以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.レーザ加工装置の構成>
まず、図1および図2に基づいて、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置100の構成について説明する。なお、図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置100の構成を示す説明図である。図2は、本実施形態に係るレーザ加工装置100の機能構成を示すブロック図である。
[装置構成]
まず、図1に基づいて、本実施形態に係るレーザ加工装置100の装置構成について説明する。本実施形態に係るレーザ加工装置100は、図1に示すように、レーザ光を照射するレーザ照射装置110と、レーザ加工装置100を制御する制御装置120とを備える。
レーザ照射装置110は、被加工物である耐火レンガ炉壁に対してレーザ光を照射する装置であって、図1のレーザ光出力部U0と、レーザ加工ヘッド部U1と、加工観察部U2とからなる。
レーザ光出力部U0は、制御装置120からの照射指示に基づいて、光ファイバ111を介してレーザ加工ヘッド部U1へレーザ光を出力する。本実施形態に係るレーザ照射装置110のレーザの種類は特に問わないが、例えばファイバレーザやYAGレーザ、CO2レーザを用いることができる。以下では、ファイバレーザを用いる場合について説明する。
レーザ加工ヘッド部U1は、耐火レンガ炉壁に対してレーザ光を出力するユニットであり、コリメータヘッド112、反射ミラー113、および集光レンズ114から構成される。光ファイバ111を介してレーザ光出力部U0から入力されたレーザ光は、コリメータヘッド112により平行ビーム5に変換される。平行ビーム5は、反射ミラー113で反射され、集光レンズ114で集光された後、透過ウィンドウ115および加工アシストエアを噴射する加工ノズル116を通過して、高温の耐火レンガ10の加工位置15に照射される。
加工観察部U2は、レーザ加工の状態を観察するユニットであって、発光強度測定器117、レンズ118、および光学フィルタ119から構成される。加工観察部U2は、反射ミラー113の後方(反射ミラー113に対して集光レンズ114と反対側)に設けられている。発光強度測定器117は、レーザ光と同軸後方から、レーザ照射点の発光強度を計測する機器であって、例えばCCDカメラやフォトダイオードを用いることができる。以下では、発光強度測定器117としてCCDカメラを用いる場合について説明する。この場合、レーザ加工の状態(例えば、加工の進行具合等)の評価には、レーザ照射点の発光の平均値を発光強度として用いるのがよい。
レンズ118は、CCDカメラのレンズである。また、光学フィルタ119は、加工に用いるレーザの波長を遮断するとともに、発光点の輝度を減光するフィルタである。光学フィルタ119は、レーザ照射点の発光強度を測定する際に、加工に使用されているレーザ自体の光が測定に影響を及ぼすことを防止するため、そして、発光輝度によりCCDカメラのゲインの飽和を防止するために設けられる。加工観察部U2の発光強度測定器117は、ケーブルにより制御装置120と接続されている。CCDカメラを用いて発光輝度を計測する方法としては、予め発光輝度のしきい値を設定しておき、計測時にしきい値以上の輝度情報をもつCCDカメラセルの輝度値のみを積分する方法などを用いることができる。
レーザ照射装置110のレーザ加工ヘッド部U1および加工観察部U2は、高温となっている耐火レンガ10の熱輻射の影響を軽減するため、水冷機構(図示せず。)を備えた断熱冷却ボックス105に収容されていることが好ましい。このとき、断熱冷却ボックス105内にはパージガスが供給される。また、断熱冷却ボックス105は、マニピュレータ(図14の符号106)によって上下左右に移動可能に設けられている。
制御装置120は、レーザ照射装置110の加工観察部U2の発光強度測定器117からの入力情報に基づいて、耐火レンガ10に照射するレーザ光の出力強度を決定し、レーザ照射装置110のレーザ光出力部U0へ照射指示を行う。また、制御装置120は、レーザ照射装置110を移動させる移動機構の制御も行う。制御装置120の機能構成については、後述する。
[機能構成]
次に、図2に基づいて、本実施形態に係るレーザ加工装置100の機能構成について説明する。レーザ加工装置100は、切断位置決定装置220により決定された切断ラインに基づいて、耐火レンガ炉壁を切断する。破孔検出装置210により耐火レンガ炉壁に破孔Hが検出されると、切断位置決定装置220は、破孔Hを塞ぐ補修をするため、破孔Hの周辺を整形切断する切断ラインを決定し、レーザ加工装置100へ出力する。レーザ加工装置100は、図2に示すように、レーザ照射装置110と、制御装置120と、レーザ照射装置110を移動させる移動機構130とを備える。
レーザ照射装置110は、制御装置120からの照射指示に基づいて、被加工物に対してレーザ光を照射する装置であり、図1に示したように構成されている。レーザ照射装置110は、発光強度測定器117により、レーザ加工の状態を評価する値として、レーザ照射点における発光強度を制御装置120へ出力する。
制御装置120は、図2に示すように、位置制御部121と、照射制御部122と、出力強度決定処理部123と、レーザ情報記憶部124と備える。位置制御部121および照射制御部122は、移動機構130およびレーザ照射装置110を駆動制御する駆動制御部である。また、出力強度決定処理部123は、耐火レンガ炉壁を整形切断する前に、予備加工を実施して、整形切断時のレーザによる切断条件を決定する加工条件決定処理部である。
