JP5495053B2 - アスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具 - Google Patents

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本発明は、狭隘部において吹き付けなどによって被覆されているアスベスト含有材を除去するための酸性液注入冶具に関する。
近年、鉄骨造建物の多くが外壁にカーテンウォールを使用している。このような建物では、外周部の梁に使用されるH型鋼とカーテンウォールとの間には僅かな隙間しかない場合が多く、この箇所が狭隘部を形成している。そして、このようなH型鋼の梁には、全周にわたって吹付けアスベスト材を吹き付けた構造により施工されたものがある。
ところで、一般的に、アスベスト含有材の除去方法として、ケレン棒等の工具による粗落し後、例えばブラシ等を用いてセメント成分を主体とした残留付着物を削ぎ落して磨き上げる作業が行われている。また、人力の場合に比べて作業効率を高めた除去方法として、除去装置等を使用するものが例えば特許文献1、2に開示されている。
特許文献1は、マニピュレータの先端に設けたバケット内に適宜駆動するブラシやスクレーパーが備えられており、バケットの開口をアスベスト表面に押し付けた状態で、その内部でブラシやスクレーパーを作動し、剥離したアスベストをそのままバケット内に落下させて、バケットから処理容器等に移すことで処理する装置について記載したものである。
特許文献2には、アスベスト含有物を剥離するカットブラシ(剥離手段)と、剥離手段を包囲する内側フードと、さらに内側フードを取り囲む外側フードと、剥離したアスベスト含有物を内側フード内から処理タンクへ吸引する吸引手段とを備えたアスベスト除去装置について開示されている。
特開平8−199832号公報 特開2008−253857号公報
しかしながら、特許文献1、2に示すようなアスベスト除去装置を用いたアスベスト除去方法では、カーテンウォール寄りのH型鋼との間の狭隘部に除去装置を配置するのが困難であり、人力による作業に頼らざるを得ない現状がある。その人力による場合、除去しようとしても過度な狭隘さにより、除去残しが生じたり、全てを完全に除去するまでに膨大な時間と手間を要するという問題があった。
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、狭隘部であっても除去作業にかかる手間と時間を低減することができ、アスベスト含有材の除去が確実に行なえるアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係るアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具では、下地材に被覆されたアスベスト含有材を有する凹空間に進入させてアスベスト含有材を除去するための酸性液注入冶具であって、凹空間の入口部に着脱可能な固定部と、固定部に設けられたリング部材と、リング部材に非固定状態で全方向に移動自在に挿通されるとともに、長手方向で略中間部でリング部材に当接可能な長尺のアームと、このアーム先端に設けられるとともに、アスベスト含有材内に挿入可能であり、その挿入先端から周囲に向けて酸性液を注入させるための注入部とを備え、アームの基端を押すことにより、アームとリング部材との当接部を支点としてアーム先端を移動させ、注入部をアスベスト含有材に挿入させる構成としたことを特徴としている。
本発明では、アームとともに注入部を凹空間に進入させつつ、凹空間の入口部に酸性液注入冶具の固定部を取り付けた後、アームの基端を適宜な方向に向けて押すことにより、てこの原理によりアームとリング部材との当接部を支点としてアーム先端を移動させ、注入部をアスベスト含有材に挿入させることができる。そして、注入部が下地材に到達したときに、注入部の挿入先端より酸性液をその周囲へ向けて注入し、注入した酸性液をアスベスト含有材と下地材との付着面に沿って浸透させる。これにより、酸性液が付着したアスベスト含有材がそのセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解するため、アスベスト含有材を下地材との付着面で剥離させて自然落下させることができる。
また、本発明に係るアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具では、注入部には、酸性液を供給および停止を操作するための注入操作装置が液送管を介して設けられていることが好ましい。
