JP5499847B2 - パネル組立体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、パネル組立体、パネル部材及びパネル組立体の製造方法に関する。
自動車のルーフ、ドア、エンジンフードなどのパネル部品は、薄鋼板をプレスして製造されることが多い。しかし最近、地球環境問題を発端とした自動車の燃費向上という観点から自動車の車体重量軽減が特に注目され、車体を構成する鋼板の板厚を低減することが重要視されている。
この場合、鋼板の薄肉化により、成形部品の張り剛性が低下することが問題となる。成形部品に外部から力が加えられると弾性変形によるたわみが生ずるが、このたわみ発生に対する抵抗力が張り剛性である。張り剛性は鋼板のヤング率と板厚に依存すると言われている。即ち、張り剛性をSとし、鋼板のヤング率をEとし、鋼板の板厚をtとすると、S∝E・tという式(1)が成立する。尚、式(1)におけるmは、鋼板の形状に依存した乗数で1〜3の範囲である。このように張り剛性は鋼板のヤング率と板厚に依存するから、張り剛性を維持したまま板厚を低減するにはヤング率の高い鋼板を用いる必要がある。(特許文献1及び2を参照)
ところで自動車車体には、比較的広い面積を有する板状の部材が用いられている。例えば、ルーフ、ドア、エンジンフードといった部材である。このような部材には、外部から各種の入力が加わる頻度が比較的高い。外部からの入力としては、洗車やワックスがけの際の数十kgf程度の小さな入力を想定している。本明細書では、比較的広い面積を有する部材をパネル部材と呼ぶ。
パネル部材は、通常、インナーパネルまたは骨格部材に接合されるアウターパネルで構成される。ドアやエンジンフードにおいては、インナーパネルの縁部に対しアウターパネル(パネル部材)の縁部を折り曲げて締結するヘミング加工により、アウターパネル(パネル部材)をインナーパネルに締結している。また、ルーフを構成するアウターパネル(パネル部材)は、ルーフレール(骨格部材)に締結している。
特許文献3には、パネル補強用シート材料及びそれを用いた車両外板パネルが開示されている。この特許文献3では、軽量化のためにパネル(鋼板)の板厚を薄くしたことから面の張り剛性が不足し、部品としてのしっかり感が不足することを補うために、比重の小さな素材をパネルに貼り付けて、板厚を増加させて張り剛性を持たせることが行われる。 即ち、特許文献3では、特定組成の発泡性プラスチルゾル組成物から成る第1層と繊維クロスから成る第2層と場合により特定の厚さの金属薄膜から成る第3層とが積層された構造のパネル補強用シート材料、及びこのシート材料を車輌外板パネルの裏面上に第1層が接するように設け、加熱して発泡、硬化させて成る車輌外板パネル構造体を形成している。
また、特許文献1では、鋼板のヤング率を高くすることで張り剛性を確保している。特許文献1では、集合組織を制御することで鋼板の面内の特定方向のヤング率を高くできることから、部品の剛性が必要な方向にヤング率が高い方向を一致させることで、板厚を薄くしても十分な剛性を得ている。
また、特許文献4では、パネル部材の形状を工夫することで、張り剛性をもたせている。通常、自動車のドアは、少なくとも開閉動作において人が良く触れる部位については車輌の外側に凸になるように構成されている。また、特許文献4に開示された自動車用板状部材構造では、2枚の板部材のうち一方にカップ状の多数のディンプルを形成した構造において、板状部材のディンプルを形成した板材側に車輌のユニットなどの剛性の高い部材を配置し、高部材に対抗するディンプルの深さを対抗しないディンプルに比べて浅くし、かつ、深いディンプルのピッチと浅いディンプルのピッチを変えるようにし、軽量で剛性の高い構造を実現している。
特開平5−255804号公報 特開2001−348644号公報 特開平6−171001号公報 特開2000−168622号公報
しかし、特許文献3のように、実質的に板厚を増加させる手法では、パネルの重量が増加し、軽量化の要求に反する問題がある。また、パネル部材の他に補強用シート材料が必要になり、部品点数が増加してコスト増を招くおそれもある。さらに、特許文献4のように、パネル形状を凸形状にする手法は、エンジンフードには比較的容易に適用可能だが、ドアやルーフ等には、自動車の構造上の制約があって、エンジンフードのように容易には適用できない問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、板厚を増加することなく、また、形状を凸状にすることなく、張り剛性を高くすることが可能なパネル組立体、パネル部材及びパネル組立体の製造方法を提供することを目的とする。