位置制御部121は、レーザ照射装置110を移動させる移動機構130を制御する。位置制御部121は、被加工物の加工位置に応じてレーザ照射装置110を移動させる移動機構130、例えばマニピュレータ(図14の符号106)を制御する。そして、位置制御部121は、移動機構130の駆動情報を受けて、レーザ照射装置110の位置を認識し、次の移動機構130の駆動制御に利用する。
照射制御部122は、レーザ照射装置110へレーザ光の照射指示を行う。例えば、照射制御部122は、出力強度決定処理部123の指示に基づいて、耐火レンガ10を加工する際のレーザ光の出力強度を決定する予備照射を行うための照射指示をレーザ照射装置110に行う。また、照射制御部122は、切断位置決定装置220により決定された被加工物の加工位置(切断ライン)に従って、出力強度決定処理部123により決定された出力強度でレーザ光を出力するようレーザ照射装置110に指示する。
また、照射制御部122には、発光強度測定器117から測定結果(例えば、レーザ照射点における発光強度)が入力される。照射制御部122は、発光強度測定器117の測定結果より、耐火レンガ10が貫通したか否かを判定することができ、また、正常に耐火レンガ10の加工が行われているか否かを判断することができる。なお、予備照射時は、照射制御部122は、入力された発光強度測定器117の測定結果を、出力強度決定処理部123へ出力する。
出力強度決定処理部123は、耐火レンガ炉壁を整形切断する前に、予備加工を実施して、整形切断時のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)を決定する。出力強度決定処理部123は、出力強度決定部1231と、タイマー部1232と、カウント部1233とを備える。
出力強度決定部1231は、予備照射による耐火レンガ炉壁のレーザ加工の状態に基づいて、整形切断時のレーザ光の出力強度を決定する。出力強度決定部1231は、切断ライン上の任意の位置において、耐火レンガ10が貫通するまでレーザを照射する予備加工を行う。そして、出力強度決定部1231は、例えば、予備加工におけるレーザの照射時間をタイマー部1232から取得し、あるいは、予備加工におけるレーザパルスの照射回数をカウント部1233から取得する。そして、出力強度決定部1231は、後述するレーザ情報記憶部124を参照して、取得した値に基づき、整形切断時における適切なレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)を決定する。この際、出力強度決定部1231は、予備加工のための照射指示を照射制御部122へ出力し、発光強度測定器117の検出結果を照射制御部122から受け取る。
タイマー部1232は、出力強度決定部1231の測定開始指示に従って経過時間の測定を開始し、測定停止指示に従って測定を停止して、測定した経過時間を出力強度決定部1231へ通知する。本実施形態では、タイマー部1232予備加工において、耐火レンガ10へのレーザ照射開始時点から耐火レンガ10が貫通するまでの時間を測定する。また、カウント部1233は、出力強度決定部1231のカウント開始指示に従ってレーザパルスの照射回数のカウントを開始し、カウント停止指示に従ってカウントを停止して、カウント数を出力強度決定部1231へ通知する。本実施形態では、カウント部1233予備加工において、耐火レンガ10が貫通するまでに照射されたレーザパルス数を測定する。なお、出力強度決定処理部123は、タイマー部1232またはカウント部1233のうち少なくともいずれか一方を備えていればよい。
レーザ情報記憶部124は、予め取得された予備照射の結果と耐火レンガの厚みとの関係を記憶する。レーザ情報記憶部124は、例えば、後述する図6または図8のような予備照射の結果と耐火レンガの厚みとの関係を記憶している。図6および図8は後述の実施例と同じレーザ出力、集光スポット径、アシストエア条件で、実施例の切断と同様に高温(1000℃)の状態の耐火レンガを切断して得たものである。かかる情報は、図9に基づいて後述する実験により予め取得され、レーザ情報記憶部124に記憶されている。このような情報は、照射制御部122や出力強度決定処理部123により参照され、正常にレーザ加工が行われているかの判断や、整形切断時のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)の決定に用いられる。
このようなレーザ加工装置100によって加工するコークス炉の耐火レンガ炉壁は、長期間にわたる使用によって、耐火レンガ表面が部分的に約10mm以上の深さで摩耗や欠落損傷している場合が多く、レーザ整形する場合において、切断対象となる耐火レンガの厚みが必ずしも一定ではない。また、レンガ表面には、コークスの製造過程でカーボンが付着している部位が存在し、当該部位ではレーザ光の吸収状態が無垢のレンガ表面とは異なるため、カーボンの付着の有無に応じてレーザ加工速度(切断可能速度)が異なる。ここで、一定の厚みの材料を切断する従来のレーザ切断であれば、予め定めたレーザ出力やレーザ集光条件、レーザ操作速度等を精緻に設定することで、被切断材料の裏面から透過する過剰なレーザ出力を極力小さくする所望のレーザ条件を設定することが可能である。
しかし、上述したように、残存厚みが部位により異なり、かつ残存厚みが不明である耐火レンガの切断においては、一定の切断条件を設定するだけではレーザ光が耐火レンガの裏面に透過する状態が切断部位に応じて常に変化するため、裏面を透過するレーザ出力を抑制することができない。すなわち、切断裏面から透過する過剰なレーザ出力を低く抑えるための、一定のレーザ切断条件が存在しない。そこで、本実施形態に係るレーザ加工装置100では、整形切断前に、予備加工により切断位置における耐火レンガの残存厚みを推定して整形切断時のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)を決定する。これにより、整形切断において、耐火レンガ後方へ透過する過剰なレーザ出力を極力低下させることができる。