本発明では、注入部に接続する液送管を適宜な長さに延ばしておくことで、注入部に酸性液を注入するための注入操作装置を手元で操作することができ、これにより凹空間においてアスベスト含有材に挿入した注入部に酸性液を容易に供給することができる。
本発明のアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具によれば、アーム先端に注入部を備えたもののみを凹空間内に進入させればよく、狭隘な空間に存在するアスベスト含有材の除去を極めて簡単な構造の冶具により行うことが可能であることから、このような狭隘部であっても除去作業にかかる手間と時間の低減を図ることができ、アスベスト含有材の付着残しがなく確実な除去を行うことができる。
本発明の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の概略構成を説明するための図である。 酸性液注入冶具の概略構成を示す側面図である。 (a)、(b)は酸性液注入冶具の操作状態を示す図である。 第1変形例によるアスベスト含有材の除去方法を示す図である。 第2変形例によるアスベスト含有材の除去方法を示す図である。
以下、本発明の実施の形態によるアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態によるアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具1は、建物の外壁を構成するカーテンウォール3と、各フロアのスラブ4を下方より支持するH型鋼からなる梁5(下地材)のうち最も外周側(カーテンウォール3寄り)の梁5との間の狭隘部K(凹空間)において、梁5に全周にわたって所定厚さで吹き付けにより被覆されているアスベスト含有材2を除去する施工が適用対象となっている。なお、図1で符号6は、カーテンウォール3に取り付けられている窓ガラスを示している。
ここで、上記狭隘部Kは、H型鋼をなす梁5の下フランジ51の端部51aからカーテンウォール3までの間隔が略150mm程度の隙間(入口部Ka)を有する凹空間である。
なお、アスベスト含有材2としては、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等が用いられている。
アスベスト含有材2の除去方法は、狭隘部Kに酸性液注入冶具1の注入針10(注入部)をアスベスト含有材2と梁5の鋼材との付着面5a付近まで挿入し、その注入針10から酸性液Tをその周囲に注入して、アスベスト含有材2を酸性液Tに反応させて溶解させることで、アスベスト含有材2を梁5から剥離させつつ自然に落下させる方法となっている。
ここで、アスベスト含有材2の梁5に対する付着面5a付近に注入される酸性液Tとして、塩酸等の鉱物酸、酢酸、クエン酸等の有機酸水溶液が挙げられる。この酸性液Tは、アスベスト含有材2に反応させて溶解させる作用を有しており、前記付着面5aに注入することで梁5の鋼材に対して剥離を生じさせて分離させることが可能となり、アスベスト含有材2の材質、その吹付け厚さ寸法などの条件に応じて例えばPH値を1〜4程度に調整して使用される。
図2に示すように、酸性液注入冶具1は、図1に示す狭隘部Kの凹空間の入口部Kaに着脱可能な固定部11と、この固定部11に設けられたリング部材12と、リング部材12に非固定状態で全方向に移動自在に挿通されるとともに、長手方向で略中間部でリング部材12に当接可能な長尺のアーム13と、このアーム先端13aに設けられるとともに、アスベスト含有材2内に挿入可能であり、その挿入先端10aから周囲に向けて酸性液Tを注入させるための前記注入針10とを備え、アーム13の基端13bを押すことにより、アーム13とリング部材12との当接部13cを支点としてアーム先端13aを移動させ、注入針10をアスベスト含有材2に挿入させるように構成されている。
そして、酸性液注入冶具1には、図1に示す酸性液供給部20を備えている。
固定部11は、周知の万力と同様の構成であり、凹状をなす固定部本体111の対向する凹部側壁部111a、111bには挟持片112、113が設けられ、そのうち一方の挟持片112がねじ114によって他方の挟持片113に対して近接離反する方向(これを把持方向Yとする)に移動可能とされ、両挟持片112、113で被固定部を挟持することにより固定できるようになっている。
リング部材12は、連結片14を介して固定部11の固定部本体111の背面11aに接合されている。このとき、リング部材12の長手方向が固定部11の把持方向Yにほぼ平行となるように設けられている。そして、リング部材12の内径寸法としては、アーム13が挿通可能な寸法であればよく、例えば若干大きい程度とすることができる。
