JP5496480B2 - 酵母変異株 - Google Patents

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Description

本発明は、酵母変異株の作製方法、該作製方法により得られた酵母変異株、該酵母変異株を培養して得られる培養物、分画物、酵母エキスおよびこれらを利用した飲食品に関する。
酵母菌体内の代表的な含硫化合物として、グルタチオンとS−アデノシルメチオニンがあげられる。グルタチオンは肝機能回復、抗酸化活性などを有するきわめて有用な物質であり、近年、調味料、健康食品への添加、化粧品の基材としての利用など、幅広い用途が期待されている。また、S−アデノシルメチオニンは様々な生体反応でメチル基の供与体として作用することが知られており、また、抗うつ作用、関節症の緩和、肝機能回復等報告され、これら含硫化合物は生体に対して重要な役割を果たしている。
グルタチオン等を高生産する酵母の先行技術として、これまでに多くの技術が開示されている。例えば、特許文献1には、酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)に属する菌株を親株とし、遺伝子操作技術を用いず、突然変異処理を施して得た、グルタチオンを乾燥菌体当たり5%重量以上含有する遺伝子組換え体でない酵母を取得する技術が開示されている。しかし、突然変異処理等により具体的にどの遺伝子が変異又は欠失して、グルタチオンを高生産する酵母が得られたかどうかは明らかにされていない。
また、特許文献2には、グルタチオンの前駆体であるγ−グルタミルシステインの高生産能を有し、かつ変異型MET30遺伝子を保持する酵母が開示されている。MET30遺伝子はS(硫黄)代謝関連遺伝子であり、ユビキチンリガーゼタンパク質をコードしている。ユビキチンは他の遺伝子に結合してその遺伝子の機能を抑制する働きをする。
特開2004−180509号公報 特開2004−113155号公報
しかしながら、工業的に安価で効率的にグルタチオン等の含硫化合物を取得するためには、更なる含硫化合物高含有酵母が望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、菌体中にグルタチオン等の含硫化合物を多量に保持しうる酵母および該酵母を利用した含硫化合物含有飲食品を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、DOA1遺伝子に変異を有する酵母及びDOA1遺伝子が欠失した酵母が顕著にグルタチオン等の含硫化合物を高生産することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
(1) 本発明は、サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569(受託番号FERM P−20386)である酵母変異株を提供するものである。
(2) また、本発明は、前記(1)に記載の酵母変異株の乾燥酵母菌体を提供するものである。
(3) また、本発明は、前記(1)に記載の酵母変異株を培養して、当該酵母株菌体内に含硫化合物を乾燥重量で1.6wt%以上に蓄積させることを特徴とする、含硫化合物高含有酵母の製造方法を提供するものである。
(4) また、本発明は、前記(1)に記載の酵母変異株の培養物を提供するものである。
本発明の酵母変異株によれば、突然変異処理により、DOA1遺伝子の少なくとも一部およびMET30遺伝子の少なくとも一部を、欠損または変異させたことで、酵母変異株菌体内の含硫化合物含有量を高めることができ、グルタチオン等の含硫化合物を高含有する酵母変異株が得られる。
従って、本発明の新規な酵母変異株を培養して、含硫化合物を高濃度に含有する培養物または分画物を得ることができる。
また、本発明の新規な酵母変異株を培養して、含硫化合物を高濃度に含有する酵母エキスや乾燥酵母菌体を得ることができる。
さらにまた、本発明の新規な酵母変異株を培養して得られる培養物、含硫化合物を含む前記培養物の分画物を含有させることにより、含硫化合物含有飲食品とすることができる。
以下に、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本発明の酵母変異株は、突然変異処理により、DOA1遺伝子の少なくとも一部およびMET30遺伝子の少なくとも一部を、欠損または変異させたものであれば、いずれであってもよい。変異は、欠失、置換、挿入、逆位、重複、転座の何れであってもよい。欠損または変異は、遺伝子領域全体であってもよく、遺伝子領域の一部であってもよい。