<2.レーザ加工方法>
以下、図3に基づいて、本実施形態に係るレーザ加工装置100を用いたレーザ加工方法について説明する。なお、図3は、本実施形態に係るレーザ加工装置100を用いたレーザ加工方法を示すフローチャートである。
レーザ加工装置100によるレーザ加工を開始する前に、レーザによる切断位置を決定する。本実施形態では、耐火レンガ炉壁の破孔Hの周囲を整形するためにレーザ加工装置100による切断が行われる。このため、まず、破孔検出装置210により、耐火レンガ炉壁の表面をスキャンして(ステップS100)、当該炉壁に生じた破孔Hを検出する(ステップS110)。破孔検出装置210は、破孔Hが検出されない間は、炉壁のスキャンを継続する。
一方、破孔検出装置210により、例えば図4に示すような破孔Hが検出されると、切断位置決定装置220は、耐火レンガ炉壁の切断地位を決定する(ステップS120)。切断位置は、はめ込みレンガの形状等に基づき、破孔Hをその内部におおよそ含むような切断ラインにより特定することができる。例えば図4に示すように、z方向(上下方向)については破孔Hの破断面と略同一位置を切断位置し、またx方向(左右方向)については耐火レンガ10のz方向における中間位置を切断位置とすることで、切断ラインL1、L21、L22、L3、L41、L42からなる略矩形状の切断位置を設定することができる。切断位置決定装置220により耐火レンガ炉壁の切断位置が決定されると、耐火レンガ炉壁の切断位置がレーザ加工装置100に通知され、レーザ加工装置100による整形切断が開始される。
本実施形態に係るレーザ加工では、耐火レンガ炉壁を整形切断する前に、整形切断時のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)を決定する予備加工が行われる(ステップS130)。予備加工は、整形切断時に、切断位置における耐火レンガ10を確実に切断でき、かつ、レーザ加工装置100からみて加工対象である耐火レンガ炉壁の奥にある他の耐火レンガには到達しない程度のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)を決定する。具体的には、レーザ加工装置100は、切断位置の耐火レンガの残存厚みを推定し、レーザ情報記憶部124を参照して、推定した残存厚みを有する耐火レンガ10を切断する適正なレーザ出力および切断速度を決定する。
切断位置における耐火レンガ10の残存厚みの推定は、例えば、耐火レンガ10へのレーザ光照射開始から耐火レンガ10を貫通するまでに要した時間や、耐火レンガ10を貫通させるまでに出力したレーザパルスの照射回数に基づいて行うことができる。
まず、耐火レンガ10の残存厚みを推定するためには、耐火レンガ10の貫通したことを検知することが必要である。例えば、レーザ光の照射による耐火レンガ表面からの発光強度より特定することができる。ここで、図5に、レーザ光の出力と、耐火レンガ表面からの発光強度との関係を示す。
レーザ光が耐火レンガ10に照射されると、耐火レンガ表面近傍でレーザ光が吸収されて、耐火レンガ表面の温度が上昇し、溶融あるいは蒸発温度に到達する。この間、レーザ光照射点近傍の発光は、該当部の温度上昇に伴い、発光強度を増加させ、図5の期間T1のように発光強度は変化する。その後、レーザ光の照射を継続することにより、耐火レンガ10の厚み方向への掘削が進行するが、かかる期間T2では、耐火レンガ表面では主に掘削中の穴底部からの発光が観測されるので、図5に示すように、発光強度は略一定の値で推移する。
そして、レーザ光が耐火レンガ10の裏面に到達し、耐火レンガ10に貫通孔が生じると、レーザ光照射により加熱される部位が貫通孔の周囲部のみに減少するため、耐火レンガ表面の発光強度が急減する(期間T3)。その後はレーザ光の照射を継続しても、切断カーフ周囲の加熱による発光強度の弱い状態となる(期間T4)。このような耐火レンガ表面からの発光強度の変化に基づき、耐火レンガ10が貫通した時点を特定することができる。
かかる技術を用いて、例えば、レーザ光の照射開始から耐火レンガ10が貫通するまでの時間(照射時間)を測定することが可能となる。ここで、レーザ光の出力強度を一定にした場合、一般に、耐火レンガ10の厚みが大きい程、耐火レンガ10を貫通させるためのレーザ光の照射時間は長くなる。例えば、レーザ出力を10kW、集光径を0.5mmとしたときの耐火レンガ10の厚みと貫通までのレーザ光の照射時間との間には、図6に示すような略比例関係がある。かかる関係より、耐火レンガ10を貫通させるまでのレーザ光の照射時間より、耐火レンガ10の残存厚みを推定することが可能となる。
また、例えば、予備加工において、レーザパルスを耐火レンガ10に照射し、レーザ照射開始から耐火レンガ10が貫通するまでの照射回数を測定することも可能となる。耐火レンガに照射されたレーザパルスの照射回数が増加する程、耐火レンガ10の掘削は進行する。そして、耐火レンガ表面の発光強度より、耐火レンガ10が貫通したことを検出することができる。例えば、レーザパルスを耐火レンガ10に照射したときの、照射回数と、照射点における耐火レンガ表面の発光強度の平均値との関係を図7に示す。ここでは、レーザ出力10kWのレーザパルスを、レーザパルス時間30msecで繰り返し照射した。図7に示すように、レーザパルス照射回数が25回までは略一定の発光強度が検出されていたが、25回を過ぎると発光強度が急減した。図5に示した加工状態とレーザの発光強度との関係より、25回レーザパルスを照射したとことで、耐火レンガ10が貫通したことがわかる。
