JP5515501B2 - ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法 - Google Patents

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本発明は、分子状酸素の存在下、パラジウムを含む触媒を用いて、フタル酸エステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に製造するより経済的な製造方法に関する。
フタル酸エステルを分子状酸素の存在下、パラジウムを含む触媒を用いて酸化カップリングさせて非対称の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル(以下、a−BPTTと略記することもある)を選択的に製造する製造方法については、既にいくつかの例が知られている。
例えば特許文献1には、分子状酸素が存在する雰囲気で、反応液中に有機パラジウム塩と有機銅塩とを存在させ、フタル酸エステルを酸化カップリングさせてa−BPTTを製造する製造方法が開示されている。具体的には、実施例16において、140℃、7時間の反応で、ビスアセチルアセトナートパラジウムキレート塩3.0ミリモルの使用量に対し20.4gのa−BPTTを得ている。ここでa−BPTTの生成に関し[生成物(モル数)/触媒パラジウム(モル数)]で表される触媒回転数(以下、TONと略記することもある)に着目すると、この方法におけるパラジウムのTONは約18と非常に低く、高価な貴金属であるパラジウムを多量に消費するので経済的に不利であるという問題があった。
特許文献2には、分子状酸素の存在する雰囲気下、高温で、パラジウム塩と銅塩とを用い、反応系にβ-ケトン類を連続的または断続的に補給しながら、フタル酸エステルを酸化カップリングさせることを特徴とするa−BPTTの製造方法が開示されている。
この製造方法でのβ-ジケトン類については、パラジウムキレート塩を形成し得るものであればよいと説明されているだけであり、具体例で示されたものはアセチルアセトンだけであった。そして、実施例1で、a−BPTTの生成に係るTONが約129まで改良されたことが開示されているが、高価な貴金属であるパラジウムの利用効率は充分とは云えず、さらに改良の余地があった。
なお、この製造方法でのβ-ジケトン類の補給については、反応開始時にパラジウム塩に対して約1.0〜4倍モルを供給し、その後、約0.5〜4時間経過する毎に、前述と同様の割合で1〜10回逐次的に補給するか、あるいは、反応開始直後から、単位時間当たりパラジウム塩に対し約0.5〜3倍モルの割合で連続的に継続して補給することが好適である旨が記載されている。しかしながら、具体的に実施例で示されているβ-ジケトン類の補給の態様は、反応開始時に(仕込みとして)パラジウム塩とともに供給し、その後高温に加熱して反応させながら、2時間間隔で補給する方法のみであった。
非特許文献1は、置換基が及ぼすβ−ジケトン類のケト−エノール平衡におけるエノール体の割合への影響を検討しているが、β−ジケトン類の触媒成分としての役割について言及するものではない。
特開昭55−141417号公報 特開昭61−106541号公報
Bull. Chem. Soc. Jpn. 1973, 46, 632.
本発明の目的は、分子状酸素の存在下、パラジウムを含む触媒を用いて、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に製造する改良されて経済的な製造方法を提供することである。
本発明は、以下の項に関する。
1. 分子状酸素の存在下、少なくともパラジウム塩と銅塩とβ−ジカルボニル化合物を含む触媒を用いてフタル酸ジエステルを酸化カップリングさせるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、
β−ジカルボニル化合物が、下記化学式(1)で示され、且つフタル酸ジメチルエステル中に0.1モル/Lの濃度で溶解した溶液状態で26℃において測定したエノール体の割合が80%、好ましくは85%、より好ましくは90%を超える化合物であることを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
Figure 0005515501
[ここで、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。好ましくはRとRの炭素数の合計が5以上、より好ましくは5〜12のアルキル基である。]
2. β−ジカルボニル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−へプタンジオン、2,8−ジメチル−4,6−ノナンジオン、2−メチル−4,6−ウンデカンジオン、2−メチル−4,6−ノナンジオン、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、及び5−メチル−2,4−ヘプタンジオンからなる群から選択された化合物であることを特徴とする項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
