本発明に係る潤滑装置は、車両の動力伝達装置における潤滑装置であって、回転部材が回転して冷媒混合油を掻き上げて潤滑させる装置である。冷媒混合油として、潤滑油と、潤滑油に非溶性かつ低粘度の冷媒とを含む混合油を用いる。潤滑装置は、回転部材を収容する回転部材収容部と、冷媒混合油を貯留する貯留部とを区画する仕切部を設けている。以下、本発明に係る潤滑装置について、図面を参照して説明する。
(実施例1)
先ず、図1を参照して、本発明に係る潤滑装置1の構成について説明する。図1(a)は、潤滑装置1の断面を模式的に示した図である。図1(b)は、図1(a)中のA−A断面を模式的に示した図である。なお、図1(b)では、冷媒混合油6の記載を省略している。本発明に係る潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8とを有する構成である。
ケース8は、内部が中空に形成され、車体の下方に配置されている。ケース8の内部には、回転部材としてギヤ2が設けられている。ギヤ2は、回転軸と共に一体回転するように構成されている。回転軸は、軸受により回転可能に支持されている。回転軸の回転中心線は、水平に配置されている。また、ギヤ2は、車両に搭載された動力源から駆動輪に至る動力伝達経路の一部を構成する回転部材であって、ケース8の内部に設けられた他のギヤ(図示せず)とギヤ2とが噛合されて1組のギヤ対を形成している。すなわち、動力源から出力されたトルクが、ギヤ2を経由して駆動輪に伝達されるように構成されている。ギヤ2は、例えば、デファレンシャルのリングギヤである。つまり、ギヤ2の回転数は車速に応じて増減する。また、ギヤ2は、ギヤ収容部3に収容され、ギヤ収容部3における冷媒混合油6に浸漬されている。図1(a)に例示するように、ギヤ2は時計回りに回転し、貯留部3における冷媒混合油6を掻き上げる。なお、ギヤ2が停止、または回転しているときのいずれにおいても、ギヤ2の一部がギヤ収容部3における冷媒混合油6に浸漬されている。
また、ケース8の内部には、ギヤ2を収容するギヤ収容部3が形成されている。ギヤ収容部3は、ケース4の内面と仕切部5とによって形成されている。ギヤ収容部3は、ギヤ2を収容し、貯留部4から連通孔7を通過し流入した冷媒混合油6を貯留する。ギヤ収容部3に貯留されている冷媒混合油6は、ギヤ2の回転状態に関わらず、ギヤ2の一部を浸漬する油面高さを有する。また、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の油面高さ(以下「オイルレベル」と表現する場合がある)は、貯留部4に貯留されている冷媒混合油6の油面高さより低くなる。
また、ケース8の内部には、冷媒混合油6が貯留される貯留部4が形成されている。貯留部4は、ケース8の内面と仕切部5とによって形成されている。貯留部4には、冷媒混合油6が貯留されている。冷媒混合油6は、冷媒6aと潤滑油6bを含む混合油である。冷媒6aと潤滑油6bとは非溶性である。また、冷媒6aは潤滑油6bより比重が大きい。冷媒6aは、低粘度の液体である。潤滑油6bは、いわゆる潤滑油である。つまり、貯留部4に貯留されている冷媒混合油6は、静止させておくと、下層が冷媒6a、上層が潤滑油6bの二層に分離している。
さらに、ケース8の内部には、ギヤ収容部3と貯留部4とを区画する仕切部5が形成されている。仕切部5は、図1(a)に例示するように、ギヤ2の歯面側の外周形状に近似する円弧形状を有する。仕切部5とギヤ2の歯面側の外周との間に円弧形状の隙間が形成されている。また、仕切部5には、冷媒混合油が通過する連通孔7が形成されている。さらに、仕切部5は、貯留部4に貯留される冷媒混合油6の油面高さHよりも高く形成されている。