従来のパネル部材の張り剛性の向上手法は、実質的に板厚を増加させたり、鋼板におけるヤング率の異方性を利用したり、パネル形状を凸形状にするなど主に形状面からの手法であった。本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、張り剛性には、従来知られていないもう一つの因子が影響することを見いだした。すなわち本発明は、以下の構成を採用する。
(1) 鋼板からなるパネル部材を加熱昇温するにあたり、前記パネル部材に対して、前記パネル部材に対する面積比率で10%〜12.56%の範囲の領域を加熱昇温し、前記パネル部材の外周部を固定手段である支持プレートに前記パネル部材を重ね、前記パネル部材の外周部に設けた折り曲げ部を前記支持プレートの端部で折り返すヘミング加工を施し、降温する、ことを特徴とするパネル組立体の製造方法。
(2) 前記パネル部材の中央部に対して、前記パネル部材の各辺の10%以上の幅を有する十字状の領域を加熱昇温することを特徴とする請求項1に記載のパネル組立体の製造方法。
また、本発明は、以下の構成を採用してもよい。
)少なくとも中央部に降伏応力の10〜50%の残留応力を有する鋼板からなるパネル部材と、前記残留応力を保ちつつ前記パネル部材の外周部を固定する固定手段と、を具備してなることを特徴とするパネル組立体。
)前記固定手段が支持プレートであり、前記パネル部材の外周部にヘミング加工が施されて前記支持プレートに固定されていることを特徴とする()に記載のパネル組立体。
)前記固定手段が車体の骨格部材であり、前記パネル部材が、パネル部と、前記パネル部の周辺部に接続された高さ30mm以下のたて壁部と、前記たて壁部に接続されたフランジとを有し、前記フランジが前記骨格部材に固定されていることを特徴とする()に記載のパネル組立体。
)ヘミング加工により支持プレートに固定された鋼板からなるパネル部材であって、少なくとも中央部に、前記鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有することを特徴とするパネル部材。
)パネル部と、前記パネル部の周辺部に接続された高さ30mm以下のたて壁と、前記たて壁部に接続されたフランジとを有し、前記フランジを介して車体の骨格部材に固定された鋼板からなるパネル部材であって、少なくとも前記パネル部の中央部に、前記鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有するパネル部材。
)鋼板からなるパネル部材を加熱昇温後、前記パネル部材の外周部を前記固定手段に固定し、その後、降温することを特徴とするパネル組立体の製造方法。
)鋼板からなる前記パネル部材を加熱昇温後、前記固定手段である支持プレートに前記パネル部材を重ねてから、前記パネル部材の外周部に設けた折り曲げ部を前記支持プレートの端部で折り返すヘミング加工を施し、その後、降温することを特徴とする()に記載のパネル組立体の製造方法。
)パネル部と、前記パネル部の周辺部に接続された高さ30mm以下のたて壁部と、前記たて壁部に接続されたフランジとを有する前記パネル部材を加熱後、前記固定手段である車両の骨格部材に前記フランジを接合し、その後、降温することを特徴とする()に記載のパネル組立体の製造方法。
) 前記パネル部材または前記パネル部の中央部に対して、前記パネル部材または前記パネル部に対する面積比率で10%〜100%の範囲の領域を加熱昇温することを特徴とする()または()に記載のパネル組立体の製造方法。
) 前記パネル部材または前記パネル部の中央部に対して、前記パネル部材または前記パネル部の各辺の10%以上の幅を有する十字状の領域を加熱昇温することを特徴とする()または()に記載のパネル組立体の製造方法。
本発明のパネル組立体によれば、パネル部材の中央部に、鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有するので、ヤング率や板厚を高めることなく、外部入力に対する反力を高めることができ、パネル組立体の張り剛性を高めることができる。
また、本発明のパネル組立体の製造方法では、加熱したパネル部材の外周部を固定手段に固定した状態で、パネル部材を降温している。この際、パネル部材は収縮しようとするが、外周部が固定手段に固定されているので、パネル部材には残留応力が生じることになる。このようにして、鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有するパネル部材を製造できる。
