以下に、本発明に係る車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両用駆動装置が適用される車両の概略構成を示す模式図、図2は、実施形態に係る車両用駆動装置における作動係合表を示す図、図3は、実施形態に係る車両用駆動装置における共線図、図4は、実施形態に係るECUにおける入出力関係図、図5は、実施形態に係る車両用駆動装置における変速線の一例を示す線図、図6は、実施形態に係るエンジンにおけるエンジントルク脈動の一例を示す線図、図7は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャート、図8は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャート、図9は、実施形態に係るECUによる制御の他の一例を説明するタイムチャートである。
本実施形態の車両用駆動装置1は、図1に示すように、車両2に搭載され、この車両2を駆動するためのシステムである。車両2は、駆動輪3を回転駆動して推進するために、走行用動力源(原動機)として、機関と、電動機とを搭載したいわゆる「ハイブリッド車両」である。
本実施形態の車両用駆動装置1は、ハイブリッド形式の駆動装置であり、車両2の駆動輪3に伝達される動力を発生する機関、例えば、内燃機関としてのエンジン4と、エンジン4が発生させた動力を駆動輪3に伝達する動力伝達装置5と、インバータ6と、蓄電装置7と、油圧制御回路8と、制御装置としてのECU9とを備える。動力伝達装置5は、複数ここでは2つの電動機として第1電動機としてのモータジェネレータ(以下、特に断りのない限り「モータ」と略記する)MG1及び第2電動機としてのモータMG2を含んで構成される。車両用駆動装置1は、典型的には、ECU9がエンジン4や動力伝達装置5を制御し、エンジン4を可及的に効率の良い状態で運転する一方、動力やエンジンブレーキ力の過不足をモータMG1、MG2で補い、さらには減速時にエネルギの回生をおこなうことにより、エンジン4による排気ガスを低減し、同時に燃費の向上を図るように構成されたシステムである。なお、動力伝達装置5等は、回転軸線に対して対称的に構成されているため、この図1においては、回転軸線を挟んで一方側のみを図示し他方側図示を省略している。
エンジン4は、燃料を消費して車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生させる動力源であり、動力伝達装置5などを介して駆動輪3と連結され駆動輪3に作用させるエンジントルク(機関トルク)を発生させることができる。エンジントルクとは、エンジン4の機関出力軸であるクランクシャフト41に生じるトルクである。エンジン4は、燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して出力する熱機関であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、LPGエンジンなどがその一例である。エンジン4は、燃料の燃焼に伴ってクランクシャフト41に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この機械的動力をクランクシャフト41から駆動輪3に向けて出力可能である。
動力伝達装置5は、動力源としての1つのエンジン4と2つのモータMG1又はMG2とが発生させる動力を駆動輪3に伝達しこの駆動輪3を回転駆動するものである。動力伝達装置5は、モータMG1と、モータMG2と、入力軸51がクランクシャフト41と一体回転可能に結合される変速機構52と、変速機構52の出力軸53と一体回転可能に結合されるプロペラシャフト54と、プロペラシャフト54に結合される差動機構55と、差動機構55に結合され駆動輪3を回転させる駆動軸56とを備える。変速機構52は、入力軸51と、出力軸53とに加えてさらに、差動部57と、変速部58と、伝達軸59とを有する。動力伝達装置5は、回転要素の固定部としても機能するケース5A内において、モータMG1、モータMG2、入力軸51、出力軸53、差動部57、変速部58及び伝達軸59などが同一の回転軸線で回転可能なように同軸上に配置される。
モータMG1、MG2は、ともに供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。すなわち、モータMG1、MG2は、電力の供給により駆動し電気エネルギを機械エネルギに変換して出力する力行機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼ね備えている。モータMG1、MG2は、ともにインバータ6に電気的に接続される。
ここで、インバータ6は、蓄電装置7に電気的に接続される。インバータ6は、蓄電装置7の電力の入出力を制御するものであり、後述するECU9のハイブリッドECU93からの信号に応じて蓄電装置7とモータMG1、MG2との電力の授受を制御する。蓄電装置7は、バッテリなどにより構成され電力を蓄電可能なものである。
そして、例えば、モータMG1、MG2は、交流同期電動機等で構成されており、蓄電装置7からインバータ6を介して交流電力の供給を受けて駆動し、ロータに機械的な動力(モータトルク)を発生させ、この機械的動力をロータ軸から駆動輪3に向けて出力可能である。すなわち、モータMG1、MG2は、例えば、ステータが電力の供給を受けて回転磁界を発生させ、その回転磁界に引き付けられてロータが回転することでモータトルクを発生させる。モータトルクとは、モータMG1、MG2のロータに生じるトルクである。また、モータMG1、MG2は、例えば、ロータが機械的動力を受けて回転することで回生による発電が可能であり、この発電によって生じた電力は、インバータ6を介して蓄電装置7に蓄えられる。ここでは、モータMG1は、主にエンジン4の出力を受けて発電する発電機として用いられ、モータMG2は、主に走行用の動力を出力する電動機として用いられる。
変速機構52は、エンジン4の回転出力又はモータMG1、MG2の回転出力、あるいは、両方の回転出力を統合し変速して出力可能である。変速機構52は、エンジン4側から動力が入力される入力部材である入力軸51がクランクシャフト41と結合され、駆動輪3側に動力を出力する出力部材である出力軸53がプロペラシャフト54と結合され、差動部57と変速部58とが伝達軸59を介して連結される。差動部57は、入力軸51と接続される。変速部58は、出力軸53、プロペラシャフト54、差動機構55、駆動軸56を介して駆動輪3と接続されている。
変速機構52は、差動部57の変速比と変速部58の変速比とに基づいて変速機構52全体での総合変速比が定まる。変速機構52は、例えば、エンジン4が発生させ入力軸51に入力される回転動力をこの総合変速比に応じて変速して出力軸53に伝達し、この出力軸53からプロペラシャフト54、差動機構55、駆動軸56などを介して駆動輪3に向けて出力することができる。そして、この変速機構52は、以下で具体的に説明するように、差動部57と変速部58とが伝達軸59を介して連結されることで、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってこの変速部58側から差動部57側に入力するトルクによってエンジン4のクランクシャフト41の停止位置が変動しうる構成となっている。
差動部57は、エンジン4とモータMG1とモータMG2とが連結され、モータMG1の出力が制御されることで差動状態が制御される電気式差動部である。これにより、差動部57は、電気的に無段変速状態となることができ、すなわち、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部(電気CVT)として機能することができる。