本発明によって、分子状酸素の存在下、パラジウムを含む触媒を用いて、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に製造するより経済的な製造方法を提供することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるフタル酸ジエステルの具体例としては、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジプロピルエステル、フタル酸ジブチルエステル、フタル酸ジオクチルエステル、フタル酸ジフェニルエステルなどを好適に挙げることができる。これらのフタル酸ジエステルは、フタル酸、フタル酸無水物、フタル酸ハロゲン化物などと、水酸基を有する化合物、例えば低級脂肪族アルコール、芳香族アルコール、フェノール類などとを反応して容易に得ることができる。
本発明で使用するパラジウム塩としては、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、及びビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウムなどを具体例として挙げることができる。特に、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、水酸化パラジウム、及び硝酸パラジウムは、高い触媒活性を示すので好適である。
パラジウム塩の使用量は、反応原料のフタル酸ジエステル1モルに対して、1×10−5〜1×10−2倍モル、好ましくは5×10−5〜5×10−4倍モル、より好ましくは8×10−5〜3×10−4倍モル、更に好ましくは1×10−4〜2×10−4倍モルである。本規定の範囲より多くパラジウムを使用すると、TON向上効果が十分でなくなることがある。一方、本規定の範囲より少ないパラジウムを使用すると、反応バッチあたりの生成物の収量が低くなり、実用的でなくなることがある。
本発明で使用する銅塩としては、例えば酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、2−メチルプロピオン酸銅、ピバル酸銅、乳酸銅、酪酸銅、安息香酸銅、トリフルオロ酢酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、ビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅、硝酸銅、亜硝酸銅、硫酸銅、リン酸銅、酸化銅、水酸化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、パラトルエンスルホン酸銅、及びシアン化銅等を好適に挙げることができる。特に、酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、ピバル酸銅、及びビス(アセチルアセトナト)銅は、酸化カップリング反応を促進する効果が高いので好適である。これらの銅塩は、無水物でも水和物でも、好適に用いることができる。
銅塩の使用量は、パラジウム塩1モルに対して、好ましくは1〜10倍モル、より好ましくは3〜8倍モル、更に好ましくは4〜6倍モルである。
本発明のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法で用いるβ−ジカルボニル化合物は、α位に2個のプロトンを有し置換基がアルキル基からなる下記化学式(1)で示される1,3−ジケトン類であって、且つエノール体の割合が高くなる化合物、具体的にはフタル酸ジメチルエステル中に0.1モル/Lの濃度で溶解した溶液状態で26℃において測定したエノール体の割合が80%、好ましくは85%、より好ましくは90%を超える化合物である。このようなβ−ジカルボニル化合物を用いると、反応効率や選択率をより高くすることができるので、TONがより高くなり、経済的に有利になる。
Figure 0005515501
[ここで、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。好ましくはRとRの炭素数の合計が5以上、より好ましくは5〜12のアルキル基である。]
前記反応効率を高める効果が大きなβ−ジカルボニル化合物としては、具体的には2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン(エノール体の割合:90.1%)、2,6−ジメチル−3,5−へプタンジオン(エノール体の割合:85.3%)などを好適に挙げることができる。
一方、α位にプロトンがないために化学構造上エノール体として存在できない3,3−ジメチル−2,4−ペンタンジオン(エノール体の割合:0%)や、アセト酢酸メチル(エノール体の割合:6.0%)、エノール体の存在する割合が比較的小さいアセチルアセトン(エノール体の割合:79.5%)などのβ−ジカルボニル化合物は、反応効率を高める効果が比較的小さくなるので好適ではない。
ここで、β−ジカルボニル化合物のエノール体について説明する。
非特許文献1に記載されているとおり、β-ジカルボニル化合物は、下記化学式(2)で表されるケト−エノール平衡によって、ある割合で相互異性体のエノール体として存在し得る。
Figure 0005515501
そして、非特許文献1には、前記化学式(1)のβ−ジカルボニル化合物について、種々の置換基を変えた場合にエノール体の割合がどの様に変化するかが記されている。下記表1はアルキル基の種類とエノール体の割合について纏めたものである。
Figure 0005515501
本発明において、エノール体の割合は、具体的にはフタル酸ジメチルエステル中に0.1モル/L濃度で溶解した溶液について、26℃でNMRスペクトルを測定し、得られたNMRスペクトルのケト体、エノール体のプロトンの積算値の割合から求めた値である。