図1は、本発明の第1の実施形態であるパネル部材を示す分解斜視図である。 図2は、本発明の第1の実施形態であるパネル部材を示す斜視図である。 図3は、本発明の第1の実施形態であるパネル部材を示す部分断面図である。 図4は、本発明の第1の実施形態であるパネル部材の加熱範囲を示す平面模式図である。 図5は、本発明の第1の実施形態であるパネル部材の加熱範囲を示す平面模式図である。 図6は、本発明の第2の実施形態であるパネル部材を示す斜視図である。 図7は、本発明に係るパネル部材のモデルによるシュミレーション結果を示すモデル図である。 図8は、本発明に係るパネル部材のモデルによるシュミレーション結果を示すモデル図である。 図9は、本発明に係るパネル部材のモデルによるシュミレーション結果を示すモデル図である。 図10は、本発明に係るパネル部材のモデルによるシュミレーション結果を示すモデル図である。 図11は、本発明に係るパネル部材のモデルによるシュミレーション結果であって、パネル部材の入力に対する変位量と、反力との関係を示すグラフである。 図12は、実施例1における加熱温度幅と残留応力との関係を示すグラフである。 図13は、実施例2における荷重によるパネル部材の変位量と、反力との関係を示すグラフである。 図14は、実施例3における荷重によるパネル部材の変位量と、反力との関係を示すグラフである。
「第1の実施形態」
本発明の第1の実施形態であるパネル組立体のモデルについて、図面を参照して説明する。図1には、本実施形態のパネル組立体の分解斜視図を示し、図2にはパネル組立体の斜視図を示し、図3にはパネル組立体の部分断面図を示す。
図1〜図3に示すように、本実施形態のパネル組立体1は、鋼板からなるパネル部材2と、パネル部材2の外周部2aを固定する支持プレート3(固定手段)から概略構成されている。このパネル組立体1は、例えば自動車のエンジンフードやドア等に適用される。エンジンフードやドア等に適用される場合、パネル部材2はアウターパネルとなり、支持プレート3はインナーパネルとなる。
支持プレート3は、図1〜図3に示すように、凹部3aと、凹部3aの全周を囲む外縁部3bとから概略構成されている。この支持プレート3は、例えば鋼板をプレス加工等によって形成される。また、支持プレート3は、パネル部材2の残留応力を保ちつつパネル部材2の外周部2aを固定できるものであればよい。本実施形態の場合は、パネル部材2の残留応力によって支持プレート3が座屈変形しなければよく、パネル部材2の残留応力よりも高い座屈強度を有する鋼板を用いればよい。
図1〜図3に示すように、支持プレート3の上に、パネル部材2が重ねられている。パネル部材2の外周部2aには折り返し部2bが設けられており、パネル部材2の外周部2aと折り返し部2bとによって支持プレート3の外縁部3bを挟み込んでいる。本実施形態のパネル組立体のモデルにおいては、パネル部材2は、その外周部2aのみにおいて支持プレート3に固定され、他の箇所では固定されていない。実際の自動車においては、車体の外側に配置されて外板となるパネル部材2と、車体の内側に配置されて内板となる支持プレート3とは、外周部以外の内部においても部分的に接着剤で接続されるが、本発明の効果を減じるものではない。
パネル部材2の外周部2a及び折り返し部2bによって支持プレート3の外縁部3bを挟んで固定する構造を有することで、パネル部材2が剛体となり、残留応力を保持可能となる。パネル部材2は、鋼板の降伏応力の10〜50%に相当する残留応力を有している。
パネル部材2の残留応力は、鋼板の降伏応力の10〜50%が好ましく、25〜45%がより好ましい。残留応力が鋼板の降伏応力の10%未満では、張り剛性が不十分となるので好ましくない。また、残留応力が鋼板の降伏応力の50%超では、僅かなひずみによって降伏し、永久ひずみを形成してしまうので好ましくない。尚、残留応力は、ひずみゲージを貼り付け、ひずみゲージ周囲を切断することで、解放されたひずみより測定する切断法で測定できる。
また、パネル部材2を構成する鋼板は、特に制限がなく、軟鋼板、高強度鋼板等の各種の鋼板を用いることができるが、鋼板の引っ張り強度が高いほど残留応力が増加するので、高強度鋼板が好ましい。また、パネル部材2を構成する鋼板の板厚は、0.3〜1.0mmの範囲が好ましい。板厚が0.3mm未満では、張り剛性の板厚減少に伴う低下代が大きくなり過ぎ、残量応力によっては張り剛性を十分高くできないので好ましくなく、板厚が1.0mm超では、パネル組立体1の自重が増大するので好ましくない。また、パネル部材2は、例えば、平面視したときにほぼ四角形になる鋼板を用いることが好ましい。この場合のパネル部材2の短辺の長さは、例えば500〜2000mmの範囲がよい。短辺の大きさが小さいと、元々の張り剛性が高いので張り剛性を向上させる必要がない。また、短辺の大きさが過大になると、鋼板の降伏応力の50%の残留応力を付与したとしても、十分な張り剛性が得られない。