差動部57は、差動回転可能な複数の回転要素を含んで構成される差動機構としての遊星歯車機構57Aと、上述のモータMG1及びモータMG2とを有する。差動部57は、遊星歯車機構57Aの複数の回転要素のうちの第1の回転要素にエンジン4、第2の回転要素にモータMG1、第3の回転要素にモータMG2がそれぞれ動力伝達可能に連結される。なお、遊星歯車機構57Aは、所定のギヤ比ρ0(リングギヤR0の歯数に対するサンギヤS0の歯数の比)を有するいわゆるシングルピニオン型のオーバドライブプラネタリギヤであるものとして説明するがダブルピニオン型であってもよい。また、差動部57を構成する差動機構としては、例えば、遊星ローラ機構などであってもよい(以下の説明でも特に断りのない限り同様である)。さらに、モータMG2は、遊星歯車機構57Aの回転要素ではなく、出力軸53に連結されていてもよい。
遊星歯車機構57Aは、いわゆる動力分割機構として機能するものであり、例えば、エンジン4が出力した動力をモータMG1側と伝達軸59(駆動輪3)側とに分割し、あるいは、エンジン4が出力した動力とモータMG1が出力した動力とを合成して伝達軸59に出力する。遊星歯車機構57Aは、複数の回転要素として、外歯歯車として構成されるサンギヤS0と、サンギヤS0に対して同心円上に配置された内歯歯車として構成されるリングギヤR0と、サンギヤS0とリングギヤR0とに噛み合っているピニオンギヤを自転自在、かつ、公転自在に支持するキャリヤCA0とを含んで構成される。遊星歯車機構57Aは、これら3つの回転要素としてのキャリヤCA0とサンギヤS0とリングギヤR0とが相互に差動回転するように構成される。
そして、キャリヤCA0は、入力軸51を介してエンジン4のクランクシャフト41と一体回転可能に連結される。エンジン4のクランクシャフト41からの動力は、入力軸51を介してキャリヤCA0に伝達される。サンギヤS0は、モータMG1のロータと一体回転可能に連結される。リングギヤR0は、モータMG2のロータ及び伝達軸59と一体回転可能に連結される。伝達軸59は、後述の変速部58と連結され、すなわち、リングギヤR0は、伝達軸59を介して変速部58と連結される。
変速部58は、上記のように伝達軸59を介して差動部57に連結される。変速部58は、伝達軸59と駆動輪3との間に差動部57と直列に設けられる。変速部58は、伝達軸59に伝達された回転の変速を行うものである。変速部58は、それぞれに所定の変速比が割り当てられた複数の変速段を有する有段の自動変速部である。
変速部58は、差動回転可能な複数の回転要素を含んで構成される複数ここでは2つの差動機構としての遊星歯車機構58A及び遊星歯車機構58Bを有する。以下で説明する遊星歯車機構58A、58Bは、それぞれ所定のギヤ比ρ1(リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数の比)、ρ2(リングギヤR2の歯数に対するサンギヤS2の歯数の比)を有するシングルピニオン型であるものとして説明するがダブルピニオン型であってもよい。
そして、変速部58は、作動状態を切り替える機構として機能する係合要素として、クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2及びワンウェイクラッチF1を有する。クラッチC1〜C3は、係合することにより回転要素間でのトルクを伝達し、かつ、開放することにより回転要素間でのトルクを遮断する機構である。ブレーキB1、B2は、係合することにより固定部としてのケース5Aに対する回転要素の相対回転を規制し、かつ、開放することにより回転要素の相対回転を許容する機構である。クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2は、例えば、多板クラッチなどの摩擦式の係合機構やドグクラッチなど噛み合い式の係合機構によって構成することができ、ここでは、油圧式の多板クラッチを用いる。ワンウェイクラッチF1は、ケース5Aに対する回転要素の相対回転を一方向のみで許容し、かつ、他方向の相対回転を規制する機構である。変速部58は、これら複数の係合要素を適宜に係合・開放させることにより、多様な動力伝達状態を設定することができ、機械式の有段変速機として作動可能な機械式変速部として機能することができる。
遊星歯車機構58Aは、複数の回転要素として、外歯歯車として構成されるサンギヤS1と、サンギヤS1に対して同心円上に配置された内歯歯車として構成されるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1とに噛み合っているピニオンギヤを自転自在、かつ、公転自在に支持するキャリヤCA1とを含んで構成される。遊星歯車機構58Aは、これら3つの回転要素としてのキャリヤCA1とサンギヤS1とリングギヤR1とが相互に差動回転するように構成される。
遊星歯車機構58Bは、複数の回転要素として、外歯歯車として構成されるサンギヤS2と、サンギヤS2に対して同心円上に配置された内歯歯車として構成されるリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2とに噛み合っているピニオンギヤを自転自在、かつ、公転自在に支持するキャリヤCA2とを含んで構成される。遊星歯車機構58Bは、これら3つの回転要素としてのキャリヤCA2とサンギヤS2とリングギヤR2とが相互に差動回転するように構成される。
キャリヤCA1は、リングギヤR2と連結されるとともに、ワンウェイクラッチF1を介してケース5Aと連結され、さらに、クラッチC2を介して伝達軸59と連結される。サンギヤS1は、クラッチC3を介して伝達軸59と連結されるとともに、ブレーキB1を介してケース5Aと連結される。リングギヤR1は、キャリヤCA2と連結される。キャリヤCA2は、リングギヤR1と連結されるとともに、出力軸53と一体回転可能に連結される。サンギヤS2は、クラッチC1を介して伝達軸59と連結される。リングギヤR2は、キャリヤCA1と連結されるとともに、ワンウェイクラッチF1を介して、また、ブレーキB2を介してケース5Aと連結される。
クラッチC1は、サンギヤS2と伝達軸59とを選択的に連結する。クラッチC2は、キャリヤCA1と伝達軸59とを選択的に連結する。クラッチC3は、サンギヤS1と伝達軸59とを選択的に連結する。ブレーキB1は、サンギヤS1とケース5Aとを選択的に連結する。ブレーキB2は、キャリヤCA1及びリングギヤR2とケース5Aとを選択的に連結する。ワンウェイクラッチF1は、ケース5Aに対してキャリヤCA1及びリングギヤR2を一方向の相対回転を許容し、かつ、他方向の相対回転を規制するように支持する。
そして、油圧制御回路8は、流体としての作動油の油圧によって変速機構52、さらに言えば、変速部58のクラッチC1〜C3やブレーキB1、B2などの係合要素を作動させるものである。油圧制御回路8は、例えば、ECU9により制御される種々の公知の油圧回路によって構成される。油圧制御回路8は、複数の油路、オイルリザーバ、オイルポンプ、複数の電磁弁などを含んで構成され、後述するECU9の有段変速機ECU92からの信号に応じて、変速機構52など動力伝達装置5の各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御する。
上記のように構成された動力伝達装置5は、例えば、図2の作動係合表に従って変速部58のクラッチC1〜C3やブレーキB1、B2が選択的に係合作動させられる。この図2の作動係合表では、「○」は係合を表し、空欄は開放を表し、「(○)」はエンジンブレーキ時の係合を表している。ワンウェイクラッチF1の欄の「○」は、キャリヤCA1及びリングギヤR2の相対回転を規制した状態(ロック状態)、すなわち、キャリヤCA1及びリングギヤR2とケース5Aとが係合された状態を表す。これにより、動力伝達装置5は、変速部58において第1速ギヤ段(第1変速段)1stから第4速ギヤ段(第4変速段)4th、後進ギヤ段(後進変速段)Revのいずれか1つのギヤ段が選択的に成立させられ、変速部58における変速比(伝達軸59の回転数/出力軸53の回転数)がギヤ段ごとに得られる。また、動力伝達装置5は、変速部58において、全てのクラッチC1〜C3やブレーキB1、B2が開放状態となることで、動力伝達装置5から駆動輪3への動力の伝達を遮断した非伝達状態であるニュートラル状態が選択的に成立させられる。変速部58における変速段は、第1速ギヤ段1stから第4速ギヤ段4thの順で変速比が小さくなるように設定されている。