仕切部5には、冷媒混合油6が通過する連通孔7が形成されている。連通孔7には、冷媒混合油6中の冷媒6aが通過する連通孔7aと、冷媒混合油6中の潤滑油6bが通過する連通孔7bがある。連通孔7aは、仕切部5に形成され、ケース8の底面付近に形成される。また、連通孔7aは冷媒6aが通過できる箇所に形成されていればよく、ケース8の底面に形成される場合に限定されない。連通孔7bは、仕切部5に形成され、冷媒混合油6の底面からの高さ方向において、連通孔7aよりも高い位置に形成されている。連通孔7は、図1(b)に例示するように、仕切部5のうち、ギヤ2の回転軸方向に向き合う面側に形成される。なお、連通孔7は、仕切部5のうち、ギヤ2の歯面に向き合う面側に形成してもよい。換言すると、連通孔7はギヤ収容部3と貯留部4とを区画する仕切部5に形成されていればよく、ギヤ2の歯面側に限定されない。なお、連通孔7aと連通孔7bとが各一つ形成される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、連通孔7aが複数形成されていてもよく、連通孔7bが複数形成されていてもよい。
次に、冷媒混合油6の流動について説明する。ギヤ2が停止時には、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の油面高さ(オイルレベル)と、貯留部4における冷媒混合油6の油面高さとが同じになるように、冷媒混合油6が仕切部5における連通孔7を流動する。また、ギヤ2が回転時には、ギヤ2を浸漬している冷媒混合油6が掻き上げられ、ギヤ収容部3における冷媒混合油量がギヤ2の回転前より減少する。つまり、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の油面高さが、ギヤ2の回転前より下降する。これによって、貯留部4における冷媒混合油6が、連通孔7を通過してギヤ収容部3に流動する。なお、ギヤ2が回転時、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の油面高さ(オイルレベル)は、貯留部4に貯留されている冷媒混合油6の油面高さより低い。
ここで、図2を参照して、貯留部4に貯留される冷媒混合油6の油面高さと、ギヤ収容部5における冷媒混合油6の油面高さの関係について、ギヤの回転状態に応じて説明する。加えて、冷媒混合油6が連通孔7を通過する流動について具体的に説明する。ギヤ2が回転時には、ギヤ収容部3の油面高さが、ギヤ2が停止時に比べて降下する。
図2(a)に例示するように、ギヤ2が低回転時には、ギヤ2によって掻き上げられる冷媒混合油量が少ないために、ギヤ収容部3の油面高さ(オイルレベル)の降下が小さい。このため、貯留部4に貯留された冷媒混合油6中の冷媒6aが、仕切り部5に形成された連通孔7aを通過して、ギヤ収容部3に流入する。つまり、ギヤ2が低回転時には、優先的に冷媒6aがギヤ収容部3に流入する。なぜならば、ギヤ2が低回転なので、ギヤ収容部3から掻き上げられる冷媒混合油量が少なく、貯留部4に貯留された冷媒混合油6の油面高さの上昇が小さいため、貯留部4における冷媒混合油6の油面が連通孔7bに達しないためである。
また、図2(b)に例示するように、ギヤ2が高回転時には、ギヤ2によって掻き上げられる冷媒混合油量が多いために、ギヤ収容部3の油面高さの降下が大きい。このため、貯留部4に貯留された冷媒混合油6中の冷媒6aが連通孔7aを通過して、かつ潤滑油6bが連通孔7bを通過して、ギヤ収容部3に流入する。つまり、ギヤ2が高回転時には、冷媒6aと潤滑油6bとがギヤ収容部3に流入する。なぜならば、ギヤ2が高回転なので、ギヤ収容部3から掻き上げられる冷媒混合油量が多く、貯留部4に貯留された冷媒混合油の油面高さの上昇が大きいことにより、貯留部4における冷媒混合油面が連通孔7bに達するためである。
このように、本実施形態における潤滑装置によれば、ギヤ2が低回転時には、ギヤ収容部3に冷媒6aが優先的に流入する。このため、ギヤ収容部3における冷媒混合油6は、冷媒6aの比率が増加し、粘度低減される。よって、ギヤ2の攪拌損失を低減することができる。また、ギヤ2が高回転時には、ギヤ収容部3に冷媒6aと潤滑油6bとが流入する。このため、ギヤ2が高回転時には、ギヤ2が低回転時に比べて、ギヤ収容部3における冷媒混合油6は、潤滑油6bの比率が増加する。よって、ギヤ2が高回転時には、潤滑油6bの比率が高い冷媒混合油6を、潤滑必要箇所に潤滑することができる。したがって、ギヤ2の回転状態に応じて、ギヤ収容部2における冷媒混合油の混合比率を変化させることができ、効率的に潤滑と冷却を行うことができる。
(実施例2)