このように、耐火レンガ10を貫通させるために必要なレーザパルスの照射回数と、レンガ厚みとの関係を調べると、図8に示すように比例関係があることがわかった。耐火レンガ10の厚みが大きくなるにつれてレーザパルスの照射回数も増加する。また、図8より、1回のレーザパルス照射で加工される耐火レンガ10の深さは約3.0mmであることがわかった。したがって、耐火レンガ10を貫通されるまでに照射されたレーザパルスの照射回数を測定することで、耐火レンガ10の残存厚みを推定することが可能となる。
図3の説明に戻り、ステップS130の予備加工は、切断位置の通知を受けたレーザ加工装置100の照射制御部122が、出力強度決定処理部123に対して整形切断時のレーザによる切断条件(出力強度および切断速度)の決定処理の開始を指示することにより開始される。照射制御部123は、耐火レンガ10に対して、予め設定された予備加工時における所定のレーザ出力(例えば10kW)で、レーザを連続照射、あるいはパルス照射するよう照射制御部122に指示する。
照射制御部122は、レーザ照射装置110を駆動して、照射位置の耐火レンガ10が貫通するまで耐火レンガ10に対してレーザを照射する。このとき、出力強度決定処理部123では、レーザを連続照射する場合にはタイマー部1232により照射時間を測定し、レーザをパルス照射する場合にはカウント部1233により照射回数を測定する。そして、発光強度測定器117により測定される耐火レンガ表面の発光強度が所定値以下となったとき、照射制御部122は耐火レンガ10が貫通したと判定し、出力強度決定処理部123に判定結果を通知する。耐火レンガ10の貫通の通知を受けた出力強度決定処理部123の出力強度決定部1231は、耐火レンガ10が貫通するまでの照射時間をタイマー部1232から取得し、あるいは、耐火レンガ10が貫通するまでの照射回数をカウント部12333から取得する。
出力強度決定部1231は、取得した照射時間に基づいて、レーザ情報記憶部124に予め記憶されているレーザの照射時間と推定されるレンガ厚みとの関係より、レーザの予備加工位置における耐火レンガ10の残存厚みを推定する。照射回数を取得した場合には、出力強度決定部1231は、レーザ情報記憶部124に予め記憶されているレーザの照射回数と推定されるレンガ厚みとの関係より、レーザの予備加工位置における耐火レンガ10の残存厚みを推定することができる。
そして、出力強度決定部1231は、推定された残存厚みの耐火レンガ10を整形切断するときの適正なレーザ切断条件(レーザ出力、切断速度)を決定する。レンガ厚みとレーザ切断条件との関係については、予めレーザ情報記憶部124に記憶されており、出力強度決定部1231は、推定したレンガ厚みに関連付けられたレーザ切断条件をレーザ情報記憶部124から取得して、整形切断時のレーザ切断条件を決定することができる。
[レーザ切断条件の設定]
ここで、適正なレーザ切断条件の設定方法の一例を説明する。レーザ加工における適正なレーザ切断条件は、図9に示す装置を用いて実験的に決定することができる。まず、加熱炉300中に切断用レンガ(切断試験レンガ12)を設置し、加熱炉300を約1000℃まで加熱した。加熱温度は、実炉における耐火レンガ切断時の温度に近い温度とする。例えば、実炉が1000℃に加熱される場合には、実験においては加熱炉300の温度を約700〜1300℃の範囲に設定すればよく、これにより、実炉と同等の切断性で検証することができる。
次いで、加熱炉300の前後の扉201、202を開放し、前面からレーザ光を照射し、後面にレーザ出力計を設置して後方でのレーザ出力を計測した。当該実験では、レーザ出力10kWを連続出力し、レーザ集光径を0.5mmとして切断試験レンガ12の表面に集光焦点が位置するように焦点位置を調整した。このとき、ノズル先端からは200L/分でドライエアを噴射させて切断を行った。
このような条件においてレーザ加工ヘッド部U1を速度V(mm/分)で移動させて、切断時に切断試験レンガ12の裏面で観測されるレーザ出力を計測した。このとき、切断試験レンガ12裏面のレーザ出力計も、レーザ加工ヘッド部U1と同期して移動させて、レーザ出力を計測した。
本実験では、過剰でないレーザ切断条件を、隣接する耐火レンガ炉壁に損傷を与えないこととした。すなわち、切断試験レンガ12の裏面のレーザ出力計による計測値が1kW以下の条件を適正なレーザ切断条件として設定した。そして、切断試験レンガ12の厚みを20mmから150mmまで、10mmずつ変化させて、レーザ出力計による計測値(すなわち、切断試験レンガ12の裏面からのレーザの透過出力)が1kW以下となる切断速度Vを決定した。
このようにして、切断試験レンガ12の厚みに対して、レンガ裏面に透過してくる過剰出力の値が1kW以下となる条件が取得されると、これらはレーザ切断条件としてレーザ情報記憶部124に記録される。出力強度決定部1231は、レーザ情報記憶部124に記憶されたレンガ厚みとレーザ切断条件との関係を表すテーブルに基づき、整形切断時のレーザ切断条件を決定することができる。
レーザ切断条件は、レーザ出力(kW)、レーザ集光径(mmφ)、レーザ移動速度(mm/分)、ノズルの口径およびエア噴射量(L/分)の4つの基本パラメータによって決定される。ここで、レーザ集光径やエア噴射量が同一であっても、レーザ出力とレーザ移動速度との組み合わせは無限に存在する。無限にあるレーザ出力とレーザ移動速度との組み合わせから1つの組合せを決定するため、例えば、生産性を高めることについて考慮すると、レーザ移動速度を極力速くするという条件を設定することができる。かかる条件は、切断対象のレンガ厚みを固定値として耐火レンガを切断する場合、レーザ出力が高いほど、レーザ移動速度を速めて切断することができることに基づく。本実験では、レーザ出力を最大(例えば、10kW)に設定してレーザ切断条件を決定することで、レーザ移動速度をより速めている。レーザ移動速度を速めると、切断可能な厚みに対し、裏面に透過してくる過剰出力を減少することができるので、切断位置のレンガ厚みに応じてレーザ移動速度を決定すればよい。