酵母としては、単細胞性の真菌類であればよく、具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属菌、ピキア(Pichia)属菌、キャンディダ(Candida)属菌、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属菌、ウィリオプシス(Williopsis)属菌、デバリオマイセス(Debaryomyces)属菌、ガラクトマイセス(Galactomyces)属菌、トルラスポラ(Torulaspora)属菌、ロドトルラ(Rhodotorula)属菌、ヤロウィア(Yarrowia)属菌、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属菌などが挙げられる。
これらの中でも、可食性であることから、キャンディダ・トロピカリス(Candidatropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・サケ(Candida sake)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが好ましく、より好ましくは汎用されているサッカロマイセス・セレビシエである。
また、他の遺伝子の変異株であってもよい。例えば、S代謝に関連する遺伝子の変異株を用いることにより、より含硫化合物を高含有する酵母変異株が得られる。
例えば、MET30遺伝子変異株においてDOA1遺伝子を欠損または変異させたものであってもよいし、DOA1遺伝子変異株においてMET30遺伝子を欠損または変異させたものであってもよい。その他、既知の酵母の遺伝子配列を基にPCR等の常法により、DOA1遺伝子やMET30遺伝子を変異、置換してもよい。置換するときにG418等の薬剤耐性遺伝子を用いることにより、目的の変異株の選択を容易に行なうことができる。
突然変異処理を行なうMET30遺伝子変異株としては、天然の変異株、公知の手法により作製した変異株、既知の変異株の何れでもよく、好ましくは、ABYC1592株のようなMET30遺伝子の開始コドンより1391番目の塩基がgからaに変異している点変異株である。このMET30遺伝子変異株に、例えば、DOA1遺伝子の開始コドン1371位から1417位までの47塩基のいずれかを欠失させることが好ましい。
突然変異処理を行なうDOA1遺伝子変異株としては、天然の変異株、作製した変異株、既知の変異株の何れでもよく、好ましくは、DOA1遺伝子の開始コドン1371位から1417位までの47塩基のいずれかを欠失している変異株である。このDOA1遺伝子変異株に、MET30遺伝子の開始コドンより1391番目の塩基をgからaに変異させることが好ましい。
突然変異処理の変異原としては、紫外線、電離放射線、亜硝酸、ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホネート(Ethylmethane sulufonate、以下EMSと略称する)等が挙げられる。その他、他の変異株に対し、戻し交配をすることによっても得られる。好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1592株を親株として、戻し交配を行なうことである。
突然変異処理を行なった後、塩基配列を確認し、DOA1遺伝子の少なくとも一部およびMET30遺伝子の少なくとも一部が、欠損または変異している変異株を選択することにより本発明の酵母変異株が得られる。確認した変異株は、常法により培養することができる。
このようにして、酵母変異株菌体内の含硫化合物含有量を高めることができる理由は明らかではないが、DOA1遺伝子およびMET30遺伝子に欠損または変異を起こすことにより、S(硫黄)代謝遺伝子群を活性化させ、S代謝遺伝子の発現量が増加し、含硫化合物を高濃度に蓄積させることができるようになるためと考えられる。
なお、本発明においては、含硫有機化合物とは、S(硫黄)含有アミノ酸を有する化合物を意味する。具体的には、図1に示すサッカロマイセス・セレビシエのS代謝マップ中に記載されている、グルタチオン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、アデノシルメチオニン、アデノシルホモシステイン、シスタチオニン、γグルタミルシステイン等が挙げられる。本発明においては、有用な生理活性が高い点から、グルタチオンであることが好ましい。
突然変異処理により得られた変異株は、菌体中に含まれるグルタチオン等の含硫化合物の含有量を測定し、グルタチオン等の含硫化合物量の含有量が増強した変異株をさらに選択し、含硫化合物量を高濃度で含有しうる変異株を探索することもできる。