一方、前記非特許文献1(前記表1)のエノール体の割合は、24℃の液体状態においてNMRスペクトルより算出している。これらの各測定方法によって得られるエノール体の割合は、絶対値としては相違している。しかしながら、エノール体の割合の傾向(相対的な大きさの傾向、大小の順番)は、本発明で測定した前記フタル酸ジメチル溶液中で測定した場合と同じである。なお、非特許文献1の測定方法では、24℃で液体状態でない化合物のエノール体の割合は測定できない。したがって、本発明では、より反応条件に近いフタル酸ジメチルエステルに溶解した状態でのエノール体の割合を採用した。
すなわち、非特許文献1のエノール体の割合の傾向からも判るように、本発明においては、β−ジカルボニル化合物はアセチルアセトンより高いエノール体の割合を示す化合物がより好ましい。具体的には、2,8−ジメチル−4,6−ノナンジオン(エノール体の割合:95.3%、非特許文献値、以下同様)、2−メチル−4,6−ウンデカンジオン(エノール体の割合:94.6%)、2−メチル−4,6−ノナンジオン(エノール体の割合:93.7%)、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン(エノール体の割合:93.7%)、2,2−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン(エノール体の割合:93.4%)、及び5−メチル−2,4−ヘプタンジオン(エノール体の割合:93.4%)からなる群から選択された化合物であることが、反応効率を高める効果が大きくなるので好ましい。
従来、パラジウムを含む触媒を用いて、フタル酸エステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを製造する製造方法において、β−ジカルボニル化合物(β−ジケトン類)の役割は、生成物として特定の構造異性体を選択的に得るようにすること、すなわち2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に得ることにあった。
本発明の発明者らは、β−ジカルボニル化合物について種々検討した結果、β−ジカルボニル化合物の中でもエノール体の割合がより高いβ−ジカルボニル化合物を用いると、生成物として特定の構造異性体を選択的に得ることができるのみならず、反応効率を高める上で極めて有用であることを見出して本発明に到達したのである。
すなわち、エノール体の割合が高いβ−ジカルボニル化合物を用いると、目的生成物である非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの選択率を向上することができるのみならず、[生成物(モル数)/触媒パラジウム(モル数)]で示されるTONを高くすることが可能になる。この結果、高価な貴金属であるパラジウムの消費量を抑制することができ、より経済的な製造方法を得ることができる。
本発明において、β−ジカルボニル化合物は従来公知の使用量や使用方法を好適に用いることができるが、β−ジカルボニル化合物が少な過ぎると充分な効果が発揮されない反面、多過ぎると反応の阻害要因になる場合があること、及びβ−ジカルボニル化合物が反応中に蒸発や熱分解などにより反応系内の量が容易に変化(減少)するため、β−ジカルボニル化合物を反応中にも断続的または継続的に供給して、反応系内のβ−ジカルボニル化合物が一定量に保たれるようにすることが好ましい。
すなわち、β−ジカルボニル化合物は、限定するものではないが、好ましい態様においては、3時間未満の間隔、好ましくは30分間未満の間隔、より好ましくは10分間未満の間隔で断続的または連続的に、反応混合液へ供給することが好適である。
ここで「断続的および連続的」は、所定間隔の供給停止期間を挟んだ断続供給および連続供給を意味する。
β−ジケトンの供給の間隔(供給停止期間)が長くなると、高価な貴金属であるパラジウムの消費量を抑制することが困難になり、[生成物(モル数)/触媒パラジウム(モル数)]で示されるTONが低くなって、経済的な製造方法を得ることが難しくなることがある。
また、反応混合液の温度が低い状態で断続的または連続的な供給を開始すると、β−ジカルボニル化合物が蒸発や分解せず、反応系内に過剰のβ−ジカルボニル化合物が存在することになり、反応の阻害要因となる場合がある。特に反応開始時に130℃未満の温度で断続的または連続的に供給しながら高温に加熱して反応を開始させることは、触媒の失活を招くことがあるので好ましくない。
よって本発明においては、好ましくは、β−ジカルボニル化合物を断続的または連続的に供給する供給開始温度は、反応混合液の温度が130℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上である。
β−ジカルボニル化合物の供給量は反応時の圧力、反応温度などの影響を勘案し適宜決定する必要があるが、通常は使用するパラジウム塩に対して、1時間あたり0.1〜50倍モル、好ましくは1〜10倍モル、より好ましくは2〜9倍モル、更に好ましくは3〜8倍モルの割合で断続的または連続的に供給することが好適である。
供給に際してのβ−ジカルボニル化合物の状態及び形態は特に限定されない。β−ジカルボニル化合物が液体であればそのまま送液ポンプなどにより断続的および連続的に供給しても良く、β−ジカルボニル化合物を例えば反応原料のフタル酸エステルに溶解した溶液として、送液ポンプなどによって断続的および連続的に反応系へ供給しても良い。