しかし、あまりにレーザ移動速度を速くすると、過剰出力は小さくなるが、安定した切断ができなくなる。そこで、レーザ移動速度の適正範囲は、裏面過剰出力が1kW以下となる速度V1よりも大きく、当該レンガ厚みでの安定切断可能な最大速度V2以下とすることができる。すなわち、
V1<V≦V2
となる。実用上は、例えばレーザ移動速度をV2に設定するようにしてもよい。
また、残存レンガ厚みがあまり薄くなると、レーザ出力を10kWと一定にした条件下では、裏面への過剰出力を1kW以下とするには要求されるレーザ移動速度が速くなり過ぎてしまい、移動機構のハード上の制約が発生し、要求されるレーザ移動速度に設定できない可能性もある。この場合、レーザ情報記憶部124に、例えばレーザ出力を5kWに落としたときの、各レンガ厚みに対するレーザ移動速度、裏面への過剰出力との関係を表すテーブルをさらに記憶させておき、残存レンガ厚みが所定値以下、例えば30mm以下のときには、レーザ出力を10kWから5kWに低下し、レーザ出力が5kWの状態におけるレーザ切断条件を表すテーブルに基づき、裏面への過剰出力が1kW以下となるレーザ切断条件を決定すればよい。
なお、上述したレーザ切断条件の4つの基本パラメータのうち、レーザ出力やレーザ集光径等の条件が異なると、切断試験レンガ12の裏面からのレーザの透過出力が1kW以下となる切断速度Vは異なってくる。この場合にも、上記と同様の方法によって適正なレーザ切断条件を決定することができる。
また、隣接する耐火レンガ炉壁への損傷は、耐火レンガの裏面から透過してくるレーザ出力と、隣接する耐火レンガ炉壁にレーザが照射されるときのレーザ光径(使用する集光レンズや隣接する耐火レンガ炉壁との距離によって決定される)、およびレーザ光の移動速度、すなわち切断速度によって決まる。例えば、焦点距離の短い集光レンズを用いると、切断する耐火レンガの裏面に透過するレーザの広がりは大きく、隣接する耐火レンガ炉壁表面でのレーザ出力密度(kW/cm2)が小さくなり、隣接する耐火レンガ炉壁は加工され難くなる。すなわち、隣接する耐火レンガ炉壁の損傷は小さくなる。
なお、隣接する耐火レンガ炉壁に損傷を与えないレーザ切断条件の設定方法は、1つのレーザ加工装置における一例であって、レーザ加工装置の構成やコークス炉の構成の変化に応じて適宜変化するものである。
図3の説明に戻り、予備加工は、切断位置決定装置200により決定された切断ライン上の1または2以上の位置において行われる。予備加工の複数点で行うことにより、切断ライン上における耐火レンガ10の残存厚みが異なる場合にも、それぞれの厚みに応じて適正なレーザ切断条件で加工することができる。例えば、図4に示すように、切断ラインL1、L21、L22、L3、L41、L42が設定されている場合には、例えば、各ラインの両端位置に当たる点C1〜C4、D1〜D4や、各ラインの中間点等において予備加工を行い、耐火レンガ10の残存厚みを推定してもよい。複数の位置で予備加工を行うことにより、切断ラインにおける耐火レンガ10の厚みの変化を認識することも可能となり、整形切断時のレーザ切断条件をより精度よく設定することができる。
ステップS130により予備加工が行われ、耐火レンガ10の整形切断時のレーザ切断条件が決定されると、照射制御部122は、決定されたレーザ切断条件で耐火レンガ10を切断ラインに沿って切断するようレーザ照射装置110を制御する。このとき、レーザ照射装置110は、位置制御部121により制御される移動機構130により移動される。このようにして、耐火レンガ炉壁が切断位置で整形切断される(ステップS140)。
そして、照射制御部122は、切断ラインにおける耐火レンガ10の整形切断が完了したか否かを判定し(ステップS150)、すべての切断ラインにおける耐火レンガ10の整形切断が完了している場合には、レーザ加工処理を終了する。一方、すべての切断ラインにおける耐火レンガ10の整形切断が完了していない場合には、ステップS130に戻り、予備加工(ステップS130)、耐火レンガ炉壁の整形切断(ステップS140)を繰り返す。なお、図3に示すレーザ加工処理では、1回の処理で切断する切断ライン毎に、予備加工および整形切断を繰り返したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、すべての切断ラインについて予備加工を行った後、耐火レンガ10の整形切断をまとめて行ってもよい。
以上、本実施形態に係るレーザ加工装置100とこれによるレーザ加工方法について説明した。本実施形態によれば、耐火レンガ炉壁に生じた破孔Hの周囲を整形切断する際に、まず、予備加工により切断位置における耐火レンガ10の残存厚みを推定し、推定された残存厚みの耐火レンガ10に対して適正なレーザ切断条件を決定する。そして、決定したレーザ切断条件に基づき耐火レンガ炉壁を切断することにより、過剰なレーザ出力で加工して、切断対象以外の耐火レンガ炉壁に損傷を与えてしまうことを防止できる。
<3.実施例>
本実施形態に係るレーザ加工装置100により、耐火レンガ炉壁をレーザ加工し、その有効性について検証した。レーザ加工装置100は、図1および図2に示した装置を用いた。レーザ加工装置100による加工対象の耐火レンガ炉壁の温度は約1000℃である。また、耐火レンガ炉壁は、図14に示したように、炭化室と燃焼室とを交互に形成するように所定の間隔で設けられている。このとき、破孔Hの生じた加工対象の耐火レンガ炉壁1Bと約500mmの間隔を隔てて、隣接する窯の耐火レンガ炉壁1Cが存在している。