このようにして本発明では、サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1592株を親株とし、戻し交配を行なうことによって、新規な変異株であるサッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569株が得られた。
なお、本発明の新規変異サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569株の一般的菌学的性質は、グルタチオンなど含硫化合物を高生産することを除いては、サッカロマイセス・セレビシエの一般的菌学的性質と全く同一である。本発明の新規変異サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569株は「受託番号FERM P−20386」として受託された。
本発明の変異株サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569株は菌体中に、乾燥重量で1.6wt%以上のグルタチオンを蓄積し得る。
本発明におけるグルタチオンとは、還元型および酸化型のグルタチオンの総グルタチオン量を意味するものである。
本発明では、更に、上記酵母変異株を培養して、当該酵母菌体内にグルタチオン等の含硫化合物を高濃度に蓄積させることを特徴とする含硫化合物量高含有酵母の製造方法が提供される。
具体的には、上記ABYC1569株を培養して、当該菌体内に含硫化合物を乾燥重量当たり0.8wt%以上、好ましくは1.6wt%以上含有させることができる。
本発明を実施するには、前述の方法で得られた酵母変異株を炭素源、窒素源及び無機塩等を含む培地で培養すればよい。
これら菌株の培地組成としては、炭素源として通常の微生物の培養に利用されるグルコース、蔗糖、酢酸、エタノール、糖蜜および亜硫酸パルプ廃液等からなる群より選ばれる1種または2種以上が用いられ、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムもしくはリン酸アンモニウム等の無機塩、およびコーンスティプリカー(CSL)、カゼイン、酵母エキスもしくはペプトン等の含窒素有機物等からなる群より選ばれる1種または2種以上が使用される。更に、リン酸成分、カリウム成分、マグネシウム成分を培地に添加してもよく、これらとしては、過リン酸石灰、リン安、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩酸マグネシウム等の通常の工業用原料でよい。その他、亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩を使用してもよい。その他、ビタミン、核酸関連物質等を添加しても良い。
培養形式としては、回分培養、流加培養または連続培養のいずれでもよいが、工業的には流加培養または連続培養が採用される。
培養条件は、一般的な酵母の培養条件に従えばよく、例えば温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃がよく、pHは3.5〜8.0、特に4.0〜6.0が望ましい。また、好気的条件であることが好ましい。
本発明の方法により高濃度のグルタチオン等の含硫化合物を酵母菌体内に含有する培養物が得られるが、培養物から含硫化合物を含有する分画物を得てもよい。
培養物から含硫化合物を含有する分画物を分画する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法でもよい。例えば、熱水抽出、菌体破砕による抽出等により得られた抽出物を、含硫化合物と親和性の高い物質を担持したアフィニティカラムを用いて分画することにより、含硫化合物を高濃度に含む画分に濃縮精製することが可能となる。
また、上記方法により培養した培養物から酵母エキスを調製してもよい。酵母エキスを調製する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法であってもよいが、自己消化法、酵素分解法あるいはアルカリ抽出法などが工業的に採用される。
また、上記方法により培養した培養物から乾燥酵母菌体を調製してもよい。乾燥酵母菌体を調製する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法であってもよいが、工業的には、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法などが採用される。