次に、図3を参照して、本発明に係る別実施形態における潤滑装置の構成について説明する。なお、上述の実施例1と同様の構成については、説明を省略する。図3(a)は、潤滑装置1の断面を模式的に示した図である。図3(b)は、図3(a)中のB−B断面を模式的に示した図である。なお、図3(b)では、冷媒混合油6の記載を省略している。本発明に係る潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8とを有する構成である。また、図3(a)に例示するように、ギヤ2は、時計回りに回転し貯留部3における冷媒混合油6を掻き上げる。
図3(b)に例示するように、仕切部5には、冷媒混合油中の冷媒6aが通過する連通孔7cと、冷媒混合油中の潤滑油6bが通過する連通孔7dが形成されている。連通孔7cは、仕切部5に形成され、ケース8の底面付近に形成される。また、連通孔7cは冷媒6aが通過できる箇所に形成されていればよく、ケース8の底面に形成される場合に限定されない。連通孔7dは、仕切部5に形成され、冷媒混合油の底面からの高さ方向において、連通孔7cよりも高い位置に形成されている。また、連通孔7dは、連通孔7cに比べて大径に形成されている。
ここで、図4を参照して、ギヤの高回転時における、冷媒混合油6が連通孔7を通過する流動について具体的に説明する。図4に例示するように、ギヤ2が高回転時には、ギヤ2によって掻き上げられる冷媒混合油量が多いために、ギヤ収容部3の油面高さの降下が大きい。このため、貯留部4に貯留された冷媒混合油6中の冷媒6aが連通孔7cを通過して、かつ潤滑油6bが連通孔7dを通過して、ギヤ収容部3に流入する。つまり、ギヤ2が高回転時には、冷媒6aと潤滑油6bとがギヤ収容部3に流入し、かつ潤滑油6bの流入量が冷媒6aの流入量よりも多くなる。なぜならば、連通孔7dは連通孔7cに比べて大径に形成されているので、ギヤ収容部3に流入する冷媒混合油6中の潤滑油6bの量が多いためである。
このように、本実施形態における潤滑装置によれば、ギヤ2が高回転時には、ギヤ収容部3における潤滑油6bの比率を増加させることができる。さらに、連通孔7dを通過してギヤ収容部3に流入する潤滑油6dの単位時間あたりの通過流量を増加することができる。よって、ギヤ2が高回転時に、ギヤ収容部3における冷媒混合油6は、潤滑油6bの比率が迅速に高められることになる。ゆえに、ギヤ2が高回転時、ギヤ収容部3における冷媒混合油中の潤滑油6bの比率を迅速に上昇させることができ、効率的に潤滑と冷却を行うことができる。
(実施例3)
次に、本発明に係る別実施形態における潤滑装置の構成を説明する。なお、上述の実施例と同様の構成については説明を省略し、同一の符号を用いて説明を行うものとする。図5(a)は、潤滑装置1の断面を模式的に示した図である。図5(b)は、図5(a)中のC−C断面を模式的に示した図である。なお、図1(b)では、冷媒混合油6の記載を省略している。本発明に係る潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8と、調節弁9と、調節弁制御装置10と、温度センサ11とを有する構成である。また、図5(a)に例示するように、ギヤ2は、時計回りに回転し貯留部3における冷媒混合油6を掻き上げる。
調節弁9は、連通孔7の開度を変更する弁である。図5(b)に例示の調節弁9は、仕切部5と一体に設けられ、連通孔7eの開度を変更する弁である。調節弁制御装置10は、冷媒混合油6の温度に応じて、調節弁9の作動を制御し、連通孔7eの開度を調節する制御装置である。温度センサ11は、冷媒混合油の温度を測定する装置である。
図5(b)に例示するように、仕切部5には、冷媒混合油中の冷媒6aが通過する連通孔7eと、冷媒混合油中の潤滑油6bが通過する連通孔7fが形成されている。連通孔7eは、仕切部5に形成され、ケース8の底面付近に形成される。また、連通孔7eは冷媒6aが通過できる箇所に形成されていればよく、ケース8の底面に形成される場合に限定されない。連通孔7fは、仕切部5に形成され、冷媒混合油の底面からの高さ方向において、連通孔7eよりも高い位置に形成されている。また、連通孔の径の大きさは、連通孔7eと連通孔7fとが同じ大きさであっても、連通孔7fが連通孔7eに比べて大径に形成されていてもよい。