アーム13は、所定の長さを有しており、一端(基端13b)が把持部となり、長さ方向中間部で「くの字」状に屈折されており、アーム先端13aには注入針10が張出片15を介して設けられている。
張出片15は、一端15aがアーム先端13aに対して所定角度をもって固定され、他端側を「くの字」状に屈折したアーム13の内角側に張出した状態で取り付けられている。つまり、張出片15の突出方向は、アーム13全体を含む平面と同一平面内に設けられている。
そして、このアーム13は、リング部材12に対して非固定状態で挿通されており、基端13bを操作することで、当接部13cがリング部材12に当接し、てこの支点を形成している。そして、アーム13の基端13bを押すことで、当接部13cを中心にアーム13が矢印E1方向に回動することにより、先端側の注入針10が矢印E2方向に揺動する構成となっている。なお、アーム13の当接部13cは、固定点ではなく、リング部材12に対して適宜変動することになる。
注入針10は、針先端(挿入先端10a)に酸性液Tの吐出口(図示省略)を有し、張出片15の突出端15bに固定されている。注入針10の前記吐出口は、注入針10内の酸性液Tの流路に通じており、後述する注入操作装置23(図1)から送出される酸性液Tを周囲に向けて注入させるように構成されている。
図1に示すように、酸性液供給部20は、酸性液Tを貯留させる薬品槽21と、薬品槽21と注入針10との間を連結する液送管22(22A、22B)と、液送管22の途中に介在され、薬品槽21内の酸性液Tを注入針10側へ送出するガン式の注入操作装置23と、注入操作装置23と薬品槽21との間の第1液送管22Aに設けられている圧送ポンプ24とからなる。つまり、酸性液供給部20は、注入操作装置23のレバー状の操作部23aを指で押して操作することで第1液送管22Aに接続されている圧送ポンプ24を作動させ、薬品槽21内の酸性液Tが注入針10側へ向けて供給されるようになっている。
次に、上述した酸性液注入冶具1の作用と、この酸性液注入冶具1を用いて狭隘部Kに存在するアスベスト含有材2を除去する方法について、図面に基づいてさらに具体的に説明する。
先ず、図3(a)に示すように、梁5の下フランジ51の下面51bに吹き付けられているアスベスト含有材を除去しておく。その後、カーテンウォール3、スラブ4、および梁5によって囲まれた凹空間の狭隘部Kにアーム13とともに注入針10を進入させつつ、狭隘部Kの入口部Kaに位置する梁5の下フランジ51のカーテンウォール3側の端部51aに酸性液注入冶具1の固定部11を係止部112、113によって挟持して固定する。
その後、アーム13の基端13bを適宜な方向(矢印E1方向)に向けて押すことにより、てこの原理によりアーム13とリング部材12との当接部13cを支点としてアーム先端13aを矢印E2方向に移動させ、図3(b)に示すように、下地材の梁5(ここではウェブ52)に到達するまで注入針10をアスベスト含有材2に挿入させる。
そして、図1に示す注入操作装置23の操作部23aを操作して注入針10の挿入先端10aより酸性液Tをその周囲へ向けて注入し、注入した酸性液Tをアスベスト含有材2と梁5の鋼材との付着面5aに沿って浸透させる。
これにより、酸性液Tが付着したアスベスト含有材2がそのセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解するため、アスベスト含有材2を梁5との付着面5aで剥離させて自然落下させることができる。なお、落下したアスベスト含有材2は、適宜な回収手段により取り除けばよい。
また、本実施の形態では、予めアスベスト含有材2の表面に飛散抑制剤を散布しておくことで、アスベスト含有材2が剥離落下する際に生じるアスベストの飛散を抑制することも可能である。
このように、注入針10をアスベスト含有材2の所定箇所に挿入して酸性液Tを注入する作業を適宜な箇所において繰り返し行うことで、狭隘部Kにおける梁5に付着したアスベスト含有材2をきれいに剥離させて除去することができる。
また、注入針10には酸性液Tを供給および停止を操作するための注入操作装置23が液送管22を介して設けられており、注入針10に接続する液送管22を適宜な長さに延ばしておくことで、注入針10に酸性液Tを注入するための注入操作装置23を手元で操作することができ、これにより狭隘部Kにおいてアスベスト含有材2に挿入した注入針10に酸性液Tを容易に供給することができる。