さらに本発明は、上記酵母変異株を培養して得られる培養物、グルタチオン等の含硫化合物を含む前記培養物の分画物を含有する飲食品に関するものである。
これらの飲食品としては、通常乾燥酵母、酵母エキスを添加しうる飲食品であれば何れでもよいが、例えばアルコール飲料、清涼飲料、発酵食品、調味料、スープ類、パン類、菓子類等を挙げることができる。
本発明の飲食品を製造するには、飲食品の製造工程において、上記酵母変異株を培養して得られる調製物、グルタチオン等の含硫化合物を含む前記培養物の分画物を添加してもよい。その他、原料として酵母をそのまま用いてもよい。
従って、本発明によって、グルタチオン等の含硫化合物を高濃度で含む飲食品を効率的に製造することができる。
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、菌体重量の測定は培養液を遠心分離操作で2回水洗後、105℃、5時間乾燥させた後の重量から求めた。還元型および酸化型グルタチオンを合わせた総グルタチオン(以下、GSHと略す。)の定量は、Titzeらの方法(Analytical Biochemistry, Vol.27、p502、1969)に従って測定した。乾燥菌体中の総GSH含量(%(w/w))は得られた総GSH量を乾燥菌体重量で割ることにより算出した。
(実施例1)突然変異の誘発と変異株の取得
野生型サッカロマイセス・セレビジエYNN27株を、YPD培地(グルコース2%、ポリペプトン2%、イーストエキス1%)を含む試験管で対数増殖期まで培養した。この菌体を回収し、常法に従いEMSを用いて変異処理を行った。変異処理は死滅率約70%になるような条件で行った。
上記のようにして変異処理を実施した菌株をYPD寒天平板培地に塗布し、30℃で48時間静置培養した。形成したコロニーに対して、ニトロプルシド法により高GSH含有株のスクリーニングを実施した。すなわち、YPD寒天培地上でコロニー形成を行い、マスタープレートとした。マスタープレートよりレプリカ布を用いて新規YPD寒天培地に菌を複写し、1晩30℃で培養し、コロニーを形成させ、レプリカプレートを作製した。レプリカプレート上に2%ニトロプルシッド(Sodium Nitoroprusside Dihydrate)、5%トリクロロ酢酸溶液を添加し、5分間放置後、ニトロプルシッドトリクロロ酢酸溶液を廃棄し、28%アンモニア水を添加し、赤く染色したコロニーをマーキングし、対応する菌株をマスタープレートより91株ピックアップした。
これら選択株について、上述の方法で総グルタチオン含量の測定を行い菌体内グルタチオン量が増強したABYC1592株を取得した。本ABYC1592株について野生パン酵母を用いて戻し交配を実施した。戻し交配の過程で更にGSH産生量が亢進したABYC1569株を取得した。なお、このABYC1569株は独立法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されており、受託番号FERM P−20386が付与されている(寄託日 平成17年2月3日)。
このようにして得られたABYC1569株、ABYC1592株の遺伝子変異を四分子解析及び、ライブラリーを用いた相補性試験により特定し、その遺伝子配列を調べたところ、ABYC1592株ではMET30遺伝子の開始コドンより1391番目の塩基gがaに変異していた。この結果、MET30遺伝子産物の464位のアミノ酸残基がGlyからGlnに置換していた。一方、ABYC1569株ではMET30遺伝子の点変異に加えて、DOA1遺伝子の開始コドン1371位から1417位までの47塩基が欠失していた。このため、ABYC1569株中のDOA1遺伝子では塩基欠失後6アミノ酸残基目に終始コドンが出現し、翻訳が終了していた。
(実施例2)DOA1遺伝子破壊株(doa1Δ株)の取得
YNN27株およびmet30点変異株であるABYC1592株を用いて、doa1Δ株の取得を行った。
まず、DOA1遺伝子破壊カセットを以下のように作製した。EUROSCARF社から販売されている酵母1遺伝子破壊ライブラリーにより、doa1Δ株のゲノムを鋳型として、DOA−F(5'−aatctttactacttcacc−3')とDOA−R(5'−caaaggaggctcttccct−3')をプライマーに用いてPCRを行った。PCR産物はG418耐性遺伝子の両端にDOA1遺伝子のORFのN末端配列およびC末端配列を含むため、同PCR産物を用いてDOA1遺伝子を破壊することが可能である。
PCRの条件は以下のとおりである。94℃で2分間保持した後、94℃ 30秒間、50℃ 1分間、72℃ 5分間を30サイクル繰り返した後4℃で保持した。