また、パネル部材2の形状は、平面形状が好ましい。また、パネル部材2の形状として、支持プレート3側とは反対側に向けて突出した曲面形状でも良い。パネル部材2を湾曲させた場合の曲面形状は、球面でも良く、円柱面でも良い。また、パネル部材の第1面内方向に沿って主曲率半径を持たせ、前記第1面内方向と直交する第2面内方向に沿って従曲率半径を持たせた楕球面でも良い。パネル部材2を曲面形状とする場合の最小曲率半径は、300mm以上とすることが好ましい。最小曲率半径が300mm未満になると、残留応力を付与したときに面ひずみが目立つようになるので好ましくない。なお、楕球面における最小曲率半径は、主曲率半径または従曲率半径の何れかのうち最小となる曲率半径が300mm以上になればよい。
本実施形態のパネル組立体1を製造するには、先ず鋼板からなるパネル部材2を加熱昇温する。その後、支持プレート3にパネル部材2を重ねてからパネル部材2の外周部2aに設けた折り曲げ部2bを支持プレート3の外縁部3bにおいて折り返すヘミング加工を施す。その後、降温することでパネル組立体1が製造される。
パネル部材2を加熱昇温する場合は、パネル部材2の全面を加熱しても良く、図4に示すようにパネル部材2の中央部2d(一点鎖線で囲まれた部分)を加熱しても良い。好ましくは、パネル部材2に対する面積比率で10%〜100%の範囲の領域を加熱昇温するとよい。加熱する領域の面積比率がパネル部材2の全面の10%未満になると、パネル部材2に十分な残留応力を発生させることができないので好ましくない。
また、パネル部材2を加熱昇温する場合に、図5に示すように、パネル部材2の中央部2dに対し、パネル部材2の各辺の辺長Nに対して10%以上の幅Hを有する十字状の領域(一点鎖線で囲まれた領域)を加熱昇温してもよい。十字状の領域の幅Hが、パネル部材2の辺長Nの10%未満になると、パネル部材2に十分な残留応力を発生させることができないので好ましくない。
加熱昇温する際の温度幅は、昇温前後の温度差で20〜100℃の範囲とすることが好ましく、50〜100℃の範囲とすることがより好ましい。例えば、温度幅を50℃に設定したい場合に、加熱前の鋼板の温度が20℃であったとすると、鋼板温度が70℃になるまで加熱昇温すればよい。加熱昇温の温度幅が20℃未満では、パネル部材2に十分な残留応力を付与できないので好ましくない。また、加熱昇温の温度幅が100℃超では、残留応力が過大になり、パネル部材に永久ひずみが残留しやすくなるので好ましくない。
また、本実施形態では、パネル部材2の中央部を相対的に加熱した状態にすればよいので、例えば、ヘミング加工によって加熱前のパネル部材2を支持プレート3に締結した後、焼き付け塗装などを施してパネル部材2および支持プレート3を均熱化し、その後、ヘミング加工を施したパネル部材2の外周部および支持プレート3を先に冷却し、それ以外の部分は保温、加熱などにより冷却を遅らせることにしてもよい。
パネル部材2を加熱昇温する手段としては、水浴または油浴にパネル部材2を浸漬させる方法、パネル部材2を加熱炉中で加熱する方法、局所的に熱風を当てる方法、レーザや赤外線ランプの光を照射する方法など、各種の手段を用いることができる。
次に、ヘミング加工によりパネル部材2を支持プレート3に固定する。ヘミング加工の際には、折り返し部2bに接着材を塗布してパネル部材2と支持プレート3を接合しても良い。また、ヘミング加工後に、折り返し部2bに一対の溶接電極を当接させてシリーズスポット溶接を施し、折り返し部2bと支持プレート3の外縁部3bを溶接してもよい。
次に、パネル部材2を降温させる。降温速度は特に限定はなく、たとえば室温で自然放冷すればよい。以上のようにして、本実施形態のパネル組立体1が完成する。
本実施形態のパネル組立体1によれば、残留応力を有するパネル部材2が、ヘミング加工によって支持プレート3に固定されているので、残留応力を保持し続けることができる。また、パネル部材2の残留応力が保持されるため、パネル部材2の張り剛性を高めることができる。これにより、パネル部材2への外部入力に伴う変形量を、残留応力がないパネル部材の場合に比べて、小さくすることができる。
また、本実施形態のパネル組立体1の製造方法においては、パネル部材2を加熱昇温して熱膨張させてから支持プレート3に固定し、その後、降温する。熱膨張されたパネル部材2が降温時に収縮しようとするが、その外周部2bが支持プレート3に固定されているため収縮できず、パネル部材2の中央部を中心にした引っ張り応力が生じる。この引っ張り応力が残留応力となってパネル部材2に残存する。このようにして、鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有するパネル部材2を備えたパネル組立体1を製造できる。