一方、動力伝達装置5は、差動部57が遊星歯車機構57AのサンギヤS0、リングギヤR0、キャリヤCA0の差動作用により電気的な無段変速状態となる。すなわち、差動部57は、遊星歯車機構57Aの差動状態においては、エンジン4の出力がモータMG1側と伝達軸59側とに分割されると共に、分割されたエンジン4の出力の一部でモータMG1において発生した電気エネルギで蓄電装置7が充電され、また、モータMG2が回転駆動される。これにより、差動部57は、モータMG1などの出力を調節することによりエンジン4の回転にかかわらず伝達軸59の回転を連続的に無段階で変化させることができる。つまり、差動部57は、差動部57における変速比(入力軸51の回転数/伝達軸59の回転数)が最小値から最大値まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。これにより、動力伝達装置5は、差動部57が無段変速機として、差動部57に直列に連結された変速部58が有段変速機として機能することによって、変速部58の各ギヤ段に対し、変速部58に入力される回転数、すなわち伝達軸59の回転数が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。これによって、動力伝達装置5は、変速部58の各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構52全体としての総合変速比(入力軸51の回転数/出力軸53の回転数)が無段的に得られるようになる。
図3は、動力伝達装置5において、ギヤ段ごとに連結状態が異なる各回転要素の回転数の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示す。この共線図は、横軸方向において各遊星歯車機構57A、58A、58Bのギヤ比ρ0、ρ1、ρ2の相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す2次元座標である。横軸のうちの下側の横線X1が回転速度「0」を示し、横線XGが伝達軸59の回転速度を示している。
3本の縦線Y1、Y2及びY3は、差動部57を構成する遊星歯車機構57Aの各回転要素に対応するものであり、縦線Y1は、サンギヤS0(モータMG1のロータ)、縦線Y2は、キャリヤCA0(エンジン4のクランクシャフト41)、縦線Y3は、リングギヤR0(モータMG2のロータ)の相対回転速度を示すものである。縦線Y1、Y2及びY3の間隔は、遊星歯車機構57Aのギヤ比ρ0に応じて定められている。すなわち、縦線Y1と縦線Y2との間隔を「1」とすると縦線Y2と縦線Y3との間隔は、ギヤ比ρ0に対応する。
4本の縦線Y4、Y5、Y6及びY7は、変速部58を構成する遊星歯車機構58A、58Bの各回転要素に対応するものであり、縦線Y4は、サンギヤS2、縦線Y5は、リングギヤR1及びキャリヤCA2、縦線Y6は、キャリヤCA1及びリングギヤR2、縦線Y7は、サンギヤS1の相対回転速度を示すものである。縦線Y4、Y5、Y6及びY7の間隔は、遊星歯車機構58A、58Bのギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。すなわち、各遊星歯車機構58A、58Bごとに、そのサンギヤとキャリヤとの間隔を「1」とすると、それぞれキャリヤとリングギヤとの間隔がギヤ比ρ1、ρ2に対応する。
差動部57においては、例えば、直線L0によって、サンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0の回転速度との関係が示される。例えば、差動部57は、モータMG1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤS0の回転が上昇あるいは下降させられると、車速に拘束されるリングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCA0の回転速度、言い換えれば、エンジン4からの入力回転数(エンジン回転数に相当)が上昇或いは下降させられる。このようにして、差動部57は、無段変速機として機能する。
変速部58においては、クラッチC1及びワンウェイクラッチF1(エンジンブレーキ時はブレーキB2)が係合(ロック)させられることにより、縦線Y4−横線XGの交点と縦線Y6−横線X1の交点とを通る直線L1と、縦線Y5との交点で第1速における出力軸53の回転速度が示される。同様に、変速部58は、クラッチC1及びブレーキB1が係合させられることにより決まる直線L2と縦線Y5との交点で第2速における出力軸53の回転速度が示され、クラッチC1及びクラッチC2が係合させられることにより決まる水平な直線L3と縦線Y5との交点で第3速における出力軸53の回転速度が示され、クラッチC2およびブレーキB1が係合させられることにより決まる直線L4と縦線Y5との交点で第4速における出力軸53の回転速度が示され、クラッチC3及びブレーキB2が係合させられることにより決まる直線LRと縦線Y5との交点で後進Rの出力軸53の回転速度が示される。
次に、ECU9は、車両用駆動装置1を含む車両2の各部の駆動を制御するものである。ECU9は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU9は、車両用駆動装置1を含む車両2の各部に設けられた種々のセンサが電気的に接続されると共に、エンジン4の燃料噴射装置、点火装置や電子スロットル弁、インバータ6、油圧制御回路8などの車両用駆動装置1を含む車両2の各部が電気的に接続される。ECU9は、種々のセンサから検出した検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果や蓄電装置7の蓄電状態SOCなどの各部の状態に応じて車両用駆動装置1を含む車両2の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。ECU9は、例えば、エンジン4の駆動制御、モータMG1及びモータMG2を含む差動部57の駆動制御及び変速制御、変速部58の変速制御などをそれぞれ実行する。
図4は、車両用駆動装置1を含む車両2の各部を制御するためにECU9に入力される信号及びECU9から出力される信号を例示した入出力関係図である。ECU9は、例えば、各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、開放油圧Pb1を示す信号、係合油圧Pb2を示す信号、所定油圧Pc2を示す信号、モータMG1回転数を示す信号、モータMG2回転数を示す信号、エンジン回転数NEを示す信号、蓄電装置7の温度を示すバッテリ温度信号、M(モータ(EV)走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸53の回転速度に対応する車速信号、変速部58の作動油温を示すAT油温信号、ECTスイッチからの信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号、EVスイッチからの信号、スノーモード設定スイッチからの信号、エンジン4のクランクシャフト41の回転角度であるクランク角度を示す信号、オートクルーズ設定信号、パワーモードスイッチからの信号、シフトポジションを示す信号などが入力される。