次に、調節弁9の動作について説明する。図5(b)に例示の調節弁9は、仕切部5のうち貯留部4側の面に一体に形成されている。また、調節弁9は冷媒混合油面の高さ方向に移動可能に構成されている。調節弁制御装置10は、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の油温に応じて、調節弁9の作動を制御し、連通孔7eの開度を調節する。また、調節弁制御装置10は、予め設定された所定温度値に基づき、温度センサ11が測定した油温と所定温度値とを判別し、調節弁9の作動を制御する。
ここで、図6を参照して、調節弁制御装置10の処理動作について説明する。図6は、測定した温度に応じて調節弁9の作動を制御する処理フロー図である。また、温度センサ11が測定した冷媒混合油の温度をT、調節弁制御装置10に予め設定された所定温度値をt1とする。
温度センサ11は冷媒混合油6の温度を測定し、調節弁制御装置10は、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度Tの情報を取得する(ステップS101)。調節弁制御装置10は、前記取得した情報の温度Tと、予め設定されている温度値t1より小さいか否かを判別する(ステップS102)。調節弁制御装置10は、前記判別の結果、冷媒混合油の温度Tが所定温度値t1より小さいと判別した場合(ステップS102でYesの場合)、連通孔7eの開度を全開にするように調節弁9の作動を制御し(ステップS103)、処理を終了する。
一方、前記判別の結果、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t1以上であると判別した場合(ステップS102でNoの場合)、連通孔7eの開度を所定値にするように調節弁9の作動を制御し(ステップS104)、処理を終了する。なお、開度の所定値とは、連通孔を全開させず、かつ全閉させない範囲の開度をいう。
また、図7は、冷媒混合油6の温度Tと連通孔7eの開度との関係を示す図である。図7によれば、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t1よりも低い場合(T<t1)、連通孔7eの開度は全開になる。換言すると、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t1よりも低いの場合、調節弁9は、調節弁制御装置10によって制御され、連通孔7eを全開にする位置に作動するように制御される。一方、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t1以上の場合(t1≦T)、連通孔7eの開度は所定値になる。換言すると、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t1以上の場合、調節弁9は、調節弁制御装置10によって制御され、連通孔7eの開度を所定値にする位置に作動するように制御される。
次に、図8を参照し、冷媒混合油6の流動について説明する。ここでは、貯留部4に貯留されている冷媒混合油6の油面高さをH、仕切り部5に形成させれた連通孔7fの高さをhとして説明する。
図8(a)及び(b)は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t1以上のときの調節弁9の位置を示した図である。図8(a)は、貯留部4における油面高さHが連通孔7fの高さhより低いとき、連通孔7を通過する冷媒混合油6の流動を示した図である。図8(b)は、貯留部4における油面高さHが連通孔7fの高さhより高いとき、連通孔7を通過する冷媒混合油6の流動を示した図である。調節弁制御装置10は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t1以上の場合、連通孔7eの開度が所定値となる位置に作動するように調節弁9を制御する。連通孔7eの開度は、調節弁9の作動によって、全開よりも小さくなる。これによって、連通孔7eを通過する冷媒6aの通過流量は、連通孔7eが全開の状態に比べて減少する。また、図8(a)に例示するように、油面高さHが連通孔7fの高さhよりも低い場合、潤滑油6bは連通孔7fを通過しない。一方、図8(b)に例示するように、油面高さHが連通孔7fの高さhよりも高いので、潤滑油6bは連通孔7fを通過する。