また、パネル部材2を支持プレート3に固定する手段として、パネル部材2の折り返し部2bを折り曲げて支持プレート3の外縁部3aを挟み込むヘミング加工を採用するので、残留応力を開放させることなくパネル部材2を固定できる。
「第2の実施形態」
次に、本発明の第2の実施形態であるパネル組立体について、図面を参照して説明する。図6には、本実施形態のパネル組立体の斜視図を示す。
図6に示すように、本実施形態のパネル組立体11は、鋼板からなるパネル部材12と、パネル部材12の外周部12aを固定する車両の骨格部材13(固定手段)から概略構成されている。このパネル組立体11は、例えば自動車のルーフ等に適用される。この場合の骨格部材13としては、ルーフレールを例示できる。
骨格部材13は、図6に示すように、上部部材13aと下部部材13bとから構成されている。上部部材13aの先端には、パネル部材12に向けて突出する上部突片13cが設けられている。また、下部部材13bの先端には、パネル部材12に向けて突出する下部突片13dが設けられている。上部突片13cと下部突片13dは相互に対向している。そして、上部突片13cと下部突片13dとの間に、パネル部材13のフランジ12dが挟まれて固定されている。骨格部材13を構成する上部部材13a及び下部部材13bは、例えば鋼板をプレス加工等で加工することで形成される。
図6に示すように、骨格部材13にパネル部材12が固定されている。パネル部材12は、パネル部12bと、パネル部12bの周囲に接続されるたて壁部12cと、たて壁部12cに接続されるフランジ12dとから構成されている。たて壁部12cは、パネル部12bに対して図中下向きに折り曲げられている。また、フランジ12dは、たて壁部12cに対して図中水平方向に折り曲げられている。このパネル部材12は、1枚の鋼板にプレス成形加工等を施すことにより形成される。フランジ12dは、上部突片13cと下部突片13dとの間に挟まれて、上部突片13cと下部突片13dとにそれぞれ溶接されている。このようにして、パネル部材12と骨格部材13とが一体化されている。ところで、本発明の効果はフランジ12dと上部突片13cおよび下部突片13dを重ね合わせる順序に左右されるものではない。フランジ12dが、上部突片13cと下部突片13dの上に配置されても十分な効果を発揮する。
尚、図6においては、パネル部材12の一端のみが骨格部材13に固定された状態を示しているが、これは説明の便宜のためであり、本実施形態ではパネル部材12のフランジ12dが全周に渡って骨格部材13に固定されていることが望ましい。この構成によって、パネル部材12が剛となり、形状を保って残留応力を保持可能となる。パネル部材12のパネル部12bには、鋼板の降伏応力の10〜50%に相当する残留応力が付与されている。好ましくは、鋼板の降伏応力の25〜45%に相当する残留応力が付与されている。一方、パネル部材12のたて壁部12c及びフランジ12dには、パネル部12bの引っ張り応力に対応する圧縮応力が付与されている。
パネル部材12を構成する鋼板は、第1の実施形態の場合と同様に特に制限がなく、軟鋼板、高強度鋼板等の各種の鋼板を用いることができる。また、パネル部材12を構成する鋼板の板厚は、第1の実施形態と同様に、0.3〜1.0mmの範囲が好ましい。また、パネル部材12は、例えば、平面視したときにほぼ四角形になる鋼板を用いることが好ましい。この場合のパネル部材12の短辺の長さは、第1の実施形態と同様に、例えば500〜2000mmの範囲がよい。
さらに、パネル部材12のたて壁部12cの高さhは30mm以下とすることが好ましい。たて壁部12cの高さが30mmを超えると、パネル部材12が骨格部材13に締結された状態で、たて壁部12cがバネとして働いてしまい、パネル部12bの残留応力を開放してしまう。
また、第1の実施形態と同様に、パネル部材12の形状は、平面形状が好ましい。また、パネル部材12の形状として、支持プレート3側とは反対側に向けて突出した曲面形状でも良い。パネル部材2を湾曲させた場合の曲面形状は、球面でも良く、円柱面でも良く、楕球面でも良い。パネル部材12を曲面形状とする場合の最小曲率半径は、300mm以上とすることが好ましい。
また、骨格部材13は、パネル部材12の残留応力を保ちつつパネル部材12のフランジ12dを固定できるものであればよい。
本実施形態のパネル組立体11を製造するには、先ず鋼板からなるパネル部材12を加熱昇温する。その後、フランジ12dを上部突片13cと下部突片13dとの間に挟み込ませることで骨格部材13にパネル部材12を組み付けてから、上部突片13c及び下部突片13dに対してフランジ12dを溶接する。その後、降温することでパネル組立体11が製造される。