本発明において、分子状酸素は、純酸素ガスでもよいが、爆発の危険性を考慮すると、窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスで酸素含有量が約5体積%〜50体積%程度まで希釈された酸素含有混合ガス、或いは空気を用いることが好ましい。また、例えば空気を用いる場合には、反応液1000ミリリットル当たり約1〜20000ミリリットル/分、特に10〜10000ミリリットル/分の供給速度で、反応混合液中に均一に行き渡るように供給することが好ましい。具体的な供給方法としては、例えば、反応混合液の液面に沿って分子状酸素含有ガスを流通させて気液接触させる方法、反応混合物の上部に設けられたノズルから前記ガスを噴出させて吹き込む方法、反応混合物の底部に設けられたノズルから前記ガスを気泡状で供給しその気泡を反応混合液中に流動させて気液接触させる方法、反応混合液の底部に設けられた多孔板から前記ガスを気泡状で供給する方法、或は導管内に反応混合液を流動させその反応混合液に導管の側部から前記ガスを気泡状に噴出させる方法などを好適に挙げることができる。
本発明において、反応溶媒を用いても構わないが、反応原料が反応条件下で液体のときは用いなくても構わない。工業的には実質的に反応溶媒を用いないことが好ましい。反応溶媒を用いる場合は、例えば、エチレングリコールジアセテート、アジピン酸ジメチルなどの有機エステル化合物、n−ブチルメチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルエチルケトンなどのケトン化合物などを好適に挙げることができる。
本発明の製造方法の反応圧力は特に制限はなく、触媒や分子状酸素、β−ジケトンが規定の濃度範囲で反応系内に滞留できれば、減圧、常圧、加圧のいずれの条件でも差し支えない。通常は、設備や操作が簡便になるため常圧が好ましい。
本発明の製造方法における反応温度は好ましくは150〜220℃、より好ましくは170〜200℃、更に好ましくは180〜190℃である。また、反応時間は、限定はなく適宜決定されれば良いが、通常は1〜20時間、好ましくは5〜10時間程度である。
本発明を工業的に実施するにあたり、反応方式による制限は受けず、回分式でも連続式でも実施することができる。また、本発明で用いる反応装置は、加熱機能、攪拌機能、ガスなどの供給や排出機能を備えたものであれば特に限定されるものではない。
次に、本発明の製造方法について、実施例などを用いて説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例では、反応原料としてフタル酸ジメチルエステル(以下、DMPと略すこともある)を用いて、酸化カップリング反応の生成物であるビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、BPTTと略記することもある)を製造している。ここで、酸化カップリング反応生成物中の異性体である3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、s−BPTTと略記することもある)と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルエステル(以下、a−BPTTと略記することもある)の生成量の比(以下、S/Aと略記することもある。)、及び主たる生成物であるa−BPTTに対する触媒回転数(以下、TONと略記することもある)は、次の計算式に従って算出した。
Figure 0005515501
β−ジカルボニル化合物のエノール体の割合は、フタル酸ジメチルエステル中に0.1モル/L濃度で溶解した溶液について、26℃でNMRスペクトルを測定し、得られたNMRスペクトルのケト体、エノール体のプロトンの積算値の割合から求めた。
〔実施例1〕
攪拌機と原料導入用導管と生成物排出用導管と空気供給用導管とを備えた内容積0.5リットルのSUS製反応器を用い、以下の要領で酸化カップリング反応を行なった。
反応器にフタル酸ジメチルエステル(以下DMPと略すこともある)2.45モルを加え、酢酸パラジウム0.36ミリモル、アセチルアセトン銅2.0ミリモルを加えた後、その反応混合液に空気を370ミリリットル/分でバブリングさせ更に415rpmの回転速度で攪拌機を回転させ攪拌しながら、反応混合液を2.22℃/分の昇温速度で185℃まで昇温した。この時点から、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン(以下TMHDと略すこともある)24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液を0.1ミリリットル/分で反応混合液に連続供給しながら、185℃到達後6時間後まで185℃の温度で酸化カップリング反応を行った。