図8(c)は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t1より低いときの調節弁9の位置を示した図である。調節弁制御装置10は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t1より低い場合、連通孔7eの開度が全開となる位置に作動するように調節弁9を制御する。連通孔7eの開度は、調節弁9の作動によって、全開となる。また、図8(c)では、油面高さHが連通孔7fの高さhより高い。このとき、貯留部4における冷媒6aが連通孔7eを通過し、かつ潤滑油6bが連通孔7fを通過し、ギヤ収容部3に流入する。
このように、本実施形態における潤滑装置によれば、調節弁9によって連通孔7fの開度を調節するので、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の冷媒6aと潤滑油6bとの割合を変化させることができる。また、冷媒混合油6の温度Tに応じて、ギヤ収容部3における冷媒6aの比率を調節できるので、冷却必要時に効率的に、冷媒比率の高い冷媒混合油6を潤滑させることができる。すなわち、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の冷媒比率が増加して粘度が低減するので、ギヤ2の攪拌損失を低減することができる。また、調節弁9によって連通孔7eの開度を低くすることができるので、連通孔7eの全開時に比べ、ギヤ収容部3に流入する冷媒6aの通過流量を抑えることができる。これによって、貯留部4における冷媒混合油6の油面高さHが連通孔7fの高さhよりも高い場合には、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の潤滑油比率が増加する。また、ギヤ収容部3における冷媒混合油6の油面高さ(オイルレベル)を低く調節できるので、ギヤ2の攪拌損失を低減することができる。なお、調節弁9は、電気で動作可能に構成されたものに限定されない。例えば、いわゆる形状記憶合金によって形成された調節弁9であってもよい。
(実施例4)
次に、本発明に係る別実施形態における潤滑装置の構成を説明する。なお、上述の実施例と同様の構成については説明を省略し、同一の符号を用いて説明を行うものとする。図9(a)は、潤滑装置1の断面を模式的に示した図である。図9(b)は、図9(a)中のD−D断面を模式的に示した図である。なお、図9(b)では、冷媒混合油6の記載を省略している。本発明に係る潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8と、調節弁9と、温度センサ11と、冷却ポンプ12と、制御装置13とを有する構成である。図9(a)に例示するように、ギヤ2は、時計回りに回転し貯留部3における冷媒混合油6を掻き上げる。
冷却ポンプ12は、貯留部4に貯留されている冷媒混合油6の冷媒6aを吸い出すものである。冷却ポンプ12は、貯留部4から吸い上げた冷媒6aを冷却必要箇所に供給するものである。また、冷却ポンプ12は、いわゆる電動ポンプである。制御装置13は、冷媒混合油6の温度Tに応じて、調節弁9の作動を制御し、冷却ポンプ12の作動を制御する装置である。制御装置13は、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度に応じて、調節弁9の作動を制御し、連通孔7eの開度を調節する。また、制御装置13は、予め設定された所定温度値に基づき、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度Tと所定温度値との関係を判別し、調節弁9の作動を制御する。さらに、制御装置13は、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度に応じて、冷却ポンプ12の作動を制御する。