ECU9は、例えば、車両用駆動装置1を含む車両2の各部に、電子スロットル弁への駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン4の点火時期を指令する点火信号、モータMG1やモータMG2の作動を指令する指令信号、インバータ6や蓄電装置7の動作を指令する指令信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比インジケータ信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモードインジケータ信号、ATライン圧コントロールソレノイドへの駆動信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、M(モータ(EV)走行)モードが選択されていることを表示させるMモードインジケータ信号、差動部57や変速部58を制御するために油圧制御回路8に含まれる電磁弁などのATソレノイドを作動させる駆動信号、油圧制御回路8などの油圧源であるAT電動オイルポンプを作動させる駆動信号、電動ヒータへの駆動信号、クルーズコントロール制御コンピュータなどへの出力信号を出力する。
ここでは、ECU9は、図1に示すように、それぞれ別個に構成されたエンジンECU91と、有段変速機ECU92と、ハイブリッドECU93とを含んで構成されるが、これに限らず、これらを1つのECUによって構成してもよい。
エンジンECU91は、主としてエンジン4を制御するものである。エンジンECU91は、例えば、エンジン4の燃料噴射装置、点火装置や電子スロットル弁などを制御する。エンジンECU91は、例えば、入力される信号に基づいて、エンジン4の駆動制御に必要な情報処理を行う。エンジンECU91は、例えば、エンジンクランク角度センサからの信号に基づいてエンジン4のクランクシャフト41の回転角度であるクランク角度などを検出する。
有段変速機ECU92は、主として油圧制御回路8を制御して変速機構52の変速部58のクラッチC1からC2やブレーキB1、B2などの係合要素の作動状態を制御するものである。有段変速機ECU92は、例えば、入力される信号に基づいて、変速の判断や変速部58の変速制御に必要な情報処理を行う。有段変速機ECU92は、例えば、図5に例示する変速線図から車速と、アウトプットトルクとで示される車両状態に基づいて変速部58の変速すべき変速段を判断して変速部58の自動変速制御を実行する。ここで、アウトプットトルクは、出力軸53に生じるトルク(変速機構52の出力トルク)であり、アクセル開度あるいは運転者によって要求される要求トルクなどに相当する。
図5に例示する変速線図は、有段変速機ECU92の記憶部に予め記憶されている。有段変速機ECU92は、この変速線図に基づいて目標ギヤ段等を設定する。図5は、横軸を車速、縦軸を変速部58のアウトプットトルクとしている。図5中、複数の実線N→N+1(Nは自然数)は、変速線、さらに言えば、アップシフト線を表し、例えば、実線3→4は、第3速から第4速への変速を行うためのアップシフト線を表す。実線N→N+1は、車速とアウトプットトルクとの関係において変速部58のギヤ段として第N速が選択される領域と第N+1速が選択される領域との境界線をなす。有段変速機ECU92は、例えば、アウトプットトルクが減少し動作点が実線3→4をまたいだ場合や車速が増加して動作点が実線3→4をまたいだ場合に、変速部58を制御して第3速から第4速への変速、すなわち、第3速から第4速へのアップシフトを実行する。ここでアップシフトとは、変速比が減少する側、典型的には増速側への変速である。同様に、図5中、複数の点線N←N+1(Nは自然数)は、変速線、さらに言えば、ダウンシフト線を表す。ここでダウンシフトとは、変速比が増加する側、典型的には減速側への変速である。
ハイブリッドECU93は、主としてインバータ6などを制御してモータMG1、MG2の駆動を制御するものである。ハイブリッドECU93は、エンジンECU91及び有段変速機ECU92との間で相互に各種センサの検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができ、これらを介して車両用駆動装置1を含む車両2の全体の動作を統括的に制御し、エンジン4やモータMG1、MG2などを協調して制御するための制御装置である。これにより、ハイブリッドECU93は、エンジン4とモータMG1、MG2とを併用又は選択使用することで、車両2において様々な車両走行(走行モード)を実現することができる。
このハイブリッドECU93は、例えば、モータMG1の出力を制御することで、上記差動部57を電気式無段変速機として機能させるための無段変速機ECUとしても機能する。ハイブリッドECU93は、例えば、入力される信号に基づいて、モータMG1及びモータMG2を含む差動部57の駆動制御及び変速制御に必要な情報処理、インバータ6やエンジン4への指令処理、蓄電装置7の蓄電状態SOCなどに応じて蓄電装置7の入出力制限値情報の処理などを行う。ハイブリッドECU93は、例えば、レゾルバからの信号あるいはインバータ6からの信号などに基づいてモータMG1、MG2のロータの回転角度などを検出する。
ハイブリッドECU93は、例えば、そのときの車速において、アクセル開度や車速から運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン4の回転速度とトータル出力とを算出する。ハイブリッドECU93は、そのトータル出力とエンジン回転数NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジンECU91などを介してエンジン4を制御するとともにインバータ6などを介してモータMG1の発電量を制御する。これにより、ハイブリッドECU93は、無段変速機として機能する差動部57の差動状態を制御する。ハイブリッドECU93は、この制御を変速部58の変速段を考慮して実行し、あるいは燃費向上などのために有段変速機ECU92などを介して変速部58に変速指令を行う。
なお、図5中、太線Lの領域Aは、電動機走行領域としてのモータ(EV)走行領域Aを示す。モータ走行領域Aは、車両2がエンジン4を停止しエンジン4以外の走行用動力源例えばモータMG2が発生する動力によって走行する状態である。すなわち、太線Lは、走行用動力源としてエンジン4を用いず、エンジン4を停止してモータMG2が発生する動力によって走行するモータ走行領域Aと、走行用動力源として少なくともエンジン4を用いるエンジン走行領域Bとの境界線である。
ハイブリッドECU93は、例えば図5の制御線図(ここでは変速線図と兼用)から車速とアウトプットトルクとで示される車両状態に基づいて現在の走行領域がモータ走行領域Aとエンジン走行領域Bとのいずれであるかを判断してモータ走行あるいはエンジン走行を実行する。ハイブリッドECU93は、車両2の走行中において、エンジンECU91を介してエンジン4を始動又は作動を停止し、エンジン4の作動状態と非作動状態とを切り替えることが可能となっている。ハイブリッドECU93は、例えば、現在の走行領域がエンジン走行領域B側からモータ走行領域A側に移動した際にはエンジンECU91を介してエンジン4を停止し非作動状態としモータMG2が発生する動力を用いてモータ走行を実行する。一方、ハイブリッドECU93は、例えば、現在の走行領域がモータ走行領域A側からエンジン走行領域B側に移動した際にはエンジンECU91を介してエンジン4を始動し作動状態とし少なくともエンジン4が発生する動力を用いてエンジン走行を実行する。
ここで、エンジン4を作動させた状態とは、燃焼室で燃料を燃焼して生じる熱エネルギをトルクなどの機械的エネルギの形で出力する状態である。一方、エンジン4の非作動状態、すなわち、エンジン4の作動を停止させた状態とは、燃焼室で燃料を燃焼させずトルクなどの機械的エネルギを出力しない状態である。このとき、エンジン4は、各部の自重やフリクションによって、クランクシャフト41の回転速度すなわちエンジン回転数がゼロとなり、このクランクシャフト41が静止した状態となる。またこのとき、モータ走行領域Aにおいては、上述の図3の共線図からも明らかなように、モータMG1のロータ(サンギヤS0)は、モータMG2のロータ(リングギヤR0)の回転とは逆回転(−側の回転)で連れまわっている状態である。なお、エンジン4は、差動部57や変速部58の構成によっては、モータMG1の出力調整に応じた差動部57の電気的CVT機能の差動作用によって、クランクシャフト41の回転速度がゼロとなるように制御される場合もある。また、ハイブリッドECU93は、現在の走行領域がモータ走行領域A内にある場合であっても蓄電装置7の蓄電状態SOCによってはエンジンECU91を介してエンジン4を始動し作動状態とする場合がある。