パネル部材12を加熱昇温する場合は、第1の実施形態の場合と同様に、パネル部12bの全面を加熱しても良く、パネル部12bの中央部を加熱しても良い。好ましくは、パネル部12bに対する面積比率で10%〜100%の範囲の領域を加熱昇温するとよい。加熱する領域の面積比率がパネル部12bの全面の10%未満になると、パネル部12bに十分な残留応力を発生させることができないので好ましくない。
また、パネル部12bを加熱昇温する場合に、第1の実施形態と同様に、パネル部12bの各辺の辺長に対して10%以上の幅を有する十字状の領域を加熱昇温してもよい。
加熱昇温する際の温度幅は、第1の実施形態の場合と同様に、昇温前後の温度差で20〜100℃の範囲とすることが好ましく、50〜100℃の範囲とすることがより好ましい。
また、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、パネル部12bを相対的に加熱した状態にすればよいので、例えば、ヘミング加工によって加熱前のパネル部材12を骨格部材13に締結した後、焼き付け塗装などを施してパネル部材12および骨格部材13を均熱化し、その後、骨格部材13およびたて壁部12c、フランジ12dを先に冷却し、パネル部材13のそれ以外の部分は保温、加熱などにより冷却を遅らせることにしてもよい。
パネル部材12を加熱昇温する手段としては、第1の実施形態と同様の手段を用いることができる。
次に、パネル部材12を骨格部材13に固定する。フランジ12dを上部突片13cと下部突片13dとの間に挟んだ状態で、上部突片13c及び下部突片13dとフランジ12dとをスポット溶接またはレーザ溶接等によって溶接すればよい。
次に、パネル部材12を降温させる。降温速度は特に限定はなく、たとえば室温で自然放冷すればよい。以上のようにして、本実施形態のパネル組立体11が完成する。
本実施形態のパネル組立体11によれば、第1の実施形態の場合と同様な効果が得られる。
また、本実施形態のパネル組立体11の製造方法においては、パネル部材12を加熱昇温して熱膨張させてから支持プレート13に固定し、その後、降温する。熱膨張されたパネル部材12が降温時に収縮しようとするが、フランジ12dが骨格部13で固定されているため収縮できず、パネル部12bを中心にした引っ張り応力が生じる。この引っ張り応力が残留応力となってパネル部材12に残存する。このようにして、鋼板の降伏応力の10〜50%の残留応力を有するパネル部材12を備えたパネル組立体11が得られる。
また、たて壁部12cの高さhが30mm以下なので、パネル部材12が降温時に収縮する際に、たて壁部12cがバネとして機能することがない。これにより、パネル部12bの残留応力が減少する恐れがない。
「パネル部材のモデル」
次に、図7〜図9を参照して、本発明に係るパネル組立体の作用について、第2実施形態のパネル組立体11を例にして詳細に説明する。図7〜図9は、第2実施形態のパネル部材を荷重解析するためにモデル化したモデル図である。図7〜図9には、図6に記載した符号に対応する符号を付している。
図7は、残留応力が付与されていないパネル部材であって、荷重が加わる前の状態を示している。図7に示すモデルは、パネル部12bに対応する辺に一対のバネkが備えられている。また、バネk同士の間のピンpは荷重が加わる点であり、回転自由であるとともに並進運動が許容されている。
また、たて壁部12cに対応する辺の中央には別のピンpが設けられており、このピンpは、回転自由であるが並進運動しないように固定されている。また、フランジ12dに対応する辺の中央には、別のバネkが配設されている。その他、図中に示される点は、塗りつぶした黒点が回転自由であるが並進運動しないように固定されたピンを示し、白点が回転自由かつ並進運動が自由なピンを示す。
次に、図7に示されるピンpに対して垂直方向の荷重2Fを加えることで、ピンpに変位δzを与えた場合のモデル図を図8に示す。
図8に示すように、荷重2Fが加わることで、2つのバネkにはそれぞれ引っ張り応力が加わり、これにより各バネkの長さLは、初期のバネ長Lよりも伸び量δだけ長いL+δになる(L=L+δ)。また、フランジに対応するバネkには、圧縮応力が加わる。
図9は、ピンpに対して荷重2Fが加えられた場合の張り剛性を示している。一方のバネkに着目すると、このバネkに作用する荷重は2F/2=Fとなる。荷重Fが加わるとき、パネル部12bとたて壁部12cとの接合点pを中心にしてパネル部12bが角度θだけ回転し、点pが変位量δzだけ下方に変位する。ここで、バネkに加わる荷重をfとすると、F=f・sinθとなる(式1)。また、バネkに加わる荷重fは、バネの伸び量δ(δ=L−L)とバネ定数Kの積だから、f=K(L−L)=Kδとなる(式2)。さらに、sinθは、バネ長Lに対する正弦だから、変位量δzとの関係で、sinθ=δz/L=δz/(L+δ)となる(式3)。