ここで、図11を参照して、制御装置13の処理動作について説明する。図11は、制御手段13が温度に応じて調節弁9の作動を制御する処理フロー図である。また、温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度をT、制御装置13に予め設定された所定温度値をt2及びt3する。なお、所定温度値は、t2<t3の関係を有する。
温度センサ11は冷媒混合油6の温度を測定し、制御装置13は温度センサ11が測定した冷媒混合油6の温度Tの情報を取得する(ステップS201)。制御装置13は、前記取得した情報の冷媒混合油6の温度Tが、予め設定されている温度値t2より小さいか否かを判別をする(ステップS202)(以下「第一の温度判別」という)。制御装置13は、前記第一の温度判別の結果、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t2より小さいと判別した場合(ステップS202でYesの場合)、連通孔7eの開度を全開にするように調節弁9の作動を制御し(ステップS203)、処理を終了する。
一方、制御装置13は、前記第一の温度判別の結果、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t2以上であると判別した場合(ステップS202でNoの場合)、前記冷媒混合油6の温度Tが、予め設定されている温度値t3以下であるか否かを判別をする(ステップS204)(以下「第二の温度判別」という)。制御装置13は、前記第二の温度判別の結果、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t3以上であると判別した場合(ステップS204でYesの場合)、連通孔7eの開度が所定値にするように調節弁9の作動を制御し(ステップS205)、処理を終了する。
他方、制御装置13は、前記第二の温度判別の結果、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t3より大きいと判別した場合(ステップS204でNoの場合)、連通孔7eの開度が全閉するように調節弁9の作動を制御する(ステップS206)。制御装置13は、調節弁9の開度を全閉にすると、冷却ポンプ12を作動させ(ステップS207)、処理を終了する。なお、連通孔7eの開度に係る所定値とは、連通孔7eを全開させず、かつ全閉させない範囲の開度をいう。
また、図12は、冷媒混合油6の温度Tと連通孔7eの開度との関係を示す図である。図12によれば、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t2より低い場合(T<t2)、連通孔7eの開度が全開である。つまり、この場合(T<t2)に制御装置13は、調節弁9を連通孔7eが全開になる位置に制御している。一方、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t2以上かつ所定値温度t3以下の場合(t2≦T≦t3)、連通孔7eの開度は所定値である。この場合(t2≦T≦t3)に制御装置13は、調節弁9を連通孔7eの開度が所定値になる位置に制御している。他方、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t3より高い場合(t3<T)、連通孔7eの開度は全閉である。この場合(t3<T)に制御装置13は、調節弁9を連通孔7eが全閉になる位置に作動させる。
次に、図13及び図14を参照し、冷媒混合油6の流動について説明する。ここでは、貯留部4に貯留されている冷媒混合油の油面高さをH、仕切り部5に形成せれた連通孔7fの高さをhとして説明する。