ハイブリッドECU93は、エンジン4を停止し非作動状態とする場合、例えば、エンジンECU91を介して燃焼室への燃料供給の停止、すなわちフューエルカットを実行する。また、ハイブリッドECU93は、エンジン4を始動し作動状態とする場合、例えば、モータMG1をスタータとして機能させ、モータMG1が出力するトルクであるMG1トルクによってクランクシャフト41を回転させエンジン回転数を上昇させてエンジン4をクランキングすると共に、エンジンECU91を介して燃焼室への燃料供給及び点火制御を実行する。ここで、エンジン4は、機関停止に際し、クランクシャフト41の停止位置が予め設定された適正位置となるようにして停止させられる。クランクシャフト41の停止位置とは、エンジン4が非作動状態となりクランクシャフト41が静止した状態でのクランク角度に相当し、適正位置とは、次回のエンジン4の始動に際し適正にエンジン4をクランキングすることができるクランク角度に相当する。
上記のようなエンジン4は、例えば図6に例示するように、エンジン4のクランキング時にエンジントルク脈動が発生する。エンジン4は、クランキング時、すなわち、クランクシャフト41を回転させる際の初期角度をこのエンジントルク脈動が相対的に小さくなる所定のクランク角度にあわせておくことで、エンジン始動時に生じる振動を低減することができる。例えば図6の例では、エンジン4は、クランクシャフト41を回転させる際の初期角度を60〜80度の間の所定のクランク角度とすることで始動ショックを低減することができる。ここでは、クランクシャフト41を回転させる際の初期角度は、上記で説明したクランクシャフト41が静止した状態でのクランク角度、すなわち、クランクシャフト41の停止位置に相当し、60〜80度の間の所定のクランク角度は、上記で説明したエンジントルク脈動が相対的に小さくなる所定のクランク角度、すなわち、クランクシャフト41の停止位置の適正位置に相当する。
なお、上記のように構成された車両用駆動装置1では、クランクシャフト41のクランク角度は、例えば、下記の数1に示す数式(1)で求めることができる。数式(1)において、「θe」はクランクシャフト41のクランク角度、「θg」はモータMG1のロータの回転角度、「θm」はモータMG2のロータの回転角度、「θe_ini」はクランクシャフト41の初期角度(停止位置におけるクランク角度)、「ρ」は差動部57の遊星歯車機構57Aのギヤ比ρ0を表す。
ところで、この車両用駆動装置1は、例えば、モータ走行(電動機走行)中の走行状態によっては、停止状態にあるエンジン4のクランクシャフト41のクランク角度(回転角度)が始動に際しての最適な停止角度から変動するおそれがあるため、エンジン4の始動の点で更なる改善が図られている。すなわち、動力伝達装置5の変速機構52は、以上で説明したように、差動部57と変速部58とが伝達軸59を介して連結されることで、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってこの変速部58側から差動部57側に入力するトルクによってエンジン4のクランクシャフト41の停止位置が変動しうる構成となっている。車両用駆動装置1は、例えば図5において、エンジン4を非作動状態とするモータ走行領域A内で変速が実行された場合(図5中の矢印参照)、変速部58側から差動部57側にトルクが入力される。ここで、変速部58による変速動作に伴って変速部58側から差動部57側に入力されるトルクとは、例えば、変速部58の変速時にクラッチC1〜C3のいずれかが伝達軸59におよぼすトルクなどである。この他、変速部58側から差動部57側に入力されるトルクとしては、路面からの外力が変速部58を介して伝達軸59に及ぼすトルクなどがある。そして、車両用駆動装置1は、変速部58の変速がある場合に、変速部58側から差動部57側に入力されるトルクがクランクシャフト41に作用することで、停止状態にあるエンジン4のクランクシャフト41のクランク角度が変動するおそれがあり、これにより、クランクシャフト41の停止位置が適正位置からずれるおそれがある。そして、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41の停止位置が適正位置からずれた状態でエンジン4を始動すると、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショックが発生するおそれがある。
そこで、本実施形態の車両用駆動装置1は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速がある場合に、ECU9によって、この変速に応じてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御することでクランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行し、これにより、適正にエンジン4を始動することができるようにしている。ここで、エンジン4を停止して走行する状態とは、典型的にはエンジン4を停止した状態でモータMG2などによる走行を行うモータ走行(電動機走行)の状態であるが、例えば、いわゆるエンジン4を停止しモータMG2(あるいはモータMG1)などによって回生(充電)を行うフリーラン状態などを含むものであってもよい。
ECU9は、クランクシャフト41の停止位置の適正位置からの変動(ずれ)を修正するように、変速部58における変速に応じてMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行する。ECU9は、エンジン4が停止している際に、変速部58が差動部57に及ぼすトルクによるクランクシャフト41の停止位置の変化を補正するようにMG1トルクを制御する。つまり、ECU9は、第1停止位置制御では、モータMG1から変速部58における変速に応じたトルクを出力し、クランクシャフト41の停止位置を補正する。
具体的には、ECU9は、図1に示すように、機能概念的にMG1トルク算出部94とF/B補正部95とがハイブリッドECU93に設けられている。
MG1トルク算出部94は、第1停止位置制御における目標のMG1トルクである目標MG1トルクを算出するものである。MG1トルク算出部94は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速がある場合に、変速部58による変速に伴ったイナーシャキャンセル用の目標MG1トルクの算出を行う。ここではMG1トルク算出部94は、変速部58のギヤ段(変速段)に応じて目標MG1トルクを算出する。ハイブリッドECU93は、この変速部58のギヤ段(変速段)に応じた目標MG1トルクに基づいてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御する。
MG1トルク算出部94は、例えば、変速部58による変速前のギヤ段と変速後のギヤ段との関係に基づいて、例えば、MG1トルクマップ(不図示)やモータMG1の回転数変化などから目標MG1トルクを算出する。MG1トルクマップは、例えば、実験等に基づいて予め各ギヤ段と目標MG1トルクとの関係が定められた上で、ハイブリッドECU93の記憶部に記憶されている。ここで、変速部58による変速動作に伴って変速部58側から差動部57側に入力されるトルクは、例えば、変速前後のギヤ段などに応じて定まり、このトルクが作用した際にクランクシャフト41が変動しうる量も変速前後のギヤ段などに応じて定まる。このため、第1停止位置制御におけるMG1トルクの目標値は、変速前後のギヤ段などに応じて定まる。なお、MG1トルク算出部94は、変速前後のギヤ段のほかにアクセル開度(運転者によるアクセルペダルの操作量)や車速等の走行条件、ブレーキ踏力(運転者によるブレーキペダルの操作量)の走行条件などに基づいて目標MG1トルクを算出するようにしてもよい。ハイブリッドECU93は、MG1トルク算出部94が算出した目標MG1トルクに基づいてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行する。