ここで、張り剛性Eは、E≡F/δzと表せるから(式4)、この式4に式1を代入すると式5の通りとなり、さらに式5に式2及び式3を代入すると式6となる。更に、式6を近似すると式7になる。式7を更に近似すると式8になる。このように、パネル部材12において残留応力が0の場合の張り剛性Eは、E=F/δz≒Kδ/Lで表される。
次に、図10に示すように、パネル部材12に残留応力がある場合、荷重が加えられていない状態でのバネの初期の長さはL+δとなる。δは、残留応力によるバネkの伸び量である。この状態で荷重Fが加わると、このときのバネ長L’はL’=L+δ+δとなる。このバネ長L’を先の式2に代入して計算すると、残留応力が加わっている場合の張り剛性E’は、E’=F/δz≒K(δ+δ)/Lで表される(式10)。
式(9)及び式(10)において、バネ定数Kを50kN/mmとし、バネの初期長さLを500mmとし、残留荷重を5kNとし、残留応力によるバネの伸び量δを0.1mmとして、点pにおける変位量δzと荷重Fとの関係を求めると、図11に示すグラフの通りとなる。図11に示すように、変位量δzに対する荷重Fの値は、残留応力がある場合のほうが、ない場合よりも高くなっている。このように、パネル部材12に残留応力を有しているパネル組立体12によれば、張り剛性を高めることが可能になる。
(実施例1)
パネル部材の残留応力は、加熱温度幅によって調整することが可能である。ここで、第1の実施形態のパネル組立体を用いて、加熱温度幅と残留応力との関係を調べた。支持プレートとして、板厚0.65mmのJAC270C材を用意した。また、パネル部材として、板厚0.7mm、1000mm×1000mmのJAC270D材を用意した。パネル部材全体を10℃〜100℃の温度幅に昇温加熱した。次いで、図1〜3と同様にして、プレス加工した支持プレートに対して、ヘミング加工によりパネル部材を接合させ、その後、室温まで冷却した。パネル部材の形状は平坦形状とした。そして、切断法によりパネル部材の中央部における残留応力を測定した。結果を図12に示す。加熱温度幅をxとし、残留応力をyとしてxyの関係式を求めるとy=0.8917x≒0.9xとなった。中央部の残留応力は、平面応力状態であり、相当応力で、0.9×加熱温度(℃)の残留応力が発生していた。この関係式によって、残留応力を調整することが可能になる。ところで、パネル部材の残留応力は、場所によって急峻に変化することはない。このため、中央部とは厳密な意味での中央点である必要はなく、残留応力の値としては、例えば中央点を含む面積比率で10%程度の範囲内における任意の位置における測定値を考えればよい。
(実施例2)
次に、第1の実施形態のパネル組立体を用いて、加熱温度幅を50℃とした場合の荷重に対する押し込み変位量との関係を調べた。実施例1と同様に、支持プレートとして板厚0.65mmのJAC270C材を用意した。また、パネル部材として、板厚0.7mm、1000mm×1000mmのJAC270D材を用意した。パネル部材に対して、全体を0℃〜120℃の温度幅に昇温加熱した。次いで、図1〜3と同様にして、プレス加工した支持プレートに対して、ヘミング加工によりパネル部材を接合させた。パネル部材の形状は平坦形状とした。加熱幅50℃のものについては、その後、室温まで冷却した。このようにして、加熱温度幅が0℃〜120℃のパネル組立体を製造した。
得られたパネル組立体に対し、パネル部材の中央部にポンチにて10mmまで徐々に押し込んだときの反力を評価した。加熱温度幅が20℃〜100℃のパネル組立体については、実施例1の場合と同様に、残留応力が発生して張り剛性の向上が認められた。しかし、加熱温度幅を120℃にしたものは、10mm押し込んで反力測定後、ポンチを戻したところ、永久ひずみが認められた。
図13には、パネル部材を50℃の加熱温度幅となるように昇温し、ヘミングにより支持プレートに組み付けたパネル組立体の張り剛性を測定した結果である。図13には、加熱温度幅が0℃のパネル組立体の張り剛性を合わせて示している。加熱温度幅が50℃の場合は、加熱昇温によって約42MPaの等二軸引張の残留応力が発生した。また、図13に示すように、加熱昇温したパネル組立体は、加熱昇温していないパネル組立体に対して、張り剛性が向上していることが分かる。尚、この結果は、図11のシミュレーション結果とよく一致した。
(実施例3)
第1の実施形態のパネル組立体を用いて、加熱温度幅を50℃とした場合の荷重に対する押し込み変位量との関係を調べた。