加工対象の耐火レンガ炉壁の破孔H周辺を炭化室側からみると、図4のようになっている。上述したように、破孔Hの形状は、z方向(上下方向)における断面は略平行であるが、x方向(左右方向)における断面はテーパー状となっている。すなわち、図4に示す切断ラインL1およびL3の線方向においては、元の耐火レンガの厚みよりも減肉して薄くなっている部分を切断することになる。
レーザ照射装置110としては、炉外に設置したファイバレーザを用い、レーザ光を光ファイバ111でレーザ加工ヘッド部U1に伝送した。断熱冷却ボックス全体をマニピュレータ106により上下左右に移動させて、レーザ光照射点を操作した。耐火レンガを切断する耐火レンガ炉壁の表面でのレーザ集光スポット径は0.5mmとした。
まず、レーザヘッドを停止した状態で、切断ラインL1の略中間点にレーザヘッドを移動させ、耐火レンガ炉壁にレーザ出力10kWにてレーザ光を照射した。加工ノズル116からは、レーザ光と同軸にレーザ光照射部に向かって約200L/minのドライエアを吹き付け、レーザ加工ヘッド部U1へのスパッタの飛散防止と、耐火レンガ炉壁の裏面から燃焼室へのレーザ光照射点付近におけるレンガ溶融物の排出とを行った。なお、本実施例では、耐火レンガを除去する加工法であり、溶融を効率的に行うために、レーザ光のパワー密度は1000W/mm2以上とすることが望ましい。
レーザ光照射点の発光強度測定には、レーザと同軸に設置された発光強度測定器117としてCCDカメラを用いた。なお、発光強度測定器117としては、CCDカメラ以外にも、例えばフォトダイオード等を用いることができる。レーザ照射点の発光強度は、CCDカメラにより撮像された画像について、レーザ非照射時の輝度値を取り除くために予め設定された輝度閾値以上の輝度信号を検知したCCDカメラセルの輝度値を積分したものとした。レーザ光照射開始から発光強度の変化は、図5に示した通りである。図5の期間Tが貫通時間となる。
ここで、レーザ加工装置100のレーザ情報記憶部124には、図6に示した、予め事前に調査された耐火レンガが貫通するまでの時間とレンガ厚みとの関係が記憶されている。レーザ出力が同一である場合、耐火レンガが貫通するまでの時間はレンガ厚みに比例する。したがって、貫通時間をタイマー部1232で計測することで、レーザ照射位置における耐火レンガの残存厚みを推定することが可能となる。なお、レーザ出力が2kW以下では、耐火レンガの貫通可能深さが100mm未満であった。したがって、100mm以上の耐火レンガを切断する場合には、レーザ出力を2kW以上とすることが望ましい。
本実施例における耐火レンガの貫通時間Tは0.80秒であった。これより、耐火レンガの残存厚みは72mmと推定される。そこで、レーザ加工ヘッド部U1を点C4へ移動させ、レーザ出力10kWで連続出力し、切断速度40mm/分として、レーザ加工ヘッド部U1を点C1まで移動させ、破孔Hの周辺の切断ラインL1での切断を行った。その結果、切断ラインL1は不良部なく切断することができた。また、加工対象の耐火レンガ炉壁に隣接する耐火レンガ炉壁にレーザ光が照射されたことによる損傷も見受けられなかった。さらに切断後に切断面の厚みを計測したところ、切断したレンガの厚みは72mm±2mmの範囲であり、本実施形態に係る方法による残存厚推定が有効であることが確認された。
次に、切断ラインL1の終点C1においてレーザ出力およびレーザ加工ヘッド部U1の移動を一旦停止させた後、切断ラインL21およびL22において予備加工および整形切断を行った。切断ラインL21およびL22は、初期のレンガ厚み(110mm)が残存している可能性が高い部分である。
まず、切断ラインL21の略中間点にレーザ加工ヘッド部U1を移動させてレーザを照射し、実施例1と同様に耐火レンガが貫通するまでの貫通時間を計測した。このときのレーザ照射条件は、レーザ出力10kWの連続出力とし、レーザ集光径は0.5mmとした。加工ノズル116からは、レーザ光と同軸にレーザ光照射部に向かって約200L/minのドライエアを吹き付け、レーザ加工ヘッド部U1へのスパッタの飛散防止と、耐火レンガ炉壁の裏面から燃焼室へのレーザ光照射点付近におけるレンガ溶融物の排出とを行った。レーザ光照射点の発光強度測定には、レーザと同軸に設置された発光強度測定器117としてCCDカメラを用いた。発光強度は、CCDカメラにより撮像された画像について予め設定された輝度閾値以上の輝度信号を検知したCCDカメラセルの輝度値の積分値とした。
実施例1と同様の測定の結果、耐火レンガが貫通するまでの貫通時間Tは0.65秒であった。図6を参照すると、かかるレーザ照射位置における耐火レンガの厚みは58mmであると推定される。これより、切断ラインL21およびL22のレーザ切断条件は、レーザ出力10kW(連続出力)、切断速度48mm/分に決定される。この決定されたレーザ切断条件により、レーザ加工装置100のレーザ加工ヘッド部U1を点C1から点D1まで移動させながらレーザ光を照射して、切断ラインL21で耐火レンガを整形切断する。なお、本実施例では、推定厚みの誤差を考慮して、若干の余裕を持たせて、レンガ厚みが60mmの場合において適正なレーザ出力条件で整形切断を行った。
切断ラインL21の整形切断後に、切断片を回収してその厚みを計測したところ、約108mmの厚みがあった。つまり、切断ラインL21の位置では108mmのレンガ厚みがある状態であったが、亀裂の導入によってレーザ切断が容易になっていたため、亀裂のない状態の耐火レンガ厚み60mmを加工するときのレーザ切断条件で、十分に耐火レンガを切断することが可能であったと考えられる。