最終的なTMHDの供給量は9.2ミリモル、DMPの供給量は0.20モルとなった。反応途中でのサンプリングによるロス分(計12.3g)、さらに軽沸として系外に放出されるロス分があるため、反応終了後に回収した反応混合液は494.2gであった。この反応混合液をサンプリングし、10ミリモル濃度のりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルとで希釈し、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略すこともある)にて各生成物を定量した。なお、最終的なa−BPTTの生成量は、反応終了後に回収した反応混合液および反応途中でサンプリングした反応混合液の総重量(506.5g)と、反応終了後に回収した反応混合液中のа―BPTTの重量パーセント濃度(8.27重量%)との積をとり、途中サンプリングをしなかった場合におけるа―BPTTの生成量として算出した。
結果を表1に示した。TONは294であった。
〔実施例2〕
3,5−ヘプタンジオン24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液の代わりに、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして185℃の温度で酸化カップリング反応を行った。
最終的な2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオンの供給量は9.2ミリモル、DMPの供給量は0.20モルとなった。反応混合液をサンプリングし、反応混合液をサンプリングし、10ミリモル濃度のりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルとで希釈し、HPLCにて各生成物を定量した。
結果を表2に示した。TONは265であった。
〔比較例1〕
反応のスケールを1.5倍にし、TMHD24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液の代わりに、アセチルアセトン30ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして185℃の温度で酸化カップリング反応を行った。
最終的なアセチルアセトンの供給量は9.7ミリモル、DMPの供給量は0.21モルとなった。反応混合液をサンプリングし、10ミリモル濃度のりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルとで希釈し、HPLCにて各生成物を定量した。
結果を表2に示した。TONは248であった。
〔比較例2〕
3,5−ヘプタンジオン24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液の代わりに、アセト酢酸メチル24ミリモルをDMP100ミリリットルに溶解した溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして185℃の温度で酸化カップリング反応を行った。
最終的なアセト酢酸メチルの供給量は9.9ミリモル、DMPの供給量は0.21モルとなった。反応混合液をサンプリングし、10ミリモル濃度のりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルとで希釈し、HPLCにて各生成物を定量した。
結果を表2に示した。TONは193であった。
Figure 0005515501
本発明によれば、分子状酸素の存在下、パラジウムを含む触媒を用いて、フタル酸ジエステルを酸化カップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステル、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルのような非対称ビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルを選択的に製造する改良されて経済的な製造方法を提供することができる。

Claims (3)

  1. 分子状酸素の存在下、少なくともパラジウム塩と銅塩とβ−ジカルボニル化合物を含む触媒を用いてフタル酸ジエステルを酸化カップリングさせるビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法において、
    β−ジカルボニル化合物が、下記化学式(1)で示され、且つ とR の炭素数の合計が5以上12以下の化合物であることを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
    Figure 0005515501
    [ここで、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。]
  2. β−ジカルボニル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−へプタンジオン、2,8−ジメチル−4,6−ノナンジオン、2−メチル−4,6−ウンデカンジオン、2−メチル−4,6−ノナンジオン、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、及び5−メチル−2,4−ヘプタンジオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
  3. β−ジカルボニル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−へプタンジオン、からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルの製造方法。
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