
この粉末を金型に入れて20MPaで円筒状に一軸成形し、更に200MPaのCIP処理を行った。
この成形体を圧力20MPa最高温度1500℃でホットプレス焼成し、直径25mm厚さ6mmの円板状の焼結体を得た。得られた焼結体は、相転移による割れがない透明体であった。作製した焼結体の密度は、ダイスと接触していた表面層を研削除去した後、アルキメデス法で測定した。相対密度は、99.8%であった。焼結体の一部をX線回折分析したところ、立方晶系のC型希土類構造であった。得られた焼結体から3mm×3mm×3mmの立方体を切り出し、対向する2面を鏡面研磨した試料を作製した。試料の表面を露出している気孔を測定した。分光光度計日立U−4100を用いて1.1μmから400nmの波長範囲の透過スペクトルを測定した結果、500nm付近の3価のテルビウムによる鋭い吸収帯のみが観測され、4価のテルビウムに起因する吸収はみられなかった。組成と密度から作製した焼結体には、1cmあたりTb3+イオンを2×1022個以上含むことが分かった。近赤外光1.06μmと可視光532nmの波長における直線透過率は、それぞれ72%と70%であった。試料を0.5Tの磁場中におき、グラントムソンプリズムで挟んで1.06μmにおけるヴェルデ係数を測定したところ同じ寸法のテルビウムガラスよりも大きかった。同じ測定系で測った消光比は、30dBであった。
実施例2〜4および実施例5[参考例]
原料に相転移を抑制するための添加元素を含む粉末を加えた以外は、実施例1と同じ手順で焼結体を作製した。焼結体の一部からサンプリングし、X線回折分析したところ、その結晶構造は、全て立方晶系のC型希土類構造であった。
Figure 0005522866
表1にTbを主成分とし、少量の添加元素を加えた酸化テルビウム焼結体の相対密度、波長1.06μmおよび532nmにおける直線透過率、波長1.06μmにおける消光比の測定結果を示す。実施例2〜5は、いずれも高い相対密度と直線透過率、および消光比を有していることが判る。

Claims (3)

  1. 組成式(Tb1−a(式中、MはHo、Y、Er、Tm、Yb、Lu、Scから選択される一種以上の元素、0.01≦a<0.3)で示される立方晶系の多結晶焼結体であって、
    前記焼結体は、気孔率が0.2%以下であり、1.06μmと532nmにおける3mm長さあたりの直線透過率がいずれも70%以上であることを特徴とする、磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体。
  2. 前記添加元素MがLuまたはScであって、組成比が(Tb1−a(0.01≦a<0.2)となる請求項記載の磁気光学素子用透光性酸化テルビウム焼結体。
  3. 請求項1又は2のいずれかの透光性酸化テルビウム焼結体を磁気光学素子として用いたことを特徴とする磁気光学デバイス。
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