仮に、レンガ厚みが110mm残存するものとしてレーザ切断条件を設定した場合には、約2倍のレンガ厚みを有する耐火レンガをも切断可能となり、過剰なレーザ切断条件を選択することになる。この場合、過剰分のレーザが隣接する健全な耐火レンガ炉壁に照射されて、当該炉壁に大きな損傷を与える可能性が高かったと考えられる。しかし、本実施例では、実際にレーザ照射して残存厚みを推定するため、推定された残存厚みは、見かけの厚みではなく、レーザ加工の観点から見た実効的な厚みとしてとらえることができる。このように推定された加工位置における耐火レンガの残存厚みに基づいてレーザ切断条件を設定するため、適正なレーザ切断条件で耐火レンガの整形切断を行うことができる。
切断ラインL21は不良部なく切断することができた。また、加工対象の耐火レンガ炉壁に隣接する耐火レンガ炉壁にレーザ光が照射されたことによる損傷も見受けられなかった。
次いで、切断ラインL22についても切断ラインL21の場合と同様に、予備加工および整形切断を行った。切断ラインL22の略中間点において、レーザ出力10kWの連続出力、レーザ集光径は0.5mmのレーザ照射条件で予備加工を行ったところ、照射位置における耐火レンガの残存厚みは56mmと推定された。これより、切断ラインL22のレーザ切断条件は、レーザ出力10kW(連続出力)、切断速度50mm/分に決定された。そして、決定されたレーザ切断条件により、レーザ加工装置100のレーザ加工ヘッド部U1を点D2から点C2まで移動させながらレーザ光を照射して、切断ラインL22で耐火レンガを整形切断した。切断ラインL22についても、不良部なく切断することができた。また、加工対象の耐火レンガ炉壁に隣接する耐火レンガ炉壁にレーザ光が照射されたことによる損傷も見受けられなかった。
切断ラインL22の整形切断後に、切断片を回収してその厚みを計測したところ、約108mmの厚みがあった。つまり、切断ラインL22の位置では108mmのレンガ厚みがある状態であったが、亀裂の導入によってレーザ切断が容易になっていたため、亀裂のない状態の耐火レンガ厚み50mmを加工するときのレーザ切断条件で、十分に耐火レンガを切断することが可能であったと考えられる。
次に、切断ラインL22の終点C2においてレーザ出力およびレーザ加工ヘッド部U1の移動を一旦停止させた後、切断ラインL3において予備加工および整形切断を行った。切断ラインL3は、切断ラインL1と同様に、耐火レンガがテーパー状に破壊されている部分であるため、耐火レンガの残存厚みが元の厚みよりも薄くなっている可能性が高い。そこで、切断ラインL3においては、切断ラインL3を3等分したときの2つの等分点(点C2側から順にM31、M32)の位置において予備加工を行い、整形切断時のレーザ切断条件を決定した。
実施例3の予備加工では、耐火レンガにレーザパルスを照射して、耐火レンガが貫通するまでの照射回数を計測した。このときのレーザ照射条件は、レーザ出力10kW、出力継続時間30msecのパルス出力とし、レーザ集光径は0.5mmとした。レーザパルスは、耐火レンガの貫通が確認されるまで繰り返し照射される。加工ノズル116からは、レーザ光と同軸にレーザ光照射部に向かって約200L/minのドライエアを吹き付け、レーザ加工ヘッド部U1へのスパッタの飛散防止と、耐火レンガ炉壁の裏面から燃焼室へのレーザ光照射点付近におけるレンガ溶融物の排出とを行った。レーザ光照射点の発光強度測定には、レーザと同軸に設置された発光強度測定器117としてCCDカメラを用いた。発光強度は、CCDカメラにより撮像された画像について予め設定された輝度閾値以上の輝度信号を検知したCCDカメラセルの輝度値の積分値とした。
例えば、点M31におけるレーザ光照射回数と耐火レンガの表面における発光強度との関係が、図7に示すようになったとする。レーザ光照射開始から24パルス目まではレーザ照射時の発光強度は緩やかに低下していたが、25パルス目で発光強度の低下量が大きくなり、26パルス目の照射においては発光強度が半分以下の急激な発光強度の低下がみられた。さらに、5回照射を行ったが、発光強度は低下したままであった。これより、点M31では、25パルス目のパルス照射中に耐火レンガが貫通したものと推定できる。
同様の方法で点M32においてもレーザパルスを照射して、耐火レンガが貫通するまでの照射回数を測定すると、点M31と同様、25パルスとなった。そして、各予備加工位置における耐火レンガが貫通するまでの照射回数を測定すると、図8に示す照射回数とレンガ厚みとの関係より、当該位置における耐火レンガの残存厚みを推定することができる。図8より、耐火レンガが貫通するまでの照射回数が25回であるときには、残存厚みは75mmと推定される。
以上の結果に基づいて、切断ラインL3のレーザ切断条件は、レーザ出力10kW(連続出力)、切断速度38mm/分に決定された。そして、決定されたレーザ切断条件により、レーザ加工装置100のレーザ加工ヘッド部U1を点C2から点C3まで移動させながらレーザ光を照射して、切断ラインL3で耐火レンガを整形切断した。切断ラインL3についても、不良部なく切断することができた。また、加工対象の耐火レンガ炉壁に隣接する耐火レンガ炉壁にレーザ光が照射されたことによる損傷も見受けられなかった。さらに切断後に切断面の厚みを計測したところ、切断したレンガの厚みは75mm±3mmの範囲であり、本実施形態に係る方法による残存厚推定が有効であることが確認された。
本実施例の予備加工では、レーザをパルス化して、耐火レンガが貫通するまでの照射回数に基づき耐火レンガの残存厚みを推定する方法を採用した。ここで、実施例1および2のように、レーザを連続出力させて耐火レンガの貫通加工を行い、貫通時間を計測する方法では、例えば図6の加工条件では深さ方向の加工速度は約90mm/secであり、残存厚みの推定をmm単位の精度で行うには、msec単位の貫通時間と判定する必要がある。このため、残存厚みの推定精度には限界がある。また、貫通と同時にレーザ出力を停止しなければ予備加工である貫通加工によって隣接する耐火レンガ炉壁に溶損ダメージを与えることになる。