また、反応溶液の組成は下記のとおりである。
ゲノムDNA 1μl
10×Colned Pfu Reaction
Buffer(STRATAGENE社) 5μl
2nM each dNTP 5μl
10pmol/μl DOA1−Fプライマー 1μl
10pmol/μl DOA1−Rプライマー 1μl
Pfu Turbo(STRATAGENE社) 0.25μl
超純水(MilliQ水) 36.75μl
Total 50μl
上記のようにして作製したDOA1遺伝子破壊カセットを用いて、以下のようにYNN27株及びABYC1592株のDOA1遺伝子の破壊を試みた。
まず、YNN27株及びABYC1592株をYPD培地で培養し、その対数増殖期に集菌した。滅菌水で洗浄した後、10mMトリス、1mM EDTA、0.1M酢酸リチウム溶液に懸濁し、コンピテントセルとした。PCR産物0.1μg、キャリヤーDNA100μg、調製したコンピテントセル100μlを含むチューブに40%ポリエチレングリコール(PEG)、10mMトリス、1mM EDTA、0.1M酢酸リチウム溶液を400μl添加し、30℃で30分間保持した。さらに40μlジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した後、42℃で15分間保持した。この菌液を15000rpm 5分間遠心し集菌し、YPD培地に懸濁し、30℃で18時間培養した。この培養液を、G418を500μg/mlの濃度で含有するYPD培地に塗布しG418耐性株を取得した。
(実施例3)グルタチオン生産能の評価
親株、ABYC1569株及びABYC1592株をSD培地(Yeast nitrogen base without amino acid 0.67%、グルコース2%)で培養し、培養開始16時間後のグルタチオン蓄積量を測定した。変異株におけるグルタチン含有量の測定結果を表1に示す。
Figure 0005496480
表1の結果から、親株と比較し、ABYC1569株及びABYC1592株ではそれぞれGSH含量は2〜4倍増加することが示された。さらに、実施例2で取得したdoa1Δ株についても同様にグルタチオン蓄積量を測定した。doa1Δ株におけるグルタチオン含有量の測定結果を表2に示す。
Figure 0005496480
表2の結果から、遺伝子破壊株についても、doa1遺伝子欠失変異株と同様にGSH産生能の亢進が認められた。
(実施例4)変異株におけるmRNA発現量の網羅的解析
変異株における各種MET遺伝子のmRNA量の網羅的解析を、DNAマイクロアレイを用いて実施した。測定は親株であるYNN27株とmet30変異株(ABYC1592株)、実施例2で作製したYNN27株のdoa1Δ株、及びABYC1592株のdoa1Δ株間で行った。
各酵母を必要なアミノ酸を含むSD培地で16時間培養した後、菌体を集菌し、TESバッファー(10mM Tris−HCl pH7.5、10mM EDTA pH7.5、0.5%SDS)に懸濁し、等量のフェノール/クロロホルムを加え、10分おきに30秒間ボルテックス処理を行いながら65℃で1時間保持した。得られた菌体破砕液を5000rpm、5分間遠心分離して上清を得た。フェノール/クロロホルム抽出を再度実施した後、クロロホルム抽出を行い、エタノール沈殿を行い、−80℃で全RNAを沈殿させた。遠心後、沈殿を70%エタノールで洗浄し、減圧乾固させた後、蒸留水で溶解し、全RNA溶液とした。
得られた全RNA500ngよりLow RNA Input Linear Amplification and Labeling Kit(Agilent technology社製)を用いてcDNAを合成し、次いでcRNA合成を行った。得られたcRNAはRNeasy mini(Qiagen社製)を用いて精製し、遊離のラベル化ヌクレオチドを除去した。
Cyanine3およびCyanine5ラベルしたcRNAを、それぞれ0.25μgずつを使用してIn situハイブリダイゼーションプラス(Agilent technology社)を用いてハイブリダイゼーションを行った。DNAチップは、Aglient technology社のYeastオリゴDNAマイクロアレイキットを使用した。ハイブリダイゼーションは60℃で17時間行った。
ハイブリダイゼーション後、6×SSC、0.005%Triton X−102中のガスケットスライドをはずして、6×SSC、0.005%Triton X−102中で10分間、0.1×SSC、0.005%Triton X−102中で5分間洗浄した後、完全乾燥させた。