図13は、冷媒混合油の温度Tが所定温度値t2以上所定温度値t3以下のときの調節弁9の位置を示した図である。つまり、図13は、冷却ポンプ12が停止しているときの冷媒混合油6の流動を示す図である。また、図13(a)は、油面高さHが連通孔7fの高さhより低いときの連通孔を通過する冷媒混合油の流動を示した図である。また、図13(b)は、油面高さHが連通孔7fの高さhより高いときの連通孔7を通過する冷媒混合油6の流動を示した図である。制御装置13は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t2以上所定温度値t3以下の場合、連通孔7eの開度が所定値となる位置に作動するように調節弁9を制御する。連通孔7eの開度は、調節弁9の作動によって、全開よりも小さくなる。これによって、連通孔7eを通過する冷媒6aの量は、連通孔7eが全開の状態に比べて減少する。また、図13(a)に例示するように、冷媒混合油6の油面高さHが連通孔7fの高さhよりも低い場合、潤滑油6bは連通孔7fを通過しない。一方、図13(b)に例示するように、油面高さHが連通孔7fの高さhよりも高いので、潤滑油6bは連通孔7fを通過する。
図14(a)は、冷媒混合油の温度Tが所定温度値t2より低いのときの調節弁9の位置を示した図である。つまり、図14(a)は、冷却ポンプ12が停止しているときの冷媒混合油6の流動を示す図である。制御装置13は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t2より低い場合、連通孔7eの開度が全開となる位置に作動するように調節弁9を制御する。図14(a)で例示するように、連通孔7eの開度は、調節弁9の作動によって全開となる。また、図14(a)では、貯留部4における潤滑の油面高さHが連通孔7fの高さhより高いので、貯留部4における潤滑油6bが連通孔7fを通過しギヤ収容部3に流入する。
図14(b)は、冷媒混合油の温度Tが所定温度値t3より高いときの調節弁9の位置を示した図である。つまり、図14(b)は、冷却ポンプ12が作動しているときの冷媒混合油6の流動を示す図である。制御装置13は、冷媒混合油6の温度Tが所定温度値t3より高い場合、連通孔7eの開度が全閉となる位置に作動するように調節弁9を制御する。図14(b)で例示するように、連通孔7eの開度は、調節弁9の作動によって全閉となる。また、図14(b)では、貯留部4における冷媒混合油6の油面高さHが連通孔7fの高さhより高いので、貯留部4における潤滑油6bが連通孔7fを通過しギヤ収容部3に流入する。さらに、冷却ポンプ12が作動しているので、冷却ポンプ12は、貯留部4における冷媒混合油6の冷媒6aを吸い上げ、冷媒6aを冷却必要箇所に供給している。
このように、本実施形態における潤滑装置によれば、掻き上げ潤滑による冷却性能の必要性が低い際には、貯留部4に貯留された冷媒6aを有効活用することができる。具体的には、掻き上げ潤滑において冷却性能が求められない時には、調節弁9によって、連通孔7eを全閉したうえで、冷却ポンプ12によって、冷却必要箇所に冷媒6aを供給することができる。また、図10には、温度と粘性係数の関係を示す図を例示した。図10によれば、潤滑油と冷媒混合油との特性を比較した場合、高温域では粘性係数の差が小さく、低温域では粘性係数の差が大きいことが判る。
(実施例5)
次に、別実施形態における潤滑装置について説明する。なお、上述の実施例と同様の構成については説明を省略し、同一の符号を用いて説明を行うものとする。図15(a)は、潤滑装置1の断面を模式的に示した図である。図15(b)は、潤滑装置1の断面を拡大して模式的に示した図である。本発明にかかる潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8と、調節弁9と、調節弁制御装置10と、温度センサ11と、キャッチタンク15とを有する構成である。図15(a)および(b)に例示するように、ギヤ2は、反時計回りに回転し貯留部3における冷媒混合油6を掻き上げる。
図15(a)に例示するように、潤滑装置1は、ケース8内の上方部に、掻き上げた冷媒混合油6を溜めるキャッチタンク15が形成されている。キャッチタンク15は、開口部15aと潤滑孔15bとを有する構成である。開口部15aは、キャッチタンク15の上方部に形成されている。ギヤ2により掻き上げられた冷媒混合油6が、開口部15aからキャッチタンク15に流入する。潤滑孔15bは、キャッチタンク15に流入した冷媒混合油6が一時的に溜められる部分に形成されている。キャッチタンク15に一時的に溜められた冷媒混合油6は、潤滑孔15bから各部材に供給される。