支持プレートとして、板厚0.65mmのJAC270C材を用意した。また、パネル部材として、板厚0.7mm、500mm×500mmのJAC270D材を用意した。パネル部材全体を50℃の温度幅に昇温加熱した。次いで、図1〜3と同様にして、プレス加工した支持プレートに対して、ヘミング加工によりパネル部材を接合させた。このとき、パネル部材を楕球面形状にして接合させた。パネル部材の一辺における主曲率半径を1250mmとし、一辺と直交する他辺における従曲率半径を17000mmとした。その後、室温まで冷却してパネル組立体とした。
また、加熱温度幅が0℃であること以外は上記と同様にして、楕球面状のパネル部材を有するパネル組立体を製造した。
図14は、上記の楕球面形状のパネル部材を50℃の加熱温度幅となるように昇温し、ヘミングにより支持プレートに組み付けたパネル組立体の張り剛性を測定した結果である。図14には、加熱温度幅が0℃で楕球面形状のパネル部材を有するパネル組立体の張り剛性を合わせて示している。図14に示すように、加熱昇温したパネル組立体は、加熱昇温していないパネル組立体に対して、張り剛性が向上していることが分かる。尚、この結果は、図11のシミュレーション結果とよく一致した。以上の結果より、パネル部材の形状が曲面であっても、張り剛性を向上できることが判明した。
(実施例4)
次に、第1の実施形態及び第2の実施形態のパネル組立体を用いて、加熱温度幅を15℃〜150℃とした場合の残留応力を測定した。支持プレートとして板厚0.65mmのJAC270C材を用意した。また、パネル部材として、表1に示す各種の鋼板を用意した。板厚はいずれも0.7mmである。また、各鋼板のサイズはいずれも縦1000mm×横1000mmである。次に、パネル部材のうち表1に示す加熱範囲に対して加熱昇温した。次いで、図1〜3または図6と同様にして、プレス加工した支持プレートに対して、ヘミング加工によりパネル部材を接合させるか、骨格部材に対して、プレス加工済みのパネル部材を接合させた。なお、パネル部材のプレス加工は加熱昇温前に実施した。パネル部材を接合した後、パネル部材を室温まで冷却した。このようにして、各種のパネル組立体を製造した。試験例1〜11は図1〜図3に対応するパネル組立体であり、試験例12〜14は図6に対応するパネル組立体である。各試験例について、切断法によりパネル部材の中央部における残留応力を測定した。また、降伏応力に対する残留応力の百分率を求めた。更に、パネル部材またはパネル部の中央部にポンチを押し込んで、その際の反力を測定した。測定した反力について、試験例1を基準として、反力が高くなった場合を張り剛性が向上したと評価し、反力が試験例1と同等な場合を張り剛性の変化が認められないと評価した。また、ポンチの押し込みによって永久ひずみまたは面ひずみが発生した場合は、その旨を表1に表記した。結果を表1に示す。
尚、表1の加熱範囲の比率の欄の値は、試験例10及び11の場合は、パネル部材の辺長に対する十字形の幅の割合であり、その他の試験例の場合は、パネル部材またはパネル部の面積に対する面積率である。
Figure 0005499847
表1に示すように、試験例3〜5、7、9、11及び14については、張り剛性の向上が認められた。一方、試験例2では加熱温度幅が15℃と十分でないために張り剛性が向上しなかった。また、試験例6では、加熱温度幅が120℃と高すぎたために永久ひずみが残留した。また、試験例8及び10では、加熱範囲の比率が低かったために十分な残留応力を付与することができず、結果的に張り剛性が向上しなかった。また、試験例12では、たて壁部の高さが高すぎてバネとして機能してしまい、降伏応力に対する残留応力の比率が低くなったために、張り剛性が向上しなかった。更に、試験例13では、たて壁部の高さが高すぎてバネとして機能してしまうために、加熱温度幅を高めて残留応力を大きくしたが、加熱温度幅が高すぎたために顕著な面ひずみが発生した。
1、11…パネル組立体、2、12…パネル部材、2a、12a…パネル部材の外周部、3…支持プレート(固定手段)、12b…パネル部、12c…たて壁部、12d…フランジ、13…骨格部材(固定手段)。

Claims (2)

  1. 鋼板からなるパネル部材を加熱昇温するにあたり、前記パネル部材に対して、前記パネル部材に対する面積比率で10%〜12.56%の範囲の領域を加熱昇温し、
    前記パネル部材の外周部を固定手段である支持プレートに前記パネル部材を重ね、
    前記パネル部材の外周部に設けた折り曲げ部を前記支持プレートの端部で折り返すヘミング加工を施し、
    降温する、
    ことを特徴とするパネル組立体の製造方法。
  2. 前記パネル部材の中央部に対して、前記パネル部材の各辺の10%以上の幅を有する十字状の領域を加熱昇温することを特徴とする請求項に記載のパネル組立体の製造方法。
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