したがって、車両用駆動装置1は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってこの変速部58側から差動部57側に入力するトルクによってエンジン4のクランクシャフト41の停止位置が適正位置から変動しようとした際に、ECU9がMG1トルクを制御し第1停止位置制御を実行することから、変速部58の変速がある場合に変速部58側から差動部57側に入力されるトルクに対して、モータMG1が発生させるMG1トルクがクランクシャフト41に作用することで、停止状態にあるクランクシャフト41のクランク角度が変動することを抑制することができる。これにより、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41の停止位置の変化を補正し、このクランクシャフト41の停止位置が適正位置からずれることを抑制することができる。この結果、車両用駆動装置1は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってこの変速部58側から差動部57側に入力するトルクによってエンジン4のクランクシャフト41の停止位置が変動しようとした場合であっても、クランクシャフト41の停止位置を適正位置にあわせることができ、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショック(エンジン4の始動時のショック)が発生することを抑制することができ、適正にエンジン4を始動することができる。
ここで、本実施形態のECU9は、第1停止位置制御において実際のクランクシャフト41の位置変化、すなわち実際のクランク角度の変化に基づいて第1停止位置制御を行うことで、第1停止位置制御の制御精度の向上を図っている。すなわち、ECU9は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作中にクランクシャフト41に位置変化が生じた場合、言い換えれば、クランク角度に変化が生じエンジン回転数変化が生じた場合に、この変化量に応じてフィードバック制御を行うことで第1停止位置制御を行う。フィードバック制御は、変速部58における変速に応じてMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御の概念に含まれる。
具体的には、F/B補正部95は、クランクシャフト41に位置変化が生じた場合、言い換えればクランク角度に変化が生じ、エンジン回転数変化が生じた場合に、エンジン回転角度であるクランク角度やエンジン回転数変化の情報から第1停止位置制御で出力するMG1トルクを補正するものである。F/B補正部95は、例えば、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作中に上記入力信号に応じたクランク角度、あるいは、エンジン回転数NEに変化が生じた際に、この変化量にフィードバックゲイン(以下、「F/Bゲイン」と略記する。)を掛けた値を補正量として算出する。F/B補正部95は、例えば、変速部58のギヤ段ごとに上記F/Bゲインを設定すればよい。また、F/B補正部95は、例えば、変速部58のギヤ段のほかにアクセル開度や車速等の走行条件、ブレーキ踏力の走行条件などに基づいて上記F/Bゲインを設定するようにしてもよい。
そして、MG1トルク算出部94は、F/B補正部95が算出した補正量を目標MG1トルクに反映させ、すなわち、補正量に基づいて目標MG1トルクを補正する。ハイブリッドECU93は、補正後の目標MG1トルクに基づいてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行する。
ここで、クランク角度の変化量、あるいは、エンジン回転数NEの変化量は、クランクシャフト41の停止位置の適正位置に対するずれ量に相当する。さらに言えば、クランク角度の変化量、あるいは、エンジン回転数NEの変化量は、クランクシャフト41の停止位置の適正位置における適正クランク角度(上記の例では60〜80度)と実際の停止位置における実クランク角度との偏差に相当する。
つまり、F/B補正部95は、適正クランク角度と実クランク角度との偏差に基づいて第1停止位置制御における目標制御トルクの補正量を算出し、MG1トルク算出部94は、これを目標制御トルクに反映させる。すなわち、ハイブリッドECU93は、適正クランク角度と実クランク角度との偏差に基づいて、モータMG1が発生させるMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の実際の停止位置である実クランク角度を調節する第1停止位置制御を実行する。さらに言い換えれば、ハイブリッドECU93は、実クランク角度が適正クランク角度に収束するように実クランク角度のフィードバック制御を行って第1停止位置制御を実行する。この結果、車両用駆動装置1は、第1停止位置制御の制御精度を向上させることができ、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショックが発生することを抑制することができ、適正にエンジン4を始動することができる。
次に、図7のタイムチャートを参照して、本実施形態に係るECU9による制御の一例を説明する。図7は、横軸を時間軸、縦軸をMG2回転数、MG1トルク、エンジン回転数、クランク角度、MG1回転数、変速部油圧としての開放油圧Pb1及び係合油圧Pb2としている。MG2回転数は、モータMG2のロータ回転数、MG1回転数は、モータMG1のロータ回転数である。開放油圧Pb1、係合油圧Pb2は、変速部58の油圧式の係合要素であるクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2を作動させるいずれかの油圧室(不図示)の油圧である。例えば、変速部58において第2速から第3速へのアップシフトが実行される場合、クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2のうちブレーキB1が係合状態から開放状態となり、クラッチC2が開放状態から係合状態となる。したがって、この場合、ブレーキB1を作動させる油圧室の油圧が開放油圧Pb1、クラッチC2を作動させる油圧室の油圧が係合油圧Pb2となる。
図7の例では、車両2のモータ走行(EV走行)中に時刻t1にて変速部58に対する変速要求が生じると、変速部58における開放油圧Pb1、係合油圧Pb2の油圧制御が開始され、開放油圧Pb1が低下し、係合油圧Pb2が増加する。そして、油圧制御がすすみ、MG2回転数の変速中、すなわち、MG2回転数の変化があるイナーシャ相開始時刻t2からイナーシャ相終了時刻t3までの間において、ECU9によってMG1トルクが制御され第1停止位置制御が実行される。この結果、変速に伴って変速部58側から差動部57側に入力されるトルクに対して、MG1トルクがクランクシャフト41に作用することで、停止状態にあるクランクシャフト41のクランク角度が変動することが抑制される。このとき、ECU9は、例えば図中実線で示すように、第1停止位置制御において実際のクランクシャフト41の位置変化、すなわち実際のクランク角度の変化に基づいてフィードバック制御を行うことで、例えば、図中点線で示す当該フィードバック制御を実行しない場合と比較して、第1停止位置制御の制御精度を向上させることができ、クランクシャフト41の実クランク角度が適正クランク角度からずれることをより確実に抑制することができる。
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態に係るECU9による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