DNAマイクロアレイスキャナー(Agilent technology社製)を用いて、DNAチップ上の各スポットの蛍光強度を検出した。Feature Extractionを用いて蛍光強度を数値化した後、Luminator(Rosetta社製)を用いて解析を行った。実験誤差、ラベル化効率等を考慮し、カラースワップ実験を行い、高い相関係数を得た。マイクロアレイ法による各変異株におけるS代謝関連遺伝子の発現量として、親株であるYNN27株の発現量を1としたときのS代謝関連遺伝子の発現量比を表3に示す。
Figure 0005496480
表3の結果から、図1に示すサッカロマイセス・セレビシエのS代謝マップの遺伝子の中で、met30遺伝子点変異株ではS代謝関連遺伝子群、特に硫酸基の取り込みからホモシステインに至るまでの各遺伝子群の発現量が増加していた。
doa1遺伝子欠失株では、MET16やMET5など、親株と比較して発現量が増加している遺伝子が存在した。一方、met30、doa1二重変異株では、met30点変異株で認められたS代謝関連遺伝子群の発現量の増加が、さらに亢進していた。
(実施例5)変異株における各種S基資化関連遺伝子のmRNA発現量
親株、met30点変異株(ABYC1592株)および実施例2で取得したdoa1Δ株をSD培地で16時間培養した。実施例4と同様の方法により全RNAを抽出し、得られた全RNA100ngを用いて定量PCR法により定量を行った。定量PCRを実施した遺伝子は、SUL2、MET5、MET16、MET25、CYS3、GSH1およびインターナルマーカーとしてACT1である。定量PCR法で増幅させた領域と同一の領域をpCR2.1−TOPOベクターに挿入したプラスミドを作製し、モル濃度を計算し、スタンダードとして用いた。SUL2、MET5、MET16、MET25、CYS3、GSH1およびACT1の増幅用プライマーとして、表4に示す合成DNAを用いた。
Figure 0005496480
PCR反応は以下の条件で実施した。すなわち、48℃で30分間保持し、逆転写反応を行った後、95℃で10分間保持することにより逆転写酵素を失活させた。その後、95℃ 15秒間、60℃ 1分間を40サイクル繰り返した。PCR反応、及び蛍光強度の検出はDNA Engine Option2 system(MJ Research社製)を用いた。
また、反応溶液の組成は下記のとおりである。
2xSYBR Green PCR Master Mix 25μl
(Applied Biosystems社製)
MultiScribe Reverse 0.25μl
Transcriptase(Applied Biosystems社製)
RNase Inhibitor 1μl
(Applied Biosystems社製)
Forward primer(10pmol/μl) 1μl
Reverse primer(10pmol/μl) 1μl
Template 100ng
Total 50μl
定量PCR法による各変異株におけるS代謝関連遺伝子の発現量として、検量線より算出した各サンプルRNA中のmRNA濃度を表5に示す。単位はpMである。
Figure 0005496480
マイクロアレイの結果同様、met30、doa1Δ二重変異株では、met30点変異株で認められたS代謝関連遺伝子群の発現量の増加が更に亢進していることが確認された。
本発明は、以下の点において、産業上の利用可能性が存在する。
本発明の新規な酵母変異株は、菌体内に含硫化合物を蓄積することが可能であり、本発明の新規な酵母変異株を培養して当該酵母菌体内にグルタチオン等の含硫化合物を高濃度に含有させることができる。
従って、本発明の新規な酵母変異株を培養して、含硫化合物を高濃度に含有する培養物または分画物を得ることができる。
また、本発明の新規な酵母変異株を培養して、含硫化合物を高濃度に含有する酵母エキスを得ることができる。
さらにまた、本発明の新規な酵母変異株を培養して得られる培養物、含硫化合物を含む前記培養物の分画物または加熱処理した前記培養物もしくは分画物を含有させることにより、含硫化合物含有飲食品とすることができる。
図1は、サッカロマイセス・セレビシエにおけるS代謝マップを示す。

Claims (4)

  1. サッカロマイセス・セレビシエ ABYC1569(受託番号FERM P−20386)である酵母変異株
  2. 請求項1記載の酵母変異株の乾燥酵母菌体。
  3. 請求項1記載の酵母変異株を培養して、当該酵母株菌体内に含硫化合物を乾燥重量で1.6wt%以上に蓄積させることを特徴とする、含硫化合物高含有酵母の製造方法。
  4. 請求項1記載の酵母変異株の培養物。
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