次に、キャッチタンク15への冷媒混合油6の流入量と、冷媒混合油6の温度Tとの関係を説明する。上述したように、冷媒混合油6の温度Tが所定値温度t2よりも低い場合(T<t2)、連通孔7eの開度は全開になる。つまり、ギヤ収容部3における冷媒混合油6のうち冷媒6aの比率が増加する。したがって、掻き上げられる冷媒混合油6は低粘度化しているので、ギヤ2によって掻き上げられる冷媒混合油6の量が増加する。
このように、本実施形態における潤滑装置によれば、低温時に掻き上げ潤滑する冷媒混合油6を低粘度化するので、キャッチタンク15に流入する冷媒混合油6の量を増加させることができる。これにより、キャッチタンク15の潤滑孔15bから各構成部材に供給される冷媒混合油量が増加し、各構成部材の潤滑性能を向上させることができる。
(実施例6)
次に、本発明に係る別実施形態における潤滑装置の構成を説明する。なお、上述の実施例と同様の構成については説明を省略し、同一の符号を用いて説明を行うものとする。
潤滑装置1は、ギヤ2と、ギヤ収容部3と、貯留部4と、仕切部5と、冷媒混合油6と、連通孔7と、ケース8と、調節弁9と、キャッチタンク15と、調節弁制御装置14とを有する構成である。調節弁制御装置14は、車速に応じて、調節弁9の作動を制御する装置である。図17は、車速と調節弁9の弁開度との関係を示した図である。調節弁制御装置14は、図17で例示するように、車速の増加に伴い、調節弁9の開度を大きくして、所定車速に達した際に調節弁9の開度が全開になるように制御する。一方、車速が0の場合、調節弁制御手段14は、調節弁9の開度が所定値になるように調節弁9の位置を制御する。
低車速時には、調節弁制御手段14が、調節弁9の開度を低くするように調節弁9の作動を制御する。換言すれば、調節弁制御手段14が、低車速時におけるギヤ収容部3の冷媒混合油面が低くなるように、調節弁9の作動を制御している。
このように、本実施形態における潤滑装置1によれば、低車速時には、貯留部4からギヤ収容部3へ流入する冷媒混合油量を減少するので、ギヤ収容部3における冷媒混合油面を低くさせることができる。これにより、ギヤ収容部3における冷媒混合油面が低くなるので、低車速時でもギヤ2により掻き上げられる冷媒混合油の飛散距離が増加し、キャッチタンク15に掻き上げた冷媒混合油を流入させることができる。図18は、キャッチタンク15に流入する冷媒混合油量と、車速との関係を示した図である。本実施形態における潤滑装置によれば、流入車速が、従来技術に比べ、低車速化させることができる。また、高車速時には、掻き上げられる冷媒混合油における冷媒の比率が増加し低粘度化しているので、従来技術に比べて、キャッチタンク15へ流入する冷媒混合油量を増加させることができる。
以上の通り、本発明に係る潤滑装置によれば、効果的にギヤを浸漬している冷媒混合油のオイルレベルを低減することができ、損失低減効果を得つつ、オイルレベルが高い際にもギヤの焼き付け防止が可能となる。また、オイルレベルが低い際には、連通孔から冷媒が優先的に供給されるので、抵抗低減効果を増加させることができる。さらに、仕切部に連通孔を設ければよいので、コストを削減できる。
また、本発明に係る潤滑装置によれば、冷間時は、冷媒比が高くなるので、冷媒混合油を早期に低粘度化し、ギヤの攪拌および引き摺りトルクを低減できる。また、掻き上げた冷媒混合油をキャッチタンクに溜め、各部潤滑及び冷却に用いる駆動力伝達装置の場合、冷媒混合油の掻き上げ量を増加させるのでキャッチタンク流入量が増加し、潤滑性及び冷却性を向上させることができる。
また、本発明に係る潤滑装置によれば、キャッチタンク流入車速が低車速化するので、低車速時の各部潤滑及び冷却性を向上させることができる。また、高車速域では、キャッチタンク流入量が増加するので、高車速時の各部潤滑及び冷却を向上させることができる。
また、本発明に係る潤滑装置によれば、冷媒混合油の温度が高く、粘度低減効果が小さい領域における損失増加を抑制させることができる。また、調節弁を全閉にすることで潤滑油と冷媒の分離室を必要な時のみ形成させられるので、駆動力伝達装置の大型化を抑制させることができる。