ECU9のハイブリッドECU93は、上記の各種入出力信号に基づいて、車両2がEV走行中、すなわち、モータ走行中であるか否かを判定する(ST1)。なお、ハイブリッドECU93は、この車両2がEV走行中か否かの判定にかえてエンジン4が非作動状態であるか否かの判定をおこなってもよい。
ハイブリッドECU93は、車両2がEV走行中であると判定した場合(ST1:Yes)、上記の各種入出力信号に基づいて、変速部58による変速中であるか否かを判定する(ST2)。ハイブリッドECU93は、例えば、車速とアウトプットトルクとで示される車両状態が図5で示したモータ走行領域A内でアップシフト線又はダウンシフト線を通過したか否かに基づいて、現在、変速部58による変速中であるか否かを判定することができる。
ハイブリッドECU93は、変速部58による変速中であると判定した場合(ST2:Yes)、変速部58のギヤ段などに基づいて変速に伴って変速前後でのクランク角度の変化量が予め設定される所定量より大きくなるか否か、例えば、変速前のクランク角度と変速後のクランク角度との差分の絶対値が予め設定される角度閾値より大きくなるか否かを判定する(ST3)。なおここでは、ハイブリッドECU93は、クランク角度を示す入力信号に基づいて、変速前のクランク角度と変速後のクランク角度との差分の絶対値が角度閾値以上に変化したか否かを判定してもよいし、エンジン回転数NEを示す入力信号に基づいてエンジン回転数NEが予め設定される回転数閾値以上になったか否かを判定してもよい。
ハイブリッドECU93は、変速に伴って変速前後でのクランク角度の変化量が所定量より大きくなると判定した場合(ST3:Yes)、MG1トルク算出部94が変速前後のギヤ段などに基づいて目標MG1トルクを算出すると共に、F/B補正部95が変速部58のギヤ段などに基づいてF/Bゲインを設定する(ST4)。
次に、ハイブリッドECU93は、F/B補正部95が各種入力信号に応じた変速前後でのクランク角度(あるいは、エンジン回転数NE)の変化量にF/Bゲインを掛けた値を補正量として算出し、MG1トルク算出部94がこの補正量に基づいて目標MG1トルクを補正する(ST5)。そして、ハイブリッドECU93は、補正後の目標MG1トルクに基づいてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御し、クランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行し、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
ハイブリッドECU93は、ST1にて車両2がEV走行中でないと判定した場合(ST1:No)、ST2にて変速部58による変速中でないと判定した場合(ST2:No)、又は、ST3にて変速に伴って変速前後でのクランク角度の変化量が所定量以下であると判定した場合(ST3:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
以上で説明した実施形態に係る車両用駆動装置1によれば、モータMG1と車両2の駆動輪3に伝達される動力を発生するエンジン4とが連結されモータMG1が制御されることで差動状態が制御される差動部57と、差動部57に連結される変速部58とを有し、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってこの変速部58側から差動部57側に入力するトルクによってエンジン4のクランクシャフト41の停止位置が変動しうる動力伝達装置5と、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速がある場合に、この変速に応じてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御することでクランクシャフト41の停止位置を調節する第1停止位置制御を実行可能なECU9とを備える。したがって、車両用駆動装置1は、エンジン4を停止して走行する状態で変速部58による変速動作に伴ってクランクシャフト41の停止位置が変動しようとした場合であっても、クランクシャフト41の停止位置を適正位置にあわせることができ、適正にエンジン4を始動することができる。
なお、ECU9は、上述したように、変速部58の変速中に第1停止位置制御を実行するが、この変速部58の変速中に第1停止位置制御を完了させることが好ましい。すなわち、ECU9は、第1停止位置制御において、変速部58の変速中にクランクシャフト41の停止位置の調節を完了することが好ましい。これにより、車両用駆動装置1は、変速部58の変速中にクランクシャフト41の停止位置を適正位置にあわせ終わることができ、例えば、変速部58の変速直後にエンジン4の始動要求が生じる場合であっても、即座に適正にエンジン4を始動することができる。またこの場合、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41の停止位置のずれ自体が実質的に生じにくくなるので始動ショックだけでなく変速ショック(変速部58の変速時のショック)も低減することができる。
また例えば、ECU9は、運転状態に応じて第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを制限するようにしてもよい。ECU9は、例えば、変速部58のギヤ段に応じて第1停止位置制御で出力可能なMG1トルクを制限する。車両用駆動装置1は、変速部58のギヤ段(変速段)としてLo側のギヤ段が選択されている場合、Hi側のギヤ段が選択されている場合と比較して、変速部58に入力されるトルクの変動に対して変速部58から出力されるトルクの変動が相対的に大きくなる傾向にある。このため、車両用駆動装置1は、変速部58のギヤ段(変速段)が、相対的に大きな変速比が割り当てられた所定のギヤ段、例えば、第1速や第2速などの相対的にLo側のギヤ段である場合、第3速や第4速などの相対的にHi側のギヤ段である場合と比較して、第1停止位置制御でモータMG1がMG1トルクを発生させた際に、このMG1トルクが変速部58を介して駆動輪3側に与える影響が相対的に大きくなる傾向にある。
この場合、ECU9は、例えば、第1停止位置制御を実行する際の変速部58のギヤ段が、相対的に大きな変速比が割り当てられた所定のギヤ段である場合に、第1停止位置制御においてモータMG1が発生させるMG1トルクを制限するとよい。これにより、このECU9は、変速部58のギヤ段が予め設定される所定のギヤ段よりLo側のギヤ段(変速比が大きくなる側のギヤ段)である場合に、第1停止位置制御で出力するMG1トルク(絶対値の最大値)をギヤ段に応じて制限することで、第1停止位置制御でモータMG1がMG1トルクを発生させた際に、このMG1トルクが変速部58を介して駆動輪3側に与える影響を制限することができる。この結果、車両用駆動装置1は、例えば、ドライバビリティの悪化を低減することができる。ここでは上記の所定のギヤ段は、ドライバビリティなどに応じて予め設定しておけばよい。またこの場合、ECU9は、ハイブリッドECU93のF/B補正部95が変速部58のギヤ段やドライバビリティなどに応じてMG1トルクが制限される側にFBゲインを補正することで、第1停止位置制御で出力可能なMG1トルクを制限してもよいし、MG1トルク算出部94が変速部58のギヤ段やドライバビリティなどに応じて目標MG1トルクを制限することで、直接的に第1停止位置制御で出力可能なMG1トルクを制限してもよい。つまり、ECU9は、変速部58のギヤ段、あるいは、ドライバビリティに基づいて第1停止位置制御で出力するMG1トルク、あるいは、FBゲインを可変としてもよい。