一方、レーザをパルス化して、耐火レンガが貫通するまでの照射回数に基づき耐火レンガの残存厚みを推定する方法では、使用するレーザパルスのパルス幅を正確に設定することにより、1パルスでの加工進展速度を制御することが可能となる。本実施例では、パルス幅を30msecとして、1パルス当たりの深さ方向の加工進展を3mmとした。すなわち、耐火レンガが貫通するまでの照射回数によって、3mm程度以下の精度で耐火レンガの残存厚みを推定することが可能である。レーザパルスの照射条件として、1パルスでの深さ方向の加工進展が大きいほど、残存厚みの推定誤差が大きくなる。したがって、レーザパルスの照射条件としては、1パルス当たり5mm以下の深さ方向の加工進展となるよう設定することが望ましく、特に、1パルス当たり2〜3mm程度以下の深さ方向の加工進展がみられるように設定することで、残存厚みの推定精度をより向上させることができる。
また、本実施例では、確認のため、耐火レンガが貫通したと推定された26パルス目以降にさらに5パルス照射して、そのときの照射点の発光強度が貫通していないと推定されるときの発光強度よりも小さいことを確認した。実施例において、パルス幅が短く、連続出力と比較して加工能力が小さくなるよう制限している。これにより、貫通確認のためのレーザ照射を隣接する耐火レンガ炉壁への損傷を与えることなく行うことができ、また、確実に貫通判定を実施することが可能となる。
次に、切断ラインL3の終点C3においてレーザ出力およびレーザ加工ヘッド部U1の移動を一旦停止させた後、切断ラインL41およびL42において予備加工および整形切断を行った。切断ラインL41およびL42は、切断ラインL21およびL22と同様に、残存厚みが元のレンガ厚み(110mm)と略同程度残存しているものの、亀裂によりレーザ切断が容易になっている可能性が高い部分である。そこで、切断ラインL21およびL22と同様に、切断ラインL41およびL42の略中間点にレーザ加工ヘッド部U1を移動させて、予備加工を行い、整形切断時のレーザ切断条件を決定した。
実施例4の予備加工では、実施例3と同様に、耐火レンガにレーザパルスを照射して、耐火レンガが貫通するまでの照射回数を計測した。このときのレーザ照射条件は、レーザ出力10kW、出力継続時間30msecのパルス出力とし、レーザ集光径は0.5mmとした。レーザパルスは、耐火レンガの貫通が確認されるまで繰り返し照射される。加工ノズル116からは、レーザ光と同軸にレーザ光照射部に向かって約200L/minのドライエアを吹き付け、レーザ加工ヘッド部U1へのスパッタの飛散防止と、耐火レンガ炉壁の裏面から燃焼室へのレーザ光照射点付近におけるレンガ溶融物の排出とを行った。レーザ光照射点の発光強度測定には、レーザと同軸に設置された発光強度測定器117としてCCDカメラを用いた。発光強度は、CCDカメラにより撮像された画像について予め設定された輝度閾値以上の輝度信号を検知したCCDカメラセルの輝度値の積分値とした。
実施例3と同様に、切断ラインL41およびL42の略中間点において、レーザパルスの照射回数とレーザ光照射点の発光強度の変化を計測した結果、ともに13パルス目の照射において発光強度が半分以下の急激な低下がみられた。これより、耐火レンガの貫通に必要なレーザパルスの照射回数は12パルスであり、切断ラインL41およびL42の耐火レンガの残存厚みは36mmと推定された。以上の結果をもとに、切断ラインL41およびL42のレーザ切断条件として、レーザ出力10kW(連続出力)、切断速度80mm/分に決定された。そして、決定されたレーザ切断条件により、レーザ加工装置100のレーザ加工ヘッド部U1を点C3から点D3、点D4から点C4まで移動させながらレーザ光を照射して、切断ラインL41およびL42で耐火レンガを整形切断した。切断ラインL41およびL42についても、不良部なく切断することができた。また、加工対象の耐火レンガ炉壁に隣接する耐火レンガ炉壁にレーザ光が照射されたことによる損傷も見受けられなかった。
切断ラインL41およびL42の整形切断後に、切断片を回収してその厚みを計測したところ、約108mmの厚みがあった。つまり、切断ラインL41およびL42の位置では108mmのレンガ厚みがある状態であったが、亀裂の導入によってレーザ切断が容易になっていたため、亀裂のない状態の耐火レンガ厚み36mmを加工するときのレーザ切断条件で、十分に耐火レンガを切断することが可能であったと考えられる。
以上の実施例1〜4の方法により、耐火レンガ炉壁に生じた破孔Hの周囲を整形切断し、矩形状にくりぬくことにより、耐火レンガのはめ込み補修に必要な整形切断を行うことができた。この際、切断した耐火レンガ炉壁に隣接する健全な耐火レンガ炉壁表面には、レーザ切断による不要なダメージを与えることはなかった。
なお、上記実施例においては、レーザ集光径を0.5mm、レーザ出力を10kW、レーザパルス幅を30msecとして、予備加工および整形切断を行ったが、レーザ条件はかかる例に限定されない。例えば、予備加工においては、耐火レンガの残存厚みを推定するために耐火レンガが貫通するまでのレーザの照射時間あるいはレーザパルスの照射回数が取得できればよいため、耐火レンガを貫通させることの可能なレーザ条件を適宜設定すればよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、耐火レンガ炉壁の破孔検出処理、切断位置決定処理、予備加工および整形切断を、破孔検出装置210、切断位置決定装置220およびレーザ加工装置100により自動で行うようにしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、一部の処理の開始等、ユーザの指示により行ってもよい。