上述のように本実施の形態によるアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具では、アーム先端13aに注入針10を備えたもののみを狭隘部K内に進入させればよく、狭隘な空間に存在するアスベスト含有材2の除去を極めて簡単な構造の冶具により行うことが可能であることから、このような狭隘部Kであっても除去作業にかかる手間と時間の低減を図ることができ、アスベスト含有材2の付着残しがなく確実な除去を行うことができる。
以上、本発明によるアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では注入部として注入針10を用いているが、このような注入針10であることに制限されることはなく、他の形態のものを採用することも可能である。要は、先端が尖った形状でアスベスト含有材2内に挿入し易く、またその先端付近から酸性液Tを周囲に向けて注入できる構造であればよいのである。そして、注入針10は、張出片15を介してアーム13に固定されているが、張出片15を設けずに、注入針10を直接アーム13に固定させる構成であっても良い。したがって、注入部の長さ寸法、太さなども任意に設定することができる。
また、本実施の形態の酸性液注入冶具1では、万力タイプの固定部11としているが、これに限定されることはなく、その取り付け箇所も梁5のカーテンウォール3側の端部51aであることに制限されることはない。
さらに、本実施の形態では「くの字」状に屈折させたアーム13を採用しているが、これに限らず、例えば直線状のものでも良いし、長手方向全体にわたって緩やかに湾曲するものであってもかまわない。
そして、アーム13の長さ寸法や、太さは任意に設定が可能であり、またリング部材12の形状も円形に限らず、楕円、四角形などの形状のものを用いることが可能である。
さらにまた、本実施の形態では酸性液供給部20としてガン式の注入操作装置23により注入部(注入針10)へ酸性液Tを供給しているが、単純にオンオフ可能なスイッチなど、他の構造であってもよい。
また、本実施の形態では狭隘部Kとしてカーテンウォール3とスラブ4と梁5とによって囲まれた凹空間を対象としているが、このような狭隘部に限定されることはない。要は、アーム23の先端を狭隘部に相当する空間に進入させることが可能であり、且つ固定部を狭隘部の入口部付近に固定可能である部分に適用するこが可能である。
また、図4に示す第1変形例のように、本実施の形態による酸性液注入冶具1を多軸ロボットアーム30の先端に接合部31によって固定させた構成であってもかまわない。これにより、アスベスト含有材2に対して行われる酸性液Tの注入などの一連の作業の下方に人が入ることがなくなる利点がある。
さらに、図5に示す第2変形例のように、多軸ロボットアーム30の先端にレーザーレンジファインダ32とステレオカメラ33を備え、アスベスト含有材の未除去部分を検知してから、上述した本実施の形態の酸性液注入冶具1による施工を行ってアスベスト含有材2を剥離させ落下した後に残留付着物2´を確認することも可能である。
1 酸性液注入冶具
2 アスベスト含有材
3 カーテンウォール
5 梁
5a 付着面
10 注入針(注入部)
10a 挿入先端
11 固定部
12 リング部材
13 アーム
13a アーム先端
13b 基端
13c 当接部
20 酸性液供給部
21 薬品槽
22、22A、22B 液送管
23 注入操作装置
K 狭隘部(凹空間)
Ka 入口部
T 酸性液

Claims (2)

  1. 下地材に被覆されたアスベスト含有材を有する凹空間に進入させて前記アスベスト含有材を除去するための酸性液注入冶具であって、
    前記凹空間の入口部に着脱可能な固定部と、
    該固定部に設けられたリング部材と、
    該リング部材に非固定状態で全方向に移動自在に挿通されるとともに、長手方向で略中間部で前記リング部材に当接可能な長尺のアームと、
    このアーム先端に設けられるとともに、前記アスベスト含有材内に挿入可能であり、その挿入先端から周囲に向けて酸性液を注入させるための注入部と、
    を備え、
    前記アームの基端を押すことにより、前記アームと前記リング部材との当接部を支点として前記アーム先端を移動させ、前記注入部を前記アスベスト含有材に挿入させる構成としたことを特徴とするアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具。
  2. 前記注入部には、前記酸性液を供給および停止を操作するための注入操作装置が液送管を介して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有材除去用の酸性液注入冶具。
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