また、ECU9は、例えば、第1停止位置制御の学習制御を行うことで第1停止位置制御の制御精度をより向上することも可能である。ECU9は、第1停止位置制御の終了後に実際のクランクシャフト41の停止位置が予め設定された適正位置からずれている場合、このずれ量に基づいて次回の第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを補正する。この結果、車両用駆動装置1は、第1停止位置制御の制御精度を向上することができる。この場合、ECU9は、ハイブリッドECU93のF/B補正部95が第1停止位置制御の終了後の実クランク角度と適正クランク角度との偏差に基づいてFBゲインを補正することで、次回の第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを補正してもよいし、MG1トルク算出部94が上記偏差に基づいて目標MG1トルクを補正することで、直接的に次回の第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを補正してもよい。つまり、ECU9は、第1停止位置制御の終了後の実クランク角度と適正クランク角度との偏差に基づいて次回の第1停止位置制御で出力するMG1トルク、あるいは、FBゲインを可変としてもよい。
ここで、ECU9は、上記で説明したように、変速部58の変速中に第1停止位置制御を完了させることが好ましいが、種々の条件、例えば、第1停止位置制御で出力可能なMG1トルクが制限された場合などに、変速部58の変速中に第1停止位置制御が完了せず、変速部58の変速中にクランクシャフト41の停止位置を適正位置にあわせきれない場合がある。この場合、ECU9は、下記で例示するような処理を実行することで、より適正にエンジン4を始動させることができる。なお、以下で説明する変速中に第1停止位置制御が完了しなかった場合の処理は、第1停止位置制御で出力可能なMG1トルクが制限された場合に限られない。
ECU9は、第1停止位置制御において、変速部58の変速中にクランクシャフト41の停止位置の適正位置への調節が完了しなかった場合、言い換えれば、変速部58の変速の終了後にクランクシャフト41の停止位置(実クランク角度)が予め設定された適正位置(適正クランク角度)からずれている場合、例えば、単位時間当たりの停止位置の調節量を相対的に低減して変速部58の変速終了後もクランクシャフト41の停止位置の調節を継続する。ECU9は、第1停止位置制御が変速終了後も継続的に実行される場合に、単位時間当たりのクランクシャフト41の停止位置の調節量を相対的に低減し、言い換えれば、単位時間当たりに出力するMG1トルクの絶対値を相対的に低減して第1停止位置制御を実行することで、MG1トルクが変速部58を介して駆動輪3側に与える影響を抑制することができる。この結果、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショックを抑制することができると共にドライバビリティの悪化を低減することができ、適正にエンジン4を始動させることができる。この場合、ECU9は、ハイブリッドECU93のF/B補正部95が変速終了後の第1停止位置制御におけるFBゲインを補正することで、変速終了後の第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを徐々に減少させてもよいし、MG1トルク算出部94が目標MG1トルクを補正することで、変速終了後の第1停止位置制御でモータMG1が発生させるMG1トルクを徐々に減少させてもよい。
ここで、図9のタイムチャートを参照して、本実施形態に係るECU9による制御の他の一例を説明する。図9の例では、車両2のモータ走行(EV走行)中に時刻t1にて変速部58に対する変速要求が生じると、変速部58における開放油圧Pb1、係合油圧Pb2の油圧制御が開始される。そして、イナーシャ相開始時刻t2からイナーシャ相終了時刻t3までの間において、ECU9によってMG1トルクが制御され第1停止位置制御が実行される。このとき、ECU9は、例えば図中実線で示すように、第1停止位置制御において実際のクランクシャフト41の位置変化、すなわち実際のクランク角度の変化に基づいてフィードバック制御を行うことで、例えば、図中点線で示す当該フィードバック制御を実行しない場合と比較して、第1停止位置制御の制御精度を向上させることができる。そして、この図9の例では、ECU9は、第1停止位置制御においてモータMG1が発生させるMG1トルクを制限することでドライバビリティの悪化を低減している。このため、変速終了時刻t3では、クランク角度の変動を全て取り除くことができていないが、ECU9は、変速終了後に単位時間当たりの停止位置の調節量を相対的に低減してクランクシャフト41の停止位置の調節を継続することで、ドライバビリティの悪化を低減しつつ、最終的にクランクシャフト41の実クランク角度を適正クランク角度にあわせることができる。
また、ECU9は、変速部58の変速中にクランクシャフト41の停止位置の適正位置への調節が完了しなかった場合などにおいて、車両2が停止した状態かつエンジン4が停止した状態で、実際のクランクシャフト41の停止位置が予め設定された適正位置からずれている場合、例えば、第2停止位置制御を実行する。この場合、ECU9は、ハイブリッドECU93が動力伝達装置5から駆動輪3への動力の伝達を遮断した非伝達状態としてモータMG1が発生させるMG1トルクを制御することでクランクシャフト41の停止位置を調節する第2停止位置制御を実行する。ここで、動力伝達装置5から駆動輪3への動力の伝達を遮断した非伝達状態とは、例えば、変速部58におけるニュートラル状態やいわゆるパーキングブレーキがかかった状態などである。ECU9は、車両2が停止した状態かつエンジン4が停止した状態で、実クランク角度が適正クランク角度からずれており第2停止位置制御を実行する場合、動力伝達装置5から駆動輪3への動力の伝達を遮断した非伝達状態とすることで、MG1トルクが変速部58を介して駆動輪3側に伝達されること自体を防止することができ、MG1トルクが変速部58を介して駆動輪3側に影響を与えることを防止することができる。この結果、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショックを抑制することができると共にドライバビリティの悪化を防止することができ、適正にエンジン4を始動させることができる。なお、ECU9は、例えば、車両2が赤信号で停止しているときなど、しばらくはエンジン4の始動がないと予測できるときに第2停止位置制御を実行するとよく、典型的には、運転者によるブレーキ操作がONとなっている場合などに第2停止位置制御を実行するとよい。
なお、ECU9は、基本的には、エンジン4の始動前までに第1停止位置制御や第2停止位置制御によってクランクシャフト41の停止位置の適正位置への調節を完了させることが好ましいが、例えば、蓄電装置7の蓄電状態SOCなどによっては、クランクシャフト41の停止位置の調節完了をまたずにエンジン4の始動要求が生じる場合がある。このため、ECU9は、車両2が停止した状態かつエンジン4が停止した状態で、エンジン4の始動前に実際のクランクシャフト41の停止位置が予め設定された適正位置からずれている場合、ハイブリッドECU93がエンジンECU91、有段変速機ECU92などを介して、動力伝達装置5から駆動輪3への動力の伝達を遮断した非伝達状態としてエンジン4を始動する。この結果、車両用駆動装置1は、クランクシャフト41の停止位置の調節完了をまたずにエンジン4の始動要求が生じる場合であっても、クランクシャフト41のクランキング時に始動ショックを抑制することができ、適正にエンジン4を始動させることができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両用駆動装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
例えば、動力伝達装置は、上記の構成に限られず、要するに機関を停止して走行する状態で変速部による変速動作に伴って当該変速部側から差動部側に入力するトルクによって機関の出力軸の停止位置が変動しうる構成であればよい。また、差動部、変速部も同様に上記の構成に限られない。
また、以上の説明では、機関は、内燃機関であるものとして説明したが、例えば、スターリングエンジンなどの外燃機関等であってもよい。